説明

細胞移動阻害剤

【課題】 アストログリア細胞においてβアミロイド蛋白質により発現が誘導される遺伝子として見出されたLib遺伝子の、アルツハイマー病の増悪に対する作用を明らかにし、アルツハイマー病の制御を可能にする手段を提供すること。
【解決手段】 Lib遺伝子の発現を阻害することおよび/または該遺伝子によりコードされる蛋白質の機能を阻害することを特徴とする、アストログリア細胞の移動阻害方法および移動阻害剤;該遺伝子によりコードされる蛋白質の細胞移動能を阻害する化合物の同定方法;該遺伝子の発現を阻害することおよび/または該遺伝子によりコードされる蛋白質の機能を阻害することを特徴とする、アストログリア細胞の集積に起因する疾患の防止剤および/または治療剤並びに防止方法および/または治療方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はアストログリア細胞の移動阻害方法および移動阻害剤に関する。より詳しくは、本発明はLib遺伝子の発現を阻害することおよび/または該遺伝子によりコードされる蛋白質の機能を阻害することを特徴とする、アストログリア細胞の移動阻害方法および移動阻害剤に関する。また、本発明はLib遺伝子によりコードされる蛋白質の細胞移動能を阻害する化合物の同定方法に関する。さらに、本発明はLib遺伝子の発現を阻害することおよび/または該遺伝子によりコードされる蛋白質の機能を阻害することを特徴とする、アストログリア細胞の集積に起因する疾患の防止剤および/または治療剤並びに該疾患の防止方法および/または治療方法に関する。
【背景技術】
【0002】
Lib遺伝子はβアミロイド(以下、Aβと略称することがある)により発現誘導される遺伝子として本発明者らにより見出された(特許文献1)。ヒトLib遺伝子は、特許文献1の配列番号2に開示されており、また、GenBankにアクセッションナンバーAB071037で登録されている。
【0003】
Lib遺伝子はロイシンリッチリピート(LRR)構造の繰り返し配列を有するLRRスーパーファミリーに属する。このような配列の特徴から、Lib遺伝子は他のLRRファミリーに属する遺伝子(非特許文献1〜3)と同様に、細胞・細胞間および/または細胞・細胞外マトリックス間の相互作用に関与する分子であると考えられている(特許文献1)。
【0004】
また、Lib遺伝子が常発現性でなく、サイトカイン類により発現誘導されたことから、Lib遺伝子は炎症関連因子であると考えられている(特許文献1)。
【0005】
上記のようなLib遺伝子の機能に基づき、Lib遺伝子をアルツハイマー病等の神経疾患の診断・制御を目的とする手段として使用すること、Lib遺伝子によりコードされるポリペプチドに対する抗体が提供されること、Lib遺伝子の作用および/または発現を調節する化合物の同定方法並びに該同定方法で同定される化合物が提供されること、また、これらを利用する疾病の診断手段、疾病診断用キット、および疾病治療薬が提供されることが特許文献1に開示されている。
【0006】
Aβはアルツハイマー病の初期発症段階において最も重要な意味を持つ因子と考えられている。アルツハイマー病患者の脳ではAβを主たる構成因子とする老人斑が認められる。Aβは、Aβ前駆体がある種のプロテアーゼによりプロセシングを受けることにより生成し、不溶性のβシート構造の凝集体を形成する。
【0007】
Aβは神経細胞に対し直接的および間接的に作用することにより、アルツハイマー病の進行を促すと考えられている。Aβの間接的作用としてアストログリア細胞の活性化が知られている。
【0008】
アストログリア細胞は多数の突起を有するグリア細胞であり星状膠細胞とも呼ばれる。本細胞は脳内で血管と神経細胞間の物質の移動およびシナプス部絶縁や放出された伝達物質の取り込みに関与するとともに、神経細胞の発育や生存維持を調節する多くの神経栄養因子を産生する。
【0009】
アストログリア細胞はAβにより活性化されるといくつかの因子、例えばインターロイキン1βを生産する(非特許文献4〜6)。本発明者らは、Lib遺伝子(特許文献1)以外に、本細胞においてAβによりプロスタグランジンE2合成酵素(特許文献2)およびアグリケネース(ADAMTS−4(A Disintegrin and Metalloproteinase with Thrombospondin Motifs−4)とも称される)(特許文献3)の各遺伝子の発現が誘導されることを見出している。
【0010】
アストログリア細胞とAβの協働作用はアルツハイマー病の増悪に関わっていると考えられている。また、アルツハイマー病患者脳の病変部において、活性化アストログリア細胞が老人斑周辺に局在し、その細胞突起が老人斑に伸長していることも知られている。
【0011】
以下に本背景技術の説明において引用した文献を列記する。
【特許文献1】特開2003−164290号公報。
【特許文献2】特開2001−258575号公報。
【特許文献3】特開2001−352991号公報。
【非特許文献1】シシド(Shishido,E.)他、「サイエンス(Science)」、1998年、第280巻、p.2118−2121。
【非特許文献2】ヒッキー(Hickey,M.J.)他、「プロシーディングス オブ ザ ナショナル アカデミー オブ サイエンシズ オブ ザ ユナイテッド ステーツ オブ アメリカ(Proceedings of The National Academy of Sciences of The United States of America)」、1993年、第90巻、p.8327−8331。
【非特許文献3】ランザ(Lanza,F.)他、「ザ ジャーナル オブ バイオロジカル ケミストリー(The Journal of Biological Chemistry)」、1993年、第268巻、p.20801−20807。
【非特許文献4】ムラク(Mrak,R.E.)他、「ヒューマン パソロジー(Human Pathology)」、1995年、第26巻、p.816−823。
【非特許文献5】マクギア(McGeer,P.L.)他、「ブレイン リサーチ レビューズ(Brain Research Reviews)」、1995年、第21巻、p.195−218。
【非特許文献6】エデルストン(Eddeleston,M.)他、「ニューロサイエンス(Neuroscience)」、1993年、第54巻、p.15−36。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
アルツハイマー病は重篤な神経変性疾患であり、その原因解明並びに有効な治療剤および治療方法の開発が期待されている。アルツハイマー病の増悪にアストログリア細胞とAβの協働作用が関与すると考えられているが、その詳細な機構は明らかにされていない。
【0013】
本発明の課題は、アストログリア細胞においてAβにより発現が誘導される遺伝子として見出されたLib遺伝子の、アルツハイマー病の増悪に対する作用を明らかにし、アルツハイマー病の進行を調節し得る手段を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは上記課題解決のために鋭意努力し、Lib遺伝子がAβを含む老人斑に隣接するアストログリア細胞で特異的に発現していること、およびLib遺伝子の発現がアストログリア細胞の細胞外マトリックス間の移動を著しく促進することを明らかにした。そして、これら知見に基づいて本発明を達成した。
【0015】
すなわち、本発明は、
1.Lib遺伝子の発現を阻害することおよび/または該遺伝子によりコードされる蛋白質の機能を阻害することを特徴とするアストログリア細胞の移動阻害方法、
2.Lib遺伝子の発現阻害剤および/または該遺伝子によりコードされる蛋白質の機能阻害剤を用いることを特徴とするアストログリア細胞の移動阻害方法、
3.配列表の配列番号1に記載の塩基配列に相補的な塩基配列または該相補的な塩基配列の一部を含有するアンチセンスポリヌクレオチドを用いることを特徴とするアストログリア細胞の移動阻害方法、
4.Lib遺伝子によりコードされる蛋白質のアストログリア細胞の細胞移動能を阻害する化合物の同定方法であって、Lib遺伝子を発現している細胞とある化合物との相互作用を可能にする条件下で該細胞と化合物とを接触させ、次いで、該細胞の移動を測定することのできる条件下で細胞の移動を測定し、該細胞の移動の変化を検出することにより、該化合物がLib遺伝子によりコードされる蛋白質の細胞移動能を阻害するか否かを判定することを特徴とする同定方法、
5.Lib遺伝子の発現を阻害することおよび/または該遺伝子によりコードされる蛋白質の機能を阻害することを特徴とするアストログリア細胞の移動阻害剤、
6.配列表の配列番号1に記載の塩基配列に相補的な塩基配列または該相補的な塩基配列の一部を含有するアンチセンスポリヌクレオチドを有効量含んでなるアストログリア細胞の移動阻害剤、
7.Lib遺伝子の発現を阻害することおよび/または該遺伝子によりコードされる蛋白質の機能を阻害することによりアストログリア細胞の移動を阻害することを特徴とする、アストログリア細胞の集積に起因する疾患の防止剤および/または治療剤、
8.前記5.または6.のアストログリア細胞の移動阻害剤を含有してなる、アストログリア細胞の集積に起因する疾患の防止剤および/または治療剤、
9.アストログリア細胞の集積に起因する疾患が、アルツハイマー病である前記7.または8.の疾患の防止剤および/または治療剤、
