説明

精製水の製造方法

【課題】微生物、エンドトキシン、さらには前記微生物由来の不純物等の生物学的汚染のない高品質な精製水を、使用量の変動があった場合でも安定して安価に供給することができる精製水の製造方法と、その実施に適した精製水の製造装置を提供する。
【解決手段】RO処理装置1とEDI装置3の組み合わせで医療分野や産業分野に使用する精製水を製造するとき、EDI装置3の運転を停止した状態(非通電状態)で、EDI装置3にRO処理水を通水して洗浄することで、EDI装置3内のイオン交換樹脂に吸着されていたエンドトキシン及び微生物を脱着させ、排水ライン16から排水する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療用や産業用等の精製水の製造方法と、前記製造方法の実施に適した医薬品の製造用水、人工透析用水等の医療用精製水、半導体の製造工程における洗浄用の精製水等を製造するための製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
人工透析液は、精製水(人工透析用水)と透析液原液を混合して製造される。前記精製水は、微生物、エンドトキシンで汚染されていないものを用いる必要があり(非特許文献1)、さらには前記微生物由来のDNAフラグメント等のサイトカイン誘導作用を有する不純物等で汚染されていないものを用いる必要があることから、製造方法が重要となる。
【0003】
人工透析は医療機関で行われるが、患者の治療スケジュールや症状により、人工透析を受ける患者数は1日の中の午前、午後、夜間の各シフト間、あるいは曜日間で増減することが多く、急患への対応が求められる場合もある。そして、どのような場合でも、常に高品質の精製水を必要量だけ速やかに供給することが求められる。また、通常、深夜には人工透析は行われないため、精製水の製造装置の運転は停止され、翌朝に運転が再開されることになるが、このような運転再開時においても高い品質のものを安定供給できることが重要となる。
【0004】
特許文献1、2には、RO処理装置とEDI装置を組み合わせて、人工透析用水を製造するための装置と製造方法が記載されている。特許文献1には、EDI処理水を逆浸透膜装置の入口に返送して循環させることが記載されているが(段落0039と図1参照)、いずれの特許文献にも、貯水タンクを用いた循環ラインについての記載はない。
非特許文献2には、貯水タンク装置以降のラインに薬剤注入器を設けて循環・洗浄させることが記載されている。この方法では従来から指摘されてきた殺菌薬剤の残留問題が解決されず、また精製水製造を停止させて行う洗浄法であるため、洗浄と同時に精製水製造を行うことができない。
【0005】
その他、半導体の製造工程のような産業用の製造ラインにおいて使用する洗浄水等に対しても、できるだけエンドトキシンや生菌等で汚染されていない清浄な精製水への需要が非常に大きい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−252396号公報
【特許文献2】特開2007−237062号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】腎と透析別冊2006,p33−36,「透析施設での微生物検査の実際」
【非特許文献2】腎と透析別冊2006,p111−116,「RO水タンクからRO水供給ラインの過酢酸系洗浄剤ヘモクリーンによる洗浄効果」
【非特許文献3】第53回(社)日本透析医学会学術集会(2008年6月22日)の予稿集(電気再生純水装置による透析用水の評価)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明者の一部は、第53回(社)日本透析医学会学術集会において、RO処理装置とEDI装置を組み合わせた精製水の製造装置と製造方法について発表している(非特許文献3)。
【0009】
本発明は、前記発表時において未発表の発明を加えると共に、更に改良を加えて、微生物、エンドトキシン、さらには前記微生物由来の不純物等の生物学的汚染のない高品質な精製水を、使用量の変動があった場合でも安定して安価に供給することができる精製水の製造方法と、その実施に適した精製水の製造装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、課題の解決手段として、
逆浸透膜処理装置(以下「RO処理装置」という)、貯水タンク、電気再生式脱イオン装置(以下「EDI装置」という)を有する精製水の製造装置を用いた精製水の製造方法であって、
前記精製水の製造方法が、精製水の製造工程と洗浄工程の組み合わせからなる方法であり、
