説明

紫外線遮断ガラス

【課題】紫外線をシャープに遮断し、可視光線透過率が高く、耐ソラリゼーションが向上した紫外線遮断ガラスを提供する。
【解決手段】ガラス全体量を100重量%とし、酸化物組成として、
(1)P:65〜85重量%、
(2)Al:5〜17重量%、
(3)MgO:0〜10重量%、CaO:0〜10重量%、SrO:0〜10重量%、BaO:0〜12重量%及びZnO:0〜10重量%であって、MgO、CaO、SrO、BaO及びZnOの合計量として2〜18重量%、
(4)TiO:0.05〜2.5重量%、
(5)B:0〜10重量%、並びに
(6)SiO:0〜5重量%
を含有するリン酸塩系ガラスからなる紫外線遮断ガラス。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紫外線遮断ガラスに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、紫外線に含まれる有害成分を遮断(吸収)したり、紫外線の照射による物品等の色褪せを防止したりするために紫外線遮断ガラスがフィルター等として用いられている。
【0003】
上記ガラスとして、例えば、特許文献1には、重量百分率でSiO 65〜80%、B 5〜20%、Al 2〜8%、RO1〜5%(ただしROは、MgO、CaO、BaO、SrO、ZnOの群から選ばれる1種又は2種以上)、RO 4〜8%(ただしROは、NaO、KO、LiOの群から選ばれる2種以上)、CeO 0.3〜4%、Fe 0.01〜0.2%、V 0.0005〜0.005%未満、TiO 0〜2%の組成を有する紫外線吸収性ガラスが記載されている(特許文献1の請求項1)。そして、この紫外線吸収性ガラスは、紫外線の中でも特に人体に有害な波長320nm以下の紫外線を効率的に吸収することができるとされている(特許文献1の[発明の効果]等)。
【0004】
しかしながら、上記従来の紫外線遮断ガラスには次のような問題がある。
【0005】
第1に、波長傾斜幅が比較的大きく、シャープな遮断効果が得られ難いことである。特許文献1では実施例における紫外線透過率の推移(傾斜幅)が緩やかであり、シャープな紫外線遮断効果が望まれている。第2に、耐ソラリゼーションの更なる向上が望まれている。紫外線遮断ガラスは、紫外線を長時間照射すると紫外線透過率が徐々に変化(いわゆるソラリゼーション)することが知られているが、これは経時的にガラスの分光特性が変化することを意味するため、耐ソラリゼーションの向上が望まれている。
【0006】
また、近紫外線も十分に遮断できる紫外線遮断ガラスが望まれている。即ち、可視光線透過率が高く、315〜355nmの範囲でシャープな遮断効果が得られる紫外線遮断ガラスの開発が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平6−56467号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、紫外線をシャープに遮断し、可視光線透過率が高く、耐ソラリゼーションが向上した紫外線遮断ガラスを提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、特定組成のリン酸塩系ガラスによれば上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
即ち、本発明は、下記の紫外線遮断ガラスに関する。
1.ガラス全体量を100重量%とし、酸化物組成として、
(1)P:65〜85重量%、
(2)Al:5〜17重量%、
(3)MgO:0〜10重量%、CaO:0〜10重量%、SrO:0〜10重量%、BaO:0〜12重量%及びZnO:0〜10重量%であって、MgO、CaO、SrO、BaO及びZnOの合計量として2〜18重量%、
(4)TiO:0.05〜2.5重量%、
(5)B:0〜10重量%、並びに
(6)SiO:0〜5重量%
を含有するリン酸塩系ガラスからなる紫外線遮断ガラス。
2.厚さ2.5mmの前記紫外線遮断ガラスに、波長250〜800nmの光を入射して透過率を測定した場合に、透過率5%の波長と透過率72%の波長との中心波長が315〜355nmの範囲にあり、透過率5%の波長と透過率72%の波長との間隔が30nm以内である、上記項1に記載の紫外線遮断ガラス。
【0011】
以下、本発明の紫外線遮断ガラスについて詳細に説明する。
