説明

紙葉類識別センサ

【課題】着磁体の磁界が磁気検出素子へ及ぼす影響を抑制し、着磁体の磁界強度を任意に設定できる小型の紙幣識別センサを提供すること。
【解決手段】紙幣を搬送する搬送路の上流に配設し、紙幣に磁気を着磁する第1着磁体2と、第1着磁体2により着磁された紙幣の残留磁気を検出する磁気検出素子3と、搬送路の下流に配設し、磁気検出素子3において第1着磁体2の磁気と相殺する態様で、第1着磁体2の磁気と反対極性となる磁気を着磁する第2着磁体4とを備えるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、着磁した紙葉類の残留磁気を検出して識別する紙葉類識別センサに関するものである。
【背景技術】
【0002】
磁気インキを用いて印刷された紙幣等の紙葉類を識別する識別センサとして、図6〜図8に示す紙葉類識別センサが知られている。なお、図6は公知の紙葉類識別センサの構成を示す斜視図、図7は図6に示した着磁体と磁気検出素子との位置関係を説明するための説明図、図8は図6に示した着磁体の構成を示す側面図である。
【0003】
図6に示すように、紙葉類識別センサ101は、挿入された紙葉類Bの残留磁気を検出することにより、紙葉類Bを識別するものであって、着磁体102、磁気検出素子103、これら着磁体102および磁気検出素子103を収納したホルダ105により構成してある。
【0004】
着磁体102は、挿入された紙葉類Bを搬送する搬送路の上流側に配設してあり、紙葉類Bの搬送中に紙葉類Bに磁気を着磁可能である。着磁体102は、ホルダ105の下面となる検出面Sdに対して垂直となる態様で取り付けてある。着磁体102は、永久磁石121と軟磁性体122とから構成してある。永久磁石121は、四角柱形状のものであり、検出面Sd側となる矩形形状の端面がS極となるように配設してある。軟磁性体122は、側面視コの字状であって、断面が矩形形状を有するものであり、たとえば、パーマロイ、フェライト等の軟磁性材料によって構成してある。この軟磁性体122は、永久磁石121の検出面と反対側となる磁極側(N極側)を跨ぐように、永久磁石121と組み合わせてある。したがって、着磁体102は、永久磁石121を中央に配設した略Eの字形を構成し、軟磁性体122の検出面Sd側となる二つの矩形形状の端面はN極を構成する。そして、軟磁性体122の端面(N極)から永久磁石121の端面(S極)に磁束が流れることになる。この結果、着磁体102は、永久磁石121の端面と軟磁性体122の開放端面とを相互に結ぶ方向(搬送方向Yに直交する方向)に磁束が集中することになる。したがって、図7に示すように、搬送方向Yに直交する方向の磁界成分H1,H2は強化され、搬送方向Yに流れる磁界成分は抑制される。
【0005】
このように構成した着磁体102の開放端面、すなわち、永久磁石121の端面、軟磁性体122の二つの端面は、検出面Sdに表出し、図8に示すように、搬送路上を搬送される紙葉類Bの表面に対して接触または近接可能である。したがって、磁気インキにより印刷等された紙葉類の永久磁石121に近い側はN極に、軟磁性体122に近い側はS極に磁化される。
【0006】
磁気検出素子103は、紙葉類Bに残留した残留磁気が構成する磁界のうち、搬送方向に直交する方向の磁界成分H1およびH2を検出可能である(図7参照)。磁気検出素子103は、検出面Sdに対して垂直となる態様で取り付けてある。磁気検出素子103は、たとえば、二つの磁気インピーダンス素子131A,131Bを電気的に直列に接続して構成してある。磁気インピーダンス素子131A,131Bは、高周波電流を印加すると外部磁界に応じてインピーダンスが変化することを利用して磁界を検出可能である。磁気インピーダンス素子131A,131Bは、ガラス、セラミック等からなる非磁性基板上に、アルファモス、パーマロイ等の高透磁率磁性薄膜からなるつづら折りの線状のパターンを形成することにより、構成してある。
【0007】
磁気検出素子103は、磁気インピーダンス素子131A,131Bの上方に、バイアス磁石132を有している。バイアス磁石132は、永久磁石で構成してあり、磁気インピーダンス素子131A,131Bに磁界(バイアス磁界Hb)を付与する。
