説明

細胞毒性が低減された免疫原性ヒトTNFαアナログおよびそれらの製造方法

本発明は、ヒトTNFαの免疫原性アナログを提供する。ここで、該アナログは免疫原化されたモノマーTNFαポリペプチドまたはTNFαダイマーもしくはトリマーを含み、該アナログはY87S、D143NまたはA145R(番号付けは、ヒトTNFαのN-末端のバリンから設定される)からなる群より選択される毒性減少または毒性破壊突然変異をさらに含む。本発明は、該アナログをコードする核酸断片ならびに該アナログの製造に有用なベクターおよび形質転換細胞も提供する。TNFαをダウンレギュレーションすることが必要な対象においてTNFαをダウンレギュレーションする方法も開示される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、治療的免疫療法の分野、特に自己由来(autologous) (「自己の」)タンパク質およびその他の弱い免疫原性抗原のダウンレギュレーションを目的とする能動免疫療法の分野に関する。したがって、本発明は、腫瘍壊死因子α(TNFα)の免疫原性が向上された新規な無毒化変異型、およびこのような変異型の製造に必要な手段を提供する。さらに本発明は、免疫治療の方法、およびそのような方法において有用な組成物にも関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
疾患の治療または緩和の手段としての能動免疫療法(「ワクチン化」)の使用は、過去20年間にわたって受ける注目が増えてきている。特に、病理上の(またはいずれにしろ望まれない)生理学的状態に何らかの関連がある自己由来タンパク質へのトレランスを破壊するための手段としての能動免疫療法の使用は、避妊ワクチンの最初の実験が報告された70年代後半から知られている。
【0003】
自己由来の抗原に対するワクチンは、従来、関連する自己タンパク質の「免疫原化」、例えば大きい外来の免疫原性キャリアタンパク質への化学的連結(「結合」)によるか(US 4,161,519参照)、または自己由来タンパク質と外来キャリアタンパク質との間での融合構築物の調製により(WO 86/07383参照)産生されている。このような構築物においては、免疫原性分子のキャリア部分が、自己寛容の破壊を可能にするT-ヘルパーリンパ球にエピトープ(「THエピトープ」)を提供する原因である。
【0004】
その後の研究により、このようなストラテジは自己由来タンパク質に対するトレランスの破壊を実際に提供しうるが、多くの問題に直面していることが立証されている。最も重要なことは、自己由来タンパク質に対する反応性はしばしば衰えるが、時間をかけて誘導される免疫応答が、免疫原のキャリア部分に対して指向されている抗体により左右されることであり、キャリアが以前に免疫原として貢献している場合に特に言明される効果−この現象は、キャリア抑制として知られている(例えばKaliyaperumalら、1995.、Eur. J. Immunol 25、3375〜3380参照)。しかしながら、治療的ワクチン化を用いる場合、通常、1年当たり数回、再免疫化をすること、および多くの年にわたってこの治療を持続することが必要であり、これが、キャリア部分に対する免疫応答が、自己由来分子に対する免疫応答の損失をますます左右する状況にする。
【0005】
自己寛容を破壊するためにハプテン−キャリア技術を用いる場合に含まれるさらなる問題は、担体によりこのような構築物の自己由来タンパク質部分に及ぼされる、負の立体構造の結果である:天然の自己由来タンパク質にみられる立体構造パターンに似ている、いくつかの得やすいB細胞エピトープは、エピトープの単純な保護もしくはマスキングによるか、または免疫原の自己部分において誘導された立体構造の変化により、しばしば低減される。つまり、ハプテン−キャリア分子を充分に詳細に特徴づけることは、非常に困難であることが多い。
【0006】
WO 95/05849は、上記のハプテン−キャリアストラテジを工夫したものを提供している。1つの単独の外来THエピトープほどわずかに内置換された(in-substituted)自己タンパク質が、自己由来タンパク質に対するトレランスを破壊し得ることが示された。外来TH要素の導入にもかかわらず、免疫原において自己由来B細胞エピトープの最大限の数が保存
されることを確実にするために、自己由来タンパク質の三次構造の保存に焦点が当てられた。このストラテジは、誘導される抗体が広いスペクトルとともに高い親和性をもち、かつ免疫応答が、通常のキャリア構築物で免疫化する場合に見られるのよりも、より早い発現およびより高い力価を持つので、非常に好結果であることが、一般に証明されている。
【0007】
WO 00/20027は、上記の原理の拡張を提供した。自己タンパク質のコーディング配列中への単一のTHエピトープの導入が、自己タンパク質を発現する細胞と特異的に反応する細胞毒性T-リンパ球(CTLs)を誘導することができることが見出された。WO 00/20027の技術は、抗体およびCTLの両方が誘導される組み合わせ療法も提供した−これらの実施形態において、B細胞エピトープの実質的なフラクションを保存するのに、免疫原がまだ必要である。
【0008】
腫瘍壊死因子(TNF、TNFα、カケクチン、TNFSF2)は、炎症性および免疫性機能の潜在的なパラ分泌および内分泌のメディエイタである。TNFαは、多くの細胞にとって、特にγ-インターフェロンとの組み合わせで細胞毒性である。TNFαは、1975年に最初に同定され、腫瘍の壊死および退行を開始することが証明された。抗癌効果は後になって詳細に研究されたが、癌の療法として治療が成功していない。しかし、TNFαを用いた癌の試験がまだ行なわれている。TNFαは、悪液質の原因であることが後になって見出され、TNFαが受容体媒介プロセスを通じてその機能を作用させることが見出された。TNFαの細胞毒性および炎症性の作用を媒介する2つの異なるTNFα受容体(TNFR55およびTNFR75)が同定された。TNFαは、リウマチ性関節炎(RA)のような慢性の炎症性疾患の間に炎症性プロセスを誘導して永続させ、アレルギーおよび乾癬に重要な役割を有すると考えられている。可溶性受容体、受容体特異的阻害剤、TNFα産生のダウンレギュレーションまたはモノクローナル抗TNFα抗体によるTNFαシグナルのブロックは、TNFαのアップレギュレーションおよびシグナリングの生物学的作用に有害な興味のある療法である。
【0009】
抗TNFα療法がいくつかの疾患、例えばRAおよびクローン病で成功することは、可溶性TNFα受容体およびモノクローナル抗TNFα抗体を用いる治療から得られる結果から明らかである。抗TNFα治療は、安全で効果的であると考えられる。
【0010】
現在までに、2つのTNFαアンタゴニスト、レミケード(Remicade、インフリキシマブ(Infliximab)、Centocor/Johnson&Johnson)およびエンブレル(Enbrel、エタネルセプト(Etanercept)、Immunex)が臨床使用について承認されている。
【0011】
レミケードは、可溶性の細胞結合(cell-associated)TNFαに指向されたマウス-ヒトキメラモノクローナルIgG1抗体である。レミケードは、TNFのその内因性細胞表面TNFα受容体との結合をブロックする。米国食品医薬品局(FDA)は、従来の療法では難治性の中程度〜重症のまたはフィステル形成性のクローン病における使用についてレミケードを1998年10月に承認した。効能は、メトトレキセート単独の療法では難治性のリウマチ性関節炎におけるメトトレキセートとの付属的な使用および2002年7月にクローン病における維持療法を含むように拡張された。
【0012】
エンブレルは、ヒトIgG1のFc部分に融合されたヒトTNFα受容体の細胞外部分からなる組み換えタンパク質である。エンブレルは、おとりのTNFα受容体として働くことによりTNFα活性を阻害する。FDAは、1998年11月に、リウマチ性関節炎における使用のためのエンブレルを認可した。これらのTNFαアンタゴニストにより、350,000より多い患者が治療されている。これらの剤の臨床的効能及び安全性の情報の再検討は継続的に行われており、感染およびその他の免疫に関する有害反応はTNFαアンタゴニストについての主要な懸念として残っているが、FDAおよび医薬品委員会(CPMP)により行われた市場取引後の経験についての最近の安全性の評価は、重度の感染症についての変更を含めたラベルの変更
が必要ではあるが、抗TNFα療法が、危険性-利益の好ましいバランスを有すると述べている。
【0013】
確立された抗TNFα療法に比べて、今回提案するTNFα免疫療法は、マイクログラムの量のワクチン、およびより少ない頻度での注射で、大量のモノクローナル抗体の注入に比べて高い抗TNFαのインビボでの力価を維持する点において、利点を有する。肯定的な結果は、副作用についてのより少ない危険性およびより安価な治療である。天然のポリクローナル抗体の応答は、他の抗TNFα療法に比べて、TNFαのより効果的なダウンレギュレーターとして働くとも考えられている。
【0014】
TNFαは、233アミノ酸前駆体タンパク質として翻訳され、そしてトリマータイプII膜貫通タンパク質として分泌され、これが特定のメタロプロテアーゼにより開裂されてトリマー可溶性タンパク質になり、ここで各々の同一のモノマーサブユニットは、157アミノ酸からなる(このアミノ酸配列は、配列番号10の2〜158残基に示す)。ヒトTNFαはグリコシル化されていないが、マウスのTNFαは単一のN-グリコシル化部位をもつ。TNFαモノマーは17kDaの分子量をもつが、トリマーは52 kDaの理論上のMWをもつ。しかし、架橋されたトリマーはSDS-PAGEにおいて43 kDaとして移動する。TNFαは、分子内ジスルフィドブリッジを形成することにより、構造を安定化する2つのシステインを含む。TNFαのNおよびC-末端の両方は、活性に重要である。特に、C末端は、3、2および1つのアミノ酸の欠失でさえも、溶解性および生物活性を劇的に減少させるほど敏感である。重要なアミノ酸は、Leu157であり、これはトリマー中の2つのモノマー間の安定化塩橋を形成する。一方、最初の8アミノ酸の欠失は、1.5〜5の係数で活性を増加させるが、最初の9アミノ酸の欠失は、全長の活性を回復させる。TNFαは、よく研究されたタンパク質であり、トリマー形成および受容体結合に導く多くの分子内および分子間相互作用が同定されている。
【0015】
したがって、天然においては、ヒトTNFα(配列番号10、残基2〜158)は、ダイマーおよびトリマーの両方として存在するが、両方の場合において、分子は本発明の標的の候補として非常に適している。
【0016】
WO 95/05849号およびWO 98/46642号の両者は、TNFα(腫瘍壊死因子α)、すなわちI型糖尿病、リウマチ性関節炎および炎症性腸疾患のようないくつかの疾患の病理に関与するサイトカインの活性をダウンレギュレーションするために適切なワクチン技術を開示している。両者の開示は、分子が免疫系に立ち向かう場合のモノマーTNFαの三次構造の保存を教示している。また、WO 03/042244号 (未公開)は、いくつかの一般的および特異的なTNFα変異型を開示している。
【0017】
上記に参照した技術は、非常に有望な結果のために提供されているものであるが、疾患との戦いにおけるワクチンアプローチの実行可能性を評価する場合に役割を果たし得るいくつかの因子がある。それらの因子のうちのひとつは、免疫原性タンパク質の発現レベルである。
【0018】
例えば、核酸ワクチンが機能するようになるためには、「免疫原化された」自己由来タンパク質をエンコードする構築物を用いてインビボでトランスフェクションされた細胞が、適切な免疫応答を誘導するような充分量の免疫原を発現することができなければならない。また、ポリペプチドベースのワクチンは、工業的培養(fermentation)プロセスにおいて、充分量の免疫原性タンパク質が産生されることを必要とする。しかしながら、既知のタンパク質のアミノ酸配列中のわずかな変化でさえも、回収され得るタンパク質の量に劇的な影響をもつことがしばしば観察されている。
【0019】
さらに、遺伝子的に改変されたタンパク質の配列の安定性は、最適よりも低くなり得る
(保存期間の点およびインビボでの安定性の点の両方において)。
【0020】
また、TNFαの場合には、ダウンレギュレートすることが所望される自己タンパク質がヘテロポリマーまたはホモポリマーであるときにこれは必要でなく、それによりこのタンパク質のモノマーユニットの変異型が、ポリマータンパク質の元来のコンフォメーションに充分に特異的な抗体を誘導することができる。
【0021】
最後に、TNFαは毒性の物質であり、残念なことにTNFαの最適に折り畳まれた免疫原性変異型は、これらの変異型が生物学的に活性なトリマーを形成可能である(またはトリマー構造を模倣する生物学的に活性なモノマーとして折り畳まれる)ので、TNFαの本来の毒性を維持することが観察されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0022】
発明の目的
本発明の目的は、ヒトTNFαの改良された免疫原性の無毒化アナログを提供するとともに、このタンパク質に対する体液性(humeral)免疫を誘導する改良された方法を提供することである。さらに、本発明の目的は、可溶性のTNFα変異型およびその他のタンパク質の変異型を培養する改良された方法を提供することである。最後に、本発明の目的は、改良された免疫原を製造または使用するときに有用な他の手段および方法(measures)を提供することでもある。
【課題を解決するための手段】
【0023】
発明の要約
細菌宿主細胞において大規模量の組換えタンパク質を産生する場合、発現産物は細菌内部の封入体として入手可能となることがしばしば望まれる。これに対する理由は、いろいろである:例えば、タンパク質が不溶性の封入体として発現される場合に、発現収率は通常かなり高くなり、また、所望の発現産物が細菌培養からの可溶性タンパク質から簡便に分離されるので、タンパク質の精製も促進される。
【0024】
組換えタンパク質を不溶性の封入体として発現させる場合、発現産物を、それを生物学的に活性な形で得るために、種々のタンパク質リフォールディングプロセスに付すことがしばしば必要であるが、このような工程が、正しく生物学的に活性な形に決して折りたたまれないという全体の組換えタンパク質のいくらかの損失に導くとしても、これは通常は許容される。
【0025】
しかしながら、TNFαのような非免疫原性自己タンパク質の組換え免疫原性変異型を産生する場合、THエピトープを導入し、それによりタンパク質産物の一次構造が、天然の自己タンパク質と比較した場合に、変更されることが必要である。本発明者らは、最もわずかな変化でさえも、封入体発現とそれに続くリフォールディングの通常のアプローチを実施不可能にすることを経験している:天然の自己タンパク質と比較して充分なB細胞エピトープのフラクションを保存した、リフォールディング後のタンパク質の収率はしばしば非常に低く、この問題は、問題のタンパク質の複雑さとともに増加する。
【0026】
細菌から可溶性タンパク質として産生されるタンパク質構築物を設計しかつ発現させることが、他の可溶性タンパク質を除去しなければならないことから、後続の精製工程はより複雑になるが、自己タンパク質の免疫原性変異型を産生するのに優れた方式であり、精製され、正確に折りたたまれた最終産物が、上記に概説した通常のアプローチに比べた場合にかなり高い収率で得られることをここに見出した。そして非常に重要なことには、このタイプの発現から得られた精製タンパク質は、それらが由来する天然の自己タンパク質
のB細胞エピトープを保存する、従来に先例のない能力を示す。
【0027】
簡単に、本発明によると、変異型タンパク質の可溶性発現は、ワクチン化の目的に適した自己タンパク質の免疫原性変異型を初めに選択する場合に、優れた選択基準である。
このような免疫原化された自己タンパク質(および一次配列に変化を導入したその他のタンパク質)の可溶性タンパク質の発現の目標を達成するために、いくつかのパラメータを変化させることができる−集合させるのが困難なマルチマータンパク質は、それらの構造をモノマーレベルでの両方で安定化することによるだけでなく、TNFαマルチマーのモノマー模倣物を製造することによっても製造することができ、また単純なモノマータンパク質は、本明細書中に示す教示により安定化することができる。
【0028】
その他の重要な因子は、培養条件である−本発明者らの実験室における所見は、例えば高レベルの発現を得るために通常用いられるものより低い温度における細菌の培養が、変異型タンパク質の可溶性の形の産生を大きく促進することを示している。
【0029】
本発明者らは、「モノマー化されたかまたは安定化された」形のTNFαの産生が、高い安定性、より優れた免疫原性および望ましい生産特性を有する免疫原性分子を提供しうることを見出している。本発明は、いくつかの特異的無毒化突然変異が、免疫原性を保持しながらこれらをより患者により適合可能にするように変異型に導入されるというこれらの概念に対する改良に焦点を当てている。
【0030】
無毒化突然変異とは別に、本発明のTNFα変異型は、TNFαモノマー構造内に充分に非破壊的ないくつかの突然変異を含み、これにより少なくとも1つのMHCクラスII結合アミノ酸配列を導入しながら同時にTNFαモノマーの正しい折り畳みを許容する。これらの変異型は、WO 03/042244号に詳細に開示されている。例えば外来THエピトープを、天然のTNFαのある特定のループ構造内に、タンパク質の発現特性またはモノマーの機能的TNFαダイマーもしくはトリマーの形成能力に負の影響を有することなく挿入することができる。
【0031】
よって、本発明のある観点はヒトTNFαの無毒化された免疫原性アナログに関し、ここで該アナログは少なくとも1つのMHCクラスII結合アミノ酸配列を含み、
- 少なくとも1つの外来MHCクラスII結合アミノ酸配列がフレキシブルループ3に挿入されたかもしくは内置換されたヒトTNFαモノマーまたは本発明のhTNFαのモノマー化アナログ、および/または
- TNFαモノマーの三次元構造を安定化する少なくとも1つのジスルフィドブリッジが導入されたヒトTNFαモノマーまたは本発明のhTNFαのモノマー化アナログ、および/または
【0032】
- アミノ末端のアミノ酸1、2、3、4、5、6、7、8および9のいずれか1つが欠失されたヒトTNFαモノマーまたは本発明のhTNFαのモノマー化アナログ、および/または
- イントロンの位置のフレキシブルループ1に少なくとも1つの外来MHCクラスII結合アミノ酸配列が挿入されているかもしくは内置換されているヒトTNFαモノマーまたは本発明のhTNFαのモノマー化アナログ、および/または
- ヒトTNFαのN-末端の人工ストーク領域の部分として少なくとも1つの外来MHCクラスII結合アミノ酸配列が導入されているヒトTNFαモノマーまたは本発明のhTNFαのモノマー化アナログ、および/または
【0033】
- トリマー相互作用界面の疎水性を増加させることによりモノマー構造を安定化するように少なくとも1つの外来MHCクラスII結合アミノ酸配列が導入されているヒトTNFαモノマーまたは本発明のhTNFαのモノマー化アナログ、および/または
- TNFαアミノ酸配列に、グリシン残基に挟まれた少なくとも1つの外来MHCクラスII結
合アミノ酸配列が挿入されているかまたは内置換されているヒトTNFαモノマーまたは本発明のhTNFαのモノマー化アナログ、および/または
【0034】
- D-Eループに少なくとも1つの外来MHCクラスII結合アミノ酸配列が挿入されているかまたは内置換されているヒトTNFαモノマーまたは本発明のhTNFαのモノマー化アナログ、および/または
- ヒトTNFαの2つの同一配列の間に外来MHCクラスII結合アミノ酸配列が挿入されているかまたは内置換されているヒトTNFαモノマーまたは本発明のhTNFαのモノマー化アナログ、および/または
【0035】
- ヒトTNFαの少なくとも1つの塩橋がジスルフィドブリッジで強化されたかまたは置換されたヒトTNFαモノマーまたは本発明のhTNFαのモノマー化アナログ、および/または
- タンパク質分解に対する溶解性もしくは安定性が、マウスTNFαの結晶構造を模倣する変異を導入することにより増強されているヒトTNFαモノマーまたは本発明のhTNFαのモノマー化アナログ
である特性をさらに有し、ここでY87S、D143NまたはA145R(アミノ酸の番号付けはヒトTNFαのN-末端のVから始まる)からなる群より選択される少なくとも1つの点突然変異の導入により毒性が減少されているかもしくは廃止されている。
【0036】
一般に、本発明の最も適切な免疫原性アナログは、それらが産生される段階ですでに可溶性のタンパク質でありかつそれらの組換え宿主細胞から可溶性の形で単離されるものである。
【0037】
さらに、本発明は、このような免疫原性アナログをコードする核酸断片(例えばDNA断片)およびこのようなDNA断片を含むベクターも提供する。
本発明は、該アナログを製造するのに有用な形質転換細胞も提供する。
【0038】
さらに、本発明は、本発明のアナログまたはベクターを含む免疫原生組成物を提供する。
さらに、マルチマータンパク質がダウンレギュレーションされる治療の方法、および特定のマルチマータンパク質に関係する特定の疾患の治療が本発明により提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0039】
図の説明
図1:TNFαタンパク質のイー・コリ(E. coli)産生の上流での処理(upstream processing)を示すフローチャート。示されたワークフローは、本発明のTNFα変異型の組換え産生における種々の培養条件の相対的効率を評価するのに用いられる。
【0040】
発明の詳細な開示
定義
以下において、本明細書および請求項において用いるいくつかの語について、本発明の境界を明確にするために、詳細に定義して説明する。
【0041】
「Tリンパ球」および「T細胞」の語は、各種の細胞媒介免疫応答および体液性(humeral)免疫応答におけるヘルパー活性の原因である、胸腺起源のリンパ球に対して同義的に用いられる。同様に、「Bリンパ球」および「B細胞」の語を、抗体産生リンパ球に対して同義的に用いる。
【0042】
本明細書において「ポリマータンパク質」は、ペプチド結合を介して末端と末端が結合されていない少なくとも2つのポリペプチド鎖を含むタンパク質として定義する(「マルチ
マータンパク質」の語は、これと同義的に用いる)。したがって、ポリマータンパク質は、ジスルフィド結合および/または非共有結合によりポリマー形態に一緒に保持されているいくつかのポリペプチドからなるポリマーであり得る。加工されたプレタンパク質および加工後に少なくとも2つの遊離のC末端および少なくとも2つの遊離のN末端を含むプロタンパク質も、この語に含む。最後に、独特な三次元構造を有する、不安定であるが、しかし生物学的に活性な分子性実体を形成し得る少なくとも2つのポリペプチド間の一時的に存在する複合体も、この語に含む。
【0043】
本明細書において、「免疫原性アナログ」(または「免疫原化された」アナログもしくは変異型)は、完全なポリマータンパク質中に見出される配列情報の実質的な部分を含む、単一のポリペプチドを示すことを意味する。すなわち、ポリマータンパク質が少なくとも2つのポリペプチド鎖を含むのに対して、本発明のアナログタンパク質は1つのポリペプチド鎖を含む。アナログはポリマーのモノマーサブユニット構造の変異型であり得るが、その場合、免疫原性アナログは天然ポリマーに類似したポリマータンパク質複合体を形成することが可能であることが記載される。
【0044】
この関係において、ポリマータンパク質の「モノマー化された」アナログまたは変異型は、ペプチド結合を介して共有結合された形態の、天然のポリマータンパク質において見出される少なくとも2つのポリペプチド鎖を含む単一のポリペプチドであるが、これらの2つのポリペプチド鎖は、ペプチド結合を介して結合されていない。
【0045】
マルチマータンパク質のモノマー単位の「実質的なフラグメント」は、マルチマータンパク質において見出され得るのと実質的に同じ3D構造に折りたたまれるドメインを形成するように、少なくとも充分なモノマーポリペプチドを構成するモノマーポリペプチドの一部分を意味することを意図する。
【0046】
本明細書中において「TNFαポリペプチド」は、ヒトおよびその他の哺乳動物に由来するTNFαタンパク質のアミノ酸配列をもつポリペプチドを意味することを意図する。原核系において製造されるTNFαのグリコシル化されていない形態も、例えば酵母またはその他の非哺乳動物真核発現系の使用による、多様なグリコシル化パターンを有する形態と同様に、この語の境界内に含まれる。しかしながら、「TNFαポリペプチド」の語を用いる場合、問題のポリペプチドは、治療される動物に提示されるときに、通常、非免疫原性であることを意図することが記載される。言い換えると、TNFαポリペプチドは自己タンパク質であるか、または問題の動物のTNFαに対する免疫応答を通常は起こさないような自己タンパク質の異種のアナログである。
