説明

紫外光透過性高分子材料のエッチング方法

【課題】サイトップ(登録商標)などの紫外光透過性高分子材料をエッチング加工する際に、加工領域においても材料本来が持つ優れた光透過特性を損なうことなしに、簡便な手法により高品質かつ高速な加工を実現することができるようにした紫外光透過性高分子材料のエッチング方法を提供する。
【解決手段】波長200〜300nmの深紫外領域において透明な紫外光透過性高分子材料の表面を加工する紫外光透過性高分子材料のエッチング方法において、波長200〜300nmの深紫外領域において透明な紫外光透過性高分子材料の光吸収端よりも短い波長の短波長レーザー光を、窒素雰囲気中で上記紫外光透過性高分子材料の表面に照射してレーザーアブレーションによりエッチングする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紫外光透過性高分子材料のエッチング方法に関し、さらに詳細には、波長200〜300nmの深紫外領域において透明な紫外光透過性高分子材料をエッチングする際に用いて好適な紫外光透過性高分子材料のエッチング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、波長200〜300nmの深紫外領域において透明な材料である紫外光透過性高分子材料が知られている。
【0003】
この紫外光透過性高分子材料は、これまで一般的に光学材料として利用されている石英ガラスでは不可能な形状、サイズ、使用方法が可能であるため、光デバイスの材料としての応用への実用化が強く望まれている。
【0004】
ところで、こうした紫外光透過性高分子材料の一つである図1に示す分子構造のサイトップ(登録商標)([CF=CFOCFCFCF=CF)の表面に任意のエッチングを行い、光デバイスとして機能性を付与する場合において、一般に広く用いられているプラズマエッチングやレーザーエッチングなどをエッチングの手法として採用した場合には、次のような問題点があることが指摘されていた。
【0005】
即ち、サイトップ(登録商標)は表面張力が非常に低いので、通常のフォトレジストではその表面ではじかれてしまって直接塗布することができないため、従来のプラズマエッチング技術を採用する場合には、特殊なレジストを用いるか、あるいは、表面を物理的に改質した後に従来のレジストプロセスによってパターンエッチングをおこなうという必要があり、従来のプラズマエッチング技術よりも複雑かつ特殊なノウハウが要求されるものであって、エッチングの処理が極めて煩雑になっていたという問題点があった。
【0006】
また、レーザーを用いたエッチング技術を採用する場合においては、産業界で表面加工用として一般的に使用されてるNd:YAGレーザーやKrFエキシマレーザーでは、サイトップ(登録商標)自身が持つ優れた透過性のため、加工を行った際に加工領域においてサイトップ(登録商標)の透過特性が著しく劣化するという問題点があった。
【0007】

なお、本願出願人が特許出願のときに知っている先行技術は、文献公知発明に係る発明ではないため、記載すべき先行技術文献情報はない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、従来の技術の有する上記したような種々の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、サイトップ(登録商標)などの紫外光透過性高分子材料をエッチング加工する際に、加工領域においても材料本来が持つ優れた光透過特性を損なうことなしに、簡便な手法により高品質かつ高速な加工を実現することができるようにした紫外光透過性高分子材料のエッチング方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明による紫外光透過性高分子材料のエッチング方法は、波長200〜300nmの深紫外領域において透明なサイトップ(登録商標)などの紫外光透過性高分子材料の表面を、当該紫外光透過性高分子材料の光吸収端よりも短い波長の短波長レーザー光によって微細にエッチングするようにしたものである。
【0010】
より詳細には、本発明は、窒素雰囲気中において、サイトップ(登録商標)などの紫外光透過性高分子材料の表面に、当該紫外光透過性高分子材料の光吸収端波長よりも短い波長の短波長レーザー光、例えば、波長157nmのFレーザー光を集光照射することによってアブレーションを誘起し、当該紫外光透過性高分子材料の表面を微細にエッチングするようにしたものである。
【0011】
こうした本発明による手法は、従来のプラズマエッチング技術と比較してレジストプロセスなどの複雑なプロセスを必要せず、簡便な縮小投影露光によりパターン状に微細エッチングを行うことが可能である。
【0012】
さらに、本発明による手法は、紫外光透過性高分子材料の表面にレジスト材料などの塗布が必要ないため、エッチング後に汚染物質除去のための洗浄プロセスを必要としないという利点もある。
【0013】
また、本発明の手法によるFレーザー光でエッチングされた加工領域は、従来のArFエキシマレーザー光などの波長193nm以上のレーザー光によるレーザーアブレーションでエッチングされた加工領域と比較すると、著しく劣化が改善され、その光透過特性も大幅に向上している。
【0014】

