説明

細胞給排・捕捉装置及び細胞給排・捕捉方法

【課題】 細胞給排・捕捉装置及び細胞給排・捕捉方法に関し、多量の細胞を短時間で保持し、保持後に保持されていた細胞を効率的に回収する。
【解決手段】 細胞懸濁液2を供給する細胞供給機構1、細胞を含まない液体4を供給する送液機構3、細胞懸濁液2及び液体4を流す流路6と細胞懸濁液2中の細胞を捕捉する貫通孔7を備えた捕捉チップ5、捕捉チップ5に接続されて貫通孔7からの吸引量を制御する吸引機構8、貫通孔7で捕捉されなかった不要な細胞を回収する不要細胞回収機構9、及び、捕捉細胞を回収する捕捉細胞回収機構10とを少なくとも設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は細胞給排・捕捉装置及び細胞給排・捕捉方法に関するものであり、主にライフサイエンス分野、特に、再生医療及びゲノム創薬に関連する分野における細胞内への物質導入或いは細胞の経過観察に際し、流路上で複数個の細胞を搬送・捕捉し、捕捉されていない細胞と捕捉されている細胞を別々に回収するため構成に特徴のある細胞給排・捕捉装置及び細胞給排・捕捉方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、再生医療およびゲノム創薬等の分野において、遺伝子および薬剤を導入した細胞を利用する機会が増加しており、研究用途において多くの物質導入技術が用いられているが、医療用途においては、研究用途とは異なる要求が存在する。
【0003】
特に、医療用途特有の主な要求としては、細胞の種類および導入物質の種類を問わないこと、導入効率が高いこと、及び、物質導入細胞を大量に供給できることが求められており、このうち、物質導入済細胞の大量供給は特に重要であり、再生医療では一度に105 〜106 個の細胞が必要であるといわれている。
【0004】
また、物質導入の方法としては、各種の方法があるが、そのうちでもマイクロインジェクション法(例えば、特許文献1,2参照)は、物質導入の成功率が高く、細胞と導入物質の組合せを選ばないことから、物質導入方法として最も確実であると考えられる。
【0005】
この様なマイクロインジュクション法を用いて物質導入済細胞を作製する場合に、細胞を所定箇所に保持する必要があり、そのために各種の方法が提案されており、例えば、シリコン基板に逆四角錐状孔を二次元マトリクス状に配置し、個々の逆四角錐状孔内に一個の細胞を隔離して保持することが提案されている(例えば、特許文献3参照)。
【0006】
また、上記の特許文献3においては、逆四角錐状孔の底部に水抜き用のスリットを設けることも提案されている。
【特許文献1】特開平05−192171号公報
【特許文献2】特開平06−343478号公報
【特許文献3】特開昭63−129980号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、上記の特許文献3に示された細胞保持装置を用いてマイクロインジェクション、細胞電気整理実験等を行う場合、細胞の保持は可能だが、各逆四角錐状孔に確実に1個の細胞を効率良く収容するための具体的手法が確立されていないという問題がある。
【0008】
また、個々の細胞が隔離されているため、実験後に細胞を回収し培養等を行う必要があるとき、細胞を回収することが困難であるという問題があり、スループットの点で再生医療やゲノム創薬などの産業応用には直接適用できないという問題がある。
【0009】
一方、ポリ−L−リジンや、レクチン等を用いた細胞接着による固定法もあるが、細胞に対する毒性が懸念されており、加えて、固定後に細胞を剥離させ回収することが困難であるという問題がある。
【0010】
したがって、本発明は、多量の細胞を短時間で保持し、保持後に保持されていた細胞を効率的に回収することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
図1は本発明の原理的構成図であり、ここで図1を参照して、本発明における課題を解決するための手段を説明する。
図1参照