前記製造装置が、前記RO処理装置による処理水(以下「RO処理水」という)を前記貯水タンクに溜めることができ、前記貯水タンクに溜めた処理水を前記EDI装置に供給し、処理水(以下「EDI処理水」という)を得ることができ、
RO処理装置から貯水タンクにRO処理水を送る第1ラインと、貯水タンク内の水をEDI装置に送る第2ラインと、EDI装置からRO処理水が貯水された貯水タンクにEDI処理水を返送する第3ラインを有し、さらに第3ラインに洗浄水を排水するための洗浄水の排水ラインが接続されたものであり、
前記精製水の製造工程が、
RO処理装置にて得られたRO処理水を第1ラインから貯水タンクに送って貯水する第1工程と、
貯水タンクに貯水されたRO処理水を第2ラインからEDI装置に送って処理し、EDI処理水を得る第2工程を有しており、
更にEDI処理水の一部又は全部を第3ラインから貯水タンクに返送して、RO処理水とEDI処理水の混合水を得る第3工程を有している工程であり、
前記洗浄工程が、
EDI装置の運転を停止した状態(非通電状態)で、少なくともEDI装置中のイオン交換体が充填された脱塩室内にRO処理水を通水して洗浄することで、前記イオン交換体に吸着されていたエンドトキシン及び微生物を脱着させ、前記エンドトキシン及び微生物を含む洗浄排水を洗浄水の排水ラインから排出する工程である、精製水の製造方法を提供する。
【0011】
また本発明は、課題の他の解決手段として、
逆浸透膜処理装置(以下「RO処理装置」という)、貯水タンク、電気再生式脱イオン装置(以下「EDI装置」という)を有する精製水の製造装置を用いた精製水の製造方法であって、
前記精製水の製造方法が、精製水の製造工程と洗浄工程の組み合わせからなる方法であり、
前記製造装置が、前記RO処理装置による処理水(以下「RO処理水」という)を前記貯水タンクに溜めることができ、前記貯水タンクに溜めた処理水を前記EDI装置に供給し、処理水(以下「EDI処理水」という)を得ることができ、
RO処理装置から貯水タンクにRO処理水を送る第1ラインと、貯水タンク内の水をEDI装置に送る第2ラインと、EDI装置からRO処理水が貯水された貯水タンクにEDI処理水を返送する第3ラインを有し、EDI装置から第3ラインを用いた貯水タンクへの送水と、貯水タンクから第2ラインを用いたEDI装置への送水を組み合わせた循環ラインが形成され、
さらに第3ラインに洗浄水を排水するための洗浄水の排水ラインが接続されたものであり、
前記精製水の製造工程が、
RO処理装置にて得られたRO処理水を第1ラインから貯水タンクに送って貯水する第1工程と、
貯水タンクに貯水されたRO処理水を第2ラインからEDI装置に送って処理し、EDI処理水を得る第2工程を有しており、
更にEDI処理水の一部又は全部を第3ラインから貯水タンクに返送して、RO処理水とEDI処理水の混合水を得る第3工程と、前記混合水を第2ラインから再度EDI装置に送って処理する第4工程を繰り返す循環工程を有している工程であり、
前記洗浄工程が、
EDI装置の運転を停止した状態(非通電状態)で、少なくともEDI装置中のイオン交換体が充填された脱塩室内にRO処理水を通水して洗浄することで、前記イオン交換体に吸着されていたエンドトキシン及び微生物を脱着させ、前記エンドトキシン及び微生物を含む洗浄排水を洗浄水の排水ラインから排出する工程である、精製水の製造方法と、その製造装置を提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明の製造方法を使用して医療用精製水を製造することにより、使用量の変動があった場合でも、微生物、エンドトキシン、さらには前記微生物由来の不純物等の生物学的汚染のない高品質の精製水を安価に安定供給することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の製造方法を説明するための製造フローを示す図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の製造方法は、微生物、エンドトキシン、さらには前記微生物由来の不純物等の含有量が極めて少ない精製水を製造できるものであり、前記製造方法で得られた精製水は、医療用や産業用として適用できるものである。以下においては、医療用精製水の製造方法として説明する。
【0015】
<医療用精製水の製造工程>
図1により、本発明の医療用精製水の製造方法と、前記製造方法を実施するために適した医療用精製水の製造装置を説明する。図1は、製造フローを示す図である。なお、図示していないが、必要に応じて、各ライン間には送水を停止及び開始するための開閉バルブ(電磁弁等)を設けることができる。
