説明

細胞増殖促進剤

【課題】 加齢に伴う細胞レベルでの機能低下から来る皮膚のしわ、たるみ等の老化を抑制する高い細胞増殖促進作用を有し、かつ異臭のない化粧料を提供することを目的とする。
【解決手段】 化粧料に、チョウジを低級アルコール及び/または水で抽出した抽出物から精油成分を除去した抽出物、あるいは予め精油成分を除去したチョウジを低級アルコール及び/または水で抽出した抽出物を配合する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チョウジ抽出物の水溶性成分を含有する細胞増殖促進剤であり、化粧品、医薬部外品或いは医薬品分野の各種化粧料への応用に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ヒトは加齢に伴い細胞レベルでの機能低下が進行し、いわゆる老化現象が起こる。皮膚においては特に顔や首などにシワやたるみなど目に見える形で現れる。皮膚の老化を引き起こす要因は紫外線や大気汚染、冷暖房、日常慣習などの外的環境因子や、内分泌因子、内臓疾患、精神的ストレスなどの内的環境因子が考えられる。老化した皮膚では表皮細胞において基底細胞の分裂能力の低下、分裂回数の減少により表皮のターンオーバーが遅くなり、角質層の厚さが減少する。その結果、老化した皮膚の角層は粗く、脆くなり、肌荒れなどの現象が起こりやすくなる。またターンオーバーが遅い状態が続くと皮膚につけられた物質が除去されるのにより長い時間がかかり、刺激物質などの異物が長く残ることになる。このような現象は表皮細胞の増殖活動が低くなっていることを意味する。また真皮中の線維芽細胞では加齢と共にその数が減少する。その結果、真皮を構成するマトリックス成分であるコラーゲン線維やエラスチン線維、ヒアルロン酸などの酸性ムコ多糖類の量的減少や、質的変化が起こり、シワやたるみなどの現象が起こる。以上より表皮細胞や線維芽細胞の増殖活性の低下は皮膚の老化の進行につながると考えられる。これまで細胞レベルで老化を防止する、あるいは遅延させることを目的として細胞増殖促進剤の探索が数多く行われおり、例えばキョウニン、パッションフラワー、甘草、メリロート、エキナセアから選ばれる植物の抽出物を有効成分とする繊維芽細胞増殖促進剤(特許文献1)、ゴマ、サンヤク、トウガラシ、トウキ、ドクダミ、バクモンドウから選ばれる植物の抽出物を有効成分とする繊維芽細胞増殖促進剤(特許文献2)、アーモンド、セイヨウタンポポ、セイヨウニワトコ、センキュウ、センブリ、ソウハクヒ、トウニン、ニンジン、ホップ、ムクゲ、ヨクイニンから選ばれる植物の抽出物を有効成分とする繊維芽細胞増殖促進剤(特許文献3)が提案されている。しかしながら、十分に細胞増殖を促し皮膚の老化を抑えることはできていないのが現状である。
【特許文献1】特開2003−034631号公報
【特許文献2】特開平10−045615号公報
【特許文献3】特開平10−036279号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明の目的は表皮細胞や線維芽細胞の増殖を促進させる有用な植物成分を含有し、優れた美肌効果や老化防止効果を有する化粧品、医薬部外品、医薬品などの化粧料を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者らは、上記の問題点を解決するために鋭意研究を重ねた結果、チョウジの水溶性成分をごく少量配合したものにおいても、表皮細胞や線維芽細胞の増殖を促し、しわの発生や肌荒れを効果的に改善することを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0005】
即ち、本発明はチョウジを低級アルコール及び/または水で抽出した抽出物から精油成分を除去した抽出物、あるいは予め精油成分を除去したチョウジを低級アルコール及び/または水で抽出した抽出物を配合することを特徴とする化粧料を提供することである。
【発明の効果】
【0006】
以上、詳述したように、本発明のチョウジ抽出物はヒト線維芽細胞やヒト表皮角化細胞の増殖促進活性が高く、ごく低濃度の使用量においてもその効果が発揮されることから、細胞増殖促進剤として極めて有用である。また、本発明のオイゲノール等の精油成分を含まないチョウジ抽出物は、化粧料の匂いを損なうことなく化粧品、医薬部外品、医薬品などに配合することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明に用いるチョウジは、別名をクローブと言い、フトモモ科のチョウジノキ(学名:Eugenia caryophyllata)の花蕾であり、香辛料や健胃生薬として使用されており、容易に入手することができる。本発明で使用するチョウジ抽出物を得るためには、花蕾以外にも葉や茎を含んだものであっても良いが、花蕾のみを使用することが望ましい。
