説明

精密基板収納容器

【課題】 ガスケットが挿入された嵌合溝に入り込んだ洗浄水を効率よく排水および乾燥可能であり、洗浄水の残留に起因した基板の汚染を防止する。
【解決手段】 一端に開口を有する容器本体と前記開口を閉鎖する蓋体と、前記容器本体と前記蓋体との間に狭持されてシールを形成するガスケットとを有する精密基板収納容器であって、前記容器本体又は前記蓋体には、前記ガスケットが挿入される嵌合溝が形成され、前記ガスケットは、エンドレス状をした基部と、基部から伸びるシール部とを有し、前記基部には、前記嵌合溝に挿入される嵌合部が形成されていて、前記嵌合部と前記嵌合溝の何れかに、連通溝が形成されていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体ウェーハ、ガラスウェーハ等の精密基板を収納する精密基板収納容器(以下、単に基板収納容器ということもある)に関し、特には容器本体の開口部周縁にシールを形成するためのガスケットの嵌合構造に関する。
【背景技術】
【0002】
容器本体と蓋体とからなる基板収納容器において、容器本体の開口を蓋体で閉鎖するときにシール用のガスケット部材が使用されてきた。ガスケット部材としては、基部とこれから延びるシール部と、嵌合のための突起を有するものが知られており、蓋体側面や容器本体の開口部周縁に設けられた嵌合溝に、ガスケット部材の嵌合部を挿入し使用していた(特許文献1参照)。
また、従来のガスケット部材では、蓋体や容器本体に設けられた嵌合溝に挿入されて使用されるに際して嵌合溝に挿入したガスケット部材の嵌合部を保持するために、突起等を形成することが行われていた(特許文献2参照)。
【0003】
こうした基板収納容器は、使用開始前や、一定期間使用した後に、一般に、洗浄が行われて使用されていた。その場合、ガスケット部材は、容器本体又は蓋体に組み込まれた状態で、これらと一緒に洗浄されることが多かった。普通の洗浄では、嵌合溝内部は、突起や接触部によってシールされているので、洗浄水が入り込まないようになっているが、シャワー洗浄のように水圧が強かったり、超音波洗浄のように超音波振動等が加えられた場合に、嵌合溝内部に水分が入り込んでしまうことがあった。こうして、一度入り込んだ水分は嵌合溝内の突起や接触部によってシールされているので除去しにくく、乾燥した後でも嵌合溝内部、特に奥部に水分が残ってしまうという問題があった。
このように嵌合溝内部に入り込んだ水分は、使用中に容器内部の水分量の上昇を招き、基板を汚染してしまう問題もあった。
【0004】
【特許文献1】特開2002−68364号公報
【特許文献2】特開2003−174081号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記した課題を解決するためのものであり、ガスケット(ガスケット部材)が挿入された嵌合溝に入り込んだ洗浄水を効率よく排水および乾燥可能であり、洗浄水の残留に起因した基板の汚染を防止することができる精密基板収納容器を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の精密基板収納容器は、一端に開口を有する容器本体と前記開口を閉鎖する蓋体と、前記容器本体と前記蓋体との間に狭持されてシールを形成するガスケットとを有する精密基板収納容器であって、前記容器本体又は前記蓋体には、前記ガスケットが挿入される嵌合溝が形成され、前記ガスケットは、エンドレス状をした基部と、基部から伸びるシール部とを有し、前記基部には、前記嵌合溝に挿入される嵌合部が形成されていて、前記嵌合部と前記嵌合溝の何れかに、連通溝が形成されていることを特徴とする精密基板収納容器である。
【0007】
前記連通溝が前記基部のコーナー部に形成することができる。また、一の側壁の突片の根元部分には、窪みが形成されていることができる。
また、前記嵌合部の嵌合溝と向き合う一側壁と、一側壁と向き合う他の側壁のそれぞれには、突起と突片とが相反する方向に突出形成することができる。さらに、前記一側壁の突片の根元部分には、窪みが形成されていることが好ましい。
【発明の効果】
【0008】
本発明のガスケットは、連通溝を設けたので、ガスケットが挿入される嵌合溝に入り込んだ洗浄水を効率よく排水し、乾燥することが可能である。また、洗浄水が嵌合溝に残留することを防止できるので、洗浄水の残留に起因した基板の汚染を防止でき、水分が原因の精密基板の汚染、更には進行しての腐蝕の要因を除去することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の実施の形態を図面を使って説明する。
