紅茶ポリフェノール及びその使用
企図される組成物及び方法は、茶ポリフェノール組成物とラクトフェリンとの組み合わせを包含し、茶ポリフェノール組成物又はラクトフェリンのいずれか単独による治療よりも有意に高い効率で口腔癌を予防及び/又は治療するのに効果的である。このような改善された効率はまた、種々の臨床的及び全身的パラメータに反映され、これらのパラメーターは、第1相/第2相酵素の調節された活性、サイトケラチン、NF−κB、Bcl−2、PCNAの発現、並びに細胞増殖の変化及びアポトーシスの誘発を含む。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、2005年9月22日に出願されたシリアル番号60/720007を有する我々の同時係属中の米国仮特許出願に対する優先権を請求する。
【0002】
(本発明の分野)
本発明の分野は、口腔癌の治療及び/又は化学予防、並びに特に茶抽出物とラクトフェリンとを組み合わせた投与による口腔癌の治療及び/又は化学予防である。
【背景技術】
【0003】
口腔癌は、年間約500,000件のケースが新たに診断される世界的に5番目の最も普遍的な悪性腫瘍である。不運なことに、それらの約75%は、発展途上国で生じ、このような国において幅広く利用可能であり並びに入手可能である効果的な治療は見つかっていない。
【0004】
例えば、Tanakaらは、雄F344ラットにおける4−ニトロキノリン1−オキシド誘発性舌部発癌に及ぼす少なくともある程度のウシラクトフェリンの化学予防効果を報告し、舌部腫瘍形成に対する化学予防的作用が、細胞増殖活性の改変及び/又は解毒性酵素の活性を通じて介在されたかもしれないことを示唆した(Jpn J Cancer Res.2000 Jan;91(1):25−33)。他の例において、種々の茶ポリフェノールが、ある程度の抗悪性腫瘍効果を有するとして種々の刊行物において報告された。Hsuらは、p21WAF1が、いくつかの癌細胞の種類において緑茶ポリフェノールEGCGにより誘導できること、及びp21WAF1が、カスパーゼ3により介在されるアポトーシスを促進し得るOSC2細胞のEGCG誘発性成長抑止に関与することを観察した。これらの観察に基づいて、Hsuは、機能的p21WAF1の発現が、口腔癌細胞における植物化学物質介在性成長抑止及びアポトーシスを促進し得ると仮説を立てた(Anticancer Res.2005 Jan−Feb;25(1A):63−7)。さらなる実験において、Hsuは、緑茶及び緑茶の選択された構成物質が、口腔癌細胞においてのみ少なくともある程度までアポトーシスを選択的に誘導する一方、EGCGが口腔癌細胞の成長及び侵襲を抑制できたことをさらに発見した(Gen Dent.2002 Mar−Apr;50(2):140−6)。
【0005】
EGCGは、Weisburgらにより示されたように、酸化ストレスを促進することにおいて重要な役割を果たすことも報告された。ここで著者らは、EGCGがプロオキシダントとして作用し、癌細胞が正常細胞よりも酸化ストレスに対する感度がより高いことを報告した(Basic Clin Pharmacol Toxicol.2004 Oct;95(4):191−200)。
【0006】
緑茶はまた、平均腫瘍負担量並びに異形成及び口腔癌の発生率をある程度まで低下させることが実証され(Nutr Cancer.1999;35(1):73−9)、Liらは、茶とクルクミンとの組み合わせが、口腔の可視腫瘍発症率、扁平上皮癌発症率、腫瘍体積並びに異形成病変及び乳頭腫の数を有意に低下させたことを示すデータを呈示した(Wei Sheng Yan Jiu.2002 Oct;31(5):354−7)。
【0007】
不運なことに、報告された組成物及び方法のほとんどが、少なくともある程度の化学予防的効果又は治療効果を発揮する一方で、多様な困難が、なおも残存する。とりわけ、効果を持続するのに必要なポリフェノールの濃度は比較的高い。さらに、ポリフェノールの代謝変換が比較的迅速であるため、血清濃度が動物及びヒトにおいて迅速に低下し、効能は望ましいものよりも低くなる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従って、口腔癌の治療又は予防のための数多くの組成物及び方法が当分野で公知である一方、それらのすべて又はほぼすべてが1つ以上の不利点を抱えている。従って、腫瘍性疾患、及び特に口腔癌の化学予防及び/又は治療のための改善された組成物及び方法に対する必要性がなおもある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(発明の概要)
本発明は、茶ポリフェノール及びラクトフェリンが組み合わされて顕著な抗悪性腫瘍効果を発揮するような口腔癌の化学予防及び/又は治療のための組成物及び方法に向けられており、このような組み合わせにおける化合物は、単独又は共に投与され得る。
【0010】
本発明の主題の1つの態様において、栄養学的又は薬学的製品は、茶ポリフェノール組成物単独又はラクトフェリン単独のいずれかでの製品の経口投与により達成される効率よりも大きな効率で口腔癌を低減する有効量における茶ポリフェノール組成物とラクトフェリンとの組み合わせを含む。最も好ましくは、ポリフェノール組成物は、紅茶及び/又は緑茶から得られる複数のカテキンの混合物を含み、1つ以上の合成カテキンも含み得る。さらなる好ましい態様において、ポリフェノール組成物は、投与単位あたり100mgと600mgとの間の量において存在し、ラクトフェリンは、投与単位あたり200mgと1200mgとの間の量において存在し、この組み合わせが相乗的であることが、特に好ましい。企図される栄養学的製品は、特に固体製剤(例えば、カプセル、錠剤、スナックバー等)を含むが、望まれる場合、ポリフェノール組成物及び/又はラクトフェリンはまた、液体担体中に存在し得る。
【0011】
従って、茶ポリフェノール組成物の経口投与又はラクトフェリンの経口投与のいずれかを使用する口腔癌の治療又は化学予防を改善する方法は、一般に、茶ポリフェノール組成物の経口投与又はラクトフェリンの経口投与が第一効率で口腔癌を低減することを確実にする段階を含む。第二段階において、茶ポリフェノール組成物とラクトフェリンとの組み合わせの経口投与が、第一効率よりも大きな第二効率で口腔癌を低減するという情報が提供される。
【0012】
特に好ましい方法において、茶ポリフェノール組成物は、紅茶及び/又は緑茶から得られる複数のカテキンの混合物を含み、ラクトフェリンは、ウシラクトフェリンである。典型的に、組み合わせた経口投与における茶ポリフェノール組成物とラクトフェリンとの間の重量比は、1:1と1:3との間であり、最も典型的に相乗的な比である。経口投与が単一投与単位形態において同時投与であることがなおもさらに好ましい。
【0013】
まとめると、及びもう1つの見地から見て、本発明者らは、口腔癌の治療又は化学予防のための栄養学的又は薬学的製品の製造における、茶ポリフェノール組成物とラクトフェリンとの組み合わせの使用を企図する。このような使用において、茶ポリフェノール組成物及びラクトフェリンは、1:1と1:3との間の重量比において存在し、及び最も典型的には相乗的な重量比において存在する。さらに、茶ポリフェノール組成物が紅茶及び緑茶のうちの少なくとも1つから得られる複数のカテキンの混合物(又は少なくとも1つの合成カテキン)を含むこと、及び茶ポリフェノール組成物及びラクトフェリンが単一投与単位中に(例、栄養学的又は薬学的製品中に)調合されることが一般に好ましい。
【0014】
本発明の種々の目的、特徴、態様及び利点は、本発明の好ましい実施形態の以下の詳細な記述からより明白になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
(詳細な説明)
本発明者らは、茶ポリフェノールの化学予防の及び/又は治療上の効果が、このような化合物及び組成物とラクトフェリンとの組み合わせにより有意に改善できることを予期せずして発見した。他の顕著な結果(後述)のうち、本発明者らは、改善された効果が多くの場合相乗的であり、癌細胞における(ミトコンドリア介在性)アポトーシスの選択的誘発、癌細胞の増殖における低減、第I期/第II期酵素の調節、及び抗酸化効果の増強を含む、多数の内在する効果により推進されることを発見した。
【0016】
従って、以下に呈示される結果及びさらなる考察に基づき、この度栄養学的又は薬学的製品が、茶ポリフェノール組成物とラクトフェリンとの組み合わせを口腔癌を低減させる有効量において含むことが企図される。最も典型的に、このような組み合わせは、その組み合わせが茶ポリフェノール組成物又はラクトフェリンを単独で有する製品の経口投与よりもより大きな効率を有するよう提供される。このような増大された効率は、最も好ましくは相乗的である。異なる見地から見て、従って茶ポリフェノール組成物とラクトフェリンとの組み合わせが、口腔癌の治療又は化学予防のための栄養学的又は薬学的製品の製造において使用されることが企図される。
【0017】
本発明の主題のさらなる特に好ましい態様において、本発明者らは、1つの段階において、茶ポリフェノール組成物の経口投与又はラクトフェリンの経口投与が第一効率で口腔癌を低減することを確かめる、口腔癌の治療又は化学予防を改善する方法(このような方法は、茶ポリフェノール組成物又はラクトフェリンのいずれかを単独で使用する。)を企図する。好ましい方法の1つのさらなる段階において、茶ポリフェノール組成物とラクトフェリンとの組み合わせた経口投与が、第一効率よりも大きな効率で口腔癌を低減するという情報(例えば、印刷された、表示された、可聴性の)が提供される。
【0018】
茶ポリフェノール組成物の経口投与又はラクトフェリンの経口投与が第一効率で口腔癌を低減する(例えば、発生率、多重度、重症度及び/又はより悪性の形態への進行の速度)ことを確実にする段階に関して、当分野において公知の、このような確実化に関して数多くの方法があることを理解されたい。しかしながら、最も典型的に、このような確実化の段階は、以下に記載のように又は類似の方法において実施される実験的決定を使用して達成される。例えば、動物を使用する対照試験又はヒトにおける口腔癌データの統計的分析が使用され得る。代替的に又は追加的に、確実化の段階にはまた、公表された結果(ヒト又は動物に関する;例えば、J Pharmacol Sci.2005 May;98(1):41−8、又はNutrition.2006 Sep;22(9):940−6;Toxicol In Vitro.2005 Mar;19(2):231−42、又はClin Biochem.2005 Oct;38(10):879−86)に対する参照も含まれ得、その公表されたデータは、化学的組成物、用量、投与計画及び/又は投与経路に関して確実化されたデータと好ましくは同一であるが、必ずしも同一であるわけではない。
【0019】
同様に、茶ポリフェノール組成物とラクトフェリンとの組み合わせの経口投与が、第一効率よりも大きな効率で口腔癌を低減するという情報を提供する段階に関して、情報を提供する公知の方法の全てがここにおいて使用に適していると企図される。例えば、このような情報は印刷された形態、表示された形態、及び/又は可聴性の形態において提供され得る。例えば、企図される方法を規制当局の認可を得るために使用する場合(例、薬学的及び/又は栄養学的使用のため、又は効率の要求を具体化するため)、確実化の段階が動物及び/又はヒトでの治験を使用して実施され得るのに対して、情報を提供する段階は認可のための申請において印刷された(書面の及び図面の)形態において実施され得る。一方、企図される方法が、茶ポリフェノールとラクトフェリンとを含む組み合わせ製品を市販するために使用される場合、確実化の段階及び情報提供の段階は、第一効率に関して詳述する刊行物及び第一効率よりも大きな効率に関して詳述する刊行物を(一緒に又は別々に)参照する市販用材料を提供することにより実施され得る。
【0020】
企図される化合物
企図されるポリフェノール組成物に関し、適したポリフェノール組成物が植物由来のカテキンの混合物であることが、一般に好ましい。例えば、ポリフェノールの単離に特に適した植物には、中国茶植物(カメリア・シネンシス(Camellia sinensis)、特にその葉)又はブドウ(ビティス・ビニフェラ(Vitis vinifera)、特にその種子)が含まれる。特に好ましいポリフェノール組成物には、Mitsui Norin Japanからの、ポリフェノンE(緑茶ポリフェノール製剤)及びポリフェノンB(紅茶ポリフェノール製剤)の名称で市販されているものを含む。しかしながら、このような植物がポリフェノールのかなりの量を提供する限り、数多くの他の組成物が種々の植物から得られ得ることを理解されたい。
【0021】
他の適した成分の間で、植物ポリフェノール組成物が、エピガロカテキン−3−ガレート(EGCG)、エピガロカテキン(EGC)、エピカテキン−3−ガレート(ECG)、エピカテキン(EC)、ガロカテキン−3−ガレート(GCG)、ガロカテキン(GC)、テアフラビン、テアフラビンモノガレート−A、テアフラビンモノガレート−B、テアフラビンジガレート、タンニン等(これらの各々は立体化学的/光学的に純粋であり得又は異性体の混合物として存在し得る。)のうちの1つ以上(一般的には2と7の間)の少なくとも25重量%、より一般的に少なくとも50重量%、さらにより一般的に少なくとも75重量%、及び最も一般的に少なくとも85重量%を含むことが一般に好ましい。植物ポリフェノール組成物が、一般的に5重量%未満の、より一般的に3重量%未満の、及び最も一般的に1重量%未満の濃度の低減されたカフェイン含有量を有することは、さらに一般に好ましい。植物に依り、特定のポリフェノールの互いに対する重量比がかなり変動し得ることは注意されたい。しかしながら、特に好ましい植物ポリフェノール組成物は、一般に緑茶抽出物、紅茶抽出物由来であるもの、及びEGCGが主要成分である(一般に少なくとも30重量%、より一般に少なくとも40重量%の濃度で)ものを含む。紅茶抽出物はまた、重合カテキンまで重合されたカテキンを含むことでも特徴付けられ得る。最も一般に、重合カテキンは、テアフラビン及びテアルガビン(thearugabin)を種々の重量比及び平均分子量で含む。
【0022】
さらなる企図される態様において、植物ポリフェノール組成物は、その組成物が2つの又は唯一でさえあるポリフェノールを含むように調製され得る。このような製剤において、単離された植物ポリフェノールを1つ以上の合成ポリフェノールと、及び特にEGCGと置換することは有利であり得る。望ましい場合、企図されるポリフェノール組成物はガロイル化されたカテキンが豊化されたものであり得る。ここで企図されるカテキン(ガロイル化されたもの及びガロイル化されていないもの)が光学異性体、キラル中心及び/又は立体異性体を含むこと、及びこのような形態(及びそれらの混合物)の全てが本明細書で企図されることを注意されたい。なおもさらに企図されるポリフェノールはまた、式1:
【0023】
【化1】
[式中、R1、R2、R3、R4、R3’、R4’及びR5’は、独立してH、OH又はM(ここで、Mは、OC(O)R、OC(S)R、OC(NH)R、OR、又はR(ここで、Rは場合により置換されているアルキル、アルケニル、アルキニル、アルカリル、又はアリールである。)である。)であり;及びR3”は任意の没食子酸エステル基又はHである。]
で示される構造を有する(例えば、合成の、非天然型の)ポリフェノールも含み得る。
【0024】
適したラクトフェリン組成物に関して、ラクトフェリンが牛乳から単離され得る又は組換え生成物であり得るウシラクトフェリンであることが一般に好ましい。従って、ラクトフェリンの鉄負荷量がかなり変動し得ること、及び全ての公知の鉄負荷量がここで考慮されることを注意されたい。例えば、ラクトフェリン負荷量は、0%から20%の間の鉄飽和度、20%から40%の間の鉄飽和度、4%から60%の間の鉄飽和度、又は60%から100%の間の鉄飽和度であり得る。あるいは、ラクトフェリンはまた、人乳もしくは初乳又は他の哺乳動物の乳源からも単離され得る。再言すると、このような代替の供給源由来のラクトフェリンが組換えのものであり得ることを銘記されたい。
【0025】
なおさらなる企図される態様において、種々のその他の鉄及び特に3価鉄イオン錯化剤もまた適していることを理解されたい。特に適した化合物は、このようなキレート化能を有するタンパク質及び非タンパク質分子を含む。例えば、化合物が非タンパク質である場合、デスフェリオキサミンが採用され得、この化合物がタンパク質である場合、フェリチン又はヘモシデリンが使用され得る。さらに、タンパク質が比較的大きく、鉄結合ドメインが特徴付けられる場合、適した鉄キレート化剤は、鉄結合断片であり得る。
【0026】
企図される栄養学的組成物
一般に、口腔癌の化学予防及び/又は治療のためのポリフェノールとラクトフェリンとの全ての組み合わせが可食性担体中に、及び特にポリフェノール及びラクトフェリンの両方が同一可食性品目(即ち、栄養補給食品又は食品)中に存在するような可食性担体中に含まれ得ることが企図される。
【0027】
例えば、適した食品は、植物性材料(例えば、穀類、果物、野菜、ベリー等)及び/又は動物性材料(例えば、牛肉、豚肉、子羊肉、鶏肉、魚、甲殻類動物、乳、乳製品等)を含むか又はそれらから調製されるものを含み、このような材料は生であり得又は少なくとも部分的に加工されたものであり得る。従って、本発明の主題のさらなる企図される態様において、食品は固体又は液体であり、少なくとも1つの栄養素(例えば、炭水化物、タンパク質、脂質、ミネラル、ビタミン等)、繊維及び/又は水を経口投与可能な形態において提供する。ポリフェノール組成物とラクトフェリンとの企図される組み合わせは、固体又は液体の形態における食品に添加され得、又はポリフェノール組成物が第一可食性担体中にあり、ラクトフェリンが第二可食性担体中にあるような方法において提供され得る。最も好ましくは、食品はヒトが消費するための食品であり、液体、液体栄養素として調合される又はカプセル、錠剤もしくは散剤中に調合される(最も好ましくは、カテキン及びラクトフェリンが組み合わせの単一投与単位として調合される。)。
【0028】
例えば、食品が固体形態である場合、企図される形態は、特に、カプセル、錠剤又はその他の栄養学的に公知の固体形態として(例えば、散剤として)調合される栄養補助食品を含む。しかしながら、数多くの代替の固体処方も適していると考えられ、それらには、企図された化合物が添加された(又は、企図された化合物中に豊富に組み込まれた)スナックバー、チューインガム、トローチ剤等のそのまま消費できる製品、並びに発酵乳製品等が含まれる。同様に、食品が液体形態である場合、企図される食品製品は、特に茶又はブドウジュース、乳製品、炭酸飲料、果汁飲料(例えば、生果汁、濃縮物からのジュース又は果物ジュースを含む飲料)、スポーツドリンク、アルコール飲料、強化水(enriched water)等を含む。
【0029】
もう1つの例において、企図される食品の加工度がかなり変動し得ることが予想され、食品加工の全ての程度が本発明において使用に適していると考えられる。例えば、食品が加工されない場合(例えば、収穫された果実又は野菜)、本発明の主題による化合物は、被覆、混合物、溶液、注射剤として添加され得るか、でなければ食品と組み合わされ得ることが企図される。一方、食品が少なくともある程度まで加工される場合(例えば、物理的形態が変化する(例えば、押しオート麦)又は化学組成が変化する(例えば、果実抽出物又は食品との組み合わせ))、企図される化合物は、被覆として、混合した成分として添加され得るか、又は加工により増加され得る。
【0030】
従って、食品及び/又は加工の特定の種類に依り、企図されるポリフェノール組成物及びラクトフェリンは、単離された個々の化合物として及び/又は個々の化合物の混合物として添加され得ることを理解されたい。従って、このような化合物は比較的純粋であり得又はこのような化合物の1つ以上において富む画分として存在し得る。代替的に又は追加的に、食品中の企図されるポリフェノール組成物及び/又はラクトフェリンの濃度はまた、加工段階(例えば、企図される化合物の濃度を増大させる加工)により増大され得る。企図される化合物の食品への混合が数多くの方法において実施され得ることはさらに理解されたく、全ての公知の方法がここに提示された教示との併用の使用に適していることが企図される。
【0031】
企図される、食品中のポリフェノール組成物及びラクトフェリンの量に関して、そのような化合物の量は、組み合わせが茶ポリフェノール組成物との製品の又はラクトフェリン単独の経口投与よりも大きな効率を有するような量であることが一般に好ましい。従って、ポリフェノール組成物は一般に、1日用量あたり約200mgと1200mgとの間、及びより一般に400mgと800mgとの間の範囲(これらの量は、1単位から数単位において投与され得る。)において存在する。しかしながら、代替の態様において、ポリフェノール組成物のより少量もまた、適していると考えられる(例えば、100mgと200mgとの間、又はそれよりさらに少ない量、特にトローチ剤又はチューインガムの形態において)。同様に、より多量も考慮され、このような量は一般に、約1200mgと2000mgとの間(及びさらに多量)の範囲である。用語「約」は、本明細書で数とともに使用される場合、その数を含むその数+/−10%の範囲を指す。
【0032】
同様に、ラクトフェリンの量はかなり変動し得、一般に、1日の用量あたり約400mgと3000mgとの間、及びより一般に800mgと2000mgとの間の範囲である(これらの量は、1単位から数単位において投与され得る。)。しかしながら、代替の態様において、ポリフェノール組成物のより少量も適していると考えられる(例えば、200mgと400mgとの間、又はそれよりさらに少ない量、特にトローチ剤又はチューインガムの形態において)。同様に、より多量も考慮され(例えば、飲料中)、このような量は一般に、約3000mgと5000mgとの間(及びさらに多量でさえもある)の範囲である。従って、ラクトフェリンに対するポリフェノールの特に好ましい比が約1:1から約1:3の範囲内であり、さらにより好ましくは約1:2であることを理解されたい。ラクトフェリンはポリフェノールとともに投与され得るが、ラクトフェリンを液体形態で及びポリフェノールを固体形態で投与することもまた本明細書で適していると考慮される。ほとんどの場合、ラクトフェリンに対するポリフェノールの重量比は相乗的な重量比であることが好ましい(以下の実験を参照されたい。)。従って、特に好ましい食品において、ポリフェノール組成物は投与単位あたり100mgと600mgとの間の量において存在し、ラクトフェリンは投与単位あたり200mgと1200mgとの間の量において存在する。本発明の主題のよりさらなる態様において、企図される食品が少なくとも認められたか又は実証された栄養価を有する追加の成分を含み得ることは理解されたい。例えば、特に好ましい追加の成分は、酸化ストレスを低減し、免疫状態を改善するなどが公知の又は明言される成分を含む。
【0033】
企図される医薬組成物
ポリフェノールとラクトフェリンとの全ての組み合わせも医薬製剤として投与され得ることが一般に企図され、ここで、ポリフェノール及びラクトフェリンの投与は、単一投与単位において一緒に又は個別に行われ得る。特定の製剤に関わらず、ポリフェノール及び/又はラクトフェリンが薬学的に許容できる担体と混合されることが好ましい。特定の用途に依存して、製剤、経路及び/又は投与計画がかなり変動し得ることは理解されたく、本発明の主題が特定の製剤、経路及び/又は投与に限定しないように一般に企図される。
【0034】
従って、適切な製剤は、経口投与、非経口投与及び/又は局所投与(点鼻、頬内投与、及び舌下投与を含む。)のための製剤を含み、企図される製剤が単位用量形態中にあることがさらに好ましい。担体と組み合わされて単位用量形態を形成する企図されるポリフェノール及び/又はラクトフェリンの量が、化学予防的及び/又は治療的効果を生じる量であることがなおもさらに好ましい。従って、有効成分の百分率(重量%)は一般に、総重量の約10%から約99%までの、好ましくは約20%から約95%までの、より好ましくは50%から約90%までの、及び最も好ましくは約70%から約90%までの範囲である。
【0035】
しかしながら、医薬組成物の投与される用量がかなり変動し、特定の用量が少なくとも一部、(a)望ましい治療応答を達成するために効果的なポリフェノール及びラクトフェリンの量、(b)企図される化合物の製剤、(c)投与の経路、及び(d)年齢、性別、体重、一般的な健康状態、治療される患者の既往歴を含む他の因子に依存することは理解されたい。当業者は、必要とされる医薬組成物の有効量を容易に決定し、調合できる。
【0036】
企図される化合物の1日の用量が一般に、望ましい治療効果を生じるのに効果的な最低用量である化合物の量に対応することが一般に好ましい。このような効果的な用量は一般に、上述の因子に依存する。従って、本発明の主題による化合物の用量は、1日あたり体重1kgあたり約0.5mgから約100mgまでの、より好ましくは1日あたり1kgあたり約1.0mgから50mgまでの、及びさらにより好ましくは1日あたり1kgあたり約2.5mgから約25mgまでの範囲である。したがって、ポリフェノールの単位用量は一般に、約100mgから約5000mgまで、より好ましくは約200mgから約1200mgまで、及び最も好ましくは約200mgから約800mgまでの範囲である。同様に、ラクトフェリンの単位用量は一般に、1日あたり約400mgと約3000mgとの間、及びより一般には800mgと2000mgとの間の範囲である。望まれる場合、有効化合物の効果的な1日用量は、その日を通じて適切な間隔で別々に投与される2、3、4、5、6回以上の分割用量として、場合により単位用量形態中で投与され得る。
【0037】
典型的な経口用調合物
本発明の主題による医薬組み合わせが(個々に又は別々に)経口投与されることは一般に好ましく、固体形態及び液体形態を含む経口投与の全ての公知の形態が、本明細書での使用に適していると考えられる。例えば、固体経口形態は、カプセル剤、錠剤、トローチ剤、散剤を含むのに対し、好ましい液体経口形態は、溶液又は適している媒体(一般に水溶液)中の懸濁液を含む。
【0038】
典型的な適している薬学的に許容できる担体は、充填剤又は増量剤(例えば、デンプン、乳糖、ショ糖、グルコース、マンニトール及び/又はケイ酸)、結合剤(例えば、アルギン酸塩、ゼラチン、カルボキシメチルセルロース又はポリビニルピロリドン)、湿潤剤(例えば、グリセロール)、崩壊剤(例えば、寒天、炭酸カルシウム又はジャガイモ若しくはタピオカデンプン)、溶液遅延剤(例えば、パラフィン)、吸収促進剤(例えば、第四級アンモニウム塩)、湿潤剤(例えば、セチルアルコール、グリセロールモノステアレート)、吸収剤(例えば、カオリン、ベントナイト粘土)、潤滑剤(例えば、タルク、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、固体ポリエチレングリコール)、着色料、緩衝剤等を含む。企図される経口固体用量は、有効成分の緩慢な又は制御された放出を提供するようにも処方され得る(例えば、望ましい放出特性を提供する種々の比率におけるヒドロキシプロピルメチルセルロース、その他のポリマーマトリックス、リポソーム及び/又は微粒子を用いて)。企図される経口固体剤形の調製が当分野において公知であり、公知の方法全てが本明細書中に提示される教示とともに使用するのに適していると考えられることを理解されたい。
【0039】
企図される化合物の経口投与のための液体剤形は、薬学的に許容できる乳剤、マイクロエマルジョン、溶液、懸濁剤、シロップ剤及びエリキシル剤として調製され得る。従って、及び特定の処方に依存して、液体剤形はまた、水又は他の水性及び非水性溶媒を含む不活性希釈剤、可溶化剤及び乳化剤(例えば、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、炭酸エチル、酢酸エチル、ベンジルアルコール等)、懸濁剤(例えば、エトキシル化イソステアリルアルコール、ポリオキシエチレンソルビトール)、油(例えば、綿実、トウモロコシ、胚芽、オリーブ等)、グリセロール、テトラヒドロフリルアルコール、ポリエチレングリコール及びさらなる公知の薬学的に許容できる液体成分も含有し得る。
【0040】
典型的な非経口用調合物
本発明の主題による組み合わせが非経口的使用のための処方において調製され得ることが一般に企図され、特に企図される非経口的調合物は、注射のための液体調合物である。従って、適切な調合物は一般に、薬学的に許容できる溶媒(例えば、滅菌済み等張性の水性又は非水性溶液)を含み及び/又は分散剤、懸濁剤又は乳剤として調製され得る。あるいは、非経口的調合物はまた、企図される化合物及び使用前に液体製品に再構成され得る他の成分を含むキットとしても提供され得る。
【0041】
医薬組成物中に採用され得る適した水性及び非水性担体の例としては、水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール等)、及びそれらの適した混合物、植物油及びオレイン酸エチルなどの注射可能な有機エステルが挙げられる。適切な流動性は、例えば、レシチンなどの被覆材料の使用により、分散剤の場合、必要な粒子サイズの維持により、及び界面活性剤の使用により維持できる。
