説明

細菌ベクター

本発明は、動物細胞、組織、器官、又は生物体にin vitro、体外で、又はin vivoで核酸及び/又はタンパク質を導入するための化合物の組み合わせに関する。本発明の組み合わせた又はシステムは、1つの構成成分として遺伝子操作されてトランスジーンを含む核酸配列を含有する細菌ベクター、及び動物又はヒトの内部に存在する細菌ベクター内のトランスジーン活性の誘導の調節によって後の転写、場合によってはトランスジーンの翻訳をさせる第2の構成成分を含む動物又はヒトに投与するために適切な配合物を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、動物細胞、組織、器官、又は生物体にin vitro、体外、又はin vivoで核酸及び/又はタンパク質を導入するための化合物の組み合わせに関する。本発明の組み合わせた又はシステムは、1つの構成成分として遺伝子操作されてトランスジーンを含む核酸配列を含有する細菌ベクター、及び動物又はヒトの内部に存在する細菌ベクター内のトランスジーン活性の誘導の調節によって後に続く転写、場合によってはトランスジーンの翻訳をさせる第2の構成成分を含む動物又はヒトに投与するために適切な配合物を含む。
【0002】
本発明に係るシステムの応用は、医学的用途、例えば、免疫、腫瘍治療、並びに製薬学的な活性化合物、例えばホルモン、免疫調節化合物、及び酵素に変換するプロドラッグの放出である。
【背景技術】
【0003】
伝統的なワクチン摂取に関しては、弱毒化した病原体が使用されて、野生型の病原体に対しても活性である免疫応答を被検体から引き起こしている。ワクチンとしての弱毒化した侵襲性の細菌の使用の例は、サルモネラ症に対する予防を提供する弱毒化腸病原性サルモネラの使用である。
【0004】
免疫保護が意図される疾患に依存して、各種の免疫応答、例えば抗体産生及び/又はT-細胞を介する免疫、全身性及び/又は粘膜性の刺激を引き起こすことが望ましい。これらの免疫反応の質が投与の経路に少なくとも部分的には依存することから、本発明に係るベクターは細胞性及び/又は液性免疫応答を好適に引き起こすように設計されて良い。
【0005】
抗原を認識し、それに続き除去するために抗原を標識することにおいては効果的であるが、抗体は細胞内の抗原、例えば感染細胞のファゴソームに含まれるバクテリア又は悪性の細胞(つまり腫瘍細胞)の細胞質性の抗原には結合することが不可能である。免疫応答のこの部分は細胞性免疫応答(つまりMHC-I及び/MHC-II複合体とともに感染細胞の外表に提示された外来性のペプチドを認識するT-細胞)によって提供される。しかしながら、腫瘍細胞に関しては、これらの細胞に対する細胞性免疫応答は、多くの場合において相同性の高い構成成分に対する免疫システムの自己寛容によって妨げられている。
【0006】
一般的に、抗原特異的な細胞質性T-リンパ球(CTL)(T-細胞の1つのサブグループ)は、哺乳動物細胞の細胞質性タンパク質のための提示経路であるMHCIとの複合体において細胞表面に提示された抗原との相互作用によって活性化される。したがって、細胞質で侵襲性の病原体によって合成された抗原、又は抗原を細胞質に解放する弱毒化された侵襲性の細菌に基づく細菌ベクターによって合成された抗原は、CTLによる細胞性免疫応答を引き起こすことにおいて効率的である。この活性化に続いて、CTLは即時に、MHCIとの複合体において関連した抗原性ペプチドを提示する感染細胞を対象とする。
【0007】
ある侵襲性細菌(例えばサルモネラ)は、感染した生物における専門の抗原提示細胞(APC)を特異的に標的とすることが可能である。サルモネラの場合では、主に小腸内のパイエル斑のM細胞を経由して、哺乳動物に侵襲する。M細胞を通過した後に、侵襲製細菌は、リンパ組織に関連する粘膜の一部であるパイエル斑に存在する樹状細胞及びマクロファージに感染する。パイエル斑は、細菌の弱毒化の程度に応じて、細菌が数日から数週間まで生存し得る腸管関連リンパ系組織の増大された数のAPCを含有する。サルモネラに感染したAPCは腸管膜リンパ節、脾臓、及び肝臓に移動することが可能であり、侵襲した細菌をこれらの組織に効果的に輸送する。侵襲性細菌によって感染後に溶解されるマクロファージは樹状細胞によってファゴサイトーシスされる。
【0008】
ある侵襲性細菌(例えばサルモネラ)は、広範なタンパク質及びさらにはエフェクター分子を分泌することによって、哺乳動物細胞(例えばマクロファージ)のファゴソーム内で複製することが可能である。例えば、これらの分泌された分子は、NADPHオキシダーゼのファゴソームへの移行を妨げ、マクロファージによる急速な抗細菌応答を効果的に抑制する。サルモネラ感染の更なる結果として、カスパーゼIが活性化され、炎症性サイトカイン(IL-1β、IL-18)の分泌を引き起こし、感染細胞のアポトーシスを開始させる。樹状細胞によってファゴサイトーシスされたアポトーシスを起こしたマクロファージの物質がMHC-I及びMHC-IIの提示経路に侵入し、特異的なT-細胞応答を開始させる。
【0009】
ある侵襲性細菌(例えばListeria monocytogenes及びShigella spp.)は哺乳動物の細胞質内で複製することが可能である。溶解されて、バクテリアの内容物が感染細胞の細胞質に直接放出され、MHC-I提示経路にアクセスできるようにしている。
【0010】
細菌ワクチン株(例えば経口投与されたサルモネラ)が、粘膜及び全身性免疫応答を誘導し得ることが知られている。
【0011】
免疫応答を引き起こす侵襲性細菌の効率に魅力を感じて、細菌ベクターにとって異質であるペプチドに対する免疫応答を引き起こすワクチンのための細菌ベクターとして提供するために、弱毒化侵襲性細菌が研究されている。
【0012】
加えて、弱毒化侵襲性細菌は、遺伝子ワクチン接種及び哺乳動物細胞に真核細胞発現プラスミドを導入するための担体ビヒクルとして遺伝子治療目的のためにも使用されている。哺乳動物に導入されたDNA配列を転写させるために、DNAは細胞の核に輸送される必要がある。効率的なDNA輸送の必要条件の1つは、細菌担体ビヒクルによる宿主細胞の効率的な侵襲である。宿主細胞の侵襲後、その内容物を細胞質に放出し、それに続いて核にDNAを効果的に輸送する細菌ベクターの溶解は、真核細胞発現プラスミドの転写に必須のステップである。
【0013】
タンパク質及び/又は核酸の哺乳動物細胞への輸送のための細菌ベクターとして弱毒化侵襲性細菌を使用する際は、前記ペプチド発現レベル及び/又は核酸のコピー数を調節することが望ましい。現在までは、細菌ベクターによる外来性ペプチドの発現を調節する大多数の試みは、構成的プロモーター配列に依存している。最近では、侵襲性細菌(例えばサルモネラ)から単離されたin vivo誘導性プロモーターが、この目的のために使用されている。これらのプロモーターは、前記バクテリアの感染サイクルの段階に依存して調節されている。したがって、その様なプロモーター配列は、細菌の感染サイクルの特異的な段階に自動的に応答し、外からの影響を与えることによっては調節され得ない。例えば、Dunstan et al. (Infection and Immunity, October 1999, pages 5133 to 5141)は、既知の弱毒化ワクチン株Salmonella enterica血液型亜型Typhimurium ΔaroADにおけるワクチンのための細菌ベクターとして使用するための発現プラスミドの構築及び分析を開示している。プロモーター成分は、破傷風毒素のC末端フラグメント及びルシフェラーゼの各々の構造遺伝子の前に配置された。salmonella及びE. coliに由来するプロモーター要素のin vivo誘導は、感染サイクルの間に自然に生じる環境因子に依存する。例えば、プロモーターpagCは、その低濃度のMg2+の結果として真核細胞のファゴソームの区画内で誘導される。
【0014】
Dietrich et al. (Current Opinion in Molecular Therapeutics 5, 1, pages 10-19 (2003))は、抗生物質による処理、あるいはベクター生物の専用(dedicated)オートリシスによる細胞内細菌の溶解によって達成される、活性溶解方法(active lytic process)によるListeria monocytogenesからのDNAの放出を記載している。専用オートリシスに関しては、Listeria特異的ファージリシン遺伝子が、宿主細胞のファゴソームから細胞質に細菌が脱出したうえで活性化されるlisteriaプロモーターの調節下における発現のために提案されている。しかしながら、溶解遺伝子を調節するこのプロモーターの誘導はベクターの環境にのみ依存し、細菌ベクターの外部からの調節(つまり自由な調節)は不可能である。
【0015】
Jain et al. (Infection and Immunity, 986-989 (2000))は、in vitroのL-アラビノースの調節下でグラム陰性菌におけるλファージからの溶解遺伝子S及びRの発現を報告している。
【0016】
