説明

紫外線硬化型水性塗料組成物

【課題】プラスチックや下塗り塗料のみならず、金属や木材にも優れた密着性、耐擦傷性、硬度を有する塗膜を形成することができ、透明性や艶等を利用して多彩な意匠的効果を付与することができる紫外線硬化型水性塗料組成物を提供する。
【解決手段】1分子中に3個以上の(メタ)アクリロイル基を有する多官能(メタ)アクリレートからなる架橋剤(A)を20重量部以上69重量部以下と、重量平均分子量2000〜50000の側鎖に(メタ)アクリロイル基を有する水分散性のベース樹脂(B)を30重量部以上79重量部以下と、重量平均分子量500〜2000の(メタ)アクリロイル基を有する水分散性の紫外線重合開始剤(C)を1重量部以上10重量部以下とを含有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特にプラスチックや塗膜上の塗装に最適であるが、金属や木材にも使用でき、耐擦傷性、耐水性、耐溶剤性、耐候性、耐薬品性、耐人工汗性、耐指紋性、耐汚染性等に優れ、且つ、多彩なカラーバリエーション等の意匠的効果を付与し得る紫外線硬化型水性塗料組成物及びそれに好適に使用することができる紫外線重合開始剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、有機溶剤は、光化学スモッグ等の地球環境破壊やシックハウス症候群等の人体の健康阻害の原因物質であることが指摘され、いわゆる揮発性有機化合物(VOC又はVOCs)の排出規制が全世界的規模で急速に展開され、各国で法制化が進んでいる。国内でも、2001年のPRTR法、2002年の改正建築基準法、2004年の改正大気汚染防止法の成立により、脱有機溶剤系塗料への転換が緊急課題となっている。
【0003】
各種の塗料系の候補のなかで水性塗料が、従来の主流技術の延長線上にあるため有利であり、開発が進められ、家屋の外壁、自動車の車体には実用化されている。しかしながら、これらの水性塗料は、溶剤系塗料の単なる水系化が多く、プラスチックのような、熱に弱いものに対しては、架橋剤による三次元化が十分に進まず、また、外壁に使われるような自然乾燥型の塗料では、十分な塗膜性能、特に、硬さや耐薬品性は要求される特性が得られていない。そこで、このような問題を解決する一つの方法として、紫外線照射により塗膜を硬化させる塗料が、近年特に着目され、開発が進められている。良好な塗膜特性を有している紫外線硬化塗料は、紫外線照射で硬化させており、紫外線硬化性オリゴマ、モノマ、光重合開始剤、増感剤、必要に応じ溶剤等から構成され、ハイソリッド、無溶剤系として使われている。しかし、この種の塗料は、有機溶剤の代わりにモノマで他の組成物を希釈しているため塗装時のモノマ飛散による人体および環境への悪影響の問題がある。また、このタイプの塗料から得られる塗膜は高硬度であるが、脆く、基材との密着性も悪いという問題がある。また、成膜時のUV照射による光重合を起こさせる開始剤は、未分解のまま存在したり、再結合によりラジカル発生前の光重合開始剤として塗膜中に残存し硬化塗膜からブリードアウトする事は、周知のことであり、これにより、基材との密着性を損なう場合がある。このようなブリードアウトの問題を防止するために、光重合開始剤と架橋性樹脂類とを共重合させることが行われているが(例えば、特許文献1参照)、この場合、光重合開始剤の水分散性や水溶解性が悪くなって、均一な塗膜を形成することができないという問題があった。
【0004】
そこで、例えば、(メタ)アクリロイル基含有水溶性樹脂と、多官能(メタ)アクリレート化合物、光重合開始剤を含む乳化状態の紫外線硬化型水性塗料組成物が提案されており、光重合開始剤として、ベンゾイン、ベンゾイン誘導体、アセトフェノン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、ベンゾフェノン等が挙げられている(特許文献2参照)。
【0005】
しかし、この紫外線硬化型水性塗料組成物では、紫外線重合開始剤の沸点および分子量が比較的低く、造膜時の加熱により水と共沸し揮散することがあり、臭気のみならず揮発性有機化合物(VOC)の点から好ましくない。
【0006】
また、他の市販されている紫外線重合開始剤には、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−[4−(1−メチルビニル)フェニル]プロパノンの重合体(specialchem社製の「ESACURE KIP」)の如く、分子量が高く低揮発性タイプのものもあるが、紫外線重合性塗料のベース樹脂との相溶性が低く、造膜時に相分離を起こし、均一な塗膜にならない場合がある。
【0007】
また、2−ヒドロキシエチル−α−ヒドロキシアルキルフェノンの如く、沸点が高く分子量が低いタイプの紫外線重合開始剤のものもあるが、これらは含有する2−ヒドロキシエチル基に起因する水溶解性のため、塗料の廃液処理時に水層に紫外線重合開始剤が残存し、環境汚染が懸念される。しかも、この光重合開始剤の水溶液は長期にわたり水生生物に対して悪影響を及ぼす場合があるので、環境衛生上好ましくない。
【特許文献1】特開平6−206975号公報
【特許文献2】特開2004−10779号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上記の点に鑑みてなされたものであり、プラスチックや下塗り塗料のみならず、金属や木材にも優れた密着性、耐擦傷性、硬度を有する塗膜を形成することができ、透明性や艶等を利用して多彩な意匠的効果を付与することができる水分散性の紫外線硬化型水性塗料組成物及びこれに用いる紫外線重合開始剤を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の紫外線重合開始剤は、紫外線照射によりラジカルを発生し、架橋剤(A)とベース樹脂(B)との重合反応を開始させるための紫外線重合開始剤(C)であって、架橋剤(A)あるいはベース樹脂(B)に重合反応可能な(メタ)アクリロイル基と、水分散性を備えるための水分散性付与基とを有し、重量平均分子量が500〜2000であることを特徴とするものである。
【0010】
本発明の紫外線重合開始剤にあっては、水分散性付与基としてアルカノールアミノ基とカルボキシル基のどちらか一方を備えることができる。
【0011】
また、本発明の紫外線重合開始剤(C)にあっては、3官能以上のイソシアネートオリゴマ(c−1)に、水分散性を与えるカチオン成分としてアルカノールアミン(c−2)と、紫外線重合成分としてα,β−エチレン性不飽和モノカルボン酸ヒドロキシエステル(b−3)又はヒドロキシポリアクリレート(c−3)の少なくとも一方と、紫外線重合開始成分として下記[化1]に示す2−ヒドロキシ−1−(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)−2−アルキル−1−アルカン−1−オン(c−4)とを反応して得られたものであり、カチオン成分はイソシアネート基1当量に対しアルカノールアミン(c−2)中の活性水素基を0.2当量以上0.4当量以下で、紫外線重合成分はイソシアネート基1当量に対しα,β−エチレン性不飽和モノカルボン酸ヒドロキシエステル(b−3)又はヒドロキシポリアクリレート(c−3)に含まれる水酸基当量を0.2当量以上0.4当量以下で、紫外線重合開始成分はイソシアネート基1当量に対し2−ヒドロキシ−1−(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)−2−アルキル−1−アルカン−1−オン(c−4)中の1級水酸基を0.2当量以上0.4当量以下でそれぞれ反応させたものを用いることができる。
【0012】
【化1】

【0013】
また、本発明の紫外線重合開始剤(C)にあっては、3官能以上のイソシアネートオリゴマ(c−1)に、水分散性を与えるアニオン成分としてカルボン酸含有ジオール(c−5)と、紫外線重合成分としてα,β−エチレン性不飽和モノカルボン酸ヒドロキシエステル(b−3)又はヒドロキシポリアクリレート(c−3)の少なくとも一方と、紫外線重合開始成分として上記[化1]に示す2−ヒドロキシ−1−(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)−2−アルキル−1−アルカン−1−オン(c−4)とを反応して得られたものであり、アニオン成分はイソシアネート基1当量に対しカルボン酸含有ジオール(c−5)中の水酸基当量を0.2当量以上0.4当量以下で、紫外線重合成分はイソシアネート基1当量に対しα,β−エチレン性不飽和モノカルボン酸ヒドロキシエステル(b−3)又はヒドロキシポリアクリレート(c−3)に含まれる水酸基当量を0.2当量以上0.4当量以下で、紫外線重合開始成分はイソシアネート基1当量に対し2−ヒドロキシ−1−(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)−2−アルキル−1−アルカン−1−オン(c−4)中の1級水酸基が0.2当量以上0.4当量以下でそれぞれ反応させたものを用いることができる。
【0014】
本発明の紫外線硬化型水性塗料組成物は、1分子中に3個以上の(メタ)アクリロイル基を有する多官能(メタ)アクリレートからなる架橋剤(A)を20重量部以上69重量部以下と、重量平均分子量2000〜50000の側鎖に(メタ)アクリロイル基を有する水分散性のベース樹脂(B)を30重量部以上79重量部以下と、請求項1乃至4のいずれかに記載の水分散性の紫外線重合開始剤(C)を1重量部以上10重量部以下とを含有して成ることを特徴とするものである。
【0015】
本発明の紫外線硬化型水性塗料組成物にあって、ベース樹脂(B)は水分散性のためにアミノ基とカルボキシル基のどちらか一方を備えることができる。
【0016】
また、本発明の紫外線硬化型水性塗料組成物にあって、ベース樹脂(B)は、3級アミノ基含有ビニルモノマ(b−1)を1重量部以上20重量部以下と、α,β−エチレン性不飽和モノカルボン酸ヒドロキシエステル(b−3)を1重量部以上30重量部以下と、α,β−エチレン性不飽和モノカルボン酸アルキルエステル(b−4)又はα,β−エチレン性不飽和化合物(b−5)の1種もしくは2種以上の混合物を50重量部以上98重量部以下とを共重合させることによって、側鎖に3級アミノ基およびヒドロキシル基を有する共重合物を得、この共重合物の水酸基1当量に対しイソシアネート基含有ウレタンアクリレート(b−6)又はイソシアネート基含有(メタ)アクリレート(b−7)の少なくとも一方のイソシアネート基を0.3当量以上0.7当量以下でウレタン化反応させることによって、側鎖に(メタ)アクリロイル基を導入したものを用いることができる。
【0017】
