説明

細胞の電気生理現象の測定装置

【課題】安定して高精度な測定を実現できる細胞の電気生理現象の測定装置を提供することを目的とする。
【解決手段】貫通孔5を有した薄板3とこれを保持する枠体4とからなるセンサチップ2を、開口部を有した基板1の開口部の内部に固着した細胞電気生理センサと、このセンサチップ2のキャビティ6の内部に測定液12を充填する分注手段とからなる細胞の電気生理現象の測定装置であって、分注手段として液滴12aをキャビティ6の内部に飛滴させる非接触式ジェットディスペンサのヘッド部8を配置するとともに、可動機構を設けた構成とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞の活動によって発生する物理化学的変化を測定するために用いられる細胞内電位あるいは細胞外電位等の細胞の電気生理現象をスムーズにかつ確実に測定するための細胞の電気生理現象の測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電気生理学におけるパッチクランプ法は、細胞膜に存在するイオンチャンネルを測定する方法として知られており、このパッチクランプ法によってイオンチャンネルの様々な機能が解明されてきた。そして、イオンチャンネルの働きは細胞学において重要な関心事であり、これは薬剤の開発にも応用されている。
【0003】
例えば、プローブを細胞またはその部分の表面近くに制御し、プローブを該表面に垂直になるように表面に接触させるというパッチクランプ法が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
また、基質上または内に形成された管状通路内における電気浸透流を用いて細胞を測定位置に自動的に配置するための手段を備えたオートパッチ方式が開示されている(例えば、特許文献2参照)。
【特許文献1】特表2004−528553号公報
【特許文献2】特表2004−510980号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前記従来の構成である自動的に細胞を捕捉できるオートパッチ方式において、自動分注器のピペットを用いてピペット先端の外径よりも小さな内径の微小容器部に液体を分注する時、滴下する液体の液滴の大きさが液体の表面張力により微小容器の内径よりも大きくなってしまい、この液滴を微小容器の内部に注入したとき、微小容器の内部に気泡が残ることがある。この残留した気泡が貫通孔の近傍に存在すると、貫通孔に細胞を保持することが難しくなる、あるいは安定した測定ができないといった課題を有していた。
【0006】
本発明は、前記従来の課題を解決するもので、安定して高精度な測定を実現できる細胞の電気生理現象の測定装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記従来の課題を解決するために、本発明は、貫通孔を有した薄板と枠体からなるセンサチップを基板の開口部に固着した細胞電気生理センサと、このセンサチップのキャビティの内部に測定液を充填する分注手段を有し、キャビティの内径よりも小さな液滴を飛滴することができる非接触式ジェットディスペンサのヘッド部をキャビティの上方に配置するとともに、このヘッド部に可動機構を設けた構成とするものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明の細胞の電気生理現象の測定装置は、キャビティの内径よりも小さな直径の液滴を飛滴させることできる非接触式ジェットディスペンサを用いることによって、キャビティの内部へ小さな液滴を飛滴させながら測定液を充填していくことができることから、キャビティの内部の気泡残りを防止することができ、安定して高精度な測定を行うことができる細胞の電気生理現象の測定装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
(実施の形態1)
以下、本発明の実施の形態1における細胞の電気生理現象の測定装置について、図面を用いて説明する。
【0010】
図1は本発明の実施の形態1における細胞の電気生理現象の測定装置の断面図、図2は測定方法を説明するための断面図、そして図3は別の例の測定装置の断面図、図4はセンサアレイの上面図および図5は図4のAA部における断面図である。
【0011】
まず始めに、本実施の形態1における細胞電気生理センサの基本的な構成とその動作について説明する。
【0012】
