説明

粘着チャック装置及びワークの粘着保持方法

【課題】ワークの処理面に傷や損傷を与えることなく、かつ、パーティクル等による汚染のおそれを排除しながらワークを確実に粘着保持させることができる粘着チャック装置、及びこれを用いたワークの粘着保持方法を提供する。
【解決手段】保持板の表面に有した第1の粘着部材を介してワークを粘着保持する粘着チャック装置であって、保持板の表面に対して相対的に上下し、かつ、先端に第2の粘着部材を有したリフトピンを備えて、該リフトピンを第1の粘着部材からなる基準面より突出させてワークを受け取り、第2の粘着部材にワークを粘着させながら前記基準面よりリフトピンを下げることで、ワークを第1の粘着部材に加圧させて粘着保持する粘着チャック装置であり、また、これを用いたワークの粘着保持方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、粘着部材を介して保持板上にワークを粘着保持する粘着チャック装置、及びワークの粘着保持方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、液晶ディスプレイやプラズマディスプレイのようなフラットパネルディスプレイを製造する上で液晶やガス等を封入したり、太陽電池装置や有機EL装置を製造する際に所定の膜を蒸着するような処理を行うために、ガラス基板やプラスチック基板等のワークを粘着保持するための粘着チャック装置が広く使用されている。
【0003】
これらの粘着チャック装置では、一般に、ロボットハンド等で搬送されたワークを一旦リフトピンで受け取り、リフトピンを下げて表面に粘着部材を有した保持板にワークを受け渡して、粘着部材を介して保持板上にワークを粘着保持させる。この保持板上に設けられた粘着部材は、いわゆる粘着パッドのような役割をするものであるが、単にワークを載置しただけでは十分な粘着保持力が発現せず、より確実に保持板上にワークを粘着保持させるために、例えば、ピンなどを用いてワークの表面から押し付けたり、ワークの周縁部をクランプするなどして、粘着部材に対してワークを加圧するような操作が必要になる。
【0004】
ところが、上記のような操作では、ワークを粘着部材に押し当てる力を適切に調整しないとワークに傷を付けてしまうおそれがあり、場合によってはワークを破損させてしまうこともある。また、ワークの表面が機械的な接触を伴うことから、パーティクル等の異物を付着させてしまう要因にもなりかねない。
【0005】
そこで、保持板の表面に通気孔を形成してワークを減圧吸引したり、保持板に静電チャックを埋設してワークを吸着することで、ワークの表面(通常、後に液晶を封入したり製膜するような処理の処理面になる)は非接触の状態にして、保持板上の粘着部材にワークを加圧する手段が採用されている(例えば特許文献1及び2参照)。
【0006】
しかしながら、ワークを保持板上に粘着保持させる操作を真空下で行おうとすると、減圧吸引によるワークの加圧手段は採用することができない。また、減圧吸引には真空ポンプと接続するための配管が必要になり、静電チャックを設ける場合にも同じように電源に接続するための電気配線が必要になることから、これらの取扱いが粘着チャック装置の構成を簡略化する上で障害になることがある。特に、ワークに対して施す処理が複数になったり、粘着保持したワークを保持板と共に別のワーク処理室等に移動させるような場合には、配線や配管がこれらの操作を制約してしまう。
【0007】
なお、上記特許文献2の基板組立装置は、テーブルとは別に粘着ピンを備えることが記載されているが、この装置において基板(ワーク)をテーブルに保持させる手段は、粘着ピンの先端に設けられた粘着機構と真空吸着機構である。つまり、特許文献2に記載の装置と本発明における粘着チャック装置とは構成が異なり、特許文献2における粘着ピンは、本発明で言うリフトピンの機能を果たすものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2005−351961号公報(段落0021)