図1は、本発明の実施の形態の容器本体と蓋体とを有する基板収納容器を表す展開斜視図であり、図2は、蓋体に内側に内蔵されるラッチ機構を表す平面図である。図3〜図5は、基板収納容器の蓋体に内蔵されるガスケットを表す平面図とその拡大断面図と正面図であり、図6は、ガスケットを蓋体の嵌合溝に装着した状態の断面図である。
図7は、本発明の第二の実施の形態のガスケットを表す断面図、図8は、本発明の第二の実施の形態のガスケットを嵌合溝に装着した状態の断面図、そして図9は、本発明の実施の形態のガスケットを嵌合溝に装着した状態の更なる変形例を表す断面図である。
【0010】
本発明の実施の形態の基板収納容器は、図1に示すように、正面に開口部を有する容器本体1と、この開口部を閉鎖する蓋体2とシール用のガスケット3とリテーナ4を有する。容器本体1は、相対する内壁に基板を一定間隔で水平に支持する一対の支持部5を有し、側壁や天壁には搬送用のハンドル部品6が取り付けられており、底壁外面には、装置の位置決めをするための、断面V溝状をした位置決め手段(図示せず)が複数設けられている。
蓋体2は、開口を有する有底箱状で、内底面の中央部には、隆起した略長方形状をした突出部と、突出部の一端から張り出す一対の略長円状をし表面に位置決め凹部を有する張り出し部を有し、これらの隆起部分により左右に分離された凹部を有する筐体7と、凹部のそれぞれに内蔵された一対のラッチ機構と、ラッチ機構を個別に覆う一対のカバー部材8とからなる。
筐体2の側壁には、ラッチ機構の係止爪9が出没可能な、蓋体側壁貫通穴10が複数設けられていて、蓋体側壁貫通穴10よりも内側には、シール用のガスケットが挿入される溝(嵌合溝)が設けられている。また、カバー部材8には、外部からラッチ機構を操作可能なカバー部材8の貫通穴11が設けられていて、両側端部に設けられる係止爪9が容器本体1に設けられる係合凹部12と係合して容器本体1に固定される。
【0011】
蓋体の精密基板と向き合う内側の面の中央には、凹部が設けられ、ここに精密基板に個別に接触してこれを保護する保持溝13を備えたリテーナ4が取り付けられている。
こうした基板収納容器は、ポリカーボネート、シクロオレフィンポリマー、ポリエーテルイミド、ポリエーテルスルフォン、ポリエーテルエーテルケトンなどの熱可塑性樹脂から形成できる。また、こうした熱可塑性樹脂に導電性カーボン、導電繊維、例えば金属繊維、導電性高分子繊維、などの導電性部材を添加したり、各種の帯電防止剤、紫外線吸収剤等を添加することができる。
【0012】
ラッチ機構は、図2に示すように、中央に設けられる回転部品14と、回転部品14に係合する一対の連結バー15と、連結バー15の先端に取り付けられる係止バー19とからなる。回転部品14は、平板状に形成された表面の中央部には操作キーとなる円柱状の突起16と係合する操作凹部17が設けられ、周方向には一対の円弧状溝18が設けられている。
【0013】
連結バー15は、長方形状をした平板部材であり、端部に円柱状の突起16が形成されていて、回転部品14の円弧状溝18に挿入されていて、回転部品14の回転方向の動きにあわせて、連結バー15を筐体2の蓋体側壁貫通穴10(図1)の方向に進退する。
連結バー15の側面には、円柱状の小突起20が突出形成されていて、筐体に設けられたガイド21の形状に沿って高さ方向の位置を変えながら移動可能となる。
係止バー19は、連結バー15の端部に設けられる突起部22と係合可能な溝部を有し、連結バー15の動きに合わせて、先端部が筐体7の側壁から出没して、容器本体1の係止凹部12(図1)に係合される。
【0014】
本発明の実施の形態のガスケット3は、図3、図4に示したように、断面形状が矩形に形成されるエンドレス状に閉曲線をなす細幅の基部23と、基部23の一端から延びるシール部24とからなり、基部23の少なくとも1つの側壁には、嵌合溝29(図6)に保持するための突起25や突片26が形成されている。基部23は、外周側から内周側に向かって肉厚が大きくなるようにすることもできる。
シール部24は、基部23の一端から斜めに伸びる突片状に形成されていて、末端からシール形成方向にかけて湾曲して延びている。なお、湾曲している、又はすることができる、シール部24や突片26の先端には、変形防止や汚染防止のための球状突起を形成することができる(図示省略)。
