説明

紡糸ナノファイバー、医療用具および方法

本開示は、ナノファイバーならびにナノファイバーおよびポリマーを用いて作製されるナノファイバー補強されたポリマーに関する。ナノファイバーの形成において用いる化合物は、ナノファイバー補強されたポリマーを形成するためにポリマーの一部との非共有結合を形成可能な化学結合部分を含む。該ナノファイバー補強されたポリマーは医療用具における生体材料として有用である。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
開示の背景
ナノテクノロジーは、科学の法則およびエンジニアリングを用いてナノメートルスケールの寸法の材料または構造体を製造する新興分野である。ナノスケールの材料は、マクロ材料と比べて独特および特異な特性プロファイルを示すことができる。これらの材料が示す物理的、化学的および生物学的な特性,例えば特異な形状、配向性、表面化学、トポロジーおよび反応性は、これらの小さい寸法に由来する。これらの材料特性は、これらの材料についての独特の電気的、光学的、磁性的、機械的、熱的および生物学的な特性という結果をもたらすことができる。
【0002】
現在検討下にある幾つかのナノ構造体またはナノスケール材料としては、量子ドットおよびワイヤ、ナノスケール自己組織体(self-assembly)および薄膜、ナノ結晶、ナノチューブ、ナノワイヤ、ナノロッド、ナノ発泡体、ナノ球体およびナノファイバーが挙げられる。これらのナノ構造体の中でも、ナノファイバーは最も広く検討された領域の1つを形成する。語句ナノファイバーは、通常、カーボン、有機ポリマーまたは有機金属ポリマーで形成される直径1マイクロメートル未満の繊維状構造を意味する。ナノファイバーは、種々の加工技術,例えば引抜き、自己組織化、鋳型合成、相分離、乾式紡糸、および電界紡糸を用いて製造できる。
【0003】
現在、医療用具カテーテルおよび他の種類の医療用具であってより小さいサイズが好ましいものは、サイズおよび質量を更に低減させる必要性を有する。サイズおよび質量におけるこの低減により、患者の外傷および回復時間の最少化をもたらす製品性能の改良が可能になる場合がある。ポリマーの耐久性および表面特性(例えば耐摩耗性)の両者を改善する目的で、ナノファイバーをポリマーマトリクス中に組込む試みがなされてきた。しかし、従来のナノファイバーは、典型的には、電界紡糸プロセスの間のこれらの集塊を防止するために追加の化合物で表面処理されること、および/またはベースポリマー材料とともに加工されもしくはこれに混合されることを必要とする。この課題の好適な解決が望まれている。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0004】
開示の詳細な説明
本開示は、ナノファイバーを生成できる化合物、該化合物から生成されて得られるナノファイバー、ならびに該ナノファイバーおよびポリマーを用いて作製されるナノファイバー補強されたポリマーを提供する。ナノファイバーの形成において用いる化合物は、ナノファイバー補強されたポリマーを形成するためにポリマーの一部との非共有結合を形成可能な化学結合部分を含む。この相互作用は、このような非共有結合相互作用がない場合にナノファイバーで生じうる集塊または凝集なしで、ナノファイバーがポリマーと一体化することを可能にする。電界紡糸されたナノファイバーは、これらの小さい直径により、より大きい表面−対−体積比を有し、これにより、より大きい直径の繊維と比べてこれらがポリマーとのより多量の非共有結合を受けることが可能になる。
【0005】
本開示のナノファイバーは、種々の方法でナノファイバー補強されたポリマーを形成するためにポリマー中に組込むことができる。例えば、ナノファイバーは、ポリマーの表面上に形成でき、および/またはポリマーの表面に適用でき、ここでナノファイバーは、ナノファイバー中の化学結合部分、およびポリマーの一部における対応する非共有結合基の存在によりポリマーに非共有結合できる。これに代えて、本開示のナノファイバーは、ナノファイバー補強されたポリマーの形成においてポリマーによって本質的に包囲されるようにポリマー中に組込む(すなわち埋込む)ことができる。該ナノファイバーは、その他、医療用具のサイズおよび質量の低減を可能にするポリマーに対する補強を与える作用を有する。
【0006】
本開示のナノファイバー補強されたポリマーは、生体材料としての、および/または医療用具における使用のために好適であることができる。1本または複数本のナノファイバーおよびポリマーは、各々、ナノファイバー補強されたポリマーの成分が、医療用具用途のために重要な多くの特性,例えば、圧縮強度、ダイアメトラル引張強度、曲げ強度、破壊靭性、穿刺抵抗、硬度、疎水性における変化、接着、非接着、摩擦、用具の特定用途に応じた患者の身体の1つ以上の組織表面との用具の開通性またはバイオインテグレーション、損耗に対する耐性(例えば、圧縮強度およびダイアメトラル引張強度によって特徴付けられるもの)、耐久性、熱膨張、視覚的不透明性、X線不透明性、衝撃強度、化学的耐久性、導電率、生体適合性、モジュラス、貯蔵寿命、患者の安楽、使用容易性ならびに品位等で、本開示の酸化ケイ素系ポリマーのナノファイバー補強なしのポリマーと比べて優れた性能を示すことを可能にする非共有結合を形成可能な化学結合部分を含む。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本明細書で用いる「ナノファイバー補強されたポリマー」は、ポリマーおよび任意の所望のフィラーおよび/またはアジュバントと相互作用する本開示の化合物から形成された酸化ケイ素系ポリマーのナノファイバーを少なくとも一部で含有するポリマーを意味する。本開示のナノファイバー補強されたポリマーは、本明細書で議論するような複数または1つの部分の組成物であることができる。
【0008】
加えて、本開示のナノファイバー補強されたポリマーは、体液および組織中で実質的に不溶性で、かつ身体内もしくは身体上に位置し、または身体の体液もしくは組織に接触するように設計および構成されることを更に特徴とすることができる。理想的には、ナノファイバー補強されたポリマーは、生物学的に安定、生体適合性で、かつ身体内で、血液凝固、組織壊死、腫瘍形成、アレルギー反応、異物反応(拒絶)もしくは炎症反応等の反応を引起さず;意図する目的のために作用させるのに必要とされる強度、弾性、浸透性および柔軟性等の物理的特性を有し;精製、製造および滅菌が可能で;そして、身体内に埋込まれまたは身体と接触し続ける時間の間その物理的な特性および作用を実質的に維持するであろう。「生物学的に安定」な材料は、身体によって崩壊しないものであり、一方「生体適合性」の材料は、身体によって拒絶されないものである。
【0009】
