説明

糖ペプチド組成物

【課題】診断や治療に有用な糖ペプチドを提供する。
【解決手段】アミド結合を介して共有結合される配糖体と、ペプチドとを含む少なくとも二つの部分と、該糖ペプチドに結合される診断薬又は治療薬とを含む。放射線核種等の金属も糖ペプチドとキレート化される。特殊な実施形態はポリ(グルタミン酸)又はポリ(アスパラギン酸)等のポリ(アミノ酸)と共有結合されるキトサンより形成されてもよい。糖ペプチドと結合された診断薬は画像化を容易にし、糖ペプチドと結合される特殊な治療薬は抗がん剤、関節リウマチ薬、抗凝血薬、抗血管形成薬、アポトーシス薬、骨粗しょう薬、ステロイド及び抗炎症薬を含む。放射線核種等の作用物質は診断及び治療の両方の効果を有する。糖ペプチドは、カルボジイミド及び酸性基活性化剤の存在下において配糖体とペプチドとを結合し、該配糖体とペプチドとの間にアミド結合を形成して製造される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、配糖体及びペプチドを含む糖ペプチド組成物並びに生体材料としての該組成物の使用に関する。特殊な実施形態は、キトサンベースの糖ペプチドに関する。より特殊な実施形態は、キトサンとポリ(アミノ酸)を含む糖ペプチドに関する。
【背景技術】
【0002】
生体材料は、ヒト及び他の哺乳動物のような生物系において種々の医学的用途において常に必要とされている。これら医学的用途は、現在可能である医学的な治療のほぼ全般に及ぶものである。例えば、幾らかの生体材料は、構造的及び生化学的な両方の目的のために、医療装置又はインプラントにおいて使用される。別の生体材料は、薬物送達用担体として、或いは薬物そのものとしてさえも使用される。
【0003】
意図された使用は、多くの場合選択される材料の種類に影響を与えるが、多くの用途においては、生体分解性材料又は生物学的に除去可能な(bioclearable)材料が好ましい。同様に、ある種の生体材料はある程度の毒性又は有害性に耐え得るものであるか、あるいは好ましいものであるが、ほとんどの用途において、該材料は毒性のないことが好ましい。
【0004】
生体材料において多岐にわたる用途及び所望の特性が与えられてはいるものの、新しい生体材料に対する必要性は常に存在する。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記した懸案を鑑みてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、少なくとも一つのペプチドと共有結合する少なくとも一つの配糖体から形成される糖ペプチドに関する。配糖体及びペプチド並びにそれらに結合される作用物質は、本明細書及び請求の範囲において多くの場合一つのものとして参照されているが、本発明の高分子の性質を考慮すると、糖ペプチドが一つ以上の配糖体及び一つ以上のペプチドを含むことを当業者は容易に理解するであろう。更に、複数の結合部位が存在することから、所定のタイプの多くの作用物質が単一の糖ペプチドに結合可能である。糖ペプチドモノマーの相対的な数及びポリマー上へ任意の作用物質が置換される程度を制御するための方法は当業者に周知であり、通常の実験により本発明にも適用可能である。
【0007】
一実施形態において、本発明は、少なくとも一つのペプチドに結合されたアミドを介して共有結合された少なくとも一つの配糖体部分と、付随的に、該配糖体又はペプチド部分のいずれか一つに結合される診断薬又は治療薬とを有する糖ペプチドを含む。更に、糖ペプチドは、診断薬又は治療薬を備えていない部分に結合される金属作用物質を備え得る。
【0008】
診断薬又は治療薬は、ペプチド結合を介してカルボン酸により配糖体に結合可能であり、その場合、任意の金属がペプチドとキレート結合する。代替的に、診断薬又は治療薬はペプチド結合を介してアミン基によりペプチドに結合可能であり、その場合、任意の金属が配糖体とキレート結合する。糖ペプチドは約5000ダルトン乃至約30000ダルトンの分子量を有する。
【0009】