図1において、1はガラスよりなる基板であり、この基板1の外観形状は平板状であり、所定の間隔に上下に貫通した開口部を一つ以上有している。そして、この基板1にはガラスなどの親水性に優れた材料を用いることが好ましい。この基板1には微細加工性に優れた材料よりなるセンサチップ2を設置しており、このセンサチップ2はシリコンを主成分とする材料よりなる薄板3と枠体4とから一体的に構成することが好ましく、この薄板3には貫通孔5を形成している。また、この貫通孔5の大きさは細胞を貫通孔5の上にうまく保持することができる形状が好ましく、細胞の大きさによって異なってくるが、直径;1〜5μmが好ましい。
【0013】
なお、この貫通孔5は薄板3に少なくとも一個以上あれば良いが、複数の貫通孔5を形成し、複数個の細胞を同時に測定することによって信号レベルを高めて測定することも可能である。
【0014】
そして、このセンサチップ2は薄板3と枠体4に囲まれたキャビティ6を構成している。このキャビティ6は細胞を保持するとともに薬液を充填しておくための空間でもある。そして、このセンサチップ2は基板1の開口部の内壁部に液漏れのないように強固に固着している。これによって、センサチップ2は基板1の上部と下部を完全に仕切るとともに、貫通孔5を通してのみ、上部と下部の空間が連通する構造としている。
【0015】
なお、センサチップ2を固着する場所は基板1の開口部の下端部のみでなく、中間部あるいは上端部であってもよい。
【0016】
さらに、開口部の内径はセンサチップ2よりも少し大きな直径(例えば5〜20μmが好ましい)とし、このセンサチップ2を容易に挿入し固定することができるようにすることが好ましい。
【0017】
また、キャビティ6の大きさは内径;50〜1000μmが好ましく、一般的な規格である384chウエルフォーマットや1536chウエルフォーマットに適用することができるため、測定液や細胞を微小容量で扱うのに適している。
【0018】
なお、センサチップ2の形状は加工性から円筒状としているが、多角形としても良い。
【0019】
次に、細胞電気生理センサの製造方法を以下に説明する。
【0020】
センサチップ2はフォトリソグラフィー、ドライエッチング等の半導体加工技術によって一体的に形成し、キャビティ6とこのキャビティ6の底面に貫通孔5を設けた薄板3となっている。
【0021】
そして、基板1には平板状のガラスを用いることが好ましいが、樹脂を平板状に射出成型した樹脂基板を用いることも可能であり、この樹脂基板を用いることは生産性の観点から好ましい。
【0022】
その後、所定の形状に加工したセンサチップ2を基板1の開口部の内部に挿入し、接着剤で固着あるいは加熱によって溶融固着させる。このセンサチップ2の挿入の簡単な方法としては、センサチップ2を濡らした状態にしておき、これを基板1の入り口に一部挿入することで基板1の端にセルフアライメントさせることができる。これは、ガラスからなる基板1の内壁の親水性が高く、水が管内に浸入していき、これに引っ張られてセンサチップ2も挿入されるからである。また、センサチップ2が基板1の端にある状態から、任意の水を加えることで水は開口部の内部へ浸入し、それにつれてセンサチップ2も移動し、基板1の開口部の内部の任意の位置にセンサチップ2を移動させて固着することも可能である。
【0023】
そして、センサチップ2を任意の位置に移動させた後は接着剤または加熱によって、ガラスからなる基板1とセンサチップ2を固着させる。これで細胞電気生理センサが完成となる。
【0024】
次に、本実施の形態1における細胞の電気生理現象の測定装置の構成と分注方法について説明する。この細胞の電気生理現象の測定装置の大きな特徴は、図1に示すようにキャビティ6の上方にキャビティ6の内径よりも小さな液滴をキャビティ6の内部へ飛滴することができる非接触式ジェットディスペンサのヘッド部8を設けた構成としていることである。
【0025】
このような構成とした測定装置の分注方法として、まず、貫通孔5によって分断されたキャビティ6の上部空間10に非接触式ジェットディスペンサのヘッド部8を用いて測定液である細胞外液12aの液滴を飛滴させながら薄板3の上面に細胞外液12を充填していく。このとき、飛滴させる細胞外液12aの液滴の容量は1〜30nLが好ましく、このような液滴を飛滴することができる仕様のヘッド部8とすることによって、キャビティ6の内部または貫通孔5の近傍に気泡残りを抑制しながら細胞外液12aを分注しながら充填することができる。この細胞外液12を介して測定のための電極へ接続することとなるので、電極への接続が容易となる所定の量の細胞外液12を充填するとこのセンサチップ2への分注は完了する。
【0026】