【0008】
この磁気検出素子103は、紙葉類Bの残留磁気の量に応じて構成された外部磁界を二つの磁気インピーダンス素子131A,131Bによって差動検出可能である。すなわち、紙葉類Bの残留磁界H1,H2がバイアス磁界Hbに重畳するので、一方の磁気インピーダンス素子131A,131BがHb−H1の磁界の影響を受け、他方の磁気インピーダンス素子がHb+H2の磁界の影響を受ける。そして、外部磁界が存在しない状態のインピーダンスを基準にすると、一方の磁気インピーダンス素子131Aのインピーダンスは−H1に比例した量が変化し(本例では減少)、他方の磁気インピーダンス素子131Bのインビーダンスは+H2に比例した量が変化する(本例では増加)。したがって、一方の磁気インピーダンス素子131Aと他方の磁気インピーダンス素子131Bの一端(たとえば一方の磁気インピーダンス素子131A側)を接地し、他端(たとえば、他方の磁気インピーダンス素子131B側)に所定の電圧を印加すると、この直列接続の中点の電圧は、外部磁界が存在しない場合の電圧(基準電圧という)に対し、外部磁界(H1+H2)に比例した電圧分の変化をする。
【0009】
この原理を用い、直列接続に加える電圧を高周波電圧とし、直列接続の中点の電圧の横波出力(Vsとする)の波形中のベースラインを示す電圧(比較電圧Vrefとする)が外部磁界の存在しない場合の前記基準電圧に相当することから、ピークホールド回路(又はミニマムホールド回路)を介して検波出力Vsから比較電圧Vrefを取り出し、さらに直流差動増幅回路を介して比較電圧Vrefと検波出力Vsとの差電圧を取り出す方法等によって外部磁界(H1+H2)に比例した電圧分、つまり紙葉類の残留磁気により構成された磁界を検出可能である。
【0010】
なお、上述した磁気検出素子103は外乱磁界がバイアス磁界Hbの変化を伴い、一方の磁気インピーダンス素子131Aと他方の磁気インピーダンス素子131Bとに影響するが、一方の磁気インピーダンス素子131Aと他方の磁気インピーダンス素子131Bとを接続する直列接続の中点から取り出される外部磁界(H1+H2)に比例した電圧分はほとんど変わらず、微小な外乱磁界の影響は相殺される。
【0011】
この外部磁界(H1+H2)の検出は、原理的に一方の磁気インピーダンス素子131Aと他方の磁気インピーダンス素子131Bの両端電圧の差を求める、いわゆる差動検出である。このような差動検出としては、ほかに、一方の磁気インピーダンス素子131Aと他方の磁気インピーダンス素子131Bとを接続する直列接続の中点を接地して、この直列接続の両端から磁気インピーダンス素子131A,131Bのそれぞれに等しい高周波電流を流し、一方の磁気インピーダンス素子131Aと他方の磁気インピーダンス素子131Bとに発生する電圧をそれぞれ検波した後、この検波電圧同士を直流差動増幅するものがある。
【0012】
また、着磁体102から磁気検出素子103への磁界波及をさらに押さえる必要がある場合は、たとえば、図6に示すように衝立状のパーマロイ、アモルファス等の磁気シールド部材106を着磁体102と磁気検出素子103との間に配置する(たとえば、特許文献1参照)。
【0013】
また、紙葉類識別センサは、図9に示すように、永久磁石121に代えて電磁石123を採用して着磁体102を構成してもよい。また、バイアス磁石132を永久磁石に代えて電磁石133を採用してもよい。なお、永久磁石121に代えて電磁石123,133を採用して着磁体102およびバイアス磁石132を構成した場合には、別途紙葉類検出センサを設け、紙葉類Bを検出したときにのみ電磁石123,133を稼働させることが好ましい(たとえば、特許文献2参照)。
【0014】
【特許文献1】特開2000−105847号公報
【特許文献2】特開2004−206316号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