配糖体は、少なくとも二つの共有結合されたモノマー単位を含む。更に、配糖体はアミノ化された糖を含む。より詳細には、配糖体はキトサン、コラーゲン、コンドロイチン、ヒアルロン酸塩(hyauraniate)、ヘパリン及びそれらの任意の組み合わせであり得る。配糖体は、インテグリンのような血管組織の細胞外タンパク質を含む、血管組織のような内皮細胞を標的化する能力に基づいて選択され得る。配糖体は、約3000ダルトン乃至約10000ダルトンの分子量を有する。
【0010】
ペプチドはポリ(アミノ酸)又はペプチド又は所定の標的となる配列を含む。第一級の酸性アミノ酸を有するポリ(アミノ酸)は幾らかの実施形態において好ましいであろう。ポリ(アミノ酸)は、ポリ(グルタミン酸)、ポリ(アスパラギン酸)及びそれらの任意の組み合わせを含む。ペプチドは、糖ペプチドの約5乃至約50重量%の比率にて構成される。更にペプチドは、約750ダルトン乃至約3000ダルトンの分子量を有する。ペプチドは癌細胞を標的とする。
【0011】
診断薬又は治療薬は、糖ペプチドの約10乃至約60重量%の比率にて構成される。糖ペプチドと結合可能な任意の診断薬又は治療薬が使用され得る。ある実施形態において、診断薬は抗がん剤、関節リウマチ薬、抗凝血薬、抗血管形成薬、アポトーシス薬、骨粗しょう症薬、ステロイド、抗炎症薬またはそれらの任意の組み合わせであり得る。例えば、診断薬又は治療薬は、メトトレキセート又はパミドロネートを含み得る。
【0012】
幾らかの実施形態において、糖ペプチドはまた更なる金属診断薬又は治療薬を含み得る。より詳細には、該金属は、DPTAのようなキレート剤を介して結合され得る。該金属は、Tc−99m、Cu−60、Cu−61、Cu−62、Cu−67、In−111、Tl−201、Ga−67、Ga−68、As−72、Re−186、Re−188、Ho−166、Y−90、Sm−153、Sr−89、Gd−157、Bi−212、及びBi−213又はそれらの任意の組み合わせのような放射性核種であり得る。放射性核種金属は、診断用及び治療用の両方の目的に使用され得る。
【0013】
診断薬は画像化を含む種々の様式において診断を容易にする。幾らかの実施形態において、糖ペプチドは診断及び治療を組み合わせるために、そして患者における投与量の測定のために使用され得る。これは、画像化を容易にするとともに抗がん剤として使用される放射線核種を用いることにより達成され得る。代替的に、糖ペプチドは金属及び治療薬を含み、患者の標的となる領域へ送達される治療薬の量を測定可能とする。更なる別の代替として、二つの異なる糖ペプチドが組み合わせにて使用され得る。第一に、診断用糖ペプチドが患者に投与され、かつ標的となる領域へ到達する量が測定される。次に、治療用糖ペプチドの正確な投与量が上述の仮定に基づいて決定され、それにより診断用糖ペプチドに類似する量が標的となる領域へ到達するであろう。
【0014】
本発明のその他の実施形態は、アミド結合を介してポリ(アミノ酸)に共有結合されるキトサンを含む糖ペプチドに関する。キトサンは未修飾キトサン又はアルキルスルホン化されたキトサンのような修飾された型であり得る。同様に、ポリ(アミノ酸)は、任意の型であり得るが、多くの実施形態においては、ポリ(グルタミン酸)又はポリ(アスパラギン酸)のような酸性ポリ(アミノ酸)であり得る。
【0015】
本発明のキトサンベースの糖ペプチドは、上述の本発明の糖ペプチドと同様の様式にて使用され得る。例えば、キトサンベースの糖ペプチドはまた、それに結合される金属を含む診断薬又は治療薬を有する。
【0016】
本発明のその他の実施形態は、上記したような糖ペプチドを形成するための方法に関する。より詳細には、配糖体及びペプチドは、カルボジイミド及び酸性基活性化剤の存在下において結合され、該配糖体とペプチドとの間にアミド結合が形成され得る。配糖体は、該配糖体又はペプチドと、診断薬又は治療薬との間にアミド若しくはエステル結合を形成するために更に反応させる。付随的に、金属のキレート化が可能となるように、キレート剤が配糖体又はペプチドに結合され得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明の実施形態及びその利点のより完全な理解は、添付した図面とともに以下の詳細な説明を参照することにより得られるであろう。特許又は出願ファイルは、少なくとも一つの彩色図面を含む。彩色図面を含む本特許又は特許出願刊行物の写しは、必要な費用の支払いとともに特許庁に請求することにより得ることができるであろう。