また、本発明の紫外線硬化型水性塗料組成物にあって、ベース樹脂(B)は、グリシジル基含有(メタ)アクリレート(b−8)を1重量部以上10重量部以下と、α,β−エチレン性不飽和モノカルボン酸ヒドロキシエステル(b−3)を1重量部以上30重量部以下と、α,β−エチレン性不飽和モノカルボン酸アルキルエステル(b−4)又はα,β−エチレン性不飽和化合物(b−5)の1種もしくは2種以上の混合物を60重量部以上98重量部以下とを共重合させることによって、側鎖にグリシジル基を有する共重合物を得、この共重合物のグリシジル基1当量に対しα,β−エチレン性不飽和モノカルボン酸(b−2)中のカルボキシル基を0.95当量以上1当量以下でエステル化反応させることによって、側鎖に(メタ)アクリロイル基を導入し、この側鎖に(メタ)アクリロイル基を導入した共重合物の水酸基1当量に対し有機酸無水物を0.3当量以上0.7当量以下でハーフエステル化反応させることによって、側鎖にカルボキシル基を導入したものを用いることができる。
【0018】
また、本発明の紫外線硬化型水性塗料組成物にあって、ベース樹脂(B)は、α,β−エチレン性不飽和モノカルボン酸(b−2)を1重量部以上20重量部以下と、α,β−エチレン性不飽和モノカルボン酸ヒドロキシエステル(b−3)又はα,β−エチレン性不飽和モノカルボン酸アルキルエステル(b−4)又はα,β−エチレン性不飽和化合物(b−5)の1種もしくは2種以上の混合物を80重量部以上99重量部以下とを共重合させることによって、側鎖にカルボキシル基を有する共重合物を得、この側鎖にカルボキシル基を有する共重合物のカルボキシル基1当量に対しグリシジル基含有(メタ)アクリレート(b−8)中のグリシジル基を0.3当量以上0.7当量以下でエステル化反応させることによって、側鎖に(メタ)アクリロイル基を導入したものを用いることができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明の紫外線重合開始剤(C)は水分散性を備えるための水分散性付与基を有しているので、水溶解性の紫外線重合開始剤を用いた場合のように廃液処理時に水層に紫外線開始剤が残存するようなことがなく、塗装設備で問題となるスラッジの処理や塗料廃棄物の処理に効果があり、安価な費用で処理することができ、環境保全上好ましいものである。
【0020】
また、本発明の紫外線重合開始剤(C)は架橋剤(A)あるいはベース樹脂(B)に付加反応可能な(メタ)アクリロイル基を有するので、紫外線重合開始剤(C)のブリードアウトを少なくすることができ、紫外線重合開始剤(C)に起因する臭気や揮発性有機化合物(VOC)の発生を少なくすることができるものである。
【0021】
本発明の紫外線硬化型水性塗料組成物は、塗膜中の樹脂成分を形成するための架橋剤(A)と水分散性のベース樹脂(B)及び水分散性の紫外線重合開始剤(C)のいずれにも、紫外線重合成分の(メタ)アクリロイル基を導入するので、常温で紫外線を照射することによって硬化し、強靱な塗膜を得ることができるものである。また、本発明では、側鎖に(メタ)アクリロイル基をペンダントした高分子量のアクリルポリマー等のエマルジョンで高分子乳化型のエマルジョンを形成しているため、基材上に粘着する形で被覆することができ、均一に塗布されて厚みムラに起因する収縮歪みが少ない。
【0022】
従って、本発明によれば、素材と密着がよく、柔軟性、耐擦傷性、耐候性に富み、且つ、優れた耐汚染性と透明性を有し、外観のよい塗膜を形成することができ、加えて、照射時に紫外線重合開始剤に起因する臭気および、ブリードアウトがない環境適応型の保護塗膜を得ることができる。よって、本発明を配合した水性塗料は、本発明の目的とするプラスチックや下塗り塗料のみならず、金属や木材にも良好に接着して使用することができ、優れた密着性、耐擦傷性、耐水性等を有し、被塗物(基材)に多彩な意匠的効果を付与することができるものである。また、塗膜性状や性能や意匠的効果等のコントロールも、組成物の組成や顔料、添加剤、溶剤等を目的に応じて選択することによって行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明を実施するための最良の形態を説明する。尚、本願において、「(メタ)アクリロイル基」とはアクリロイル基とメタクリロイル基を意味し、「(メタ)アクリル基」とはアクリル基とメタクリル基を意味する。
【0024】
本発明の紫外線硬化型水性塗料組成物は、紫外線によるラジカル重合反応が生じる(メタ)アクリロイル基を1分子中に3個以上有する多官能(メタ)アクリレートからなる架橋剤(A)と、側鎖に(メタ)アクリロイル基を有する水分散性のベース樹脂(B)と、(メタ)アクリロイル基を有する水分散可能な紫外線重合開始剤(C)とを含有して調製されるものであって、水性塗料の樹脂成分となるものである。
【0025】
ここで、上記架橋剤(A)の配合量は、本発明の紫外線硬化型水性塗料組成物の全量(架橋剤(A)とベース樹脂(B)と紫外線重合開始剤(C)との合計量)100重量部に対して、20重量部以上69重量部以下とする。架橋剤(A)の配合割合が20重量部未満であると、ラジカル重合による硬化が不十分となる場合があり、架橋剤(A)の配合割合が69重量部を超えると、塗料としての安定性が悪く沈降等が起こる場合がある。
【0026】
また、上記ベース樹脂(B)の配合量は、本発明の紫外線硬化型水性塗料組成物の全量100重量部に対して、30重量部以上79重量部以下とする。ベース樹脂(B)の配合量が30重量部未満では、塗料としての安定性が悪く沈降、ゲル化等が起る場合があり、ベース樹脂(B)の配合量が79重量部を超えると、実用強度を有する塗膜が得られない場合がある。
【0027】
さらに、上記紫外線重合開始剤(C)の配合量は、本発明の紫外線硬化型水性塗料組成物の全量100重量部に対して、1重量部以上10重量部以下とする。紫外線重合開始剤(C)の配合量が1重量部未満であると、硬化不足が生じて塗膜性能が低下するという問題が生じる場合があり、紫外線重合開始剤(C)の配合量が10重量部を超えると、硬化した塗膜が硬くなって脆くなる場合がある。
【0028】
本発明では架橋剤(A)の多官能(メタ)アクリレートとして、疎水性の高い1分子中に3個以上の(メタ)アクリロイル基を有する多官能ウレタンアクリレートを用いることができ、これにより、硬化物(塗膜)に、強靭性、剛性、耐擦傷性、耐汚染性を与え、且つ、エステルの加水分解による水性エマルションの経時変化を少なくすることができる。
【0029】
このような1分子中に3個以上の(メタ)アクリロイル基を有する多官能ウレタンアクリレートとしては、ヒドロキシル含有ポリアクリレート(a−1)とポリイソシアネート(a−2)との反応体を用いることができる。
【0030】
ヒドロキシル含有ポリアクリレート(a−1)として、グリセリンジアクリレート、トリメチロールプロパンジアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ジペンタエリスリトールテトラアクリート、ジペンタエリスリトールペンタアクリレート等を例示することができる。
【0031】
ポリイソシアネート(a−2)としては、1,6ヘキサメチレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート等の脂肪族ジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート等の脂環式ジイソシアネート、ヌレート環を有するヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート又は、ヘキサメチレンジイソシアネートとイソホロンジイソシアネートとの混合ヌレート体等を例示することができる。
【0032】
(a−1)の水酸基当量と(a−2)のイソシアネート当量との当量比は、1.0が最も付加体の分子量が低く、且つ、多官能であるので、架橋効果が最も高く好ましい。
【0033】
本発明では架橋剤(A)として、上記の多官能ウレタンアクリレートを単独で使用できるが、多官能ウレタンアクリレート以外の1分子中に3個以上のアクリロイル基を有する多官能(メタ)アクリレートを単独で使用することもできる。また、必要に応じて、多官能ウレタンアクリレートと他の多官能(メタ)アクリレートとを併用することができる。多官能ウレタンアクリレート以外の多官能(メタ)アクリレートとして、トリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート等がある。
【0034】
尚、本発明で用いる多官能(メタ)アクリレートの(メタ)アクリロイル基の個数は3個以上あれば、その上限は特に設定されないが、性状の安定性等を考慮すると、15個以下にするのが好ましい。
【0035】
本発明のベース樹脂(B)は、重量平均分子量2000〜50000であって、側鎖に(メタ)アクリロイル基を有する水分散性の樹脂である。ベース樹脂(B)の重量平均分子量が2000未満であると、本発明の紫外線硬化型水性塗料組成物を用いた塗料の安定性が低く沈降やゲル化等が起こりやすくなったり、塗膜の強度が低くて基材(被塗物)との密着性が悪くなったりする場合がある。また、ベース樹脂(B)の重量平均分子量が50000を超えると、成膜時のフロー性が低くなり、塗膜の表面の平滑性が損なわれる場合がある。
【0036】
このベース樹脂(B)は紫外線の照射により上記架橋剤(A)で架橋されて硬化塗膜中の骨格となる樹脂である。ベース樹脂(B)としては、例えば、下記(b−1)又は(b−2)の1〜20重量部と(b−3),(b−4),(b−5),(b−8)の1種又は2種以上の混合物の80〜99重量部との共重合物であり、その重量平均分子が2000〜50000であり、水分散性を付与するための必須成分として、3級アミノ基含有ビニルモノマ(b−1)又はα,β−エチレン性不飽和モノカルボン酸(b−2)がある。これらのモノマを共重合させ、3級アミノ基含有ビニルモノマ(b−1)の塩基性又はα,β−エチレン性不飽和モノカルボン酸(b−2)の酸性を中和し、水分散性を付与するものである。(b−4)又は(b−5)のモノマは共重合せられるモノマで、水分散性を有する樹脂(幹ポリマー)への(メタ)アクリロイル基導入のためのモノマとしては、前述のα,β−エチレン性不飽和モノカルボン酸ヒドロキシエステル(b−3)と、グリシジル基含有(メタ)アクリレート(b−8),α,β−エチレン性不飽和モノカルボン酸(b−2)が挙げられる。
【0037】
具体的には、本発明では三種類のベース樹脂(B−1、B−2、B−3)を用いることができ、そのうちの一つ(請求項7に係る発明)はカチオン型の紫外線硬化型水性塗料を調製するのに用いられるベース樹脂(B−1)、他の二つ(請求項8,9に係る発明)はアニオン型の紫外線硬化型水性塗料を調製するのに用いられるベース樹脂(B−2、B−3)である。
【0038】
カチオン型の紫外線硬化型水性塗料を調製するのに用いられるベース樹脂(B−1)としては、3級アミノ基含有ビニルモノマ(b−1)を1重量部以上20重量部以下と、α,β−エチレン性不飽和モノカルボン酸ヒドロキシエステル(b−3)を1重量部以上30重量部以下と、α,β−エチレン性不飽和モノカルボン酸アルキルエステル(b−4)又はα,β−エチレン性不飽和化合物(b−5)の1種もしくは2種以上の混合物を50重量部以上98重量部以下とを共重合させることによって、重量平均分子量2000〜50000で、側鎖に3級アミノ基およびヒドロキシル基を有する共重合物である幹ポリマー(Bo1)を得、この共重合物である幹ポリマー(Bo1)の水酸基1当量に対しイソシアネート基含有ウレタンアクリレート(b−6)又はイソシアネート基含有(メタ)アクリレート(b−7)の少なくとも一方のイソシアネート基を0.3当量以上0.7当量以下でウレタン化反応させることによって、側鎖に(メタ)アクリロイル基を導入したものを例示することができる。
