糖尿病治療におけるラノスタンおよびポリア抽出物の使用
【課題】血液中の不十分なインスリンにより誘発される糖尿病を治療するための薬剤組成物の提供。
【解決手段】マツホド(Poria cocos(Schw)Wolf)の代謝産物、菌核粒子(sclerotium)または発酵産物からのポリア抽出物で、下記に代表されるラノスタン化合物
を有効成分として含むI型及びII型糖尿病治療剤。
【解決手段】マツホド(Poria cocos(Schw)Wolf)の代謝産物、菌核粒子(sclerotium)または発酵産物からのポリア抽出物で、下記に代表されるラノスタン化合物
を有効成分として含むI型及びII型糖尿病治療剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は糖尿病の治療におけるポリア抽出物の使用に関する。特に、血液中の不十分なインスリンから誘発される糖尿病の治療におけるポリア抽出化合物の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
糖尿病は富裕国の成人人口(特に高齢人口)に共通に見られる慢性疾患である。糖尿病である患者は主に二つの型に分類されうる。1つ目はI型糖尿病またはインスリン依存性糖尿病と呼ばれ、人体における自己免疫応答により、膵臓のβ−細胞が破壊され、患者の体内にインスリンを生産できなくなる。したがって、これらの患者は、その血液循環にインスリンを有さず、結果的にインスリン注射が必要となる。2つ目の糖尿病はII型糖尿病または非インスリン依存性糖尿病と呼ばれ、ここでは遺伝因子が重要な役割を担い、例えば肥満などの生活習慣の影響が当該病気の誘発において重大であると考えられているが、その原因は未だ不明である。
【0003】
紀元約500年に、「備急千金要方(Emergency Formulas Worth a Thousand in Gold)」という中国の医学文献が唐時代にまとめられ、糖尿病の治療に使用される多くの医薬の混合物が記録されており、その混合物のいくつかがポリアを含むことが知られている。2002年に、日本の研究者M.SatoらがBiological & Pharmaceutical Bulletin.にポリアの皮から得られたデヒドロトラメテノリック酸(dehydrotrametenolic acid)がII型糖尿病の治療に応用されうることを示す論文を発表した(非特許文献1)。根本的なメカニズムはインスリンに対する患者の体の感度を増強することであり(すなわち患者のインスリンに対する耐性を低下させることに相当し)、糖尿病の治療目的を達成する。しかしながら、インヴィトロで含脂肪細胞を使用した過去の実験からデヒドロトラメテノリック酸(dehydrotrametenolic acid)の効果的な濃度は10−5Mであることが明らかであり、マウスを用いたインヴィボの実験はデヒドロトラメテノリック酸の効果的な投与量は110mg/kgであることを示す。結果的に、研究者は人体に使用する有効投与量は少なくとも700mgより多いという結論に到達した。しかし700mgの有効投与量は現在採用されている臨床投与量の10倍以上に相当し、臨床薬開発における現実的な課題となっている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】M.Sato et al.,Biol.Pharm.Bull.2002,25(1),81−86.
【発明の概要】
【0005】
本発明の目的は、必要としている哺乳動物に下記化学式(I)で示されるラノスタン化合物またはその薬理上許容される塩を有効な量で投与することを含む、糖尿病の治療方法を開示することであり、前記糖尿病は哺乳動物の血液中の不十分なインスリンから誘発されるものである。
【0006】
【化1】
【0007】
式中、R1は、−Hまたは−CH3であり;R2は、−OCOCH3、=Oまたは−OHであり;R3は、−Hまたは−OHであり;R4は、−C(=CH2)−C(CH3)2Ra(この際、Raは、−Hまたは−OHである)または−CH=C(CH3)Rb(この際、Rbは、−CH3または−CH2OHである)であり;R5は、−Hまたは−OHであり;およびR6は、−CH3または−CH2OHである。
【0008】
本発明は、ポリアから抽出された有効な成分が、(1)グルコーストランスポーター4(GLUT4)の遺伝子発現(mRNA発現)を増加し、(2)GLUT4の生産を増加し、(3)脂質細胞または筋細胞の細胞膜上にGLUT4タンパク質を細胞内転移し、(4)GLUT4に細胞外のグルコースを細胞に輸送させ、および(5)インスリンが行うように細胞内にトリグリセリドを生産および蓄積することにより、機能的にインスリンの代わりとなることができることを示す。したがって、ポリアの有効成分は機能的にインスリンの代わりとなり、グルコースを血流から細胞内に輸送することができ、血液のグルコースレベルを低下する。結果として、前記成分は不十分な血液インスリンを原因とするI型糖尿病およびII型糖尿病の治療に適用される。さらに重要なことに、インヴィトロでの脂質の実験は、前記成分が0.01μMの濃度で、日本人研究者Satoの記録した10−5Mの有効濃度より1000倍小さい値であるグルコース吸収を可能とすることを示した。
【0009】
前記の本発明の目的および有利な点は添付の図面を参照すればより明確に理解できるだろう。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】図1は、ポリアから抽出され精製されたラノスタン型トリテルペン化合物の構造を示す図である。
【図2A】図2Aは、3T3−L1含脂肪細胞により糖摂取の促進においてポリア抽出物が有する効果を示す図である。
【図2B】図2Bは、インスリン(0.1μM)を30分間作用させ、精製されたトリテルペン化合物(0.01μM)を2時間作用させた時に添加された糖の種類に基づき糖の摂取に与える効果を示すグラフである。図は平均±SD(n=6)を用いて示される。コントロール群(未治療)との比較において、*はp<0.05を示し、**はp<0.01を示す。
【図3A】図3Aは、パキム酸(PA)が0.01μMで2時間投与された時に最も高い糖の摂取速度をもたらすのに効果的であったことを示す図である。図は平均±SD(n=6)を用いて示される。コントロール群(未治療)との比較において、*はp<0.05を示し、**はp<0.01を示す。
【図3B】図3Bは、PA投与量の上昇を伴う糖の摂取の増加を示すグラフである。PAは試験のために糖を添加する前2時間作用させ、図は平均±SD(n=6)を用いて示される。コントロール群(未治療)との比較において、*はp<0.05を示し、**はp<0.01を示す。
【図4】図4は、PAが異化されおよび成熟した含脂肪細胞において糖の摂取を促進させることのみを示す図である。未成熟および成熟した含脂肪細胞は最初にPAと混合されおよび2時間反応し、その後PTを加えられたならば;PAにより糖の摂取が促進されたように、前記細胞の二つの型において糖の摂取は有意に抑制される。図は平均±SD(n=6)を用いて示される。コントロール群(未治療)との比較において、記号*はp<0.05を示し、**はp<0.01を示す。
【図5A】図5Aは、PAがGLUT1の発現の促進には効果がないことを示す図である。図は平均±SD(n=3)を用いて示す。コントロール群(未治療)との比較において、記号*はp<0.05を示し、**はp<0.01を示す。
【図5B】図5Bは、PAがGLUT4の発現の促進には効果的であることを示すグラフである。異化された成熟した細胞は24時間異なるPAの濃度で治療され、GLUT1およびGLUT4の発現は分析された。図は平均±SD(n=3)を用いて示す。コントロール群(未治療)との比較において、記号*はp<0.05を示し、**はp<0.01を示す。
【図6】図6は、PAがGLUT4のmRNA発現の促進に効果的であることを示す図である。その際異化されて成熟した細胞がインスリン(0.1μM)およびPA(0.01μM)を用いて24時間別個に治療され、その後GLUT1およびGLUT4のmRNA発現が分析された。図は平均±SD(n=3)を用いて示す。コントロール群(未治療)との比較において、記号*はp<0.05を示し、**はp<0.01を示す。
【図7A】図7Aは、GLUT4の抑制されたmRNA発現を伴う含脂肪細胞においてPAが糖の摂取の促進に効果的でなかったことを示す図である。成熟した含脂肪細胞およびGLUT4(shG4−30)の抑制されたmRNA発現を伴う含脂肪細胞は濃度の異なるPAおよびインスリンを用いて治療された。その後前記GLUT4発現(図7A)が分析された。
【図7B】図7Bは、GLUT4の抑制されたmRNA発現を伴う含脂肪細胞においてPAが糖の摂取の促進に効果的でなかったことを示す図である。成熟した含脂肪細胞およびGLUT4(shG4−30)の抑制されたmRNA発現を伴う含脂肪細胞は異なる濃度のPAおよびインスリンを用いて治療された。その後前記GLUT4発現の糖の摂取における効果(図7B)が分析された。図は±SD(n=6)を用いて示す。コントロール群(未治療)との比較において、記号*はp<0.05を示し、**はp<0.01を示す。
【図8A】図8Aは、分析のために遠心分離して得られた細胞膜の異なる層にあるGLUT4タンパク質を示す図である。ここでPAは細胞内の細胞内小器官から細胞膜へGLUT4の転移を促進するのに効果的であることを示す。図は平均±SD(n=3)を用いて示す。コントロール群(未治療)との比較において、記号*はp<0.05を示し、**はp<0.01を示す。
【図8B】図8Bは、蛍光分析により細胞全体における細胞膜の層にあるGLUT4の分析を示す図である。ここでPAは細胞内の細胞内小器官から細胞膜へGLUT4の転移を促進するのに効果的であることを示す。図は平均±SD(n=6)を用いて示す。コントロール群(未治療)との比較において、記号*はp<0.05を示し、**はp<0.01を示す。
【図9A】図9Aは、含脂肪細胞においてPAがトリグリセリドの合成を促進すること、かつ(生成物としてグリセロールを与える)脂質の分解を抑制することに効果があることを示す図である。成熟した含脂肪細胞はインスリン(0.1μM)および異なる濃度のPAを用いて24時間別個に治療された。図は平均±SD(n=6)を用いて示す。コントロール群(未治療)との比較において、記号*はp<0.05を示し、**はp<0.01を示す。
【図9B】図9Bは、含脂肪細胞においてPAがトリグリセリドの合成を促進すること、かつ(生成物としてグリセロールを与える)脂質の分解を抑制することに効果があることを示す図である。成熟した含脂肪細胞はインスリン(0.1μM)および異なる濃度のPAを用いて24時間別個に治療された。図は平均±SD(n=6)を用いて示す。コントロール群(未治療)との比較において、記号*はp<0.05を示し、**はp<0.01を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の一形態は、下記式(I):
【0012】
【化2】
【0013】
ただし、R1は、−Hまたは−CH3であり;R2は、−OCOCH3、=Oまたは−OHであり;R3は、−Hまたは−OHであり;R4は、−C(=CH2)−C(CH3)2Ra(この際、Raは、−Hまたは−OHである)または−CH=C(CH3)Rb(この際、Rbは、−CH3または−CH2OHである)であり;R5は、−Hまたは−OHであり;およびR6は、−CH3または−CH2OHである、
で示されるラノスタン化合物またはその薬理上許容される塩を哺乳動物における糖尿病を治療するのに有効な量を含む、哺乳動物における糖尿病を治療するための薬剤組成物を提供する。本発明によると、ラノスタン化合物(I)もしくはその薬理上許容される塩または上記ラノスタン化合物(I)もしくはその薬理上許容される塩を含むポリア抽出物を使用することによって、哺乳動物における糖尿病を治療できる。
【0014】
本発明において、糖尿病は、哺乳動物の血液中の不十分なインスリンから誘発されるI型の糖尿病またはII型の糖尿病を含む。
【0015】
本発明の有効成分(活性成分)は、予防または治療するための医療用途のため、注射または経口により安全に投与され、また、当該投与により、糖尿病を予防または治療できる。好ましくは、例えば錠剤、カプセル剤、散剤、顆粒剤、シロップ剤等の形態で経口投与されうる。ただし、経皮投与や皮下投与の形態で非経口により投与されてもよい。また、従来公知の手法により徐放剤の形態とされてもよい。
【0016】
本発明で使用される哺乳動物(例えば、ヒト)による哺乳動物における糖尿病を予防または治療するためのラノスタン化合物(I)は、下記式(I)で示される。
【0017】
【化3】
【0018】
上記式(I)中、R1は、−Hまたは−CH3である。R2は、−OCOCH3、=Oまたは−OHである。ここで、R2が=Oであるとは、R2の結合している炭素原子に結合する水素原子が脱離し、R2の結合および前記水素原子の脱離に伴う結合の双方が、C=Oを形成するための二重結合に関与する。すなわち、R2が=Oであるときは、ラノスタン化合物(I)は、下記構造を有する。
【0019】
【化4】
【0020】
また、R3は、−Hまたは−OHである。R4は、−C(=CH2)−C(CH3)2Ra(この際、Raは、−Hまたは−OHである)または−CH=C(CH3)Rb(この際、Rbは、−CH3または−CH2OHである)である。R5は、−Hまたは−OHである。R6は、−CH3または−CH2OHである。
【0021】
