説明

細径ケーブルハーネス

【課題】良好な防水性を確保しつつ、組み立て作業を容易にすることができる細径ケーブルハーネスを提供する。
【解決手段】複数本の細径ケーブル12と、複数本の細径ケーブル12が束ねられて挿通された防水チューブ21とを備えた細径ケーブルハーネス11であって、防水チューブ21の端部には、内側に管17が設けられ、外側に弾性材料からなる防水キャップ14が防水チューブ21上および管17上に射出成型され、防水チューブ21の端部が管17と防水キャップ14とで厚さ方向に挟まれて固定されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数本の細径ケーブルを束ねた細径ケーブルハーネスに関する。
【背景技術】
【0002】
携帯端末や小型ビデオカメラなどの精密小型機器は、互いにスライド可能あるいは回動可能に連結された筐体内の回路基板を配線材によって接続している。
このような配線材として、細径の同軸ケーブルを複数本束ねた細径同軸ケーブルハーネスがある。細径同軸ケーブルハーネスの一例として、筐体への導入箇所に取り付けられる防水部がシールキャップおよびシールキャップの外周に装着されたOリングからなり、防水部の間が防水チューブで覆われ、また、防水チューブと防水部とが金属または熱収縮性樹脂からなるかしめ部材を加締めることによって水密に取り付けられているものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−206043号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記のハーネスでは、外周にOリングが装着されたシールキャップの円筒部を防水チューブの端部に挿し込み、さらに、その挿し込み箇所をかしめ部材によって加締めるという煩雑な組み立て作業を要する。そのため、加工に時間がかかるものであった。
【0005】
本発明の目的は、良好な防水性を確保しつつ、組み立て作業が容易で加工に時間がかからない細径ケーブルハーネスを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決することのできる本発明の細径ケーブルハーネスは、複数本の細径ケーブルと、複数本の前記細径ケーブルが束ねられて挿通された防水チューブとを備えた細径ケーブルハーネスであって、
前記防水チューブの端部には、内側に管が設けられ、外側に弾性材料からなる防水キャップが前記防水チューブ上および前記管上に射出成型され、
前記防水チューブの端部が前記管と前記防水キャップとで厚さ方向に挟まれて固定されていることを特徴とする。
【0007】
本発明の細径ケーブルハーネスにおいて、前記防水キャップには、その外周側に突出するシール部が周方向にわたって形成されていることが好ましい。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、防水チューブの端部における内側に管を設け、外側に弾性材料からなる防水キャップを射出成型した構造であるので、良好な防水性を確保できる。また、外周にOリングが装着されたシールキャップの円筒部を防水チューブの端部に挿し込み、さらに、その挿し込み箇所をかしめ部材によって加締めるという煩雑な組み立て作業を要するものと比較して、本発明は組み立て作業の簡略化及び組み立て作業時間の短縮化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明に係る細径ケーブルハーネスを、筐体がヒンジにより回動する携帯電話内に配線した例を示す斜視図である。
【図2】本発明に係る細径ケーブルハーネスの実施形態の一例を示す平面図である。
【図3】図2の細径ケーブルハーネスの端部の断面図である。
【図4】図2の細径ケーブルハーネスを筐体に取り付けた状態を示す断面図である。
【図5】気密性評価方法を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明に係る細径ケーブルハーネスの実施形態の例について、図面を参照しつつ説明する。
本実施形態の細径ケーブルハーネスは、例えば、図1に示すような携帯電話1などの機器でヒンジ4により回動可能に連結され折りたたみ可能な筐体2,3内の基板に接続され、ヒンジ4を通されている。この携帯電話1は、所謂クラムシェル型の携帯電話であり、一方の筐体2にディスプレイが設けられ、他方の筐体3にキー操作部が設けられている。
【0011】
筐体2,3は、その連結側の端面に、挿通孔2b,3bがそれぞれ形成されており、これらの挿通孔2b,3bから、細径ケーブルハーネス11の両端がそれぞれ導入されている。また、ヒンジ4には、連通孔4aが形成されており、この連通孔4a内に細径ケーブルハーネス11が挿通されている。
【0012】
図2に示すように、細径ケーブルハーネス11は、複数本(20〜60本)の細径ケーブル12を束ねた束部10を有している。両端の端末部分では、平面状に一列に配列され、携帯電話1の筐体2,3内の配線基板(図示省略)への接続のためのコネクタ13が取り付けられて成端処理されている。
【0013】
細径ケーブル12は、中心軸に直交する径方向の断面において、中心から外側に向かって、中心導体、内部絶縁体、外部導体、外被を有する同軸ケーブルであり、それぞれの端部では、端末処理が施されて、外部導体、内部絶縁体、中心導体が段階的に所定長さに露出され、コネクタ13に接続されている。また、細径ケーブルハーネス11には、複数本の同軸ケーブルの他に、外部導体のない絶縁ケーブルが含まれていても良い。なお、図面では、細径ケーブル12の本数を少なく示して簡略化している。
