説明

細胞培養表現型の示差的発現プロファイリング分析およびその使用

本発明は、発現プロファイリング分析により、タンパク質の発現および分泌を最大にする遺伝子およびタンパク質ならびに関連経路を体系的に同定する方法を提供する。本発明はさらに、改良された細胞株を設計するために同定された遺伝子およびタンパク質を遺伝子操作する方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
配列表の参照
本願は原本対象の一部として「コピー1」、「コピー2」および「コピー3」と表示された3つのコンパクトディスクを含み、各ディスクには配列表が含まれている。各コンパクトディスクの形式はIBM−PCであり、各コンパクトディスクのオペレーションシステムはMS−ウィンドウズである。各コンパクトディスクには、「WYE-060pc.ST25.txt」の名称のテキストファイル(1,423KB、2007年4月20日作成)が1つ入っている。これら「コピー1」、「コピー2」および「コピー3」と表示されたコンパクトディスクの内容は出典明示によりそのまま本明細書の一部とされる。
【0002】
技術分野
本発明は、示差的発現プロファイリング分析による特定の細胞表現型の付与に関与する遺伝子およびタンパク質を同定する方法、ならびに細胞株培養条件および導入遺伝子の発現の至適化における該遺伝子およびタンパク質の使用に関する。
【背景技術】
【0003】
今日の生物学の研究の基礎は、細胞株が最適に培養および維持できることにある。細胞株は生物系や疾病の研究のためのin vitroモデルを提供するだけでなく、有機試薬の作製のためにも用いられる。特に重要なのは、多量の組換えタンパク質を作製するための遺伝子操作された原核細胞株または真核細胞株の使用である。組換えタンパク質は生物学的研究で、または特定の疾病または疾患を処置するための治療用化合物として使用することができる。
【0004】
生物薬剤学的用途のための組換えタンパク質の産生は一般に、膨大な数の細胞および/または細胞増殖および/または発現に影響を及ぼす特定の細胞培養条件を必要とする。いくつかの場合、組換えタンパク質の産生は細胞培養培地への化学誘導剤(酪酸ナトリウムまたは吉草酸など)の導入から利益を得る。導入遺伝子の発現を高める培養条件(または特定の薬剤)に応答する遺伝子および関連の遺伝子経路を同定することで、組換えタンパク質の産生を高め、かつ/または細胞増殖に影響を及ぼすように操作することができる、可能性ある標的を解明することができる。
【0005】
組換えタンパク質産生の至適化の研究は、主として遺伝子調節、細胞応答、細胞代謝および非フォールドタンパク質に応答して活性化される経路を調べることに向けられてきた。現在のところ、導入遺伝子の発現と導入遺伝子の発現に関与する遺伝子経路の同定の同時監視を可能とする、利用可能な方法はない。例えば、導入遺伝子の発現を検出するために現在利用可能な方法としては、既知のタンパクの存在および量のみを測定するもの(例えば、ウエスタンブロット解析、酵素結合免疫吸着検定および蛍光活性化細胞選別)、または既知のメッセンジャーRNA(mRNA)転写物の存在および量のみを測定するもの(例えば、ノーザンブロット分析および逆転写ポリメラーゼ連鎖反応)がある。これら、また類似の方法は一度に検出できる既知のタンパク質および/またはmRNA転写物の数が限られているだけでなく、実験前に研究者がどの遺伝子が導入遺伝子の発現に関与しているか知っているか、または「推測する」必要がある(従って、適当な抗体またはオリゴヌクレオチドプローブが用いられる)。ブロット分析および類似のプロトコールに内在するもう1つの制限が、大きさの同じタンパク質またはmRNAが識別できないということである。1つのゲノムに含まれる膨大な数の遺伝子を考えれば、上記の方法を用いて遺伝子経路に関与する極めて少数の遺伝子を同定するにはコストも時間もかかる。さらに、研究者がどの遺伝子が関与するか意図を持つ必要があると言っても、これまでに発見されていないか、または導入遺伝子発現の調節に関与することが知られていない遺伝子および関連の経路の同定することはできない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って、細胞株操作の分野には、特定の細胞培養表現型(例えば効率的な導入遺伝子発現の増強)に(直接または間接的に)関与する遺伝子およびタンパク質(これまでに発見されてない遺伝子およびンパク質を含む)ならびに関連の遺伝子経路を同定するためのより体系的なアプローチの必要がある。これらの遺伝子および/または関連の経路の発見により、組換えタンパク質の収量および質を向上させ、かつ、細胞増殖に影響を及ぼすよう操作可能な新たな標的が得られるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、核酸マイクロアレイおよびプロテオミクス分析法の使用により、工業関連の細胞株表現型の示差的発現プロファイリング分析を提供することにより、これらの問題を解決する。特に、本発明は、発現プロファイリング分析により、タンパク質の発現および分泌を最大にする遺伝子およびタンパク質ならびに関連の経路を体系的に同定する方法を提供する。本発明はさらに、改良された細胞株を設計するために同定された遺伝子およびタンパク質を遺伝子操作する方法を提供する。
【0008】
よって、一態様において、本発明は、細胞株において細胞培養表現型を調節する、または細胞培養表現型の指標となるタンパク質を同定する方法に関する。該方法は、試験細胞株に由来するサンプルのタンパク質発現プロフィールを作製すること;そのタンパク質発現プロフィールを対照細胞株に由来する対照プロフィールと比較すること;およびその比較に基づき、1個または複数の示差的に発現されるタンパク質を同定することを含み、該試験細胞株は対照細胞株とは異なる細胞培養表現型を有し、該1個または複数の示差的に発現されるタンパク質は細胞培養表現型を調節するか、または細胞培養表現型を表示することができる。好ましい実施形態では、該細胞株はチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞株である。別の実施形態では、該タンパク質発現プロフィールは、蛍光二次元ディファレンシャルゲル電気泳動により作製される。
【0009】
いくつかの実施形態では、細胞培養表現型は細胞増殖速度、細胞生産性(最大細胞生産性または持続的高細胞生産性など)、極大細胞密度(peak cell density)、持続的細胞生存力、アンモニアの産生もしくは消費速度、または乳酸塩の産生もしくは消費速度である。一実施形態では、細胞培養表現型は最大細胞生産性である。別の実施形態では、細胞培養表現型は持続的細胞生存力である。さらに別の実施形態では、細胞培養表現型は極大細胞密度である。なおさらに別の実施形態では、細胞培養表現型は細胞増殖速度である。
【0010】
本発明は、上記の方法に従って同定された1個または複数のタンパク質を変調する、すなわち、アップレギュレートまたはダウンレギュレートすることにより細胞株を改良する方法を提供する。本明細書において「アップレギュレートする」とは、目的タンパク質またはその活性を保持する変異体(例えば、霊長類もしくは齧歯類ホモログなどのその哺乳類ホモログ)をコードする外来核酸(例えば、過剰発現構築物)を提供すること、あるいはタンパク質または遺伝子の活性または発現レベルを間接的に増強する因子または分子を提供することを含む。本明細書において「ダウンレギュレートする」とは、目的タンパク質をコードする遺伝子をノックアウトすること、RNA干渉構築物を提供すること、あるいはタンパク質または遺伝子の活性または発現レベルを間接的に阻害する阻害剤または他の因子を提供することを含む。ある特定の実施形態では、本発明は、上記の方法に従って同定された1個または複数のタンパク質をRNA干渉によりダウンレギュレートすることにより細胞株を改良する方法を提供する。
【0011】
特に、本発明は、上記の方法に従って同定された1個または複数のタンパク質を変調する、すなわちアップレギュレートまたはダウンレギュレートすることを含む、細胞株の細胞生産性を改良する方法を提供する。一実施形態では、本発明は、表2、3、9、10、11および12から選択される1個または複数の遺伝子またはタンパク質を変調する、すなわちアップレギュレートまたはダウンレギュレートすることを含む、細胞株の細胞生産性を改良する方法を提供する。
【0012】
一実施形態では、本発明は、上記の方法に従って同定された1個または複数のタンパク質を変調する、すなわちアップレギュレートまたはダウンレギュレートすることを含む、細胞株の細胞増殖速度を改良する方法を提供する。特に、本発明は、表4、5、6、13、14、27および28から選択される1個または複数の遺伝子またはタンパク質を変調する、すなわちアップレギュレートまたはダウンレギュレートすることを含む、細胞株の細胞増殖速度を改良する方法を提供する。
【0013】
別の実施形態では、本発明は、上記の方法に従って同定された1個または複数のタンパク質を変調する、すなわちアップレギュレートまたはダウンレギュレートすることを含む、細胞株の極大細胞密度を高める方法を提供する。特に、本発明は、表8、15、16および17から選択される1個または複数の遺伝子またはタンパク質を変調する、すなわちアップレギュレートまたはダウンレギュレートすることを含む、細胞株の極大細胞密度を高める方法を提供する。
【0014】
別の実施形態では、本発明は、上記の方法に従って同定された1個または複数のタンパク質を変調する、すなわちアップレギュレートまたはダウンレギュレートすることを含む、細胞株の持続的細胞生存力を高める方法を提供する。特に、本発明は、表7、18および19から選択される1個または複数の遺伝子またはタンパク質を変調する、すなわちアップレギュレートまたはダウンレギュレートすることを含む、細胞株の持続的細胞生存力を高める方法を提供する。
【0015】
別の実施形態では、本発明は、上記の方法に従って同定された1個または複数のタンパク質を変調する、すなわちアップレギュレートまたはダウンレギュレートすることを含む、細胞株の乳酸塩の産生または消費を調節する方法を提供する。特に、本発明は、表7、18および19から選択される1個または複数の遺伝子またはタンパク質を変調する、すなわちアップレギュレートまたはダウンレギュレートすることを含む、細胞株の乳酸塩の産生または消費を調節する方法を提供する。
【0016】
さらに別の実施形態では、本発明は、上記の方法に従って同定された1個または複数の遺伝子またはタンパク質を変調する、すなわちアップレギュレートまたはダウンレギュレートすることにより、細胞株を改良する方法を提供する。特に、本発明は、表20、24、25および26から選択される1個または複数の遺伝子またはタンパク質を変調する、すなわちアップレギュレートまたはダウンレギュレートすることにより、細胞株を改良する方法を提供する。
【0017】
別の態様では、本発明は、少なくとも2つの遺伝子またはタンパク質を変調する、すなわちアップレギュレートまたはダウンレギュレートすることにより、細胞株を改良する方法を提供し、該第一の遺伝子またはタンパク質は第一の細胞培養表現型に影響を及ぼし、第二の遺伝子またはタンパク質は第二の、異なる細胞培養表現型に影響を及ぼし、該細胞培養表現型は細胞増殖速度、細胞生産性、極大細胞密度、持続的細胞生存力、アンモニアの産生もしくは消費速度、または乳酸塩の産生もしくは消費速度からなる群から選択される。一実施形態では、該方法は、第一および第二の細胞培養表現型とは異なる第三の細胞培養表現型に影響を及ぼす第三の遺伝子またはタンパク質をアップレギュレートまたはダウンレギュレートすることをさらに含む。
【0018】
さらに別の態様では、本発明は、細胞株の細胞培養表現型を評価する方法を提供する。該方法は、細胞培養由来のサンプルにおいて、上記の方法のいずれかに従って同定されたタンパク質の発現レベルを検出すること、およびその発現レベルを参照レベルと比較することを含み、その比較がその細胞培養表現型の指標となる。
【0019】
あるいは、本発明は、細胞株の細胞培養表現型を評価する方法を提供する。該方法は、細胞培養由来のサンプルにおいて、細胞培養表現型の指標となる1個または複数のマーカーを検出することを含み、該マーカーは図7〜138から選択されるペプチド、または表1〜20および表24〜30から選択される遺伝子もしくはタンパク質からなる群から選択される。
【0020】
別の態様では、本発明は、各々が、上記の種々の方法に従って同定された1個または複数のタンパク質をアップレギュレートまたはダウンレギュレートする遺伝子操作された構築物を含む、遺伝子操作された細胞の集団を含む、改良された細胞培養表現型を有する遺伝子操作された細胞株を提供する。特に、本発明は、各々が、表2、3および9〜12から選択される1個または複数の遺伝子またはタンパク質をアップレギュレートまたはダウンレギュレートする遺伝子操作された構築物を含む、遺伝子操作された細胞の集団を含む、改良された細胞生産性を有する遺伝子操作された細胞株を提供する。いくつかの実施形態では、該遺伝子操作された構築物は過剰発現構築物である。他の実施形態では、該遺伝子操作された構築物は干渉RNA構築物である。
【0021】
他の実施形態では、本発明は、各々が、表4、5、6、13、14、27および28から選択される1個または複数の遺伝子またはタンパク質をアップレギュレートまたはダウンレギュレートする遺伝子操作された構築物を含む、遺伝子操作された細胞の集団を含む、改良された細胞増殖速度を有する遺伝子操作された細胞株を提供する。いくつかの実施形態では、該遺伝子操作された構築物は過剰発現構築物である。他の実施形態では、該遺伝子操作された構築物は干渉RNA構築物である。
【0022】
他の実施形態では、本発明は、各々が、表8、15、16および17から選択される1個または複数の遺伝子またはタンパク質をアップレギュレートまたはダウンレギュレートする遺伝子操作された構築物を含む、遺伝子操作された細胞の集団を含む、改良された極大細胞密度を有する遺伝子操作された細胞株を提供する。いくつかの実施形態では、該遺伝子操作された構築物は過剰発現構築物である。他の実施形態では、該遺伝子操作された構築物は干渉RNA構築物である。
【0023】
他の実施形態では、本発明は、各々が、表18および26から選択される1個または複数の遺伝子またはタンパク質をアップレギュレートまたはダウンレギュレートする遺伝子操作された構築物を含む、遺伝子操作された細胞の集団を含む、改良された持続的細胞生存力を有する遺伝子操作された細胞株を提供する。いくつかの実施形態では、該遺伝子操作された構築物は過剰発現構築物である。他の実施形態では、該遺伝子操作された構築物は干渉RNA構築物である。
【0024】
他の実施形態では、本発明は、各々が、表29および30から選択される1個または複数の遺伝子またはタンパク質をアップレギュレートまたはダウンレギュレートする遺伝子操作された構築物を含む、遺伝子操作された細胞の集団を含む、改良された乳酸塩の産生または消費速度を有する遺伝子操作された細胞株を提供する。いくつかの実施形態では、該遺伝子操作された構築物は過剰発現構築物である。他の実施形態では、該遺伝子操作された構築物は干渉RNA構築物である。
【0025】
いくつかの実施形態では、本発明は、各々が、表20、24、25および26から選択される1個または複数の遺伝子またはタンパク質をアップレギュレートまたはダウンレギュレートする遺伝子操作された構築物を含む、遺伝子操作された細胞の集団を含む、改良された細胞株を提供する。いくつかの実施形態では、該遺伝子操作された構築物は過剰発現構築物である。他の実施形態では、該遺伝子操作された構築物は干渉RNA構築物である。
【0026】
さらに別の態様では、本発明は、上記のような遺伝子操作された細胞株を用いて目的タンパク質を発現させる方法を提供する。該方法は、上記の実施形態のいずれか1つに従って、遺伝子操作された細胞株へ目的タンパク質をコードする核酸を導入する工程、および目的タンパク質を回収する工程を含む。
【0027】
なおさらに別の態様では、本発明はまた、これまでに発見されていない遺伝子もしくはタンパク質である、かつ/または目的の細胞培養表現型を調節するまたは細胞培養表現型の指標となる、単離された遺伝子もしくはタンパク質、またはポリヌクレオチドもしくはポリペプチドを提供する。特に、本発明は、表9、13および15から選択される配列、その相補物またはその部分配列を含む単離された核酸、または組換え核酸を提供する。本発明はまた、表2および3から選択される配列、またはその断片を含む単離されたタンパク質、または組換えタンパク質を提供する。本発明はまた、本発明の核酸分子またはタンパク質を含む、遺伝子操作された発現ベクター、宿主細胞およびトランスジェニック動物を提供する。本発明はさらに、本発明の核酸分子または本発明のタンパク質をコードする核酸に対する阻害ポリヌクレオチド、例えばアンチセンスおよびRNA干渉(RNAi)分子を提供する。
【0028】
本発明の他の特徴、対象および利点は、次に示す詳細な説明で明らかになる。しかしながら、この詳細な説明は本発明の実施形態を示し、単に例示であって、限定されるものではないと理解すべきである。当業者ならば詳細な説明から本発明の範囲内で種々の変化および改変が明らかになろう。
【0029】
図1は、本発明の遺伝子およびタンパク質を同定するための方法例のフローチャートである。
図2は、CHO株と細胞表現型のマトリックス例を示す。
図3は、「高細胞増殖速度」表現型に関する試験細胞株と対照細胞株の表現型比較例を示す。
図4は、タンパク質発現プロファイリング法を示す。
図5および6は、一例としてのゲル上のCy3およびCy5染色を示し、選択されたタンパク質の相対的存在量のグラフ表示である。図5では、Cy5標識試験細胞抽出液において5倍のアップレギュレーションを示すタンパク質の概略を示す。図6では、Cy5標識試験細胞抽出液において4分の1のダウンレギュレーションを示すタンパク質の概略を示す。
図7〜138は、個々の示差的に発現されるタンパク質に関する配列データおよび分析を示す。
図139および140は、教師なし(unsupervised)ピアソンクラスター分析を模式的に示す。
図141は、ペアワイズ・ディフェレンス(pairwise differences)を用いた、データ解析法の例を示す。
図142は、ペアワイズ・ディフェレンス(pairwise differences)によらない、データ解析法の例を示す。
図143〜146は、3C7細胞株における、同定された遺伝子の評価の例を示す。
図147および148は、細胞増殖および生産性に対する同定された遺伝子の過剰発現の影響を評価するための24ウェル形式を示す。
細胞増殖および生産性に対する同定された遺伝子の過剰発現の結果の例を図149〜151に示す。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
発明の詳細な説明
本発明は、目的の細胞培養表現型に影響を及ぼす遺伝子およびタンパク質を同定するための体系的方法を提供する。本発明のこれらの方法は、DNAマイクロアレイおよびプロテオミクス分析の使用の組み込みによる工業関連の細胞培養表現型の示差的発現プロファイリング分析に基づくものである。特に、該方法は、試験細胞株に由来するサンプルの遺伝子またはタンパク質発現プロフィールを作製すること;その遺伝子またはタンパク質発現プロフィールを、試験細胞株とは異なる細胞培養表現型を有する対照細胞株に由来する対照プロフィールと比較すること;およびその比較に基づき、1個または複数の示差的に発現される遺伝子またはタンパク質を同定することを含む。本明細書において、試験細胞株および対照細胞株は、異なる遺伝的背景を有する異なる細胞株であっても、あるいは異なる細胞培養条件下で増殖した同じ細胞株であってもよい。