【0016】
<第1工程>
ROポンプ4を作動させ、原水供給ライン11から水道水をRO処理装置1に送って処理して、RO処理水を得る。その後、得られたRO処理水を第1ライン12から貯水タンク2に送って貯水する。なお、原水となる水道水は、必要に応じて、軟水装置、活性炭、ミクロフィルター等で前処理することもできる。
【0017】
RO処理装置1は、公知のものを用いることができ、例えば、ダイセン・メンブレン・システムズ株式会社より販売されている、装置型式VCR40シリーズ、VCR80シリーズ、NER40シリーズ、NER80シリーズ、SHRシリーズのほか、実施例で使用したもの等を用いることができる。
【0018】
RO処理装置1は、処理能力(処理水の製造能力)が30〜5000L/hrのものを用いることができるが、前記範囲に限定されるものではなく、精製水の供給量に応じて、適宜選択することができる。
【0019】
貯水タンク2の貯水容量は100〜2000Lが好ましい。貯水タンク2は、ステンレス等の金属製、ポリエチレン、ポリプロピレン等の樹脂製等にすることができる。
【0020】
貯水タンク2の形状は特に制限されるものではないが、タンク内部への液の残留を防止して液の流れを円滑にする観点から、図示するように底部が円錐あるいは四角錐の錐状構造ものが好ましく、前記錐状の頂点部分にライン13が接続されているものが特に好ましい。
【0021】
貯水タンク2は、外部雰囲気からの雑菌等の混入を防ぐためのエアフィルター付きの通気孔を有しており、必要に応じて、内部には、殺菌を目的として紫外線ランプを取り付けることもできる。
【0022】
貯水タンク2内部には水位計を取り付けておき、水位に応じてRO処理装置1の運転を開始又は停止できるようにすることが好ましい。例えば、予め貯水タンク2内の水位の上限値と下限値を決めておき、上限値に達したときにRO処理装置1の運転を停止させ、逆に下限値に達したときにRO処理装置1の運転を開始させるようにする。
【0023】
貯水タンクの容量(V3)は、後述するEDI装置による1時間当たりのEDI処理水の量(V1)(L)と、貯水タンクの平均水量の関係を満たすように、V1/V3が1.5〜10の比率関係にするのが好ましい。
【0024】
<第2工程>
次に、EDI供給ポンプ5を作動させて、貯水タンク2に貯水されたRO処理水を第2ライン13からEDI装置3に送って処理し、EDI処理水を得る。
【0025】
EDI装置3は、イオン交換室(脱塩室)、濃縮室、電極室(正及び負の電極室)を有する公知の装置であり、イオン交換室で脱イオン処理して脱塩水(EDI処理水)を取り出すことができるものである。EDI装置としては、例えば、特許文献1、2に記載のもの、特開平11−244853号公報、特開2001−239270号公報、特開2001−353498号公報、特開2004−74109号公報に記載のもののほか、市販のEDI装置である、EDIシステムシリーズ,商品名MOLSEP(登録商標)(ダイセン・メンブレン・システムズ(株)販売)、実施例で使用したもの等を用いることができる。
【0026】
EDI装置3の運転条件は、
供給液量が、好ましくは50〜4500L/hrであり、
EDI水量(脱塩水量)が、好ましくは30〜4000L/hrであり、
濃縮水流量が、好ましくは供給液量の5%〜20%の流量であり、
印加電圧は30〜1000Vが好ましく、印加電流密度は0.1〜1.5A・dm2が好ましい。
【0027】
以上の第1工程と第2工程により、RO処理水をEDI処理したEDI処理水を得ることができるが、本発明の製造方法では、以下において説明するとおり、更に第3工程と第4工程を組み合わせた循環ラインを有していることが特徴であるが、前記循環工程がない製造方法を実施することもできる。
【0028】
<第3工程(循環工程)>
次に、EDI処理水を第3ライン14から貯水タンク2に返送して、RO処理水とEDI処理水の混合水を得る。バルブ21は開け、バルブ22は閉じておく(以下、循環工程では同様である)。このとき、EDI処理水は、全量を貯水タンク2に返送してもよいし(全量循環)、一部量を返送してもよい(一部量循環)。一部量を返送するときは、全量中の10%以上、好ましくは10〜80%量、更に好ましくは15〜60%量を返送することが望ましい。返送量が10%量未満では、循環による洗浄効果が小さすぎ、80%量を超えると、循環流量が過大になり精製水の製造に供する量が少なくなって精製水製造のコストアップを招く。
【0029】