【特許文献2】特開2007−310041号公報(段落0024)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そこで、本発明者等は、上記のような従来技術での問題を解決するために鋭意検討した結果、ロボットハンド等で搬送されたワークを受け取るリフトピンの先端に粘着部材を備え付けて、この粘着部材にワークを粘着させながらリフトピンを下げて保持板上の粘着部材にワークを受け渡すようにすることで、所定の処理が施されるワークの処理面を非接触の状態に保ったまま、ワークを保持板上の粘着部材に加圧できることを見出し、本発明を完成した。
【0010】
したがって、本発明の目的は、ワークの処理面に傷や損傷を与えることなく、かつ、パーティクル等による汚染のおそれを排除しながら保持板上にワークを確実に粘着保持させることができ、しかも、装置の構成をできるだけ簡略化して、その動作が制約を受けたり雰囲気に影響されることがないようにした粘着チャック装置を提供することにある。
【0011】
また、本発明の別の目的は、ワークの処理面を非接触の状態にしながら保持板上にワークを確実に粘着保持させることができるワークの粘着保持方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
すなわち、本発明は、保持板の表面に有した第1の粘着部材を介してワークを粘着保持する粘着チャック装置であって、保持板の表面に対して相対的に上下し、かつ、先端に第2の粘着部材を有したリフトピンを備えて、該リフトピンを第1の粘着部材からなる基準面より突出させてワークを受け取り、第2の粘着部材にワークを粘着させながら前記基準面よりリフトピンを下げることで、ワークを第1の粘着部材に加圧させて粘着保持することを特徴とする粘着チャック装置である。
【0013】
また、本発明は、保持板の表面に有した第1の粘着部材を介してワークを粘着保持する粘着チャック装置を用いたワークの粘着保持方法であって、粘着チャック装置が、保持板の表面に対して相対的に上下し、かつ、先端に第2の粘着部材を有したリフトピンを備えて、該リフトピンを第1の粘着部材からなる基準面より突出させてワークを受け取り、第2の粘着部材にワークを粘着させながら前記基準面よりリフトピンを下げることで、ワークを第1の粘着部材に加圧させて粘着保持することを特徴とするワークの粘着保持方法である。
【0014】
本発明の粘着チャック装置は、保持板の表面に有した第1の粘着部材を介してワークを粘着保持することができる。ここで、保持板については、ワークを粘着保持した状態を維持することができる板状のものであればその材質等に特に制限はなく、ワークに対応させて円形や矩形等の任意の形状を選択することができる。
【0015】
また、第1の粘着部材は、例えば、ガラス基板、プラスチック基板、半導体基板、サファイア基板等のワークを粘着保持することができるもの、より詳しくは、保持板上でワークがずれ動いてしまうことがなく、また、保持板を反転させて鉛直方向にワークの自重が掛かった状態でもワークを落下させない程度に粘着保持することができ、かつ、ワークの着脱を繰り返し可能にするものであればよい。このような粘着部材としては、粘着パッドや粘着シート等として市販されている樹脂製の粘着部材を用いることができ、具体例としては、扶桑ゴム産業社製商品名シリウス等を挙げることができる。これらは表面にサブミクロンオーダーの高アスペクト比の繊維構造を有するような微細な突起が形成されて、非常に弱い分子間力(ファンデルワールス力)により粘着力を発現することから、ワークの粘着保持に優れて繰り返しの貼着にも適している。
【0016】
また、本発明の粘着チャック装置は、保持板の表面に対して相対的に上下し、かつ、先端に第2の粘着部材を有したリフトピンを備えて、ロボットハンド等によって搬送されたワークを受け取るようにする。リフトピンは1又は2以上からなり、好適には3本以上のリフトピンによってワークを支えるようにし、ワークを受け取る際には第1の粘着部材の表面を基準面として、この基準面よりリフトピンを突出させておく。リフトピンがワークを受け取ると、ワークの自重によってリフトピン先端の第2の粘着部材にワークが加圧されるため、ワークの裏面(ワークの処理面と反対側)を第2の粘着部材に粘着させることができる。この状態で保持板に対して相対的にリフトピンを下げて、第1の粘着部材からなる基準面よりも低くなるようにすることで、ワークの裏面を第1の粘着部材に押し当てることができ、更にリフトピンを下げてワークを第1の粘着部材に受け渡すようにして、保持板上にワークを粘着保持させることができる。なお、リフトピンの先端に備え付けられる第2の粘着部材は、第1の粘着部材と同様のものを用いることができ、第1の粘着部材と同じものを使用してもよく、互いに異なるものを使用してもよい。
