説明

紫外線照射による室温でのナノ粒子の作製方法及びナノ粒子膜

【課題】有機金属化合物を原料として、室温で、簡便、効率よくナノ粒子を作製する方法及びその製品を提供する。
【解決手段】ナノメートルサイズの金属化合物ナノ微粒子を製造する方法であって、基板上に成膜した前駆体の有機金属化合物原料膜に200nmより短波長の紫外線を照射することにより粒子の生成及び粒子径の増大を図り、粒径がナノメートルサイズのナノ粒子を製造することを特徴とする金属化合物ナノ粒子の製造方法、及びそのナノ粒子膜。
【効果】本発明により、低温、特に室温で、粒径の制御されたナノメートルサイズのナノ粒子及びナノ結晶膜を作製することが実現可能であり、高い機能性を有するナノ材料の提供並びにその作製プロセスの効率化に貢献できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高機能無機材料製造のためのナノ粒子の製法に関するものであり、更に詳しくは、基板上に塗布した膜に紫外線を照射することによって、室温で、簡便、効率よくナノ粒子を作製する方法及びそのナノ粒子膜に関するものである。本発明は、有機光高度部材、高誘電率絶縁材料、太陽電池材料、センサー、触媒、磁性材料、光触媒材料等の機能性材料への幅広い応用が可能なナノ粒子に関する新技術及び製品を提供するものである。
【背景技術】
【0002】
ナノメートルサイズのナノ粒子は、対応するバルク材とは異なる物理的、化学的特性を有している。例えば、ナノ粒子ではバルク材に比べて融点や焼結温度等が低下したり、強度が向上したりといった特性を有していることが広く知られ、更に、粒子サイズに依存してその特性が制御できるため、高機能化が期待できる新しい機能性材料として研究開発が精力的に進められている。
【0003】
これまでに報告されている超微粒子の調製法としては、コロイド化学的手法やゾルゲル法等のような化学的な液相プロセスによる方法、有機金属化合物の熱分解法、金属塩化物の還元・酸化・窒化法のような化学的な気相プロセスによる方法、スパッタリング法、金属蒸気合成法等による物理的な方法等、様々な方法が提案されているが、その多くは加熱焼成過程を必要としていた(特許文献1−3参照)。
【0004】
このような状況の中、加熱焼成過程を必要としないナノ粒子の調製方法も提案されており、例えば、レーザーアブレーション法を利用して室温で金属酸化物ナノ粒子を製造する方法(特許文献4参照)や、基板上に配置された金属化合物粒子に室温で電子線を照射することによりナノ粒子を製造する方法(特許文献5参照)等が報告されている。
【0005】
一方、本発明者らは、これまでに、紫外線照射プロセスを利用した金属酸化物系薄膜材料の研究開発に携わっており、紫外線照射を用いることにより、紫外線照射を用いない従来法よりも焼成温度の低温化を実現できること、更に、膜の表面微構造、結晶性の制御ができることを見いだして来ている(特許文献6−7参照)。しかし、これまで、200nm以下の短波長の紫外線照射による粒子の生成及び粒子径の増大によるナノメートルサイズのナノ粒子の作製については知られていない。
【0006】
【特許文献1】特表2005−532897号公報
【特許文献2】特開2002−255515号公報
【特許文献3】特開2001−261334号公報
【特許文献4】特開2003−306319号公報
【特許文献5】特許第3696371号公報
【特許文献6】特許第3845718号公報
【特許文献7】特開2004−224603号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このような状況の中で、本発明者らは、上記従来技術に鑑みて、より簡便、効率よく、焼成なしでナノ粒子を調製する方法を開発することを目標として鋭意研究を重ねた結果、基板上に作製した膜に高エネルギーの紫外線を照射することによって、室温で、簡便、効率よくナノ粒子を作製できる方法の開発に成功し、本発明を完成するに至った。本発明は、基板上に塗布した膜に紫外線を照射することによって、室温で、簡便、高効率で結晶性乃至非結晶性のナノ粒子を作製する方法及び高機能無機材料として有用なナノ粒子膜を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するための本発明は、以下の技術的手段から構成される。
