説明

精製エッセンシャルオイルの製造方法

【課題】 農薬などの有害な汚染物質を含有するエッセンシャルオイルから、エッセンシャルオイル本来の香味バランスの崩れや香味強度の低下などを生ずることなく、汚染物質を高い除去率で簡単に且つ円滑に除去して、安全性に優れ且つ品質の高い精製エッセンシャルオイルを生産性よく製造する方法を提供すること。
【解決手段】 汚染物質を含有するエッセンシャルオイルを活性炭で処理して汚染物質を除去して精製エッセンシャルオイルを製造する方法であり、処理に当って薬品で賦活化した活性炭、特に塩化亜鉛で賦活化した活性炭を使用すると、また室温以下の低温、特に−25℃〜5℃で処理を行うと汚染物質の除去率が一層向上する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、精製エッセンシャルオイルの製造方法、それにより得られる精製エッセンシャルオイル、当該精製エッセンシャルオイルを含有するフレーバー組成物並びに当該精製エッセンシャルオイルおよび/またはフレーバー組成物を含有する飲食品またはオーラルケア製品に関する。
より詳細には、本発明は、エッセンシャルオイルが本来有する香味バランスの崩れや香味強度の低下を生ずることなく、エッセンシャルオイル中に含まれる残留農薬などの有害な汚染物質を効率よく除去して、安全性に優れ、しかも品質の高い精製エッセンシャルオイルを製造する方法、それにより得られる精製エッセンシャルオイル、当該精製エッセンシャルオイルを含有するフレーバー組成物並びに当該精製エッセンシャルオイルおよび/またはフレーバー組成物を含有する飲食品またはオーラルケア製品に関する。
【背景技術】
【0002】
エッセンシャルオイル(精油または天然精油)は、植物から採取された、揮発性の芳香物質を含む有機物質である。
エッセンシャルオイルは、原料である植物を水蒸気蒸留、圧搾、抽出などによって処理して、揮発性の芳香成分を含む油を回収することによって得られる。
エッセンシャルオイルのうち、柑橘類(シトラス)を原料とするシトラスオイルは、柑橘類に含まれる香気成分であるモノテルペン炭化水素やその他のテルペン炭化水素が、熱および光に対して不安定であり、そのためシトラスオイルの調製法としては、熱をかけずに柑橘類(特に柑橘類の皮など)を圧搾してオイルを回収する、いわゆる「コールドプレス法」が一般に広く採用されている。
【0003】
上記のようにして得られるエッセンシャルオイルは、通常そのままで化粧品や食品をはじめとして種々の用途で香料として用いられるが、保存中などにエッセンシャルオイルに含まれる成分の化学変化や変質などによって、着色、沈殿、濁り、香りの劣化などのトラブルが発生した場合には精製して用いられている。その際の精製法としては、蒸留による方法、多孔性吸着剤で処理する方法、洗浄処理する方法、濾過処理する方法などが採用されており、多孔性吸着剤で処理する場合には活性炭、シリカゲル、アルミナ、ゼオライトなどの無機吸着剤、スチレン・ジビニルベンゼン共重合体吸着剤やアクリル系吸着剤などのような有機吸着剤、イオン交換樹脂、多孔質ガラスなどが用いられている(非特許文献1を参照)。
【0004】
エッセンシャルオイルは、天然の植物に由来するものであるため、本質的には安全なはずであるが、保存中の成分の化学変化などによって生じた変質物やエッセンシャルオイル中に元々含まれる不純物とは異なる、農薬などの有害な汚染物質が検出されることがあり、その対策が問題になっている。
エッセンシャルオイルから農薬が検出される原因としては、植物の栽培過程で使用されたり、収穫した植物の保存や流通過程で使用された農薬が、原料である植物に付着したり吸着されていて、それがエッセンシャルオイル中に移行して残留している場合や、過去に使用された農薬のうち分解せずに土壌中に蓄積されていた農薬を植物が根から吸収し、それがエッセンシャルオイル中に移行して残留している場合などが挙げられる。
【0005】
農薬の残留していない植物抽出物を製造する方法として、例えば、乾燥した植物原料を超臨界抽出する方法や、疎水性抽出剤を用いて植物の抽出処理を行う方法などが知られている。しかしながら、これらの方法は、植物を抽出処理して植物抽出物を調製する際に残留農薬が植物抽出物中に含まれないようにする方法であり、そのため抽出によらずに、圧搾法によって香気成分の回収が行われるエッセンシャルオイル、特にシトラスオイルには適用できない。
【0006】
また、植物抽出物に残留している農薬を除去する方法として、有機塩素化合物系の農薬が残留している植物抽出物を、体積比で10:90〜80:20の低級脂肪族アルコールと水との混合液に溶解させ、それにより得られた溶液を細孔の最頻度半径が30〜120Åである、スチレンとジビニルベンゼンの三次元共重合体などからなる多孔性吸着樹脂に接触させて溶液中の残留農薬を該吸着樹脂に吸着させ、処理後の溶液より植物抽出物を回収する方法が知られている(特許文献1)。しかし、この方法による場合は、残留農薬と物性の近似した、植物抽出物中に含まれる有効成分が、残留農薬と一緒に吸着樹脂に吸着されてしまうため、吸着損失が大きく、植物抽出物の収率が低下するという問題がある。また、この方法は茶抽出物などのような、予め抽出処理を行って得られる植物抽出物からの残留農薬の除去方法であり、シトラスオイルなどのような、抽出によらずに圧搾によって得られるエッセンシャルオイルは処理の対象とされていない。
【0007】
また、エッセンシャルオイルからの残留農薬の除去方法として、エッセンシャルオイルをアルカリ性水溶液で洗浄処理する方法(特許文献2)、エッセンシャルオイルを強イオン交換樹脂で処理する方法(特許文献3)が知られている。
しかしながら、エッセンシャルオイルをアルカリ性水溶液で洗浄処理する方法は、アルカリ性水溶液にエッセンシャルオイル中のアルカリ可溶性の香味成分が移行してエッセンシャルオイルの香味バランスが崩れるとともに香味強度が著しく落ちてしまい、エッセンシャルオイルの品質が大きく低下するという問題がある。
