説明

粘着性シリコーンゴムコーティング剤組成物

【課題】基材にプライマー等を使用せずに接着することができ、表面に安定で永続的な粘着性を有するシリコーンゴムコーティング剤組成物を提供する。
【解決手段】
(A)ケイ素原子結合アルケニル基を1分子中に平均2個以上有するオルガノポリシロキサン:100質量部、
(B)平均単位式:
(R13SiO1/2)x(SiO4/2)1.0
(式中、R1は置換又は非置換の一価炭化水素基、xは0.5〜1.3の数)
で表されるオルガノポリシロキサンレジン:1〜50質量部、
(C)SiH基を1分子中に少なくとも2個有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン:(A)及び(B)成分中のアルケニル基1モルに対して本成分中のSiH基が0.5〜7モルとなる量、
(D)付加反応触媒:有効量、並びに
(E)接着性付与剤:0.1〜10質量部
を含有し、粘着力が2gf以上の硬化物を与える自己接着性シリコーンゴムコーティング剤組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被着体にプライマー等を使用せずに接着することができ、表面に安定で永続的な粘着性を有する硬化物が得られる、表面粘着性(表面タック性)と自己接着性とを兼ね備えたシリコーンゴムコーティング剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯用ゲーム機、携帯電話等の小型液晶表示装置、パソコン等の液晶ディスプレイ、液晶テレビ等の大型表示装置等の視認性や耐衝撃性、被着面の汚れ防止のため、粘着性シリコーンエラストマーからなる粘着剤層を有するポリカーボネート樹脂フィルム、酢酸セルロース樹脂フィルム、ポリエチレンテレフタレート樹脂フィルム等の保護板が使用されている。
【0003】
従来、これらの粘着性シリコーンエラストマーとしては、例えば、平均重合度5000〜9000のアルケニル基非含有ポリジメチルシロキサンと平均重合度3000〜7000のアルケニル基含有ポリジオルガノシロキサンとを含み、有機過酸化物で架橋したときに粘着性シリコーンゴムを与えるポリジオルガノシロキサン組成物(特許文献1)、アルケニル基含有オルガノポリシロキサン、オルガノポリシロキサンレジン(MQレジン)、オルガノハイドロジェンポリシロキサンおよびヒドロシリル化反応用触媒からなるシリコーンエラストマー組成物を硬化してなる粘着性シリコーンエラストマーシート(特許文献2)等が提案されている。しかし、いずれも保護板等との接着性が十分でないためプライマーを使用することが多く、また、粘度も高いため、コーティングやスクリーン印刷に適しておらず、加工性にも問題がある。
【0004】
【特許文献1】特開平6−200159号公報
【特許文献2】特開2005−75959号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従って、本発明は、主に樹脂フィルムからなる保護板や基材にプライマー等を使用せずに接着することができ、表面に安定で永続的な粘着性を有するシリコーンゴムコーティング剤組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討を行った結果、本発明を成すに至った。即ち、本発明は第一に、
(A)ケイ素原子に結合したアルケニル基を1分子中に平均2個以上有するオルガノポリシロキサン: 100質量部、
(B)下記平均単位式(1):
(R13SiO1/2)x(SiO4/2)1.0 (1)
(式中、R1は独立に、置換または非置換の一価炭化水素基であり、xは0.5〜1.3の数である。)
で表されるオルガノポリシロキサンレジン: 1〜50質量部、
(C)ケイ素原子に結合した水素原子を1分子中に少なくとも2個有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン: (A)成分および(B)成分中のアルケニル基の合計1モルに対して本成分中のケイ素原子に結合した水素原子が0.5〜7モルとなる量、
(D)付加反応触媒: 有効量、ならびに
(E)接着性付与剤: 0.1〜10質量部
を含有する組成物、特には粘着力が2gf以上であるシリコーンゴム硬化物を与える自己接着性シリコーンゴムコーティング剤組成物、を提供する。
【発明の効果】
【0007】