【0031】
これらの1個または複数の示差的に発現される遺伝子またはタンパク質は、目的の細胞培養表現型を調節する、または目的の細胞培養表現型の指標となる候補遺伝子またはタンパク質である。同定された遺伝子およびタンパク質はさらなる確認およびバリデーションを行うことができる。同定された遺伝子またはタンパク質はまた、目的の細胞培養表現型を改良するために遺伝子操作することもできる。よって、本発明は、改良された細胞株および細胞培養条件の合理的デザインのための細胞操作の有意な助けとなる。
【0032】
本発明の種々の態様を次のサブセクションにさらに詳細に記載する。これらのサブセクションは本発明を限定するものではない。各サブセクションは本発明の態様に当てはまる。本願では、「または」を用いる場合、特に断りのない限り、「および/または」を意味する。
【0033】
細胞株および細胞培養表現型
本発明は、限定されるものではないが、細菌、植物、真菌および動物(後者には限定されるものではないが、昆虫および哺乳類が含まれる)を含む種々の生物に由来する細胞株の示差的発現プロファイリング分析および至適化を意図する。例えば、本発明は、大腸菌(Escherichia coli)、ヨトウガ(Spodoptera frugiperda)、タバコ種(Nicotiana sp.)、トウモロコシ(Zea mays)、アオウキクサ種(Lemna sp.)、サッカロミセス(Saccharomyces sp.)、ピチア種(Pichia sp.)、シゾサッカロミセス種(Schizosaccharomyces sp.)、哺乳類細胞(限定されるものではないが、COS細胞、CHO細胞、293細胞、A431細胞、3T3細胞、CV−1細胞、HeLa細胞、L細胞、BHK21細胞、HL−60細胞、U937細胞、HEK細胞、PerC6細胞、Jurkat細胞、正常二倍体細胞、一次組織のin vitro培養物に由来する細胞株、および一次外植体を含む)に適用することができる。この生物および細胞株の一覧は、単に限定されない例を示すことを意味する。
【0034】
特に、本発明は、例えばCHO細胞などの工業関連細胞株の示差的発現プロファイリング分析を意図する。CHO細胞は忠実な折りたたみ、プロセシングおよびグリコシル化を示すことから、例えばモノクローナル抗体の産生、受容体の産生およびFc融合タンパク質などの治療用タンパク質の産生の主要な宿主である。CHO細胞はまた深層血清不含培養に適合し、優れた安全性履歴を有する。
【0035】
本発明により、例えば高生産性流加法を可能とする細胞表現型など、所望の細胞培養表現型または特徴に影響を及ぼす経路、遺伝子およびタンパク質の理解が可能となる。このような所望の細胞表現型としては、限定されるものではないが、高細胞増殖速度、高極大細胞密度、持続的高細胞生存力、高最大細胞生産性、持続的高細胞生産性、低いアンモニウム産生および低乳酸塩産生が挙げられる。所望の表現型または特徴は、特定のゲノム背景を有する確立された細胞株の固有の特性であり得る。所望の表現型または特徴はまた、例えば、種々の動的増殖期(例えば、誘導期、対数増殖期、定常期または死滅期)となるように、かつ/または血清非依存的となるように、温度、細胞密度、酪酸ナトリウムなどの薬剤の使用などの種々の条件で細胞を増殖させることにより細胞に付与され得る。これらの表現型が誘導される期間、および/またはこれらの表現型が達成された後、細胞から標的核酸またはタンパク質サンプルのプールを調製し、どの遺伝子が特定の刺激(例えば、温度、酪酸ナトリウム)に応答して発現の変化を示すのか、従って所望の表現型または特徴の付与に関与する可能性があるのかを決定および同定するためにオリゴヌクレオチドアレイで分析することができる。
【0036】
標的核酸プールの調製
遺伝子発現プロファリング分析を行うために、細胞株に由来するサンプルから標的核酸プールを調製する。標的核酸源としていずれの生体サンプルを用いてもよい。標的核酸プールは、全RNA、またはmRNAの逆転写により作製されたcDNAの各一本鎖、もしくは二本鎖cDNA中間体から転写されたRNAを含む、それに由来する任意の核酸であってもよい。オリゴヌクレオチドアレイまたは他のプローブを用いた分析のための標的核酸を単離する方法は、フェノール−クロロホルム抽出、エタノール沈殿、磁性ビーズ分離またはシリカゲルアフィニティー精製など、当業者によく知られている。
【0037】
例えば、RNAを単離および富化するために種々の方法が利用可能である。これらの方法としては、限定されるものではないが、RNeasyキット(Qiagenのより提供)、MasterPureキット(Epicentre Technologiesにより提供)、電荷切り換え技術(例えば、米国公開特許出願第2003/0054395号および同第2003/0130499号)およびTRIZOL(Gibco BRLにより提供)が挙げられる。また、Affymetrixにより提供されるRNA単離プロトコールも本発明において使用可能である。例えば、GeneChip(登録商標)EXPRESSION ANALYSIS TECHNICAL MANUAL (701021 rev. 3, Affymetrix, Inc. 2002)参照。
【0038】
好ましくは、標的核酸(すなわち、mRNAまたはそれに由来する核酸)のプールは、遺伝子コード領域の転写を反映するはずである。一例では、mRNAはrRNAを除去することにより富化される。サンプル中のrRNAを除去する、または量を減らすためには種々の方法が利用可能である。例えば、rRNAは酵素消化により除去することができる。後者の方法によれば、rRNAをまず逆転写酵素と特異的プライマーを用いて増幅してcDNAを生産する。rRNAをcDNAとアニーリングさせる。次に、このサンプルを、RNA:DNAハイブリッド内のRNAを特異的に消化するRNアーゼHで処理する。
【0039】
標的核酸を増幅した後、オリゴヌクレオチドアレイまたは他のプローブとともにインキュベーションすればよい。限定されるものではないが、逆転写ポリメラーゼ連鎖反応、リガーゼ連鎖反応、自己維持型配列複製およびin vitro転写を含む好適な増幅法は当技術分野でよく知られている。オリゴヌクレオチドプローブは標的核酸に相補的となるように選択されることに注意すべきである。従って、標的核酸のアンチセンスプールが提供されれば(多くは標的核酸がin vitro転写によって増幅される場合のように)、オリゴヌクレオチドプローブはセンス相補物の配列と一致しなければならない。これに対し、標的核酸のプールがセンスである場合には、オリゴヌクレオチドアレイはそれらに相補的(すなわち、アンチセンス)でなければならない。最後に、標的核酸が二本鎖である場合、オリゴヌクレオチドプローブはセンスであってもアンチセンスであってもよい。
【0040】
本発明は、標的核酸と相補的オリゴヌクレオチドプローブの間のハイブリダイゼーション強度を検出することを含む。これを達成するためには、標的核酸を適当かつ検出可能な標識と直接または間接的に結合させればよい。直接的標識は、標的核酸と直接結合されているか、または標的核酸に組み込まれている検出可能な標識である。間接的標識は、多くの場合、ハイブリダイゼーション前に標的核酸と結合させた結合部分と結合させることにより、ハイブリダイゼーション後にポリヌクレオチドと結合させる。このような直接的および間接的標識は当技術分野でよく知られている。本発明の好ましい実施形態では、標的核酸はビオチン−ストレプトアビジン−PEカップリング系を用いて検出するが、この場合、ビオチンを標的核酸に組み込み、ストレプトアビジン−PEとビオチンの結合によってハイブリダイゼーションを検出する。
【0041】
標的核酸は、オリゴヌクレオチドアレイとのインキュベーション前、インキュベーション中またはインキュベーション後に標識可能である。好ましくは、標的核酸はインキュベーション前に標識する。標識は増幅工程中に、その反応においてすでに標識されているヌクレオチド(例えば、ビオチン結合dUTPまたはdCTP)を用いることにより組み込み可能である。あるいは、標識は原核酸サンプル(例えば、mRNA、cDNA)に直接加えてもよいし、あるいは増幅が完了した後に増幅産物に加えてもよい。標識と核酸の結合手段は当技術分野で周知であり、限定されるものではないが、ニックトランスレーション、末端標識および標的核酸と、それを標識に結合させるための核酸リンカーとの連結が含まれる。あるいは、マイクロアレイ分析用の標的核酸を単離および作製するために特にデザインされたいくつかのキットが市販されており、限定されるものではないが、GeneChip(登録商標)IVT標識キット(Affymetrix, Santa Clara, Calif.)および核酸アレイ用フルオレセイン−UTPを用いたBioarray(商標)High Yield(商標)RNA Transcript標識キット(Enzo Life Sciences, Inc., Farmingdale, N.Y.)が含まれる。
【0042】
ポリヌクレオチドは、検出可能な部分で標識する前にフラグメンテーションを行うことができる。フラグメンテーションの方法の例としては、限定されるものではないが、熱またはイオン媒介加水分解が挙げられる。
【0043】
オリゴヌクレオチドアレイ
本発明に好適なプローブとしては、既知の細胞または配列決定されていない生物に由来する細胞を含む細胞(または細胞株)による、特定の細胞表現型、例えば、上昇した効率的な導入遺伝子発現の誘導に関与する可能性のある遺伝子(これまでに発見されていない遺伝子を含む)および関連の経路を同定するための、複数の遺伝子の発現を検出し得るオリゴヌクレオチドアレイまたは他のプローブが含まれる。
【0044】
本発明に用いられるオリゴヌクレオチドプローブは、標的核酸プールとのハイブリダイゼーションがオリゴヌクレオチドアレイ下、配列特異的な様式で起こるようなヌクレオチドポリマーまたはその類似体および修飾型であり得る。本明細書において「オリゴヌクレオチドアレイハイブリダイゼーション条件」とは、オリゴヌクレオチドアレイハイブリダイゼーションで通常使用される温度およびイオン条件を指す。多くの例では、これらの条件は45℃で16時間のハイブリダイゼーション、次いで室温で少なくとも3回の10分間の洗浄を含む。ハイブリダイゼーションバッファーは100mM MES、1M[Na]、20mM EDTAおよび0.01% Tween 20からなる。ハイブリダイゼーションバッファーのpHは6.5〜6.7の範囲である。洗浄バッファーは、0.9M NaCl、60mM NaH2PO4、6mM EDTAおよび0.005% Triton X−100を含む6XSSPETである。ストリンジェントのより高いオリゴヌクレオチドアレイハイブリダイゼーション条件下では、洗浄バッファーは100mM MES、0.1M[Na]および0.01% Tween 20を含む。出典明示によりそのまま本明細書の一部とされる。GENECHIP(登録商標)EXPRESSION ANALYSIS TECHNICAL MANUAL (701021 rev. 3, Affymetrix, Inc. 2002)も参照。
【0045】
当技術分野に知られているように、オリゴヌクレオチドプローブはいずれの長さであってもよい。好ましくは、本発明に好適なオリゴヌクレオチドプローブは20〜70ヌクレオチド長である。最も好ましくは、好適なオリゴヌクレオチドプローブは25ヌクレオチド長である。一実施形態では、本発明の核酸プローブは比較的高い配列複雑性を有する。多くの例では、これらのプローブは同じヌクレオチドの長いストレッチを含まない。さらに、これらのプローブは、3’末端に高い割合のGまたはC残基を持たないようにデザインすることができる。別の実施形態では、これらのプローブは3’末端T残基を持たない。行うアッセイのまたは検出のタイプによって、「プライマー二量体」など、ヘアピンまたは鎖内構造を形成すると予測される配列はプローブ配列に含まれる場合もあるし、含まれない場合もある。多くの実施形態では、本発明に用いる各プローブは不明瞭な塩基を含まない。
【0046】
オリゴヌクレオチドプローブは鋳型配列に特異的な(例えば、相補的(すなわち、ハイブリダイズし得る)ように作製される。鋳型配列のどの部分をプローブの作製に用いてもよい。各鋳型配列に対して複数の、例えば、5、10、15、20、25、30またはそれを超えるプローブを作製することができる。これらの複数のプローブは互いに重複してもしなくてよい。異なるプローブ間の重複は、アッセイによっては望ましい場合がある。多くの実施形態では、鋳型配列のプローブは他の鋳型配列またはその相補物との配列同一性が低い。例えば、鋳型配列の各プローブは他の鋳型配列またはその相補物とせいぜい70%、60%、50%またはそれより低い配列同一性を持ち得る。これは望ましくない交差ハイブリダイゼーションのリスクを減らす。配列同一性は当技術分野で公知の方法を用いて決定することができる。これらの方法には、限定されるものではないが、BLASTN、FASTAおよびFASTDBが含まれる。BLASTNおよびFASTAを含む一連のプログラムであるGenetics Computer Group (GCG)プログラムも使用可能である。鋳型配列として好ましい配列には、限定されるものではないが、コンセンサス配列、導入遺伝子配列および対照配列(すなわち、試験、サンプル、ストリンジェンシー要件および標的核酸調製間の変動を制御またはノーマライズするために用いられる配列)が含まれる。さらに、コンセンサス、導入遺伝子および対照配列の部分配列も鋳型配列として使用可能である。
【0047】
一実施形態では、コンセンサス、導入遺伝子および対照配列のある領域(すなわち、tiling領域)だけを本発明において用いられるオリゴヌクレオチドプローブの鋳型配列として用いる。当業者ならば、本発明の実施に使用可能なプロトコール、例えば、in vitro転写プロトコールの結果、標的核酸の3’末端に偏りが生じることが多いことが分かるであろう。その結果、本発明の一実施形態では、コンセンサス配列の3’末端に最も近いコンセンサス配列または導入遺伝子配列の領域はオリゴヌクレオチドプローブの鋳型として用いられる場合が最も多い。一般に、ポリAシグナルが同定可能な場合には、コンセンサスまたは導入遺伝子配列の末端直前の1400のヌクレオチドがtiling領域と呼ばれる。あるいは、ポリAシグナルが同定できない場合には、コンセンサスまたは導入遺伝子配列の少なくとも600ヌクレオチドのみがtiling領域と呼ばれる。しかしながら、本発明はオリゴヌクレオチドプローブの鋳型としてのコンセンサス、導入遺伝子および対照配列内のこれらtiling領域の使用に限定されないことに留意すべきである。実際、tiling領域はコンセンサス、導入遺伝子または対照配列内のどこにでも存在し得る。例えば、対照配列のtiling領域は、対照配列の5’および3’の両末端に由来する領域を含み得る。実際に、全コンセンサス、導入遺伝子または対照配列をオリゴヌクレオチドプローブの鋳型として使用することもできる。
【0048】
本発明に好適なオリゴヌクレオチドアレイは、上記のように同定された複数のコンセンサス配列(すなわち、複数の配列クラスターのコンセンサス配列、例えば、配列)などのコンセンサス配列に対する完全マッチプローブを含み得る。本発明に好適なオリゴヌクレオチドアレイはまた、コンセンサスおよび導入遺伝子配列の双方に対する完全マッチプローブも含み得る。当業者ならば、細胞株が導入遺伝子配列によりコードされている組換えタンパク質を発現するように遺伝子操作され、その分析の目的が導入遺伝子の発現の確認およびこのような発現レベルの決定である場合には、配列にオリゴヌクレオチドプローブを含めることが有用であることが分かるであろう。導入遺伝子が2シストロン性mRNA内でジヒドロ葉酸レダクターゼ(DHFR)などの下流ORFと結合されている場合、導入遺伝子の発現レベルをその下流配列の発現レベルから求めることもできる。本発明の別の実施形態では、オリゴヌクレオチドアレイはさらに、試験、サンプル、ストリンジェンシー要件、および標的核酸の調製間の内在変動をノーマライズする対照プローブを含む。これらのタイプの各対照プローブの組成例は、米国特許第6,040,138号および米国公開第20060010513号に記載されている(両者の教示は出典明示によりそのまま本発明の一部とされる)。
【0049】
同じサンプルから別に処理された2つの標的核酸プールは、別個であるが、同一のオリゴヌクレオチドアレイと、様々な結果でハイブリダイズし得る。これらのアレイ間の様々な結果は、標識された標的核酸プールの強度およびインキュベーション条件などのいくつかの因子によるものである。これらの変動を制御するためには、アレイにノーマライゼーション対照プローブを加えることができる。ノーマライゼーション対照プローブは、標的核酸プールにスパイクされた既知の核酸配列と厳密に相補的なオリゴヌクレオチドである。いずれのオリゴヌクレオチド配列もノーマライゼーション対照プローブとして役立ち得る。例えば、ノーマライゼーション対照プローブは、被分析細胞株が由来するもの以外の生物から得られる鋳型から作製することができる。一実施形態では、哺乳類配列のオリゴヌクレオチドアレイは、次の遺伝子:大腸菌(Escherichia coli)由来のbioB、bioCおよびbioD、バクテリオファージ由PI由来のcreおよび枯草菌(Bacillus subtilis)由来の、またはその部分配列に対するノーマライゼーションオリゴヌクレオチドプローブを含む。次に、このノーマライゼーション対照プローブから受容されたシグナル強度を用い、アレイ中の他の全てのプローブから得られたシグナル強度をノーマライズする。さらに、既知の核酸配列が既知の異なる各転写物濃度で標的核酸プールにスパイクされる場合には、シグナル強度と転写物濃度を相関させる標準曲線を作成し、アレイ上に表された全ての転写物の発現レベルを定量することができる(例えば、Hill et al. (2001) Genome Biol. 2(12):research0055.1-0055.13参照)。
【0050】
本来、細胞間の代謝状態が異なるため、特定の標的核酸の発現はサンプルごとに異なる。さらに、標的核酸はあるプールでは別のプールに比べて分解を受けやすい場合もある。結果として、本発明の別の実施形態では、オリゴヌクレオチドアレイは、細胞の代謝状態を反映する、構成的に発現する遺伝子またはその部分配列に厳密に相補的なオリゴヌクレオチドプローブをさらに含む。これらのタイプの遺伝子の非限定例として、β−アクチン、トランスフェリン受容体およびグリセルアルデヒド−3−リン酸デヒドロゲナーゼ(GAPDH)がある。
【0051】