(1)ナノメートルサイズの金属化合物ナノ微粒子を製造する方法であって、基板上に成膜した前駆体の有機金属化合物原料膜に200nmより短波長の紫外線を照射することにより粒子の生成及び粒子径の増大を図り、粒径がナノメートルサイズのナノ粒子を製造することを特徴とする金属化合物ナノ粒子の製造方法。
(2)高エネルギーのエキシマーランプを用いた紫外線照射法により、粒径がナノメートルサイズのナノ粒子を、室温で製造する、前記(1)に記載の方法。
(3)紫外線照射時間により粒子径の制御を行う、前記(1)又は(2)に記載の方法。
(4)基板の種類により粒子径の制御を行う、前記(1)又は(2)に記載の方法。
(5)製造されるナノ粒子が結晶性あるいは非結晶性のものである、前記(1)又は(2)に記載の方法。
(6)200nmより短波長の紫外線を放射できる紫外線ランプを用いた紫外線照射法を用いて、ナノ粒子を製造する、前記(1)に記載の方法。
(7)成膜した前駆体膜に対する紫外線照射により、得られるナノ粒子の吸収端を長波長シフトさせる、前記(1)又は(2)に記載の方法。
(8)金属化合物のバンドギャップが5.0eVより大きく、該金属化合物が、ZrO、Al、MgO、SiO、HfO、CeO、又はYである、前記(1)に記載の方法。
(9)基板として、金属、半導体、金属酸化物、ガラス、又は高分子の基板を用いる、前記(1)に記載の方法。
(10)ナノ粒子をナノ結晶膜として製造する、前記(1)又は(2)に記載の方法。
(11)用いる基板の種類によって基板と膜との密着性を制御する、前記(1)に記載の方法。
(12)基板上に成膜した有機金属化合物原料膜に対する200nmより短波長の紫外線照射により結晶性の粒子を形成し、粒子径を増大させてなる、非焼成膜で、表面の平滑性が保たれており、所定の範囲のナノメートルサイズに制御された粒子径を有するナノ結晶性粒子膜。
【0009】
次に、本発明について更に詳細に説明する。
本発明は、ナノメートルサイズの金属化合物ナノ微粒子を製造する方法であって、基板上に成膜した前駆体の有機金属化合物原料膜に200nm以下の短波長の紫外線を照射することにより粒子の生成及び粒子径の増大を図り、粒径がナノメートルサイズのナノ粒子を製造することを特徴とするものであり、基板に塗布した膜を用いること、更に、基板に塗布した膜に紫外線を照射し、室温下で製造することを特徴とする、新規なナノ粒子の製造技術に関するものである。
【0010】
本発明において、先ず、基板上に塗布する膜を作製するための原料としては、金属アルコキシド、例えば、ジルコニウムテトラブトキシド、ジルコニウムテトラプロポキシド、ジルコニウムテトラエトキシド等が挙げられるが、光照射効果が著しく、反応速度が遅いジルコニウムテトラ−n−ブトキシドが好適なものとして例示される[文献:K.Nishizawa,T.Miki,K.Suzuki and K.Kato,Key Eng.Mater.,147,228(2002)、Y.Masuda,T.Sugiyama,H.Lin,W.S.Seo,K.Koumoto,Thin Solid Films,382,153(2001)]。
【0011】
また、本発明では、テトラエトキシシラン、アルミニウムイソプロポキシド等、他の同様の金属アルコキシドを用いることができる。更に、成膜するにあたり、金属アルコキシドと同等の効果を示す金属アセチルアセトナート、例えば、ジルコニウムアセチルアセトナート、ハフニウムアセチルアセトナート等の有機金属化合物を用いることもできる。
【0012】
用いる有機溶媒としては、上記有機金属化合物を溶解することができ、反応生成物が沈殿することなく安定に存在しうるもので、かつ、成膜に用いる基板を溶解せず、揮発しやすいものであればよく、例えば、2−メトキシエタノールが好適なものとして例示される。しかし、これに制限されるものではなく、これと同効のものであれば同様に使用することができ、例えば、1−ブタノール、エタノール等のアルコール系溶媒が例示される。
【0013】
次に、前記した原料、溶媒を用いて成膜用の前駆体溶液を調製する。調製溶液の濃度は任意に設定でき、濃度によって成膜後の膜厚を制御することが可能となる。例えば、ジルコニウムテトラ−n−ブトキシドと2−メトキシエタノールを用いて10nm程度の薄膜を作製するためには、例えば、0.1mol/lの溶液濃度が好適なものとして例示される。
【0014】