本明細書で用いる「医療用具」は、これらの操作の過程で血液または他の体液および/もしくは組織と接触する表面を有する用具と定義できる。これには、例えば、血液酸素付加装置、血液ポンプ、血液センサー等の外科的な使用のための体外用具、後で患者に戻される血液に接触する、血液等を運搬するために用いる管類を挙げることができる。これには、ナノファイバー補強されたポリマーを含む、代用血管、ステント、電気刺激リード、心臓系における使用のための弁(例えば心臓弁)、矯正装置等の用具;体内もしくは体外の用具(例えばカテーテル)、カテーテル軸部品、フィルター、ガイドワイヤ、シャント、クランプ、センサー、膜、バルーン(例えば血管形成用バルーン)、吻合用具、動脈瘤修復用具、塞栓症用具、埋込み型用具(例えば整形外科用インプラント)、髄核用の代替用具、蝸牛または中耳の移植物、眼内レンズ、このような用具のためのコーティング等も挙げることができる。
【0010】
本開示のナノファイバー補強されたポリマーは、医療用具および非医療用具において使用できる。先に述べたように、これらは医療用具に使用でき、そして生体材料として好適である。医療用具の例を本明細書に列挙する。非医療用具の例としては、泡、絶縁体、衣料品、履物、塗料、コーティング、接着剤、および建築材料等が挙げられる。
【0011】
本明細書で用いる、「非共有結合」が形成可能な化学結合部分としては、ファンデルワールス力、静電力および/または水素結合力による非結合相互作用を可能にする化学結合が形成可能なものが挙げられる。例えば、「非共有結合」が形成可能な化学結合部分としては、水素結合を形成できるもの,例えば、これらに限定するものではないがウレタン、アミド、エステルおよびこれらの組合せが挙げられる。
【0012】
本明細書で用いる用語「有機基」は、脂肪族基、環式基、または脂肪族基および環式基の組合せ(例えばアルカリル基およびアラルキル基)に分類される炭化水素基を意味するために本開示の目的で使用する。本開示の内容において、本開示の好適な有機基は、ナノファイバーおよびナノファイバー補強されたポリマーの形成を妨害しないものである。
【0013】
本開示の内容において、用語「脂肪族基」は、飽和または不飽和の直鎖または分岐鎖の炭化水素基を意味する。この用語は、アルキル(例えば、「1価」基と見なされる−CH3)(または、「2価」基と見なされる−CH2−等の鎖中の場合はアルキレン)、アルケニル(または鎖中の場合はアルケニレン)およびアルキニル(または鎖中の場合はアルキニレン)基を例えば網羅するように使用する。用語「アルキル基」は、飽和線状(すなわち直鎖)、環状(すなわちシクロ脂肪族)、または分岐1価炭化水素基、例えばメチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、t−ブチル、アミル、ヘプチル、ドデシル、オクタデシル、2−エチルヘキシル等を含むものを意味する。用語「アルケニル基」は、1つ以上のオレフィン性不飽和基(すなわち炭素−炭素二重結合)を有する不飽和の線状または分岐の1価炭化水素基,例えばビニル基を意味する。用語「アルキニル基」は、1つ以上の炭素−炭素三重結合を有する不飽和の線状または分岐の1価炭化水素基を意味する。用語「環状基」は、脂環式基、芳香族基、または複素環基として分類される閉環炭化水素基を意味する。用語「脂環式基」は、脂肪族基のものと類似する特性を有する環状炭化水素基を意味する。用語「芳香族基」または「アリール基」は、単環または多環の芳香族炭化水素基を意味する。これらの炭化水素基は、官能基の形であることができるヘテロ原子で置換されていることができる。用語「ヘテロ原子」は、炭素以外の元素(例えば、フッ素、窒素、酸素、硫黄、塩素等)を意味する。
【0014】
本開示全体で使用する特定の専門用語の議論および列挙を単純化するために、用語「基」および「部分(moiety)」は、置換を可能にするかまたは置換されることができる化学種と、置換をそれほど可能にしないものまたはそれほど置換されることができないものとの間を差別化するために使用する。よって、化学置換基を説明するために用語「基」を用いる際、説明される化学材料は、例えば主鎖およびカルボニル基または他の通常の置換基における、置換されていない基およびその基で過酸化物でないO,N,S,SiまたはF原子を有するものを包含する。化学化合物または化学置換基を説明するために用語「部分」を用いる場合、置換されていない化学材料のみを包含することを意図する。例えば、語句「アルキル基」は純粋な開鎖の飽和炭化水素アルキル置換基,例えばメチル、エチル、プロピル、t−ブチル等のみでなく、当該分野で公知の更なる置換基,例えばヒドロキシ、アルコキシ、アルキルスルホニル、ハロゲン原子、シアノ、ニトロ、アミノ、カルボキシル等を持つアルキル置換基を包含することを意図する。よって、「アルキル基」は、エーテル基、ハロアルキル、ニトロアルキル、カルボキシアルキル、ヒドロキシアルキル、スルホアルキル等を包含する。一方、語句「アルキル部分」は、純粋な開鎖の飽和炭化水素アルキル置換基,例えばメチル、エチル、プロピル、t−ブチル等のみの包含に限定される。
【0015】
本明細書で用いる用語"a," "an," "the," "1以上(one or more),"および"少なくとも1(at least one)"は、文脈から別であることが明確でない限り同じ意味で複数の指示対象を包含して用いる。よって、例えば、「a nanofiber(ナノファイバー)」への言及は、複数のそのようなナノファイバー等を任意に包含する。特記がない限り、全ての科学用語および技術用語は、これらが関係する分野において一般的に用いるのと同じ意味に理解される。本発明の目的のために、更なる具体的な用語を全体で規定する。
【0016】
本明細書で用いる用語「ナノファイバー」は、典型的には少なくとも1つの物理的寸法が約1000nm未満、約500nm未満、約250nm未満、約150nm未満、約100nm未満、約50nm未満、約25nm未満または更に約10nm未満もしくは約5nm未満で特徴付けられるナノ構造体を意味する。多くの場合において、範囲または特徴寸法は、構造の最も小さい軸に沿うことになる。加えて、ナノファイバーは、典型的には、他の2つの主軸よりも長い1つの主軸を有し、かつ、従って、1超のアスペクト比、2以上のアスペクト比、約10超のアスペクト比、約20超のアスペクト比、または約100,200もしくは500超のアスペクト比、を有する。
【0017】
用語ナノファイバーは例えばナノワイヤおよびナノウイスカーとしてこのような構造を任意に包含できることが認識されよう。
【0018】
特定の態様において、本明細書におけるナノファイバーは、実質的に均一な直径を有する。幾つかの態様において、直径は、ばらつきを約20%未満、約10%未満、約5%未満、または約1%未満、ばらつきが最も大きい領域上で、そして線寸法上で少なくとも5nm、少なくとも10nm、少なくとも20nm、または少なくとも50nmを示す。例えば、幅広い範囲の直径が、コストを考慮して、および/またはよりランダムな表面を形成するために望ましい可能性がある。典型的には、直径は、ナノファイバーの端部から離して(例えば、ナノファイバーの中心の20%、40%、50%または80%に亘って)評価する。更に他の態様において、本明細書におけるナノファイバーは、不均一な直径を有する(すなわち、これらはその長さに従って直径においてばらつく)。