こうした本発明のうち請求項1に記載の発明は、波長200〜300nmの深紫外領域において透明な紫外光透過性高分子材料の表面を加工する紫外光透過性高分子材料のエッチング方法において、波長200〜300nmの深紫外領域において透明な紫外光透過性高分子材料の光吸収端よりも短い波長の短波長レーザー光を、窒素雰囲気中で上記紫外光透過性高分子材料の表面に照射してレーザーアブレーションによりエッチングするようにしたものである。
【0015】
また、本発明のうち請求項2に記載の発明は、本発明のうち請求項1に記載の発明において、上記紫外光透過性高分子材料は、サイトップ(登録商標)であるようにしたものである。
【0016】
また、本発明のうち請求項3に記載の発明は、本発明のうち請求項1または2のいずれか1項に記載の発明において、上記短波長レーザー光は、波長170nm以下、パルス幅100ns以下、レーザーフルエンス30mJ/cm以上であるようにしたものである。
【0017】
また、本発明のうち請求項4に記載の発明は、本発明のうち請求項3に記載の発明において、上記短波長レーザー光は、波長157nmであるようにしたものである。
【0018】
また、本発明のうち請求項5に記載の発明は、本発明のうち請求項4に記載の発明において、上記短波長レーザー光は、Fレーザー光であるようにしたものである。
【発明の効果】
【0019】
本発明は、以上説明したように構成されているので、サイトップ(登録商標)などの紫外光透過性高分子材料をエッチング加工する際に、加工領域においても材料本来が持つ優れた光透過特性を損なうことがなく、しかも簡便な手法により高品質かつ高速な加工を実現することができるようになるという優れた効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、添付の図面を参照しながら、本発明による紫外光透過性高分子材料のエッチング方法の実施の形態の一例を詳細に説明する。
【0021】
なお、以下の説明においては、短波長レーザー光としてFレーザー光を用い、また、紫外光透過性高分子材料としてサイトップ(登録商標)を用いる場合について説明する。
【0022】
ここで、図2には、本発明による紫外光透過性高分子材料のエッチング方法を実施するためのエッチング装置、より詳細には、サイトップ(登録商標)の表面をエッチングするためのエッチング装置の概念構成説明図が示されている。
【0023】
このエッチング装置10は、窒素ガス雰囲気中でパルスレーザー光であるFレーザー光を加工対象となるサイトップ(登録商標)(以下、「加工対象となるサイトップ(登録商標)」については、「被加工物」と適宜に称する。)の表面に照射する処理を行うための装置である。
【0024】
即ち、エッチング装置10は、波長(λ)が157nm、パルス幅(τ)が20nsのFレーザー光を発生するFレーザー発生装置(F laser)12と、Fレーザー発生装置12のレーザー発振を制御するデジタルパルス発生装置(Digital pulse generator)14と、Fレーザー発生装置12により発生されたFレーザー光が入射されるチャンバー16と、チャンバー16内に配設されるとともにFレーザー光の形状を整形するためのマスク18と、チャンバー16内に配設されるとともにFレーザー光の強度を調節するためのアッテネーター20と、チャンバー16内に配設されるとともにFレーザー光を集光する集光レンズ22と、被加工物100を保持した試料ホルダー102を載置するとともにXYZ直交座標系(図2におけるXYZ直交座標系を示す参考図を参照する。)におけるX軸、Y軸、Z軸の3軸方向に移動自在なXYZステージ24と、Fレーザー光の強度を測定するためのパワーメーター26と有して構成されている。
【0025】
ここで、チャンバー16には、チャンバー16内に窒素ガスを供給する窒素ガス供給部16aと、窒素ガス供給部16aからチャンバー16内に供給された窒素ガスを自然排気により外部へ排出するための窒素ガス排出部16bとが設けられている。窒素ガス供給部16aは、Fレーザー発生装置12のFレーザー光出射口側に隣接して配置され、一方、窒素ガス排出部16bは、当該Fレーザー光出射口と対向して位置するXYZステージ24に隣接して配置されている。
【0026】
また、集光レンズ22は、例えば、CaFにより形成された焦点距離(f)が47mmのものである。
【0027】
さらに、XYZステージ24は、コンピューター(図示せず)に接続されており、当該コンピューターによりX軸、Y軸、Z軸の3軸方向への移動量が制御可能となされている。
【0028】