【0015】
蓋体2に設けられる、奥側から開口に向かって頂部が傾斜するように形成されている嵌合溝29(図6)に嵌合されるガスケット3の基部23の一方の面には、図3、図4、図5に示すように、、エンドレス方向と直交する方向に、複数の連通溝28が基部23を横断するように半円筒状窪み状に形成されている。また、基部23の他方の面には、突片26が形成されていて、突片26の根元には、窪み27が形成されている。こうした形状の基部23が嵌合溝29に嵌入されて蓋体2に取り付けられる。
【0016】
容器本体1には嵌合溝29が設けられていて(蓋体2の側壁に設けられるものでも可)、図6にあるように、ガスケット3の基部を嵌合させるために、断面逆コの字形状に形成され、奥側の端面にはガスケットの基部のシール形成部と反対側の略垂直な端面と接触する垂直面30が形成されている。
突起25は、嵌合溝29の奥側になだらかな傾斜面を備え、嵌合溝29の開口部側は急峻な傾斜面を形成する三角形状に形成されていて、倒れこみによりシール部先端の傾きが変化しないように、突片26が設けられる位置よりも嵌合溝29の開口側に形成されるようにすることも好ましい態様である。
【0017】
突片26の高さは、嵌合溝に挿入される基部と対向する嵌合溝の壁面までの距離よりも長く形成されていて、嵌合溝29に基部23を嵌合させるときに、突片26が湾曲して、シールを形成するとともに、安定的にガスケットを嵌合溝内に保持することができる。突片26の根元には、窪み27が形成されていて、突片26の柔軟性を十分出すとともに、開口部側の窪み27は洗浄時に水分が種々の位置に点在しないように一時的に貯めておき、その後効率良く除去する働きもある。なお、窪み27の突片26の根元と相対する方向の終端の嵌合部には、この窪みから排水するための曲面又はRが大きく形成されている。
【0018】
開口側に先端が折れ曲がった突片26は、嵌合溝の連通部を経由して容器本体の外部のエアーが容器本体の内部に入り込むことを防止している。
連通溝28は、嵌合溝29に入り込んだ洗浄水を遠心分離などの脱水工程や乾燥工程で排水させたり、エアーを流通させて乾燥させる効果がある。連通溝28は、各辺の側線部に間隔を空けて複数箇所に設ける他に、コーナ部にも形成されることもある。コーナー部は、シール性能が低下しやすいので、水分を確実に除去しておくことが特に重要である。
また、嵌合溝29の開口部が、突片26および突起25によって確実にシールされ、しかもガスケット3と嵌合溝29との接触面積を少なくできるので、挿入時にパーティクルを発生することが少なく、シール性が長期に渡って良好で、基板を汚染することがない。
【0019】
ガスケット3の素材は、ポリエステル系のエラストマや、ポリオレフィン系のエラストマ、フッ素系エラストマ、ウレタン系エラストマ、などの熱可塑性エラストマや、フッ素系ゴム、EPDM、シリコーン系ゴムなどのゴムから形成される。また、これらに炭素繊維や金属繊維、金属酸化物、各種帯電防止剤などを添加して、導電性や帯電防止性を付与したり、カーボン、ガラス繊維、マイカ、タルク、シリカ、炭酸カルシウム等の充填剤やポリエチレン、ポリアミド、ポリアセタール、フッ素系樹脂、シリコーン樹脂等の樹脂を適量添加して、表面の固着性を改質したものであってもよい。
【0020】
図7、図8は、第二の実施形態であり、基部23の一方の面にも突片31を形成し、他方の面に形成される突片26とともに、嵌合溝29内で保持されるものである。この場合も、一面側の突片31を設ける位置を他面の突片26を設ける位置よりも嵌合溝29の開口側に設けると良い。窪み32は、第1の実施の形態で一面に設けられる窪みよりも深く形成される。図8は、この実施の形態のガスケットを蓋体2の嵌合溝32に嵌合させた状態を表す断面図である。この場合も上記した実施の形態と同様の効果が得られる。なお、32は、第二の突片31側の窪みである。
【0021】
図9は、上記の実施の形態の更なる変形例であり、断面図に示したように、蓋体2の嵌合溝29が、蓋体2の挿入方向と平行になるように形成されたものであり、嵌合部の1側面とこれに隣接し略垂直に交わる奥側面とに、それぞれ連通溝33、33を形成したものであり、この場合、突片26同士に囲まれるために、通気できなくなり乾燥の死角となる嵌合溝29の奥側の領域の排水を効率よく行うことが出来るようになる。
【0022】