【0047】
「TNFαアナログ」は、その一次配列の変更に付されたか、および/または他の分子種からの要素と結合されたかのいずれかのTNFαポリペプチドである。このような変更は、例えばTNFαポリペプチドの適切な融合パートナーとの融合の形態(すなわち、C-および/またはN-末端へのアミノ酸残基の付加をもっぱら含む、一次構造の変化)にあるか、および/またはTNFαポリペプチドのアミノ酸配列における挿入および/または欠失および/または置換の形態にあることが可能である。派生のTNFα分子もこの語に含まれるが、以下のTNFαの修飾についての議論を参照。
【0048】
TNFαアナログも、完全なTNFαマルチマータンパク質の実質的な部分を含むモノマー変異型を含むことが理解される。
【0049】
本明細書において「TNFα」の略語を用いる場合、それぞれ成熟した野生型のTNFα(本明細書中において、「TNFαm」および「TNFαwt」とも表す)のアミノ酸配列の表示を意図する。成熟ヒトTNFαは、hTNFα、hTNFαmまたはhTNFαwtと表され、マウス成熟TNFαは
、mTNFα、mTNFαmまたはmTNFαwtと表される。DNA構築物がリーダー配列またはその他の材料をエンコードする情報を含む場合、それは通常、前後関係から明確であろう。
【0050】
「ポリペプチド」の語は、本明細書で、2〜10アミノ酸残基の短いペプチド、11〜100アミノ酸残基のオリゴペプチド、100を超えるアミノ酸残基のポリペプチドを共に意味することを意図する。さらに、この語はタンパク質、すなわち少なくとも1つのポリペプチドを含む機能性生体分子を含むことをも意図する;少なくとも2つのポリペプチドを含む場合、これらは複合体を形成するか、共有結合するか、または非共有結合することができる。タンパク質中のポリペプチドは、グリコシル化されるか、および/または脂質化されるか(lipidated)、および/または補欠分子団を含むことができる。
【0051】
「サブシークエンス」の語は、天然に存在するTNFαアミノ酸配列または核酸配列からそれぞれ直接由来する、少なくとも3つのアミノ酸、または適切な場合には少なくとも3つのヌクレオチドのいずれかの連続的な範囲を意味する。
【0052】
「無毒化突然変異」は、この関係において、関係する動物モデル(またはTNFαアミノ酸配列が由来する自己宿主)において、得られる分子の毒性を有意により低くするTNFαアミノ酸配列中の突然変異(例えば点突然変異)と定義される。しかし、無毒化突然変異は、TNFα分子の正しい折り畳みに有意に影響するものであるべきでないことが理解されるであろう。なぜなら、正しい折り畳みがB細胞エピトープを保存するのに望ましいからである。
【0053】
「動物」の語は、本明細書において一般に、ホモ・サピエンス(Homo sapiens)、カニス・ドメスティカス(Canis domesticus)などのような動物種(好ましくは哺乳動物) で、単一の動物だけではないことを意味することを意図する。しかしながら、本発明の方法により免疫化された個体が全て、同じ免疫原で動物を免疫化することを許容する、実質的に同じTNFαを有することが重要であるので、この語はこのような動物種の個体群をも意味する。例えば、TNFαの遺伝子的な変異型が、異なるヒトの個体群に存在する場合、各個体群においてTNFαに対する自己寛容を破壊可能にするために、これらの異なる個体群において異なる免疫原を用いることが必要であろう。本明細書における動物が免疫系を有する生物であることは、当業者には明白であろう。該動物は、哺乳動物のような脊椎動物が好ましい。
【0054】
本明細書において「ダウンレギュレーション」の語により、生物におけるTNFαの生物学的活性の減少(例えば、TNFαタンパク質とこの分子の生物学的に重要な結合パートナーとの間の相互作用の干渉による)を意味する。ダウンレギュレーションは、いくつかの機構により得ることができる:これらのうち、抗体の結合による、マルチマータンパク質の活性部位との単純な干渉が、最も単純である。しかしながら、清掃細胞(マクロファージや他の食細胞のような)によるマルチマータンパク質の除去とならしめる抗体の結合も、本発明の範囲内である。
【0055】
「免疫系に・・・提示をもたらす」の表現は、動物の免疫系が、制御された方法で免疫原性攻撃に供されることを意味することを意図する。以下の開示から明らかなように、このような免疫系の攻撃は、いくつかの方法によりもたらすことができ、それらのうちで最も重要なものは、「ファーマクシン(pharmaccine)」(すなわち進行中の疾患を治療また
は改善するのに投与されるワクチン)を含むポリペプチドによるワクチン化、または核酸「ファーマクシン」ワクチン化である。達成する重要な結果は、動物における免疫適格細胞が免疫原的に効果的な方法で、抗原と対峙することであって、この結果を達成する精密なモードは、本発明の根底にある発明の概念にはほとんど重要ではない。
【0056】
「免疫原的有効量」の用語は、当該技術における通常の意味を有し、すなわち免疫原と免疫学的な特徴を共有する病原性の剤に著しく関与する免疫応答を誘導し得る免疫原の量である。
【0057】
本明細書においてTNFαが「改変された」との表現を用いる場合、自己タンパク質の中軸を構成するポリペプチドの化学的改変を意味する。このような改変は、例えばアミノ酸配列中のあるアミノ酸残基の派生(例えばアルキル化、アシル化、エステル化など)であり得るが、以下の開示から認識されるように、好ましい改変は、アミノ酸配列の一次構造の変更(またはそれへの付加)を含む。
【0058】
「TNFαに対する自己寛容」を論じる場合、TNFαはワクチン化される個体群における自己タンパク質であるので、個体群における正常な個体はそれに対して免疫応答しないことが理解される;しかし、動物個体群においてまばらに存在する個体が、例えば自己免疫異常の一部分として、天然のTNFαに対して抗体を産生できるかもしれないことを除外することはできない。いずれの割合においても、動物種は、通常、それ自身のTNFαに対してのみ自己寛容であるだろうが、他の動物種または異なる表現型を有する個体群に由来するアナログも該動物により寛容化されることを除外することはできない。
【0059】
「外来T細胞エピトープ」(または「外来Tリンパ球エピトープ」)は、MHC分子に結合でき、動物種においてT細胞を刺激するペプチドである−そのための代わりの語である。本発明において好ましい外来T細胞エピトープは、「乱交雑(promiscuous)」(または「ユニバーサル」または「広範囲な」)エピトープ、すなわち、動物種または個体群において、特定のクラスのMHC分子の実質的なフラクションと結合するエピトープである。ごく限られた数のこのような乱交雑T細胞エピトープのみが知られており、それらを以下に詳述する。本発明に従って使用される免疫原を、できるだけ大きな動物個体群のフラクションで有効にするため、1) 同じアナログにいくつかの外来T細胞エピトープを挿入するか、または2)挿入された異なる乱交雑エピトープを各アナログが有する、いくつかのアナログを作ることが必要であろうことが記載される。また、外来T細胞エピトープの観念は、潜在性T細胞エピトープ、すなわち自己タンパク質に由来し、かつ問題の自己タンパク質の部分ではない単離の形態で存在する場合に、免疫原性の挙動を奏するのみであるエピトープの使用を包含することが記載される。
【0060】
「外来Tヘルパーリンパ球エピトープ」(外来THエピトープ)は、MHCクラスII分子を結合し、MHCクラスII分子に結合した抗原提示細胞(APC)の表面に提示され得る外来T細胞エピトープである。
【0061】
したがって「マルチマータンパク質に異種であるMHCクラスII結合アミノ酸配列」は、TNFαに存在しないMHCクラスII結合ペプチドである。このようなペプチドは、マルチマータンパク質をもつ動物種にとっても本当に外来である場合、外来THエピトープである。
【0062】
(生体)分子の「機能性部分」は、本明細書において、分子によって奏せられる少なくとも1つの生化学的または生理学的な効果の原因となる分子の一部分を意味することを意図する。多くの酵素および他のエフェクター分子が、問題の分子によって奏される効果の原因となる活性部位を有することは、当該技術で周知である。分子の他の部分は、安定化または溶解性を増強する目的に役立つであろうし、従って、これらの目的が本発明のある実施形態に関して適切でないならば除外することができる。しかしながら、本発明によると、本明細書に記載のモノマーを用いた場合に実際に増加した安定性が実証されているので、できるだけポリマー分子を用いることが好ましい。
【0063】
「アジュバント」の語は、ワクチン技術の分野での一般的な意味を有し、すなわち、1)
ワクチンの免疫原に対する特異的な免疫応答をそれ自体で有することができないが、2) にもかかわらず、免疫原に対する免疫応答を増強できる、物質または物質の組成物である。または、言い換えると、アジュバントのみでのワクチン化は、免疫原に対する免疫応答を提供せず、免疫原でのワクチン化は免疫原に対する免疫応答を発生させるか、または発生させないが、免疫原とアジュバントとを組み合わせたワクチン化は、免疫原単独で誘導されるより強い、免疫原に対する免疫応答を誘導する。
【0064】
分子の「標的化」は、本明細書において、動物に導入された分子が、特定の組織で優先的に現れるか、または特定の細胞もしくは細胞のタイプと優先的に結合する状況を示すことを意図する。その効果は、標的化を促進する組成物中への分子の処方、または標的化を促進する分子の群での導入を含むいくつかの方法で達成することができる。これらの問題を以下に詳細に述べる。
【0065】
「免疫系の刺激」は、ある物質または物質の組成物が、一般の非特異的な免疫刺激効果を発揮することを意味する。いくつかのアジュバントと推定上のアジュバント(あるサイトカインのような)は、免疫系を刺激する能力を共有する。免疫刺激剤を用いる成果は、免疫原を用いて同時にまたは続いて起こる免疫化が、免疫原の単離された使用と比較して有意でより効果的な免疫応答を誘導することを意味する免疫系の増大した「警戒態勢(alertness)」である。
【0066】
本発明の無毒化免疫原性TNFαアナログの特徴
本発明による免疫原性アナログが、実質的なフラグメントにおいて、天然の生物学的に活性なTNFαにおいて見出されるB細胞エピトープの実質的なフラクションを表示する(display)場合は、有利である。本明細書において、B細胞エピトープの実質的なフラクションとは、他のタンパク質に対してTNFαを抗原的に特徴付けるB細胞エピトープのフラクションを意味することを意図する。実質的なフラグメントは、ポリマータンパク質の一部分であるときに、対応するTNFαモノマーに見出される本質的に全てのB細胞エピトープを表示することが好ましい−もちろん、モノマーTNFα配列中への重要でない変更の導入が必要であろう。例えば、上記で説明したように、モノマー単位に由来するアミノ酸配列は、リンカー中にその配列を有することが望まれない場合に、天然タンパク質に比べてTNFαアナログの毒性を減少させるように、および/またはMHCクラスII結合アミノ酸配列を導入するように、アミノ酸の挿入、置換、欠失または付加により改変される。
【0067】
特に好ましい実施形態は、本発明の免疫原性アナログを提供するが、ここで、実質的なフラクションの各々は、連続配列としてか、または挿入を含む配列のいずれかとして、各モノマーTNFα単位の完全アミノ酸配列を本質的に含む。つまり、モノマーTNFα単位の配列の重要でない部分のみがアナログから除外され、例えば、そのような配列がモノマー単位の三次構造またはTNFαの四次構造に寄与しない場合である。しかしながら、マルチマーTNFαタンパク質の3D構造が維持される限りは、この実施形態はモノマーの置換または挿入を許容する。よって、免疫原性TNFαアナログが、TNFαの全てのモノマー単位のアミノ酸配列がアナログ中に表されるものである場合が格別有利であり、アナログが、間断のない配列または挿入を含む配列のいずれかとして、TNFαを構成する(全ての)モノマーの完全アミノ酸配列を含む場合が特に有利である。
【0068】
したがって、明らかになるように、完全な天然の生物学的に活性なTNFαの三次元構造が、アナログにおいて本質的に保存されることが好ましい。
【0069】
本明細書に記載のような改変に付されるB細胞エピトープの実質的なフラクション、またはTNFαの三次元構造までもが保持されることの証明は、いくつかの方法により達成される。その一つは、単に、天然のTNFαに対するポリクローナル抗血清(例えばウサギで作
製された抗血清)を調製し、その後、この抗血清を、製造された改変タンパク質に対する試験反応物として用いる(例えば競合的ELISAにおいて)ことである。天然の分子が反応するのと同程度に抗血清と反応する改変されたバージョン(アナログ)は、天然の分子と同じ3D構造を有すると見なさなければならないが、このような抗血清との制限された(しかし、まだ重大で特異的な)反応性を示すアナログは、元来のB細胞エピトープの実質的なフラクションを保持していると見なされる。
【0070】
代わりに、天然のTNFα上の独特なエピトープと反応性があるモノクローナル抗体の選択を製造し、試験パネルとして用いることが可能である。このアプローチは、1)TNFαのエピトープマッピング、および2)作製されたアナログ中で保存されるエピトープのマッピングを許容するという利点を有する。
【0071】
もちろん、第三のアプローチは、決定された天然のTNFαの三次元構造(例えば上記)を、作製したアナログの決定した三次元構造と比較することである。三次元構造は、X線回折およびNMR分光法により決定できる。三次構造に関するさらなる情報は、与えられた分子の三次構造についての有用な情報を与えるために純粋な形態のポリペプチドが要求されるだけであるという利点を有する(X線回折はポリペプチドの結晶を用いることが要求され、NMRはポリペプチドの同位体変異型の準備が要求されるのに対して)円偏光二色性分光分析の検討により、ある程度は得ることができる。しかしながら、円偏光二色性分析は二次構造の要素の情報を通じて、正しい三次元構造の間接的な証拠を提供することができるのみであるので、決定的なデータを得るには、結局、X線回折および/またはNMRが必要である。
【0072】
本発明の免疫原性TNFαアナログは、アナログ中において、マルチマータンパク質に対して異種である少なくとも1つのMHCクラスII結合アミノ酸配列の存在を含むか、または該存在に寄与するペプチドリンカーを含むことができる。これは、TNFα中のモノマー単位に相当するアミノ酸配列を変更することが望まれない場合に、特に有用である。代わりに、ペプチドリンカーは、TNFαが由来する動物種において、MHCクラスII結合アミノ酸配列を有さずかつ該存在に寄与しないことが可能である;これは、非常に短いリンカーを用いることが必要な場合、または本発明におけるように例えば活性部位にMHCクラスII結合要素を導入することにより、潜在的に毒性のアナログを解毒化することが必須である場合に、簡便に行うことができる。
【0073】
MHCクラスII結合アミノ酸配列は、マルチマータンパク質が由来する動物種からのMHCクラスII分子の大部分に結合すること、すなわちMHCクラスII結合アミノ酸配列がユニバーサルまたは乱交雑であることが好ましい。
【0074】
もちろん、この配列が、免疫原がワクチン成分として役に立つことを意図するための種において、T細胞エピトープとしての目的にかなうことが重要である。動物種または動物個体群の個体の多くの割合において活性である、天然に発生する「乱交雑」T細胞エピトープがいくつか存在し、これらはワクチンに導入されることが好適であり、それにより同じワクチンにおける非常に多数の異なるアナログの必要性が低減される。したがって、少なくとも1つのMHCクラスII結合アミノ酸配列は、天然のT細胞エピトープおよび人工のMHC-II結合ペプチド配列から選択されることが好ましい。特に好ましい配列は、P2 (配列番号2)またはP30 (配列番号4)のような破傷風トキソイドエピトープ、ジフテリアトキソイドエピトープ、インフルエンザウイルスヘマグルチニンエピトープおよびピー・ファルシパルム(P. falciparum) CSエピトープから選択される天然T細胞エピトープである。
【0075】
長年にわたって、他の乱交雑T細胞エピトープがいくつか同定されている。特に、異なるHLA-DR対立遺伝子によりエンコードされるHLA-DR分子の多くの割合に結合することがで
きるペプチドが同定され、これらは全て、本発明において用いるアナログに導入される可能性があるT細胞エピトープである。本明細書にその全てが参照として組み込まれる、次の参考文献において議論されるエピトープも参照:WO 98/23635号(Frazer IHら、The University of Queenslandに譲渡);Southwood Sら、1998、J. Immunol. 160:3363〜3373;Sinigaglia Fら、1988、Nature 336:778〜780;Chicz RMら、1993、J. Exp. Med 178:27〜47;Hammer Jら、1993、Cell 74:197〜203;およびFalk Kら、1994、Immunogenetics
39:230〜242。後者の参考文献は、HLA-DQおよび-DPリガンドにも関する。これらの5つの参考文献に列挙されるエピトープは全て、本発明において用いることとなる天然のエピトープの候補として適切である。なぜなら、これらと共通モチーフを共有するエピトープだからである。
【0076】
代わりに、エピトープは、MHCクラスII分子の多くの割合に結合することができるいずれの人工T細胞エピトープでもあり得る。この関連において、WO 95/07707号および対応する論文Alexander Jら、1994、Immunity 1:751〜761(どちらの開示も本明細書に参照として組み込まれる)に記載のpan DRエピトープペプチド("PADRE")は、本発明により用いられることとなるエピトープの候補として興味深い。これらの論文に開示の最も効果的なPADREペプチドは、投与されたときの安定性を向上するためにCおよびN末端にD-アミノ酸を有することが記載される。しかしながら、本発明は、続いてAPCのリソソーム区画内で酵素的に分解され、MHC-II分子に関する続いて起こる提示を許容するアナログの一部分として適切なエピトープの組み込みをまず目的とし、よって本発明において用いるエピトープにD-アミノ酸を組み込むことは得策ではない。
【0077】
特に好ましいPADREペプチドは、アミノ酸配列AKFVAAWTLKAAA (配列番号6および8)またはその免疫学的に有効なサブシークエンスを有するものである。このエピトープおよび同じMHC制限の欠損を有するその他のエピトープは、本発明の方法に用いるアナログ中に存在するべき好ましいT細胞エピトープである。このような超乱交雑(super-promiscuous)エピトープは、ただ1つの単独の改変されたTNFαがワクチン化された動物の免疫系に提示される、本発明の最も単純な実施形態を考慮に入れる。
【0078】
本発明の好ましい実施形態は、少なくとも1つの外来免疫優性THエピトープの導入による改変を含む。THエピトープの免疫優勢の論点は、問題の動物種に依存することが理解される。本明細書で用いられるように、「免疫優性」の語は、ワクチン化された個体において重大な免疫応答を起こすエピトープについて単に言及するが、ある個体において免疫優性であるTHエピトープが、必ずしも同じ種の他の個体において免疫優性ではないことは周知の事実であり、後者の個体においてそれがMHC-II分子に結合することが可能であってもである。
【0079】
上述したように、外来T細胞エピトープの導入は、少なくとも1つのアミノ酸の挿入、付加、欠失または置換により達成され得る。もちろん、通常の状況はアミノ酸配列中の1つ以上の変化の導入(例えば完全T細胞エピトープによる挿入または置換)であるが、達成する重要な目標は、抗原提示細胞(APC)により処理された(processed)場合に、アナログが、APCの表面においてMHCクラスII分子に関して提示されるようなT細胞エピトープを生じさせることである。よって、適切な位置でのモノマー単位のアミノ酸配列が外来THエピトープにおいても見出され得るいくつかのアミノ酸残基を含む場合に、外来THエピトープの導入は、外来エピトープの残りのアミノ酸をアミノ酸の挿入、付加、欠失または置換により提供することにより達成され得る。言い換えると、挿入または置換により完全THエピトープを導入する必要はない。
【0080】
本発明によると、アナログは、その存在がアナログの抗体への近づきやすさをかなりの程度で負に妨げない、少なくとも1つの機能的部分に結合しているより大きい分子の一部
分を形成することもできる。このような部分(アナログに融合することができる)の性質は、修飾された分子を抗原提示細胞(APC)またはBリンパ球に対して標的すること、免疫系を刺激すること、および免疫系へのアナログの提示を最適化することであり得る。
【0081】
標的化(targeting)部分は、Bリンパ球またはAPC上にそれに対する受容体があるハプテンまたは糖類のようなBリンパ球特異的表面抗原またはAPC特異的表面抗原に対する、実質的な特異的結合パートナーからなる群より適切に選択される。免疫刺激部分は、サイトカイン、ホルモン及びヒートショックタンパク質からなる群より選択される。提示最適化部分は、パルミトイル基、ミリスチル基、ファルネシル基、ゲラニル−ゲラニル基、GPI−アンカー、およびN-アシルジグリセリド基のような脂質基からなる群より選択され得る。
【0082】
適切なサイトカインは、インターフェロンγ(IFN-γ)、Flt3L、インターロイキン1 (IL-1)、インターロイキン2 (IL-2)、インターロイキン4 (IL-4)、インターロイキン6 (IL-6)、インターロイキン12 (IL-12)、インターロイキン13 (IL-13)、インターロイキン15 (IL-15)、および顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)、またはいずれかの有効な一部分である。
好適なヒートショックタンパク質は、HSP70、HSP90、HSC70、GRP94、およびカルレティキュリン(CRT)、またはいずれかの有効な一部分である。
【0083】
アミノ酸の挿入、欠失、置換または付加の数は、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21および25の挿入、置換、付加または欠失のような、少なくとも2が好ましい。アミノ酸の挿入、置換、付加または欠失の数は、最大で100、最大で90、最大で80および最大で70のような、150を超えないのがさらにより好ましい。置換、挿入、欠失または付加の数が60を超えず、特にその数が50または40さえも超えないのが特に好ましい。最も好ましくは、その数が30以下である。アミノ酸付加に関しては、得られる構築物が融合ポリペプチドの形である場合、これらはしばしば150より相当に多いことが記載される。
【0084】
本発明の好ましい実施形態は、少なくとも1つの外来免疫優性THエピトープ(= 「外来MHCクラスII結合アミノ酸配列」)の導入による修飾を含む。THエピトープの免疫優性の論点は、問題の動物種に依存することが理解される。本明細書で用いられるように、「免疫優性」の語は、ワクチン化された個体において重大な免疫応答を起こすエピトープについて単に言及するが、ある個体において免疫優性であるTHエピトープが、必ずしも同じ種の他の個体において免疫優性ではないことは周知の事実であり、後者の個体においてそれがMHC-II分子に結合することが可能であってもである。
【0085】
その他の重要な点は、THエピトープのMHC制限の問題である。一般に、天然に発生するTHエピトープはMHC制限されており、すなわちTHエピトープを構成するあるペプチドは、MHCクラスII分子の部分集合に効果的に結合するのみである。これは、多くの場合、ある特異的なTHエピトープの使用が個体群のフラクションのみにおいて効果的なワクチン成分となる効果をも有し、そのフラクションのサイズに依存して、同じ分子内により多くのTHエピトープを含むか、または成分が、導入されたTHエピトープの性質により他とは互いに区別される変異型である多成分ワクチン(multi-component vaccine)を製造することが必要となり得る。
【0086】
用いるT細胞のMHC制限が全くわからない場合(例えばワクチン化された動物がほとんど明確でないMHC組成を有する状況において)、特定のワクチン組成物により包含される動物個体群のフラクションは、次の式:
【0087】
【数1】