【0039】
3級アミノ基含有ビニルモノマ(b−1)としては、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノメチル、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノプロピル、ビニルピリジン等を例示することができる。3級アミノ基含有ビニルモノマ(b−1)の重合割合は、幹ポリマー(Bo1)を合成するためのモノマの全量((b−1)(b−3)(b−4)(b−5)のモノマの合計量)100重量部に対して1〜20重量部、好ましくは2〜12重量部である。3級アミノ基含有ビニルモノマ(b−1)の重合割合が1重量部より少なすぎると、ベース樹脂(B)が水分散せず、3級アミノ基含有ビニルモノマ(b−1)の重合割合が20重量部より多すぎるとベース樹脂(B)が多官能(メタ)アクリレートをエマルション内に包み込む作用が低下し、多官能(メタ)アクリレートが沈降する場合があり、また、塗膜の耐水性等の塗膜性能も低下する場合がある。
【0040】
α,β−エチレン性不飽和モノカルボン酸ヒドロキシエステル(b−3)は3級アミノ基含有ビニルモノマ(b−1)と共重合させるモノマであって、水分散性を有する共重合物(幹ポリマーBo1)への(メタ)アクリロイル基の導入、水分散化の補助成分および素材との密着性を付与する目的で用いる。配合量は広い範囲で選択できるが、幹ポリマー(Bo1)を合成するためのモノマの全量((b−1)(b−3)(b−4)(b−5)のモノマの合計量)100重量部に対して、1重量部以上30重量部以下、好ましくは5重量部以上20重量部以下である。α,β−エチレン性不飽和モノカルボン酸ヒドロキシエステル(b−3)の重合割合が30重量部よりも多すぎると、塗膜の吸水率が増大するので好ましくなく、1重量部未満であると、(メタ)アクリロイル基の導入を行えない等の場合がある。
【0041】
α,β−エチレン性不飽和モノカルボン酸ヒドロキシエステル(b−3)としては、例えば、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシルブチル等を挙げることができる。
【0042】
α,β−エチレン性不飽和モノカルボン酸アルキルエステル(b−4)はα,β−エチレン性不飽和モノカルボン酸ヒドロキシエステル(b−3)又はα,β−エチレン性不飽和化合物(b−5)のモノマと共重合させ、塗膜の可撓性、フロー性等を付与させる目的で用いられ、配合量は必要に応じ広い範囲で選択できる。
【0043】
α,β−エチレン性不飽和モノカルボン酸アルキルエステル(b−4)としては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸−2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸ボロニル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸フェノキシエチル等を例示することができる。
【0044】
α,β−エチレン性不飽和化合物(b−5)はα,β−エチレン性不飽和モノカルボン酸ヒドロキシエステル(b−3)又はα,β−エチレン性不飽和モノカルボン酸アルキルエステル(b−4)のモノマと共重合せられるモノマであり、必要に応じ、塗膜の耐水性、耐薬品性等の物性向上の補助および塗膜のTgの調節剤として用いられる。
【0045】
α,β−エチレン性不飽和化合物(b−5)としては、例えば、スチレン、メチルスチレン、ビニルカルバゾール等を例示することができる。
【0046】
α,β−エチレン性不飽和モノカルボン酸アルキルエステル(b−4)とα,β−エチレン性不飽和化合物(b−5)の重合割合はその合計が幹ポリマー(Bo1)を合成するためのモノマの全量((b−1)(b−3)(b−4)(b−5)のモノマの合計量)100重量部に対して、50重量部以上98重量部以下とするのが好ましい。α,β−エチレン性不飽和モノカルボン酸アルキルエステル(b−4)とα,β−エチレン性不飽和化合物(b−5)の合計の重合割合が50重量部未満であると、多官能(メタ)アクリレートの包み込みが悪くなって多官能(メタ)アクリレートが沈降したり、また、塗膜の表面状態(レべリング性など)が悪くなったり、塗膜が脆くなったりする場合があり、98重量部を超えると、水分散しないか水分散性が悪くなったり、塗膜性能が悪くなったりする場合がある。また、α,β−エチレン性不飽和化合物(b−5)が多すぎる場合は塗膜の脆さを増大させるため、α,β−エチレン性不飽和化合物(b−5)の配合量は幹ポリマー(Bo1)を合成するためのモノマの全量に対して30重量部以下とするのが好ましい。
【0047】
この場合、水分散性のベース樹脂(B−1)の(メタ)アクリロイル基を導入する方法は、3級アミノ基含有ビニルモノマ(b−1)とα,β−エチレン性不飽和モノカルボン酸ヒドロキシエステル(b−3)、α,β−エチレン性不飽和モノカルボン酸アルキルエステル(b−4)、α,β−エチレン性不飽和化合物(b−5)の共重合体である幹ポリマー(Bo1)に、そのα,β−エチレン性不飽和モノカルボン酸ヒドロキシエステル(b−3)等に由来するヒドロキシル基と付加反応可能なイソシアネート基含有ウレタンアクリレート(b−6)又はイソシアネート基含有(メタ)アクリレート(b−7)をα,β−エチレン性不飽和モノカルボン酸ヒドロキシエステル(b−3)等の水酸基当量に対して少ない当量を加え、ウレタン化反応により、容易に側鎖に(メタ)アクリル基をペンダントさせることができる。
【0048】
イソシアネート基含有ウレタンアクリレート(b−6)としては、グリセリンジ(メタ)アクリル酸エステル、トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリル酸エステル、ペンタエリスリトールジ(メタ)アクリル酸エステル、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリル酸エステル、ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリル酸エステル、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリル酸エステル等のヒドロキシル基含有(メタ)アクリル酸エステルと、1,6ヘキサメチレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート等の脂肪族ジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート等の脂環式ジイソシアネートとの付加体が挙げられる。ジイソシアネートに含まれるイソシアネート基の反応速度差を利用するか若しくは、水酸基当量に対しイソシアネート当量を1.0以上とし、過剰のジイソシアネートを蒸留により除去することにより得られる。
【0049】
イソシアネート基含有(メタ)アクリレート(b−7)としては、(メタ)アクリロイルオキシエチルイソシアネートが挙げられる。
【0050】
イソシアネート基含有ウレタンアクリレート(b−6)又はイソシアネート基含有(メタ)アクリレート(b−7)は、共重合物である幹ポリマー(Bo1)の50重量部以上95重量部以下に対して、5重量部以上50重量部以下でウレタン化反応させるものである。但し、イソシアネート基含有ウレタンアクリレート(b−6)又はイソシアネート基含有(メタ)アクリレート(b−7)と幹ポリマー(Bo1)との合計量は100重量部である。イソシアネート基含有ウレタンアクリレート(b−6)又はイソシアネート基含有(メタ)アクリレート(b−7)の反応割合が0.3当量よりも少なくなると、導入する(メタ)アクリロイル基が少なくなり過ぎて塗膜性能が悪くなる場合があり、イソシアネート基含有ウレタンアクリレート(b−6)又はイソシアネート基含有(メタ)アクリレート(b−7)の反応割合が0.7当量よりも多くなると、導入する(メタ)アクリロイル基が多くなり過ぎて塗膜が脆くなる場合がある。
【0051】
このカチオン型のベース樹脂(B−1)には、3級アミノ基含有ビニルモノマ(b−1)の3級アミノ基に起因する塩基性を中和することにより、水分散性を付与する。すなわち、3級アミノ基が無い状態では疎水性の樹脂成分である。中和に必要な酸としては、例えば、酢酸、ぎ酸、プロピオン酸、乳酸等の有機酸又は硫酸、りん酸等の無機酸が挙げられる。
【0052】
アニオン型の紫外線硬化型水性塗料を調製するのに用いられるベース樹脂(B−2)としては、グリシジル基含有(メタ)アクリレート(b−8)を1重量部以上10重量部以下と、α,β−エチレン性不飽和モノカルボン酸ヒドロキシエステル(b−3)を1重量部以上30重量部以下と、α,β−エチレン性不飽和モノカルボン酸アルキルエステル(b−4)又はα,β−エチレン性不飽和化合物(b−5)の1種もしくは2種以上の混合物を60重量部以上98重量部以下とを共重合させることによって、重量平均分子量2000〜50000で、側鎖にグリシジル基を有する共重合物である幹ポリマー(Bo2)を得、この共重合物である幹ポリマー(Bo2)のグリシジル基1当量に対しα,β−エチレン性不飽和モノカルボン酸(b−2)中のカルボキシル基を0.95当量以上1当量以下でエステル化反応させることによって、側鎖に(メタ)アクリロイル基を導入し、さらに、側鎖に(メタ)アクリロイル基を導入した幹ポリマー(Bo2)の水酸基1当量に対し有機酸無水物を0.3当量以上0.7当量以下でハーフエステル化反応させることによって、側鎖にカルボキシル基を導入したものを例示することができる。
【0053】
α,β−エチレン性不飽和モノカルボン酸ヒドロキシエステル(b−3)、α,β−エチレン性不飽和モノカルボン酸アルキルエステル(b−4)、α,β−エチレン性不飽和化合物(b−5)としては上記と同様のものを用いることができる。
【0054】
グリシジル基含有(メタ)アクリレート(b−8)としては、例えば、グリシジル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートと無水琥珀酸とのハーフエステルのグリシジルエステル等を例示することができる。グリシジル基含有(メタ)アクリレート(b−8)の重合割合は、幹ポリマー(Bo2)を合成するためのモノマの全量((b−8)(b−3)(b−4)(b−5)のモノマの合計量)100重量部に対して1〜10重量部とすることができる。逆にいえば、α,β−エチレン性不飽和モノカルボン酸ヒドロキシエステル(b−3)とα,β−エチレン性不飽和モノカルボン酸アルキルエステル(b−4)とα,β−エチレン性不飽和化合物(b−5)の重合割合はその合計が幹ポリマー(Bo2)を合成するためのモノマの全量((b−8)(b−3)(b−4)(b−5)のモノマの合計量)100重量部に対して、90重量部以上99重量部以下とするのが好ましい。