容器本体のの開口部又は蓋体のガスケットのシール部と接触してシールを形成するシール形成面には、ガスケットの張り付きを防止するため、ガスケットの成形用金型の所定の位置に、サンドブラストや放電加工にて梨地(しぼ)加工を行い、ここの部分の表面粗さを、Rz(十点平均表面粗さ)で0.7〜0.9の範囲となるようにした。0.9を超えると、ガスケットの張り付きを効果的に防止することができず、0.7未満では、シール性能が低下してしまう。
【0023】
上記のように、シール形成面に梨地加工をすることを記載したが、この他にもシール形成面に平均膜厚が0.1〜50μm程度のダイヤモンドライクコーティング、PEEKコーティング、フッ素コーティングを施しておき、耐磨耗性と滑り性を向上させて、長期に渡って安定的なシール性能と、ガスケットの張り付きを効果的に防止することができる。
【0024】
実施の形態では、基部23が挿入される嵌合溝ををシール形成方向と略直交するように形成した例を説明したが、嵌合溝29をシール方向と略平行に設けることもできる。また、嵌合溝を蓋体ではなく、容器本体側に形成し、蓋体側にシール形成面を設けても良い。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の実施の形態の容器本体と蓋体とを有する基板収納容器を表す展開斜視図である。
【図2】蓋体に内側に内蔵されるラッチ機構を表す平面図である。
【図3】本発明の実施の形態のガスケットを表す平面図である。
【図4】図3のガスケットのA−A切断線相当の拡大断面図である。
【図5】本発明の実施の形態のガスケットの連通溝が形成された部分の正面図である。
【図6】本発明の実施の形態のガスケットを蓋体のを嵌合溝に装着した状態の断面図である。
【図7】本発明の第二の実施の形態のガスケットを表す断面図である。
【図8】本発明の第二の実施の形態のガスケットを嵌合溝に装着した状態の断面図である。
【図9】本発明の実施の形態のガスケットを嵌合溝に装着した状態の更なる変形例を表す断面図である。
【符号の説明】
【0026】
1:容器本体
2:蓋体
3:(シール用の)ガスケット
4:リテーナ
5:支持部
6:ハンドル部品
7:筐体
8:カバー部材
9:係止爪
10:(蓋体側壁)貫通穴
11:(カバー部材の)貫通穴
12:係合凹部
13:保持溝
14:回転部品
15:(一対の)連結バー
16:(操作キーとなる円柱状の)突起
17:操作凹部
18:円弧状溝
19:係止バー
20:(円柱状の)小突起
21:ガイド
22:突起部
23:基部
24:シール部
25:突起
26:突片
27:窪み
28:連通溝
29:嵌合溝
30:垂直面
31:(第二の)突片
32:(第二の突片側の)窪み
33:(第二の)連通溝

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一端に開口を有する容器本体と前記開口を閉鎖する蓋体と、前記容器本体と前記蓋体との間に狭持されてシールを形成するガスケットとを有する精密基板収納容器であって、
前記容器本体又は前記蓋体には、前記ガスケットが挿入される嵌合溝が形成され、
前記ガスケットは、エンドレス状をした基部と、基部から伸びるシール部とを有し、
前記基部は、前記嵌合溝に挿入されるときに嵌合部として形成されていて、
前記嵌合部と前記嵌合溝との何れか一方に、連通溝が形成されている
ことを特徴とする精密基板収納容器。
【請求項2】
前記連通溝が前記基部のコーナー部に形成されている請求項1又は2に記載の精密基板収納容器。
【請求項3】
前記嵌合部の連通溝と向き合う一側壁と、一側壁と向き合う他の側壁のそれぞれには、突起と突片とが相反する方向に突出形成されている請求項2に記載の精密基板収納容器。
【請求項4】
前記一側壁の突片の根元部分には、窪みが形成されている請求項3に記載の精密基板収納容器。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2010−129765(P2010−129765A)
【公開日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−302611(P2008−302611)
【出願日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【出願人】(000190116)信越ポリマー株式会社 (1,394)
【Fターム(参考)】