本発明のシリコーンコーティング剤組成物は、硬化させてなる硬化物がプライマー等を使用しなくても基材に対して良好な接着性(即ち、自己接着性)を有し、かつ表面に安定で永続的な粘着性を有するものである。さらに、本発明の好ましい実施形態では、(A)成分としてフェニル基を有する特定のオルガノポリシロキサンを用いることにより、優れた透明性を有する硬化物となる組成物を得ることができる。したがって、本発明のシリコーンコーティング剤組成物は、特に携帯用ゲーム機、携帯電話等の小型液晶表示装置、パソコン等の液晶ディスプレイ、液晶テレビ等の大型表示装置等に使用される保護コーティング剤として有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明について更に詳しく説明する。
【0009】
<(A)ケイ素原子に結合したアルケニル基を含有するオルガノポリシロキサン>
(A)成分は、本発明の組成物の主剤(ベースポリマー)であり、1分子中に平均2個以上、好ましくは2〜20個、より好ましくは2〜10個のケイ素原子に結合したアルケニル基を含有するオルガノポリシロキサンである。
【0010】
このケイ素原子に結合したアルケニル基としては、例えば、ビニル基、アリル基、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基、ヘプテニル基等の、通常、炭素原子数2〜8、好ましくは2〜4程度のものが挙げられ、特にビニル基が好ましい。(A)成分中におけるケイ素原子に結合したアルケニル基の結合位置は、例えば、分子鎖末端、分子鎖側鎖、これらの両方のいずれであってもよい。
【0011】
(A)成分中のアルケニル基以外のケイ素原子に結合した有機基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、ヘプチル基等のアルキル基;フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基等のアリール基;ベンジル基、フェネチル基等のアラルキル基;クロロメチル基、3−クロロプロピル基、3,3,3−トリフロロプロピル基等のハロゲン化アルキル基等の、通常、炭素原子数1〜12、好ましくは1〜10程度の、非置換またはハロゲン置換の一価炭化水素基等が挙げられ、特にメチル基、フェニル基が好ましい。
【0012】
(A)成分中のケイ素原子に結合したアルケニル基の含有量は、ケイ素原子に結合した全有機基(即ち、ケイ素原子に結合した全1価有機基)に対して、0.001〜10モル%、特に0.01〜5モル%程度であることが好ましく、このアルケニル基は分子鎖末端のケイ素原子又は分子鎖非末端(分子鎖途中)のケイ素原子のいずれに結合したものであってもよく、この両者に結合したものであってもよいが,少なくとも分子鎖両末端のケイ素原子に結合したアルケニル基を含有することが好ましい。
【0013】
(A)成分の分子構造としては、例えば、直鎖状、一部分岐を有する直鎖状、環状、分岐鎖状等が挙げられるが、主鎖が基本的にジオルガノシロキサン単位の繰り返しからなり、分子鎖両末端がトリオルガノシロキシ基で封鎖された、直鎖状のジオルガノポリシロキサンであることが好ましい。
【0014】
(A)成分の25℃における粘度は、得られる硬化シリコーンゴムの物理的特性(例えば、粘着力、自己接着性等)が良好であり、また、組成物の取扱作業性が良好であることから、100〜500000mPa・sの範囲内であることが好ましく、特に300〜100000mPa・sの範囲内であることが好ましい。
【0015】
(A)成分のオルガノポリシロキサンとしては、例えば、分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルビニルシロキサン共重合体、分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルビニルポリシロキサン、分子鎖両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサン、分子鎖両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖メチルビニルポリシロキサン、分子鎖両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルビニルシロキサン共重合体、分子鎖両末端トリビニルシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサン等が挙げられる。
【0016】
特に、透明性が要求される用途においては、(A)成分の一部または全部として、下記一般式(2):
【0017】
【化1】


(式中、R2は独立に、メチル基またはフェニル基であり、mおよびnは、0<n/(n+m)≦O.3を満たす正の整数である。)