上記課題を解決するために、本発明は、細胞給排・捕捉装置において、細胞懸濁液2を供給する細胞供給機構1、細胞を含まない液体4を供給する送液機構3、細胞懸濁液2及び液体4を流す流路6と細胞懸濁液2中の細胞を捕捉する貫通孔7を備えた捕捉チップ5、捕捉チップ5に接続されて貫通孔7からの吸引量を制御する吸引機構8、貫通孔7で捕捉されなかった不要な細胞を回収する不要細胞回収機構9、及び、捕捉細胞を回収する捕捉細胞回収機構10とを少なくとも備えたことを特徴とする。
【0012】
以上の構成を採用することによって、捕捉された細胞と捕捉されていない細胞を別々に回収することが可能となり、回収後の解析作業の効率を向上することができる。
また、吸引により細胞を捕捉しているので、捕捉手段自体が細胞に化学的な悪影響を与えることがなく、さらに、装置構成が全体として小型であるのでサンプル数が少ない場合にも確実な捕捉を行うことができる。
【0013】
この場合、捕捉チップ5に、流路6の一方の端部に流路6に細胞懸濁液2及び液体4を流す流入部と、流路6の他方の端部に流路6から細胞懸濁液2及び液体4を回収する回収部とを設けるとともに、細胞懸濁液2中の細胞が通過できない径の複数の貫通孔7を流路6に沿うように設けることが望ましく、それによって、多数の細胞を捕捉チップ5に短時間で捕捉することが可能になる。
なお、貫通孔7の径を細胞の通過できない大きさにすることで、細胞が貫通孔7を通過することなく、細胞の捕捉が可能となる。
【0014】
また、捕捉チップ5に設ける流路6は蛇行した一本の流路6として良いし、或いは、複数の平行に配置された流路6からなるとともに、各流路6の一端で共通の流入部に接続する接続流路を有するとともに、前記各流路6の他端で共通の回収部に接続する接続流路を有する分岐型の流路6としても良く、流路6を一本にした場合には細胞を順番に回収することが可能になり、一方、分岐型の流路6とした場合には細胞の搬送を並列で処理することで短時間で捕捉することが可能になる。
【0015】
また、捕捉チップ5に設けた流路6の内壁を捕捉チップ5の基材より親水性にするとともに、捕捉チップ5の流路6の内壁以外の面を基材より疎水性にすることが望ましく、それによって、流路6を密閉することなく、流路6のみに細胞懸濁液2を流すことができる。
【0016】
この場合、流路6の内壁を捕捉チップ5の基材より親水性の樹脂でコートするとともに、捕捉チップ5の流路6の内壁以外の面を基材より疎水性の樹脂でコートすれば良い。
【0017】
また、細胞を含まない液体4を、細胞より比重の重い液体4とすることが望ましく、それによって、流路6の底に沈降している細胞を浮上させ、搬送を容易にすることができる。
【0018】
この様な細胞を含まない液体4としては、細胞懸濁液2を構成する培地と同じ成分からなるとともに、培地より塩分濃度を高めた液体4であることが望ましく、基本的成分が同じであるので、捕捉細胞に悪影響を与えることがない。
【0019】
また、この様な細胞給排・捕捉装置に、捕捉した細胞に物質を注入する注入機構を備えることによって、物質導入済み細胞を培養する際の回収を効率的に行うことができる。
【0020】
また、上述の細胞の給排・捕捉を行う場合には、細胞懸濁液2を複数の貫通孔7を備えた流路6の一端から流し細胞懸濁液2中の細胞を貫通孔7で吸引により捕捉する工程、流路6の一端から細胞より比重の重い液体4を流し捕捉しきれなかった細胞を浮上させて流路6の他端で回収する工程、捕捉した細胞に物質を注入するインジェクション或いは経過観察のいずれかを行う工程、インジェクション或いは経過観察後に吸引を解除するとともに流路6の一端から細胞より比重の重い液体4を流し細胞を浮上させて流路6の他端で回収する工程とを順次行えば良い。
【発明の効果】
【0021】
以上説明したように、本発明によれば、細胞を高スループットで捕捉し、また、捕捉細胞と捕捉されていない細胞を別々に、かつ、高効率に回収することができ、それによって、再生医療やゲノム創薬などの産業応用におけるマイクロインジェクション装置等への適用が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明は、まず、
(1)細胞供給機構より、捕捉チップの流入部に細胞懸濁液を供給する。
流入部への供給方法は、細胞供給機構にピペット状の細管を接続して、細胞懸濁液を流入部へ滴下しても、チューブを介して細胞供給機構を捕捉チップに接続して、細胞懸濁液を供給しても良い。
このとき、捕捉チップの流路を親水性、流路以外の部分を疎水性にすることにより、流路を密閉することなく、流路のみに細胞懸濁液を流すことができる。