本発明の一実施形態では、標的核酸プールは、米国公開第20060010513号(その教示は出典明示によりそのまま本明細書の一部とされる)に記載の方法を用い、サンプルから単離された全RNAを二本鎖cDNAに変換し、得られたcDNAを相補的RNA(cRNA)へと転写することにより得られる。このRNA変換プロトコールはRNA転写物の3’末端で始め、このプロセスが完了されない場合(例えば、RNAがニックである場合など)、5’末端メッセージよりも3’末端メッセージの量を増やすと3‘バイアスが生じる。さらに、RNA分解は5’末端から始めることができる(Jacobs Anderson et al. (1998) EMBO J. 17:1497-506)。これらの方法の使用は、サンプルのプロセシングの質および分解量を評価する対照プローブが好ましくはオリゴヌクレオチドアレイに含められるべきであることを示唆する。このような対照プローブの例としては、上述のように、β−アクチン、トランスフェリン受容体およびGAPDHなどの構成的に発現する遺伝子の3’末端および5’末端に厳密に相補的なオリゴヌクレオチドがある。構成的に発現する遺伝子の3’発現と5’発現の結果的な比率は、サンプルのプロセシングの質と分解量の指標となり、すなわち、3’/5’比が3より大きいと不完全なプロセシングか、高いRNA分解のいずれかを示す(Auer et al. (2003) Nat. Genet. 35:292-93)。結果として、本発明の好ましい実施形態では、オリゴヌクレオチドアレイは構成的に発現する遺伝子の3’末端および5’末端に相補的な対照プローブを含む。
【0052】
標的核酸プールの質は標的核酸のプロセシングおよび分解を反映するだけでなく、標的核酸の起源も反映する。ゲノムDNAなどの混入配列は周知の定量プロトコールを妨害する場合がある。結果として、本発明の好ましい実施形態では、アレイは、サンプル調製の質の対照となる手段を提供するため、細菌遺伝子、リボソームRNAおよび/またはゲノム遺伝子間領域に厳密に相補的なオリゴヌクレオチドプローブをさらに含む。これらのプローブは、標的核酸プールに細菌DNA、非mRNA種およびゲノムDNAが混入している可能性に関する対照となる。このような対照配列の例は米国公開第20060010513(その教示は出典明示によりそのまま本明細書の一部とされる)に開示されている。
【0053】
本発明の好ましい実施形態では、オリゴヌクレオチドアレイは、各完全マッチプローブに対する対照ミスマッチオリゴヌクレオチドプローブをさらに含む。これらのミスマッチプローブはハイブリダイゼーション特異性の対照となる。好ましくは、ミスマッチ対照プローブは、1個または複数の置換塩基以外は、それらの対応する完全マッチプローブと同一である。より好ましくは、これらの置換はプローブの中央部に存在する。例えば、完全マッチプローブが25オリゴヌクレオチド長である場合、対応するミスマッチプローブは同じ長さであり、13番の一塩基置換(例えば、アデニンのチミンによる置換、チミンのアデニンによる置換、グアニンのシトシンによる置換またはシトシンのグアニンによる置換)以外は同じ配列を有する。ミスマッチオリゴヌクレオチドプローブにおける1個または複数のミスマッチ塩基の存在により、双方的完全マッチプローブと結合する標的核酸は、適当な条件下で、対応するミスマッチ対照プローブと結合することができない。よって、ミスマッチオリゴヌクレオチドプローブは、インキュベーション条件が最適かどうか、すなわち、用いるストリンジェンシーがアレイ中に存在する厳密に双方的なプローブとのみ結合する標的核酸を提供するかどうかを示す。
【0054】
各鋳型について、コンセンサス、導入遺伝子および/または対照配列(またはそのtiling領域)の部分配列と厳密に相補的な完全マッチプローブのセットは種々の方法論を用いて選択することができる。当業者ならば、各鋳型が潜在的に多数のプローブを提供し得ることが分かるであろう。知られているように、見掛けのプローブはアレイに含めるのに適しない場合がある。これはゲノムの他の領域に類似の部分配列が存在し、これらの部分配列に対するプローブの交差ハイブリダイズが起こり、偽シグナルが生じるためである。見掛けのプローブがアレイに含めるのに適しないもう1つの理由は、それらが効率的なハイブリダイゼーションを妨げる二次構造を形成することがあるためである。最後に、標的核酸と多数のプローブを含むアレイとの(またはアレイへの)ハイブリダイゼーションには、各プローブが同じインキュベーション条件下でその特定の標的核酸配列とハイブリダイズする必要がある。
【0055】
オリゴヌクレオチドアレイはコンセンサス、導入遺伝子または対照配列に対する1つの完全マッチプローブを含んでもよいし、あるいはコンセンサス、導入遺伝子または対照配列に対するプローブセット(すなわち、1を超える完全マッチプローブ)を含んでもよい。例えば、オリゴヌクレオチドアレイはコンセンサス、導入遺伝子または対照配列に対して1、5、10、25、50、100または100を超える異なる完全マッチプローブを含み得る。本発明の好ましい実施形態では、アレイは、各コンセンサスおよび導入遺伝子配列の部分配列と厳密に相補的な少なくとも11〜150の異なる完全マッチオリゴヌクレオチドプローブを含む。いっそうより好ましい実施形態では、各鋳型に対して最適なプローブセットのみが含まれる。ハイブリダイゼーションプローブの妥当性は、種々のコンピュータープログラムを用いて評価することができる。このために好適なプログラムとしては、限定されるものではないが、LaserGene (DNAStar)、Oligo (National Biosciences, Inc.)、Mac Vector (Kodak/IBI)およびGCGにより提供されている標準的なプログラムが含まれる。当技術分野で公知のいずれの方法またはソフトウエアプログラムも、本発明の鋳型配列のプローブを作製するために使用可能である。例えば、オリゴヌクレオチドプローブは、TeleChem International, Inc (Sunnyvale, Calif.)により提供されているソフトウエアパッケージArray Desingnerを用いて作製することができる。最適なプローブセットを選択するための別のアルゴリズム例が米国特許第6,040,138号(その教示は出典明示によりそのまま本明細書の一部とされる)に記載されている。比較可能なオリゴヌクレオチドアレイが得られる、他の好適なプローブセット至適化手段は当技術分野でよく知られており、Lockhart et al. (1996) Nat. Biotechnol. 14:1675-80 and Mei et al. (2003) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 100:11237-42に見出すことができる。
【0056】
本発明のオリゴヌクレオチドプローブは種々の方法を用いて合成することができる。これらの方法の例としては、限定されるものではないが、Millipore、GeneMachinesおよびBioAutomationにより提供されているものなど、自動化またはハイスループットDNA合成装置の使用が含まれる。多くの実施形態では、合成されたプローブは実質的に不純物を含まない。他の多くの実施形態では、これらのプローブは、プローブの所望の機能を障害する可能性のある他の夾雑物を実質的に含まない。これらのプローブは、逆相クロマトグラフィー、エタノール沈殿法、ゲル濾過、電気泳動またはそれらのいずれかの組合せなどの多くの方法を用い、精製または濃縮することができる。
【0057】
本発明に好適なオリゴヌクレオチドアレイを作製するさらに詳細な情報はおよびアレイに例は米国公開第20060010513号(その開示は出典明示により本明細書の一部とされる)に開示されている。米国公開第20060010513号に開示されているように、本発明に好適なCHOチップマイクロアレイは122のアレイ品質対照配列(非CHO)、732の公開ハムスター配列、2835のライブラリー由来CHO配列および22の産物/プロセス特異的に配列を含む。さらなる好適なアレイは米国特許第6,040,138号(その開示は出典明示により本明細書の一部とされる)に記載されている。
【0058】
ハイブリダイゼーションプロフィール作製のための標的核酸とアレイのインキュベーション
インキュベーション反応は絶対的または示差的ハイブリダイゼーション形式で行うことができる。絶対的ハイブリダイゼーション形式では、一サンプルに由来するポリヌクレオチドをオリゴヌクレオチドアレイ中のプローブとハイブリダイズさせる。ハイブリダイゼーション複合体の形成後に検出されるシグナルは、そのサンプル中のポリヌクレオチドレベルと相関がある。示差的ハイブリダイゼーション形式では、2つのサンプルに由来するポリヌクレオチドを異なる標識部分で標識する。これら標識の異なるポリヌクレオチドの混合物をオリゴヌクレオチドアレイに加える。次に、オリゴヌクレオチドアレイを、2つに異なる標識からの発光が個々に検出可能な条件下で調べる。一実施形態では、蛍光団Cy3およびCy5(Amersham Pharmacia Biotech, Piscataway, N.J.)を示差的ハイブリダイゼーション形式の標識部分として用いる。
【0059】
本発明では、インキュベーション条件は、標的核酸が高い程度の相補性を有するオリゴヌクレオチドプローブとのみハイブリダイズするものであるべきである。好ましい実施形態では、これは、ハイブリダイゼーションを保証するため低ストリンジェンシー条件下で標的核酸プールとオリゴヌクレオチドアレイをインキュベーションした後、所望のレベルのハイブリダイゼーション特異性に達するまで連続的に高いストリンジェンシーで洗浄を行うことにより達成される。他の実施形態では、標的核酸を、ストリンジェントまたは周知のオリゴヌクレオチドアレイハイブリダイゼーション条件下で本発明のアレイとともにインキュベーションする。多くの例では、これらのオリゴヌクレオチドアレイハイブリダイゼーション条件は、45℃で16時間のハイブリダイゼーション、その後、室温で少なくとも3回の10分間の洗浄を含む。ハイブリダイゼーションバッファーは、100mM MES、1M[Na]、20mM EDTAおよび0.01% Tween 20を含む。ハイブリダイゼーションバッファーのpHは6.5〜6.7の範囲である。洗浄バッファーは、0.9M NaCl、60mM NaHPO、6mM EDTAおよび0.005% Triton X−100を含む6X SSPETである。よりストリンジェントなオリゴヌクレオチドアレイハイブリダイゼーション条件下では、洗浄バッファーは100mM MES、0.1M[Na]および0.01% Tween 20を含み得る。出典明示によりそのまま本明細書の一部とされるGENECHIP(登録商標)EXPRESSION ANALYSIS TECHNICAL MANUAL (701021 rev. 3, Affymetrix, Inc. 2002)も参照。
【0060】
示差的遺伝子発現プロファイリング分析
標的核酸とオリゴヌクレオチドプローブのハイブリダイゼーションプロフィールを検出するために用いられる方法は当技術分野よく知られている。特に、各個の標的核酸−オリゴヌクレオチドプローブハイブリッドの蛍光を検出および記録する手段は十分確立されており、当技術分野でよく知られ、例えば、米国特許第5,631,734号、米国公開第20060010513ll(出典明示によりそのまま本明細書の一部とされる)に記載されている。例えば、全アレイのハイブリダイゼーションプロフィールを自動検出するために、共焦顕微鏡をコンピューター制御することができる。さらに、さらなる非限定例として、顕微鏡に、各個のハイブリッドが生じた蛍光シグナルを自動記録するためのデータ採集システムと接続した光変換器を搭載することもできる。
【0061】
当業者ならば、ハイブリダイゼーションプロフィールの評価がアレイの組成、すなわち、どのオリゴヌクレオチドプローブが分析に含まれていたかによって異なることが分かるであろう。例えば、アレイがコンセンサス配列のみ、またはコンセンサス配列および導入遺伝子配列のみに対するオリゴヌクレオチドプローブを含む場合(すなわち、このアレイは実験、サンプル、ストリンジェンシー要件および標的核酸の調製間の変動をノーマライズするための対照プローブを含まない)、ハイブリダイゼーションプロフィールは、アレイ上の各位置の絶対的シグナル強度を測定することにより評価される。あるいは、アレイの平均値、調整平均(すなわち、最低および最高シグナル強度を有する2〜5%のプローブセットを除いた後の全プローブの平均シグナル強度)、または中央シグナル強度を予め設定された標的値に対して尺度化してスケール倍率を出し、次に、これをアレイ上の各プローブセットの当てはめて各遺伝子のノーマライズ発現値を得ることができる(例えば、Affymetrix (2000) Expression Analysis Technical Manual, pp. A5-14参照)。これに対し、アレイがさらに対照オリゴヌクレオチドプローブを含む場合、得られるハイブリダイゼーションプロフィールは、試験オリゴヌクレオチドプローブが占める各位置の絶対的シグナル強度を、対照オリゴヌクレオチドプローブが占める各位置の絶対的シグナル強度を用いる数学的操作によりノーマライズすることによって評価される。典型的なノーマライゼーション戦略は当技術分野でよく知られており、例えば、米国特許第6,040,138号およびHill et al. (2001) Genome Biol. 2(12):research0055.1-0055.13に含まれている。
【0062】
オリゴヌクレオチドアレイから採集したシグナルは、AffymetrixまたはAgilent Technologiesにより提供されているものなど、市販のソフトウエアを用いて分析することができる。走査感受性、プローブ標識およびcDNAまたはcRNA定量などの対する対照をハイブリダイゼーション試験に含めてもよい。アレイハイブリダイゼーションシグナルはさらなる分析を行う前に尺度化またはノーマライズすることができる。例えば、各プローブのハイブリダイゼーションシグナルを、同様の試験条件下で1を超えるアレイを用いる場合のハイブリダイゼーション強度における変動を考慮してノーマライズすることができる。また、相補的プローブとハイブリダイズした個々の標的核酸のシグナルを、各アレイに含まれる内部ノーマライゼーション対照から得られる強度を用いてノーマライズすることもできる。さらに、サンプル間で比較的一貫した発現レベルを有する遺伝子を用いて、他の遺伝子の発現レベルをノーマライズすることもできる。
【0063】
所望の表現型または特徴を付与する、またはそれらと相関する遺伝子を同定するため、試験細胞株に由来するサンプルの遺伝子発現プロフィールを、その試験細胞株とは異なる、目的の細胞培養表現型を有する対照細胞株に由来する対照プロフィールと比較し、示差的に発現される遺伝子を同定する。例えば、細胞生産性に関与する遺伝子および関連経路を同定する方法には、1)特定の細胞生産性を有する第一の細胞株の第一のサンプルを増殖させ、異なる細胞生産性を有する第二の細胞株の第二のサンプルを増殖させること;2)第一のサンプルから全RNAを単離、処理し、第一のオリゴヌクレオチドアレイとハイブリダイズさせること;3)第二のサンプルから全RNAを単離、処理し、第二のオリゴヌクレオチドアレイとハイブリダイズさせること;および4)得られたハイブリダイゼーションプロフィールを比較して、第一のサンプルと第二のサンプルの間で示差的に発現される配列を同定することを含み得る。同様の方法を用い、他の表現型の関与する遺伝子を同定することもできる。
【0064】
一般に、各細胞株は少なくとも3つの生物学的複製とした。当技術分野で公知のプログラム、例えば、GeneExpress 2000 (Gene Logic, Gaithersburg, Md.)を用い、標的配列の有無を分析し、サンプルの一コホート(例えば、細胞株または条件または時点)と別のサンプルコホートの比較において、その相対的発現レベルを求めた。全ての複製サンプル中に存在するとされるプローブセットがさらなる分析のために意図された。一般に、p値が0.5以下である場合、1.2倍、1.5倍またはそれを超える変化倍率値が統計学的に有意であるとみなされた。
【0065】
1個または複数の特定の細胞表現型(例えば、細胞増殖速度、極大細胞密度、持続的高細胞生存力、最大細胞生産性、持続的高細胞生産性、アンモニウムの産生または消費、乳酸塩の産生または消費など)と相関する示差的に発現される遺伝子を同定することで、細胞表現型を調節する、または細胞表現型の指標となる遺伝子および経路(これまでに発見されていないものを含む)の発見に至り得る。
【0066】
次に、同定された遺伝子を配列決定し、その配列を種々のデータベースに対してBLASTにかけ、それらが既知の遺伝子か未知の遺伝子かを調べる。遺伝子が既知であれば、当技術分野の既存の知見を元に経路分析を行うことができる。既知および未知の遺伝子とも、当技術分野で公知の種々の方法によって確認およびバリデーションを行うことができる。例えば、同定された遺伝子は、細胞による特定の表現型を誘導または抑制するように遺伝子操作(例えば、アップレギュレートまたはダウンレギュレート)することができる。
【0067】
このプロセスを表す調和デシジョンツリー(harmonized decision tree)を図1に示す。より詳細な同定およびバリデーション工程はさらに実施例に記載されており、本発明の方法を用いて同定された示差的に発現される遺伝子の例は表9〜16に示されている。
【0068】
示差的タンパク質発現プロファイリング分析
本発明はまた、タンパク質発現プロファイリング分析により示差的に発現されるタンパク質を同定する方法を提供する。タンパク質発現プロフィールは細胞株由来のサンプルのタンパク質の分離および検出を可能とするいずれの方法によって作製してもよい。一般に、分離力が高ければ、より多くの各タンパク質の分析が可能となり、プロフィールの能力および有用性が高まるので、分離力の高い方法が好ましい。豊富なタンパク質の存在は、他のタンパク質、特に存在量の少ないタンパク質の発現における微妙な変化をマスクしてしまうことがあるので、タンパク質の分離および検出の前に、免疫抑制によるなど、サンプルから豊富なタンパク質を除去する前処理をサンプルに施すことができる。また、サンプルの複雑性を軽減するために、サンプルに1または複数の手順を施すこともできる。例えば、クロマトグラフィーを用いてサンプルを分画することができ、各画分は複雑性が軽減され、画分内のタンパク質の分析が容易となる。
【0069】
数種のタンパク質を同時に分離および検出するための3つに有用な方法として、アレイに基づく方法、質量分析に基づく方法および二次元ゲル電気泳動に基づく方法がある。
【0070】
タンパク質アレイは一般に、抗体または抗体可変領域など、相当数の異なるタンパク質捕捉試薬を含み、各々、固相支持体の異なる位置に固定されている。このようなアレイは例えば、Panorama(登録商標)ラインアレイの一部としてSigma-Aldrichから入手することができる。このアレイをタンパク質サンプルに曝し、これらの捕捉試薬は特定のタンパク質標的を選択的に捕捉する。捕捉されたタンパク質は標識の検出により検出される。例えば、これらのタンパク質をアレイに曝す前に標識することができ、アレイ上の特定の位置における標識の検出は、対応するタンパク質の検出を示す。アレイが飽和していない場合は、検出された標識の量をサンプル中のタンパク質の濃度または量と相関させることができる。捕捉されたタンパク質はまた、次に、それ自体標識可能であるか、そうでなければサンドイッチイムノアッセイ形式などで検出可能な第二の捕捉試薬に曝すことにより検出することができる。
【0071】
質量分析に基づく方法としては、例えば、マトリックス支援レーザー脱離/イオン化法(MALDI)、液体クロマトグラフィー/質量分析/質量分析法(LC−MS/MS)および表面増強レーザー脱離/イオン化(SELDI)法が挙げられる。例えば、タンパク質プロフィールはエレクトロスプレーイオン化法およびMALDIを用いて作製することができる。例えば、米国特許第6,225,047法に記載されているSELDIには、質量分析チップ上に保持面が組み込まれている。タンパク質サンプルのタンパク質サブセットはその表面上に保持され、混合物の複雑性が軽減される。タイム・オブ・フライト型質量分析法では、保持されたタンパク質の「フィンガープリント」が作製される。