【0088】
(ここで、piは、ワクチン組成物に存在するi番目の外来T細胞エピトープに対する、応答者の個体群中の頻度であり、nはワクチン組成物中の外来T細胞エピトープの総数である)により決定される。よって、それぞれ0.8、0.7および0.6の個体群における応答頻度を有する、3つの外来T細胞エピトープを含むワクチン組成物は、
1 − 0.2 × 0.3 × 0.4 = 0.976
を与えることになり、すなわち、個体群の97.6%が、ワクチンに対するMHC-II媒介応答を統計学的に有するであろう。
【0089】
上記の式は、用いるペプチドの多少正確なMHC制限パターンがわかっている状況においては当てはまらない。もし、例えばあるペプチドがHLA-DR対立遺伝子であるDR1、DR3、DR5およびDR7によりエンコードされるヒトMHC-II分子にのみ結合するのであれば、このペプチドを、HLA-DR対立遺伝子によりエンコードされる残りのMHC-II分子に結合する他のペプチドとともに用いることが、問題の個体群における100%の適用範囲を達成する。同様に、もし第二のペプチドがDR3およびDR5にのみ結合するならば、このペプチドの付加は、適用範囲を全く増加させない。もしワクチン中のT細胞エピトープの純粋にMHC制限上への個体群の応答の計算に基礎をおく場合、特定のワクチン組成物により包含される個体群のフラクションは次の式:
【0090】
【数2】

【0091】
(ここで、φjは、ワクチン中のT細胞エピトープのいずれか一つに結合し、かつ3つの周知のHLA遺伝子座(DP、DRおよびDQ)のj番目に属する、MHC分子をエンコードする対立遺伝子のハプロタイプの個体群中の頻度の合計である;実際問題として、まずどのMHC分子がワクチン中の各T細胞エピトープを認識するのかを決定し、その後これらのMHC分子はタイプ(DP、DRおよびDQ)により列挙され、次いで列挙された異なる対立遺伝子のハプロタイプのそれぞれの頻度を各タイプについて合計し、それによりφ1、φ2およびφ3を得る)により決定することができる。
【0092】
式Iのpiの値が、対応する理論値πi
【0093】
【数3】

【0094】
(ここで、υjは、ワクチン中のi番目のT細胞エピトープに結合し、かつ3つの周知のHLA遺伝子座(DP、DRおよびDQ)のj番目に属する、MHC分子をエンコードする対立遺伝子のハプロタイプの個体群中の頻度の合計である)を超えることが起こり得る。これは、個体群の1 − πiでは、f残存-i = (pi − πi) / (1 − πi)の応答者の頻度があることを意味する。よって、式IIは、式IV:
【0095】
【数4】