また、エッセンシャルオイルを強イオン交換樹脂で処理する方法は、(a)強イオン交換樹脂が親水性であるのに対してエッセンシャルオイルが疎水性であるため強イオン交換樹脂へのエッセンシャルオイルの接触効率を上げることが困難で、残留農薬の除去効率が低い;(b)エッセンシャルオイル中に水分が混入する恐れがある;(c)エッセンシャルオイル中の重要な香味成分であるアルデヒド類がエノール化し重合反応が起きる恐れがある;(d)強イオン交換樹脂がカチオン性イオン交換樹脂である場合にはエッセンシャルオイル中の酸性香味化合物の損失が生じ、一方強イオン交換樹脂がアニオン性イオン交換樹脂である場合にはエッセンシャルオイル中のアルカリ性香味化合物の損失が生じ、エッセンシャルオイルの香味バランスの崩れや香味強度の低下が生じ易い;(e)強イオン交換樹脂がエッセンシャルオイルによって溶解する恐れがある;などの種々の問題を含んでいる。
【0008】
また、上記したように、非特許文献1には、エッセンシャルオイルの保存中などに成分の化学変化や変質などによって着色、沈殿、濁り、香りの劣化などが発生した場合に、活性炭などの吸着剤を用いてエッセンシャルオイルを精製して香味の改善を行うことが記載されているが、農薬などの汚染物質で汚染されたエッセンシャルオイルを活性炭で処理して、農薬などの汚染物質を含まない、安全性に優れるエッセンシャルオイルの調製については記載されていない。
【0009】
上記のような状況下において、エッセンシャルオイルに含まれる香味成分の損失や劣化を生ずることなく、エッセンシャルオイル本来の良好な香味バランスおよび香味強度を維持しながら、エッセンシャルオイル中に含まれる農薬などの汚染物質を簡単な操作で円滑に除去して、安全性に優れ、しかも品質の高い精製エッセンシャルオイルを生産性よく製造し得る方法の開発が求められている。
【0010】
【特許文献1】特開2000−72790号公報
【特許文献2】国際公開第2007/117902号パンフレット
【特許文献3】国際公開第2007/001697号パンフレット
【非特許文献1】「特許庁公報 周知・慣用技術集(香料)」第1部 香料一般 平成11年1月29日 第4〜5頁および第72頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、農薬などの汚染物質を含有するエッセンシャルオイルから、当該汚染物質を、エッセンシャルオイルに含まれる香味成分の損失や劣化を生ずることなく、エッセンシャルオイル本来の良好な香味バランスおよび香味強度を維持しながら、簡単な操作で円滑に除去して、安全性に優れると共に品質の高い精製エッセンシャルオイルを生産性よく得ることのできる、精製エッセンシャルオイルの製造方法を提供することである。
さらに、本発明の目的は、農薬などの汚染物質を含有せず、しかも良好な香味バランスと高い香味強度を有する、安全性および品質に優れる精製エッセンシャルオイルを提供することである。
そして、本発明の目的は、前記した安全性および品質に優れる精製エッセンシャルオイルを含有するフレーバー組成物、並びに当該精製エッセンシャルオイルおよび/またはフレーバー組成物を含有する飲食品やオーラルケア製品などの製品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは上記の目的を達成すべく種々検討を重ねてきた。その結果、汚染物質を含有するエッセンシャルオイルを、活性炭で処理すると、香味バランスの崩れおよび香味強度の低下を防ぎながら、エッセンシャルオイルに含まれる汚染物質を、極めて簡単な操作で効率よく除去することができて、安全性および品質に優れる精製エッセンシャルオイルを生産性よく製造できることを見出した。
さらに、本発明者らは、エッセンシャルオイルに含まれる汚染物質を活性炭で除去する前記した方法は、エッセンシャルオイルからの残留農薬の除去に極めて有効であることを見出した。
【0013】
また、本発明者らは、エッセンシャルオイルを活性炭で処理して汚染物質を除去する前記方法は、シトラスオイル、スパイスオイル、ハーブオイルなどにいずれのエッセンシャルオイルに対しても有効であり、そのうちでもシトラスオイルに含まれる汚染物質、特に残留農薬の除去により有効であることを見出した。
更に、本発明者らは、エッセンシャルオイルに含まれる汚染物質を活性炭で除去するに当っては、エッセンシャルオイルの凝固温度を超え且つエッセンシャルオイルの揮発の少ない温度範囲が採用でき、そのうちでも−30℃〜5℃という低温で活性炭処理を行うと、エッセンシャルオイルに含まれる農薬などの汚染物質の除去率がより向上することを見出した。
また、本発明者らは、エッセンシャルオイルに含まれる汚染物質の除去に用いる活性炭としては、賦活化した活性炭が汚染物質の除去率が高い点から好ましく用いられ、そのうちでも薬品により賦活化した活性炭、特に塩化亜鉛で賦活化した活性炭が、汚染物質、特に残留農薬の除去率がより高くて、より好ましく用いられることを見出し、それらの種々の知見に基づいて本発明を完成した。
【0014】
すなわち、本発明は、
(1) 汚染物質を含有するエッセンシャルオイルを活性炭で処理して汚染物質を除去することを特徴とする精製エッセンシャルオイルの製造方法である。
そして、本発明は、
(2) 汚染物質が、残留農薬である前記(1)の精製エッセンシャルオイルの製造方法;および、
(3) 残留農薬が、オルトフェニルフェノール、クロロネブ、シマジン、カルバリル、クロロピリフォス、イマザリル、チアベンダゾールおよびジフェニルのうちの1種または2種以上である前記(1)または(2)の精製エッセンシャルオイルの製造方法;
である。
【0015】
さらに、本発明は、
(4) エッセンシャルオイルが、シトラスオイル、スパイスオイルおよびハーブオイルから選ばれるいずれか1種であるかまたは2種以上の混合物である前記(1)〜(3)のいずれかの精製エッセンシャルオイルの製造方法;
(5) シトラスオイルが、レモンオイル、スイートオレンジオイル、ビターオレンジオイル、ライムオイル、グレープフルーツオイル、ベルガモットオイル、マンダリンオイル、ユズオイルおよびスダチオイルから選ばれるいずれか1種であるかまたは2種以上の混合物である前記(4)の精製エッセンシャルオイルの製造方法;