【0072】
二次元ゲル電気泳動を含む方法では、サンプル中のタンパク質は一般に、SDS−PAGEの際、等電点により一次元で分離され、分子量により二次元で分離される。この二次元分離により、何百または何千というタンパク質が同時に分離および分析することができる。これらのタンパク質は銀染色などの染色液の適用により、またはCy2、Cy3もしくはCy5色素など、タンパク質上の標識の存在によって検出される。タンパク質を同定するためには、ゲルスポットを切り取り、ゲル内トリプシン消化を行うことができる。このトリプシン消化物をMALDIなどの質量分析によって分析することができる。得られたペプチドの質量スペクトル、ペプチドマスフィンガープリントまたはPMFを配列データベースで検索する。PMFは、検索プログラムによりin silicoで作製された全ての理論的トリプシン処理ペプチドの質量と比較する。データベースの検索には、Prospector、SequestおよびMasCot (Matrix Science, Ltd., London, UK)などのプログラムが使用可能である。例えば、MasCotは、マッチが有意であるか有でないかを示す統計学に基づくMowseスコアを出す。データベースのマッチを得る機会を高めるには、MS/MSを用いることができる。ペプチドのCID−MS/MS(タンデムMSの衝突誘導解離)を用いて、アミノ酸配列に関する情報を含むフラグメントイオンのスペクトルを得ることもできる。この情報をペプチドマスフィンガープリントに加えると、マッチの統計学的有意性を高めることができる。また、単一のペプチドの正のMS/MSスペクトルのみを提示することで、タンパク質の同定が可能な場合もある。
【0073】
タンパク質発現プロフィールの比較における最近の改良としては、Cy3およびCy5など、各々異なるスペクトル上分離可能な、電荷および質量が一致した色素で標識された2以上のタンパク質サンプルの混合物の使用が含まれる。この改良法は蛍光二次元ディファレンシャルゲル電気泳動(DIGE)と呼ばれ、試験タンパク質サンプルと対照タンパク質サンプルを同じゲルに流せ、2つのサンプル間のタンパク質のマッチングを助け、違うゲルでの同一でない電気泳動条件に関連する複雑性を避けられるという利点がある。これらのゲルをそれぞれ画像化し、得られた画像はそれ以上修正することなく、そのまま重ね合わせることができる。Cy2などの第三のスペクトル上分離可能な色素をタンパク質プールサンプルの標識に用い、試験において流すゲルの違いの内部対照として用いることができる。よって、あらゆる検出可能なタンパク質が異なるゲル間の比較を助ける内部標体として含まれる。
【0074】
細胞表現型を改良するための細胞株の遺伝子操作
上記のように、本発明は、少なくとも1つの異なる細胞表現型を有する異なる細胞株または細胞で示差的に発現される遺伝子のポリヌクレオチド配列(または部分配列)またはタンパク質のポリペプチド配列(または部分配列)を提供する。これらの配列は異なる配列と総称される。これらの異なる配列は、ある細胞表現型、特に、組換え導入遺伝子の高い効率的な産生、高細胞増殖速度、高極大細胞密度、持続的高細胞生存力、高最大細胞生産性、持続的高細胞生産性、低アンモニウム産生および低乳酸塩産生などを特徴とする表現型を達成するための標的として使用可能である。
【0075】
より詳しくは、本発明は、CHO細胞表現型を得るために好適な標的であることが示されている、すなわち、本発明において「示差的CHO配列」と呼ばれる、第二のCHO細胞株に比べて、第一のCHO細胞株により示差的に発現される、関連の表に示されている各々精製および/または単離されたポリヌクレオチドまたはポリペプチド配列を提供する。特に本明細書において、示差的CHO配列とは、表に示されている遺伝子配列、その断片または相補物から選択される配列を有する、かつ/またはそれらの配列から本質的になる配列を含む。本明細書において、示差的CHO配列とはまた、表に示されているタンパク質配列またはその断片から選択されるポリペプチド配列を含む。本明細書において、異なる示差的CHO配列とはまた、表に示されているタンパク質配列、その断片または相補物から選択されるポリペプチド配列をコードするポリヌクレオチド配列も含む。本発明の示差的CHO配列は、新規なCHO配列(以下に述べる)、導入遺伝子発現に関与している、または明確にではないが関与した機能と関連のある既知の遺伝子配列、およびこれまでには既知の機能は持たなかったが、あるCHO細胞表現型の調節において標的として機能することが今般知り得た既知の配列を含み得る。
【0076】
本発明は、細胞または生物体において示差的CHO配列に対応する遺伝子またはタンパク質の発現および/または活性を変更する(すなわち、調節する(タンパク質と、増強する、低減する、または改変する)ために使用可能な方法および組成物を意図する。細胞または生物体における、本発明に包含される示差的CHO配列の発現の変更は、対応する遺伝子またはタンパク質のダウンレギュレーションまたはアップレギュレーションによって達成することができる。例えば、示差的CHO配列は、アンチセンスポリヌクレオチドなどの種々の阻害的ポリヌクレオチド、本発明の遺伝子から転写されたmRNAと結合し、かつ/または切断するリボザイム、遺伝子の調節領域を標的とする三重らせん形成オリゴヌクレオチド、および標的mRNAの配列特異的分解を生じる短い干渉RNAの使用によってダウンレギュレートすることができる(例えば、Galderisi et al. (1999) J. Cell. Physiol. 181:251-57; Sioud (2001) Curr. Mol. Med. 1:575-88; Knauert and Glazer (2001) Hum. Mol. Genet. 10:2243-51; Bass (2001) Nature 411:428-29)。
【0077】
本発明に好適な阻害的アンチセンスまたはリボザイムポリヌクレオチドは、本発明の遺伝子の全コード鎖に相補的であっても、またはその一部だけに相補的であってもよい。あるいは、阻害的ポリヌクレオチドは本発明の遺伝子のコード鎖の非コード領域に相補的であり得る。本発明の阻害的ポリヌクレオチドは、当業者に周知の手順を用いた化学合成および/または酵素的連結反応を用いて構築することができる。化学的に合成されたポリヌクレオチドのヌクレオシド結合は、ヌクレアーゼ介在分解に対する耐性を増強するため、ならびにそれらの配列特異性を増強するために改変することができる。このような結合の改変としては、限定されるものではないが、ホスホロチオエート結合、メチルホスホネート結合、ホスホロアミデート結合、ボラノホスフェート結合、モルホリノ結合およびペプチド核酸(PNA)結合が挙げられる(Galderisi et al., 前掲; Heasman (2002) Dev. Biol. 243:209-14; Mickelfield (2001) Curr. Med. Chem. 8:1157-70)。あるいは、アンチセンス分子は、本発明のポリヌクレオチドがアンチセンス(すなわち、逆)方向にサブクローニングされている発現ベクターを用い、生物学的に作出することができる。
【0078】
さらに別の実施形態では、本発明に好適なアンチセンスポリヌクレオチド分子は、α−アノマーポリヌクレオチド分子である。α−アノマーポリヌクレオチド分子は、通常のβ−単位とは対照的に、相補的RNAと、鎖が互いに平行に走っている特異的な二本鎖ハイブリッドuを形成する。アンチセンスポリヌクレオチド分子はまた、当技術分野で公知の技術に従い、2’−o−メチルリボヌクレオチドまたはキメラRNA−DNA類似体も含み得る。
【0079】
本発明に好適な阻害的三重らせん形成オリゴヌクレオチド(TFO)は二重らせんDNAの主溝において、高い特異性および親和性で結合する(Knauert and Glazer, 前掲)。本発明の遺伝子の発現は、それらの遺伝子の転写を妨げる三重らせん構造を形成させるよう、遺伝子の調節領域(すなわち、プロモーターおよび/またはエンハンサー配列)に相補的なTFOを標的とすることにより阻害することができる。
【0080】
本発明の一実施形態では、阻害的ポリヌクレオチドは短い干渉RNA(siRNA)分子である。これらのsiRNA分子は、標的mRNAの配列特異的分解を生じる短い(好ましくは、19〜25ヌクレオチド;最も好ましくは19または21ヌクレオチド)、二本鎖RNA分子である。この分解はRNA干渉(RNAi)として知られている(例えば、Bass (2001) Nature 411:428-29)。はじめに下等生物で確認されたRNAiは哺乳類細胞にも効果的に適用され、最近では、Fas MRNAを標的とするsiRNA分子で処理されたマウスにおいて劇症肝炎を防ぐことが示されている(Song et al. (2003) Nat. Med. 9:347-51)。さらに、最近、くも膜下腔内由来siRNAが、ラットの2つのモデル(アゴニスト誘発疼痛モデルおよび神経因性疼痛モデル)で疼痛応答を遮断することが報告されている(Dom et al. (2004) Nucleic Acids Res. 32(5):e49)。
【0081】
本発明に好適なsiRNA分子は、2つの相補的一本鎖RNA分子(その一方は標的mRNAの一部にマッチする)をアニーリングすることにより(Fire et al., 米国特許第6,506,559号)、または必要な二本鎖部分を得るためにそれ自体でたたみ戻した単一のヘアピンRNA分子の使用によって(Yu et al. (2002) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 99:6047-52)作出することができる。これらのsiRNA分子は化学的に合成することもできるし(Elbashir et al. (2001) Nature 411:494-98)、あるいは一本鎖DNA鋳型を用いてin vitro転写により作製することもできる(Yu et al., 前掲)。あるいは、siRNA分子は、センスおよびアンチセンスsiRNA配列を含む発現ベクターを用い、一時的(Yu et al., 前掲; Sui et al. (2002) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 99:5515-20)または安定的(Paddison et al. (2002) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 99:1443-48)に、生物学的に作出することもできる。最近、ヒト一次細胞における標的mRNAのレベルが有効かつ配列特異的に低下することが、siRNAへのさらにプロセシングされるヘアピンRNAを発現するアデノウイルスベクターを用いて実証された(Arts et al. (2003) Genome Res. 13:2325-32)。
【0082】
本発明の示差的CHO配列を標的とするsiRNA分子は当技術分野で周知の基準に基づいてデザインすることができる(例えば、Elbashir et al. (2001) EMBO J. 20:6877-88)。例えば、標的mRNAの標的セグメントはAA(好ましい)、TA、GAまたはCAで始まるべきであり、siRNA分子のGC比は45〜55%であるべきであり、siRNA分子は同じヌクレオチドを並んで含んではならず、siRNA分子は7つのG/C混成を並んで含んではならず、標的セグメントは標的mRNAのORF領域中にあるべきであり、開始ATGの後に少なくとも75bp、停止コドンの前に少なくとも75bpが存在すべきである。本発明のポリヌクレオチドを標的とするsiRNA分子は、上述の基準または他の公知の基準を用い、当業者がデザインすることができる。
【0083】
細胞または生物体における本発明の遺伝子またはタンパク質のダウンレギュレーションはまた、本発明の示差的CHO配列に対応する内因性遺伝子が外来ポリヌクレオチド配列の挿入により分断されている細胞または生物(すなわち、ノックアウト細胞または生物)の作出によって達成することもできる。内因性遺伝子のコード領域も分断可能であり、これにより非機能的タンパク質が生じる。あるいは、内因性遺伝子の上流調節領域も分断または異なる調節エレメントに置換が可能であり、その結果、なお機能的タンパク質の変更された発現が生じる。ノックアウト細胞を作出する方法としては相同組換えを含み、当技術分野でよく知られている(例えば、Wolfer et al. (2002) Trends Neurosci. 25:336-4)。
【0084】
示差的CHO配列の発現または活性はまた、本発明の示差的CHO配列に対応する遺伝子またはタンパク質のアップレギュレーションによっても変更することができる。アップレギュレーションは、目的のタンパク質または遺伝子をコードする外来核酸(例えば、過剰発現構築物)、またはその活性を保持する変異体もしくはタンパク質活性を間接的に増強する因子もしくは分子を提供する変異体を提供することを含む。変異体は一般に目的のタンパク質または遺伝子と共通の構造的特徴を有し、細胞表現型の改良を可能とする活性を保持しているべきである。変異体は別種に由来するホモログに相当する場合がある(例えば、齧歯類ホモログ;ヒトホモログなどの霊長類ホモログ;別の哺乳類ホモログ;または細胞表現型に対して所望の効果を運ぶに十分な配列保存性を保持するより遠縁のホモログ)。ある場合には、変異体はCHO配列または既知のホモログと少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%または少なくとも95%の配列同一性を保持し得る。ある種の実施形態では、変異体は、ストリンジェント条件下でCHO核酸配列と、または既知のホモログの核酸配列とハイブリダイズする核酸分子である。
【0085】
例えば、本発明の示差的CHO配列に対応する単離されたポリヌクレオチドは、pMT2およびpED発現ベクターなど、本発明の示差的に発現される遺伝子またはタンパク質の組換え産生のための発現制御配列と作動可能なように連結することができる。組換えタンパク質を発現させる一般法は当技術分野でよく知られている。
【0086】
本発明の示差的に発現される遺伝子またはタンパク質の発現または活性はまた、本発明の遺伝子またはタンパク質の活性を直接的または間接的に変調し得る外来薬剤、小分子、医薬化合物または他の因子によって変更することもできる。結果として、これらの薬剤、小分子、医薬化合物または他の因子はCHO細胞の表現型の調節、例えば、組換え導入遺伝子の産生の増強、高細胞増殖速度、高極大細胞密度、持続的高細胞生存力、高最大細胞生産性、持続的高細胞生産性、低アンモニウム産生および低乳酸塩産生などに使用可能である。
【0087】
上記の遺伝子またはタンパク質発現を変更する方法の組合せはいずれも本発明の範囲内にある。種々の細胞表現型に影響を及ぼす遺伝子またはタンパク質の組合せはいずれも本明細書に記載の方法に基づいて変調することができ、本発明の範囲内にある。
【0088】
新規な遺伝子またはタンパク質
上記のように、本発明は、CHO細胞により発現されることが新たに発見された配列を含む示差的配列を提供する。よって、本発明は、これまでに発見されていない遺伝子の少なくとも一部である新規な単離および/または精製されたポリヌクレオチドを提供する。CHO細胞により発現され、新たに発見された遺伝子の新規なポリヌクレオチド配列(または部分配列)の例を表9、13および15に示す。本発明はまた、これまでに発見されていないタンパク質の少なくとも一部である単離および/または精製されたポリペプチドも提供する。CHO細胞により発現され、新たに発見されたタンパク質の新規なポリペプチド配列(または部分配列)の例を表2および4に示す。本発明はまた、表2および4に示すようなポリペプチド配列をコードする新規なポリヌクレオチドも提供する。
【0089】
よって、本発明は、これまでに発見されていない遺伝子(すなわち、配列決定されていない、かつ/またはCHO細胞により発現されることが示されていない遺伝子)であるか、またはその一部であり、CHO細胞により立証可能な発現を示す、表9、13および15から選択される、各々精製および/または単離されたポリヌクレオチド配列を提供する。あるいは、本発明は、これまでに発見されていないタンパク質(すなわち、配列決定されていない、かつ/またはCHO細胞により発現されることが示されていないタンパク質)であるか、またはその一部であり、CHO細胞により立証可能な発現を示す、表2および4から選択される、各々精製および/または単離されたポリペプチド配列を提供する。本発明はまた、表2および4から選択される各ポリペプチド配列をコードする単離および/または精製されたポリヌクレオチド配列を提供する。これらの配列は本明細書において「新規なCHO配列」と総称する。本発明の好ましいポリヌクレオチド配列は、ゲノムDNAおよびcDNA配列、ならびに化学的に合成されたDNA配列を含むDNA配列、RNA配列、または他の修飾された核酸配列を含む。本発明の好ましいポリペプチド配列はアミノ酸配列または修飾されたアミノ酸配列を含む。
【0090】
上記のような各新規なCHO配列に阻害的ポリヌクレオチドを提供することも本発明の一部である。本発明のポリヌクレオチドはまた、ストリンジェント条件下で新規なCHO配列またはその相補物とハイブリダイズし、かつ/または本発明の新規なCHO配列によりコードされているポリペプチドの実質的な生物活性を保持するポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含む。本発明のポリヌクレオチドはまた、少なくとも21の連続するヌクレオチドを含む新規なCHO配列の連続部分も含む。
【0091】
本発明のポリヌクレオチドはまた、上記のようなポリヌクレオチドによりコードされているアミノ酸配列のいずれかまたはその連続部分をコードし、かつ、唯一、周知の遺伝コードの縮重のために上記のポリヌクレオチドとは異なるポリヌクレオチドも含む。
【0092】
本発明の単離されたポリヌクレオチドは、開示されているポリヌクレオチドをコードするものと同一、または類似の配列を有する核酸を同定および単離するためのハイブリダイゼーションプローブ(例えば、上記のようなオリゴヌクレオチド)およびプライマーとして使用可能である。核酸を同定および単離するためのハイブリダイゼーション法としては、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)、サザンハイブリダイゼーションおよびノーザンハイブリダイゼーションが含まれ、当業者によく知られている。
【0093】
ハイブリダイゼーション反応は種々のストリンジェンシー条件下で行うことができる。ハイブリダイゼーション反応のストリンジェンシーは、任意の2つの核酸分子が互いにハイブリダイズする難度を含む。各ハイブリダイゼーションポリヌクレオチドは、好ましくは低ストリンジェンシー条件下で、より好ましくはストリンジェンシー条件下で、最も好ましくは高ストリンジェンシー条件下で、その対応するポリヌクレオチドとハイブリダイズする。ストリンジェンシー条件の例は以下の表1に示され、高ストリンジェンシー条件は少なくとも例えばA〜Fのストリンジェンシーのものであり、ストリンジェンシー条件は少なくとも例えば条件G〜Lのストリンジェンシーのものであり、低ストリンジェンシー条件は少なくとも例えば条件M〜Rのストリンジェンシーのものである。
【0094】
【表1】