更に、前記のように調製した前駆体溶液に水を添加して加水分解、重縮合反応を行うが、水の添加量によって重縮合反応率を制御できるため、それにより最終生成物である粒子サイズを制御可能である。従って、水は任意の量を添加できるが、過剰に添加すると加水分解重縮合反応が進行しすぎ、沈殿が生じてしまう危険性があるため、例えば、アルコキシド1に対してモル比0−4の水を添加する方法が好適なものとして例示される。
【0015】
次に、前記のように調製した前駆体溶液を用いて膜を作製する。この場合、コーティング方法としては、例えば、ディップコーティング、スピンコーティング、印刷法等が好適なものとして例示されるが、これらに限らず、同様の方法であれば適宜の方法を利用することができる。
【0016】
用いる基板としては、特に制限されることはなく、例えば、金Au、白金Pt、アルミニウムAl等の金属、シリコンSi等の半導体、マグネシアMgO、アルミナAl等の金属酸化物、クオーツSiO等のガラス、ポリエチレンテレフタレートPET、ポリイミドPI等の高分子のような、任意の基材を使用することができる。
【0017】
更に、用いる基板の種類によって粒子生成に対する効果が違うため、それにより粒径の制御が可能となる。また、膜との密着性が違うため目的に応じて基板を選択することができ、それにより、基板と膜との密着性を制御すること、基板と膜との密着性を任意に変えた材料を作製することができる。
【0018】
次に、前述のように成膜した膜への紫外線照射処理を行う。使用する光源としては、高エネルギーである200nm以下の短波長の紫外線を放射できる紫外線ランプを用いることが可能であり、例えば、好適なランプとして172nmの波長の紫外線を放射するエキシマーランプが例示される。この他の照射条件は任意に設定でき、照射時間、照射雰囲気ガス、照射時の基板温度、照射時の湿度等によって生成する粒子の粒径が制御可能となる。また、用いる原料溶液の種類によっても反応時間、粒径の制御が可能となる。
【0019】
本発明の方法は、Al、MgO、SiO、HfO、CeO、Y等に代表されるバンドギャップが5.0eV以上の金属酸化物微粒子の場合に広く適用することが可能であり、一例として、例えば、ZrO微粒子の場合に好適に用いられるが、これに限らず、用いる原料によっては金属微粒子、窒化物微粒子の製造にも適用可能である。
【0020】
このように、本発明は、任意の基板上に作製した膜に、高エネルギーである200nm以下の短波長の紫外線を放射できる紫外線ランプを用いて紫外線照射するだけで、室温で、簡便にナノ粒子を作製できる、これまでにない画期的な方法である。
【0021】
本発明により、用いる基板の種類によって基板と膜との密着性を制御した膜を提供することができる。本発明のナノ結晶性粒子膜は、基板上に成膜した有機金属化合物原料膜に対する200nm以下の短波長の紫外線照射により室温で結晶性の粒子を形成し、粒子径を増大させてなる、非焼成膜であること、室温レベルの低温条件での粒子径の制御により所定の範囲のナノメートルサイズの粒子径を有すること、膜表面にクラックの生成がないこと、粒子サイズが大きくなっても表面の平滑性が保たれており、表面平滑性の指標の1つである自乗平均面粗さ(RMS)の値が3nm程度以下である表面平滑な膜であること、で特徴付けられる。
【発明の効果】
【0022】
本発明により、次のような効果が奏される。
(1)低温、特に室温で、ナノメートルサイズのナノ粒子を作製することができる。
(2)廉価で簡便、安全管理上の規制のない取り扱い容易な小型の装置のみで、ナノメートルサイズのナノ粒子を作製することができる。
(3)高い機能性を有するナノ材料の作製プロセスの効率化に貢献できる。
(4)本発明により得られるナノ粒子は、ナノ結晶膜としても利用可能であり、各種デバイスや機能集積材料への応用展開にも寄与できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
次に、実施例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例によって何ら限定されるものではなく、実施例に具体的に示した方法及び条件に準じて他の材料についても同様のナノ粒子を作製することが可能である。
【実施例1】
【0024】
(1)方法