【0012】
本発明の紫外線遮断ガラスは、ガラス全体量を100重量%とし、酸化物組成として、
(1)P:65〜85重量%、
(2)Al:5〜17重量%、
(3)MgO:0〜10重量%、CaO:0〜10重量%、SrO:0〜10重量%、BaO:0〜12重量%及びZnO:0〜10重量%であって、MgO、CaO、SrO、BaO及びZnOの合計量として2〜18重量%、
(4)TiO:0.05〜2.5重量%、
(5)B:0〜10重量%、並びに
(6)SiO:0〜5重量%を含有するリン酸塩系ガラスからなる。
【0013】
上記特徴を有する本発明の紫外線遮断ガラスは、可視光線透過率が高く、315〜355nmの範囲でシャープな遮断効果が得られる。具体的には、好適な実施態様では、厚さ2.5mmのガラス板(本発明の紫外線遮断ガラス)に波長250〜800nmの光を(ガラス板の板面に対して垂直方向から)入射して透過率を測定した場合に、透過率5%の波長(λ)と透過率72%の波長(λ)との中心波長((λ+λ)/2)が315〜355nmの範囲にあり、透過率5%の波長(λ)と透過率72%の波長(λ)との間隔(λ−λ)が30nm以内である。即ち、本発明の紫外線遮断ガラスは、可視光線の透過率が高く、且つ、従来品に比して可視光線と紫外線の境界付近で波長傾斜幅が狭いシャープな遮断機能を有する。
【0014】
以下、本発明の紫外線遮断ガラスにおける構成成分の含有量について説明する。
【0015】
はガラス網目構造を形成する主成分である。含有量は65〜85重量%であればよく、特に70〜78重量%が好ましい。含有量が65重量%未満の場合には、紫外線の十分な遮断特性が得られ難い。含有量が85重量%を超える場合には、ガラスの化学的耐久性が劣化し易くなる。
【0016】
Alは、ガラスの失透を抑制し、化学的耐久性を高める成分である。含有量は5〜17重量%であればよく、特に8〜15重量%が好ましい。含有量が5重量%未満の場合には、十分な効果が得られ難い。含有量が17%を超えると溶融性が悪くなり、失透し易くなる。
【0017】
MgO、CaO、SrO、BaO及びZnOは、ガラスの粘性を下げて製造作業を容易にする成分である。これらの成分は、一種又は二種以上で使用できる。これらの含有量は、MgO、CaO、SrO及びZnOについては、それぞれ0〜10重量%から適宜設定でき、BaOについては、0〜12重量%から適宜設定できる。なお、これらの合計量は2〜18重量%であればよく、5〜12重量%が好ましい。これらの含有量が18重量%を上回るとシャープな遮断機能が低下するおそれがある。これらの含有量が2重量%を下回ると添加効果が不十分となるおそれがある。
【0018】
TiOは紫外線シャープカット特性を得るための必須成分である。含有量は0.05〜2.5重量%であればよく、0.3〜1.5重量%程度がより好ましい。0.05重量%以下ではその効果が得られず、2.5重量%を超えると、400nmまでの透過率が低下してシャープな遮断効果が減少するとともにガラスの清澄にも悪影響を及ぼす。
【0019】
は、ガラスの溶融性を向上させる成分である。また特定組成ではガラス網目を構成する成分ともなる。Bの含有量は、0〜10重量%程度が好ましく、1〜5重量%程度がより好ましい。Bの含有量が10重量%を上回るとガラスの化学的耐久性が不十分となるおそれがある。
【0020】
SiOの含有量は、0〜5重量%程度が好ましく、0〜3重量%程度がより好ましい。SiOの含有量が5重量%を上回るとガラスの溶融性が悪化するおそれがある。
【0021】
その他、本発明の紫外線遮断ガラスは、任意成分としてLiO、NaO及びKOを含有してもよい。これらの成分は、ガラスの溶融成形性の向上、化学的耐久性の向上、透過率の調整等の目的で5重量%未満の範囲で適宜含有することができる。
【0022】
本発明の紫外線遮断ガラスの用途は限定的ではないが、例えば、下記が挙げられる。
【0023】
(1)液晶表示板保護用ガラス材
液晶表示板のバックライトからは、可視光線とともに紫外線も照射されるが、照射光を視認する者の目の保護及び液晶の劣化を考慮すると、紫外線を除去するのが好ましい。
【0024】
本発明の紫外線遮断ガラスは、液晶表示板保護用ガラス材として有用である。即ち、当該ガラスからなる保護板を液晶表示板の前面又は背面に設置することにより、バックライトから照射される紫外線を選択的且つシャープに遮断できる。具体的には、液晶表示板の背面に設置する場合には、バックライトの光から紫外線を除去して液晶に照射するため、液晶の劣化を防止できるとともに、視認者の目も保護できる。他方、液晶表示板の前面に設置する場合には、視認者の目の保護に寄与する。