で表される25℃における粘度が1〜100Pa・sであるオルガノポリシロキサンが好適に用いられる。尚、分子中における[(CH3)2SiO]単位と[(C6H5)(R2)SiO]単位との配列はランダムである。より具体的には、上記一般式(2)で表される25℃における粘度が1〜100Pa・sである、分子鎖両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・ジフェニルシロキサン共重合体、分子鎖両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・フェニルメチルシロキサン共重合体等の、ケイ素原子に結合した有機基としてフェニル基を1個または2個含有するジオルガノシロキサン単位を主鎖の一部として含有するオルガノポリシロキサンが好適に用いられる。
【0018】
上記一般式(2)中、mおよびnは、n/(n+m)が、0.01〜0.3を満たす正の整数であることが好ましく、0.01〜0.15を満たす正の整数であることがより好ましい。かかる範囲を満たすと、(B)、(E)成分との相溶性が向上し、透明性が高くなる。
【0019】
(A)成分のオルガノポリシロキサンは、一種単独で用いても二種以上を併用してもよい。
【0020】
<(B)オルガノポリシロキサンレジン>
(B)成分は、主に粘着性を付与するための成分であり、上記平均単位式(1)で表される三次元網状構造を有する室温(25℃)で液状又は固体状のオルガノポリシロキサンレジンである。該レジンは平均単位式(1)が示すように、SiO4/2で表される所謂Q単位1個当り、R13SiO1/2で表される所謂M単位x個の割合で構成されており、通常、ゲルパーミエションクロマトグラフィーにより測定したポリスチレン換算の重量平均分子量が通常、500〜10,000,000、好ましくは1,000〜100,000程度のものである。
【0021】
上記平均単位式(1)中、R1で表される置換または非置換の一価炭化水素基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基等のアルキル基;ビニル基、アリル基、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基、ヘプテニル基等のアルケニル基;フェニル基、トリル基、キシリル基等のアリール基;3−クロロプロピル基、3,3,3−トリプルオロプロピル基等のハロゲン化アルキル基等の炭素原子数が、通常、1〜10、好ましくは1〜6のものが例示され、好ましくは、メチル基、ビニル基、フェニル基であり、特に好ましくは、ビニル基、メチル基である。
【0022】
上記平均単位式(1)中、xは0.5〜1.3の数であることが必要であり、好ましくは0.5〜1.0、より好ましくは0.5〜0.9の数である。又R13SiO1/2単位における全R1に対してアルケニル基は0〜10モル%、特に0.1〜5モル%程度含有することが好ましい。
【0023】
(B)成分のオルガノポリシロキサンレジンとしては、例えば、
(CH33SiO1/2単位とSiO4/2単位からなるレジン、
(CH2=CH)(CH32SiO1/2単位とSiO4/2単位からなるレジン、
(CH2=CH)(CH32SiO1/2単位と(CH33SiO1/2単位とSiO4/2単位からなるレジン、
上記の各レジンにおいてメチル基の一部又は全部が、エチル基、プロピル基等の他のアルキル基やフェニル基で置換されたもの、更には、これらの各レジンにおいて(CH32SiO2/2単位、(CH3)SiO3/2単位、(CH3)(CH2=CH)SiO2/2単位、(CH2=CH)SiO3/2単位の1種又は2種以上を少量(0〜10モル%)程度含有するもの
等が挙げられる。
【0024】
本発明の組成物において、(B)成分の含有量が少なくなると硬化物の粘着性が低下するおそれがあるので、(A)成分100質量部に対する(B)成分の含有量の下限は1質量部であり、好ましくは5質量部である。一方、(B)成分の含有量が多くなると硬化物のエラストマーとしての特性(例えば、伸び)が低下するおそれがあるので、(A)成分100質量部に対する(B)成分の含有量の上限は50質量部であり、流動性を考慮すると好ましくは30質量部である。(B)成分のオルガノポリシロキサンレジンは、一種単独で用いても二種以上を併用してもよい。
【0025】
<(C)オルガノハイドロジェンポリシロキサン>
(C)成分は本発明の組成物の硬化剤(架橋剤)であり、ケイ素原子に結合した水素原子(即ち、SiH基)を一分子中に少なくとも2個(通常2〜300個)、好ましくは3個以上(例えば、3〜300個、好ましくは4〜200個程度)有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンである。(C)成分の分子構造としては、直鎖状、環状分岐鎖状、一部分岐を有する直鎖状、三次元網状等が例示される。(C)成分の25℃における粘度は特に限定されないが、好ましくは1〜1,000,000mPa・sの範囲内であり、特に好ましくは1〜10,000mPa・sの範囲内である。