以上の構成において、窒素ガス供給部16aから30l/minで窒素ガスをチャンバー16へ供給し、チャンバー16内を窒素ガスにより充填して窒素ガス雰囲気とする。
【0029】
そして、Fレーザー発生装置12により、波長157nm、パルス幅20nsのFレーザー光を、窒素ガスが充填されたチャンバー16内、即ち、窒素ガス雰囲気中へ出射する。
【0030】
なお、Fレーザー発生装置12によるレーザー光照射中は、窒素ガスが窒素ガス供給部16aからチャンバー16内にXYZステージ24側へ向かって30l/minで常に供給されている。
【0031】
レーザー発生装置12から出射されたFレーザー光は、マスク18により所望の形状に整形され、被加工物100に入射するFレーザー光の強度を調節するアッテネーター20を経て、集光レンズ22に入射する。そして、集光レンズ22は、マスク18の形状を反映したパターンのFレーザー光を被加工物100の表面へ縮小投影し、これによりFレーザー光が被加工物100の表面へ照射される。
【0032】
なお、上記したように被加工物100は試料ホルダー102に保持されており、この試料ホルダー102がコンピューターにより移動量を制御可能な3軸のXYZステージ24上に載置されているため、コンピューターでXYZステージ24の移動量を適宜に制御することによって、Fレーザー光を被加工物100の表面の一定の場所またはスキャンをして移動させながら照射することが可能である。
【0033】

次に、本願発明者が上記したエッチング装置10を用いて行った実験の結果ついて、詳細に説明する。
【0034】
なお、この実験においては、Fレーザー発生装置12から発生されるFレーザー光が、エネルギー密度(レーザーフルエンス)30〜1000mJ/cmの間で被加工物100の表面に照射されるように制御した。また、この実験では、Fレーザー発生装置12をKrFエキシマレーザー装置、ArFエキシマレーザー装置ならびにフェムト秒レーザー装置に置き換えての加工実験も行った。上記した各パルスレーザーの繰り返し周波数については、Fレーザー発生装置12、KrFエキシマレーザー装置およびArFエキシマレーザー装置については1Hzとし、フェムト秒レーザー装置については1kHzとした。
【0035】

図3は、光デバイスに用いられる一般的な石英ガラスの光透過特性と被加工物100たるサイトップ(登録商標)の光透過特性とを比較するためのグラフであり、石英ガラスとサイトップ(登録商標)との波長230nm以上の紫外域から750nmの近赤外域までに対する光透過特性が示されている。
【0036】
この図3に示されているように、石英ガラスとサイトップ(登録商標)とは、両者とも300nm以下の波長域でも90%以上の高い透過率を示しており、サイトップ(登録商標)は石英ガラスの特性と違いが見られないほどの優れた光透過特性を有している。
【0037】
また、KrFエキシマレーザー装置により発生されたKrFエキシマレーザー光やArFエキシマレーザー装置により発生されたArFエキシマレーザー光を被加工物100に照射し、これら各レーザー光に対する光透過特性を検討した結果、どちらのレーザー光に対しても吸収は見られなかった。
【0038】
以上の点から、サイトップ(登録商標)は、波長193nm(ArFエキシマレーザー光の波長である。)以上の波長域のレーザー光には、吸収がないことが明らかとなった。
【0039】