前記式(I)において、R1は、好ましくはHであり、R3は、好ましくはOHであり、R4は、好ましくは−C(=CH2)−C(CH3)2Ra(この際、Raは、好ましくはHである)であり、R5は、好ましくはHであり、R6は、好ましくはCH3である。すなわち、ラノスタン化合物(I)は、下記式で表わされる化合物が好ましい。
【0022】
【化5】
【0023】
本発明で使用される哺乳動物(例えば、ヒト)による哺乳動物における糖尿病を予防または治療するためのラノスタン化合物(I)は、下記式で表される化合物が特に好ましい。
【0024】
【化6】
【0025】
本発明の他の形態である薬剤または薬剤組成物は、有効成分(活性成分)として、ラノスタン化合物(I)を含む。適当なラノスタン化合物(I)源としては、ポリア抽出物がある。または、当該ラノスタン化合物(I)は、冬虫夏草(Cordyceps sinensis)、樟芝(Antrodia cinnamomea)またはマンネンタケ(Granodema lucidum)から得てもよい。以下では、本発明に係るラノスタン化合物(I)をポリア抽出物から得る方法について説明する。しかし、本発明は、下記形態に限定されない。
【0026】
本発明のラノスタン化合物(I)は、粗抽出物を得る、従来の抽出工程を利用することにより、ポリア(例えば、マツホド)から得られる。すなわち、ラノスタン化合物(I)の供給源として、ポリア抽出物(Poria extract)が使用されることが好ましい。この際、哺乳動物(例えばヒト)による栄養の摂取を促進するための本発明において開示されるポリア抽出物は、例えばUS 2004/0229852A1に開示されている方法と同様の方法で調製することができる。前記明細書のプロセスは、具体的には、マツホド(Poria cocos (Schw) Wolf)を従来の抽出方法により抽出して粗抽出物を得ることができる。前記粗抽出物は、クロマトグラフィーによってラノスタン(lanostane)の低極性留分(ジクロロメタン:メタノール=96:4(体積比))およびセコラノスタン(secolanostane)の高極性留分(ジクロロメタン:メタノールが体積比90:10または0:100の溶離液使用)に分離する。ここで、ジクロロメタン:メタノール=96:4(体積比)の混合溶媒によって薄層クロマトグラフィーで展開したときに、ラノスタン留分はクロマトグラフィー値(Rf)が0.1以上のところで検出され、また、セコラノスタン留分はRfが0.1未満のところで検出される。いくつかのラノスタンはラノスタン留分をシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより溶出することで分離される。ここで前記溶出はジクロロメタン:メタノール=97:3〜95:5の体積比(より好ましくは97:3〜96:4、特に好ましくは96.5:3.5の体積比)である極性の低い溶離液を使用し、ラノスタン画分をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで溶出することにより、いくつかのラノスタンをラノスタン画分から分離する。
【0027】
すなわち、ラノスタン化合物(I)またはポリア抽出物の調製方法の好ましい実施形態は、a)水、メタノール、エタノールまたはこれらの混合溶媒によって、マツホド(Poria cocos(Schw)Wolf)の代謝産物、発酵産物または菌核粒子(sclerotium)を抽出し;b)前記a)工程から得られた液体抽出物を濃縮し;c)前記b)工程から得られた濃縮物をシリカゲルカラムに導入し;d)極性の低い溶離液で前記シリカゲルカラムを溶出し、溶出液を集め;e)前記溶出液を濃縮して、溶出濃縮物を形成することを含む。
【0028】
ここで、上記e)工程で得られた溶出濃縮物は、薄層クロマトグラフィーのRf値が少なくとも0.1(Rf値=0.1以上)であり、この際、薄層クロマトグラフィーは、ジクロロメタン:メタノール=96:4(体積比)の混合溶媒で展開し、紫外線ランプとヨード蒸気で検出することが好ましい。
【0029】
前記a)工程における抽出は95%エタノールを用いることによって行われることが好ましい。また、前記a)工程における抽出は、Poria cocos (Schw) Wolfの代謝産物、発酵産物または菌核粒子を熱湯または沸騰水で抽出して抽出物水溶液を得、pHが9〜11になるまで、得られた抽出物水溶液に塩基を添加して塩基性水溶液を得、かかる塩基性水溶液を回収し、pHを好ましくは4〜7、より好ましくは4〜6になるまで、この塩基性水溶液に酸を添加して沈殿物を形成し、かかる沈殿物を回収して、エタノールで沈殿物を抽出し、抽出物溶液を回収することを有することが好ましい。
【0030】
前記b)工程で得られる濃縮物は、メタノールとn−ヘキサンを体積比1:1で含む二相の溶媒でさらに抽出し、メタノール層を二相の溶媒による抽出混合物から分離し、メタノール層を濃縮することによって濃縮物を形成し、当該濃縮物を前記c)工程におけるシリカゲルカラムにフィードとして用いることが好ましい。
【0031】
上記方法によって得られるポリア抽出物中のラノスタン化合物(I)の含有量は、糖尿病の予防・治療効果を達成できる程度であれば特に制限されないが、ポリア抽出物が、ポリア抽出物の重量に対して、1〜60重量%、好ましくは5〜35重量%のラノスタン化合物(I)を含むことが好ましい。
【0032】
また、上記方法によって得られるポリア抽出物は、実質的にセコラノスタン(secolanostane)を含まないことが好ましい。ここで、「実質的にセコラノスタン(secolanostane)を含まない」とは、本発明の薬剤または薬剤組成物が、ラノスタン化合物(I)またはポリア抽出物による糖尿病の予防・治療効果を損なわない程度であることを意味し、具体的には、セコラノスタンの含有量は、ラノスタン化合物(I)の含有量の5重量%未満であることが好ましく、より好ましくは、ポリア抽出物は、セコラノスタン(secolanostane)を全く含まないのが好ましい。
【0033】
本発明に係る薬剤または薬剤組成物は、上記ラノスタン化合物(I)もしくはその薬理上許容される塩、または当該ラノスタン化合物(I)もしくはその薬理上許容される塩を含むポリア抽出物を含む。好ましくは、本発明に係る薬剤または薬剤組成物は、有効成分(活性成分)として、単離されたラノスタン化合物(I)またはその薬理上許容される塩を含む。ここで、ラノスタン化合物(I)もしくはその薬理上許容される塩は、単独で使用されてもあるいは2種以上の混合物として使用されてもよい。
【0034】
本発明において、ラノスタン化合物(I)の薬理上許容される塩の形態は、糖尿病の予防・治療効果を発揮でき、また、哺乳動物に悪影響を与えない形態であれば特に制限されない。具体的には、塩酸、臭化水素酸、リン酸、硫酸、メタンスルホン酸、酢酸、酒石酸、乳酸、コハク酸、クエン酸、リンゴ酸、マレイン酸、ソルビン酸、アコニット酸、サリチル酸、フタル酸、エンボニックアシッド(embonic acid)、エナント酸などの有機および無機酸から誘導される塩;ナトリウム塩、カリウム塩、アルミニウム塩などの塩基から誘導される塩などの、生理学的に許容できる無毒な塩が挙げられる。
【0035】
また、本発明に係る薬剤または薬剤組成物中の、上記ラノスタン化合物(I)もしくはその薬理上許容される塩、または当該ラノスタン化合物(I)もしくはその薬理上許容される塩を含むポリア抽出物の含有量は、糖尿病の予防・治療効果を発揮でき、また、哺乳動物に悪影響を与えない程度であれば特に制限されない。好ましくは、本発明に係る薬剤または薬剤組成物は、薬剤または薬剤組成物の全量に対して、前記ラノスタン化合物(I)またはその薬理上許容される塩を、1〜60重量%、好ましくは5〜35重量%で含有する。また、本発明の薬剤または薬剤組成物において、好ましくは、セコラノスタンは含まれない。かような形態によれば、毒性を示すおそれのあるセコラノスタンの含有量が低減されているため、ラノスタン化合物(I)もしくはその薬理上許容される塩による糖尿病の予防・治療効果がより一層向上しうる。
【0036】
本発明に係る薬剤または薬剤組成物は、上記ラノスタン化合物(I)もしくはその薬理上許容される塩、または当該ラノスタン化合物(I)もしくはその薬理上許容される塩を含むポリア抽出物に加えて、薬理上許容される賦形剤または希釈剤をさらに含んでもよい。ここで、薬理上許容される賦形剤または希釈剤は、特に制限されず、従来公知の形態が適宜採用されうる。担体としては、例えば、乳糖、白糖、塩化ナトリウム、ブドウ糖、尿素、澱粉、炭酸カルシウム、カオリン、結晶セルロース、ケイ酸等の賦形剤;水、エタノール、プロパノール、単シロップ、ブドウ糖液、澱粉液、ゼラチン溶液、カルボキシメチルセルロース、セラック、メチルセルロース、リン酸カリウム、ポリビニルピロリドン等の結合剤;乾燥澱粉、アルギン酸ナトリウム、寒天末、ラミナラン末、炭酸水素ナトリウム、炭酸カルシウム、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類、ラウリル硫酸ナトリウム、ステアリン酸モノグリセリド、澱粉、乳糖等の崩壊剤、白糖、ステアリン、カカオバター、水素添加油等の崩壊抑制剤;第4級アンモニウム塩基、ラウリル硫酸ナトリウム等の吸収促進剤;グリセリン、澱粉等の保湿剤;澱粉、乳糖、カオリン、ベントナイト、コロイド状ケイ酸等の吸着剤;精製タルク、ステアリン酸塩(ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸ナトリウム等)、硼酸末、ポリエチレングリコール等の潤沢剤等が挙げられる。また、希釈剤としては、例えば、水、エタノール、プロピレングリコール、エトキシ化イソステアリルアルコール、ポリオキシ化イソステアリルアルコール、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類等が挙げられる。なお、これらの担体および希釈剤はあくまでも例示であり、これらには全く制限されない。
【0037】
また、本発明に係る薬剤または薬剤組成物は、常法に従い、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、矯味矯臭剤、溶解補助剤、懸濁剤、着色剤、pH緩衝剤、防腐剤、ゲル化剤、界面活性剤、コーティング剤等、医薬の製剤分野において通常使用し得る公知の補助剤を用いて製剤化されうる。また、必要に応じて着色剤、保存剤、香料、風味剤、甘味剤、他の医薬等と混合されてもよい。
【0038】
本発明に係る薬剤または薬剤組成物は、ヒトを含む哺乳動物に対し、注射または経口により安全に投与され、また、当該投与により、糖尿病を予防または治療できる。好ましくは、例えば錠剤、カプセル剤、散剤、顆粒剤、シロップ剤等の形態で経口投与されうる。ただし、経皮投与や皮下投与の形態で非経口により投与されてもよい。また、従来公知の手法により徐放剤の形態とされてもよい。
【0039】
本発明において、「哺乳動物」としては、特に制限されず、例えばヒト、サル、マウス、ウマ、ウシ、ブタ、イヌ、ネコ、モルモット、ウサギおよびラット等が例示される。なかでも、ヒト、サル並びに、イヌおよびネコ等の愛玩動物、モルモット、ウサギおよびラット等の実験動物がより好ましく、ヒトが特に好ましい。
【0040】
後述する実施例は、本発明をさらに詳細に説明するために提供するものであり、本発明
の範囲を限定するために使用してはならない。
【0041】
本明細書においてパーセンテージおよびその他の量は、特に指摘しない限り重量基準である。パーセンテージは全体が100%となる任意の範囲から選択される。
【実施例】
【0042】
実施例1
雲南で成長させたポリア26kgを、加熱しながら75%水性アルコール(エタノール)溶液260リットルで抽出した。抽出は3回繰り返し、得られた3つの抽出溶液を合わせて、真空濃縮して、抽出物225.2gを得た。続いて、その抽出物について定量分析を行い、その1グラムあたりにラノスタン76.27mgが含まれていた。ここで、K1(パキム酸(pachymic acid))は33.4mg、K1−1(デヒドロパキム酸(dehydropachymic acid))は9.59mg、K2−1(ツムロス酸(tumulosic acid))は19.01mg、K2−2(デヒドロツムロス酸(dehydrotumulosic acid))は6.75mg、K3(ポリポレン酸C(polyporenic acid C))は5.06mg、およびK4(3−エピデヒドロツムロス酸(3−epidehydrotumulosic acid))は2.46mgを占めた。
【0043】
実施例2
実施例1で得られたアルコール抽出物125gを、さらに1.3リットルのジクロロメタンで6回抽出し、得られた6つの抽出溶液を合わせて濃縮して、抽出物22.26gを得た。このジクロロメタン抽出物を、加熱した95%アルコール溶液に溶解し、放置して冷却し、次いでろ過し、不溶物を廃棄した。ろ液中のアルコール濃度が45%になるまで少量の水をろ液に加えて、沈殿させ、遠心分離により沈殿物17.4gを得た。続いて、この沈殿物を定量分析したところ、沈殿物1グラムあたり、ラノスタン264.78mgが含まれることが分かった。ここで、K1−1は159.7mg、K1−2は56.96mg、K2−1は24.43mg、K2−2は8.8mg、K3は9.84mg、およびK4は5.05mgを占めた。シリカゲルの薄層クロマトグラフィー(TLC)法により、前記沈殿物はセコラノスタンを全く含まないことを確認した。
【0044】
実施例3