このように、キャビティ6の内径より小さな直径からなる液滴状の細胞外液12aをキャビティ6の内部や薄板3の上に飛滴させることができる非接触式ジェットディスペンサのヘッド部8を配置した測定装置とすることによって、キャビティ6の上方から微小な寸法形状を有する貫通孔5の近傍に正確に微少な液滴を飛滴させて測定液などの液体を分注しながら充填していくことによって、気泡残りを抑制しながら分注・充填していくことができる。その結果、細胞の電気生理現象の測定を確実にかつスムーズに行うことができる。
【0027】
これは、測定液の液滴の直径が自動分注機のピペット先端部の外径の大小に依存しない非接触式ジェットディスペンサのヘッド部8を用いることによって、キャビティ6の内径より小さな直径の液滴の測定液12aをキャビティ6の内部、さらには薄板3の貫通孔5の近傍へ直接飛滴させながら測定液を充填していくことが可能となるものである。
【0028】
これに対して、従来の方法である自動分注器のピペットによる分注を行った場合には、測定液などの液体の表面張力によりキャビティ6の内径よりも大きな液滴となる場合があり、キャビティ6の内部あるいは貫通孔5の近傍にある気泡の逃げ場がない状態で液体が滴下されることとなり、キャビティ6の内部や貫通孔5の近傍に気泡が残留することによって、導通抵抗値は高い値を示すかまたは無限大の異常値を示し測定不良となる。もし、このような気泡が残留していれば、この気泡を除去する必要があり、スムーズに測定することが困難となる。
【0029】
次に、このような測定装置を用いて細胞の電気生理現象を測定する方法について説明する。
【0030】
まず、図2に示すように基板1のキャビティ6の上部にある細胞外液12の液中に第一の電極14を配置するとともに、センサチップ2の下面側に基板1と気密構造を実現できるようにチューブ9を配置している。このチューブ9の内部には細胞内液13を充填し、この細胞内液13の液中に第二の電極15を配置するとともに、チューブ9の内部に圧力を伝えることのできる圧力伝達チューブ16を取り付け、シール材19により封止した状態としている。この状態において、第一の電極14と第二の電極15との間で100kΩ〜10MΩ程度の導通抵抗値を観測することができる。これは測定液である細胞外液12あるいは細胞内液13が貫通孔5に浸透し、第一の電極14と第二の電極15が細胞外液12と細胞内液13を介して導通するからである。ここで、測定液である細胞内液13とは、例えば哺乳類筋細胞の場合、代表的にはK+イオンが155mM、Na+イオンが12mM程度、Cl-イオンが4.2mM程度添加された電解液であり、測定液である細胞外液12とはK+イオンが4mM程度、Na+イオンが145mM程度、Cl-イオンが123mM程度添加された電解液である。
【0031】
その後、キャビティ6の上部から細胞17を投入し、圧力伝達チューブ16により減圧を行うと、細胞17は貫通孔5に引き付けられ、この貫通孔5を塞ぎ、第一の電極14と第二の電極15との間の電気抵抗が十分に高い1GΩ以上の状態となる。この状態において、細胞17の電気生理活動によって細胞内外の電位が変化した場合のわずかな電位差あるいは電流であっても測定が可能となる。
【0032】
以上のように、本実施の形態1における細胞の電気生理現象の測定装置を用いることによって、スムーズかつ確実に細胞の電気生理現象の測定を行うことができる。
【0033】
ここで、チューブ9を使用することによって、測定液である細胞内液13を個別のセンサチップ2の下面側に安定して保持することができるとともに、細胞内液13の内部から第二の電極15の取り出しや圧力伝達チューブ16を容易に個別のセンサチップ2に取り付けることができるため、測定時において容易に安定した細胞17の測定を実施することができる。
【0034】
また、本実施の形態1における測定装置において、ヘッド部8の中心線とキャビティ6の中心線を一直線上に配置することによって、確実に貫通孔5の近傍に細胞外液12aを飛滴させることができることから、より確実に気泡残りを抑制しながら細胞外液12を分注して充填することができる。
【0035】
また、基板1をガラスとすることによって、基板1の内壁の親水性が向上し、ヘッド部8からの分注時の細胞外液12が表面張力により浸透しやすいため、キャビティ6の上部における基板1の開口部の内壁面の気泡残りを抑制することができる。
【0036】
また、センサチップ2の材質をシリコンとし、このセンサチップ2の表面にSiO2をCVD、熱酸化、スパッタリングまたは真空蒸着法により形成することによって、センサチップ2の表面の親水性が向上し、ヘッド部8からの分注時の測定液が表面張力により浸透しやすいため、枠体4の内壁面や薄板3の上面に気泡残りを抑制しながら測定液を分注して充填することができる。
【0037】
また、基板1とセンサチップ2を酸素プラズマによるアッシング処理を行うことによって、基板1とセンサチップ2の表面全体の親水性が向上し、前記とほぼ同様の効果を得ることができる。