【0042】
企図される使用
本発明の主題による組成物及び方法が口腔癌の化学予防及び/又は治療に採用されることは、一般に好ましい。従って、適した状態は、前腫瘍状態並びに転移性であり得るか又はあり得ない腫瘍状態を含むことを理解されたい。例えば、口腔前腫瘍状態は、(ウィルス及び非ウィルス由来の)疼痛及び前腫瘍病変を含む。典型的な口腔癌及び/又は咽頭癌は特に、口腔の底部、頬の内側、歯肉及び/又は口蓋に共通の扁平上皮癌を含む。
【0043】
企図される化合物及び組成物の投与は、純粋に予防的であり得、又は前腫瘍病変若しくはさらに癌の第一診断において開始し得ることに注意されたい。従って、一般的な投与は好ましくは長期間に亘るものである。例えば、少なくとも30日間、より一般的に少なくとも60日間、及び最も一般的に少なくとも180日間にわたる毎日の投与が、特に好ましい。しかしながら、代替の態様において、投与は毎日である必要はないが、1週間に1回(又はさらに低頻度)と1週間に3回以上との間であり得る。
【0044】
実験
(I)紅茶ポリフェノール単独の効果
我々は、7,12ジメチルベンズ[a]アントラセン(DMBA)誘発性ハムスター頬嚢(HBP)発癌の開始前段階中の紅茶ポリフェノール(ポリフェノンB)投与の化学予防効果を評価した。頬嚢中の増殖性細胞核抗原(PCNA)の発現及び頬嚢、肝臓及び赤血球中の脂質過酸化物、タンパク質カルボニルの濃度、及び抗酸化状態を、化学予防の生物マーカーとして使用した。
【0045】
薬品
ウシ血清アルブミン、2−チオバルビツール酸、2,4−ジニトロフェニルヒドラジン、GSH,5,5’−ジチオビス(2−ニトロ安息香酸)(DTNB8)、DMBA及び3,3’−ジアミノベンジンをSigma Chemical Company(St.Louis,Mo,USA)から購入した。PCNAマウス単クローン抗体及び抗マウスビオチン標識二次抗体を、Dako,Carprinteria,CA,USAから購入した。Mitsui Norin Co.,Ltd Tokyo,Japanの御好意により提供されたポリフェノンBは、エピカテキン(0.4%)、エピガロカテキン−3−ガレート(1.4%)、エピカテキン−3−ガレート(0.1%)、ガロカテキン−3−ガレート(0.2%)、遊離テアフラビン(0.32%)、テアフラビンモノガレート−A(0.14%)、テアフラビンモノガレート−B(0.15%)、テアフラビンジガレート(0.21%)、タンニン(35.6%)及びカフェイン(4.9%)の混合物である。使用した他の試薬は全て、分析等級であった。
【0046】
動物及び食餌
実験は全て、Central Animal House Annamalai University,Indiaから入手した、90から110gの間の体重の6から10週齢の雄シリアンハムスターを使用して実施した。動物を1つのポリプロピレンケージに5匹収容し、食餌及び水を自由に摂取させた。動物を、12時間交代の明/暗サイクルで温度及び湿度の標準的な条件下で制御された環境において維持した。動物は、the National Institute of Nutrition,Indian Council of Medical Research,Hyderabad,Indiaの指針に従って維持され、Annamalai Universityの倫理委員会により承認された。実験用食餌は、ポリフェノンBを計量済み標準固形食(Mysore Snack Feed,Mysore,India)に0.05%の濃度で混合することにより毎日調製した。本研究において使用されるポリフェノンBに関する用量は、茶4杯の毎日の摂取に対応する(ヒトの場合、体重1kgあたり茶ポリフェノール30mgから40mg)。食餌を毎日補充し、食餌消費量を記録した。
【0047】
処置計画
ハムスターを実験群及び対照群に無作為に分け、各群10匹の動物の4群に分割した。群2の動物は、6週齢のとき発癌物質投与4週間前にポリフェノンBを含有する食餌を摂取させ、発癌物質への最終的な暴露まで続行した。10週齢で、群1及び群2のハムスターにDMBAの0.5%液体パラフィン中の溶液を右頬嚢上に、4番ブラシを使用して1週間に3回で14週間塗布した。各塗布により約0.4mgのDMBAが残留する。群1におけるハムスターはさらなる処置を受けなかった。群3における動物には、群2同様、ポリフェノンBを単独で投与した。群4の動物は基礎食を摂取し、対照の役割を果たした。
【0048】
実験は18週の末に終了し、動物は全て一晩の断食の後、頸椎脱離により屠殺した。動物を屠殺する前に、右嚢を肉眼で検査して前癌性病変又は腫瘍の発達を評価し、写真撮影した。腫瘍量を、平均腫瘍体積(4/3πr3)(r=1/2腫瘍直径(mm))に腫瘍の平均数を乗ずることにより算出した。頬嚢及び肝臓組織を細分し、各実験への分配のために多様に処理した。
【0049】
病理組織学
嚢組織を10%ホルマリン中に固定し、パラフィン中に包埋し、ポリリジン被覆ガラススライド上に載せ、ヘマトキシリン及びエオシンで染色した。基底細胞過形成、異形成及び扁平上皮癌(SCC9)を診断した。基底細胞の数の増加により示される頬嚢上皮の過形成を、内側の上皮の厚さに基づいて、軽度、中度及び重度として主観的に等級分けした。異形成を、不規則な上皮層別化、核分裂像の数の増加、細胞質に対する核の割合の増大及び基底細胞の極性の損失により特徴付けた。軽度、中度及び重度としての異形成の組織学的等級分けは、それぞれ上皮の1/3の関与、1/2の関与又は全部の関与に基づいた。SCCを、根底にある組織の侵襲、核の多形性及び有糸分裂の増大により診断した。その起源の組織に酷似した腫瘍を、高分化型SCCとして等級分けした。
【0050】
免疫組織化学
組織切片を60℃で10分間加熱することにより脱パラフィン化した後、キシレン中で3回洗浄した。特級アルコールで徐々に水和した後、スライドを、抗原賦活のために電子レンジ中で5分の2サイクルでクエン酸塩緩衝液(pH6.0)中に温置した。切片を20分間放冷した後、トリス緩衝生理食塩水(TBS10)ですすいだ。切片を蒸留水中の3%H2O2で15分間処置して、内因性ペルオキシダーゼ活性を阻害した。切片を正常ヤギ血清で25分間温置することにより非特異的抗体結合を低減させた。次に、切片を、PCNAマウス単クローン抗体で4℃で一晩温置した。スライドを、TBSで洗浄した後、抗マウスビオチン標識二次抗体に続きストレプトアビジン−ビオチン−ペルオキシダーゼを使用して、各々室温で30分間温置した。免疫沈降を、3,3’−ジアミノベンジジンによる処理及びヘマトキシリンによる対比染色により可視化した。陰性の対照のために、一次抗体をTBSで置換した。各抗体に関する陽性の対照も、同時に処理した。これらのタンパク質を発現する陽性腫瘍細胞の割合を、0=5%未満、1=5%から25%、2=26%から50%、3=51%から75%及び4=75%超過として等級分けし、免疫反応性の強度を−=なし、+=弱い染色、++=中等度の染色及び+++=強い染色として等級分けした。腫瘍細胞の10%超過が染色されたとき、腫瘍を陽性であるとみなした。
【0051】
組織ホモジネート及び赤血球可溶化液の調製
新鮮な組織を用いて生化学的評価を行った。重量測定後の頬嚢組織及び肝臓組織をTeflon乳棒を備えた総ガラス製ホモジナイザー中でホモジナイズし、使用まで氷中に保存した。血液サンプルをヘパリン処理したチューブ中に収集し、血漿を1000g、4℃で15分間遠心分離することにより、分離した。遠心分離後、バフィーコートを除去し、血中血球を、生理食塩水で3回洗浄した。赤血球サンプル(0.5ml)を0.1M NaCl溶液(pH7.4)を含有する0.2Mリン酸塩緩衝液4.5mLで可溶化した。溶血血液を、2500g、2℃、15分間の遠心分離により分離した。生化学アッセイを、即時実施した。
【0052】
生化学アッセイ
脂質過酸化を、チオバルビツール酸反応性物質(TBARS11)、脂質ヒドロペルオキシド(LOOH12)及び共役ジエン(CD13)の形成により証明されるように評価した。TBARSを、嚢組織及び肝臓組織においてOhkawaらの方法により、及び赤血球においてBuege and Austによって記述された方法によりアッセイした。脂質ヒドロペルオキシドを、Jiang et al.の方法により、共役ジエンを、Rao & Recknagelの方法により評価した。タンパク質の酸化を、カルボニル基が2,4−ジニトロフェニルヒドラジンと反応して2,4-ジニトロフェニルヒドラゾンを形成する反応に基づいたLevineらの方法により測定した。総SOD活性及びMn−SOD活性は、ニトロブルーテトラゾリウム(NBT14)還元の50%抑制に基づいてOberleyらにより記述されたようにアッセイした。Cu−Zn SOD活性を、総SOD活性からMn−SODの活性を減じることにより算出した。CATの活性を、酵素による過酸化水素の利用に基づいたSinhaの方法によりアッセイした。GSHを、DTNBをスルフヒドリル基含有化合物に添加するときに発色する黄色の測定によるAndersonの方法により測定した。酸化されたグルタチオン(GSSG15)を、Andersonの方法に従って340nmでのグルタチオン還元酵素(GR16、EC1.6.4.2)によるNADHの酸化後に評価した。セレニウム依存性グルタチオンペルオキシダーゼ(GPx17、EC1.11.1.9)活性を、Rotruckらの方法に従って、過酸化水素の利用に従うことによりアッセイした。非依存性GPx活性を、過酸化クメンを基質として使用するLawrence and Burkにより記述された方法に従ってアッセイした。γ-グルタミルトランスペプチダーゼ(GGT18)の活性を、ガンマグルタミルp-ニトロアニリドを基質として使用するFialaらの方法によりアッセイした。GR活性を、GSSGを基質として及びFADを補助因子として使用するCarlberg及びMannervickの方法により評価した。タンパク質含有量を、ウシ血清アルブミンを標準物質として使用するLowryらの方法により評価した。
【0053】
統計分析
データを、平均±標準偏差として表す。体重を、Studentのt検定により分析した。Yateの補正と組み合わせたχ2検定を使用して、腫瘍の発生率を分析した。腫瘍量、免疫組織化学的分析及び生化学アッセイのデータに関する統計分析を、分散分析(ANOVA19)を用いて行い、群平均を、最小有意差検定(LSD20)により比較した。結果は、p値が0.05未満の場合、統計的に有意とみなした。
【0054】
結果
総体的観察結果
図1の表1は、種々の群における平均体重、食餌消費量、腫瘍発生率、腫瘍多重度及び平均腫瘍量を示す。群1におけるハムスターは、実験中体重が低下する傾向を示し、平均最終体重は、対照(群4)と比較して有意に(p<0.01)低下した。体重における有意差は、群2から群4において観察されなかった。群1から群4において消費された食餌量に有意差はなかった。実験期間の終了時に、群1における腫瘍発生率は、ハムスター1匹あたり1.8の多重度及び346mm3の腫瘍量を有するものが100%であった。ポリフェノンBの投与は、20%まで腫瘍発生率を低下させ、多重度はハムスター1匹あたり0.3であった。さらに、腫瘍は、群1と比較して有意により小さかった(平均腫瘍量17.2mm3)。腫瘍は、群3及び群4において観察されなかった。
【0055】
組織病理学的観察結果
図1の表2は、実験群及び対照群におけるハムスターの頬嚢中の組織病理学的変化を要約する。群1のハムスターは全て、重度の角化症、過形成、異形成及び高分化型SCCを呈した。DMBAを塗布したハムスター(群2)に対するポリフェノンBの食餌性投与は、SCCの発生率、並びに過形成病変及び異形成病変を有意に低減した。10匹の動物のうち、僅か2匹だけがSCCを発症し、4匹の動物は軽度から中度の異形成を示し、残り4匹のハムスターは、中度の過形成だけを示した。軽度の過形成の変化が、群3のハムスターのうちの2匹において観察された。対照群の動物において、上皮は正常であり、無傷であり、連続していた。各群における組織病理学的変化の代表的な顕微鏡写真を図2に示す。図2は、対照群及び実験群の動物の頬嚢粘膜のH及びE染色した領域の顕微鏡写真を示す。A.DMBA処置14週間後の群1動物の結合組織への広範囲な浸潤を伴う高分化型SCC(H及びE染色、10倍)。B.中度の異形成を呈するDMBA及びポリフェノンBを投与した群2ハムスター由来の頬嚢上皮の顕微鏡写真(H及びE染色、40倍)。C.軽度の過形成を呈するポリフェノンB単独を投与した群3ハムスター由来の頬嚢上皮の顕微鏡写真(H及びE染色、40倍)。D.対照群動物の正常な頬嚢組織学を示す顕微鏡写真(群4、H及びE染色、40倍)。
【0056】
免疫組織化学的知見
図3は、ポリフェノンBの、対照群動物及び実験群動物の頬嚢粘膜中のPCNA発現に及ぼす効果を示す。DMBAを塗布したハムスターにおいて、PCNAの平均タンパク質発現(81%)は、対照群動物(群4)と比較して有意に高かった。ポリフェノンBの投与(群2)は、群1と比較してPCNAの発現(52%)を有意に低減した。PCNAの発現における有意の変化は、対照群と比較して群3動物において観察されなかった。免疫染色の代表的な顕微鏡写真を、図4に示す。ここでは、対照群及び実験群の動物におけるPCNA発現の免疫組織化学的染色の顕微鏡写真(10倍)は、A.群1動物におけるPCNAタンパク質の過剰発現、B.群2動物におけるPCNAタンパク質の発現の低下、C.群3動物におけるPCNAタンパク質の発現、D.対照群動物におけるPCNA発現を示す。
【0057】
生化学的知見
図5の表3は、脂質過酸化及びタンパク質酸化に及ぼすポリフェノンBによる前処置の効果を示す。脂質過酸化の程度及びタンパク質カルボニルの形成は、対照群と比較して、DMBAを塗布したハムスター(群1)の頬嚢において有意により低く、肝臓においてより高かった。ポリフェノンBの食餌性投与(群2)は、群1と比較して、肝臓における減少を伴う頬嚢における有意な増大により反映される、脂質及びタンパク質の酸化におけるDMBA誘発変化を有意に和らげた。ポリフェノンB単独の投与は、対照群と比較して群3動物において、組織の脂質過酸化及びタンパク質酸化の程度を有意に低減した。
【0058】
対照群及び実験群の動物の頬嚢、肝臓及び赤血球中の抗酸化酵素SOD(総SOD、Mn−SOD、Cu−Zn SOD)及びCATの活性を図6に示す。DMBAを塗布した動物(群1)において、SOD及びCATの活性は、対照群と比較して有意により低かった。ポリフェノンBの食餌性投与は、群1と比較して群2動物における抗酸化酵素の活性を有意に増大させた。ポリフェノンB単独の投与は、対照群(群4)と比較して群3動物においてSOD及びCATの活性を有意に増大させた。頬嚢、肝臓及び赤血球中のGSH濃度及びGSH依存性酵素の活性の変化を図7及び8に提示する。DMBAを塗布した動物(群1)において、GSH濃度、GSSG濃度及びGSH/GSSG比並びにGPx(Se依存性及び非依存性)、GR及びGGTの活性は、頬嚢において有意に増大したのに対し、肝臓及び赤血球においてはこれらの抗酸化剤は、対照と比較して有意に減少した。ポリフェノンBの食餌性投与は、群2動物の頬嚢、肝臓及び赤血球中の全ての抗酸化剤及び解毒酵素を群1と比較して有意に増大させた。ポリフェノンB単独による処置は、群3動物においてGSH及びGSH依存性酵素を対照群と比較して有意に増強させた。
【0059】
DMBA単独を14週間塗布したハムスターは全て、PCNAの発現の増大と関連した頬嚢癌を発症させ、脂質及びタンパク質の酸化を減少させ、抗酸化状態を増強した。担癌動物の肝臓及び赤血球において、脂質及びタンパク質の酸化の増強には、易感染性の抗酸化剤防御を伴った。ポリフェノンBの食餌性投与は、腫瘍及びPCNA発現の発生率の低下によって明らかにされたように、DMBA誘発性HBP発癌を効果的に抑制した。また、ポリフェノンBは、脂質及びタンパク質の酸化を和らげ、嚢、肝臓及び赤血球における抗酸化状態を増強した。我々は、ポリフェノンBが、標的組織中の細胞増殖を抑制し、標的組織並びに宿主組織における酸化−抗酸化状態を調節することにより、その化学予防効果を発揮することを示唆する。
【0060】
従って、紅茶カテキン、及び特にポリフェノンBの投与は、標的器官及び宿主組織において酸化還元状態を調節し、頬嚢におけるPCNA発現を有意に抑制したことを理解されるべきである。HCPC−ハムスター頬嚢癌細胞株ポリフェノンBは、脂質及びタンパク質の酸化に対する感受性を逆転させる一方、同時に頬嚢における抗酸化状態を増大させ、他方で、肝臓及び赤血球において、脂質及びタンパク質の酸化の程度が抗酸化剤の増加とともに低減された。従って、ポリフェノンBにより腫瘍組織及び宿主組織において誘発される差別的な酸化事象は、PCNA発現の下方制御及び腫瘍発生の抑制からも明白なように、細胞増殖に及ぼすその抑制的な役割に反映している。これらの結果は、ポリフェノンBの食餌性投与が、PCNA発現を下方制御し、脂質及びタンパク質の酸化を調節し、抗酸化状態を増強することにより、HBP発癌に対する著しい保護を発揮することを実証している。
【0061】
我々はさらに、紅茶ポリフェノール(ポリフェノンB(P−B))の、7,12−ジメチルベンズ[a]アントラセン誘発性ハムスター頬嚢(HBP)発癌の間のサイトケラチンの発現並びに増殖及びアポトーシス関連タンパク質の発現に及ぼす効果を評価した。発癌に対するマーカーとして、我々は、サイトケラチン、PCNA、NF−κB、及びBcl−2の発現の増加並びにチトクロムC及びカスパーゼ3の発現の減少を伴う頬嚢癌腫の発生を使用した。
【0062】
薬品
DMBA及び3’−ジアミノベンジジンは、Sigma Chemical Company,St.Louis,MO,USAより購入した。使用した他の試薬は全て、分析等級のものであった。
【0063】
動物
実験を、the Central Animal House,Annamalai University,Indiaから入手した90gから110gの間の体重の6週齢から10週齢の雄シリアンハムスターを使用して実施した。動物を1つのポリプロピレンケージに5匹収容し、食餌及び水を自由に提供し、12時間交代の明/暗サイクルで温度及び湿度の標準的な条件下で制御された環境中に維持した。動物は、the National Institute of Nutrition,Indian Council of Medical Research,Hyderabad,Indiaの指針に従って維持され、Annamalai Universityの倫理委員会により承認された。実験用食餌は、P−Bを計量済み標準固形食(Mysore Snack Feed,Mysore,India)に0.05%の濃度で混合することによって毎日調製した。本研究で使用されるP−Bに関する用量は、茶4杯の毎日の摂取に対応する(ヒトの場合、体重1kgあたり茶ポリフェノール30mgから40mg)。食餌を、毎日補充し、食餌消費量を記録した。
【0064】
処置計画
ハムスターを実験群及び対照群に無作為に分け、各群10匹の動物の4群に分割した。群2の動物は、6週齢のとき発癌物質投与4週間前にP−Bを含有する食餌を摂取し、発癌物質への最終的な暴露まで続行した。10週齢で、群1及び群2のハムスターにDMBAの0.5%液体パラフィン溶液を右頬嚢上に、4番ブラシを使用して1週間に3回で14週間塗布した。各塗布により約0.4mgのDMBAが残留する。群1の2匹のハムスターはさらなる処置を受けなかった。群3の動物には、群2同様、P−Bを単独で投与した。群4の動物は基礎食を摂取し、対照の役割を果たした。実験を18週の末に終了し、全ての動物を、一晩の断食の後、頸椎脱離により屠殺した。動物を屠殺する前に、右嚢を肉眼で検査して前癌性病変又は腫瘍の発達を評価し、写真撮影した。腫瘍量を、平均腫瘍体積(4/3πr3)(r=1/2腫瘍直径(mm))に腫瘍の平均数を乗ずることにより算出した。頬嚢組織を細分し、各実験への分配のために多様に処理した。組織を10%ホルマリン中に固定し、パラフィン中に包埋し、ポリリジン被覆ガラススライド上に載せた。各標本から1つの切片をヘマトキシリン及びエオシンで染色した。残余切片を免疫組織化学的染色に使用した。
【0065】
免疫組織化学
組織切片を60℃で10分間加熱することにより脱パラフィン化した後、キシレン中で3回洗浄した。特級アルコールで徐々に水和した後、スライドを、抗原賦活のために電子レンジ中で5分の2サイクルでクエン酸塩緩衝液(pH6.0)中に温置した。切片を20分間放冷した後、トリス緩衝生理食塩水(TBS)ですすぎ、蒸留水中の3%H2O2で15分間処置して、内因性ペルオキシダーゼ活性を阻害した。切片を、正常ヤギ血清で25分間温置することにより、非特異的抗体結合を低減させた。次に、切片をサイトケラチン、PCNA及びBcl−2(DAKO,Carprinteria,CA,USA)マウス単クローン抗体及びNF−κB及びカスパーゼ3ウサギ多クローン抗体及びチトクロムC単クローン抗体(全てNeo Markers,USA)に4℃で一晩温置した。該スライドをTBSで洗浄した後、抗ウサギ及び抗マウスビオチン標識二次抗体(両方ともDAKO,Carprinteria,CA,USA)に続きストレプトアビジン−ビオチン−ペルオキシダーゼを使用して、各々室温で30分間温置した。免疫沈降を3,3’−ジアミノベンジジンによる処理及びヘマトキシリンによる対比染色により可視化した。陰性の対照のために、一次抗体をTBSで置換した。各抗体に関する陽性の対照も同時に処理した。PCNAに関する標識指数を、3つの高倍率視野における100個の計数された細胞あたりの陽性の染色を有する細胞の数として算出した。NF−κB、Bcl−2、チトクロムC及びカスパーゼ3の発現を、100個の計数された細胞あたりの正に染色された細胞の数に従って、I=5%から25%、II=26%から50%、III=51%から75%及びIV=75%超過、として等級分けした。サイトケラチンの発現を、0=ケラチンを検出できない、I=基底領域又は基底上領域染色のいくらかの証拠に限定される染色、II=基底領域及び/又は基底上領域を通じての陽性の染色、として等級分けした。
【0066】
カスパーゼ3活性の比色評価
DEVD特異的カスパーゼ3活性を、CASP−3−C比色キット(Sigma,St.Louis Mo,USA)を使用して製造者の説明書に従ってアッセイした。細胞質抽出物を、50mM HEPES(pH7.4)、5mM CHAPS及び5mM DTTを含有する可溶化緩衝液中で組織をホモジナイズすることにより調製した。上澄みを酵素源として回収した。カスパーゼ3比色アッセイは、ペプチド基質であるアセチル−Asp−Glu−Val−Asp−ニトロアニリド(Ac−DEVD−pNA)のカスパーゼ3による加水分解の結果として、p−ニトロアニリン(pNA)部分の放出が生じることに基づいている。基質から放出されるpNAの濃度を、405nmでの吸光度値から、又はpNA規定溶液で作成した検量線から算出する。
【0067】
統計分析
腫瘍の発生率、及びNF−κB、サイトケラチン、Bcl−2、チトクロムC及びカスパーゼ3の等級分けを、X2検定を使用して統計的に比較した。腫瘍量に関するデータの統計分析を、Studentのt検定を使用して実施した。PCNA標識指数及びカスパーゼ3の比色アッセイデータを、ANOVAを使用した後LSDを使用して分析した。結果を、p値が0.05未満の場合統計的に有意と考慮した。
【0068】
結果
図9の表4は、対照動物及び実験動物における腫瘍発生率、平均腫瘍量及び組織病理学的変化を示す。群1における腫瘍発生率は100%であり、平均腫瘍量は346mm3であった。組織学的に、DMBAにより誘発されるHBP腫瘍は、結合組織への扁平上皮の乳頭状突起を伴う侵襲性扁平上皮癌であった。DMBA及びP−Bで処置した10匹のハムスターのうちの2匹はSCCを発生し、他方、4匹のハムスターは軽度から中度の異形成を示し、残り4匹のハムスターは中度の過形成を示した。軽度の過形成性変化が、群3におけるハムスターのうちの2匹において観察された。対照動物において、上皮は正常であり、無傷であり、連続していた。
【0069】
図10の表5は、対照動物及び実験動物の頬嚢におけるPCNA標識指数及びNF−κB、サイトケラチン、Bcl−2、チトクロムC及びカスパーゼ3の発現に及ぼすP−Bの効果を示す。DMBAを塗布した動物(群1)において、PCNA、NF−κB、サイトケラチン及びBcl−2の発現は、対照動物(群4)と比較して有意により高く、チトクロムC及びカスパーゼ3の発現は有意により低かった。P−Bの投与(群2)は、群1と比較して、PCNA、NF−κB、サイトケラチン及びBcl−2の発現を有意に低下させ、チトクロムC及びカスパーゼ3の発現を有意に増大させた。群3の動物において、PCNA、NF−κB、サイトケラチン、Bcl−2、チトクロムC及びカスパーゼ3の発現の有意な変化は観察されなかった。PCNAの免疫染色が核の局在化を示したのに対し、NF−κB、サイトケラチン、Bcl−2、チトクロムC及びカスパーゼ3は、細胞質領域中に見られた。免疫染色の代表的な顕微鏡写真を、図11及び12に示す。
【0070】
図13は、対照ハムスター及び実験ハムスターにおける頬嚢中のDEVD特異的カスパーゼ3の活性を示す。DMBAを塗布した動物(群1)において、カスパーゼ3活性は、対照(群4)と比較して有意に低下した。P−Bによる処置は、群2動物における酵素活性を群1と比較して著しく増大させた。P−B単独投与した動物(群3)において、カスパーゼ3の活性は対照のそれと有意に違わなかった。
【0071】
従って、紅茶ポリフェノール、及び特にP−Bの食餌性投与が、DMBA誘発性HBP癌及び新生物発生前の病変の発生率を低減したことに留意されたい。P−Bは又、頬嚢中のPCNA、NF−κB及びBcl−2の発現も有意に下方制御し、シトクロムC、カスパーゼ3及びサイトケラチンを上方制御した。これらデータは、P−Bは抑制剤として作用し、PCNA、NF−κB及びBcl−2を下方制御すること及びチトクロムC、カスパーゼ3及びサイトケラチンを上方制御することにより、その抗悪性腫瘍特性を発揮することを強く示唆する。興味深いことに、P−Bは、腫瘍細胞においてアポトーシスを誘発したが、正常細胞において誘発できなかった。Hsuらは、EGCGが正常な成長に影響を及ぼさずにアポトーシス経路を活性化することにより形質転換された細胞の成長阻害を誘発すること見出し正常細胞への保護的な効果が細胞分化と密接に関連する分子であるp57によりもたらされるのであろうことを示唆した。これらの知見は、腫瘍細胞にはアポトーシスを経験させ、正常細胞には生存経路へ導く食餌性薬剤が、理想的な化学予防剤であるという仮説を支持する。
【0072】
(II)紅茶ポリフェノール−ラクトフェリンの組み合わせの効果
我々は、7,12−ジメチルベンズ[a]アントラセン(DMBA)誘発性ハムスター頬嚢(HBP)発癌に及ぼすウシラクトフェリン(bLF)と紅茶ポリフェノール(ポリフェノンB:P−B)との組み合わせの抗増殖性及びアポトーシス誘発効果を評価した。増殖性細胞核抗原(PCNA)、NF−κB、p53変異体、Bcl−2、Bax、Fas及びカスパーゼ3を含むサイトケラチン及び他のマーカーの発現を、口腔癌の化学予防のためのマーカーとして使用した。
【0073】
薬品
DMBAをSigma Chemical Company,St.Louis,MO,USAから購入した。純度が96.2%以上のbLF(ロット番号020119)をMorinaga Milk Industry Co.,Ltd,Tokyo,Japanから入手した。紅茶ポリフェノール(ポリフェノン−B)は、Mitsui Norin Co.,Ltd.,Tokyo,Japanの好意により提供された。ポリフェノン−Bの組成は前述と同一であった。それは、エピカテキン(0.4%)、エピガロカテキン−3−ガレート(1.4%)、エピカテキン−3−ガレート(0.1%)、ガロカテキン−3−ガレート(0.2%)、遊離テアフラビン(0.32%)、テアフラビンモノガレート−A(0.14%)、テアフラビンモノガレート−B(0.15%)、テアフラビンジガレート(0.21%)、タンニン(35.6%)及びカフェイン(4.9%)の混合物である。使用した他の試薬は全て、分析等級であった。
【0074】
動物及び食餌
実験は、the Central Animal House,Annamalai University,Indiaから入手した100gから110gの体重の8週齢から10週齢の雄シリアンハムスターを使用して実施した。動物を1つのポリプロピレンケージに5匹収容し、食餌及び水を自由に提供し、明/暗交互サイクルで温度及び湿度の制御された条件下で維持した。動物を、the National Institute of Nutrition,Indian Council of Medical Research,Hyderabad,Indiaの指針に従って維持し、Annamalai Universityの倫理委員会により承認された。実験食は、化学予防剤を単独で又は組み合わせで計量済み標準固形食(Mysore Snack Feed,Mysore,India)に混合することにより毎日調製した。食餌を毎日補充し、食餌消費量を記録した。
【0075】
処置計画