ポリア100kgを水800kg中で3時間煮沸し、その後放置して50℃になるまで冷却し、5N NaOH溶液を用いて、pH値を11になるように調整し、次いでその溶液を3時間攪拌した。遠心分離機を使用して、固形物から液体を分離し、分離した固形物にさらに水800kgを加えた。pH値をNaOHで11に調整し、攪拌し、遠心分離により固形物を除くことを含む、上記の手順を繰り返した。得られた2つの液体を合わせて、50℃で真空濃縮して100kgの溶液とし、次いで、3N HClを用いてpH値を6.5になるように調整して、沈殿物を生成した。前記沈殿物を溶液から分離し、続いてH2O 40Lで洗浄し、沈殿物を回収するために遠心分離した。沈殿物は水8Lを用いて噴霧乾燥し、380gの粉末を得た。その後、前記粉末を4Lのアルコールを用いて3回抽出し、抽出溶液を合わせて濃縮し、アルコール抽出物238.9gを得た。この238.9gのアルコール抽出物は、TLC分析によりセコラノスタン化合物を全く含まないことが証明された。次いで、この238.9gのアルコール抽出物を、HPLCにより分離し、抽出物1グラムにつき、K2を214mg、K3を23mg、K4を24mgおよびK1を4.52mg得た。言い換えれば、抽出物1グラムは約265mgのラノスタン化合物を含む。
【0045】
また、粉末を50%水性アルコール(エタノール)溶液4Lを用いて抽出し、その50%水性アルコール(エタノール)溶液を除き、不溶性粉末を得た。抽出は三回繰り返し、50%水性アルコール(エタノール)溶液に不溶性の物質245.7gを得た。この不溶性物質はTLC分析によりセコラノスタン化合物を全く含まないことが確認された。その後、HPLCによる分離および精製プロセスを行い、抽出物1グラムにつき、K2を214mg、K3を23mg、K4を24mgおよびK1を4.52mg得た。これは、抽出物1グラムにつきラノスタン化合物約が261mg得られたことと同等である。
【0046】
実施例4
ポリア粉末を中国で成長したマツホド(Poria cocos(Schw) Wolf)30kgから製造した。このポリア粉末は、95%アルコール120Lを用いて24時間かけて抽出された。この混合物をろ過し、ろ液を得た。残渣は3回抽出して、ろ過した。ろ液を合わせて濃縮し、265.2gの量の乾燥抽出物を得た。乾燥抽出物は、二相抽出剤(n−ヘキサン:95%メタノール=1:1(体積比))を用いた分配抽出を行い、そこからメタノール相を除き、その後、濃縮して246.9gの量の乾燥した固形物を得た。乾燥固形物は、乾燥固形物の10〜40倍の重量のシリカゲルを充填したシリカゲルカラムを用いて分離した。70〜230メッシュの直径を有する前記シリカゲルは、Merck社製シリカゲル60を用いて準備した。前記カラムは次の溶離液を順に用いて溶出した:ジクロロメタン:メタノール=96:4(体積比)の混合溶媒;ジクロロメタン:メタノール=90:10(体積比)の混合溶媒;および純粋メタノール。溶離液は、薄層クロマトグラフィー(TLC)によって試験した。ここで、検出には紫外線ランプおよびヨウ素蒸気を用い、ジクロロメタン:メタン=96:4(体積比)の混合溶媒を展開液として使用した。TLCにおいて類似の組成を有する溶出液は混合した。
【0047】
ジクロロメタン:メタノール=96:4(体積比)の混合溶媒を用いて溶離し、78gの量のPCM部分を得た。前記PCMは薄層クロマトグラフィーにおいて6つのスポット跡を示した。ジクロロメタン:メタノール=90:10(体積比)および純粋メタノールの溶離液を用いた溶出により得られた溶出液を混合し、168gの量のPCW部分を得た。
【0048】
前記PCM部分は、ジクロロメタン:メタノール=96.5:3.5(体積比)の溶離液および同様のシリカゲルカラムを使用してさらに分離し、K1(K1−1およびK1−2)、K2(K2−1およびK2−2)、K3、K4、K4a、K4b、K5、K6aおよびK6bの精製ラノスタン成分を得た。なお、前記分離工程および同定分析データの詳細については、US2004/0229852A1公報に記載されるのと同様である。
【0049】
前記K1〜K6b化合物は下記の構造を有する:
【0050】
【化7】
【0051】
PCM部分から分離されたラノスタン化合物K1〜K6bの量は下記表1に列記される。PCM部分は、ラノスタン化合物K1〜K6bを約15wt%含む。
【0052】
【表1】
【0053】
実施例5
実施例4で調製されたPCM部分を有するカプセルを下記表2に示される組成に基づいて調製した。
【0054】
【表2】
【0055】
PCM部分およびケイアルミン酸ナトリウムは、#80メッシュを使用してふるい分けし、ジャガイモデンプンは#60メッシュを使用してふるい分けし、ステアリン酸マグネシウムは#40メッシュを使用してふるい分けした。続いて、上記成分はミキサーで均一に混合し、次いで得られた混合物はNo.1の空カプセルに充填した。各カプセルは、有効成分K1〜K6を約1.68mg(0.42wt%)含んでいる。
【0056】
実施例6
トリテルペン化合物のI型糖尿病を予防および治療するための使用を調査する実験
下記の細胞実験のために使用された前記ポリア抽出物は実施例2で製造された沈殿または図1に示された精製された化合物であった。前記抽出物はアルコール:DMSO(9:1(体積比))の溶媒に溶解され、得られた溶液は培養皿に加えられ、最終体積の1000分のIまで各ウェルに加えられた。
【0057】
1.含脂肪細胞の細胞培養
3T3−L1ははじめ紡鐘型細胞に見られるげっ歯類の前含脂肪細胞の一種である。細胞は誘導剤とともに加えられ2−3日間培養された際、細胞は変形し、より丸い形態になる。数日後、前記細胞は異化し、より特別な細胞になる。異化の進行していない細胞における主なグルコース輸送体はGLUT1であり、異化した細胞においては主に活性なグルコース輸送体はGLUT4である。さらに、細胞膜上においてGULT4が多ければ多いほど、血液グルコースがより早く、より大量に細胞膜へ転移し、細胞に吸収され、血液グルコースはより急速に少なくなる。前記3T3−L1含脂肪細胞はインスリンにより活性化されるグルコース吸収の包括的なシステムを有し、脂質の生産および調整の完全な過程を観察すると同様、グルコース代謝およびインスリン信号化過程の調査に十分である。したがって、全体が異性化した3T3−L1含脂肪細胞は広く利用される代表的な細胞株であり、ヒト組織からの真性の含脂肪細胞の連続的な培養をするのが困難であるため、研究者は一般的にこの特別な細胞株を関連実験および評価をするために使用する。
【0058】
(a)含脂肪細胞の細胞培養
3T3−L1前含脂肪細胞は37℃でCO25%および空気95%中、ペニシリン100IU/mL、ストレプトマイシン(streptomycin)100g/mL、1%の非必須アミノ酸(nonessential amino acid)および10%の子牛血清(calf serum)を補われているDulbecco最小必須培地(DMEM)中で培養された。一度細胞は完全に成長し、異化は異化誘導剤(3−イソブチルー1−メチルキサンタン(3−isobutyl−1−methylxanthane)(IBMX)0.5mM、デキサメタゾン(dexamethasone)1M、インスリン10g/mLおよびウシ胎仔血清(fetal bovine serum)10%を含むDMEM)を用いて細胞を2日間処理させた。前記細胞は10g/mLインスリンおよび10%FBSで補われているDMEMを用いてさらに2日間再培養され、その後インスリンを含まない10%のFBS/DMEMに2日おきに変更して4−6日間培養された。この時点で、約90%の細胞が含脂肪細胞表現型を発現し、実験の準備が整っていた。実験を開始する前に、前記3T3−L1細胞ははじめPBS溶液で洗浄し、血清およびインスリンの両方からの阻害を除くため、血清およびインスリンを含まない0.2%BSA/DMEM培地中一晩培養された。
【0059】
(b)GLUT4実験の阻害されるmRNA発現のために使用される含脂肪細胞の培養
GLUT4を阻害するRNAを運送するウィルス性担体(TRCN0000043630 shRNA, Genomics Research Center, Academia Sinica, R.O.C.)は、GLUT4発現を着実に阻害する遺伝子を発現させるため、3T3−L1前含脂肪細胞(shG4−30)を感染するために使用され、細胞株は異化された含脂肪細胞を実験で使用するた、異化された。
【0060】
(c)GLUT4タンパク質の転移を試験するために使用される含脂肪細胞の培養:
インフルエンザウィルスタンパク質HAマークされたGLUT4担体(HA−GLUT4−GFP, Timothy E. McGraw, Weill Cornell Medical Collegeより提供)がリポフェクタミン(Lipofectamine 2000 (Invitrogen,CA,USA))により3T3−L1前含脂肪細胞に核酸を導入するために使用され、HAマーキングしているインフルエンザウィルスタンパク質により着実に発現されたGLUT4タンパク質がG418を用いて映し出された。前記細胞は含脂肪細胞に異化されGLUT4タンパク質の転移を評価するのに使用された。
【0061】
2.2−デオキシグルコース摂取の評価
3T3−L1含脂肪細胞によるグルコース摂取の促進におけるトリテルペン化合物の効果を試験する実験のために、3T3−L1前含脂肪細胞は6つのウェルを有する培養皿で培養され、異化誘導試薬を用いて異化される前に十分に成長させた。3T3−L1細胞は成熟し7−12日後に含脂肪細胞に異化されると、その細胞はグルコース摂取試験に使用された。前記含脂肪細胞ははじめ血清を含まない培地(0.2% BSA/DMEM)中に一晩置かれ、次いで2−6時間トリテルペン化合物を異なる濃度で含む血清を含まない細胞培地中で培養し、KRP緩衝液(20mMのHEPES,137mMのNaCl,4.7mMのKCl,1.2mMのMgSO4,1.2mMのKH2PO4,2.5mMのCaCl2,および2mMのピルビン酸塩,pH7.4および0.2%のBSA)中、37℃で3時間培養する前にPBS溶液で1回洗浄した。最後に0.2 μCi/mLの2−デオキシ−D−[14C]−グルコース(2−DG,Amersham Biosciences,Little Chalfont,Bucks,英国)と0.1mMの2−DG由来の0.2mlの非放射性グルコース緩衝溶液がグルコース摂取の実験を開始するためにKRP緩衝溶液の代替として使用された。5分間実験を行った後、グルコースの摂取を停止するために細胞は除去されPBS溶液で洗浄された。続いて、前記細胞は0.2mlの0.2%SDS中に溶解され、細胞を溶解した10μLの溶液はろ過基盤の付属したUniFilter plates(Perkim−Elmer,Wellesley,MA,USA)に移され、37℃で真空炉中乾燥され、それぞれのウェルに30mLの計数溶液を加え、それからマイクロディスク液体シンチレーション分析装置(TopCount,Packard NXT,Packard BioScience Company,Meriden,CT,米国)により分析された。細胞中に蓄積されたグルコースの濃度は計算され、タンパク質濃度で除算することで、毎分の細胞タンパク質のマイクログラム毎のナノモル量(nmol/min/mg)として示されるグルコース摂取速度を得た。前記タンパク質濃度は標準ビシンコニン酸(BCA)タンパク質分析装置(Pierce,Rockford,IL,米国)を用いて決定された。非特異性のグルコースの摂取は0.2μCiのL−[14C]−グルコースを加えて決定され、特異的なグルコースの摂取量を得るために分析して得られた値から減算するために使用された。したがって、3T3−L1含脂肪細胞によるグルコース摂取における異なる濃度のトリテルペン化合物の影響を決定することができる。
【0062】
3.GLUT1および4タンパク質の評価
3T3−L1含脂肪細胞中GLUTタンパク質発現の促進におけるトリテルペン化合物の効果を調査する実験に、前述した異化され成熟した3T3−L1含脂肪細胞は血清を含まない培地中一晩培養され、それから異なる濃度のトリテルペン化合物を含む血清を含まない細胞培地中で24時間さらに培養された。その後、PBS溶液でその細胞を洗浄し、0.2mLの溶解緩衝液(1%のNP−40,150mMのNaCl,0.1%のSDS,50mMのTris−HCl pH 7.6,10mMのEDTA,0.5%のデオキシコール酸塩(deoxycholate),1mMのPMSF,1mMのNa3VO4,10mMのNaF,10mMのβ−グリセロリン酸エステル(β−glycerophosphate),10g/mLプロテアーゼ阻害剤(protease inhibitor)およびフォスフォターゼ阻害剤カクテル(phosphotase inhibitor cocktails))中、30分間4℃で前記細胞を溶解した。それぞれのサンプルからドデシル硫酸ナトリウム(SDS)−10%のポリアクリルアミドゲル電気泳動により等量のタンパク質を分けとり、二弗化ポリビニリデン(PVDF)膜(Millipore,Bedford,MA,米国)上にブロットされた(transblotted)。続いて、ウェスタンブロット分析(Western blot analysis)をGLUT1(Abcam,Cambridge,MA)、GLUT4(R&D systems,Minneapolis,MN)および(β−Actin,Chemicon,Temecula,CA,USA)に対してモノクローナル抗体を用いて行い、トリテルペン化合物の異なる濃度の下では3T3−L1含脂肪細胞中GLUTタンパク質発現に影響があるか否かを決定した。それぞれのタンパク質のサンプルはX線に露光される前に化学発光セット(ECL,Amersham,英国)を用いて処理され、コンピュータソフトを用いて定量的に分析された。
【0063】
4.GLUT1および4の遺伝子発現の評価