【0014】
本発明でいう細径ケーブル12は、AWG(American Wire Gauge)の規格によるAWG40よりも細い同軸ケーブルであり、その外径は、約0.3mm程度とされている。AWG44よりも細い極細同軸ケーブルを用いるのが望ましい。これにより、細径ケーブルハーネス11は、曲がり易く、筐体2,3が開閉するときの抵抗を小さくすることができる。また、複数本の細径ケーブル12を束ねて複数の束部10を形成したときに、束部10の厚さを薄くすることができ、限られた配線スペースでの高密度配線を可能とする。
【0015】
細径ケーブルハーネス11の束部10では、防水チューブ21に、複数本の細径ケーブル12が挿通され、各細径ケーブル12同士の位置関係が変化し得る程度に束ねられている。したがって、この細径ケーブルハーネス11を屈曲した際に、防水チューブ21内で細径ケーブル12が円滑に移動するため、各細径ケーブル12への引張力や側圧等の付与が極力抑えられる。
【0016】
防水チューブ21は、防水性に優れ、可撓性及び屈曲性を有するものであり、四フッ化エチレン、六フッ化プロピレン及びフッ化ビニリデンの三元重合体ポリマー(THV)から形成することにより、高い耐久性を有している。この防水チューブ21を構成する三元重合体ポリマーは、融点が100℃以上140℃以下、MFR(メルトフローレート、265℃/5kg)が1.5g/分以上2.5g/分以下、ガラス転位点が0℃以上10℃以下、伸びが600%以上700%以下、曲げ弾性率が0.05GPa以上0.10GPa以下であることが好ましい。また、この防水チューブ21としては、シリコーンゴム等の軟質の樹脂から形成しても良い。
【0017】
防水チューブ21は、シリコーンゴムで形成する場合は、肉厚を0.2mm以上とするのが好ましいが、THVで形成する場合は、肉厚を0.1mm程度まで薄くすることができる。
【0018】
図3及び図4に示すように、防水チューブ21には、その端部における内側に、管17が嵌め込まれている。この管17を防水チューブ21に嵌め込むことにより、防水チューブ21は径方向外側に押し広げられて弾性変形し、管17の外周面に密着している。なお、この管17の端部は、防水チューブ21の端部から突出している。管17は金属製または樹脂製で容易に変形せず表面が滑らかなものである。
【0019】
また、防水チューブ21には、その端部における外側の、防水チューブ21上および管17上に、防水キャップ14が射出成型されている。この防水キャップ14は、例えば、エチレンプロピレンジエン三元共重合体(EPDM)等の弾性材料から形成されており、その硬度(ショアA硬度)は、50度以上70度以下とするのが好ましい。
【0020】
この防水キャップ14は、その軸方向の長さが、管17と略等しくなるように形成されている。これにより、防水チューブ21の端部は、防水チューブ21の内側に嵌め込まれた管17と、防水チューブ21の外側に射出成型された防水キャップ14とで厚さ方向に挟まれて強固に固定されている。また、防水チューブ21の端部から突出した管17の端部には、その外周に防水キャップ14が直接密着されている。また、防水キャップ14には、管17との密着箇所における外周側に、断面視円弧状に突出するシール部15が周方向にわたって形成されている。
【0021】
この防水キャップ14は、管17を嵌め込んだ防水チューブ21の端部を金型内に配置させた状態で、金型に弾性材料を射出することにより、防水チューブ21の端部に成型される。そして、このように射出成型によって防水キャップ14を成型すると、防水チューブ21が防水キャップ14で管17に押し付けられて防水チューブ21と防水キャップ14とが密着する。これにより、防水チューブ21は、管17と防水キャップ14との間から抜けることなく固定され、防水キャップ14に対して防水チューブ21が水密的に接続される。
【0022】
一般に、防水キャップ14のような管状体を射出成型するには、管状体の中空部分を形成するための中子を金型内に配置させ、この中子と金型との間に樹脂を充填するが、この中子を高精度に配置させ、また、中空となるように中子と金型との間に樹脂を充填するのはかなり困難な作業である。
【0023】
これに対して、本実施形態では、管17を嵌め込んだ防水チューブ21の端部を金型内に配置させた状態で、防水チューブ21及び管17の外周側と金型の内面との隙間に弾性材料である樹脂を射出すれば、防水チューブ21及び管17の内側へ樹脂を入り込ませることなく、管状の防水キャップ14を容易に成型することができる。つまり、本実施形態では、金型を用いて中実の部品を成型するのと同様に、防水キャップ14を射出成型によって容易に成型することができる。また、防水キャップ14を射出成型すると防水キャップ14を薄く形成することができる。
【0024】
上記の細径ケーブルハーネス11を携帯電話1やカメラを構成する筐体2,3に装着するには、防水チューブ21より端部側で露出したコネクタ13及び細径ケーブル12を筐体2の挿通孔2bと筐体3の挿通孔3bにそれぞれ通し、筐体2の嵌合部2aと筐体3の嵌合部3aに防水キャップ14を嵌め込む。嵌合部2a,3aは、筐体2,3に防水キャップ14が収まるように周囲を壁で囲んだ部分である。嵌合部2a,3aより防水キャップ14の方がやや大きく、防水キャップ14は嵌合部2a,3aに押し込まれて嵌め込まれる。
【0025】