【0023】
次いで、
(2)吸引機構を用いて、流路内の貫通孔に細胞を捕捉する。
貫通孔の出口は、吸引機構に接続されており、貫通孔からの吸引圧により細胞を捕捉するものであり、この場合、貫通孔の径を、細胞の通過できない大きさにすることで、細胞が貫通孔を通過することなく、細胞の捕捉が可能となる。
【0024】
次いで、
(3)送液機構を用いて、捕捉チップより、捕捉されていない細胞を除去する。
このとき、細胞と比重の異なる液体を送液機構より流入部へ供給し、捕捉されていない細胞を浮上させ捕捉チップの流出部まで搬送し、
(4)不要細胞回収機構を用いて、流出部まで流れてきた、捕捉されていない細胞を回収する。
【0025】
次いで、
(5)捕捉細胞に対して、インジェクション、経過観察等の作業を行い、作業が終わった後は、吸引機構を用いて、吸引圧を解除し、捕捉細胞を解放する。
【0026】
次いで、
(6)再び、送液機構を用いて、開放された細胞を捕捉チップの流出部へと搬送する。 このときも、細胞と比重の異なる液体を送液機構より流入部へ供給し、捕捉されていた細胞を浮上させ捕捉チップの流出部まで搬送し、
(7)捕捉細胞回収機構を用いて、搬送されてきた捕捉細胞を回収する。
【実施例1】
【0027】
ここで、図2及び図7を参照して、本発明の実施例1の細胞給排・捕捉装置を説明する。
図2参照
図2は、本発明の実施例1の細胞給排・捕捉装置の概念的構成図であり、ピペット状の細管12を備えるとともに細管12から培地14に細胞15を懸濁した細胞懸濁液13を捕捉チップ30に供給する細胞供給装置11、ピペット状の細管17を備えるとともに細管17から培地より比重の重いキャリア液18を捕捉チップ30に供給する送液装置16、供給された細胞懸濁液13中の細胞15を吸引装置23によって吸引して捕捉する捕捉チップ30、捕捉チップを収容するとともに吸引用の開口部20を有する容器19、容器19を保持するとともに吸引装置23との接続部22を有するチップ保持具21、細胞15を捕捉するための吸引装置23、捕捉した細胞15を観察する細胞観察装置40、捕捉されなかった細胞15を細管25を介して回収する不要細胞回収装置24、インジェクション等の作業を行った処置済み細胞15を細管27を介して回収する捕捉細胞回収装置26から基本構成が構成される。
【0028】
この場合の細胞観察装置40は、光源41及び対物レンズ42を備えた画像処理装置43からなり、細胞観察装置40は、捕捉チップ30を常時観察し、細胞15の捕捉状態を検出するとともに、細胞分裂等の経過観察を行う。
【0029】
図3参照及び図4参照
図3は捕捉チップ30の概略的平面図であり、また、図4は捕捉チップ30の概略的断面図であり、通常のフォトリソグラフィー工程を利用してシリコン基板31の一端に流入部32、他端に流出部34を形成するとともに、流入部32と流出部34を結ぶ蛇行した流路33を形成する。
【0030】
また、この流路33の底部に吸引用の貫通孔35を設けるとともに、シリコン基板31の裏面に貫通孔35に繋がる開口部36を形成し、開口部36を介して貫通孔35から細胞を吸引する。
【0031】
また、流路33の側壁及び底面には親水性の樹脂37、例えば、HydroCell(セルシード製商品名)をコートして親水性処理するとともに、流路33以外のシリコン基板31の表面には疎水性の樹脂38、例えば、アクリル系樹脂をコートして疎水性処理する。
なお、この時、貫通孔35が樹脂で塞がれないように注意する必要がある。
【0032】
この流路33の幅は、捕捉する細胞のサイズにもよるが細胞のサイズが10〜15μm程度の場合には、例えば、50μmの幅で50μmの深さとし、直線部の長さは500μm程度とする。
また、この流路33の底部に設ける貫通孔35は、直径が例えば2μmであり、この貫通孔35を例えば、50μmの間隔で配置する。
【0033】
図5参照
図5は、捕捉チップ乃至チップ保持具の配置構成の説明図であり、捕捉チップ30は、例えば、容器19に対して開口部36が容器19に設けた開口部20と整合するように配置・固定する。
なお、この場合の容器19は、周囲への液の飛散を防ぐとともに取り回しを簡便にするためのものであり、また、培養に使用するシャーレと同様に耐薬品性に優れたポリスチレン製とする。
【0034】