しかしながら、発明者に現在既知の技術では、遺伝子組換えによって細菌ベクターに含まれるトランスジーンに機能的に結合しているサッカリド誘導性プロモーターが、細菌ベクターの投与によって処理された動物に刺激を与えることによって調節し得ることは、全く示唆も仮説もされていない。詳細には、従来技術は、トランスジーンの誘導が、誘導因子が細菌ベクターに直接送達され得ない状況(つまり、前記誘導因子の投与の位置及び/又は時間とは異なって、前記ベクターが組織、器官、又は動物の内部に位置している状況)で調節され得ることを示唆していない。
【非特許文献1】Dunstan et al. (Infection and Immunity, October 1999, pages 5133 to 5141)
【非特許文献2】Dietrich et al. (Current Opinion in Molecular Therapeutics 5, 1, pages 10-19 (2003))
【非特許文献3】Jain et al. (Infection and Immunity, 986-989 (2000))
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明は、細菌ベクターに関する技術の既知の状態の欠点、特に本質的にコントロールされていないという欠点を克服しようとするものである。
【0018】
第1の実施態様では、生ワクチンとしての医学的な用途のための医薬システムを提供することが本発明の目的である。この態様では、本発明は、全身、経鼻、経口、経直腸、及び/又は他の粘膜に適用可能であり、腸のリンパ組織に関連する粘膜内及び/又は呼吸器官及び/又は生殖器の粘膜内に存在する免疫応答、並びに/あるいは全身の免疫応答を引き起こすために使用可能である、医薬システムを本質的に提供しようとするものである。
【0019】
特に感染性微生物、寄生生物、及びHIVのようなウイルス感染といった粘膜組織を介して伝染する感染症に対する強力なワクチンの開発に関しては、ワクチンが細胞性免疫応答及び/又は抗体免疫応答を引き起こすことが望ましい。細菌ベクターの設計、例えば適当な細菌株の選択は、粘膜及び/又は全身の免疫応答を誘導させる。したがって、本発明は、非侵襲性並びに侵襲性細菌、好ましくは弱毒化株に基づく、粘膜内及び全身性の双方の液性及び/又は細胞性免疫応答を引き起こすワクチンのための細菌ベクターを提供しようとするものでもある。
【0020】
培養細胞、培養若しくは体外の組織又は体外の器官、好ましくは動物内の特定の組織若しくは器官であって良い、近接した標的細胞が存在している間及び/又は標的細胞に感染している間に、遺伝子操作した弱毒化侵襲製細菌の活性を調節するために、本発明は、細菌ベクターの外部並びに標的細胞の外部に影響を与え、核酸配列に機能的に結合されたもの、例えば発現カセットの一部を形成するトランスジーンの活性を調節することによって調節を提供するベクター成分と組み合わせて作用する調節成分を提供しようとするものである。
【0021】
第2の実施態様では、免疫のためのペプチド及び/又は核酸配列の送達、遺伝子治療、あるいは他の生物学的な活性化合物、例えば動物の腸内の有益な因子、ホルモン、抗体、免疫調節物質、又はプロドラッグ変換酵素の送達のための医学的な用途、例えばプロバイオティックス若しくは機能性食品への適用のための製薬製剤の組み合わせを提供することが本発明の目的である。
【0022】
第3及び第4の実施態様では、腫瘍治療における医学的用途及び診断の各々のための医薬の組み合わせを提供することである。
【0023】
第5の実施態様では、殺虫剤及び駆虫剤活性の各々の任意の活性化を可能にする厳密な調節システムを実現する殺虫剤又は駆虫剤として作用する化合物の組み合わせを提供することが本発明の目的である。
【0024】
外部の誘導物質又は抑制物質に応答する調節システムが必要されるだけでなく、活性の非常に厳密な調節は好ましい。調節因子による厳密な調節は、ベクターの感染性に不利益であるか、又は機能的に結合した遺伝子産物及び/若しくは核酸配列の哺乳動物内への輸送速度に不利益である細菌ベクター内のリボヌクレオ核酸配列及び/若しくはペプチドの存在を実質的に避け、並びに/又はプラスミドDNAの存在を最小化するために、機能的に下流に結合されたトランスジーンの任意の活性を実質的に除去するという所望の活性を有する。
【0025】
この点において、例えば構成プロモーター配列の調節下における細菌ベクター内の異種起源のペプチドの発現は、感染性を低減することが予備実験によって見出された。さらに、哺乳動物へのトランスフェクションのための所望のペプチドをコードする高いコピー数のプラスミドは、所望の配列の高含量により原則的には好ましいが、選択圧の不在におけるベクター内の不安定性に加えて細菌ベクターの感染性の減少も生じさせる。
【課題を解決するための手段】
【0026】
本発明は、細菌ベクター内におけるサッカリド誘導性プロモーターの調節下におけるトランスジーンからのRNA転写及び/又はタンパク質の翻訳の誘導が、哺乳動物のような動物内に細菌ベクターが存在する際においても、例えば細菌ベクターが動物又はヒトに導入されている際に動物又はヒトに誘導因子であるサッカリドの同時又は事後の導入によって誘導され得るという驚くべき発見を用いることによって上述の目的を達成する。
【0027】
上述の目的を達成するために、本発明は、遺伝子操作されてサッカリド誘導性プロモーターの調節下に少なくとも1つのトランスジーンを含有する細菌ベクターの、医学的用途のために動物に投与するための使用を提供し、前記使用は、動物に別々に投与することによってサッカリド誘導性プロモーターを誘導するために、医学的用途のために動物に投与するための誘導因子であるサッカリドの使用と組み合わせた機能性食品及び/又はプロバイオティクス食品への応用としての使用を含む。好ましくは、誘導因子であるサッカリドの投与は、細菌ベクターの投与と同時又は後に実施される。
【0028】
したがって、本発明は、特定の身体の領域、組織、又は器官(例えば、専用抗原提示細胞又は腫瘍組織)に好適に移動し、複製する細菌ベクターの特性を使用することを可能にする。細菌ベクターの導入と同時に、しかし好ましくはある場合には細菌ベクターの導入後に、動物又はヒトに誘導因子であるサッカリドを投与することによって、細菌ベクターの近辺に誘導因子であるサッカリドを適用することを必要とせず、サッカリド誘導性プロモーターの誘導が任意に調節可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
本発明と関連して、サッカリド誘導性プロモーターの任意の活性化、つまりトランスジーン活性化への言及は、トランスジーン活性化の所望の部位における細菌ベクターの環境から本質的に独立したトランスジーン活性化の調節を提供する本発明の特性、例えば任意の行為による誘導因子である物質の適用によって調節可能であることに言及することである。
【0030】
サッカリド誘導性プロモーターの調節下にトランスジーンを含有する細菌ベクターを同時に又は事前に摂取した動物に対する誘導因子であるサッカリドの投与が、動物内の細菌ベクターの部位に本質的に依存せずに活性、つまりトランスジーンの転写及び/又は翻訳を調節する使用可能な方法であることが驚くべきことに発見された。
【0031】
サッカリド誘導性プロモーターの調節下にトランスジーンを含有する細菌の直近に誘導因子であるサッカリドを直接適用するという過去に認められていた必要性を克服することに加え、本発明者は、異なった様式で且つ細菌ベクターとは別々に、つまり細菌ベクターと制限された空間内で近接させて共局在させずに、誘導因子であるサッカリドの投与が、細菌ベクター内のサッカリド誘導性プロモーターを誘導するために使用することも可能であることを発見した。したがって、独立的に経口、粘膜、又は全身への投与によって細菌ベクターを同時又は事前に受けた動物に対する経口、粘膜、又は全身への誘導因子であるサッカリドの投与が、動物内の細胞、組織、又は器官(例えば腫瘍組織)に対する細菌ベクターからの核酸及び/又はタンパク質の送達に使用することが可能である。
【0032】
さらに、本発明が、濃度依存的な様式で、つまり細菌ベクターを受けた動物に投与される誘導因子であるサッカリドの量を変化させる事によってサッカリド誘導性プロモーターの調節下のトランスジーンの転写及び/又は翻訳を有利に誘導させることが見出された。
【0033】
したがって、本発明は、遺伝子操作されてサッカリド誘導性プロモーターの調節下にトランスジーンを含有する、医学的用途のために投与する細菌ベクターを第1の化合物として含み、前記細菌ベクターが動物内(例えば治療される動物又はヒトの患者)に存在している状態で、サッカリド誘導性プロモーターの誘導のための、医学的用途のために投与する誘導因子であるサッカリドを第2の化合物として含む、製薬製剤のシステム又は組み合わせを生産するために、細菌ベクターからの活性を誘導するために適切な細菌ベクター及び誘導因子であるサッカリドを使用する。
【0034】