【0096】
(ここで、1 − f残存-iの表現は、負である場合、ゼロに設定される)を得るように調節することができる。式Vは、全てのエピトープがハプロタイプの同じ組に対してハプロタイプの位置づけをされていることが必要であることが記載される。
【0097】
よって、本発明のアナログに導入されることとなるT細胞エピトープを選択する場合、エピトープについての入手可能である全ての知識を含むことが重要である:1) 個体群中の応答者の各エピトープに対する頻度、2) MHC制限データ、および3) 適切なハプロタイプの個体群中における頻度である。
【0098】
本発明のアナログは、TNFαの対応するモノマー単位と、または少なくとも10アミノ酸の長さのそれらのサブシークエンスと、少なくとも70%の配列相同性を有する範囲を含むポリペプチドになる修飾を含むことが記載される。より高い配列相同性、例えば少なくとも75%、または少なくとも80%または85%でさえも好ましい。タンパク質および核酸の配列相同性は、(Nref − Ndif)・100/Nref (ここで、Ndifは、整列したときの、2つの配列中の非相同残基の総数であり、Nrefは、1つの配列中の残基数である。)のように算出できる。よって、DNA配列AGTCAGTCは、配列AATCAATCと75%の配列相同性を有する(Ndif=2およびNref=8)。
【0099】
最後に、本発明のTNFαアナログが免疫原として実際に効果的であることを決定的に証明するために、必要な確認を得るための種々の試験を行うことができる。この関係において、WO 00/65058号での有用なIL5アナログの同定の議論にも言及する−この開示は、本発明の技術に付すアナログ(IL5由来またはそうでない)の有用性の証明のために用い得る。
【0100】
好ましいTNFαアナログは、1) ペプチドリンカーにより末端と末端が連結されている、2または3の完全TNFαモノマー(ここで、少なくとも1つのペプチドリンカーは少なくとも1つのMHCクラスII結合アミノ酸配列含む)、および2) 不活性ペプチドリンカーにより末端と末端が連結されている、2または3の完全TNFαモノマー(ここで、モノマーの少なくとも1つは、少なくとも1つの外来MHCクラスII結合アミノ酸配列を含むか、または少なくとも1つの外来MHCクラスII結合アミノ酸配列は、任意に不活性リンカーを介してN-もしくはC-末端モノマーに融合されている)からなる群より選択される。
【0101】
特に興味深いものは、高い安定性を有する免疫原性TNFα分子である。なぜなら、本発明者らにより以前にモノマーTNFα構築物が比較的不安定であることが見出されているからである。しかしながら、以下の議論を参照。
【0102】
エピトープおよび/または不活性ペプチドリンカーにより連結された3つのTNFαサブユニットをエンコードする遺伝子が作製されている。目標は、天然のTNFαトリマーにできる限り近い立体配座の変異型TNFα分子をつくることである。変異型は、wtTNFαに対する中和抗体を効率的に誘導するように設計される。最適なTNFα変異型は、界面活性剤またはタンパク質の立体配座を妨害し得るその他の種類の添加剤の不在下において、可溶性で、かつ安定なタンパク質である。
【0103】
以下の議論は、本質的に無毒化に関係しないTNFの好ましい改変に焦点を当てる。
【0104】
リンカーおよびTHエピトープを用いて1つの単独のポリペプチドとしてともに連結される3つのモノマーを発現することにより、以前の変異型TNFα免疫原よりも安定なTNFα変異型を作製することを意図する。これは、安定化する水素結合、塩橋またはジスルフィドブリッジの外側に必要なTHエピトープを導入することにより、TNFα構造の保存を許容する。
【0105】
TNFαのX線結晶構造により、N末端の最初の5残基が、可動性(flexible)でありすぎて構造決定が許容されないことがわかる。しかしながら、C末端は、モノマー界面の真ん中近くに位置し、可動性が低い。Arg-6およびLeu-157のCα原子間の距離は10Åであり、これは3〜4アミノ酸残基の距離である。したがって、モノマーサブユニットを直接一緒に連結し得るようにみえるが、C末端は繊細な位置に位置しているので、この結合には可動性リンカー、例えばグリシンリンカーを用いることが有利だろう。
【0106】
現在までに、「モノマー化されたトリマー」アプローチを用いて、5つの変異型が設計されている。コントロールのTNF_T0 (WO 03/042244号のTNFαトリマー番号0、配列番号22)は、2つの別のグリシンリンカー(GlyGlyGly)により一緒に直接連結された3つのモノマーからなる。TNF_T0は、野生型トリマータンパク質のように安定となるように設計されている。もちろん、タンパク質化学において周知の他の不活性な可動性リンカーを、上記のグリシンリンカーの代わりに用いることができ、重要な特徴は、可動性リンカーが、生理的に活性なwtTNFαの3D構造と類似の3D構造に折り畳まれるモノマータンパク質の能力に、負に干渉しないことである。
【0107】
TNF_T0構築物を、イー・コリ(E. coli)中で可溶性タンパク質として発現し、PADRE MHCクラスII結合ペプチド(配列番号6)が導入された変異型である、具体例としての構築物、TNF_T4 (WO 03/042244号を参照)を作製するのに用いる。この構築物において、モノマー単位と外来エピトープとの間の比は、免疫原化されたモノマータンパク質に依存する従来技術の変異型の場合のモノマー当たり1エピトープ(これは、WO 03/042244号の配列番号55の場合もそうである)の代わりに、3モノマー当たり1エピトープである。この事実は、トリマーの安定性への潜在的に正の影響を与える。このアプローチから生じたものは、TNF_C2変異型(WO 03/042244号を参照)であり、これは、TNF_T4と同じ位置にPADREエピトープを有するTNFαモノマーである。
【0108】
同様に、破傷風トキソイドP2およびP30エピトープ(それぞれ配列番号2および4)は、各リンカー領域に1エピトープを有するTNF_T1およびTNF_T2変異型(WO 03/042244号を参照)に用いられ、1つのC末端エピトープおよび第二のリンカー領域に1つを有するTNF_T3 (WO 03/042244号を参照)にも用いられている。タンパク質は、ほぼN末端からC末端の方に向かって折り畳まれる。TNF_T3の根底にあるアイデアは、最初の2つのN末端ドメインが折り畳まれるときに、エピトープにより囲まれている第三のドメイン(モノマー)への内部シャペロンとしてそれらが機能することである。
【0109】
WO 03/042244号には、上で詳細に記載した技術に加えて、ポリマータンパク質が「モノマー化」された場合、TNFα(およびおそらくその他の多くのマルチマータンパク質)は、1)少なくとも1つの安定化する変異を含み、および/または2) 少なくとも1つの非TNFα由来MHCクラスII結合アミノ酸配列を含むモノマーの産生を許容することが見出されており、ここで、これらのTNFαモノマー変異型は、正しい四次構造をもつ(これらが受容体結合活性を持つことにより証明される)ダイマーおよびトリマーTNFαタンパク質の形成を続いて許容する三次構造に正しく折り畳まれることができることが開示されている。したがって、これらの構築物においては、モノマー化されたトリマーとして必ずしも産生される必要がないモノマーTNFαの変異型を製造することが可能である。なぜなら、モノマー配列に導入された変更は、ダイマーまたはトリマーが形成され得るように制限されたモノマー
の三次構造の破壊を導入するからである。本発明の根底にあるアイデアによると、このような変異型の全ては、細菌細胞から可溶性タンパク質として発現され得ることがさらに見出されている。
【0110】
したがって、組み合わせることができ、さらに、既に論じた本発明の「モノマー化アプローチ」と組み合わせることができる(なぜならこれらの特定の修飾は、本来、非破壊的であるからである)以下のストラテジに従って、免疫原性TNFα変異型を作製することが可能であることが示される。
【0111】
可動性ループのストラテジ
本発明者らにより、位置Gly108-Ala109のループ3へのPADREエピトープ(配列番号6)の挿入が、天然のTNFα分子に非常に類似の構造をもつTNFα変異型を作製するのに見込みのあるアプローチであることが見出されている。この位置に直接挿入されたTHエピトープは、相互作用するのに極めて近接したいずれの近隣のアミノ酸残基も有さないことが、TNFαの結晶構造から推断されている。このアプローチにより作製された最初のPADRE構築物であるTNF34 (WO 03/042244号を参照)の研究により、細菌宿主細胞が37℃で培養された場合に、発現されたタンパク質TNF34の約5%がイー・コリにおいて可溶性であり、TNF34の95%が封入体として発現されたが、培養温度が25℃である培養プロセスへの調節後、培養からの可溶性タンパク質の収率は、100%に近くなることが示されている。したがって、生育条件の最適化は、可溶性タンパク質の収率を増加させる。
【0112】
他の構築物のいくつかが作製され(TNF35-TNF39、WO 03/042244号を参照)、ここでこれらの全ては、単に、可動性ループ3へのPADREの導入に依拠している。本発明によると、外来エピトープはループ3の別の部分またはループ3のすぐ外側に導入することができることがさらに考えられる。特に挿入には興味があり、PADREまたはP2またはP30のような外来エピトープは、ヒトTNFαの95、96、97、98、99、100、101、102、103、104、105、106、107、108、109、110、111、112、113、114、115、116、117および118のアミノ酸のいずれの1つの後に有利に挿入できる。しかし、TNFαの同じ領域での置換、すなわちアミノ酸の同じ領域に関わる置換も有利であると考えられる(すなわちヒトTNFαの95、96、97、98、99、100、101、102、103、104、105、106、107、108、109、110、111、112、113、114、115、116、117、118の単独またはいくつかの連続するアミノ酸の置換)。
【0113】
安定性を増大する変異
可動性ループ3へのTHエピトープの導入は、TNFα変異型の構造を不安定化する可能性がある。しかしながら、この潜在的な不安定化は、ジスルフィドブリッジを形成するシステインの導入を介する構造の安定化により、阻止することができる。2つの異なる位置でのシステインの対は、現在までに、変異型TNF34-AおよびTNF34-B (WO 03/042244号を参照)に導入されている。また、受容体相互作用の強度を低減することが知られている、可動性N末端(最初の8アミノ酸)は同時に欠失することができ、すなわち変異型TNF34-C (WO 03/042244号を参照)である。ジスルフィドブリッジは、天然に発生するジスルフィドブリッジ(Cys-67 Cys-101)と一緒にエピトープ挿入部位を安定化するために、モノマーに導入される。このストラテジは、TNFαモノマーそのまま、およびモノマー化されたダイマーまたはトリマーの両者を安定化すると考えられる。
【0114】
その他の構築物
いくつかの異なるストラテジが、可溶性発現産物となる変異型の設計において用いられている。TNFX1.1-2 (WO 03/042244号を参照)は、TNFαの第1のループ中でのPADREの挿入をベースとしており、ここで、挿入部位は、イントロンの位置に位置する。TNFX2.1 (WO 03/042244号を参照)においては、人工の「ストーク」領域が、PADREの挿入を含んで創られている。
【0115】
TNFαの変異は、トリマーの界面の方を向いている大きな疎水性のアミノ酸の置換が、トリマーの構造を安定化することを明らかにする。TNFX3.1およびTNFX3.2 (WO 03/042244号を参照)は、存在するTNF34変異型を安定化する計画である。TNFX4.1 (WO 03/042244号を参照)は、ジグリシンリンカーを用いて、TNF34の構造の全体にわたって、PADREペプチドからの構造の束縛を減少している。TNFX5.1 (WO 03/042244号を参照)は、挿入点として、TNFファミリーの構成要素であるBlySにおいてみられるループ構造を用いている。TNFX6.1-2、TNF7.1-2およびTNFX8.1 (WO 03/042244号を参照)は、さらなる変異型である。TNFX9.1およびTNFX9.2 (WO 03/042244号を参照)は、プレ(pre)およびポスト(post)エピトープの両方である同一のオーバーラップする4〜6アミノ酸のTNFα配列を用いたTNF34変異型である。最後に、2つの変異型(WO 03/042244号の配列番号46および47)は、TNF34におけるPADREペプチドについてと同じ位置でのP2/P30二重変異型である。
【0116】
さらに、TNFαの結晶構造から、Lys-98およびGlu-116残基の間で、TNFαモノマー中に1つの安定化する塩橋が存在することが観察される。塩橋の定義は、AspまたはGlu中の側鎖の酸素と、Arg、LysまたはHis中の正に帯電した原子である側鎖の窒素との間の静電的相互作用であり、かつ原子間距離は7.0Å未満である。Glu 116のAspでの置換と組み合わせた、この位置でのLys-98のArgまたはHisでの部位特異的置換変異により、この塩橋の安定性の向上、およびそれによるトリマー分子の安定性の向上が達成され得る。上記の方法で、これらの塩橋をジスルフィドブリッジで交換することも可能である。
【0117】
マウスTNFαは、溶解性およびタンパク質分解に関して、ヒトTNFαよりもかなり安定であることが観察されている。TNFα変異型の改良は、マウスTNFα結晶構造を模倣してタンパク質分解においてより安定なTNFα産物を得るように、部位特異的変異体を作製することを含む。
【0118】
ヒトおよびマウスTNFαのX線構造から、トリマーの中心(3つのTNFαモノマーの中央)は、疎水力によりまとまっているが、トリマーの上部と下部は、天然に起こる塩橋により結合していることがわかる。したがって、より強い結合のためにこれらの塩橋をスクリーニングすることにより、TNFαトリマーの安定性も向上されるだろう。
【0119】
まとめとして、以下の具体的なTNFαが現在までに製造されている。
【0120】
【表1】