また、容器19は、チップ保持具21に対して開口部20が吸引装置23との接続部22に整合するように配置・固定し、この接続部22に対しては吸引装置23の先端部に設けた接続部材28が接続される。
【0035】
図6及び図7参照
図6は、本発明の実施例1の細胞給排・捕捉装置の動作フロー図であり、また、図7は細胞の捕捉・搬送、開放・搬送状態の説明図であり、まず、
A.細胞供給装置11より、捕捉チップ30に設けた流入部32に細胞懸濁液13を供給する。
この場合、細胞供給装置11により細胞懸濁液13の送液量及び液圧を制御してピペット状の細管12から滴下させる。
【0036】
次いで、
B.吸引装置23を用いて、流路33内に設けた複数の貫通孔35において細胞15を捕捉する。
この場合、貫通孔35の径は例えば、2μmであり、細胞の径10〜15μmに対して十分小さいの貫通孔35から外に排出されることはない。
【0037】
次いで、
C.送液装置16を用いて、細管17から捕捉チップ30の流入部32にキャリア液18を供給して、捕捉されていない細胞15を浮上させて流出部34まで搬送する。
なお、ここでは、キャリア液18として培地14として用いる平衡塩類溶液(BBS)の塩分濃度を高めて細胞15の比重より重くした液体を用いる。
【0038】
次いで、
D.流出部34まで搬送された細胞15を不要細胞回収装置24を用いて細管25から回収する。
【0039】
次いで、
E.捕捉した細胞15に対して、細胞分裂の状態等の経過観察を行ったのち、吸引装置23による吸引圧を解除し、捕捉した細胞15を解放する。
【0040】
次いで、
F.再び、送液装置16を用いて、細管17から捕捉チップ30の流入部32にキャリア液18を供給して、開放された細胞15を流出部34まで搬送する。
【0041】
次いで、
G.流出部34まで搬送された観察済みの細胞15を捕捉細胞回収装置26を用いて細管27から回収することで、一連のフローが終了する。
以降は、回収した観察済みの細胞15を、例えば、ポリカーボネート製の基板に96個の凹部を二次元マトリクス状に設けた96穴プレートに分注して少量ずつの保管・培養を行う。
【0042】
このように、本発明の実施例1においては、流路33に沿って複数の捕捉用の貫通孔35を設けた捕捉チップ30を利用しているので、不要細胞と捕捉細胞の回収を別個に短時間で行うことが可能になり、研究室用のみならず再生医療やゲノム創薬などの産業応用におけるマイクロインジェクション装置等への適用が可能となる。
【0043】
また、捕捉チップ30の流路33を親水性、流路33以外の部分を疎水性にすることにより、流路33を密閉することなく、大気中に開放した状態で流路33のみに細胞懸濁液13を流すことができ、使い勝手が良好になる。
【0044】
また、捕捉チップ30に設けた流路33を蛇行した一本の流路で構成しているので、捕捉した細胞を一個ずつ順番に回収することが可能となる。
【実施例2】
【0045】
次に、図8を参照して、本発明の実施例2の細胞給排・捕捉装置を説明するが、捕捉チップに設ける流路の構成が異なるだけで、他の構成は同じであるので、捕捉チップのみを説明する。
図8参照
図8は、本発明の実施例2の細胞給排・捕捉装置に用いる捕捉チップ50の概略的平面図であり、通常のフォトリソグラフィー工程を利用してシリコン基板51の一端の中央部に流入部52、他端の中央部に流出部56を形成するとともに、流入部52と流出部56との間に複数本の平行に走る流路54を形成し、流入部52と複数の流路54を分岐流路53で接続するとともに、複数の流路54と流出部56を合流流路55で接続する。
【0046】
また、この流路54の底部に吸引用の貫通孔57を設けるとともに、シリコン基板51の裏面に貫通孔57に繋がる開口部58を形成し、開口部58を介して貫通孔57から細胞を吸引する。
【0047】
また、図示は省略するものの、この場合も流路44の側壁及び底面には親水性の樹脂、例えば、HydroCell(セルシード製商品名)をコートして親水性処理するとともに、流路33以外のシリコン基板31の表面には疎水性の樹脂、例えば、アクリル系樹脂をコートして疎水性処理する。
【0048】
また、この場合も、流路54の幅は、捕捉する細胞のサイズにもよるが細胞のサイズが10〜15μm程度の場合には、例えば、50μmの幅で50μmの深さとし、直線部の長さは500μm程度とする。