【0008】
本発明のチョウジ抽出物は水溶性成分のみを用いることが特長である。チョウジは強い臭気成分であるオイゲノール等の精油成分を多く含有しており、これまで用いられてきたチョウジ抽出物はオイゲノール等の精油成分を含有したものであり、オイゲノール等の特有の強い臭気は基礎化粧料にはそぐわないものであった。また、化粧品種別配合成分規格の「チョウジエキス」の確認試験は、オイゲノールの定性確認のみ、つまり、チョウジエキスを水蒸気蒸留して得られる精油がチョウジ特有の臭気つまりオイゲノール臭を有することと、この精油がオイゲノールのフェノール性水酸基の呈色を示すことのみである。また、食品添加物の既存添加物名簿収載品目リストの「クローブ抽出物」(別名チョウジ抽出物)の名称欄にカッコ書きで「チョウジのつぼみ、葉または花から得られた、オイゲノールを主成分とするもの」と記載されている。このように、化粧品や食品等に使用されてきたチョウジ抽出物はオイゲノールを含有しているが、オイゲノール以外の成分についてはこれまで全く関心が持たれておらず、これまでチョウジの各種の生理活性機能はこのオイゲノールをメインとする精油成分によるものと考えられていた。オイゲノール等の精油成分や、オレアノール酸などのテルペン系化合物を除去したタンニン類を主成分とするチョウジ抽出物に高い細胞増殖促進作用があることは知られていなかった。
【0009】
上記のチョウジ抽出物を得るための抽出溶媒としては、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール等の低級アルコール及び水から選ばれた1種または2種以上を使用することができる。抽出溶媒中の水の割合が多いと、色素成分が多く抽出され添加する化粧料の外観を損なう場合があるため、抽出溶媒としては、エチルアルコール濃度が50重量%以上のエチルアルコール水溶液及び/またはメチルアルコール濃度が50重量%以上のメチルアルコール水溶液が好ましく、エチルアルコール濃度が70重量%以上が更に好ましい。
【0010】
上記の抽出溶媒の量は特に制限はないが、チョウジに対して重量比で当量から20倍量、好ましくは当量から5倍量である。また、抽出温度も特に限定されるものではなく、低温、常温あるいは加熱して行なうことができる。
【0011】
本発明で使用するチョウジ抽出物は、オイゲノール等の精油成分を除去することが必要である。オイゲノール等の精油成分を含んだままでは添加する化粧料の香りを損なうために好ましくない。オイゲノール等の精油成分を除去する方法としては、チョウジの抽出の前に水蒸気蒸留により除去する方法や、抽出後に水を加えてあるいは水蒸気を吹き込み、水と共沸させて除去する方法等を挙げることができ、いずれの方法を用いても良い。
【0012】
このようにして得られた精油成分を除去したチョウジ抽出液は、そのまま用いても、濃縮して用いても、完全にあるいは適度に濃縮した後に溶媒に溶解して使用しても良い。濃縮後に溶解する溶媒としては、特に限定されるものではないが、化粧料に通常使用されるものであることが望ましく、水、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、グリセリン、プロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール等を例示することができる。
【0013】
これらの精油成分を除去したチョウジ抽出液、これを濃縮した濃縮物あるいは濃縮後に溶媒に溶解したエキスは、そのまま化粧料に添加しても良いが、化粧水等の水系の化粧料ではオレアノール酸などの水不溶性成分が析出したり分離したりするため、水に不溶な成分を除去して用いることが好ましい。水不溶性成分の除去は、抽出液あるいは濃縮物に水を加えて水可溶性成分を溶解した後、ロ過等により行なうことができる。尚、水不溶性成分の除去の工程は、精油成分を除去する工程の前でも後でも良い。精油成分を除去後に水不溶性成分を除去した場合は、そのまま、これを濃縮して濃縮物とした後、あるいは濃縮後に上述の溶媒に溶解してエキスとした後、化粧料などに使用することができる。水不溶性成分を除去後に精油成分を除去する場合は、精油成分を除去後、同様にそのまま、これを濃縮して濃縮物とした後、あるいは濃縮後に上述の溶媒に溶解してエキスとした後、化粧料に使用することができる。