(6) スパイスオイルが、オールスパイス、アニスオイル、スターアニスオイル、ビターアーモンドオイル、ブラックカーラントオイル、シンナモンオイル、クローブオイル、ショウガオイル、カラシオイルおよびコショウオイルから選ばれるいずれか1種であるかまたは2種以上の混合物である前記(4)の精製エッセンシャルオイルの製造方法;および、
(7) ハーブオイルが、スイートバジルオイル、セロリオイル、クラリセージオイル、ユーカリオイル、ペパーミントオイル、ハッカオイルおよびスペアミントオイルから選ばれるいずれか1種であるかまたは2種以上の混合物である前記(4)の精製エッセンシャルオイルの製造方法;
である。
【0016】
また、本発明は、
(8) −30℃〜5℃の温度下に活性炭で処理する、前記(1)〜(7)のいずれかの精製エッセンシャルオイルの製造方法;
(9) 活性炭が、腑活化された活性炭である前記(1)〜(8)のいずれかの精製エッセンシャルオイルの製造方法;
(10) 活性炭が、薬品により腑活化した活性炭である前記(9)の精製エッセンシャルオイルの製造方法;および、
(11) 活性炭が、塩化亜鉛で賦活化した活性炭である前記(10)の精製エッセンシャルオイルの製造方法;
である。
【0017】
そして、本発明は、
(12) 前記(1)〜(11)のいずれかの製造方法により得られる精製エッセンシャルオイル;
(13) 前記(12)の精製エッセンシャルオイルを含有するフレーバー組成物;および、
(14) 前記(12)の精製エッセンシャルオイルおよび/または前記(13)のフレーバー組成物を含有する飲食品またはオーラルケア製品;
である。
【発明の効果】
【0018】
本発明による場合は、香味バランスの崩れおよび香味強度の低下を防ぎながら、エッセンシャルオイルに含まれる汚染物質を、活性炭を用いて、極めて簡便な操作で効率よく除去することができるために、安全性および品質に優れる精製エッセンシャルオイルを生産性よく製造することができる。
特に、本発明の方法は、汚染物質として農薬を含有するエッセンシャルオイルからの農薬の除去に極めて有効であり、本発明により得られる精製エッセンシャルオイルは、農薬などの有害な汚染物質を含有しないかまたは含有していてもその含有量が人や動物に害を与えない極めて微量であるため、安全性に優れている。
本発明の方法は、シトラスオイル、スパイスオイル、ハーブオイルなどにいずれのエッセンシャルオイルに対しても有効であり、そのうちでもシトラスオイルに含まれる汚染物質、特に残留農薬を高い除去率で除去することができる。
本発明において、活性炭によるエッセンシャルオイルの処理を、低温、特に−30℃〜5℃で行った場合には、エッセンシャルオイルに含まれる農薬などの汚染物質をより高い除去率で除去することができる。
本発明において、汚染物質を除去するための活性炭として、賦活化した活性炭、特に薬品により賦活化した活性炭、そのうちでも塩化亜鉛で賦活化した活性炭を用いた場合には、汚染物質、特に残留農薬を一層高い除去率で極めて円滑に除去することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下に本発明について詳細に説明する。
本発明は、汚染物質を含有するエッセンシャルオイルを活性炭で処理して汚染物質を除去することからなる精製エッセンシャルオイルの製造方法である。
ここで、本明細書でいう「汚染物質」とは、エッセンシャルオイルの原料である植物自体を構成する物質および当該物質に由来する物質(例えば植物を構成する物質の化学変化や変性などによって生成した物質など)には該当しない物質であって且つ人間や動物に対して害をなすかまたは害をなす恐れのある物質の総称である。
エッセンシャルオイルに含まれる汚染物質の種類は特に限定されないが、代表例としては、農薬、重金属、菌類または菌由来の毒素などを挙げることができる。そのうちでも、本発明は、農薬が残留しているエッセンシャルオイルからの農薬の除去に適している。
【0020】
エッセンシャルオイルに含まれる農薬の種類は特に制限されず、本発明の方法によって除去できる農薬であればいずれでもよく、例えば、オルトフェニルフェノール、クロロネブ、シマジン、カルバリル、クロロピリフォス、イマザリル、チアベンダゾール、ジフェニル、トリクロルホン、フェニトロチオン、プロチオホス、メチダチオンなどの農薬を挙げることができる。エッセンシャルオイルに含まれる農薬は、これらのいずれか1種であってもよいし、または2種以上であってもよい。
そのうちでも、本発明の方法は、シトラスオイルにおいてその残留が問題になっているオルトフェニルフェノール、クロロネブ、シマジン、カルバリル、クロロピリフォス、イマザリル、チアベンダゾール、ジフェニルなどの農薬を含むシトラスオイルからのこれらの農薬の除去に有効であり、特にオルトフェニルフェノールを残留農薬として含むシトラスオイルからのオルトフェニルフェノールの除去により適している。
【0021】
本発明で用いるエッセンシャルオイルの種類は特に限定されず、本発明の目的が達成され得るエッセンシャルオイルであればいずれでもよく、そのうちでもシトラスオイル、スパイスオイルおよびハーブオイルのいずれか1種またはこれらの2種以上の混合物が好ましい。
より具体的には、シトラスオイルとしては、例えば、レモンオイル、スイートオレンジオイル、ビターオレンジオイル、ライムオイル、グレープフルーツオイル、ベルガモットオイル、マンダリンオイル、ユズオイル、スダチオイルなどを挙げることができる。
また、スパイスオイルとしては、例えば、オールスパイス、アニスオイル、スターアニスオイル、ビターアーモンドオイル、ブラックカーラントオイル、シンナモンオイル、クローブオイル、ショウガオイル、カラシオイル、コショウオイルなどを挙げることができる。
ハーブオイルとしては、例えば、スイートバジルオイル、セロリオイル、クラリセージオイル、ユーカリオイル、ペパーミントオイル、ハッカオイル、スペアミントオイルなどを挙げることができる。
本発明で用いるエッセンシャルオイルは、前記したオイルのうちのいずれか1種類のみからなっていてもよいし、または2種以上の混合物であってもよい。
【0022】
エッセンシャルオイルの原料となる植物の種類、植物の産地、植物の栽培方法や保存・流通方法、植物からのエッセンシャルオイルの調製方法などによってエッセンシャルオイル中に含まれる汚染物質の種類、特に農薬の種類、汚染物質の含有量が異なるが、例えばコールドプレス法で得られるシトラスオイルでは、ガスクロマトグラフ/マススペクトロメトリー・マススペクトロメトリー(GC/MS−MS)により測定したときに、農薬の1種であるオルトフェニルフェノールが0.01〜70ppmの範囲の量で残留していることが多い。本発明の方法は、コールドプレス法により得られる、オルトフェニルフェノールが残留しているシトラスオイルからのオルトフェニルフェノールの除去に極めて有効である。
【0023】
本発明では、活性炭として、粉末状活性炭、粒状活性炭(破砕炭、顆粒炭、造粒炭)、球状活性炭、繊維状活性炭のいずれが使用でき、そのうちでも粉末状活性炭および/または粒状活性炭がエッセンシャルオイルからの汚染物質の除去効果が高く、しかも取り扱い性、吸着効率、経済性などに優れる点から好ましく用いられる。
また、本発明で使用する活性炭の由来は特に制限されず、例えば、ヤシ殻、木質材料(オガ屑、木材チップなど)、石炭、石油のいずれかを原料として製造された活性炭であればよく、そのうちでもヤシ殻または木質材料を原料とする活性炭が、精製エッセンシャルオイルを食品用途に使用する際の安全性や環境汚染防止の点から好ましく用いられる。
更に、本発明で使用する活性炭は、賦活化された活性炭であってもよいしまたは賦活化されていない活性炭であってもよい。そのうちでも、賦活化された活性炭がエッセンシャルオイルからの汚染物質の除去率が高いことから好ましく用いられる。賦活化された活性炭としては、水蒸気などのガスで賦活化された活性炭、薬品(塩化亜鉛、リン酸など)で賦活化された活性炭のいずれもが使用でき、そのうちでも薬品で賦活化された活性炭、特に塩化亜鉛で賦活化された活性炭が、エッセンシャルオイルからの汚染物質、特に残留農薬の除去率がより高いことからより好ましく用いられる。