一般的には、本発明に係る製薬学的な組み合わせは、サッカリド誘導性プロモーターを誘導するために動物に投与するための誘導因子であるサッカリドの使用によって、動物に細菌ベクターが投与されるのと同時、又は好ましくは後に細菌ベクターに含まれるトランスジーンを転写及び/又は翻訳するために使用される。本発明では、好ましくは誘導因子であるサッカリドの投与とは別である細菌ベクターの投与による、医学的用途のための細菌ベクターの使用が、調節された様式でサッカリド誘導性のプロモーターを誘導するための製薬学的な化合物としての誘導因子であるサッカリドの使用との組み合わせに含まれる。細菌ベクターは、サッカリド誘導性プロモーターに機能的に結合したトランスジーンを転写するために、細菌ベクターの投与に関連する投与の経路又は時点に本質的に制限されない誘導因子であるサッカリドの同時又は事後の投与と組み合わせて、全身、経鼻、経口、経直腸、及び/又は他の粘膜に投与されて良い。
【0035】
好ましい実施態様では、本発明に係る化合物の組み合わせは、細菌ベクターの投与のためにまず使用され、次に後の時点で、同一の動物に対する誘導因子であるサッカリドの投与のために使用される。この実施態様では、哺乳動物内のある組織又は器官に移動及び/又は複製するという細菌ベクターの特性が、細菌ベクターが集まる領域に核酸及び/又はタンパク質を送達するために利用される。驚くべきことに、サッカリド誘導性プロモーターの誘導が、動物に対する誘導因子であるサッカリドの投与によって可能であり、例えば経口又は全身的な投与が、細菌ベクターが至る部位には本質的に依存せずに有効であることが見出された。
【0036】
本発明の実施態様では、同時又は好ましくは連続して投与される2つの化合物を含む、つまり、遺伝子操作されてサッカリド誘導性プロモーターに機能的に結合したトランスジーンを含有する細菌ベクターを含む第1の成分、及び第2の成分として誘導因子であるサッカリドを含む製薬学的なシステム又は組み合わせが提供される。したがって、本発明は、組成物の製薬学的システムの第1の成分の生産のための細菌ベクターの使用、及び組成物の製薬学的システムの第2の成分の生産のための誘導因子であるサッカリドの使用を提供する。この製薬学的システム又は組成物の組み合わせにおいて、第1の成分は、サッカリド誘導性プロモーターの調節下にトランスジーンをコードする核酸配列を、投与の経路に従って、主に動物内でベクターの移動及び集積に従って動物に導入するために役立ち、第2の成分は活性化、例えば第1の成分を同時、好ましくは事前の投与によって含有する動物に投与することによって第1の成分を誘導するために役立つ。
【0037】
第2の成分によるトランスジーン活性の誘導の調節は、所望の部位及び時間でトランスジーンの転写を調節することを可能にする。ワクチン接種のための第1の成分として使用される細菌ベクターは、抗原ペプチドをコードするトランスジーンを標的細胞に導入することが可能であり、及び/又はサッカリド誘導性プロモーターの調節下で高コピー数の複製起源を有し、抗原ペプチドをコードする非常に低コピー数であるプラスミドを使用して導入することができる。
【0038】
第1の実施態様では、本発明に係る製薬学的な組み合わせは、全身的な免疫応答及び/又は腸のリンパ組織に関連する粘膜及び/又は呼吸器官若しくは生殖器の粘膜に存在する免疫応答を引き起こすために使用されて良い。
【0039】
第2の実施態様では、本発明に係る製薬学的な組み合わせは、動物内の特定の組織の領域に製薬学的に活性な化合物、例えば核酸配列(例えば遺伝子治療のため)、又はホルモン、免疫調節物質、反応性RNA種、若しくは他の生物学的に活性な化合物、例えば免疫のための免疫応答性ペプチド、抗体、アポトーシス誘導因子、若しくはプロドラッグ変換酵素を送達するために使用されて良い。
【0040】
誘導因子成分と細菌ベクター成分との組み合わせは、それ自体又は腫瘍治療のための既知の医薬品又は方法と組み合わせて、例えば化学療法及び/又は照射と組み合わせて腫瘍治療における使用のための製薬製剤を生産するために有利に使用されて良い。腫瘍治療における使用のために、複数の細菌種、例えば腫瘍、好ましくは固形腫瘍に侵襲して選択的に複製する非病原性偏性嫌気性菌又は条件嫌気性菌が細菌ベクター成分の産生に適する。しかしながら、本来的に病原性の細菌の弱毒化株も細菌ベクター成分を産生するために使用して良い。この実施態様における本発明の細菌ベクター成分は、腫瘍組織において好適に、好ましく、選択的に増殖する前記ベクターの特性が医学的用途のための細菌ベクター成分の使用の間に実現されるために、誘導因子であるサッカリドの適用した上で腫瘍組織にペプチド及び/又は核酸配列を効率的に送達する。
【0041】
したがって、第三の実施態様では、本発明に係る製薬学的な組み合わせは、癌のような腫瘍又は他の腫瘍性の組織に治療のために使用される。この実施態様では、腫瘍組織に及び/又はその周囲に集積する本発明に係る細菌ベクターとして使用されるある細菌(例えばSalmonella、E.coli、及びClostridium)の自然な選択が、腫瘍組織で増殖させるためにさえ利用される。好ましくは、腫瘍組織の近傍における細菌ベクターの局在化(例えば腫瘍の集落形成)に続いて、細菌ベクターの部位から独立した経路及び後の時点で、例えば細菌ベクターによる腫瘍組織の集落形成の後に誘導因子であるサッカリドの投与が使用される。
【0042】
腫瘍、例えば癌の診断及び/又は治療における使用のための本発明の第4の実施態様によれば、細菌ベクター成分は、分光学的な分析を使用する活性の検出によって観察され得る生産物をコードすることによって特徴付けられる観察するためのトランスジーンと共に提供される。観察するためのトランスジーンとして、発光及び/又は蛍光タンパク質、例えばGFP、eGFP、例えばPhotorhabdus luminescensから得られるlux遺伝子産物、ルシフェラーゼ、並びに前駆体化合物から解析表示において増大されたシグナルを生じさせる化合物に変換する酵素の遺伝子が使用されて良い。結果として、任意に誘導因子であるサッカリドの投与にも亘って細菌ベクターの存在及び局在化に続いて、例えば腫瘍組織及び転移性癌の局在の同定、及び組織、器官、又は動物に分布して集団形成した細菌ベクターの局在化及び数の評価がなされて良い。
【0043】
この実施態様では、細菌ベクターは、観察するためのトランスジーンに加えて、観察するためのトランスジーンを調節するサッカリド誘導性プロモーターと異なる又は同一のサッカリド誘導性プロモーターの調節下に、抗腫瘍活性を提供するトランスジーン、例えばサイトカイン、抗体、又は毒性物質を含有して良い。
【0044】
本明細書では、用語「動物」は脊椎動物を意味し、例えば魚及び哺乳動物、例えばイヌ、ネコ、ヒツジ、ウシ、ウマ、ラクダ、ヤギのような家畜及びペット用の動物、好ましくはヒト、並びに悪虫及び昆虫のような野生動物を意味する。
【0045】
害虫と解されている悪虫及び昆虫に関しては、本発明に係る組み合わせは、殺虫剤及び駆虫剤の各々として使用されて良い。この第5の実施態様では、誘導因子であるサッカリドの投与によって細菌ベクターの取込み後に動物内で誘導されるトランスジーンは、毒素、好ましくは悪虫及び昆虫の各々に対する特異的な毒素として作用するものが選択される。
【0046】
細菌ベクターを構築するために、遺伝子操作されてトランスジーンをコードする核酸配列を調節するサッカリド誘導性プロモーターを含む非侵襲性又は侵襲性細菌が使用されて良い。サッカリド誘導性プロモーターによる誘導はトランスジーンの転写を誘導し、RNA、例えば抑制性RNA(RNAi)、低分子干渉RNA(siRNA)、又はタンパク質に翻訳され得るmRNAを生産する。動物内で細菌ベクターが到達した部位から本質的に独立した動物又はヒト内における本発明に係るトランスジーンの転写の誘導によって、細菌ベクターの集積した部位で転写が生じ、トランスジーンの転写及び/又は翻訳が細菌ベクターの局在部位、つまり動物組織内の細胞外及び/又は細胞内において生じる。トランスジーンに依存して、細菌ベクターが、トランスジーンにコードされている核酸及び/又はトランスジーンから翻訳されるペプチドの輸送ビヒクルとして役に立つ。ベクターによって合成される核酸及び/又はペプチドの放出は、サッカリド誘導性プロモーター及び/又はトランスジーンから翻訳されるペプチドの分泌によって調節される細菌ベクターの部分的又は完全な溶解によっても得られる。
【0047】
本発明に係る製薬学的な組み合わせにおける使用のための細菌ベクターは、好ましくは弱毒化されており標的細胞若しくは生物に又はその近傍にペプチド及び/又は核酸を導入するために有用である、非侵襲性の細菌、例えば市販の細菌、又は侵襲性の細菌に基づく。これらの細菌ベクターは、トランスジーン、例えばペプチドのための発現カセット、及び/又は複製起源を調節する発現カセット、及び/又は翻訳されないRNAをコードする発現カセットを含有するものであって、前記発現カセットは、特異的な調節因子としてのサッカリド誘導性プロモーターに作動可能に結合され、該プロモーターの調節下にある。さらなる実施態様として、トランスジーンは、サッカリド誘導性プロモーターに機能的に結合した核酸配列に加え、2つ以上のタンパク質をコードする1つのオペロンに結合した、タンパク質(例えば合成経路の酵素)をコードする核酸配列を含む。さらに、異なるトランスジーンが、異なるサッカリド誘導性プロモーターに機能的に結合され、個々の誘導因子であるサッカリドの投与によってトランスジーンの活性が別々に誘導されるように、細菌ベクターに含まれて良い。