ハムスターを実験群及び対照群に無作為に分け、各群20匹の動物の8群に分割した。群1において、ハムスターの右頬嚢に、0.5%DMBA液体パラフィン溶液を4番ブラシで毎週3回塗布した。各塗布により約0.4mgのDMBAが残留する。群1のハムスターは、さらなる処置を受けなかった。群2から群4において、群1同様DMBAを塗布した右頬嚢はさらに、0.2%bLF、0.05%ポリフェノン−Bを含有する基本食及び0.2%bLFと0.05%ポリフェノン−Bとの組み合わせを含有する食餌をそれぞれ受容した。群5から群7の動物にbLF、ポリフェノン−B単独及びそれらの組み合わせをそれぞれ投与した。群8の動物は対照の役割をした。実験は14週で終了し、全ての動物を、一晩の断食の後、頸椎脱離により屠殺した。動物を屠殺する前に、右嚢を肉眼で検視して前癌性病変又は腫瘍の発達を評価し、写真撮影した。腫瘍量を、平均腫瘍体積(4/3πr3)(r=1/2腫瘍直径(mm))に腫瘍の平均数を乗ずることにより算出した。頬嚢組織を細分し、各実験への分配のために多様に処理した。組織を10%ホルマリン中に固定し、パラフィン中に包埋し、ポリリジン被覆ガラススライド上に乗せた。各標本から1つの切片をヘマトキシリン及びエオシンで染色した。残余切片を免疫組織化学的染色に使用した。
【0076】
免疫組織化学
組織切片を60℃で10分間加熱することにより脱パラフィン化した後、キシレン中で3回洗浄した。特級アルコールで徐々に水和した後、スライドを、抗原賦活のために、電子レンジ中で5分×2サイクルでクエン酸塩緩衝液(pH6.0)中に温置した。切片を20分間放冷した後、トリス緩衝生理食塩水(TBS)ですすいだ。切片を蒸留水中の3%H2O2で15分間処置して、内因性ペルオキシダーゼ活性を阻害した。切片を正常ヤギ血清で25分間温置することにより、非特異的抗体結合を低減させた。次に、切片をPCNA、p53及びサイトケラチンAE1/AE3マウスモノクローナル抗体(Dako,Carprinteria,CA,USA)で4℃で一晩温置した。スライドをTBSで洗浄した後、抗ウサギ及び抗マウスビオチン標識二次抗体(DAKO,Carprinteria,CA,USA)に続きストレプトアビジンビオチン−ペルオキシダーゼを使用して、各々室温で30分間温置した。免疫沈降を3,3´−ジアミノベンジジン(Sigma)による処理及びヘマトキシリンによる対比染色により可視化した。陰性の対照のために、一次抗体をTBSで置換した。各抗体に関する陽性の対照も、同時に処理した。PCNAに関する標識指数を、100個の計数された細胞あたりの陽性の染色を有する細胞の数として表した。サイトケラチンに関するデータを、I=基底領域又は基底上領域染色のいくらかの証拠に限定される染色、II=基底領域及び/又は基底上領域を通じての陽性の染色、として等級分けした。p53発現を、100個の計数された細胞あたりの正に染色された細胞の数に従って、I=5%から25%、II=26%から50%、III=51%から75%及びIV=75%超過、として等級分けした。
【0077】
SDS−PAGE及びウェスタンブロット分析
各組織サンプル約50mgを、62.5mMトリス(pH6.8)、2%SDS、5%2−メルカプトエタノール、10%グリセロール及びブロモフェノールブルーを含有するサンプル緩衝液中における可溶化に供した。可溶化液のタンパク質濃度を、Bradford法により測定した。SDS−PAGEを、Laemmli法に従って各サンプルから等価のタンパク質抽出物(55μg)を使用して実施した。分解したタンパク質をポリビニリデンジフルオリド膜(Immobilion,Millipore,Bedfore,MA,USA)へ電気泳動的に転写した。膜を、5%無脂肪乾燥乳を含有するTBS(150mM NaCl/50mMトリス、pH7.4)中で温置して、非特異的結合部位を1時間遮断した。ブロットを抗Bcl−2、抗Bax、抗p53、抗NF−κB、抗Fas、及び抗カスパーゼ3抗体(NeoMarkers,USA)の1:1000希釈とともに室温で一晩温置した。ブロットを0.1%Tween−20を含有するTBS(TBS−T)で徹底的に洗浄した後、西洋ワサビペルオキシダーゼ標識二次抗体(Santa Cruz Biotechnology,CA,USA)の1:1000希釈とともに室温で30分間から45分間温置した。TBS−T中で徹底的に洗浄した後、タンパク質を3,3’−ジアミノベンジジン(Sigma)で処置することにより可視化した。濃度測定をIISP平板ベッドスキャナ上で実施し、Total Lab1.11ソフトウェアで定量化した。
【0078】
カスパーゼ3活性の比色評価
DEVD特異的カスパーゼ3活性を、CASP−3−C比色キット(Sigma,St.Louis Mo,USA)を使用して製造者の説明書に従ってアッセイした。細胞質抽出物を、50mM HEPES(pH7.4)、5mM CHAPS及び5mM DTTを含有する可溶化緩衝液中で組織をホモジナイズすることにより調製した。上澄みを酵素源として回収した。カスパーゼ3比色アッセイは、ペプチド基質であるアセチル−Asp−Glu−Val−Asp−ニトロアニリド(Ac−DEVD−pNA)のカスパーゼ3による加水分解の結果として、p−ニトロアニリン(pNA)部分の放出が生じることに基づいている。基質から放出されるpNAの濃度を、405nmでの吸光度値から、又はpNA規定溶液で作成した検量線から算出する。
【0079】
統計分析
データを平均±SDとして表す。Yatesの補正と組み合わせたχ2検定を使用して、腫瘍の発生率を分析した。分散分析(ANOVA)を使用して、腫瘍量、PCNA標識指数及び濃度測定分析に関するデータに対する統計分析を行って、群平均をTukey−Kramer検定により比較した。CK及びp53に関するデータに対する統計分析を、χ2検定を使用して行った。結果は、p値が0.05未満の場合、統計的に有意であると考慮した。bLFとポリフェノン−Bとの組み合わせの効果の間の相互作用の性質は、Yokoyamaらによって記載されるとおり評価した。端的には、bLF処置とポリフェノン−B処置との間の組み合わせの効果の期待値を、[(観察されたbLF処置値)/(対照値)]×[(観察されたポリフェノン−B処置値)/(対照値)]として算出し、組み合わせ指数を、期待値/観察値の比として算出した。1を超える比は相乗効果を示し、1未満の比は付加的な効果未満を示す。
【0080】
結果
図14の表6は、実験群及び対照群のハムスターの頬嚢における食餌消費量、腫瘍発生率、腫瘍量及びSCCの発生率を要約する。14週の終了時に、群1の腫瘍発生率は、100%であった。これらの腫瘍は、外方増殖性であり、172.97mm3の平均腫瘍量で明確に定義された。bLF及びポリフェノン−Bの単独の及び組み合わせの投与(群2から群4)は、腫瘍発生率、腫瘍量並びにSCCの発生率を有意に低下させたが、前記組み合わせは、単一薬剤よりも効果的であった。さらに、腫瘍発生率に対するbLFとポリフェノン−Bとの組み合わせに関する1.46の組み合わせ指数比は、前記組み合わせがHBP発癌の抑制において相乗効果を有することを示す。腫瘍は、群5から群8においては観察されなかった。群1から群8において消費される食餌量は有意に異ならなかった。
【0081】
図15(A)及び図16の表7は、種々の群におけるサイトケラチンの免疫組織化学的分析を示す。DMBAを塗布した動物(群1)において、サイトケラチンの発現は、対照動物よりも有意により高かった。さらに、我々は、浸潤している癌細胞が群1動物においてサイトケラチンの強力な発現を示すことを観察した。bLFとP−Bとの組み合わせは、いずれかの薬剤単独よりも有意にサイトケラチン発現を低下させた。化学予防剤単独の投与(群5から群7)は、対照群(群8)と比較して、サイトケラチンの発現に有意に影響を及ぼさなかった。
【0082】
図15(B)及び図16の表7は、対照動物及び実験動物のハムスター頬嚢におけるPCNA標識指数の免疫組織化学的分析を示す。DMBAの局所適用(群1)は、対照群(群8)と比較して、平均PCNA標識指数を有意に増加させた。bLFとP−Bとの同時投与は、群1と比較していずれかの薬剤単独よりもPCNA標識指数をより有意に低減させた。bLF及びP−Bの単独の及び組み合わせの投与(群5から群7)は、処置されていない対照群(群8)と比較して、PCNA標識指数に有意に影響しなかった。
【0083】
変異体p53タンパク質発現の免疫組織化学的分析の結果及びp53免疫染色の代表的な顕微鏡写真を、図15(C)の表7に示す。DMBAを塗布した動物において、p53発現は、対照群(群8)と比較して有意に増大した。bLFとP−Bとを組み合わせた投与は、いずれかの薬剤単独よりも有意にp53発現を低下させた。化学予防剤単独を投与された動物(群5から群7)において、p53の発現は、対照群と有意には異ならなかった。
【0084】
図17は、対照動物及び実験動物の頬嚢におけるBcl−2、Bax、NF−κB、p53、Fas及びカスパーゼ3の代表的なウェスタンブロット分析並びにカスパーゼ3の活性を示す。Bcl−2、Bax、NF−κB、p53、Fas及びカスパーゼ3の発現は、それぞれ25kDa、21kDa、65kDa、53kDa、48kDa及び32kDaの分子量帯として検出された。対照群の可溶化液からの平均タンパク質発現を、グラフ中の100%として表した。各棒グラフは、処理あたりの10回測定の平均タンパク質発現±SDを表す。DMBAの局所塗布は、対照群(群1)と比較して、Bcl−2/Bax比並びにp53及びNF−κBの発現を有意に増大し、Fas及びカスパーゼ3の発現並びにカスパーゼ3活性を低下させた。bLFとP−Bとの同時投与は、いずれかの薬剤単独よりもより有意に、Bcl−2/Bax比、p53及びNF−κB発現を低下させ、Fas及びカスパーゼ3の発現並びにカスパーゼ3の活性を増大させた。対照動物と比較して群5から群7において、これらのタンパク質の発現に有意な変化は観察されなかった。
【0085】
従って、bLFと紅茶ポリフェノールP−Bとの組み合わせの投与が、腫瘍発生率の低下により明らかなように、DMBA誘発性HBP癌発生の抑制において、いずれかの薬剤単独よりも効果的であったことが、理解されるべきである。このことは、PCNA、NF−κB、p53及びBcl−2の下方制御及びBax、Fas及びカスパーゼ3の発現の上方制御により実証されるように、細胞増殖の実質的な減少及びアポトーシスの有意な増強を伴っていた。bLF及びP−Bの抗増殖誘導効果及びアポトーシス誘発効果は、DMBAの発癌性効果を潜在的に緩和でき、それによりサイトケラチン発現により反映されるように、HBP癌の浸潤能力を低下させた。
【0086】
bLFとP−Bとの組み合わせの化学予防効果は、個々の薬剤の抗増殖誘導効果及びアポトーシス誘発効果を反映する。bLFは、4−ニトロキノリン1−オキシド誘発性舌部発癌におけるPCNA発現を下方制御することが報告された。アゾキシメタン誘発性結腸発癌に及ぼすbLFの抑制効果は、細胞死受容体Fas並びにBcl−2ファミリーのアポトーシス促進性メンバーであるBid及びBaxの誘発により媒介されることが発見された。茶ポリフェノールは、原位置でのBrdu組み込み、PCNA下方制御及びG1期の抑止により検出される細胞増殖を抑制することが示された。
【0087】
ここに呈示された結果は、bLFと多様な茶ポリフェノールとの、特に紅茶ポリフェノールとの組み合わせは、細胞増殖を抑制すること及びアポトーシスを誘発することにより、抑制剤として作用することを、明確に実証する。興味深い知見は、成長制御及びアポトーシスに対するHBP癌と正常細胞との識別感度である。いくつかのインビトロ研究も、腫瘍細胞が、正常細胞よりも茶ポリフェノールの抗増殖効果及びアポトーシス性効果に対して感受性がより高いことを実証した。これらの知見は、腫瘍細胞にはアポトーシスを経験させ、正常細胞には生存経路へ導く食餌性薬剤が、理想的な化学予防剤であるという事実を支持する。これらの観察に基づいて、我々のデータは、bLFとP−Bとの組み合わせがヒトの口腔癌の予防戦略における限りない能力を有し得ることを示唆する。
【0088】
我々はさらに、7,12−ジメチルベンズ[a]アントラセン誘発性ハムスター頬嚢(HBP)発癌における細胞の酸化還元状態及び発癌物質代謝酵素の調節に及ぼすラクトフェリンと種々の紅茶ポリフェノール(ポリフェノンB(P−B))との組み合わせの効果を評価した。
【0089】
薬品
DMBAをSigma Chemical Company,St.Louis,MO,USAから購入した。純度が96.2%のbLF(ロット番号020119)をMorinaga Milk Industry Co.,Ltd,Tokyo,Japanから入手した。紅茶ポリフェノール(ポリフェノン−B)は、Mitsui Norin Co.,Ltd.,Tokyo,Japanの好意により提供された。ポリフェノンBは、エピカテキン(0.4%)、エピガロカテキン−3−ガレート(1.4%)、エピカテキン−3−ガレート(0.1%)、ガロカテキン−3−ガレート(0.2%)、遊離テアフラビン(0.32%)、テアフラビンモノガレート−A(0.14%)、テアフラビンモノガレート−B(0.15%)、テアフラビンジガレート(0.21%)、タンニン(35.6%)及びカフェイン(4.9%)の混合物である。使用した他の試薬は全て、分析等級であった。
【0090】
動物及び食餌
実験を、the Central Animal House,Annamalai University,Indiaから入手した100gから110gの体重の8週齢から10週齢の雄シリアンハムスターを使用して実施した。動物を1つのポリプロピレンケージに5匹収容し、食餌及び水を自由に提供し、明/暗交互サイクルで温度及び湿度の調節された条件下で維持した。動物は、the National Institute of Nutrition,Indian Council of Medical Research,Hyderabad,Indiaの指針に従って維持し、Annamalai Universityの倫理委員会により承認された。実験食を、化学予防剤を単独で又は組み合わせで計量済み標準固形食(Mysore Snack Feed Ltd,Mysore,India)に混合することによって毎日調製した。食餌を毎日補充し、食餌消費量を記録した。
【0091】
処置計画
ハムスターを実験群及び対照群に無作為に分け、各群20匹の動物の8群に分割した。群1において、ハムスターの右頬嚢に、0.5%DMBA液体パラフィン溶液を4番ブラシで毎週3回塗布した。各塗布により約0.4mgのDMBAが残留する。群1のハムスターは、さらなる処置を受けなかった。群2から群4において、群1同様DMBAを塗布した右頬嚢はさらに、0.2%bLF、0.05%ポリフェノン−Bを含有する基本食及び0.2%bLFと0.05%ポリフェノン−Bとの組み合わせを含有する食餌をそれぞれ受容した。群5から群7の動物にbLF、ポリフェノン−B単独及びそれらの組み合わせをそれぞれ投与した。群8の動物は、対照の役割をした。実験は14週で終了し、全ての動物を、一晩の断食の後、頸椎脱離により屠殺した。動物を屠殺する前に、右嚢を肉眼で検視して前腫瘍性病変又は腫瘍の発達を評価し、写真撮影した。腫瘍量を、平均腫瘍体積(4/3πr3)(r=1/2腫瘍直径(mm))に腫瘍の平均数を乗ずることにより算出した。頬嚢及び肝臓組織を細分し、各実験への分配のために多様に処理した。
【0092】
微小核試験
実験群動物における染色体損傷を評価するために、骨髄微小核試験をSchmidに従って実施した。合計2500個の多染性赤血球を動物1匹あたりにつき単一スライドからスコア化し、微小核を有する多染性赤血球の頻度を測定した。スライドを全て、同一観察者によりスコア化した。
【0093】
生化学的アッセイ
ホモジナイズされたばかりの組織を用いて、生化学的評価を行った。チトクロムP450を、Omura and Satoの方法により、91cm2M−1m−1の吸収度係数を使用する400nmから500nmの間の一酸化炭素差スペクトルを使用してアッセイした。グルタチオンS−トランスフェラーゼ(GST)活性を、Habigらにより記載されたように1−クロロ−2,4−ジニトロベンゼンを基質として使用して340nmでの吸光度における増大から測定した。DT−ジアフォラーゼ(DTD)の活性を、Ernsterにより記載されたようにNADPHを電子供与体として、2,6−ジクロロフェノール−インドフェノールを電子受容体として使用してアッセイした。脂質過酸化は、チオバルビツール酸反応性物質(TBARS)、共役ジエン及び脂質ヒドロペルオキシドの形成により証明されるように評価した。TBARSを、組織中でOhkawaらにより記載された方法により、脂質ヒドロペルオキシドは、Jiangらの方法により、共役ジエンは、Rao and Recknagelの方法により、それぞれアッセイした。還元型グルタチオン(GSH)は、スルフヒドリル基を含有する化合物に5,5’−ジチオビス(2−ニトロ安息香酸)を添加するときの黄色の発色に基づくAndersonの方法により測定した。酸化型グルタチオン(GSSG)は、グルタチオン還元酵素によるNADPHの酸化後、340nmにてAndersonの方法に基づいて評価した。グルタチオンペルオキシダーゼ(GPx)活性を、Rotruckらの方法に従い、過酸化水素を利用することによりアッセイした。タンパク質含有量を、Lowryらの方法により評価した。
【0094】
統計分析
データを平均±SDとして表す。体重をStudentのt検定により分析した。Yatesの補正と組み合わせたχ2検定を使用して、腫瘍の発生率を分析した。分散分析(ANOVA)を使用して、腫瘍量、腫瘍多重度、骨髄微小核の発生率及び生化学的アッセイに関するデータに対する統計分析を分析を行って、群平均をTukey−Kramer検定により比較した。p値が0.05未満の場合、結果を統計的に有意であるとみなした。bLFとポリフェノン−Bとの組み合わせの効果の間の相互作用の性質は、Yokoyamaらによって記載されるとおり評価した。端的には、第1処置(bLF)と第2処置(ポリフェノン−B)との間の組み合わせの効果の期待値を、[(観察された第1処置値)/(対照値)]×[(観察された第2処置値)/(対照値)]として算出し、組み合わせ指数を、(期待値)/(観察値)の比として算出する。1を超える比は相乗効果を示し、1未満の比は付加的な効果未満を示す。
【0095】
肉眼での観察及び顕微鏡下での観察
図18の表8は、種々の群の平均体重、食餌消費量、及び骨髄微小核の頻度を示す。14週間のDMBAの局所塗布は、対照群(群8)と比較して、群1の動物の平均体重を有意に減少させた。体重における有意差は、群2から群8において観察されなかった。群1から群8において消費された食餌量に有意差はなかった。骨髄の微小核を有する多染性白血球(MnPCE)の頻度は、対照群(群8)と比較して、DMBAを塗布した動物(群1)において有意に高かった。bLF及びポリフェノン−B単独の食餌性投与(それぞれ群2及び群3)は、群1と比較してMnPCEの発生率を有意に低減し、bLFとポリフェノン−Bとの組み合わせ(群4)は、他の群と比較して抑制がより大きい(43.33%)ことを示した。bLF及びポリフェノン−B単独の投与及び組み合わせにおける投与(群5から群7)は、対照群(群8)と比較して、MnPCEの発生率に有意な変化を示さなかった。
【0096】
図19の表9は、実験群及び対照群のハムスターの頬嚢における腫瘍発生率、腫瘍多重度、平均腫瘍量及び組織病理学的変化を要約する。群1における腫瘍発生率は100%であり、多重度はハムスター1匹あたり1.55腫瘍であった。これらの腫瘍は外方増殖性であり、172.97mm3の平均腫瘍量で明確に定義される。bLF及びポリフェノン−Bの単独の及び組み合わせの投与(群2から群4)は、腫瘍発生率、腫瘍多重度、及び腫瘍量並びに病理学的変化を有意に低下させた。群1から群4のうち、bLFとポリフェノン−Bとの組み合わせ(群4)は、これらの変化をより大きく低下させた。さらに、腫瘍発生率に対するbLFとポリフェノン−Bとの組み合わせに関する1.46の組み合わせ指数比を、前記組み合わせがHBP発癌の抑制において相乗効果を有し得ることを示す。腫瘍は、群5から群8において観察されなかった。
【0097】
生化学的知見
図20は、bLF及びポリフェノン−B単独並びに組み合わせにおける処置が、頬嚢及び肝臓における第I相及び第II相発癌物質代謝酵素の活性に及ぼす影響を示す。DMBAの局所適用(群1)は、嚢における酵素活性を有意に増強し、一方肝臓においては、チトクロムP450における増大は、対照群(群8)と比較して、第II相酵素活性における有意な低下を伴った(p<0.001)。bLF及びポリフェノン−B単独又は組み合わせでの、DMBAを塗布した動物への食餌性投与は、群1と比較して嚢及び肝臓において、チトクロムP450の活性を有意に抑制し、第II相酵素の活性を増強した(それぞれ群2から群4の動物に関してp<0.05、p<0.01及びp<0.001)。食餌性薬剤単独及び組み合わせでの投与(群5から群7)は、チトクロムP450においていかなる有意な変化も誘発しなかったが、第II相酵素の活性は、群8と比較して有意に増強された。
【0098】
図21は、bLF及びポリフェノン−B単独及び組み合わせでの処置が、ハムスターの頬嚢及び肝臓における脂質過酸化におけるDMBA誘発性変化に及ぼす効果を示す。14週間のDMBAの局所塗布は、頬嚢において脂質過酸化を低下させたのに対し、肝臓において、脂質過酸化の程度は、対照群と比較して増大した(p<0.001)。bLF及びポリフェノン−B単独の及び組み合わせの食餌性投与は、群1と比較して頬嚢及び肝臓における脂質過酸化においてDMBA誘発性変化を有意に和らげた(それぞれ群2から群4の動物に関してp<0.05、p<0.01及びp<0.001)。食餌性薬剤単独の及び組み合わせにおける投与は、群1と比較してそれぞれ群5から群7の動物の頬嚢及び肝臓における脂質過酸化の程度を有意に低減した。対照群及び実験群のハムスターの嚢及び肝臓におけるGSH、GSSG、GSH/GSSG比及びGPx活性を図22に示す。DMBAを塗布した動物(群1)において、GSH及びGSH/GSSG比の濃度及びGPx活性は頬嚢において増強されたのに対し、肝臓において、全ての抗酸化物質が、対照群と比較して有意に減少した(p<0.001)。bLF及びポリフェノン−B単独の及び組み合わせの処置は、群1と比較して嚢及び肝臓において全ての抗酸化物質を有意に増大させた(それぞれ群2から群4の動物に関してp<0.05、p<0.01及びp<0.001)。bLF及びポリフェノン−B単独の投与及び組み合わせの投与(群5から群7)は、対照群(群8)と比較して、頬嚢及び肝臓における抗酸化物質の状態を有意に増強した。全体として、bLFとポリフェノン−Bとの組み合わせは、発癌物質代謝酵素並びに脂質過酸化及び抗酸化物質を調節することにおいて、いずれかの薬剤を単独で使用するよりも効果的であることがわかった。
【0099】
明らかであるように、14週間のDMBAのHBPへの局所塗布は結果的に、十分に発達したSCCをもたらし、非常に高い平均腫瘍量を伴った。このことは、更に第I相及び第II相異物代謝酵素、細胞内酸化還元状態、及び骨髄微小核の頻度の増大における不均衡を伴った。注目すべきことに、bLFと紅茶ポリフェノール(ポリフェノン−B)との同時投与は、嚢及び肝臓における第I相及び第II相の酵素における調節された平衡及び酸化還元状態の調節を伴った、HBP癌の発生率を有意に減少させた。このような平衡及び調節は、DMBAの変異誘発性及び発癌性効果を緩和し、それにより骨髄微小核の頻度を最少化すると考えられる。
【0100】
本発明者はさらに、bLF及びポリフェノン−Bが、第I相酵素を抑制し、第II相酵素の活性を増強することにより二重作用薬として機能することを見出した。二重作用薬は、解毒及び排泄を促進しながら、発がん物質の代謝活性化を同時に抑制するので、癌の化学予防剤としてより有望であると認識される。bLFとポリフェノン−Bとの組み合わせの化学予防能は、その抗酸化特性にも起因し得る。頬嚢において、bLF及びポリフェノン−Bは、脂質過酸化に対する感受性を逆転させた一方、同時にGSH/GSSG比及びGPx活性を増大させ、他方で、肝臓において、脂質過酸化の程度は、抗酸化防御システムの上昇に伴い低下させた。従って、bLF及びポリフェノン−Bによる腫瘍及び宿主肝臓において誘発される差次的な酸化事象は、おそらくHBPにおいて細胞増殖を低下させ得、腫瘍発生を遮断し得る。本研究のこれらの結果は、bLFとポリフェノン−Bとの組み合わせの投与が、いずれかの薬剤が単独で使用される場合と比較して、HBP発癌の抑制し、発癌物質代謝酵素及び酸化還元状態の調節においてより効果的であることを示唆している。これらの知見はさらに、bLFとポリフェノン−Bとの組み合わせが、HBP発癌の抑制において相乗的に作用し得ることを示唆している。
【0101】
(III)緑茶ポリフェノール−ラクトフェリンの組み合わせの効果
我々はさらに、種々の緑茶ポリフェノール(ポリフェノンE)及び紅茶ポリフェノール(ポリフェノンE)との組み合わせにおけるウシラクトフェリンが、ヒト舌部扁平上皮癌(CAL−27)及び正常ヒト歯肉線維芽(HGF)細胞に及ぼす抗増殖性効果及びアポトーシス誘発効果を評価した。
【0102】
薬品
純度が96.2%以上のbLF(ロット番号020119)を、Morinaga Milk Industry Co.,Ltd,Tokyo,Japanから入手した。bLFの鉄含有量は、18mg/100gであった。緑茶ポリフェノール(ポリフェノン−E:P−E)及び紅茶ポリフェノール(ポリフェノン−B:P−B)は、Mitsui Norin Co.,Ltd.,Tokyo,Japanの好意により提供された。ポリフェノン−E及びポリフェノン−Bの組成は前述と同一である。ポリフェノン−E(P−E)は、エピガロカテキン−3−ガレート(64.6%)、エピガロカテキン(4.3%)、エピカテキン(9.4%)、エピカテキン−3−ガレート(6.4%)、ガロカテキン−3−ガレート(3.5%)、カテキン−3−ガレート(0.2%)、ガラクトカテキン(0.2%)、カテキン(1.1%)及びカフェイン(0.7%)の混合物である。ポリフェノン−B(P−B)は、次の組成:エピカテキン(0.4%)、エピガロカテキン−3−ガレート(1.4%)、エピカテキン−3−ガレート(0.1%)、ガロカテキン−3−ガレート(0.2%)、遊離テアフラビン(0.32%)、テアフラビンモノガレート−A(0.14%)、テアフラビンモノガレート−B(0.15%)、テアフラビンジガレート(0.21%)、タンニン(35.6%)及びカフェイン(4.9%)を有する。使用した他の試薬は全て、分析等級であった。bLF及びP−Eの原溶液を、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)中に調製した。P−Bを、0.5%ジメチルスルホキシド(DMSO)を含有するPBS中に溶解した。次に、原液を使用前に培地で希釈して望ましい濃度を得た。培地中のDMSOの最終濃度は、0.01%未満であり、この濃度は細胞成長に及ぼす検出可能な効果がないことを証明するものであった。ダルベッコ変法イーグル培地(DMEM)及びウシ胎仔血清(FBS)を、GIBCOから購入した。ジチオスレイトール(DTT)、3,3−ジアミノベンジジン四塩酸塩(DAB)、2’,7’−ジクロロフルオレセイン二酢酸塩(DCFH−DA)、臭化3−(4,5−ジメチルチアゾール−2−イル)−2,5−ジフェニルテトラゾリウム(MTT)、ヨウ化プロピジウム、プロテアーゼK、フッ化−フェニルメタンスルホニル(PMSF)、ローダミン123、及びRNA分解酵素Aを、Sigma Chemical Company,St.Louis,MO,USAから購入した。Dr.D.A.Tipton,University of Tennessee,College of Dentistry,Memphis,TN,USAの好意により提供された正常ヒト歯肉線維芽(HGF)の株細胞及び細胞培養液及びヒト舌部扁平上皮癌(CAL−27)株細胞を本研究において使用した。細胞を、10%FBS、50U/mlペニシリンG、及び50μg/ml硫酸ストレプトマイシンを補充したDMEM中で増殖させた。培養液を、37℃で、空気中の5%CO2の加湿された雰囲気中で維持した。指数関数的に増殖する細胞を、全ての実験のために使用した。
【0103】
細胞毒性アッセイ
細胞毒性を、生細胞のミトコンドリア脱水素酵素によるMTTの紫色ホルマゾン生成物への還元に基づいたMTTアッセイにより評価した。簡潔に述べると、細胞を増殖培地中で希釈し、24ウェルプレート(5×104細胞数/ウェル)に播種した。一晩増殖させた後、増殖培地を、bLF、P−E、P−B単独及びbLFとP−Eとの又はP−Bとの組み合わせの表示された用量を含有する曝露培地(FBSを含まないDMEM)と置換した。24時間後、各ウェル中の細胞をPBS200μLで洗浄し、37℃で、PBS中の500μg/mLのMTT100μLとともに3時間、温置した。DMSO200μl中に溶解したMTT−ホルマゾン生成物を、ELISAプレートリーダーにおいて570nmでの吸光度を測定することにより評価した。細胞生存を、対照サンプルに対する処理されたサンプルの生細胞の百分率として表した。食餌性薬剤を全て3回試験し、実験を、少なくとも3回反復した。