第3工程の処理の開始は、第3ライン14の洗浄のため第2工程の処理の開始と同時に行うのが好ましい。精製水製造・取水を始める前に精製水の取水ポイントまでの設備、配管を洗浄する場合は、一時的に第3工程を省略してEDI処理水の全量を取水ポイントまでの設備、配管に送水してもよい。
【0030】
<第3工程(全量循環工程と一部量循環工程)>
第3工程は、運転開始後、最初にEDI処理水を貯水タンク2に返送したときから、返送した合計量が少なくとも貯水タンク2の平均水量(V2)と同量になるまではEDI処理水の全量を返送する全量循環工程と、その後は、EDI処理水の10〜80%量を返送して循環させる一部量循環工程の組み合わせにすることができる。
【0031】
貯水タンク2の水量は、循環運転中に変化するものであり、前記平均水量(V2)は、循環運転の開始から全量循環運転および/または一部量循環運転による所定時間経過時までの間の平均値とする。具体的には、5分ごとに貯水タンク2の水量を計測し、その平均値から求める。
【0032】
全量循環工程は、運転開始後、最初にEDI処理水を貯水タンク2に返送したときから、返送した合計量が貯水タンク2の平均水量と同量〜5倍量になるまでEDI処理水の全量を返送することが好ましく、より好ましくは同量〜3倍量である。返送した合計量が貯水タンク2の平均水量と同量未満では、循環によるラインや貯水タンク以降の設備の洗浄効果が小さく、5倍量を超えると洗浄に要する時間が長時間となり不経済となる。
【0033】
全量循環工程において前記の返送した合計量と貯水タンク2の平均水量との関係を満たすように循環運転することにより、人体に対して安全な高品質の精製水を必要時に速やかにかつ安価に供給することができる。
【0034】
一部量循環工程は、好ましくはEDI処理水の10〜60%量を返送して循環させ、より好ましくは15〜40%量を循環させる。
【0035】
<第4工程(循環工程)>
次に、貯水タンク2内の混合水を第2ライン13から再度EDI装置3に送って処理する。このときのEDI装置3における処理条件は、第2工程と同じである。
【0036】
本発明では、循環工程において、EDI装置による1時間当たりのEDI処理水の量(V1)(L)と、貯水タンクの平均水量(V2)(L)の比率(V1/V2)が2〜12の関係を満たすように循環運転することが好ましく、より好ましくはV1/V2が3〜10の関係を満たすように循環運転する。V1/V2が2未満では洗浄に要する時間が長時間となり必要時に速やかな精製水製造が行えないことに加えて、貯水タンク容量が大きくなり装置の小型化ができないデメリットが生じる。V1/V2が12を超えると、EDI処理量に対して貯水タンクが小さすぎて装置の安定運転に支障が生じる。
【0037】
前記V1/V2の関係を満たすように循環運転することにより、患者数の増減等により使用量の変動があった場合でも、人体に対して安全な高品質の精製水を安定供給する観点から好ましく、特に第3工程において、全量循環工程と一部量循環工程を組み合わせた製造方法を適用したときに好ましい。
【0038】
本発明の製造方法では、第3工程と第4工程の間で処理水が循環されるが、例えば、人工透析用水として取水するときは、一部量循環によって貯水タンク2に返送される処理水を除く処理水をEDI装置3に接続したライン15から取水することができる。
【0039】
<洗浄工程>
上記した医療用精製水の製造工程を継続して行くと、EDI装置3のイオン交換室(脱塩室)において、充填されたイオン交換体及び/又はイオン交換膜にエンドトキシン(ET)、微生物、前記微生物由来のDNAフラグメントが吸着保持された状態になっていると考えられる。
【0040】
そこで、脱塩室内のイオン交換体あるいはイオン交換膜に吸着保持されたET、微生物、前記微生物由来の不純物等が脱着され、EDI処理水中に放出される可能性について検討した結果、前記脱着は、EDIが通電状態であるか、非通電状態であるかどうかが重要になること、具体的には、EDIの通電時においては吸着力>脱着力の関係となり、EDIの非通電時においては吸着力<脱着力の関係となることを見出した。
【0041】
製造運転を停止した後に再開するような場合(EDI装置が通電状態から非通電状態になる場合)には、吸着力>脱着力の関係から、吸着力<脱着力の関係に変化するため、脱塩室内に吸着保持されたET、微生物、前記微生物由来の不純物が脱着され、EDI処理水中に放出され易くなると考えられる。
【0042】
また、長期間、製造運転を継続して行くと、ETや微生物がイオン交換体の吸着限界(破過点)まで吸着された状態になってしまい、破過点を超えると、EDIが通電状態であっても、吸着しきれなくなったET、微生物、前記微生物由来の不純物等が流出あるいは脱離し、EDI処理水中に放出されることが考えられる。
【0043】