次に、図4(a)は繰り返し周波数1HzのKrFエキシマレーザー光をレーザーフルエンス3J/cmで10パルスだけ被加工物100に照射し、図4(b)は繰り返し周波数1HzのArFエキシマレーザー光をレーザーフルエンス2J/cmで10パルスだけ被加工物100に照射し、図4(c)は繰り返し周波数1kHzのフェムト秒レーザー光をレーザーフルエンス8.3×1017W/cmで被加工物100に照射した場合における、被加工物100の表面の加工領域の光学顕微鏡による表面観察像たる光学顕微鏡写真である。
【0040】
なお、図4(c)に示すフェムト秒レーザー光を照射した場合のみ、XYZステージ24を移動して被加工物100を1mm/secのスキャニング速度で移動させながら、フェムト秒レーザー光を照射した。また、全てのレーザー光の照射条件は、被加工物100の表面で多光子吸収を誘起するレーザーフルエンスとした。
【0041】
まず、図4(a)に示すように、KrFエキシマレーザー光を照射して多光子吸収によって被加工物100を加工した場合には、被加工物100の加工領域は表面粗れを伴い炭化した様な黒色化が発生し、従来のサイトップ(登録商標)が有する透明性が大きく失われた。この黒色化は、KrFエキシマレーザー光が誘起する多光子吸収が引き起こした熱影響に起因するものと考えられる。
【0042】
また、図4(b)に示すように、ArFエキシマレーザー光で加工した場合には、KrFエキシマレーザー光の場合よりも多少加工品質の改善が見られるが、KrFエキシマレーザー光による加工の場合と同様に、ArFエキシマレーザー光に対して被加工物100が十分な吸収をもたないために、表面粗さを伴う黒色化と加工領域周辺にデブリが発生している。
【0043】
さらに、図4(c)に示すように、加工特性に熱的影響が少ないフェムト秒レーザー光でスキャンによるライン状加工をした場合においても、加工領域の透明性が失われることとなった。
【0044】

次に、図5(a)(b)には、被加工物100の表面にエッチング装置10によりFレーザー光を157mJ/cmで10パルス照射してエッチングしたときの状態が示されており、図5(a)はその加工領域の光学顕微鏡写真であり、図5(b)は原子間力顕微鏡(AFM:Atomic Force Microscope)による加工領域の表面観察像である。
【0045】
被加工物100の加工領域は、加工前の透明性を維持しており、デブリのないシャープなアブレーションエッチングが実現された。
【0046】
このFレーザー光を用いた本発明による紫外光透過性高分子材料のエッチング方法により実施されるアブレーションエッチングは、上記したKrFエキシマレーザー光、ArFエキシマレーザー光あるいはフェムト秒レーザー光を用いた場合と比較すると、図5(a)に示すように加工領域が黒色化することなく、その加工品質において極めて大きな改善がもたらすものである。こうした加工品質の改善がもたらせられる理由は、サイトップ(登録商標)がFレーザー光の波長に対しては十分な吸収を持つためと考えられる。
【0047】
また、図5(b)に示す原子間力顕微鏡による加工領域の表面観察像から、加工領域の表面粗さはRMS値で27nmと見積もることができた。この27nmというRMS値は、Fレーザー光の未照射領域におけるRMS値に対して約6倍ほど表面粗さが増加していることを意味するが、波長200nm以上の紫外領域に対する光デバイスの作製技術としては十分に実用化可能な値である。
【0048】

次に、図6には、図3(a)に示す被加工物100をKrFエキシマレーザー光で加工した加工領域の波長230〜750nmの光透過特性ならびに図5(a)に示す被加工物100をエッチング装置10によるFレーザー光で加工した加工領域の波長230〜750nmの光透過特性を示すグラフが示されている。
【0049】
この図6より、KrFエキシマレーザー光で加工した場合には、炭化に起因すると考えられる黒色化によって、測定した波長域全域で本来の光透過特性を全く失っている。一方、Fレーザー光で加工した場合には、加工領域の光透過特性は、未加工領域と同じ特性を維持している。即ち、本発明によるFレーザー光によるサイトップ(登録商標)のエッチング加工は、材料の光透過特性の劣化をほとんど起こさない加工技術であるといえる。
【0050】

次に、図7に示すグラフは、被加工物100をエッチング装置10によるFレーザー光で加工した際における、加工速度のレーザーフルエンス依存性を示すものである。この図7に示すグラフから、加工速度はレーザーフルエンスの対数に対して直線的に増加していることがわかる。一般的に、1光子吸収によるアブレーションの場合には、加工速度dと照射レーザフルエンスFとの関係は、
【数1】

【0051】
とあらわすことができる。ここで、Fthは材料のアブレーションしきい値であり、αeffは有効吸収係数である。従って、本発明によるFレーザー光によるサイトップ(登録商標)のレーザーエッチング加工においては、1光子吸収によるアブレーションがおこっていると考えられる。なお、アブレーションしきい値は32mJ/cmであり、図7に示すグラフから有効吸収係数を算出すると9.53×10cm−1となった。
【0052】