【0017】
保持板の表面に対してリフトピンを相対的に上下させるためには、上下動させるための駆動機構を保持板側に設けるようにしてもよく、リフトピン側に設けるようにしてもよく、或いは、それぞれ独立して両者に設けるようにしてもよい。また、リフトピンは、保持板の外周を取り囲むように配置してもよく、或いは、保持板に表裏面を貫通する貫通孔を設けて、この貫通孔を通してリフトピンを上下させるようにしてもよい。後者のように保持板に貫通孔を形成する場合には、ワークの材質や形状に応じて撓み等を考慮しながら、適切なリフトピンの本数とその配置位置を設計することができる。
【0018】
保持板に形成した貫通孔内にリフトピンを配設する場合には、好ましくは、リフトピンが上下する貫通孔を取り囲むようにして、保持板上に第1の粘着部材を配置するのがよい。すなわち、リフトピンで受け取ったワークを第1の粘着部材に受け渡す際、リフトピン先端に備え付けられた第2の粘着部材による粘着力を効率的に利用して、第1の粘着部材に対してワークを加圧することができる。その際、貫通孔を取り囲む第1の粘着部材は連続的に貫通孔の周りを取り囲むようにしてもよく、複数に分割された第1の粘着部材で取り囲むようにしてもよい。
【0019】
また、本発明の粘着チャック装置は、保持板の表面に対し相対的に上下して、保持板上に粘着保持されたワークを第1の粘着部材から引き剥がすための押上げピンを備えるようにしてもよい。この押上げピンは、リフトピンと同様、保持板の外周を取り囲むように配置してもよく、或いは、保持板に形成した貫通孔を通すようにしてもよい。
【0020】
後者のように保持板に貫通孔を形成する場合には、勿論、リフトピンを上下させる貫通孔とは別に設けるようにしてもよいが、リフトピンを上下させる貫通孔と押上げピンを上下させる貫通孔とを共用することもできる。すなわち、貫通孔を共用するには、リフトピン又は押上げピンのいずれか一方のピンを円筒形状にして中心に中空部を設けておき、他方のピンをその中空部内に配設して、リフトピンと押上げピンとが互いに独立して上下できるようにすればよい。このようにすると、貫通孔の周りを取り囲むように保持板に第1の粘着部材を配置した場合、押上げピンによってワークを第1の粘着部材から引き剥がす際に余分な力が働くことがなく、ワークを歪めるおそれをより一層排除することができる。なお、保持板に対して押上げピンを相対的に上下させる際には、リフトピンとは独立して上下動するように駆動機構を設けるようにすればよい。
【0021】
押上げピンを備える場合は、ワークの材質や形状に応じて複数の押上げピンを適宜配置するようにするのがよいが、好ましくは、ワークの周縁部を押し上げる周縁側押上げピンとワークの中心部を押し上げる中心側押上げピンとを備えるようにして、周縁側押上げピンが中心側押上げピンより先にワークに当接してワークを引き剥がすようにするのがよい。周縁側押上げピンを先にワークに当接させるようにしてワークを押し上げることで、ワークの外側から剥がすことができて、ワークに極度の歪みを与えるのを防ぐことができる。
【0022】
また、本発明の粘着チャック装置には、ワークに所定の処理を施すワーク処理室との間を連結して、ワークを粘着保持した保持板をワーク処理室に移動させる保持板移動装置を備え付けておくことで、保持板に対するワークの受け渡し場所とは別に、専用のワーク処理室でワークを処理することもできる。本発明では、従来のように減圧吸引用の配管や静電チャック用の電気配線類を使用せずに、保持板に対してワークを粘着保持させることができるため、例えば、ワーク処理室との間を搬送ロールやベルトコンベア等の搬送機構を備えた保持板移動装置で連結させることで、ワークを粘着保持した保持板をワーク処理室等へと自由に移動させることができる。
【0023】
また、ワークに対する所定の処理が真空蒸着等のように、ワークの処理面を鉛直方向下向き(鉛直線の方向)にする必要がある場合には、保持板移動装置が、ワーク処理室に保持板が到達する前に保持板の表裏面の向きを反転させる反転機構を備えるようにすればよい。この場合にも、本発明では配管や配線類を使用せずに保持板に対してワークを粘着保持させることができるため、任意の場所で自由にワークの処理面の向きを変えることができる。勿論、反転機構に限らず、処理に応じてワークの処理面の角度を自在に変更できるように、保持板を傾斜させる傾斜機構等を備えるようにしてもよい。