しかしながら、上述した紙葉類識別センサは、紙葉類に磁気を印加する着磁体の磁界が、磁気検出素子へ及ぼす悪影響を抑えるため、図6に示すように衝立状のパーマロイ、アモルフアス等の磁気シールド部材106を着磁体102と磁気検出素子103との間に配置してある。この磁気シールド部材106は磁気検出素子103の全方位を取り囲むことはできないため、着磁体102の磁界を完全にシールドすることができず、漏れ磁界が生じる。この漏れ磁界の大きさが磁気検出素子103の磁界検出範囲内、かつ、検出対象となる磁界(残留磁気により構成される磁界)に比べて非常に小さい場合には問題にならない。しかしながら、検出対象となる磁界に比べて無視できない大きさを有する場合には検出誤差となり、磁界検出範囲を越える場合には、検出自体が不可能となる。
【0016】
したがって、磁気検出素子103と紙葉類とのスペーシング特性を向上させたい場合等、着磁体102の着磁磁界を大きくする際には、磁気検出素子103への漏れ磁界が制約となり、所望の着磁力を持たせることができなかった。
【0017】
また、上述したように、永久磁石に代えて電磁石を採用して着磁体102を構成した場合には、紙葉類Bに磁気を印加した後、紙葉類Bの残留磁気を検出する際に、電磁石123への電力供給を遮断することにより、着磁体102の磁気検出素子103への磁界波及をなくすことができる。しかしながら、電磁石123は1kガウス程度の着磁能力を有する必要があり、紙葉類Bの残留磁気により構成される磁界を安定に検出するためには、電磁石123が大型なものとなってしまう。
【0018】
本発明は、上記実情に鑑みて、着磁体の磁界が磁気検出素子へ及ぼす影響を抑制し、着磁体の磁界強度を任意に設定できる小型の紙葉類識別センサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
上記の目的を達成するために、本発明の請求項1にかかる紙葉類識別センサは、紙葉類を搬送する搬送路の上流に配設し、紙葉類に磁気を着磁する第1着磁手段と、前記第1着磁手段により着磁された紙葉類の残留磁気を検出する磁気検出手段と、前記搬送路の下流に配設し、前記磁気検出手段において前記第1着磁手段の磁気と相殺する態様で、前記第1着磁手段の磁気と反対極性となる磁気を着磁する第2着磁手段とを備えたことを特徴とする。
【0020】
第2着磁手段の磁力が第1着磁手段の磁力と反対極性を有するので、磁気検出手段において第1着磁手段の磁力と第2着磁手段の磁力とが互いに相殺し、第1着磁手段および第2着磁手段が磁気検出手段に及ぼす磁力の影響を抑制できる。
【0021】
また、上流側に第1着磁手段を備え、下流側に第2着磁手段を備えたので、搬送路に紙葉類を挿入した場合には第1着磁手段が紙葉類に磁気を着磁し、搬送路から紙葉類を返却する場合には第2着磁手段が紙葉類に磁気を着磁する。このため、紙葉類の挿入時と返却時のいずれの場合にも紙葉類に残留した残留磁気を検出できる。この結果、紙葉類の挿入時と返却時のいずれの場合にも紙葉類を識別できる。
【0022】
また、本発明の請求項2にかかる紙葉類識別センサは、上記請求項1において、前記第1着磁手段と前記第2着磁手段とを少なくとも識別対象となる紙葉類の保磁力以上の磁界強度を有する永久磁石で構成したことを特徴とする。
【0023】
第1着磁手段と第2着磁手段とを永久磁石で構成したので、第1着磁手段と第2着磁手段とを電磁石で構成する場合よりも小型化できる。たとえば、磁気インクにより印刷された紙幣などの紙葉類を識別対象とする場合には、第1着磁手段と第2着磁手段とを1kガウス以上の磁界強度を有する永久磁石で構成する。
【0024】
また、本発明の請求項3にかかる紙葉類識別センサは、上記請求項1または2において、前記磁気検出手段が、薄膜フラックスゲート型磁気検出素子または磁気インピーダンス素子であることを特徴とする。
【0025】
なお、磁気インピーダンス素子は、高周波電流を印加すると外部磁界に応じてインピーダンスが変化することを利用したもので、紙葉類に残留した残留磁気を検出可能である。
【0026】
また、本発明の請求項4にかかる紙葉類識別センサは、上記請求項1〜3のいずれか一つにおいて、前記第1着磁手段と前記磁気検出手段との間および前記磁気検出手段と前記第2着磁手段との間に磁気シールド部材を配設したことを特徴とする。
【0027】