リアルタイムのQ−PCRは異なるトリテルペン化合物濃度において3T3−L1含脂肪細胞中のGLUTタンパク質のmRNA発現を評価するために使用された。はじめ十分に異化された3T3−L1含脂肪細胞は異なる濃度のトリテルペン化合物と混合され、細胞培地を除去しトリゾール緩衝液(Trizol buffer(Invitrogen, Irvine,CA,米国))を使用してRNA全体を細胞から得るために、使用する前に24時間放置された。後に1μgのRNAサンプルがそこから取上げられ、高解像cDNA転写キット(High−Capacity cDNA Reverse Transcription Kit (Applied Biosystems,Darmstadt,独国))が使用されサンプル中のmRNAをcDNAに逆転写させた。プライマーは特にGLUT1、GLUT4およびβアクチン用にデザインされ、相対的な遺伝子発現値がStepOne v2.0ソフトウェア(Applied Biosystems)を用いたΔΔCT方法により計算される前に、検出遺伝子(Glut1&Glut4)および参照遺伝子(β−actin)の検出のためそれらの遺伝子を増幅するためにYBRグリーンQ−PCR分析器(Applied Biosystems,Foster City,CA,米国)が使用された。
【0064】
5.GLUT4タンパク質の転移の評価
(1)GLUT4タンパク質の転移の分析
含脂肪細胞または筋細胞によるグルコース摂取を促進させるインスリンの機構において、細胞内小器官から原形質膜(PM)へのGLUT4の転移は実際に極めて重要であり、3T3−L1含脂肪細胞中におけるGLUT4の原形質膜への転移の促進においてトリテルペン化合物の効果がここで調査された。異化され成熟した3T3−L1含脂肪細胞は血清を含まない細胞培地中で一晩培養され、それからトリテルペン化合物を異なる濃度で含む血清を含まない細胞培地中さらに2時間培養された。次いで、細胞原形質膜部位を低密度ミクロソーム(LDM)から分離するために、これを高速遠心分離した[Liu,L.Z.et.al.;Mol Biol. Cell 17,(5),2322−2330,2006]。ウェスタンブロット分析(Western blot analysis)は3T3−L1含脂肪細胞中、細胞内LDMからPMにGLUT4が転移する際にトリテルペン化合物の異なる濃度が与える影響があるか否かを観察するためにGLUT4のためのモノクローナル抗体を用いて行われた。
【0065】
(2)GLUT4タンパク質の転移の分析
安定にHA−GLUT4−GFPを発現する3T3−L1前含脂肪細胞は96−ウェル培地皿で培養させられ、それから十分に培養された後に誘導試薬により異化された(Govers,R.et.al.;Mol Cell Biol.24(14),6456−6466,2004)。十分に異化された3T3−L1含脂肪細胞は異なる濃度のトリテルペン化合物を添加し、2時間放置され、細胞培地を除き氷冷したPBS溶液でその細胞を洗浄した。続いて、細胞は15分間室温で4%のパラホルムアルデヒド中に固定され、細胞を氷冷したPBS溶液で2,3回洗浄した後に初期の赤血球凝集索(primary anti−hemagglutinin)(HA)抗体(12CA5)を用いて2時間培養され、この後に細胞は再度氷冷したPBS溶液で2,3回洗浄され、ローダミン共役第2抗体(rhodamine−conjugated secondary antibodies)と共に1時間培養された(Leinco,Ballwin,MO)。細胞は、蛍光マイクロタイタープレートリーダー(POLARstar Galaxy;BMG Labtechnologies,Offenburg,独国)を使用してローダミンおよびGFPから励起された蛍光波長(Em.480/Ex.425nm および Em.576nm/Ex.550nm)を測定する前に再度氷冷したPBS溶液で洗浄された。GFP蛍光に対するローダミン蛍光の割合は計算され、原形質膜へ転移されたHA−GLUT4−GFPの相対量を評価するために使用された。HAタグ化されたGLUT4は原形質膜に転移した後にローダミンでラベルされうるので、その割合は原形質膜へのGLUT4転移の評価に有益であった。
【0066】
6.トリグリセリドの蓄積およびグリセロールの遊離の効果
トリグリセリドの堆積と3T3−L1含脂肪細胞内のグリセロールの遊離においてトリテルペン化合物の効果を調査する実験のために、異化して成熟した3T3−L1含脂肪細胞が血清を含まない細胞培地中一晩培養され、トリテルペン化合物を異なる濃度で含む血清を含まない細胞培地中でさらに24時間培養された。その培地は集められグリセロールアッセイキット(Randox Laboratories,Antrim,英国)を用いて異なる濃度のトリテルペン化合物が3T3−L1含脂肪細胞中脂質分解からグリセロールの遊離において効果があるかどうかを決定するためグリセロールの遊離について調査された。含脂肪細胞においてトリグリセリドのレベルはオイルレッドO染色により決定された(Ramirez−Zacarias,J.L.et.al.;Histochemistry 97,(6),493−497,1992)。細胞内で脂質の堆積により形成された油滴が染色され、60%イソプロパノールで2回洗浄され、そして100%イソプロパノールで抽出され490nmの吸収で定量された。その測定値は、含脂肪細胞において異なる濃度のテルペン化合物がトリグリセリドの蓄積に与える効果を評価するために、トリテルペン化合物が与えられなかった含脂肪細胞からの測定値と比較された。
【0067】
実験結果はインスリンのような結果を示し、すなわちトリテルペン化合物は次の4つの性質を有し、I型糖尿病の治療に効果的である。
【0068】
(1)含脂肪細胞モデルにおいて、ポリアの成分または抽出物は細胞外のグルコースの細胞内への吸収を促進するのに効果的であった:
成熟した含脂肪細胞においてポリア抽出物の効果の評価(実施例2)から、図2Aに示されるように;ポリア抽出物はグルコース摂取の増加に明らかに効果的であり、グルコース摂取の増加の効果は細胞に与えられる投与量の増加に正の相関がある。一方、インスリン100nMの添加もまたグルコース摂取量の増加に効果的であった。実施例2の純粋な化合物はさらに実験に使用された。図2Bは0.01μMの純粋な化合物を含脂肪細胞に投与後2時間後に、PA、TAおよびPPAの3つの化合物はグルコース摂取量を165.89%、142.5%、および147.9%に有意に増加した。PAにより誘導される増加が最も顕著であり、以下における評価はPAを基準にして行った。
【0069】
図3Aによれば、グルコース摂取量の増加におけるPAの効果は時間の経過に連れて増加し、投与後2時間において最も著しかった(165.89%に増加した)。加えて、PA濃度の増加はグルコース摂取量を増加させた。図3Bにおいて見られるように、PAが1μMで与えられた際に、グルコース摂取量は209.84%に増加した。
【0070】
図4によると、PAは異化された含脂肪細胞におけるグルコース摂取の促進に効果的であるのみで、前含脂肪細胞においては効果的ではなかった。プロレチン(phloretin(PT))が前含脂肪細胞および含脂肪細胞の両方に投与されたとき、両方の細胞の種類においてグルコース摂取量は有意に阻害された。過去の調査文献によると、前含脂肪細胞はGLUT1を有するのみであり、含脂肪細胞はGLUT4を有する。したがって、PAはGLUT4の増加によりグルコース摂取量を増加すると考えられる。
【0071】
(2)PAの効果、トリテルペン化合物;成熟した含脂肪細胞におけるGLUT4のタンパク質およびmRNA発現の促進における
図5はPAの異なる投与量を24時間成熟した含脂肪細胞に投与し、続いてGLUT1および4のタンパク質発現におけるPAの効果を評価するためにGLUT1および4のウェスタンブロット分析(Western blot analysis)行った。その結果は、PAはGLUT4のタンパク質発現の促進に効果的である(図5A)がGLUT1のタンパク質発現を促進には効果的でない(図5B)ことを示した。
【0072】
Q−PCRおよび成熟した3T3−L1含脂肪細胞におけるGLUTタンパク質のmRNA発現におけるPAの異なる濃度の効果を調査するため、特別なプローブを使用した結果は図6に示され、1μMのPAがGLUT4の遺伝子発現を228%に高めることを明らかにし、これは推奨されているPAはGLUT4の遺伝子およびタンパク質発現を調整しうることを示す。さらに、mRNA阻害方法(mRNA−interfering method)はGLUT4の発現が一貫して低い3T3−L1含脂肪細胞の生産に使用され(図7A)、含脂肪細胞がさらにグルコース摂取を評価するために使用され、それは図7Bにおいて示され、PAの異なる摂取量が含脂肪細胞においてグルコース摂取をあまり促進させなかったことを示し、それにより、PAはGLUT4発現に直接的に影響することによりグルコース摂取を促進することを明らかにした。
【0073】
(3)成熟した含脂肪細胞内の細胞内小器官から原形質膜へのGLUT4の転移の促進におけるPAの効果
グルコース摂取を促進するインスリンのメカニズムの一つはグルコース摂取を実行するために細胞内小器官から原形質膜への大量のGLUT4の転移を促進することである。したがって、インスリンにより活性化されるグルコース摂取のインスリン活性の包括的なシステムを有する成熟した3T3−L1含脂肪細胞がGLUT4タンパク質の転移を評価するために用いられた。図8Aは高速遠心分離器を使用して分離された原形質膜におけるウェスタンブロット分析の結果を図示しており、0.01μMのPAが原形質膜内のGLUT4の量を141%に有意に増加し、PA投与量が1μMに高められたときGLUT4の量は328%にまで増加することを明らかにした。HA−GLUT4−GFPタンパク質を安定的に発現する3T3−L1含脂肪細胞の使用および蛍光測定法はGLUT4の原形質膜への転移を増加することによりPAがグルコース摂取を促進することをさらに確認した。図8Bでは、PAの投与が1.0μMに増加されたとき、GLUT4の原形質膜への転移が2.71倍に高められたことが分かる。前述の結果はPAがGLUT4タンパク質の原形質膜への転移に効果的であることを裏付けた。
【0074】
(4)含脂肪細胞においてトリグリセリドの蓄積の促進およびグリセロールの培地への放出の減少におけるPAの効果
含脂肪細胞におけるグルコース摂取へのPAの効果の観察に加えて、含脂肪細胞中でのトリグリセリドの合成(蓄積)および脂質分解(グリセロールの遊離)もまた評価された。図9は異なる投与量でPAを投与した後24時間後の結果を示し、トリグリセリドの蓄積はオイルレッドO染色により測定された。PAの投与により、トリグリセリドの蓄積は元のレベルの137%に増加し、グリセロールの遊離はおよそ元のレベルの70%に低下した。この結果は、PAが脂質の合成の促進および脂質の分解の防止に効果的であることを示した。
【0075】
本発明は好ましい例により記載されており、記載される例の変更や修正は添付される請求項によってのみ限定される本発明の範囲および思想から離れることなく実施されうる。
【技術分野】
【0001】
本発明は糖尿病の治療におけるポリア抽出物の使用に関する。特に、血液中の不十分なインスリンから誘発される糖尿病の治療におけるポリア抽出化合物の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
糖尿病は富裕国の成人人口(特に高齢人口)に共通に見られる慢性疾患である。糖尿病である患者は主に二つの型に分類されうる。1つ目はI型糖尿病またはインスリン依存性糖尿病と呼ばれ、人体における自己免疫応答により、膵臓のβ−細胞が破壊され、患者の体内にインスリンを生産できなくなる。したがって、これらの患者は、その血液循環にインスリンを有さず、結果的にインスリン注射が必要となる。2つ目の糖尿病はII型糖尿病または非インスリン依存性糖尿病と呼ばれ、ここでは遺伝因子が重要な役割を担い、例えば肥満などの生活習慣の影響が当該病気の誘発において重大であると考えられているが、その原因は未だ不明である。
【0003】
紀元約500年に、「備急千金要方(Emergency Formulas Worth a Thousand in Gold)」という中国の医学文献が唐時代にまとめられ、糖尿病の治療に使用される多くの医薬の混合物が記録されており、その混合物のいくつかがポリアを含むことが知られている。2002年に、日本の研究者M.SatoらがBiological & Pharmaceutical Bulletin.にポリアの皮から得られたデヒドロトラメテノリック酸(dehydrotrametenolic acid)がII型糖尿病の治療に応用されうることを示す論文を発表した(非特許文献1)。根本的なメカニズムはインスリンに対する患者の体の感度を増強することであり(すなわち患者のインスリンに対する耐性を低下させることに相当し)、糖尿病の治療目的を達成する。しかしながら、インヴィトロで含脂肪細胞を使用した過去の実験からデヒドロトラメテノリック酸(dehydrotrametenolic acid)の効果的な濃度は10−5Mであることが明らかであり、マウスを用いたインヴィボの実験はデヒドロトラメテノリック酸の効果的な投与量は110mg/kgであることを示す。結果的に、研究者は人体に使用する有効投与量は少なくとも700mgより多いという結論に到達した。しかし700mgの有効投与量は現在採用されている臨床投与量の10倍以上に相当し、臨床薬開発における現実的な課題となっている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】M.Sato et al.,Biol.Pharm.Bull.2002,25(1),81−86.