よって、本願発明では、上記した製造工程に加えて洗浄工程を付加して、強制的に上記の脱着処理をすることで、脱塩室内に吸着保持されたET、微生物を洗浄処理し、生物学的汚染がなく人体に対して安全で高品質な精製水を安価に安定供給できるようにしたものである。
【0044】
洗浄工程は、EDI装置3の運転を停止し(非通電状態)、第3ライン14のバルブ21を閉じ、排水ライン16のバルブ22を開けた状態で、EDI供給ポンプ5を作動させて、貯水タンク2内のRO処理水をEDI装置3内に供給する。
【0045】
洗浄工程では、脱塩室のみに供給して洗浄し、排水するようにしてもよいが、エンドトキシンや微生物の除去率を高める観点から、EDI装置3内のイオン交換室(脱塩室)、濃縮室、電極室(正及び負の電極室)の全室に供給することが望ましい。このような全室の洗浄工程の例を、特開2007−237062号公報の図3に示されているEDI装置を洗浄する場合により説明する。
【0046】
前記図3に示すEDI装置は、中央部に濃縮室があり、その両側に1つずつのイオン交換樹脂が充填された脱塩室、さらに1つずつの濃縮室があり、さらにその両側には負の電極室と正の電極室がある構造になっている。
【0047】
RO処理水は、2つの脱塩室に供給されるとともに、濃縮室、電極室にも供給されてそれぞれに流入した後、脱塩室、濃縮室、電極室を洗浄し、各室から排出される。
【0048】
EDI装置3内を洗浄した洗浄排水は、洗浄排水の排水ライン16から排水する。前記洗浄排水には、イオン交換樹脂から脱着されたET及び微生物が含まれている。
【0049】
洗浄工程におけるRO処理水の通水は、イオン交換体が充填された脱塩室の容量1L当たりに対してRO処理水を3〜15L/分、好ましくは4〜12L/分の流量で、5分以上、好ましくは10分以上、より好ましくは20分以上通水する。
【0050】
洗浄工程は、
(a)医療用精製水の製造途中の所望の時点、
(b)医療用精製水の製造終了後、
(c)医療用精製水の製造開始前、
から選ばれる少なくとも1回行うが、(a)と(b)、(a)と(c)、(b)と(c)、(a)〜(c)の全てにおいて洗浄することができるが、イオン交換体に吸着されたET、微生物は非通電時に脱着されるため、少なくとも(c)において洗浄することが好ましく、(b)と(c)に洗浄することがより好ましい。
【0051】
本発明の製造方法によって、人体に対して安全で高品質の精製水を得ることができるが、更に安全性を高めるために、ライン15の途中にイオン交換樹脂片の捕集、ET、微生物の除去の役目をするUF装置を設置することもできる。
【0052】
本発明の製造方法は、下記の各方法を実施できるが、これらの実施方法に限定されるものではない。
【0053】
(実施方法1)
<医療用精製水の製造工程>
(1)EDI装置3と貯水タンク2間の循環工程(一部量循環工程)の開始/RO処理水の貯水タンク2への送水停止(RO処理装置1の運転停止)。
(2)医療用精製水の取水・使用開始/一部量循環工程の継続。
(3)貯水タンク2の水量低下に伴い、RO処理水の貯水タンク2への送水開始(RO処理装置1の運転開始)/EDI装置3と貯水タンク2間の循環工程の停止。
(4)上記(1)〜(3)の繰り返し。
<洗浄工程>
(a)〜(c)のいずれか1以上の洗浄工程の実施。
【0054】
(実施方法2)
<医療用精製水の製造工程>
(1)EDI装置3と貯水タンク2間の循環工程(一部量循環工程)の開始。
(2)循環工程と並行して、RO処理水の貯水タンク2への送水量の調整(貯水タンク2の水量に応じて、RO処理装置1の運転を適宜停止乃至開始)。
(3)医療用精製水の取水・使用開始/一部量循環工程の継続。
(4)RO処理水の貯水タンク2への送水量の調整(貯水タンク2の水量に応じて、RO処理装置1の運転を適宜停止乃至開始)/一部量循環工程の継続。
<洗浄工程>
(a)〜(c)のいずれか1以上の洗浄工程の実施。
【0055】
(実施方法3)
<医療用精製水の製造工程>
(1)EDI装置3と貯水タンク2間の循環工程(全量循環工程)の開始/RO処理水の貯水タンク2への送水停止(RO処理装置1の運転停止)
(2)EDI装置3と貯水タンク2間の循環工程を、全量循環工程から一部量循環工程に移行/RO処理水の貯水タンク2への送水停止(RO処理装置1の運転停止)の継続。
(3)医療用精製水の取水・使用開始/一部量循環工程の継続。
(4)貯水タンク2の水量低下に伴い、RO処理水の貯水タンク2への送水開始(RO処理装置1の運転開始)/EDI装置3と貯水タンク2間の一部量循環工程の停止。
(5)上記(1)〜(4)の繰り返し。
<洗浄工程>
(a)〜(c)のいずれか1以上の洗浄工程の実施。