【0048】
トランスジーンは、サッカリド誘導性プロモーターに作動可能に結合され、細菌ベクターのゲノム内に発現カセットを形成するか、又は代替的に前記細菌ベクター内で複製可能であるか、若しくは維持可能な1つのプラスミド上で発現カセットを形成する。トランスジーンはサッカリド誘導性プロモーターの調節下の発現カセットに存在してよく、又はその発現はサッカリド誘導性プロモーターの調節下のトランスジーンのコピー数を調節することによって間接的に調節されて良い。後者の場合では、サッカリド誘導性プロモーターは、トランスジーンに結合した誘導可能な複製起源に作用する活性化因子(例えばレプリカーゼ)を直接調節することによってトランスジーンの活性を間接的に調節する。
【0049】
本発明によれば、サッカリド誘導性プロモーターは、サッカリドによって調節可能であり、例えばサッカリドの濃度の増大によって誘導可能な細菌起源のオペレーター領域に由来する。その好ましい形態では、本発明のサッカリド誘導性プロモーターは、サッカリドの濃度の緩やかな増大に応じて緩やかに誘導され得る。
【0050】
本発明によって使用されるサッカリド誘導性プロモーターの例は、サッカリドの細菌分解経路の分解代謝酵素の調節領域、例えばラムノース又はキシルロース経路の分解代謝酵素をコードするプロモーター、最も好ましくはE.coli由来のアラビノースプロモーター要素PBAD又はBacillus subtilisのara-オペロンに由来するプロモーターである。本発明に関連して使用されるサッカリド誘導性プロモーターのための誘導物質は、対応するサッカリド、つまりラムノースオペロンに由来するプロモーター要素の場合はラムノース、キシルロースオペロンに由来するプロモーター要素の場合はキシルロース、及びアラビノースプロモーターの場合はL-アラビノースである。サッカリド誘導性プロモーターの活性化は、細胞、組織、器官の培養培地に、又は生物の各々に、個々のサッカリド誘導因子を添加することによって得られる。
【0051】
本発明に係る細菌ベクターに使用される好ましいサッカリド誘導性プロモーターは、遺伝子産物araB (リブロキナーゼ)、araA (イソメラーゼ)、並びにaraD (エピメラーゼ)の転写を調節するE,coliのL-アラビノースのプロモーターPBADである。このプロモーターは、遺伝子産物araCによって調節され、その転写はAraC自体によって抑制される。AraCはホモダイマーを形成し、開始因子領域1(I1)及びオペレーター領域2(O2)に結合して、PBADの上流でPBADを抑制する終止ループに似たDNAループを形成する。L-アラビノースが存在する際は、AraCはその結合ポケットにL-アラビノースを受け取り、コンフォメーションを変化させ、DNAループを解除する。さらに、L-アラビノースと結合したホモダイマーとしてのAraCは、次いで、PBADの上流の開始領域1及び2(I1、I2)に結合し、環状AMP(cAMP)及びcAMPレセプタータンパク質によって形成される活性化複合体をI1及びI2領域の上流に結合させ、I1及びI2領域の下流にRNAポリメラーゼを結合させ、プロモーター要素PBADから転写を効果的に開始させる。E.coliにおけるL-アラビノースオペロンの詳細な記述は、Schleif, BioEssays 25.3, pp. 274-282 (2003)において見られる。
【0052】
サッカリド誘導性プロモーターの誘導のための、細菌ベクター及び/又は受容した動物によって代謝され得るサッカリドの使用に代わって、サッカリドのアナログ及び誘導体が誘導因子であるサッカリドとして使用されて良い。サッカリドのアナログ及び誘導体は、本発明の目的のための誘導因子であるサッカリドという用語に含まれる、例えば糖アルコール、糖異性体、並びに糖のエステル化、アミド化、アルキル化、又はアルコキシル化物である。
【0053】
本発明によって使用されるサッカリド誘導性プロモーター、特に、好ましいプロモーター要素PBADの大きな利点の1つは、誘導因子の不在におけるそれらの厳密な調節である。そのため、細菌ベクターに潜在的に毒性を有するペプチドをコードする構造遺伝子、例えばバクテリオファージφの遺伝子Eも、PBADに機能的に結合されて良く、本発明に係る細菌ベクター内に存在して良い。同様に、誘導可能なプラスミド複製起点に対して作用するレプリカーゼの発現の厳密な調節が必要とされる。プロモーター活性の厳密な調節は、その活性化が細菌ベクターの生存性又は感染性に有害であるか、又はそれらの配列を含有するプラスミドの損失を生じさせるDNA配列を含有する細菌ベクターの作製を可能にする。
【0054】
プロモーター要素PBADの更なる利点は、緩やかに活性が増大する形態における誘導物質であるL-アラビノースの濃度の緩やかな増大に応答することである。
【0055】
サッカリド誘導性プロモーターのための誘導因子として使用される誘導因子であるサッカリドは、細菌ベクターに標的とされた宿主細胞及び生物、例えば動物に非毒性であり、且つ標的生物の他の細胞に非毒性であるという利点を有する。さらに、サッカリドは、複数の経路(例えば経口又は全身、つまり静脈内、腹膜、非経口、又は筋肉内)の1つによって投与され、動物又はヒトに拡散され、本発明に係る細菌ベクターに到達して良い。そのため、機能的に結合された発現カセットを転写する(例えば、ベクターによってコードされる所定の活性を活性化する)細菌ベクターに含有されるサッカリド誘導性プロモーターの誘導は、非常に単純や様式で実現可能である。特に、好ましい誘導物質であるL-アラビノースは食品用途並びに製薬製剤のための製剤化剤に広く使用されており、したがって哺乳動物細胞、例えば培養細胞、組織、器官、又は哺乳動物に関するその非毒性は証明されている。
【0056】
さらに、誘導物質として使用されるサッカリドは、低コストで容易に得られ、且つ確立された経路(例えば経口又は静脈内)で投与するという利点を示す。
【0057】
第1の態様では、本発明は、動物、例えばin vivoの標的細胞の近傍への調節されたペプチドを送達するための製薬学的な組み合わせを提供する。この用途のための、製薬学的なシステムの第1の成分を形成するベクターは、非侵襲性の細菌又は侵襲性の細菌に基づく。前記細菌ベクターにコードされる抗原ペプチドの合成は、誘導因子であるサッカリドの適用によって誘導され、例えば本発明の製薬学的な組み合わせは、ヒトを含む動物のための生ワクチンの効果を生じさせる。ワクチンとしての使用は、ベクターとして使用される細菌を適当に選択することによって、トランスジーンによってコードされるペプチドに対する細胞性及び/又は液性免疫応答を好適に誘導することを目的として良い。
【0058】
本発明に係る製薬学的な組み合わせの細菌ベクター成分が選択されて、使用される細菌の特性及び/又はトランスジーンにコードされるペプチドの特性に依存して、細胞性及び/又は液性免疫応答が好適に誘導されることは本発明の特定の利点である。詳細には、非侵襲性及び侵襲性細菌の双方が細胞性又は液性免疫応答を引き起こすか、または好適に免疫応答を細胞性又は液性免疫応答とするのに適する。しかしながら、当業者は、所望の細胞性及び/又は液性免疫応答を達成する製薬学的なシステムにおいて、トランスジーンによってコードされるペプチドとの組み合わせで、どの細菌が細菌ベクターの適切な成分を構成するかを容易に決定することが可能である。
【0059】
受容した動物の血清における液性免疫応答の誘導を測定するための分析方法の例は、抗原特異的な抗体のELISAである。受容した動物の異なる部位における細胞性免疫の誘導を測定するための分析方法の例は、抗原特異的な免疫細胞によるサイトカイン生産の分析である。
【0060】
ここでは、例えば共生細菌のような非侵襲性細菌に基づく細菌ベクターが、サッカリド誘導性プロモーターの調節下にコードされたペプチドを送達するために使用される。動物又はヒトとの共生細菌は、ペプチド又は合成経路の酵素を発現及び/又は放出してエフェクター分子を生産するために使用され得る。エフェクター分子、例えばインターロイキン、ロイコトリエン、並びに酵素による変換によってプロドラッグから得られる薬剤が、合成経路の酵素を発現する細菌ベクターを使用する本発明の製薬学的な組み合わせによって提供されて良い。より強力な薬剤にプロドラッグを変換するための酵素の例は、例えばE.coliに由来するシトシンデアミナーゼである。
【0061】
前記ベクターを摂取した動物又はヒトに誘導因子であるサッカリドを適用することによって任意に誘導されるベクターのこれらの活性だけでなく、トランスジーンの繰り返しの活性化が、細菌ベクターが存在している限り、誘導因子であるサッカリドの適用によって可能である。
【0062】
本発明の製薬学的な組み合わせで治療される動物の細胞にペプチドを導入するためには、そのベクター成分は、好ましくは弱毒化された侵襲性細菌に基づくものである。標的細胞は、動物内の組織又は器官、すなわちin vivo、培養された動物細胞又は体外の組織又は器官である。ここでは、弱毒化侵襲性細菌が、動物細胞にトランスジーン配列を導入するための輸送ビヒクルとして役に立ち、トランスジーン配列が細菌の成分によって転写及び/又は翻訳される。ベクターによってコードされるペプチドの性質に依存して、前記ベクターは、医学的用途又は技術的な用途、例えば培養された標的細胞を操作するため、器官の体外治療のために使用される。