【0019】
本開示は、ポリマーとの相互作用のための非共有結合を形成できる化学結合部分を有する少なくとも1種のシリコンアルコキシドから形成されたナノファイバーに関する。これらの化合物は式(式I):
[(R2O)3-Si-R3]z-Y-[(R1)m-Ox]q-Y'-[R3-Si-(OR2)3]z
のものであり、式中、各R1,R2およびR3は同一のまたは異なる(すなわち独立である)有機基であることができる。このような有機基の例としては、直鎖または分岐のアルキル基、直鎖または分岐のアルキレン基(ここで、各R1、R2およびR3は任意に、有機基の主鎖中またはそれによる側鎖中に、官能基中等で存在できるヘテロ原子を含む)が挙げられる。xおよびzは各々独立に0または1;mは1から18;qは1から200である。YおよびY’は、ポリマーの一部と非共有結合を形成できる化学結合部分であり、ここでYおよびY’はともに:
Yについて-NH-(C=O)-O- およびY’について-(C=O)-NH- 但しz=1;
Yについて-NH-(C=O)- およびY’について-(C=O)-NH- 但しx=0 かつz=1;
Yについて-0-(C=O)- およびY’について-(C=O)- 但しz=1;
YおよびY’について-(NR4)-(C=O)-(NH)- 但しz=1;ならびに
YおよびY’について-N-[CH2-(CHOH)-CH2-O-R3-Si-(OR2)3]2 但しz=0;
からなる群から選択される。
【0020】
本明細書で議論するように、一態様において、m,xおよびqについての値およびR1,R2およびR3の基は、式Iの化合物の数平均分子量が、後続の1種以上のポリマーとの溶融加工を可能にするのに好適であるように選択される。
【0021】
一態様において、各R1は、独立に、窒素、酸素、リン、硫黄およびハロゲン等のヘテロ原子を任意に含む直鎖または分岐のアルキレン基である。ヘテロ原子は、R1の骨格中またはそれによる側鎖中にあることができ、そしてこれらは官能基を形成できる。このようなヘテロ原子含有基(例えば官能基)としては、保護されているか保護されていないかに関わらず、例えば、アルコール、カルボニル、エーテル、アセトキシ、エステル、アルデヒド、アクリレート、アミン、アミド、イミン、イミドおよびニトリルが挙げられる。一態様において、R1はヘテロ原子を含まない。更なる態様において、各R1は、独立に、18個以下の炭素原子を含む直鎖または分岐のアルキレン基である。更なる態様において、各R1は、独立に、直鎖または分岐の(C2−C8)アルキレン基である。他の態様において、各R1は、独立に、直鎖または分岐の(C2−C4)アルキレン基(例えば、エチレン、n−プロピレン、イソプロピレンまたはブチレン)である。一例において、R1はC3アルキレン基(プロピレンまたはイソプロピレン)である。
【0022】
代替の態様において、m=1,q=1およびx=0である場合、R1は、ポリプロピレン、ポリウレタン、フルオロポリマー(例えば、ポリテトラフルオロエチレン)、ポリエステル、ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、ポリアミドおよびポリイミドからなる群から選択できる。
【0023】
一態様において、各R2およびR4は、独立に、窒素、酸素、リン、硫黄およびハロゲン等のヘテロ原子を任意に含む直鎖または分岐のアルキル基である。ヘテロ原子は、R2および/もしくはR4の骨格中またはそれによる側鎖中にあることができ、そしてこれらは官能基を形成できる。このようなヘテロ原子含有基(例えば官能基)としては、保護されているか保護されていないかに関わらず、例えば、アルコール、カルボニル、エーテル、アセトキシ、エステル、アルデヒド、アクリレート、アミン、アミド、イミン、イミドおよびニトリルが挙げられる。一態様において、R2および/またはR4はヘテロ原子を含まない。更なる態様において、各R2およびR4は、独立に、18個以下の炭素原子を含む直鎖または分岐のアルキル基である。更なる態様において、各R2およびR4は、独立に、直鎖または分岐の(C2−C8)アルキル基である。他の態様において、各R2およびR4は、独立に、直鎖または分岐の(C2−C4)アルキル基(例えば、エチル、n−プロピル、イソプロピル、またはブチル)である。一例として、R2およびR4は各々C2アルキル基である。
【0024】
一態様において、各R3は、独立に、窒素、酸素、リン、硫黄およびハロゲン等のヘテロ原子を任意に含む直鎖または分岐のアルキレン基である。ヘテロ原子は、R3の骨格中またはそれによる側鎖中にあることができ、そしてこれらは官能基を形成できる。このようなヘテロ原子含有基(例えば官能基)としては、保護されているか保護されていないかに関わらず、例えば、アルコール、カルボニル、エーテル、アセトキシ、エステル、アルデヒド、アクリレート、アミン、アミド、イミン、イミドおよびニトリルが挙げられる。一態様において、R3はヘテロ原子を含まない。更なる態様において、各R3は、独立に、18個以下の炭素原子を含む直鎖または分岐のアルキレン基である。更なる態様において、各R3は、独立に、直鎖または分岐の(C2−C8)アルキレン基である。他の態様において、各R3は、独立に、直鎖または分岐の(C2−C4)アルキレン基(例えば、エチレン、n−プロピレン、イソプロピレンまたはブチレン)である。一例において、R3はC3アルキレン基(プロピレンまたはイソプロピレン)である。
【0025】
理解されるように、本明細書の式について、R1,R2およびR3は、任意の1分子内で変えることができる。例えば、各[(R2O)3-Si-R3]z-Y-[(R1)m-Ox]q-Y'-[R3-Si-(OR2)3]z基内で同一または異なる各R1,R2およびR3に加え、(R1)m-Ox基は、任意の1分子内で同一または異なることができる。
【0026】
本明細書で議論するように、式I:[(R2O)3-Si-R3]z-Y-[(R1)m-Ox]q-Y'-[R3-Si-(OR2)3]zの化合物は、単独または他の前駆化合物(例えば少なくとも1種のシリコンアルコキシド)とともに、シリコンオキサイド系ポリマー(これよりナノファイバーおよび/またはナノファイバー補強されたポリマーを形成できる)の架橋ネットワークに形成することが可能である。特定の化合物を本明細書で説明するが、本開示のナノファイバーおよびナノファイバー補強されたポリマーを形成するために用いる化合物は、非共有結合を形成可能な化学結合部分を形成できる化学基を有する幅広い多様性の化合物から形成できる。例えば、式Iの化合物からナノファイバーを作製する方法は、(1)式(式II) ROf-(C=O)i-[(R1)m-Ox]q(C=O)n-Oe-Rの少なくとも1種の化合物と、(2)反応して本明細書で議論する式I [(R2O)3-Si-R3]z-Y-[(R1)m-Ox]q-Y'-[R3-Si-(OR2)3]zの化合物を形成できる、式(式III) (R2O)3Si(R3-A)の少なくとも1種のアルコキシシラン含有化合物とを組合せること、および(3)式Iの少なくとも1種の化合物による架橋ネットワークの溶液からナノファイバーを作製することを含む。