【0024】
本発明における粘着チャック装置は、ワークの平坦性を保ちながら確実にかつ安定的に粘着保持することができるため、その利用形態は特に制限されない。一例を挙げるとすれば、液晶ディスプレイやプラズマディスプレイのようなフラットパネルディスプレイを製造する際にガラス基板等のワークを貼り合せて組み立てるワーク組立て装置に利用したり、半導体製造装置、太陽電池製造装置、有機EL製造装置等においてワークを専用の処理室に搬送するためのワーク搬送装置に利用することができる。また、デバイス製造途中のワークを製造工程間で受け渡すためのワーク移載装置に利用できるほか、ワークにマスクを重ねて露光したり、ワークに薄膜を形成するような各種製造工程における処理を、ワークの受け取りや受け渡しと共に可能にするようなインライン製造装置に利用することもできる。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、ワークの処理面に触れずに保持板上にワークを確実に粘着保持させることができるため、ワークの処理面に傷や損傷を与えることなく、かつ、パーティクル等を付着させるおそれもない。また、保持板上にワークを粘着保持させる際、特にワークを減圧吸引したり、静電チャック等を利用してワークを吸着させる必要性がないことから、これらのための配管や配線が不要になると共に、真空下での使用も可能になり、本発明の粘着チャック装置を利用する上で、装置の構成や操作を自由に設計することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】図1は、本発明の粘着チャック装置を説明するための断面説明図(図2の平面説明図におけるX−X断面方向の説明図)である。
【図2】図2は、本発明の粘着チャック装置を説明するための平面説明図である。
【図3】図3は、粘着チャック装置を使ってワークを粘着保持する手順を説明する断面説明図である。
【図4】図4は、第1の粘着部材にワークを加圧して粘着保持させる様子を示す断面説明図である。
【図5】図5は、保持板上からワークを取り外す様子を示す断面説明図である。
【図6】図6は、リフトピンと押上げピンとを一体型にした変形例であって、図6(a)はその一体型ピンの斜視説明図であり、図6(b)は一体型ピンを配設した保持板の平面説明図である。
【図7】図7は、本発明の粘着チャック装置を利用したワーク搬送装置を説明する平面説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、図面を用いて本発明の実施形態について具体的に説明する。なお、下記内容は本発明を実施するための形態の一例に過ぎず、本発明はこれらに制限されるものではない。
【実施例】
【0028】
[第1の実施形態]
図1及び図2において、本発明の第1の実施形態に係る粘着チャック装置1が示されている。この粘着チャック装置1は、保持板2の表面に有した第1の粘着部材3を介して、ガラス基板やプラスチック基板等のワークWを粘着保持することができるものであり、先端に第2の粘着部材4を有したリフトピン5を備えていると共に、保持板上に粘着保持されたワークWを第1の粘着部材3から引き剥がすための押上げピン6を備えている。
【0029】
このうち、リフトピン5と押上げピン6は、保持板2に設けられた貫通孔7,8内に配設されており、それぞれ独立して保持板2の表面に対して相対的に上下できるように図示外の上下駆動機構に連結されている。図2は、粘着チャック装置1の平面説明図であり、保持板2の表裏面を貫通する4つの貫通孔7にそれぞれリフトピン5を配設して、ロボットハンド等の搬送手段9によって搬送されたワークWを4つのリフトピン5で均等に支持できるようにしている。一方、押上げピン6は、ワークWの周縁部を押し上げる4つの周縁側押上げピン6aとワークの中心部を押し上げる2つの中心側押上げピン6bとに分けて、周縁側押上げピン6aが中心側押上げピン6bよりも先にワークWに当接するようにしており、これによってワークWを引き剥がす際に、ワークWの外側から剥がすようにしてワークWに極度の歪みが生じるのを防いでいる。
【0030】
