説明

糖アミドおよびその製造方法

【課題】糖脂肪酸エステルよりも加水分解を受けにくく安定な糖アミド化合物及びその製造方法の提供。
【解決手段】下記の一般式(1)で表される糖アミド


(式中、Tは分子内に1個または複数個のカルボキシル基を有するウロン酸の糖部分であり、AはCOOH等であり、Rはアルキル基等である。)及びウロン酸類とアルキルアミン類とを脱水縮合させて得られる式(1)で表される糖アミドの製造方法。上記糖アミドとしては、例えば式(2)である。


【効果】保湿性、保水性が優れ、皮膚刺激性が低い界面活性剤として香粧品への添加が有効。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、糖アミドおよびその製造方法に関する。
本発明に係る糖アミドは、界面活性能力と皮膚低刺激性に優れた界面活性剤、保湿性と皮膚低刺激性に優れた皮膚保護保湿剤などとしての利用が期待される。
【0002】
【従来の技術】
糖の持つ高い親水性とアルキル基や芳香環の持つ疎水性を併せ持ち、界面活性剤等に利用可能な化合物としては、糖と脂肪酸とからなる糖エステル、糖と高級アルコールからなるアルキルグリコシドが知られている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
従来の糖脂肪酸エステルは、すべて糖をアルコールと見なし、その構造中の水酸基に対して脂肪酸を作用させて得られている。従って、最も汎用的に用いられている糖エステルの合成法(脂肪酸の低級アルコールエステルと糖間での高温下におけるエステル交換反応:シュネル法、ネブラスカシュネル法、USDA法など)によれば、糖内に多数存在するどの水酸基とも縮合が可能で、多種類の異性体を生じることが免れず、また高温での反応中に糖の分子内での脱水や分解などの構造変化を起こしたり、多量の熱エネルギーを必要とするなど、問題点が多い。
【0004】
これらの問題点を解決すべく、リパーゼ、エステラーゼ等を用いた酵素合成法が開発されているが、この場合、酵素の基質特異性を利用して、特定の基質の特定の水酸基およびカルボキシル基とのみエステル結合を生成し、かつその反応条件も穏和であるという利点を有する。しかし、逆に酵素の基質特異性に縛られ、特定の構造を有する物質の生産にしか用いられないという欠点があった。
また、これらの糖エステルは、いずれも糖とアルキル基との結合がエステル結合であるため、高pH条件下で加水分解を受けやすいなどの問題点があった。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、これらの問題点を解決するには、糖とアルキル基間をエステル結合よりも安定なアミド結合で接続することが有効であると考えた。すなわち、糖の構造内に水酸基よりも反応性の高いカルボキシル基を有するウロン酸を原料に用い、ここに一方の反応物内のアミノ基を作用させ、脱水縮合が起こりうる条件を整えてやれば、それら反応基の間で優先的に反応が進行すると想定した。つまり、従来の糖エステルとは逆に、酸である糖に対して、アミンを作用させることによって糖のアミドが生成すると考えた。
しかも、カルボキシル基の導入には、従来知られている化学的な酸化法および微生物や酵素(酸化酵素、脱水素酵素)を用いる様々な方法、あるいはこれらを組み合わせて用いることが可能である。
さらに、糖カルボン酸と種々のアミンの間の脱水縮合およびアミノリシス反応に関しても、従来から知られている様々な化学的、酵素的方法の適用が可能である。また、この方法によれば、糖はアミノ基を持つ他の様々な化合物と複合体を形成することが可能になる。具体的には、糖とアミノ酸、脂肪族アミン、芳香族アミン等と反応せしめることが考えられる。
【0006】
このような化合物およびその製法としては、特開昭50-13321号公報(新規なアルドン酸アミドの製法)、特開平8-208683号公報(アルドビオン酸アミドの製法)があるが、これらはいずれも糖側の構造がアルドン酸あるいはアルドン酸オリゴ糖に限定されている。前者の場合、アルドン酸とはペントン酸、ヘキソン酸、ヘプトン酸のような単糖アルドン酸を指し、後者の場合は、ラクトビオン酸、マルトビオン酸、セロビオン酸のような二糖類アルドン酸を指している。
アルドン酸では環状のヘキソースあるいはピラノース構造は含有せず、またアルドビオン酸においても糖由来構造の半分は鎖状構造をとることとなる。したがって、親水基部分に糖を配する利点は、原料が天然素材であり、荷電を持たない多価アルコールであること以外は、糖本来の生理的役割や物性上の特徴を生かすことは難しかった。
【0007】
これに対し、本発明の提供する、ウロン酸を親水基部分に用いた糖アミドの場合は、糖の環状骨格を壊すことなく疎水性基と結合が可能なため、糖残基の有する物理的、化学的、生理化学的性質を温存したままで、疎水性残基由来の性質を付加することが可能になった。
さらに、糖とアシル基部分の結合様式の異なる類似化合物としては、特開平5-168893号公報のトレハロース-6- 脂肪酸エステル、特開昭60-258195 号公報のα,α- トレハロース脂肪酸ジエステル誘導体およびその製造法、特開昭62-91236号公報のサクシニルトレハロース脂質に見られる、中性糖とカルボン酸のエステル型化合物や、特開平9-3087号公報の4,6-O-アルキルトレハロースのようなエーテル型化合物があげられる。
しかし、これらのいずれの化合物の場合も、糖側の反応に関与する残基は水酸基であり、合成時に反応の選択性に欠ける点では前記と同様であった。
【0008】
そこで、本発明では、糖とアルキル基の間をエステル結合よりも安定なアミド結合で接続するため、前記したように、糖の構造内に水酸基よりも反応性の高いカルボキシル基を有するウロン酸を原料に用い、ここに一方の反応物内のアミノ基を作用させて脱水縮合またはアミノリシス反応を行い、糖アミドを製造する方法を確立した。
【0009】
請求項1記載の本発明は、下記の一般式(1)で表される糖アミドである。
【0010】
【化6】