窒素雰囲気下のグローブボックス中で、ジルコニウムテトラ−n−ブトキシド(Zr(O−n−C or Zr(O−n−Bu))をエチレングリコールモノメチルエーテル(EGMME)に対して0.1mol/l濃度になるように溶解し、その後、130℃のオイルバス中で3時間還流した。その後、室温まで冷却し、溶液に対して0.1mol/l濃度になるようEGMMEで10倍に希釈したHOを加え、そのまま一晩撹拌した。これを薄膜作製用の前駆体溶液としてSiOガラス基板にスピンコーティングした後、得られた薄膜の表面を原子間力顕微鏡(AFM,SPI3800N,Seiko Instruments,Inc.,Tokyo,JAPAN)により観察した。
【0025】
(2)結果
図1(a),(b)に、紫外線照射をしていないSiOガラス上に成膜直後の膜の表面観察図を示した。また、図1(c),(d)に成膜2週間後、図1(e),(f)に成膜1ヶ月後の膜の表面観察図を示した。成膜しただけの膜はゲル状の膜であり、粒子の形成は認められなかった。また、成膜直後は均質で平滑な膜であったが、時間経過とともに徐々に重縮合・乾燥が進むと、表面にクラックが生じることが分かった(図1(c)−(f))。
【実施例2】
【0026】
(1)方法
窒素雰囲気下のグローブボックス中で、ジルコニウムテトラ−n−ブトキシド(Zr(O−n−C or Zr(O−n−Bu))をエチレングリコールモノメチルエーテル(EGMME)に対して0.1mol/l濃度になるように溶解し、その後、130℃のオイルバス中で3時間還流した。その後、室温まで冷却し、溶液に対して0.1mol/l濃度になるようEGMMEで10倍に希釈したHOを加え、そのまま一晩撹拌した。
【0027】
これを薄膜作製用の前駆体溶液としてSiOガラス基板にスピンコーティングした後、エキシマーランプ(UER20−172B,Ushio Co.Ltd.,Tokyo,Japan,波長:172nm,放射照度:10mW/cm)を用いて、室温下、N雰囲気下で所定時間紫外線照射を行った。
【0028】
得られた薄膜の表面を原子間力顕微鏡(AFM,SPI3800N,Seiko Instruments,Inc.,Tokyo,JAPAN)により観察した。更に、得られた薄膜の結晶化度を可視紫外線分光分析装置(UV−Vis,U−4100,HITACHI,Co.Ltd.,Tokyo,Japan)を用いて評価した。
【0029】
(2)結果
図2(a)−(c)に、エキシマーランプを用いて45分間紫外線照射をしたSiOガラス上の膜の表面観察図を示した。紫外線を照射することによって表面に粒子が生成する様子が観察され、表面粒子径は10nm程度であることが分かった。
【0030】
図3(a)−(c)に、エキシマーランプを用いて90分間紫外線照射をしたSiOガラス上の膜の表面観察図を示した。紫外線照射時間を長くすることによって表面に生成する粒子が成長する様子が観察された。この場合の表面粒子径は40nm程度であることが分かった。
【0031】
図4(a)−(c)に、エキシマーランプを用いて120分間紫外線照射をしたSiOガラス上の膜の表面観察図を示した。紫外線照射時間を更に長くすることによって表面に生成する粒子が増大する様子が観察された。この場合の表面粒子径は120nm程度であることが分かった。
【0032】
図5に、上記したようなSiOガラス上に紫外線照射をして作製した薄膜、及び紫外線照射をせず400℃で焼成した薄膜の紫外線吸収スペクトルを示した。紫外線照射及び加熱焼成せずに成膜した薄膜のZr−O由来の吸収端は220nmであったが、エキシマーランプを用いて45分間、90分間、120分間紫外線照射をした3種類の膜の吸収端は、それぞれ220、222、222nmであり、わずかではあるが照射時間が長くなると長波長シフトしていることが分かった。
【0033】
これまでに、結晶性が低下するとバンドギャップ由来の吸収端が短波長シフトするという結果が報告されている[文献:F.Lenzmann,V.Shklover,K.Brooks,M.Gratzel,J.Sol−Gel.Sci.Technol.,19,175(2000)]。この知見を元に考えると、エキシマーランプを用いて紫外線を照射することにより、薄膜の結晶化度が向上する可能性があると考えられる。しかし、紫外線を照射せず400℃で焼成した薄膜の吸収端は237nmであり、この薄膜と比較すると、紫外線を照射しただけのこれらの膜の吸収端はかなり短波長側であることが分かった。
【実施例3】
【0034】
(1)方法