次に、図8に示すグラフは、被加工物100をエッチング装置10によるFレーザー光で加工した際における、加工深さのパルス数依存性を示すものである。また、図9(a)(b)(c)(d)(e)は、図8のグラフに示す実験結果を得た実験の際における、異なるパルス数を照射したときの加工領域の光学顕微鏡による表面観察像たる光学顕微鏡写真である。なお、図9(a)は5パルス照射した場合の光学顕微鏡写真であり、図9(b)は10パルス照射した場合の光学顕微鏡写真であり、図9(c)は15パルス照射した場合の光学顕微鏡写真であり、図9(d)は20パルス照射した場合の光学顕微鏡写真であり、図9(e)は30パルス照射した場合の光学顕微鏡写真である。なお、図8および図9(a)(b)(c)(d)(e)に実験結果を示す実験においては、レーザーフルエンス180mJ/cmで被加工物100の表面へFレーザー光を照射した。
【0053】
図8のグラフに示すように、加工深さに関しては、Fレーザー光の35パルスの照射により、約15μmのエッチング深さが得られている。このとき、パルス数の増加に伴って直線的に加工深さは増加している。即ち、本発明によるFレーザー光によるサイトップ(登録商標)のレーザーアブレーションにおいては、インキュベーションなどのない加工が実現されている。
【0054】
また、図9(a)(b)(c)(d)(e)にあらわされているように、加工深さが増加した場合でも加工領域の中心付近の透明性はFレーザーアブレーションよって劣化していない。なお、パルス数が増加した場合に見られる加工領域周辺の影は、光学顕微鏡の光源に起因する影である。
【0055】

また、本願発明者は、被加工物100の表面にグレーティング構造を形成するために、被加工物100を設置しているXYZステージ24をコンピューター制御によって動かしてFレーザー光を照射した。図10(a)はこのグレーティング構造を形成する際の実験の概念図であり、また、図10(b)は実験で作製したグレーティング構造の原子間力顕微鏡表面観察像である。
【0056】
この実験においては、グレーティング構造を形成するために、50μm×50μmとなるパターンでFレーザー光を被加工物100の表面に43μm/secで直線スキャンをして照射した。そして、1つの直線スキャンが終了後に、さらに横方向に前回スキャンした領域が60%(30μm)オーバーラップするようにして直線スキャンを複数回繰り返すことにより、表面にグレーティング構造を形成した。
【0057】
図10(b)に示すグレーティング構造の原子間力顕微鏡表面観察像より、形成されたグレーティング構造は約30μmの周期をもつ滑らかな曲面を有しているものであった。 なお、上記した手法で形成したグレーティング構造の周期構造は、照射するFレーザー光のスポットサイズを小さくすることによって、さらに細かい周期構造とすることができる。
【0058】

次に、上記した本発明による紫外光透過性高分子材料であるサイトップ(登録商標)に対するFレーザー光を用いた高品質エッチング技術と公知のレーザー生成プラズマ支援アブレーション(LIPAA)によるサイトップ(登録商標)の表面への金属堆積技術(「花田他、第64回応用物理学会学術講演会:30a−ZQ−7」を参照する。)とを用いて、マイクロデバイスを作製した実験結果について説明する。
【0059】
ここで、本願発明者による金属堆積実験は、光源にKrFエキシマレーザー光(波長:248nm、パルス幅:34ns、レーザーフルエンス:1.2J/cm)を用いて、スキャン速度30μm/secでサイトップ(登録商標)を通してターゲットとなるガラス上に堆積させた厚さ500nm金薄膜に照射した。試料としては、厚さ100μmのサイトップ(登録商標)を用いた。
【0060】
図11には、サイトップ(登録商標)にLIPAAプロセスを行った後に無電解銅メッキ処理を施したものの表面観察像が示されている。メッキ処理によってKrFエキシマレーザーの照射領域に銅薄膜が選択的に堆積された。
【0061】