【0011】
(式中、Tは分子内に二残基のカルボキシル基を有するウロン酸化合物 HOOC−T−COOHの中心骨格部分のTを示し、RはR1 −(OR2)n −基を示し、R1 は炭素数4〜28の直鎖あるいは分岐鎖構造を有するアルキル基で、分子構造内に不飽和基や芳香族基を有してもよいアルキル基を示す。R2 は炭素数2〜4のアルキレン基を示す。また、nは0〜14の整数を示す。AはCOOX、CO−NH−R3 またはCH2 OHを示し、Xは水素原子、アルカリ金属、アンモニウム基あるいは炭素数1〜12のアルキルアンモニウム基もしくはアルキロールアンモニウム基を示す。R3 はR4 (OR5)n −基を示し、R4 は炭素数4〜28の直鎖あるいは分岐鎖構造を有するアルキル基で、分子構造内に不飽和基や芳香族基を有してもよいアルキル基を示す。また、R5 は炭素数2〜4のアルキレン基を示し、nは0〜14の整数を示す。ここで、ウロン酸とは、糖類に存在するヒドロキシメチル基をカルボキシル基に修飾する、あるいはカルボキシル基を有する構造を母体である糖に付加、転移、縮合等させることによって得られる化合物を言う。)
【0012】
請求項2記載の本発明は、一般式(1)において、アルキルアミン残基が二級アミンであり、それぞれのアルキル基は同一であってもよく、異なるものであってもよいアルキル基である請求項1記載の糖アミドである。
請求項3記載の本発明は、一般式(1)においてTがトレハロースまたはショ糖の中心骨格部分である請求項1または2記載の糖アミドである。
【0013】
請求項4記載の本発明は、一般式(2)
【0014】
【化7】

【0015】
(式中、RはR1 −(OR2)n −基を示し、R1 は炭素数4〜28の直鎖あるいは分岐鎖構造を有するアルキル基で、分子構造内に不飽和基や芳香族基を有してもよいアルキル基を示す。R2 は炭素数2〜4のアルキレン基を示す。また、nは0〜14の整数を示す。)で表されるアルキルアミンと一般式(3)
【0016】
【化8】