【0014】
上述のチョウジ抽出物は、細胞増殖促進活性を高める為に、タンニン類を分離または濃縮して使用することができる。その方法としては、酢酸エチル等による溶剤抽出や、シリカゲルや合成吸着剤等を担体としたカラムクロマトグラフィーによる分離、精製などを例示することができる。
【0015】
このようにして得られたチョウジ抽出物は、最終の化粧料に対して固形分換算で0.00001〜2重量%、好ましくは0.0001〜1重量%配合する。0.00001%以下では十分な細胞増殖促進効果が得られず、また、2%以上配合しても効果はあまり変わらず、化粧料の色など品質に悪影響を及ぼすため好ましくない。
【0016】
本発明の細胞増殖促進剤を配合する化粧料としては、特に限定されるものではなく、クリーム、乳液、化粧水、美容液、パック剤、サンスクリーン、ファンデーション、ヘアトニック、整髪料など化粧品用途で用いられるものや、軟膏などの医薬部外品や医薬品用途などで用いられるもの等を例示することができる。
【0017】
本発明の細胞増殖促進剤を配合する化粧料には、化粧品、医薬部外品、医薬品等に使用される各種の成分を任意に配合することができる。
【実施例】
【0018】
以下、実施例により、本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。尚、以下の実施例中の数値の単位は、特に断りのない限り重量%である。
【0019】
[製造例1]
乾燥したチョウジ100gに、85%エチルアルコール200gを加えて1時間還流し、ロ過して、抽出液を得た。残渣に再度エチルアルコール200gを加えて1時間還流し、ロ過して、抽出液を得た。2回の抽出液を合わせ、減圧下に濃縮し、精製水400gを加えて析出した水不溶性成分をロ過して除き、減圧下に濃縮し、再度精製水400gを加えてロ過及び濃縮を行い、オイゲノール等の精油成分を水と共に共沸させて完全に除去し、固形分8.3gを得た。
【0020】
[製造例2]
製造例1の固形分5.0gに精製水100gを加えて溶解し、そこへ酢酸エチル100gを加え十分に攪拌後、酢酸エチル相を回収した。この操作を計5回繰り返し、得られた酢酸エチル抽出液を減圧下に濃縮してタンニン類を多く含む固形分1.2gを得た。尚、没食子酸を基準物質としたFolin−Denis法で測定したタンニン含有量は、製造例1の固形分が31.3%、製造例2の固形分が72.3%であった。
【0021】
[比較製造例1]
乾燥したチョウジ100gに、エチルアルコール200gを加えて1時間還流し、ロ過して、抽出液を得た。残渣に再度エチルアルコール200gを加えて1時間還流し、ロ過して、抽出液を得た。2回の抽出液を合わせ、減圧下に濃縮して、オイゲノール等の精油成分を含む固形分6.7gを得た。
【0022】
[ヒト線維芽細胞の増殖促進活性]
製造例のチョウジ抽出物等についてヒト線維芽細胞の増殖促進効果を以下の方法で測定した。5% fetal bobine serum(FBS)と0.1mM L−グルタミンを含むDulbecco’s Modified Eagle Medium(DMEM)で前培養したヒト線維芽細胞を96穴マイクロプレートに1穴あたり3×10個の細胞を播種し、37℃、CO濃度5%で1日間培養した。5% FBS、0.1mM L−グルタミン及び所定量の試料を含むDMEMに培地交換し、37℃、72時間培養した。細胞をHank’s buffer(HBS)で洗って試料を除き、MTT法により細胞の増殖率を求めた。5% FBS、0.1mM L−グルタミン及び1mM 3−[4,5−dimethylthiazol−2−yl]−2,5−diphenyltetrazolium bromide(MTT)を含むDMEMを細胞に加えて、37℃で2時間インキュベートした。この間に生細胞のミトコンドリアがMTTを還元してblue formazanを生じ生細胞は染色される。2−プロパノール 100μLでblue formazanを抽出し、560nmと650nmの吸光度を測定し、その差からblue formazanの量を求めた。同時に試料無添加のものを同様に操作してこれを増殖率100%とした。結果を図1に示す。この結果から、本発明のチョウジ抽出物はいずれの濃度においても、オウゴン抽出物、ローズマリー抽出物及びアスコルビン酸よりも線維芽細胞の増殖率が有意に高く、特にチョウジ抽出物は1ppmと低濃度においても高い増殖率となっており、チョウジ抽出物はヒト線維芽細胞の増殖促進剤として極めて有効であることがわかる。更に製造例2で得られたタンニン類を多く含むチョウジ抽出物は製造例1で得られたものよりもいずれの濃度においても線維芽細胞の増殖率が有意に高いことから、タンニン類が活性の主成分であることがわかった。