【0024】
限定されるものではないが、本発明で用い得る活性炭としては、例えば、日本エンバイロンケミカルズ株式会社製の「強力白鷺」、「精製白鷺」、「特性白鷺」(いずれも塩化亜鉛賦活粉末状活性炭)、同社製の「白鷺A」、「白鷺M」、「白鷺C」、「白鷺P」(いずれも水蒸気賦活粉末状活性炭)、同社製の「白鷺WH2c」(水蒸気賦活粒状活性炭)、クラレケミカル株式会社製の「クラレコールGL」、「クラレコールGW」(水蒸気賦活活性炭:粉末状および粒状)、フタムラ化学株式会社製の「太閤S」、「太閤SG」、「太閤SGP」(いずれも塩化亜鉛賦活粉末状活性炭)、三菱化学カルゴン株式会社の「ダイアホープS80S」などを挙げることができる。
【0025】
エッセンシャルオイルに含まれる農薬などの汚染物質を活性炭で除去して精製エッセンシャルオイルを製造するに当っては、汚染物質を含有するエッセンシャルオイルに活性炭を加えて所定時間撹拌した後に活性炭を分離して精製エッセンシャルオイルを回収する方法(バッチ法)、活性炭を充填したカラムに汚染物質を含有するエッセンシャルオイルを通過させて汚染物質をカラムに吸着させて精製エッセンシャルオイルを回収する方法(カラム法)などを採用することができる。
バッチ法によって精製エッセンシャルオイルを製造する場合は、エッセンシャルオイルの種類、エッセンシャルオイル中の汚染物質の種類や含有量、活性炭の種類などによって異なり得るが、一般的には、汚染物質を含有するエッセンシャルオイルの質量に基づいて、0.1質量%以上の活性炭を加えることが好ましく、0.5〜20質量%の活性炭を加えることがより好ましい。また、エッセンシャルオイルに含まれる汚染物質の含有量を基準にした場合には、汚染物質1質量部に対して活性炭を20〜3,000質量部、特に50〜1,500質量部程度の量で添加することが好ましい。
また、カラム法によって精製エッセンシャルオイルを製造する場合は、エッセンシャルオイルの種類、エッセンシャルオイル中の汚染物質の種類や含有量、活性炭の種類、カラムにおける活性炭の充填量などに応じて、活性炭充填カラムでのエッセンシャルオイルの流下速度などを調整して、エッセンシャルオイル中の汚染物質が十分に除去されるようにする。
バッチ法およびカラム法のいずれにおいても、活性炭による処理時間としては、一般に10分〜5時間が好ましく採用される。
【0026】
エッセンシャルオイルに含まれる汚染物質を活性炭によって除去するに当っては、
(α)汚染物質を含有するエッセンシャルオイルを溶媒で希釈することなくそのまま用いて活性炭で処理する方法;
(β)汚染物質を含有するエッセンシャルオイルに可食性溶媒を混合して希釈してその希釈液を用いて活性炭で処理する方法;
(γ)汚染物質を含有するエッセンシャルオイルに非可食性溶媒を加えて希釈してその希釈液を用いて活性炭で処理する方法;
(δ)汚染物質を含有するエッセンシャルオイルを汚染物質を含有しないエッセンシャルオイルで希釈し、その希釈液を用いて活性炭で処理する方法;
などを採用することができる。
【0027】
前記(α)および(δ)の方法による場合は、活性炭で汚染物質を除去処理して得られる精製エッセンシャルオイルをそのまま直接それぞれの用途に使用したり、または必要に応じて以下の(β)の方法について挙げているような可食性溶媒などを加えて、それぞれの用途に使用することができる。
また、前記(β)の方法で使用する可食性溶媒としては、例えば、エタノール、水、グリセリン、中鎖脂肪酸トリグリセライド、植物油脂などを挙げることができ、これらの1種または2種以上を用いることができる。ここで用いた可食性溶媒は、活性炭による汚染物質の除去処理が終わった後に、精製エッセンシャルオイルから分離せずに精製エッセンシャルオイルの可食性溶媒溶液の形でそれぞれの用途に用いてもよいし、または精製エッセンシャルオイルから減圧蒸留などによって留去してもよい。
また、前記(γ)で用いる非可食性溶媒としては、例えば、ヘキサン、酢酸エチル、アセトン、ブタノール、プロパノール、メタノールなどの有機溶媒を挙げることができ、これらの1種または2種以上を用いることができる。ここで用いた非可食性溶媒は、活性炭による汚染物質の除去処理が終わった後に、減圧蒸留などによって留去する。
【0028】
汚染物質を含有するエッセンシャルオイルを活性炭で処理して汚染物質を除去するに当っては、当該処理を上記したバッチ法で行うかまたはカラム法で行うかの如何に拘わらず、また当該処理を上記した(α)〜(δ)のうちのいずれで行うかに拘わらず、汚染物質を含有するエッセンシャルオイル液または希釈されたエッセンシャルオイル溶液の温度(液温)をエッセンシャルオイルの凝固点よりも高い温度で且つエッセンシャルオイルの揮発の少ない温度の範囲内にして行うのがよい。そのうちでも、汚染物質を含有するエッセンシャルオイルまたはエッセンシャルオイル溶液の温度(液温)を−30℃〜5℃、更には−25℃〜5℃、特に−25℃〜2℃の範囲内の温度にして活性炭で処理することが好ましく、前記温度を採用することによって、汚染物質をより高い除去率で円滑に除去することができる。
【0029】
上記した本発明の方法により得られる精製エッセンシャルオイルは、香味バランスの崩れおよび香味強度の低下がなく、エッセンシャルオイルが本来有する香味と香味強度を維持していて、香味に優れ、しかも汚染物質を含有しないかまたは含有していてもその含有量が人や動物に害を与えない極めて微量であるため安全性に優れている。
本発明により得られる精製エッセンシャルオイルは、そのままフレーバー素材として使用してもよいし、または従来から知られている他のフレーバー素材と適宜組み合わせてフレーバー組成物にして用いてもよい。その際の他のフレーバー素材の種類や配合割合などは特に制限されず、本発明により得られる精製エッセンシャルオイルの種類などに応じて、それに適合する他のフレーバー素材を適宜選択して用いることができる。
【0030】
本発明により得られる精製エッセンシャルオイルおよび/または当該精製エッセンシャルオイルを他のフレーバー素材と配合してなるフレーバー組成物を用いて、各種の飲食品類や、オーラルケア製品などをつくることができる。限定されるものではないが、飲食品としては、例えば、果汁飲料、スポーツ飲料、炭酸飲料、乳飲料、茶類飲料、酒類、ドリンク剤などの飲料類;アイスクリーム類、シャーベット類、アイスキャンディー類などの冷菓類;和・洋菓子、チューインガム類、チョコレート類、パン類、コーヒー、紅茶などの嗜好品類;各種のスナック類などの飲食品;キャンディなどを挙げることができる。また、オーラルケア製品としては、例えば、歯磨剤、洗口剤、歯肉マッサージクリーム、局所塗布剤、トローチ剤、チューインガムなどを挙げることができる。
【実施例】
【0031】
以下に本発明を実施例などによって具体的に説明するが、本発明は以下の実施例などにより何ら制限されるものではない。
以下の実施例および比較例において、エッセンシャルオイル(各種シトラスオイル)中の残留農薬(オルトフェニルフェノール)の定量およびエッセンシャルオイルに含まれる各成分(各香味成分)の定量は、ガスクロマトグラフ/マススペクトロメトリー・マススペクトロメトリー(GC/MS−MSという)により、下記の装置および条件を採用して行った。
【0032】
[GC/MS−MSに係る装置および条件]
・GC機種名 :Agilent Technologies社製「Agilent Technologies HP6890N」
・GCカラム名:アジレント・テクノロジー株式会社製「DB−5MS」
(30m×0.25mmI.D.膜厚0.25μm)
・MS機種名 :Micromass社製「Quatro micro GC」
・GC条件:
注入法 splitless
注入量 2μL
注入口温度 250℃
カラム温度 50℃で1分→15℃/分で125℃まで加熱→5℃/分で300℃
まで加熱した後、300℃に9分維持
流速 1.0ml/分
・MS−MS条件:
イオン源温度 180℃
イオン化法 EI+ モード
イオン化電圧 70eV
【0033】
また、以下の実施例および比較例において、エッセンシャルオイル(各シトラスオイル)からのオルトフェニルフェノールの除去率は、以下の数式(1)により求めた。