【0017】
(式中、Tは分子内に一個または複数個のカルボキシル基を有するウロン酸化合物(HOOC)x−T−(COOH)y(xは1以上の整数、yは0もしくは1以上の整数を示す。)の中心骨格部分のTを示し、AはCOOX、CO−R6 またはCH2 OHを示し、Xは水素原子、アルカリ金属、アンモニウム基あるいは炭素数1〜12のモノ−、ジ−、トリ−またはテトラ−アルキルアンモニウム基もしくは炭素数1〜12のモノ−、ジ−、トリ−またはテトラ−アルキロールアンモニウム基を示す。ここで、R6 は水酸基、ハロゲン原子、C1 〜C6 の低級アルキロール基を示す。また、Bは水酸基、ハロゲン原子、C1 〜C6 の低級アルキロール基を示す。)で表されるウロン酸誘導体とを脱水縮合あるいはアミノリシス(Aminolysis) 反応させることを特徴とする請求項1または3記載の糖アミドの製造方法である。
本発明において、ウロン酸とは、糖類に存在するヒドロキシメチル基をカルボキシル基に修飾する、あるいはカルボキシル基を有する構造を母体である糖に付加、転移、縮合等させることによって得られる化合物を言う。具体的には、ウロン酸およびそれらの修飾物、縮合物のすべてが含まれ、糖の重合度(単糖、オリゴ糖、多糖)の区別をしない。
【0018】
請求項5記載の本発明は、一般式(4)
【0019】
【化9】

【0020】
(式中、R1 はR3 −(OR4)n を示し、R3 は炭素数4〜28の直鎖あるいは分岐鎖構造を有するアルキル基で、分子構造内に不飽和基や芳香族基を有してもよいアルキル基を示す。R4 は炭素数2〜4のアルキレン基を示し、nは0〜14の整数を示す。また、R2 はR5 −(OR6)n を示し、R5 は炭素数4〜28の直鎖あるいは分岐鎖構造を有するアルキル基で、分子構造内に不飽和基や芳香族基を有してもよいアルキル基を示す。R6 は炭素数2〜4のアルキレン基を示し、nは0〜14の整数を示す。なお、二級アミンのアルキル基R1 とR2 は同一であってもよく、異なるものであってもよい。)で表されるアルキルアミンと、一般式(3)
【0021】
【化10】