:ハイブリッド長はハイブリダイゼーションポリヌクレオチドのハイブリダイズ領域に対して予測されるものである。ポリヌクレオチドと未知の配列の標的ポリヌクレオチドがハイブリダイズする場合には、ハイブリッド長はハイブリダイゼーションポリヌクレオチドの長さであると推定される。既知の配列のポリヌクレオチドがハイブリダイズする場合には、ハイブリッド長は、そのポリヌクレオチド配列をアラインし、最適な配列相補性の領域を同定することにより決定することができる。
:ハイブリダイゼーションバッファーおよび洗浄バッファーでは、をSSC(1xSSCは0.15M NaClおよび15mMクエン酸ナトリウム)の代わりにSSPE(1xSSPEは0.15M NaCl、10mM NaHPOおよび1.25mM EDTA、pH7.4である)を用いることができる。
−T:50塩基対未満の長さであると予測されるハイブリッドのハイブリダイゼーション温度はそのハイブリッドの融解温度(T)よりも5〜10℃低いべきである(ここで、Tは次の方程式に従って決定される。18塩基対未満の長さのハイブリッドでは、T(℃)=2(A+T塩基の数)+4(G+C塩基の数)。18〜49塩基対の長さのハイブリッドでは、T(℃)=81.5+16.6(log10[Na])+0.41(%G+C)−(600/N)(ここで、Nはハイブリッドの塩基数であり、[Na]はハイブリダイゼーションバッファー中のナトリウムイオンのモル濃度である(1xSSCの[Na]=0.165M)。
【0095】
一般に、上記のように、本発明の単離されたポリヌクレオチドはまた、開示されているポリヌクレオチドと相同なDNAを同定および単離するためのハイブリダイゼーションプローブおよびプライマーとしても使用可能である。これらのホモログは開示されているポリヌクレオチドのものとは異なる種、または同じ種であるが、開示されているポリヌクレオチドと有意な配列類似性を有する種から単離されたポリヌクレオチドである。好ましくは、ポリヌクレオチドホモログは開示されているポリヌクレオチドと少なくとも60%の配列同一性(より好ましくは、少なくとも75%の同一性、最も好ましくは少なくとも90%の同一性)を有する。好ましくは、開示されているポリヌクレオチドのホモログは哺乳類種から単離されたものである。
【0096】
本発明の単離されたポリヌクレオチドはまた、本発明のポリヌクレオチドを発現する細胞および組織、ならびにそれらが発現される条件を同定するためのハイブリダイゼーションプローブおよびプライマーとして使用することもできる。
【0097】
本発明はまた、新規なCHO配列によりコードされているタンパク質またはポリペプチドを組換え発現することを意図する。本発明の新規なCHO配列によりコードされているポリペプチドの組換え発現に好適な宿主細胞としていくつかの細胞種が働き得る。哺乳類宿主細胞としては、限定されるものではないが、例えば、COS細胞、CHO細胞、293細胞、A431細胞、3T3細胞、CV−1細胞、HeLa細胞、L細胞、BHK21細胞、HL−60細胞、U937細胞、HEK細胞、PerC6細胞、Jurkat細胞、正常2倍体細胞、細胞一次組織のin vitro培養に由来する細胞株および一次外植体が挙げられる。
【0098】
あるいは、酵母などの下等な真核生物または原核生物で、本発明の新規なCHO配列によりコードされているポリペプチドを組換え生産することもできる。可能性のある好適な酵母株として、サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)、シゾサッカロミセス・ポンベ(Schizosaccharomyces pombe)、クルイベロミセス(Kluyveromyces)株およびカンジダ(Candida)株が挙げられる。可能性のある好適な細菌株としては大腸菌(Escherichia coli)、枯草菌(Bacillus subtilis)およびネズミチフス菌(Salmonella typhimurium)が挙げられる。ポリペプチドが酵母または細菌で産生される場合、機能性を得るために、例えば、適当な部位のリン酸化またはグリコシル化などによりそれらを修飾する必要のある場合がある。このような共有結合は周知の化学法または酵素法を用いて達成することができる。
【0099】
本発明のポリヌクレオチドによりコードされているポリペプチドはまた、本発明の単離された新規なCHO配列を、バキュロウイルスベクターなどの1個または複数の昆虫発現ベクター中の好適な制御配列と作動可能なように連結し、昆虫細胞発現系を使用することにより組換え産生することもできる。バキュロウイルス/Sf9発現系のための材料および方法はキットの形態で市販されている(例えば、MaxBac(登録商標)キット, Invitrogen, Carlsbad)。
【0100】
適当な宿主細胞で組換え発現させた後、本発明のポリヌクレオチドによりコードされているポリペプチドを、ゲル濾過およびイオン交換クロマトグラフィーなどの公知の精製法を用い、培養培地または細胞抽出液から精製することができる。精製はまた、本発明のポリヌクレオチドによりコードされているポリペプチドと結合することが知られている薬剤を用いたアフィニティークロマトグラフィーを含み得る。これらの精製法はまた、天然源に由来するポリペプチドの精製のためにも使用可能である。
【0101】
あるいは、本発明の新規なCHO配列によりコードされているポリペプチドはまた、精製を助ける形態で組換え発現させることもできる。例えば、これらのポリペプチドはマルトース結合タンパク質(MBP)、グルタチオン−S−トランスフェラーゼ(GST)またはチオレドキシン(TRX)などのタンパク質との融合物として発現させることができる。このような融合タンパク質の発現および精製のためのキットは、それぞれNew England BioLabs (Beverly, Mass.)、Pharmacia (Piscataway, N.J.)およびInvitrogen (Carlsbad, Calif.)から市販されている。本発明のポリヌクレオチドによりコードされているポリペプチドはまた、小さなエピトープタグを付けた後、そのエピトープに特異的な抗体を用いて同定または精製することができる。好ましいエピトープはFLAGエピトープであり、Eastman Kodak (New Haven, Conn.)から市販されている。
【0102】
本発明の新規なCHO配列によりコードされているポリペプチドはまた、既知の従来の化学合成によって作製することもできる。本発明の新規なCHO配列によりコードされているポリペプチドを化学合成するための方法は当業者によく知られている。このような化学合成ポリペプチドは天然の精製ポリペプチドと共通の生物特性を有し、従って天然ポリペプチドに対する生物学的に活性な置換または免疫学的な置換として使用することができる。
【0103】
上記の実施形態および以下の実施例は例として示すものであって、限定されないと理解すべきである。本発明の範囲内の種々の変更や変形は、当業者には本記載から明らかとなろう。
【実施例】
【0104】
実施例1.細胞培養
2つの基本条件下、2つの基本形式にて、血清不含懸濁培養で細胞を培養した。一方の形式は小スケールの振盪フラスコ培養であり、COインキュベーター内の旋回シェーカー上で回転させた通気性の組織培養フラスコ中、100ml未満で細胞を培養した。第二の形式は、pH、栄養、溶存酸素および温度を制御した実施量2L未満のベンチトップバイオリアクターとした。2つの基本培養条件は37℃の通常の継代条件、または流加培養条件とした。基本流加培養では、細胞をより長期間増殖させ、細胞の生存能を延長させ、培養の生産期へと延長するために低温に移行する。
【0105】
実施例2.CHO細胞培養の分類
CHO細胞株を、高生産性流加細胞培養法に有用な次の表現型:高細胞増殖速度、高極大細胞密度、持続的高細胞生存力、高最大細胞生産性、持続的高細胞生産性、低アンモニウム産生および低乳酸塩産生の各々に基づいて分類した。振盪フラスコおよびベンチトップバイオリアクターから採取し、375の個々のサンプル(生物学的三反復または四反復を含む)およびモノクローナル抗体、サイトカイン、血液凝固因子およびFc:受容体融合分子を発現する29の異なるrCHO株を含んだ適当なCHO細胞サンプルとともに表現型分類を配置した細胞サンプルマトリックスを作成した。この細胞サンプルマトリックスの一部の例が図2で示され、略号Qpは細胞生産性に対して用いられる。「高細胞増殖速度」表現型に関する試験細胞株と対照細胞株の間の表現型比較の例が図3に示されている。
【0106】
実施例3.示差的に発現されるタンパク質の検出
方法
細胞を採取し、7M尿素、2Mチオ尿素、4%CHAPS、30mM Tris、5mM酢酸マグネシウム、pH8.5で標準的な溶解を行った。150μgアリコートの溶解液を二次元ゲル電気泳動により分析し、18cm固定化pH勾配等電点電気泳動勾配ストリップpH4〜7を用い、サンプルの質を確認した。これらのストリップを一ストリップ当たり340μlのバッファーで一晩、再水和させた。サンプルをストリップの陰極末端に置き、1時間500V、1時間1000Vおよび4時間8000Vをかけ、12.5%アクリルアミドゲル上で二次元を行うまで、−80℃で保存した。二次元電気泳動はゲル当たり1.5Wで30分間、その後、6つの大形式ゲルのDalt 6泳動では合計100Wで5時間行った。銀染色によってタンパク質を可視化し、溶解液中のタンパク質の質を確認した。
【0107】
次に、原溶解液のアリコートを、蛍光2次元ディフェレンシャルゲル電気泳動(DIGE)の調製物中の蛍光色素で標識した(その概要が図4に示されている)。細胞培養の各比較を、ゲル当たり各50μgのCy2−、Cy3−およびCy5標識細胞溶解液を用い、一試験当たり合計8DIGEゲルの二反復ゲルを用いて4回行った。試験に用いた全ての細胞溶解液をプールし、Cy2で標識して内部標体として用いた。対照細胞溶解液をCy3で標識し、試験細胞溶解液をCy5で標識した。標識は氷上、暗所にて30分間行った後、氷上、暗所にて、10mMリシンを用い、反応を10分間クエンチした。次に、Cy2−、Cy3−およびCy5標識溶解液をプールし、氷上、暗所にて15分間、2xサンプルバッファーと混合した。
【0108】
これらのサンプルを固定化pH勾配等電点電気泳動ストリップにかけた。これらのストリップを約20時間一晩、再水和した。サンプルをストリップの陰極末端に置き、300V/3hr/G、600V/3hr/S&H、1000V/3hr/G、8000V/3hr/G、8000V/4hr/S&Hおよび500V/12hr/S&Hをかけた。SDS−PAGEの1時間前に、ストリップに1時間8000Vをかけた。これらのストリップをSDSバッファー+1%DTT中で15分間、およびSDSバッファー+2.5%ヨードアセトアミド中で15分間平衡化した。これらのストリップをポリアクリルアミドゲルに適用し、アガロースで覆った。これらのゲルでの電気泳動は、12の大形式ゲルを用い、Dalt 12上、10℃で約18時間、1.5W/ゲルで行った。これらのゲルを可変式イメージャーを備えたTyphoon(商標)9400スキャナーで走査し、トリミングし、DeCyder(商標)ソフトウエアにインポートした。示唆的に調節されるタンパク質は生物分散分析(BVA)を用いて同定した。これらのタンパク質を、タンパク質400μgをのせた分取ゲルと合わせ、ルテニウムで染色した。この分取ゲルから、Ettan Spot Pickerを用い、DIGEにより示差的に調節されるとして同定されるタンパク質を採取した。Ettan Digestorを用い、一晩のトリプシンインキュベーションで個々のタンパク質を消化した。得られたペプチドを質量分析によって分析した。ペプチドマスフィンガープリント法では、特にゲル上に存在量の多いサンプルについてMALDIを用いる。
【0109】
存在量の少ないサンプルでは、MDLC LTQ装置を用いたLC−MS/MSを用いる。2Dゲルスポットからのトリプシン消化サンプルを、0.1%TFAを含有するLC−MS級の水20μLに再懸濁させ、Finnigan(商標)LTQ(商標)(Thermo Electron)に直接接続したハイスループット構成でEttan(商標)MDLCシステム(GE Healthcare)を用いる一次元LC−MSにより分析した。サンプルをRPCトラップカラム(Zorbax(商標)300SB C18、0.3mm×5mm、Agilent Technologies)で濃縮および脱塩し、これらのペプチドを、60分間で0〜65%アセトニトリル(Riedel-de Haen LC-MS級)の直線的アセトニトリル勾配を用いるnano−RPCカラム(Zorbax(商標)300SB C18、0.075mm×100mm、Agilent Technologies)で、10μmのnanoESI放射体(Presearch FS360-20-10-CE-20)を介して直接LTQへ分離した。MS/MSのためにLTQイオントラップ質量分析計を用いた。300〜2000のm/z範囲で〜0.15秒の走査時間(最大インジェクション時間10m秒で1マイクロスキャン)を用いた後、各スキャンから3つの最も豊富なピークのMS/MS分析を行い、これをその後60秒間排除し、次の3つの豊富なピークのMS/MSを行い、その後これを60秒間排除するなどである。イオンフラグメンテーションには「衝突エネルギー」設定35%を適用し、動的排除を用い、従前に分析されたイオンと識別した(データ依存分析)。
【0110】
nanoLC分離に用いられるバッファーは全てイオン対合試薬として0.1%ギ酸(Fluka)を含んだ。フルスキャンマススペクトルをプロフィールモードで記録し、タンデムマススペクトルをセントロイドモードで記録した。これらのペプチドを、SEQUEST(商標)を用いたSWISS PROTデータベース検索により、タンデムマススペクトルの情報を用いて同定した。一電荷ペプチドではXcorr値>1.5、二電荷ペプチドでは>2.0、三電荷ペプチドでは>2.5を統計学的カットオフとして用いた。
【0111】
最大細胞生産性のマーカー
高細胞生産性を有し、PACE(フリンプレプロタンパク質)を過剰発現する細胞株の4つの培養物のタンパク質発現プロフィールを、対照細胞株の4つの培養物のタンパク質発現プロフィールと比較した。およそ2000のタンパク質を全8ゲルの試験(合計24画像を含む)で適合を探した。DeCyder分析で示差的に発現されるタンパク質とみなされるためには、タンパク質は24全てで同定され、少なくとも1.5倍のアップレギュレーションまたはダウンレギュレーションを示し、t検定スコア0.05未満が示されなければならない。188のタンパク質が示差的に調節されると同定され、数種の存在量の少ないタンパク質を含め、ほとんどのものが極めて有意なt検定スコアを有していた。図5は例示的ゲル上のCy3およびCy5染色パターンを示す。この図では、Cy5標識試験細胞抽出液において5倍アップレギュレートされることが明らかなタンパク質の概略が示され、Cy5標識試験細胞抽出液におけるタンパク質の相対的存在量のグラムも示されている。図6では、Cy5標識試験細胞抽出液において4倍ダウンレギュレートされることが明らかなタンパク質の概略が示され、先の図面と同様のグラフが示されている。
【0112】
表2および3では、高細胞生産性細胞株で示差的に発現されると同定されたいくつかのスポットを挙げている。表に挙げられている各スポットについては、MALDI配列分析により1つまたは2つの対応するアミノ酸配列が同定されている。これらの表は、各スポット番号について、「平均比率」として示される、試験サンプルと対照サンプルの間のタンパク質レベルの違いの倍率が示され、試験サンプルでレベルが低下しているタンパク質をマイナスで示している。これらの表にはまた、発現の違いが無作為な機会の結果であると考えられるp値、同定されたアミノ酸配列に対応するタンパク質名および受託番号も示されている。MALDI配列分析では、トリプシン断片の分子量を既知配列のトリプシン断片の推定分子量と比較した。いくつかの場合では、この配列分析および本願に含まれている他のペプチド配列分析において、検出された分子量は、システインがヨードアセトアミドで修飾されている場合、またはメチオニンが部分的に酸化されている場合など、修飾形態のペプチドの検出の指標となる。これは細胞または細胞環境におけるタンパク質に関するペプチドの初期状態を必ずしも反映するものではないと理解される。よって、配列表に示されるペプチド配列は非修飾形態のペプチド、およびいくつかの実施形態では望ましい細胞表現型を有するように遺伝子操作された細胞は、1個または複数のペプチドを含むアミノ酸配列を発現する遺伝子を調節するよう遺伝子操作される。
【0113】
これらの表では、「配列包括度%(percent coverage)」とは、試験において対応するトリプシン断片が検出されたデータベース配列の全長のパーセンテージを指す。pIおよびMとは、タンパク質スポットの見掛けの等電点および見掛けの分子量を指す。この表では、いくつかのタンパク質について、推定されるタンパク質機能も示されている。
【0114】
【表2−1】