【0055】
グリシジル基含有(メタ)アクリレート(b−8)の重合割合が1重量部より少なすぎたり、α,β−エチレン性不飽和モノカルボン酸ヒドロキシエステル(b−3)とα,β−エチレン性不飽和モノカルボン酸アルキルエステル(b−4)とα,β−エチレン性不飽和化合物(b−5)の重合割合が99重量部より多すぎると、導入する(メタ)アクリロイル基が少なくなり過ぎて塗膜性能が悪くなる場合があり、グリシジル基含有(メタ)アクリレート(b−8)の重合割合が10重量部より多すぎたり、α,β−エチレン性不飽和モノカルボン酸ヒドロキシエステル(b−3)とα,β−エチレン性不飽和モノカルボン酸アルキルエステル(b−4)とα,β−エチレン性不飽和化合物(b−5)の重合割合が90重量部より少なすぎると、導入する(メタ)アクリロイル基が多くなり過ぎて塗膜が脆くなる場合がある。
【0056】
また、α,β−エチレン性不飽和化合物(b−5)が多すぎる場合は塗膜の脆さを増大させるため、α,β−エチレン性不飽和化合物(b−5)の配合量は幹ポリマー(Bo2)を合成するためのモノマの全量に対して30重量部以下とするのが好ましい。
【0057】
この場合、水分散性のベース樹脂(B−2)の(メタ)アクリロイル基を導入する方法は、グリシジル基含有(メタ)アクリレート(b−8)とα,β−エチレン性不飽和モノカルボン酸ヒドロキシエステル(b−3)、α,β−エチレン性不飽和モノカルボン酸アルキルエステル(b−4)、α,β−エチレン性不飽和化合物(b−5)の共重合体である幹ポリマー(Bo2)に、グリシジル基含有(メタ)アクリレート(b−8)に由来するグリシジル基と付加反応可能なα,β−エチレン性不飽和モノカルボン酸(b−2)をエステル化反応させ、側鎖に(メタ)アクリル基をペンダントさせることができる。
【0058】
α,β−エチレン性不飽和モノカルボン酸(b−2)としては、(メタ)アクリル酸、α−クロロアクリル酸、イタコン酸、マレイン酸モノアルキル、マレイン酸、フマル酸、クロトン酸、シトラコン酸、メサコン酸、(メタ)アクリル酸又は(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチルと無水琥珀酸とのハーフエステル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシプロピルと無水フタール酸とのハーフエステル等を例示することができる。
【0059】
α,β−エチレン性不飽和モノカルボン酸(b−2)は、共重合物である幹ポリマー(Bo2)のグリシジル基1当量に対して、0.95当量以上1.0当量以下でエステル化反応させるものである。α,β−エチレン性不飽和モノカルボン酸(b−2)の反応割合が0.95当量よりも少なくなると、導入する(メタ)アクリロイル基が少なくなり過ぎて塗膜性能が悪くなる場合があり、α,β−エチレン性不飽和モノカルボン酸(b−2)の反応割合が1.0当量よりも多くなると、導入する(メタ)アクリロイル基が多くなり過ぎて塗膜が脆くなる場合がある。
【0060】
このようにして側鎖に(メタ)アクリル基をペンダントさせた後の幹ポリマー(Bo2)に、そのα,β−エチレン性不飽和モノカルボン酸ヒドロキシエステル(b−3)等に由来するヒドロキシル基と有機酸無水物とをハーフエステル化反応させることによって、水分散性を付与するためのカルボキシル基を側鎖に導入することができる。
【0061】
有機酸無水物としては、無水琥珀酸や無水マレイン酸などを例示することができる。
【0062】
有機酸無水物は、側鎖に(メタ)アクリロイル基を導入した上記幹ポリマー(Bo2)の水酸基1当量に対して、0.3当量以上0.7当量以下でハーフエステル化反応させるものである。有機酸無水物の反応割合が0.3当量よりも少なくなると、水分散しないか水分散性が悪くなる場合があり、有機酸無水物の反応割合が0.7当量よりも多くなると、多官能(メタ)アクリレートの包み込みが悪くなり多官能(メタ)アクリレートが沈降したり、また、塗膜の耐水性などの塗膜性能が低下する場合がある。
【0063】
このアニオン型のベース樹脂(B−2)には、ヒドロキシル基と有機酸無水物とのハーフエステル化反応により側鎖に導入されたカルボキシル基に起因する酸性を中和することにより、水分散性を付与する。すなわち、カルボキシル基が無い状態では疎水性の樹脂成分である。中和に必要な塩基としては、有機アミンとして、モノメチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、モノエチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、モノイソプロピルアミン、ジイソプロピルアミン、トリイソプロピルアミン、モノブチルアミン、ジブチルアミン、トリブチルアミン等のアルキルアミン類、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、モノ(2−ヒドロキシプロピル)アミン、ジ(2−ヒドロキシプロピル)アミン、トリ(2−ヒドロキシプロピル)アミン、ジメチルアミノエタノール、ジエチルアミノエタノール等のアルカノールアミン類(c−2)、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン等のアルキレンポリアミン類、エチレンイミン、プロピレンイミン等のアルキレンイミン類、ピペラジン、モルホリン、ピラジン、ピリジン等があげられる。
【0064】
アニオン型の紫外線硬化型水性塗料を調製するのに用いられるもう一つベース樹脂(B−3)としては、α,β−エチレン性不飽和モノカルボン酸(b−2)を1重量部以上20重量部以下と、α,β−エチレン性不飽和モノカルボン酸ヒドロキシエステル(b−3)又はα,β−エチレン性不飽和モノカルボン酸アルキルエステル(b−4)又はα,β−エチレン性不飽和化合物(b−5)の1種もしくは2種以上の混合物を80重量部以上99重量部以下とを共重合させることによって、重量平均分子量2000〜50000で、側鎖にカルボキシル基を有する共重合物である幹ポリマー(Bo3)を得、この共重合物である幹ポリマー(Bo3)のカルボキシル基1当量に対しグリシジル基含有(メタ)アクリレート(b−8)を中のグリシジル基を0.3当量以上0.7当量以下でエステル化反応させることによって、側鎖に(メタ)アクリロイル基を導入したものを例示することができる。
【0065】
α,β−エチレン性不飽和モノカルボン酸(b−2)、α,β−エチレン性不飽和モノカルボン酸ヒドロキシエステル(b−3)、α,β−エチレン性不飽和モノカルボン酸アルキルエステル(b−4)、α,β−エチレン性不飽和化合物(b−5)、グリシジル基含有(メタ)アクリレート(b−8)としては上記と同様のものを用いることができる。
【0066】
α,β−エチレン性不飽和モノカルボン酸(b−2)の重合割合は、幹ポリマー(Bo3)を合成するためのモノマの全量((b−2)(b−3)(b−4)(b−5)のモノマの合計量)100重量部に対して1〜20重量部であるのが好ましい。逆にいえば、α,β−エチレン性不飽和モノカルボン酸ヒドロキシエステル(b−3)とα,β−エチレン性不飽和モノカルボン酸アルキルエステル(b−4)とα,β−エチレン性不飽和化合物(b−5)の重合割合はその合計が幹ポリマー(Bo3)を合成するためのモノマの全量((b−2)(b−3)(b−4)(b−5)のモノマの合計量)100重量部に対して、80重量部以上99重量部以下とするのが好ましい。α,β−エチレン性不飽和モノカルボン酸(b−2)の重合割合が1重量部より少なすぎたり、α,β−エチレン性不飽和モノカルボン酸ヒドロキシエステル(b−3)とα,β−エチレン性不飽和モノカルボン酸アルキルエステル(b−4)とα,β−エチレン性不飽和化合物(b−5)の重合割合が99重量部より多すぎると、水分散しないか水分散性が悪くなる場合があり、α,β−エチレン性不飽和モノカルボン酸(b−2)の重合割合が20重量部より多すぎたり、α,β−エチレン性不飽和モノカルボン酸ヒドロキシエステル(b−3)とα,β−エチレン性不飽和モノカルボン酸アルキルエステル(b−4)とα,β−エチレン性不飽和化合物(b−5)の重合割合が80重量部より少なすぎると、多官能(メタ)アクリレートの包み込みが悪くなり多官能(メタ)アクリレートが沈降したり、また、塗膜の耐水性などの塗膜性能が低下する場合がある。
【0067】
この場合、水分散性のベース樹脂(B−3)の(メタ)アクリロイル基を導入する方法は、α,β−エチレン性不飽和モノカルボン酸(b−2)と、(b−3)又は(b−4)又は(b−5)の1種もしくは2種以上の混合物の共重合物である幹ポリマー(Bo3)に、α,β−エチレン性不飽和モノカルボン酸(b−2)に由来するカルボキシル基に対してグリシジル基含有(メタ)アクリレート(b−8)をエステル化反応させ、側鎖に(メタ)アクリロイル基をペンダントさせることができる。
【0068】
グリシジル基含有(メタ)アクリレート(b−8)は、共重合物である幹ポリマー(Bo3)のカルボキシル基1当量に対して、0.3当量以上0.7当量以下でエステル化反応させるものである。グリシジル基含有(メタ)アクリレート(b−8)の反応割合が0.3当量よりも少なくなると、導入する(メタ)アクリロイル基が少なくなり過ぎて塗膜性能が悪くなる場合があり、グリシジル基含有(メタ)アクリレート(b−8)の反応割合が0.7当量よりも多くなると、導入する(メタ)アクリロイル基が多くなり過ぎて塗膜が脆くなる場合がある。
【0069】
このアニオン型のベース樹脂(B−3)には、α,β−エチレン性不飽和モノカルボン酸(b−2)のカルボキシル基に起因する酸性を中和することにより、水分散性を付与する。中和に必要な塩基は上記と同様である。
【0070】
また、エステル化を利用し側鎖に(メタ)アクリロイル基をペンダントさせる場合、エステル化により水分散に必要なカルボキシル基が不足する場合には、エステル化時に生成する2級水酸基をさらに有機酸無水物でハーフエステル化を行うことにより、新たに水分散に必要なカルボキシル基を得ることができる。
【0071】
水分散性のベース樹脂(B)の幹ポリマー(Bo1〜3)の共重合方法としては、公知のラジカル重合法が適用される。すなわち、適当な溶媒、たとえばメタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、ブチルセロソルブアセテート、トルエン、キシレン等を用いた溶液重合で得られる。必要により重合後用いた溶媒を減圧留去しても良い。重合方法としては、公知の乳化重合を用いても良い。この時に用いられる重合開始剤としては、例えば、2,2−アゾビスイソブチルニトリル、2,2−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、過酸化ベンゾイル等を例示することができる。
【0072】
尚、水分散性のベース樹脂(B)の側鎖としては、反応性の高さからアクリル基が好ましいが、架橋剤成分の多官能ウレタンアクリレートとも共重合するので、メタクリル基でも構わない。
【0073】