10.Lib遺伝子の発現を阻害することおよび/または該遺伝子によりコードされる蛋白質の機能を阻害することによりアストログリア細胞の移動を阻害することを特徴とする、アストログリア細胞の集積に起因する疾患の防止方法および/または治療方法、
11.前記5.または6.のアストログリア細胞の移動阻害剤を用いることを特徴とする、アストログリア細胞の集積に起因する疾患の防止方法および/または治療方法、
12.アストログリア細胞の集積に起因する疾患が、アルツハイマー病である前記10.または11.の疾患の防止方法および/または治療方法、
からなる。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係るアストログリア細胞の移動阻害方法および該細胞の移動阻害剤を用いることにより、アストログリア細胞の集積に起因する症状や疾患、例えば細胞死やアルツハイマー病等の防止、改善および/または治療が可能になる。また、本発明は、アストログリア細胞の集積に起因する疾患の発症や増悪のメカニズムの解明にも有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明について発明の実施の態様をさらに詳しく説明する。
(Lib遺伝子の脳内発現の解析)
本発明においては、Lib遺伝子がAβを含む老人斑に隣接するアストログリア細胞で特異的に発現していることを見出した。Lib遺伝子の脳内発現の解析は、脳切片を用いて、in situハイブリダイゼーション法により実施できる。in situハイブリダイゼーション法は、プローブを用いて、自体公知の方法により実施できる。プローブは、Lib mRNAとのハイブリダイゼーションに適当な塩基配列をLib cDNAの塩基配列に基づいてその部分配列から設計し、該配列を有するDNAを自体公知の方法で製造することにより取得できる。
【0018】
ヒトLib遺伝子(以下、hLib遺伝子と称することがある)の発現解析に用いる好ましいプローブとして、ヒトLib cDNAの部分配列である配列番号3に示す塩基配列からなる299bpのDNA断片を例示できる。ラットLib遺伝子(以下、rLib遺伝子と称することがある)の発現解析に用いる好ましいプローブとして、ラットLib cDNAの3´末端側非翻訳領域(3´−UTR)に存在する配列番号4に示す361bpのDNA断片を例示できる。
【0019】
hLib遺伝子の発現解析により、アルツハイマー病患者由来脳において、アストログリア細胞におけるhLib遺伝子の発現が誘導されていることが判明した。具体的には、hLib遺伝子の発現解析は脳の白質由来の切片および皮質由来の切片について行なった。アルツハイマー病患者由来脳(以下、AD脳と称することがある)の白質切片において、アストログリア細胞でhLib遺伝子の発現が認められた。しかし、アルツハイマー病に罹患していない患者由来脳(以下、Non−AD脳と称することがある)ではhLib遺伝子の発現は認められなかった。一方、AD脳の皮質では、hLib遺伝子の発現は神経細胞で低減していたが、アストログリア細胞でその特異的な発現増加が認められた。Non−AD脳の皮質では、hLib遺伝子の発現は神経細胞で認められたが、アストログリア細胞では認められなかった。さらに、AD脳の皮質において、Aβの局在とhLib遺伝子の発現とを2重染色により検出したところ、Aβにより構成される老人斑の周辺に存在する細胞にhLib遺伝子の発現が認められた。また、AD脳の皮質において、アストログリア細胞の存在を示すマーカーであるグリア繊維性酸性タンパク(GFAP)とhLib遺伝子の発現とを2重染色により検出したところ、アストログリア細胞においてhLib遺伝子の発現が認められた。
【0020】
hLib遺伝子の発現解析により、このように、AD脳においてアストログリア細胞におけるLib遺伝子の発現が増加していることが判明した。また、Aβを含む老人斑に隣接するアストログリア細胞にhLib遺伝子が発現していることが明らかになった。
【0021】
rLib遺伝子の発現解析により、rLib遺伝子はラット成体脳の海馬、嗅球、海馬および松果体で強く発現していることが明らかになった。また、ラット胎児脳において、rLib遺伝子は特に大脳皮質となる新外套皮質、および中脳外套層に特異的に発現していることが判明した。
【0022】
(Lib遺伝子の発現によるアストログリア細胞の移動の検討)
本発明においてはまた、Lib遺伝子の発現によりアストログリア細胞の細胞外マトリックス間の移動が引き起こされることを見出した。Lib遺伝子の発現によるアストログリア細胞の移動は、Lib遺伝子を発現しているアストログリア細胞の細胞移動を測定することにより検出できる。
【0023】
アストログリア細胞は、各種動物の脳、好ましくは胎児脳から調製できる。用いる動物としては、胎児脳を比較的採取し易いラット、マウス、モルモット、ウサギ等のげっ歯類が好ましく、特にラットは好適に用いられる。胎児脳からのアストログリア細胞の調製は自体公知の方法により実施できる(例えば、伊藤仁一ら、「実験医学別冊神経生化学マニュアル」、1989年、 羊土社を参照)。あるいは、市販のアストログリア由来細胞株、例えばヒトアストログリオーマ由来U87MG細胞を用いることができる。
【0024】
Lib遺伝子は常発現性ではない。Lib遺伝子を発現しているアストログリア細胞は、アストログリア細胞またはアストログリア由来細胞株に、Lib遺伝子をトランスフェクション等の遺伝子工学的手法を用いて導入することにより取得できる。
【0025】
Lib遺伝子は、本発明により開示されたその具体例、例えば配列番号1に記載の塩基配列で表わされるDNAの配列情報に基づいて、公知の遺伝子工学的手法(サムブルック(Sambrook)ら編、「モレキュラークローニング,ア ラボラトリーマニュアル 第2版」、1989年、コールドスプリングハーバーラボラトリー;村松正實編、「ラボマニュアル遺伝子工学」、1988年、丸善株式会社;等を参照)により容易に取得できる。配列番号1に記載の塩基配列で表わされるDNAは、配列番号2に記載のアミノ酸配列で表されるヒトhLib蛋白質をコードする。
【0026】
具体的には、Aβ処理したアストログリア細胞から構築したcDNAライブラリーを用いてLib遺伝子を取得できる。アストログリア細胞に作用させるAβは市販されており、Anaspec社等から入手できるが、遺伝子工学的手法により作成することもできる。Aβは細胞の処理に用いる前に遠心処理等により凝集させて用いてもよい。Aβの添加濃度および処理時間は生理活性を示す範囲で適宜選択される。濃度としては25〜50μM、処理時間としては10〜20時間が好ましい。細胞からcDNAライブラリーを構築する方法は、一般的に用いられている遺伝子工学的手法を利用できる。例えば細胞から採取した全RNAからmRNAを調製してさらにcDNAに変換する方法が利用できる。細胞からの全RNAの採取は、例えば、酸性グアニジニウム−フェノール−クロロホルム法(AGPC法;コムツィンスキー(Chomczynski)ら、「アナリティカル バイオケミストリー(Analytical Biochemistry)」、1986年、第162巻、p.156−159)により実施できる。全RNAからのmRNAの採取は、オリゴdTカラム等を用いたpolyA(+)RNAの精製等の公知方法により実施できる。mRNAからcDNAへの変換は逆転写酵素等を用いた方法により実施できる。cDNAライブラリーからの所望のクローンの選択は、各クローンについて例えば公知の蛋白質発現系を利用して発現蛋白質の確認を行い、さらに好ましくは該蛋白質の機能を測定することにより実施できる。Lib遺伝子によりコードされる蛋白質の機能として、アストログリア細胞の移動能が挙げられる。蛋白質発現系として、自体公知の発現系がいずれも利用できるが、無細胞蛋白質発現系の利用が簡便である。Lib遺伝子の取得にはその他、ポリメラーゼ連鎖反応(以下、PCRと略称する:ウルマー(Ulmer,K.M.)、「サイエンス(Science)」、1983年、第219巻、p.666−671;エールリッヒ(Ehrlich,H.A.)編、「PCRテクノロジー,DNA増幅の原理と応用」、1989年、ストックトンプレス;サイキ(Saiki,R.K.)ら、「サイエンス(Science)」、1985年、第230巻、p.1350−1354)によるDNA/RNA増幅法が好適に利用できる。cDNAライブラリーから全長のcDNAが得られ難いような場合には、RACE(rapid amplification of cDNA ends)法(「実験医学」、1994年、第12巻、第6号、p.35−。)、特に5´−RACE法(フローマン(Frohman,M.A.)ら、「プロシーディングス オブ ザ ナショナル アカデミー オブ サイエンシズ オブ ザ ユナイテッド ステーツ オブ アメリカ(Proceedings of The National Academy of Sciences of The United States of America)」、1988年、第85巻、第23号、p.8998−9002)等の採用が好適である。PCRに用いるプライマーは、Lib遺伝子の塩基配列情報に基づいて適宜設計でき、化学合成法により常法に従って取得できる。増幅させたDNA/RNA断片の単離精製は常法により実施できる。単離精製法としてゲル電気泳動法が好ましく例示できる。
【0027】