【0022】
(式中、Tは分子内に一個または複数個のカルボキシル基を有するウロン酸化合物(HOOC)x−T−(COOH)y(xは1以上の整数、yは0もしくは1以上の整数を示す。)の中心骨格部分のTを示し、AはCOOX、CO−R7 またはCH2 OHを示し、Xは水素原子、アルカリ金属、アンモニウム基あるいは炭素数1〜12のモノ−、ジ−、トリ−またはテトラ−アルキルアンモニウム基もしくは炭素数1〜12のモノ−、ジ−、トリ−またはテトラ−アルキロールアンモニウム基を示す。ここで、R7 は水酸基、ハロゲン原子、C1 〜C6 の低級アルキロール基を示す。また、Bは水酸基、ハロゲン原子、C1 〜C6 の低級アルキロール基を示す。)で表されるウロン酸誘導体とを脱水縮合あるいはアミノリシス反応させることを特徴とする請求項2または3記載の糖アミドの製造方法である。
【0023】
【発明の実施の形態】
本発明に係る前記の一般式(1)で表される糖アミドは、様々な重合度および構造を有するウロン酸またはウロン酸修飾物に、各種構造のアミンをアミド結合により、単体であるいは複数個結合させることにより製造することができる。
この糖アミドにおいて、Tは分子内に一個あるいは複数個のカルボキシル基を有するウロン酸化合物(HOOC)x−T−(COOH)y(ここで、xは1以上の整数、yは0もしくは1以上の整数を示す。)の中心骨格部分のTを示すが、具体的にはトレハロースまたはショ糖の中心骨格部分などがある。
【0024】
以下に本発明に係る糖アミドの製造法について説明する。
(a)モノアミドモノカルボン酸誘導体の製造
単糖類、オリゴ糖類または多糖類のウロン酸に脂肪族アミンを作用させるものである。例えば、トレハロース二酸化物(6,6’−ジカルボン酸)やショ糖二酸化物のようなウロン酸に炭素数6〜22、好ましくは炭素数8〜18のアルキルアミンを作用させることによって当該化合物を得る。すなわち、ウロン酸100〜500mMにアルキルアミン100〜500mMを加え、20〜110℃で1〜20時間反応させる。このときに用いる溶媒としては、これら基質が溶解するものであれば良く、例えばメタノール、エタノール、プロパノール等のアルコール類の他、アセトニトリル、アセトン、DMF、DMSOなどが使用できる。反応時には、必要に応じて攪拌、加熱還流、系の減圧等を行う。また、反応に際して、無触媒条件で行ってもよく、あるいは触媒としてKOH、NaOHなどのアルカリを使用してもよい。
反応終了後、反応液を減圧濃縮したのち、酢酸エチル、ヘキサン、ベンゼン等の溶媒に溶解し、シリカゲルカラムクロマトグラフィー等の精製操作を行って単離、精製することができる。
【0025】
単離、精製した生成物は、マススペクトルなどによって分析し、分子量等を求めて同定する。また、IRや二次元NMRによる測定を行い、当該生成物の構造を確認することができる。
【0026】
(b)ビスアミド型ウロン酸誘導体の製造
これも、単糖類、オリゴ糖類または多糖類のウロン酸に脂肪族アミンを作用させるものである。例えば、トレハロース二酸化物(6,6’−ジカルボン酸)やショ糖二酸化物のようなウロン酸に炭素数6〜22、好ましくは炭素数8〜18のアルキルアミンを作用させることによって当該化合物を得る。すなわち、ウロン酸100〜500mMにアルキルアミン200〜1000mMを加え、20〜110℃で反応させる。このときに用いる溶媒としては、これら基質が溶解するものであれば良く、例えばメタノール、エタノール、プロパノール等のアルコール類の他、アセトニトリル、アセトン、DMF、DMSOなどが使用できる。
【0027】
この際、ウロン酸を直接反応に用いることもできるが、一旦ウロン酸の低級アルコールエステル、ウロン酸ハロゲン化物等とした後、反応させてもよい。
また、反応温度と使用する溶媒の沸点により、反応時には攪拌しながら加熱還流する方法、水あるいは低級アルコールを系外に除くために減圧する方法などが適宜採用される。さらには、無触媒反応であってもよく、KOH、NaOHなどのアルカリ触媒の存在下に反応を行ってもよい。
反応終了後、反応液を減圧濃縮したのち、酢酸エチル、ヘキサン、ベンゼン等の溶媒に溶解し、シリカゲルカラムクロマトグラフィー等の精製操作を行って単離、精製することができる。
【0028】
単離、精製した生成物は、マススペクトルなどによって分析し、分子量等を求めて同定する。また、IRや二次元NMRによる測定を行い、当該生成物の構造を確認することができる。
【0029】
(c)モノアミド型ウロン酸誘導体の製造
分子内に一残基のカルボキシル基を有するウロン酸に脂肪族アミンを作用させる反応の場合は、トレハロース一酸化物やショ糖一酸化物のようなモノカルボン酸を原料として用いる他は、上記の(a)、(b)に記載した方法と同様に実施すればよい。また、分子内に複数個のカルボキシル基を有するウロン酸の場合は、カルボキシル基と等モルになるようなアミン量を用い、上記(a)、(b)に記載した方法と同様に実施すればよい。
【0030】
【実施例】
本発明を実施例によって詳しく説明する。
実施例1
トレハロース二酸化物5.0m mol(1.85g)にオクチルアミン5mmol(0.645g)を加え、100℃で2時間反応させた。なお、反応を行うにあたり、DMFを溶媒として用いた。
反応終了後、反応液を減圧濃縮して酢酸エチルに溶解し、酢酸エチル/メタノールの濃度勾配溶出によるシリカゲルクロマトグラフィーにより生成物を単離、精製した。
【0031】
単離、精製した生成物は、LC−MASS(マススペクトル)においてm/Z=499.1(M+2Na)およびm/Z=518.5(M+3Na−4H)のピークを確認したことから、分子量は453であると推定され、式量C20H34O12NNa=453に合致した。
ヌジュール法によりIR測定を行ったところ、2856および2926cm-1にメチレン基およびメチル基の吸収、1611cm-1にカルボン酸ナトリウム塩由来の吸収が認められた。また、 1H−、13C−および二次元NMRの測定を行ったところ、各シグナルは第1表および第2表に示したように帰属され、生成物が下記の構造のトレハロース二酸化物モノオクチルアミドモノカルボン酸ナトリウムであることが確認された。
【0032】
【化11】