本発明では重量平均分子量500〜2000の(メタ)アクリロイル基を有する水分散性の紫外線重合開始剤(C)を用いることができる。重量平均分子量500未満であると、紫外線重合開始剤(C)がベース樹脂(B)の幹ポリマー(Bo1〜3)に取り込まれず、水層へ分散し造膜時に均一に紫外線照射により重合しない可能性がある。また、重量平均分子量が2000を超えると、ベース樹脂(B)との相溶性が低くなり、塗膜の濁り等が発生する場合がある。
【0074】
また、本発明では二種類の紫外線重合開始剤(C−1、C−2)を用いることができ、そのうちの一つ(請求項3に係る発明)はベース樹脂(B−1)とともにカチオン型の紫外線硬化型水性塗料を調製するのに用いられる紫外線重合開始剤(C−1)、他の一つ(請求項4に係る発明)はベース樹脂(B−2、B−3)とともにアニオン型の紫外線硬化型水性塗料を調製するのに用いられる紫外線重合開始剤(C−2)である。
【0075】
カチオン型の紫外線硬化型水性塗料を調製するのに用いられる紫外線重合開始剤(C−1)は、重量平均分子量500〜2000の(メタ)アクリル基((メタ)アクリロイル基)を有する水分散可能なものであって、3官能以上のイソシアネートオリゴマ(c−1)に、水分散性を与えるカチオン成分としてのアルカノールアミン(c−2)と、紫外線重合成分としてのα,β−エチレン性不飽和モノカルボン酸ヒドロキシエステル(b−3)又はヒドロキシポリアクリレート(c−3)と、紫外線重合開始成分として上記化学式[化1]の構造式を有する2−ヒドロキシ−1−(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)−2−アルキル−1−アルカン−1−オン(アルキルR1、R2の炭素数は1〜4、アルカンの炭素数は3〜6)(c−4)とを反応して得られる。
【0076】
3官能以上のイソシアネートオリゴマ(c−1)は紫外線重合開始剤(C−1)の骨格を形成するためのものである。3官能以上のイソシアネートオリゴマ(c−1)としては、1種類のイソシアネートからなるヌレート環を有する化合物として、ヘキサメチレンジイソシアネートのイソシアヌレート、キシリレンジイソシアネートのイソシアヌレート、イソホロンジイソシアネートのイソシアヌレート等を例示することができ、2種以上のイソシアネートからなるヌレート環を有する化合物として、ヘキサメチレンジイソシアネートとイソホロンジイソシアネートのイソシアヌレート、ヘキサメチレンジイソシアネートとキシリレンジイソシアネートのイソシアヌレート、ヘキサメチレンジイソシアネートと2,4−トリレンジイソシアネートとのイソシアヌレート等を例示することができる。ベース樹脂(B)との相溶性との点から、これらのジイソシアネートの種類よりはむしろ3量体含有量の高いものが好ましい。また、ポリオール1当量に対しジイソシアネートを2当量付加反応させたハーフイソシアネートも3官能以上のイソシアネートオリゴマ(c−1)として例示することができる。このポリオールとしては、トリメチロールプロパン、テトラメチロールメタン、ジペンタエリスルトール等が挙げられ、ジイソシアネートとしては、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート等が挙げられる。ハーフイソシアネートの粘度、合成の容易さから、3官能ハーフイソシアネートが好ましい。
【0077】
カチオン成分としてのアルカノールアミン(c−2)は紫外線重合開始剤(C−1)を水分散性にするためのものであって、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、モノ(2−ヒドロキシプロピル)アミン、ジ(2−ヒドロキシプロピル)アミン、トリ(2−ヒドロキシプロピル)アミン、ジメチルアミノエタノール、ジエチルアミノエタノール等を例示することができる。このアルカノールアミン(c−2)に由来するアミノ基が無い状態では疎水性の樹脂成分となる。
【0078】
紫外線重合成分は紫外線重合開始剤(C−1)を架橋剤(A)とベース樹脂(B)と重合する官能基((メタ)アクリロイル基)を導入するためのものであって、α,β−エチレン性不飽和モノカルボン酸ヒドロキシエステル(b−3)は上記と同様のものを使用することができ、ヒドロキシポリアクリレート(c−3)としては、グリセリンジアクリレート、トリメチロールプロパンジアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ジペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールペンタアクリレート等を例示することができる。
【0079】
紫外線重合開始成分は紫外線重合開始剤(C−1)に紫外線の照射によりラジカルとなる官能基を導入するためのものであって、2−ヒドロキシ−1−(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)−2−アルキル−1−アルカン−1−オン(c−4)としては、上記[化1]のR1、R2がメチル基である1−[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−フェニル]−2−ヒドロキシ−2−メチル−1−プロパン−1−オン(例えば、チバガイギー社製の「イルガキュア2959」)等を例示することができる。
【0080】
カチオン成分は、3官能以上のイソシアネートオリゴマ(c−1)のイソシアネート基1当量に対し、アルカノールアミン(c−2)中の活性水素基を0.2当量以上0.4当量以下で反応させるのが好ましい。アルカノールアミン(c−2)の活性水素基が0.2当量未満では、紫外線重合開始剤(C−1)の水分散性が低くなる場合があり、沈降等が発生し、0.4当量を超えると、塗料の水層に拡散し塗装時に飛散する場合がある。
【0081】
紫外線重合成分は、3官能以上のイソシアネートオリゴマ(c−1)のイソシアネート基1当量に対し、α,β−エチレン性不飽和モノカルボン酸ヒドロキシエステル(b−3)又はヒドロキシポリアクリレート(c−3)に含まれる水酸基当量を0.2当量以上0.4当量以下で反応させるのが好ましい。α,β−エチレン性不飽和モノカルボン酸ヒドロキシルエステル(b−3)又はヒドロキシポリアクリレート(c−3)の水酸基が0.2当量未満では、他の成分との架橋が充分でなく、紫外線重合開始剤(C−1)がブリードする場合があり、0.4当量を超えると塗膜が脆くなる場合がある。
【0082】
紫外線重合開始成分は、3官能以上のイソシアネートオリゴマ(c−1)のイソシアネート基1当量に対し、2−ヒドロキシ−1−(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)−2−アルキル−1−アルカン−1−オン(c−4)中の1級水酸基を0.2当量以上0.4当量以下で反応させるのが好ましい。2−ヒドロキシ−1−(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)−2−アルキル−1−アルカン−1−オン(c−4)中の1級水酸基が0.2当量未満では紫外線重合開始剤として作用する官能基が少なくなり、塗膜性能が悪くなる場合があり、0.4当量を超えると塗膜が脆くなる場合がある。
【0083】
アニオン型の紫外線硬化型水性塗料を調製するのに用いられる紫外線重合開始剤(C−2)は、重量平均分子量500〜2,000の(メタ)アクリル基を有する水分散可能なものであって、3官能以上のイソシアネートオリゴマ(c−1)に、水分散性を与えるアニオン成分としてカルボン酸含有ジオール(c−5)と、紫外線重合成分としてα,β−エチレン性不飽和モノカルボン酸ヒドロキシエステル(b−3)又はヒドロキシポリアクリレート(c−3)と、紫外線重合開始成分として上記化学式[化1]の構造式を有する2−ヒドロキシ−1−(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)−2−アルキル−1−アルカン−1−オン(アルキルR1、R2の炭素数は1〜4、アルカンの炭素数は3〜6)(c−4)とを反応して得られる。
【0084】
3官能以上のイソシアネートオリゴマ(c−1)、α,β−エチレン性不飽和モノカルボン酸ヒドロキシエステル(b−3)、ヒドロキシポリアクリレート(c−3)、2−ヒドロキシ−1−(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)−2−アルキル−1−アルカン−1−オン(c−4)はそれぞれ紫外線重合開始剤(C−1)の場合と同様のものを用いることができ、同様の作用を奏するものである。また、紫外線重合成分及び紫外線重合開始成分の配合量も紫外線重合開始剤(C−1)の場合と同様である。
【0085】
アニオン成分としてのカルボン酸含有ジオール(c−5)は紫外線重合開始剤(C−1)を水分散性にするためのものであって、ジメチロールプロピオン酸、ジメチロールブタノイック酸等を例示することができる。このカルボン酸含有ジオール(c−5)に由来するカルボキシル基が無い状態では疎水性の樹脂成分となる。
【0086】
アニオン成分は、3官能以上のイソシアネートオリゴマ(c−1)のイソシアネート基1当量に対し、カルボン酸含有ジオール(c−5)中の水酸基を0.2当量以上0.4当量以下で反応させるのが好ましい。カルボン酸含有ジオール(c−5)の水酸基が0.2当量未満では、紫外線重合開始剤(C−1)の水分散性が低くなる場合があり、沈降等が発生し、0.4当量を超えると、塗料の水層に拡散し塗装時に飛散する場合がある。
【0087】
本発明の紫外線硬化型水性塗料組成物は、多官能アクリレートの架橋剤(A)と水分散可能な紫外線重合開始剤(C)を、上記の中和された側鎖に(メタ)アクリロイル基を有する水分散性のベース樹脂(B)と混合し中和工程を行った後、イオン交換水などで希釈し、樹脂分(紫外線硬化型水性塗料組成物の濃度)10〜70%、好ましくは20〜50%に調製し水性塗料とすることができる。
【0088】
また、本発明の紫外線硬化型水性塗料組成物を配合する水性塗料には、塗料・塗膜要求性能、カラーバリエーションに応じて、上記水以外に公知の塗料組成物を必要に応じ適量配合して複数種の塗料組成物からなる紫外線硬化型水性塗料とすることができる。公知の塗料組成物としては、光輝顔料、着色顔料、体質顔料、加工顔料、媒染染料などの顔料及び染料類;分散剤、増粘・沈降防止剤、光安定剤、タレ防止剤、表面調整剤、表面改質剤、消泡剤、ワックス、艶消し剤、紫外線重合開始剤などの添加剤類;アルコール系、エステル系、ケトン系、芳香族炭化水素系、脂肪族炭化水素系、エーテル系、グリコールエーテル系等の有機溶剤類、樹脂類や繊維素誘導体類、硬化剤類等が挙げられる。顔料は、有機顔料たとえばアゾ系、フタロシアニン系、金属錯塩系、キナクリドン系のもの又は無機顔料たとえば二酸化チタン、酸化鉄等の金属酸化物、硫酸バリウム、シリカ等を用いることができる。その他公知のカーボンブラックがある。染料又は顔料の混合割合は、目的とする色の濃淡によって選択すればよいが、紫外線硬化型水性塗料全体の20重量%を超えてはならない。これを超えると、本発明の前記の特徴が失われるからである。
【0089】
