説明

紫外線照射装置及び紫外線照射方法

【課題】発光ダイオードの温度上昇に対応して電流値を下げることで、発光ダイオード自体の発熱を抑制して紫外線硬化に必要な照度を維持する紫外線照射装置を提供すること。
【解決手段】半導体ウエハWに貼付された紫外線硬化型接着剤層Aを有する接着シートSを被照射体として紫外線を照射する発光ダイオード23と、当該発光ダイオード23の温度を検知する温度センサ27と、前記発光ダイオード23の電流値Iを制御する制御手段28とを備えて紫外線照射装置10が構成されている。制御手段28は温度センサ27からの温度データTDに基づいて電流値Iを下げる制御を行うことで、発光ダイオード23自体の発熱を抑制して必要照度を維持するようになっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は紫外線照射装置に係り、更に詳しくは、発光ダイオードを用いた紫外線照射装置及び紫外線照射方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体ウエハ(以下、単に、「ウエハ」と称する)の処理装置においては、例えば、ウエハの回路面に保護用の接着シートを貼付したり、接着シートを介してリングフレームと一体化した状態で所定処理することが行われている。このような接着シートは、基材シートの一方の面に紫外線硬化型の接着剤層が設けられており、所定処理が行われた後、紫外線照射装置により前記接着剤層を硬化させることによって、接着力を弱めて被着体から簡単に剥離ができるようになっている。
【0003】
前記紫外線照射装置としては、例えば、特許文献1に記載されているように、筐体内に紫外線発光ダイオードを設け、当該発光ダイオードから紫外線を被照射体に照射する構成が知られている。
【0004】
【特許文献1】特開2006−142186号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
紫外線発光ダイオードは、発光することによってダイオード自体が発熱し、この熱によって照度が急激に低下するという特性がある。このような特性を有する発光ダイオードを用いて、ウエハに貼付された紫外線硬化型の接着剤層を有する接着シートに紫外線を照射した場合、図5に示されるように、前記接着剤層の硬化に必要な照射時間(スキャンタイム)を経過する前に照度が必要照度を下回ってしまうことがある。このような場合、照度が必要照度以下となった時点から、接着剤層の硬化が不十分となる領域を発生してしまうこととなり、接着シートをウエハから剥離する際の剥離容易性を妨げることとなる。
このような発熱を防止する場合、特許文献1に記載されるような冷却装置を用いることも可能であるが、同文献1の紫外線照射装置は、発光ダイオードを支持する筐体に空気を送風して雰囲気温度を下げるものであり、光源自体の発熱を抑制するものではない点で根本的な解決策とはならない。特に、被照射体が貼付されるウエハは近年大型化してきており、400mmを超える直径を備えたものが照射対象となる。そのため、1枚のウエハに必要となる紫外線照射時間も長くなるため、特許文献1の装置では対応できず、必要な紫外線照射時間の経過前に必要照度を下回ってしまう、という不都合は解消し得ないものとなる。
【0006】
[発明の目的]
本発明は、前述した不都合に着目して案出されたものであり、その目的は、発光ダイオード自体の発熱を抑制して必要照度を維持することのできる紫外線照射装置を提供することにある。
また、本発明の他の目的は、冷却装置を設けることなく発光ダイオードの発熱を抑制しつつ要求照度を維持することができ、装置構成の簡易化を達成することのできる紫外線照射装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するため、本発明は、被照射体に紫外線を照射する発光ダイオードと、当該発光ダイオードの温度を検知する温度検知手段と、前記発光ダイオードを制御する制御手段とを備え、前記制御手段は、前記温度検知手段からの温度データに基づいて前記発光ダイオードの電流値を制御する、という構成を採っている。
【0008】
本発明において、前記発光ダイオードの照度を検知する照度検知手段を更に含む、という構成を採ることもできる。
【0009】