【0018】
本発明は、配糖体及びペプチドを含む糖ペプチド(GP)組成物及びそれらの生体材料としての使用に関する。幾らかの実施形態において、これらの生体材料は、殺菌剤として提供され得る。治療薬又は診断薬を該糖ペプチドに結合することができる。
【0019】
特殊な実施形態において、配糖体及びペプチドは、アミド結合にて結合され得る。配糖体は、アミノ化糖であり得る。糖ペプチドは、5乃至50重量%のペプチドを含み得る。ペプチドが多すぎると、糖ペプチド間に許容不可能なレベルの架橋を生ずることになる。配糖体は約3000乃至10000ダルトンの分子量を有する。ペプチドは約750乃至3000ダルトンの分子量を有する。糖ペプチドは約5000乃至30000ダルトンの分子量を有する。
【0020】
より詳細な実施形態において、糖ペプチドはキトサンと、より詳細にはポリ(グルタミン酸)であるポリ(アミノ酸)とから形成され得る。この糖ペプチドは、修飾する必要なく、特異的な標的作用物質を含む腫瘍標的化能力を備える。
【0021】
キトサン(CH)は、多くの用途において特に関心の深いポリアミノ糖である。多くのポリアミノ糖と同様に、キトサンは天然材料から容易に収穫される。キトサンの主要な収穫源は、ロブスター及び伊勢エビの廃棄された殻又はエビであり、カニ及びその他の甲殻類の殻並びに昆虫の甲羅及びキノコ類からも入手可能である。キトサンは通常非毒性であり、ヒト組織を含む種々の生物系と適合される。しかしながら、その他多くのポリアミノ糖と同様に、キトサンは水に対して僅かに溶解性を示すのみである。溶解性を改善するために、アルキルスルホン化キトサンが使用され得る。アルキルスルホン化キトサンは例えば、2004年6月18日に出願された米国特許出願第10/871890号に記載されている。
【0022】
その他適切な配糖体は、コラーゲン、コンドロイチン、ヒアルロン酸塩及びヘパリンを含む。
ポリ(グルタミン酸)(PGA)もまた市販されており(シグマケミカル社(Sigma Chemical Company)、ミズーリ州セントルイス所在)、種々の様式にて合成され得る。PGAは生理学的な状態では正の電荷を有するとともに生体分解性であり、生物学的な使用においてはより適合しやすいものである。
【0023】
その他のペプチドも本発明の代替的な実施形態において使用され得る。これらのペプチドは、その他のポリ(アミノ酸)並びに特殊な配列又は特殊なアミノ酸組成を有するペプチドを含む。幾らかの実施形態において、ペプチドは標的化機能を提供する。特殊な実施形態において、ポリ(アスパラギン酸)が使用され得る。これは腫瘍細胞による取り込みを促進するであろう。なぜならば、腫瘍細胞は自身の内部にてアスパラギン酸を製造することはできず、外部供給源から多くを得ているからである。酸性基を有するアミノ酸を含むポリ(アミノ酸)に対して、該酸性基は糖ペプチドの種々の作用物質との後の結合のために使用され得るか、或いは塩を形成して溶解性を改善するために使用され得る。
【0024】
本発明の糖ペプチドは種々の構成において配糖体とペプチドとを備え得る。図1には、キトサンとポリ(グルタミン酸)を用いた4つの構成が示されている。本発明の種々の実施形態において、これら異なる型の糖ペプチドは混合物として使用され得るか、或いは一つ以上の構造的な構成が分離され、かつ使用される。そのような特定の構造的な構成の分離が望ましいか否かは、意図される用途、加えられるべき任意の結合体を含む多くの要因に依存する。大部分の合成法において、図1Aに示される構造が優位であると考えられる。
【0025】
本発明の糖ペプチドを合成するための一つの方法が図2に示されている。合成の代替的な手段も可能である。例えば、合成反応は、一つの型の糖ペプチド構造を支持するようにデザインされ得る。図2に示されるような特殊な実施形態において、配糖体及びペプチドは結合剤としてカルボジイミドを用いて結合される。図2において、Sulfo−NHSは酸性基活性化剤として機能し、糖ペプチド形成を促進する。その他の酸性基活性化剤もまた本発明の糖ペプチドを形成するために使用され得る。
【0026】