そして、本発明の紫外線硬化型水性塗料組成物を配合した水性塗料は、公知の塗布方法、例えば、スプレー塗装、ローラー、刷毛、スピンコーター、スクリーン印刷機等で被塗物に塗布することができる。被塗物に塗装された水性塗料に含まれる溶剤(水及び有機溶剤)は、公知の乾燥方法、例えば熱や低湿度による強制乾燥等で揮散される。そして、この揮散後の残存物(塗膜)に紫外線を照射することにより、紫外線重合開始剤(C)がラジカルを発生し、ベース樹脂(B)の幹ポリマー中にペンダントされた(メタ)アクリロイル基((メタ)アクリレート基)と架橋剤(A)に含まれる(メタ)アクリロイル基(アクリル基)及び紫外線重合開始剤(C)の(メタ)アクリロイル基をラジカル重合させる。このとき、組成物中には1分子中に2個以上の(メタ)アクリロイル基が存在するので、重合反応で生じる塗膜は三次元架橋構造を形成し、短時間で実用上充分な強度を有する塗膜が得られる。また、これらの塗膜の硬化法として、紫外線を用いるので、被塗物の温度を上昇させることなく硬化処理ができるものであり、耐熱性の低いABS樹脂等を基材(素材)としたプラスチック製品に好適である。さらに硬化時間が高温焼付処理を必要とする一般の熱硬化型塗料に比べはるかに短縮することができるので、作業効率の向上も図れる。
【0090】
さらに、塗膜の外観意匠効果を付与するため一般的に、光の反射、吸収、励起、散乱、透過、屈折等を利用するが、その方法として例えば顔料類の利用、物理的・化学的方法を用いた金属薄膜の利用、物理的・化学的方法を用いた模様の利用、多層膜の利用等が挙げられる。従って、本発明の紫外線硬化型水性塗料組成物を用いた水性塗料を塗布する前に、予め公知の塗装塗膜、印刷膜、蒸着膜、メッキ膜等を単独もしくは組み合わせて被塗物の塗装面に下地膜などとして形成することで、様々な外観意匠性等を付与することもできる。例えば、公知の有機溶剤系塗料や水系塗料等を公知の塗膜形成工程により被塗物の塗装面に下塗り塗膜を形成した後、この下塗り塗膜の表面に本発明を含有する水性塗料を塗布するようにする。また、下地膜の種類の選択によっては、高い塗膜物性要求性能を満たすといった付随効果も期待することができる。
【実施例】
【0091】
本発明について、製造例、実施例および比較例によってさらに具体的に説明するが、本発明はこれらによって何ら限定されるものではない。なお、製造例、実施例および比較例中の部は、特に断りのない限り重量部を意味する。
【0092】
(合成例1)多官能ウレタンアクリレートの製造
攪拌装置を備えた1リットルの4口フラスコにペンタエリスリトールトリアクリレート(トリアクリレート含有比率80%)370部に、ジブチル錫ジラウリレート0.09部、次いでヘキサメチレンジイソシアネートのイソシアヌレート化体90部を仕込み、80℃に昇温した。80℃のままイソシアネート基が消失するまでウレタン化反応を行い、多官能(9官能等)ウレタンアクリレートオリゴマ(A−1)を得た。イソシアネート基消失の確認は赤外スペクトルを用いて行った。
【0093】
(合成例2)(b−8)グリシジル基含有(メタ)アクリレート(無水琥珀酸と2−ヒドロキシエチルアクリレートとのグリシジルエステル)の合成
攪拌装置、還流冷却器を備えた1リットルの4口フラスコに、無水琥珀酸100部、2−ヒドロキシエチルアクリレート116部、メトキノン0.04部、トリエチルベンジルアンモニウムクロライド2.0部を仕込み、昇温し、80から85℃でエステル化反応を行い、赤外スペクトルにて無水環の消失を確認し、次いで、エピクロルヒドリン463部加え、80℃で反応を行った。ブロモチモールブルーを指示薬とし、0.1N−KOH標準液で滴定して、酸価が0になった時点で、滴下ロートから50%水酸化ナトリウム84部を60から70℃で53.3〜66.7kPa(400〜500mmHg)の減圧下で滴下する。分水器で共沸する水を分離し、エピクロルヒドリンをフラスコに戻す操作を2時間行った。常圧に戻し、100℃まで昇温し、水が出なくなった時点を終点とした。常温に戻し、5μmのろ紙でろ過を行い、無機塩を除去した後、メトキノン0.04部加え、0.27kPa(2mmHg)の減圧下、80℃でエピクロルヒドリンを除去した。エポキシ当量340g/eqの黄色粘稠液体(b−8−1)を得た。
【0094】
(合成例3)(b−6)イソシアネート基含有ウレタンアクリレートの合成
攪拌装置を備えた1リットルの4口フラスコにグリセリンジアクリレート(ジアクリレート含有比率90%)225部に、オクチル酸錫0.09部を仕込み、60℃に昇温した。60℃に達した時点で滴下ロートからイソホロンジイソシアネート222部を90分で滴下した。滴下終了後80℃に昇温し、イソシアネートが一定になった時点で反応を停止させた。イソシアネート当量460g/eqの淡黄色粘稠液体(b−6−1)を得た。
【0095】
(合成例4)水分散性のベース樹脂(B−1)の幹ポリマー(Bo1)の合成
攪拌装置、還流冷却器および窒素導入管を備えた3リットルの4口フラスコにエチルセロソルブアセテート1010部を仕込み、窒素を導入しながら100℃に昇温した。別にジメチルアミノエチルメタクリレート150部、メチルメタクリレート250部、スチレン200部、ラウリルメタクリレート250部、2−ヒドロキシブチルメタクリレート150部、アゾビスジメチルバレロニトリル10部の混合液を滴下ロートに仕込み、前記フラスコ内に120分かけて滴下した。滴下終了後、120℃まで昇温し、120分保持した。得られた重合体は、GPCにより数平均分子量12000、重量平均分子量28000、加熱残分50%であった。
【0096】
(合成例5)水分散性のベース樹脂(B−2)の幹ポリマー(Bo2)の合成
攪拌装置、還流冷却器および窒素導入管を備えた6リットルの4口フラスコにメトキシプロピレングリコールアセテート2525部を仕込み、窒素を導入しながら100℃に昇温した。別に合成例2で合成したグリシジル基含有アクリレート(b−8−1)170部、メチルメタクリレート500部、スチレン750部、ブチルメタクリレート705部、2−ヒドロキシエチルメタクリレート375部、ベンゾイルパーオキサイド25部の混合液を滴下ロートに仕込み、前記フラスコ内に120分かけて滴下した。滴下終了後、120℃まで昇温し、120分保持した。得られた重合体は、数平均分子量13000、重量平均分子量35000、加熱残分50%であった。
【0097】
(合成例6)水分散性のベース樹脂(B−3)の幹ポリマー(Bo3)の合成
攪拌装置、還流冷却器および窒素導入管を備えた3リットルの4口フラスコにブチルセロソルブ1008部を仕込み、窒素を導入しながら100℃に昇温した。別にメタクリル酸150部、メチルメタクリレート250部、スチレン200部、2−エチルヘキシルメタクリレート250部、2−ヒドロキシエチルアクリレート150部、アゾビスイソブチロニトリル8部の混合液を滴下ロートに仕込み、前記フラスコ内に120分かけて滴下した。滴下終了後、120℃まで昇温し、120分保持した。得られた重合体は、数平均分子量16000、重量平均分子量40000、加熱残分50%であった。
【0098】
(製造例1)水分散性のベース樹脂(B−1)の合成
攪拌装置、還流冷却器を備えた2リットルの4口フラスコにエチルセロソルブアセテート77部と上記合成例4で合成した(Bo1)幹ポリマーを1300部仕込み、次いで、合成例3で合成した(b−6)イソシアネート基含有ウレタンアクリレート138部(幹ポリマー(Bo1)の水酸基1当量に対し、0.48当量)、メトキノン0.28部、ジブチル錫ジラウリレート0.28部を仕込み、70℃でイソシアネート基が消失するまでウレタン化反応を行った。加熱残分52%のアクリロイル基含有アクリルポリマー(B−1)を得た。
【0099】
(製造例2)水分散性のベース樹脂(B−2)の合成
攪拌装置、還流冷却器を備えた6リットルの4口フラスコに上記合成例5で合成した(Bo2)幹ポリマーを5000部仕込み、次いで、メトキシプロピレングリコールアセテート343部、メタクリル酸43部(幹ポリマー(Bo2)のグリシジル基1当量に対し、1当量)、メトキノン0.2部、トリエチルベンジルアンモニウムクロライド50部を仕込み、昇温し、70℃で反応を行い、酸価が0になった時点を終点とした。酸価は、ブロモチモールブルーを指示薬とし、0.1N−KOH標準液で滴定することにより求めた。次いで、ヘキサハイドロ無水フタル酸無水物250部(幹ポリマー(Bo2)の水酸基1当量に対し、0.56当量)を加え、80℃でハーフエステル化反応を無水環が消失するまで行った。加熱残分50%のメタアクリロイル基含有アクリルポリマー(B−2)を得た。
【0100】
(製造例3)水分散性のベース樹脂(B−3)の合成
攪拌装置、還流冷却器を備えた2リットルの4口フラスコに上記合成例6で合成した(Bo3)幹ポリマーを1400部仕込み、次いで、ブチルセロソルブ90部、グリシジルメタクリレート76部(幹ポリマー(Bo3)のカルボキシル基1当量に対し、0.49当量)、メトキノン0.28部、テトラメチルアンモニウムクロライド14部を仕込み、昇温し、70℃で反応を行い、酸価が43.3KOHmg/g−solidになった時点を終点とした。加熱残分50%のアクリロイル基含有アクリルポリマー(B−3)を得た。
【0101】
(合成例7)3官能以上のイソシアネートオリゴマ(c−1)の合成
攪拌装置、還流冷却器を備えた2リットルの4口フラスコに、トルエン800部、トリメチロールプロパン134部を仕込み、強く攪拌を行いながら60℃に昇温した。60℃に達した時点でジブチル錫ジラウリレート0.19部を投入し、滴下ロートからイソホロンジイソシアネート666部を180分で滴下した。滴下終了後、フラスコ内の内容物が透明になったことを確認し、徐々に80℃まで加熱昇温し、80℃のまま5時間反応し、イソシアネート当量540g/eqの透明液体を得た。次いで、80℃、0.27kPa(2mmHg)の減圧下でトルエンを除去し、イソシアネート当量280g/eqの高粘稠透明液体(c−1)を得た。
【0102】
(合成例8)カルボン酸含有ジオール(c−5)の合成
攪拌装置、還流冷却器を備えた2リットルの4口フラスコに、メチルエチルケトン738部、ジメチロールプロピオン酸402部を仕込み、強く攪拌を行いながら60℃に昇温した。60℃に達した時点でジブチル錫ジラウリレート0.28部を投入し、滴下ロートからヘキサメチレンジイソシアネート336部を90分で滴下した。滴下終了後、フラスコ内の内容物が透明になったことを確認し、酸当量246g/eqの高粘稠透明液体(c−5)を得た。
【0103】
(製造例4)水分散性の紫外線重合開始剤(C−1)の合成
攪拌装置、還流冷却器を備えた2リットルの4口フラスコに、合成例7で合成した(c−1)3官能のイソシアネートオリゴマ840部、2−ヒドロキシ−1−(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−フェニル)−2−メチル−1−プロパン−1−オン(商品名 イルガキュア2959:チバガイギー社製、[化1]の構造式においてR1、R2がメチル基のもの)212部(3官能のイソシアネートオリゴマ(c−1)のイソシアネート基1当量に対し、0.33当量)、テトラブチル錫0.22部を仕込み、70℃に昇温した。フラスコ内の内容物が完全に溶解していることを確認し、且つ、発熱が認められなくなった時点で、同温度でグリセリンジアクリレート(ジアクリレート含有比率80%)225部(3官能のイソシアネートオリゴマ(c−1)のイソシアネート基1当量に対し、0.33当量)、メトキノン0.22部を投入し、3時間反応を行った。次いで、ジエチルアミノプロパノール131部(3官能のイソシアネートオリゴマ(c−1)のイソシアネート基1当量に対し、0.33当量)を加え、徐々に80℃まで加熱昇温し、80℃のままイソシアネート基が消失するまで反応を行った。高粘稠透明液体のアクリロイル基を有する水分散性の紫外線重合開始剤(C−1)を得た。