また、図12には、上記した本発明による紫外光透過性高分子材料のエッチング方法を用いて作製されたDNA電気泳動用マイクロデバイスの構成説明図が示されている。
【0062】
このDNA電気泳動用マイクロデバイスにおいては、紫外光透過性高分子材料としてフィルム状のサイトップ(登録商標)を用いている。即ち、2枚のフィルム状のサイトップ(登録商標)を用意し、その一方に対して、上記した本発明による紫外光透過性高分子材料のエッチング方法を用いて、試料導入口、試料排出口、バッファー導入口、バッファー排出口ならびにこれらを連絡する通路を形成する。そして、2枚のフィルム状のサイトップ(登録商標)を貼り合わせすることにより、上記のようにして一方のサイトップ(登録商標)の表面に加工した構造を、2枚のフィルム状のサイトップ(登録商標)の間に存在する内部の3次元構造埋込構造として形成する。
【0063】
なお、電気泳動は、バッファー導入口から泳動用ゲルを導入した後に、試料導入口からDNAサンプルを導入し、めっき電極に電圧をかけることによりバッファー内を電気泳動させる。
【0064】

以上において説明した本願発明者の実験結果からは、本発明による紫外光透過性高分子材料であるサイトップ(登録商標)に対するFレーザー光を用いたアブレーション加工は、紫外光透過性高分子材料であるサイトップ(登録商標)の高品質表面加工技術として十分に実用的であることが示された。
【0065】

なお、上記した実施の形態は、以下の(1)〜(3)に示すように変形することができるものである。
【0066】
(1)上記した実施の形態においては、紫外光透過性高分子材料としてサイトップ(登録商標)を例にして説明したが、これに限られるものではないことは勿論であり、他の紫外光透過性高分子材料も用いることができる。
【0067】
(2)上記した実施の形態においては、紫外光透過性高分子材料へ照射するレーザー光として波長157nm、パルス幅20nsのFレーザー光を用いた場合について説明したが、これに限られものではないことは勿論であり、紫外光透過性高分子材料の光吸収端波長よりも短い波長の短波長レーザー光であるならば本発明に用いることができる。本願発明者の実験によれば、例えば、波長170nm以下、パルス幅1000ns以下、レーザーフルエンス30mJ/cm以上の短波長レーザー光を用いることができ、より好ましくは、波長120〜170nm、パルス幅1〜100ns、レーザーフルエンス30〜1000mJ/cmの短波長レーザー光を用いることができる。なお、こうした短波長レーザー光の光源としては、上記したFレーザーの他に、例えば、Arエキシマレーザーを用いることができる。
【0068】
(3)上記した実施の形態ならびに上記した(1)〜(2)に示す変形例は、適宜に組み合わせるようにしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明は、サイトップ(登録商標)などの紫外光透過性高分子材料の表面微細加工に利用することができ、例えば、サイトップ(登録商標)などの紫外光透過性高分子材料を母材とした200nm以上の深紫外波長域を用いる光学素子やマイクロデバイスの作製に利用されるものである。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】図1は、サイトップ(登録商標)の分子構造である。
【図2】図2は、本発明による紫外光透過性高分子材料のエッチング方法を実施するためのエッチング装置の概念構成説明図である。
【図3】図3は、光デバイスに用いられる一般的な石英ガラスの光透過特性と被加工物たるサイトップ(登録商標)の光透過特性とを比較するためのグラフであり、石英ガラスとサイトップ(登録商標)との波長230nm以上の紫外域から750nmの近赤外域までに対する光透過特性が示されている。
【図4】図4(a)は繰り返し周波数1HzのKrFエキシマレーザー光をレーザーフルエンス3J/cmで10パルスだけ被加工物に照射し、図4(b)は繰り返し周波数1HzのArFエキシマレーザー光をレーザーフルエンス2J/cmで10パルスだけ被加工物に照射し、図4(c)は繰り返し周波数1kHzのフェムト秒レーザー光をレーザーフルエンス8.3×1017W/cmで被加工物に照射した場合における、被加工物の表面の加工領域の光学顕微鏡による表面観察像たる光学顕微鏡写真である。
【図5】図5(a)(b)は、被加工物の表面にエッチング装置によりFレーザー光を157mJ/cmで10パルス照射してエッチングしたときの状態を示し、図5(a)はその加工領域の光学顕微鏡写真であり、図5(b)は原子間力顕微鏡による加工領域の表面観察像である。
【図6】図6は、図3(a)に示す被加工物をKrFエキシマレーザー光で加工した加工領域の波長230〜750nmの光透過特性ならびに図5(a)に示す被加工物をエッチング装置によるFレーザー光で加工した加工領域の波長230〜750nmの光透過特性を示すグラフである。
【図7】図7は、被加工物をエッチング装置によるFレーザー光で加工した際における、加工速度のレーザーフルエンス依存性を示すグラフである。
【図8】図8は、被加工物をエッチング装置によるFレーザー光で加工した際における、加工深さのパルス数依存性を示すグラフである。
【図9】図9(a)(b)(c)(d)(e)は、図8のグラフに示す実験結果を得た実験の際における、異なるパルス数を照射したときの加工領域の光学顕微鏡による表面観察像たる光学顕微鏡写真であって、図9(a)は5パルス照射した場合の光学顕微鏡写真であり、図9(b)は10パルス照射した場合の光学顕微鏡写真であり、図9(c)は15パルス照射した場合の光学顕微鏡写真であり、図9(d)は20パルス照射した場合の光学顕微鏡写真であり、図9(e)は30パルス照射した場合の光学顕微鏡写真である。
【図10】図10(a)は本発明を用いてグレーティング構造を形成する際の実験の概念図であり、図10(b)は実験で作製したグレーティング構造の原子間力顕微鏡表面観察像である。
【図11】図11は、サイトップ(登録商標)にレーザー生成プラズマ支援アブレーション(LIPAA)プロセスを行った後に無電解銅メッキ処理を施したものの表面観察像である。
【図12】図12は、本発明による紫外光透過性高分子材料のエッチング方法を用いて作製されたDNA電気泳動用マイクロデバイスの構成説明図である。
【符号の説明】
【0071】
10 エッチング装置
12 Fレーザー発生装置(F laser)
14 デジタルパルス発生装置(Digital pulse generator)
16 チャンバー
16a 窒素ガス供給部
16b 窒素ガス排出部
18 マスク
20 アッテネーター
22 集光レンズ
24 XYZステージ
26 パワーメーター