【0121】
用いた数字は、配列番号10のN末端のVから (つまり、配列番号10のアミノ酸番号2から)である。いくつかの配列においては、翻訳開始に用いられるメチオニンが、N末端のバリンに先行している。
【0122】
WO 03/042244号に開示される上記で議論した全てのTNFα変異型は、本発明により無毒化される。
【0123】
当該技術において、いくつかの点突然変異がTNFαを無毒化するか、または少なくとも毒性を大幅に低減することが知られている。これらの点突然変異は、必要であれば、本発
明の変異型に導入される。特に好ましい変異は、成熟TNFαに対応するTyr-87のSerでの置換、Asp-143のAsnでの置換、およびAla-145のArgでの置換である。さらに、Loetscher, H.、Stueber, D.、Banner, D.、Mackay, F.およびLesslauer, W. 1993 JBC 268 (35) 26350〜7に記載の全ての有効な変異は、本発明の無毒化の実施形態において興味深い実施形態である。これらの点突然変異は、WO 03/042244号に開示の具体的な構築物のいずれの1つとともに用いることができる。
【0124】
よって、本発明の最も好ましいタンパク質構築物は、配列番号12、13、14、16、17および18のいずれの1つならびに保存アミノ酸の変更のみを含むこれらに由来するいずれのアミノ酸配列により表されるものである。
【0125】
いずれにしても、上記で論じたこれらのTNFα変異型の全てが、イー・コリのような細菌細胞から可溶性タンパク質として発現可能であるのが、重要な実施形態である。
好ましいベクターは、イー・コリからの発現が目標である場合にはpET28b+であり、p2Zop2F (WO 03/042244号の配列番号60)は昆虫細胞での発現のために用いられるベクターであり、pHP1 (またはその市場で入手可能な「ツイン」pCI)は、哺乳動物細胞での発現のために用いられるベクターである。
【0126】
本発明により提供される一般的な療法
本発明は、それにより、非常に有利な方法で、TNFαをダウンレギュレーションすることが可能になる方法を提供する。
一般に、自己由来の宿主中でのTNFαをダウンレギュレーションする方法が提供され、該方法は、本発明の少なくとも1つの免疫原性TNFαアナログの免疫学的有効量の提示を、動物の免疫系にもたらすことを含む。自己由来の宿主は、哺乳動物であることが好ましく、最も好ましくはヒトである。
【0127】
該方法はいくつかの様式で実行することができ、その中で、タンパク質ワクチンの投与は1つの選択肢であるが、核酸ワクチン化ストラテジまたは生ワクチン化ストラテジも非常に興味深い。
【0128】
タンパク質/ポリペプチドワクチン化および処方
動物へのその投与によりアナログの提示を動物の免疫系にもたらす場合、ポリペプチドの処方は、当該技術において一般に認められている原則に従う。
有効成分としてペプチド配列を含むワクチンの製造は、全てが本明細書中に参照として組み込まれる米国特許4,608,251; 4,601,903; 4,599,231; 4,599,230; 4,596,792;および4,578,770号に例示のように、当該技術においてよく理解されている。典型的には、このようなワクチンは、液体の溶液または懸濁液のいずれかとして注射可能物として製造される;注射に先立って液体の溶液または懸濁液に適切な固体形態も製造可能である。製剤は、乳化することも可能である。活性な免疫原性成分は、医薬上許容され、かつ有効成分に悪影響を及ぼさない医薬品添加物と、しばしば混合される。適切な医薬品添加物は、例えば水、食塩水、デキストロース、グリセロール、エタノールなど、およびこれらの組み合わせである。さらに、所望であれば、ワクチンは、湿潤剤または乳化剤、pH緩衝剤、またはワクチンの有効性を増大させるアジュバントのような添加剤の少量を含有することができる;以下のアジュバントの詳細な議論を参照。
【0129】
ワクチンは、非経口で、例えば皮下(subcutaneously)、皮内(intracutaneously)、皮内(intradermally)、皮下(subdermally)または筋肉内のいずれかの注射により、通常、投与される。投与のその他の形態に適した付加的な製剤は、坐剤や、ある場合においては、経口、バッカル、舌下、腹腔内、膣内、肛門、硬膜外、脊髄、および頭蓋内の製剤を含む。坐剤については、伝統的な結合剤および担体、例えばポリアルキレングリコールまたはト
リグリセリドを含むことができる;このような坐剤は、有効成分を0.5%〜10%、好ましくは1〜2%の範囲で含む混合物からつくられる。経口製剤は、例えば医薬グレードのマンニトール、ラクトース、スターチ、ステアリン酸マグネシウム、サッカリンナトリウム、セルロース、炭酸マグネシウムなどの通常用いられる医薬添加物を含む。これらの組成物は、溶液、懸濁液、錠剤、丸剤、カプセル、徐放性製剤または粉剤の形態をとり、10〜95%、好ましくは25〜70%の有効成分を含む。経口製剤について、コレラトキシンは、興味深い製剤パートナーである(およびコンジュゲーションパートナーとしても可能性がある)。
【0130】
ポリペプチドは、中和または塩の形態でワクチンに処方することができる。医薬上許容される塩は、酸付加塩(ペプチドの遊離のアミノ基を用いて形成される)、および例えば塩酸もしくはリン酸のような無機酸、または酢酸、シュウ酸、酒石酸、マンデル酸などの有機酸とともに形成されるものを含む。遊離のカルボキシ基と形成される塩は、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化アンモニウム、水酸化カルシウム、または水酸化第二鉄のような無機塩基、およびイソプロピルアミン、トリメチルアミン、2−エチルアミノエタノール、ヒスチジン、プロカインなどの有機塩基に由来するものであり得る。
【0131】
ワクチンは、投与量製剤に影響を及ぼさない方法で、治療上有効であり、かつ免疫原性である量で投与される。投与される量は、例えば免疫応答をする個体の免疫系の受容力、および所望の防御の程度を含み、治療される対象に依存する。適切な投与量範囲は、ワクチン接種あたり数百μgのオーダーの有効成分であり、好ましい範囲が、約0.5μg〜1,000μgの範囲のような約0.1μg〜2,000μg (1〜10 mgの範囲のより高い量でさえ予期されるが)、好ましくは1μg〜500μgの範囲、特に約10μg〜100μgの範囲である。
初期の投与およびブースター注射の好適な投与計画も変動可能であるが、初期の投与に続く接種または他の投与を行うことにより代表される。
【0132】
使用の様式は広く変動することができる。ワクチンの投与の通常の方法のいずれも使用可能である。これらは、固体の生理学的に許容されるベース上の、または生理学的に許容される分散液中の経口使用、注射による非経口などを含む。ワクチンの投与量は、投与経路に依存し、ワクチン化されるヒトの年齢および抗原の処方により変動する。
【0133】
ワクチンのアナログのいくつかは、ワクチン中において充分に免疫原性であるが、他のいくつかについては、ワクチンがさらにアジュバント物質を含む場合に、免疫応答が増強される。
【0134】
ワクチンについてアジュバント効果を達成する種々の方法が知られている。一般的な原理および方法は、“The Theory and Practical Application of Adjuvants"、1995、Duncan E.S. Stewart-Tull(編)、John Wiley & Sons Ltd、ISBN 0-471-95170-6、および“Vaccines: New Generationn Immunological Adjuvants"、1995、Gregoriadis Gら(編)、Plenum Press、New York、ISBN 0-306-45283-9に詳述され、両者とも本明細書に参照として組み込まれる。
【0135】
自己抗原への自己寛容の破壊の促進を示し得るアジュバントを用いることが、特に好ましい。適切なアジュバントの限定しない例は、免疫標的化アジュバント;トキシン、サイトカインおよびマイコバクテリア派生物のような免疫変調アジュバント;油処方成分;ポリマー;ミセル形成アジュバント;サポニン;免疫刺激複合マトリクス(immunostimulating complex matrix) (ISCOMマトリックス);粒子;DDA;アルミニウムアジュバント;DNAアジュバント;γ−イヌリン;および被包されたアジュバントからなる群より選択される。一般的に、アナログ中の第一、第二および第三成分として有用な化合物および剤に関する上記の開示は、必要な変更を加えて、本発明のワクチンのアジュバントにおけるそれら
の使用に当てはまることが記載される。
【0136】
アジュバントの使用は、緩衝食塩水中の0.05〜0.1%溶液として通常用いられる水酸化アルミニウムまたはリン酸アルミニウム(ミョウバン)のような剤、0.25%溶液として用いられる糖の合成ポリマー(例えばCarbopol(登録商標))との混合物の使用を含み、70〜101℃の範囲の温度においてそれぞれ30秒〜2分間の熱処理によるワクチン中のタンパク質の凝集、および架橋剤による凝集も可能である。アルブミンへのペプシン処理抗体(Fabフラグメント)を用いた再活性化による凝集、シー・パルバム(C. parvum)のような細菌細胞もしくはエンドトキシンもしくはグラム陰性細菌のリポ多糖類成分との混合物、マンニドモノ−オレエート (Aracel A)のような生理学的に許容される油賦形剤中の乳化物、またはブロック代替物として用いられるペルフルオロカーボン(Fluosol-DA)の20%溶液との乳化物も用いることができる。スクアレンおよびIFAのような油との混合物も好ましい。
【0137】
本発明によると、DDA(ジメチルジオクタデシルアンモニウム ブロミド)は、DNAおよびγ−イヌリンと同様にアジュバントとして興味深い候補であるだけでなく、フロイントの完全アジュバントおよび不完全アジュバント、ならびにQuilAおよびQS21のようなキラヤサポニンもRIBIと同様に興味深い。更なる可能性は、モノホスホリルリピドA (MPL)、上記のC3およびC3d、ならびにムラミルジペプチド(MDP)である。
【0138】
リポソーム製剤も、アジュバント効果を与えることが知られており、よって本発明によると、リポソームアジュバントは好ましい。
【0139】
また、免疫刺激複合体マトリックスタイプ (ISCOM(登録商標)マトリックス)アジュバントも、特に、このタイプのアジュバントがAPCによるMHCクラスII発現をアップレギュレーションすることができることが示されているので、本発明による好ましい選択である。ISCOM(登録商標)マトリックスは、キラヤ・サポナリア(Quillaja saponaria)からの(任意に分画された)サポニン(トリテルペノイド)、コレステロール、およびリン脂質からなる。免疫原性タンパク質と混合した場合、得られる微粒子製剤は、サポニンが60〜70% w/w、コレステロールおよびリン脂質が10〜15% w/w、ならびにタンパク質が10〜15% w/wを構成する、ISCOM粒子として知られるものである。組成物および免疫刺激複合体の使用に関する詳細は、例えばアジュバントに関する上記のテキストに見出されるが、Morein Bら、1995、Clin. Immunother. 3:461〜475、ならびにBarr IGおよびMitchell GF、1996、Immunol. and Cell Biol. 74:8〜25 (両者とも本明細書に参照として組み込まれる)も、完全免疫刺激複合体の製造についての有用な教示を与える。
【0140】
アジュバント効果を達成する、その他の非常に興味深い(よって、好ましい)可能性は、Gosselinら、1992(本明細書に参照として組みこまれる)に記載の技術を用いることである。簡単に、本発明の抗原のような適切な抗原の提示は、抗原を単核/マクロファージ上のFcγ受容体に対する抗体(または抗原結合抗体フラグメント)に結合させることにより増大させることができる。特に、抗原と抗−FcγRIとの間のコンジュゲートは、ワクチン化の目的のための免疫原性を増大させることが示されている。
【0141】
他の可能性は、タンパク質構築物への部分として請求の範囲に記載した標的化および免疫調節物質(とりわけサイトカイン)の使用を含む。この関連において、ポリI:Cのようなサイトカインの合成インデューサーも可能性がある。
【0142】
好適なマイコバクテリア派生物は、ムラミルジペプチド、完全フロイントアジュバント、RIBI、ならびにTDMおよびTDEのようなトレハロースのジエステルからなる群より選択される。
【0143】
好適な免疫標的化アジュバントは、CD40リガンドおよびCD40抗体またはそれらの特異的結合フラグメント(上記の議論参照)、マンノース、Fabフラグメント、ならびにCTLA-4からなる群より選択される。
【0144】
好適なポリマーアジュバントは、デキストラン、PEG、スターチ、マンナンおよびマンノースのような炭水化物;プラスチックポリマー;ならびにラテックスビーズのようなラテックスからなる群より選択される。
【0145】
興味深いその他の免疫応答の調節の手段は、「バーチャルリンパ節」(VLN) (ImmunoTherapy, Inc.、360 Lexington Avenue、New York、NY 10017-6501により開発された専売医用装置)中に、免疫原(任意にアジュバントおよび医薬上許容される担体および賦形剤とともに)を含むことである。VLN(薄い管状の装置)は、リンパ節の構造および機能を模倣している。皮膚の下へのVLNの挿入は、サイトカインおよびケモカインの急な高まりを伴う無菌の炎症の部位を創生する。T細胞およびB細胞とともにAPCは危険信号に迅速に応答し、炎症を起こした部位に戻り、VLNの多孔性マトリックスの内側に蓄積する。抗原に免疫応答を装備するのに要求される必要な抗原投与量は、VLNを用いる場合に減少されることと、VLNを用いたワクチン化により与えられた免疫防御は、アジュバントとしてRibiを用いた通常の免疫化に勝ることとが示されている。この技術は、とりわけGelber Cら、1998、"Elicitation of Robust Cellular and Humoral Immune Responses to Small Amounts of
Immunogens Using a Novel Medical Device Designated the Virtual Lymph Node":"From the Laboratory to the Clinic, Book of Abstracts、October 12th〜15th 1998, Seascape Resort、Aptos、California"に簡単に記載されている。
【0146】
ワクチンは、1年に少なくとも1、2、3、4、5、6および12回のように、年に少なくとも1回投与されるべきであることが予期される。より具体的には、それを必要とする個体に、年に1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11または12回のような年に1〜12回が予期される。本発明による好ましい自己ワクチンの使用により誘導される記憶免疫性は永続せず、したがって免疫系はアナログで定期的に攻撃されることが必要であることがすでに示されている。
【0147】
遺伝的多様性のために、異なる個体が同じポリペプチドに対して変動した強度の免疫応答で反応することができる。したがって、本発明のワクチンは、免疫応答を増加させるためにいくつかの異なるポリペプチドを含んでいてもよく、これは外来T細胞エピトープ導入の選択に関する、上記の議論を参照。ワクチンは2以上のポリペプチドを含むことができ、全てのポリペプチドは、上記で定義したとおりである。
この結果、ワクチンは、3〜10のアナログのような3〜20の異なるアナログを含むことができる。しかしながら、通常は、アナログの数は1または2のアナログのような最小限を維持するようにされる。
【0148】
核酸ワクチン化
ペプチドベースワクチンの伝統的な投与の非常に重要な代替物として、核酸ワクチン化(「核酸免疫化」、「遺伝的免疫化」および「遺伝子免疫化」としても知られる)の技術は、多くの魅力的な特徴を提供する。
【0149】
第一に、伝統的なワクチンのアプローチと比較して、核酸ワクチン化は、免疫原性剤の大規模な製造(例えばタンパク質産生微生物の工業的規模の培養の形態で)を消費する資源を必要としない。さらに、免疫原の精製およびリフォールディングの計画を工夫する必要がない。最後に、核酸ワクチン化は、導入された核酸の発現産物を製造するために、ワクチン化された個体の生化学的器官に頼っているので、発現産物の最適な翻訳後プロセシングが起こることが予期される;これは、上述したように、ポリマーの本来のB細胞エピ
トープのかなりのフラクションが修飾された分子中に保存されるべきであり、B細胞エピトープは、いずれの(生体)分子(例えば炭水化物、脂質、タンパク質など)の部分からも原則として構成することができるので、自己ワクチン化の場合に特に重要である。したがって、免疫原の本来のグリコシル化およびリピド化のパターンは、全体としての免疫原性に非常に重要であり、これは免疫原を産生する宿主を有することにより最も確実にされることが予期される。
【0150】
今回開示されたアナログを用いて観察される増大された発現レベルは、インビボ発現レベルがDNAワクチンの免疫原性効率において決定する因子の一つであるので、DNAワクチン化の効率に非常に重要である。
【0151】
したがって、本発明の好ましい実施形態は、アナログをエンコードする核酸を動物細胞に導入し、それにより、導入された核酸の細胞によるインビボ発現を得ることにより、本発明のアナログの免疫系への提示をもたらすことを含む。
【0152】
本実施形態においては、導入された核酸は、裸のDNA、荷電または非荷電の脂質とともに処方されたDNA、リポソーム中に処方されたDNA、ウイルスベクターに包含されたDNA、トランスフェクション促進タンパク質またはポリペプチドとともに処方されたDNA、標的化タンパク質またはポリペプチドとともに処方されたDNA、カルシウム沈殿剤とともに処方されたDNA、不活性担体分子に結合したDNA、ポリマー、例えばPLGA (WO 98/31398に記載のマイクロカプセル化技術を参照)中またはキチンもしくはキトサン中に被包されたDNA、およびアジュバントとともに処方されたDNAの形態にあり得るDNAが好ましい。この関係において、伝統的なワクチン処方でのアジュバントの使用に適する実用上全ての考慮すべき事柄が、DNAワクチンの処方に当てはまることが記載される。よって、ポリペプチドベースのワクチンの関係におけるアジュバントの使用に関する、本明細書における全ての開示は、必要な変更を加えて、核酸ワクチン化技術におけるその使用に当てはまる。
【0153】
上記で説明したポリペプチドベースのワクチンの投与経路および投与スキームに関し、これらは本発明の核酸ワクチンにも適用可能であり、ポリペプチドについての投与経路および投与スキームに関する上記の全ての議論は、必要な変更を加えて、核酸にも当てはまる。核酸ワクチンは、静脈内および動脈内に適切に投与され得ることをこれに追加するべきである。さらに、核酸ワクチンは、いわゆる遺伝子銃により投与され得ることは当該技術において周知であり、よってこのことおよびこれと同等の投与形態は、本発明の一部分であるとみなされる。最後に、核酸の投与におけるVLNの使用は、良好な結果を生じることが報告されており、よってこの特定の投与形態は特に好ましい。
【0154】
さらに、免疫化剤として用いられる核酸は、例えば有用なアジュバントとして論じたサイトカインのような、上記の免疫調節物質の形態にある、請求の範囲に記載した部分をエンコードする領域を含むことができる。この実施形態の好ましいバージョンは、異なるリーディングフレームでまたは少なくとも異なるプロモーターの制御下で、アナログのコーディング領域および免疫調節剤のコーディング領域を有することを包含する。これにより、アナログまたはエピトープが免疫調節剤の融合パートナーとして産生されるのを回避する。代わりに、2つの別個なヌクレオチド断片を用いることができるが、これは、同じ分子中に含まれた両方のコーディング領域を有する場合に共発現が確実になる利点があるので、あまり好適ではない。
【0155】
したがって、本発明は
−本発明の核酸断片またはベクター(以下の核酸およびベクターの議論を参照)、ならびに−上記の医薬上および免疫学上許容される賦形剤および/または担体および/またはアジュバント
を含む、TNFαに対する抗体産生を誘導するための組成物にも関する。
【0156】
通常の環境において、核酸は、発現がウイルスプロモーターの調節下にあるベクターの形態で導入される。本発明によるベクターおよびDNA断片のより詳細な議論については、以下の議論を参照。また、核酸ワクチンの処方および使用に関する詳細な開示は入手可能であり、Donnelly JJら、1997、Annu. Rev. Immunol. 15:617〜648およびDonnelly JJら、1997、Life Sciences 60:163〜172を参照。これらの両者の参考文献は、本明細書に参照として組み込まれる。
【0157】
生ワクチン
免疫系に対して本発明のアナログを提示する第三の代案は、生ワクチン技術の使用である。生ワクチン化では、免疫系への提示は、本発明のアナログをエンコードする核酸断片またはこのような核酸断片を組み込んだベクターで形質転換した非病原性微生物を、動物に投与することによりもたらされる。非病原性微生物は、いずれの適切な弱毒化細菌株(継代培養によるか、または組換えDNA技術による病原性発現産物の除去により弱毒化)、たとえばマイコバクテリウム・ボビス ビーシージー(Mycobacterium bovis BCG.)、非病原性のストレプトコッカス種(Streptococcus spp.)、イー・コリ、サルモネラ種(Salmonella spp.)、ビブリオ・コレラ(Vibrio cholerae)、シゲラ(Shigella)などであり得る。最新の生ワクチンの製造に関する概説は、例えばSaliou P、1995、Rev. Prat. 45:1492〜1496およびWalker PD、1992、Vaccine 10:977〜990に見出され、両者は本明細書中に参照として組み込まれる。このような生ワクチンで用いられる核酸断片およびベクターについての詳細は、以下の議論を参照。
【0158】
細菌の生ワクチンの代替物として、ワクシニア株またはいずれの他の適切なポックスウイルスのような非ビルレントウイルスワクチンベクターに、以下で論じられる本発明の核酸断片を組み込むことができる。
【0159】
通常、非病原性微生物またはウイルスは、動物に一度のみ投与されるが、寿命の間に1回以上微生物を投与して、防御免疫を維持することが必要な場合がある。ポリペプチドワクチン化について上記で詳述したような免疫化スキームが、生またはウイルスワクチンを用いる場合に、有用であろうことが考えられる。
【0160】
代わりに、生またはウイルスワクチン化を、その前またはその後のポリペプチドおよび/または核酸ワクチン化と組み合わせる。例えば、生またはウイルスワクチンによる一次免疫化をもたらし、続いてポリペプチドまたは核酸アプローチを用いてブースター免疫化を行うことが可能である。
【0161】
微生物またはウイルスは、例えば有用なアジュバントとして論じたサイトカインのような、上記の免疫調節物質の形態にある上述の部分をエンコードする領域を含む核酸で形質転換することができる。この実施形態の好ましいバージョンは、アナログのコーディング領域および免疫調節剤のコーディング領域を、異なるリーディングフレームで、または少なくとも異なるプロモーターの制御下で有することを包含する。これにより、アナログまたはエピトープが免疫調節剤の融合パートナーとして産生されるのを回避する。代わりに、2つの別個なヌクレオチド断片を形質転換の剤として用いることができる。もちろん、アジュバント部分を同じリーディングフレームに有することは、発現産物として本発明のアナログを提供することができるので、このような実施形態は、本発明において特に好ましい。
【0162】
組み合わせ治療
本発明を実施する特に好ましい形態の一つは、第一(一次)免疫化としての核酸ワクチン
化の使用、続いて、上述したようなポリペプチドベースのワクチンまたは生ワクチンでの第二(ブースター)免疫化を含む。
【0163】
疾患の治療における本発明の方法の使用
関係する疾患/条件は、リウマチ性関節炎、若年性慢性関節炎、脊椎関節症、多発筋炎、皮膚筋炎、脈管炎、乾癬(斑)および乾癬性関節症、Mb.クローン、慢性閉塞性肺疾患、脊髄形成異常症候群、リウマチ性関節炎におけるブドウ膜炎、急性肺機能不全、喘息(急性および慢性の両方)、ヴェグナー肉芽腫症、過敏性腸疾患、側頭下顎骨の障害(有痛性顎関節)、口内炎骨粗しょう症(stomatitisosteoporosis)、および癌悪液質、ならびに一般にTNFαの有害反応に関連があると当該技術でみなされているその他の炎症性疾患およびその他の症状である。したがって、マルチマータンパク質の活性をダウンレギュレーションする本発明の方法を用いることにより、これらの疾患のいずれかに関連する症状の治療または改善が可能である。