また、この流路54の底部に設ける貫通孔57は、直径が例えば2μmであり、この貫通孔57を例えば、50μmの間隔で配置する。
【0049】
この様に、本発明の実施例2においては、流路54を複数本に分岐しているので、細胞15の搬送を並列で処理することができ、回収の効率が向上することができる。
【実施例3】
【0050】
次に、図9を参照して、上記実施例1或いは2の細胞給排・捕捉装置を利用したマイクロインジェクション装置を説明するが、捕捉チップに対向した位置に注入装置60を設けた以外は、上記の実施例1或いは2の細胞給排・捕捉装置と同じ構成である。
【0051】
図9参照
図9は、本発明の実施例3のマイクロインジェクション装置の概念的構成図であり、ピペット状の細管12を備えるとともに細管12から培地14に細胞15を懸濁した細胞懸濁液13を捕捉チップ30に供給する細胞供給装置11、ピペット状の細管17を備えるとともに細管17から培地より比重の重いキャリア液18を捕捉チップ30に供給するで送液装置16、供給された細胞懸濁液13中の細胞15を吸引装置23によって吸引して捕捉する捕捉チップ30、捕捉チップを収容するとともに吸引用の開口部20を有する容器19、容器19を保持するとともに吸引装置との接続部22を有するチップ保持具21、細胞15を捕捉するための吸引装置23、捕捉した細胞15を観察する細胞観察装置40、捕捉した細胞15に対して薬液或いは遺伝子を注入する注入装置60、捕捉されなかった細胞15を細管25を介して回収する不要細胞回収装置24、インジェクション作業を行った物質注入済み細胞を細管27を介して回収する捕捉細胞回収装置26から基本構成が構成される。
【0052】
この場合の注入装置60は、物質導入用針61と、この物質導入用針61を制御する物質導入用針制御装置62とにより構成され、捕捉チップ30に設けた貫通孔に捕捉された細胞15に対して物質導入用針51によって遺伝子或いは薬液等の物質導入を順次行う。
【0053】
このように、本発明の実施例3においては、実施例1或いは2の細胞給排・捕捉装置を用いてマイクロインジェクション装置を構成しているので、物質導入済み細胞の回収が用になる。
【0054】
以上、本発明の各実施例を説明してきたが、本発明は各実施例に記載した条件・構成に限られるものではなく、各種の変更が可能であり、例えば、各実施例に記載した捕捉チップに設けた流路の形状、幅、深さ、長さは、任意なものであり、貫通孔の径とともに細胞のサイズに応じて適宜決定すれば良い。
【0055】
また、上記の各実施例においては、疎水処理のためにアクリル系樹脂を用いているが、アクリル系樹脂に限られるものではなく、通常の樹脂は疎水性を有するため、このような通常の樹脂について疎水性を有するか否かを確認した上で用いても良いし、さらには、シリコン自体が疎水性を有するので疎水処理は必須ではない。
【0056】
また、上記の各実施例においては、開放状態において流路のみに細胞懸濁液或いは液体が流れやすいように、流路の側壁及び底面を親水性にし、流路以外のシリコン基板の表面を疎水性にしているが、このような親水処理・疎水処理は必須ではない。
【0057】
例えば、流路の側壁及び底面を親水性にして、流路以外のシリコン基板の表面はそのままの状態にしておいても良いし、あるいは、流路以外のシリコン基板の表面を疎水性にして、流路の側壁及び底面はそのままにしても良いし、さらには、何方にも処理を施さなくても良い。
【0058】
また、上記の各実施例においては、捕捉チップを半導体集積回路分野やマイクロマシーン技術分野において微細加工技術が確立しているシリコン基板を用いているが、シリコン基板に限られるものではなく、ポリカーボネートやアクリル樹脂を用いても良いものである。
【0059】
また、上記に実施例3においては、注入装置60に一本の物質導入用針61を設けて細胞に順々に遺伝子或いは薬液等を注入しているが、注入装置60に流路の直線部の数に応じた本数の物質導入用針を一次元アレイ状に設けても良いものであり、それによって、注入効率を高めることができる。
【0060】
また、上記の各実施例においては、細胞供給装置にピペット状の細管を接続して、細胞懸濁液を流入部へ滴下しているが、この様な構成に限られるものではなく、チューブを介して細胞供給装置を捕捉チップに接続して細胞懸濁液を供給するようにしても良い。