【0056】
(実施方法4)
<医療用精製水の製造工程>
(1)EDI装置3と貯水タンク2間の循環工程(全量循環工程)の開始/RO処理水の貯水タンク2への送水停止(RO処理装置1の運転停止)
(2)EDI装置3と貯水タンク2間の循環工程を、全量循環工程から一部量循環工程に移行。
(3)循環工程と並行して、RO処理水の貯水タンク2への送水量の調整(貯水タンク2の水量に応じて、RO処理装置1の運転を適宜停止乃至開始)。
(4)医療用精製水の取水・使用開始/一部量循環工程の継続。
(5)RO処理水の貯水タンク2への送水量の調整(貯水タンク2の水量に応じて、RO処理装置1の運転を適宜停止乃至開始)/一部量循環工程の継続。
<洗浄工程>
(a)〜(c)のいずれか1以上の洗浄工程の実施。
【0057】
本発明の製造方法によれば、第3工程と第4工程を組み合わせた循環工程を有していることから、貯水タンク2内部やEDI装置3内部を繰り返し清浄化することができ、前記循環水も複数回に亘って循環し清浄化されるため、装置内における精製水は高い品質を維持できる。
【0058】
また、本発明の製造方法においては、第3工程にて全量循環工程を設けることにより、短い時間で、貯水タンク2内をより清浄な状態(エンドトキシン、微生物、微生物由来の不純物の汚染が極めて少ない状態)に維持できるようになり、更に全量循環工程と組み合わせて一部量循環工程を設けることにより、前記清浄な状態を維持したまま、高品質の精製水を安定して供給することができる。
【0059】
さらに、本発明の製造方法は、EDI装置の非通電運転による脱塩室内の洗浄工程を有していることから、高品質の精製水の安定供給能力がより高められる。
【0060】
また、本発明の製造方法を適用することにより、貯水タンク2には、常時、人体に安全な高品質の精製水を貯水できるため、使用量の変動への対応も容易にできる。
【0061】
本発明の製造方法を適用して得られた精製水は、医療用(人工透析用や注射薬用等の精製水)、産業用(半導体製造ライン等における洗浄水)として使用することができる。
【実施例】
【0062】
(医療用精製水の製造装置)
RO処理装置1:VCR−20P(ダイセン・メンブレン・システムズ(株)製)
RO膜:SV022GV−DRA98
RO処理水量(透過水量):60L/hr
運転圧力:0.56MPa
貯水タンク2:容量200L、材質:ポリエチレン
EDI装置3:装置型番OS−100,(株)オスモ製
EDI電極面積:4.2dm2
(測定装置/測定方法)
・エンドトキシン測定装置
トキシノメータミニ(和光純薬(株)製)
・生菌数
Panasonic バイオプローラ BP-2(パナソニック(株)製)を使用し、蛍光染色法により測定した。
【0063】
実施例1
図1に示すフローにて、医療用精製水の製造を行った。EDI運転条件を表1に示す。
<医療用精製水の製造工程>
(第1工程)
予め水道水を活性炭・プレフィルタで前処理したものをRO処理装置1に供給して、RO処理水を得た。RO処理水は第1ライン12から貯水タンク2に送って貯水した。
【0064】
(第2工程)
貯水タンク2に貯水されたRO処理水を第2ライン13からEDI装置3に送って処理し、EDI処理水を得た。このとき、RO処理水が流入することによる水質変化の影響をなくすため、RO処理装置1は停止させた。
【0065】
(第3工程)
貯水タンク2内の水量が41Lになった時点で、EDI処理水の全量を第3ライン14から貯水タンク2に送って、RO処理水とEDI処理水の混合水を得た。バルブ21は開け、バルブ22は閉じた。
【0066】
(第4工程)
貯水タンク2内の混合水を第2ライン13から再度EDI装置3に送って、EDI処理した。第3工程と第4工程の間は全量循環工程の処理のみを行い、66分間の継続運転をした。66分経過時の貯水タンク2の水量は31Lであり貯水タンクの平均水量は36Lであった。運転開始時、運転開始から66分経過後の各測定結果を表1に示す。
【表1】

表1から明らかなとおり、全量循環処理により、貯水タンク2中のエンドトキシン濃度は急減し、水質は大きく向上した。EDI処理水中のエンドトキシン濃度も、透析用水基準の0.05EU/mlを大きく下回り十分満足できる水準であった。
【0067】
<洗浄工程>
第4工程の後、製造運転を停止した。EDI装置3は電源をOFF(非通電状態)にした。
その後、バルブ21を閉じ、バルブ22を開け、非通電状態のEDI装置3内の脱塩室、濃縮室、電極室に貯水タンク2内のRO処理水を供給して洗浄した。非通電運転直後のEDI処理水、3分後、10分後のEDI処理水を滅菌瓶に採取して、各瓶(サンプルNo.1〜3)におけるET濃度、生菌数を測定した。結果を表2に示す。洗浄排水は、排水ライン16から排水した。