【発明の概要】
【0005】
本発明の目的は、必要としている哺乳動物に下記化学式(I)で示されるラノスタン化合物またはその薬理上許容される塩を有効な量で投与することを含む、糖尿病の治療方法を開示することであり、前記糖尿病は哺乳動物の血液中の不十分なインスリンから誘発されるものである。
【0006】
【化1】
【0007】
式中、R1は、−Hまたは−CH3であり;R2は、−OCOCH3、=Oまたは−OHであり;R3は、−Hまたは−OHであり;R4は、−C(=CH2)−C(CH3)2Ra(この際、Raは、−Hまたは−OHである)または−CH=C(CH3)Rb(この際、Rbは、−CH3または−CH2OHである)であり;R5は、−Hまたは−OHであり;およびR6は、−CH3または−CH2OHである。
【0008】
本発明は、ポリアから抽出された有効な成分が、(1)グルコーストランスポーター4(GLUT4)の遺伝子発現(mRNA発現)を増加し、(2)GLUT4の生産を増加し、(3)脂質細胞または筋細胞の細胞膜上にGLUT4タンパク質を細胞内転移し、(4)GLUT4に細胞外のグルコースを細胞に輸送させ、および(5)インスリンが行うように細胞内にトリグリセリドを生産および蓄積することにより、機能的にインスリンの代わりとなることができることを示す。したがって、ポリアの有効成分は機能的にインスリンの代わりとなり、グルコースを血流から細胞内に輸送することができ、血液のグルコースレベルを低下する。結果として、前記成分は不十分な血液インスリンを原因とするI型糖尿病およびII型糖尿病の治療に適用される。さらに重要なことに、インヴィトロでの脂質の実験は、前記成分が0.01μMの濃度で、日本人研究者Satoの記録した10−5Mの有効濃度より1000倍小さい値であるグルコース吸収を可能とすることを示した。
【0009】
前記の本発明の目的および有利な点は添付の図面を参照すればより明確に理解できるだろう。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】図1は、ポリアから抽出され精製されたラノスタン型トリテルペン化合物の構造を示す図である。
【図2A】図2Aは、3T3−L1含脂肪細胞により糖摂取の促進においてポリア抽出物が有する効果を示す図である。
【図2B】図2Bは、インスリン(0.1μM)を30分間作用させ、精製されたトリテルペン化合物(0.01μM)を2時間作用させた時に添加された糖の種類に基づき糖の摂取に与える効果を示すグラフである。図は平均±SD(n=6)を用いて示される。コントロール群(未治療)との比較において、*はp<0.05を示し、**はp<0.01を示す。
【図3A】図3Aは、パキム酸(PA)が0.01μMで2時間投与された時に最も高い糖の摂取速度をもたらすのに効果的であったことを示す図である。図は平均±SD(n=6)を用いて示される。コントロール群(未治療)との比較において、*はp<0.05を示し、**はp<0.01を示す。
【図3B】図3Bは、PA投与量の上昇を伴う糖の摂取の増加を示すグラフである。PAは試験のために糖を添加する前2時間作用させ、図は平均±SD(n=6)を用いて示される。コントロール群(未治療)との比較において、*はp<0.05を示し、**はp<0.01を示す。
【図4】図4は、PAが異化されおよび成熟した含脂肪細胞において糖の摂取を促進させることのみを示す図である。未成熟および成熟した含脂肪細胞は最初にPAと混合されおよび2時間反応し、その後PTを加えられたならば;PAにより糖の摂取が促進されたように、前記細胞の二つの型において糖の摂取は有意に抑制される。図は平均±SD(n=6)を用いて示される。コントロール群(未治療)との比較において、記号*はp<0.05を示し、**はp<0.01を示す。
【図5A】図5Aは、PAがGLUT1の発現の促進には効果がないことを示す図である。図は平均±SD(n=3)を用いて示す。コントロール群(未治療)との比較において、記号*はp<0.05を示し、**はp<0.01を示す。
【図5B】図5Bは、PAがGLUT4の発現の促進には効果的であることを示すグラフである。異化された成熟した細胞は24時間異なるPAの濃度で治療され、GLUT1およびGLUT4の発現は分析された。図は平均±SD(n=3)を用いて示す。コントロール群(未治療)との比較において、記号*はp<0.05を示し、**はp<0.01を示す。
【図6】図6は、PAがGLUT4のmRNA発現の促進に効果的であることを示す図である。その際異化されて成熟した細胞がインスリン(0.1μM)およびPA(0.01μM)を用いて24時間別個に治療され、その後GLUT1およびGLUT4のmRNA発現が分析された。図は平均±SD(n=3)を用いて示す。コントロール群(未治療)との比較において、記号*はp<0.05を示し、**はp<0.01を示す。
【図7A】図7Aは、GLUT4の抑制されたmRNA発現を伴う含脂肪細胞においてPAが糖の摂取の促進に効果的でなかったことを示す図である。成熟した含脂肪細胞およびGLUT4(shG4−30)の抑制されたmRNA発現を伴う含脂肪細胞は濃度の異なるPAおよびインスリンを用いて治療された。その後前記GLUT4発現(図7A)が分析された。
【図7B】図7Bは、GLUT4の抑制されたmRNA発現を伴う含脂肪細胞においてPAが糖の摂取の促進に効果的でなかったことを示す図である。成熟した含脂肪細胞およびGLUT4(shG4−30)の抑制されたmRNA発現を伴う含脂肪細胞は異なる濃度のPAおよびインスリンを用いて治療された。その後前記GLUT4発現の糖の摂取における効果(図7B)が分析された。図は±SD(n=6)を用いて示す。コントロール群(未治療)との比較において、記号*はp<0.05を示し、**はp<0.01を示す。
【図8A】図8Aは、分析のために遠心分離して得られた細胞膜の異なる層にあるGLUT4タンパク質を示す図である。ここでPAは細胞内の細胞内小器官から細胞膜へGLUT4の転移を促進するのに効果的であることを示す。図は平均±SD(n=3)を用いて示す。コントロール群(未治療)との比較において、記号*はp<0.05を示し、**はp<0.01を示す。
【図8B】図8Bは、蛍光分析により細胞全体における細胞膜の層にあるGLUT4の分析を示す図である。ここでPAは細胞内の細胞内小器官から細胞膜へGLUT4の転移を促進するのに効果的であることを示す。図は平均±SD(n=6)を用いて示す。コントロール群(未治療)との比較において、記号*はp<0.05を示し、**はp<0.01を示す。
【図9A】図9Aは、含脂肪細胞においてPAがトリグリセリドの合成を促進すること、かつ(生成物としてグリセロールを与える)脂質の分解を抑制することに効果があることを示す図である。成熟した含脂肪細胞はインスリン(0.1μM)および異なる濃度のPAを用いて24時間別個に治療された。図は平均±SD(n=6)を用いて示す。コントロール群(未治療)との比較において、記号*はp<0.05を示し、**はp<0.01を示す。
【図9B】図9Bは、含脂肪細胞においてPAがトリグリセリドの合成を促進すること、かつ(生成物としてグリセロールを与える)脂質の分解を抑制することに効果があることを示す図である。成熟した含脂肪細胞はインスリン(0.1μM)および異なる濃度のPAを用いて24時間別個に治療された。図は平均±SD(n=6)を用いて示す。コントロール群(未治療)との比較において、記号*はp<0.05を示し、**はp<0.01を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の一形態は、下記式(I):
【0012】
【化2】
【0013】
ただし、R1は、−Hまたは−CH3であり;R2は、−OCOCH3、=Oまたは−OHであり;R3は、−Hまたは−OHであり;R4は、−C(=CH2)−C(CH3)2Ra(この際、Raは、−Hまたは−OHである)または−CH=C(CH3)Rb(この際、Rbは、−CH3または−CH2OHである)であり;R5は、−Hまたは−OHであり;およびR6は、−CH3または−CH2OHである、
で示されるラノスタン化合物またはその薬理上許容される塩を哺乳動物における糖尿病を治療するのに有効な量を含む、哺乳動物における糖尿病を治療するための薬剤組成物を提供する。本発明によると、ラノスタン化合物(I)もしくはその薬理上許容される塩または上記ラノスタン化合物(I)もしくはその薬理上許容される塩を含むポリア抽出物を使用することによって、哺乳動物における糖尿病を治療できる。
【0014】
本発明において、糖尿病は、哺乳動物の血液中の不十分なインスリンから誘発されるI型の糖尿病またはII型の糖尿病を含む。
【0015】
本発明の有効成分(活性成分)は、予防または治療するための医療用途のため、注射または経口により安全に投与され、また、当該投与により、糖尿病を予防または治療できる。好ましくは、例えば錠剤、カプセル剤、散剤、顆粒剤、シロップ剤等の形態で経口投与されうる。ただし、経皮投与や皮下投与の形態で非経口により投与されてもよい。また、従来公知の手法により徐放剤の形態とされてもよい。
【0016】
本発明で使用される哺乳動物(例えば、ヒト)による哺乳動物における糖尿病を予防または治療するためのラノスタン化合物(I)は、下記式(I)で示される。
【0017】
【化3】
【0018】
上記式(I)中、R1は、−Hまたは−CH3である。R2は、−OCOCH3、=Oまたは−OHである。ここで、R2が=Oであるとは、R2の結合している炭素原子に結合する水素原子が脱離し、R2の結合および前記水素原子の脱離に伴う結合の双方が、C=Oを形成するための二重結合に関与する。すなわち、R2が=Oであるときは、ラノスタン化合物(I)は、下記構造を有する。
【0019】
【化4】
【0020】
また、R3は、−Hまたは−OHである。R4は、−C(=CH2)−C(CH3)2Ra(この際、Raは、−Hまたは−OHである)または−CH=C(CH3)Rb(この際、Rbは、−CH3または−CH2OHである)である。R5は、−Hまたは−OHである。R6は、−CH3または−CH2OHである。
【0021】
前記式(I)において、R1は、好ましくはHであり、R3は、好ましくはOHであり、R4は、好ましくは−C(=CH2)−C(CH3)2Ra(この際、Raは、好ましくはHである)であり、R5は、好ましくはHであり、R6は、好ましくはCH3である。すなわち、ラノスタン化合物(I)は、下記式で表わされる化合物が好ましい。
【0022】
【化5】
【0023】
本発明で使用される哺乳動物(例えば、ヒト)による哺乳動物における糖尿病を予防または治療するためのラノスタン化合物(I)は、下記式で表される化合物が特に好ましい。
【0024】
【化6】
【0025】
本発明の他の形態である薬剤または薬剤組成物は、有効成分(活性成分)として、ラノスタン化合物(I)を含む。適当なラノスタン化合物(I)源としては、ポリア抽出物がある。または、当該ラノスタン化合物(I)は、冬虫夏草(Cordyceps sinensis)、樟芝(Antrodia cinnamomea)またはマンネンタケ(Granodema lucidum)から得てもよい。以下では、本発明に係るラノスタン化合物(I)をポリア抽出物から得る方法について説明する。しかし、本発明は、下記形態に限定されない。
【0026】
本発明のラノスタン化合物(I)は、粗抽出物を得る、従来の抽出工程を利用することにより、ポリア(例えば、マツホド)から得られる。すなわち、ラノスタン化合物(I)の供給源として、ポリア抽出物(Poria extract)が使用されることが好ましい。この際、哺乳動物(例えばヒト)による栄養の摂取を促進するための本発明において開示されるポリア抽出物は、例えばUS 2004/0229852A1に開示されている方法と同様の方法で調製することができる。前記明細書のプロセスは、具体的には、マツホド(Poria cocos (Schw) Wolf)を従来の抽出方法により抽出して粗抽出物を得ることができる。前記粗抽出物は、クロマトグラフィーによってラノスタン(lanostane)の低極性留分(ジクロロメタン:メタノール=96:4(体積比))およびセコラノスタン(secolanostane)の高極性留分(ジクロロメタン:メタノールが体積比90:10または0:100の溶離液使用)に分離する。ここで、ジクロロメタン:メタノール=96:4(体積比)の混合溶媒によって薄層クロマトグラフィーで展開したときに、ラノスタン留分はクロマトグラフィー値(Rf)が0.1以上のところで検出され、また、セコラノスタン留分はRfが0.1未満のところで検出される。いくつかのラノスタンはラノスタン留分をシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより溶出することで分離される。ここで前記溶出はジクロロメタン:メタノール=97:3〜95:5の体積比(より好ましくは97:3〜96:4、特に好ましくは96.5:3.5の体積比)である極性の低い溶離液を使用し、ラノスタン画分をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで溶出することにより、いくつかのラノスタンをラノスタン画分から分離する。
【0027】
すなわち、ラノスタン化合物(I)またはポリア抽出物の調製方法の好ましい実施形態は、a)水、メタノール、エタノールまたはこれらの混合溶媒によって、マツホド(Poria cocos(Schw)Wolf)の代謝産物、発酵産物または菌核粒子(sclerotium)を抽出し;b)前記a)工程から得られた液体抽出物を濃縮し;c)前記b)工程から得られた濃縮物をシリカゲルカラムに導入し;d)極性の低い溶離液で前記シリカゲルカラムを溶出し、溶出液を集め;e)前記溶出液を濃縮して、溶出濃縮物を形成することを含む。
【0028】
ここで、上記e)工程で得られた溶出濃縮物は、薄層クロマトグラフィーのRf値が少なくとも0.1(Rf値=0.1以上)であり、この際、薄層クロマトグラフィーは、ジクロロメタン:メタノール=96:4(体積比)の混合溶媒で展開し、紫外線ランプとヨード蒸気で検出することが好ましい。