【0104】
核の形態学
CAL−27細胞を1ウェルあたり5×104個の細胞の密度で6ウェルチャンバースライドに平板接種した。80%コンフルエンスの後、CAL−27細胞を食餌性薬剤単独で及び組み合わせで24時間処理した。次に、細胞をPBSで洗浄し、メタノール:酢酸(3:1(v/v))中で10分間固定し、50μg/mlのヨウ化プロピジウムで20分間染色した。濃縮した/断片化した核を有するアポトーシス性細胞の核の形態を、蛍光顕微鏡下で検査し、アポトーシス性細胞死を評価するため、少なくとも1×103細胞数を計数した。
【0105】
細胞周期分析
アポトーシス性細胞の百分率の細胞周期分布及び測定をフローサイトメトリーにより実施した。処理後、培地中に浮遊している細胞を、トリプシン処理により回収した付着細胞と組み合わせた。次に、細胞を冷PBSで洗浄し、−20℃でPBS中の80%エタノール中において固定した。12時間後、固定した細胞をペレット化し、37℃で30分間RNA分解酵素A(20μg/ml)の存在下でヨウ化プロピジウム(50μg/ml)で染色し、約104個の事象をBecton Dickinson FACScanフローサイトメーターで分析した。細胞周期ヒストグラムをCell Questソフトウェアを使用して分析した。アポトーシス性細胞を、それらのサブG0/G1相下の領域中に現れるより低いヨウ化プロピジウム染色強度により測定されるような、これら細胞のDNA含有量の低下により、非アポトーシス性無傷細胞から識別した。
【0106】
ROS発生の測定
細胞内ROSの発生を評価するために、酸化感受性蛍光プローブDCFH−DAを使用した。簡潔に述べると、処理後、CAL−27細胞を回収し、10μMのDCFH−DAを含有する0.5mLのPBS中に37℃で暗所、15分間懸濁した。DCFH−DAを細胞により取り込ませ、細胞エステラーゼにより脱アセチル化して非蛍光生成物DCFHを形成し、これを、処理されたCAL−27細胞により生成する細胞内ROSにより緑色蛍光生成物DCFへと変換した。DCF蛍光の強度を、励起設定及び発光設定をそれぞれ488nm及び530nmとするフローサイトメトリーにより測定した。合計104の事象を計数し、ヒストグラムを、Cell Questソフトウェアを使用して分析し、対照群の未処置細胞のヒストグラムと比較した。
【0107】
ミトコンドリア膜電位差の測定
ミトコンドリア膜電位差における変化(ΔΨm)を、ミトコンドリア特異的脂質親和性カチオン染料ローダミン123の取り込みによって測定した。処理後、室温で10分間遠心分離することによりCAL−27細胞をペレット化し、PBSで洗浄した。ペレット化した細胞を10μg/mLのローダミン123を含有する暴露培地1mLとともに室温で暗所、30分間温置し、洗浄し、PBS中に再懸濁した。次に、サンプル(104事象)を即座に、励起波長488nm及び発光波長545nmでのフローサイトメトリー分析に供した。ヒストグラムを、Cell Questソフトウェアを使用して分析し、対照群の未処置細胞のヒストグラムと比較した。
【0108】
免疫蛍光
6ウェルチャンバースライド中で約80%コンフルエンスまで培養したCAL−27細胞を、食餌性薬剤単独及び組み合わせに24時間暴露した。処理に続き、細胞をあらかじめ4℃に冷却しておいたアセトン中で5分間固定した。固定した細胞を、PBS中の0.1%トリトンX−100で透過可能にし、抗Bcl−2及び抗Bax抗体(Dako,Carpinteria,CA,USA)の1:1000希釈とともに4℃で一晩温置した。次に、タンパク質を、イソチオシアン酸フルオレセイン(FITC)標識二次抗マウスIgG抗体(Dako,Carpinteria,CA,USA)とともに温置することによって検出し、蛍光顕微鏡を使用して可視化した。
【0109】
ウェスタンブロット法
食餌性薬剤による処置後、CAL−27細胞を、氷冷PBSで2回洗浄し、溶解緩衝液(50mMトリス−HCl、pH8.0、5mM EDTA、150mM塩化ナトリウム、0.5%ノニデットP−40、0.5mM PMSF及び0.5mM DTT)中、4℃で30分間溶解し、上澄みを12,500×gで20分間遠心分離することによって回収した。Bradfordのタンパク質評価キットによって測定されるような上澄み由来の総タンパク質の約50μgを、10%SDS−PAGE上で分離した後、セミドライ転移システム(BIORAD)を使用して、ニトロセルロース膜へ転写した。前記膜を、5%無脂肪乾燥乳を含有するトリス緩衝生理食塩水(TBS)(150mM/L塩化ナトリウム、50mM/Lトリス、pH7.4)中で1時間温置して非特異的結合部位を遮断した。次に、この遮断したものを抗Bcl−2及び抗Bax(NeoMarkers,USA)の1:1000希釈で一晩温置した。この遮断したものを、0.1%Tween−20を含有するTBSで徹底的に洗浄し、対応する西洋ワサビペルオキシダーゼ標識二次抗体(1:2000)とともに室温で60分間から90分間温置することにより、タンパク質を検出した。0.1%Tween−20を含有するTBS中での徹底的な洗浄の後、転移したタンパク質をDABを使用して可視化した。濃度測定をIISP平板ベッドスキャナ上で実施し、Total Lab1.11ソフトウェアで定量化した。
【0110】
カスパーゼ−3活性の比色評価
カスパーゼ−3活性を、CASP−3−C比色キット(Sigma Chemical Company,St.Louis,MO,USA)を使用してアッセイした。処理後、CAL−27細胞を250mM/l HEPES(pH7.4)、25mM/L CHAPS及び25mM/L DTTを含有する可溶化緩衝液中で可溶化した。上澄みを酵素源として使用した。カスパーゼ−3比色アッセイは、ペプチド基質であるアセチル−Asp−Glu−Val−Asp−ニトロアニリド(Ac−DEVD−pNA)のカスパーゼ−3による加水分解の結果として、p−ニトロアニリン(pNA)部分の放出が生じることに基づいている。基質から放出されるpNAの濃度を、405nmでの吸光度値から、又はpNA規定溶液で作成された検量線から算出した。
【0111】
統計分析
細胞毒性データを、対照群の平均百分率±S.Dとして提示し、直線回帰分析を使用して、IC50値を算出した。茶ポリフェノール単独及びbLFとの組み合わせでのCAL−27及びHGF細胞に及ぼす細胞毒性に関するデータに対する統計分析を、分散分析(ANOVA)を使用して実施した。茶ポリフェノールとbLFとの組み合わせの効果の間の相互作用の性質を、Yokoyamaらにより記載されたように評価した。相乗効果をbLFと茶ポリフェノールとの組み合わせ処理の期待値(E)/観察値(O)の比から算出し、1を超える比は相乗効果を示し、bLF及び茶ポリフェノールのE値=[(bLFのO値)/(対照群の細胞のO値)]×[(茶ポリフェノールのO値)/(対照群の細胞のO値)]×(対照群の細胞のO値)とした。核の形態、細胞周期分析、Bcl−2/Bax比及びカスパーゼ3活性に関するデータを、Studentのt検定により分析した。p値が0.05未満の場合、結果は統計的に有意であると考慮した。
【0112】
結果
細胞毒性アッセイ
我々はまず、CAL−27細胞及びHGF細胞の増殖に及ぼすP−E、P−B及びbLFの種々の濃度の抑制効果を検討した(図23)。P−E及びP−Bは両方とも、それぞれ20μg/mL及び40μg/mLのIC50値を有するCAL−27細胞の増殖の用量依存的抑制を示した。しかしながら、HGF細胞は、それぞれ70μg/mL及び120μg/mLのIC50値であり、P−E及びP−Bの増殖抑制効果に対してより耐性であった。bLFによる処置は、CAL−27細胞又はHGF細胞のいずれにも細胞毒性効果を何ら誘発しなかった。我々は次に、CAL−27細胞及びHGF細胞に及ぼすbLFとの組み合わせでの茶ポリフェノールの増殖抑制効果を検討した。我々は、CAL−27細胞に関してP−E及びP−BのIC50値を選択し、bLFの濃度の上昇との組み合わせにおいてこれを試験した。図24Aは、bLFの濃度の上昇を有するP−Eの組み合わせによるCAL−27細胞のU字型増殖抑制を示す。1:2の比でのP−E(20μg/ml)+bLF(40μg/ml)の組み合わせにより、有意な相乗効果が観察された。HGF細胞は、P−EとbLFとの組み合わせによってCAL−27細胞の優先的な増殖抑制を示すCAL−27細胞よりも増殖抑制に対してほとんど影響されないようであった。図24Bは、CAL−27細胞及びHGF細胞の増殖に及ぼすP−B及びbLFの組み合わせによる処置の効果を示す。P−B及びbLFによる同時処置は、P−B単独と比較して、増殖抑制に対するCAL−27細胞の感受性を有意に低下させた。これらの結果は、bLFが、P−Bの抗癌性効果を抑制することを示唆する。全体として、MTTアッセイの結果は、食餌性薬剤が正常HGF細胞と比較してCAL−27細胞の増殖を優先的に抑制することを示唆し、食餌性薬剤の細胞毒性効果の程度は、P−EとbLFとの組み合わせ(1:2の割合)>P−E>P−Bであることを示唆する。食餌性薬剤が、CAL−27細胞の増殖を優先的に阻害し、bLFの添加がP−Bの抗癌性効果を抑制したため、細胞死の様式を探査するため、P−E(20μg/ml)、P−B(40μg/ml)及びbLF(40μg/ml)単独で、及びP−E(20μg/ml)とbLF(40μg/ml)との組み合わせで温置することにより、CAL−27細胞のみにおいてさらなる研究を実施した。
【0113】
食餌性薬剤によるCAL−27細胞におけるアポトーシスの誘発
食餌性薬剤による細胞増殖の抑制がアポトーシスに起因するかどうかを決定するため、蛍光DNA結合剤であるヨウ化プロピジウムを使用して、核の形態を観察した。24時間の食餌性薬剤によるCAL−27細胞の温置は、核の断片化及び凝集によって明白なように、対照群と比較して、アポトーシス性細胞の数を有意に増大させた(図25)。CAL−27細胞のP−E(20μg/ml)及びP−B(40μg/ml)単独による処置は、対照群と比較して、アポトーシス性細胞数を有意に増大させた(それぞれp<0.01及びp<0.05)。bLF単独ではアポトーシスを誘発しなかったが、P−E(20μg/ml)及びbLF(40μg/ml)による同時処置は、アポトーシス性核の数を60.24%まで有意に増大させた(対照群及びP−E単独処置細胞とそれぞれ比較して、p<0.005及びp<0.05)。特に、40μg/mlのbLFは、20μg/mLのP−Eのアポトーシス誘発能を〜1.9倍まで増大させた。食餌性薬剤のアポトーシス誘発能の程度は、P−E及びbLF(1:2)>P−E>P−Bであった。
【0114】
CAL−27細胞の細胞周期調節に及ぼす食餌性薬剤の効果
食餌性薬剤が、細胞周期制御に及ぼす役割を有するかどうかを研究するため、我々は、蛍光励起細胞分取装置を使用することにより、細胞周期特性における変化を分析した。図26に示されるように、CAL−27と食餌性薬剤との24時間の温置によって、G1期の細胞が損失するアポトーシスを示すDNA含有量の減少した細胞(サブG0/G1又はA0ピーク)の割合を有意に増加させた。アポトーシスの特徴であるDNAの損失は、エンドヌクレアーゼの開裂後の細胞の外でのDNAの分解の拡散の結果として生じ、ヨウ化プロピジウムによる染色後、これらの細胞はほとんど染色されず、サブG0/G1又はA0ピークに、すなわち、G0/G1ピークの左に現れる。CAL−27細胞のP−E及びP−B単独との温置によって、DNA含有量が8.36%(対照群)から35.99%(P−E)及び24.01%(P−B)まで低下した細胞の割合が有意に増大した。bLF単独は、サブG0/G1細胞の割合を有意に変化させることはなかったが、20μg/mlのP−E及び40μg/mlのbLFの同時処置によって、サブG0/G1細胞の割合が72.86%まで有意に増大した(対照群及びP−E単独で処置された細胞と比較してそれぞれp<0.005及びp<0.01)。具体的に、40μg/mlのbLFによって、20μg/mlのP−Eのアポトーシス誘発能は〜2倍まで増大した。食餌性薬剤のアポトーシス誘発能の程度は、核形態分析に関するものと同一であった。
【0115】
細胞内ROS発生に及ぼす食餌性薬剤の効果
ROSが食餌性薬剤によって誘発されるアポトーシスを仲介するのに関与するかどうかを研究するため、我々は、蛍光プローブDCFH−DAを使用して、ROSの細胞内発生を測定した。食餌性薬剤による処理によって、未処理の対照群と比較してCAL−27処置した細胞においてROS発生が有意に増大し、ROS発生の順序は、P−E+bLF>P−E>P−B(図27A)であった。DCF蛍光の平均は、Ma=381(対照群)からMb=938(P−E処置群)、Mc=1229(P−E及びbLF、1:2の比)及びMd=649(P−B処置群)まで増大した。CAL−27細胞のbLF単独への暴露は、ROS発生を誘導しなかった(データ非表示)。
【0116】
ミトコンドリア膜電位差(ΔΨm)に及ぼす食餌性薬剤の効果
ΔΨmの変化がアポトーシスと連結するという証拠の増大に伴い、我々は、CAL−27細胞のΔΨmに及ぼす食餌性薬剤単独及び組み合わせにおける影響を、蛍光プローブローダミン123を使用するフローサイトメトリーにより検討した。陽イオン性染色剤であるローダミン123は、ΔΨmと直接比例する程度までミトコンドリアにより選択的に取り込まれる。図27Bに示されるように、茶ポリフェノールへ24時間暴露されたCAL−27細胞は、対照群と比較して、ローダミン123の蛍光強度を低下させることによって明らかなように、ΔΨmの損失を示した。ローダミン123の平均蛍光は、Ma=4636(対照群)からMb=2456.12(P−E処置群)及びMd=2659.88(P−B処置群)まで低下した。bLF単独は、ΔΨmにおいて何ら有意な変化を示さなかった(データ非表示)が、P−EとbLFとの組み合わせによる処置は、対照群細胞及びP−E単独処置細胞と比較して、ローダミン123蛍光強度が2098.75までさらに鋭敏に低下することを示した。
【0117】
Bcl−2/Bax比に及ぼす食餌性薬剤の効果
我々は、免疫蛍光(データ非表示)及びウェスタンブロット法を使用してΔΨmを調節することによりアポトーシスを制御することにおいて重要な役割を担うBcl−2及びBaxの発現に及ぼす食餌性薬剤の効果を検討した。CAL−27細胞のP−E、P−B及びP−EとbLFとの組み合わせ(1:2の比)との温置によって、未処置の対照群と比較して、Bcl−2/Baxタンパク質発現が有意に低下し、食餌性薬剤の効能を低下させるBcl−2/Baxの順序は、P−E+bLF>P−E>P−Bであった(図28A)。
【0118】
カスパーゼ3活性に及ぼす食餌性薬剤の効果:食餌性薬剤によって処置されたCAL−27細胞におけるカスパーゼ3のアッセイは、アポトーシス誘発が、カスパーゼ3活性の活性化を通じて介在されることを明白にした(図28B)。CAL−27細胞の、P−E、P−B及びP−EとbLFとの組み合わせ(1:2の比)との温置によって、対照群と比較してカスパーゼ3活性が有意に増大した。bLFはカスパーゼ3活性に何ら効果を呈しなかったが、bLFとP−Eとの同時処置によって、酵素活性は〜1.46倍まで増強された。
【0119】
これらの結果は、茶ポリフェノールが、ヒト舌部扁平癌(CAL−27)細胞の増殖を用量依存的様式において優先的に抑制することを示唆する。本データは、P−EがCAL−27細胞の増殖を抑制する上でP−Bよりも効果的であることをさらに示す。さらに、P−EとbLFとの組み合わせ(1:2の比)が、U字型増殖曲線によって反映されるように、腫瘍の増殖を抑制する上で有意な相乗効果を発揮するのに対し、bLFとの同時処置は、P−Bの抗発癌性効果を阻害した。全体として、CAL−27細胞の増殖の優先的抑制及び抗増殖性効果の順序は、P−E+bLF(1:2)>P−E>P−Bであった。CAL−27細胞の増殖を抑制することにおけるP−Eのより大きな効能は、EGCGのより高い濃度を明らかに反映する。本結果は、核の形態及びA0ピークの特徴的変化により明白なように、アポトーシスを誘発することによって、緑茶及び紅茶ポリフェノールがCAL−27細胞の増殖を抑制することも示す。化学予防剤又は化学治療剤によって誘発されるアポトーシスが、細胞周期の特定の期の変動と関連しているという証拠が増大している。図4に示されるように、CAL−27細胞の茶ポリフェノールとの24時間の温置によって、アポトーシス性細胞の出現の同時に起こる増加とともにG0/G1期の細胞損失をもたらし、茶ポリフェノールによりG0/G1期において抑止されたCAL−27細胞は、選択的にアポトーシスを経験していることを示唆した。bLF単独ではCAL−27細胞のアポトーシスを誘発しなかったが、P−EとbLFとの同時処置によって、P−Eのアポトーシス誘発能が〜2倍まで増大した。食餌性薬剤のアポトーシス誘発能の順序は、増殖抑制効果のそれと同一であり、すなわち、P−E+bLF(1:2)>P−E>P−Bであった。
【0120】
アポトーシスにおいて中枢的役割を担うミトコンドリアは、ROS発生の主要部位である。ROSの過剰発生によって、ミトコンドリアの透過性移行孔が開口するとともに、ΔΨmが低下し、その結果、カスパーゼカスケードの活性化及びアポトーシス性細胞死に到らせる、膜間空間から細胞質へのチトクロムc放出が生じ得る。本研究の結果は、CAL−27細胞とP−E、P−B及びP−E+bLF(1:2の比)との温置が、ROS発生を増大させ、それが順に、ΔΨmにおける低下によって明白なように、ミトコンドリアの機能を破壊することによってアポトーシスを惹起し、カスパーゼ−3を活性化させたことを示す。EGCGは、ROSの発生によって、ジャーカット細胞においてアポトーシスを誘発することが報告されている。幾つもの研究が、EGCG及び茶ポリフェノールによって誘発されるアポトーシス中のROSの関与、ΔΨmの消失及びカスパーゼ活性に関する証拠を提供してきた。ともにこれらの結果は、茶ポリフェノールが、ROS誘発性ミトコンドリア破壊を介するアポトーシスを誘発することを示唆する。
【0121】
要約して、本結果は、茶ポリフェノールが、アポトーシスを通じて介在されるCAL−27細胞に対する増殖抑制効果を発揮することを示す。本データは、ΔΨmを消失させ、カスパーゼ−3を活性化させることによる、ミトコンドリア媒介性アポトーシスにおけるROS及びBcl−2/Baxに関する重要な役割を示す。本研究は、P−Eの単独及びbLFとの組み合わせの両方のより大きな効能も強調する。緑茶ポリフェノールがすでに、肝臓癌及び前立腺癌に関する高い危険にある患者で臨床治験に取り入れられているため、P−Eの化学予防効能を評価するために、口腔の前悪性病変を有する患者において同様の治験を計画することは、価値のあることであろう。
【0122】
かくして、茶ポリフェノールの特異的な態様及び適用が開示された。しかしながら、すでに記載のもののほかにより多くの改変が、本明細書の本発明の概念から逸脱せずに可能であることは、当業者にとって明白である。従って、本発明の主題は、添付の特許請求の範囲の精神を除いて限定されるべきではない。さらに、明細書及び特許請求の範囲の両方を解釈する上で、全ての用語は、文脈と一致する限り最も広範な可能な様式において解釈されるべきである。特に、用語「を含む」及び「含んでいる」は、非排他的な様式において要素、構成要素又は段階を指すものとして解釈されるべきであり、このことは参照された要素、構成要素又は段階は、表現上参照されてはいない他の要素、構成要素又は段階とともに存在し得、利用され得、又は組み合わされ得ることを示す。さらに、本明細書に参照により組み込まれた参照文献における用語の定義又は使用が、本明細書で提供された前記用語の定義と不一致であるか又は反対である場合、本明細書に提供された前記用語の定義が適用され、参照文献における前記用語の定義は適用されない。
【図面の簡単な説明】
【0123】
【図1】図1は、紅茶ポリフェノール組成物で処置された動物の種々の腫瘍及び病理組織学的パラメータを列挙する2つの表を含む。
【図2】図2は、紅茶ポリフェノール組成物で処置された動物の組織(H及びE染色した)の種々の顕微鏡写真を示す。
【図3】図3は、紅茶ポリフェノール組成物で処置された動物におけるPCNA発現の定量分析を示すグラフである。
【図4】図4は、図3の動物の組織の種々の顕微鏡写真(PCNA染色した)を示す。
【図5】図5は、紅茶ポリフェノール組成物で処置された動物の種々の生化学的パラメータを列挙する表である。
【図6】図6は、紅茶ポリフェノール組成物で処置された動物の選択された器官における酵素活性を示す種々のグラフを示す。
【図7】図7は、紅茶ポリフェノール組成物で処置された動物の選択された器官におけるさらなる酵素活性を示す種々のグラフを示す。
【図8】図8は、紅茶ポリフェノール組成物で処置された動物の選択された器官におけるなおもさらなる酵素活性を示す種々のグラフを示す。
【図9】図9は、紅茶ポリフェノール組成物で処置された動物の種々の腫瘍パラメータを列挙する表である。
【図10】図10は、紅茶ポリフェノール組成物で処置された動物の種々の腫瘍関連タンパク質の発現を列挙する表を示す。
【図11】図11は、紅茶ポリフェノール組成物で処置された動物の組織(PCNA、NF−κB、サイトケラチンに関して染色した。)の種々の顕微鏡写真を示す。
【図12】図12は、紅茶ポリフェノール組成物で処置された動物の組織(Bcl−2、Cyc−c、カスパーゼ3に関して染色した。)の種々の顕微鏡写真を示す。
【図13】図13は、図12の動物におけるカスパーゼ3活性を示すグラフである。
【図14】図14は、紅茶ポリフェノール組成物とラクトフェリンとの組み合わせで処置された動物の種々の腫瘍パラメータを列挙する表を示す表である。
【図15】図15は、紅茶ポリフェノール組成物とラクトフェリンとの組み合わせで処置された動物の選択された組織(サイトケラチン、PCNA、及びp53に関して染色された。)の顕微鏡写真を示す。
【図16】図16は、図15の動物に関する定量分析の結果を示す表ある。
【図17】図17は、紅茶ポリフェノール組成物とラクトフェリンとの組み合わせで処置された動物の選択されたタンパク質に関するウェスタンブロット及びそれらの濃度測定分析を示す。
【図18】図18は、紅茶ポリフェノール組成物とラクトフェリンとの組み合わせで処置された動物における微小核の多染性赤血球の測定に対する結果を列挙する表である。
【図19】図19は、紅茶ポリフェノール組成物とラクトフェリンとの組み合わせで処置された動物のさらなる腫瘍パラメータを列挙する表を示す表である。
【図20】図20は、紅茶ポリフェノール組成物とラクトフェリンとの組み合わせで処置された動物の選択された器官における酵素活性(Cyt−C、GST、ジアフォラーゼ)を示す種々のグラフを示す。
【図21】図21は、紅茶ポリフェノール組成物とラクトフェリンとの組み合わせで処置された動物の選択された器官における種々の生化学的パラメータ(TBARS、LOOH、CD)を示す種々のグラフを示す。
【図22】図22は、紅茶ポリフェノール組成物とラクトフェリンとの組み合わせで処置された動物の選択された器官におけるさらなる生化学的パラメータ(GSH、GSSG、GSH/GSSG比、GPx)を示す種々のグラフを示す。
【図23】図23は、ラクトフェリン、緑茶ポリフェノール及び紅茶ポリフェノールへの暴露の関数としての、ヒトの(癌及び正常)細胞の生存率を示すグラフを示す。
【図24】図24は、ラクトフェリンと、緑茶ポリフェノール又は紅茶ポリフェノールとの組み合わせへの暴露の関数としての、ヒトの細胞(癌細胞及び正常細胞)の生存率を示すグラフを示す。
【図25】図25はラクトフェリンと緑茶ポリフェノール又は紅茶ポリフェノールとの組み合わせによる治療の関数としてのアポトーシス性微小核に関して染色した細胞の顕微鏡写真及びその定量分析を示す。
【図26】図26は、ラクトフェリンと緑茶ポリフェノールとの組み合わせで治療されたヒト口腔癌細胞の細胞周期分布を示す種々のグラフを示す。
【図27】図27は、ヒト口腔癌細胞におけるROS及びミトコンドリア膜電位に及ぼすラクトフェリンと緑茶ポリフェノールとの組み合わせの効果を示す種々のグラフを示す。
【図28】図28は、緑茶ポリフェノール組成物とラクトフェリンとの組み合わせによる治療の関数としてのヒト口腔癌細胞におけるBcl−2/Bax及びカスパーゼ3のウェスタンブロット及びそれらの濃度測定分析を示す。
【技術分野】
【0001】
本願は、2005年9月22日に出願されたシリアル番号60/720007を有する我々の同時係属中の米国仮特許出願に対する優先権を請求する。
【0002】
(本発明の分野)
本発明の分野は、口腔癌の治療及び/又は化学予防、並びに特に茶抽出物とラクトフェリンとを組み合わせた投与による口腔癌の治療及び/又は化学予防である。
【背景技術】
【0003】
口腔癌は、年間約500,000件のケースが新たに診断される世界的に5番目の最も普遍的な悪性腫瘍である。不運なことに、それらの約75%は、発展途上国で生じ、このような国において幅広く利用可能であり並びに入手可能である効果的な治療は見つかっていない。
【0004】
例えば、Tanakaらは、雄F344ラットにおける4−ニトロキノリン1−オキシド誘発性舌部発癌に及ぼす少なくともある程度のウシラクトフェリンの化学予防効果を報告し、舌部腫瘍形成に対する化学予防的作用が、細胞増殖活性の改変及び/又は解毒性酵素の活性を通じて介在されたかもしれないことを示唆した(Jpn J Cancer Res.2000 Jan;91(1):25−33)。他の例において、種々の茶ポリフェノールが、ある程度の抗悪性腫瘍効果を有するとして種々の刊行物において報告された。Hsuらは、p21WAF1が、いくつかの癌細胞の種類において緑茶ポリフェノールEGCGにより誘導できること、及びp21WAF1が、カスパーゼ3により介在されるアポトーシスを促進し得るOSC2細胞のEGCG誘発性成長抑止に関与することを観察した。これらの観察に基づいて、Hsuは、機能的p21WAF1の発現が、口腔癌細胞における植物化学物質介在性成長抑止及びアポトーシスを促進し得ると仮説を立てた(Anticancer Res.2005 Jan−Feb;25(1A):63−7)。さらなる実験において、Hsuは、緑茶及び緑茶の選択された構成物質が、口腔癌細胞においてのみ少なくともある程度までアポトーシスを選択的に誘導する一方、EGCGが口腔癌細胞の成長及び侵襲を抑制できたことをさらに発見した(Gen Dent.2002 Mar−Apr;50(2):140−6)。
【0005】
EGCGは、Weisburgらにより示されたように、酸化ストレスを促進することにおいて重要な役割を果たすことも報告された。ここで著者らは、EGCGがプロオキシダントとして作用し、癌細胞が正常細胞よりも酸化ストレスに対する感度がより高いことを報告した(Basic Clin Pharmacol Toxicol.2004 Oct;95(4):191−200)。
【0006】
緑茶はまた、平均腫瘍負担量並びに異形成及び口腔癌の発生率をある程度まで低下させることが実証され(Nutr Cancer.1999;35(1):73−9)、Liらは、茶とクルクミンとの組み合わせが、口腔の可視腫瘍発症率、扁平上皮癌発症率、腫瘍体積並びに異形成病変及び乳頭腫の数を有意に低下させたことを示すデータを呈示した(Wei Sheng Yan Jiu.2002 Oct;31(5):354−7)。
【0007】
不運なことに、報告された組成物及び方法のほとんどが、少なくともある程度の化学予防的効果又は治療効果を発揮する一方で、多様な困難が、なおも残存する。とりわけ、効果を持続するのに必要なポリフェノールの濃度は比較的高い。さらに、ポリフェノールの代謝変換が比較的迅速であるため、血清濃度が動物及びヒトにおいて迅速に低下し、効能は望ましいものよりも低くなる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従って、口腔癌の治療又は予防のための数多くの組成物及び方法が当分野で公知である一方、それらのすべて又はほぼすべてが1つ以上の不利点を抱えている。従って、腫瘍性疾患、及び特に口腔癌の化学予防及び/又は治療のための改善された組成物及び方法に対する必要性がなおもある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(発明の概要)
本発明は、茶ポリフェノール及びラクトフェリンが組み合わされて顕著な抗悪性腫瘍効果を発揮するような口腔癌の化学予防及び/又は治療のための組成物及び方法に向けられており、このような組み合わせにおける化合物は、単独又は共に投与され得る。
【0010】
本発明の主題の1つの態様において、栄養学的又は薬学的製品は、茶ポリフェノール組成物単独又はラクトフェリン単独のいずれかでの製品の経口投与により達成される効率よりも大きな効率で口腔癌を低減する有効量における茶ポリフェノール組成物とラクトフェリンとの組み合わせを含む。最も好ましくは、ポリフェノール組成物は、紅茶及び/又は緑茶から得られる複数のカテキンの混合物を含み、1つ以上の合成カテキンも含み得る。さらなる好ましい態様において、ポリフェノール組成物は、投与単位あたり100mgと600mgとの間の量において存在し、ラクトフェリンは、投与単位あたり200mgと1200mgとの間の量において存在し、この組み合わせが相乗的であることが、特に好ましい。企図される栄養学的製品は、特に固体製剤(例えば、カプセル、錠剤、スナックバー等)を含むが、望まれる場合、ポリフェノール組成物及び/又はラクトフェリンはまた、液体担体中に存在し得る。