【0115】
【表2−2】

【0116】
【表2−3】

【0117】
【表3】

【0118】
同定されたタンパク質の配列データを図7〜59に示す。各図には、DIGEから得られた特定のタンパク質スポットに関して、トリプシン消化で検出された分子量のスペクトル;対応するタンパク質データベースのマッチ(タンパク質データベース登録に関して推定されるトリプシンペプチドとマッチしたペプチドの数、データベース登録から得られたタンパク質の受託番号、名称および種、範囲%、等電点および質量を含む);推定ペプチドの推定質量とマッチした各分子量に関する、測定質量、推定(匹敵)質量、両者の違い、および対応するペプチド配列;ならびにデータベース登録から得られたタンパク質の全長配列が示されている。
【0119】
高細胞増殖速度のマーカー
高細胞増殖速度を有するPA DUKX 378のタンパク質発現プロフィールをPA DUKX 153.8のタンパク質発現プロフィールと比較した。表4および5は高最大細胞生産性細胞株において示差的に発現されると同定されたいくつかのスポットを示す。これらの表に示されている各スポットについては、MALDI配列分析によりチャイニーズハムスターまたは別種に由来する対応するアミノ酸配列とのマッチが同定された。これらの表は、各スポット番号について、「平均比率」として示される、試験サンプルと対照サンプルの間のタンパク質レベルの違いの倍率が示され、試験サンプルでレベルが低下しているタンパク質をマイナスで示している。これらの表にはまた、p値(統計学的有意性)、ならびに同定されたアミノ酸配列に対応するタンパク質名、受託番号および種も示されている。
【0120】
【表4−1】

【0121】
【表4−2】

【0122】
【表4−3】

【0123】
【表5】

【0124】
【表6−1】

【0125】
【表6−2】

【0126】
【表6−3】

【0127】
【表6−4】

【0128】
【表6−5】

【0129】
同定されたタンパク質の配列データを図60〜112に示す。各図には、DIGEから得られた特定のタンパク質スポットに関して、トリプシン消化で検出された分子量のスペクトル;対応するタンパク質データベースのマッチ(タンパク質データベース登録に関して推定されるトリプシンペプチドとマッチしたペプチドの数、データベース登録から得られたタンパク質の受託番号、名称および種、配列包括度%、等電点および質量を含む);推定ペプチドの推定質量とマッチした各分子量に関する、測定質量、推定(匹敵)質量、両者の違い、および対応するペプチド配列;ならびにデータベース登録から得られたタンパク質の全長配列が示されている。
【0130】
実施例4.持続的高細胞生存力または高極大細胞密度を有する細胞で示差的に発現されるタンパク質
表7は、実施例3に記載されている方法を用い、持続的高細胞生存力を有する細胞で示差的に発現されると同定されたいくつかのスポットを示す。同定されたタンパク質の配列データを図113〜127に示す。表8は、同様の方法を用い、高極大細胞密度を有する細胞で示差的に発現されると同定されたいくつかのスポットを示し、対応する配列データを表128〜138に示す。これらの表は、各スポット番号について、「平均比率」として示される、試験サンプルと対照サンプルの間のタンパク質レベルの違いの倍率が示され、試験サンプルでレベルが低下しているタンパク質をマイナスで示している。これらの表にはまた、発現の違いが無作為な機会の結果であると考えられるp値、同定されたアミノ酸配列に対応するタンパク質名および受託番号も示されている。得られたペプチドを質量分析により分析した。ペプチドマスフィンガープリント法では、特にゲル上に存在量の多いサンプルについてMALDIを用いる。存在量の少ないサンプルでは、MDLC LTQ装置を用いるLC−MS/MSを用いる。MALDI配列分析では、トリプシン断片の分子量を既知配列のトリプシン断片の推定分子量と比較した。これらの表では、「配列包括度%」とは、試験において対応するトリプシン断片が検出されたデータベース配列の全長のパーセンテージを指す。pIおよびMとは、タンパク質スポットの見掛けの等電点および見掛けの分子量を指す。
【0131】
【表7】