また、前記発光ダイオードは、相互に独立制御される複数の発光帯を形成し、前記制御装置は、前記複数の発光帯からの紫外線照射を選択的に行うように制御するとともに、紫外線照射が行われている発光帯の照度が所定照度に達したときに当該発光帯の発光を停止して別異の発光帯を発光させる、という構成を採ることもできる。
【0010】
更に、本発明は、発光ダイオードによって被照射体に紫外線を照射する紫外線照射方法において、前記紫外線を照射しているときの発光ダイオードの温度を検知し、当該検知された温度データに基づいて前記発光ダイオードに対する電流値を制御する、という手法を採っている。
【0011】
前記紫外線照射方法において、前記発光ダイオードの照度を更に検知し、当該照度データに基づいて制御される、という手法を採るとよい。
【0012】
また、前記方法において、前記紫外線照射は、複数の発光ダイオードからなる複数の発光帯を選択的に発光させることにより行われ、紫外線を照射している1の発光帯の照度が所定照度に達したときに、当該発光帯からの紫外線照射を停止し、他の発光帯から紫外線を照射する、という手法を採ることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、温度検知手段からの温度データに基づいて、発光ダイオードに供給する発熱の要因である電流値を制御する構成としたことで、特別な冷却装置を設けなくても、発光ダイオード自体の発熱を抑制して、必要とされる照度を長時間に亘って維持することができる。これにより、図4に示されるように、1枚のウエハに必要な照射時間内において、必要照度を下回ることがなくなり、被照射体に対して効果的な紫外線の照射が可能となる。また、冷却装置を必要としないため、装置の小型化をも達成することができる。
更に、照度検知手段を含む構成とすれば、必要とされる紫外線の照度をリアルタイムで検知できるため、必要照度を下回って被照射体に紫外線が照射されたとき、それを検知することができる。
また、紫外線発光ダイオードによって複数の発光帯を備えた構成によれば、照度検知手段のデータを基に、紫外線照射を行うべき発光帯を順次切り替えて照射することが可能となり、被照射体が大型化しても必要照度を保って紫外線照射を行うことが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。
【0015】
図1には、本実施形態に係る紫外線照射装置の概略正面図が示されている。同図において、紫外線照射装置10は、ウエハWを吸着保持するウエハ支持部11と、当該ウエハ支持部11を図1中左右方向に移動可能に支持する移動手段12と、ウエハ支持部11の移動方向上方に配置された紫外線照射部13とを備えて構成されている。
【0016】
前記ウエハ支持部11は、図2に示されるように、平面形状が略方形に設けられたテーブル15により構成されており、当該テーブル15は、上面側がウエハWの吸着保持面として構成されている。なお、ウエハWには、その上面側(回路面側)に紫外線硬化型接着剤層Aと基材シートBとからなる被照射体としての接着シートSが貼付されており、当該接着シートSは、紫外線硬化型接着剤層Aが硬化されることにより、ウエハWから容易に剥離可能となっている。
【0017】
前記移動手段12は、前記テーブル15の下面側に設けられたスライダ17を介してテーブル15の図1中左右方向への移動をガイドする一対のガイドレール18と、これらガイドレール18間に配置されるとともに、テーブル15の下面側に設けられたナット部材20を貫通し、左端が回転軸受22に支持された送りねじ軸21と、当該送りねじ軸21の右端に連結されてテーブル15を移動可能とするモータMとを含む。
【0018】
前記紫外線照射部13は、図2に示されるように、複数の発光ダイオード23を備えた2つの基板24と、これら基板24を一体的に支持する支持フレーム26と、前記発光ダイオード23の温度を検知する温度検知手段としての温度センサ27と、当該温度センサ27から出力される温度データTDを入力として電流値Iを制御する制御手段28とを備えて構成されている。ここで、図1中左側の基板24に支持された一群の発光ダイオード23により第1発光帯30が形成される一方、同図中右側の基板24に支持された一群の発光ダイオード23により第2発光帯31が形成されている。