【0029】
前記a)工程における抽出は95%エタノールを用いることによって行われることが好ましい。また、前記a)工程における抽出は、Poria cocos (Schw) Wolfの代謝産物、発酵産物または菌核粒子を熱湯または沸騰水で抽出して抽出物水溶液を得、pHが9〜11になるまで、得られた抽出物水溶液に塩基を添加して塩基性水溶液を得、かかる塩基性水溶液を回収し、pHを好ましくは4〜7、より好ましくは4〜6になるまで、この塩基性水溶液に酸を添加して沈殿物を形成し、かかる沈殿物を回収して、エタノールで沈殿物を抽出し、抽出物溶液を回収することを有することが好ましい。
【0030】
前記b)工程で得られる濃縮物は、メタノールとn−ヘキサンを体積比1:1で含む二相の溶媒でさらに抽出し、メタノール層を二相の溶媒による抽出混合物から分離し、メタノール層を濃縮することによって濃縮物を形成し、当該濃縮物を前記c)工程におけるシリカゲルカラムにフィードとして用いることが好ましい。
【0031】
上記方法によって得られるポリア抽出物中のラノスタン化合物(I)の含有量は、糖尿病の予防・治療効果を達成できる程度であれば特に制限されないが、ポリア抽出物が、ポリア抽出物の重量に対して、1〜60重量%、好ましくは5〜35重量%のラノスタン化合物(I)を含むことが好ましい。
【0032】
また、上記方法によって得られるポリア抽出物は、実質的にセコラノスタン(secolanostane)を含まないことが好ましい。ここで、「実質的にセコラノスタン(secolanostane)を含まない」とは、本発明の薬剤または薬剤組成物が、ラノスタン化合物(I)またはポリア抽出物による糖尿病の予防・治療効果を損なわない程度であることを意味し、具体的には、セコラノスタンの含有量は、ラノスタン化合物(I)の含有量の5重量%未満であることが好ましく、より好ましくは、ポリア抽出物は、セコラノスタン(secolanostane)を全く含まないのが好ましい。
【0033】
本発明に係る薬剤または薬剤組成物は、上記ラノスタン化合物(I)もしくはその薬理上許容される塩、または当該ラノスタン化合物(I)もしくはその薬理上許容される塩を含むポリア抽出物を含む。好ましくは、本発明に係る薬剤または薬剤組成物は、有効成分(活性成分)として、単離されたラノスタン化合物(I)またはその薬理上許容される塩を含む。ここで、ラノスタン化合物(I)もしくはその薬理上許容される塩は、単独で使用されてもあるいは2種以上の混合物として使用されてもよい。
【0034】
本発明において、ラノスタン化合物(I)の薬理上許容される塩の形態は、糖尿病の予防・治療効果を発揮でき、また、哺乳動物に悪影響を与えない形態であれば特に制限されない。具体的には、塩酸、臭化水素酸、リン酸、硫酸、メタンスルホン酸、酢酸、酒石酸、乳酸、コハク酸、クエン酸、リンゴ酸、マレイン酸、ソルビン酸、アコニット酸、サリチル酸、フタル酸、エンボニックアシッド(embonic acid)、エナント酸などの有機および無機酸から誘導される塩;ナトリウム塩、カリウム塩、アルミニウム塩などの塩基から誘導される塩などの、生理学的に許容できる無毒な塩が挙げられる。
【0035】
また、本発明に係る薬剤または薬剤組成物中の、上記ラノスタン化合物(I)もしくはその薬理上許容される塩、または当該ラノスタン化合物(I)もしくはその薬理上許容される塩を含むポリア抽出物の含有量は、糖尿病の予防・治療効果を発揮でき、また、哺乳動物に悪影響を与えない程度であれば特に制限されない。好ましくは、本発明に係る薬剤または薬剤組成物は、薬剤または薬剤組成物の全量に対して、前記ラノスタン化合物(I)またはその薬理上許容される塩を、1〜60重量%、好ましくは5〜35重量%で含有する。また、本発明の薬剤または薬剤組成物において、好ましくは、セコラノスタンは含まれない。かような形態によれば、毒性を示すおそれのあるセコラノスタンの含有量が低減されているため、ラノスタン化合物(I)もしくはその薬理上許容される塩による糖尿病の予防・治療効果がより一層向上しうる。
【0036】
本発明に係る薬剤または薬剤組成物は、上記ラノスタン化合物(I)もしくはその薬理上許容される塩、または当該ラノスタン化合物(I)もしくはその薬理上許容される塩を含むポリア抽出物に加えて、薬理上許容される賦形剤または希釈剤をさらに含んでもよい。ここで、薬理上許容される賦形剤または希釈剤は、特に制限されず、従来公知の形態が適宜採用されうる。担体としては、例えば、乳糖、白糖、塩化ナトリウム、ブドウ糖、尿素、澱粉、炭酸カルシウム、カオリン、結晶セルロース、ケイ酸等の賦形剤;水、エタノール、プロパノール、単シロップ、ブドウ糖液、澱粉液、ゼラチン溶液、カルボキシメチルセルロース、セラック、メチルセルロース、リン酸カリウム、ポリビニルピロリドン等の結合剤;乾燥澱粉、アルギン酸ナトリウム、寒天末、ラミナラン末、炭酸水素ナトリウム、炭酸カルシウム、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類、ラウリル硫酸ナトリウム、ステアリン酸モノグリセリド、澱粉、乳糖等の崩壊剤、白糖、ステアリン、カカオバター、水素添加油等の崩壊抑制剤;第4級アンモニウム塩基、ラウリル硫酸ナトリウム等の吸収促進剤;グリセリン、澱粉等の保湿剤;澱粉、乳糖、カオリン、ベントナイト、コロイド状ケイ酸等の吸着剤;精製タルク、ステアリン酸塩(ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸ナトリウム等)、硼酸末、ポリエチレングリコール等の潤沢剤等が挙げられる。また、希釈剤としては、例えば、水、エタノール、プロピレングリコール、エトキシ化イソステアリルアルコール、ポリオキシ化イソステアリルアルコール、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類等が挙げられる。なお、これらの担体および希釈剤はあくまでも例示であり、これらには全く制限されない。
【0037】
また、本発明に係る薬剤または薬剤組成物は、常法に従い、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、矯味矯臭剤、溶解補助剤、懸濁剤、着色剤、pH緩衝剤、防腐剤、ゲル化剤、界面活性剤、コーティング剤等、医薬の製剤分野において通常使用し得る公知の補助剤を用いて製剤化されうる。また、必要に応じて着色剤、保存剤、香料、風味剤、甘味剤、他の医薬等と混合されてもよい。
【0038】
本発明に係る薬剤または薬剤組成物は、ヒトを含む哺乳動物に対し、注射または経口により安全に投与され、また、当該投与により、糖尿病を予防または治療できる。好ましくは、例えば錠剤、カプセル剤、散剤、顆粒剤、シロップ剤等の形態で経口投与されうる。ただし、経皮投与や皮下投与の形態で非経口により投与されてもよい。また、従来公知の手法により徐放剤の形態とされてもよい。
【0039】
本発明において、「哺乳動物」としては、特に制限されず、例えばヒト、サル、マウス、ウマ、ウシ、ブタ、イヌ、ネコ、モルモット、ウサギおよびラット等が例示される。なかでも、ヒト、サル並びに、イヌおよびネコ等の愛玩動物、モルモット、ウサギおよびラット等の実験動物がより好ましく、ヒトが特に好ましい。
【0040】
後述する実施例は、本発明をさらに詳細に説明するために提供するものであり、本発明
の範囲を限定するために使用してはならない。
【0041】
本明細書においてパーセンテージおよびその他の量は、特に指摘しない限り重量基準である。パーセンテージは全体が100%となる任意の範囲から選択される。
【実施例】
【0042】
実施例1
雲南で成長させたポリア26kgを、加熱しながら75%水性アルコール(エタノール)溶液260リットルで抽出した。抽出は3回繰り返し、得られた3つの抽出溶液を合わせて、真空濃縮して、抽出物225.2gを得た。続いて、その抽出物について定量分析を行い、その1グラムあたりにラノスタン76.27mgが含まれていた。ここで、K1(パキム酸(pachymic acid))は33.4mg、K1−1(デヒドロパキム酸(dehydropachymic acid))は9.59mg、K2−1(ツムロス酸(tumulosic acid))は19.01mg、K2−2(デヒドロツムロス酸(dehydrotumulosic acid))は6.75mg、K3(ポリポレン酸C(polyporenic acid C))は5.06mg、およびK4(3−エピデヒドロツムロス酸(3−epidehydrotumulosic acid))は2.46mgを占めた。
【0043】
実施例2
実施例1で得られたアルコール抽出物125gを、さらに1.3リットルのジクロロメタンで6回抽出し、得られた6つの抽出溶液を合わせて濃縮して、抽出物22.26gを得た。このジクロロメタン抽出物を、加熱した95%アルコール溶液に溶解し、放置して冷却し、次いでろ過し、不溶物を廃棄した。ろ液中のアルコール濃度が45%になるまで少量の水をろ液に加えて、沈殿させ、遠心分離により沈殿物17.4gを得た。続いて、この沈殿物を定量分析したところ、沈殿物1グラムあたり、ラノスタン264.78mgが含まれることが分かった。ここで、K1−1は159.7mg、K1−2は56.96mg、K2−1は24.43mg、K2−2は8.8mg、K3は9.84mg、およびK4は5.05mgを占めた。シリカゲルの薄層クロマトグラフィー(TLC)法により、前記沈殿物はセコラノスタンを全く含まないことを確認した。
【0044】
実施例3
ポリア100kgを水800kg中で3時間煮沸し、その後放置して50℃になるまで冷却し、5N NaOH溶液を用いて、pH値を11になるように調整し、次いでその溶液を3時間攪拌した。遠心分離機を使用して、固形物から液体を分離し、分離した固形物にさらに水800kgを加えた。pH値をNaOHで11に調整し、攪拌し、遠心分離により固形物を除くことを含む、上記の手順を繰り返した。得られた2つの液体を合わせて、50℃で真空濃縮して100kgの溶液とし、次いで、3N HClを用いてpH値を6.5になるように調整して、沈殿物を生成した。前記沈殿物を溶液から分離し、続いてH2O 40Lで洗浄し、沈殿物を回収するために遠心分離した。沈殿物は水8Lを用いて噴霧乾燥し、380gの粉末を得た。その後、前記粉末を4Lのアルコールを用いて3回抽出し、抽出溶液を合わせて濃縮し、アルコール抽出物238.9gを得た。この238.9gのアルコール抽出物は、TLC分析によりセコラノスタン化合物を全く含まないことが証明された。次いで、この238.9gのアルコール抽出物を、HPLCにより分離し、抽出物1グラムにつき、K2を214mg、K3を23mg、K4を24mgおよびK1を4.52mg得た。言い換えれば、抽出物1グラムは約265mgのラノスタン化合物を含む。
【0045】
また、粉末を50%水性アルコール(エタノール)溶液4Lを用いて抽出し、その50%水性アルコール(エタノール)溶液を除き、不溶性粉末を得た。抽出は三回繰り返し、50%水性アルコール(エタノール)溶液に不溶性の物質245.7gを得た。この不溶性物質はTLC分析によりセコラノスタン化合物を全く含まないことが確認された。その後、HPLCによる分離および精製プロセスを行い、抽出物1グラムにつき、K2を214mg、K3を23mg、K4を24mgおよびK1を4.52mg得た。これは、抽出物1グラムにつきラノスタン化合物約が261mg得られたことと同等である。
【0046】
実施例4
ポリア粉末を中国で成長したマツホド(Poria cocos(Schw) Wolf)30kgから製造した。このポリア粉末は、95%アルコール120Lを用いて24時間かけて抽出された。この混合物をろ過し、ろ液を得た。残渣は3回抽出して、ろ過した。ろ液を合わせて濃縮し、265.2gの量の乾燥抽出物を得た。乾燥抽出物は、二相抽出剤(n−ヘキサン:95%メタノール=1:1(体積比))を用いた分配抽出を行い、そこからメタノール相を除き、その後、濃縮して246.9gの量の乾燥した固形物を得た。乾燥固形物は、乾燥固形物の10〜40倍の重量のシリカゲルを充填したシリカゲルカラムを用いて分離した。70〜230メッシュの直径を有する前記シリカゲルは、Merck社製シリカゲル60を用いて準備した。前記カラムは次の溶離液を順に用いて溶出した:ジクロロメタン:メタノール=96:4(体積比)の混合溶媒;ジクロロメタン:メタノール=90:10(体積比)の混合溶媒;および純粋メタノール。溶離液は、薄層クロマトグラフィー(TLC)によって試験した。ここで、検出には紫外線ランプおよびヨウ素蒸気を用い、ジクロロメタン:メタン=96:4(体積比)の混合溶媒を展開液として使用した。TLCにおいて類似の組成を有する溶出液は混合した。
【0047】
ジクロロメタン:メタノール=96:4(体積比)の混合溶媒を用いて溶離し、78gの量のPCM部分を得た。前記PCMは薄層クロマトグラフィーにおいて6つのスポット跡を示した。ジクロロメタン:メタノール=90:10(体積比)および純粋メタノールの溶離液を用いた溶出により得られた溶出液を混合し、168gの量のPCW部分を得た。
【0048】
前記PCM部分は、ジクロロメタン:メタノール=96.5:3.5(体積比)の溶離液および同様のシリカゲルカラムを使用してさらに分離し、K1(K1−1およびK1−2)、K2(K2−1およびK2−2)、K3、K4、K4a、K4b、K5、K6aおよびK6bの精製ラノスタン成分を得た。なお、前記分離工程および同定分析データの詳細については、US2004/0229852A1公報に記載されるのと同様である。
【0049】
前記K1〜K6b化合物は下記の構造を有する:
【0050】
【化7】
【0051】
PCM部分から分離されたラノスタン化合物K1〜K6bの量は下記表1に列記される。PCM部分は、ラノスタン化合物K1〜K6bを約15wt%含む。
【0052】
【表1】
【0053】
実施例5
実施例4で調製されたPCM部分を有するカプセルを下記表2に示される組成に基づいて調製した。