【0063】
さらに又は代替的に、細菌ベクターが基づく細菌は、発現されるペプチドに対する所望の特異的な免疫応答を促進するために役に立ち、例えば細菌は抗原ペプチドのためのアジュバントとして働く。トランスジーンにコードされたペプチドの抗原性により、且つ引き起こされる免疫応答の細胞性及び液性に依存して、その様な細菌ベクターが、ウイルス又は細菌感染に対する、あるいは寄生、腫瘍細胞、又は自己免疫疾患若しくはアレルギーに関与する因子に対する、アルツハイマー斑及び他の悪性疾患に対するワクチンとして使用される製薬学的な組み合わせの第1の成分を構成し得る。
【0064】
代替的に、トランスジーンは、その合成が細菌ベクターの溶解を引き起こしてその構成成分を非侵襲性細菌に基づくベクターの場合は主に標的細胞の近傍に、弱毒化侵襲性細菌に基づくベクターの場合は主に標的細胞内に放出する自殺遺伝子をコードしてよい。
【0065】
更なる態様では、細菌ベクター成分は、受容した哺乳動物細胞によって転写及び/又は翻訳され得る核酸の送達のための非侵襲性又は侵襲性細菌に基づく。このベクター成分は、動物内又は体外器官の標的細胞の近傍又は標的細胞に所望の核酸配列を導入するために使用されて良い。1つの態様では、ベクター成分は、動物又は細胞に外来性の核酸配列、例えば受容した哺乳動物細胞と同種のペプチド又は異種起源のペプチド、例えば受容した生物から免疫応答を引き起こす抗原特性を有するペプチドをコードする発現カセットを含むDNAを導入するための輸送ビヒクルとして使用される。抗原を直接輸送する代わりに免疫原ペプチドをコードする発現カセットを輸送することは、DNAワクチン接種とも称される。
【0066】
ワクチン接種に使用するために、本発明に係る製薬学的な組み合わせは、第2の成分の投与前にトランスジーンの活性は無く、ペプチド及び/又は核酸が標的細胞の近傍又は標的細胞に送達されるまで、トランスジーンがベクター成分内に維持され得ることから、トランスジーンの有利な送達を可能にする。誘導因子であるサッカリドの投与によるトランスジーン活性の誘導の利点は、ベクター成分の効率を低減する、感染の間のトランスジーンの維持又はペプチド合成の継続のための細菌ベクターに対するエネルギー的な負担を見ると明らかである。ベクター成分によって到達された標的細胞としては、パイエル班及びさらなる動物の免疫応答性組織が、ベクターの経口及び全身的の各々の投与後に細菌ベクターを含有するものとして同定された。トランスジーンの活性化は、後に続く誘導因子であるサッカリドの経口又は全身的な投与によって、これらの免疫反応性の標的細胞において達成されるであろう。
【0067】
細菌ベクター成分を好ましく含み、非侵襲性又は侵襲性細菌に基づいて産生されたベクターを使用し、病原性細菌である場合は好ましく弱毒化されている製薬学的な組み合わせの更なる医学的用途は、腫瘍細胞を標識、同定、及び/又は殺すことである。ここで、トランスジーンは、MHC分子との複合体における提示に利用可能である際に、抗原として受容した動物によって認識されるペプチドであって良い。抗原は、異種起源のペプチド又は自己寛容を破壊する自己抗原であって良い。CTLによる後に続く除去のための腫瘍細胞の標識又は同定は、腫瘍細胞に対するCTLの攻撃の障害となる自己寛容を克服する効率的な方法である。細菌ベクター成分とMHC Iによって送達される抗原複合体は、次いで細胞傷害性T-リンパ球によって認識され得る。この事が、表面のMHC I複合体に免疫原ペプチドを提示する細胞に対する細胞傷害性T-リンパ球の産生を生じさせる。腫瘍組織に新種すし増幅するある腸病原性細菌、例えばsalmonella又はE. coliと組み合わせて使用される際は、前記製薬学的システムの細菌ベクター成分は、認識された細胞、好ましくは腫瘍組織に対する細胞傷害性T-リンパ球を含む細胞性免疫応答を対象とする。
【0068】
腫瘍の治療における使用のために、細菌ベクター成分内に含まれるトランスジーンは、癌遺伝子の発現及び/又は活性を抑制する因子をコードする核酸、例えばiRNA、プロドラッグ変換酵素、例えばE. coliデアミナーゼ、細胞毒性タンパク質、例えばコリシンE3、免疫調節因子、例えばサイトカイン、腫瘍壊死因子α(TNFα)、及び/又は抗アンギオテンシン因子、例えばエンドスタチンから選択されて良い。
【0069】
特異的又は非特異的な組織、細胞、及び/又は細胞の区画にベクター成分を投与された標的生物内の細菌ベクター成分の感染サイクル又は移動と誘導因子成分の投与の時間を同期させること(例えば腫瘍組織に移動が完了した後に同期させることが予測又は決定される)は、所望の部位におけるサッカリド誘導性プロモーターからの所望の活性を開始させることを可能にする。
【0070】
前記所望の活性は、特異的な標的細胞の表面上における提示が意図される抗原の合成(つまり腫瘍細胞の外側にT-細胞によって認識されるように標識する)であって良い。所望の活性の他の例は、アポトーシス誘導因子の合成、又は例えばプロドラッグと比較して大きい細胞毒性が生じる薬剤にプロドラッグを変換するために触媒するペプチドの合成である。さらなる所望のトランスジーン活性は、細菌の毒、例えば細胞毒の合成であって良い。これらの細菌ベクター成分は、ペプチドをコードするトランスジーンを好適に含み、その感染腫瘍細胞における発現はアポトーシス又は細胞毒性T細胞による溶解を誘導する。診断又は研究目的のために、腫瘍組織が、分光学的に同定され得る生産物、例えば蛍光若しくは生物発光ペプチド又は化合物の変換を触媒して検出可能なシグナル、例えば生物磁石又はルミネッセンスを産生させるペプチドを含有する発現カセットの誘導によって同定されて良い。
【0071】
本発明の更なる態様として、細菌ベクター成分は、誘導因子であるサッカリドをベクターに移行させる、誘導因子であるサッカリドのトランスポーターシステムの発現の促進のために遺伝子操作される。この遺伝子操作は、誘導因子であるサッカリドのトランスポーターシステムの発現を調節する基準のプロモーター活性の促進によって、又は代替的に、誘導因子であるサッカリドのトランスポーターシステムをコードする発現カセットの、例えばトランスジーンの活性を調節するサッカリド誘導性プロモーターの活性を誘導するために適する誘導因子であるサッカリドのための誘導因子であるサッカリドのトランスポーターシステムを本来は欠いているベクターとして使用される細菌への、導入によって為されて良い。例えば、E. coliのL-アラビノーストランスポーターをコードする発現カセットが使用されて、L-アラビノーストランスポーターを欠いている細菌を形質転換してよい。
【0072】
結果として、細菌ベクターによる誘導因子であるサッカリドの取り込みの増大が認められ、トランスジーン活性の誘導の促進が引き起こされる。さらに、誘導される細菌ベクターの割合が増大し、飽和レベル未満の組織における誘導因子であるサッカリドの濃度(例えば中程度の濃度)で認められる、いわゆる全か無かの効果である効果を低減し、誘導因子であるサッカリドを有さない(つまり本質的にトランスジーン活性を有さない)細菌ベクターのかなりの割合を生じさせる。例えば、L-アラビノース輸送及び/又は分解を欠いている細菌ベクターへの変異体lacY遺伝子の染色体又はプラスミドに基づく組込み(例えばMorgan-Kiss et al., PNAS 99, 7373-7377 (2002)によるもの)は、このPBADの例では、L-アラビノース取込みを促進し、それによりサッカリド誘導性プロモーターの誘導を促進するための遺伝子操作として使用されて良い。
【0073】
誘導因子であるサッカリドのトランスポーターの増大された活性を有する遺伝子操作された細菌ベクターを使用する実施態様に加えて又は代替的に、細菌ベクターが誘導因子であるサッカリドの分解の代謝経路活性の低減のために遺伝子操作される。これらの実施態様では、細菌ベクターとして使用される細菌の遺伝子操作が、代謝酵素の転写及び/又は翻訳及び/又は活性の低減を引き起こす。例えば、L-アラビノース分解経路の代謝酵素の合成(araオペロン)が、細菌ベクター成分において不活性化される。
【0074】
誘導因子であるサッカリドの取込みを増大する及び/又は誘導因子であるサッカリドの代謝を低減するための遺伝子操作は、誘導因子であるサッカリドの繰り返しの投与を意図されない細菌ベクターにおいて、例えばトランスジーンの完全且つ強力な誘導が望ましい際に、例えばベクターの存在を終わらせるためのトランスジーンとして遺伝子Eを使用する際のベクター成分の溶解において好ましい。
【0075】
細菌ベクター成分の特異性は、製薬学的な組み合わせの第1の成分として利用される細菌の特性に由来するものであり、その存在、つまりトランスジーンの活性の調節された誘導を達成するのが第2の成分である。誘導因子であるサッカリドの投与によるベクター成分の調節を使用することは、活性化(例えば転写、トランスジーンに依存してトランスジーンの翻訳)の時点を、所望であれば繰り返し、決定することを可能にする。動物内のベクター成分の同定に基づいて、又はベクター成分が所望の部位に到達するために必要な時間の経過後に、ベクター成分の空間的な局在が利用されて、空間的、すなわちトランスジーンの局所的な効果が達成される。この実施態様では、細菌ベクター成分が、MHC Iによって抗原を提示する標的細胞、例えば細菌ベクターによって本来的にコードされている抗原ペプチドを含む腫瘍細胞に対する細胞性免疫応答を対象とするために使用されて良い。これに関して、細菌ベクター成分が、アジュバント活性を提供してよく、腫瘍細胞及びトランスジーン活性の部位の同定のために役立つ。