【0026】
(C)成分中のケイ素原子に結合する有機基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基等のアルキル基;フェニル基、トリル基、キシリル基等のアリール基;3−クロロプロピル基、3,3,3−トリフルオロプロピル基等のハロゲン化アルキル基等が例示され、好ましくはメチル基である。
【0027】
(C)成分のオルガノハイドロジェンポリシロキサンとしては、テトラオルガノジシロキサン、オルガノハイドロジェンシクロポリシロキサン、オルガノハイドロジェンシロキサン・ジオルガノシロキサン環状共重合体、トリス(ジオルガノハイドロジェンシロキシ)オルガノシラン、分子鎖両末端トリオルガノシロキシ基封鎖オルガノハイドロジェンポリシロキサン、分子鎖両末端トリオルガノシロキシ基封鎖ジオルガノシロキサン・オルガノハイドロジェンシロキサン共重合体、分子鎖両末端ジオルガノハイドロジェンシロキシ基封鎖オルガノハイドロジェンポリシロキサン、分子鎖両末端ジオルガノハイドロジェンシロキシ基封鎖ジオルガノシロキサン・オルガノハイドロジェンシロキサン共重合体、分子鎖両末端ジオルガノハイドロジェンシロキシ基封鎖ジオルガノポリシロキサン、環状オルガノハイドロジェンポリシロキサン等が例示され、特に分子鎖両末端ジオルガノハイドロジェンシロキシ基封鎖ジオルガノポリシロキサンと分子鎖両末端トリオルガノシロキシ基封鎖オルガノハイドロジェンポリシロキサンもしくは分子鎖両末端トリオルガノシロキシ基封鎖ジオルガノシロキサン・オルガノハイドロジェンシロキサン共重合体とを併用することが好ましい。
【0028】
(C)成分のオルガノハイドロジェンポリシロキサンの具体例としては、1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン、1,3,5,7−テトラメチルシクロテトラシロキサン、メチルハイドロジェンシロキサン・ジメチルシロキサン環状共重合体、トリス(ジメチルハイドロジェンシロキシ)メチルシラン、トリス(ジメチルハイドロジェンシロキシ)フェニルシラン分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンポリシロキサン、分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン共重合体、分子鎖両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンポリシロキサン、分子鎖両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン共重合体、分子鎖両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサン、環状メチルハイドロジェンポリシロキサン(CH32(H)SiO1/2単位とSiO4/2単位からなる共重合体、(CH32(H)SiO1/2単位と(CH33SiO1/2単位とSiO4/2単位からなる共重合体、上記各化合物においてメチル基の一部又は全部をエチル基、プロピル基等の他のアルキル基やフェニル基で置換したもの等が例示され、特に分子鎖両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサンと、分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンポリシロキサンもしくは分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン共重合体とを併用することが好ましい。
【0029】
本発明の組成物において、(C)成分の含有量は、(A)成分および(B)成分中のアルケニル基の合計1モルに対して(C)成分中のケイ素原子に結合した水素原子が0.5〜7モルの範囲内となる量であることが必要であり、好ましくは0.7〜5モルの範囲内となる量である。(C)成分の含有量が上記範囲の下限未満である場合には、組成物が十分に硬化しなくなる傾向があり、上記範囲の上限を超える場合には、硬化物の強度や粘着力が低下する傾向がある。(C)成分のオルガノハイドロジェンポリシロキサンは、一種単独で用いても二種以上を併用してもよい。
【0030】
<(D)ヒドロシリル化反応用触媒>