【0132】
【表8】

【0133】
実施例5.mRNA発現プロファイリング
試験および対照CHO細胞株からのRNAサンプルを得、米国特許出願公報US2006/0010513(その全内容は出典明示により本明細書の一部とされる)に記載されているようにCHO mRNA配列のプローブを含むマイクロチップで分析した。ハイブリダイゼーションカクテルをフラグメント化cRNA標準でスパイクし、既知濃度の、標識した対照配列のフラグメント化cRNAを用いて標準曲線を作成し、これによってデータのノーマライゼーションならびにチップの感受性および飽和の評価が可能となる。3’/5’比のβ−アクチンおよびGAPDH、シグナル強度と一貫性、ならびに存在%を用い、このスキャンデータの質的制御を行った。一般に、データのノーマライゼーションはソフトウエアツールAffy 5.0およびGenesis 2.0;またはdChiP(Li et al. (2001) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 98:31-36およびLi et al. (2001) Genome Biol. 2:0032.1-0032.11参照)およびGenespringを用いて行った。遺伝子をさらに検討する前に、PValue 0.05以下、かつ、試験株および対照株の間の最小変化倍率1.2であることが必要であった。教師なし(unsupervised)ピアソンクラスター分析を図139および140に示す。
【0134】
データ分析法の例を図141に示す。高細胞増殖速度に関する試験細胞株と対照細胞株の対を比較し、1.2倍の差の要件に見合うmRNA発現パターンを同定した。これらのうち、試験細胞株と対照細胞株の4つの異なる対の各々で示差的に発現された65の遺伝子を同定した。65のうち29が試験細胞株で一貫してアップレギュレートされたか、一貫してダウンレギュレートされ、これらはさらなる分析に対して高い優先性を示した。
【0135】
対とする差によらないデータ分析の方法例を図142に示す。590の遺伝子が、高細胞増殖速度試験CHO細胞株の平均発現レベルが一群として、対照CHO細胞株群の平均発現よりも少なくとも1.2倍高かったことが確認された。1.5倍の発現差が必要とされ、さらによりストリンジェントな統計分析が適用される場合には、78の遺伝子が基準を通り、これらはさらなる分析に対して高い優先性を示した。
【0136】
実施例6.高最大細胞生産性を有する細胞で示差的に発現される遺伝子
高最大細胞生産性を有する細胞で示差的に発現されると同定された核酸の概要を表9および10に示す。各核酸について、より適正な名称、記号およびタイトルを示すとともに、その核酸がより高い最大細胞生産性を有する細胞でアップレギュレートされるかダウンレギュレートされるかが示されている。Unigeneデータベースにおいてヒトまたはマウスホモログを有する核酸については、この表にUnigene ID番号、ならびにe値、CHO配列とUnigeneデータバンク登録の間の配列同一性%および配列包括度%(「%QC」)を含む比較関連の統計値を示す。
【0137】
特に分泌タンパク質の生産については、小胞体(ER)またはゴルジ複合体に関連するタンパク質をコードする核が細胞生産性に寄与し得る。表11は、PACEを過剰発現する細胞で少なくとも1.2倍示差的に発現され、ER関連タンパク質をコードする核酸をまとめたものである。表12は、PACEを過剰発現する細胞で少なくとも1.2倍示差的に発現され、ゴルジ関連タンパク質をコードする核酸をまとめたものである。
【0138】
【表9】

【0139】
【表10】

【0140】
【表11−1】

【0141】
【表11−2】

【0142】
【表11−3】

【0143】
【表11−4】

【0144】
【表12】

【0145】
実施例7.高細胞増殖速度を有する細胞で示差的に発現される遺伝子
高細胞増殖速度を有する細胞で示差的に発現されると同定された核酸の概要を表13および14に示す。各核酸について、より適正な名称、記号およびタイトルを示すとともに、その核酸がより高い最大細胞生産性を有する細胞でアップレギュレートされるかダウンレギュレートされるかが示されている。Unigeneデータベースにおいてヒトまたはマウスホモログを有する核酸については、この表にUnigene ID番号、ならびにe値、CHO配列とUnigeneデータバンク登録の間の配列同一性%および配列包括度%(「%QC」)を含む比較関連の統計値を示す。
【0146】
【表13−1】

【0147】
【表13−2】

【0148】
【表14】

【0149】
実施例8.高極大細胞密度を有する細胞で示差的に発現される遺伝子
高極大細胞密度を有する細胞で示差的に発現されると同定された核酸の概要を表15、16および17に示す。各核酸について、より適正な名称、記号およびタイトルを示すとともに、その核酸がより高い最大細胞生産性を有する細胞でアップレギュレートされるかダウンレギュレートされるかが示されている。Unigeneデータベースにおいてヒトまたはマウスホモログを有する核酸については、この表にUnigene ID番号、ならびにe値、CHO配列とUnigeneデータバンク登録の間の配列同一性%および配列包括度%(「%QC」)を含む比較関連の統計値を示す。
【0150】
【表15−1】

【0151】
【表15−2】

【0152】
【表15−3】

【0153】
【表15−4】

【0154】
【表15−5】

【0155】
【表15−6】

【0156】
【表16】

【0157】
【表17−1】

【0158】
【表17−2】

【0159】
【表17−3】

【0160】
【表17−4】

【0161】
【表17−5】

【0162】
【表17−6】

【0163】
【表17−7】

【0164】
【表17−8】

【0165】
【表17−9】

【0166】
【表17−10】

【0167】
実施例9.持続的高細胞生存力を有する細胞で示差的に発現される遺伝子
Bcl−xLは細胞死の強力な阻害剤である。Bcl−xLを過剰発現する細胞は持続的高細胞生存力を示す。表18および19は、Bcl−xLを過剰発現する細胞で少なくとも1.2倍示差的に発現される核酸をまとめたものである。比較のためにサンプルを複数の時点で採取した。表18は、5日目に少なくとも1.2倍示差的に発現される核酸をまとめたものである。表19は、5日目に少なくとも1.2倍示差的に発現される核酸をまとめたものである。
【0168】
【表18−1】

【0169】
【表18−2】

【0170】
【表18−3】

【0171】
【表18−4】

【0172】
【表18−5】

【0173】
【表18−6】

【0174】
【表18−7】

【0175】
【表18−8】

【0176】
【表19−1】

【0177】
【表19−2】

【0178】
【表19−3】

【0179】
【表19−4】

【0180】
【表19−5】

【0181】
【表19−6】

【0182】
【表19−7】

【0183】
実施例10.プラットフォーム分析
4つの細胞株を、流加培養で培養した際に望ましい代謝表現型を示すプラットフォームプロセスカテゴリーから分析した。すなわち、これらの細胞株は流加培養で高い生存力を維持し、かつ、および乳酸塩およびアンモニアの消費が遅い。流加培養で増殖した各細胞株を複数の時点で採取した。各細胞株からの時点をANOVA分析で調べ、培養過程での遺伝子発現の変化をモニタリングした。各細胞株からの遺伝子リストを比較し、4つの細胞系統全てで共通していたものを同定した。核酸配列例を表20に挙げる。
【0184】
【表20−1】

【0185】
【表20−2】

【0186】
【表20−3】

【0187】
【表20−4】

【0188】
【表20−5】

【0189】
【表20−6】

【0190】
【表20−7】

【0191】
【表20−8】

【0192】
実施例11.標的のバリデーション:siRNA
示差的に発現される遺伝子およびタンパク質が細胞表現型に影響を及ぼす能力を、当技術分野で公知の方法を用い、関連遺伝子の発現を阻害する核酸を過剰発現させることによって確認する。干渉RNA構築物に基づく方法の例を以下に記載する。
【0193】
siRNAのデザインおよびの合成
一般に、siRNAが介在する遺伝子ノックダウンの候補となる標的を配列決定し、それらの配列をバリデーションする。全長cDNA配列情報は、siRNAデザインを助けるのに好ましい(必要ではない)。遺伝子ノックダウンの候補となる標的配列を、公開または専有データベース(例えば、BLAST検索)で入手可能な遺伝子配列と比較する。他の既知の配列と重複する標的遺伝子内の配列(例えば、相同な連続する16〜17塩基対)は一般に、特定のsiRNA介在遺伝子ノックダウンの好適な標的とは言えない。
【0194】
siRNAは例えばAmbion(登録商標)ウェブサイト(http://www.ambion.com/techlib/misc/siRNA_finder.html)で利用可能なものなど、安全なインターネット接続でのオンラインデザインツールを用いてデザインすることができる。あるいは、有効なsiRNAをデザインするためのCenixアルゴリズムを適用するAmbion(登録商標)から注文siRNAを求めることもできる。siRNAの標準形式は一般に5nmolであり、アニーリングされ、プレート中で標準的な純度である。合成siRNAを受け取った際は、製造業者が提供している説明書に従ってsiRNAを調製し、適当な温度(−20℃)で保存する。
【0195】
siRNAのトランスフェクションには標準的な手順を用いた。トランスフェクトする細胞は一般に、細胞が必ず対数増殖期となるようにトランスフェクション前日に予め継代しておいた。一般に、siRNA流加アッセイを用いた。トランスフェクションの材料、条件および方法の例は次の通りである。
トランスフェクション(D0)
Per Spin Tube(50ml)
100μL R1
2μL Transit−TKOトランスフェクション試薬(Mirus)
10μL 10μM siRNA
2mL 1e5細胞/mL、AS1培地
トランスフェクション後
37℃:72時間
31℃:96時間
供給:3日目(D3)にAQ3
サンプルは1日目(D1)、3日目(D3)、7日目(D7)に採取
【0196】
24ウェル懸濁液トランスフェクション
各試験につき、総量1mL中100,000細胞(例えば、3C7細胞)および50nM siRNAを用いた。反応3回分の混合物を作製するため、150μL R1および70μL Mirus TKO試薬を混合し、室温で10分間インキュベーションした。15μLの10μM siRNAを加え、この混合物を室温で10分間インキュベーションした。3つのウェルにそれぞれ57.3μLの混合物を移した。942.7μLのR5CD1(100,000細胞含有)を加え、このプレートを振盪器上、37℃で72時間インキュベーションした。
【0197】
スピンチューブsiRNAトランスフェクション
各試験につき、総量1mL中100,000細胞(例えば、3C7細胞)を用いた。各トランスフェクションにつき、100μL R1および2μL Mirus TKO試薬を混合し、室温で10分間インキュベーションした。10μLの10μM siRNAを加え、この混合物を室温で15分間インキュベーションし、時々混合した。1.9mLの培養物を各スピンチューブに移した。siRNA混合物(112μL)を各スピンチューブに加えた。培養物をまず37℃でインキュベーションした後、3日目に温度を31℃に変えた。スピンチューブ培養は高速振盪した(〜250RPM)。1日目、3日目および7日目にサンプルを採取した。培養は7日目に終了した。
【0198】
各プレートに増殖および生産性対照を含めた。生産性対照の例としてDHFR(2シストロン性mRNA上の選択マーカー)がある。DHFR siRNAで処理すると、CM−FcIGEN(抗体産生対照)中の抗体量が再現性よく低下する。増殖対照の例としてはCHO1(キネシン)(Matuliene et al. (2002) Mol. Cell. Biol. 13:1832-45参照)がある(一般に、CHO1処理では約20〜30%の増殖阻害が見られた)。siRNA処理無し(トランスフェクション試薬のみ)および非標的化siRNA処理(非特異的siRNA)などの他の標準的な対照も含めた。次に、プレートについて細胞計数(例えば、96ウェル細胞計数装置)を行って増殖を評価し、また、例えば自動96ウェルタイターアッセイを行って生産性を評価した。その変調が単独または組合せとして有用な細胞表現型の改良に十分なものである遺伝子をこれによりバリデーションし、このような変化は単独または組合せとして哺乳類細胞株へと遺伝子操作し、その特性を改良することができる。
【0199】
バリデーションの目的で用いられるモデル細胞株とそれらの特徴を表21に示す。図143〜146に、3C7細胞株におけるスピンチューブ形式でのいくつかの標的遺伝子の評価をまとめる。評価した標的遺伝子としては、高い増殖速度を有する細胞で上昇していることが上記で確認されたD299(WAN013I8K);高い増殖速度を有する細胞で上昇していることが上記で確認されたEIF4B;高い増殖速度を有する細胞で上昇していることが上記で確認されたHSP27(HSPB1);高い細胞密度を有する細胞で抑制されていることが上記で確認されたMCP1(CCL2);高い増殖速度を有する細胞で抑制されていることが上記で確認されたNAAT1(SLC1A4);高最大細胞生産性を有する細胞で抑制されていることが上記で確認されたMMD1(リンゴ酸デヒドロゲナーゼ);高い細胞密度を有する細胞で上昇していることが上記で確認されたMATF−4(ATF−4);および高い細胞密度を有する細胞で上昇していることが上記で確認されたSCoAリガーゼ(SUCLG2)を含む。図143に示されるように、高い増殖速度を有する細胞で上昇していることが確認された遺伝子については、この遺伝子を阻害すると、対照と比較して増殖の阻害に至る。図144に示されるように、細胞生産性は一般にそれほど影響を受けない。
【0200】
【表21】


【0201】
実施例12.標的のバリデーション:過剰発現
示差的に発現される遺伝子およびタンパク質が細胞表現型に影響を及ぼす能力を、当技術分野で公知の方法を用い、関連遺伝子の発現をコードする核酸を過剰発現させることによって確認する。干渉RNA構築物に基づく方法の例を以下に記載する。
【0202】
例えば、特定の標的を過剰発現する核酸を一時的トランスフェクションによりCHO細胞に導入した後、細胞増殖および生産性に対する過剰発現の影響をモニタリングすることができる。プロトコール例としての24ウェル形式を図147および148に示す。
【0203】
過剰発現アッセイでは、一般に増殖および生産性対照が用いられる。例えば、この試験に使用する陽性増殖/生存力対照としてHa−RasおよびBcl−xLを含んだ。使用する陰性増殖対照としてp27を含んだ。他の好適な増殖および生産性対照は当技術分野で公知であり、過剰発現アッセイに使用可能である。核酸対照無し(トランスフェクション試薬のみ)などのさらなる標準対照も含んだ。
【0204】
標的遺伝子および対照遺伝子をpExpress1ベクターにクローニングし、表22に示されるように種々のモデル細胞株に導入した。
【0205】
【表22】

【0206】
24ウェル形式を用い、種々の細胞株に対する種々の遺伝子の一時的トランスフェクションの表現型的効果を識別した。細胞増殖および生産性を調べた。結果の例を図149〜151に示す。結果は一般に典型的なものであり、再現性もあることが分かった。過剰発現結果の例を表23にまとめる。
【0207】
【表23】

【0208】
実施例13.確認された標的遺伝子に基づき細胞表現型を改良するための細胞株の遺伝子操作
確認された標的遺伝子を用い、細胞表現型、特に、高い効率的な組換え導入遺伝子の産生、高細胞増殖速度、高極大細胞密度、持続的高細胞生存力、高最大細胞生産性、持続的高細胞生産性、低アンモニウム産生および低乳酸塩産生などを特徴とする表現型を達成する。標的遺伝子の例は、例えば表2〜20および表24〜30など、上記に開示されている。
【0209】
【表24−1】