オルトフェニルフェノール除去率(%)={(A0−A1)/A0}×100 (1)

[式中、A0は精製処理を行う前のエッセンシャルオイル(シトラスオイル)中のオルトフェニルフェノールの含有量(ppm)、A1は精製処理を行った後のエッセンシャルオイル(シトラスオイル)中のオルトフェニルフェノールの含有量(ppm)を示す。]
【0034】
《実施例1〜3および比較例1〜2》
(1) オルトフェニルフェノールが残留しているグレープフルーツコールドプレスオイル(オルトフェニルフェノール濃度=49.1ppm)5gに、下記の表1に記載する5種類の吸着剤のそれぞれを、グレープフルーツコールドプレスオイルの質量に基づいて、1質量%、2質量%、4質量%または8質量%の量で添加してよく懸濁させ、室温(25℃)で1時間撹拌処理した後、吸着剤を濾過して、グレープフルーツコールドプレスオイルを回収した。
(2) 上記(1)で回収した、吸着剤で処理した後のグレープフルーツコールドプレスオイル中のオルトフェニルフェノールの含有量をGC/MS−MSにより上記した方法で分析して、上記した数式(1)に従ってオルトフェニルフェノール除去率(%)を求めたところ、下記の表1に示すとおりであった。
【0035】
【表1】