第1着磁手段と第2着磁手段とが完全に等しい磁界強度で反対極性を有することが好ましいが、現実には、磁石の発生磁界の個体バラツキや取付誤差を考慮すると、第1着磁手段の磁力と第2着磁手段の磁力とを相殺できない場合が想定される。この場合には、上述したように、第1着磁手段と磁気検出手段との間および磁気検出手段と第2着磁手段との間に磁気シールド部材を配設したので、漏れ磁界の影響を抑制できる。
【0028】
また、本発明の請求項5にかかる紙葉類識別センサは、上記請求項1〜3のいずれか一つにおいて、前記磁気検出手段を磁気シールド部材で包囲したことを特徴とする。
【0029】
磁気検出手段を磁気シールド部材で包囲したので、第1着磁手段の磁力と第2着磁手段の磁力とを相殺できない場合であっても、漏れ磁界の影響を抑制可能である。
【0030】
また、本発明の請求項6にかかる紙葉類識別センサは、上記請求項4または5において、前記第1着磁手段、前記磁気検出手段、前記第2着磁手段、前記シールド部材の全てをホルダに取り付けたことを特徴とする。
【0031】
第1着磁手段、磁気検出手段、第2着磁手段、磁気シールド部材の全てを同一のホルダに取り付けたので、紙葉類識別センサの取扱いを向上できる。
【発明の効果】
【0032】
本発明にかかる紙葉類識別センサは、第2着磁手段の磁力が第1着磁手段の磁力と反対極性を有するので、磁気検出手段において第1着磁手段の磁力と第2着磁手段の磁力とが互いに相殺し、第1着磁手段および第2着磁手段が磁気検出手段に及ぼす磁力の影響を抑制できる。
【0033】
また、上流側に第1着磁手段を備え、下流側に第2着磁手段を備えたので、搬送路に紙葉類を挿入した場合には第1着磁手段が紙葉類に磁気を着磁し、搬送路から紙葉類を返却する場合には第2着磁手段が紙葉類に磁気を着磁する。このため、紙葉類の挿入時と返却時のいずれの場合にも紙葉類に残留した残留磁気を検出できる。この結果、紙葉類の挿入時と返却時のいずれの場合にも紙葉類を識別できる。
【0034】
また、本発明にかかる紙葉類識別センサは、第1着磁手段と第2着磁手段とを永久磁石で構成したので、第1着磁手段と第2着磁手段とを電磁石で構成する場合よりも小型化できる。
【0035】
また、第1着磁手段と磁気検出手段との間および磁気検出手段と第2着磁手段との間に磁気シールド部材を配設すれば、漏れ磁界(ノイズ磁界)の影響をさらに抑制できる。また、磁気検出手段を磁気シールド部材で包囲しても、漏れ磁界(ノイズ磁界)の影響をさらに抑制できる。
【0036】
また、第1着磁手段、磁気検出手段、第2着磁手段、磁気シールド部材の全てを同一のホルダに取り付けたので、紙葉類識別センサの取扱いを向上できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0037】
以下に添付図面を参照して、本発明にかかる紙葉類識別センサの好適な実施の形態を詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。
【0038】
(実施の形態)
本実施の形態では、紙葉類として磁気インキにより印刷された紙幣を識別する紙幣識別センサを例に挙げ、本発明にかかる紙葉類識別センサを説明する。なお、図1は本発明の実施の形態にかかる紙幣識別センサの構成を示す概念斜視図、図2は図1に示した紙幣識別センサの構成を説明する概念平面図、図3は図1に示した第1着磁体による紙幣の着磁状態を示す概念図である。また、図4は第1着磁体が紙幣に構成する磁界を示す概念図であって、磁界の水平方向成分を等高線で表したものであり、図5は第1着磁体と第2着磁体とが紙幣に構成する磁界を示す概念図であって、磁界の水平方向成分を等高線で表したものである。
【0039】
紙幣識別センサ1は、図1に示すように、第1着磁体2、磁気検出素子3、第2着磁体4を一つのホルダ5に収納してある。
【0040】