【0164】
本発明の組成物
本発明は、本発明の方法の行使において有用な組成物にも関する。したがって、本発明は、上記で定義したアナログを免疫原的有効量含む免疫原性組成物に関し、該組成物は、さらに、医薬上および免疫学上許容される希釈剤および/または賦形剤および/または担体および/または医薬添加物、ならびに任意にアジュバントを含む。言いかえると、本発明のこの部分は、本質的に上述したように、アナログの処方に関する。アジュバント、担体および賦形剤の選択は、ペプチドワクチン化のためのアナログの処方について言及するときに上記で論じたことに従う。
【0165】
アナログは、当該技術において周知の方法により製造される。より長いポリペプチドは、アナログをエンコードする核酸配列の適切なベクターへの導入、該ベクターによる適切な宿主細胞の形質転換、(宿主細胞を適切な条件下で培養することによる)核酸配列の発現、宿主細胞またはその培養上清からの発現産物の回収、ならびにその後の精製および任意の更なる改変、例えばリフォールディングまたは派生(derivatization)を含む組換え遺伝子技術の手段により、通常、製造される。必要な道具に関する詳細は、以下の「本発明の核酸断片およびベクター」の標題の下だけでなく、実施例においても見出される。このセクションでは、アナログの好ましい組換え製造方法、すなわち可溶性TNFα変異型を得るためのイー・コリの低温培養も記載される。
【0166】
ペプチド合成技術における最近の進歩は、これらの手段による全長ポリペプチドおよびタンパク質の製造を可能にし、したがって固相または液相ペプチド合成の周知の技術の手段により、長い構築物を製造することも本発明の範囲内である。
【0167】
本発明の核酸断片およびベクター
改変ポリペプチドが、組換え遺伝子技術だけでなく化学合成または半合成により製造できることが、上記の開示から認められるであろう;後者の2つの選択は、改変がタンパク質担体(KLH、ジフテリアトキソイド、破傷風トキソイド、およびBSAのような)と、炭水化物ポリマーのような非タンパク性分子との結合からなるか、またはそれを含む場合、ならびに改変がポリマー由来ペプチド鎖への側鎖もしくは側方の基の付加を含む場合にももちろん、特に適切である。これらの実施形態は、上記から理解されるように、好ましいものではない。
【0168】
組換え遺伝子技術の目的のために、およびもちろん核酸免疫化の目的のために、アナログをエンコードする核酸断片(それらの相補的配列も同様)は重要な化学産物である。よって、本発明の重要な部分は、本明細書に記載のアナログ、すなわち上記で詳述したような、ポリマー由来人工ポリマーポリペプチドをエンコードする核酸断片に関する。本発明
の核酸断片は、DNAまたはRNA断片のいずれかである。
【0169】
本発明の最も好ましいDNA断片は、配列番号12、13、14、16、17および18のいずれをエンコードする核酸配列からなる群より選択される核酸配列、またはこれらのいずれに相補的な核酸配列を含む。
【0170】
本発明の核酸断片は、通常、適切なベクターに挿入され、本発明の核酸断片を有するクローニングまたは発現ベクターを形成する;このような新規なベクターもまた本発明の一部分である。本発明のこれらのベクターの構築に関する詳細は、形質転換細胞および微生物の関係において以下で論じる。ベクターは、使用の目的およびタイプに応じて、プラスミド、ファージ、コスミド、ミニ染色体またはウイルスの形態にあり得るだけでなく、特定の細胞において一過的に発現するだけの裸のDNAも重要なベクターである(そしてDNAワクチン化において有用である)。本発明の好ましいクローニングおよび発現ベクターは自律複製が可能であり、それにより、後に続くクローニングのための高レベル発現または高レベル複製を目的とする高いコピー数を可能にする。
【0171】
本発明のベクターの全体的な概要は、5'→3'方向に実施可能な連鎖で次の特徴を含む:本発明の核酸断片の発現を推進するプロモーター、必要により、ポリペプチドフラグメントの(細胞外の相へ、もしくは適用可能である場合にはペリプラズムへの)分泌または膜への組み込みを可能にするリーダーペプチドをエンコードする核酸配列、本発明の核酸断片、および必要により、ターミネーターをエンコードする核酸配列である。生産株または細胞系統において発現ベクターとともに機能する場合、形質転換細胞の遺伝的安定性を目的として、宿主細胞に導入されたときのベクターが、宿主細胞ゲノムに組み込まれることが好ましい。これに対して、動物においてインビボ発現をもたらすために用いるベクターとともに作用する場合(すなわち、DNAワクチン化においてベクターを用いる場合)、ベクターが宿主細胞ゲノムに組み込まれることができないことが、安全性の理由から好ましい;典型的に、裸のDNAまたは非組み込みウイルスベクターが用いられ、その選択は当業者に周知である。
【0172】
本発明のベクターを用いて宿主細胞を形質転換し、本発明の改変TNFαポリペプチドを産生する。本発明の一部分でもあるこのような形質転換細胞は、本発明の核酸断片またはベクターを増殖させるのに用いるか、または本発明の改変TNFαポリペプチドの組換え産生に用いる培養細胞または細胞系統であり得る。代わりに、形質転換細胞は、改変TNFαの分泌、または細菌の膜もしくは細胞壁への組み込みをもたらすように核酸断片(単一または多コピー)が挿入された、適切な生ワクチン株であり得る。
【0173】
本発明の好ましい形質転換細胞は、細菌(エシェリヒア[例えばイー・コリ]、バチルス(Bacillus) [例えばバチルス・サチリス(Bacillus subtilis)]、サルモネラ、またはマイコバクテリウム[好ましくは非病原性の、例えばエム・ボビス ビーシージー]種)、酵母(例えばサッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae))、ならびに原虫のような微生物である。代わりに、形質転換細胞は真菌、昆虫細胞、植物細胞、または哺乳動物細胞のような多細胞生物に由来する。最も好ましくは、ヒト由来の細胞であるが、これは以下の細胞系統およびベクターの議論を参照。最近の結果は、市場で入手可能なドロソフィラ・メラノガスター(Drosophila melanogaster)細胞系統(Invitrogenから入手可能なスナイダー2 (S2)細胞系統およびベクター系)の、本発明のTNFαアナログの組換え産生のための使用に大きな見込みを示し、したがってこの発現系は特に好ましく、よってこのタイプの系も、一般に、本発明の好ましい実施形態である。
【0174】
クローニングおよび/または最適化された発現の目的のために、形質転換細胞が本発明の核酸断片を複製することができることが好ましい。核酸断片を発現する細胞は、本発明
の好ましい有用な実施形態である;これらは、アナログの小規模または大規模の製造のために、または非病原性細菌の場合には、生ワクチン中のワクチン構成成分として用いることができる。
【0175】
形質転換細胞により本発明のアナログを製造する場合に、少しも必須ではないが、発現産物が培地中に運び出されるか、または形質転換細胞の表面上にあるかのいずれかが便利である。なぜなら、これらのオプションの両方は、その後の発現産物の精製を促進するからである。
【0176】
効果的な産生細胞が同定された場合、それを基礎として、本発明のベクターを有し、改変TNFαをエンコードする核酸断片を発現する安定な細胞系統を樹立することが好ましい。好ましくは、この安定な細胞系統は、本発明のTNFαアナログを分泌するかまたは有し、それによりその精製を促進する。
【0177】
一般に、宿主細胞に影響を与えない種に由来するレプリコンおよび調節配列を含むプラスミドベクターは、宿主と関連して用いる。ベクターは、通常、複製部位とともに、形質転換細胞において表現型の選択を提供し得るマーキング配列を有する。例えば、イー・コリは、イー・コリ種に由来するプラスミド、pBR322を用いて典型的に形質転換される(例えばBolivarら、1977参照)。pBR322プラスミドは、アンピシリンおよびテトラサイクリン耐性遺伝子を含み、したがって形質転換細胞を同定するのに簡単な手段を提供する。pBRプラスミド、またはその他の微生物のプラスミドもしくはファージは、発現のために原核細胞微生物により使用され得るプロモーターも含まなければならないか、含むように改変されなければならない。
【0178】
これらのプロモーターは、B-ラクタマーゼ(ペニシリナーゼ)およびラクトースプロモーター系(Changら、1978;Itakuraら、1977;Goeddelら、1979)およびトリプトファン(trp)プロモーター系(Goeddelら、1979;EP-A-0 036 776)を含む原核生物の組換えDNA構築において、最も一般的に用いられる。これらは最も一般的に用いられるが、その他の微生物のプロモーターが発見されて使用され、これらの核酸配列に関する詳細が発表され、当業者がそれらをプラスミドベクターと機能的に連結することを可能にしている(Siebwenlistら、1980)。原核生物からのある遺伝子は、人為的な手段による他のプロモーターの付加を必要とすることなく、それ自身のプロモーター配列からイー・コリにおいて効率的に発現することができる。
【0179】
本発明によると、原核細胞内でのTNFαアナログの製造が実施例9のように可溶性タンパク質の供給をもたらすことが好ましく、産生に用いられる宿主細胞がイー・コリ細胞であることが特に好ましい。
【0180】
今回、本発明者らにより、可溶性TNFα変異型はイー・コリ内の低温の培養で比較的簡単かつ簡便に製造されることが示されている。イー・コリの従来の培養方法は、通常、約37℃付近の温度を用いるが、本発明者らにより、可溶性TNFα変異型の収率が、32℃未満の温度で培養させることにより増加可能であり、組換えタンパク質の全体の収率は約37℃での培養の後よりも低いが最も適切な変異型の収率はかなり高くなり、不溶性で変性したタンパク質のリフォールディングが必要ないことが見出されている。
【0181】
簡単に、本発明の典型的な培養プロセスは、培養槽への形質転換細菌の接種の工程、充分量のバイオマスを得るための後続の培養の工程、続いて組換え体の発現の誘導の工程および最後に組換えタンパク質の回収の工程を含む。誘導可能な系を用いることは必須ではないが、より簡便である。
【0182】
よって、本発明の重要な観点は、本発明のTNFα変異体の細菌、特にイー・コリ内での組換え産生に関し、ここで少なくとも組換えTNFαアナログ産生の誘導の後の段階は、32℃未満の温度で行なわれる(つまり、誘導可能な系を用いる場合)。しかし、実施例9では、全ての培養(誘導の前および後の両方)をこのような低温で行う場合に、可溶性組換えTNFαアナログの最も高い収率を示している。
【0183】
培養の2つの段階(誘導の前および後)のいずれかにおける低下させた温度は、30℃未満、例えば29、28、27、26、25、24、23、22、21または20℃未満が好ましい。温度は20〜30℃の間の範囲が好ましく、より好ましくは22〜28℃の間の範囲であり、最も好ましくは温度は約25℃である。実施例9に示すように、可溶性TNFαアナログの100%に近い収率は、この温度で培養するときに得られている。
【0184】
本発明の可溶性TNFα変異型の産生のための低温条件が、このような培養により得られる全タンパク質の収率が37℃での培養により達成されるものより低くても、免疫原性タンパク質の可溶性変異型の組換え産生に一般的に適用可能であり、有用な三次元構造を有するタンパク質の最終的な収率が低温条件を用いる場合にかなり高くなり、そして重要なことに、リフォールディングの手順に消費されるその後の時間と資源が回避できると本発明者らが考えていることが注目される。あるいは、簡単に、変異型タンパク質の所望される立体配置の収率は、より高い。
【0185】
よって、本発明者らは、上記の低温培養条件を用いるストラテジがタンパク質の有用な免疫原性変異型を産生するのに一般的に適用可能な方法であることを提案する。
【0186】
原核生物に加えて、酵母培養のような真核微生物も用いることができ、ここでプロモーターは発現を推進することが可能であるべきである。サッカロミセス・セレビシエ、または通常のパン酵母は、いくつかのその他の株も通常入手可能であるが、真核微生物中で最も一般的に用いられる。サッカロミセス中での発現には、たとえばプラスミドYRp7が一般的に用いられる(Stinchcombら、1979;Kingsmanら、1979;Tschemperら、1980)。このプラスミドは、トリプトファン中で成長する能力が欠失した酵母の変異株、例えばATCC No.44076またはPEP4-1 (Jones、1977)に対して選択マーカーを提供するtrpl遺伝子を予め含む。よって、酵母宿主細胞ゲノムの特徴としてのtrpl欠損の存在は、トリプトファンの不在下での成長により形質転換を検出する、効果的な環境を提供する。
【0187】
酵母ベクター中の適切なプロモーター配列は、3−ホスホグリセレートキナーゼ(Hitzmanら、1980)、またはエノラーゼのような他の糖分解酵素(Hessら、1968;Hollandら、1978)、グリセルアルデヒド−3−ホスフェートデヒドロゲナーゼ、ヘキソキナーゼ、ピルベートデカルボキシラーゼ、ホスホフルクトキナーゼ、グルコース−6−ホスフェートイソメラーゼ、3−ホスホグリセレートムターゼ、ピルベートキナーゼ、トリオースホスフェートイソメラーゼ、ホスホグルコースイソメラーゼ、およびグルコキナーゼのプロモーターを含む。適切な発現プラスミドの構築において、これらの遺伝子に関連する終結配列は、発現ベクター中で発現が所望される配列の3'に連結され、mRNAのポリアデニル化および停止を提供する。
【0188】
成長条件により制御される転写の付加的な利点を有するその他のプロモーターは、アルコールデヒドロゲナーゼ2、イソシトクロムC、酸性ホスファターゼ、窒素代謝に関する分解酵素、および上記のグリセルアルデヒド−3−ホスフェートデヒドロゲナーゼ、ならびにマルトースおよびガラクトース利用の原因である酵素のプロモーター領域である。酵母に矛盾しないプロモーター、複製起点および終結配列を含むいずれのプラスミドベクターも適切である。
【0189】
微生物に加えて、多細胞生物由来の細胞培養も宿主として用いることができる。原則として、そのような細胞培養は、脊椎動物または無脊椎動物培養のいずれからであっても機能し得る。しかしながら、脊椎動物細胞における興味は最大になっており、培養(組織培養)での脊椎動物の増殖は、近年、ルーチンの手順となっている(Tissue Culture、1973)。このような有用な宿主細胞系統の例は、VEROおよびHeLa細胞、チャイニーズハムスター卵巣 (CHO)細胞系統およびW138、BHK、COS-7 293、スポドプテラ・フルギペルダ(Spodoptera frugiperda) (SF)細胞(とりわけProtein Sciences、1000 Research Parkway、Meriden、CT 06450、U.S.A.およびInvitrogenからの完全発現系として市場で入手可能)、ならびにMDCK細胞系統である。本発明においては、Invitrogen、PO Box 2312、9704 CH Groningen、The Netherlands から入手可能な昆虫細胞系統であるS2が特に好ましい細胞系統である。
【0190】
このような細胞の発現ベクターは、(必要であれば)複製起点、いずれかの必要なリボソーム結合部位とともに、発現される遺伝子の上流に位置するプロモーター、RNAスプライス部位、ポリアデニル化部位、および転写終結配列を通常含む。
【0191】
哺乳動物細胞における使用には、発現ベクター上の調節機能がウイルス材料からしばしば提供される。例えば、一般的に用いられるプロモーターは、ポリオーマ、アデノウイルス2、最も頻繁にはシミアンウイルス40 (SV40)またはサイトメガロウイルス(CMV)に由来する。SV40ウイルスの初期および後期プロモーターはどちらも、SV40ウイルスの複製起点も含む断片としてウイルスから簡単に得られるので、特に有用である(Fiersら、1978)。ウイルスの複製起点内に位置するHindIII部位からBglI部位に広がる約250 bpの配列を含むのであれば、より小さいまたはより大きいSV40断片を用いることもできる。さらに、所望する遺伝子配列と通常関連するプロモーターまたは調節配列を用いることが、このような調節配列が宿主細胞系に影響を及ぼさないのであれば可能であり、しばしば所望される。
【0192】
複製起点は、SV40またはその他のウイルス(例えばポリオーマ、アデノ、VSV、BPV)に由来するような外来の起点を含むベクターの構築により提供されるか、または宿主細胞の染色体複製機構により提供されるかのいずれかであり得る。ベクターが宿主細胞の染色体に組み込まれる場合、後者がしばしば充分である。
【0193】
実施例1
TNFα変異型の作製
野生型ヒトTNFαモノマーポリペプチド(配列番号10)をエンコードする合成DNA配列"SMTNFWT3" (配列番号9)は、Entelechon GmbHからライゲーション産物として届けられた。ヒトhTNFαのDNA配列は、コドンユーセージデータベース(Codon Usage Database)に従って、イー・コリ中での頻度が10%未満の全てのコドンを除くことにより、イー・コリ中での発現に最適化された。さらに、配列は、その後のクローニング工程のために、5' NcoI制限部位を含むように設計された。
【0194】
SMTNFWT3ライゲーション産物をpCR 4 TOPOブラントベクターに挿入し、イー・コリDH10B細胞を形質転換した。得られたSMTNFWT3TOPOクローンの10クローンからのプラスミドDNAを精製し、(制限酵素(RE)消化により分析されたときに)予想される断片を含む5クローンを選択した。
5つの正しい可能性があるSMTNFWT3TOPOクローンからのNcoI/EcoRI DNA断片を単離して、pET28b(+)ベクターに移して、配列を決定した。挿入、欠失または置換が4クローンにおいて同定され、1クローンが正しいようであった。正しい構築物である、SMTNFWT3pET28を、その後、全ての単一TNFα変異型の作製のための鋳型として用いた。
【0195】
実施例2
TNF34構築
PanDRエピトープアミノ酸配列(配列番号6および8)を、イー・コリ中での発現に最適なDNA配列(配列番号7)に手動で「逆翻訳」して(以下を参照)、SOE PCRによりTNFαのループ3に挿入した。
得られた構築物(WO 03/042244号の配列番号19をエンコードするDNA配列)を、pET28b+ベクターに位置させ、TNF34-pET28b+を得た。
【0196】
実施例3
モノマー化されたトリマー構築物
モノマー化されたトリマー構築物は、トリグリシンリンカーおよび/またはエピトープエンコード領域のいずれかにより分離された3つのTNFαエンコード領域をベースとする。
TNFα遺伝子は、3つの別々の単位として合成された。3つの断片はSOE PCRにより組み立てられ、組み立てられた遺伝子(WO 03/042244号の配列番号21)を、pCR2.1-TOPO中にクローニングした。配列の確認後、正しいクローンを単離した。hTNFT_0遺伝子(WO 03/042244号の配列番号22、TNFα-GlyGlyGly-TNFα-GlyGlyGly-TNFαをエンコードするWO 03/042244号の配列番号21、すなわち2つのトリグリシンリンカーにより分離された配列番号17の3コピー)を、pET28b+に移してhTNFT_0-pET28b+を得た。正しいクローンを単離し、配列を確認し、BL21-STAR、BL21-GOLDおよびHMS174のイー・コリ系統中に形質転換した。
【0197】
hTNFT_0-pET28b+を鋳型として用いて、次の4つのモノマー化されたトリマー変異型をSOE PCRにより作製した:hTNFT_1、hTNFT_2、hTNFT_3およびhTNFT_4 (WO 03/042244号の配列番号49、51、57および59)。更なる変異型(WO 03/042244号の配列番号53)は、同様の方法で作製することができる。
hTNFT_1、hTNFT_2およびhTNFT_3は、SOE PCRの2循環により組み立てられる必要がある破傷風トキソイドエピトープP2およびP30 (それぞれ配列番号2および4)を含む変異型である。hTNFT_4は、PADRE (配列番号6)挿入をもつ変異型であり、SOE PCRの1循環により組み立て可能である。更なる変異型(WO 03/042244号の配列番号55)は、同様の方法により作製可能である。
【0198】
hTNFT_4は、上記の方法により構築され、hTNFT_4-pET28b+の正しいクローンは、TOP 10細胞に見出され、構築物をBL21-STARおよびHMS174細胞に移した。
hTNFT_1、hTNFT_2およびhTNFT_3を構築するために、SOE PCRによりエピトープをトリマーの非常に小さいフラグメントに挿入し、これをRE切断およびライゲーションによりhTNFT_0-pET28b+に挿入した。
【0199】
実施例4
TNF34変異体の安定化
上記のTNF34-pET28b+変異型をさらに安定化するために、過剰のジスルフィドブリッジの導入を含む変異型とともに欠失変異体を構築した。3つの異なる変異型を構築した:
TNF34-A-pET28b+ は、Q67CおよびA111Cの置換を含み、TNF34-B-pET28b+はA96CおよびI118Cを含み、そしてTNF34-C-pET28b+は、8つの最もN末端のアミノ酸の欠失を含む−発現産物のアミノ酸配列を、WO 03/042244号の配列番号20、30および31に示す。
3つ全ての構築物をSOE PCRを用いて作製し、BL21-STAR、BL21-GOLDおよびHMS174にクローニングし、続いて配列の確認を行った。
【0200】
実施例5
可動性ループの変異型
TNF34-pET28b+変異型に比べて向上された特性を示すであろう変異型を見出すために、PADRE挿入(配列番号6)をTNFα分子の可動性ループ3の周辺に移動した構築物を作製した。
これらの全て:TNF35-pET28b+、TNF36-pET28b+、TNF37-pET28b+、TNF38-pET28b+、TNF39-pET28b+、およびPADREが分子のC末端に位置する変異型;TNFC2-pET28b+を、SOE PCR技術により作製し、BL21-STAR、BL21-GOLDおよびHMS174にクローニングし、その後、配列確認をした。発現産物のアミノ酸配列を、WO 03/042244号の配列番号23、24、24、26、27および28に示す。
【0201】
発現系として昆虫細胞を用いることの可能性を評価するためにも、TNFWT、TNF34、TNF35、TNF36、TNF37、TNF38、TNF39およびTNFC2を、p2Zop2f ベクター(PCT/DKI02/00764号の図1参照)に移し、S2昆虫細胞中で発現させた。
【0202】
実施例6
その他の構築物
多数のさらなるTNFα変異型を作製し、全てをTNFXと名付けた。上記を参照。これらの変異型をエンコードするDNAは、SOE PCRにより作製され、pET28b+に直接クローニングされる。
正しいTNFXクローンを、BL21-STARおよびHMS174に形質転換し、その後、配列を確認する。
【0203】
実施例7
ペリプラズム発現
LTBリーダー配列を、TNF34-pET28b+中でWO 03/042244号の配列番号16のすぐ上流に付加し、ペリプラズム間隙への発現をねらいとする。
【0204】
実施例8
哺乳動物発現
哺乳動物細胞での発現を試験するために、WO 03/042244号の配列番号16およびTNF34をエンコードするDNAを、市場で入手可能なpCIベクター(プロメガコーポレーション)の変異型であるpHP1ベクターに移す。pHP1は、pCIのAmpR遺伝子の代わりに、マーカーとしてカナマイシン耐性遺伝子を含む。
【0205】
実施例9
イー・コリからの可溶性タンパク質の最適化された産生
導入
TNFαおよびその変異型の最初の発現が、イー・コリ細胞から発現されたときに非常に制限された量の可溶性タンパク質しかもたらさなかったので、TNFα変異型の発現レベルと溶解性を大きく改良して迅速で簡便なタンパク質発現系を確保することが課題であった。
【0206】
アプローチ
最初の実験を振とうフラスコで行い、そこで得られた経験を培養槽を用いて作業するときに用いた。3つの培養槽を同時に運転し、細胞増殖、TNFαの産生および分解のレベルの分析のためにサンプルを培養の間に採取した。
【0207】
目的
この研究の目的は、合成増殖培地中でHMS174イー・コリ細胞において発現されるときの免疫原性TNFα変異型の発現のための最適増殖条件を規定することであった。
【0208】
材料および方法
原料
合成最少培地を用いる培養のための原料
【0209】
【表2】