【0076】
細菌ベクター成分に含有されるサッカリド誘導性プロモーターは、誘導因子であるサッカリドの不在下においてこのプロモーターによって為される厳密な調節によって、構造配列の転写及び/又は翻訳によって及び/又は高コピー数のプラスミドによって制約を受けていない動物細胞の感染を可能にする。任意の所望の時点における誘導因子であるサッカリドの外部からの投与後にのみ、所望のトランスジーン活性が開始され、例えばプロモーターより転写が開始される。
【0077】
第2の実施態様の例は、例えばインターロイキン、ロイコトリエン等、又はエフェクター分子を生産する合成経路酵素をコードするトランスジーンを含有する共生細菌に基づくベクター成分を含む、炎症性腸疾患に対する前記製薬学的な組み合わせの使用である。この細菌ベクター成分は、摂取されて標的生物に導入されて良く、エフェクター分子の合成が、後に続く関連する誘導因子成分の摂取によって繰り返し誘導されて良い。
【0078】
前記トランスジーンは、構造遺伝子(抗原性若しくは免疫調節性ペプチド、抗体、又は生物発光ペプチド、例えば静菌剤及び/又は細胞増殖抑制剤、細菌の核酸を修飾する酵素、例えばバクテリアルリコンビナーゼ(例えばトランスジーンの配列を変化させるためのもの))、反応性RNA種(リボザイム、アンチセンスRNA、siRNA)、プラスミドを増幅するためのレプリカーゼ(ori Vに対して作用するE. coliのtrfA遺伝子産物)、並びに/あるいはバクテリオファージの溶解決定因子(自殺遺伝子の溶解ペプチド、例えばφX174からのタンパク質E)をコードしてよい。
【0079】
さらに又は代替的には、サッカリド誘導性プロモーターの調節下におけるトランスジーンは、含有される細菌プラスミドのコピー数を調節するために使用されて良く。例えば、トランスジーンは、高コピー数のレプリコンの起点に対して作用するレプリカーゼをコードして良い。誘導因子であるサッカリドの存在が、トランスジーンの合成を引き起こし、続いてレプリコンの特定の起点に作用して、プラスミド配列全体の増幅を引き起こす。本発明のプロモーター要素の厳密な調節により、その様なプラスミドは、誘導因子の不在下において細菌ベクター内に少なくとも1つのコピーのプラスミドを維持するために非常に少ないコピー数の複製起点をさらに含む。前記プラスミドは、任意にサッカリド誘導性プロモーターの調節下にも、構造遺伝子又は反応性RNA種をコードする更なる核酸配列、例えば発現カセットを含んで良い。
【0080】
細胞の核への核酸配列の移行を促進するために、核移行のための促進因子がその様な核酸配列上(例えばcPPT領域(ポリプリントラクト、核移行を促進する遺伝因子))に存在して良い。
【0081】
細菌ベクター成分によってコードされて良い更なるトランスジーンは、サッカリド誘導性プロモーターの調節下に自殺遺伝子を更に又は代替的にコードしてよい。その様な自殺遺伝子は、細菌ベクター成分の溶解を触媒し、ファージφX174の溶解遺伝子である遺伝子Eによって例示されて良い。自殺遺伝子をコードするトランスジーンの存在は、細菌ベクターの溶解が少数の分子(例えば、100分子未満の遺伝子E産物)のみの合成によって誘導される厳密に制御されたプロモーターの調節下においてのみ可能である。そのため、自殺遺伝子産物を生じさせる誘導因子であるサッカリドの存在は、細菌ベクター成分の急速な分解を生じさせ、ファゴソーム、細胞の細胞質、及び/又は細胞内空間にその含有物を放出させる。したがって、サッカリド誘導性プロモーターの制御下の自殺遺伝子は、それらを存在させずに細菌の含有物を放出させるための安全な特性として、遺伝子操作された細菌ベクターために使用されてよい。
【0082】
細胞内における細菌が複製する場合にファゴソームを破壊するために、細菌ベクター成分は遺伝子操作されて、ファゴソームの破壊を引き起こすペプチドの分泌のためのトランスジーン(例えばlisteriolysin O (LLO))を含んで良い。ファゴソームの破壊を引き起こすペプチドは、誘導因子成分の投与によって活性化されて良い。このファゴソームの溶解は、細胞質への細菌ベクターの含有物の解放を容易にして、MHC-Iによる提示のためのペプチドのアクセス及び/又は細胞の核への核酸配列の核移行を可能にする。
【0083】
トランスジーンとして使用される構造遺伝子の更なる例は、例えばCCDカメラによって又は染料を産生する酵素活性(例えば、βガラクトシダーゼ)を介して、研究、観察、及び診断目的のために有用なペプチド、例えば緑色蛍光タンパク質及びそのホモログ又は誘導体、ルシフェラーゼ、あるいは発光を検出するためのPhotorhabdus luminescens のluxオペロン(lux CDABE)をコードする配列であるものである。
【0084】
トランスジーンの更なる例は、誘導因子であるサッカリドの投与によって誘導された組織、器官、若しくは動物内のベクターから高分子を放出するための分泌タンパク質、接合DNA-タンパク質複合体、溶菌決定因子、又はバクテリオファージである。トランスジーン又はDNAの転写及び/又は翻訳産物の分泌に使用可能な分泌システムの各々は、例えば、細菌分泌システム、及び代替的には細菌ベクターからの高分子の輸送及び/又は放出のために改変されたバクテリオファージ及び溶解システムである。分泌システムは、分泌認識配列(secretory recognition sequence)を含有する融合ペプチドをコードするトランスジーンの産生によるペプチドのサッカリドに制御された分泌に適用される、E.coliヘモリジン分泌システムのようなタイプI分泌システムを含む。同様に、タイプII分泌システム及びタイプIII分泌システムとして分類されるE. coliの一般的な分泌経路(Sec)、例えばE.coli べん毛タイプIII分泌システム又はSalmonellaの病原性関連タイプIII分泌システムが、個々のシグナルペプチドとの融合ペプチドをコードするトランスジーンの産生に適用されて良い。タイプIII分泌システムの1つの特定の使用は、細胞外細菌から標的細胞への、又は宿主細胞の細胞内区画の細菌から細胞質へのペプチドの移行である。さらに、接合装置(conjugational apparatus)とも称されるタイプIV分泌システム、例えばAgrobacterium tumefaciens のVirB/VirD4タイプIV分泌システムが、分泌システムに特異的な個々のシグナル配列をコードする核酸配列とともにトランスジーンを提供することによって、ペプチド及び/又はDNAの分泌及び/又は移行のために適用されて良い。タイプIV分泌システムの1つの特定の例は、誘導因子であるサッカリドの投与による誘導後の動物内で本発明による、細胞外細菌から標的細胞への、又は細胞内細菌から細胞内の区画の境界を越える、ペプチド及び/又はDNAの移行である。代替的に又は更には、オートトランスポーター及び他の表面ディスプレーシステム、例えばE.coli AIDAオートトランスポーターが、トランスジーンとして使用されて良い。バクテリオファージ、例えばλファージ又はM13は、誘導因子であるサッカリドによる誘導で細菌細胞からそれらを放出するという作用をするトランスジーンとして使用されて良い。λファージの放出は細菌細胞の溶解を必要とするが、糸状ファージ M13は生きた細菌細胞によって分泌され得る。溶解決定因子、例えばバクテリオファージ phiX174のタンパク質E又はプラスミドR1のタンパク質Hokは、細菌ベクターからペプチド及び/又は核酸の放出を生じさせる細菌ベクターの溶解のためのトランスジーンとして使用されて良い。
【0085】
本発明の1つの実施態様では、細菌ベクター成分は、誘導因子であるサッカリドの投与でトランスジーンの転写又は翻訳産物の分泌を増大するために固有の分泌システムの活性を促進するように遺伝子操作される。代替的に、細菌ベクター成分は、トランスジーンの転写又は翻訳産物の分泌を促進するために分泌システムをコードする染色体又はプラスミドに基づく発現カセットを含むように遺伝子操作される。これらの目的のために、上述の分泌システムIからIVが使用されて良い。
【0086】
本発明に係る製薬学的な組み合わせのベクター成分のための基礎を形成し得る細菌は、本発明に係る組み合わせにおける細菌ベクター成分の機能を変わらずに提供する限り、野生型の株と比較して実質的な欠失を有する及び/又は複数の異なる細菌の遺伝的決定基を含む人工的な細菌、並びに動物細胞に対して侵襲性又は非侵襲性であって良い非病原性又は病原性グラム陽性及びグラム陰性菌の弱毒化株、あるいは共生細菌を含む。グラム陰性菌は、例えばE. coli, Salmonella spp.、 例えばSalmonella enterica 血液型亜型 Typhimurium、SL7207株のようなもの、例えばSalmonella enterica 血液型亜型 Typhi, Ty21a株のようなもの, Shigella spp.、Yersinia spp.、及びVibrio choleraeである。グラム陽性菌の例は、Bacillus spp.、例えばBacillus subtilis、Clostridium spp.、Listerium monocytogenes、及びMycobacterium spp.、例えばBCG株である。 共生細菌は、例えば、E. coli、Lactobacillus spp.、Lactococcus spp.、及びStreptococcus gordoniiである。