【0210】
【表24−2】

【0211】
【表24−3】

【0212】
【表24−4】

【0213】
【表24−5】

【0214】
【表24−6】

【0215】
【表24−7】

【0216】
【表24−8】

【0217】
【表25−1】

【0218】
【表25−2】

【0219】
【表25−3】

【0220】
【表25−4】

【0221】
【表25−5】

【0222】
【表25−6】

【0223】
【表25−7】

【0224】
【表25−8】

【0225】
【表25−9】


【0226】
【表25−10】

【0227】
【表25−11】

【0228】
【表25−12】

【0229】
【表25−13】

【0230】
【表25−14】

【0231】
【表25−15】

【0232】
【表25−16】

【0233】
【表25−17】

【0234】
【表25−18】

【0235】
【表25−19】

【0236】
【表26】

【0237】
【表27】

【0238】
【表28−1】

【0239】
【表28−2】

【0240】
【表28−3】

【0241】
【表28−4】

【0242】
【表28−5】

【0243】
【表28−6】

【0244】
【表28−7】

【0245】
【表28−8】

【0246】
【表28−9】

【0247】
【表28−10】

【0248】
【表28−11】

【0249】
【表29】

【0250】
【表30−1】

【0251】
【表30−2】

【0252】
【表30−3】

【0253】
【表30−4】

【0254】
標準的な細胞操作法を用い、所望の細胞表現型を達成するため標的遺伝子を改変する。上述のように、標的遺伝子を、干渉RNA、従来の遺伝子ノックアウトまたは過剰発現法により、所望のCHO細胞表現型を達成するために改変する。改変CHO細胞株を遺伝子操作するには、一般に、ノックアウト法または過剰発現構築物を用いた安定的トランスフェクション法が用いられる。他の好適な方法は概説の節に述べられ、当技術分野で公知である。
【0255】
以上の本発明の記載は例および説明を示すものであり、本発明を網羅すること、または開示されている厳密なものに本発明を限定することを意図するものではない。改変および変更も上記の教示に整合する場合があり、あるいは本発明の実施から得られる。よって、本発明の範囲は特許請求の範囲およびそれらの等価物により定義されることに留意されたい。
【0256】
参照文献の組み込み
本願に引用されている全ての配列受託番号、刊行物および特許文献は、目的によらず、各個の刊行物または特許文献の内容が本明細書に組み込まれている場合と同等に出典明示によりそのまま本明細書の一部とされる。
【図面の簡単な説明】
【0257】
原文に記載なし。
【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】

【図7A】

【図7B】

【図8A】

【図8B】

【図8C】

【図9A】

【図9B】

【図10A】

【図10B】

【図11A】

【図11B】

【図12A】

【図12B】

【図13A】

【図13B】

【図14A】

【図14B】

【図15A】

【図15B】

【図16A】

【図16B】

【図17A】

【図17B】

【図18A】

【図18B】

【図19A】

【図19B】

【図20A】

【図20B】

【図21A】

【図21B】

【図22A】

【図22B】

【図23A】

【図23B】

【図24A】

【図24B】

【図25A】

【図25B】

【図26A】

【図26B】

【図27A】

【図27B】

【図28A】

【図28B】

【図29A】

【図29B】

【図30A】

【図30B】

【図31A】

【図31B】

【図32A】

【図32B】

【図33A】

【図33B】

【図34A】

【図34B】

【図35A】

【図35B】

【図36A】

【図36B】

【図37A】

【図37B】

【図38A】

【図38B】

【図39A】

【図39B】

【図40A】

【図40B】

【図40C】

【図41A】

【図41B】

【図42A】

【図42B】

【図43A】

【図43B】

【図44A】

【図44B】

【図45A】

【図45B】

【図46A】

【図46B】

【図47A】

【図47B】

【図48A】

【図48B】

【図49A】

【図49B】

【図50A】

【図50B】

【図51A】

【図51B】

【図52A】

【図52B】

【図53A】

【図53B】

【図54A】

【図54B】

【図55A】

【図55B】

【図55C】

【図56A】

【図56B】

【図57A】

【図57B】

【図58A】

【図58B】

【図59A】

【図59B】

【図60A】

【図60B】

【図60C】

【図61A】

【図61B】

【図61C】

【図62A】

【図62B】

【図63A】

【図63B】

【図63C】

【図64A】

【図64B】

【図65A】

【図65B】

【図66A】

【図66B】

【図66C】

【図67A】

【図67B】

【図68A】

【図68B】

【図69A】

【図69B】

【図70A】

【図70B】

【図71A】

【図71B】

【図72A】

【図72B】

【図73A】

【図73B】

【図74A】

【図74B】

【図75A】

【図75B】

【図76A】

【図76B】

【図77A】

【図77B】

【図78A】

【図78B】

【図79A】

【図79B】

【図80】

【図81】

【図82A】

【図82B】

【図82C】

【図83A】

【図83B】

【図84A】

【図84B】

【図85A】

【図85B】

【図86A】

【図86B】

【図87A】

【図88A】

【図88B】

【図89A】

【図89B】

【図90A】

【図90B】

【図91A】

【図91B】

【図92A】

【図92B】

【図93A】

【図93B】

【図94A】

【図94B】

【図95A】

【図95B】

【図96A】

【図96B】

【図97A】

【図97B】

【図98A】

【図98B】

【図99A】

【図99B】

【図100A】

【図100B】

【図100C】

【図101A】

【図101B】

【図102A】

【図102B】

【図103A】

【図103B】

【図104A】

【図104B】

【図105A】

【図105B】

【図106A】

【図106B】

【図107A】

【図107B】

【図108A】

【図108B】

【図109】

【図110】

【図111A】

【図111B】

【図112】

【図113A】

【図113B】

【図113C】

【図114A】

【図114B】

【図115A】

【図115B】

【図116A】

【図116B】

【図117A】

【図117B】

【図118A】

【図118B】

【図119A】

【図119B】

【図120A】

【図120B】

【図121A】

【図121B】

【図122A】

【図122B】

【図123A】

【図123B】

【図124A】

【図124B】

【図125A】

【図125B】

【図126】

【図127】

【図128】

【図129A】

【図129B】

【図130A】

【図130B】

【図131A】

【図131B】

【図132A】

【図132B】

【図133A】

【図133B】

【図134A】

【図134B】

【図135A】

【図135B】

【図136A】

【図136B】

【図137A】

【図137B】

【図138】

【図139】

【図140】

【図141】

【図142】

【図143】

【図144】

【図145】

【図146】

【図147】

【図148】

【図149】

【図150】

【図151】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞株において細胞培養表現型を調節する、または細胞培養表現型の指標となるタンパク質を同定する方法であって、
試験細胞株に由来するサンプルのタンパク質発現プロフィールを作製すること、
そのタンパク質発現プロフィールを対照細胞株に由来する対照プロフィールと比較すること、および
その比較に基づき、1個または複数の示差的に発現されるタンパク質を同定すること
を含み、
ここで、試験細胞株が対照細胞株と異なる細胞培養表現型を有し、1個または複数の示差的に発現されるタンパク質が細胞培養表現型を調節または表示し得るところの、方法。
【請求項2】
細胞株がチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞株である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
細胞培養表現型が細胞増殖速度、細胞生産性、極大細胞密度、持続的細胞生存力、アンモニアの産生もしくは消費速度、または乳酸塩の産生もしくは消費速度である、請求項1記載の方法。
【請求項4】
細胞培養表現型が最大細胞生産性である、請求項3記載の方法。
【請求項5】
細胞培養表現型が持続的細胞生存力である、請求項3記載の方法。
【請求項6】
細胞培養表現型が極大細胞密度である、請求項3記載の方法。
【請求項7】
細胞培養表現型が細胞増殖速度である、請求項3記載の方法。
【請求項8】
タンパク質発現プロフィールが、蛍光二次元ディファレンシャルゲル電気泳動により作製される、請求項1記載の方法。
【請求項9】
請求項1に記載の方法に従って同定された1個または複数のタンパク質をアップレギュレートすることを含む、細胞株の改良方法。
【請求項10】
請求項1に記載の方法に従って同定された1個または複数のタンパク質を過剰発現によりアップレギュレートすることを含む、細胞株の改良方法。
【請求項11】
請求項1に記載の方法に従って同定された1個または複数のタンパク質をダウンレギュレートすることを含む、細胞株の改良方法。
【請求項12】
請求項1に記載の方法に従って同定された1個または複数のタンパク質をRNA干渉によりダウンレギュレートすることを含む、請求項11記載の方法。
【請求項13】
請求項1に記載の方法に従って同定された1個または複数のタンパク質をアップレギュレートすることを含む、細胞株の細胞生産性を改良する方法。
【請求項14】
請求項1に記載の方法に従って同定された1個または複数のタンパク質をダウンレギュレートすることを含む、細胞株の細胞生産性を改良する方法。
【請求項15】
表2、3、9、10、11および12から選択される1個または複数の遺伝子またはタンパク質を変調することを含む、細胞株の細胞生産性を改良する方法。
【請求項16】
請求項4に記載の方法に従って同定された1個または複数のタンパク質を変調することを含む、細胞株の細胞生産性を改良する方法。
【請求項17】
表4、5、6、13、14、27および28から選択される1個または複数の遺伝子またはタンパク質を変調することを含む、細胞株の細胞増殖速度を改良する方法。
【請求項18】
請求項7に記載の方法に従って同定された1個または複数のタンパク質を変調することを含む、細胞株の細胞増殖速度を改良する方法。
【請求項19】
表8、15、16および17から選択される1個または複数の遺伝子またはタンパク質を変調することを含む、細胞株の極大細胞密度を高める方法。
【請求項20】
請求項6に記載の方法に従って同定された1個または複数のタンパク質を変調することを含む、細胞株の極大細胞密度を高める方法。
【請求項21】
表7、18および19から選択される1個または複数の遺伝子またはタンパク質を変調することを含む、細胞株の持続的細胞生存力を高める方法。
【請求項22】
請求項5に記載の方法に従って同定された1個または複数の遺伝子またはタンパク質を変調することを含む、細胞株の持続的細胞生存力を高める方法。
【請求項23】
表20、24、25および26から選択される1個または複数の遺伝子を変調することを含む、細胞株の改良方法。
【請求項24】
表29および30から選択される1個または複数の遺伝子を変調することを含む、細胞株において乳酸塩の産生または消費速度を変調する方法。
【請求項25】
少なくとも2つの遺伝子またはタンパク質をアップレギュレートまたはダウンレギュレートすることを含み、第一の遺伝子またはタンパク質は第一の細胞培養表現型に影響を及ぼし、第二の遺伝子またはタンパク質は第二の異なる細胞培養表現型に影響を及ぼし、ここで該細胞培養表現型は細胞増殖速度、細胞生産性、極大細胞密度、持続的細胞生存力、アンモニアの産生もしくは消費速度、または乳酸塩の産生もしくは消費速度からなる群から選択される、細胞株の改良方法。
【請求項26】
第一および第二の細胞培養表現型とは異なる第三の細胞培養表現型に影響を及ぼす第三の遺伝子またはタンパク質をアップレギュレートまたはダウンレギュレートすることをさらに含む、請求項25記載の方法。
【請求項27】
細胞株の細胞培養表現型を評価する方法であって、
細胞培養由来のサンプルにおいて、請求項1に従って同定されたタンパク質の発現レベルを検出すること、および
その発現レベルを参照レベルと比較すること
を含み、ここでその比較が細胞培養表現型の指標となる、方法。
【請求項28】
細胞株の細胞培養表現型を評価する方法であって、細胞培養由来のサンプルにおいて、細胞培養表現型の指標となる1個または複数のマーカーを検出することを含み、ここで該マーカーが図7〜138から選択されるペプチド、表2〜8から選択されるタンパク質、ならびに表9〜20および24〜30から選択される遺伝子からの遺伝子発現産物からなる群から選択される、方法。
【請求項29】
遺伝子操作細胞の集団を含む、改良された細胞培養表現型を有する、遺伝子操作された細胞株であって、その細胞の各々が、請求項1に従って同定された1個または複数のタンパク質をアップレギュレートまたはダウンレギュレートする遺伝子操作された構築物を含む、細胞株。
【請求項30】
遺伝子操作された細胞の集団を含む、改良された細胞生産性を有する、遺伝子操作された細胞株であって、その細胞の各々が、表2、3、9、10、11および12から選択される1個または複数の遺伝子またはタンパク質をアップレギュレートまたはダウンレギュレートする遺伝子操作された構築物を含む、細胞株。
【請求項31】
遺伝子操作された構築物が過剰発現構築物である、請求項30記載の遺伝子操作された細胞株。
【請求項32】
遺伝子操作された構築物がRNA干渉構築物である、請求項30記載の遺伝子操作された細胞株。
【請求項33】
遺伝子操作された細胞の集団を含む、改良された細胞増殖速度を有する、遺伝子操作された細胞株であって、その細胞の各々が、表4、5、6、13、14、27および28から選択される1個または複数の遺伝子またはタンパク質をアップレギュレートまたはダウンレギュレートする遺伝子操作された構築物を含む、細胞株。
【請求項34】
遺伝子操作された構築物が過剰発現構築物である、請求項33記載の遺伝子操作された細胞株。
【請求項35】
遺伝子操作された構築物がRNA干渉構築物である、請求項33記載の遺伝子操作された細胞株。
【請求項36】
遺伝子操作された細胞の集団を含む、改良された極大細胞密度を有する、遺伝子操作された細胞株であって、その細胞の各々が、表8、15、16および17から選択される1個または複数の遺伝子またはタンパク質をアップレギュレートまたはダウンレギュレートする遺伝子操作された構築物を含む、細胞株。
【請求項37】
遺伝子操作された構築物が過剰発現構築物である、請求項36記載の遺伝子操作された細胞株。
【請求項38】
遺伝子操作された構築物がRNA干渉構築物である、請求項36記載の遺伝子操作された細胞株。
【請求項39】
遺伝子操作された細胞の集団を含む、改良された持続的細胞生存力を有する、遺伝子操作された細胞株であって、その細胞の各々が、表7、18および19から選択される1個または複数の遺伝子またはタンパク質をアップレギュレートまたはダウンレギュレートする遺伝子操作された構築物を含む、細胞株。
【請求項40】
遺伝子操作された構築物が過剰発現構築物である、請求項39記載の遺伝子操作された細胞株。
【請求項41】
遺伝子操作された構築物がRNA干渉構築物である、請求項39記載の遺伝子操作された細胞株。
【請求項42】
遺伝子操作された細胞の集団を含む、乳酸塩産生または消費が修飾された、遺伝子操作された細胞株であって、その細胞の各々が、表29および30から選択される1個または複数の遺伝子をアップレギュレートまたはダウンレギュレートする遺伝子操作された構築物を含む、細胞株。
【請求項43】
遺伝子操作された構築物が過剰発現構築物である、請求項42記載の遺伝子操作された細胞株。
【請求項44】
遺伝子操作された構築物がRNA干渉構築物である、請求項42記載の遺伝子操作された細胞株。
【請求項45】
遺伝子操作された細胞の集団を含む、改良された細胞株であって、その細胞の各々が、表20、24、25および26から選択される1個または複数の遺伝子またはタンパク質をアップレギュレートまたはダウンレギュレートする遺伝子操作された構築物を含む、細胞株。
【請求項46】
遺伝子操作された構築物が過剰発現構築物である、請求項45記載の遺伝子操作された細胞株。
【請求項47】
遺伝子操作された構築物がRNA干渉構築物である、請求項
45記載の遺伝子操作された細胞株。
【請求項48】
目的タンパク質を発現する方法であって、
請求項29に記載の遺伝子操作された細胞株に目的タンパク質をコードする核酸を導入すること、および
目的タンパク質を回収すること
を含む、方法。
【請求項49】
表9、13、および15から選択されるCHO配列を含む、単離された核酸または組換え核酸。
【請求項50】
表2および4から選択されるCHO配列を含む、単離されたタンパク質または組換えタンパク質。

【公表番号】特表2009−534036(P2009−534036A)
【公表日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−506643(P2009−506643)
【出願日】平成19年4月21日(2007.4.21)
【国際出願番号】PCT/US2007/010002
【国際公開番号】WO2008/054514
【国際公開日】平成20年5月8日(2008.5.8)
【出願人】(591011502)ワイス (573)
【氏名又は名称原語表記】Wyeth
【出願人】(504094693)ダブリン シティ ユニバーシティ (11)
【Fターム(参考)】