(D)成分は、組成物の硬化を促進するための触媒である、ヒドロシリル化反応用触媒である。(D)成分のヒドロシリル化反応用触媒としては、例えば、白金系触媒、ロジウム系触媒、パラジウム系触媒等の貴金属系触媒等が挙げられ、好ましくは白金系触媒である。この白金系触媒としては、白金微粉末、白金黒、塩化白金酸、塩化白金、塩化自金酸のアルコール溶液、白金のオレフィン錯体、白金のアルケニルシロキサン錯体・白金のカルボニル錯体、これらの白金系触媒をメチルメタクリレート樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリスチレン樹脂、シリコーン樹脂等の熱可塑性有機樹脂中に分散してなる微粉末等が例示される。
【0031】
本発明の組成物において、(D)成分の含有量は、組成物の硬化を促進するために必要な有効量であれば特に限定されないが、例えば、(D)成分として白金系触媒を用いる場合には、(A)成分100万質量部に対して(D)成分中の白金族金属が、好ましくは0.01〜500質量部の範囲内となる量であり、より好ましくは0.1〜100質量部の範囲内となる量である。(D)成分のヒドロシリル化反応用触媒は、一種単独で用いても二種以上を併用してもよい。
【0032】
<(E)接着性付与剤>
(E)成分は、被着体となるプラスチックや金属からなるフィルム状の保護板等との接着性を向上させ、組成物に自己接着性を付与するために用いられる接着性付与剤である。(E)成分の接着性付与剤としては、例えば、組成物に自己接着性を付与する観点から、接着性を付与する官能基を有するケイ素化合物(但し、前記(A)〜(C)成分に該当する化合物以外のもの)等が挙げられる。この接着性を付与する官能基の具体例としては、ケイ素原子に結合したビニル基、アリル基等のアルケニル基、エーテル結合酸素原子を含有してもよいアルキレン基等の炭素原子を介してケイ素原子に結合したエポキシ基(例えば、γ−グリシドキシプロピル基、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチル基等)やアクリロイルオキシ基やメタクリロイルオキシ基(例えば、γ−アクリロイルオキシプロピル基、γ−メタクリロイルオキシプロピル基等)、アルコキシシリル基(例えば、エステル構造、ウレタン構造、エーテル構造を1〜2個含有してもよいアルキレン基を介してケイ素原子に結合したトリメトキシシリル基、トリエトキシシリル基、メチルジメトキシシリル基等のアルコキシシリル基等)、ケイ素原子に結合した水素原子(即ち、SiH基)等から選ばれる1種又は2種以上の官能性基を有する、オルガノシランおよびケイ素原子数3〜50、特に5〜20の直鎖状または環状の構造を有するシロキサンオリゴマーやトリアリルイソシアヌレート、トリアリルイソシアヌレートのアルコキシシリル変性物等のシリル変性物やそのシロキサン誘導体等が挙げられる。(E)成分の接着性付与剤としては、これらの接着性を付与する官能基を1分子中に2種以上有するものが好ましい。
【0033】
このような接着性を付与する官能基を有するケイ素化合物の具体例としては、例えば、下記のものが挙げられる。
【0034】
【化2】

【0035】
本発明の組成物において、(E)成分の含有量は、(A)成分のオルガノポリシロキサン100質量部に対して0.1〜10質量部であることが必要であり、好ましくは0.1〜5質量部、より好ましくは0.5〜5質量部である。かかる配合量が少なすぎると組成物に必要とされる十分なピール接着力が得られないことがあり、配合量が多すぎるとコスト的に高いものとなり不経済となることがある。(E)成分の接着性付与剤は、一種単独で用いても二種以上を併用してもよい。
【0036】
<その他の成分>
本発明の組成物には、上記の(A)〜(E)成分以外の任意の成分として、例えば、縮合反応触媒、制御剤化合物等を配合することができる。
【0037】
縮合反応触媒は、(E)成分と併用することで接着力を向上させると共に、接着発現(速接着性)を促進するための成分であって、その具体例としては、テトラエチルチタネート、テトラプロピルチタネート、テトラブチルチタネート、チタンアセチルアセトネート等のチタン化合物;エチルアセトアセテートアルミニウムジイソプロピレート、アルミニウムトリス(エチルアセトアセテート)、アルキルアセトアセテートアルミニウムジイソプロピレート、アルミニウムトリス(アセチルアセトネート)等のアルミニウム化合物;ジルコニウムアセチルアセトネート、ジルコニウムブトキシアセチルアセトネート、ジルコニウムビスアセチルアセトネート、ジルコニウムエチルアセトアセテート等のジルコニウム化合物等が挙げられる。
【0038】