【0038】
また、基板1とセンサチップ2を硫酸と過酸化水素水または過硫酸アンモニウムを用いて酸化処理することによっても、前記と同様の効果を得ることができる。
【0039】
また、ヘッド部8を水平方向に反復移動させる可動機構を持たせることによって、キャビティ6の底面の側壁付近なども含め比較的大きな面積に対しても測定液を均一に飛滴させることが可能となり、確実にキャビティ6の内部や薄板3の上面に気泡の発生を抑制しながら細胞外液12aを分注して充填することができる。
【0040】
また、ヘッド部8を水平面内で周回させる可動機構を持たせることによって、キャビティ6の底面の側壁付近なども含め目標を定めて飛滴することが可能となり、円筒状のキャビティ6を用いるとき、より確実にキャビティ6の内部や薄板3の上面に気泡の発生を抑制しながら細胞外液12を分注して充填することができる。
【0041】
しかしながら、条件によってはヘッド部8を用いて、始めから数回目までの非接触式ジェットディスペンサによる液滴状の細胞外液12aを不連続に分注した時、運悪く気泡が残る場合がある。
【0042】
これに対して、その後、数回の不連続の液滴状の細胞外液12aを分注することによって、気泡抜きを行うことができる。これは、不連続の液滴は飛滴速度が速く、大きなエネルギーをもって気泡に衝突させることができるためであることが分かった。従って、気泡を見つけた場合、気泡に向かって液滴を飛滴させることによって消泡させることも可能である。
【0043】
そして、検討の結果、この非接触式ジェットディスペンサの細胞外液12aの分注による気泡抜きは10回以下で確実に行うことができ、その後、液滴を連続させた連続方式で細胞外液12aを分注すると良いことが分かった。
【0044】
このように、細胞外液12aの分注方法を分注の最初から10回目以下までは液滴状の細胞外液12aを不連続に分注し、その後は連続的に液滴を分注することによって、短時間で気泡抜きを行ってキャビティ6の内部に細胞外液12を充填することができる。
【0045】
次に、本実施の形態1における細胞の電気生理現象の測定装置の別の例について図3を用いて説明する。基本的な構成は図1および図2に示した構成とほぼ同様であり、センサチップ2の上方にキャビティ6の内径より小さな液滴をキャビティ6の内部または薄板3の上面に飛滴させることができる非接触式ジェットディスペンサのヘッド部8を設置した構成である。図3に示した測定装置が図1の測定装置と大きく異なっている点は複数のセンサチップ2を配置していることと、共通の流路24によって細胞内液13などの測定液を充填することによって、一括して細胞の電気生理現象を測定することができる測定装置を提供することを目的としている。
【0046】
これによって、一般的な規格である384chウエルフォーマットや1536chウエルフォーマットに適用することができる測定装置を実現することができ、一括して効率よく細胞の電気生理現象を測定することができる。
【0047】
また、センサチップ2をマトリックス状に多数並べたとき、複数のセンサチップ2に対して細胞外液12aの分注を行う場合には、ヘッド部8を移動させることによって分注が可能であり、さらにヘッド部8を複数配置することによって、一括して高速に分注できるという点において効果を発揮することもできる。
【0048】
このアレイ化した細胞電気生理センサは複数のセンサチップ2を一直線上に所定のピッチで並ぶように構成しており、さらに、第一の電極14および第二の電極15を基板1の一面側に配置し、流路24を構成するための溝を有した流路プレート21を基板1の下面側に配置するとともに、第二の電極15の一端を基板1の一部の開口部に埋め込んだ構成としている。
【0049】
また、測定液を投入するための流入口22、吸引するための流出口23を基板1の端部にある開口部に配置している。
【0050】
そして、基板1の開口部の位置に対応するように測定液などの投入口としてウエル20を形成している。このウエル20は樹脂などを射出成形によって形成することができる。なお、このウエル20は無くても良いが、測定液および細胞17などを投入するときのガイド、あるいは上部に蓋をするときなどに有効である。
【0051】
そして、前記ウエル20、基板1および流路プレート21は互いに接合しており、これによってそれぞれの貫通孔5は流路プレート21の流路24によって連結した構造としている。つまり、センサチップ2の下面は流路24によって構成された領域として外部から仕切られている。
【0052】