【0033】
【表1】
第1表 1H−NMR(300MHz、D2O)

【0034】
【表2】

【0035】
実施例2
トレハロース二酸化物5.0m mol(1.85g)にデシルアミン5m mol(0.785g)を加え、100℃で2時間反応させた。なお、反応を行うにあたり、DMFを溶媒として用いた。
反応終了後、反応液を減圧濃縮して酢酸エチルに溶解し、酢酸エチル/メタノールの濃度勾配溶出によるシリカゲルクロマトグラフィーにより生成物を単離、精製した。
【0036】
単離、精製した生成物は、LC−MASS(マススペクトル)においてm/Z=508.1(M)およびm/Z=554(M+2Na+H)のピークを確認したことから、分子量は530であると推定され、式量C22H37O12NNa=530に合致した。
ヌジョール法によりIR測定を行ったところ、2855および2926cm-1にメチレン基およびメチル基の吸収、1616cm-1にカルボン酸ナトリウム塩由来の吸収が認められた。また、 1H−、13C−および二次元NMRの測定を行ったところ、各シグナルは第3表および第4表に示したように帰属され、生成物が下記の構造のトレハロース二酸化物モノデシルアミドモノカルボン酸ナトリウムであることが確認された。
【0037】
【化12】

【0038】
【表3】
第3表 1H−NMR(300MHz、D2O)

【0039】
【表4】

【0040】
実施例3
トレハロース二酸化物5.0m mol(1.85g)にラウリルアミン5mmol(0.930g)を加え、100℃で2時間反応させた。なお、反応を行うにあたり、DMFを溶媒として用いた。
反応終了後、反応液を減圧濃縮して酢酸エチルに溶解し、酢酸エチル/メタノールの濃度勾配溶出によるシリカゲルクロマトグラフィーにより生成物を単離、精製した。
【0041】
単離、精製した生成物は、LC−MASS(マススペクトル)においてm/Z=582.6(M+Na)およびm/Z=594.7(M+Cl)のピークを確認したことから、分子量は559であると推定され、式量C24H42O12NNa=559に合致した。
ヌジョール法によりIR測定を行ったところ、2855および2924cm-1にメチレン基およびメチル基の吸収、1612cm-1にカルボン酸ナトリウム塩由来の吸収が認められた。また、 1H−、13C−および二次元NMRの測定を行ったところ、各シグナルは第5表および第6表に示したように帰属され、生成物が下記の構造のトレハロース二酸化物モノラウリルアミドモノカルボン酸ナトリウムであることが確認された。
【0042】
【化13】

【0043】
【表5】
第5表 1H−NMR(300MHz、D2O)