洗浄は、イオン交換樹脂が充填された脱塩室容量(300ml)に対して、RO水を1.7L/分で20分間通水して行った。
【表2】

【0068】
洗浄終了後、再度、EDI装置3の通電を開始し、上記第1工程と第2工程を10分間行って得られたEDIの被処理水とEDI処理水を採取して、ET濃度を測定した。EDI装置の運転条件(EDI処理水量等、電圧、電流)は、表1と同じであり、EDI処理における貯水タンク2中のETとEDI処理水中のET濃度を以下に示す。
EDI通電再開10分後の貯水タンク2中のET濃度:145EU/L
EDI処理水中のET濃度:3EU/L
【0069】
参考例1
上記第1工程から第4工程の工程を行って精製水の製造を行った後に、実施例の同様に非通電運転を行う際に、バルブ21は開け、バルブ22は閉じたままでEDI処理水を排水せず、貯水タンクに全量返送して循環運転した。EDI装置の運転条件(EDI処理水量等、電圧、電流)は、表1と同じにした。第4工程を実施中の貯水タンク水とEDI処理水、及び、非通電運転によりEDI処理水の全量循環を5分間行った後の貯水タンク水とEDI処理水のET濃度を測定した。その結果、非通電運転時の貯水タンク水、及びEDI処理水のET濃度は、精製水製造時に比べて大きく増大して水質が悪化した。
EDI通電時の処理水水質:
貯水タンク2中のET濃度:140EU/L
EDI処理水中のET濃度:4EU/L
非通電運転5分後(EDI処理水の排水なし)の水質:
貯水タンク2中のET濃度:590EU/L
EDI処理水中のET濃度:539EU/L
【符号の説明】
【0070】
1 RO処理装置
2 貯水タンク
3 EDI装置
4 ROポンプ
5 EDI供給ポンプ
11 原水(水道水)供給ライン
12 第1ライン
13 第2ライン
14 第3ライン
15 精製水の取水ライン
16 洗浄水の排水ライン
21、22 開閉バルブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
逆浸透膜処理装置(以下「RO処理装置」という)、貯水タンク、電気再生式脱イオン装置(以下「EDI装置」という)を有する精製水の製造装置を用いた精製水の製造方法であって、
前記精製水の製造方法が、精製水の製造工程と洗浄工程の組み合わせからなる方法であり、
前記製造装置が、前記RO処理装置による処理水(以下「RO処理水」という)を前記貯水タンクに溜めることができ、前記貯水タンクに溜めた処理水を前記EDI装置に供給し、処理水(以下「EDI処理水」という)を得ることができ、
RO処理装置から貯水タンクにRO処理水を送る第1ラインと、貯水タンク内の水をEDI装置に送る第2ラインと、EDI装置からRO処理水が貯水された貯水タンクにEDI処理水を返送する第3ラインを有し、さらに第3ラインに洗浄水を排水するための洗浄水の排水ラインが接続されたものであり、
前記精製水の製造工程が、
RO処理装置にて得られたRO処理水を第1ラインから貯水タンクに送って貯水する第1工程と、
貯水タンクに貯水されたRO処理水を第2ラインからEDI装置に送って処理し、EDI処理水を得る第2工程を有しており、
更にEDI処理水の一部又は全部を第3ラインから貯水タンクに返送して、RO処理水とEDI処理水の混合水を得る第3工程を有している工程であり、
前記洗浄工程が、
EDI装置の運転を停止した状態(非通電状態)で、少なくともEDI装置中のイオン交換体が充填された脱塩室内にRO処理水を通水して洗浄することで、前記イオン交換体に吸着されていたエンドトキシン及び微生物を脱着させ、前記エンドトキシン及び微生物を含む洗浄排水を洗浄水の排水ラインから排出する工程である、精製水の製造方法。
【請求項2】
逆浸透膜処理装置(以下「RO処理装置」という)、貯水タンク、電気再生式脱イオン装置(以下「EDI装置」という)を有する精製水の製造装置を用いた精製水の製造方法であって、
前記精製水の製造方法が、精製水の製造工程と洗浄工程の組み合わせからなる方法であり、
前記製造装置が、前記RO処理装置による処理水(以下「RO処理水」という)を前記貯水タンクに溜めることができ、前記貯水タンクに溜めた処理水を前記EDI装置に供給し、処理水(以下「EDI処理水」という)を得ることができ、
RO処理装置から貯水タンクにRO処理水を送る第1ラインと、貯水タンク内の水をEDI装置に送る第2ラインと、EDI装置からRO処理水が貯水された貯水タンクにEDI処理水を返送する第3ラインを有し、EDI装置から第3ラインを用いた貯水タンクへの送水と、貯水タンクから第2ラインを用いたEDI装置への送水を組み合わせた循環ラインが形成され、