【0011】
従って、茶ポリフェノール組成物の経口投与又はラクトフェリンの経口投与のいずれかを使用する口腔癌の治療又は化学予防を改善する方法は、一般に、茶ポリフェノール組成物の経口投与又はラクトフェリンの経口投与が第一効率で口腔癌を低減することを確実にする段階を含む。第二段階において、茶ポリフェノール組成物とラクトフェリンとの組み合わせの経口投与が、第一効率よりも大きな第二効率で口腔癌を低減するという情報が提供される。
【0012】
特に好ましい方法において、茶ポリフェノール組成物は、紅茶及び/又は緑茶から得られる複数のカテキンの混合物を含み、ラクトフェリンは、ウシラクトフェリンである。典型的に、組み合わせた経口投与における茶ポリフェノール組成物とラクトフェリンとの間の重量比は、1:1と1:3との間であり、最も典型的に相乗的な比である。経口投与が単一投与単位形態において同時投与であることがなおもさらに好ましい。
【0013】
まとめると、及びもう1つの見地から見て、本発明者らは、口腔癌の治療又は化学予防のための栄養学的又は薬学的製品の製造における、茶ポリフェノール組成物とラクトフェリンとの組み合わせの使用を企図する。このような使用において、茶ポリフェノール組成物及びラクトフェリンは、1:1と1:3との間の重量比において存在し、及び最も典型的には相乗的な重量比において存在する。さらに、茶ポリフェノール組成物が紅茶及び緑茶のうちの少なくとも1つから得られる複数のカテキンの混合物(又は少なくとも1つの合成カテキン)を含むこと、及び茶ポリフェノール組成物及びラクトフェリンが単一投与単位中に(例、栄養学的又は薬学的製品中に)調合されることが一般に好ましい。
【0014】
本発明の種々の目的、特徴、態様及び利点は、本発明の好ましい実施形態の以下の詳細な記述からより明白になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
(詳細な説明)
本発明者らは、茶ポリフェノールの化学予防の及び/又は治療上の効果が、このような化合物及び組成物とラクトフェリンとの組み合わせにより有意に改善できることを予期せずして発見した。他の顕著な結果(後述)のうち、本発明者らは、改善された効果が多くの場合相乗的であり、癌細胞における(ミトコンドリア介在性)アポトーシスの選択的誘発、癌細胞の増殖における低減、第I期/第II期酵素の調節、及び抗酸化効果の増強を含む、多数の内在する効果により推進されることを発見した。
【0016】
従って、以下に呈示される結果及びさらなる考察に基づき、この度栄養学的又は薬学的製品が、茶ポリフェノール組成物とラクトフェリンとの組み合わせを口腔癌を低減させる有効量において含むことが企図される。最も典型的に、このような組み合わせは、その組み合わせが茶ポリフェノール組成物又はラクトフェリンを単独で有する製品の経口投与よりもより大きな効率を有するよう提供される。このような増大された効率は、最も好ましくは相乗的である。異なる見地から見て、従って茶ポリフェノール組成物とラクトフェリンとの組み合わせが、口腔癌の治療又は化学予防のための栄養学的又は薬学的製品の製造において使用されることが企図される。
【0017】
本発明の主題のさらなる特に好ましい態様において、本発明者らは、1つの段階において、茶ポリフェノール組成物の経口投与又はラクトフェリンの経口投与が第一効率で口腔癌を低減することを確かめる、口腔癌の治療又は化学予防を改善する方法(このような方法は、茶ポリフェノール組成物又はラクトフェリンのいずれかを単独で使用する。)を企図する。好ましい方法の1つのさらなる段階において、茶ポリフェノール組成物とラクトフェリンとの組み合わせた経口投与が、第一効率よりも大きな効率で口腔癌を低減するという情報(例えば、印刷された、表示された、可聴性の)が提供される。
【0018】
茶ポリフェノール組成物の経口投与又はラクトフェリンの経口投与が第一効率で口腔癌を低減する(例えば、発生率、多重度、重症度及び/又はより悪性の形態への進行の速度)ことを確実にする段階に関して、当分野において公知の、このような確実化に関して数多くの方法があることを理解されたい。しかしながら、最も典型的に、このような確実化の段階は、以下に記載のように又は類似の方法において実施される実験的決定を使用して達成される。例えば、動物を使用する対照試験又はヒトにおける口腔癌データの統計的分析が使用され得る。代替的に又は追加的に、確実化の段階にはまた、公表された結果(ヒト又は動物に関する;例えば、J Pharmacol Sci.2005 May;98(1):41−8、又はNutrition.2006 Sep;22(9):940−6;Toxicol In Vitro.2005 Mar;19(2):231−42、又はClin Biochem.2005 Oct;38(10):879−86)に対する参照も含まれ得、その公表されたデータは、化学的組成物、用量、投与計画及び/又は投与経路に関して確実化されたデータと好ましくは同一であるが、必ずしも同一であるわけではない。
【0019】
同様に、茶ポリフェノール組成物とラクトフェリンとの組み合わせの経口投与が、第一効率よりも大きな効率で口腔癌を低減するという情報を提供する段階に関して、情報を提供する公知の方法の全てがここにおいて使用に適していると企図される。例えば、このような情報は印刷された形態、表示された形態、及び/又は可聴性の形態において提供され得る。例えば、企図される方法を規制当局の認可を得るために使用する場合(例、薬学的及び/又は栄養学的使用のため、又は効率の要求を具体化するため)、確実化の段階が動物及び/又はヒトでの治験を使用して実施され得るのに対して、情報を提供する段階は認可のための申請において印刷された(書面の及び図面の)形態において実施され得る。一方、企図される方法が、茶ポリフェノールとラクトフェリンとを含む組み合わせ製品を市販するために使用される場合、確実化の段階及び情報提供の段階は、第一効率に関して詳述する刊行物及び第一効率よりも大きな効率に関して詳述する刊行物を(一緒に又は別々に)参照する市販用材料を提供することにより実施され得る。
【0020】
企図される化合物
企図されるポリフェノール組成物に関し、適したポリフェノール組成物が植物由来のカテキンの混合物であることが、一般に好ましい。例えば、ポリフェノールの単離に特に適した植物には、中国茶植物(カメリア・シネンシス(Camellia sinensis)、特にその葉)又はブドウ(ビティス・ビニフェラ(Vitis vinifera)、特にその種子)が含まれる。特に好ましいポリフェノール組成物には、Mitsui Norin Japanからの、ポリフェノンE(緑茶ポリフェノール製剤)及びポリフェノンB(紅茶ポリフェノール製剤)の名称で市販されているものを含む。しかしながら、このような植物がポリフェノールのかなりの量を提供する限り、数多くの他の組成物が種々の植物から得られ得ることを理解されたい。
【0021】
他の適した成分の間で、植物ポリフェノール組成物が、エピガロカテキン−3−ガレート(EGCG)、エピガロカテキン(EGC)、エピカテキン−3−ガレート(ECG)、エピカテキン(EC)、ガロカテキン−3−ガレート(GCG)、ガロカテキン(GC)、テアフラビン、テアフラビンモノガレート−A、テアフラビンモノガレート−B、テアフラビンジガレート、タンニン等(これらの各々は立体化学的/光学的に純粋であり得又は異性体の混合物として存在し得る。)のうちの1つ以上(一般的には2と7の間)の少なくとも25重量%、より一般的に少なくとも50重量%、さらにより一般的に少なくとも75重量%、及び最も一般的に少なくとも85重量%を含むことが一般に好ましい。植物ポリフェノール組成物が、一般的に5重量%未満の、より一般的に3重量%未満の、及び最も一般的に1重量%未満の濃度の低減されたカフェイン含有量を有することは、さらに一般に好ましい。植物に依り、特定のポリフェノールの互いに対する重量比がかなり変動し得ることは注意されたい。しかしながら、特に好ましい植物ポリフェノール組成物は、一般に緑茶抽出物、紅茶抽出物由来であるもの、及びEGCGが主要成分である(一般に少なくとも30重量%、より一般に少なくとも40重量%の濃度で)ものを含む。紅茶抽出物はまた、重合カテキンまで重合されたカテキンを含むことでも特徴付けられ得る。最も一般に、重合カテキンは、テアフラビン及びテアルガビン(thearugabin)を種々の重量比及び平均分子量で含む。
【0022】
さらなる企図される態様において、植物ポリフェノール組成物は、その組成物が2つの又は唯一でさえあるポリフェノールを含むように調製され得る。このような製剤において、単離された植物ポリフェノールを1つ以上の合成ポリフェノールと、及び特にEGCGと置換することは有利であり得る。望ましい場合、企図されるポリフェノール組成物はガロイル化されたカテキンが豊化されたものであり得る。ここで企図されるカテキン(ガロイル化されたもの及びガロイル化されていないもの)が光学異性体、キラル中心及び/又は立体異性体を含むこと、及びこのような形態(及びそれらの混合物)の全てが本明細書で企図されることを注意されたい。なおもさらに企図されるポリフェノールはまた、式1:
【0023】
【化1】
[式中、R1、R2、R3、R4、R3’、R4’及びR5’は、独立してH、OH又はM(ここで、Mは、OC(O)R、OC(S)R、OC(NH)R、OR、又はR(ここで、Rは場合により置換されているアルキル、アルケニル、アルキニル、アルカリル、又はアリールである。)である。)であり;及びR3”は任意の没食子酸エステル基又はHである。]
で示される構造を有する(例えば、合成の、非天然型の)ポリフェノールも含み得る。
【0024】
適したラクトフェリン組成物に関して、ラクトフェリンが牛乳から単離され得る又は組換え生成物であり得るウシラクトフェリンであることが一般に好ましい。従って、ラクトフェリンの鉄負荷量がかなり変動し得ること、及び全ての公知の鉄負荷量がここで考慮されることを注意されたい。例えば、ラクトフェリン負荷量は、0%から20%の間の鉄飽和度、20%から40%の間の鉄飽和度、4%から60%の間の鉄飽和度、又は60%から100%の間の鉄飽和度であり得る。あるいは、ラクトフェリンはまた、人乳もしくは初乳又は他の哺乳動物の乳源からも単離され得る。再言すると、このような代替の供給源由来のラクトフェリンが組換えのものであり得ることを銘記されたい。
【0025】
なおさらなる企図される態様において、種々のその他の鉄及び特に3価鉄イオン錯化剤もまた適していることを理解されたい。特に適した化合物は、このようなキレート化能を有するタンパク質及び非タンパク質分子を含む。例えば、化合物が非タンパク質である場合、デスフェリオキサミンが採用され得、この化合物がタンパク質である場合、フェリチン又はヘモシデリンが使用され得る。さらに、タンパク質が比較的大きく、鉄結合ドメインが特徴付けられる場合、適した鉄キレート化剤は、鉄結合断片であり得る。
【0026】
企図される栄養学的組成物
一般に、口腔癌の化学予防及び/又は治療のためのポリフェノールとラクトフェリンとの全ての組み合わせが可食性担体中に、及び特にポリフェノール及びラクトフェリンの両方が同一可食性品目(即ち、栄養補給食品又は食品)中に存在するような可食性担体中に含まれ得ることが企図される。
【0027】
例えば、適した食品は、植物性材料(例えば、穀類、果物、野菜、ベリー等)及び/又は動物性材料(例えば、牛肉、豚肉、子羊肉、鶏肉、魚、甲殻類動物、乳、乳製品等)を含むか又はそれらから調製されるものを含み、このような材料は生であり得又は少なくとも部分的に加工されたものであり得る。従って、本発明の主題のさらなる企図される態様において、食品は固体又は液体であり、少なくとも1つの栄養素(例えば、炭水化物、タンパク質、脂質、ミネラル、ビタミン等)、繊維及び/又は水を経口投与可能な形態において提供する。ポリフェノール組成物とラクトフェリンとの企図される組み合わせは、固体又は液体の形態における食品に添加され得、又はポリフェノール組成物が第一可食性担体中にあり、ラクトフェリンが第二可食性担体中にあるような方法において提供され得る。最も好ましくは、食品はヒトが消費するための食品であり、液体、液体栄養素として調合される又はカプセル、錠剤もしくは散剤中に調合される(最も好ましくは、カテキン及びラクトフェリンが組み合わせの単一投与単位として調合される。)。
【0028】
例えば、食品が固体形態である場合、企図される形態は、特に、カプセル、錠剤又はその他の栄養学的に公知の固体形態として(例えば、散剤として)調合される栄養補助食品を含む。しかしながら、数多くの代替の固体処方も適していると考えられ、それらには、企図された化合物が添加された(又は、企図された化合物中に豊富に組み込まれた)スナックバー、チューインガム、トローチ剤等のそのまま消費できる製品、並びに発酵乳製品等が含まれる。同様に、食品が液体形態である場合、企図される食品製品は、特に茶又はブドウジュース、乳製品、炭酸飲料、果汁飲料(例えば、生果汁、濃縮物からのジュース又は果物ジュースを含む飲料)、スポーツドリンク、アルコール飲料、強化水(enriched water)等を含む。
【0029】
もう1つの例において、企図される食品の加工度がかなり変動し得ることが予想され、食品加工の全ての程度が本発明において使用に適していると考えられる。例えば、食品が加工されない場合(例えば、収穫された果実又は野菜)、本発明の主題による化合物は、被覆、混合物、溶液、注射剤として添加され得るか、でなければ食品と組み合わされ得ることが企図される。一方、食品が少なくともある程度まで加工される場合(例えば、物理的形態が変化する(例えば、押しオート麦)又は化学組成が変化する(例えば、果実抽出物又は食品との組み合わせ))、企図される化合物は、被覆として、混合した成分として添加され得るか、又は加工により増加され得る。
【0030】
従って、食品及び/又は加工の特定の種類に依り、企図されるポリフェノール組成物及びラクトフェリンは、単離された個々の化合物として及び/又は個々の化合物の混合物として添加され得ることを理解されたい。従って、このような化合物は比較的純粋であり得又はこのような化合物の1つ以上において富む画分として存在し得る。代替的に又は追加的に、食品中の企図されるポリフェノール組成物及び/又はラクトフェリンの濃度はまた、加工段階(例えば、企図される化合物の濃度を増大させる加工)により増大され得る。企図される化合物の食品への混合が数多くの方法において実施され得ることはさらに理解されたく、全ての公知の方法がここに提示された教示との併用の使用に適していることが企図される。
【0031】
企図される、食品中のポリフェノール組成物及びラクトフェリンの量に関して、そのような化合物の量は、組み合わせが茶ポリフェノール組成物との製品の又はラクトフェリン単独の経口投与よりも大きな効率を有するような量であることが一般に好ましい。従って、ポリフェノール組成物は一般に、1日用量あたり約200mgと1200mgとの間、及びより一般に400mgと800mgとの間の範囲(これらの量は、1単位から数単位において投与され得る。)において存在する。しかしながら、代替の態様において、ポリフェノール組成物のより少量もまた、適していると考えられる(例えば、100mgと200mgとの間、又はそれよりさらに少ない量、特にトローチ剤又はチューインガムの形態において)。同様に、より多量も考慮され、このような量は一般に、約1200mgと2000mgとの間(及びさらに多量)の範囲である。用語「約」は、本明細書で数とともに使用される場合、その数を含むその数+/−10%の範囲を指す。
【0032】
同様に、ラクトフェリンの量はかなり変動し得、一般に、1日の用量あたり約400mgと3000mgとの間、及びより一般に800mgと2000mgとの間の範囲である(これらの量は、1単位から数単位において投与され得る。)。しかしながら、代替の態様において、ポリフェノール組成物のより少量も適していると考えられる(例えば、200mgと400mgとの間、又はそれよりさらに少ない量、特にトローチ剤又はチューインガムの形態において)。同様に、より多量も考慮され(例えば、飲料中)、このような量は一般に、約3000mgと5000mgとの間(及びさらに多量でさえもある)の範囲である。従って、ラクトフェリンに対するポリフェノールの特に好ましい比が約1:1から約1:3の範囲内であり、さらにより好ましくは約1:2であることを理解されたい。ラクトフェリンはポリフェノールとともに投与され得るが、ラクトフェリンを液体形態で及びポリフェノールを固体形態で投与することもまた本明細書で適していると考慮される。ほとんどの場合、ラクトフェリンに対するポリフェノールの重量比は相乗的な重量比であることが好ましい(以下の実験を参照されたい。)。従って、特に好ましい食品において、ポリフェノール組成物は投与単位あたり100mgと600mgとの間の量において存在し、ラクトフェリンは投与単位あたり200mgと1200mgとの間の量において存在する。本発明の主題のよりさらなる態様において、企図される食品が少なくとも認められたか又は実証された栄養価を有する追加の成分を含み得ることは理解されたい。例えば、特に好ましい追加の成分は、酸化ストレスを低減し、免疫状態を改善するなどが公知の又は明言される成分を含む。
【0033】
企図される医薬組成物
ポリフェノールとラクトフェリンとの全ての組み合わせも医薬製剤として投与され得ることが一般に企図され、ここで、ポリフェノール及びラクトフェリンの投与は、単一投与単位において一緒に又は個別に行われ得る。特定の製剤に関わらず、ポリフェノール及び/又はラクトフェリンが薬学的に許容できる担体と混合されることが好ましい。特定の用途に依存して、製剤、経路及び/又は投与計画がかなり変動し得ることは理解されたく、本発明の主題が特定の製剤、経路及び/又は投与に限定しないように一般に企図される。
【0034】
従って、適切な製剤は、経口投与、非経口投与及び/又は局所投与(点鼻、頬内投与、及び舌下投与を含む。)のための製剤を含み、企図される製剤が単位用量形態中にあることがさらに好ましい。担体と組み合わされて単位用量形態を形成する企図されるポリフェノール及び/又はラクトフェリンの量が、化学予防的及び/又は治療的効果を生じる量であることがなおもさらに好ましい。従って、有効成分の百分率(重量%)は一般に、総重量の約10%から約99%までの、好ましくは約20%から約95%までの、より好ましくは50%から約90%までの、及び最も好ましくは約70%から約90%までの範囲である。
【0035】
しかしながら、医薬組成物の投与される用量がかなり変動し、特定の用量が少なくとも一部、(a)望ましい治療応答を達成するために効果的なポリフェノール及びラクトフェリンの量、(b)企図される化合物の製剤、(c)投与の経路、及び(d)年齢、性別、体重、一般的な健康状態、治療される患者の既往歴を含む他の因子に依存することは理解されたい。当業者は、必要とされる医薬組成物の有効量を容易に決定し、調合できる。
【0036】
企図される化合物の1日の用量が一般に、望ましい治療効果を生じるのに効果的な最低用量である化合物の量に対応することが一般に好ましい。このような効果的な用量は一般に、上述の因子に依存する。従って、本発明の主題による化合物の用量は、1日あたり体重1kgあたり約0.5mgから約100mgまでの、より好ましくは1日あたり1kgあたり約1.0mgから50mgまでの、及びさらにより好ましくは1日あたり1kgあたり約2.5mgから約25mgまでの範囲である。したがって、ポリフェノールの単位用量は一般に、約100mgから約5000mgまで、より好ましくは約200mgから約1200mgまで、及び最も好ましくは約200mgから約800mgまでの範囲である。同様に、ラクトフェリンの単位用量は一般に、1日あたり約400mgと約3000mgとの間、及びより一般には800mgと2000mgとの間の範囲である。望まれる場合、有効化合物の効果的な1日用量は、その日を通じて適切な間隔で別々に投与される2、3、4、5、6回以上の分割用量として、場合により単位用量形態中で投与され得る。
【0037】
典型的な経口用調合物
本発明の主題による医薬組み合わせが(個々に又は別々に)経口投与されることは一般に好ましく、固体形態及び液体形態を含む経口投与の全ての公知の形態が、本明細書での使用に適していると考えられる。例えば、固体経口形態は、カプセル剤、錠剤、トローチ剤、散剤を含むのに対し、好ましい液体経口形態は、溶液又は適している媒体(一般に水溶液)中の懸濁液を含む。
【0038】
典型的な適している薬学的に許容できる担体は、充填剤又は増量剤(例えば、デンプン、乳糖、ショ糖、グルコース、マンニトール及び/又はケイ酸)、結合剤(例えば、アルギン酸塩、ゼラチン、カルボキシメチルセルロース又はポリビニルピロリドン)、湿潤剤(例えば、グリセロール)、崩壊剤(例えば、寒天、炭酸カルシウム又はジャガイモ若しくはタピオカデンプン)、溶液遅延剤(例えば、パラフィン)、吸収促進剤(例えば、第四級アンモニウム塩)、湿潤剤(例えば、セチルアルコール、グリセロールモノステアレート)、吸収剤(例えば、カオリン、ベントナイト粘土)、潤滑剤(例えば、タルク、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、固体ポリエチレングリコール)、着色料、緩衝剤等を含む。企図される経口固体用量は、有効成分の緩慢な又は制御された放出を提供するようにも処方され得る(例えば、望ましい放出特性を提供する種々の比率におけるヒドロキシプロピルメチルセルロース、その他のポリマーマトリックス、リポソーム及び/又は微粒子を用いて)。企図される経口固体剤形の調製が当分野において公知であり、公知の方法全てが本明細書中に提示される教示とともに使用するのに適していると考えられることを理解されたい。
【0039】
企図される化合物の経口投与のための液体剤形は、薬学的に許容できる乳剤、マイクロエマルジョン、溶液、懸濁剤、シロップ剤及びエリキシル剤として調製され得る。従って、及び特定の処方に依存して、液体剤形はまた、水又は他の水性及び非水性溶媒を含む不活性希釈剤、可溶化剤及び乳化剤(例えば、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、炭酸エチル、酢酸エチル、ベンジルアルコール等)、懸濁剤(例えば、エトキシル化イソステアリルアルコール、ポリオキシエチレンソルビトール)、油(例えば、綿実、トウモロコシ、胚芽、オリーブ等)、グリセロール、テトラヒドロフリルアルコール、ポリエチレングリコール及びさらなる公知の薬学的に許容できる液体成分も含有し得る。
【0040】
典型的な非経口用調合物
本発明の主題による組み合わせが非経口的使用のための処方において調製され得ることが一般に企図され、特に企図される非経口的調合物は、注射のための液体調合物である。従って、適切な調合物は一般に、薬学的に許容できる溶媒(例えば、滅菌済み等張性の水性又は非水性溶液)を含み及び/又は分散剤、懸濁剤又は乳剤として調製され得る。あるいは、非経口的調合物はまた、企図される化合物及び使用前に液体製品に再構成され得る他の成分を含むキットとしても提供され得る。
【0041】
医薬組成物中に採用され得る適した水性及び非水性担体の例としては、水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール等)、及びそれらの適した混合物、植物油及びオレイン酸エチルなどの注射可能な有機エステルが挙げられる。適切な流動性は、例えば、レシチンなどの被覆材料の使用により、分散剤の場合、必要な粒子サイズの維持により、及び界面活性剤の使用により維持できる。
【0042】
企図される使用
本発明の主題による組成物及び方法が口腔癌の化学予防及び/又は治療に採用されることは、一般に好ましい。従って、適した状態は、前腫瘍状態並びに転移性であり得るか又はあり得ない腫瘍状態を含むことを理解されたい。例えば、口腔前腫瘍状態は、(ウィルス及び非ウィルス由来の)疼痛及び前腫瘍病変を含む。典型的な口腔癌及び/又は咽頭癌は特に、口腔の底部、頬の内側、歯肉及び/又は口蓋に共通の扁平上皮癌を含む。
【0043】
企図される化合物及び組成物の投与は、純粋に予防的であり得、又は前腫瘍病変若しくはさらに癌の第一診断において開始し得ることに注意されたい。従って、一般的な投与は好ましくは長期間に亘るものである。例えば、少なくとも30日間、より一般的に少なくとも60日間、及び最も一般的に少なくとも180日間にわたる毎日の投与が、特に好ましい。しかしながら、代替の態様において、投与は毎日である必要はないが、1週間に1回(又はさらに低頻度)と1週間に3回以上との間であり得る。
【0044】
実験
(I)紅茶ポリフェノール単独の効果
我々は、7,12ジメチルベンズ[a]アントラセン(DMBA)誘発性ハムスター頬嚢(HBP)発癌の開始前段階中の紅茶ポリフェノール(ポリフェノンB)投与の化学予防効果を評価した。頬嚢中の増殖性細胞核抗原(PCNA)の発現及び頬嚢、肝臓及び赤血球中の脂質過酸化物、タンパク質カルボニルの濃度、及び抗酸化状態を、化学予防の生物マーカーとして使用した。
【0045】
薬品
ウシ血清アルブミン、2−チオバルビツール酸、2,4−ジニトロフェニルヒドラジン、GSH,5,5’−ジチオビス(2−ニトロ安息香酸)(DTNB8)、DMBA及び3,3’−ジアミノベンジンをSigma Chemical Company(St.Louis,Mo,USA)から購入した。PCNAマウス単クローン抗体及び抗マウスビオチン標識二次抗体を、Dako,Carprinteria,CA,USAから購入した。Mitsui Norin Co.,Ltd Tokyo,Japanの御好意により提供されたポリフェノンBは、エピカテキン(0.4%)、エピガロカテキン−3−ガレート(1.4%)、エピカテキン−3−ガレート(0.1%)、ガロカテキン−3−ガレート(0.2%)、遊離テアフラビン(0.32%)、テアフラビンモノガレート−A(0.14%)、テアフラビンモノガレート−B(0.15%)、テアフラビンジガレート(0.21%)、タンニン(35.6%)及びカフェイン(4.9%)の混合物である。使用した他の試薬は全て、分析等級であった。
【0046】
動物及び食餌
実験は全て、Central Animal House Annamalai University,Indiaから入手した、90から110gの間の体重の6から10週齢の雄シリアンハムスターを使用して実施した。動物を1つのポリプロピレンケージに5匹収容し、食餌及び水を自由に摂取させた。動物を、12時間交代の明/暗サイクルで温度及び湿度の標準的な条件下で制御された環境において維持した。動物は、the National Institute of Nutrition,Indian Council of Medical Research,Hyderabad,Indiaの指針に従って維持され、Annamalai Universityの倫理委員会により承認された。実験用食餌は、ポリフェノンBを計量済み標準固形食(Mysore Snack Feed,Mysore,India)に0.05%の濃度で混合することにより毎日調製した。本研究において使用されるポリフェノンBに関する用量は、茶4杯の毎日の摂取に対応する(ヒトの場合、体重1kgあたり茶ポリフェノール30mgから40mg)。食餌を毎日補充し、食餌消費量を記録した。
【0047】
処置計画
ハムスターを実験群及び対照群に無作為に分け、各群10匹の動物の4群に分割した。群2の動物は、6週齢のとき発癌物質投与4週間前にポリフェノンBを含有する食餌を摂取させ、発癌物質への最終的な暴露まで続行した。10週齢で、群1及び群2のハムスターにDMBAの0.5%液体パラフィン中の溶液を右頬嚢上に、4番ブラシを使用して1週間に3回で14週間塗布した。各塗布により約0.4mgのDMBAが残留する。群1におけるハムスターはさらなる処置を受けなかった。群3における動物には、群2同様、ポリフェノンBを単独で投与した。群4の動物は基礎食を摂取し、対照の役割を果たした。
【0048】
実験は18週の末に終了し、動物は全て一晩の断食の後、頸椎脱離により屠殺した。動物を屠殺する前に、右嚢を肉眼で検査して前癌性病変又は腫瘍の発達を評価し、写真撮影した。腫瘍量を、平均腫瘍体積(4/3πr3)(r=1/2腫瘍直径(mm))に腫瘍の平均数を乗ずることにより算出した。頬嚢及び肝臓組織を細分し、各実験への分配のために多様に処理した。
【0049】
病理組織学
嚢組織を10%ホルマリン中に固定し、パラフィン中に包埋し、ポリリジン被覆ガラススライド上に載せ、ヘマトキシリン及びエオシンで染色した。基底細胞過形成、異形成及び扁平上皮癌(SCC9)を診断した。基底細胞の数の増加により示される頬嚢上皮の過形成を、内側の上皮の厚さに基づいて、軽度、中度及び重度として主観的に等級分けした。異形成を、不規則な上皮層別化、核分裂像の数の増加、細胞質に対する核の割合の増大及び基底細胞の極性の損失により特徴付けた。軽度、中度及び重度としての異形成の組織学的等級分けは、それぞれ上皮の1/3の関与、1/2の関与又は全部の関与に基づいた。SCCを、根底にある組織の侵襲、核の多形性及び有糸分裂の増大により診断した。その起源の組織に酷似した腫瘍を、高分化型SCCとして等級分けした。