この第1の実施形態においては、例えば、縦350mm×横300mm×厚さ1.1mmのガラス基板を粘着保持できるように、保持板2は縦360mm×横350mm×厚さ15mmの大きさを有したアルミニウム製の板材からなり、上記のように、直径10mmのSUS304製のリフトピン5が通る直径12mmの貫通孔7と、直径5mmのPEEK製の押し上げピン6が通る直径7mmの貫通孔8とがそれぞれ形成されている。また、保持板2の表面には、第1の粘着部材3として、リフトピン5が配設される貫通孔7の周りを取り囲むようにして厚さ0.1mmのシリコーン樹脂製粘着部材(扶桑ゴム社製商品名シリウス)が取り付けられている。更に、リフトピン5の先端には、第2の粘着部材4として、厚さ0.1mmであって第1の粘着部材と同じシリコーン樹脂製の粘着部材が取り付けられている。
【0031】
この粘着チャック装置1を使ってワークWを保持板上に粘着保持させる手順について、図3を用いながら説明する。
先ず、ワーク搬送手段9によって搬送されたワークWを受け取る際には、図3(a)に示したように、リフトピン5を第1の粘着部材3からなる基準面10より突出させてワークWを受け取るようにする。ワークWを受け取ったリフトピン5にはワークWの自重が掛かるため、リフトピン先端の第2の粘着部材4にワークWが加圧されて(押し付けられて)、ワークWの裏面W2(ワークに処理を施す面W1の反対面)に第2の粘着部材4を確実に粘着させることができる。この際、押上げピン6は、少なくとも基準面10よりも下った位置で待機させておく。
【0032】
次いで、図3(b)に示したように、リフトピン先端の第2の粘着部材4にワークWを粘着させながらリフトピン5を下げていき、ワークの裏面W2を保持板上の第1の粘着部材3に接触させる。更に、図3(c)に示したように、基準面10よりリフトピン5を下げることで、ワークWを第1の粘着部材3に加圧させて保持板上に粘着保持することができる。この状態を詳しく説明するのが図4である。すなわち、リフトピン先端の第2の粘着部材4によってワークの裏面W2が粘着されているため、第1の粘着部材3からなる基準面10よりリフトピンの先端を下げることで、後に所定の処理を施すワークの処理面W1は非接触の状態のまま、第1の粘着部材3に対してワークWを加圧させる(押し付ける)ことができる。
【0033】
保持板上に粘着保持したワークWを取り外す場合には、図5に示したように、押上げピン6によってワークの裏面W2を突き上げて、第1の粘着部材3に粘着したワークを引き剥がすようにすればよい。その際、上述したように、周縁側押上げピン6aが中心側押上げピン6bよりも先にワークWに当接するようにして、ワークWの周縁部から引き剥がすようにすれば、ワークWに極度の歪みを与えることがない。
【0034】
また、第1の実施形態の変形例として、図6(a)に示したように、リフトピン5を外径15mm、内径7mmの円筒形状にして、その先端に第2の粘着部材4を取り付け、このリフトピン5の中空部内に直径5mmの押上げピン6を配設して、両者のピンが互いに独立して上下動するようにした一体型ピン11を用いることもできる。この場合、図6(b)に示したように、リフトピン5と押上げピン6とで共用するように、直径17mmの貫通孔12を保持板2に形成して、この貫通孔12に一体型ピン11を通すようにすればよい。また、押上げピン6を円筒形状にして、その中空部に先端に第2の粘着部材4を有したリフトピン5を配設するようにしてもよい。
【0035】
[第2の実施形態]
図7において、本発明に係る粘着チャック装置1を利用して、ワークWをワーク処理室24へと搬送するワーク搬送装置が示されている。このワーク搬送装置は、粘着チャック装置1と保持板移動装置21とからなり、例えばワークWに対して金属膜を蒸着させるようなワーク処理室24と粘着チャック装置1との間を保持板移動装置21が連結する。また、この保持板移動装置21は、ワークWを粘着保持した保持板2ごと搬送することができる搬送機構22と、保持板2の表裏面の向きを反転させることができる反転機構23とを備えている。
【0036】