Lib遺伝子は、その発現あるいは該遺伝子によりコードされる蛋白質の機能、例えばアストログリア細胞の移動能が阻害されない限りにおいて、5´末端側や3´末端側に所望の遺伝子が付加されたポリヌクレオチドであってよい。Lib遺伝子に付加することのできる遺伝子として、具体的にはグルタチオン S−トランスフェラーゼ(GST)、β−ガラクトシダーゼ(β−GAL)、ホースラディッシュパーオキシダーゼ(HRP)またはアルカリホスファターゼ(ALP)等の酵素類、あるいはHis−tag、Myc−tag、HA−tag、FLAG−tagまたはXpress−tag等のタグペプチド類等の遺伝子を例示できる。これら遺伝子から選択した1種類または複数種類の遺伝子を組合わせて付加することができる。これら遺伝子の付加は、慣用の遺伝子工学的手法により実施でき、その結果、Lib遺伝子やLib蛋白質の検出が容易に実施できるため有用である。
【0028】
アストログリア細胞またはアストログリア由来細胞株へのLib遺伝子の導入は、自体公知の遺伝子工学的手法を用いて実施できる。具体的には、Lib遺伝子を適当なベクターDNAに挿入することにより作製した組換えベクターを用いて、細胞へのLib遺伝子の導入を実施できる。ベクターDNAは宿主中で複製可能なものであれば特に限定されない。好ましくは、発現ベクターを用いる。代表的なベクターDNAとして例えば、プラスミド、バクテリオファージおよびウイルス由来のベクターDNAが挙げられる。プラスミドDNAとして、大腸菌由来のプラスミド、枯草菌由来のプラスミド、酵母由来のプラスミドを例示できる。バクテリオファージDNAとして、λファージ等が挙げられる。ウイルス由来のベクターDNAとして例えばレトロウイルス、ワクシニアウイルス、アデノウイルス、パポバウイルス、SV40、鶏痘ウイルス、および仮性狂犬病ウイルス等の動物ウイルス由来のベクターが挙げられる。ベクターDNAにLib遺伝子を組込む方法は自体公知の方法が適用できる。例えば、Lib遺伝子を含む遺伝子を適当な制限酵素により処理して特定部位で切断し、次いで同様に処理したベクターDNAと混合し、リガーゼにより再結合する方法が適用できる。あるいは、Lib遺伝子に適当なリンカーをライゲーションし、これを目的に適したベクターのマルチクローニングサイトへ挿入することにより所望の組換えベクターが得られる。
【0029】
「アストログリア細胞の移動」とは、アストログリア細胞が細胞外マトリックス(ECM)が形成するバリアーを通過して元の位置から別の位置へと動くことを意味する。「Lib遺伝子によりコードされる蛋白質のアストログリア細胞の移動能」とは、Lib遺伝子によりコードされる蛋白質が有する機能であって、ヒト成人脳ではアストログリア細胞は移動しないが、該遺伝子の発現誘導等により、アストログリア細胞のECM間の移動を引き起こす機能を意味する。
【0030】
「細胞外マトリックス(ECM)」とは、動物組織中の細胞の外側に存在する安定な生体構造物である。ECMは細胞により合成され、細胞外に分泌・蓄積された生体高分子の複雑な会合体であり、細胞膜成分は含まない。その主要な構成成分は、繊維状蛋白質(コラーゲン、エラスチン、フィブリリン等)、ムコ多糖類(プロテオグリカン、グリコサミノグリカン等)、および糖蛋白質(フィブロネクチン、ラミニン、ビトロネクチン等)である。ECMは、細胞接着、細胞移動、細胞の分化・増殖、細胞骨格の配向、細胞形態形成、および細胞代謝等に重要な役割を果たしている。
【0031】
アストログリア細胞の移動の検出は、例えば、市販の細胞移動測定システムまたは細胞浸潤測定システムを用いて実施できる。このようなシステムとして具体的には、BD Falcon社製のバイオコートTMマトリゲルTM(BioCoatTMmatrigelTM) インベージョンチャンバーを例示できる。バイオコートTMマトリゲルTM インベージョンチャンバーは細胞の浸潤特性試験用インビトロシステムであり、セルカルチャーインサートとコンパニオンプレートから構成されている。セルカルチャーインサートは、再構成したECMを塗布した、8μmの穴が開いたPETメンブレンをその底に保持する。セルカルチャーインサートはコンパニオンプレートの上部にセットして用いる。セルカルチャーインサートに添加された浸潤性細胞は、ECMが塗布されたPETメンブレンに存在する穴を通過してメンブレンの裏面(コンパニオンプレート側)に移動する。しかし、非浸潤性細胞はECMが形成するバリアーを通過できないため、メンブレンの表面(セルカルチャーインサート側)に残る。したがって、メンブレンの裏面に存在する細胞を測定することにより、細胞移動を検出できる。移動した細胞および移動しない細胞の定量は、簡便には、それぞれの細胞を計数することにより実施できる。細胞の計数は、細胞を回収して、その数を実際に計数することにより実施できる。または、上記のようなシステムを用いたときには、移動しない細胞を除去した後に、メンブレンの裏面の細胞を適当な細胞染色剤で染色し、数箇所の領域の顕微鏡写真を撮影して細胞数を算定することができる。あるいは、予め細胞を蛍光標識して用い、移動した細胞のみを回収してその蛍光を測定することにより細胞の定量を実施できる。
【0032】
Lib遺伝子を発現させたヒトアストログリオーマ由来U87MG細胞のECM間の移動を、Lib遺伝子を発現させていないU87MG細胞の移動と比較した。細胞の移動の検出は、バイオコートTMマトリゲルTM インベージョンチャンバーを用いて行った。その結果、Lib遺伝子を発現させた細胞では、Lib遺伝子を発現していない細胞と比較して、移動した細胞数が約4倍に増加した。すなわち、hLib遺伝子はその単独の発現によりアストログリオーマ細胞のECM間の細胞移動を著しく促進することが明らかになった。一方、ECMをコートしていないチャンバーにおける試験では、Lib遺伝子を発現させた細胞と発現させなかった細胞との間で、移動した細胞数に差は認められなかった。このことから、アストログリア細胞は、Lib遺伝子によりコードされる蛋白質の機能によりECM間を迅速に移動すると発明者らは考えている。さらに、インビボ(in vivo)では、アストログリア細胞がAβ誘導因子の1つであるアグリケネース(特許文献3)を分泌することで細胞移動に障害となるECMを分解し移動のための径路を開くと考えられるので、より効果的に細胞移動が実現できると発明者らは考えている。
【0033】
Lib遺伝子によりコードされる蛋白質は、ECMを構成する巨大分子(macromolecule)であるフィブロネクチン、IV型コラーゲンおよびラミニンのいずれにも結合し、特にフィブロネクチンに選択的に結合することが判明した。一方、本蛋白質は、軟骨プロテオグリカンであり脳内にも存在するアグリカンやウシ血清アルブミンにはほとんど結合しないか全く結合しなかった。これらから、本蛋白質はECM巨大分子へある程度の親和傾向を持った結合能を有することが明らかになった。本蛋白質のこれらECM巨大分子への結合は該蛋白質のアストログリア細胞の移動能に関与している可能性がある。
【0034】
(アストログリア細胞の移動を阻害することによる、該細胞の集積に起因する疾患の防止および/または治療)
上述のように、ラットアストログリア細胞においてAβ添加により発現誘導される遺伝子として見出したLib遺伝子は、実際にヒトAD脳の老人斑に隣接するアストログリアで発現していることが明らかになった。また、Lib遺伝子は、培養グリア細胞を用いた解析においてECM間の該細胞の移動を引き起こす機能を有する蛋白質をコードすることが明らかになった。さらに、ラット胎児脳においてLib遺伝子の高い発現が認められた。これらから発明者らは、脳発生時に、神経細胞やグリア細胞は所定の配置へダイナミックな移動を行いながら、それぞれの細胞種への分化とネットワークの形成を実現すると考えている。発生が完了し成体となった後には、定常状態では脳内での細胞移動は認められない。しかし、脳疾患に伴う損傷を受けた神経細胞に対する修復・防御作用を示すアストログリア細胞の脳内移動は広く知られる。
【0035】
アルツハイマー病患者脳の老人斑(Aβが主たる構成成分として蓄積されている)周辺では、アストログリア細胞がその細胞突起を老人斑の方向に伸ばし、あたかも老人斑を必要以上に脳内に広げないようにするかのように老人斑を取り囲んでいる。これまでミクログリア細胞が行うと考えられてきた、脳内でのAβの除去と老人斑の処理は、アスロトグリア細胞が主に担っているという知見が最近集積されてきた(マツナガ(Matsunaga,W)他、「ニューロサイエンス レターズ(Neurosci.Lett.)」、2003年、第342巻、p.129−131;ワイス−コレイ(Wyss−Coray,T.)他、「ネイチャー メディシン(Nat.Med.)」、2003年、第9巻、p.453−457;ゲネット(Guenette,SY.)、「トレンズ イン モレキュラー メディシン(Trends. Mol.Med.)」、2003年、第9巻、p.279−280;ニコル(Nicoll,JA.)他、「トレンズ イン モレキュラー メディシン(Trends. Mol.Med.)」、2003年、第9巻、p.281−282;およびコイスチナホ(Koistinaho,M.)他、「ネイチャーメディシン(Nat.Med.)」、2004年、第10巻、p.719−726)。アストログリア細胞の病変傷害部位への集積は、本来、老人斑により直接的ダメージを受けた神経細胞の修復と異物の処理を目的とした生体防御機構であると考えられる。
【0036】