【0023】
[図1]

【0024】
[ヒト表皮角化細胞の増殖促進活性]
製造例のチョウジ抽出物等についてヒト表皮角化細胞の増殖促進効果を以下の方法で測定した。角化細胞用液体培地「ニッスイ」(日水製薬(株))で前培養したヒト表皮角化細胞を96穴マイクロプレートに1穴あたり1×10個の細胞を播種し、37℃、CO
濃度5%で1日間培養した。所定量の試料を含む同培地に交換し、37℃、24時間培養した。細胞をPBS(−)で洗って試料を取り除き、上述のMTT法により細胞の増殖率を求めた。結果を図2に示す。この結果から、本発明のチョウジ抽出物は試験を行なったいずれの濃度においても、オウゴン抽出物、ローズマリー抽出物及びアスコルビン酸よりも表皮角化細胞の増殖率が有意に高く、特に、チョウジ抽出物は1ppmと低濃度においても高い増殖率となっており、チョウジ抽出物はヒト表皮角化細胞の増殖促進剤としても極めて有効であることがわかる。更に製造例2で得られたタンニン類を多く含むチョウジ抽出物は製造例1で得られたものよりもいずれの濃度においても表皮角化細胞の増殖率が有意に高いことから、タンニン類が活性の主成分であることを示した。
【0025】
[図2]

【0026】
以下に本発明に関する化粧料の処方例を示し、結果については図1、図2に示す。なお本発明はこれらに限定されるものではない。
[処方例1] 化粧水
下記の処方の化粧水を調製した。製造例1、2のチョウジ抽出物を配合した化粧水は外観、臭い共に問題のないものであったが、比較製造例1のオイゲノールを含むチョウジ抽出物を配合した化粧水は特異な臭いがあり、化粧水として使用するにはそぐわないものであった。
(1)1,3−ブチレングリコール 6.00%
(2)濃グリセリン 4.00%
(3)ポリエチレングリコール1000 1.00%
(4)乳酸ナトリウム液(50%) 0.05%
(5)チョウジ抽出物 0.10%
(製造例1、2、比較製造例1)
(6)防腐剤 適量
(7)精製水 残余
【0027】
[処方例2] エモリエントクリーム
(1)スクワラン 23.00%
(2)ステアリルアルコール 6.00%
(3)ポリオキシエチレン(25)セチル
アルコールエーテル 1.00%
(4)ステアリン酸 2.00%
(5)モノステアリン酸グリセリン 2.00%
(6)1,3−ブチレングリコール 6.00%
(7)ポリエチレングリコール1000 4.00%
(8)濃グリセリン 2.00%
(9)チョウジ抽出物(製造例1) 0.10%
(10)防腐剤 適量
(10)精製水 残余
【0028】
[処方例3] ファンデーション
(1)ステアリン酸 2.4%
(2)モノステアリン酸プロピレングリコール 2.0%
(3)セトステアリルアルコール 0.2%
(4)液状ラノリン 2.0%
(5)流動パラフィン 3.0%
(6)ミリスチン酸イソプロピル 8.5%
(7)カルボキシメチルセルロースナトリウム 0.2%
(8)ベントナイト 0.5%
(9)プロピレングリコール 4.0%
(10)トリエタノールアミン 1.1%
(11)酸化チタン 8.0%
(12)タルク 4.0%
(13)ベンガラ 3.0%
(14)黄酸化鉄 2.5%
(15)黒酸化鉄 0.5%
(16)チョウジ抽出物(製造例2) 0.1%
(17)香料 0.1%
(18)防腐剤 適量
(19)精製水 残余

【特許請求の範囲】
【請求項1】
チョウジ(フトモモ科、チョウジノキの花蕾)を低級アルコール及び/または水で抽出した抽出物から精油成分を除去した抽出物、あるいは予め精油成分を除去したチョウジを低級アルコール及び/または水で抽出した抽出物を含有することを特徴とする細胞増殖促進剤。
【請求項2】
請求項1記載の細胞増殖促進剤を配合することを特徴とする化粧料。

【公開番号】特開2008−13522(P2008−13522A)
【公開日】平成20年1月24日(2008.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−188455(P2006−188455)
【出願日】平成18年7月7日(2006.7.7)
【出願人】(390028897)阪本薬品工業株式会社 (140)
【Fターム(参考)】