【0044】
【表6】

【0045】
実施例4
トレハロース二酸化物5.0m mol(1.85g)にオクチルアミン10.0m mol(1.29g)を加え、100℃で2時間反応させた。なお、反応を行うにあたり、DMFを溶媒として用いた。
反応終了後、反応液を減圧濃縮して酢酸エチルに溶解し、酢酸エチル/メタノールの濃度勾配溶出によるシリカゲルクロマトグラフィーにより生成物を単離、精製した。
【0046】
単離、精製した生成物は、LC−MASS(マススペクトル)においてm/Z=591.4(M−H)のピークを確認したことから、分子量は592であると推定され、式量C28H32O11N2 =592に合致した。
ヌジョール法により、並びに流動パラフィンに溶解して、IR測定を行ったところ、2855および2926cm-1にメチレン基およびメチル基の吸収、1655cm-1にアミドのカルボニル基由来の吸収が認められた。また、 1H−、13C−および二次元NMRの測定を行ったところ、各シグナルは第7表および第8表に示したように帰属され、生成物が下記の構造のトレハロース二酸化物ジデシルアミドであることが確認された。
【0047】
【化14】

【0048】
【表7】
第7表 1H−NMR(300MHz、CDCl3

【0049】
【表8】

【0050】
実施例5
トレハロース二酸化物5.0m mol(1.85g)にデシルアミン10.0m mol(1.57g)を加え、100℃で2時間反応させた。なお、反応を行うにあたり、DMFを溶媒として用いた。
反応終了後、反応液を減圧濃縮して酢酸エチルに溶解し、酢酸エチル/メタノールの濃度勾配によるシリカゲルクロマトグラフィーにより生成物を単離、精製した。
【0051】
単離、精製した生成物は、LC−MASS(マススペクトル)においてm/Z=671.7(M+Na)のピークを確認したことから、分子量は648であると推定され、式量C22H60O11N2 =648に合致した。
ヌジョール法により、並びに流動パラフィンに溶解して、IR測定を行ったところ、2855および2924cm-1にメチレン基およびメチル基の吸収、1655cm-1にアミドのカルボニル基由来の吸収が認められた。また、 1H−、13C−および二次元NMRの測定を行ったところ、各シグナルは第9表および第10表に示したように帰属され、生成物が下記の構造のトレハロース二酸化物ジデシルアミドであることが確認された。
【0052】
【化15】

【0053】
【表9】
第9表 1H−NMR(300MHz、CDCl3

【0054】
【表10】

【0055】
実施例6
トレハロース二酸化物5.0m mol(1.85g)にラウリルアミン10.0m mol(1.86g)を加え、100℃で2時間反応させた。なお、反応を行うにあたり、DMFを溶媒として用いた。
反応終了後、反応液を減圧濃縮して酢酸エチルに溶解し、酢酸エチル/メタノールの濃度勾配によるシリカゲルクロマトグラフィーにより生成物を単離、精製した。
【0056】
単離、精製した生成物は、LC−MASS(マススペクトル)においてm/Z=727.7(M+Na)、m/Z=740.2(M+35Cl)、m/Z=741.7(M+37Cl)のピークを確認したことから、分子量は704であると推定され、式量C36H68O11N2 =704に合致した。
ヌジョール法により、並びに流動パラフィンに溶解して、IR測定を行ったところ、2855および2924cm-1にメチレン基およびメチル基の吸収、1655cm-1にアミドのカルボニル基由来の吸収が認められた。また、1H−、13C−および二次元NMRの測定を行ったところ、各シグナルは第11表および第12表に示したように帰属され、生成物が下記の構造のトレハロース二酸化物ジラウリルアミドであることが確認された。
【0057】
【化16】