【0025】
(2)窓用ガラス材
美術工芸品店、高級衣料品店の外装ガラス、各種研究室の窓ガラス、自動車の窓ガラス等には、従来、フロートガラスが使用されている。しかしながら、当該フロートガラスは、太陽光に含まれる紫外線を遮断することが困難である。そのため、美術工芸品の褪色及び劣化、衣料品の変色及び劣化、各種研究への悪影響、自動車内装品の変質及び劣化等の問題がある。また、自動車の乗員にとっては、紫外線による目の障害、日焼け等の皮膚障害発生の問題がある。
【0026】
本発明の紫外線遮断ガラスは、窓用ガラス材として有用である。即ち、当該ガラスから外装ガラス及び窓ガラスを形成することにより、太陽光に含まれる紫外線を選択的且つシャープに遮断し、可視光を選択的に透過できる。これにより、上記問題点を解消又は軽減できる。
【0027】
(3)光学用フィルター材、照明用フィルター材及びレンズ材
カメラなどの光学機器類においては、従来、光学用フィルター、照明用フィルター、レンズ材が用いられている。これらの部材は、紫外線の遮断効率を高めることにより、更に鮮明な画像等を得ることができる。
【0028】
本発明の紫外線遮断ガラスは、紫外線を選択的且つシャープに遮断できるため、鮮明な画像等を得るために有利な光学用フィルター材、照明用フィルター及びレンズ材として使用できる。
【0029】
(4)眼鏡用ガラス材
眼鏡用ガラスは、眼鏡使用者の保護の観点からは、太陽光及び各種照射光に含まれる紫外線をシャープに遮断できることが望ましい。
【0030】
本発明の紫外線遮断ガラスは、紫外線を選択的且つシャープに遮断できることにより、眼鏡用ガラス材として有用である。
【0031】
(5)粉末状の紫外線吸収用配合材料
本発明の紫外線遮断ガラスは、紫外線を選択的且つシャープに遮断できることにより、粉末の状態で紫外線吸収剤として使用できる。紫外線吸収剤は他のものを組み合わせて使用することもできる。粉末の平均粒子径は限定されないが、1〜10μm程度が好ましい。具体的には、粉末状態で樹脂組成物、塗料組成物等に配合することにより、樹脂製品、塗膜等に紫外線吸収能を付与し、これらの耐候性、褪色性等を改善できる。
【0032】
(6)紫外線硬化型樹脂の硬化設備におけるガラス材
紫外線硬化型樹脂を硬化させるためには、高圧水銀ランプ、メタルハライドランプ等の、高エネルギーの紫外線を照射する光源を用いる。かかる高エネルギー紫外線は、樹脂の硬化に不可欠ではあるが、作業者の安全性確保、設備の劣化防止等の観点からは、必要部位以外への照射は避けるべきである。
【0033】
本発明の紫外線遮断ガラスは、かかる硬化設備における監視窓用ガラス材として有用である。監視窓用ガラス材として用いることにより、作業者の目を確実に保護できる。また、当該ガラスを防護材として各種設備を被覆する態様で配置する場合には、設備の劣化を防止できる。
【0034】
紫外線遮断ガラスの製造方法
本発明の紫外線遮断ガラスの製造方法は特に限定されず、上記所定の組成となるように原料を配合し、公知のガラス製造方法に従って処理すればよい。
【0035】
ガラス中の各成分の原料(ガラス原料)としては特に限定されないが、各金属の酸化物、炭酸塩、硫酸塩、硝酸塩、水酸化物等が挙げられる。
【0036】
紫外線遮断ガラスの製造に際しては、例えば、最終的に所定の組成となるように上記原料を調合し、1200〜1500℃程度の温度で溶融・撹拌・清澄後、型に流し込み、冷却中又は冷却後、450〜700℃程度の温度で0.1〜5時間程度熱処理を行ない、切断、研磨等の加工を経る。
【0037】
冷却・熱処理工程では、ガラスに熱的歪みが生じないように温度条件を管理することが好ましい。冷却速度としては10〜100℃/hr程度が好ましく、30〜50℃/hr程度がより好ましい。加熱速度としては10〜100℃/hr程度が好ましく、30〜70℃/hr程度がより好ましい。
【発明の効果】
【0038】