【0027】
式IIの化合物について、i,n,x,eおよびfは各々独立に0または1;各Rは独立にH、アミン(例えば1級アミンおよび/もしくは2級アミン)、イソシアネートまたは有機基、本明細書で議論するR1は有機基、本明細書で議論するmは1から18、そして本明細書で議論するqは1から200である。式IIIの化合物について、本明細書で議論するR2およびR3は各々独立に有機基である。各Aは独立にヒドロキシル(−OH)、イソシアネート、アミン(例えば1級アミンおよび/もしくは2級アミン)またはエポキシ化合物であり、i,n,eおよびfの値ならびにRについて選択される基に基づいて選択される。
【0028】
一態様において、Rが有機基である場合、これは窒素、酸素、リン、硫黄およびハロゲン等のヘテロ原子を任意に含む直鎖または分岐のアルキル基であることができる。ヘテロ原子は、Rの骨格中、またはそれによる側鎖中にあることができ、そしてこれらは官能基を形成できる。このようなヘテロ原子含有基(例えば官能基)としては、保護されているか保護されていないかに関わらず、例えば、アルコール、カルボニル、エーテル、アセトキシ、エステル、アルデヒド、アクリレート、アミン、アミド、イミン、イミドおよびニトリルが挙げられる。一態様において、Rはヘテロ原子を含まない。更なる態様において、Rは、18個以下の炭素原子を含む直鎖または分岐のアルキル基である。更なる態様において、Rは、直鎖または分岐の(C2−C18)アルキル基である。他の態様において、Rは、直鎖または分岐の(C2−C8)アルキル基(例えば、エチル、n−プロピル、イソプロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、またはオクチル)である。一例において、RはC2アルキル基である。
【0029】
ナノファイバーの例は、式III(式中、Aは1級アミン(−NH2)または2級アミン(−(NH)−R)のいずれかである)のアミン含有化合物、および式IIIのアミン基と反応できる少なくとも1つの官能基を有する式IIの化合物(例えば酸)から作製して、化学結合部分のためのアミドを形成できる。更なる態様において、式IIIの化合物のアミン基を式IIの化合物の無水物基と反応させて、化学結合部分のためのイミドを形成できる。これに代えて、式IIIの化合物のアミン基と式IIの化合物のイソシアネート基とを反応させて化学結合部分のためのウレイレンを形成できる。
【0030】
加えて、ナノファイバーは、式IIIのヒドロキシル含有化合物と、式IIIのヒドロキシル基と反応できる少なくとも1つの官能基を有する式IIの化合物(例えば酸)とから作製し、化学結合部分のためのエステルを形成できる。これに代えて、ナノファイバーは、式IIのアミン含有化合物(例えば、Rがアミン)と、式IIのアミン基と反応できる少なくとも1つの官能基を有する式IIIの化合物(例えばAについてエポキシ化合物)とから作製して、化学結合部分のための1種以上のカーボカチオン種,例えばカルベニウムイオンおよび/またはアルカニウムイオンを有する化合物を形成できる。例えば、式III中のA基は、式IIのアミン基と反応できるものであるエポキシ構造,例えば
【0031】
【化1】

【0032】
を有することができる。
【0033】
ナノファイバーはまた、式III(式中、Aはイソシアネート基)の化合物と、式IIIのイソシアネート基と反応できる少なくとも1つの官能基を有する式IIの化合物,例えばアルコールおよび/または1級アミン(すなわち−NH2)もしくは2級アミン(すなわち−(NH)−R)とから作製して、化学結合部分、式I中のYおよびY’のためのウレタンおよび/またはウレアを形成できる。
【0034】
一例において、式(式I): [(R2O)3-Si-R3]x-Y-[(R1)m-Ox]q-Y'-[R3-Si-(OR2)3]x(式中、YおよびY’は、ウレタンおよび/またはウレア結合を与える)のウレタンおよび/またはウレア結合含有化合物は、式III (R2O)3Si(R3-A)のイソシアネート含有化合物を用いて形成する。しかし、種々のポリオールおよび/またはポリアミン、例えばポリエステル、ポリエーテル、およびポリカーボネートポリオール、等を使用できることを理解すべきである。更に、ポリオールおよびポリアミンは、脂肪族(脂環式を含む)または芳香族、更に複素環式化合物、またはこれらの組合せであることができる。
【0035】
式IIの化合物として使用するための好適なポリオールとしては、ポリアルキレンオキサイド(例えば、ポリエチレンオキサイドおよびポリブチレンオキサイド)、ポリプロピレンエーテルグリコール、ポリテトラメチレンエーテルグリコール(例えば、商号「POLYMEG」または「Terathane」で販売されるPTMEG)、ポリカプロラクトンジオール、およびポリエステルポリオール(例えば、ジカルボン酸とジオールとのエステル化により得られるヒドロキシル末端ポリエステル)が挙げられる。
【0036】
式Iの化合物からのウレタンまたはウレア架橋含有ナノファイバーの作製のための、式III (R2O)3Si(R3-A)の好適なイソシアネート含有化合物の例は、典型的には、脂肪族のモノイソシアネート、ジイソシアネートおよびトリイソシアネート、またはこれらの組合せである。イソシアネート基に加えて、これらは、典型的には生体材料において用いる、他の官能基,例えばビウレット、ウレア、アロファネート、ウレチジンジオン(すなわちイソシアネートダイマー)およびイソシアヌレート等を含むことができる。一例において、イソシアネート含有メタロイドアルコキシドは、3−(トリエトキシシリル)プロピルイソシアネート(Sigma−Aldrich,ミルウォーキー,WI)であることができる。
【0037】
本開示は、本明細書で議論する式Iの化合物からナノファイバーを作製する方法を更に提供する。一態様において、ナノファイバーを作製する方法は、ゾル−ゲルプロセスを用いて、式Iの少なくとも1種の化合物から架橋ネットワークを形成することを含むことができる。次いで、紡糸プロセス,例えば乾式紡糸および/または電界紡糸を経て架橋ネットワークの溶液からナノファイバーを生成できる。次いで、ナノファイバーを、ナノファイバーの化学結合部分と非共有結合できる官能基を有するポリマーに適用および/またはその内部に組込んで、本開示の生体材料を形成することができる。驚くべきことに、本開示のナノファイバーは、生体材料に補強を与えるために、生体材料のポリマーと、および/またはその内部に一体化できる。