窒素雰囲気下のグローブボックス中で、ジルコニウムテトラ−n−ブトキシド(Zr(O−n−C or Zr(O−n−Bu))をエチレングリコールモノメチルエーテル(EGMME)に対して0.1mol/l濃度になるように溶解し、その後、130℃のオイルバス中で3時間還流した。その後、室温まで冷却し、溶液に対して0.1 mol/l濃度になるようEGMMEで10倍に希釈したHOを加え、そのまま一晩撹拌した。
【0035】
これを薄膜作製用の前駆体溶液としてSi(100)基板にスピンコーティングした後、エキシマーランプ(UER20−172B,Ushio Co.Ltd.,Tokyo,Japan,波長:172nm,放射照度:10mW/cm)を用いて、室温下、N雰囲気下で120分間紫外線照射を行った。
【0036】
得られた薄膜の表面を原子間力顕微鏡(AFM,SPI3800N,Seiko Instruments,Inc.,Tokyo,JAPAN)により観察した。更に、同様の紫外線を用いたコーティングを5回繰り返し、X線回折法(XRD,RINT2100V/PC,Rigaku Co.Ltd.,Tokyo,Japan)により得られた薄膜の結晶構造の解析を行った。CuKα線を用い、加速電圧、電流はそれぞれ40kV,40mAであった。
【0037】
(2)結果
図6(a)〜(c)に、エキシマーランプを用いて120分間紫外線照射をしたSi(100)基板上の膜の表面観察図を示した。SiOガラスを用いたときと同様に表面に粒子が生成していることが分かった。しかし、粒子の大きさは30nm程度であり、SiOガラス上での粒成長速度よりも遅いことが確認された。
【0038】
図7に、Si(100)基板上に成膜後、エキシマーランプを用いて120分間紫外線照射をした膜を5回積層した後で測定したX線回折図を示した。基板のSiに帰属されるピーク以外にジルコニアの(200)(220)のピークが認められ、生成した粒子は結晶性の粒子であることが確認された。
【実施例4】
【0039】
(1)方法
窒素雰囲気下のグローブボックス中で、ジルコニウムテトラ−n−ブトキシド(Zr(O−n−C or Zr(O−n−Bu))をエチレングリコールモノメチルエーテル(EGMME)に対して0.1mol/l濃度になるように溶解し、その後、130℃のオイルバス中で3時間還流した。その後、室温まで冷却し、溶液に対して0.1 mol/l濃度になるようEGMMEで10倍に希釈したHOを加え、そのまま一晩撹拌した。
【0040】
これを薄膜作製用の前駆体溶液としてポリエチレンテレフタレート(PET)基板にスピンコーティングした後、エキシマーランプ(UER20−172B,Ushio Co.Ltd.,Tokyo,Japan,波長:172nm,放射照度:10mW/cm)を用いて、室温下、N雰囲気下で120分間紫外線照射を行った。得られた薄膜の表面を原子間力顕微鏡(AFM,SPI3800N,Seiko Instruments,Inc.,Tokyo,JAPAN)により観察した。
【0041】
(2)結果
図8(a)〜(c)に、エキシマーランプを用いて120分間紫外線照射をしたPET基板上の膜の表面観察図を示した。SiOガラス、Si(100)基板を用いたときと同様に表面に粒子が生成していることが分かった。しかし、粒子の大きさは10nm以下ととても小さく、SiOガラス、Si(100)基板上での粒成長速度よりもかなり遅いことが確認された。
【実施例5】
【0042】
(1)方法
窒素雰囲気下のグローブボックス中で、ジルコニウムテトラ−n−ブトキシド(Zr(O−n−C or Zr(O−n−Bu))をエチレングリコールモノメチルエーテル(EGMME)に対して0.1mol/l濃度になるように溶解し、その後、130℃のオイルバス中で3時間還流した。その後、室温まで冷却し、溶液に対して0.1mol/l濃度になるようEGMMEで10倍に希釈したHOを加え、そのまま一晩撹拌した。これを薄膜作製用の前駆体溶液としてポリイミド(PI)基板にスピンコーティングした後、エキシマーランプ(UER20−172B,Ushio Co.Ltd.,Tokyo,Japan,波長:172nm,放射照度:10mW/cm)を用いて、室温下、N雰囲気下で120分間紫外線照射を行った。
【0043】
得られた薄膜の表面を原子間力顕微鏡(AFM,SPI3800N,Seiko Instruments,Inc.,Tokyo,JAPAN)により観察した。更に、エキシマーランプを用いて120分間紫外線照射した後の、基板の違う4種類の薄膜に荷重をかけ、膜の剥離が起こった時点でかかっていた荷重値(臨界剥離荷重値)を超薄膜スクラッチ試験機(CSR−2000,Rhesca Co.Ltd.,Tokyo,Japan、使用針:R15&R5μm)を用いて測定し、膜と基板との密着強度を評価した。