【0054】
【表2】
【0055】
PCM部分およびケイアルミン酸ナトリウムは、#80メッシュを使用してふるい分けし、ジャガイモデンプンは#60メッシュを使用してふるい分けし、ステアリン酸マグネシウムは#40メッシュを使用してふるい分けした。続いて、上記成分はミキサーで均一に混合し、次いで得られた混合物はNo.1の空カプセルに充填した。各カプセルは、有効成分K1〜K6を約1.68mg(0.42wt%)含んでいる。
【0056】
実施例6
トリテルペン化合物のI型糖尿病を予防および治療するための使用を調査する実験
下記の細胞実験のために使用された前記ポリア抽出物は実施例2で製造された沈殿または図1に示された精製された化合物であった。前記抽出物はアルコール:DMSO(9:1(体積比))の溶媒に溶解され、得られた溶液は培養皿に加えられ、最終体積の1000分のIまで各ウェルに加えられた。
【0057】
1.含脂肪細胞の細胞培養
3T3−L1ははじめ紡鐘型細胞に見られるげっ歯類の前含脂肪細胞の一種である。細胞は誘導剤とともに加えられ2−3日間培養された際、細胞は変形し、より丸い形態になる。数日後、前記細胞は異化し、より特別な細胞になる。異化の進行していない細胞における主なグルコース輸送体はGLUT1であり、異化した細胞においては主に活性なグルコース輸送体はGLUT4である。さらに、細胞膜上においてGULT4が多ければ多いほど、血液グルコースがより早く、より大量に細胞膜へ転移し、細胞に吸収され、血液グルコースはより急速に少なくなる。前記3T3−L1含脂肪細胞はインスリンにより活性化されるグルコース吸収の包括的なシステムを有し、脂質の生産および調整の完全な過程を観察すると同様、グルコース代謝およびインスリン信号化過程の調査に十分である。したがって、全体が異性化した3T3−L1含脂肪細胞は広く利用される代表的な細胞株であり、ヒト組織からの真性の含脂肪細胞の連続的な培養をするのが困難であるため、研究者は一般的にこの特別な細胞株を関連実験および評価をするために使用する。
【0058】
(a)含脂肪細胞の細胞培養
3T3−L1前含脂肪細胞は37℃でCO25%および空気95%中、ペニシリン100IU/mL、ストレプトマイシン(streptomycin)100g/mL、1%の非必須アミノ酸(nonessential amino acid)および10%の子牛血清(calf serum)を補われているDulbecco最小必須培地(DMEM)中で培養された。一度細胞は完全に成長し、異化は異化誘導剤(3−イソブチルー1−メチルキサンタン(3−isobutyl−1−methylxanthane)(IBMX)0.5mM、デキサメタゾン(dexamethasone)1M、インスリン10g/mLおよびウシ胎仔血清(fetal bovine serum)10%を含むDMEM)を用いて細胞を2日間処理させた。前記細胞は10g/mLインスリンおよび10%FBSで補われているDMEMを用いてさらに2日間再培養され、その後インスリンを含まない10%のFBS/DMEMに2日おきに変更して4−6日間培養された。この時点で、約90%の細胞が含脂肪細胞表現型を発現し、実験の準備が整っていた。実験を開始する前に、前記3T3−L1細胞ははじめPBS溶液で洗浄し、血清およびインスリンの両方からの阻害を除くため、血清およびインスリンを含まない0.2%BSA/DMEM培地中一晩培養された。
【0059】
(b)GLUT4実験の阻害されるmRNA発現のために使用される含脂肪細胞の培養
GLUT4を阻害するRNAを運送するウィルス性担体(TRCN0000043630 shRNA, Genomics Research Center, Academia Sinica, R.O.C.)は、GLUT4発現を着実に阻害する遺伝子を発現させるため、3T3−L1前含脂肪細胞(shG4−30)を感染するために使用され、細胞株は異化された含脂肪細胞を実験で使用するた、異化された。
【0060】
(c)GLUT4タンパク質の転移を試験するために使用される含脂肪細胞の培養:
インフルエンザウィルスタンパク質HAマークされたGLUT4担体(HA−GLUT4−GFP, Timothy E. McGraw, Weill Cornell Medical Collegeより提供)がリポフェクタミン(Lipofectamine 2000 (Invitrogen,CA,USA))により3T3−L1前含脂肪細胞に核酸を導入するために使用され、HAマーキングしているインフルエンザウィルスタンパク質により着実に発現されたGLUT4タンパク質がG418を用いて映し出された。前記細胞は含脂肪細胞に異化されGLUT4タンパク質の転移を評価するのに使用された。
【0061】
2.2−デオキシグルコース摂取の評価
3T3−L1含脂肪細胞によるグルコース摂取の促進におけるトリテルペン化合物の効果を試験する実験のために、3T3−L1前含脂肪細胞は6つのウェルを有する培養皿で培養され、異化誘導試薬を用いて異化される前に十分に成長させた。3T3−L1細胞は成熟し7−12日後に含脂肪細胞に異化されると、その細胞はグルコース摂取試験に使用された。前記含脂肪細胞ははじめ血清を含まない培地(0.2% BSA/DMEM)中に一晩置かれ、次いで2−6時間トリテルペン化合物を異なる濃度で含む血清を含まない細胞培地中で培養し、KRP緩衝液(20mMのHEPES,137mMのNaCl,4.7mMのKCl,1.2mMのMgSO4,1.2mMのKH2PO4,2.5mMのCaCl2,および2mMのピルビン酸塩,pH7.4および0.2%のBSA)中、37℃で3時間培養する前にPBS溶液で1回洗浄した。最後に0.2 μCi/mLの2−デオキシ−D−[14C]−グルコース(2−DG,Amersham Biosciences,Little Chalfont,Bucks,英国)と0.1mMの2−DG由来の0.2mlの非放射性グルコース緩衝溶液がグルコース摂取の実験を開始するためにKRP緩衝溶液の代替として使用された。5分間実験を行った後、グルコースの摂取を停止するために細胞は除去されPBS溶液で洗浄された。続いて、前記細胞は0.2mlの0.2%SDS中に溶解され、細胞を溶解した10μLの溶液はろ過基盤の付属したUniFilter plates(Perkim−Elmer,Wellesley,MA,USA)に移され、37℃で真空炉中乾燥され、それぞれのウェルに30mLの計数溶液を加え、それからマイクロディスク液体シンチレーション分析装置(TopCount,Packard NXT,Packard BioScience Company,Meriden,CT,米国)により分析された。細胞中に蓄積されたグルコースの濃度は計算され、タンパク質濃度で除算することで、毎分の細胞タンパク質のマイクログラム毎のナノモル量(nmol/min/mg)として示されるグルコース摂取速度を得た。前記タンパク質濃度は標準ビシンコニン酸(BCA)タンパク質分析装置(Pierce,Rockford,IL,米国)を用いて決定された。非特異性のグルコースの摂取は0.2μCiのL−[14C]−グルコースを加えて決定され、特異的なグルコースの摂取量を得るために分析して得られた値から減算するために使用された。したがって、3T3−L1含脂肪細胞によるグルコース摂取における異なる濃度のトリテルペン化合物の影響を決定することができる。
【0062】
3.GLUT1および4タンパク質の評価
3T3−L1含脂肪細胞中GLUTタンパク質発現の促進におけるトリテルペン化合物の効果を調査する実験に、前述した異化され成熟した3T3−L1含脂肪細胞は血清を含まない培地中一晩培養され、それから異なる濃度のトリテルペン化合物を含む血清を含まない細胞培地中で24時間さらに培養された。その後、PBS溶液でその細胞を洗浄し、0.2mLの溶解緩衝液(1%のNP−40,150mMのNaCl,0.1%のSDS,50mMのTris−HCl pH 7.6,10mMのEDTA,0.5%のデオキシコール酸塩(deoxycholate),1mMのPMSF,1mMのNa3VO4,10mMのNaF,10mMのβ−グリセロリン酸エステル(β−glycerophosphate),10g/mLプロテアーゼ阻害剤(protease inhibitor)およびフォスフォターゼ阻害剤カクテル(phosphotase inhibitor cocktails))中、30分間4℃で前記細胞を溶解した。それぞれのサンプルからドデシル硫酸ナトリウム(SDS)−10%のポリアクリルアミドゲル電気泳動により等量のタンパク質を分けとり、二弗化ポリビニリデン(PVDF)膜(Millipore,Bedford,MA,米国)上にブロットされた(transblotted)。続いて、ウェスタンブロット分析(Western blot analysis)をGLUT1(Abcam,Cambridge,MA)、GLUT4(R&D systems,Minneapolis,MN)および(β−Actin,Chemicon,Temecula,CA,USA)に対してモノクローナル抗体を用いて行い、トリテルペン化合物の異なる濃度の下では3T3−L1含脂肪細胞中GLUTタンパク質発現に影響があるか否かを決定した。それぞれのタンパク質のサンプルはX線に露光される前に化学発光セット(ECL,Amersham,英国)を用いて処理され、コンピュータソフトを用いて定量的に分析された。
【0063】
4.GLUT1および4の遺伝子発現の評価
リアルタイムのQ−PCRは異なるトリテルペン化合物濃度において3T3−L1含脂肪細胞中のGLUTタンパク質のmRNA発現を評価するために使用された。はじめ十分に異化された3T3−L1含脂肪細胞は異なる濃度のトリテルペン化合物と混合され、細胞培地を除去しトリゾール緩衝液(Trizol buffer(Invitrogen, Irvine,CA,米国))を使用してRNA全体を細胞から得るために、使用する前に24時間放置された。後に1μgのRNAサンプルがそこから取上げられ、高解像cDNA転写キット(High−Capacity cDNA Reverse Transcription Kit (Applied Biosystems,Darmstadt,独国))が使用されサンプル中のmRNAをcDNAに逆転写させた。プライマーは特にGLUT1、GLUT4およびβアクチン用にデザインされ、相対的な遺伝子発現値がStepOne v2.0ソフトウェア(Applied Biosystems)を用いたΔΔCT方法により計算される前に、検出遺伝子(Glut1&Glut4)および参照遺伝子(β−actin)の検出のためそれらの遺伝子を増幅するためにYBRグリーンQ−PCR分析器(Applied Biosystems,Foster City,CA,米国)が使用された。
【0064】
5.GLUT4タンパク質の転移の評価
(1)GLUT4タンパク質の転移の分析
含脂肪細胞または筋細胞によるグルコース摂取を促進させるインスリンの機構において、細胞内小器官から原形質膜(PM)へのGLUT4の転移は実際に極めて重要であり、3T3−L1含脂肪細胞中におけるGLUT4の原形質膜への転移の促進においてトリテルペン化合物の効果がここで調査された。異化され成熟した3T3−L1含脂肪細胞は血清を含まない細胞培地中で一晩培養され、それからトリテルペン化合物を異なる濃度で含む血清を含まない細胞培地中さらに2時間培養された。次いで、細胞原形質膜部位を低密度ミクロソーム(LDM)から分離するために、これを高速遠心分離した[Liu,L.Z.et.al.;Mol Biol. Cell 17,(5),2322−2330,2006]。ウェスタンブロット分析(Western blot analysis)は3T3−L1含脂肪細胞中、細胞内LDMからPMにGLUT4が転移する際にトリテルペン化合物の異なる濃度が与える影響があるか否かを観察するためにGLUT4のためのモノクローナル抗体を用いて行われた。
【0065】
(2)GLUT4タンパク質の転移の分析
安定にHA−GLUT4−GFPを発現する3T3−L1前含脂肪細胞は96−ウェル培地皿で培養させられ、それから十分に培養された後に誘導試薬により異化された(Govers,R.et.al.;Mol Cell Biol.24(14),6456−6466,2004)。十分に異化された3T3−L1含脂肪細胞は異なる濃度のトリテルペン化合物を添加し、2時間放置され、細胞培地を除き氷冷したPBS溶液でその細胞を洗浄した。続いて、細胞は15分間室温で4%のパラホルムアルデヒド中に固定され、細胞を氷冷したPBS溶液で2,3回洗浄した後に初期の赤血球凝集索(primary anti−hemagglutinin)(HA)抗体(12CA5)を用いて2時間培養され、この後に細胞は再度氷冷したPBS溶液で2,3回洗浄され、ローダミン共役第2抗体(rhodamine−conjugated secondary antibodies)と共に1時間培養された(Leinco,Ballwin,MO)。細胞は、蛍光マイクロタイタープレートリーダー(POLARstar Galaxy;BMG Labtechnologies,Offenburg,独国)を使用してローダミンおよびGFPから励起された蛍光波長(Em.480/Ex.425nm および Em.576nm/Ex.550nm)を測定する前に再度氷冷したPBS溶液で洗浄された。GFP蛍光に対するローダミン蛍光の割合は計算され、原形質膜へ転移されたHA−GLUT4−GFPの相対量を評価するために使用された。HAタグ化されたGLUT4は原形質膜に転移した後にローダミンでラベルされうるので、その割合は原形質膜へのGLUT4転移の評価に有益であった。
【0066】
6.トリグリセリドの蓄積およびグリセロールの遊離の効果