ここで、第一の電極14および第二の電極15はクロム、チタン、銅、金、白金、銀および塩化銀からなる電極材料から選択される少なくとも一つを含む電極で構成することが好ましく、さらに基板1の同一面に前記二種類の電極14,15を形成することが好ましい。
【0053】
特に、銅は後に述べる熱可塑性樹脂に密着性よく付着することを確認しており、銀および塩化銀は後に述べる電解液との電気接触抵抗を軽減することが可能である。
【0054】
また、好ましくは基板1の第二の電極15を形成した開口部の内部には第二の電極15の一端と接続されるように銀・塩化銀が微粒子状態で混合された導電性接着剤である電極ペーストを埋め込んでいる。これによって、第二の電極15を形成した基板1の開口部を確実に塞ぐことができ、流路24は外部から確実に遮断される。
【0055】
このような構成とすることによって、基板1の一面上に電極14,15を形成することによってプローブなどとの接触を容易にするとともに生産性に優れたアレイ構造を実現することができる。また、流路24の内部に蓄積した細胞内液13の電位状態を測定することもできる。
【0056】
さらに、第一の電極14と第二の電極15は基板1の一面にのみ形成していることから、すべての電極の引き出しパターンは基板1とウエル20の間に埋め込まれることになり、配線電極の保護にも有効であるとともに、外部装置への接続が容易になるという利点も有している。
【0057】
そして、基板1,ウエル20および流路プレート3はすべて熱可塑性樹脂で形成することが生産性の観点から好ましい。そして、これらの熱可塑性樹脂は、ポリカーボネート樹脂、ポリエチレン樹脂、オレフィンポリマ、ポリメタクリル酸メチルアセテート樹脂、のいずれか、またはこれらの組み合わせを用いることが好ましい。さらに、環状オレフィンポリマ、線状オレフィンポリマ、またはこれらが共重合した環状オレフィンコポリマ、およびポリエチレンからなる材料から選択される少なくとも一つの樹脂を含むことがより好ましい。
【0058】
次に、以上説明したような構成を有する細胞電気生理センサのアレイを用いて、細胞の電気生理現象を測定する方法について説明する。
【0059】
まず、全てのセンサチップ2の下面側の流路24の内部に流入口22から細胞内液13を投入して、細胞内液13が流出口23へ到達するまで流路24の内部を細胞内液13で満たす。これは、流出口23を真空ポンプなどで吸引することによって簡単に行うことができる。
【0060】
次に、全てのセンサチップ2のキャビティ6の内部へ非接触式ジェットディスペンサのヘッド部8を用いて液滴を飛滴させながら細胞内液13を充填していく。この細胞内液13を充填した状態で、第一の電極14と第二の電極15との電気抵抗を測定すると、100kΩ〜10MΩ程度の抵抗値を観測することができる。
【0061】
これはセンサチップ2の薄板3の一部に設けた貫通孔5に電解液である細胞内液13あるいは細胞外液12が浸透し、細胞外液12は第一の電極14と接触し、細胞内液13は流路24を介して第二の電極15と接触することで電気回路を構成しているからである。
【0062】
次に、センサチップ2のキャビティ6の内部へ細胞17を投入し、流入口22あるいは流出口23から吸引を行うと、キャビティ6の内部に投入された細胞17は細胞外液12とともに貫通孔5へ引きつけられる。
【0063】
そして、細胞17が貫通孔5を完全に塞ぐように密着すると、細胞外液12と細胞内液13の電気抵抗は大きくなり、通常100MΩ以上、好ましくは1GΩ以上の抵抗値となる。このように、電気抵抗が大きくなった状態では、細胞17の内部へ流れ込む、あるいは流れ出すイオンの数がわずかであっても、高精度に細胞17の内外を流れるイオンの動きを測定できるようになる。これが細胞17の電気生理現象であるイオンチャンネルの測定である。
【0064】
このように、図3に示した細胞電気生理センサのアレイは、前記イオンチャンネルを測定できるセンサチップ2をマトリックス状に複数個備えていることから、同時に一括して効率的な測定を行うことができる。
【0065】
なお、図3ではセンサチップ2は2つだけについて図示しているが、さらに多くのセンサチップ2を備えていてもよく、好ましくは12×8列の96個、もしくは24×16列の384個、もしくは48×32列の1536個の配列とすることが良い。例えば、図4は24×16列の384個のウエル20が並んだ基板1を用いたセンサアレイの一例である上面図であり、図5は図4のAA部における断面図を示している。図4および図5に示すように、列番号E,F,G,H,I,J,K,Lにおける行番号3〜22においてウエル20を合計で160個配置し、行番号1および行番号24のウエル20を流入口22、流出口23と接続し、行番号2もしくは行番号23のウエル20を第二の電極15とそれぞれ接続している。