【0044】
(2)結果
図9(a)〜(c)に、エキシマーランプを用いて120分間紫外線照射をしたPI基板上の膜の表面観察図を示した。PET基板を用いたときと同様に表面に粒子が生成していることが分かった。粒子の大きさは30nm程度で、Si(100)基板を用いた場合とほぼ同じくらいの粒成長速度であった。同じ高分子基板のPETより粒成長速度は速く、SiOガラス基板より遅いことが確認された。
【0045】
図10に、各基板上に作製した膜の基板に対する密着性を評価するための臨界剥離荷重値を示した。PET上に作製した膜の臨界剥離荷重値は10.8mN、同じく高分子基板であるPI上に作製した膜の値は26.2mNであり、PIの方が密着強度が強いことが分かった。一方、Si(100)基板の場合には、200mNの荷重をかけても膜は剥離せず、かなり強固に基板に密着していることが分かった。
【0046】
剥離強度を上げるために、膜を剥離するための針の径を1/3のR5μmに換えて再測定した結果、59.6mNの荷重をかけたときにようやく剥離が起こることが分かった。更に、SiOガラス基板の場合には、Si(100)基板の場合と同様、R15μmの針を用いたときには200mNの荷重をかけても膜は剥離せず、かなり強固に基板に密着していることが分かった。針をR5μmに換えて再測定した結果、97.3mNの荷重をかけたときにようやく剥離が起こり、用いた4種類の基板の中では膜との密着強度が一番強いことが分かった。
【0047】
以上の結果から、基板上に作製した前駆体の有機金属化合物原料膜にエキシマーランプを用いて紫外線照射することにより、基板上に粒子を生成させることができることが明らかとなった。また、用いる基板の種類、照射条件により粒子の成長速度を制御でき、粒径を所定のナノメートルサイズに制御できること、更に、条件によっては、結晶性の粒子を作製することが可能であることも明らかとなった。加えて、用いる基板の種類によって膜との密着性を制御できることも明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0048】
以上詳述したように、本発明は、紫外線照射による室温でのナノ粒子の作製方法及びナノ粒子膜に係るものであり、本発明により、高機能性材料製造のための基盤技術であるナノ粒子の製法及びナノ粒子膜を提供することができる。本発明のナノ粒子膜は、有機光高度部材、例えば、光スキャナ、光バッテリー、光センサ、光タグ、光グラフィックス、光シール、光テープ、光RFIDタグ、光パノラマスキャナ等の開発への適用が可能である。また、本発明は、この他、高誘電率絶縁部材、低誘電率絶縁部材、ガスバリア材、ゲッター材、太陽電池部材、透明電極部材、保護膜部材、強誘電体メモリ、集積化圧電デバイス、集積型センサー、触媒、磁性体等への幅広い適用が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】SiOガラス基板にスピンコーティングした薄膜の表面観察図を示す。(a),(b):成膜直後、(c),(d):成膜2週間後、(e),(f):成膜1ヶ月後。
【図2】SiOガラス基板上にスピンコーティング後、エキシマーランプを用いて45分間紫外線照射した薄膜の表面観察図を示す。
【図3】SiOガラス基板上にスピンコーティング後、エキシマーランプを用いて90分間紫外線照射した薄膜の表面観察図を示す。
【図4】SiOガラス基板上にスピンコーティング後、エキシマーランプを用いて120分間紫外線照射した薄膜の表面観察図を示す。
【図5】SiOガラス基板上にスピンコーティングした薄膜の紫外線吸収スペクトルを示す。細い実線:コーティング直後の膜、細線でドットの細かい点線:エキシマーランプにて45分間紫外線照射した後の膜、細線でドットの粗い点線:エキシマーランプにて90分間紫外線照射した後の膜、太い点線:エキシマーランプにて120分間紫外線照射した後の膜、太い実線:紫外線照射をせず400℃で焼成した膜。
【図6】Si(100)基板上にスピンコーティング後、エキシマーランプを用いて120分間紫外線照射した薄膜の表面観察図を示す。