本発明の糖ペプチドはそれ自身、有用な生物学的特性を示すが、該糖ペプチドに対して多種にわたる作用物質が結合され得る。当該作用物質は、標的化剤、画像化剤及び治療薬を含む。複数の作用物質又は複数の型の作用物質を同一の糖ペプチド分子に同時に結合することも可能である。特殊な実施形態において、該作用物質は糖ペプチド結合体の10乃至60重量%からなる。
【0027】
糖ペプチドは生来的に腫瘍組織を標的とするが、腫瘍への標的化を更に促進するか、あるいは該標的化をより特異的にする作用物質もまた結合され得る。骨を標的とするパミドロネートのようなその他の組織を標的とする作用物質もまた結合され得る。メトトレキセートは葉酸受容体を標的とするために使用され得る。多くの画像化剤は、DPTAのようなキレート剤と最初に結合することにより提供され得る金属を含む。これらは、99mTc、60Cu、61Cu、62Cu、67Cu、111In、201Tl、67Ga、68Ga、72As、186Re、188Re、166Ho、90Y、153Sm、89Sr、157Gd、212Bi及び213Biのような原子価金属イオンとキレート結合するために使用され得る。これらの金属キレートは、病巣を画像化するために使用され得る。幾らかの実施形態において、糖ペプチド自身のカルボキシル基及びアミノ基は金属イオンをキレート化するのに十分である。
【0028】
腫瘍が標的とされる場合、化学療法剤及びその他の抗がん剤のような治療薬は標的となる組織への特異性が非常に高いと考えられる。関節リウマチ薬、抗凝血薬、抗血管形成薬、アポトーシス薬、ステロイド、抗炎症薬及び骨粗しょう症治療薬もまた結合される。
【0029】
治療薬は任意の許容可能な様式にて結合され得るが、アミド結合又はエステル結合のような生物学的に不安定な結合も多くの実施形態において使用され得る。図2Bは、骨粗しょう症の治療薬であるパミドロネートを結合させるための一つの方法を示す。その他の作用物質を結合するために同様の、又は類似の方法が使用され得る。作用物質は、該作用物質上のカルボン酸又はアミン基のいずれかを用いて糖ペプチドに結合され得る。特に、不溶性の作用物質が結合される場合、DMF又はDMSOが反応に加えられる。
【0030】
特殊な実施形態において、画像化用及び治療用の両方の結合体が被検者に提供される。次に画像化用複合体は、該画像化用複合体が標的となる領域にどれくらい局在化したかに基づいて、ラベルされていない治療用複合体の最適な、又は推奨される投与量を決定するために使用され得る。
【0031】
幾らかの画像化複合体は放射性治療効果も備える小さな金属イオンを使用する。これらの複合体は、被検者における内服用の放射性治療用量を直接決定するために画像化され得る。
【0032】
同様に、仮に放射性化学物質又はその他の画像化剤が治療薬として同一の複合体中に組み込まれる場合、被検者における治療薬の投与量は直接測定され得る。そのような複合体の例は図3に示される。
【0033】
作用物質の糖ペプチドに対する結合は、特に哺乳類のような生物系において該作用物質の遅延放出を提供する。該結合により、難溶性である該作用物質の水に対する有効的な溶解度及び治療指数も増大され得る。
【0034】
腫瘍に関連した適用
本発明の実施形態は、腫瘍を治療するために、特に細胞毒性薬の送達により該腫瘍を治療するために使用され得る。単なる細胞増殖抑制剤とは異なり細胞毒性薬の送達は、多くの場合これまでの治療においては問題となることがわかっている。本発明の糖ペプチドは細胞増殖抑制剤を送達するために使用可能であるものの、それらの多くの能力は、細胞毒性薬を送達すること、及び治療担体としてのそれらの価値を増大することである。
【0035】
特殊な実施形態において、使用される糖ペプチドは、キトサンと、ポリ(グルタミン酸)又はポリ(アスパラギン酸)のうちのいずれかと、を含んでいる。これらの実施形態は腫瘍組織を標的とし、多くの場合腫瘍組織内においては非常に増大した速度にて起こる血管形成を介して標的とする。血管細胞、特に該血管細胞に存在するインテグリン分子は、多糖類(例えば、コラーゲン、コンドロイチン、ヒアルロン酸塩、キトサン)により標的化される。この血管標的化は、腫瘍組織を直接標的としないことから、腫瘍細胞の薬物耐性を阻止することを助ける。付随的に、腫瘍組織はアミノ酸に対する必要性の増大を示し、多くの細胞はグルタミン酸及びアスパラギン酸のようなある種のアミノ酸に対する表面受容体を有し、ポリ(アミノ酸)の部分が同様に標的化機能を提供することを可能にする。より詳細には、ポリ(アミノ酸)は腫瘍細胞により取り込まれ易い。