【0050】
免疫組織化学
組織切片を60℃で10分間加熱することにより脱パラフィン化した後、キシレン中で3回洗浄した。特級アルコールで徐々に水和した後、スライドを、抗原賦活のために電子レンジ中で5分の2サイクルでクエン酸塩緩衝液(pH6.0)中に温置した。切片を20分間放冷した後、トリス緩衝生理食塩水(TBS10)ですすいだ。切片を蒸留水中の3%H2O2で15分間処置して、内因性ペルオキシダーゼ活性を阻害した。切片を正常ヤギ血清で25分間温置することにより非特異的抗体結合を低減させた。次に、切片を、PCNAマウス単クローン抗体で4℃で一晩温置した。スライドを、TBSで洗浄した後、抗マウスビオチン標識二次抗体に続きストレプトアビジン−ビオチン−ペルオキシダーゼを使用して、各々室温で30分間温置した。免疫沈降を、3,3’−ジアミノベンジジンによる処理及びヘマトキシリンによる対比染色により可視化した。陰性の対照のために、一次抗体をTBSで置換した。各抗体に関する陽性の対照も、同時に処理した。これらのタンパク質を発現する陽性腫瘍細胞の割合を、0=5%未満、1=5%から25%、2=26%から50%、3=51%から75%及び4=75%超過として等級分けし、免疫反応性の強度を−=なし、+=弱い染色、++=中等度の染色及び+++=強い染色として等級分けした。腫瘍細胞の10%超過が染色されたとき、腫瘍を陽性であるとみなした。
【0051】
組織ホモジネート及び赤血球可溶化液の調製
新鮮な組織を用いて生化学的評価を行った。重量測定後の頬嚢組織及び肝臓組織をTeflon乳棒を備えた総ガラス製ホモジナイザー中でホモジナイズし、使用まで氷中に保存した。血液サンプルをヘパリン処理したチューブ中に収集し、血漿を1000g、4℃で15分間遠心分離することにより、分離した。遠心分離後、バフィーコートを除去し、血中血球を、生理食塩水で3回洗浄した。赤血球サンプル(0.5ml)を0.1M NaCl溶液(pH7.4)を含有する0.2Mリン酸塩緩衝液4.5mLで可溶化した。溶血血液を、2500g、2℃、15分間の遠心分離により分離した。生化学アッセイを、即時実施した。
【0052】
生化学アッセイ
脂質過酸化を、チオバルビツール酸反応性物質(TBARS11)、脂質ヒドロペルオキシド(LOOH12)及び共役ジエン(CD13)の形成により証明されるように評価した。TBARSを、嚢組織及び肝臓組織においてOhkawaらの方法により、及び赤血球においてBuege and Austによって記述された方法によりアッセイした。脂質ヒドロペルオキシドを、Jiang et al.の方法により、共役ジエンを、Rao & Recknagelの方法により評価した。タンパク質の酸化を、カルボニル基が2,4−ジニトロフェニルヒドラジンと反応して2,4-ジニトロフェニルヒドラゾンを形成する反応に基づいたLevineらの方法により測定した。総SOD活性及びMn−SOD活性は、ニトロブルーテトラゾリウム(NBT14)還元の50%抑制に基づいてOberleyらにより記述されたようにアッセイした。Cu−Zn SOD活性を、総SOD活性からMn−SODの活性を減じることにより算出した。CATの活性を、酵素による過酸化水素の利用に基づいたSinhaの方法によりアッセイした。GSHを、DTNBをスルフヒドリル基含有化合物に添加するときに発色する黄色の測定によるAndersonの方法により測定した。酸化されたグルタチオン(GSSG15)を、Andersonの方法に従って340nmでのグルタチオン還元酵素(GR16、EC1.6.4.2)によるNADHの酸化後に評価した。セレニウム依存性グルタチオンペルオキシダーゼ(GPx17、EC1.11.1.9)活性を、Rotruckらの方法に従って、過酸化水素の利用に従うことによりアッセイした。非依存性GPx活性を、過酸化クメンを基質として使用するLawrence and Burkにより記述された方法に従ってアッセイした。γ-グルタミルトランスペプチダーゼ(GGT18)の活性を、ガンマグルタミルp-ニトロアニリドを基質として使用するFialaらの方法によりアッセイした。GR活性を、GSSGを基質として及びFADを補助因子として使用するCarlberg及びMannervickの方法により評価した。タンパク質含有量を、ウシ血清アルブミンを標準物質として使用するLowryらの方法により評価した。
【0053】
統計分析
データを、平均±標準偏差として表す。体重を、Studentのt検定により分析した。Yateの補正と組み合わせたχ2検定を使用して、腫瘍の発生率を分析した。腫瘍量、免疫組織化学的分析及び生化学アッセイのデータに関する統計分析を、分散分析(ANOVA19)を用いて行い、群平均を、最小有意差検定(LSD20)により比較した。結果は、p値が0.05未満の場合、統計的に有意とみなした。
【0054】
結果
総体的観察結果
図1の表1は、種々の群における平均体重、食餌消費量、腫瘍発生率、腫瘍多重度及び平均腫瘍量を示す。群1におけるハムスターは、実験中体重が低下する傾向を示し、平均最終体重は、対照(群4)と比較して有意に(p<0.01)低下した。体重における有意差は、群2から群4において観察されなかった。群1から群4において消費された食餌量に有意差はなかった。実験期間の終了時に、群1における腫瘍発生率は、ハムスター1匹あたり1.8の多重度及び346mm3の腫瘍量を有するものが100%であった。ポリフェノンBの投与は、20%まで腫瘍発生率を低下させ、多重度はハムスター1匹あたり0.3であった。さらに、腫瘍は、群1と比較して有意により小さかった(平均腫瘍量17.2mm3)。腫瘍は、群3及び群4において観察されなかった。
【0055】
組織病理学的観察結果
図1の表2は、実験群及び対照群におけるハムスターの頬嚢中の組織病理学的変化を要約する。群1のハムスターは全て、重度の角化症、過形成、異形成及び高分化型SCCを呈した。DMBAを塗布したハムスター(群2)に対するポリフェノンBの食餌性投与は、SCCの発生率、並びに過形成病変及び異形成病変を有意に低減した。10匹の動物のうち、僅か2匹だけがSCCを発症し、4匹の動物は軽度から中度の異形成を示し、残り4匹のハムスターは、中度の過形成だけを示した。軽度の過形成の変化が、群3のハムスターのうちの2匹において観察された。対照群の動物において、上皮は正常であり、無傷であり、連続していた。各群における組織病理学的変化の代表的な顕微鏡写真を図2に示す。図2は、対照群及び実験群の動物の頬嚢粘膜のH及びE染色した領域の顕微鏡写真を示す。A.DMBA処置14週間後の群1動物の結合組織への広範囲な浸潤を伴う高分化型SCC(H及びE染色、10倍)。B.中度の異形成を呈するDMBA及びポリフェノンBを投与した群2ハムスター由来の頬嚢上皮の顕微鏡写真(H及びE染色、40倍)。C.軽度の過形成を呈するポリフェノンB単独を投与した群3ハムスター由来の頬嚢上皮の顕微鏡写真(H及びE染色、40倍)。D.対照群動物の正常な頬嚢組織学を示す顕微鏡写真(群4、H及びE染色、40倍)。
【0056】
免疫組織化学的知見
図3は、ポリフェノンBの、対照群動物及び実験群動物の頬嚢粘膜中のPCNA発現に及ぼす効果を示す。DMBAを塗布したハムスターにおいて、PCNAの平均タンパク質発現(81%)は、対照群動物(群4)と比較して有意に高かった。ポリフェノンBの投与(群2)は、群1と比較してPCNAの発現(52%)を有意に低減した。PCNAの発現における有意の変化は、対照群と比較して群3動物において観察されなかった。免疫染色の代表的な顕微鏡写真を、図4に示す。ここでは、対照群及び実験群の動物におけるPCNA発現の免疫組織化学的染色の顕微鏡写真(10倍)は、A.群1動物におけるPCNAタンパク質の過剰発現、B.群2動物におけるPCNAタンパク質の発現の低下、C.群3動物におけるPCNAタンパク質の発現、D.対照群動物におけるPCNA発現を示す。
【0057】
生化学的知見
図5の表3は、脂質過酸化及びタンパク質酸化に及ぼすポリフェノンBによる前処置の効果を示す。脂質過酸化の程度及びタンパク質カルボニルの形成は、対照群と比較して、DMBAを塗布したハムスター(群1)の頬嚢において有意により低く、肝臓においてより高かった。ポリフェノンBの食餌性投与(群2)は、群1と比較して、肝臓における減少を伴う頬嚢における有意な増大により反映される、脂質及びタンパク質の酸化におけるDMBA誘発変化を有意に和らげた。ポリフェノンB単独の投与は、対照群と比較して群3動物において、組織の脂質過酸化及びタンパク質酸化の程度を有意に低減した。
【0058】
対照群及び実験群の動物の頬嚢、肝臓及び赤血球中の抗酸化酵素SOD(総SOD、Mn−SOD、Cu−Zn SOD)及びCATの活性を図6に示す。DMBAを塗布した動物(群1)において、SOD及びCATの活性は、対照群と比較して有意により低かった。ポリフェノンBの食餌性投与は、群1と比較して群2動物における抗酸化酵素の活性を有意に増大させた。ポリフェノンB単独の投与は、対照群(群4)と比較して群3動物においてSOD及びCATの活性を有意に増大させた。頬嚢、肝臓及び赤血球中のGSH濃度及びGSH依存性酵素の活性の変化を図7及び8に提示する。DMBAを塗布した動物(群1)において、GSH濃度、GSSG濃度及びGSH/GSSG比並びにGPx(Se依存性及び非依存性)、GR及びGGTの活性は、頬嚢において有意に増大したのに対し、肝臓及び赤血球においてはこれらの抗酸化剤は、対照と比較して有意に減少した。ポリフェノンBの食餌性投与は、群2動物の頬嚢、肝臓及び赤血球中の全ての抗酸化剤及び解毒酵素を群1と比較して有意に増大させた。ポリフェノンB単独による処置は、群3動物においてGSH及びGSH依存性酵素を対照群と比較して有意に増強させた。
【0059】
DMBA単独を14週間塗布したハムスターは全て、PCNAの発現の増大と関連した頬嚢癌を発症させ、脂質及びタンパク質の酸化を減少させ、抗酸化状態を増強した。担癌動物の肝臓及び赤血球において、脂質及びタンパク質の酸化の増強には、易感染性の抗酸化剤防御を伴った。ポリフェノンBの食餌性投与は、腫瘍及びPCNA発現の発生率の低下によって明らかにされたように、DMBA誘発性HBP発癌を効果的に抑制した。また、ポリフェノンBは、脂質及びタンパク質の酸化を和らげ、嚢、肝臓及び赤血球における抗酸化状態を増強した。我々は、ポリフェノンBが、標的組織中の細胞増殖を抑制し、標的組織並びに宿主組織における酸化−抗酸化状態を調節することにより、その化学予防効果を発揮することを示唆する。
【0060】
従って、紅茶カテキン、及び特にポリフェノンBの投与は、標的器官及び宿主組織において酸化還元状態を調節し、頬嚢におけるPCNA発現を有意に抑制したことを理解されるべきである。HCPC−ハムスター頬嚢癌細胞株ポリフェノンBは、脂質及びタンパク質の酸化に対する感受性を逆転させる一方、同時に頬嚢における抗酸化状態を増大させ、他方で、肝臓及び赤血球において、脂質及びタンパク質の酸化の程度が抗酸化剤の増加とともに低減された。従って、ポリフェノンBにより腫瘍組織及び宿主組織において誘発される差別的な酸化事象は、PCNA発現の下方制御及び腫瘍発生の抑制からも明白なように、細胞増殖に及ぼすその抑制的な役割に反映している。これらの結果は、ポリフェノンBの食餌性投与が、PCNA発現を下方制御し、脂質及びタンパク質の酸化を調節し、抗酸化状態を増強することにより、HBP発癌に対する著しい保護を発揮することを実証している。
【0061】
我々はさらに、紅茶ポリフェノール(ポリフェノンB(P−B))の、7,12−ジメチルベンズ[a]アントラセン誘発性ハムスター頬嚢(HBP)発癌の間のサイトケラチンの発現並びに増殖及びアポトーシス関連タンパク質の発現に及ぼす効果を評価した。発癌に対するマーカーとして、我々は、サイトケラチン、PCNA、NF−κB、及びBcl−2の発現の増加並びにチトクロムC及びカスパーゼ3の発現の減少を伴う頬嚢癌腫の発生を使用した。
【0062】
薬品
DMBA及び3’−ジアミノベンジジンは、Sigma Chemical Company,St.Louis,MO,USAより購入した。使用した他の試薬は全て、分析等級のものであった。
【0063】
動物
実験を、the Central Animal House,Annamalai University,Indiaから入手した90gから110gの間の体重の6週齢から10週齢の雄シリアンハムスターを使用して実施した。動物を1つのポリプロピレンケージに5匹収容し、食餌及び水を自由に提供し、12時間交代の明/暗サイクルで温度及び湿度の標準的な条件下で制御された環境中に維持した。動物は、the National Institute of Nutrition,Indian Council of Medical Research,Hyderabad,Indiaの指針に従って維持され、Annamalai Universityの倫理委員会により承認された。実験用食餌は、P−Bを計量済み標準固形食(Mysore Snack Feed,Mysore,India)に0.05%の濃度で混合することによって毎日調製した。本研究で使用されるP−Bに関する用量は、茶4杯の毎日の摂取に対応する(ヒトの場合、体重1kgあたり茶ポリフェノール30mgから40mg)。食餌を、毎日補充し、食餌消費量を記録した。
【0064】
処置計画
ハムスターを実験群及び対照群に無作為に分け、各群10匹の動物の4群に分割した。群2の動物は、6週齢のとき発癌物質投与4週間前にP−Bを含有する食餌を摂取し、発癌物質への最終的な暴露まで続行した。10週齢で、群1及び群2のハムスターにDMBAの0.5%液体パラフィン溶液を右頬嚢上に、4番ブラシを使用して1週間に3回で14週間塗布した。各塗布により約0.4mgのDMBAが残留する。群1の2匹のハムスターはさらなる処置を受けなかった。群3の動物には、群2同様、P−Bを単独で投与した。群4の動物は基礎食を摂取し、対照の役割を果たした。実験を18週の末に終了し、全ての動物を、一晩の断食の後、頸椎脱離により屠殺した。動物を屠殺する前に、右嚢を肉眼で検査して前癌性病変又は腫瘍の発達を評価し、写真撮影した。腫瘍量を、平均腫瘍体積(4/3πr3)(r=1/2腫瘍直径(mm))に腫瘍の平均数を乗ずることにより算出した。頬嚢組織を細分し、各実験への分配のために多様に処理した。組織を10%ホルマリン中に固定し、パラフィン中に包埋し、ポリリジン被覆ガラススライド上に載せた。各標本から1つの切片をヘマトキシリン及びエオシンで染色した。残余切片を免疫組織化学的染色に使用した。
【0065】
免疫組織化学
組織切片を60℃で10分間加熱することにより脱パラフィン化した後、キシレン中で3回洗浄した。特級アルコールで徐々に水和した後、スライドを、抗原賦活のために電子レンジ中で5分の2サイクルでクエン酸塩緩衝液(pH6.0)中に温置した。切片を20分間放冷した後、トリス緩衝生理食塩水(TBS)ですすぎ、蒸留水中の3%H2O2で15分間処置して、内因性ペルオキシダーゼ活性を阻害した。切片を、正常ヤギ血清で25分間温置することにより、非特異的抗体結合を低減させた。次に、切片をサイトケラチン、PCNA及びBcl−2(DAKO,Carprinteria,CA,USA)マウス単クローン抗体及びNF−κB及びカスパーゼ3ウサギ多クローン抗体及びチトクロムC単クローン抗体(全てNeo Markers,USA)に4℃で一晩温置した。該スライドをTBSで洗浄した後、抗ウサギ及び抗マウスビオチン標識二次抗体(両方ともDAKO,Carprinteria,CA,USA)に続きストレプトアビジン−ビオチン−ペルオキシダーゼを使用して、各々室温で30分間温置した。免疫沈降を3,3’−ジアミノベンジジンによる処理及びヘマトキシリンによる対比染色により可視化した。陰性の対照のために、一次抗体をTBSで置換した。各抗体に関する陽性の対照も同時に処理した。PCNAに関する標識指数を、3つの高倍率視野における100個の計数された細胞あたりの陽性の染色を有する細胞の数として算出した。NF−κB、Bcl−2、チトクロムC及びカスパーゼ3の発現を、100個の計数された細胞あたりの正に染色された細胞の数に従って、I=5%から25%、II=26%から50%、III=51%から75%及びIV=75%超過、として等級分けした。サイトケラチンの発現を、0=ケラチンを検出できない、I=基底領域又は基底上領域染色のいくらかの証拠に限定される染色、II=基底領域及び/又は基底上領域を通じての陽性の染色、として等級分けした。
【0066】
カスパーゼ3活性の比色評価
DEVD特異的カスパーゼ3活性を、CASP−3−C比色キット(Sigma,St.Louis Mo,USA)を使用して製造者の説明書に従ってアッセイした。細胞質抽出物を、50mM HEPES(pH7.4)、5mM CHAPS及び5mM DTTを含有する可溶化緩衝液中で組織をホモジナイズすることにより調製した。上澄みを酵素源として回収した。カスパーゼ3比色アッセイは、ペプチド基質であるアセチル−Asp−Glu−Val−Asp−ニトロアニリド(Ac−DEVD−pNA)のカスパーゼ3による加水分解の結果として、p−ニトロアニリン(pNA)部分の放出が生じることに基づいている。基質から放出されるpNAの濃度を、405nmでの吸光度値から、又はpNA規定溶液で作成した検量線から算出する。
【0067】
統計分析
腫瘍の発生率、及びNF−κB、サイトケラチン、Bcl−2、チトクロムC及びカスパーゼ3の等級分けを、X2検定を使用して統計的に比較した。腫瘍量に関するデータの統計分析を、Studentのt検定を使用して実施した。PCNA標識指数及びカスパーゼ3の比色アッセイデータを、ANOVAを使用した後LSDを使用して分析した。結果を、p値が0.05未満の場合統計的に有意と考慮した。
【0068】
結果
図9の表4は、対照動物及び実験動物における腫瘍発生率、平均腫瘍量及び組織病理学的変化を示す。群1における腫瘍発生率は100%であり、平均腫瘍量は346mm3であった。組織学的に、DMBAにより誘発されるHBP腫瘍は、結合組織への扁平上皮の乳頭状突起を伴う侵襲性扁平上皮癌であった。DMBA及びP−Bで処置した10匹のハムスターのうちの2匹はSCCを発生し、他方、4匹のハムスターは軽度から中度の異形成を示し、残り4匹のハムスターは中度の過形成を示した。軽度の過形成性変化が、群3におけるハムスターのうちの2匹において観察された。対照動物において、上皮は正常であり、無傷であり、連続していた。
【0069】
図10の表5は、対照動物及び実験動物の頬嚢におけるPCNA標識指数及びNF−κB、サイトケラチン、Bcl−2、チトクロムC及びカスパーゼ3の発現に及ぼすP−Bの効果を示す。DMBAを塗布した動物(群1)において、PCNA、NF−κB、サイトケラチン及びBcl−2の発現は、対照動物(群4)と比較して有意により高く、チトクロムC及びカスパーゼ3の発現は有意により低かった。P−Bの投与(群2)は、群1と比較して、PCNA、NF−κB、サイトケラチン及びBcl−2の発現を有意に低下させ、チトクロムC及びカスパーゼ3の発現を有意に増大させた。群3の動物において、PCNA、NF−κB、サイトケラチン、Bcl−2、チトクロムC及びカスパーゼ3の発現の有意な変化は観察されなかった。PCNAの免疫染色が核の局在化を示したのに対し、NF−κB、サイトケラチン、Bcl−2、チトクロムC及びカスパーゼ3は、細胞質領域中に見られた。免疫染色の代表的な顕微鏡写真を、図11及び12に示す。
【0070】
図13は、対照ハムスター及び実験ハムスターにおける頬嚢中のDEVD特異的カスパーゼ3の活性を示す。DMBAを塗布した動物(群1)において、カスパーゼ3活性は、対照(群4)と比較して有意に低下した。P−Bによる処置は、群2動物における酵素活性を群1と比較して著しく増大させた。P−B単独投与した動物(群3)において、カスパーゼ3の活性は対照のそれと有意に違わなかった。
【0071】
従って、紅茶ポリフェノール、及び特にP−Bの食餌性投与が、DMBA誘発性HBP癌及び新生物発生前の病変の発生率を低減したことに留意されたい。P−Bは又、頬嚢中のPCNA、NF−κB及びBcl−2の発現も有意に下方制御し、シトクロムC、カスパーゼ3及びサイトケラチンを上方制御した。これらデータは、P−Bは抑制剤として作用し、PCNA、NF−κB及びBcl−2を下方制御すること及びチトクロムC、カスパーゼ3及びサイトケラチンを上方制御することにより、その抗悪性腫瘍特性を発揮することを強く示唆する。興味深いことに、P−Bは、腫瘍細胞においてアポトーシスを誘発したが、正常細胞において誘発できなかった。Hsuらは、EGCGが正常な成長に影響を及ぼさずにアポトーシス経路を活性化することにより形質転換された細胞の成長阻害を誘発すること見出し正常細胞への保護的な効果が細胞分化と密接に関連する分子であるp57によりもたらされるのであろうことを示唆した。これらの知見は、腫瘍細胞にはアポトーシスを経験させ、正常細胞には生存経路へ導く食餌性薬剤が、理想的な化学予防剤であるという仮説を支持する。
【0072】
(II)紅茶ポリフェノール−ラクトフェリンの組み合わせの効果
我々は、7,12−ジメチルベンズ[a]アントラセン(DMBA)誘発性ハムスター頬嚢(HBP)発癌に及ぼすウシラクトフェリン(bLF)と紅茶ポリフェノール(ポリフェノンB:P−B)との組み合わせの抗増殖性及びアポトーシス誘発効果を評価した。増殖性細胞核抗原(PCNA)、NF−κB、p53変異体、Bcl−2、Bax、Fas及びカスパーゼ3を含むサイトケラチン及び他のマーカーの発現を、口腔癌の化学予防のためのマーカーとして使用した。
【0073】
薬品
DMBAをSigma Chemical Company,St.Louis,MO,USAから購入した。純度が96.2%以上のbLF(ロット番号020119)をMorinaga Milk Industry Co.,Ltd,Tokyo,Japanから入手した。紅茶ポリフェノール(ポリフェノン−B)は、Mitsui Norin Co.,Ltd.,Tokyo,Japanの好意により提供された。ポリフェノン−Bの組成は前述と同一であった。それは、エピカテキン(0.4%)、エピガロカテキン−3−ガレート(1.4%)、エピカテキン−3−ガレート(0.1%)、ガロカテキン−3−ガレート(0.2%)、遊離テアフラビン(0.32%)、テアフラビンモノガレート−A(0.14%)、テアフラビンモノガレート−B(0.15%)、テアフラビンジガレート(0.21%)、タンニン(35.6%)及びカフェイン(4.9%)の混合物である。使用した他の試薬は全て、分析等級であった。
【0074】
動物及び食餌
実験は、the Central Animal House,Annamalai University,Indiaから入手した100gから110gの体重の8週齢から10週齢の雄シリアンハムスターを使用して実施した。動物を1つのポリプロピレンケージに5匹収容し、食餌及び水を自由に提供し、明/暗交互サイクルで温度及び湿度の制御された条件下で維持した。動物を、the National Institute of Nutrition,Indian Council of Medical Research,Hyderabad,Indiaの指針に従って維持し、Annamalai Universityの倫理委員会により承認された。実験食は、化学予防剤を単独で又は組み合わせで計量済み標準固形食(Mysore Snack Feed,Mysore,India)に混合することにより毎日調製した。食餌を毎日補充し、食餌消費量を記録した。
【0075】
処置計画
ハムスターを実験群及び対照群に無作為に分け、各群20匹の動物の8群に分割した。群1において、ハムスターの右頬嚢に、0.5%DMBA液体パラフィン溶液を4番ブラシで毎週3回塗布した。各塗布により約0.4mgのDMBAが残留する。群1のハムスターは、さらなる処置を受けなかった。群2から群4において、群1同様DMBAを塗布した右頬嚢はさらに、0.2%bLF、0.05%ポリフェノン−Bを含有する基本食及び0.2%bLFと0.05%ポリフェノン−Bとの組み合わせを含有する食餌をそれぞれ受容した。群5から群7の動物にbLF、ポリフェノン−B単独及びそれらの組み合わせをそれぞれ投与した。群8の動物は対照の役割をした。実験は14週で終了し、全ての動物を、一晩の断食の後、頸椎脱離により屠殺した。動物を屠殺する前に、右嚢を肉眼で検視して前癌性病変又は腫瘍の発達を評価し、写真撮影した。腫瘍量を、平均腫瘍体積(4/3πr3)(r=1/2腫瘍直径(mm))に腫瘍の平均数を乗ずることにより算出した。頬嚢組織を細分し、各実験への分配のために多様に処理した。組織を10%ホルマリン中に固定し、パラフィン中に包埋し、ポリリジン被覆ガラススライド上に乗せた。各標本から1つの切片をヘマトキシリン及びエオシンで染色した。残余切片を免疫組織化学的染色に使用した。
【0076】
免疫組織化学
組織切片を60℃で10分間加熱することにより脱パラフィン化した後、キシレン中で3回洗浄した。特級アルコールで徐々に水和した後、スライドを、抗原賦活のために、電子レンジ中で5分×2サイクルでクエン酸塩緩衝液(pH6.0)中に温置した。切片を20分間放冷した後、トリス緩衝生理食塩水(TBS)ですすいだ。切片を蒸留水中の3%H2O2で15分間処置して、内因性ペルオキシダーゼ活性を阻害した。切片を正常ヤギ血清で25分間温置することにより、非特異的抗体結合を低減させた。次に、切片をPCNA、p53及びサイトケラチンAE1/AE3マウスモノクローナル抗体(Dako,Carprinteria,CA,USA)で4℃で一晩温置した。スライドをTBSで洗浄した後、抗ウサギ及び抗マウスビオチン標識二次抗体(DAKO,Carprinteria,CA,USA)に続きストレプトアビジンビオチン−ペルオキシダーゼを使用して、各々室温で30分間温置した。免疫沈降を3,3´−ジアミノベンジジン(Sigma)による処理及びヘマトキシリンによる対比染色により可視化した。陰性の対照のために、一次抗体をTBSで置換した。各抗体に関する陽性の対照も、同時に処理した。PCNAに関する標識指数を、100個の計数された細胞あたりの陽性の染色を有する細胞の数として表した。サイトケラチンに関するデータを、I=基底領域又は基底上領域染色のいくらかの証拠に限定される染色、II=基底領域及び/又は基底上領域を通じての陽性の染色、として等級分けした。p53発現を、100個の計数された細胞あたりの正に染色された細胞の数に従って、I=5%から25%、II=26%から50%、III=51%から75%及びIV=75%超過、として等級分けした。
【0077】
SDS−PAGE及びウェスタンブロット分析
各組織サンプル約50mgを、62.5mMトリス(pH6.8)、2%SDS、5%2−メルカプトエタノール、10%グリセロール及びブロモフェノールブルーを含有するサンプル緩衝液中における可溶化に供した。可溶化液のタンパク質濃度を、Bradford法により測定した。SDS−PAGEを、Laemmli法に従って各サンプルから等価のタンパク質抽出物(55μg)を使用して実施した。分解したタンパク質をポリビニリデンジフルオリド膜(Immobilion,Millipore,Bedfore,MA,USA)へ電気泳動的に転写した。膜を、5%無脂肪乾燥乳を含有するTBS(150mM NaCl/50mMトリス、pH7.4)中で温置して、非特異的結合部位を1時間遮断した。ブロットを抗Bcl−2、抗Bax、抗p53、抗NF−κB、抗Fas、及び抗カスパーゼ3抗体(NeoMarkers,USA)の1:1000希釈とともに室温で一晩温置した。ブロットを0.1%Tween−20を含有するTBS(TBS−T)で徹底的に洗浄した後、西洋ワサビペルオキシダーゼ標識二次抗体(Santa Cruz Biotechnology,CA,USA)の1:1000希釈とともに室温で30分間から45分間温置した。TBS−T中で徹底的に洗浄した後、タンパク質を3,3’−ジアミノベンジジン(Sigma)で処置することにより可視化した。濃度測定をIISP平板ベッドスキャナ上で実施し、Total Lab1.11ソフトウェアで定量化した。
【0078】
カスパーゼ3活性の比色評価
DEVD特異的カスパーゼ3活性を、CASP−3−C比色キット(Sigma,St.Louis Mo,USA)を使用して製造者の説明書に従ってアッセイした。細胞質抽出物を、50mM HEPES(pH7.4)、5mM CHAPS及び5mM DTTを含有する可溶化緩衝液中で組織をホモジナイズすることにより調製した。上澄みを酵素源として回収した。カスパーゼ3比色アッセイは、ペプチド基質であるアセチル−Asp−Glu−Val−Asp−ニトロアニリド(Ac−DEVD−pNA)のカスパーゼ3による加水分解の結果として、p−ニトロアニリン(pNA)部分の放出が生じることに基づいている。基質から放出されるpNAの濃度を、405nmでの吸光度値から、又はpNA規定溶液で作成した検量線から算出する。
【0079】
統計分析