制御剤化合物としては、付加反応触媒に対して硬化抑制効果を有する化合物とされている従来公知の制御剤化合物をすべて使用することができる。制御剤化合物としては、トリフェニルホスフィン等のリン含有化合物、トリブチルアミンやテトラメチルエチレンジアミン、ベンゾトリアゾール等の窒素含有化合物、硫黄含有化合物、アセチレン系化合物、アルケニル基を2個以上含む化合物、ハイドロパーオキシ化合物、マレイン酸誘導体等が例示される。制御剤化合物による硬化抑制効果の度合いは、制御剤化合物の化学構造によって大きく異なる。従って、制御剤化合物の添加量は、使用する制御剤化合物ごとに最適な量に調整すべきであるが、一般には、その添加量が少なすぎると室温での長期貯蔵安定性が得られないことがあり、多すぎるとかえって硬化が阻害されることがある。
【0039】
これら以外にも、その他の任意の成分として、例えば、ヒュームドシリカ、結晶性シリカ、中空フィラー、シルセスキオキサン、ヒュームド二酸化チタン、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、酸化鉄、水酸化アルミニウム、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸亜鉛、層状マイカ、カーボンブラック、ケイ藻土、ガラス繊維等の無機質充填剤、これらの充填剤をオルガノアルコキシシラン化合物、オルガノクロロシラン化合物、オルガノシラザン化合物、低分子量シロキサン化合物等の有機ケイ素化合物により表面処理した充填剤、シリコーンゴムパウダー、シリコーンレジンパウダー等を配合してもよい。
【0040】
以上の任意成分は、一種単独で用いても二種以上を併用してもよい。
【0041】
<調製・硬化方法、用途>
本発明の組成物は、上記(A)〜(E)成分および場合によっては含まれる任意成分を混合することによって製造することができる。本発明の組成物は、特にコーティング剤として有用なものである。本発明の組成物は、スクリーン印刷で使用されることが多いので、25℃において液状であることが好ましく、25℃における粘度が0.1〜200Pa・s程度であることがより好ましく、1〜200Pa・sであることが特に好ましい。
【0042】
本発明の組成物を硬化させることにより硬化物を作製することができる。組成物の硬化方法および硬化条件は、付加反応硬化型シリコーンゴム組成物としての公知の硬化方法および硬化条件を採用することができ、通常、100〜180℃で1〜60分である。
【0043】
本発明の組成物によるシリコーンゴムのコーティング層を形成するのに好適な基材としては、例えば、ポリカーボネート樹脂フィルム、酢酸セルロース樹脂フィルム、ポリエチレンテレフタレート樹脂フィルム等の樹脂フィルム、アルミニウムやマグネシウム合金等の金属板、ガラスエポキシ樹脂等が挙げられる。
【0044】
上記組成物を基材上にコーティングする方法は特に限定されず、常法を採用することができる。こうして形成されるコーティング層の厚さは、通常、0.010〜10mm、好ましくは0.030〜0.5mm、より好ましくは0.030〜0.1mmとすることが好ましい。
【0045】
<特性>
本発明の組成物を硬化させてなるシリコーンゴム硬化物は、JIS Z3284に規定された表面粘着性(即ち、表面タック性の尺度である表面粘着力)が2gf以上、特に4gf以上であることが好ましく、上限は特に制限されないが、通常、20gf、特に10gf以下であることが一般的である。この表面粘着性は、例えば下記の方法により測定される。
JIS Z3284に準拠して、タッキネステスター(テクスチャーテクノロジーコーポレーション製のテクスチャーアナライザーTA−XT2)を用いて次のようにして表面粘着性(表面タック性)を測定する。
【0046】
<評価条件>2mm厚のコーティング剤組成物を120℃、1時間で硬化させたサンプルシート(シリコーンゴム硬化物)をタッキネステスターのステージにセットし、以下の測定条件で1/4インチφのステンレススチール製ボールプローブを硬化物に押しつけた後、2mm引き上げる時の最大抵抗値を、10分以内に7点測定し、その平均値を表面粘着力とする。
【0047】
(測定条件)
・プレート温度:室温(25℃) [試料台の温度]
・プローブ温度:室温(25℃)
・落下速度:0.2mm/秒
・侵入厚さ:0.1mm
・荷重:300gf(プローブ硬化物への加圧力)
・プレスタイム:10秒(プローブ硬化物への加圧時間)
・引き上げ速度:0.2mm/秒(プローブの硬化物からの)
・引き上げ距離:2mm
【0048】
本発明の組成物を硬化させてなるシリコーンゴム硬化物の接着性は、JIS K6249に規定される引張りせん断接着力試験により測定することができる。こうして測定された組成物の硬化後の硬化物が、基材と界面剥離することなく、少なくとも薄層凝集破壊するか、硬化物が凝集破壊するレベルの接着性を有することが好ましい。
【実施例】
【0049】