【0036】
上記の表1にみるように、実施例1〜3では、オルトフェニルフェノール(農薬)が残留しているグレープフルーツコールドプレスオイルを活性炭で処理したことにより、シリカゲルまたはポリビニルピロリドンからなる他の吸着剤を用いて処理した比較例1および2に比べて、オルトフェニルフェノールの除去率が大幅に高くなっている。
そのうちでも、実施例1では、活性炭として塩化亜鉛で賦活した活性炭である「精製白鷺」を用いたことにより、オルトフェニルフェノールがより高い除去率でより効率的に除去された。
【0037】
《実施例4》
(1) オルトフェニルフェノールが残留しているグレープフルーツコールドプレスオイル(オルトフェニルフェノール濃度=49.1ppm)5gに、吸着剤として塩化亜鉛賦活粉末状活性炭(日本エンバイロケミカルズ株式会社製「精製白鷺」)を、グレープフルーツコールドプレスオイルの質量に基づいて、1質量%、2質量%、4質量%または8質量%の量で添加してよく懸濁させ、下記の表2に示すそれぞれの温度で1時間撹拌処理した後、吸着剤を濾過して、グレープフルーツコールドプレスオイルを回収した。
(2) 上記(1)で回収した、塩化亜鉛賦活粉末状活性炭で処理した後のグレープフルーツコールドプレスオイル中のオルトフェニルフェノールの含有量をGC/MS−MSにより上記した方法で分析して、上記した数式(1)に従ってオルトフェニルフェノール除去率(%)を求めたところ、下記の表2に示すとおりであった。
【0038】
【表2】

【0039】
(3) 上記の表2にみるように、活性炭で処理してエッセンシャルオイル(グレープフルーツコールドプレスオイル)に含まれる汚染物質(残留農薬など)を除去するに当っては、−25℃〜40℃の範囲内の温度で汚染物質(残留農薬)が効果的に除去でき、そのうちでも当該処理を、室温以下の温度、特に−25℃〜5℃で行うと、オルトフェニルフェノール(農薬)の除去率が向上し、特に−25℃〜2℃の温度範囲での除去率が高い。
【0040】
《試験例1》
(1) 実施例4で用いた、オルトフェニルフェノールが残留しているグレープフルーツコールドプレスオイル(活性炭で処理する前のオイル)の成分分析(香味成分の分析)をGC/MS−MSにより上記した方法で行うと共に、実施例4の(1)において、
(A)塩化亜鉛賦活粉末状活性炭(精製白鷺)を8質量%の割合で添加して室温(25℃)で1時間撹拌して処理して得られた精製グレープフルーツコールドプレスオイル[以下、「精製グレープフルーツオイル(A)」という];および、
(B)塩化亜鉛賦活粉末状活性炭(精製白鷺)を8質量%の割合で添加して−25℃の温度で1時間撹拌して処理して得られた精製グレープフルーツコールドプレスオイル[以下、「精製グレープフルーツオイル(B)」という];
についても、GC/MS−MSにより上記した方法で成分分析(香味成分の分析)を行って、前記の精製グレープフルーツオイル(A)および(B)中に含まれる主要な各香味成分の残存率を求めたところ、下記の表3に示すとおりであった。
なお、下記の表3における各成分(各香味成分またはオルトフェニルフェノール)の残存率は、下記の数式(2)により求めた。

各成分の残存率(%)=(C1/C0)×100 (2)

[式中、C0は精製処理を行う前のエッセンシャルオイル(グレープフルーツオイル)中の各成分の含有量(ppm)、C1は精製処理を行った後の精製エッセンシャルオイル(精製グレープフルーツオイル)中の各成分の含有量(ppm)を示す。]
【0041】
(2)(i) 実施例4で用いたのと同じ、オルトフェニルフェノールが残留しているグレープフルーツコールドプレスオイル(精製処理する前のオイル)30gを、シリカゲル(富士シリシア株式会社製の粉砕シリカゲル「シリカゲル3A」)15gを充填したカラム(カラムの内径15mm、シリカゲル充填部の長さ120mm)に25℃で通液して、下記の表3に示すように、オルトフェニルフェノールの残留率が23%(オルトフェニルフェノールの除去率77%)である精製グレープフルーツコールドプレスオイル[以下、「精製グレープフルーツオイル(C)」という]を得た。
(ii) 上記(i)で得られた精製グレープフルーツオイル(C)について、GC/MS−MSにより上記した方法で成分分析(香味成分の分析)を行って、精製グレープフルーツオイル(C)中に含まれる主要な各香味成分の残存率を上記した数式(2)により求めたところ、下記の表3に示すとおりであった。
【0042】
【表3】