データを平均±SDとして表す。Yatesの補正と組み合わせたχ2検定を使用して、腫瘍の発生率を分析した。分散分析(ANOVA)を使用して、腫瘍量、PCNA標識指数及び濃度測定分析に関するデータに対する統計分析を行って、群平均をTukey−Kramer検定により比較した。CK及びp53に関するデータに対する統計分析を、χ2検定を使用して行った。結果は、p値が0.05未満の場合、統計的に有意であると考慮した。bLFとポリフェノン−Bとの組み合わせの効果の間の相互作用の性質は、Yokoyamaらによって記載されるとおり評価した。端的には、bLF処置とポリフェノン−B処置との間の組み合わせの効果の期待値を、[(観察されたbLF処置値)/(対照値)]×[(観察されたポリフェノン−B処置値)/(対照値)]として算出し、組み合わせ指数を、期待値/観察値の比として算出した。1を超える比は相乗効果を示し、1未満の比は付加的な効果未満を示す。
【0080】
結果
図14の表6は、実験群及び対照群のハムスターの頬嚢における食餌消費量、腫瘍発生率、腫瘍量及びSCCの発生率を要約する。14週の終了時に、群1の腫瘍発生率は、100%であった。これらの腫瘍は、外方増殖性であり、172.97mm3の平均腫瘍量で明確に定義された。bLF及びポリフェノン−Bの単独の及び組み合わせの投与(群2から群4)は、腫瘍発生率、腫瘍量並びにSCCの発生率を有意に低下させたが、前記組み合わせは、単一薬剤よりも効果的であった。さらに、腫瘍発生率に対するbLFとポリフェノン−Bとの組み合わせに関する1.46の組み合わせ指数比は、前記組み合わせがHBP発癌の抑制において相乗効果を有することを示す。腫瘍は、群5から群8においては観察されなかった。群1から群8において消費される食餌量は有意に異ならなかった。
【0081】
図15(A)及び図16の表7は、種々の群におけるサイトケラチンの免疫組織化学的分析を示す。DMBAを塗布した動物(群1)において、サイトケラチンの発現は、対照動物よりも有意により高かった。さらに、我々は、浸潤している癌細胞が群1動物においてサイトケラチンの強力な発現を示すことを観察した。bLFとP−Bとの組み合わせは、いずれかの薬剤単独よりも有意にサイトケラチン発現を低下させた。化学予防剤単独の投与(群5から群7)は、対照群(群8)と比較して、サイトケラチンの発現に有意に影響を及ぼさなかった。
【0082】
図15(B)及び図16の表7は、対照動物及び実験動物のハムスター頬嚢におけるPCNA標識指数の免疫組織化学的分析を示す。DMBAの局所適用(群1)は、対照群(群8)と比較して、平均PCNA標識指数を有意に増加させた。bLFとP−Bとの同時投与は、群1と比較していずれかの薬剤単独よりもPCNA標識指数をより有意に低減させた。bLF及びP−Bの単独の及び組み合わせの投与(群5から群7)は、処置されていない対照群(群8)と比較して、PCNA標識指数に有意に影響しなかった。
【0083】
変異体p53タンパク質発現の免疫組織化学的分析の結果及びp53免疫染色の代表的な顕微鏡写真を、図15(C)の表7に示す。DMBAを塗布した動物において、p53発現は、対照群(群8)と比較して有意に増大した。bLFとP−Bとを組み合わせた投与は、いずれかの薬剤単独よりも有意にp53発現を低下させた。化学予防剤単独を投与された動物(群5から群7)において、p53の発現は、対照群と有意には異ならなかった。
【0084】
図17は、対照動物及び実験動物の頬嚢におけるBcl−2、Bax、NF−κB、p53、Fas及びカスパーゼ3の代表的なウェスタンブロット分析並びにカスパーゼ3の活性を示す。Bcl−2、Bax、NF−κB、p53、Fas及びカスパーゼ3の発現は、それぞれ25kDa、21kDa、65kDa、53kDa、48kDa及び32kDaの分子量帯として検出された。対照群の可溶化液からの平均タンパク質発現を、グラフ中の100%として表した。各棒グラフは、処理あたりの10回測定の平均タンパク質発現±SDを表す。DMBAの局所塗布は、対照群(群1)と比較して、Bcl−2/Bax比並びにp53及びNF−κBの発現を有意に増大し、Fas及びカスパーゼ3の発現並びにカスパーゼ3活性を低下させた。bLFとP−Bとの同時投与は、いずれかの薬剤単独よりもより有意に、Bcl−2/Bax比、p53及びNF−κB発現を低下させ、Fas及びカスパーゼ3の発現並びにカスパーゼ3の活性を増大させた。対照動物と比較して群5から群7において、これらのタンパク質の発現に有意な変化は観察されなかった。
【0085】
従って、bLFと紅茶ポリフェノールP−Bとの組み合わせの投与が、腫瘍発生率の低下により明らかなように、DMBA誘発性HBP癌発生の抑制において、いずれかの薬剤単独よりも効果的であったことが、理解されるべきである。このことは、PCNA、NF−κB、p53及びBcl−2の下方制御及びBax、Fas及びカスパーゼ3の発現の上方制御により実証されるように、細胞増殖の実質的な減少及びアポトーシスの有意な増強を伴っていた。bLF及びP−Bの抗増殖誘導効果及びアポトーシス誘発効果は、DMBAの発癌性効果を潜在的に緩和でき、それによりサイトケラチン発現により反映されるように、HBP癌の浸潤能力を低下させた。
【0086】
bLFとP−Bとの組み合わせの化学予防効果は、個々の薬剤の抗増殖誘導効果及びアポトーシス誘発効果を反映する。bLFは、4−ニトロキノリン1−オキシド誘発性舌部発癌におけるPCNA発現を下方制御することが報告された。アゾキシメタン誘発性結腸発癌に及ぼすbLFの抑制効果は、細胞死受容体Fas並びにBcl−2ファミリーのアポトーシス促進性メンバーであるBid及びBaxの誘発により媒介されることが発見された。茶ポリフェノールは、原位置でのBrdu組み込み、PCNA下方制御及びG1期の抑止により検出される細胞増殖を抑制することが示された。
【0087】
ここに呈示された結果は、bLFと多様な茶ポリフェノールとの、特に紅茶ポリフェノールとの組み合わせは、細胞増殖を抑制すること及びアポトーシスを誘発することにより、抑制剤として作用することを、明確に実証する。興味深い知見は、成長制御及びアポトーシスに対するHBP癌と正常細胞との識別感度である。いくつかのインビトロ研究も、腫瘍細胞が、正常細胞よりも茶ポリフェノールの抗増殖効果及びアポトーシス性効果に対して感受性がより高いことを実証した。これらの知見は、腫瘍細胞にはアポトーシスを経験させ、正常細胞には生存経路へ導く食餌性薬剤が、理想的な化学予防剤であるという事実を支持する。これらの観察に基づいて、我々のデータは、bLFとP−Bとの組み合わせがヒトの口腔癌の予防戦略における限りない能力を有し得ることを示唆する。
【0088】
我々はさらに、7,12−ジメチルベンズ[a]アントラセン誘発性ハムスター頬嚢(HBP)発癌における細胞の酸化還元状態及び発癌物質代謝酵素の調節に及ぼすラクトフェリンと種々の紅茶ポリフェノール(ポリフェノンB(P−B))との組み合わせの効果を評価した。
【0089】
薬品
DMBAをSigma Chemical Company,St.Louis,MO,USAから購入した。純度が96.2%のbLF(ロット番号020119)をMorinaga Milk Industry Co.,Ltd,Tokyo,Japanから入手した。紅茶ポリフェノール(ポリフェノン−B)は、Mitsui Norin Co.,Ltd.,Tokyo,Japanの好意により提供された。ポリフェノンBは、エピカテキン(0.4%)、エピガロカテキン−3−ガレート(1.4%)、エピカテキン−3−ガレート(0.1%)、ガロカテキン−3−ガレート(0.2%)、遊離テアフラビン(0.32%)、テアフラビンモノガレート−A(0.14%)、テアフラビンモノガレート−B(0.15%)、テアフラビンジガレート(0.21%)、タンニン(35.6%)及びカフェイン(4.9%)の混合物である。使用した他の試薬は全て、分析等級であった。
【0090】
動物及び食餌
実験を、the Central Animal House,Annamalai University,Indiaから入手した100gから110gの体重の8週齢から10週齢の雄シリアンハムスターを使用して実施した。動物を1つのポリプロピレンケージに5匹収容し、食餌及び水を自由に提供し、明/暗交互サイクルで温度及び湿度の調節された条件下で維持した。動物は、the National Institute of Nutrition,Indian Council of Medical Research,Hyderabad,Indiaの指針に従って維持し、Annamalai Universityの倫理委員会により承認された。実験食を、化学予防剤を単独で又は組み合わせで計量済み標準固形食(Mysore Snack Feed Ltd,Mysore,India)に混合することによって毎日調製した。食餌を毎日補充し、食餌消費量を記録した。
【0091】
処置計画
ハムスターを実験群及び対照群に無作為に分け、各群20匹の動物の8群に分割した。群1において、ハムスターの右頬嚢に、0.5%DMBA液体パラフィン溶液を4番ブラシで毎週3回塗布した。各塗布により約0.4mgのDMBAが残留する。群1のハムスターは、さらなる処置を受けなかった。群2から群4において、群1同様DMBAを塗布した右頬嚢はさらに、0.2%bLF、0.05%ポリフェノン−Bを含有する基本食及び0.2%bLFと0.05%ポリフェノン−Bとの組み合わせを含有する食餌をそれぞれ受容した。群5から群7の動物にbLF、ポリフェノン−B単独及びそれらの組み合わせをそれぞれ投与した。群8の動物は、対照の役割をした。実験は14週で終了し、全ての動物を、一晩の断食の後、頸椎脱離により屠殺した。動物を屠殺する前に、右嚢を肉眼で検視して前腫瘍性病変又は腫瘍の発達を評価し、写真撮影した。腫瘍量を、平均腫瘍体積(4/3πr3)(r=1/2腫瘍直径(mm))に腫瘍の平均数を乗ずることにより算出した。頬嚢及び肝臓組織を細分し、各実験への分配のために多様に処理した。
【0092】
微小核試験
実験群動物における染色体損傷を評価するために、骨髄微小核試験をSchmidに従って実施した。合計2500個の多染性赤血球を動物1匹あたりにつき単一スライドからスコア化し、微小核を有する多染性赤血球の頻度を測定した。スライドを全て、同一観察者によりスコア化した。
【0093】
生化学的アッセイ
ホモジナイズされたばかりの組織を用いて、生化学的評価を行った。チトクロムP450を、Omura and Satoの方法により、91cm2M−1m−1の吸収度係数を使用する400nmから500nmの間の一酸化炭素差スペクトルを使用してアッセイした。グルタチオンS−トランスフェラーゼ(GST)活性を、Habigらにより記載されたように1−クロロ−2,4−ジニトロベンゼンを基質として使用して340nmでの吸光度における増大から測定した。DT−ジアフォラーゼ(DTD)の活性を、Ernsterにより記載されたようにNADPHを電子供与体として、2,6−ジクロロフェノール−インドフェノールを電子受容体として使用してアッセイした。脂質過酸化は、チオバルビツール酸反応性物質(TBARS)、共役ジエン及び脂質ヒドロペルオキシドの形成により証明されるように評価した。TBARSを、組織中でOhkawaらにより記載された方法により、脂質ヒドロペルオキシドは、Jiangらの方法により、共役ジエンは、Rao and Recknagelの方法により、それぞれアッセイした。還元型グルタチオン(GSH)は、スルフヒドリル基を含有する化合物に5,5’−ジチオビス(2−ニトロ安息香酸)を添加するときの黄色の発色に基づくAndersonの方法により測定した。酸化型グルタチオン(GSSG)は、グルタチオン還元酵素によるNADPHの酸化後、340nmにてAndersonの方法に基づいて評価した。グルタチオンペルオキシダーゼ(GPx)活性を、Rotruckらの方法に従い、過酸化水素を利用することによりアッセイした。タンパク質含有量を、Lowryらの方法により評価した。
【0094】
統計分析
データを平均±SDとして表す。体重をStudentのt検定により分析した。Yatesの補正と組み合わせたχ2検定を使用して、腫瘍の発生率を分析した。分散分析(ANOVA)を使用して、腫瘍量、腫瘍多重度、骨髄微小核の発生率及び生化学的アッセイに関するデータに対する統計分析を分析を行って、群平均をTukey−Kramer検定により比較した。p値が0.05未満の場合、結果を統計的に有意であるとみなした。bLFとポリフェノン−Bとの組み合わせの効果の間の相互作用の性質は、Yokoyamaらによって記載されるとおり評価した。端的には、第1処置(bLF)と第2処置(ポリフェノン−B)との間の組み合わせの効果の期待値を、[(観察された第1処置値)/(対照値)]×[(観察された第2処置値)/(対照値)]として算出し、組み合わせ指数を、(期待値)/(観察値)の比として算出する。1を超える比は相乗効果を示し、1未満の比は付加的な効果未満を示す。
【0095】
肉眼での観察及び顕微鏡下での観察
図18の表8は、種々の群の平均体重、食餌消費量、及び骨髄微小核の頻度を示す。14週間のDMBAの局所塗布は、対照群(群8)と比較して、群1の動物の平均体重を有意に減少させた。体重における有意差は、群2から群8において観察されなかった。群1から群8において消費された食餌量に有意差はなかった。骨髄の微小核を有する多染性白血球(MnPCE)の頻度は、対照群(群8)と比較して、DMBAを塗布した動物(群1)において有意に高かった。bLF及びポリフェノン−B単独の食餌性投与(それぞれ群2及び群3)は、群1と比較してMnPCEの発生率を有意に低減し、bLFとポリフェノン−Bとの組み合わせ(群4)は、他の群と比較して抑制がより大きい(43.33%)ことを示した。bLF及びポリフェノン−B単独の投与及び組み合わせにおける投与(群5から群7)は、対照群(群8)と比較して、MnPCEの発生率に有意な変化を示さなかった。
【0096】
図19の表9は、実験群及び対照群のハムスターの頬嚢における腫瘍発生率、腫瘍多重度、平均腫瘍量及び組織病理学的変化を要約する。群1における腫瘍発生率は100%であり、多重度はハムスター1匹あたり1.55腫瘍であった。これらの腫瘍は外方増殖性であり、172.97mm3の平均腫瘍量で明確に定義される。bLF及びポリフェノン−Bの単独の及び組み合わせの投与(群2から群4)は、腫瘍発生率、腫瘍多重度、及び腫瘍量並びに病理学的変化を有意に低下させた。群1から群4のうち、bLFとポリフェノン−Bとの組み合わせ(群4)は、これらの変化をより大きく低下させた。さらに、腫瘍発生率に対するbLFとポリフェノン−Bとの組み合わせに関する1.46の組み合わせ指数比を、前記組み合わせがHBP発癌の抑制において相乗効果を有し得ることを示す。腫瘍は、群5から群8において観察されなかった。
【0097】
生化学的知見
図20は、bLF及びポリフェノン−B単独並びに組み合わせにおける処置が、頬嚢及び肝臓における第I相及び第II相発癌物質代謝酵素の活性に及ぼす影響を示す。DMBAの局所適用(群1)は、嚢における酵素活性を有意に増強し、一方肝臓においては、チトクロムP450における増大は、対照群(群8)と比較して、第II相酵素活性における有意な低下を伴った(p<0.001)。bLF及びポリフェノン−B単独又は組み合わせでの、DMBAを塗布した動物への食餌性投与は、群1と比較して嚢及び肝臓において、チトクロムP450の活性を有意に抑制し、第II相酵素の活性を増強した(それぞれ群2から群4の動物に関してp<0.05、p<0.01及びp<0.001)。食餌性薬剤単独及び組み合わせでの投与(群5から群7)は、チトクロムP450においていかなる有意な変化も誘発しなかったが、第II相酵素の活性は、群8と比較して有意に増強された。
【0098】
図21は、bLF及びポリフェノン−B単独及び組み合わせでの処置が、ハムスターの頬嚢及び肝臓における脂質過酸化におけるDMBA誘発性変化に及ぼす効果を示す。14週間のDMBAの局所塗布は、頬嚢において脂質過酸化を低下させたのに対し、肝臓において、脂質過酸化の程度は、対照群と比較して増大した(p<0.001)。bLF及びポリフェノン−B単独の及び組み合わせの食餌性投与は、群1と比較して頬嚢及び肝臓における脂質過酸化においてDMBA誘発性変化を有意に和らげた(それぞれ群2から群4の動物に関してp<0.05、p<0.01及びp<0.001)。食餌性薬剤単独の及び組み合わせにおける投与は、群1と比較してそれぞれ群5から群7の動物の頬嚢及び肝臓における脂質過酸化の程度を有意に低減した。対照群及び実験群のハムスターの嚢及び肝臓におけるGSH、GSSG、GSH/GSSG比及びGPx活性を図22に示す。DMBAを塗布した動物(群1)において、GSH及びGSH/GSSG比の濃度及びGPx活性は頬嚢において増強されたのに対し、肝臓において、全ての抗酸化物質が、対照群と比較して有意に減少した(p<0.001)。bLF及びポリフェノン−B単独の及び組み合わせの処置は、群1と比較して嚢及び肝臓において全ての抗酸化物質を有意に増大させた(それぞれ群2から群4の動物に関してp<0.05、p<0.01及びp<0.001)。bLF及びポリフェノン−B単独の投与及び組み合わせの投与(群5から群7)は、対照群(群8)と比較して、頬嚢及び肝臓における抗酸化物質の状態を有意に増強した。全体として、bLFとポリフェノン−Bとの組み合わせは、発癌物質代謝酵素並びに脂質過酸化及び抗酸化物質を調節することにおいて、いずれかの薬剤を単独で使用するよりも効果的であることがわかった。
【0099】
明らかであるように、14週間のDMBAのHBPへの局所塗布は結果的に、十分に発達したSCCをもたらし、非常に高い平均腫瘍量を伴った。このことは、更に第I相及び第II相異物代謝酵素、細胞内酸化還元状態、及び骨髄微小核の頻度の増大における不均衡を伴った。注目すべきことに、bLFと紅茶ポリフェノール(ポリフェノン−B)との同時投与は、嚢及び肝臓における第I相及び第II相の酵素における調節された平衡及び酸化還元状態の調節を伴った、HBP癌の発生率を有意に減少させた。このような平衡及び調節は、DMBAの変異誘発性及び発癌性効果を緩和し、それにより骨髄微小核の頻度を最少化すると考えられる。
【0100】
本発明者はさらに、bLF及びポリフェノン−Bが、第I相酵素を抑制し、第II相酵素の活性を増強することにより二重作用薬として機能することを見出した。二重作用薬は、解毒及び排泄を促進しながら、発がん物質の代謝活性化を同時に抑制するので、癌の化学予防剤としてより有望であると認識される。bLFとポリフェノン−Bとの組み合わせの化学予防能は、その抗酸化特性にも起因し得る。頬嚢において、bLF及びポリフェノン−Bは、脂質過酸化に対する感受性を逆転させた一方、同時にGSH/GSSG比及びGPx活性を増大させ、他方で、肝臓において、脂質過酸化の程度は、抗酸化防御システムの上昇に伴い低下させた。従って、bLF及びポリフェノン−Bによる腫瘍及び宿主肝臓において誘発される差次的な酸化事象は、おそらくHBPにおいて細胞増殖を低下させ得、腫瘍発生を遮断し得る。本研究のこれらの結果は、bLFとポリフェノン−Bとの組み合わせの投与が、いずれかの薬剤が単独で使用される場合と比較して、HBP発癌の抑制し、発癌物質代謝酵素及び酸化還元状態の調節においてより効果的であることを示唆している。これらの知見はさらに、bLFとポリフェノン−Bとの組み合わせが、HBP発癌の抑制において相乗的に作用し得ることを示唆している。
【0101】
(III)緑茶ポリフェノール−ラクトフェリンの組み合わせの効果
我々はさらに、種々の緑茶ポリフェノール(ポリフェノンE)及び紅茶ポリフェノール(ポリフェノンE)との組み合わせにおけるウシラクトフェリンが、ヒト舌部扁平上皮癌(CAL−27)及び正常ヒト歯肉線維芽(HGF)細胞に及ぼす抗増殖性効果及びアポトーシス誘発効果を評価した。
【0102】
薬品
純度が96.2%以上のbLF(ロット番号020119)を、Morinaga Milk Industry Co.,Ltd,Tokyo,Japanから入手した。bLFの鉄含有量は、18mg/100gであった。緑茶ポリフェノール(ポリフェノン−E:P−E)及び紅茶ポリフェノール(ポリフェノン−B:P−B)は、Mitsui Norin Co.,Ltd.,Tokyo,Japanの好意により提供された。ポリフェノン−E及びポリフェノン−Bの組成は前述と同一である。ポリフェノン−E(P−E)は、エピガロカテキン−3−ガレート(64.6%)、エピガロカテキン(4.3%)、エピカテキン(9.4%)、エピカテキン−3−ガレート(6.4%)、ガロカテキン−3−ガレート(3.5%)、カテキン−3−ガレート(0.2%)、ガラクトカテキン(0.2%)、カテキン(1.1%)及びカフェイン(0.7%)の混合物である。ポリフェノン−B(P−B)は、次の組成:エピカテキン(0.4%)、エピガロカテキン−3−ガレート(1.4%)、エピカテキン−3−ガレート(0.1%)、ガロカテキン−3−ガレート(0.2%)、遊離テアフラビン(0.32%)、テアフラビンモノガレート−A(0.14%)、テアフラビンモノガレート−B(0.15%)、テアフラビンジガレート(0.21%)、タンニン(35.6%)及びカフェイン(4.9%)を有する。使用した他の試薬は全て、分析等級であった。bLF及びP−Eの原溶液を、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)中に調製した。P−Bを、0.5%ジメチルスルホキシド(DMSO)を含有するPBS中に溶解した。次に、原液を使用前に培地で希釈して望ましい濃度を得た。培地中のDMSOの最終濃度は、0.01%未満であり、この濃度は細胞成長に及ぼす検出可能な効果がないことを証明するものであった。ダルベッコ変法イーグル培地(DMEM)及びウシ胎仔血清(FBS)を、GIBCOから購入した。ジチオスレイトール(DTT)、3,3−ジアミノベンジジン四塩酸塩(DAB)、2’,7’−ジクロロフルオレセイン二酢酸塩(DCFH−DA)、臭化3−(4,5−ジメチルチアゾール−2−イル)−2,5−ジフェニルテトラゾリウム(MTT)、ヨウ化プロピジウム、プロテアーゼK、フッ化−フェニルメタンスルホニル(PMSF)、ローダミン123、及びRNA分解酵素Aを、Sigma Chemical Company,St.Louis,MO,USAから購入した。Dr.D.A.Tipton,University of Tennessee,College of Dentistry,Memphis,TN,USAの好意により提供された正常ヒト歯肉線維芽(HGF)の株細胞及び細胞培養液及びヒト舌部扁平上皮癌(CAL−27)株細胞を本研究において使用した。細胞を、10%FBS、50U/mlペニシリンG、及び50μg/ml硫酸ストレプトマイシンを補充したDMEM中で増殖させた。培養液を、37℃で、空気中の5%CO2の加湿された雰囲気中で維持した。指数関数的に増殖する細胞を、全ての実験のために使用した。
【0103】
細胞毒性アッセイ
細胞毒性を、生細胞のミトコンドリア脱水素酵素によるMTTの紫色ホルマゾン生成物への還元に基づいたMTTアッセイにより評価した。簡潔に述べると、細胞を増殖培地中で希釈し、24ウェルプレート(5×104細胞数/ウェル)に播種した。一晩増殖させた後、増殖培地を、bLF、P−E、P−B単独及びbLFとP−Eとの又はP−Bとの組み合わせの表示された用量を含有する曝露培地(FBSを含まないDMEM)と置換した。24時間後、各ウェル中の細胞をPBS200μLで洗浄し、37℃で、PBS中の500μg/mLのMTT100μLとともに3時間、温置した。DMSO200μl中に溶解したMTT−ホルマゾン生成物を、ELISAプレートリーダーにおいて570nmでの吸光度を測定することにより評価した。細胞生存を、対照サンプルに対する処理されたサンプルの生細胞の百分率として表した。食餌性薬剤を全て3回試験し、実験を、少なくとも3回反復した。
【0104】
核の形態学
CAL−27細胞を1ウェルあたり5×104個の細胞の密度で6ウェルチャンバースライドに平板接種した。80%コンフルエンスの後、CAL−27細胞を食餌性薬剤単独で及び組み合わせで24時間処理した。次に、細胞をPBSで洗浄し、メタノール:酢酸(3:1(v/v))中で10分間固定し、50μg/mlのヨウ化プロピジウムで20分間染色した。濃縮した/断片化した核を有するアポトーシス性細胞の核の形態を、蛍光顕微鏡下で検査し、アポトーシス性細胞死を評価するため、少なくとも1×103細胞数を計数した。
【0105】
細胞周期分析
アポトーシス性細胞の百分率の細胞周期分布及び測定をフローサイトメトリーにより実施した。処理後、培地中に浮遊している細胞を、トリプシン処理により回収した付着細胞と組み合わせた。次に、細胞を冷PBSで洗浄し、−20℃でPBS中の80%エタノール中において固定した。12時間後、固定した細胞をペレット化し、37℃で30分間RNA分解酵素A(20μg/ml)の存在下でヨウ化プロピジウム(50μg/ml)で染色し、約104個の事象をBecton Dickinson FACScanフローサイトメーターで分析した。細胞周期ヒストグラムをCell Questソフトウェアを使用して分析した。アポトーシス性細胞を、それらのサブG0/G1相下の領域中に現れるより低いヨウ化プロピジウム染色強度により測定されるような、これら細胞のDNA含有量の低下により、非アポトーシス性無傷細胞から識別した。
【0106】
ROS発生の測定
細胞内ROSの発生を評価するために、酸化感受性蛍光プローブDCFH−DAを使用した。簡潔に述べると、処理後、CAL−27細胞を回収し、10μMのDCFH−DAを含有する0.5mLのPBS中に37℃で暗所、15分間懸濁した。DCFH−DAを細胞により取り込ませ、細胞エステラーゼにより脱アセチル化して非蛍光生成物DCFHを形成し、これを、処理されたCAL−27細胞により生成する細胞内ROSにより緑色蛍光生成物DCFへと変換した。DCF蛍光の強度を、励起設定及び発光設定をそれぞれ488nm及び530nmとするフローサイトメトリーにより測定した。合計104の事象を計数し、ヒストグラムを、Cell Questソフトウェアを使用して分析し、対照群の未処置細胞のヒストグラムと比較した。
【0107】
ミトコンドリア膜電位差の測定
ミトコンドリア膜電位差における変化(ΔΨm)を、ミトコンドリア特異的脂質親和性カチオン染料ローダミン123の取り込みによって測定した。処理後、室温で10分間遠心分離することによりCAL−27細胞をペレット化し、PBSで洗浄した。ペレット化した細胞を10μg/mLのローダミン123を含有する暴露培地1mLとともに室温で暗所、30分間温置し、洗浄し、PBS中に再懸濁した。次に、サンプル(104事象)を即座に、励起波長488nm及び発光波長545nmでのフローサイトメトリー分析に供した。ヒストグラムを、Cell Questソフトウェアを使用して分析し、対照群の未処置細胞のヒストグラムと比較した。
【0108】
免疫蛍光
6ウェルチャンバースライド中で約80%コンフルエンスまで培養したCAL−27細胞を、食餌性薬剤単独及び組み合わせに24時間暴露した。処理に続き、細胞をあらかじめ4℃に冷却しておいたアセトン中で5分間固定した。固定した細胞を、PBS中の0.1%トリトンX−100で透過可能にし、抗Bcl−2及び抗Bax抗体(Dako,Carpinteria,CA,USA)の1:1000希釈とともに4℃で一晩温置した。次に、タンパク質を、イソチオシアン酸フルオレセイン(FITC)標識二次抗マウスIgG抗体(Dako,Carpinteria,CA,USA)とともに温置することによって検出し、蛍光顕微鏡を使用して可視化した。
【0109】
ウェスタンブロット法
食餌性薬剤による処置後、CAL−27細胞を、氷冷PBSで2回洗浄し、溶解緩衝液(50mMトリス−HCl、pH8.0、5mM EDTA、150mM塩化ナトリウム、0.5%ノニデットP−40、0.5mM PMSF及び0.5mM DTT)中、4℃で30分間溶解し、上澄みを12,500×gで20分間遠心分離することによって回収した。Bradfordのタンパク質評価キットによって測定されるような上澄み由来の総タンパク質の約50μgを、10%SDS−PAGE上で分離した後、セミドライ転移システム(BIORAD)を使用して、ニトロセルロース膜へ転写した。前記膜を、5%無脂肪乾燥乳を含有するトリス緩衝生理食塩水(TBS)(150mM/L塩化ナトリウム、50mM/Lトリス、pH7.4)中で1時間温置して非特異的結合部位を遮断した。次に、この遮断したものを抗Bcl−2及び抗Bax(NeoMarkers,USA)の1:1000希釈で一晩温置した。この遮断したものを、0.1%Tween−20を含有するTBSで徹底的に洗浄し、対応する西洋ワサビペルオキシダーゼ標識二次抗体(1:2000)とともに室温で60分間から90分間温置することにより、タンパク質を検出した。0.1%Tween−20を含有するTBS中での徹底的な洗浄の後、転移したタンパク質をDABを使用して可視化した。濃度測定をIISP平板ベッドスキャナ上で実施し、Total Lab1.11ソフトウェアで定量化した。
【0110】
カスパーゼ−3活性の比色評価
カスパーゼ−3活性を、CASP−3−C比色キット(Sigma Chemical Company,St.Louis,MO,USA)を使用してアッセイした。処理後、CAL−27細胞を250mM/l HEPES(pH7.4)、25mM/L CHAPS及び25mM/L DTTを含有する可溶化緩衝液中で可溶化した。上澄みを酵素源として使用した。カスパーゼ−3比色アッセイは、ペプチド基質であるアセチル−Asp−Glu−Val−Asp−ニトロアニリド(Ac−DEVD−pNA)のカスパーゼ−3による加水分解の結果として、p−ニトロアニリン(pNA)部分の放出が生じることに基づいている。基質から放出されるpNAの濃度を、405nmでの吸光度値から、又はpNA規定溶液で作成された検量線から算出した。