【0104】
(製造例5)水分散性の紫外線重合開始剤(C−2)の合成
攪拌装置、還流冷却器を備えた3リットルの4口フラスコに、メチルエチルケトン1122部、ヘキサメチレンジイソシアネートのイソシアヌレート化体540部、イルガキュア2959を212部(ヘキサメチレンジイソシアネートのイソシアヌレート化体のイソシアネート基1当量に対し、0.33当量)、ジブチル錫ジ(2−エチルヘキソエート)0.5部を仕込み、70℃に昇温した。フラスコ内の内容物が完全に溶解していることを確認し、且つ、発熱が認められなくなった時点で、同温度でペンタエリスリトールのトリアクリレート(トリアクリレート含有比率80%)370部(ヘキサメチレンジイソシアネートのイソシアヌレート化体のイソシアネート基1当量に対し、0.33当量)、メトキノン0.5部を投入し、2時間反応を行った。次いで、合成例8で合成した(c−5)カルボン酸含有ジオール492部(ヘキサメチレンジイソシアネートのイソシアヌレート化体のイソシアネート基1当量に対し、0.33当量)を加え、徐々に80℃まで加熱昇温し、80℃のままイソシアネート基が消失するまで反応を行った。次いで、80℃、0.27kPa(2mmHg)の減圧下でメチルエチルケトンを除去し、高粘稠透明液体のアクリル基を有する水分散性の紫外線重合開始剤(C−2)を得た。
【0105】
(実施例1)
攪拌装置を備えた1リットルの容器に製造例1で作成した水分散性のベース樹脂(B−1)を86.5部、合成例1で作成した多官能ウレタンアクリレートの架橋剤(A−1)を50部、製造例4で作成した紫外線重合開始剤(C−1)を5部仕込み、均一になるまで攪拌混合した。ついでイオン交換水で希釈した10%乳酸28.6部を添加し、さらに均一になるまで攪拌混合した。次いで、攪拌しながら、イオン交換水163.2部を徐々に加え、乳化転相することによって、水分散性の架橋剤(A−1)とベース樹脂(B−1)と紫外線重合開始剤(C−1)とを紫外線硬化型水性塗料組成物として含有する加熱残分30%の紫外線硬化型水性塗料を得た。
【0106】
(実施例2)
攪拌装置を備えた1リットルの容器に製造例2で作成した水分散性のベース樹脂(B−2)を90部、合成例1で作成した多官能ウレタンアクリレートの架橋剤(A−1)を50部、製造例5で作成した紫外線重合開始剤(C−2)を5部仕込み、均一になるまで攪拌混合した。ついでイオン交換水で希釈した10%トリエチルアミン22.8部を添加し、さらに均一になるまで攪拌混合した。次いで、攪拌しながら、イオン交換水165.5部を徐々に加え、乳化転相することによって、水分散性の架橋剤(A−1)とベース樹脂(B−2)と紫外線重合開始剤(C−2)とを紫外線硬化型水性塗料組成物として含有する加熱残分30%の紫外線硬化型水性塗料を得た。
【0107】
(実施例3)
製造例3で作成した水分散性のベース樹脂(B−3)を使用し、10%トリエチルアミン32.0部、イオン交換水156.3部以外は実施例2と同様の操作を行うことによって、水分散性の架橋剤(A−1)とベース樹脂(B−3)と紫外線重合開始剤(C−2)とを紫外線硬化型水性塗料組成物として含有する加熱残分30%の紫外線硬化型水性塗料を得た。
【0108】
(比較例1)
水分散性のベース樹脂(B−1)を157.7部、多官能ウレタンアクリレートの架橋剤(A−1)を13部、紫外線重合開始剤(C−1)を5部、10%乳酸53.6部、イオン交換水104部の量で、実施例1と同様の操作を行うことによって、水分散性の架橋剤(A−1)とベース樹脂(B−1)と紫外線重合開始剤(C−1)とを紫外線硬化型水性塗料組成物として含有する加熱残分30%の紫外線硬化型水性塗料を得た。
【0109】
(比較例2)
水分散性のベース樹脂(B−1)を44.2部、多官能ウレタンアクリレートの架橋剤(A−1)を72部、紫外線重合開始剤(C−1)を5部、10%乳酸14.7部、イオン交換水197.4部の量で、実施例1と同様の操作を行うことによって、水分散性の架橋剤(A−1)とベース樹脂(B−1)と紫外線重合開始剤(C−1)とを紫外線硬化型水性塗料組成物として含有する加熱残分30%の紫外線硬化型水性塗料を得た。
【0110】
(比較例3)
水分散性のベース樹脂(B−1)を86.5部、多官能ウレタンアクリレート(A−1)を50部、紫外線重合開始剤として市販のダロキュア1173(チバガイギー社製)を5部、10%乳酸28.6部、イオン交換水165.5部の量で、実施例1と同様の操作を行うことによって、水分散性の架橋剤(A−1)とベース樹脂(B−1)と市販の紫外線重合開始剤とを紫外線硬化型水性塗料組成物として含有する加熱残分30%の紫外線硬化型水性塗料を得た。
【0111】
(比較例4)
水分散性のベース樹脂(B−1)を86.5部、多官能ウレタンアクリレートの架橋剤(A−1)を50部、紫外線重合開始剤として市販のイルガキュア2959を5部、10%乳酸28.6部、イオン交換水165.5部の量で、実施例1と同様の操作を行うことによって、水分散性の架橋剤(A−1)とベース樹脂(B−1)と市販の紫外線重合開始剤とを紫外線硬化型水性塗料組成物として含有する加熱残分30%の紫外線硬化型水性塗料を得た。
【0112】
上記実施例1〜3および比較例1〜4の紫外線硬化型水性塗料の成分を総括して表1に示す。
【0113】
(紫外線硬化型水性塗料の評価)
実施例1〜3、比較例1〜4で調製した水性塗料を使用し、塗料の性状および塗膜の特性を評価した。塗膜は、透明なPMMAアクリル板にアプリケーターにて硬化後の塗膜厚が10μmになるように塗布し、次いで、80℃の温度で30分間予備乾燥した後、UV照射装置にて紫外線硬化を行い得た。その結果は表1に示す通りであった。
【0114】
(評価方法)
(1)外観:塗膜表面の状態を目視判定で評価した。
【0115】
(2)鉛筆硬度:JIS K 5600の方法に従って行った。
【0116】
(3)密着性1:JIS K 5600の付着性試験の方法に従って行った。
【0117】
(4)密着性2:塗料調製1週間後に再度PMMA板に塗布し、JIS K 5600の付着性試験を行った。
【0118】
(5)液分離安定性:沈殿管に塗料を入れ目視判定した。評価基準は次の通りである。◎:塗料調整後1週間沈殿分離無し。○:塗料調整後1週間沈降分離少しあり。×:塗料調製後1週間沈降分離多量。
【0119】
(6)紫外線重合開始剤の挙動評価1:<塗料の評価>作製塗料を遠心分離し、水層をGC−massにて定性分析した。<評価基準>○:紫外線重合開始剤の検出無。×:紫外線重合開始剤の検出有。
【0120】
(7)紫外線重合開始剤の挙動評価2:<硬化塗膜の評価>予備乾燥−UV照射した塗膜をアセトンに浸漬し、アセトン抽出物をGC−massにて定性分析した。<評価基準>○:紫外線重合開始剤の検出無。×:紫外線重合開始剤の検出有。
【0121】
(8)耐候性:サンシャインウェザーメーター(ブラックパネル温度63℃)にて、500hr暴露した後の外観を目視判定で評価した。<評価基準>○:外観異常なし。×:異常あり。
【0122】
(9)耐汚染性:油性マジックペンで塗装面に線を引き、アセトンを浸み込ませた布ウェスにて線を拭き取った後の残り跡を目視判定で評価した。<評価基準>○:線残りなし。×:線残りあり。
【0123】
【表1】

【0124】
表1において、実施例1〜3は、いずれも優れた特性を有していることが認められるが、比較例1に見られるように、架橋剤(A)であるウレタンアクリレートの含有量が少ないと、架橋が充分に行われず塗膜の硬度が低くなる。また、比較例2に見られるように、架橋剤(A)であるウレタンアクリレートの含有量が多いと、エマルジョンの生成状態が不安定になり、塗料の安定性が低くなると共に塗膜の平滑性も損なわれることが認められる。尚、表中の「ブツ有」とは水性塗料のエマルジョン中に発生した不溶解物が付着した状態をいう。また、比較例3に見られるように、市販の紫外線重合開始剤「ダロキュア1173」を配合したものは、塗料の水層に拡散し、塗装時に飛散するものであって、好ましくない。また、比較例4に見られるように、市販の紫外線重合開始剤「イルガキュア2959」を配合したものは、塗膜中からブリードアウトする場合があるので、好ましくないことが明らかである。
【0125】
次に、本発明に係る紫外線硬化型水性塗料組成物を使用した水性塗料の意匠的効果を検証するために、その透明性及び艶に関する実験を実施した。以下に詳述する。
【0126】
一液アクリルラッカー塗料(武蔵塗料株式会社製の「726−プラエースメタリックシルバー」)30部と、その専用のシンナー(武蔵塗料株式会社製の「B−605」)39部とを紙コップに入れ、ガラス棒で均一に混ぜて下塗り塗料を作製した。
【0127】
被塗装試料として、ABS黒板(アクリルニトリルブタジエンスチレン樹脂製の黒板で大きさ50×150mm)8枚と、塗膜厚測定用のブリキ板1枚を用意し、これらに上記下塗り塗料をスプレーガン(アネスト岩田株式会社製の「W−100」、吐出圧0.3MPa)にて塗装した。次に、下塗り塗料を塗装したABS黒板とブリキ板とを60℃にセットした乾燥機で20分間乾燥させた。これにより、ABS黒板のメタリックシルバー塗装品を下塗り塗装試料として得た。また、上記ブリキ板の下塗り塗料の塗装品において、その膜厚をデュアルタイプ膜厚計(株式会社ケット科学研究所製の「LZ−300C」)で測定したところ、5〜7μmの範囲であった。
【0128】
上記実施例1に示す水性塗料50部とイオン交換水2.5部とを紙コップに入れ、ガラス棒で均一になるまで混合して評価用塗料を作製し、この評価用塗料を下塗り塗装試料2枚と新たなABS黒板2枚と新たなブリキ板1枚とに塗装した。塗装条件は上記下塗り塗装と同様にした。次に、評価用塗料を塗装した下塗り塗装試料とABS黒板とブリキ板とを80℃にセットした乾燥機で5分間予備乾燥させ、この後直ぐに、紫外線照射機(アイグラフィック株式会社製であって、高圧水銀ランプを使用)で積算光量800mJ/cmの紫外線を照射した。これにより、下塗り塗装試料からは評価用塗料で上塗りした塗装品を得たが、これは光沢のあるメタリック塗装品となった。また、ABS黒板からは評価用塗料を1回塗りした塗装品を得たが、これは光沢のある黒色塗装品となった。また、ブリキ板からは評価用塗料を1回塗りした塗装品を得たが、その膜厚をデュアルタイプ膜厚計で測定したところ、10〜12μmの範囲であった。
【0129】