アルツハイマー病の進行に従って老人斑周辺では、神経原繊維変化を伴う神経細胞の傷害と神経細胞の脱落が認められる。Aβは神経細胞に対する毒性を有するため、このような神経細胞の傷害と神経細胞の脱落にはAβそれ自身の関与が考えられる。さらに、本来老人斑により直接的ダメージを受けた神経細胞の修復と異物の排除を目的とした生体防御機構であるはずのアストログリア細胞の老人斑周辺への移動と集積は、アルツハイマー病の進行に伴ってむしろ、脆弱化している神経細胞の傷害をさらに悪化させる方向に働く可能性を示唆するデータが集積されてきた。すなわち、老人斑周辺に移動し集積したアストログリア細胞は細胞突起を伸長させるといった形態学的な活性化と同時に、多数の炎症性因子や表面抗原およびレセプター等の分子を移動した病変部位で産生する。本来生体内の異物を取り除きその影響を最小限にするために分泌されるこれら因子や分子が、逆に、老人斑周辺で既に損傷を受けている神経細胞に対して、神経原繊維変化を伴う神経細胞傷害と神経細胞脱落の方向へと促進することを考えている。
【0037】
本発明者らは、Lib遺伝子から発現されるLib蛋白質の細胞移動への関与として、次のようなステップに対する影響を考えている。つまり、細胞移動は(1)ECM巨大分子の認識・識別、(2)ECM巨大分子への接着・結合、(3)ECM巨大分子の分解、および(4)移動の各ステップに分けられ、これらのステップが順次進行して行くことである。Lib蛋白質は、これらステップにおいて、特に、細胞−ECM巨大分子間の接着・結合、さらにECM巨大分子の分解の調節に関与していると考えている。
【0038】
Lib遺伝子の発現を阻害することおよび/または該遺伝子によりコードされる蛋白質の機能を阻害することにより、アルツハイマー病での老人斑周辺へのアストログリア細胞の移動を抑制でき、その結果、病変部位への細胞移動とそれに伴う炎症性因子や表面抗原およびレセプター等の分子の傷害局所での産生を抑制できる。このことから、Lib遺伝子の発現を阻害することおよび/または該遺伝子によりコードされる蛋白質の機能を阻害することにより、アルツハイマー病での神経細胞の脱落進行を遅らせることができると考える。また、このアストログリア細胞の病変部位への集積はアルツハイマー病に限らず、脳梗塞、パーキンソン病その他、多くの神経変性疾患に共通して認められる。これら疾患においても、アストログリア細胞の移動・集積が、病変部位における神経細胞傷害の増悪に寄与していると考えられる。したがって、アストログリア細胞の移動・集積を阻害することにより、これら脳神経疾患の防止および/または治療が可能になると考える。
【0039】
(アストログリア細胞の移動阻害方法および該細胞の移動阻害剤)
Lib遺伝子が発現することによりアストログリア細胞の細胞移動が著しく促進されるので、Lib遺伝子の発現を阻害することにより、該細胞の細胞移動を阻害することができる。また、Lib遺伝子によりコードされる蛋白質の機能を阻害することにより、該細胞の細胞移動を阻害することができる。すなわち、本発明において、Lib遺伝子が発現することおよび/または該遺伝子によりコードされる蛋白質の機能を阻害することを特徴とするアストログリア細胞の移動阻害方法および該細胞の移動阻害剤を提供できる。
【0040】
「Lib遺伝子の発現」とは、Lib遺伝子にコードされた遺伝子情報がmRNAに転写されること、または、mRNAに転写され、かつLib蛋白質のアミノ酸配列として翻訳されることをいう。
【0041】
「Lib遺伝子にコードされる蛋白質の機能」として、アストログリア細胞の移動能を例示できる。また、ECM巨大分子への結合能を例示できる。ECM巨大分子として、フィブロネクチン、IV型コラーゲンおよびラミニンが好ましく例示でき、フィブロネクチンがより好ましく例示できる。
【0042】
Lib遺伝子の発現の阻害および/または該遺伝子によりコードされる蛋白質の機能の阻害は、Lib遺伝子の発現阻害剤および/または該遺伝子によりコードされる蛋白質の機能阻害剤を用いることにより達成できる。本明細書においては、該遺伝子の発現および/または該遺伝子によりコードされる蛋白質の機能に対して阻害効果を奏する化合物(例えば競合阻害効果を有する蛋白質類、抗体および低分子化合物等が挙げられる)並びに該化合物を含む組成物を阻害剤と称する。Lib遺伝子の発現阻害剤とは、該遺伝子の発現を阻害する化合物あるいは該化合物を含む組成物を意味する。Lib遺伝子によりコードされる蛋白質の機能阻害剤とは、該蛋白質の機能、例えばアストログリア細胞の移動能を阻害する化合物あるいは該化合物を含む組成物を意味する。さらに、該化合物が発現阻害剤および/または機能阻害剤であってもよい。
【0043】
Lib遺伝子の発現を阻害する化合物として、該遺伝子のアンチセンスポリヌクレオチド、短鎖干渉RNA(short interfering RNA;以下、siRNAと略称する)、ショートヘアピンRNA(以下、shRNAと略称する)を例示できる。
【0044】
「アンチセンスポリヌクレオチド」とは、ある特定の遺伝子の発現を阻害するポリヌクレオチドを意味し、標的とする遺伝子配列(センス鎖)に相補的な塩基配列からなる。センス鎖とは、DNAの相補的2本鎖のうち、蛋白質をコードしている鎖を意味する。ここで、ポリヌクレオチドはDNAおよびRNAのいずれであってもよい。ある特定の遺伝子のアンチセンスポリヌクレオチドは、該遺伝子の塩基配列に基づいて、該遺伝子のセンス鎖とハイブリダイゼーションするような配列を設計し、自体公知の化学合成法により製造できる。簡便には、DNA/RNA自動合成装置を用いてポリヌクレオチドを製造できる。具体的には、該遺伝子のアンチセンス鎖の部分配列からなるポリヌクレオチドを製造し、これらポリヌクレオチドから、該遺伝子のセンス鎖とハイブリダイゼーションするようなポリヌクレオチドを選択することによりアンチセンスポリヌクレオチドを取得できる。ある特定の遺伝子の発現を阻害するためには、該遺伝子に選択的にハイブリダイゼーションするアンチセンスポリヌクレオチドを用いることが好ましい。ある遺伝子に選択的にハイブリダイゼーションするアンチセンスポリヌクレオチドの選択は、他の遺伝子との相同性を例えば配列のブラストサーチで評価することにより実施できる。アンチセンスポリヌクレオチドは、好ましくは10個ないし300個、より好ましくは10個ないし200個、さらに好ましくは10個ないし100個、さらにより好ましくは10個ないし50個、特に好ましくは10個ないし30個程度のヌクレオチドからなる。
【0045】
「Lib遺伝子のアンチセンスポリヌクレオチド」とは、Lib遺伝子の発現を阻害するポリヌクレオチドを意味し、Lib遺伝子のセンス鎖に相補的な塩基配列からなる。Lib遺伝子のアンチセンスポリヌクレオチドは、該遺伝子の塩基配列に基づいて、該遺伝子のセンス鎖とハイブリダイゼーションするような配列を設計し、自体公知の化学合成法により製造できる。簡便には、DNA/RNA自動合成装置を用いてポリヌクレオチドを製造できる。具体的には、Lib遺伝子のアンチセンス鎖の部分配列からなるポリヌクレオチドを製造し、これらポリヌクレオチドから、該遺伝子のセンス鎖とハイブリダイゼーションするようなポリヌクレオチドを選択することによりアンチセンスポリヌクレオチドを取得できる。アンチセンスポリヌクレオチドはLib遺伝子の翻訳領域のみでなく、非翻訳領域に対応するものであっても有用である。Lib遺伝子の発現を特異的に阻害するためには、Lib遺伝子に固有な領域の塩基配列を用いることが好ましい。
【0046】
siRNAは、短鎖二重鎖RNAであり、RNA干渉(RNA interference)により遺伝子の発現を抑制することが知られている(エルバシ(Elbashir S.M.)ら、「ネイチャー(Nature)」、2001年、第411巻、p.494−498;およびパディソン(Paddison P.J.)ら、「ジーンズ アンド ディベロプメント(Genes and Development)」、2002年、第16巻、p.948−958)。siRNAは、Lib mRNA部分配列からなるRNA(センスRNA)と該RNAの塩基配列に相補的な塩基配列からなるRNA(アンチセンスRNA)とを、Lib mRNAの配列に基づいて設計し、自体公知の化学合成法により合成し、得られた両RNAをハイブリダイゼーションさせることにより製造できる。siRNAを構成するセンスRNAおよびアンチセンスRNAは、それぞれ2個ないし10数個程度のヌクレオチドからなることが好ましい。また、それぞれ、その3´末端に、オーバーハング配列と呼ばれる1個ないし数個の塩基配列からなるヌクレオチドを結合させることが好ましい。オーバーハング配列は、RNAをヌクレアーゼから保護する作用を有する。オーバーハング配列は、該RNAのRNA干渉効果を阻害しない限りにおいて特に制限されず、好ましくは1個ないし10個、より好ましくは1個ないし4個、さらに好ましくは2個のヌクレオチドからなるものをいずれも用いることができる。具体的には、デオキシチミジル酸からなる配列(例えばTT)、ウリジル酸からなる配列(例えばUU)、デオキシチミジル酸に続いて任意のヌクレオチドが結合した配列(例えばTN)といった配列を例示できる。合成を安価に行えることおよびヌクレアーゼ耐性がより強いことから、より好ましくは、2つのデオキシチミジル酸からなる配列をオーバーハング配列として用いる。オーバーハング配列は、センスRNAおよびアンチセンスRNAのそれぞれの3´末端のリボース3´水酸基部位にジエステル結合により結合させる。
【0047】