【0087】
本明細書の用語では、「弱毒化侵襲性細菌」という表現は、特に、E. coli, Listerium monocytogenes、Salmonella enterica var. typhimurium、Shigella flexneri、Yersinia pseudotuberculosisの弱毒化株及び更なる侵襲性細菌並びに非侵襲性細菌のVibrio choleraeの弱毒化株を意味する。本明細書において用語「侵襲性細菌」にVibrio choleraeを含む理由は、腫瘍組織内に集積することが実証されているVibrio cholerae弱毒化株が存在するためである(Nature Biotechnology, Volume 22, No 3, March 2004)。腫瘍に対するVibrio choleraeの親和性に関しては、少なくとも幾つかの侵襲性細菌と共有する性質であり、それらを本発明において有用なものとする。
【0088】
本明細書では、侵襲性又は非侵襲性として本発明の細菌ベクター成分として有用な細菌の分類は、組織特異的な器官で細胞内及び細胞外の集落形成をする細菌の可能性を含む。例えば、これをSalmonellaに適用すると、細胞外の状態で腫瘍組織に集落形成する。
【0089】
さらに、侵襲性細菌は、例えば侵襲促進因子のコード配列導入することによって、例えばYersinia pseudotuberculosis由来のインベーシン遺伝子(inv)のE. coliにおける発現によって、本来非侵襲性細菌であるが遺伝子操作によって侵襲性にされた、本発明のベクター成分を産生するために使用されて良い。
【0090】
本発明に係る製薬学的な組み合わせの細菌ベクター成分を生産するために適する細菌の例は、Agrobacterium、例えばAgrobacterium tumefaciens; Bacillus、例えばBacillus cereus, Bacillus subtilis, Bacillus thuringiensis, Bacillus weihenstephanensis; Bartonella、例えばBartonella henselae, Bartonella schoenbuchensis; Bdellovibrio、例えばBdellovibrio bacteriovorus, Bdellovibrio starrii, Bdellovibrio stolpii; Bifidobacterium、例えばBifidobacterium adolescentis, Bifidobacterium bifidum, Bifidobacterium lactis, Bifidobacterium longum; Bordetella、例えばBordetella pertussis; Borrelia、例えばBorrelia burgdorferi; Brucella、例えばBrucella abortus, Brucella bronchiseptica; Burkholderia、例えばBurkholderia cenocepacia, Burkholderia fungorum, Burkholderia mallei, Burkholderia pseudomallei; Campylobacter、例えばCampylobacter fecalis, Campylobacter pylori, Campylobacter sputorum; Chlamydia、例えばChlamydia pneumoniae, Chlamydia psittaci, Chlamydia trachomatis; Clostridium、例えばClostridium difficile, Clostridium novyi, Clostridium oncolyticum, Clostridium perfringens, Clostridium sporogenes, Clostridium tetani; Corynebacterium、例えばCorynebacterium diphtheriae, Corynebacterium glutamicum, Corynebacterium jeikeium; Edwardsiella、例えば Edwardsiella hoshinae, Edwardsiella ictaluri, Edwardsiella tarda; Enterobacter、例えばEnterobacter aerogenes, Enterobacter cloacae, Enterobacter sakazakii; Enterococcus、例えばEnterococcus avium, Enterococcus faecalis, Enterococcus faecium, Enterococcus gallinarum; Escherichia、例えばEscherichia coli; Eubacterium、例えばEubacterium lentum, Eubacterium nodatum, Eubacterium timidum; Helicobacter、例えばHelicobacter pylori; Klebsiella、例えばKlebsiella oxytoca, Klebsiella pneumoniae; Lactobacillus、例えばLactobacillus bulgaricus, Lactobacillus casei, Lactobacillus delbrueckii, Lactobacillus plantarum; Lactobacterium、例えばLactobacterium fermentum; Lactococcus、例えばLactococcus lactis, Lactococcus plantarum; Legionella、例えばLegionella pneumophila; Listeria、例えばListeria innocua, Listeria ivanovii, Listeria monocytogenes; Microbacterium、例えばMicrobacterium arborescens, Microbacterium lacticum; Mycobacterium、例えばBacille Calmette-Guerin (BCG), Mycobacterium avium, Mycobacterium bovis, Mycobacterium paratuberculosis, Mycobacterium tuberculosis; Neisseria、例えばNeisseria gonorrhoeae, Neisseria lactamica, Neisseria meningitidis; Pasteurella、例えばPasteurella haemolytica, Pasteurella multocida; Salmonella、例えばSalmonella bongori, Salmonella enterica ssp.; Shigella、例えばShigella dysenteriae, Shigella flexneri, Shigella sonnei; Staphylococcus、例えばStaphylococcus aureus, Staphylococcus lactis, Staphylococcus saprophyticus; Streptococcus、例えばStreptococcus gordonii, Streptococcus lactis, Streptococcus pneumoniae, Streptococcus pyogenes, Streptococcus salivarius; Treponema、例えばTreponema denticola, Treponema pallidum; Vibrio、例えばVibrio cholerae; Yersinia、例えばYersinia enterocolitica, Yersinia pseudotuberculosis、これらの細菌のHfr因子及びpiliを欠いているS1-株を含み、特にE. coliのS1-株である。
【0091】
本発明に係るプロモーター要素の更なる利点は誘導因子成分の副作用が存在しないことであり、サッカリドは非毒性で、動物内の細胞及び組織に到達し、免疫原性ではなく、別々の経路、例えば経口、静脈内、又は他の全身的な経路を介して投与されて良く、摂取した生物内又は細胞培養物におけるその濃度は調節することが可能であり、低コストで実施することが可能である。
【実施例】
【0092】