【0111】
統計分析
細胞毒性データを、対照群の平均百分率±S.Dとして提示し、直線回帰分析を使用して、IC50値を算出した。茶ポリフェノール単独及びbLFとの組み合わせでのCAL−27及びHGF細胞に及ぼす細胞毒性に関するデータに対する統計分析を、分散分析(ANOVA)を使用して実施した。茶ポリフェノールとbLFとの組み合わせの効果の間の相互作用の性質を、Yokoyamaらにより記載されたように評価した。相乗効果をbLFと茶ポリフェノールとの組み合わせ処理の期待値(E)/観察値(O)の比から算出し、1を超える比は相乗効果を示し、bLF及び茶ポリフェノールのE値=[(bLFのO値)/(対照群の細胞のO値)]×[(茶ポリフェノールのO値)/(対照群の細胞のO値)]×(対照群の細胞のO値)とした。核の形態、細胞周期分析、Bcl−2/Bax比及びカスパーゼ3活性に関するデータを、Studentのt検定により分析した。p値が0.05未満の場合、結果は統計的に有意であると考慮した。
【0112】
結果
細胞毒性アッセイ
我々はまず、CAL−27細胞及びHGF細胞の増殖に及ぼすP−E、P−B及びbLFの種々の濃度の抑制効果を検討した(図23)。P−E及びP−Bは両方とも、それぞれ20μg/mL及び40μg/mLのIC50値を有するCAL−27細胞の増殖の用量依存的抑制を示した。しかしながら、HGF細胞は、それぞれ70μg/mL及び120μg/mLのIC50値であり、P−E及びP−Bの増殖抑制効果に対してより耐性であった。bLFによる処置は、CAL−27細胞又はHGF細胞のいずれにも細胞毒性効果を何ら誘発しなかった。我々は次に、CAL−27細胞及びHGF細胞に及ぼすbLFとの組み合わせでの茶ポリフェノールの増殖抑制効果を検討した。我々は、CAL−27細胞に関してP−E及びP−BのIC50値を選択し、bLFの濃度の上昇との組み合わせにおいてこれを試験した。図24Aは、bLFの濃度の上昇を有するP−Eの組み合わせによるCAL−27細胞のU字型増殖抑制を示す。1:2の比でのP−E(20μg/ml)+bLF(40μg/ml)の組み合わせにより、有意な相乗効果が観察された。HGF細胞は、P−EとbLFとの組み合わせによってCAL−27細胞の優先的な増殖抑制を示すCAL−27細胞よりも増殖抑制に対してほとんど影響されないようであった。図24Bは、CAL−27細胞及びHGF細胞の増殖に及ぼすP−B及びbLFの組み合わせによる処置の効果を示す。P−B及びbLFによる同時処置は、P−B単独と比較して、増殖抑制に対するCAL−27細胞の感受性を有意に低下させた。これらの結果は、bLFが、P−Bの抗癌性効果を抑制することを示唆する。全体として、MTTアッセイの結果は、食餌性薬剤が正常HGF細胞と比較してCAL−27細胞の増殖を優先的に抑制することを示唆し、食餌性薬剤の細胞毒性効果の程度は、P−EとbLFとの組み合わせ(1:2の割合)>P−E>P−Bであることを示唆する。食餌性薬剤が、CAL−27細胞の増殖を優先的に阻害し、bLFの添加がP−Bの抗癌性効果を抑制したため、細胞死の様式を探査するため、P−E(20μg/ml)、P−B(40μg/ml)及びbLF(40μg/ml)単独で、及びP−E(20μg/ml)とbLF(40μg/ml)との組み合わせで温置することにより、CAL−27細胞のみにおいてさらなる研究を実施した。
【0113】
食餌性薬剤によるCAL−27細胞におけるアポトーシスの誘発
食餌性薬剤による細胞増殖の抑制がアポトーシスに起因するかどうかを決定するため、蛍光DNA結合剤であるヨウ化プロピジウムを使用して、核の形態を観察した。24時間の食餌性薬剤によるCAL−27細胞の温置は、核の断片化及び凝集によって明白なように、対照群と比較して、アポトーシス性細胞の数を有意に増大させた(図25)。CAL−27細胞のP−E(20μg/ml)及びP−B(40μg/ml)単独による処置は、対照群と比較して、アポトーシス性細胞数を有意に増大させた(それぞれp<0.01及びp<0.05)。bLF単独ではアポトーシスを誘発しなかったが、P−E(20μg/ml)及びbLF(40μg/ml)による同時処置は、アポトーシス性核の数を60.24%まで有意に増大させた(対照群及びP−E単独処置細胞とそれぞれ比較して、p<0.005及びp<0.05)。特に、40μg/mlのbLFは、20μg/mLのP−Eのアポトーシス誘発能を〜1.9倍まで増大させた。食餌性薬剤のアポトーシス誘発能の程度は、P−E及びbLF(1:2)>P−E>P−Bであった。
【0114】
CAL−27細胞の細胞周期調節に及ぼす食餌性薬剤の効果
食餌性薬剤が、細胞周期制御に及ぼす役割を有するかどうかを研究するため、我々は、蛍光励起細胞分取装置を使用することにより、細胞周期特性における変化を分析した。図26に示されるように、CAL−27と食餌性薬剤との24時間の温置によって、G1期の細胞が損失するアポトーシスを示すDNA含有量の減少した細胞(サブG0/G1又はA0ピーク)の割合を有意に増加させた。アポトーシスの特徴であるDNAの損失は、エンドヌクレアーゼの開裂後の細胞の外でのDNAの分解の拡散の結果として生じ、ヨウ化プロピジウムによる染色後、これらの細胞はほとんど染色されず、サブG0/G1又はA0ピークに、すなわち、G0/G1ピークの左に現れる。CAL−27細胞のP−E及びP−B単独との温置によって、DNA含有量が8.36%(対照群)から35.99%(P−E)及び24.01%(P−B)まで低下した細胞の割合が有意に増大した。bLF単独は、サブG0/G1細胞の割合を有意に変化させることはなかったが、20μg/mlのP−E及び40μg/mlのbLFの同時処置によって、サブG0/G1細胞の割合が72.86%まで有意に増大した(対照群及びP−E単独で処置された細胞と比較してそれぞれp<0.005及びp<0.01)。具体的に、40μg/mlのbLFによって、20μg/mlのP−Eのアポトーシス誘発能は〜2倍まで増大した。食餌性薬剤のアポトーシス誘発能の程度は、核形態分析に関するものと同一であった。
【0115】
細胞内ROS発生に及ぼす食餌性薬剤の効果
ROSが食餌性薬剤によって誘発されるアポトーシスを仲介するのに関与するかどうかを研究するため、我々は、蛍光プローブDCFH−DAを使用して、ROSの細胞内発生を測定した。食餌性薬剤による処理によって、未処理の対照群と比較してCAL−27処置した細胞においてROS発生が有意に増大し、ROS発生の順序は、P−E+bLF>P−E>P−B(図27A)であった。DCF蛍光の平均は、Ma=381(対照群)からMb=938(P−E処置群)、Mc=1229(P−E及びbLF、1:2の比)及びMd=649(P−B処置群)まで増大した。CAL−27細胞のbLF単独への暴露は、ROS発生を誘導しなかった(データ非表示)。
【0116】
ミトコンドリア膜電位差(ΔΨm)に及ぼす食餌性薬剤の効果
ΔΨmの変化がアポトーシスと連結するという証拠の増大に伴い、我々は、CAL−27細胞のΔΨmに及ぼす食餌性薬剤単独及び組み合わせにおける影響を、蛍光プローブローダミン123を使用するフローサイトメトリーにより検討した。陽イオン性染色剤であるローダミン123は、ΔΨmと直接比例する程度までミトコンドリアにより選択的に取り込まれる。図27Bに示されるように、茶ポリフェノールへ24時間暴露されたCAL−27細胞は、対照群と比較して、ローダミン123の蛍光強度を低下させることによって明らかなように、ΔΨmの損失を示した。ローダミン123の平均蛍光は、Ma=4636(対照群)からMb=2456.12(P−E処置群)及びMd=2659.88(P−B処置群)まで低下した。bLF単独は、ΔΨmにおいて何ら有意な変化を示さなかった(データ非表示)が、P−EとbLFとの組み合わせによる処置は、対照群細胞及びP−E単独処置細胞と比較して、ローダミン123蛍光強度が2098.75までさらに鋭敏に低下することを示した。
【0117】
Bcl−2/Bax比に及ぼす食餌性薬剤の効果
我々は、免疫蛍光(データ非表示)及びウェスタンブロット法を使用してΔΨmを調節することによりアポトーシスを制御することにおいて重要な役割を担うBcl−2及びBaxの発現に及ぼす食餌性薬剤の効果を検討した。CAL−27細胞のP−E、P−B及びP−EとbLFとの組み合わせ(1:2の比)との温置によって、未処置の対照群と比較して、Bcl−2/Baxタンパク質発現が有意に低下し、食餌性薬剤の効能を低下させるBcl−2/Baxの順序は、P−E+bLF>P−E>P−Bであった(図28A)。
【0118】
カスパーゼ3活性に及ぼす食餌性薬剤の効果:食餌性薬剤によって処置されたCAL−27細胞におけるカスパーゼ3のアッセイは、アポトーシス誘発が、カスパーゼ3活性の活性化を通じて介在されることを明白にした(図28B)。CAL−27細胞の、P−E、P−B及びP−EとbLFとの組み合わせ(1:2の比)との温置によって、対照群と比較してカスパーゼ3活性が有意に増大した。bLFはカスパーゼ3活性に何ら効果を呈しなかったが、bLFとP−Eとの同時処置によって、酵素活性は〜1.46倍まで増強された。
【0119】
これらの結果は、茶ポリフェノールが、ヒト舌部扁平癌(CAL−27)細胞の増殖を用量依存的様式において優先的に抑制することを示唆する。本データは、P−EがCAL−27細胞の増殖を抑制する上でP−Bよりも効果的であることをさらに示す。さらに、P−EとbLFとの組み合わせ(1:2の比)が、U字型増殖曲線によって反映されるように、腫瘍の増殖を抑制する上で有意な相乗効果を発揮するのに対し、bLFとの同時処置は、P−Bの抗発癌性効果を阻害した。全体として、CAL−27細胞の増殖の優先的抑制及び抗増殖性効果の順序は、P−E+bLF(1:2)>P−E>P−Bであった。CAL−27細胞の増殖を抑制することにおけるP−Eのより大きな効能は、EGCGのより高い濃度を明らかに反映する。本結果は、核の形態及びA0ピークの特徴的変化により明白なように、アポトーシスを誘発することによって、緑茶及び紅茶ポリフェノールがCAL−27細胞の増殖を抑制することも示す。化学予防剤又は化学治療剤によって誘発されるアポトーシスが、細胞周期の特定の期の変動と関連しているという証拠が増大している。図4に示されるように、CAL−27細胞の茶ポリフェノールとの24時間の温置によって、アポトーシス性細胞の出現の同時に起こる増加とともにG0/G1期の細胞損失をもたらし、茶ポリフェノールによりG0/G1期において抑止されたCAL−27細胞は、選択的にアポトーシスを経験していることを示唆した。bLF単独ではCAL−27細胞のアポトーシスを誘発しなかったが、P−EとbLFとの同時処置によって、P−Eのアポトーシス誘発能が〜2倍まで増大した。食餌性薬剤のアポトーシス誘発能の順序は、増殖抑制効果のそれと同一であり、すなわち、P−E+bLF(1:2)>P−E>P−Bであった。
【0120】
アポトーシスにおいて中枢的役割を担うミトコンドリアは、ROS発生の主要部位である。ROSの過剰発生によって、ミトコンドリアの透過性移行孔が開口するとともに、ΔΨmが低下し、その結果、カスパーゼカスケードの活性化及びアポトーシス性細胞死に到らせる、膜間空間から細胞質へのチトクロムc放出が生じ得る。本研究の結果は、CAL−27細胞とP−E、P−B及びP−E+bLF(1:2の比)との温置が、ROS発生を増大させ、それが順に、ΔΨmにおける低下によって明白なように、ミトコンドリアの機能を破壊することによってアポトーシスを惹起し、カスパーゼ−3を活性化させたことを示す。EGCGは、ROSの発生によって、ジャーカット細胞においてアポトーシスを誘発することが報告されている。幾つもの研究が、EGCG及び茶ポリフェノールによって誘発されるアポトーシス中のROSの関与、ΔΨmの消失及びカスパーゼ活性に関する証拠を提供してきた。ともにこれらの結果は、茶ポリフェノールが、ROS誘発性ミトコンドリア破壊を介するアポトーシスを誘発することを示唆する。
【0121】
要約して、本結果は、茶ポリフェノールが、アポトーシスを通じて介在されるCAL−27細胞に対する増殖抑制効果を発揮することを示す。本データは、ΔΨmを消失させ、カスパーゼ−3を活性化させることによる、ミトコンドリア媒介性アポトーシスにおけるROS及びBcl−2/Baxに関する重要な役割を示す。本研究は、P−Eの単独及びbLFとの組み合わせの両方のより大きな効能も強調する。緑茶ポリフェノールがすでに、肝臓癌及び前立腺癌に関する高い危険にある患者で臨床治験に取り入れられているため、P−Eの化学予防効能を評価するために、口腔の前悪性病変を有する患者において同様の治験を計画することは、価値のあることであろう。
【0122】
かくして、茶ポリフェノールの特異的な態様及び適用が開示された。しかしながら、すでに記載のもののほかにより多くの改変が、本明細書の本発明の概念から逸脱せずに可能であることは、当業者にとって明白である。従って、本発明の主題は、添付の特許請求の範囲の精神を除いて限定されるべきではない。さらに、明細書及び特許請求の範囲の両方を解釈する上で、全ての用語は、文脈と一致する限り最も広範な可能な様式において解釈されるべきである。特に、用語「を含む」及び「含んでいる」は、非排他的な様式において要素、構成要素又は段階を指すものとして解釈されるべきであり、このことは参照された要素、構成要素又は段階は、表現上参照されてはいない他の要素、構成要素又は段階とともに存在し得、利用され得、又は組み合わされ得ることを示す。さらに、本明細書に参照により組み込まれた参照文献における用語の定義又は使用が、本明細書で提供された前記用語の定義と不一致であるか又は反対である場合、本明細書に提供された前記用語の定義が適用され、参照文献における前記用語の定義は適用されない。
【図面の簡単な説明】
【0123】
【図1】図1は、紅茶ポリフェノール組成物で処置された動物の種々の腫瘍及び病理組織学的パラメータを列挙する2つの表を含む。
【図2】図2は、紅茶ポリフェノール組成物で処置された動物の組織(H及びE染色した)の種々の顕微鏡写真を示す。
【図3】図3は、紅茶ポリフェノール組成物で処置された動物におけるPCNA発現の定量分析を示すグラフである。
【図4】図4は、図3の動物の組織の種々の顕微鏡写真(PCNA染色した)を示す。
【図5】図5は、紅茶ポリフェノール組成物で処置された動物の種々の生化学的パラメータを列挙する表である。
【図6】図6は、紅茶ポリフェノール組成物で処置された動物の選択された器官における酵素活性を示す種々のグラフを示す。
【図7】図7は、紅茶ポリフェノール組成物で処置された動物の選択された器官におけるさらなる酵素活性を示す種々のグラフを示す。
【図8】図8は、紅茶ポリフェノール組成物で処置された動物の選択された器官におけるなおもさらなる酵素活性を示す種々のグラフを示す。
【図9】図9は、紅茶ポリフェノール組成物で処置された動物の種々の腫瘍パラメータを列挙する表である。
【図10】図10は、紅茶ポリフェノール組成物で処置された動物の種々の腫瘍関連タンパク質の発現を列挙する表を示す。
【図11】図11は、紅茶ポリフェノール組成物で処置された動物の組織(PCNA、NF−κB、サイトケラチンに関して染色した。)の種々の顕微鏡写真を示す。
【図12】図12は、紅茶ポリフェノール組成物で処置された動物の組織(Bcl−2、Cyc−c、カスパーゼ3に関して染色した。)の種々の顕微鏡写真を示す。
【図13】図13は、図12の動物におけるカスパーゼ3活性を示すグラフである。
【図14】図14は、紅茶ポリフェノール組成物とラクトフェリンとの組み合わせで処置された動物の種々の腫瘍パラメータを列挙する表を示す表である。
【図15】図15は、紅茶ポリフェノール組成物とラクトフェリンとの組み合わせで処置された動物の選択された組織(サイトケラチン、PCNA、及びp53に関して染色された。)の顕微鏡写真を示す。
【図16】図16は、図15の動物に関する定量分析の結果を示す表ある。
【図17】図17は、紅茶ポリフェノール組成物とラクトフェリンとの組み合わせで処置された動物の選択されたタンパク質に関するウェスタンブロット及びそれらの濃度測定分析を示す。
【図18】図18は、紅茶ポリフェノール組成物とラクトフェリンとの組み合わせで処置された動物における微小核の多染性赤血球の測定に対する結果を列挙する表である。
【図19】図19は、紅茶ポリフェノール組成物とラクトフェリンとの組み合わせで処置された動物のさらなる腫瘍パラメータを列挙する表を示す表である。
【図20】図20は、紅茶ポリフェノール組成物とラクトフェリンとの組み合わせで処置された動物の選択された器官における酵素活性(Cyt−C、GST、ジアフォラーゼ)を示す種々のグラフを示す。
【図21】図21は、紅茶ポリフェノール組成物とラクトフェリンとの組み合わせで処置された動物の選択された器官における種々の生化学的パラメータ(TBARS、LOOH、CD)を示す種々のグラフを示す。
【図22】図22は、紅茶ポリフェノール組成物とラクトフェリンとの組み合わせで処置された動物の選択された器官におけるさらなる生化学的パラメータ(GSH、GSSG、GSH/GSSG比、GPx)を示す種々のグラフを示す。
【図23】図23は、ラクトフェリン、緑茶ポリフェノール及び紅茶ポリフェノールへの暴露の関数としての、ヒトの(癌及び正常)細胞の生存率を示すグラフを示す。
【図24】図24は、ラクトフェリンと、緑茶ポリフェノール又は紅茶ポリフェノールとの組み合わせへの暴露の関数としての、ヒトの細胞(癌細胞及び正常細胞)の生存率を示すグラフを示す。
【図25】図25はラクトフェリンと緑茶ポリフェノール又は紅茶ポリフェノールとの組み合わせによる治療の関数としてのアポトーシス性微小核に関して染色した細胞の顕微鏡写真及びその定量分析を示す。
【図26】図26は、ラクトフェリンと緑茶ポリフェノールとの組み合わせで治療されたヒト口腔癌細胞の細胞周期分布を示す種々のグラフを示す。
【図27】図27は、ヒト口腔癌細胞におけるROS及びミトコンドリア膜電位に及ぼすラクトフェリンと緑茶ポリフェノールとの組み合わせの効果を示す種々のグラフを示す。
【図28】図28は、緑茶ポリフェノール組成物とラクトフェリンとの組み合わせによる治療の関数としてのヒト口腔癌細胞におけるBcl−2/Bax及びカスパーゼ3のウェスタンブロット及びそれらの濃度測定分析を示す。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
茶ポリフェノール組成物またはラクトフェリンの経口投与を用いた口腔ガンの治療あるいは化学的予防を改善する方法であって、
当該茶ポリフェノール組成物または当該ラクトフェリンの経口投与が第一の効果で口腔ガンを軽減することを確認すること、および
当該茶ポリフェノール組成物および当該ラクトフェリンの組み合わされた経口投与が当該第一の効果を上回る第二の効果で口腔ガンを軽減する情報を提供すること、を含む口腔ガンの治療あるいは化学的予防を改善する方法。
【請求項2】
当該茶ポリフェノール組成物が複数のカテキン類、場合により重合したカテキン類を含む組成物よりなる請求項1記載の方法。
【請求項3】
当該茶ポリフェノール組成物が緑茶由来の複数のカテキン類の混合物を含む、
請求項1記載の方法。
【請求項4】
当該ラクトフェリンがウシラクトフェリンであり、当該茶ポリフェノール組
成物が複数のカテキン類よりなる、または重合したカテキン類を含む組成物よりなり、ラクトフェリンとカテキンの当該組合せは液体物、カプセル、錠剤、粉体として場合により製剤化されている、請求項1記載の方法。
【請求項5】
組み合わされた経口投与における、茶ポリフェノール組成物とラクトフェリンとの重量比が1:1〜1:3である、請求項1記載の方法。
【請求項6】
当該重量比が相乗的である請求項5記載の方法。
【請求項7】
経口投与が1回分の投与単位形における同時投与である請求項1記載の方法。
【請求項8】
茶ポリフェノール組成物またはラクトフェリン単独の経口投与で達成される効果を超える効果でもって口腔ガンを軽減するために効果的な量の茶ポリフェノール組成物とラクトフェリンの組合せからなる栄養補助食品または医薬品。
【請求項9】
当該茶ポリフェノール組成物が少なくとも紅茶または緑茶由来の複数のカテキン類の混合物を含み、液体物、カプセル、錠剤、粉体として場合により製剤化されている、請求項8記載の栄養補助食品または医薬品。
【請求項10】
当該茶ポリフェノール組成物が少なくともひとつの合成カテキンを含む、請求項8記載の栄養補助食品または医薬品。
【請求項11】
当該茶ポリフェノール組成物が単位用量あたり100mg〜600mgで存在し、当該ラクトフェリンが単位用量あたり200mg〜1200mgで存在する、請求項8記載の栄養補助食品または医薬品。
【請求項12】
栄養補助食品または医薬品が、当該茶ポリフェノールと当該ラクトフェリンを含むように製剤化された非液体栄養補助食品である、請求項8記載の栄養補助食品または医薬品。
【請求項13】
栄養補助食品または医薬品が栄養補助食品であり、当該茶ポリフェノールと当該ラクトフェリンのうち少なくとも1つが液体性担体に含まれる、請求項8記載の栄養補助食品または医薬品。
【請求項14】
より大きな効果が相乗的効果である、請求項8記載の栄養補助食品または
医薬品。
【請求項15】
口腔ガンの治療または化学的予防のための栄養補助食品または医薬品の製造における茶ポリフェノールおよびラクトフェリンの組合せの使用。
【請求項16】
当該茶ポリフェノール組成物および当該ラクトフェリンがその重量比1:1〜1:3で存在する、請求項15記載の使用。
【請求項17】
当該重量比が相乗的重量比である、請求項16記載の使用。
【請求項18】
当該茶ポリフェノール組成物が少なくとも紅茶または緑茶由来の複数のカテキン類の混合物を含む、請求項15記載の使用。
【請求項19】
当該組合せが1回分の投与量単位に、液体製剤、カプセル、錠剤、または粉体として場合により製剤化されている、請求項15記載の使用。
【請求項20】
栄養補助食品または医薬品が、液体製剤、カプセル、錠剤、または粉体として場合により製剤化されている医薬品である、請求項15記載の使用。
【請求項21】
茶ポリフェノールとラクトフェリンの組合せを投与することを含む、口腔ガンの予防方法。
【請求項22】
投与の工程が経口投与を含み、当該組合せが1回分の投与量単位で製剤化されている、請求項12の方法。
【請求項23】
当該茶ポリフェノールは少なくとも紅茶および緑茶由来の複数のカテキン類の混合物を含む、請求項12の方法。
【請求項24】
当該組合せは、液体性栄養補助食品、カプセル、錠剤、粉末の製剤からなる群より選ばれる品に製剤化されている、請求項12の方法。
【請求項1】
茶ポリフェノール組成物またはラクトフェリンの経口投与を用いた口腔ガンの治療あるいは化学的予防を改善する方法であって、
当該茶ポリフェノール組成物または当該ラクトフェリンの経口投与が第一の効果で口腔ガンを軽減することを確認すること、および
当該茶ポリフェノール組成物および当該ラクトフェリンの組み合わされた経口投与が当該第一の効果を上回る第二の効果で口腔ガンを軽減する情報を提供すること、を含む口腔ガンの治療あるいは化学的予防を改善する方法。
【請求項2】
当該茶ポリフェノール組成物が複数のカテキン類、場合により重合したカテキン類を含む組成物よりなる請求項1記載の方法。
【請求項3】
当該茶ポリフェノール組成物が緑茶由来の複数のカテキン類の混合物を含む、
請求項1記載の方法。
【請求項4】
当該ラクトフェリンがウシラクトフェリンであり、当該茶ポリフェノール組
成物が複数のカテキン類よりなる、または重合したカテキン類を含む組成物よりなり、ラクトフェリンとカテキンの当該組合せは液体物、カプセル、錠剤、粉体として場合により製剤化されている、請求項1記載の方法。
【請求項5】
組み合わされた経口投与における、茶ポリフェノール組成物とラクトフェリンとの重量比が1:1〜1:3である、請求項1記載の方法。
【請求項6】
当該重量比が相乗的である請求項5記載の方法。
【請求項7】
経口投与が1回分の投与単位形における同時投与である請求項1記載の方法。
【請求項8】
茶ポリフェノール組成物またはラクトフェリン単独の経口投与で達成される効果を超える効果でもって口腔ガンを軽減するために効果的な量の茶ポリフェノール組成物とラクトフェリンの組合せからなる栄養補助食品または医薬品。
【請求項9】
当該茶ポリフェノール組成物が少なくとも紅茶または緑茶由来の複数のカテキン類の混合物を含み、液体物、カプセル、錠剤、粉体として場合により製剤化されている、請求項8記載の栄養補助食品または医薬品。
【請求項10】
当該茶ポリフェノール組成物が少なくともひとつの合成カテキンを含む、請求項8記載の栄養補助食品または医薬品。
【請求項11】
当該茶ポリフェノール組成物が単位用量あたり100mg〜600mgで存在し、当該ラクトフェリンが単位用量あたり200mg〜1200mgで存在する、請求項8記載の栄養補助食品または医薬品。
【請求項12】
栄養補助食品または医薬品が、当該茶ポリフェノールと当該ラクトフェリンを含むように製剤化された非液体栄養補助食品である、請求項8記載の栄養補助食品または医薬品。
【請求項13】
栄養補助食品または医薬品が栄養補助食品であり、当該茶ポリフェノールと当該ラクトフェリンのうち少なくとも1つが液体性担体に含まれる、請求項8記載の栄養補助食品または医薬品。
【請求項14】
より大きな効果が相乗的効果である、請求項8記載の栄養補助食品または
医薬品。
【請求項15】
口腔ガンの治療または化学的予防のための栄養補助食品または医薬品の製造における茶ポリフェノールおよびラクトフェリンの組合せの使用。
【請求項16】
当該茶ポリフェノール組成物および当該ラクトフェリンがその重量比1:1〜1:3で存在する、請求項15記載の使用。
【請求項17】
当該重量比が相乗的重量比である、請求項16記載の使用。
【請求項18】
当該茶ポリフェノール組成物が少なくとも紅茶または緑茶由来の複数のカテキン類の混合物を含む、請求項15記載の使用。
【請求項19】
当該組合せが1回分の投与量単位に、液体製剤、カプセル、錠剤、または粉体として場合により製剤化されている、請求項15記載の使用。
【請求項20】
栄養補助食品または医薬品が、液体製剤、カプセル、錠剤、または粉体として場合により製剤化されている医薬品である、請求項15記載の使用。
【請求項21】
茶ポリフェノールとラクトフェリンの組合せを投与することを含む、口腔ガンの予防方法。
【請求項22】
投与の工程が経口投与を含み、当該組合せが1回分の投与量単位で製剤化されている、請求項12の方法。
【請求項23】
当該茶ポリフェノールは少なくとも紅茶および緑茶由来の複数のカテキン類の混合物を含む、請求項12の方法。
【請求項24】
当該組合せは、液体性栄養補助食品、カプセル、錠剤、粉末の製剤からなる群より選ばれる品に製剤化されている、請求項12の方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
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【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
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【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【公表番号】特表2009−509960(P2009−509960A)
【公表日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−532425(P2008−532425)
【出願日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【国際出願番号】PCT/US2006/037015
【国際公開番号】WO2007/038291
【国際公開日】平成19年4月5日(2007.4.5)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TEFLON
【出願人】(303044712)三井農林株式会社 (72)
【出願人】(508041699)アンナーマライ・ユニバーシテイ (1)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【国際出願番号】PCT/US2006/037015
【国際公開番号】WO2007/038291
【国際公開日】平成19年4月5日(2007.4.5)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TEFLON
【出願人】(303044712)三井農林株式会社 (72)
【出願人】(508041699)アンナーマライ・ユニバーシテイ (1)
【Fターム(参考)】
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