この様な構成は、送液装置における溶液の供給装置に関しても同様である。
【0061】
また、上記の各実施例においては、捕捉チップを収容する容器をシャーレと同じ材質のポリスチレンで構成しているが、ポリスチレンに限られるものではなく、ポリカーボネート、アクリル樹脂、或いは、ガラス等の耐薬液性の高い物質で構成すれば良い。
【0062】
また、上記の実施例1においては、流路に設けた貫通孔で細胞を捕捉して細胞分裂の観察を行っているが、この様な場合に限られるものではなく、他の薬液供給装置を設け細胞を捕捉した状態で流路に薬液を流して細胞の薬液反応を観察する場合等にも適用されるものである。
【0063】
ここで再び図1を参照して、本発明の詳細な特徴を改めて説明する。
再び図1参照
(付記1) 細胞懸濁液2を供給する細胞供給機構1、細胞を含まない液体4を供給する送液機構3、前記細胞懸濁液2及び液体4を流す流路6と前記細胞懸濁液2中の細胞を捕捉する貫通孔7を備えた捕捉チップ5、前記捕捉チップ5に接続されて前記貫通孔7からの吸引量を制御する吸引機構8、前記貫通孔7で捕捉されなかった不要な細胞を回収する不要細胞回収機構9、及び、捕捉細胞を回収する捕捉細胞回収機構10とを少なくとも備えたことを特徴とする細胞給排・捕捉装置。
(付記2) 上記捕捉チップ5が、上記流路6の一方の端部に前記流路6に上記細胞懸濁液2及び液体4を流す流入部と、前記流路6の他方の端部に前記流路6から前記細胞懸濁液2及び液体4を回収する回収部とを有し、且つ、上記貫通孔7が上記細胞懸濁液2中の細胞が通過できない径の複数の貫通孔7からなるとともに、前記流路6に沿うように設けられたことを特徴とする付記1記載の細胞給排・捕捉装置。
(付記3) 上記流路6が蛇行した一本の流路6からなることを特徴とする付記2記載の細胞給排・捕捉装置。
(付記4) 上記流路6が複数の平行に配置された流路6からなるとともに、各流路6の一端で共通の流入部に接続する接続流路6を有するとともに、前記各流路6の他端で共通の回収部に接続する接続流路6を有することを特徴とする付記2記載の細胞給排・捕捉装置。
(付記5) 上記捕捉チップ5に設けた上記流路6の内壁を前記捕捉チップ5の基材より親水性にするとともに、前記捕捉チップ5の流路6の内壁以外の面を前記基材より疎水性にすることを特徴とする付記1乃至4のいずれか1に記載の細胞給排・捕捉装置。
(付記6) 上記流路6の内壁を上記捕捉チップ5の基材より親水性の樹脂でコートするとともに、前記捕捉チップ5の流路6の内壁以外の面を前記基材より疎水性の樹脂でコートしたことを特徴とする付記5記載の細胞給排・捕捉装置。
(付記7) 上記細胞を含まない液体4を、前記細胞より比重の重い液体4としたことを特徴とする付記1乃至6のいずれか1に記載の細胞給排・捕捉装置。
(付記8) 上記細胞を含まない液体4が、上記細胞懸濁液2を構成する培地と同じ成分からなるとともに、前記培地より塩分濃度を高めた液体4であることを特徴とする付記8記載の細胞給排・捕捉装置。
(付記9) 上記捕捉した細胞に物質を注入する注入機構を備えたことを特徴とする付記1乃至8のいずれか1に記載の細胞給排・捕捉装置。
(付記10) 細胞懸濁液2を複数の貫通孔7を備えた流路6の一端から流し前記細胞懸濁液2中の細胞を前記貫通孔7で吸引により捕捉する工程、前記流路6の一端から前記細胞より比重の重い液体4を流し捕捉しきれなかった細胞を浮上させて前記流路6の他端で回収する工程、前記捕捉した細胞に物質を注入するインジェクション或いは経過観察のいずれかを行う工程、前記インジェクション或いは経過観察後に吸引を解除するとともに前記流路6の一端から前記細胞より比重の重い液体4を流し細胞を浮上させて前記流路6の他端で回収する工程とを順次行うことを特徴とする供給する細胞給排・捕捉方法。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明の活用例としては、再生医療・ゲノム創薬等の事業における細胞への遺伝子或いは薬液の導入が典型的であるが、細胞分裂の観察や、細胞を捕捉した状態で流路に薬液を流して薬液反応を観察する場合等にも適用されるものである。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】本発明の原理的構成の説明図である。