【0036】
本発明の糖ペプチドの腫瘍標的化能は、99mTcでラベルされたキトサン/ポリ(グルタミン酸)糖ペプチドを使用して、ガンマ画像化にて示された。99mTcでラベルされたキトサン/ポリ(グルタミン酸)糖ペプチドは治療において必要とされる投与量を定量化するために使用され得る。最終的に、99mTcでラベルされたキトサン/ポリ(グルタミン酸)糖ペプチドは治療法に応答するであろう患者を予測し、かつその選択に使用され得る。188Reもまた多くの腫瘍を治療するための放射性治療薬として使用され得る。188Reは、血管内にあるか又は腫瘍内に内在化されるかのいずれであっても配糖体とともに留まる場合最も有効である。188Reはベータ及びガンマ(15%)エミッタであり、17時間の半減期を有する。組織透過性は5乃至7mmであり、大きな腫瘍を同時に画像化及び治療するために使用され得る。
【0037】
標的化能は水に難溶性の化学療法剤の送達を助け、従って、そのような作用物質の治療指数(毒性/有効性)を増大する。加えて、該治療薬は糖ペプチドから徐々に放出されるので、このことはまた治療指数に対しても貢献し、かつ急性の全身的な毒性の低減を助ける。
【0038】
骨に関連した適用
特殊な実施形態において、パミドロネートは本発明の糖ペプチドに対して結合され得る。結合の方法を図2に示す。パミドロネートは骨粗しょう症の治療薬である。キトサン/ポリ(グルタミン酸)がパミドロネートに結合されたものを使用した場合、深刻な毒性は観察されなかった。パミドロネートは腎臓からの迅速な消失を示した。画像化に関する研究はこの組成物が骨を標的化することを示した。これらの組成物は骨粗しょう症のような骨再生疾患を治療するために使用され得る。
【0039】
以下の実施例は、本発明の選択された実施形態を更に記載するために提供される。
【実施例1】
【0040】
糖ペプチドの合成
キトサンの加水分解時、種々の分子量及び割合のアミノ基転換体(conversions)が調製された。アミノ基転換体の分子量及び百分率は、本明細書において、「CH(分子量)(アミノ転換体)%」と明記される。例えば、CH10は分子量が10000で、アセタミド基の100%が加水分解してアミノ基を形成することを示す。
【0041】
典型的な合成において、水(5ml)中の攪拌されたキトサン溶液(CH10,100%)(200mg、MW.10000−20000)に、sulfo−NHS(232.8mg,1.07mmol)及び3−エチルカルボジイミド 1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド−HCl(EDC)(204.5mg,1.07mmol)(ピアスケミカル(Pierce Chemical)社、イリノイ州ロックフォード所在)が加えられた。次に、ポリ(グルタミン酸)(400mg,分子量750−3000)が加えられた。混合物を室温にて24時間攪拌した。該混合物を10000のカットオフ値を備えたSpectra/POR分子ふるい(スペクトラムメディカルインダストリーズ(Spectrum Medical Industries)社、テキサス州ヒューストン所在)を用いて48時間透析した。透析後、製品をろ過し、凍結乾燥機(ラブコンコ(Labconco)、ミズーリ州カンザスシティ)を用いて凍結乾燥した。塩の形態の糖ペプチドは568.8mgの重量である。得られた4つの型の糖ペプチドの組成物を図1に示す。例えば、4つの型の糖ペプチドの各々の単離及び独立した使用は可能ではあるものの、該糖ペプチド混合物が残りの実施例においては使用された。
【実施例2】
【0042】
99mTcを有する糖ペプチドの放射性ラベリング
糖ペプチド(5mg)を0.2mlの水に溶解し、室温にて塩化スズ(0.1mlの水に0.1mg)を加えた。過テクネチウム酸ナトリウム(5mCi)を加えた。放射化学的純度は、メタノール:酢酸アンモニウム(1:4)を用いて溶出したTLCにより決定した(ITLC SG、ゲルマンサイエンシーズ(Gelman Sciences)社、ミシガン州アナーバー所在)。放射線−TLCの分析(バイオスキャン(Bioscan)、ワシントンDC所在)から、放射化学的純度は95%を超えていた。