このワーク搬送装置を使用するにあたって、先ず、粘着チャック装置1においてロボットハンド9から受け取ったワークWを保持板上に粘着保持させる。この際の動作は、第1の実施形態において説明したとおりである。次に、ワークWを粘着保持した保持板2は、搬送ロールやベルトコンベア等からなる搬送機構22に受け渡される。本発明の粘着チャック装置1では、ワークWを保持板上に粘着保持させるにあたり、特に電気配線や真空引きするような減圧配管等は不要であることから、保持板2の受け渡しは自在に行うことができる。なお、この時点でワークWのワーク処理面W1は上向きのままである。
【0037】
搬送機構22によって搬送された保持板2は、ワーク処理室24の手前で反転機構23によって反転させられる。この反転機構23としては、例えば、保持板2の側面を機械的に挟持して180°回転させることができる回転駆動装置等を用いることができる。反転機構23によって反転させられた保持板2は、ワーク処理面W1を鉛直方向下向きにしてワークWを粘着保持したまま、ワーク処理室24に受け渡される。ワーク処理室24に移動したワークWに対しては、例えば、有機EL装置を製造する場合のようにワーク処理面W1に薄膜を蒸着させるなど、所定の処理を行うようにすればよい。このように、本発明の粘着チャック装置1を利用すれば、ワークWを確実に粘着保持させたまま保持板ごと自由に移動させることが可能である。
【符号の説明】
【0038】
1:粘着チャック装置、2:保持板、3:第1の粘着部材、4:第2の粘着部材、5:リフトピン、6:押上げピン、6a:周縁側押上げピン、6b:中心側押上げピン、7:リフトピン用貫通孔、8:押上げピン用貫通孔、9:ワーク搬送手段、10:基準面、11:一体型ピン、12:貫通孔、21:保持板移動装置、22:搬送機構、23:反転機構、24:ワーク処理室。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
保持板の表面に有した第1の粘着部材を介してワークを粘着保持する粘着チャック装置であって、
保持板の表面に対して相対的に上下し、かつ、先端に第2の粘着部材を有したリフトピンを備えて、該リフトピンを第1の粘着部材からなる基準面より突出させてワークを受け取り、第2の粘着部材にワークを粘着させながら前記基準面よりリフトピンを下げることで、ワークを第1の粘着部材に加圧させて粘着保持することを特徴とする粘着チャック装置。
【請求項2】
保持板には表裏面を貫通する貫通孔が設けられており、該貫通孔を通ってリフトピンが保持板の表面に対して相対的に上下する請求項1に記載の粘着チャック装置。
【請求項3】
リフトピンが上下する貫通孔を取り囲むようにして、保持板の表面に第1の粘着部材が配置されている請求項2に記載の粘着チャック装置。
【請求項4】
保持板の表面に対し相対的に上下して、保持板上に粘着保持されたワークを第1の粘着部材から引き剥がすための押上げピンを備える請求項1〜3のいずれかに記載の粘着チャック装置。
【請求項5】
ワークの周縁部を押し上げる周縁側押上げピンとワークの中心部を押し上げる中心側押上げピンとを備えて、周縁側押上げピンが中心側押上げピンより先に当接してワークを引き剥がす請求項4に記載の粘着チャック装置。
【請求項6】
リフトピン又は押上げピンのいずれか一方のピンが中空部を有した円筒形状をしており、他方のピンが該中空部内に配設されて、両者のピンは互いに独立して上下する請求項4又は5に記載の粘着チャック装置。
【請求項7】
ワークに所定の処理を施すワーク処理室との間を連結して、ワークを粘着保持した保持板をワーク処理室に移動させる保持板移動装置を更に備える請求項1〜6のいずれかに記載の粘着チャック装置。
【請求項8】
保持板移動装置が、ワーク処理室に保持板が到達する前に保持板の表裏面の向きを反転させる反転機構を備える請求項7に記載の粘着チャック装置。
【請求項9】
保持板の表面に有した第1の粘着部材を介してワークを粘着保持する粘着チャック装置を用いたワークの粘着保持方法であって、
粘着チャック装置が、保持板の表面に対して相対的に上下し、かつ、先端に第2の粘着部材を有したリフトピンを備えて、該リフトピンを第1の粘着部材からなる基準面より突出させてワークを受け取り、第2の粘着部材にワークを粘着させながら前記基準面よりリフトピンを下げることで、ワークを第1の粘着部材に加圧させて粘着保持することを特徴とするワークの粘着保持方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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