【0043】
(3) 上記の表3にみるように、農薬(オルトフェニルフェノール)が残留しているシトラスオイル(グレープフルーツコールドプレスオイル)を、活性炭で処理した精製シトラスオイル[精製グレープフルーツオイル(A)および精製グレープフルーツオイル(B)]では、農薬(オルトフェニルフェノール)が高い除去率で円滑に除去される一方で、シトラスオイル[精製グレープフルーツオイル(A)および(B)]に含まれる香味成分の減少が極めて少なく(香味成分の残存率が極めて高く)、香味バランスの崩れおよび香味強度の低下が殆ど生じていない。
それに対して、農薬(オルトフェニルフェノール)が残留しているシトラスオイル(グレープフルーツコールドプレスオイル)を、シリカゲルで処理した精製シトラスオイル[精製グレープフルーツオイル(C)]では、農薬(オルトフェニルフェノール)の除去率を高くした場合(オルトフェニルフェノールの残存率を23%と低くした場合)には、シトラスオイル[精製グレープフルーツオイル(C)]に含まれる香味成分のうち、ヌートカトンの残存率が極めて低くなっていてヌートカトンの大半が失われており、しかもオクタナール、ノナナールおよびデカナールもかなりの量で失われていて、香味バランスが崩れ、しかも香味強度が低下している。
【0044】
(4) 熟練したパネラー10名が、活性炭で処理する前のグレープフルーツコールドプレスオイルの香味強度および香質と、活性炭(精製白鷺)を8質量%の割合で添加して−25℃で1時間撹拌下に吸着処理して得られた上記の精製グレープフルーツオイル(B)の香味強度および香質について官能評価を行ったところ、10名のパネラーのうち9名が、活性炭で処理する前のグレープフルーツオイルと活性炭で処理した精製グレープフルーツオイル(B)とで、香味強度および香質に殆ど差がないと判定した。
また、同じパネラー10名が、シリカゲルで精製処理して得られた上記の精製グレープフルーツオイル(C)の香味強度および香質について官能評価を行ったところ、10名のパネラーの全員が、シリカゲルで処理する前のグレープフルーツオイルと比較したときに、香味バランスが崩れていてグレープフルーツオイル本来の香味が失われ、しかも香味強度が大きく低下していると判定した。
【0045】
《実施例5》[レモンフレーバー組成物の調製]
(1) レモンコールドプレスオイル1kgに水蒸気賦活粉末状活性炭(日本エンバイロンケミカルズ株式会社製「白鷺A」)80gを添加して懸濁させ、−25℃で30分間攪拌を行なった後、珪藻土濾過助剤(昭和化学株式会社製「セライト545」)20g添加し、加圧濾過により固形分を除去して、精製レモンコールドプレスオイル900gを得た。
(2) 上記(1)で得られた精製レモンオイル100gに60%エタノール水溶液100gを混合した後、分液し、エタノール層を回収し、回収したエタノール層をレモンフレーバー組成物とした。
【0046】
《実施例6》[リモネンの回収およびオレンジフレーバー組成物の調製]
(1) オレンジコールドプレスオイル1kgに水蒸気賦活粉末状活性炭(日本エンバイロンケミカルズ株式会社製「白鷺A」)50gを添加して懸濁させ、5℃で1時間攪拌を行なった後、珪藻土濾過助剤(昭和化学株式会社製「セライト545」)30gを添加し、加圧濾過により固形分を除去して、精製オレンジオイル900gを得た。
(2) 上記(1)で得られた精製オレンジオイル100gを減圧蒸留し、50gのリモネンを回収した。
(3) また、上記(2)でリモネンを回収した後の蒸留残渣を60%エタノール水溶液80gで抽出した後、分液し、エタノール層を回収し、回収したエタノール層をオレンジフレーバー組成物とした。
【0047】
《実施例7》[グレープフルーツフレーバー組成物の調製]
(1) グレープフルーツオイル500gにエタノール300gおよび塩化亜鉛賦活粉末状活性炭(日本エンバイロンケミカルズ株式会社製「精製白鷺」)40gを添加して混合し、混合物を10℃で1時間攪拌した後、珪藻土濾過助剤(昭和化学株式会社製「セライト545」)40gを添加し、加圧濾過により固形分を除去して、精製グレープフルーツオイルを得た。
(2) 上記(1)で得られた精製グレープフルーツオイルにイオン交換水200gを加えて攪拌した後、静置し、エタノール層を回収し、回収したエタノール層をグレープフルーツフレーバー組成物とした。
【0048】
《実施例8》[果汁入り飲料の調製]
実施例6で調製したオレンジフレーバー組成物を用いて、下記の表4に示す成分を表4に示す配合組成の量で使用して25℃で均一に混合した後、5℃に冷却して果汁入り飲料を調製した。これにより得られた飲料は、良好なオレンジフレーバを有していた。
【0049】
【表4】

【0050】
《実施例9》[スポーツ飲料の調製]
実施例5で調製したレモンフレーバー組成物を用いて、下記の表5に示す成分を表5に示す配合組成の量で使用して25℃で均一に混合して後、5℃に冷却してスポーツ飲料を調製した。これにより得られたスポーツ飲料は、レモンフレーバの効いた爽やかなかおりを有していた。
【0051】
【表5】

【0052】
《実施例10》[炭酸飲料の調製]
実施例5で調製したレモンフレーバー組成物を用いて、下記の表6に示す成分を表6に示す配合組成の量で使用して15℃で加圧下に均一に混合した後、5℃に冷却して炭酸飲料を調製した。これにより得られた炭酸飲料は、炭酸とレモンフレーバがマッチしていて良好な味および香りであった。
【0053】
【表6】

【0054】
《実施例11》[ドリンク剤の調製]
実施例7で調製したグレープフルーツフレーバー組成物を用いて、下記の表7に示す成分を表7に示す配合組成の量で使用して25℃で均一に混合した後、5℃に冷却してドリンク剤を調製した。これにより得られたドリンク剤では良好なグレープフルーツフレーバを有していた。
【0055】
【表7】

【0056】
《実施例12》[歯磨剤の調製]
実施例5で調製したレモンフレーバー組成物を用いて、下記の表8に示す成分を表8に示す配合組成の量で使用して25℃で均一に混合した後、室温に冷却して歯磨き剤を調製した。これにより得られた歯磨剤では、レモンフレーバーが効いていた。
【0057】
【表8】