【0038】
ナノファイバーを形成可能な特定の化合物を本明細書で説明しているが、本開示のナノファイバーは、幅広い多様性の式Iの化合物から形成できる。例えば、ナノファイバーを作製する方法は、(1)式Iの少なくとも1種の化合物を用意すること;(2)式Iの少なくとも1種の化合物を有する架橋ネットワークを形成すること;および(3)式Iの少なくとも1種の化合物を有する架橋ネットワークの溶液からナノファイバーを作製することを含む。
【0039】
一態様において、ナノファイバーは、例えばゾル−ゲルプロセスを経て形成されたシリコンオキサイド系ポリマー(すなわち、本明細書で議論する化合物)を有する架橋ネットワークから形成する。一態様において、ナノファイバーを形成するために用いるシリコンオキサイド系ポリマーの架橋ネットワークは、溶液(これからナノファイバーを紡糸できる)中で与えられる。
【0040】
ゾル−ゲルプロセスは、一般に、例えば、“Sol−Gel Science:The Physics and Chemistry of Sol−Gel Processing”(Brinkerら,Academic Press,1990)にて説明される。本明細書で用いる「ゾル−ゲル」は、式Iの化合物から形成されるシリコンオキサイド系ポリマーの架橋ネットワークを形成する方法を意味し、コロイド状サスペンション(ゾル)の形成およびゾルのゲル化を介して無機ネットワークを発生させて連続相中のネットワーク(ゲル)を形成することを含む。
【0041】
一般に、3つの反応:加水分解、アルコール凝縮、および水凝縮を用いてゾル−ゲルプロセスを説明する。ゾル−ゲルプロセスを通じて形成される架橋ネットワークの特徴および特性は、加水分解反応および凝縮反応の速度に作用する多数の因子,例えば反応のpH,温度および時間、試薬濃度、触媒の種類および濃度、エージングの温度および時間、ならびに乾燥に関係する可能性がある。これらの因子を制御することにより、化合物から形成されるゾル−ゲル由来の架橋ネットワークの構造および特性を所望するように変えることが可能になる。
【0042】
ゾル−ゲルプロセスを経て本開示のための架橋ネットワークを作製する方法は、(1)本開示の化合物の少なくとも1種と、(2)試薬の水性または有機の分散体またはゾルであって、少なくとも1種のアルコールおよびゾル−ゲル反応が起こる条件下で供給される触媒を含むものとを組合せることを含む。
【0043】
好適な触媒の例としては、鉱酸,例えば塩酸(HCl)、アンモニア、酢酸、水酸化カリウム(KOH)、チタンアルコキシド、バナジウムアルコキシド、アミン、KFおよびHFが挙げられる。加えて、加水分解反応の速度および程度は、酸触媒または塩基触媒の強さおよび濃度に最も影響されることが観察されている。一態様において、酸触媒または塩基触媒の濃度は、0.01Mから7Mであることができる。加えて、架橋ネットワークの種類は、酸触媒および塩基触媒の選択に影響される可能性があり、ここで、酸触媒条件下では、架橋ネットワークが主に線状またはランダムに分岐したポリマーを生じさせ、これは絡み合いを生じさせ更なる分岐を形成してゲル化をもたらす。一方、塩基触媒条件下に由来する架橋ネットワークは、ゲル化前に相互浸透しないことによって個別のクラスターとして振舞う、より高度に分岐したクラスターを生じさせることができる。
【0044】
好適なアルコールの例としては、無水アルコール,例えばメタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、およびこれらの混合物が挙げられる。好適なアルコールの含水量は、約1質量%未満、特に約0.5質量%未満、または約0.1質量%未満である。他の成分との混和性を有する他の有機溶媒(または溶媒の混合物)もまた使用できる。
【0045】
本開示に従い、ゾル−ゲル反応は、試薬とともに液相中で行うことができる。ゾル−ゲル反応のための典型的な反応条件は、温度範囲20℃から100℃にあることができる。他の温度範囲もまた可能である。
【0046】
本開示はまた、生体材料中で使用して医療用具を形成できる式Iの化合物からナノファイバーを形成することを提供する。式Iの化合物、式Iの少なくとも1種の化合物の架橋ネットワークを得る方法、および、架橋ネットワークの溶液からナノファイバーを作製する方法もまた提供する。式Iの化合物は、ポリマーの一部と非共有結合を形成できる化学結合部分(例えばYおよびY’)およびシリコンアルコキシドの末端を形成する末端封鎖反応を経て形成できる。
【0047】
典型的な末端封鎖反応において、本明細書で記載する式IIの1種または複数種の化合物、および式IIIの少なくとも1種のシリコン含有化合物は、好適な溶媒、および任意選択的に、末端封鎖反応の化学的および熱的な安定性を制御するための添加剤、の存在下で組合せる。好適な溶媒の例としては、テトラヒドロフラン(THF)が挙げられる。好適な添加剤の例としては、モノフェニルトリエトキシシラン(MPH)が挙げられる。反応は、典型的には、還流条件下(例えば、温度範囲20から80℃)で、不活性雰囲気中(例えば窒素下)で反応完了のために十分な時間行う。
【0048】
次いで、1種以上の化合物を処理して、ナノファイバーの形成前に化合物を架橋させる。このような架橋プロセスの例としては、本明細書で議論するゾル−ゲルプロセスが挙げられる。本開示に従ってナノファイバーを生成する好適な方法の例としては、適切な1種または複数種の溶媒中での、架橋ネットワークの溶液からの1つ以上の紡糸技術が挙げられる。例えば、電界紡糸プロセスを用いて所望のナノファイバーを生成する。これに代えて、乾式紡糸プロセスを用いて所望のナノファイバーを生成する。
【0049】
電界紡糸においては、溶液が連続的に紡糸口金内またはスプレー挿管(spray cannula)内にポンプ送りされるにつれて、式Iの少なくとも1種の化合物の架橋ネットワークの溶液は電位を受ける。紡糸口金またはスプレー挿管は、異極性の対極(ターゲット)から幾らかかの距離隔てられて静電場を構築する。対極は、典型的には、金属スクリーン、プレート、または回転マンドレルの形状であることができる。
【0050】
荷電した溶液が紡糸口金またはスプレー挿管からポンプ送りされるにつれ、いわゆる「Taylor Cone」を、静電場の競合する力および溶液の表面張力によって形成する。本開示において、溶液は、溶液中の架橋ポリマーを含み、そして、繊維をTaylor Coneのチップから引抜くことができるように、その架橋ポリマーの濃度は分子鎖の絡み合いの原因となるのに十分に高い。電位(kV)の電界強度および線紡糸速度(紡糸口金での吐出速度、m/s単位)および溶液中の架橋ポリマーの質量パーセント(例えば、揮発性有機溶媒または溶媒混合物中)は、溶液中の各々の別個の架橋ポリマーについて評価できる。可能な溶媒の例としては、これらに限定するものではないが、ジメチルエーテル、ジクロロメタン、クロロホルム、エチレングリコールジメチルエーテル、エチルグリコールイソプロピルエーテル、エチルアセテートもしくはアセトンまたは更なる溶媒を伴いもしくは伴わないこれらの混合物が挙げられる。