本発明の組成物を実施例、比較例により詳細に説明する。なお、実施例中の物性は25℃における測定値である。また、実施例において、(A)成分および(B)成分に該当する成分中のケイ素原子に結合したアルケニル基の合計1モルに対する(C)成分に該当する成分中のケイ素原子に結合した水素原子(即ち、Si-H基)のモル量を「Si-H/アルケニル」と表す。
【0050】
<実施例1>
下記平均構造式(3):
【0051】
【化3】


(式中、mおよびnは、n/(m+n)=0.05を満たす正数である。)
で表され、粘度が5000mPa・sである両末端ビニルジメチルシロキシ基封鎖ジフェニルシロキサン・ジメチルシロキサン共重合体100質量部、(CH3)3SiO1/2単位39.5モル%と(CH3)2(CH2=CH)SiO1/2単位6.5モル%とSiO2単位54モル%とからなるオルガノポリシロキサンレジン15質量部、塩化白金酸とジビニルテトラメチルジシロキサンの錯体を上記両末端ビニルジメチルシロキシ基封鎖ジフェニルシロキサン・ジメチルシロキサン共重合体に対して白金金属として質量基準で30ppm、1−エチニルシクロヘキサン−1−オール0.05質量部、両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンシロキサン共重合体(粘度:5mPa・s、Si-H基量:0.015mol/g、Si-H/アルケニル=1.9)2.5質量部および3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン1.0質量部を混合してシリコーンゴムコーティング剤組成物1を得た。
【0052】
<実施例2>
上記平均構造式(3)で表され、粘度が5000mPa・sである両末端ビニルジメチルシロキシ基封鎖ジフェニルシロキサン・ジメチルシロキサン共重合体100質量部、(CH3)3SiO1/2単位39.5モル%と(CH3)2(CH2=CH)SiO1/2単位6.5モル%とSiO2単位54モル%とからなるオルガノポリシロキサンレジン15質量部、塩化白金酸とジビニルテトラメチルジシロキサンの錯体を上記両末端ビニルジメチルシロキシ基封鎖ジフェニルシロキサン・ジメチルシロキサン共重合体に対して白金金属として質量基準で30ppm、1−エチニルシクロヘキサン−1−オール0.05質量部、両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンシロキサン共重合体(粘度:5mPa・s、Si-H基量:0.015mol/g、Si-H/アルケニル=1.9)2.5質量部および下記構造式(4):
【0053】
【化4】


で表される化合物1.0質量部を混合してシリコーンゴムコーティング剤組成物2を得た。
【0054】
<実施例3>
上記平均構造式(3)で表され、粘度が5000mPa・sである両末端ビニルジメチルシロキシ基封鎖ジフェニルシロキサン・ジメチルシロキサン共重合体100質量部、(CH3)3SiO1/2単位39.5モル%と(CH3)2(CH2=CH)SiO1/2単位6.5モル%とSiO2単位54モル%とからなるオルガノポリシロキサンレジン7質量部、(CH3)3SiO1/2単位43モル%とSiO2単位57モル%とからなるオルガノポリシロキサンレジンを8質量部、塩化白金酸とジビニルテトラメチルジシロキサンの錯体を上記両末端ビニルジメチルシロキシ基封鎖ジフェニルシロキサン・ジメチルシロキサン共重合体に対して白金金属として質量基準で30ppm、1−エチニルシクロヘキサン−1−オール0.05質量部、両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンシロキサン共重合体(粘度:5mPa・s、Si-H基量:0.015mol/g、Si-H/アルケニル=1.9)1.5質量部および3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン1.0質量部を混合してシリコーンゴムコーティング剤組成物3を得た。
【0055】
<比較例1>
上記平均構造式(3)で表され、粘度が5000mPa・sである両末端ビニルジメチルシロキシ基封鎖ジフェニルシロキサン・ジメチルシロキサン共重合体を100質量部、塩化白金酸とジビニルテトラメチルジシロキサンの錯体を上記両末端ビニルジメチルシロキシ基封鎖ジフェニルシロキサン・ジメチルシロキサン共重合体に対して白金金属として質量基準で30ppm、1−エチニルシクロヘキサン−1−オール0.05質量部、両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンシロキサン共重合体(粘度:5mPa・s、Si-H基量:0.015mol/g、Si−H/アルケニル=1.9)0.7質量部および3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン1.0質量部を混合してシリコーンゴムコーティング剤組成物C1を得た。