トリグリセリドの堆積と3T3−L1含脂肪細胞内のグリセロールの遊離においてトリテルペン化合物の効果を調査する実験のために、異化して成熟した3T3−L1含脂肪細胞が血清を含まない細胞培地中一晩培養され、トリテルペン化合物を異なる濃度で含む血清を含まない細胞培地中でさらに24時間培養された。その培地は集められグリセロールアッセイキット(Randox Laboratories,Antrim,英国)を用いて異なる濃度のトリテルペン化合物が3T3−L1含脂肪細胞中脂質分解からグリセロールの遊離において効果があるかどうかを決定するためグリセロールの遊離について調査された。含脂肪細胞においてトリグリセリドのレベルはオイルレッドO染色により決定された(Ramirez−Zacarias,J.L.et.al.;Histochemistry 97,(6),493−497,1992)。細胞内で脂質の堆積により形成された油滴が染色され、60%イソプロパノールで2回洗浄され、そして100%イソプロパノールで抽出され490nmの吸収で定量された。その測定値は、含脂肪細胞において異なる濃度のテルペン化合物がトリグリセリドの蓄積に与える効果を評価するために、トリテルペン化合物が与えられなかった含脂肪細胞からの測定値と比較された。
【0067】
実験結果はインスリンのような結果を示し、すなわちトリテルペン化合物は次の4つの性質を有し、I型糖尿病の治療に効果的である。
【0068】
(1)含脂肪細胞モデルにおいて、ポリアの成分または抽出物は細胞外のグルコースの細胞内への吸収を促進するのに効果的であった:
成熟した含脂肪細胞においてポリア抽出物の効果の評価(実施例2)から、図2Aに示されるように;ポリア抽出物はグルコース摂取の増加に明らかに効果的であり、グルコース摂取の増加の効果は細胞に与えられる投与量の増加に正の相関がある。一方、インスリン100nMの添加もまたグルコース摂取量の増加に効果的であった。実施例2の純粋な化合物はさらに実験に使用された。図2Bは0.01μMの純粋な化合物を含脂肪細胞に投与後2時間後に、PA、TAおよびPPAの3つの化合物はグルコース摂取量を165.89%、142.5%、および147.9%に有意に増加した。PAにより誘導される増加が最も顕著であり、以下における評価はPAを基準にして行った。
【0069】
図3Aによれば、グルコース摂取量の増加におけるPAの効果は時間の経過に連れて増加し、投与後2時間において最も著しかった(165.89%に増加した)。加えて、PA濃度の増加はグルコース摂取量を増加させた。図3Bにおいて見られるように、PAが1μMで与えられた際に、グルコース摂取量は209.84%に増加した。
【0070】
図4によると、PAは異化された含脂肪細胞におけるグルコース摂取の促進に効果的であるのみで、前含脂肪細胞においては効果的ではなかった。プロレチン(phloretin(PT))が前含脂肪細胞および含脂肪細胞の両方に投与されたとき、両方の細胞の種類においてグルコース摂取量は有意に阻害された。過去の調査文献によると、前含脂肪細胞はGLUT1を有するのみであり、含脂肪細胞はGLUT4を有する。したがって、PAはGLUT4の増加によりグルコース摂取量を増加すると考えられる。
【0071】
(2)PAの効果、トリテルペン化合物;成熟した含脂肪細胞におけるGLUT4のタンパク質およびmRNA発現の促進における
図5はPAの異なる投与量を24時間成熟した含脂肪細胞に投与し、続いてGLUT1および4のタンパク質発現におけるPAの効果を評価するためにGLUT1および4のウェスタンブロット分析(Western blot analysis)行った。その結果は、PAはGLUT4のタンパク質発現の促進に効果的である(図5A)がGLUT1のタンパク質発現を促進には効果的でない(図5B)ことを示した。
【0072】
Q−PCRおよび成熟した3T3−L1含脂肪細胞におけるGLUTタンパク質のmRNA発現におけるPAの異なる濃度の効果を調査するため、特別なプローブを使用した結果は図6に示され、1μMのPAがGLUT4の遺伝子発現を228%に高めることを明らかにし、これは推奨されているPAはGLUT4の遺伝子およびタンパク質発現を調整しうることを示す。さらに、mRNA阻害方法(mRNA−interfering method)はGLUT4の発現が一貫して低い3T3−L1含脂肪細胞の生産に使用され(図7A)、含脂肪細胞がさらにグルコース摂取を評価するために使用され、それは図7Bにおいて示され、PAの異なる摂取量が含脂肪細胞においてグルコース摂取をあまり促進させなかったことを示し、それにより、PAはGLUT4発現に直接的に影響することによりグルコース摂取を促進することを明らかにした。
【0073】
(3)成熟した含脂肪細胞内の細胞内小器官から原形質膜へのGLUT4の転移の促進におけるPAの効果
グルコース摂取を促進するインスリンのメカニズムの一つはグルコース摂取を実行するために細胞内小器官から原形質膜への大量のGLUT4の転移を促進することである。したがって、インスリンにより活性化されるグルコース摂取のインスリン活性の包括的なシステムを有する成熟した3T3−L1含脂肪細胞がGLUT4タンパク質の転移を評価するために用いられた。図8Aは高速遠心分離器を使用して分離された原形質膜におけるウェスタンブロット分析の結果を図示しており、0.01μMのPAが原形質膜内のGLUT4の量を141%に有意に増加し、PA投与量が1μMに高められたときGLUT4の量は328%にまで増加することを明らかにした。HA−GLUT4−GFPタンパク質を安定的に発現する3T3−L1含脂肪細胞の使用および蛍光測定法はGLUT4の原形質膜への転移を増加することによりPAがグルコース摂取を促進することをさらに確認した。図8Bでは、PAの投与が1.0μMに増加されたとき、GLUT4の原形質膜への転移が2.71倍に高められたことが分かる。前述の結果はPAがGLUT4タンパク質の原形質膜への転移に効果的であることを裏付けた。
【0074】
(4)含脂肪細胞においてトリグリセリドの蓄積の促進およびグリセロールの培地への放出の減少におけるPAの効果
含脂肪細胞におけるグルコース摂取へのPAの効果の観察に加えて、含脂肪細胞中でのトリグリセリドの合成(蓄積)および脂質分解(グリセロールの遊離)もまた評価された。図9は異なる投与量でPAを投与した後24時間後の結果を示し、トリグリセリドの蓄積はオイルレッドO染色により測定された。PAの投与により、トリグリセリドの蓄積は元のレベルの137%に増加し、グリセロールの遊離はおよそ元のレベルの70%に低下した。この結果は、PAが脂質の合成の促進および脂質の分解の防止に効果的であることを示した。
【0075】
本発明は好ましい例により記載されており、記載される例の変更や修正は添付される請求項によってのみ限定される本発明の範囲および思想から離れることなく実施されうる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
有効成分として、下記式(I):
【化1】
ただし、R1は、−Hまたは−CH3であり;R2は、−OCOCH3、=Oまたは−OHであり;R3は、−Hまたは−OHであり;R4は、−C(=CH2)−C(CH3)2Ra(この際、Raは、−Hまたは−OHである)または−CH=C(CH3)Rb(この際、Rbは、−CH3または−CH2OHである)であり;R5は、−Hまたは−OHであり;およびR6は、−CH3または−CH2OHである、
で示されるラノスタン化合物またはその薬理上許容される塩を哺乳動物における糖尿病を治療するのに有効な量を含み、前記糖尿病は、前記哺乳動物の血液中の不十分なインスリンにより誘発されるものである、哺乳動物における糖尿病を治療するための薬剤組成物。
【請求項2】
前記式(I)のラノスタン化合物が、下記化学式:
【化2】
を有する、請求項1に記載の薬剤組成物。
【請求項3】
前記式(I)のラノスタン化合物が、下記化学式:
【化3】
を有する、請求項2に記載の薬剤組成物。
【請求項4】
前記薬剤組成物が注射のためのものである、請求項1〜3のいずれか1項に記載の薬剤組成物。
【請求項5】
前記薬剤が経口摂取のためのものである、請求項1〜3のいずれか1項に記載の薬組成物。
【請求項6】
前記糖尿病がI型の糖尿病である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の薬剤組成物。
【請求項7】
前記糖尿病がII型の糖尿病である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の薬剤組成物。
【請求項8】
前記哺乳動物がヒトである、請求項1〜7のいずれか1項に記載の薬剤組成物。
【請求項9】
前記薬剤組成物が有効成分として前記式(1)を有する単離されたラノスタン化合物またはその薬理上許容される塩および薬理上許容される賦形剤または希釈剤を含む、請求項1〜8のいずれか1項に記載の薬剤組成物。
【請求項10】
ポリア抽出物を有効成分として有効な量含み、前記ポリア抽出物の重量に対して、1〜60重量%の請求項1に定義される前記化学式(I)を有するラノスタン化合物を含み、前記ポリア抽出物がセコラノスタン(secolanostane)を実質的に含まず、前記糖尿病が前記哺乳動物の血液中の不十分なインスリンに誘発されるものである、哺乳動物における糖尿病の治療のための薬剤組成物。
【請求項11】
前記ポリア抽出物が、前記ポリア抽出物の重量に対して、5〜35重量%のラノスタン化合物(I)を含む、請求項10に記載の薬剤組成物。
【請求項12】
前記ラノスタン化合物(I)が、下記化学式:
【化4】
を有する、請求項10または11に記載の薬剤組成物。
【請求項13】
前記薬剤組成物が経口摂取のためのものである、請求項10〜12のいずれか1項に記載の薬剤組成物。
【請求項14】
前記糖尿病がI型糖尿病である、請求項10〜13のいずれか1項に記載の薬剤組成物。
【請求項15】
前記糖尿病がII型糖尿病である、請求項10〜13のいずれか1項に記載の薬剤組成物。
【請求項16】
前記哺乳動物がヒトである、請求項10〜15のいずれか1項に記載の薬剤組成物。
【請求項1】
有効成分として、下記式(I):
【化1】
ただし、R1は、−Hまたは−CH3であり;R2は、−OCOCH3、=Oまたは−OHであり;R3は、−Hまたは−OHであり;R4は、−C(=CH2)−C(CH3)2Ra(この際、Raは、−Hまたは−OHである)または−CH=C(CH3)Rb(この際、Rbは、−CH3または−CH2OHである)であり;R5は、−Hまたは−OHであり;およびR6は、−CH3または−CH2OHである、
で示されるラノスタン化合物またはその薬理上許容される塩を哺乳動物における糖尿病を治療するのに有効な量を含み、前記糖尿病は、前記哺乳動物の血液中の不十分なインスリンにより誘発されるものである、哺乳動物における糖尿病を治療するための薬剤組成物。
【請求項2】
前記式(I)のラノスタン化合物が、下記化学式:
【化2】
を有する、請求項1に記載の薬剤組成物。
【請求項3】
前記式(I)のラノスタン化合物が、下記化学式:
【化3】
を有する、請求項2に記載の薬剤組成物。
【請求項4】
前記薬剤組成物が注射のためのものである、請求項1〜3のいずれか1項に記載の薬剤組成物。
【請求項5】
前記薬剤が経口摂取のためのものである、請求項1〜3のいずれか1項に記載の薬組成物。
【請求項6】
前記糖尿病がI型の糖尿病である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の薬剤組成物。
【請求項7】
前記糖尿病がII型の糖尿病である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の薬剤組成物。
【請求項8】
前記哺乳動物がヒトである、請求項1〜7のいずれか1項に記載の薬剤組成物。
【請求項9】
前記薬剤組成物が有効成分として前記式(1)を有する単離されたラノスタン化合物またはその薬理上許容される塩および薬理上許容される賦形剤または希釈剤を含む、請求項1〜8のいずれか1項に記載の薬剤組成物。
【請求項10】
ポリア抽出物を有効成分として有効な量含み、前記ポリア抽出物の重量に対して、1〜60重量%の請求項1に定義される前記化学式(I)を有するラノスタン化合物を含み、前記ポリア抽出物がセコラノスタン(secolanostane)を実質的に含まず、前記糖尿病が前記哺乳動物の血液中の不十分なインスリンに誘発されるものである、哺乳動物における糖尿病の治療のための薬剤組成物。
【請求項11】
前記ポリア抽出物が、前記ポリア抽出物の重量に対して、5〜35重量%のラノスタン化合物(I)を含む、請求項10に記載の薬剤組成物。
【請求項12】
前記ラノスタン化合物(I)が、下記化学式:
【化4】
を有する、請求項10または11に記載の薬剤組成物。
【請求項13】
前記薬剤組成物が経口摂取のためのものである、請求項10〜12のいずれか1項に記載の薬剤組成物。
【請求項14】
前記糖尿病がI型糖尿病である、請求項10〜13のいずれか1項に記載の薬剤組成物。
【請求項15】
前記糖尿病がII型糖尿病である、請求項10〜13のいずれか1項に記載の薬剤組成物。
【請求項16】
前記哺乳動物がヒトである、請求項10〜15のいずれか1項に記載の薬剤組成物。
【図1】
【図2A】
【図2B】
【図3A】
【図3B】
【図4】
【図5A】
【図5B】
【図6】
【図7A】
【図7B】
【図8A】
【図8B】
【図9A】
【図9B】
【図2A】
【図2B】
【図3A】
【図3B】
【図4】
【図5A】
【図5B】
【図6】
【図7A】
【図7B】
【図8A】
【図8B】
【図9A】
【図9B】
【公開番号】特開2011−46708(P2011−46708A)
【公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−190437(P2010−190437)
【出願日】平成22年8月27日(2010.8.27)
【出願人】(510118145)杏輝天力(杭州)藥業有限公司 (4)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年8月27日(2010.8.27)
【出願人】(510118145)杏輝天力(杭州)藥業有限公司 (4)
【Fターム(参考)】
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