shRNAは、ヘアピン構造を有する短鎖二重鎖RNAであり、siRNAと同様、RNA干渉により遺伝子の発現を抑制する(パディソン(Paddison P.J.)ら、「ジーンズ アンド ディベロプメント(Genes and Development)」、2002年、第16巻、p.948−958)。shRNAは、センスRNAとアンチセンスRNAとが例えばポリヌクレオチド等により連結され、センスRNA由来部分とアンチセンスRNA由来部分が二重鎖を形成するため、ヘアピン様構造を呈する。shRNAは、センスRNAとアンチセンスRNAに加え、これら2つのRNAを連結しかつループ構造を形成するようなポリヌクレオチドを含むRNAを、Lib mRNAの塩基配列に基づいて設計して、自体公知の方法により製造することができる。好ましくは、センスRNAの3´末端とループ構造を形成するポリヌクレオチドの5´末端とが結合し、さらにループ構造を形成するポリヌクレオチドの3´末端とアンチセンスRNAの5´末端とが結合したポリヌクレオチドであることが望ましい。ループ構造を形成するポリヌクレオチドとは、センスRNAとアンチセンスRNAの間に存在して両RNAを連結でき、それ自体がループ構造を形成するものを意味する。このようなポリヌクレオチドの設計は、文献(パディソン(Paddison P.J.)ら、「ジーンズ アンド ディベロプメント(Genes and Development)」、2002年、第16巻、p.948−958)の記載を参考にして実施できる。好ましくは4個ないし23個、より好ましくは4個ないし8個のヌクレオチドからなるものが望ましい。例えば、TTCAAGAGA(Ambion社製またはOligoengine社製)、AACGTT、TTAA、CAAGCTTC等の配列を挙げることができる。ヘアピン構造を有する二重鎖の形成は、センスRNA由来部分とアンチセンスRNA由来部分とを慣用の方法でアニーリングすることにより実施できる。
【0048】
Lib遺伝子の発現を阻害する機能を有するアンチセンスポリヌクレオチド、siRNAおよびshRNAの選択は、適当な細胞にLib遺伝子とアンチセンスポリヌクレオチド、siRNAおよびshRNAのいずれか1つとをコトランスフェクション(共遺伝子導入)し、Lib遺伝子の発現をウエスタンブロッティング等の自体公知の方法により検出し、Lib遺伝子の発現が阻害されるか否かを確認することにより実施できる。
【0049】
内在性のLib遺伝子の発現の阻害は、Lib遺伝子の発現を阻害する機能を有するアンチセンスポリヌクレオチド、siRNAまたはshRNAを、適当な遺伝子工学的手法により細胞内に導入することにより達成できる。
【0050】
Lib遺伝子によりコードされる蛋白質の機能を阻害する化合物、例えば該蛋白質のアストログリア細胞の移動能を阻害する化合物は、後述する化合物の同定方法により取得できる。
【0051】
(Lib遺伝子によりコードされる蛋白質の細胞移動能を阻害する化合物の同定方法)
Lib遺伝子によりコードされる蛋白質の細胞移動能を阻害する化合物の同定は、細胞の移動を測定することのできる実験系において、Lib遺伝子を発現している細胞と調べようとする化合物(被検化合物)の相互作用を可能にする条件下で、該細胞と化合物とを接触させ、次いで該細胞の移動を測定することのできる条件下で該細胞の移動を測定し、その後、被検化合物の存在下における該細胞の移動と、被検化合物の非存在下における該細胞の移動とを比較し、細胞の移動の変化を検出することにより実施できる。被検化合物の非存在下における細胞移動と比較して、被検化合物の存在下における細胞移動が低減または消失する場合、該被検化合物はLib遺伝子によりコードされる蛋白質の細胞移動能を阻害すると判定できる。本同定方法に用いる細胞として、好ましくはアストログリア細胞が挙げられる。また、アストログリア細胞由来細胞株を用いることができる。アストログリア細胞由来細胞株として、ヒトアストログリオーマ由来U87MG細胞を例示できる。細胞移動の測定は、例えば、市販の細胞移動測定システムまたは細胞浸潤測定システムを用いて実施できる。このようなシステムとして、上述したBD Falcon社製のバイオコートTMマトリゲルTM インベージョンチャンバーを例示できる。
【0052】
(アストログリア細胞の移動・集積を伴う疾患の防止剤および/または治療剤)
上述のように、本来生体防御機構であるはずのアストログリア細胞の移動・集積が、アルツハイマー病の進行に伴ってむしろ、脆弱化している神経細胞の傷害をさらに悪化させる方向に働いてしまう可能性を示唆するデータが集積されてきている。また、アストログリア細胞の病変部位への集積はアルツハイマー病に限らず、脳梗塞、パーキンソン病その他、多くの神経変性疾患に共通して認められる。これらから、Lib遺伝子の発現を阻害することおよび/または該遺伝子によりコードされる蛋白質の機能を阻害することにより、アストログリア細胞の移動・集積を伴う疾患の防止および/または治療が可能になると考える。すなわち、本発明において、Lib遺伝子の発現を阻害することおよび/または該遺伝子によりコードされる蛋白質の機能を阻害することによりアストログリア細胞の移動を阻害することを特徴とする、アストログリア細胞の移動・集積を伴う疾患の防止剤および/または治療剤を提供できる。また、該防止剤および/または治療剤を用いて、アストログリア細胞の移動・集積を伴う疾患の防止方法および/または治療方法を実施できる。アストログリア細胞の移動・集積を伴う疾患の防止剤および/または治療剤は、アストログリア細胞の移動・集積に起因する疾患や、アストログリア細胞の移動・集積により症状の増悪が認められる疾患に適用されることが好ましい。このような疾患として、アルツハイマー病、脳梗塞、パーキンソン病を、より好ましくはアルツハイマー病を例示できる。
【0053】
本発明に係る疾患の防止剤および/または治療剤は、上記アストログリア細胞の移動阻害剤を有効成分としてその有効量含む医薬であり得る。通常は、1種類または2種類以上の医薬的に許容される担体(医薬用担体)を用いて医薬組成物として製造することが好ましい。
【0054】
本発明に係る医薬製剤中に含まれる有効成分の量は、広範囲から適宜選択される。通常約0.00001〜70重量%、好ましくは0.0001〜5重量%程度の範囲とするのが適当である。
【0055】
医薬用担体は、製剤の使用形態に応じて一般的に用いられる、充填剤、増量剤、結合剤、付湿剤、崩壊剤、滑沢剤、希釈剤および賦形剤を例示できる。これらは得られる製剤の投与形態に応じて適宜選択して用いられる。
【0056】
より具体的には、水、医薬的に許容される有機溶剤、コラーゲン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、カルボキシビニルポリマー、アルギン酸ナトリウム、水溶性デキストラン、カルボキシメチルスターチナトリウム、ペクチン、キサンタンガム、アラビアゴム、カゼイン、ゼラチン、寒天、グリセリン、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ワセリン、パラフィン、ステアリルアルコール、ステアリン酸、ヒト血清アルブミン、マンニトール、ソルビトール、およびラクトース等が挙げられる。これらは、本医薬組成物の剤形に応じて適宜1種類または2種類以上を組合わせて用いられる。
【0057】
所望により、通常の蛋白質製剤に用いられる各種の成分、例えば安定化剤、殺菌剤、緩衝剤、等張化剤、キレート剤、界面活性剤、およびpH調整剤等を適宜用いることができる。
【0058】
安定化剤は、例えばヒト血清アルブミンや通常のL−アミノ酸、糖類、およびセルロース誘導体等を例示できる。これらは単独でまたは界面活性剤等と組合わせて用いることができる。特にこの組合わせによれば、有効成分の安定性をより向上させ得る場合がある。L−アミノ酸は、特に限定はなく、例えばグリシン、システイン、およびグルタミン酸等のいずれでもよい。糖類も特に限定はなく、例えばグルコース、マンノース、ガラクトース、および果糖等の単糖類、マンニトール、イノシトール、およびキシリトール等の糖アルコール、ショ糖、マルトース、および乳糖等の二糖類、デキストラン、ヒドロキシプロピルスターチ、コンドロイチン硫酸、およびヒアルロン酸等の多糖類等、並びにそれらの誘導体等のいずれでもよい。セルロース誘導体も特に限定はなく、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、およびカルボキシメチルセルロースナトリウム等のいずれでもよい。
【0059】
界面活性剤も特に限定はなく、イオン性界面活性剤および非イオン性界面活性剤のいずれも用いることができる。界面活性剤には、例えばポリオキシエチレングリコールソルビタンアルキルエステル系、ポリオキシエチレンアルキルエーテル系、ソルビタンモノアシルエステル系、および脂肪酸グリセリド系等が包含される。
【0060】
緩衝剤は、ホウ酸、リン酸、酢酸、クエン酸、ε−アミノカプロン酸、グルタミン酸および/またはそれらに対応する塩(例えばそれらのナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩等のアルカリ金属塩やアルカリ土類金属塩)を例示できる。
【0061】
等張化剤は、塩化ナトリウム、塩化カリウム、糖類、およびグリセリンを例示できる。
【0062】
キレート剤は、エデト酸ナトリウムおよびクエン酸を例示できる。
【0063】
本発明に係る医薬および医薬組成物は、液状の製剤として使用できる。その他、これを凍結乾燥化し保存し得る状態にした後、用時、水や生理的食塩水等を含む緩衝液等で溶解して適当な濃度に調製した後に使用することもできる。
【0064】
本発明に係る医薬および医薬組成物の用量範囲は特に限定されず、含有される成分の有効性、投与形態、投与経路、疾患の種類、対象の性質(体重、年齢、病状および他の医薬の使用の有無等)、および担当医師の判断等に応じて適宜選択される。一般的には適当な用量は、例えば対象の体重1kgあたり約0.01μg〜100mg程度、好ましくは約0.1μg〜1mg程度の範囲であることが好ましい。しかしながら、当該分野においてよく知られた最適化のための一般的な常套的実験を用いてこれらの用量の変更を行うことができる。上記投与量は1日1〜数回に分けて投与することができ、数日または数週間に1回の割合で間欠的に投与してもよい。