第1着磁体2は、挿入された紙幣Bを搬送する搬送路の上流側(挿入側)に配設してあり、紙幣Bの搬送中に紙幣Bに磁気を着磁可能である。第1着磁体2は、ホルダ5の下面となる検出面Sdに対して垂直となる態様で取り付けてある。第1着磁体2は、永久磁石21と軟磁性体22とから構成してある。永久磁石21は、四角柱形状のものであり、検出面Sd側となる矩形形状の端面がS極となるように配設してある。永久磁石21は、識別対象である紙幣の保持力以上の磁界強度、すなわち、1kガウス以上の磁界強度を有している。軟磁性体22は、側面視コの字状であって、断面が矩形形状を有するものある。軟磁性体22は、たとえば、パーマロイ、フェライト等の軟磁性材料によって構成してある。この軟磁性体22は、永久磁石21の検出面と反対側となる磁極側(N極側)を跨ぐように、永久磁石21と組み合わせてある。したがって、第1着磁体2は、永久磁石21を中央に配設した略Eの字形を構成し、軟磁性体22の検出面側となる二つの矩形形状の端面はN極を構成する。そして、軟磁性体22の端面(N極)から永久磁石の端面(S極)に磁束が流れることになる。この結果、第1着磁体2は、永久磁石21の端面と軟磁性体22の開放端面とを相互に結ぶ方向(搬送方向Y1,Y2に直交する方向)に磁束が集中することになる。したがって、搬送方向Y1−Y2に直交する方向の磁界成分は強化され、搬送方向Y1−Y2の磁界成分は抑制される。
【0041】
このように構成した第1着磁体2の開放端面、すなわち、永久磁石21の端面、軟磁性体22の二つの端面は、検出面Sdに表出し、搬送路上を搬送される紙幣Bの表面に対して接触または近接可能である。したがって、図3に示すように、磁気インキにより印刷された紙幣Bの永久磁石21に近い側はN極に、軟磁性体22に近い側はS極に磁化される。そして、紙幣Bの磁気インキにより印刷された部分(以下「着磁部」という。)に残留した磁気により、図4に示すように、磁界が構成される。すなわち、永久磁石21の中心を通り、搬送方向Y1−Y2に延在する仮想軸(以下「搬送方向軸O」という。)を境として着磁部の両側に相互に反対方向(搬送方向軸から離反する方向)に磁束が流れる磁界が構成される。
【0042】
磁気検出素子3は、紙幣Bに残留した残留磁気が構成する磁界のうち、搬送方向Y1
−Y2に直交する方向の磁界成分H11およびH12を検出可能である(図2参照)。磁気検出素子3は、図1に示すように、検出面Sdに対して垂直となる態様で取り付けてある。磁気検出素子3は、たとえば、二つの磁気インピーダンス素子31A,31Bを電気的に直列に接続して構成してある。磁気インピーダンス素子31A,31Bは、高周波電流を印加すると外部磁界に応じてインピーダンスが変化することを利用して磁界を検出可能である。磁気インピーダンス素子31A,31Bは、ガラス、セラミック等からなる非磁性基板上に、アルファモス、パーマロイ等の高透磁率磁性薄膜からなるつづら折りの線状のパターンを形成することにより、構成してある。
【0043】
磁気検出素子103は、磁気インピーダンス素子31A,31Bの上方にバイアス磁石(図示せず)を有している。バイアス磁石は、永久磁石で構成してあり、磁気インピーダンス素子31A,31Bに磁界(バイアス磁界Hb)を付与する。
【0044】
したがって、この磁気検出素子3は、紙幣Bの残留磁気の量に応じて構成された外部磁界を二つの磁気インピーダンス素子31A,31Bによって差動検出可能である。すなわち、紙幣の残留磁界H11,H12がバイアス磁界Hbに重畳するので、一方の磁気インピーダンス素子31AがHb−H11の磁界の影響を受け、他方の磁気インピーダンス素子31BがHb+H12の磁界の影響を受ける。そして、外部磁界が存在しない状態のインピーダンスを基準にすると、一方の磁気インピーダンス素子31Aのインピーダンスは−H11に比例した量が変化し(本例では減少)、他方の磁気インピーダンス素子31Bのインビーダンスは+H12に比例した量が変化する(本例では増加)。したがって、一方の磁気インピーダンス素子31Aと他方の磁気インピーダンス素子31Bの一端(たとえば、一方の磁気インピーダンス素子31A側)を接地し、他端(たとえば、他方の磁気インピーダンス素子31B側)に所定の電圧を印加すると、この直列接続の中点の電圧は、外部磁界が存在しない場合の電圧(基準電圧という)に対し、外部磁界(H11+H12)に比例した電圧分の変化をする。
【0045】
この原理を用い、直列接続に加える電圧を高周波電圧とし、直列接続の中点の電圧の横波出力(Vsとする)の波形中のベースラインを示す電圧(比較電圧Vrefとする)が外部磁界の存在しない場合の前記基準電圧に相当することから、ピークホールド回路(又はミニマムホールド回路)を介して検波出力Vsから比較電圧Vrefを取り出し、さらに直流差動増幅回路を介して比較電圧Vrefと検波出力Vsとの差電圧を取り出す方法等によって外部磁界(H11+H12)に比例した電圧分、つまり紙幣Bの残留磁気により構成された磁界を検出可能である。