【図2】本発明の実施例1の細胞給排・捕捉装置の概念的構成図である。
【図3】本発明の実施例1の捕捉チップの概略的平面図である。
【図4】本発明の実施例1の捕捉チップの概略的断面図である。
【図5】本発明の実施例1の捕捉チップ乃至チップ保持具の配置構成の説明図である。
【図6】本発明の実施例1の細胞給排・捕捉装置の動作フロー図である。
【図7】本発明の実施例1における細胞の捕捉・搬送、開放・搬送状態の説明図である。
【図8】本発明の実施例2の細胞給排・捕捉装置に用いる捕捉チップの概略的平面図である。
【図9】本発明の実施例3のマイクロインジェクション装置の概念的構成図である。
【符号の説明】
【0066】
1 細胞供給機構
2 細胞懸濁液
3 送液機構
4 液体
5 捕捉チップ
6 流路
7 貫通孔
8 吸引機構
9 不要細胞回収機構
10 捕捉細胞回収機構
11 細胞供給装置
12 細管
13 細胞懸濁液
14 培地
15 細胞
16 送液装置
17 細管
18 キャリア液
19 容器
20 開口部
21 チップ保持具
22 接続部
23 吸引装置
24 不要細胞回収装置
25 細管
26 捕捉細胞回収装置
27 細管
28 接続部材
30 捕捉チップ
31 シリコン基板
32 流入部
33 流路
34 流出部
35 貫通孔
36 開口部
37 親水性の樹脂
38 疎水性の樹脂
40 細胞観察装置
41 光源
42 対物レンズ
43 画像処理装置
50 捕捉チップ
51 シリコン基板
52 流入部
53 分岐流路
54 流路
55 合流流路
56 流出部
57 貫通孔
58 開口部
60 注入装置
61 物質導入用針
62 物質導入用針制御装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞懸濁液を供給する細胞供給機構、細胞を含まない液体を供給する送液機構、前記細胞懸濁液及び液体を流す流路と前記細胞懸濁液中の細胞を捕捉する貫通孔を備えた捕捉チップ、前記捕捉チップに接続されて前記貫通孔からの吸引量を制御する吸引機構、前記貫通孔で捕捉されなかった不要な細胞を回収する不要細胞回収機構、及び、捕捉細胞を回収する捕捉細胞回収機構とを少なくとも備えたことを特徴とする細胞給排・捕捉装置。
【請求項2】
上記捕捉チップが、上記流路の一方の端部に前記流路に上記前記細胞懸濁液及び液体を流す流入部と、前記流路の他方の端部に前記流路から前記細胞懸濁液及び液体を回収する回収部とを有し、且つ、上記貫通孔が上記細胞懸濁液中の細胞が通過できない径の複数の貫通孔からなるとともに、前記流路に沿うように設けられたことを特徴とする請求項1記載の細胞給排・捕捉装置。
【請求項3】
上記捕捉チップに設けた上記流路の内壁を前記捕捉チップの基材より親水性にするとともに、前記捕捉チップの流路の内壁以外の面を前記基材より疎水性にすることを特徴とする請求項1または2に記載の細胞給排・捕捉装置。
【請求項4】
上記細胞を含まない液体を、前記細胞より比重の重い液体としたことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の細胞給排・捕捉装置。
【請求項5】
細胞懸濁液を複数の貫通孔を備えた流路の一端から流し前記細胞懸濁液中の細胞を前記貫通孔で吸引により捕捉する工程、前記流路の一端から前記細胞より比重の重い液体を流し捕捉しきれなかった細胞を浮上させて前記流路の他端で回収する工程、前記捕捉した細胞に物質を注入するインジェクション或いは経過観察のいずれかを行う工程、前記インジェクション或いは経過観察後に吸引を解除するとともに前記流路の一端から前記細胞より比重の重い液体を流し細胞を浮上させて前記流路の他端で回収する工程とを順次行うことを特徴とする供給する細胞給排・捕捉方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2006−94783(P2006−94783A)
【公開日】平成18年4月13日(2006.4.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−284756(P2004−284756)
【出願日】平成16年9月29日(2004.9.29)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】