【0051】
紡糸口金またはスプレー挿管から対極へのナノファイバーの行程の間、溶媒は徐々に蒸発し、そして荷電したナノファイバーが残されて対極上に堆積する。ナノファイバー上の電荷は最終的には周囲環境中に消散する。一態様において、得られる生成物は、本開示のナノファイバーからなる不織繊維マットである。対極がノズル位置に関して移動して特定の繊維配向(平行配列またはランダム)を実現できるようにすることもまた可能である。付着物の機械特性は、繊維の直径および配向を変動させることによって変えることができる。本明細書で議論するように、ヤーンおよび/または織布を形成するためのスプール上にナノファイバーを集合させることもまた可能である。
【0052】
揮発ステップは、雰囲気圧力で、そうでなければ低減された圧力下で実施できる。必要であれば、圧力は溶媒の沸点に適合させるのがよい。
【0053】
本開示のナノファイバーはまた、紡糸カラムを介して実施される乾式紡糸プロセスを経て生成できる。揮発性有機溶媒または溶媒混合物中の架橋ネットワークの溶液の温度は、ナノファイバーが生成するに従っての溶媒の迅速な蒸発を可能にするのに十分に高いことができる。公知の慣習に合わせて用いる押出速度(m/分)、取上げ速度(m/分)、ならびに紡糸ガスの量および温度(m3/時間)を適用できる。乾式紡糸カラムから出て、説明するようにして得られる牽引物は、スプール上に巻き、または後処理のために貯蔵することができる。
【0054】
本開示のプロセスによって生成するナノファイバーは不織繊維アセンブリまたは線状アセンブリに加工でき、これらは2次元および3次元の構造に織り、束ね、または編むことを含むことができる。不織繊維アセンブリおよび/または線状アセンブリについての複合性の程度は、一部、例えばナノファイバーの長さ、ナノファイバーの直径、ナノファイバーの長さ:直径のアスペクト比、およびナノファイバーの成長条件に左右される可能性がある。よって、本明細書におけるナノファイバーの実用性が、これらのおよび他のパラメータの扱いを介して任意に制御することが好まれることになる。
【0055】
ナノファイバーはまた、ウエットケミカル的およびプラズマケミカル的に改質でき、または、異なる目的を有する材料,例えば薬学的に活性な実在物または触媒前駆体を、含浸および続いて乾燥によって充填できる。表面改質を用いて、ナノファイバーにより親水性または疎水性の表面を与えることができ、そしてこれは生物学的または生物医学的な領域における使用に対して有利である。更なる態様において、ナノファイバーは、繊維を一緒に焼結させること(またはそうでなければ、例えば化学的手段によって繊維を架橋させること)によって、ナノファイバーをポリマー中またはポリマー上に組込んで向上した剛性および強度を付与する前または後に強化できる。
【0056】
一態様において、本開示に従ったナノファイバーは、本開示のナノファイバー補強されたポリマーにおける補強用コンポジット成分として使用できる。加えて、ナノファイバー補強されたポリマー中のナノファイバーはまた、耐久性および耐損耗性を向上させるために使用できる。無論、本発明は特定のナノファイバーおよび/またはポリマー組成物の列挙によって限定されないこと、そして、特記がない限り、任意の多数の他の材料を本明細書の種々の態様において任意に用いることが望まれる。本発明は、特定の構成に限定されず、無論変えられる(例えば、ナノファイバーおよび基質および任意選択的な部分等の種々の組合せ、これらは任意に様々な長さ、密度等で存在する)ことを理解すべきである。
【0057】
本発明のナノファイバーは、材料特性において実質的に同種であることができ、または特定の態様においてこれらは異種(例えばナノファイバーヘテロ構造)であることができる。よって、所望に応じ、本開示のナノファイバーは、任意の無数の式Iの可能な化合物(またはこれらの組合せ)を用いて構成できる。本明細書の幾つかの態様は、式Iの1種以上の化合物を用いて構成されたナノファイバーを含む。本明細書の具体的なナノファイバー組成物のいずれの列挙も限定ととるべきでない。
【0058】
加えて、本発明のナノファイバーは、任意の多数の種々の方法を経て任意に構築され、そして本明細書に挙げる例は、限定ととるべきでない。よって、本明細書に詳細に記載されない手段を経て構築されるナノファイバーであるが、本明細書に記載されるパラメータの範囲内であるものは、なお本発明のナノファイバーであり、および/または本発明の方法で用いられる。
【0059】
本開示はまた、ナノファイバー補強されたポリマーおよびこのようなナノファイバー補強されたポリマーを含む医療用具、ならびにこのようなナノファイバー補強されたポリマーのための方法および使用ならびに医療用具を提供する。一態様において、本開示のナノファイバーは、紡糸、および/または所望の形状を有するポリマーの表面に適用でき、ここでポリマーは、ナノファイバーの化学結合部分と非共有結合できる官能基を有する。
【0060】
このような向上した相互作用性は、一般的に、ポリマーの表面と相互作用するナノ構造表面を与えてこれとの一体化もしくはこれへの付着を促進することによって付与される。ナノファイバーは、ナノファイバーをポリマーの1つまたは複数の表面上に直接成長させることによっても、またはナノファイバーを医療用具自体のポリマー中に埋め込むことによっても、ポリマーに付着させることができ、医療用具の剛性および強度を向上させる。ナノファイバーの形状およびサイズならびにグラフト表面上でのこれらの密度を変えて、医療用具の材料特性を所望のレベルに調整できる。
【0061】
代替の態様において、ナノファイバーは、得られる医療用具のための所望形状を有する型の表面上で集合させることができる。ナノファイバーを型表面上で集合させた時点で、続いてポリマーをナノファイバーの周りに少なくとも部分的に成形して、生体材料および得られる医療用具を形成できる。本明細書で議論するように、このような成形技術の例は、ブロー成形、射出成形、押出、キャスト、およびコーティングから選択できる。これらの態様において、ナノファイバーは、ポリマーへの補強要素として作用できる。
【0062】
本明細書で議論するように、架橋ネットワークから形成される得られるナノファイバーは、得られる生体材料に対して機械特性および表面特性の両者を付与できる。結果として、本開示の生体材料は、有機ポリマーの利点(可撓性、低密度、強靭性、成形能)を、ナノファイバーの優れた機械特性および表面改質特性(強度、モジュラス等)と組合せることができる。
【0063】