【0046】
この外部磁界(H1l+H12)の検出は、原理的に一方の磁気インピーダンス素子31Aと他方の磁気インピーダンス素子31Bの両端電圧の差を求める、いわゆる差動検出である。このような差動検出としては、ほかに、一方の磁気インピーダンス素子31Aと他方の磁気インピーダンス素子31Bとを接続する直列接続の中点を接地して、この直列接続の両端から磁気インピーダンス素子31A,31Bのそれぞれに等しい高周波電流を流し、一方の磁気インピーダンス素子31Aと他方の磁気インピーダンス素子31Bとに発生する電圧をそれぞれ検波した後、この検波電圧同士を直流差動増幅するものがある。
【0047】
磁気検出素子3は外乱磁界がバイアス磁界Hbの変化を伴い、一方の磁気インピーダンス素子31Aと他方の磁気インピーダンス素子31Bとに影響するが、一方の磁気インピーダンス素子31Aと他方の磁気インピーダンス素子31Bとを接続する直列接続の中点から取り出される外部磁界(H11+H12)に比例した電圧分はほとんど変わらず、微小な外乱磁界の影響を相殺可能である。
【0048】
しかしながら、このような差動増幅で相殺できる外乱磁界は、磁気検出素子3に対して同一方向、同一強度の外乱磁界のみである。したがって、第1着磁体2の磁界が磁気検出素子3に与える漏れ磁界は搬送方向軸を境にして反対方向であるため、差動増幅のみでは外乱磁界を相殺不能である。このため、図4に示すように、第1着磁体2の磁界が磁気検出素子3にまで影響する。
【0049】
そこで、図1に示すように、搬送路の下流側(返却側)に第2着磁体4が配設してある。第2着磁体4は、磁気検出素子3において第1着磁体の磁気を相殺するものであり、本実施の形態にかかる第2着磁体4は、磁気検出素子3を中心として第1着磁体2の配設位置と対称となる位置に配設してある。第2着磁体4は、第1着磁体2の磁力と反対極性であって、かつ同一の磁界強度を有している。このことは、第1着磁体2の磁力と第2着磁体4の磁力とが相殺する位置に磁気検出素子3を配設したことを意味する。
【0050】
第2着磁体4は、上述した第1着磁体2と同様に、紙幣Bの搬送中に紙幣に磁気を着磁可能である。第2着磁体4は、上述した第1着磁体2と同様に、ホルダ5の下面となる検出面Sdに対して垂直となる態様で取り付けてある。第2着磁体4は、永久磁石41と軟磁性体42とから構成してあり、永久磁石41は、上述した第1着磁体2に用いた永久磁石21と同一の磁界強度を有したものである。したがって、永久磁石41は、識別対象である紙幣の保持力以上の磁界強度、すなわち、1kガウス以上の磁界強度を有している。永久磁石41は、上述した第1着磁体2に用いた永久磁石21と同一形状(四角柱形状)を有し、検出面Sd側となる矩形形状の端面がN極となるように配設してある。軟磁性体42は、上述した第1着磁体2に用いた軟磁性体22と同様に、側面視コの字状であって、断面が矩形形状を有するものある。軟磁性体42は、上述した第1着磁体2に用いた軟磁性体22と同様に、たとえば、パーマロイ、フェライト等の軟磁性材料によって構成してある。この軟磁性体42は、永久磁石41の検出面Sdと反対側となる磁極側(S極側)を跨ぐように、永久磁石41と組み合わせてある。したがって、第2着磁体4は、永久磁石41を中央に配設した略Eの字形を構成し、軟磁性体42の検出面Sd側となる二つの矩形形状の端面はS極を構成する。そして、永久磁石41の端面(N極)から軟磁性体42の端面(S極)に磁束が流れることになる。この結果、第2着磁体4は、永久磁石41の端面と軟磁性体42の開放端面とを相互に結ぶ方向(搬送方向Yに直交する方向)に磁束が集中することになる。したがって、搬送方向Yに直交する方向の磁界成分は強化され、搬送方向Yの磁界成分は抑制される。
【0051】