【0210】
培地およびバッファー組成
本培養培地の調製
【0211】
【表3】

【0212】
項目1〜8を、記載された順序で最終容量の約50%の脱イオン水中に溶解し、完全に溶解するまでよく混合する。次いで、容量を最終容量(オートクレーブ後に加える容量は差し引く)に合わせ、培養槽に移し、オートクレーブにより滅菌する。
項目9〜11を混合し、無菌的に冷却した培養槽(37℃)に移した。pHを7に調整する。
【0213】
前培養培地の調製
【0214】
【表4】

【0215】
所望の容量の項目1〜9のストック溶液を1Lのメスフラスコに移す。RO水を955 mLまで加える。pHを測定し、必要であればpH 7.0に合わせる。溶液を攪拌し、4つの1000 mL振とうフラスコに238 mLずつ移す。オートクレーブの後、オートクレーブできない成分である項目10〜12を振とうフラスコに無菌的に加える。
【0216】
微量塩溶液の調製
【0217】
【表5】

【0218】
成分を最終容量の約20%中に混合する。酸性RO水(pH = 1)を1000 mLまで加える。全ての塩が溶解するまで溶液の攪拌を続ける。溶液を1Lの青いふたの瓶に移し、オートクレーブする。
【0219】
硫酸鉄溶液の調製
【0220】
【表6】

【0221】
塩化鉄溶液の調製
【0222】
【表7】

【0223】
装置
培養槽
【0224】
【表8】

【0225】
InFors Labfors培養槽システムは、それぞれ0.5〜1.6Lの稼動容量である6つの2L培養槽
と、データの獲得および処理のためのソフトウェア(Iris NT 4.1 for Windows(登録商標))をインストールしたコンピュータに接続されたMaster Controlling Unitとからなる。
【0226】
方法
発現された可溶性タンパク質のパーセンテージを評価する最初の実験を、250 mLの振とうフラスコ中、約200 rpm/分で振とうするインキュベータ内に60μ/mLのカナマイシンを含むリッチ培地中で行なった。
TNFαタンパク質の発現をウェスタンブロットおよびクマシー染色SDS-PAGEを用いて、ともにHMS174およびBL21 Star菌株内で評価した。全TNFα発現および可溶性TNFα発現の両方を、細胞を溶解し、サンプルを遠心分離工程(20,000×gで10分)の前後に上清から回収することにより評価した。可溶性TNFαのパーセンテージを、ウェスタンブロットを「観察する(eyeballing)」ことにより評価した。
【0227】
異なる温度の組み合わせを試験した。ほとんどの場合、バイオマスを37℃で調製し、その後に誘導し、25℃(37/25)または37℃(37/37)の発現温度を試験した。
TNF37 (A145R) (配列番号13)を、発現のモデル変異型として選択し、次いで合成培地を用いて振とうフラスコ中に37/25℃の組み合わせを用いて試験した。
【0228】
研究細胞バンクの創設
TNF37 (A145R)の研究細胞バンク(Research cell bank; RCB)を、225 mlのYEMを含む予め37℃に温めた1Lのバッフルを備えた振とうフラスコに、カナマイシン60μg/mlを含むYEM中のON培養物250 mlからの25 mlを植菌し、37℃、200 rpmで3時間半増殖させることにより、カナマイシン60μg/mlを含む酵母培地(YEM)中に確立した。指数増殖細胞培養物60 mlを86%グリセロール140 mlと混合し、1 mlの一定量に分けることにより同じグリセロール凍結ストックを作成した。これらの一定部分を−80℃で貯蔵し、1つの一定部分を培養の前の前培養に用いる。
【0229】
RCBの質を測定するために、カナマイシン60μg/mlを含む前培養培地250 mlを含む3つの前培養フラスコにRCBの一定部分を植菌してOD600を追跡した。
培養物は、植菌後11時間までは同じようにふるまい、このときにOD600は〜3.2に達した。以下の実験の全てにおいて、上記の条件下で11時間増殖した前培養50 mlを1Lの培養槽に植菌することを決定した。
【0230】
培養槽条件の最適化
最適な培養条件を決定するために、Inforss培養槽内で増殖している培養物からサンプルを採取し、分光光度法によりOD600を分析し、TNF発現レベルを定量TNF特異的ELISAにより測定し、TNF分解をウェスタンブロッティングにより測定した。
培養は、異なる温度条件、25℃/25℃、25℃/25℃/16℃、37℃/25℃および37℃/37℃で試験した。
OD600およびTNF発現を多数のサンプルについて試験し、TNF発現に関するいくつかの代表サンプルをウェスタンブロットによりさらに分析して分解を調べた。
【0231】
概要
一般的なプロセスパラメータ
【0232】
【表9】