本実施形態では、これら第1と第2発光帯30、31が選択的に発光するように制御可能に設けられている。各発光帯30、31における発光ダイオード23の配列は、各列において隣り合っている発光ダイオード23間に、隣接する列の発光ダイオード23の一部が位置するように配置されている。また、各発光帯30、31の長さ(図2中上下方向長さ)及び発光ダイオード23の個数等は、ウエハWの直径に対応して必要とされる照度との対応関係において決定することができる。なお、本実施形態では、第1、第2発光帯30、31は、それぞれ合一的に発光する構成とされているが、各発光帯30、31において、更に細分化した領域に区分して発光領域をON−OFF制御することも可能とされ、接着シートSの大きさや、その他の被照射体の平面形状に応じて発光させるべき領域を選択することができる。
【0019】
前記紫外線照射部13の基板24には、発光ダイオード23群内の所定位置に複数の照度検知手段としての照度センサ16が配置され、これらの照度センサ16から出力される照度データLDが制御手段28に入力される構成となっている。
【0020】
以上の構成において、ウエハWに貼付された接着シートSへの紫外線照射は、テーブル15が紫外線照射部13の下方を移動することによって開始される。すなわち、接着シートSが上側とされたウエハWがテーブル15上に載置されると、当該テーブル15が紫外線照射部13の下方に向かって進行し、所定位置を通過したことが図示しないセンサで検出されると、制御装置28が第1発光帯30を構成する発光ダイオード23を点灯させて紫外線を照射する。このとき、第1発光帯30の温度は温度センサ27によって検知され、当該温度データTDが制御装置28に出力される。また、第1発光帯30の発熱に伴って時間の経過と共に低下する照度は、照度センサ16によって検知され、当該照度データLDが制御手段28に出力される。
【0021】
制御装置28は、温度センサ27からの温度データTDに基づいて発光ダイオード23に対する電流値Iを徐々に下げ、第1発光帯30の発光ダイオード23の発熱を抑制して照度の急激な低下を回避し、長時間に亘って必要照度を上回った紫外線を接着シートSに照射することとなる。しかしながら、例えば直径450mmとなる大型のウエハWの場合には、電流値を徐々に下げたとしても、いずれ必要照度を下回ってしまう場合があるため、第1発光帯30だけで対応することが不可能となる。そこで、制御装置28は、照度センサ16からの照度データLDに基づいて、第1発光帯30による照度が所定照度、すなわち、必要照度プラスα(α値は、使用者が任意に設定することができる)の照度となった時点で、第1発光帯30による紫外線照射を中断すると同時に、第2発光帯31を発光させて紫外線照射を継続的に維持して1枚のウエハに必要な照射時間に亘って紫外線を照射する(図3参照)。なお、第2発光帯31の照度が前記必要照度プラスαに達すると、当該第2発光帯31による紫外線照射を中断すると同時に、再度第1発光帯30を発光させて紫外線照射を継続的に維持することもできる。更に、第1と第2の発光帯30、31の切り替は、オーバラップするように、一方の発光体の発光を中断する前に、他方の発光体を発光するように制御してもよい。
【0022】
その後、ウエハWは図示しない搬送装置によって接着シート剥離装置に搬送され、その表面から接着シートSが剥離されることとなる。このとき、接着シートSの紫外線硬化型接着剤層Aは、紫外線により接着力が弱めているので簡単に剥離が行える。
【0023】
従って、このような実施形態によれば、紫外線照射部13に冷却装置を用いることなく、発光ダイオード23の温度に基づいて電流値Iを制御するため、発光ダイオード23自体の発熱による急激な照度低下を解消し、照度センサ16を設けたことによって、ウエハWに対する照度を不足させることなく紫外線の照射を行うことができる、という効果を得る。
【0024】
以上のように、本発明を実施するための最良の構成、方法等は、前記記載で開示されているが、本発明は、これに限定されるものではない。
すなわち、本発明は、主に特定の実施形態に関して特に図示、説明されているが、本発明の技術的思想及び目的の範囲から逸脱することなく、以上説明した実施形態に対し、形状、位置若しくは配置等に関し、必要に応じて当業者が様々な変更を加えることができるものである。
【0025】