このように構成した第2着磁体4の開放端面、すなわち、永久磁石41の端面、軟磁性体42の二つの端面は、検出面Sdに表出し、搬送路上を搬送される紙幣Bの表面に対して接触または近接可能である。したがって、磁気インキにより印刷等された紙幣の永久磁石41に近い側はS極に、軟磁性体42に近い側はN極に磁化される。そして、着磁部に残留した磁気により、図5に示すように、磁界が構成される。すなわち、永久磁石41の中心を通り、搬送方向軸Oを境として着磁部の両側に相互に反対方向(搬送方向軸に近接する方向)に磁束が流れる磁界が構成される。
【0052】
そして、図5に示すように、第1着磁体2の磁力と第2着磁体4の磁力とが相殺され、磁気検出素子3の配設位置において、第1着磁体2の磁界の影響と、第2着磁体4の磁界の影響とが排除される。
【0053】
ここで、第1着磁体2の永久磁石21、第2着磁体4の永久磁石41の磁気特性のばらつきや、取付誤差等により、磁気検出素子3の配設位置において、第1着磁体2の磁界の影響と第2着磁体4の磁界の影響とを相殺できない場合が想定される。このため、図1に示すように、衝立状のパーマロイ、アモルファス等の磁気シールド部材6を、第1着磁体2と磁気検出素子3との間、磁気検出素子3と第2着磁体4との間に配設することが好ましい。
【0054】
上述した紙幣識別センサ1に紙幣Bが挿入された場合には、紙幣Bは搬送路を矢印Y1方向に搬送される。そして、紙幣Bが第1着磁体2に臨む位置に至ると、紙幣Bは第1着磁体2により着磁される。したがって、紙幣Bの着磁部が順次着磁され、図2に示すように、紙幣Bは帯状に着磁される。
【0055】
紙幣Bの着磁部は、図3に示すように、紙幣Bに対して鉛直となる方向に着磁され、着磁された磁気により構成される磁界は、図5に示すように、搬送方向に対して直角に交差するH11方向の成分とH12方向の成分とを有している。
【0056】
したがって、その後、紙幣Bが磁気検出素子3に臨む位置に至ると、磁気検出素子3が紙幣Bの着磁部に残留する残留磁気により構成された磁界を差動検出し、紙幣Bが識別可能となる。
【0057】
一方、紙幣識別センサ1からから紙幣Bが返却される場合には、紙幣Bは搬送路を矢印Y2方向に搬送される。そして、紙幣Bが第2着磁体4に臨む位置に至ると、紙幣Bは第2着磁体4により着磁される。したがって、紙幣Bの着磁部が順次着磁され、紙幣Bが挿入された場合と同様に、紙幣Bは帯状に着磁される。
【0058】
紙幣Bの着磁部は、紙幣Bが挿入された場合と同様に、紙幣Bに対して鉛直となる方向に着磁され、着磁された磁気により構成される磁界は、搬送方向に対して直角に交差するH22方向の成分とH22方向の成分とを有している。
【0059】
したがって、その後、紙幣Bが磁気検出素子3に臨む位置に至ると、磁気検出素子3が紙幣Bの着磁部に残留する残留磁気により構成された磁界を差動検出し、紙幣Bが識別可能となる。
【0060】
上述した本実施の形態にかかる紙幣識別センサ1は、第2着磁体4の磁力が第1着磁体2の磁力と反対極性を有するので、磁気検出素子3において第1着磁体2の磁力と第2着磁体4の磁力とが互いに相殺し、第1着磁体2および第2着磁体4が磁気検出素子3に及ぼす磁力の影響を抑制できる。
【0061】
また、上流側に第1着磁体2を備え、下流側に第2着磁体4を備えたので、搬送路に紙幣Bを挿入した場合に第1着磁体2が紙幣Bに磁気を着磁し、搬送路から紙幣Bを返却する場合に第2着磁体4が紙幣Bに磁気を着磁する。このため、紙幣Bの挿入時と返却時のいずれの場合にも紙幣Bに残留した残留磁気を検出できる。この結果、紙幣Bの挿入時と返却時のいずれの場合にも紙幣Bを識別できる。
【0062】
また、第1着磁体2の磁石と第2着磁体4の磁石とを永久磁石21,41で構成したので、第1着磁体2の磁石と第2着磁体4の磁石とを電磁石で構成する場合よりも小型化できる。
【0063】
また、第1着磁体2と磁気検出素子3との間および磁気検出素子3と第2着磁体4との間に磁気シールド部材6を配設すれば、漏れ磁界(ノイズ磁界)の影響をさらに抑制できる。
【0064】
また、第1着磁体2、磁気検出素子3、第2着磁体4、磁気シールド部材6の全てを同一のホルダ5に取り付けたので、紙幣識別センサ1の取扱いを向上できる。
【0065】