【0065】
本発明に係る医薬または医薬組成物を投与するとき、該医薬または医薬組成物を単独で使用してよく、あるいは治療に必要な他の化合物または医薬と共に使用してもよい。
【0066】
投与経路は、全身投与または局所投与のいずれも選択可能である。この場合、疾患、症状等に応じた適当な投与経路を選択する。例えば、非経口経路として、通常の静脈内投与、動脈内投与の他、皮下、皮内、または筋肉内への投与等の経路を挙げることができる。あるいは経口経路で投与することもできる。
【0067】
投与形態は、各種の形態が目的に応じて選択できる。その代表的なものとして、錠剤、丸剤、散剤、粉末剤、細粒剤、顆粒剤、カプセル剤等の固体投与形態や、水溶液製剤、エタノール溶液製剤、懸濁剤、脂肪乳剤、リポソーム製剤、シクロデキストリン等の包接体、シロップ、エリキシル等の液剤投与形態を例示できる。
【0068】
本発明の医薬および医薬組成物の有効成分が、DNAまたはRNA等の核酸である場合、遺伝子治療を利用して該核酸を投与することが好ましい。遺伝子治療は、公知の方法を利用して実施できる。この場合、核酸を注射により直接投与する非ウイルス性のトランスフェクション法、あるいはウイルスベクターを利用したトランスフェクション方法のいずれも適用できる。非ウイルス性のトランスフェクション法においては、発現プラスミドを筋肉内に注射により直接投与する方法(DNAワクチン法)の他、これらをリポソーム等のリン脂質小胞に封入して投与するリポソーム法が推奨される。リポソームは、カチオン性リポソームがより好ましく用いられる。カチオン性リポソームとして、リポフェクチン(Life Technologies社製)やオリゴフェクチンを例示できる。その他、リポフェクション法、マイクロインジェクション法、リン酸カルシウム法、およびエレクトロポレーション法等が利用できる。ウイルスベクターを利用するトランスフェクション法において、ウイルスベクターとして、好ましくはレトロウイルスベクター、アデノウイルスベクター、アデノ関連ウイルスベクター、およびワクシニアウイルスベクター等のDNAウイルスベクターあるいはRNAウイルスベクターが挙げられる。これらウイルスベクターを用いることにより効率良い投与を実現できる。さらに、ウイルスベクターを用いるトランスフェクション法においても、該ベクターをリポソームに封入して、そのリポソームを投与する方法が推奨される。リポソームを用いることにより目的物質の標的細胞または標的組織への送達を効率的に行えるため、ウイルスベクターとリポソームとの複合治療は、高い効果を奏する場合がある。また、リポソームを用いた治療において、リポソームが比較的安定で、主要な免疫応答を生じることがないことが知られていることからも、このような複合治療の有用性が示唆される。リポソームは、カチオン性脂質から製造されるリポソームが好ましく用いられる。
【0069】
以下、本発明を実施例に基づき具体的に説明する。
【実施例1】
【0070】
(脳におけるLib遺伝子の発現解析)
Lib遺伝子の発現解析を、ヒト脳切片およびラット脳切片を用いて、in situハイブリダイゼーション法で実施した。
【0071】
(1)ヒト脳切片におけるLib遺伝子の発現解析
解析は、アルツハイマー病患者の脳切片(以下、AD脳と称することがある)およびアルツハイマー病に罹患していない患者由来の脳切片(以下、Non−AD脳と称することがある)について行なった。
【0072】
プローブは、ヒトLib cDNAの部分配列である配列番号3に示す塩基配列からなる299bpのDNA断片を用いた。該DNA断片は、フォワードプライマー 5´−CCTAGTTACCCAGAAACACCATGG−3´(配列番号5)とリバースプライマー 5´−CACTCATTGGGTGCCTTC−3´(配列番号6)を用いてPCRにより作製し、ベクターpCR−Blunt II−TOPO(Invitrogen社製)にクローニングした。本ベクターにはT7プロモーター配列およびSP6プロモーター配列が含まれるので、T7RNAポリメラーゼおよびSP6RNAポリメラーゼにより、ジゴキシゲニンラベルしたアンチセンスRNAプローブおよびセンスRNAプローブをそれぞれ作製した。
【0073】
in situハイブリダイゼーション法は、ロシュ(Roche)社添付のプロトコールに従って行なった。組織切片を以下の溶液に浸し、前処理を行なった。すなわち、キシレンに10分間2回(脱パラフィン)、100%エタノールに3分間2回、95%エタノールに3分間2回、70%エタノールに3分間2回、50%エタノールに3分間2回、30%エタノールに3分間2回(水和)、PBST(phosphate−buffered salineに、0.1% Tween−20を含む)に5分間(リンス)、プロテイナーゼK(20μg/ml PBST溶液)に10分間(蛋白質分解)、PBSTに5分間(リンス)、4% パラホルムアルデヒド(PBST溶液)に10分間(固定化)、PBSTに5分間3回の浸漬を行なった。
【0074】
ハイブリダイゼーションソリューション(Roche社製)を用いてモイスチャーチャンバー内にて42℃で3時間のプレハイブリダイゼーションを行なった後、変性させたジゴキシゲニンでラベルしたプローブを用いて42℃で16時間のハイブリダイゼーションを実施した。スライドを2×SSC(Salt Sodium Citrate)、1×SSC、0.5×SSC、0.1×SSCでそれぞれ15分間2回洗浄し、ブロッキングバッファーを用いて室温で1時間のブロッキングを行なった後、アルカリフォスファターゼ標識抗ジゴキシゲニン抗体(2μl/ml)を4℃で16時間反応させた。
【0075】
その後、マレイン酸バッファーで15分間4回室温で洗浄し、検出バッファー(Roche社製)で5分間平衡化させ、発色基質であるNBT/BCIP(Nitro−Blue Tetrazolium chloride/5−Bromo−4−Chloro−3´−Indolyphosphate p−Toluidine)を加えて室温で2時間発色させた。再びマレイン酸バッファーで軽く洗浄した後、封入剤で封入し、光学顕微鏡で鏡顕した。
【0076】
hLib遺伝子の発現解析は、脳の白質由来の切片および皮質由来の切片について行なった。白質にはグリア細胞が存在する。皮質は灰白質とも呼ばれ、ニューロンおよびグリア細胞が存在する。AD脳の白質ではグリア細胞でのhLib遺伝子の発現が認められた(図1−Aの右図)が、Non−AD脳の白質ではその発現は認められなかった(図1−Aの左図)。一方、AD脳の皮質では、hLib遺伝子の発現は神経細胞で低減していたが、グリア細胞でその特異的な発現増加を認めた(図1−Bの右図)。Non−AD脳の皮質では、神経細胞でのhLib遺伝子の発現が認められたが、グリア細胞での発現は認められなかった(図1−Bの左図)。AD脳の皮質において、Aβの局在とhLib遺伝子の発現とを2重染色により検出したところ、Aβにより構成される老人斑の周辺に存在する細胞にhLib遺伝子の発現が認められた(図1−C)。また、AD脳の皮質において、アストログリア細胞の存在を示すマーカーであるGFAPとhLib遺伝子の発現とを2重染色により検出したところ、アストログリア細胞でhLib遺伝子の発現が認められた(図1−D)。
【0077】
hLib遺伝子の発現解析により、このように、AD脳においてアストログリア細胞におけるLib遺伝子の発現が増加していることが判明した。また、Aβを含む老人斑に隣接するアストログリア細胞にhLib遺伝子が発現していることが明らかになった。
【0078】
(2)ラット脳切片におけるラットLib遺伝子(rLib遺伝子)の発現解析
成体脳切片および胎児(胎生17日目)切片は、それぞれジェノスタッフ(Genostaff)社およびノバジェン(Novagen)社より購入した。プローブは、ラットLib cDNAの3´−UTR領域に存在する配列番号4に示す361bpのDNA断片を用いた。該DNA断片は、次に示すプライマーを用いてPCRにより作製した。アンチセンスプローブ用にはフォワードプライマー 5´−AAACAGTTCTGGTAAGACGA−3´(配列番号7)とリバースプライマー 5´−TAATACGACTCACTATAGGGAAGTCTGGACATTGTGTAGG−3´(配列番号8)、センスプローブ用にはフォワードプライマー 5´−TAATACGACTCACTATAGGGAAACAGTTCTGGTAAGACGA−3´(配列番号9)とリバースプライマー 5´−AAGTCTGGACATTGTGTAGG−3´(配列番号10)を用いた。上記プライマーにはT7プロモーター配列が含まれるので、PCRで得られたそれぞれのヌクレオチド断片中のT7プロモーター配列を利用し、T7RNAポリメラーゼにより、ジゴキシゲニンラベルRNAプローブを作製した。
【0079】
in situハイブリダイゼーション法は、上記方法と同様の方法で実施した。
【0080】
その結果、rLib遺伝子のアンチセンスプローブを用いたときに、ラット成体脳の海馬、嗅球、海馬および松果体で強いハイブリダイゼーションシグナルが認められた(図2−A〜D)。また、ラット胎児脳では、rLib遺伝子のアンチセンスプローブを用いたときに、大脳皮質となる新外套皮質、並びに中脳蓋となる中脳外套層に特異的な強いハイブリダイゼーションシグナルが認められた(図3)。一方、rLib遺伝子のセンスプローブを用いて非特異的なハイブリダイゼーションシグナルの検出を行なったが、非特異的なハイブリダイゼーションシグナルは認められなかった。したがって、アンチセンスプローブを用いて検出されたハイブリダイゼーションシグナルは、rLib遺伝子特異的であると考えられる。