【図7】Si(100)基板上にスピンコーティング後、エキシマーランプを用いて120分間紫外線照射した薄膜を5回積層した後に測定したX線回折図を示す。
【図8】PET基板上にスピンコーティング後、エキシマーランプを用いて120分間紫外線照射した薄膜の表面観察図を示す。
【図9】PI基板上にスピンコーティング後、エキシマーランプを用いて120分間紫外線照射した薄膜の表面観察図を示す。
【図10】4種類の基板上にスピンコーティング後、エキシマーランプを用いて120分間紫外線照射した薄膜の臨界剥離荷重値を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナノメートルサイズの金属化合物ナノ微粒子を製造する方法であって、基板上に成膜した前駆体の有機金属化合物原料膜に200nmより短波長の紫外線を照射することにより粒子の生成及び粒子径の増大を図り、粒径がナノメートルサイズのナノ粒子を製造することを特徴とする金属化合物ナノ粒子の製造方法。
【請求項2】
高エネルギーのエキシマーランプを用いた紫外線照射法により、粒径がナノメートルサイズのナノ粒子を、室温で製造する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
紫外線照射時間により粒子径の制御を行う、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
基板の種類により粒子径の制御を行う、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項5】
製造されるナノ粒子が結晶性あるいは非結晶性のものである、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項6】
200nmより短波長の紫外線を放射できる紫外線ランプを用いた紫外線照射法を用いて、ナノ粒子を製造する、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
成膜した前駆体膜に対する紫外線照射により、得られるナノ粒子の吸収端を長波長シフトさせる、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項8】
金属化合物のバンドギャップが5.0eVより大きく、該金属化合物が、ZrO、Al、MgO、SiO、HfO、CeO、又はYである、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
基板として、金属、半導体、金属酸化物、ガラス、又は高分子の基板を用いる、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
ナノ粒子をナノ結晶膜として製造する、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項11】
用いる基板の種類によって基板と膜との密着性を制御する、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
基板上に成膜した有機金属化合物原料膜に対する200nmより短波長の紫外線照射により結晶性の粒子を形成し、粒子径を増大させてなる、非焼成膜で、表面の平滑性が保たれており、所定の範囲のナノメートルサイズに制御された粒子径を有するナノ結晶性粒子膜。

【図5】
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【図7】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図6】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2008−212849(P2008−212849A)
【公開日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−54831(P2007−54831)
【出願日】平成19年3月5日(2007.3.5)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)経済産業省「平成18年度 地域新生コンソーシアム研究開発事業(自己整合技術を用いた有機光高度機能部材の開発)」産業活力再生特別措置法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】