本発明の紫外線遮断ガラスは、可視光線透過率が高く、315〜355nmの範囲でシャープな遮断効果が得られる。具体的には、好適な実施態様では、厚さ2.5mmのガラス板(本発明の紫外線遮断ガラス)に波長250〜800nmの光を(ガラス板の板面に対して垂直方向から)入射して透過率を測定した場合に、透過率5%の波長(λ)と透過率72%の波長(λ)との中心波長((λ+λ)/2)が315〜355nmの範囲にあり、透過率5%の波長(λ)と透過率72%の波長(λ)との間隔(λ−λ)が30nm以内である。即ち、本発明の紫外線遮断ガラスは、可視光線の透過率が高く、且つ、従来品に比して可視光線と紫外線の境界付近で波長傾斜幅が狭いシャープな遮断機能を有する。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】実施例1、比較例1の各ガラスの分光特性を示すグラフである。
【図2】実施例1、比較例1の各ガラスのUV照射後の分光特性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0040】
以下に実施例及び比較例を示して本発明を具体的に説明する。但し、本発明は実施例に限定されない。
【0041】
実施例1〜5及び比較例1
表1に示す通りに各ガラス原料を秤量、調合し、1400℃において白金坩堝において溶融し、攪拌、清澄後、炭素型に流し込み、室温まで冷却させた。冷却後、切断、研磨して厚さ2.5mmの紫外線透過ガラスを得た。
(分光特性測定)
各ガラスの分光特性を250〜800nmの範囲の波長を照射して測定した。実施例1と比較例1で得られた各ガラスの分光特性を図1に示す。
(耐ソラリゼーション)
また、同ガラスをウシオ製UV照射装置によりメタルハライドランプを使用し80mW/cmの強さで60分間照射後30分装置内で自然冷却した後、分光特性を再測定した。
【0042】
照射距離:130mm(ランフ゜-ハウシ゛ンク゛=40mm+ハウシ゛ンク゛-サンフ゜ル=90mm)
【0043】
【表1】

【0044】
表1中、中心波長は、各分光特性での透過率5%の波長(λ)と透過率72%の波長(λ)との中心波長((λ+λ)/2)を示す。また、波長傾斜幅は、各分光特性での透過率5%の波長(λ)と透過率72%の波長(λ)との間隔(λ−λ)を示し、波長傾斜幅が小さい方がシャープな遮断機能を有すると評価される。
【0045】
表1の結果から明らかなように、実施例1〜5で作製した紫外線遮断ガラスは、可視光線透過率が高く、しかも波長傾斜幅が30nm以内の狭くシャープな遮断機能を有することが分かる。これに対し、比較例1で作製した紫外線遮断ガラスは、紫外線遮断効果が不十分である上、波長傾斜幅が比較的大きく、実施例よりも遮断機能が劣ることが分かる。
【0046】
耐ソラリゼーションについては、図2の結果から明らかなように、実施例1では殆ど分光特性に変化が認められず、耐ソラリゼーション効果が高いことが分かる。他の実施例でも同等の結果を示した。これに対し、比較例1では分光特性に明らかな変化が認められ、耐ソラリゼーション効果が不十分であることが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス全体量を100重量%とし、酸化物組成として、
(1)P:65〜85重量%、
(2)Al:5〜17重量%、
(3)MgO:0〜10重量%、CaO:0〜10重量%、SrO:0〜10重量%、BaO:0〜12重量%及びZnO:0〜10重量%であって、MgO、CaO、SrO、BaO及びZnOの合計量として2〜18重量%、
(4)TiO:0.05〜2.5重量%、
(5)B:0〜10重量%、並びに
(6)SiO:0〜5重量%
を含有するリン酸塩系ガラスからなる紫外線遮断ガラス。
【請求項2】
厚さ2.5mmの前記紫外線遮断ガラスに、波長250〜800nmの光を入射して透過率を測定した場合に、透過率5%の波長と透過率72%の波長との中心波長が315〜355nmの範囲にあり、透過率5%の波長と透過率72%の波長との間隔が30nm以内である、請求項1に記載の紫外線遮断ガラス。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−116588(P2011−116588A)
【公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−275316(P2009−275316)
【出願日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【出願人】(591110654)五鈴精工硝子株式会社 (19)
【Fターム(参考)】