例えば、前記実施形態では、第1、第2発光帯30、31を備え、これら発光帯30、31を選択的に利用する構成を図示説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、1枚のウエハに必要な照射時間が相対的に短くて足りる場合には、何れか一方の発光帯のみを利用し、温度の上昇とともに電流値を降下させて必要照度を維持しつつ紫外線照射を行うようにすることもできる。また、紫外線照射部13は、紫外線照射面積が小さい場合には、単一の発光帯を備えた構成としてよい他、照射面積が大きい場合に対応できるように3つ以上の発光帯を採用することもできる。また、発光帯とは形状を限定するものではなく、2個以上の発光ダイオード23がそれぞれ選択的に発光するように制御可能に設けられていればよい。
【0026】
更に、前記実施形態では、照度センサ16を備えた構成としたが、当該照度センサ16は、必ずしも設けることを要しない。このような場合、温度と照度との相関関係を予めサンプリングして制御装置のメモリに記憶させておけば、温度データのみによって必要照度を維持した紫外線照射を行うことができる。
【0027】
また、本発明が対象とできる被照射体は、接着シートSに限定されるものではなく、紫外線の不完全な硬化領域を発生させない状態で紫外線照射反応を必要とするものであれば適用することを妨げない。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本実施形態に係る紫外線照射装置の概略構成図。
【図2】図1の概略平面図。
【図3】第1発光帯と第2発光帯とを発光させるタイミングを示す線図。
【図4】単一の発光帯を用いた場合の線図。
【図5】従来の不都合を示す線図。
【符号の説明】
【0029】
10 紫外線照射装置
16 照度センサ(照度検知手段)
23 発光ダイオード
27 温度センサ(温度検知手段)
28 制御手段
30 第1発光帯(発光帯)
31 第2発光帯(発光帯)
A 紫外線硬化型接着剤層(被照射体)
I 電流値
S 接着シート(被照射体)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被照射体に紫外線を照射する発光ダイオードと、当該発光ダイオードの温度を検知する温度検知手段と、前記発光ダイオードを制御する制御手段とを備え、
前記制御手段は、前記温度検知手段からの温度データに基づいて前記発光ダイオードの電流値を制御することを特徴とする紫外線照射装置。
【請求項2】
前記発光ダイオードの照度を検知する照度検知手段を更に含むことを特徴とする請求項1記載の紫外線照射装置。
【請求項3】
前記発光ダイオードは、相互に独立制御される複数の発光帯を形成し、前記制御装置は、前記複数の発光帯からの紫外線照射を選択的に行うように制御するとともに、紫外線照射が行われている発光帯の照度が所定照度に達したときに当該発光帯の発光を停止して別異の発光帯を発光させることを特徴とする請求項2記載の紫外線照射装置。
【請求項4】
発光ダイオードによって被照射体に紫外線を照射する紫外線照射方法において、
前記紫外線を照射しているときの発光ダイオードの温度を検知し、当該検知された温度データに基づいて前記発光ダイオードに対する電流値を制御することを特徴とする紫外線照射方法。
【請求項5】
前記発光ダイオードの照度を更に検知し、当該照度データに基づいて制御されることを特徴とする請求項4記載の紫外線照射方法。
【請求項6】
前記紫外線照射は、複数の発光ダイオードからなる複数の発光帯を選択的に発光させることにより行われ、紫外線を照射している1の発光帯の照度が所定照度に達したときに、当該発光帯からの紫外線照射を停止し、他の発光帯から紫外線を照射することを特徴とする請求項5記載の紫外線照射方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−152386(P2009−152386A)
【公開日】平成21年7月9日(2009.7.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−328848(P2007−328848)
【出願日】平成19年12月20日(2007.12.20)
【出願人】(000102980)リンテック株式会社 (1,750)
【Fターム(参考)】