【0066】
このように格子状にウエル20とセンサチップ2を並べることによって、細胞内液13を流す流路24を直線的に効率良く配置することができる。さらに、前記配列は他の多くの関連装置(たとえば複数の種類の薬剤を作るアッセイ工程、細胞を分ける分注工程等)で一般に使われる配列なので、分注ロボットなどが兼用できる汎用性も有している。このことは、薬剤をスクリーニングする関連工程との連携を効率よくする重要な要素である。
【0067】
以上説明してきたように、複数のセンサチップ2と、測定液および細胞17を投与・蓄積できるウエル20と、細胞内液13を流入させる流路24と、細胞外液12に接続した第一の電極14と、細胞内液13と接続された第二の電極15とが同一面上に一体化されて構成することによって測定のためのプローブなどを上面で行うことが可能となるとともに、ヘッド部8を複数あるいはアレイ状に配置し、効率の良い測定を一括して行うことが可能となるアレイ状の細胞の電気生理現象の測定装置を実現することができる。
【0068】
また、安価な熱可塑性樹脂で構成することによって安価な測定装置を提供できる。
【0069】
このような測定装置の構造と分注方法によって、気泡残りを抑制しながら細胞外液12を分注することによって正確に測定液の量を制御して充填することができることから、細胞の電気生理現象を安定して高精度に測定することができる。
【産業上の利用可能性】
【0070】
以上のように、本発明にかかる細胞の電気生理現象の測定装置は、高速で薬理判定を行う薬品スクリーニングなどに有用である。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】本発明の実施の形態1における細胞の電気生理現象の測定装置の断面図
【図2】同測定方法を説明するための断面図
【図3】同別の例の測定装置の断面図
【図4】同センサアレイの一例を示す上面図
【図5】図4のAA部における断面図
【符号の説明】
【0072】
1 基板
2 センサチップ
3 薄板
4 枠体
5 貫通孔
6 キャビティ
8 ヘッド部
10 上部空間
11 下部空間
12、12a 細胞外液(測定液)
13、13a 細胞内液(測定液)
14 第一の電極
15 第二の電極
16 圧力伝達チューブ
17 細胞
19 シール材
20 ウエル
21 流路プレート
22 流入口
23 流出口
24 流路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一つ以上の貫通孔を有した薄板とこの薄板を保持する枠体とからなるセンサチップを少なくとも一つの開口部を有した基板の開口部の内部に固着した細胞電気生理センサと、前記センサチップのキャビティの内部に細胞の電気変化を測定するための測定液を充填する分注手段とからなる細胞の電気生理現象の測定装置であって、前記分注手段としてキャビティの内部に液滴を飛滴する非接触式ジェットディスペンサのヘッド部を前記キャビティの上方に配置するとともに、このヘッド部に可動機構を設けた細胞の電気生理現象の測定装置。
【請求項2】
ヘッド部を水平方向に可動させる可動機構とした請求項1に記載の細胞の電気生理現象の測定装置。
【請求項3】
ヘッド部をキャビティの内径の範囲内において水平方向に反復移動させる可動機構とした請求項2に記載の細胞の電気生理現象の測定装置。
【請求項4】
ヘッド部をキャビティの内径の範囲内において水平面内で周回させる可動機構とした請求項2に記載の細胞の電気生理現象の測定装置。
【請求項5】
ヘッド部の中心線とキャビティの中心線を一直線上に配置した請求項1に記載の細胞の電気生理現象の測定装置。
【請求項6】
基板をガラスとした請求項1に記載の細胞の電気生理現象の測定装置。
【請求項7】
センサチップをシリコンとし、このシリコンの表面に二酸化ケイ素を形成した請求項1に記載の細胞の電気生理現象の測定装置。
【請求項8】
細胞電気生理センサの表面を酸素プラズマによるアッシング処理した請求項1に記載の細胞の電気生理現象の測定装置。
【請求項9】
細胞電気生理センサの表面を硫酸と過酸化水素水または過硫酸アンモニウムにより酸化処理した請求項1に記載の細胞の電気生理現象の測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−124968(P2009−124968A)
【公開日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−301497(P2007−301497)
【出願日】平成19年11月21日(2007.11.21)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】