【特許請求の範囲】
【請求項1】
波長200〜300nmの深紫外領域において透明な紫外光透過性高分子材料の表面を加工する紫外光透過性高分子材料のエッチング方法において、
波長200〜300nmの深紫外領域において透明な紫外光透過性高分子材料の光吸収端よりも短い波長の短波長レーザー光を、窒素雰囲気中で前記紫外光透過性高分子材料の表面に照射してレーザーアブレーションによりエッチングする
ことを特徴とする紫外光透過性高分子材料のエッチング方法。
【請求項2】
請求項1に記載の紫外光透過性高分子材料のエッチング方法において、
前記紫外光透過性高分子材料は、サイトップ(登録商標)である
ことを特徴とする紫外光透過性高分子材料のエッチング方法。
【請求項3】
請求項1または2のいずれか1項に記載の紫外光透過性高分子材料のエッチング方法において、
前記短波長レーザー光は、波長170nm以下、パルス幅100ns以下、レーザーフルエンス30mJ/cm以上である
ことを特徴とする紫外光透過性高分子材料のエッチング方法。
【請求項4】
請求項3に記載の紫外光透過性高分子材料のエッチング方法において、
前記短波長レーザー光は、波長157nmである
ことを特徴とする紫外光透過性高分子材料のエッチング方法。
【請求項5】
請求項4に記載の紫外光透過性高分子材料のエッチング方法において、
前記短波長レーザー光は、Fレーザー光である
ことを特徴とする紫外光透過性高分子材料のエッチング方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図12】
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【図4】
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【図5】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2007−70427(P2007−70427A)
【公開日】平成19年3月22日(2007.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−257373(P2005−257373)
【出願日】平成17年9月6日(2005.9.6)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2005年3月29日 社団法人応用物理学会発行の「2005年(平成17年)春季 第52回 応用物理学関係連合講演会講演予稿集 第0分冊」に発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2005年4月8日 社団法人高温学会主催の「The 6th International Symposium on Laser Precision Microfabrication」において文書をもって発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成17年5月25日 レーザ加工学会発行の「第63回 レーザ加工学会講演論文集」に発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成17年6月14日 インターネットアドレス(http://www.jlps.gr.jp/en/proc/lpm/05/index.htm)にて発表
【出願人】(503359821)独立行政法人理化学研究所 (1,056)
【Fターム(参考)】