【0058】
《実施例13》[洗口剤の調製]
実施例6で調製したオレンジフレーバー組成物を用いて、下記の表9に示す成分を表9に示す配合組成の量で使用して25℃で均一に混合した後、5℃に冷却して洗口剤を調製した。これにより得られた洗口剤では、オレンジフレーバーが効いていた。
【0059】
【表9】

【0060】
《実施例14》[キャンディの製造]
実施例7で調製したグレープフルーツフレーバー組成物を用いて、下記の表10に示す成分を表10に示す配合組成の量で使用して100℃で溶融混合した後、太さが約1.5cmの棒状に押し出して冷却固化させ、次いで所定の長さ(約2cm)に切断して、キャンディを製造した。これにより得られたキャンディは、グレープフルーツフレーバーが効いていて香りがよく、しかも美味であった。
【0061】
【表10】

【0062】
《実施例15》[乳化香料(クラウディ)の調製]
(1) 200mL容のビーカーに、ショ糖酢酸イソ酪酸エステル(イーストマンコダック社製「SAIB])5.0g、実施例6で調製したオレンジフレーバー組成物1.67g、中鎖脂肪酸トリグリセリド(MCT OIL)(扇ケミカル株式会社製「パナセート 810」)3.33gおよびエレミ樹脂0.2gを入れて加熱溶解してオレンジフレーバ組成物を含有する混合物を調製した。
(2) 1L容のビーカーに、アラビアガム250gおよび水648gを入れて、加熱溶解し殺菌してアラビアガム水溶液を調製した。
(3) 上記(2)で調製したアラビアガム水溶液に、上記(1)で調製した混合物を加えて5000〜12000rpmで30分間撹拌した後、更に高圧ホモジナイザーを用いて100〜300kg/cm2の条件で処理して乳化香料(クラウディ)を調製した。
【0063】
《実施例16》[乳化香料(クラウディ)を用いた果汁入り飲料の調製]
実施例15で調製した乳化香料(クラウディ)を用いて、下記の表11に示す成分を表11に示す配合組成になる量で使用して25℃で均一に混合した後、5℃に冷却して乳化香料(クラウディ)を用いた果汁入り飲料を調製した。これにより得られた飲料では、オレンジフレーバーが効いており、しかも嗜好性の高い外観を保っていた。
【0064】
【表11】

【0065】
《実施例17》[シトラスフレーバー組成物の調製]
下記の表12に示す成分を、表12に示す配合組成になる量で使用して、25℃で均一に混合してシトラスフレーバー組成物を調製した。
【0066】
【表12】

【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明によって、エッセンシャルオイルの香味バランスの崩れや香味強度の低下を生ずることなく、エッセンシャルオイルに含まれている農薬やその他の汚染物質を簡単に且高い除去率で除去することができるため、本発明は、安全性に優れ、しかも品質の高い精製エッセンシャルオイルの製造方法として極めて有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
汚染物質を含有するエッセンシャルオイルを活性炭で処理して汚染物質を除去することを特徴とする精製エッセンシャルオイルの製造方法。
【請求項2】
汚染物質が、残留農薬である請求項1に記載の精製エッセンシャルオイルの製造方法。
【請求項3】
農薬が、オルトフェニルフェノール、クロロネブ、シマジン、カルバリル、クロロピリフォス、イマザリル、チアベンダゾールおよびジフェニルのうちの1種または2種以上である請求項1または2に記載の精製エッセンシャルオイルの製造方法。
【請求項4】
エッセンシャルオイルが、シトラスオイル、スパイスオイルおよびハーブオイルから選ばれるいずれか1種であるかまたは2種以上の混合物である請求項1〜3のいずれか1項に記載の精製エッセンシャルオイルの製造方法。
【請求項5】
シトラスオイルが、レモンオイル、スイートオレンジオイル、ビターオレンジオイル、ライムオイル、グレープフルーツオイル、ベルガモットオイル、マンダリンオイル、ユズオイルおよびスダチオイルから選ばれるいずれか1種であるかまたは2種以上の混合物である請求項4に記載の精製エッセンシャルオイルの製造方法。
【請求項6】
スパイスオイルが、オールスパイス、アニスオイル、スターアニスオイル、ビターアーモンドオイル、ブラックカーラントオイル、シンナモンオイル、クローブオイル、ショウガオイル、カラシオイルおよびコショウオイルから選ばれるいずれか1種であるかまたは2種以上の混合物である請求項4に記載の精製エッセンシャルオイルの製造方法。
【請求項7】
ハーブオイルが、スイートバジルオイル、セロリオイル、クラリセージオイル、ユーカリオイル、ペパーミントオイル、ハッカオイルおよびスペアミントオイルから選ばれるいずれか1種であるかまたは2種以上の混合物である請求項4に記載の精製エッセンシャルオイルの製造方法。
【請求項8】
−30℃〜5℃の温度下に活性炭で処理する、請求項1〜7のいずれか1項に記載の精製エッセンシャルオイルの製造方法。
【請求項9】
活性炭が、腑活化された活性炭である請求項1〜8のいずれか1項に記載の精製エッセンシャルオイルの製造方法。
【請求項10】
活性炭が、薬品により腑活化した活性炭である請求項9に記載の精製エッセンシャルオイルの製造方法。
【請求項11】
活性炭が、塩化亜鉛で賦活化した活性炭である請求項10に記載の精製エッセンシャルオイルの製造方法。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれか1項に記載の製造方法により得られる精製エッセンシャルオイル。
【請求項13】
請求項12に記載の精製エッセンシャルオイルを含有するフレーバー組成物。
【請求項14】
請求項12に記載の精製エッセンシャルオイルおよび/または請求項13に記載のフレーバー組成物を含有する飲食品またはオーラルケア製品。

【公開番号】特開2010−116434(P2010−116434A)
【公開日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−288699(P2008−288699)
【出願日】平成20年11月11日(2008.11.11)
【出願人】(000169466)高砂香料工業株式会社 (194)
【Fターム(参考)】