【0056】
<比較例2>
上記平均構造式(3)で表され、粘度が5000mPa・sである両末端ビニルジメチルシロキシ基封鎖ジフェニルシロキサン・ジメチルシロキサン共重合体を100質量部、(CH3)3SiO1/2単位39.5モル%と(CH3)2(CH2=CH)SiO1/2単位6.5モル%とSiO2単位54モル%とからなるオルガノポリシロキサンレジン15質量部、塩化白金酸とジビニルテトラメチルジシロキサンの錯体を上記両末端ビニルジメチルシロキシ基封鎖ジフェニルシロキサン・ジメチルシロキサン共重合体に対して白金金属として質量基準で30ppm、1−エチニルシクロヘキサン−1−オール0.05質量部および両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンシロキサン共重合体(粘度:5mPa・s、Si-H基量:0.015mol/g、Si−H/アルケニル=1.9)2.5質量部を混合してシリコーンゴムコーティング剤組成物C2を得た。
【0057】
<測定方法>
実施例1〜3および比較例1〜2で得られたシリコーンゴムコーティング剤組成物1〜3およびC1〜C2の粘着力と接着力を、下記測定方法に従って測定した。得られた結果を表1に示す。
【0058】
−1.粘着力−
組成物の粘着力は、テクスチャーテクノロジーコーポレーション製のテクスチャーアナライザーTA-XT2(商品名)を用いて測定した。組成物の粘着力の測定は、2mm厚のコーティング組成物を120℃、1時間で硬化させたサンプルシートを準備し、プローブの落下速度を0.2mm/秒、侵入厚さ0.1mm、荷重300g、引き上げ速度0.2mm/秒の条件で行った。
【0059】
−2.接着力−
組成物の接着力は、0.5mmのアルミニウム板を基板として使用し、JIS K6249に準じた引張りせん断接着力を測定した。サンプル(即ち、組成物)の硬化条件は、120℃、1時間とした。
【0060】
【表1】

(注):実施例1〜3及び比較例1は、いずれも凝集破壊(ゴム破壊)であった。
【0061】
−3.透明性−
厚さ2mmのシートを分光光度計にセットし、25℃における2mm厚のシリコーンゴム硬化物に対する直進光(波長400nm)の光透過率を測定した。結果を表2に示す。
【0062】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ケイ素原子に結合したアルケニル基を1分子中に平均2個以上有するオルガノポリシロキサン: 100質量部、
(B)下記平均単位式(1):
(R13SiO1/2)x(SiO4/2)1.0 (1)
(式中、R1は独立に、置換または非置換の一価炭化水素基であり、xは0.5〜1.3の数である。)
で表されるオルガノポリシロキサンレジン: 1〜50質量部、
(C)ケイ素原子に結合した水素原子を1分子中に少なくとも2個有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン: (A)成分および(B)成分中のアルケニル基の合計1モルに対して本成分中のケイ素原子に結合した水素原子が0.5〜7モルとなる量、
(D)付加反応触媒: 有効量、ならびに
(E)接着性付与剤: 0.1〜10質量部
を含有する自己接着性シリコーンゴムコーティング剤組成物。
【請求項2】
粘着力が2gf以上であるシリコーンゴム硬化物を与える請求項1に係る組成物。
【請求項3】
前記(A)成分のオルガノポリシロキサンが、下記一般式(2):

(式中、R2は独立に、メチル基またはフェニル基であり、mおよびnは0<n/(n+m)≦O.3を満たす正の整数である。)
で表される、25℃における粘度が1〜100Pa・sであるオルガノポリシロキサンを含有するものである、請求項1又は2に係る組成物。
【請求項4】
25℃における粘度が0.1〜200Pa・sである請求項1〜3のいずれか1項に係る組成物。
【請求項5】
液晶ディスプレイ及び液晶表示装置の保護コーティング用である請求項1〜4のいずれか1項に係る組成物。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の組成物を硬化させてなる粘着力が2gf以上である自己接着性シリコーンゴム硬化物。

【公開番号】特開2007−191637(P2007−191637A)
【公開日】平成19年8月2日(2007.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−12912(P2006−12912)
【出願日】平成18年1月20日(2006.1.20)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】