本開示の医療用具はまた、1つ以上の表面上に他の材料とともにコートし、これらの実用性を更に一層向上させることができる。好適なコーティングの例は、薬用コーティング、薬物溶出コーティング、親水性コーティング、平滑化コーティング、コラーゲンコーティング、ヒト細胞播種コーティング等である。医療用具上の上記のナノファイバーコーティングは、医療用具がこれらのコーティングを保持する助けとなる高表面積を付与できる。コーティングは、医療用具のナノ構造表面に直接吸着させることができる。
【0064】
幅広い多様性のポリマーをナノファイバー補強されたポリマーの形成において本開示とともに使用できる。ナノファイバー補強されたポリマーの形成における使用のために好適なポリマーとしては、これらを生物環境における使用のために好適なものにするための十分な強度、加水分解安定性、および非毒性を有するものを挙げることができる。本開示のナノファイバーとともに用いるポリマーは、コポリマー、ランダム、交互、ブロック、星状ブロック、セグメント化コポリマー(すなわち、任意のポリマー鎖上のハードおよびソフトのドメインもしくはセグメントの両者を多数含む)、またはこれらの組合せ(例えば、分子のある一部は交互で、ある一部はランダム)であることができる。加えて、本開示のポリマーは線状、分岐、または架橋したものであることができる。
【0065】
本開示のナノファイバー補強されたポリマーを形成するのに好適なポリマーは、これらに限定するものではないが、非共有結合を形成する能力を有する化学結合部分を更に含む。このようなポリマーの例としては、ウレタン、エステル、アミド、イミド、ウレア、カーボネート、スルホン、エーテル、および/もしくはホスホネートの架橋を有するもの、またはこれらの組合せが挙げられる。このようなポリマーの例としては、ポリアミド(ナイロン)、ポリウレタン、ポリウレア、ポリウレタン−ウレア、および/またはポリエステル等が挙げられる。
【0066】
加えて、本開示に係るナノファイバー補強されたポリマーを形成するのに好適なポリマーは、ハードセグメントおよびソフトセグメントの両者を含むことができる。本明細書で用いる「ハード」セグメントは、使用温度における結晶(すなわち秩序ドメインを有する)または使用温度よりも高温のガラス転移温度を有する非晶(すなわちガラス状)のいずれかのものであり、そして「ソフト」セグメントは、使用温度よりも低温のガラス転移温度を有する非晶(すなわちゴム状)であるものである。典型的には、ハードセグメントはかなりの強度およびより高いモジュラスをポリマーに付加する。同様に、ソフトセグメントは、可撓性およびより低いモジュラスを付加するが、例えば、特にこれが緊張結晶化を受ける場合には強度を付加できる。ポリマーは、ハードおよび剛直なものからソフトおよび可撓性のものに変化できる。一例において、ポリマーはエラストマーである。「エラストマー」は、その元の長さの約2倍に引き伸ばし、そして解放時にほぼその元の長さに戻すことが可能なポリマーである。
【0067】
本明細書で議論するように、好適なポリマーは、ナノファイバーとブレンドおよび/または溶融加工するのに好適な粘度および分子量を有することができる。本明細書で記載するポリマーに加え、本開示のナノファイバー補強されたポリマーはまた、種々の添加剤を含むことができる。これらとしては、酸化防止剤、着色剤、加工潤滑剤、安定剤、造影剤(imaging enhancer)、フィラー等が挙げられる。本開示はまた、このようなポリマーを形成するために用いるポリマーおよび化合物、およびこのようなポリマーから形成される、医療用具において使用できる生体材料を提供する。
【0068】
追加の添加剤として、これらに限定するものではないが、金属アルコキシドM(OR2n(式中、nの値は、金属Mの酸化状態に依存する)も挙げることができる。一態様において、金属アルコキシドは、ゾル−ゲルプロセスの前に式Iの混合物中に組込むことができる。Mは、2,4,5,8,9,13,14および15族からなる金属の群から選択できる。例えば、Mは、Si,Fe,Ti,Zr,Ir,Ru,Bi,Ba,Al,Ta,およびSrからなる金属の群から選択できる。代替の態様において、M元素の例としては、非金属元素Cおよびカゴ型シルセスキオキサン(多面体オリゴマーシルセスキオキサン)(POSS)を挙げることができる。ついで、金属アルコキシド等の添加剤の添加をゾル−ゲルプロセスにおいて用いて、得られるナノファイバーの性質を改質することができる。
【0069】
種々の特定のおよび好ましい態様への言及とともに本発明を説明した。しかし、本発明の基本的な主題における、詳細な説明で示したことを超える、本発明の精神および範囲の範囲内である多くの拡張、変形、および改変が存在することが理解される。
【0070】
本明細書で引用する特許、特許文献および公開公報の完全な開示は、これら全体の引用により各々を個々に組込むものとして組込む。この開示に対する種々の改変および代替は、本開示の範囲および精神から逸脱することなく当業者に明らかとなろう。本開示は、本明細書で記載する実施態様に過度に限定されることを意図せず、このような態様は、記載される特許請求の範囲によってのみ限定されることを意図する開示の範囲とともにのみ例の目的で与えられることを理解すべきである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナノファイバーを作製する方法であって:
式(式I):
[(R2O)3-Si-R3]z-Y-[(R1)m-Ox]q-Y'-[R3-Si-(OR2)3]z
式中、xおよびzは各々独立に0または1;mは1から18;qは1から200;R1,R2およびR3は各々独立に有機基;そしてYおよびY’はともに、
Yについて-NH-(C=O)-O- およびY’について-(C=O)-NH- 但しz=1;
Yについて-NH-(C=O)- およびY’について-(C=O)-NH- 但しx=0 かつz=1;
Yについて-0-(C=O)- およびY’について-(C=O)- 但しz=1;
YおよびY’について-(NR4)-(C=O)-(NH)- 但しz=1,およびR4は有機基またはH;ならびに
YおよびY’について-N-[CH2-(CHOH)-CH2-O-R3-Si-(OR2)3]2 但しz=0;
からなる群から選択される:
の少なくとも1種の化合物を用意すること;
ゾル−ゲルプロセスを用いて、式Iの少なくとも1種の化合物から架橋ネットワークを形成すること;ならびに
該式Iの少なくとも1種の化合物からの該架橋ネットワークの溶液からナノファイバーを紡糸すること
を含む、方法。
【請求項2】
ナノファイバーを紡糸することが、式Iの少なくとも1種の化合物からの架橋ネットワークの溶液からナノファイバーを電界紡糸することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ナノファイバーを紡糸することが、式Iの少なくとも1種の化合物からの架橋ネットワークの溶液からナノファイバーを乾式紡糸することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