【0081】
これら結果から、rLib遺伝子はラット成体脳の海馬、嗅球、海馬および松果体で強く発現していることが明らかになった。また、ラット胎児脳において、rLib遺伝子は胎児脳特異的な発現を示し、特に大脳皮質となる新外套皮質、並びに中脳外套層に特異的に発現していることが判明した。
【実施例2】
【0082】
(マトリゲルを用いた細胞移動解析)
hLib遺伝子を発現する細胞の作製は、ヒトLib蛋白質(以下、hLib蛋白質と称することもある)をそのC末端にFlag−tagが付加された状態で発現させるプラスミドを、ヒトアストログリオーマ由来U87MG細胞(ATCC(American Type Culture Collection)より購入)にFugene6(Roche社製)を用いてトランスフェクションすることにより実施した。該プラスミドは、G418耐性遺伝子を保持している。ネガティブコントロールとして、G418耐性遺伝子を保持しているが、hLib蛋白質をコードする遺伝子を保持していない空ベクター(mockプラスミド)を、上記同様の方法でU87MG細胞にトランスフェクションして用いた。
【0083】
上記プラスミドをトランスフェクションしたU87MG細胞を400μg/ml G418存在下で1ヶ月間培養し、hLib発現遺伝子U87MG細胞をミックスポピュレーション(mix population、キメリック)の形で得た。トランスフェクションしたプラスミドにより発現したhLib蛋白質は、hLib蛋白質を認識する抗体、若しくは抗Flag抗体M2を用いたウエスタンブロッティングにより確認した。hLib蛋白質を認識する抗体は、hLib蛋白質のアミノ酸配列の第480番目から第499番目までのアミノ酸配列、すなわちEVPSYPETPWYPDTPSYPDT(アミノ酸一文字表記による、配列番号11)からなるポリペプチドを抗原として用いて作製した。抗原は、上記20アミノ酸残基からなる直鎖ペプチドをFmoc法により合成し、キャリア蛋白質キーホールリンペットヘモシアニン(KLH)をグルタルアルデヒド法にて結合させることにより作製した。免疫は、ウサギ(ニュージーランドホワイト種)に、上記抗原400μgを初回はフロイント完全アジュバントを混合して皮下注射し、2回目以降は抗原200μgとフロイント不完全アジュバントとを混合したものを2週間おきに免疫注射した(合計5回)。全採血後、プロテインAカラムを用いてIgG画分を精製し、hLib蛋白質を認識する抗体を得た。
【0084】
細胞移動解析は、バイオコートTMマトリゲルTM 24ウエル インベージョンチャンバー(BD Falcon社製)を用いて実施した。具体的には、細胞数5×10/mlの濃度になるようにDMEM(10% 牛胎児血清を含む)に懸濁したU87MG細胞を、バイオコートTM マトリゲルTM24ウエル インベージョンチャンバーに0.5ml播種し、24時間静置した。移動せずにチャンバーのメンブレン表面に残った細胞を綿棒で除去し、メンブレンの裏面に移動した細胞を固定後、ディフ−クイックステイニングキット(Diff−Quick staining kit、国際試薬社製)で染色し、予め定めた5箇所の領域の顕微鏡写真(倍率100×)を撮影し、細胞を計数した。
【0085】
メンブレンの裏面に移動した細胞数は、hLib遺伝子発現プラスミドをトランスフェクションした細胞では、該プラスミドをトランスフェクションしていない細胞および空ベクターをトランスフェクションした細胞(mock)に比べて増加することが細胞染色による検出により判明した。さらに、細胞数の計測により、メンブレンの裏面に移動した細胞数は、hLib遺伝子発現プラスミドをトランスフェクションした細胞では、該プラスミドをトランスフェクションしていない細胞および空ベクターをトランスフェクションしたコントロール細胞のそれぞれ約4倍であることが明らかになった(図4−A)。これらの細胞を、ECMをコートしていないチャンバーで試験したときには、裏面に移動した細胞数に差は認められなかった(データは示していない)。
【0086】
細胞にトランスフェクションにより導入したhLib遺伝子由来のhLib蛋白質の発現はウエスタンブロッティングにより確認できた(図4−B)。ウエスタンブロッティングの結果、hLib遺伝子をトランスフェクションにより導入した細胞で、グルコース化修飾の度合いに由来すると考えられる2種類のhLib遺伝子産物が検出された。一方、プラスミドをトランスフェクションしていない細胞および空ベクターをトランスフェクションした細胞では、hLib遺伝子産物を示すバンドは認められなかった。このことから、U87MG細胞における定常状態でのhLib遺伝子産物の発現量は検出感度以下であることが判明した。
【0087】
これら結果から、hLib遺伝子はその単独の発現によりアストログリオーマ細胞のECM間の細胞移動を著しく促進することが明らかになった。
【実施例3】
【0088】
(hLib蛋白質のECM巨大分子への結合能の解析)
ブロットオーバーレイバインディングアナリシスにより、マトリゲルおよびECM巨大分子へのhLib蛋白質の結合能を評価した。本評価において、hLib蛋白質として、hLib蛋白質の細胞外領域、すなわち該蛋白質のアミノ酸配列のうち第1番目から第529番目までのアミノ酸配列からなる蛋白質(以下、hLib(1−529)と称する)、のC末端にHis×6−tagが付加された蛋白質を用いた。
【0089】
hLib蛋白質はsf9細胞(Invitrogen社製)を用いて製造した。該蛋白質をコードするcDNAをpFastBac1ベクター(Invitrogen社製)にクローニングし、組換えバキュロウイルスを取扱説明書に従って取得した。組換えhLib蛋白質は、感染させたsf9細胞の培養上清からHiTrap Chelating HP(Amersham社製)を用いてアフィニティー精製した。hLib蛋白質が精製されたことを、ウェスタンブロッティングおよびクマシーブリリアントブルーR250(CBBR)を用いた染色により確認した(図5−A)。
【0090】
マトリゲル(Beckton Dickinson社製)、IV型コラーゲン(Beckton Dickinson社製)、ラミニン(Beckton Dickinson社製)、フィブロネクチン(Beckton Dickinson社製)、およびアグリカン(SIGMA社製)といったECM巨大分子、およびウシ血清アルブミン(BSA、SIGMA社製)へのhLib蛋白質の結合能を、文献(パラルカー(Paralkar,V.M.)他、「ザ ジャーナル オブ セル バイオロジー(The Journal of Cell Biology)」、1992年、第119巻、p.1721−1728)記載の方法を若干変更した方法により測定した。
【0091】
具体的には、各巨大分子を5μgおよび0.5μgずつPVDFメンブレン上にスポット状にブロットした。該メンブレンはブロッキング溶液で室温にて2時間インキュベーションし、次いでhLib蛋白質(1μg/ml)を含むブロッキング溶液中で4℃にて16時間インキュベーションした。洗浄後、該メンブレンを抗hLib蛋白質ポリクローナル抗体(1:1000希釈、実施例2参照)を用いて4℃にて16時間インキュベーションし、次いで繰り返し洗浄し、HRPを結合させた抗ウサギIgG抗体(1:2000希釈、Amersham社製)とともにインキュベーションし、ECL(Amersham社製)を用いて検出を行った。
【0092】
hLib蛋白質は、フィブロネクチン、IV型コラーゲン、ラミニン、およびマトリゲルのいずれにも結合し、特にフィブロネクチンに選択的に結合したが、アグリカンおよびBSAにはほとんど結合しないか全く結合しなかった(図5−B)。ブロットした巨大分子の用量が少ないときには、結合を示すシグナルの強度が低減した。
【0093】
これら結果から、hLib蛋白質は、ECMを構成する巨大分子であるフィブロネクチン、IV型コラーゲンおよびラミニンへの結合能を有することが明らかになった。hLib蛋白質が、軟骨プロテオグリカンであり脳内にも存在するアグリカンやBSAに結合しなかったことから、hLib蛋白質の上記ECM巨大分子への結合は選択的な結合であると考える。
【産業上の利用可能性】
【0094】
本発明に係るアストログリア細胞の移動阻害方法および該細胞の移動阻害剤を用いることにより、アストログリア細胞の集積に起因する症状や疾患、例えば細胞死やアルツハイマー病等の防止、改善および/または治療が可能になる。したがって、本発明は、医薬開発分野に寄与する有用な発明である。
【図面の簡単な説明】
【0095】
【図1−A】脳白質切片でのhLib遺伝子の発現解析をin situハイブリダイゼーション法により行なった結果を示す図である。右図は、アルツハイマー病患者由来の脳の白質(AD白質)においてhLib遺伝子が発現していることを示す。左図は、アルツハイマー病ではない患者由来の脳の白質(Non−AD白質)においてhLib遺伝子が発現していないことを示す。(実施例1)