【実施例3】
【0043】
糖ペプチド−パミドロネート結合体の合成
パミドロネート(100mg、0.24mmol)を1mlの重炭酸ナトリウム(1N)、sulfo−NHS(91.8mg、0.43mmol)及び3−エチルカルボジイミド 1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド−HCL(EDC)(81.2mg、0.43mmol)に溶解した。5mlの糖ペプチド(200mg)脱イオン水溶液を加えた。溶液は室温にて24時間攪拌した。透析(分子量:10000)及び凍結乾燥後、パミドロネート−糖ペプチドの収率は250mgであった。合成式を図2に示す。
【実施例4】
【0044】
インビトロの細胞培養試験
糖ペプチドが腫瘍に対する標的化能を有するかどうかを評価するために、哺乳類の腫瘍細胞系(13762)を選択した。該細胞は、ウェル当り50000個の細胞密度にて、12ウェルの組織培養プレートに培養した。該細胞を、4μCi(0.148MBq)の99mTcでラベルされた糖ペプチド(GP)と、ポリ(グルタミン酸)(PGA)と、キトサン(CH10,50%)又はキトサン(CH10)(100μg/ウェル)と、ともに培養した。試験された作用物質の構造を図4に示す。細胞は、37℃にて0.5乃至2時間の間、放射性トレーサを用いて培養した。培養後、氷冷したリン酸緩衝生理食塩水(PBS)を用いて2回洗浄し、0.5mlのトリプシン溶液を用いてトリプシン処理した。次に細胞を回収し、ガンマカウンタにより放射線活性を測定した。データは3回の測定の平均±SD取り込みパーセント比にて表した。糖ペプチドとPGAは同様の細胞取り込みであった(図5)。しかしながら、糖ペプチドは、細胞のみを標的とするPGAと異なり、血管組織と細胞受容体の両方を標的とするので、実際の生物系においては好ましい。
【実施例5】
【0045】
腫瘍シンチグラフィーによる画像化試験
糖ペプチドが腫瘍細胞を特定して標的とするか否かを検証するために、一群の雌Fischer344担癌ラット(右脚)であって、テルペン誘導炎症(左脚)を有する又は有していないラットに、300μCiの99mTcでラベルされた糖ペプチド、キトサン(50%及び100%)又はポリ(グルタミン酸)(PGA)を投与した。低エネルギーの平行孔型コリメータを備えたガンマカメラを用いてシンチグラフィーによる画像を0.5、2及び4時間にて得た。腫瘍は、いずれの時間においても良好に画像化された。ペプチド及びキトサンの群と比較されるように、糖ペプチド群における腫瘍対筋肉、及び腫瘍対炎症の比率は、0.5乃至3時間において高かった。選択された画像を図6に示す。
【0046】
細胞取り込み試験は、糖ペプチド及びグルタミン酸ペプチドは、キトサン(0.2%)より高い取り込み率(0.4−0.5%)であることを示した。乳癌担癌ラットにおける99mTc−糖ペプチドの生体分布は、時間の関数とした場合、腫瘍対組織のカウント密度比が増大したことを示した。平面画像は腫瘍が明瞭に画像化されることを確認した。2時間において、糖ペプチド、グルタミン酸ペプチド及びキトサンの腫瘍/筋肉比は3.9、3.0及び4.89であった。腫瘍/筋肉比はキトサン単独の場合がより高かったが、細胞及び血管の両方を標的とすることから糖ペプチドの使用が好ましい。加えて、糖ペプチドは全体的に良好な組織保持を示した。
【実施例6】
【0047】
パクリタキセル処置に対する腫瘍応答
抗血管形成治療応答を評価するために、ラットをパクリタキセル(40mg/kg,静脈注射)にて処置して、4日目に99mTc−糖ペプチドを用いて画像化した。腫瘍の取り込み、インシチュハイブリダイゼーション(ISH)及びTUNEL試験を、パクリタキセル処置の前後にて実施した。
【0048】
パクリタキセルにて処置されたラットにおいて、4日目において99mTc−糖ペプチドのベースラインと比較して、目立った腫瘍の進行は観察されなかった。腫瘍壊死は処置後において明らかに認められた。ISH及びTUNEL試験にて示されるように、腫瘍の取り込みと細胞の標的の発現との間には相関関係が存在する。