【0058】
【表11】
第11表 1H−NMR(300MHz、CDCl3

【0059】
【表12】

【0060】
実施例7
実施例1〜3に記載した方法で製造したトレハロース二酸化物モノオクチルアミドモノカルボン酸ナトリウム、トレハロース二酸化物モノデシルアミドモノカルボン酸ナトリウム、トレハロース二酸化物モノラウリルアミドモノカルボン酸ナトリウムのそれぞれについて0.01(w/w)%水溶液を調製し、表面張力を測定した。ただし、試料はすべてナトリウム塩の状態に保つため、NaOHに溶解させた。
【0061】
その結果、トレハロース二酸化物モノオクチルアミドモノカルボン酸ナトリウムは28.0mN/m(5mM NaOH中で測定)、トレハロース二酸化物モノデシルアミドモノカルボン酸ナトリウムは21.5mN/m(5mM NaOH中で測定)、トレハロース二酸化物モノラウリルアミドモノカルボン酸ナトリウムは37.5mN/m(2mM NaOH中で測定)であった。
【0062】
実施例8
実施例1〜3に記載した方法で製造したトレハロース二酸化物モノオクチルアミドモノカルボン酸ナトリウム、トレハロース二酸化物モノデシルアミドモノカルボン酸ナトリウム、トレハロース二酸化物モノラウリルアミドモノカルボン酸ナトリウムのそれぞれを2mM NaOHに溶解して0.1(w/w)%水溶液を調製し、起泡力を測定した。すなわち、0.1(w/w)%水溶液5mlに250mlの空気を吹き込み、発生する泡の容量を、吹き込み直後と3分後に測定した。結果を第13表に示す。
【0063】
【表13】
第13表 ウロン酸モノアミドモノカルボン酸ナトリウムの起泡力

Tre-C8COONa:トレハロース二酸化物モノオクチルアミドモノカルボン酸ナトリウム
Tre-C10COONa:トレハロース二酸化物モノデシルアミドモノカルボン酸ナトリウム
Tre-C12COONa:トレハロース二酸化物モノラウリルアミドモノカルボン酸ナトリウム
【0064】
【発明の効果】
本発明により、カルボキシル基が導入された糖類とアミンとの反応生成物である糖アミドが提供される。この糖アミドは、糖の水酸基の一部がカルボキシル基に酸化されたウロン酸を原料として用い、これに各種アミンを作用させることにより得られる。本発明によれば、従来法では選択的結合がきわめて難しかった糖と脂肪族アミン、芳香族アミン、アミノ酸等のアミノ基を有する様々な化合物との反応でアミド化合物を容易に製造することが可能になった。
【0065】
本発明に係る糖アミド、特にウロン酸ジアミドは油溶性物質であり、その構造内に皮膚の構成成分であるタンパク質に類似したアミド結合を有しているため、皮膚表面へのなじみがよく、またトレハロースなど水酸基を多数有する糖残基を有しているので、保湿、保水性に優れている。
したがって、これらの物質は、用途にあわせて、原料のアミンを適切に選択することにより、皮膚保護を目的とした保湿剤、保護用クリーム等への有効利用が期待される。
【0066】
また、ウロン酸モノアミドモノカルボン酸は、表面張力低下能に優れ、かつ構造内のトレハロース等の水酸基を多数有する糖残基の影響で、皮膚刺激性が低いため、優れた界面活性剤として、シャンプー、リンス、ボデイーソープ、洗顔料等の香粧品への添加が有効である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の一般式(1)で表される糖アミド。
【化1】

(式中、Tは分子内に一個または複数個のカルボキシル基を有するウロン酸化合物(HOOC)x−T−(COOH)y(xは1以上の整数、yは0もしくは1以上の整数を示す。)の中心骨格部分のTを示し、RはR1 −(OR2)n−基を示し、R1 は炭素数4〜28の直鎖あるいは分岐鎖構造を有するアルキル基で、分子構造内に不飽和基や芳香族基を有してもよいアルキル基を示す。R2 は炭素数2〜4のアルキレン基を示す。また、nは0〜14の整数を示す。AはCOOX、CO−NH−R3 またはCH2 OHを示し、Xは水素原子、アルカリ金属、アンモニウム基あるいは炭素数1〜12のモノ−、ジ−、トリ−またはテトラ−アルキルアンモニウム基もしくは炭素数1〜12のモノ−、ジ−、トリ−またはテトラ−アルキロールアンモニウム基を示す。また、R3 はR4 (OR5)n −基を示し、R4 は炭素数4〜28の直鎖あるいは分岐鎖構造を有するアルキル基で、分子構造内に不飽和基や芳香族基を有してもよいアルキル基を示す。R5 は炭素数2〜4のアルキレン基を示し、nは0〜14の整数を示す。ここで、ウロン酸とは、糖類に存在するヒドロキシメチル基をカルボキシル基に修飾する、あるいはカルボキシル基を有する構造を母体である糖に付加、転移、縮合等させることによって得られる化合物を言う。)
【請求項2】
一般式(1)において、アルキルアミン残基が二級アミンであり、それぞれのアルキル基は同一であってもよく、異なるものであってもよいアルキル基である請求項1記載の糖アミド。
【請求項3】
一般式(1)において、Tがトレハロースまたはショ糖の中心骨格部分である請求項1または2記載の糖アミド。
【請求項4】
一般式(2)
【化2】