ナノファイバーを紡糸することが、Y基と非共有結合することが可能な官能基を有するポリマー上にナノファイバーを集合させて生体材料を形成することを含む、請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
ナノファイバーを紡糸することが、医療用具を成形するために使用する型の表面上にナノファイバーを集合させることを含む、請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
型の表面上に集合させたナノファイバーの周囲に少なくとも部分的にポリマーを射出成形することを含み、該ポリマーが、Y基との非共有結合を形成することが可能な化学的部分を含む、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
各R1およびR3が独立に(C1−C18)アルキレン基であり、かつR2が(C1−C18)アルキル基である、請求項1〜6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
紡糸プロセスによって生成された、式(式I):
[(R2O)3-Si-R3]z-Y-[(R1)m-Ox]q-Y'-[R3-Si-(OR2)3]z
式中、xおよびzは各々独立に0または1;mは1から18;qは1から200;R1,R2およびR3は各々独立に有機基;そしてYおよびY’はともに、
Yについて-NH-(C=O)-O- およびY’について-(C=O)-NH- 但しz=1;
Yについて-NH-(C=O)- およびY’について-(C=O)-NH- 但しx=0 かつz=1;
Yについて-0-(C=O)- およびY’について-(C=O)- 但しz=1;
YおよびY’について-(NR4)-(C=O)-(NH)- 但しz=1,およびR4は有機基またはH;ならびに
YおよびY’について-N-[CH2-(CHOH)-CH2-O-R3-Si-(OR2)3]2 但しz=0;
からなる群から選択される:
の化合物から形成されたナノファイバー。
【請求項9】
ナノファイバーを生成するために用いる紡糸プロセスが乾式紡糸プロセスである、請求項8に記載のナノファイバー。
【請求項10】
ナノファイバーを生成するために用いる紡糸プロセスが電界紡糸プロセスである、請求項8に記載のナノファイバー。
【請求項11】
補強成分としてポリマーとともに用いて生体材料を形成する、請求項8〜10のいずれかに記載のナノファイバー。
【請求項12】
ポリマーをコートして生体材料を形成する、請求項11に記載のナノファイバー。
【請求項13】
ポリマー中に埋め込んで生体材料を形成する、請求項11〜12のいずれかに記載のナノファイバー。
【請求項14】
ポリマーの一部と非共有結合することが可能な化学的部分を含む、請求項11〜13のいずれかに記載のナノファイバー。
【請求項15】
式Iの化合物がゾル−ゲルプロセスを用いて架橋ネットワークを形成できる、請求項8〜14のいずれかに記載のナノファイバー。
【請求項16】
請求項8〜15のいずれかに記載のナノファイバーから作製された医療用具。
【請求項17】
各R1およびR3が独立に(C1−C18)アルキレン基であり、かつR2が(C1−C18)アルキル基である、請求項8〜16のいずれかに記載のナノファイバー。
【請求項18】
ナノファイバー補強されたポリマーであって:
ポリマー;ならびに
ゾル−ゲルプロセスを経て形成された金属酸化物系ポリマーの架橋ネットワークのナノファイバーであって、金属酸化物系ポリマーが、ポリマーの一部と非共有結合を形成することが可能な化学的部分を含むもの;
を含む、ポリマー。
【請求項19】
ナノファイバーがポリマーの少なくとも一部の表面をコートする、請求項18に記載の補強されたポリマー。
【請求項20】
ナノファイバーがポリマーの少なくとも一部の表面上のランダムパターンで存在する、請求項19に記載の補強されたポリマー。
【請求項21】
ナノファイバーがポリマーの少なくとも一部の中に埋め込まれている、請求項18〜20のいずれかに記載の補強されたポリマー。
【請求項22】
ナノファイバーが、ポリマーの少なくとも一部の中に埋め込まれたランダムパターンで存在する、請求項21に記載の補強されたポリマー。
【請求項23】
架橋ネットワークの金属酸化物系ポリマーが、式(式I):
[(R2O)3-Si-R3]z-Y-[(R1)m-Ox]q-Y'-[R3-Si-(OR2)3]z
式中、xおよびzは各々独立に0または1;mは1から18;qは1から200;R1,R2およびR3は各々独立に有機基;そしてYおよびY’はともに、
Yについて-NH-(C=O)-O- およびY’について-(C=O)-NH- 但しz=1;
Yについて-NH-(C=O)- およびY’について-(C=O)-NH- 但しx=0 かつz=1;
Yについて-0-(C=O)- およびY’について-(C=O)- 但しz=1;
YおよびY’について-(NR4)-(C=O)-(NH)- 但しz=1,およびR4は有機基またはH;ならびに
YおよびY’について-N-[CH2-(CHOH)-CH2-O-R3-Si-(OR2)3]2 但しz=0;
からなる群から選択され、
Yは、ポリマーの一部と非共有結合できる化学的部分である:
の少なくとも1種の化合物を用いてゾル−ゲルプロセスにおいて形成されている、請求項18〜22のいずれかに記載の補強されたポリマー。
【請求項24】
各R1およびR3が独立に(C1−C18)アルキレン基であり、かつR2が(C1−C18)アルキル基である、請求項23に記載の補強されたポリマー。
【請求項25】
金属酸化物系ポリマーの化学的部分と化学的に結合できるポリマーの一部が、ウレタン、エステル、アミド、イミド、尿素およびこれらの組合せの群から選択される、請求項18〜24のいずれかに記載の補強されたポリマー。
【請求項26】
ポリマーが、ポリアミド、ポリウレタン、ポリウレア、ポリウレタン−ウレア、およびポリエステルの群から選択される、請求項18〜25のいずれかに記載の補強されたポリマー。
【請求項27】
請求項18〜26のいずれかに記載の補強されたポリマーを含む、生体材料。
【請求項28】
請求項18〜27のいずれかに記載の補強されたポリマーを含む、医療用具。

【公表番号】特表2009−523196(P2009−523196A)
【公表日】平成21年6月18日(2009.6.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−547479(P2008−547479)
【出願日】平成18年12月20日(2006.12.20)
【国際出願番号】PCT/US2006/048576
【国際公開番号】WO2007/117296
【国際公開日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【出願人】(500332814)ボストン サイエンティフィック リミテッド (627)
【Fターム(参考)】