【実施例7】
【0049】
骨シンチグラフィーによる画像化試験
糖ペプチドが骨を標的とするために使用可能であることを検証するために、正常雌Fischer344ラット(125−175g)に、300μCiの99mTcでラベルされたパミドロネート、糖ペプチド及び糖ペプチド−パミドロネート結合体を投与した。糖ペプチド−パミドロネートは、骨を標的とすることができた(図7及び8)。
【実施例8】
【0050】
骨質損失の阻止
糖ペプチド−パミドロネート結合体、糖ペプチド又はパミドロネートを、卵巣を既に摘出した雌ラットに種々の投与量にて投与する。卵巣摘出は、ラットにおける骨粗しょう症様の骨質の損失と深い関係がある。この骨質の損失は数ヶ月間にわたり観察されるであろう。糖ペプチド−パミドロネート結合体は骨を標的とする傾向を示すので、その投与により、雌ラットにおける卵巣摘出に関連した骨質の損失を低減又は回避できることが期待できる。更に、パミドロネートは骨を良好に標的とはしないことから、パミドロネート単独とは異なり、糖ペプチド結合体を用いることにより改善された結果が得られるであろう。
【0051】
本発明及びその利点を詳細に記載してきたが、以下の請求の範囲に定義されるような本発明の精神及び範囲から逸脱することなく、種々の変更、置換及び代替がなされることが理解されるべきである。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】1A乃至1Dは、4つの型の糖ペプチドの組成物を示す。
【図2】糖ペプチドを形成するための合成反応(2A)及び糖ペプチド結合体を形成するための合成反応(2B)を示す。
【図3】糖ペプチドに結合された金属及びその他の作用物質のいずれをも有する二つの異なる糖ペプチド結合体を示す。
【図4】腫瘍及び骨限局化能を試験するための糖ペプチド及びキトサン作用物質の構造を示す。
【図5】インビトロにおける哺乳類の腫瘍細胞による99mTc−GP、99mTc−PGA、99mTc−CH(100%)の細胞取り込みを示す。
【図6】インビボにおける乳癌細胞(13762細胞系)による細胞取り込みに対する試験の結果を示す。乳癌細胞系及び炎症を起こしたラット(280−300mCi/ラット、静脈注射、500,000カウントを得た)における99mTc−CH−10(50%)、99mTc−CH−10(100%)、99mTc−PGA(750)及び99mTc−G−P(1:2)の平面シンチグラフィーは注射後120分にて実施され、腫瘍の視覚化を比較した。腫瘍対筋肉比と、腫瘍対炎症比を示す。T=腫瘍、M=筋肉、I=炎症である。
【図7】インビボにおける骨内の細胞取り込みに対する試験結果を示す。99mTc−パミドロネート(P)、99mTc−糖ペプチド(GP)、99mTc−糖ペプチド−パミドロネート(GPP)の平面シンチグラフィーは注射(300μCi/ラット、静脈注射、500,000カウントを得た)後120分にて実施した。
【図8】インビボにおける骨内の細胞取り込みに対する試験結果を示す。99mTc−パミドロネート(P)、99mTc−糖ペプチド(GP)、99mTc−糖ペプチド−パミドロネート(GPP)のラインプロファイル表示は注射(300μCi/ラット、静脈注射、500,000カウントを得た)後120分にて実施した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
糖ペプチドであって、
アミド結合を介して共有結合される配糖体と、ペプチドとを含む少なくとも二つの部分と、
前記配糖体部分又はペプチドの部分のいずれか一つに結合される診断薬又は治療薬と、
を含む糖ペプチド。
【請求項2】
診断薬又は治療薬に結合されていない部分に結合される金属を更に含む請求項1に記載の糖ペプチド。
【請求項3】
ペプチド結合を介してカルボン酸により前記配糖体に結合される診断薬又は治療薬と、
前記ペプチドにキレート結合される金属と、
を更に含む請求項2に記載の糖ペプチド。
【請求項4】
ペプチド結合を介してアミノ基により前記ペプチドに結合される診断薬又は治療薬と、
前記配糖体にキレート結合される金属と、
を更に含む請求項2に記載の糖ペプチド。
【請求項5】