【図1−B】脳皮質切片でのhLib遺伝子の発現解析をin situハイブリダイゼーション法により行なった結果を示す図である。右図は、アルツハイマー病患者由来の脳の皮質(AD皮質)において、hLib遺伝子の発現は神経細胞で低減が認められたが、アストログリア細胞で特異的に発現増加していたことを示す。左図は、アルツハイマー病ではない患者由来の脳の皮質(Non−AD皮質)において、神経細胞でのhLib遺伝子の発現が認められたがアストログリア細胞での発現が認められなかったことを示す。(実施例1)
【図1−C】AD皮質において、Aβの局在とhLib遺伝子の発現とを2重染色により検出した結果を示す図である。(実施例1)
【図1−D】AD皮質において、アストログリア細胞の存在を示すマーカーであるGFAPとhLib遺伝子の発現とを2重染色により検出した結果を示す図である。(実施例1)
【図2−A】ラット成体の海馬脳(垂直切片)におけるrLib遺伝子の発現解析をin situハイブリダイゼーション法により行なった結果を示す図である。左図および右図はそれぞれ、rLib遺伝子のアンチセンスプローブおよびセンスプローブを用いて遺伝子解析を行なった結果を示す。(実施例1)
【図2−B】ラット成体の小脳(垂直切片)におけるrLib遺伝子の発現解析をin situハイブリダイゼーション法により行なった結果を示す図である。左図および右図はそれぞれ、rLib遺伝子のアンチセンスプローブおよびセンスプローブを用いて遺伝子解析を行なった結果を示す。(実施例1)
【図2−C】ラット成体の嗅球(垂直切片)におけるrLib遺伝子の発現解析をin situハイブリダイゼーション法により行なった結果を示す図である。左図および右図はそれぞれ、rLib遺伝子のアンチセンスプローブおよびセンスプローブを用いて遺伝子解析を行なった結果を示す。(実施例1)
【図2−D】ラット成体の脳(垂下切片)におけるrLib遺伝子の発現解析をin situハイブリダイゼーション法により行なった結果を示す図である。左図および右図はそれぞれ、rLib遺伝子のアンチセンスプローブおよびセンスプローブを用いて遺伝子解析を行なった結果を示す。(実施例1)
【図3】ラット胎児(胎生17日目)におけるrLib遺伝子の発現解析をin situハイブリダイゼーション法により行なった結果を示す図である。左図および右図はそれぞれ、rLib遺伝子のアンチセンスプローブおよびセンスプローブを用いて遺伝子解析を行なった結果を示す。矢印は、rLib遺伝子の発現が認められた部位を示す。(実施例1)
【図4−A】hLib遺伝子を発現させたヒトアストログリオーマ由来U87MG細胞のECM間の移動をマトリゲルを用いて解析した結果を示す図である。細胞の移動は、移動した細胞数(numbers of migrated cells)で示した。図中、wild typeは、ベクターをトランスフェクションしていないU87MG細胞を意味する。また、mockおよびhLibはそれぞれ、空ベクター(hLib遺伝子を保持していないベクター)およびhLib遺伝子発現プラスミドをトランスフェクションしたU87MG細胞を示す。(実施例2)
【図4−B】hLib遺伝子をトランスフェクションしたヒトアストログリオーマ由来U87MG細胞における該遺伝子の発現をウエスタンブロッティングにより検出した結果を示す図である。左図および右図はそれぞれ、抗Lib抗体および抗Flag抗体M2を用いてhLib遺伝子の発現を検出した結果を示す。図中、wtは、ベクターをトランスフェクションしていないU87MG細胞を意味する。また、mockおよびhLibはそれぞれ、空ベクター(hLib遺伝子を保持していないベクター)およびhLib遺伝子発現プラスミドをトランスフェクションしたU87MG細胞を示す。左図と右図の間の数字は、分子量マーカーの分子量を示す。(実施例2)
【図5−A】分泌型hLib蛋白質をsf9細胞培養上清からアフィニティー精製し、ウエスタンブロッティング(WB)およびCBBRを用いた染色により検出した結果を示す図である。分泌型hLib蛋白質は、hLib蛋白質の細胞外領域、すなわち該蛋白質のアミノ酸配列のうち第1番目から第529番目までのアミノ酸配列からなる蛋白質、のC末端にHis×6−tagが付加された蛋白質としてsf9細胞で発現させた。図中、「M」は分子量マーカーを指す。(実施例3)
【図5−B】マトリゲル(Matrigel)およびECM巨大分子へのhLib蛋白質の結合能を、ブロットオーバーレイバインディングアナリシスにより評価した結果を示す図である。hLib蛋白質は、マトリゲル並びにECM巨大分子であるフィブロネクチン、IV型コラーゲンおよびラミニンに結合し、特にフィブロネクチンに選択的に結合したが、アグリカンおよびBSAにはほとんど結合しないか全く結合しなかった。各巨大分子はいずれも、5μgおよび0.5μgをメンブレンに滴下した。(実施例3)
【配列表フリーテキスト】
【0096】
配列番号1:配列番号2に記載のアミノ酸配列からなるhLib蛋白質をコードするhLib遺伝子。
配列番号3:hLib遺伝子に対するプローブとして用いることができるhLib遺伝子の部分配列。
配列番号4:rLib cDNAの3´末端側非翻訳領域に存在するDNA断片。
配列番号5:hLib遺伝子に対するプローブ作製用プライマーとして設計されたDNA。
配列番号6:hLib遺伝子に対するプローブ作製用プライマーとして設計されたDNA。
配列番号7:rLib遺伝子に対するアンチセンスプローブ作製用プライマーとして設計されたDNA。
配列番号8:rLib遺伝子に対するアンチセンスプローブ作製用プライマーとして設計されたDNA。
配列番号9:rLib遺伝子に対するセンスプローブ作製用プライマーとして設計されたDNA。
配列番号10:rLib遺伝子に対するセンスプローブ作製用プライマーとして設計されたDNA。
配列番号11:hLib蛋白質に対する抗体作製用の抗原として有用なhLib蛋白質の部分ペプチド。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Lib遺伝子の発現を阻害することおよび/または該遺伝子によりコードされる蛋白質の機能を阻害することを特徴とするアストログリア細胞の移動阻害方法。
【請求項2】
Lib遺伝子の発現阻害剤および/または該遺伝子によりコードされる蛋白質の機能阻害剤を用いることを特徴とするアストログリア細胞の移動阻害方法。
【請求項3】
配列表の配列番号1に記載の塩基配列に相補的な塩基配列または該相補的な塩基配列の一部を含有するアンチセンスポリヌクレオチドを用いることを特徴とするアストログリア細胞の移動阻害方法。
【請求項4】
Lib遺伝子によりコードされる蛋白質のアストログリア細胞の細胞移動能を阻害する化合物の同定方法であって、Lib遺伝子を発現している細胞とある化合物との相互作用を可能にする条件下で該細胞と化合物とを接触させ、次いで、該細胞の移動を測定することのできる条件下で細胞の移動を測定し、該細胞の移動の変化を検出することにより、該化合物がLib遺伝子によりコードされる蛋白質の細胞移動能を阻害するか否かを判定することを特徴とする同定方法。
【請求項5】
Lib遺伝子の発現を阻害することおよび/または該遺伝子によりコードされる蛋白質の機能を阻害することを特徴とするアストログリア細胞の移動阻害剤。
【請求項6】
配列表の配列番号1に記載の塩基配列に相補的な塩基配列または該相補的な塩基配列の一部を含有するアンチセンスポリヌクレオチドを有効量含んでなるアストログリア細胞の移動阻害剤。
【請求項7】
Lib遺伝子の発現を阻害することおよび/または該遺伝子によりコードされる蛋白質の機能を阻害することによりアストログリア細胞の移動を阻害することを特徴とする、アストログリア細胞の集積に起因する疾患の防止剤および/または治療剤。
【請求項8】
請求項5または6に記載のアストログリア細胞の移動阻害剤を含有してなる、アストログリア細胞の集積に起因する疾患の防止剤および/または治療剤。
【請求項9】
アストログリア細胞の集積に起因する疾患が、アルツハイマー病である請求項7または8に記載の疾患の防止剤および/または治療剤。
【請求項10】
Lib遺伝子の発現を阻害することおよび/または該遺伝子によりコードされる蛋白質の機能を阻害することによりアストログリア細胞の移動を阻害することを特徴とする、アストログリア細胞の集積に起因する疾患の防止方法および/または治療方法。
【請求項11】
請求項5または6に記載のアストログリア細胞の移動阻害剤を用いることを特徴とする、アストログリア細胞の集積に起因する疾患の防止方法および/または治療方法。
【請求項12】
アストログリア細胞の集積に起因する疾患が、アルツハイマー病である請求項10または11に記載の疾患の防止方法および/または治療方法。

【図4−A】
image rotate

【図1−A】
image rotate

【図1−B】
image rotate

【図1−C】
image rotate

【図1−D】
image rotate

【図2−A】
image rotate

【図2−B】
image rotate

【図2−C】
image rotate

【図2−D】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4−B】
image rotate

【図5−A】
image rotate

【図5−B】
image rotate


【公開番号】特開2006−75152(P2006−75152A)
【公開日】平成18年3月23日(2006.3.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−225206(P2005−225206)
【出願日】平成17年8月3日(2005.8.3)
【出願人】(000002831)第一製薬株式会社 (129)
【Fターム(参考)】