さらに第3ラインに洗浄水を排水するための洗浄水の排水ラインが接続されたものであり、
前記精製水の製造工程が、
RO処理装置にて得られたRO処理水を第1ラインから貯水タンクに送って貯水する第1工程と、
貯水タンクに貯水されたRO処理水を第2ラインからEDI装置に送って処理し、EDI処理水を得る第2工程を有しており、
更にEDI処理水の一部又は全部を第3ラインから貯水タンクに返送して、RO処理水とEDI処理水の混合水を得る第3工程と、前記混合水を第2ラインから再度EDI装置に送って処理する第4工程を繰り返す循環工程を有している工程であり、
前記洗浄工程が、
EDI装置の運転を停止した状態(非通電状態)で、少なくともEDI装置中のイオン交換体が充填された脱塩室内にRO処理水を通水して洗浄することで、前記イオン交換体に吸着されていたエンドトキシン及び微生物を脱着させ、前記エンドトキシン及び微生物を含む洗浄排水を洗浄水の排水ラインから排出する工程である、精製水の製造方法。
【請求項3】
前記洗浄工程において、イオン交換体が充填された脱塩室の容量1L当たりに対してRO処理水を3〜15L/分の流量で5分以上通水する、請求項1又は2記載の精製水の製造方法。
【請求項4】
前記洗浄工程が、精製水の製造途中の所望の時点、精製水の製造終了後及び精製水の製造開始前から選ばれる少なくとも1回行われる、請求項1〜3のいずれか1項記載の精製水の製造方法。
【請求項5】
循環工程中、EDI処理水を貯水タンクに返送する第3工程が、
運転開始後、最初にEDI処理水を貯水タンクに返送したときから、返送した合計量が少なくとも貯水タンクの平均水量と同量になるまではEDI処理水の全量を返送する全量循環工程と、
その後は、EDI処理水の10〜80%量を返送して循環させる一部量循環工程を有している、請求項2〜4のいずれか1項記載の精製水の製造方法。
【請求項6】
EDI装置による1時間当たりのEDI処理水の量(V1)(L)と、貯水タンクの平均水量(V2)(L)の比率(V1/V2)が2〜12になるように運転する、請求項2〜5のいずれか1項記載の精製水の製造方法。
【請求項7】
全量循環工程が、運転開始後、最初にEDI処理水を貯水タンクに返送したときから、返送した合計量が貯水タンクの平均水量と同量〜4倍量になるまでEDI処理水の全量を返還する工程である、請求項2〜6のいずれか1項記載の精製水の製造方法。
【請求項8】
一部量循環工程が、EDI処理水の10〜60%量を返送して循環させる工程である、請求項2〜7のいずれか1項記載の精製水の製造方法。
【請求項9】
精製水として供給しながら、精製水の製造を連続的に行う、請求項1〜8のいずれか1項記載の精製水の製造方法。
【請求項10】
逆浸透膜処理装置(以下「RO処理装置」という)、貯水タンク、電気再生式脱イオン装置(以下「EDI装置」という)を有しており、
前記RO処理装置による処理水(以下「RO処理水」という)を前記貯水タンクに溜めることができ、前記貯水タンクに溜めた処理水を前記EDI装置に供給し、処理水(以下「EDI処理水」という)を得ることができる精製水の製造装置であって、
RO処理装置から貯水タンクにRO処理水を送る第1ラインと、貯水タンク内の水をEDI装置に送る第2ラインと、EDI装置からRO処理水が貯水された貯水タンクにEDI処理水を返送する第3ラインを有し、EDI装置から第3ラインを用いた貯水タンクへの送水と、貯水タンクから第2ラインを用いたEDI装置への送水を組み合わせた循環ラインが形成され、
さらに第3ラインに洗浄水を排出するための洗浄水の排水ラインが接続されたものであり、
EDI装置による1時間当たりのEDI処理水の量(V1)(L)と、貯水タンクの容量(V3)(L)の比率(V1/V3)が1.5〜10である、精製水の製造装置。

【図1】
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【公開番号】特開2010−279870(P2010−279870A)
【公開日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−133680(P2009−133680)
【出願日】平成21年6月3日(2009.6.3)
【特許番号】特許第4440989号(P4440989)
【特許公報発行日】平成22年3月24日(2010.3.24)
【出願人】(594152620)ダイセン・メンブレン・システムズ株式会社 (104)
【出願人】(594199407)株式会社オスモ (10)
【出願人】(508365768)株式会社ウオーターテクノカサイ (7)
【Fターム(参考)】