前記配糖体は少なくとも共有結合される二つのモノマー単位を含み、かつ前記ペプチドはポリ(アミノ酸)を含む請求項1に記載の糖ペプチド。
【請求項6】
前記配糖体はアミノ化糖を含む請求項1に記載の糖ペプチド。
【請求項7】
前記配糖体はキトサンを含み、かつ前記ペプチドはポリ(グルタミン酸)又はポリ(アスパラギン酸)を含む請求項1に記載の糖ペプチド。
【請求項8】
前記ペプチドは、前記糖ペプチドの約5%乃至約50%の重量比で含まれる請求項1に記載の糖ペプチド。
【請求項9】
前記配糖体は、約3000ダルトン乃至約10000ダルトンの分子量を有し、かつ前記ペプチドは約750ダルトン乃至約3000ダルトンの分子量を有する請求項1に記載の糖ペプチド。
【請求項10】
前記糖ペプチドは、約5000ダルトン乃至約30000ダルトンの分子量を有する請求項1に記載の糖ペプチド。
【請求項11】
前記配糖体は、コラーゲン、コンドロイチン、ヒアルロン酸塩、ヘパリン及びそれらの任意の組み合わせからなる群より選択され、かつ前記ペプチドは、ポリ(グルタミン酸)、ポリ(アスパラギン酸)及びそれらの任意の組み合わせからなる群より選択される請求項1に記載の糖ペプチド。
【請求項12】
前記診断薬又は治療薬は、抗がん剤、関節リウマチ薬、抗凝血薬、抗血管形成薬、アポトーシス薬、骨粗しょう症薬、ステロイド、抗炎症薬及びそれらの任意の組み合わせからなる群より選択される請求項1に記載の糖ペプチド。
【請求項13】
前記診断薬又は治療薬は、メトトレキセートまたはパミドロネートを含む請求項1に記載の糖ペプチド。
【請求項14】
前記金属は放射性核種を含む請求項2に記載の糖ペプチド。
【請求項15】
前記金属は、Tc−99m、Cu−60、Cu−61、Cu−62、Cu−67、In−111、Tl−201、Ga−67、Ga−68、As−72、Re−186、Re−188、Ho−166、Y−90、Sm−153、Sr−89、Gd−157、Bi−212、Bi−213及びそれらの任意の組み合わせからなる群より選択される請求項14に記載の糖ペプチド。
【請求項16】
前記診断薬又は治療薬は、前記糖ペプチドの約10%乃至約60%の重量比で含まれる請求項1に記載の糖ペプチド。
【請求項17】
前記配糖体は、血管内皮細胞を標的とし、かつ前記ペプチドは癌細胞を標的とする請求項1に記載の糖ペプチド。
【請求項18】
キトサンとポリ(アミノ酸)とからなる糖ペプチドにおいて、
前記キトサン及びポリ(アミノ酸)はアミド結合を介して共有結合される糖ペプチド。
【請求項19】
前記キトサンはアルキルスルホン化キトサンを含む請求項18に記載の糖ペプチド。
【請求項20】
前記ポリ(アミノ酸)はポリ(グルタミン酸)又はポリ(アスパラギン酸)を含む請求項18に記載の糖ペプチド。
【請求項21】
前記キトサン又はポリ(アミノ酸)と結合される診断薬又は治療薬を更に含む請求項18に記載の糖ペプチド。
【請求項22】
前記キトサン又はポリ(アミノ酸)と結合される金属を更に含む請求項18に記載の糖ペプチド。
【請求項23】
カルボジイミド及び酸性基活性化剤の存在下において配糖体とペプチドとを結合させて、前記配糖体と前記ペプチドとの間にアミド結合を形成する工程を含む、糖ペプチドを生成する方法。
【請求項24】
前記配糖体又はペプチドと、前記診断薬又は治療薬との間にアミド又はエステル結合を形成する工程を更に含む請求項23に記載の方法。
【請求項25】
キレート化剤及び金属を、前記配糖体又はペプチドに結合させる工程を更に含む請求項23に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−241142(P2006−241142A)
【公開日】平成18年9月14日(2006.9.14)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2006−18792(P2006−18792)
【出願日】平成18年1月27日(2006.1.27)
【出願人】(506030963)タイワン ホパックス ケミカルズ マニュファクチャリング カンパニー リミテッド (5)
【氏名又は名称原語表記】TAIWAN HOPAX CHEMS.MFG.CO.,LTD
【Fターム(参考)】