【0233】
特異的なプロセスパラメータ
【0234】
【表10】

【0235】
IPTG濃度は1 mMであり、誘導時の温度は、37/37℃および25/25℃プロセスを除いて37℃から25℃に下げた。全培養時間は37/37℃プロセスについて14〜18時間の間であり、25/25℃および37/25℃プロセスについて61時間までであり、これは増殖、誘導およびタンパク質産生を含む。全培養時間は培養物の増殖に依存する。培養槽中のOD600開始は、種培地のOD から算出して0.1〜0.3の間(前培養で2〜6)であった。37/25℃プロセスでは誘導をOD600 = 20±1〜2または植菌後9〜11時間で行なった。タンパク質産生は20〜24時間起こった。25/25℃での誘導プロセスをOD600 = 10±1〜2または植菌後22〜24時間で行なった。タンパク質産生は24〜36時間起こった。
【0236】
TNFα変異型の発現
TNFの発現レベルを、2つの1 mlのサンプルを採取して−20℃に貯蔵することにより試験した。次いでサンプルを氷上で解凍し、サンプルが加熱されるのを防ぐために間に少なくとも30秒間氷上において3×30秒間超音波破砕した。サンプルを20,000×gで10分間遠心分離し、TNFα定量ELISAを用いて上清をTNFα含量について試験した。
プロセスの一般的な概要は、図1のフローチャートに見ることができる。
【0237】
結果および考察
本研究において行われた実験は、振とうフラスコおよび培養槽の両方で25℃において発現されたときに、可溶性TNFの発現が非常に増加することを示した。
【0238】
振とうフラスコ実験
リッチ培地100 mlに、5 mlのON培養物を植菌し、37℃で増殖させた。培養がOD600に達したときに培養物を1 mM IPTGで誘導した。同じときに、37℃で増殖した培養物を37℃に保つかまたは25℃に移行させるかのいずれかにし、ここで一晩増殖させた。次の日に細胞を回収し、溶解して全TNFα変異型および可溶性TNFα変異型について分析した。
【0239】
結果は、誘導の時点での37℃から25℃への温度のシフトが発現された可溶性TNFの量に大きな正の影響を有したことを示したので、以下の実験についてこの温度シフトを続けることに決定した。
【0240】
選択された変異型
全ての変異型を上記のようにして試験し、TNF34、TNF34A、TNF37、TNFX5.1、TNFX2.1およびTNF_T2は、さらなる探索について充分に高いレベルを発現するので選択した。
【0241】
上記の構築物の無毒化バージョンが入手可能である場合、これらの変異型の発現を試験したが、結果は無毒化されていないバージョンの発現レベルに匹敵したことを示した。
【0242】
培養槽での発現
合成培地内でのTNFα変異型の発現を試験するために、上記と同じ条件(37℃/25℃)で振とうフラスコ内において最初の実験を行った。一晩誘導された培養物は、充分なレベルのTNFα変異型の発現を示したので、TNFα変異型の発現量を最適化しかつ発現された変異型において未だにみられる変異型の分解を最小限にするために、培養槽内での発現を試験することを決定した。
【0243】
細胞増殖
研究細胞バンクを上記のようにして作製し、この前培養を用いて、1Lの培養槽にOD600が3〜4までの前培養50 mlを植菌した。培養槽を選択した温度(37℃または25℃)に予め加熱して温度ショックを最小限にした。37℃の培養槽の場合、細胞はいずれの誘導期も示さずに指数増殖を続けた。37℃の前培養を25℃の培養槽に植菌したときに、細胞は、より遅い速度での指数増殖を開始する前に約17時間の誘導期を有した。これは、この場合に細胞が付される温度ショックの結果であると考えられる。
【0244】
37℃の培養を誘導の直前に25℃にシフトしたときにも同様の誘導期が見られた。37℃から25℃へ1時間かけて(10分当たり2℃)ゆっくり温度シフトする試みは、誘導期を減少させなかった。
【0245】
TNFα変異型の発現レベル
発現レベルをTNFα特異的定量ELISAにより測定した。
25/25℃プロセスにおいて見られた最高のレベルは、約250 mg/lのレベルであった。これらの実験は単一の検査のみであり、誘導後15〜35時間の間の時間も分析されないままである。
37/37℃のプロセスは、約15 mg/lの非常に制限された量の可溶性TNFαのみを与え、37/25℃プロセスは100 mg/l付近で頂点に達するようである。
【0246】
結果
全体で100を越える培養からの結果に基づいて、可溶性TNFα変異型タンパク質の産生について2つの上流の(upstream)プロセスを(全体で6つから)選択した。培養を合成最少培地中で行なった(以下の記載を参照)。選択した培養プロセスは、4つの異なる温度組み合わせを試験した温度の研究に基づいた。試験したTNFα変異型は、イー・コリHMS174株のTNF37-145であった。
最適な結果は、25℃を誘導の前後の両方に用いて得られた。最適な回収時間は決定されないままである。
【0247】
実施例10
選択アッセイ
ポリクローナルELISAとともに直接受容体ELISA、ならびにKD-4およびWehi細胞を用いる細胞毒性アッセイを、スクリーニングの最初のラインアッセイとして用い、続いて精製を行う。TNFα変異型に対して産生された抗体は、受容体および細胞毒性アッセイの両方においてwtTNFαの結合を阻害するのに用い、抗体の質を測定する。
【0248】
実施例11
精製手順
この実施例においては、TNFα変異型の一つ(TNF37)の組換え産生およびそれに続く精製を詳細に記載する。しかしながら、精製手順は本発明による好ましいものであり、本発明のその他のTNFα変異型についても(各変異型について適切なわずかな調整とともに)用いることができる。
【0249】
しかしながら、今回、本発明者らはTNFα変異型の大規模培養に特に適する改良された精製スキームについて研究している。基本的に、以下に記載のものと同じ個別の工程を用いるが、SP-セファロースおよびQ-セファロースのクロマトグラフィー工程の後にヒドロキシアパタイトクロマトグラフィーの工程で精製を終了するように順序を逆にする。
【0250】
LB-カナマイシン平板(1.5 %アガーを含む60 mgカナマイシン/L LB培地)からのイー・コリ株BL21 STAR/TNF37コロニーを、LB培地(60 mgカナマイシン/L LB) 5 mlに再懸濁し、ニュー・ブラウンシュヴァイク(New Braunswick)振とう器で220 RPMで振とうしながら37℃において一晩(16時間)培養する。
【0251】
この培養の2×2 mlを、2Lの邪魔板付き振とうフラスコ中の2×1 L LB (60 mgカナマイシン/L)に移し、細胞を、220 RPMにてニュー・ブラウンシュヴァイク振とう器において、OD436= 0.6〜0.8まで生育するのを許容する。この工程を、37℃および25℃の例証的な温度で行うが、温度は各培養について最適化することができる。
【0252】
1 M IPTG 1 mlを各フラスコに添加し、細胞の生育を16〜20時間許容する。誘導前に、
それが既に培養温度でない場合に、温度を25℃に調整する。
細胞を、Sorvall遠心分離機内のSLA-3000ヘッドを用いて、5000 RPM、15分間の遠心分離により、遠心管(500 ml)中に回収する。
【0253】
細胞を、500 mlの予め秤量した遠心管に、0.9 % NaClを用いて移し、前と同じように遠心分離により細胞を回収する。
上清を捨て、遠心管を秤量して細胞重量(7〜11グラムであるはずである)を測定する。
50 mM Na2HPO4、pH = 7.0 200 mlを添加する(細胞を再懸濁する場合、それらは直接用いるべきであり、そうでなければ凍結可能である)。
【0254】
細胞破砕、遠心分離およびろ過
細胞の機械的破砕は、酵素的破砕に比べて、効率、確実性および精製の次の工程において必要ないずれのバッファーをも選択できることの点で、いくつかの利点をもたらす。APV-1000を、使用前にサンプルチャンバーに氷水を添加することにより、操作の間じゅう冷却に保ち、サンプルが2回通過する間に機械に氷水を通す。遠心分離およびろ過は、タンパク質のクロマトグラフィーによる分離に先立って、溶液からいずれの粒子または凝集物の除去を供給する。細胞破砕およびHA-クロマトグラフィーは、クロマトグラフィー工程におけるこれらからの分離の結果として、これが見かけのプロテアーゼ活性を最少にするので、同日に行うべきである。破砕、遠心分離、およびろ過の手順は、次の通りである:
【0255】
注意して再懸濁した細胞材料を、細胞破砕器(APV-1000)に移す。細胞懸濁物を、700バールの背圧を用いて、破砕器に注意して2回 (各通過後に氷上で冷却し、通過の間にAPV-1000に氷水を通過させる)通過させる(溶液は、この時点で澄んでいるはずである)。
破砕された細胞を500 mlの遠心管に移し、細胞を、SLA-3000ヘッドを用いてSorvall遠心分離機で45分間、10000 RPMで回転させる。
抽出物(約225 ml)を、0.22μmフィルターに通す。
【0256】
ヒドロキシアパタイト(HA)クロマトグラフィー
ヒドロキシアパタイトBio-Gel HTPゲル(BIO-RAD;カタログ# 130-0420)は、さもなければ他の方法により分離できない、モノクローナル抗体のようなタンパク質およびその他のタンパク質の分離における独特の道具としてそれ自身が立証されている、リン酸カルシウムの結晶の形態である。しかしながら、我々の経験においては、材料の流動特性は、2 ml/分を超える流れは、圧力を許容できない高いレベルに上昇させる意味において、多少重大である。また、材料は、製造業者により推奨されるように水酸化ナトリウムで再生する試みを行った場合に、数回崩壊していた。
【0257】
バッファーおよびカラム
バッファーA + Bのストック:1 M Na2HPO4 × 2H2O、pH = 7.0 (pHを7にHClで調整)。ストックの希釈から作ったバッファーA+B。
バッファーA:50 mM Na2HPO4 × 2H2O、pH = 7.0
バッファーB:0.3 M Na2HPO4 × 2H2O、pH = 7.0
ヒドロキシアパタイトBio-Gel HTPゲル(BIO-RAD;カタログ# 130-0420)のバッファーA中の懸濁液、およびXK 26/40 (Amersham Biosciences)カラムを用いて、約50〜60 mlにパックしたカラム。
【0258】
クロマトグラフィープログラム
系を30 ml/分の流れで20 mlでパージする。
平衡化:2 ml/分の流れでバッファーAを4 CV。
2 ml/分の流れでポンプ(BioCadの入口F)を通してサンプルをロード(管内のサンプルが
必要な場合、約225+5-10 ml)。
2 ml/分の流れでバッファーA 1.5 CVでカラムを洗浄。
溶出:2 ml/分の流れで0%から100%までのバッファーB 4 CVの勾配でタンパク質を溶出。
2 ml/分の流れでバッファーB 2 CVでカラムを洗浄。
2 ml/分の流れでバッファーA 4 CVでカラムを再平衡化。
フラクションを選択し、プールし、15×容量の20 mM Tris-HCl、0.075 M NaCl、pH 8.0に対して4℃にて一晩透析。
【0259】
HAクロマトグラフィー後のTNF37含有フラクションの選択
HAクロマトグラフィー溶出フラクションプロフィールは、基本的に「通り抜け(run through)」フラクションおよびいくつかのピークに分離できる1つの溶出ピークからなる。TNF37含有フラクションは、TNF37を含有するピークを直接同定することはできないので、全てのピークのクマシー染色ゲルをもとに選択されなければならない。しかしながら、その後の精製工程の結果として、この時点でのフラクションの選択は、ほとんど重大ではなく、あとの手順で夾雑物を除去することが可能である。つまり、フラクションのあまり控えめでない選択が、変異型の最大限の収率を確実にする。
【0260】
最初に、いずれかのTNF37について、「ドットブロット」で「通り抜け」を調べた。これは、変異型のかなりの部分がカラムに結合しなかったことを理論的に示すであろう、陽性の結果を与えた。しかしながら、「通り抜け」を非常に効果的なSP-セファロースカチオン交換クロマトグラフィー(次工程参照)に付し、フラクションをクマシー染色ゲルで分析すると、それらはいずれの検出可能なTNF37変異型をも含んでおらず、「ドットブロット」における偽陽性反応、またはSP-セファロースに全く違って結合する変異型のフラクションを示す。
【0261】
SP-セファロースカチオン交換クロマトグラフィー
SP-セファロースは、7.8のwtTNFαのpIに比べてより高い、9.4の変異型の計算されたpIの結果として選択された塩基性カチオン交換工程である。このpIの増加は、PADREエピトープを介して導入された2つのリシンの結果である。このクロマトグラフィーは、TNF37変異型について非常に効率的で速く、そしてTNFαのその他のループ変異型の多くに有用であることが期待される。
【0262】
アプライされたサンプルは、8 mS/cm未満の導電率をもつべきであり、pHは、SP-セファロースクロマトグラフィーを続ける前に、少なくとも7.7であるべきである。なぜなら、我々の経験では、これにおける変動はタンパク質の結合特性をその時々で変化させるからである。
【0263】
バッファーおよびカラム
バッファーA+Bのストック:1 M Tris-HCl。pH = 8.0。
バッファーA:20 mM Tris-HCl、0.075 M NaCl、pH = 8.0。
バッファーB:20 mM Tris-HCl、1 M NaCl、pH = 8.0。
SP-セファロースFF (アマシャムバイオサイエンス:カタログ# 17-0729-01)のバッファーA 中の懸濁液と、XK 26/40 (アマシャムバイオサイエンス)カラムを用いて、約60 mlにパックされたカラム。
【0264】
クロマトグラフィープログラム
系を30 ml/分の流れで20 mlでパージする。
平衡化:4 ml/分の流れでバッファーAを4 CV。
4 ml/分の流れでポンプ(BioCadの入口F)を通してサンプルをロード(管内のサンプルが
必要な場合、サンプル+10 ml)。
4 ml/分の流れでバッファーA 1.5 CVでカラムを洗浄。
溶出:4 ml/分の流れで0%から100%までのバッファーB 4 CVの勾配でタンパク質を溶出。
4 ml/分の流れでバッファーB 2 CVでカラムを洗浄。
4 ml/分の流れでバッファーA 4 CVでカラムを再平衡化。
フラクションを選択し、プールし、15×容量の20 mM Tris-HCl、0.075 M NaCl、pH 8.0に対して4℃にて一晩透析。
【0265】
SPセファロースクロマトグラフィー後の、TNF37含有フラクションの選択
プロフィールは、基本的に、「通り抜け」フラクションと、いくつかのタンパク質含有ピークとからなる。しかしながら、2つのピークが、ある夾雑物とともに変異型を含む。この時点において、ピーク2の右側にある多くのフラクションを含まないことが重要である。なぜなら、我々の経験では、これが、その後のクロマトグラフィー工程では容易に除去されない多くの夾雑物を含有するからである。
【0266】
Q-セファロースアニオン交換クロマトグラフィー
Q-セファロースは、HA-クロマトグラフィーおよびSP-セファロースを含むTNF37の精製に続く、高い再現性を持つ、主要な夾雑タンパク質の除去のために選択された、塩基性アニオン交換工程である。TNF37変異型自体はカラムに結合しないが、主要な未知の夾雑物は結合する。しかしながら、夾雑物を避ける方法で、SP-セファロース工程ですでに控えめな様式でフラクションを選択することが可能である。しかしながら、これは、手順においてQ-セファロースを用いる場合に比べてTNF37変異型の収率が劣っており、そして他の少量の夾雑物もこの工程で除去されるので、全体の手順においてこれを含むことが好ましい。結果として、変異型37の精製において、Q-セファロース工程は重要であり、よりよい最終産物を、高い収率で与える。
【0267】
バッファーおよびカラム
バッファーA+Bのストック:1 M Tris-HCl。pH = 8.0。
バッファーA:20 mM Tris-HCl、0.075 M NaCl、pH = 8.0。
バッファーB:20 mM Tris-HCl、1 M NaCl、pH = 8.0。
Q-セファロースFF (アマシャムバイオサイエンス:カタログ# 17-0510-01)のバッファーA 中の懸濁液と、XK 26/40 (アマシャムバイオサイエンス)カラムを用いて、約50〜60 mlにパックされたカラム。
【0268】
クロマトグラフィープログラム
系を30 ml/分の流れで20 mlでパージする。
平衡化:4 ml/分の流れでバッファーAを4 CV。
2 ml/分の流れでポンプ(BioCadの入口F)を通してサンプルをロード(管内のサンプルが
必要な場合、サンプル+10 ml)。
4 ml/分の流れでバッファーA 3 CVでカラムを洗浄。
溶出:4 ml/分の流れで100%のバッファーB 2 CVで、残存のタンパク質を溶出。
4 ml/分の流れでバッファーA 4 CVでカラムを再平衡化。
フラクションを選択し、プールし、SP-セファロースカラムに直接アプライ。
【0269】
溶出プロフィールは、基本的に「通り抜け」フラクション、およびいくつかのタンパク含有ピークからなる。「通り抜け」フラクションは、時として、全てTNF37変異型を含む、いくつかのきれいに分割されたピークに分配され得るので全てプールされる。TNF37のこの不均質性は、見かけのタンパク質分解の問題が解決された場合に、おそらく解決されるであろう。
【0270】
実施例12
免疫化研究
材料:
食塩水(滅菌水中に0.9% NaCl、Fresenius Kabi Norge AS、Norway)
完全フロイントアジュバント(シグマ、F-5881、39H8926)
不完全フロイントアジュバント(シグマ、F-5506、60K8937)
アルヒドロゲル(Alhydrogel) 2% [10 mg Al/ml](Brenntag Biosector、Batch 96 (3176))
アジュフォス(Adjuphos) [5 mg Al/ml] (Brenntag Biosector、Batch 2 (8937))
野生型ヒトTNF (インビトロジェン、カタログno:10062-024)
KYM-1D4:A. Meager (A. Meager、J. Immunol. Methods 1991、144:141〜143)より提供
WEHI 164 クローン13: T. Espevik (T. EspevikおよびJ. Nissen-Myer、J. Immunol. Methods 1986、95:99〜105)より提供
テトラゾリウム塩(MTS、CellTiter 96 Aqueous one solution; プロメガ、G3581)
回転バー(Rotating bar) (Rotamix、Heto、Denmark)
ボルテックス(OLE DICH instrumentmakers ApS、Denmark)
【0271】
処方/アジュバントの選択
精製されたTNFα変異型タンパク質(20 mM Tris-HCl、0.075 M NaCl、pH 8.0中)を、食塩水(0.9% NaCl)で0.5 mg/mlに希釈し、一回分にまとめ(375μl/バイアル)、免疫化に用いるまで−20℃に保存する。
【0272】
各TNFα変異型について、免疫化を2つのアジュバントを用いて行う:1)完全フロイントアジュバント(CFA、第一の免疫化のため)、および不完全フロイントアジュバント(IFA、ブースト免疫化のため)、ならびに2)アルヒドロゲルまたはアジュフォス(それぞれ、最新式の水酸化アルミニウムおよびリン酸アルミニウムアジュバント)−これらを、第一の
注射およびブースト注射の両方に用いる。
【0273】
第一の免疫化の前に、TNF変異型のアジュバントとしてのアルヒドロゲルまたはアジュフォスのいずれかの選択の決定を行う。TNFα変異型を吸着する能力が最もよいアジュバントを、免疫化実験においてさらに用いるために選択する。TNFα変異型の2つのアリコートを、2つのバイアル中で、同じ容量のアルヒドロゲルおよびアジュフォスと混合する。バイアルを、回転バー上で室温にて30分間、静かに攪拌する。次いで、バイアルを13000 gで15分間遠心分離し、上清を勾配(4〜12%) SDSゲル上で、可溶性TNF変異型の含量について試験する。よって、最も少ない遊離の変異型(すなわち、より多くの変異型はアルミニウム粒子に結合している)を含むアジュバント/変異型のアリコートが、最もよいアジュバントとして選択される。
【0274】
抗原/アジュバントエマルゲート(emulgate)の作製:
次の手順を通して、CFA/IFAエマルゲートを作製する:
TNFα変異型[0.5 mg/ml]の入ったバイアルを融かし、10 mlの滅菌バイアルに移し、等容量のCFAまたはIFAと混合する。次いで、バイアルをさらにボルテックスで3300 rpmで、20℃において30分間混合する。
【0275】
次の手順を通して、アルヒドロゲル/アジュフォスエマルゲートを作製する:
アルヒドロゲル/アジュフォスを、食塩水で1.4 mg Al/mlに希釈する。TNFα変異型[0.5
mg/ml]の入ったバイアルを融かし、10 mlの滅菌バイアルに移し、等容量のアルヒドロゲル[1.4 mg Al/ml]またはアジュフォス[1.4 mg Al/ml]と混合する。次いで、バイアルをさらに回転バーで20℃において30分間混合する。
【0276】
動物モデルの選択
6〜8週齢のBalb/Ca雌マウスを、TNFα変異型で繰返し免疫化する。異なった間隔において血液サンプルを採取し、単離した血清を、抗wtTNFα抗体力価について調べる。マウスはTaconic Farms, Inc. Acquires M&B A/S、Denmarkから注文する。マウスは、実験の開始1週間前から、ファーメクサの動物施設に収容する。
【0277】
免疫化スキームおよび投与量
10+10のマウスの組を、それぞれCFA/IFAおよびアルヒドロゲル/アジュフォス中の各TNFα変異型で免疫化する。20+20マウスを、野生型TNFαでの免疫化に用いる。
第一の免疫化において、アジュバント中のタンパク質50μgを皮下注射する。全てのマウスは、第一の免疫化後2、6および10週に、アジュバント中のタンパク質25μgでの付加的なブースター免疫を皮下に受ける。
第一の免疫化の直前、および各ブースター免疫化の1週間後に、血液サンプルを採取する。
【0278】
行ったアッセイ
WEHI 164 クローン13-またはKYM-1D4-細胞を用いる細胞毒性バイオアッセイ:このアッセイは、本発明のTNFα変異型の毒性を測定するものである。細胞を、TNFα変異型の滴定された量の存在下で48時間培養し、そして細胞死を、生細胞により着色したフォルマザン産物に生還元される(bioreduced)テトラゾリウム塩(MTS)の添加により測定する。TNFα変異型の細胞毒性を、ヒト野生型TNFαのものと比較する。
【0279】
WEHI 164クローン13-またはKYM-1D4-細胞を用いる細胞毒性−阻害バイオアッセイ:このアッセイは、TNFαで免疫化されたマウスで産生された抗血清の、野生型TNFαの細胞毒性効果を中和する能力を調べるのに用いられる。抗血清の滴定された量、および抗血清の欠乏時に細胞の50%で細胞死を誘導するのに充分な野生型ヒトTNFαの一定濃度の存在下
で、細胞を48時間培養する。細胞死は、上述したようにMTSにより決定される。TNFα変異型で免疫化されたマウスからの血清の中和能力を、ヒト野生型TNFαで免疫化されたマウスから得られる血清と比較する。
【0280】
インビトロの研究
WEHI 164 クローン13-またはKYM-1D4-細胞を用いる細胞毒性バイオアッセイ:WEHI 164クローン13-またはKYM-1D4-細胞を用いる細胞毒性−阻害バイオアッセイ。
【0281】
最良の免疫原性構築物の選択の基準
TNFα変異型は、最小限の細胞毒性を表示すべきである。TNFα変異型でのマウスの免疫化は、WEHI-またはKYM-1D4細胞においてヒト野生型TNFαで媒介される細胞毒性を中和する能力が、ヒト野生型TNFαで免疫化されたマウスから得られる血清よりも良いか、または等しい抗血清を産生するべきである。
【図面の簡単な説明】
【0282】
【図1】図1は、TNFαタンパク質のイー・コリ(E. coli)産生の上流での処理を示すフローチャートである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
a) 末端と末端とがペプチドリンカーにより連結されている2つまたは3つの完全TNFαモノマー(少なくとも1つのペプチドリンカーは、少なくとも1つのMHCクラスII結合アミノ酸配列を含む)、または
b) 末端と末端とが不活性ペプチドリンカーにより連結されている2つまたは3つの完全TNFαモノマー(少なくとも1つのモノマーは少なくとも1つの外来MHCクラスII結合アミノ酸配列を含むかもしくは少なくとも1つの外来MHCクラスII結合アミノ酸配列は、任意に不活性リンカーを介してN-末端もしくはC-末端モノマーに融合されている)、または
c) フレキシブルループ3に少なくとも1つの外来MHCクラスII結合アミノ酸配列が挿入されたかもしくは内置換されたヒトTNFαモノマーまたはaもしくはbで規定されるアナログ、または
d) TNFαモノマーの三次元構造を安定化する少なくとも1つのジスルフィドブリッジが導入されたヒトTNFαモノマーまたはaもしくはbで規定されるアナログ、または
e) アミノ末端のアミノ酸1、2、3、4、5、6、7、8および9のいずれか1つが欠失されたヒトTNFαモノマーまたはaもしくはbで規定されるアナログ、または
f) イントロンの位置のループ1に少なくとも1つの外来MHCクラスII結合アミノ酸配列が挿入されているかもしくは内置換されているヒトTNFαモノマーまたはaもしくはbで規定されるアナログ、または
g) ヒトTNFαのN-末端の人工ストーク領域の部分として少なくとも1つの外来MHCクラスII結合アミノ酸配列が導入されているヒトTNFαモノマーまたはaもしくはbで規定されるアナログ、または
h) トリマー相互作用界面の疎水性を増加させることによりモノマー構造を安定化するように少なくとも1つの外来MHCクラスII結合アミノ酸配列が導入されているヒトTNFαモノマーまたはaもしくはbで規定されるアナログ、または
i) TNFαアミノ酸配列に、グリシン残基に挟まれた少なくとも1つの外来MHCクラスII結合アミノ酸配列が挿入されているかまたは内置換されているヒトTNFαモノマーまたはaもしくはbで規定されるアナログ、または
j) D-Eループに少なくとも1つの外来MHCクラスII結合アミノ酸配列が挿入されているかまたは内置換されているヒトTNFαモノマーまたはaもしくはbで規定されるアナログ、または
k) ヒトTNFαの2つの同一配列の間に少なくとも1つの外来MHCクラスII結合アミノ酸配列が挿入されているかまたは内置換されているヒトTNFαモノマーまたはaもしくはbで規定されるアナログ、または
l) ヒトTNFαの少なくとも1つの塩橋がジスルフィドブリッジで強化されたかまたは置換されたヒトTNFαモノマーまたはaもしくはbで規定されるアナログ、または
m) 溶解性もしくはタンパク質分解に対する安定性が、マウスTNFαの結晶構造を模倣する変異を導入することにより増強されているヒトTNFαモノマーまたはaもしくはbで規定されるアナログ
を含み、
Y87S、D143NまたはA145R(アミノ酸の番号付けはヒトTNFαのN-末端のバリンから設定する)からなる群より選択される少なくとも1つの点突然変異の導入により潜在的毒性が低減されたかもしくは廃止された
ヒトTNFαタンパク質の免疫原性アナログ。
【請求項2】
MHCクラスII結合アミノ酸配列が、マルチマータンパク質が由来する動物種からのMHCクラスII分子の大多数と結合する請求項1に記載の免疫原性アナログ。
【請求項3】
少なくとも1つのMHCクラスII結合アミノ酸配列が、天然T細胞エピトープおよび人工MHC-II結合ペプチド配列から選択される請求項2に記載の免疫原性アナログ。
【請求項4】
天然T細胞エピトープが、P2またはP30のような破傷風トキソイドエピトープ、ジフテリアトキソイドエピトープ、インフルエンザウイルスヘマグルチニンエピトープ、およびピー・ファルシパルムCSエピトープから選択される請求項3に記載の免疫原性アナログ。
【請求項5】
アナログのアミノ酸配列が、配列番号12、13、14、16、17および18ならびにその保存アミノ酸変更のみを含むいずれのアミノ酸配列からなる群より選択される請求項1〜4のいずれか1つに記載の免疫原性アナログ。
【請求項6】
細菌細胞から可溶性タンパク質として発現され得る請求項1〜5のいずれか1つに記載の免疫原性アナログ。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1つに記載の免疫原性アナログをコードする核酸断片またはそれらに相補的な核酸断片。
【請求項8】
DNA断片である請求項7に記載の核酸断片。
【請求項9】
配列番号12、13、14、16、17および18のいずれか1つをコードする核酸配列ならびにそれらに相補的な核酸配列からなる群より選択される核酸配列を含む請求項7または8に記載の核酸断片。
【請求項10】
請求項1〜6のいずれか1つに記載の少なくとも1つの免疫原性アナログの免疫学的有効量の提示を動物の免疫系にもたらすことを含む、宿主動物において自己由来TNFαをダウンレギュレーションする方法。
【請求項11】
自己由来の宿主がヒトのような哺乳動物である請求項10に記載の方法。
【請求項12】
提示が、自己由来の宿主に、アジュバントと任意に混合して請求項1〜6のいずれか1つに記載の免疫原性アナログを投与することによりもたらされる請求項10または11に記載の方法。
【請求項13】
アジュバントが、免疫標的化アジュバント;トキシン、サイトカインおよびマイコバクテリアの派生物のような免疫調節アジュバント;油処方成分;ポリマー;ミセル形成アジュバント;サポニン;免疫刺激複合マトリックス(ISCOMマトリックス);粒子;DDA;アルミニウムアジュバント;DNAアジュバント;γ−イヌリン;およびカプセル化アジュバントからなる群より選択される請求項12に記載の方法。
【請求項14】
アナログの免疫学的有効量が、皮内、皮下および筋肉内経路のような非経口経路;腹膜経路;経口経路;バッカル経路;舌下経路;硬膜外経路;脊髄経路;肛門経路;および頭蓋内経路から選択される経路を介して動物に投与される請求項10〜13のいずれか1つに記載の方法。
【請求項15】
有効量が、0.5μg〜2000μgである請求項14に記載の方法。
【請求項16】
1年当たり少なくとも2、少なくとも3、少なくとも6、および少なくとも12投与のような1年当たり少なくとも1投与を含む請求項14または15に記載の方法。
【請求項17】
免疫系へのアナログの提示が、アナログをコードする核酸を動物の細胞内に導入し、それにより導入された核酸の細胞によるインビボ発現を得ることによりもたらされる請求項10に記載の方法。
【請求項18】
導入される核酸が、裸のDNA、荷電または非荷電の脂質とともに処方されたDNA、リポソーム中に処方されたDNA、ウイルスベクターに包含されたDNA、トランスフェクション促進タンパク質またはポリペプチドとともに処方されたDNA、標的化タンパク質またはポリペプチドとともに処方されたDNA、カルシウム沈殿剤とともに処方されたDNA、不活性担体分子と結合したDNA、キチンまたはキトサン中に被包されたDNA、および請求項13で規定されるアジュバントのようなアジュバントと処方されたDNAから選択される請求項17に記載の方法。
【請求項19】
核酸が、動脈内、静脈内または請求項14で規定される経路により投与される請求項17または18に記載の方法。
【請求項20】
1年当たり少なくとも2、少なくとも3、少なくとも6、および少なくとも12投与のような1年当たり少なくとも1の核酸の投与を含む請求項17〜19のいずれか1つに記載の方法。
【請求項21】
免疫系への提示が、アナログをコードしかつ発現する核酸断片をもつ非病原性微生物またはウイルスを投与することによりもたらされる請求項10に記載の方法。
【請求項22】
ウイルスがワクシニアウイルスのような非ビルレントポックスウイルスである請求項21に記載の方法。
【請求項23】
微生物が細菌である請求項22に記載の方法。
【請求項24】
非病原性の微生物またはウイルスが、動物に1回投与される請求項21〜23のいずれか1つに記載の方法。
【請求項25】
−請求項1〜6のいずれか1つに記載の免疫原性アナログ、ならびに
−医薬上および免疫学上許容される担体および/または賦形剤および/またはアジュバント
を含むマルチマータンパク質に対する抗体の産生を誘導するための組成物。
【請求項26】
−請求項7〜9のいずれか1つに記載の核酸断片、ならびに
−医薬上および免疫学上許容される担体および/または賦形剤および/またはアジュバント
を含むマルチマータンパク質に対する抗体の産生を誘導するための組成物。
【請求項27】
アナログが、請求項30または31のいずれか1つで規定されるように処方される請求項25または26に記載の組成物。
【請求項28】
請求項7〜9のいずれか1つに記載の核酸断片の発現を促進する条件下で該核酸断片で形質転換した宿主細胞を培養し、続いて培養物からのタンパク質発現産物としてアナログを回収することを含む請求項1〜7のいずれか1つに記載のアナログを製造する方法。
【請求項29】
宿主細胞が細菌宿主細胞である請求項28に記載の方法。
【請求項30】
アナログが可溶性発現産物である請求項29に記載の方法。
【請求項31】
宿主細胞により発現産物が産生される実質的な期間の間に、宿主細胞が32℃未満の温度で培養される請求項28〜29のいずれか1つに記載の方法。
【請求項32】
温度が約25℃である請求項31に記載の方法。
【請求項33】
宿主細胞の培養の全部の期間に温度が実質的に一定に保たれる請求項31または32に記載の方法。

【図1】
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【公表番号】特表2007−523605(P2007−523605A)
【公表日】平成19年8月23日(2007.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−504380(P2006−504380)
【出願日】平成16年5月6日(2004.5.6)
【国際出願番号】PCT/DK2004/000329
【国際公開番号】WO2004/099244
【国際公開日】平成16年11月18日(2004.11.18)
【出願人】(501023476)
【住所又は居所原語表記】Kogle Alle 6,DK−2970 Horsholm DENMARK
【Fターム(参考)】