なお、上述した実施の形態では、紙幣Bを識別する紙幣識別センサ1を例に紙葉類識別センサについて説明したが、紙葉類は、紙幣に限られるものではなく、たとえば、商品券、手形、小切手のように、磁気インキで印刷等された紙葉類を対象とするものであれば含まれる。
【0066】
また、磁気検出素子3の例として、磁気インピーダンス素子31A,31Bを利用したものを説明したが、磁気インピーダンス素子31A、31Bに代えて、薄膜フラックスゲート型磁気検出素子を利用してもよい。
【0067】
さらに、第1着磁体2と磁気検出素子3との間、磁気検出素子3と第2着磁体4との間に衝立状のパーマロイ、アモルファス等の磁気シールド部材6を配設するものとしたが、磁気シールド部材6を筒状に形成し、磁気検出素子3を包囲するように配設してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0068】
以上のように、本発明にかかる紙葉類識別センサは、着磁した紙葉類の残留磁気を検出して識別する紙葉類識別センサに有用であり、たとえば、磁気インキで印刷された紙幣等の紙葉類を識別する紙葉類識別センサに適している。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】本発明の実施の形態にかかる紙幣識別センサの構成を示す概念斜視図である。
【図2】図1に示した紙幣識別センサの構成を説明する概念平面図である。
【図3】図1に示した第1着磁体による紙幣の着磁状態を示す概念図である。
【図4】図1に示した第1着磁体が紙幣に構成する磁界を示す概念平面図である。
【図5】図1に示した第1着磁体と第2着磁体とが紙幣に構成する磁界を示す概念図である。
【図6】公知の紙葉類識別センサの構成を示す斜視図である。
【図7】図6に示した着磁体と磁気検出素子との位置関係を説明するための説明図である。
【図8】図6に示した着磁体の構成を示す側面図である。
【図9】公知の紙葉類識別センサの構成を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0070】
1 紙幣識別センサ
2 第1着磁体
21 永久磁石
22 軟磁性体
3 磁気検出素子
31A,31B 磁気インピーダンス素子
4 第2着磁体
41 永久磁石
42 軟磁性体
5 ホルダ
6 磁気シールド部材
B 紙幣

【特許請求の範囲】
【請求項1】
紙葉類を搬送する搬送路の上流に配設し、紙葉類に磁気を着磁する第1着磁手段と、
前記第1着磁手段により着磁された紙葉類の残留磁気を検出する磁気検出手段と、
前記搬送路の下流に配設し、前記磁気検出手段において前記第1着磁手段の磁気と相殺する態様で、前記第1着磁手段の磁気と反対極性となる磁気を着磁する第2着磁手段と
を備えたことを特徴とする紙葉類識別センサ。
【請求項2】
前記第1着磁手段と前記第2着磁手段とを少なくとも識別対象となる紙葉類の保磁力以上の磁界強度を有する永久磁石で構成したことを特徴とする請求項1に記載の紙葉類識別センサ。
【請求項3】
前記磁気検出手段が、薄膜フラックスゲート型磁気検出素子または磁気インピーダンス素子であることを特徴とする請求項1または2に記載の紙葉類識別センサ。
【請求項4】
前記第1着磁手段と前記磁気検出手段との間および前記磁気検出手段と前記第2着磁手段との間に磁気シールド部材を配設したことを特徴とする請求項1〜3のいずれか一つに記載の紙葉類識別センサ。
【請求項5】
前記磁気検出手段を磁気シールド部材で包囲したことを特徴とする請求項1〜3のいずれか一つに記載の紙葉類識別センサ。
【請求項6】
前記第1着磁手段、前記磁気検出手段、前記第2着磁手段、前記シールド部材の全てをホルダに取り付けたことを特徴とする請求項4または5に記載の紙葉類識別センサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2007−226674(P2007−226674A)
【公開日】平成19年9月6日(2007.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−49000(P2006−49000)
【出願日】平成18年2月24日(2006.2.24)
【出願人】(000237710)富士電機リテイルシステムズ株式会社 (1,851)
【Fターム(参考)】