(式中、RはR1 −(OR2)n を示し、R1 は炭素数4〜28の直鎖あるいは分岐鎖構造を有するアルキル基で、分子構造内に不飽和基や芳香族基を有してもよいアルキル基を示す。R2 は炭素数2〜4のアルキレン基を示す。また、nは0〜14の整数を示す。)で表されるアルキルアミンと、
一般式(3)
【化3】

(式中、Tは分子内に一個または複数個のカルボキシル基を有するウロン酸化合物(HOOC)x−T−(COOH)y(xは1以上の整数、yは0もしくは1以上の整数を示す。)の中心骨格部分のTを示し、AはCOOX、CO−R6 またはCH2 OHを示し、Xは水素原子、アルカリ金属、アンモニウム基あるいは炭素数1〜12のモノ−、ジ−、トリ−またはテトラ−アルキルアンモニウム基もしくは炭素数1〜12のモノ−、ジ−、トリ−またはテトラ−アルキロールアンモニウム基を示す。ここで、R6 は水酸基、ハロゲン原子、C1 〜C6 の低級アルキロール基を示す。また、Bは水酸基、ハロゲン原子、C1 〜C6 の低級アルキロール基を示す。)で表されるウロン酸誘導体とを脱水縮合あるいはアミノリシス反応させることを特徴とする請求項1または3記載の糖アミドの製造方法。
【請求項5】
一般式(4)
【化4】

(式中、R1 はR3 −(OR4)n を示し、R3 は炭素数4〜28の直鎖あるいは分岐鎖構造を有するアルキル基で、分子構造内に不飽和基や芳香族基を有してもよいアルキル基を示す。R4 は炭素数2〜4のアルキレン基を示し、nは0〜14の整数を示す。また、R2 はR5 −(OR6)n を示し、R5 は炭素数4〜28の直鎖あるいは分岐鎖構造を有するアルキル基で、分子構造内に不飽和基や芳香族基を有してもよいアルキル基を示す。R6 は炭素数2〜4のアルキレン基を示し、nは0〜14の整数を示す。なお、二級アミンのアルキル基R1 とR2 は同一であってもよく、異なるものであってもよい。)で表されるアルキルアミンと、一般式(3)
【化5】

(式中、Tは分子内に一個または複数個のカルボキシル基を有するウロン酸化合物(HOOC)x−T−(COOH)y(xは1以上の整数、yは0もしくは1以上の整数を示す。)の中心骨格部分のTを示し、AはCOOX、CO−R7 またはCH2 OHを示し、Xは水素原子、アルカリ金属、アンモニウム基あるいは炭素数1〜12のモノ−、ジ−、トリ−またはテトラ−アルキルアンモニウム基もしくは炭素数1〜12のモノ−、ジ−、トリ−またはテトラ−アルキロールアンモニウム基を示す。ここで、R7 は水酸基、ハロゲン原子、C1 〜C6 の低級アルキロール基を示す。また、Bは水酸基、ハロゲン原子、C1 〜C6 の低級アルキロール基を示す。)で表されるウロン酸誘導体とを脱水縮合あるいはアミノリシス反応させることを特徴とする請求項2または3記載の糖アミドの製造方法。

【公開番号】特開2007−131534(P2007−131534A)
【公開日】平成19年5月31日(2007.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2002−19438(P2002−19438)
【出願日】平成14年1月29日(2002.1.29)
【出願人】(000242529)
【出願人】(597112483)株式会社横浜国際バイオ研究所 (6)
【Fターム(参考)】