筐体2,3に防水キャップ14が取り付けられる箇所は、防水キャップ14を取り囲む壁面に囲まれた平面視円形状の嵌合部2a,3aである。嵌合部2a,3aの断面は防水キャップ14の断面よりやや小さく、嵌合部2a,3aに防水キャップ14が圧入されて細径ケーブルハーネス11が筐体2,3に取り付けられる。
【0026】
防水キャップ14のシール部15は、防水キャップ14が取り付けられるときに筐体2,3の嵌合部2a,3aに圧接されて潰れる。シール部15は反発力(弾性力)で常に嵌合部2a,3aの壁を押しつけて密着する。これにより、防水キャップ14と筐体2,3とが確実に水密的に接続される。シール部15は、防水キャップ14に一体的に成型されているので、別途Oリングを使用する場合よりもコストを抑えることができる。
そして、防水キャップ14と防水チューブ21は水密的に接続されているので、筐体2,3に防水キャップ14が上述のように水密的に取り付けられることにより、細径ケーブルハーネス11を伝って筐体2または筐体3の内部(コネクタ13側)に水が浸入することがない。
【0027】
上記実施形態に係る細径ケーブルハーネス11に対して、図5に示すように、一つの面が疑似金属膜41aからなる密閉された加圧カプセル41を用いて気密性試験を行った。具体的には、加圧カプセル41の底面に防水キャップ14を圧入するように壁部で取り囲まれた凹部42を形成し、これらの凹部42に、細径ケーブルハーネス11の両端の防水キャップ14をそれぞれ嵌合させた。この状態で、加圧カプセル41のエア導入口41bからエアを注入した後にエア導入口41bを密封し、変位センサ43によって疑似金属膜41aの変位を測定し、加圧カプセル41からの空気のリークの有無を調べた。なお、加圧カプセル41へのエアの注入後、10秒間で0.5cc以上の空気が減少した場合は空気のリーク有りと判定した。その結果、本実施形態に係る細径ケーブルハーネス11では、空気のリークはなく、良好な水密性が得られることがわかった。
【0028】
本実施形態の細径ケーブルハーネス11によれば、防水チューブ21の端部における内側に管17を設け、外側に弾性材料からなる防水キャップ14を射出成型した構造であるので、良好な防水性を確保することができる。また、外周にOリングが装着されたシールキャップの円筒部を防水チューブの端部に挿し込み、さらに、その挿し込み箇所をかしめ部材によって加締めるという煩雑な組み立て作業を要するものと比較して、組み立て作業の簡略化及び組み立て作業時間の短縮化を図ることができる。また、防水キャップ14を射出成型することによって管17との間で防水チューブ21を挟み込むので、防水キャップ14の肉厚を薄くしても防水チューブ21を十分に固定することができる。よって、防水キャップ14の薄肉化によりコストを抑制し小型化も図ることができる。
【0029】
また、防水キャップ14の外周側に例えば円弧状に突出するシール部15を周方向へわたって形成したので、このシール部15をOリングとして機能させることができる。よって、Oリングを不要とすることができる。これにより、部品点数を削減してコストを低く抑えることができる。
【0030】
また、細径ケーブルハーネス11は、両端のコネクタ13によって筐体2,3内の配線基板などに容易に接続することができる。また、細径ケーブル12はシールド性が良好でありノイズ特性に優れているため、安定した信号伝送を行うことができる。
【0031】
また、本実施形態は、コネクタ13を装着せずに、細径ケーブルハーネス11の細径ケーブル12を配線基板へ直接またはFPC(Flexible Printed Circuits)等を介して接続する場合にも適用可能である。
【0032】
細径ケーブル12を配線基板に直付けする場合には、並列させた細径ケーブル12の端末を配線基板に対してフィルムなどで仮止めし、細径ケーブル12の端末の中心導体を配線基板の接続端子に半田付けで接続すればよい。また、端末部分で露出された外部導体は、グランドバーに接続する。このようにすると、細径ケーブル12の各外部導体をグランドバーによってまとめて容易に接地させ、良好なシールド効果を得ることができる。また、各細径ケーブル12の配列ピッチを良好に固定することができる。
【符号の説明】
【0033】
11:細径ケーブルハーネス、12:細径ケーブル、14:防水キャップ、15:シール部、17:管、21:防水チューブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数本の細径ケーブルと、複数本の前記細径ケーブルが束ねられて挿通された防水チューブとを備えた細径ケーブルハーネスであって、
前記防水チューブの端部には、内側に管が設けられ、外側に弾性材料からなる防水キャップが前記防水チューブ上および前記管上に射出成型され、
前記防水チューブの端部が前記管と前記防水キャップとで厚さ方向に挟まれて固定されていることを特徴とする細径ケーブルハーネス。
【請求項2】
請求項1に記載の細径ケーブルハーネスであって、
前記防水キャップには、その外周側に突出するシール部が周方向にわたって形成されていることを特徴とする細径ケーブルハーネス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−256564(P2012−256564A)
【公開日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−129908(P2011−129908)
【出願日】平成23年6月10日(2011.6.10)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】