また、上記実施例1に示す水性塗料100部とシリカ(東ソーシリカ株式会社製の「ニップシールE−1011」)4部を200ミリリットルのガラス瓶に入れ、攪拌機を用いて撹拌し、この混合物を30μアプリケータでガラス板上に塗布してブツが無いことを確認したところで撹拌を止めた。次に、この混合物50部とイオン交換水2.5部とを紙コップに入れ、ガラス棒で均一になるまで混合することによって、シリカ入り評価用塗料を作製し、このシリカ入り評価用塗料を下塗り塗装試料2枚と新たなABS黒板2枚と新たなブリキ板1枚とに塗装した。塗装条件は上記下塗り塗装と同様にした。次に、シリカ入り評価用塗料を塗装した下塗り塗装試料とABS黒板とブリキ板とを80℃にセットした乾燥機で5分間予備乾燥させ、この後直ぐに、紫外線照射機で積算光量800mJ/cmの紫外線を照射した。これにより、下塗り塗装試料からはシリカ入り評価用塗料で上塗りした塗装品を得たが、これは上記シリカの入っていない評価用塗料を塗装した塗装品よりも光沢が低いものとなった。また、ABS黒板からはシリカ入り評価用塗料を1回塗りした塗装品を得たが、これは上記シリカの入っていない評価用塗料を塗装した塗装品よりも光沢が低いものとなった。つまり、本発明の紫外線硬化型水性塗料組成物を含む水性塗料はシリカ等を配合することにより光沢のコントロールが可能となることが確かめられた。また、ブリキ板からはシリカ入り評価用塗料を1回塗りした塗装品を得たが、その膜厚をデュアルタイプ膜厚計で測定したところ、10〜12μmの範囲であった。
【0130】
このように本発明に係る紫外線硬化型水性塗料組成物は、それを塗装する基材や下塗りの色調や模様、透明性や艶の変化によって、多彩な意匠的効果を発揮させることが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0131】
本発明に係る紫外線重合開始剤(C)は、モノマーやオリゴマーなどの架橋剤(A)とベース樹脂(B)とを重合させて高分子化合物を生成するために用いることができ、塗料以外にも、例えば、樹脂フィルムや樹脂成形品を製造する際の紫外線重合開始剤として用いることができる。
【0132】
本発明に係る紫外線硬化型水性塗料組成物は、水を媒体とした紫外線硬化型塗料として用いることができ、また、紫外線重合開始剤も塗膜となるため、従来の紫外線重合開始剤のような分解物による悪臭、および、成膜後の残存紫外線重合開始剤による特有の臭気は認められず、環境の悪化を低減できる環境適応型とすることができるものである。
【0133】
加えて、本発明により形成される塗膜は、高硬度、耐摩耗性に優れ、且つ、柔軟性があり、耐衝撃性に優れるため、携帯電話やノートパソコン、PDA、デジタルカメラ等のモバイル製品、パソコン、プリンタ、ディスプレイ、記憶装置、記憶媒体等のパソコン及びその周辺機器、テレビ、オーディオ、カメラ等の一般家電製品、ならびに、自動車や列車の外装部品等、保護効果や意匠的効果を付与する製品に広く利用することができる。
【0134】
本発明に係る紫外線硬化型水性塗料組成物の廃棄に関しては、対イオンの投入により水性塗料のpHを変え、極めて容易にスラッジとして分別が可能であり、水溶解性の紫外線重合開始剤を用いた場合のように廃液処理時に水層に紫外線開始剤が残存するようなことがなく、塗装設備で問題となるスラッジの処理や塗料廃棄物の処理に効果があり、安価な費用で処理することができ、環境保全上好ましいものである。
【0135】
また、本発明に係る紫外線硬化型水性塗料組成物が塗装されて塗膜を形成する基材としてはプラスチック素材が好ましく、これらについては特に限定されないが、例えば、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)等のポリオレフィンのほか、アクリロニトリルスチレン(AS)、アクリロニトリルブタジエンスチレン(ABS)、ポリフェニレンオキサイド(PPO)、塩化ビニル(PVC)、ポリウレタン(PU)、ポリカーボネート(PC)等が挙げられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
紫外線照射によりラジカルを発生し、架橋剤(A)とベース樹脂(B)との重合反応を開始させるための紫外線重合開始剤(C)であって、架橋剤(A)あるいはベース樹脂(B)に重合反応可能な(メタ)アクリロイル基と、水分散性を備えるための水分散性付与基とを有し、重量平均分子量が500〜2000であることを特徴とする紫外線重合開始剤。
【請求項2】
水分散性付与基としてアルカノールアミノ基とカルボキシル基のどちらか一方を備えて成ることを特徴とする請求項1に記載の紫外線重合開始剤。
【請求項3】
紫外線重合開始剤(C)は、3官能以上のイソシアネートオリゴマ(c−1)に、水分散性を与えるカチオン成分としてアルカノールアミン(c−2)と、紫外線重合成分としてα,β−エチレン性不飽和モノカルボン酸ヒドロキシエステル(b−3)又はヒドロキシポリアクリレート(c−3)の少なくとも一方と、紫外線重合開始成分として下記[化1]に示す2−ヒドロキシ−1−(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)−2−アルキル−1−アルカン−1−オン(c−4)とを反応して得られたものであり、カチオン成分はイソシアネート基1当量に対しアルカノールアミン(c−2)中の活性水素基を0.2当量以上0.4当量以下で、紫外線重合成分はイソシアネート基1当量に対しα,β−エチレン性不飽和モノカルボン酸ヒドロキシエステル(b−3)又はヒドロキシポリアクリレート(c−3)に含まれる水酸基当量を0.2当量以上0.4当量以下で、紫外線重合開始成分はイソシアネート基1当量に対し2−ヒドロキシ−1−(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)−2−アルキル−1−アルカン−1−オン(c−4)中の1級水酸基を0.2当量以上0.4当量以下でそれぞれ反応させたものであることを特徴とする請求項1又は2に記載の紫外線重合開始剤。
【化1】

【請求項4】
紫外線重合開始剤(C)は、3官能以上のイソシアネートオリゴマ(c−1)に、水分散性を与えるアニオン成分としてカルボン酸含有ジオール(c−5)と、紫外線重合成分としてα,β−エチレン性不飽和モノカルボン酸ヒドロキシエステル(b−3)又はヒドロキシポリアクリレート(c−3)の少なくとも一方と、紫外線重合開始成分として上記[化1]に示す2−ヒドロキシ−1−(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)−2−アルキル−1−アルカン−1−オン(c−4)とを反応して得られたものであり、アニオン成分はイソシアネート基1当量に対しカルボン酸含有ジオール(c−5)中の水酸基当量を0.2当量以上0.4当量以下で、紫外線重合成分はイソシアネート基1当量に対しα,β−エチレン性不飽和モノカルボン酸ヒドロキシエステル(b−3)又はヒドロキシポリアクリレート(c−3)に含まれる水酸基当量を0.2当量以上0.4当量以下で、紫外線重合開始成分はイソシアネート基1当量に対し2−ヒドロキシ−1−(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)−2−アルキル−1−アルカン−1−オン(c−4)中の1級水酸基が0.2当量以上0.4当量以下でそれぞれ反応させたものであることを特徴とする請求項1又は2に記載の紫外線重合開始剤。
【請求項5】
1分子中に3個以上の(メタ)アクリロイル基を有する多官能(メタ)アクリレートからなる架橋剤(A)を20重量部以上69重量部以下と、重量平均分子量2000〜50000の側鎖に(メタ)アクリロイル基を有する水分散性のベース樹脂(B)を30重量部以上79重量部以下と、請求項1乃至4のいずれかに記載の水分散性の紫外線重合開始剤(C)を1重量部以上10重量部以下とを含有して成ることを特徴とする紫外線硬化型水性塗料組成物。
【請求項6】
ベース樹脂(B)は水分散性のためにアミノ基とカルボキシル基のどちらか一方を備えて成ることを特徴とする請求項5に記載の紫外線硬化型水性塗料組成物。
【請求項7】
ベース樹脂(B)は、3級アミノ基含有ビニルモノマ(b−1)を1重量部以上20重量部以下と、α,β−エチレン性不飽和モノカルボン酸ヒドロキシエステル(b−3)を1重量部以上30重量部以下と、α,β−エチレン性不飽和モノカルボン酸アルキルエステル(b−4)又はα,β−エチレン性不飽和化合物(b−5)の1種もしくは2種以上の混合物を50重量部以上98重量部以下とを共重合させることによって、側鎖に3級アミノ基およびヒドロキシル基を有する共重合物を得、この共重合物の水酸基1当量に対しイソシアネート基含有ウレタンアクリレート(b−6)又はイソシアネート基含有(メタ)アクリレート(b−7)の少なくとも一方のイソシアネート基を0.3当量以上0.7当量以下でウレタン化反応させることによって、側鎖に(メタ)アクリロイル基を導入したものであることを特徴とする請求項5又は6に記載の紫外線硬化型水性塗料組成物。
【請求項8】
ベース樹脂(B)は、グリシジル基含有(メタ)アクリレート(b−8)を1重量部以上10重量部以下と、α,β−エチレン性不飽和モノカルボン酸ヒドロキシエステル(b−3)を1重量部以上30重量部以下と、α,β−エチレン性不飽和モノカルボン酸アルキルエステル(b−4)又はα,β−エチレン性不飽和化合物(b−5)の1種もしくは2種以上の混合物を60重量部以上98重量部以下とを共重合させることによって、側鎖にグリシジル基を有する共重合物を得、この共重合物のグリシジル基1当量に対しα,β−エチレン性不飽和モノカルボン酸(b−2)中のカルボキシル基を0.95当量以上1当量以下でエステル化反応させることによって、側鎖に(メタ)アクリロイル基を導入し、この側鎖に(メタ)アクリロイル基を導入した共重合物の水酸基1当量に対し有機酸無水物を0.3当量以上0.7当量以下でハーフエステル化反応させることによって、側鎖にカルボキシル基を導入したものであることを特徴とする請求項5又は6に記載の紫外線硬化型水性塗料組成物。
【請求項9】
ベース樹脂(B)は、α,β−エチレン性不飽和モノカルボン酸(b−2)を1重量部以上20重量部以下と、α,β−エチレン性不飽和モノカルボン酸ヒドロキシエステル(b−3)又はα,β−エチレン性不飽和モノカルボン酸アルキルエステル(b−4)又はα,β−エチレン性不飽和化合物(b−5)の1種もしくは2種以上の混合物を80重量部以上99重量部以下とを共重合させることによって、側鎖にカルボキシル基を有する共重合物を得、この共重合物のカルボキシル基1当量に対しグリシジル基含有(メタ)アクリレート(b−8)中のグリシジル基を0.3当量以上0.7当量以下でエステル化反応させることによって、側鎖に(メタ)アクリロイル基を導入したものであることを特徴する請求項5又は6に記載の紫外線硬化型水性塗料組成物。

【公開番号】特開2007−138134(P2007−138134A)
【公開日】平成19年6月7日(2007.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−102344(P2006−102344)
【出願日】平成18年4月3日(2006.4.3)
【出願人】(397074817)武蔵塗料株式会社 (2)
【Fターム(参考)】