実施例では、E. coilのL-アラビノースオペロンからのプロモーター成分PBADが、1つのプラスミド及び/又は細菌ベクターの染色体に少なくとも1つのコピーが組み込まれたDNA部分に、自己のプロモーターPcの調節下のレギュレータータンパク質AraCの構造遺伝子と組み合わせて存在する。しかしながら、プロモーター要素PBADは、遺伝子操作された細菌ベクターにおいて本発明によって使用されるサッカリド誘導性プロモーターの単なる代表的な例である。
【0093】
その特異的なレギュレーターであるAraCのための発現カセットとサッカリド誘導性プロモーターPBADの配置は、図1に示しており、サッカリド誘導性プロモーターはレギュレーターAraCの構造遺伝子を調節するプロモーターPcに対して後ろの関係で、後ろに配置されている。この配置は必須のものではないが、レギュレーター遺伝子の発現カセットがサッカリド誘導性プロモーターと物理的に結合することが必須であり、オペレーター要素の配置が所望のDNA配列の下流に挿入(つまり作動可能な様式に結合)されるべきである。
【0094】
(実施例1)
誘導後の細菌ベクターに含まれるプラスミドからのペプチド発現
構造遺伝子に関する例として、PBADの調節下に緑色蛍光タンパク質(GFP)のための構造遺伝子を含むプラスミドpHL238(図1に図示)をクローニングし、さらにPBADのレギュレーターの構造遺伝子、araCを自己のプロモーターPcの調節下に、選択マーカーとしてのアンピシリン耐性遺伝子及びpUCからの高コピー数のレプリコンの起点と共に含めた。調節因子はプラスミドpBAD18に由来するものである(Guzman et al., J. Bacteriol. 1995 Jul; 177(14):4121-30)。
【0095】
この細菌ベクターは、既知の実験的なワクチン接種のための使用における弱毒化侵襲性サルモネラ株であるSalmonella enterica 血液亜型Typhimurium, SL7207株に基づく。前記サルモネラ株は、エレクトロポレーションによってpHL238で形質転換され、形質転換されたコロニーをストレプトマイシン30μg/ml及びアンピシリン100μgを含有するLB-培地アガープレートで選択した。結果として得られた形質転換株は、細菌ベクターSL7207[pHL238]であった。対数増殖期に0.1% w/volのL-アラビノースを液体LB培地(30μg/mL ストレプトマイシン、100μg/mL アンピシリン)に添加した3時間後、GFP発現の強力な誘導が、FACScaliburフローサイトメーター(Becton Dickinson)を使用して観察された。結果は、図2に示されており、L-アラビノースの添加に関しては太線で、L-アラビノースを含まないものに関しては細線で示されている。
【0096】
特異的な誘導因子物質として作用するサッカリドの添加によるサッカリド誘導性プロモーターの調節下における遺伝子産物の合成は、構造遺伝子の細菌による発現を引き起こすことが、これらの測定によって明らかにされた。この実施例では、GFPの発現が、L-アラビノースの誘導がない感染細胞で得られるバックグラウンドの蛍光よりも2けたを超えて大きい蛍光値を生じる。
【0097】
(実施例2)
感染動物細胞内における誘導後の細菌ベクターからのペプチドのin vitroにおける発現
ネズミのマクロファージ細胞株J774A1を実施例1の細菌ベクターSL7207[pHL238]で感染させた。感染前に、細胞を2×106細胞/ウェルで6ウェルプレートにおいて抗生物質を含まない培地(10%非導化ウシ胎仔血清及び2 mM グルタミンを含むIMDM)中に播種し、5%CO2雰囲気下、37℃で1日増殖させた。感染のために、SL7207[pHL238]を抗生物質を添加したLBプレート上で37℃で一晩、グリセロールストックから増殖させ、続いて抗生物質を添加した液体LB培地で約2時間、37℃、60rpmで振盪させて培養した。遠心分離によって細菌を回収し、PBSで洗浄して、細胞培養培地に再懸濁し、10の~MOIで添加した。感染の30分後に、細胞を2回PBSで洗浄して、その後にゲンタマイシン(50μg/mL)を含有する培地を添加して細胞外の細菌を殺した。感染の4時間後に、各種の量のL-アラビノースを、終濃度が800μM、4mM、40mM、及び400mMとなるまで感染したJ744A1細胞の個々のウェルに添加した。L-アラビノースを添加した3時間後に、細胞を0.25% Triton X-100で処理した。溶解物中のGFPを発現する細菌をフローサイトメトリーによって観察した。自己蛍光細胞フラグメントからGFPを発現している細菌の蛍光を区別するために、いわゆる2色フローサイトメトリー法を使用した(Bumann, Infect. Immun. (2001) 69, 4618-4626.)。分析結果を図3に示す(非特異的なバックグラウンドの蛍光は差し引いている)。L-アラビノースの濃度の変化は、L-アラビノースを含まない培地(細線)、及びL-アラビノースを4 mM、40 mM、及び400mM(太さが増加する曲線)という増加する濃度で示されている。
【0098】
培地中のL-アラビノースの濃度増加で、GFPの蛍光強度が増大することを認めることができ、サッカリド誘導性プロモーターの緩やかな誘導がGFPの合成を生じさせることが示される。
【0099】
哺乳動物細胞への細菌ベクターの導入は本発明に係る細菌ベクターを使用して得られ、特異的な誘導因子物質として作用するサッカリドの細胞外の添加によってサッカリド誘導性プロモーターの調節下の遺伝子産物の合成の誘導が、動物細胞に含まれる構造遺伝子の細菌による発現を生じさせることが、これらの測定によって明らかにされる。
【0100】
(実施例3)
哺乳動物内における誘導後の細菌ベクターからのペプチドのin vivoにおける発現
Balb/cマウスを、細菌ベクターSL7207[pHL238]のPBS中の5×106細菌の用量で静脈内に感染させた。2日後、PBSに溶解した各種の量のL-アラビノースをマウスに静脈投与した。L-アラビノースを投与した4時間後にマウスを屠殺し、脾臓を回収して、0.1% Triton X-100を含有するPBS中で均質化し、溶解物を2色フローサイトメトリーによって分析した。
【0101】
感染させた動物から回収された細菌によるGFPの発現が、用量依存的な様式でL-アラビノースによって誘導されることが明らかにされた。結果を図4に示す。GFPによる蛍光強度が動物中のL-アラビノースの増加する濃度と共に増大することが認められ、サッカリド誘導性プロモーターの緩やかな誘導がGFPの合成を生じさせることが示される。
【0102】
(実施例4)
細菌プラスミドのコピー数のin vitroにおける調節
バクテリアベクター内に含有されるプラスミドのコピー数の調節を明らかにするために、図5に記載のプラスミドを構築した。L-アラビノースの不在下では、Escherichia coliのFプラスミド由来の複製起点によって調節され、細菌細胞当たりにただ1つのコピーのこのプラスミドが維持される。さらに、このプラスミドは、プラスミドRK2の誘導可能な複製起点、つまりoriVを含有している。この起点に作用するレプリカーゼ遺伝子trfAを、サッカリド誘導性プロモーターの例としてのPBADの調節下に配置する。
【0103】
プラスミドの複製の簡易的な分析を可能にするために、前記ベクターに含有されているbla遺伝子由来の弱い構成的Pblaプロモーターの調節下にGFPを配置した。組換え株SL7207[pAEN17]を対数増殖期に増殖させ、0又は0.1%のいずれかのL-アラビノースを細菌の培養物に添加した。誘導の3時間後、図6に示すように、gfp遺伝子を含有するプラスミドのコピーの増幅によって生じる発現の増大によるGFP活性の増大を測定することによって、プラスミドの複製を観察した。
【0104】
L-アラビノースの添加がPBADを誘導し、oriVによって介されて複製を誘導するtrfA遺伝子産物の合成を生じさせ、プラスミドpAEN17のコピー数の増大を生じさせることが、この結果から示された。フローサイトメトリーの分析結果を、左側のピークとしてバックグラウンドの蛍光と共に図6に示し、非誘導条件下における低コピー数におけるGFPの発現を示す。右側のピークは誘導条件下におけるGFPの活性を表わし、プラスミド及びGFPの発現カセットのコピー数の増大の効果の各々を示す。これは、サッカリド誘導性プロモーターが、サッカリド誘導性プロモーターの調節下に機能的に結合された誘導可能な複製起点に作用する遺伝子をコードする配列が配置された際に、細菌ベクターによってかくまわれたプラスミドのコピー数を調節するために使用することが可能であることを示す。
【0105】
(実施例5)
哺乳動物内における細菌ベクターからのタンパク質発現を調節するプラスミド複製のin vitroにおける誘導
ネズミマクロファージ細胞株であるJ774A1細胞を、実施例2に記載した株SL7207[pAEN17]で感染させた。感染の4時間後、各種の量のL-アラビノースを、4 mM、40 mM、及び400 mMの各々の媒地中の濃度まで感染させたJ774A1細胞の個々のウェルに添加した。L-アラビノースを添加した3時間後、細胞を0.25% Triton X-100で処理した。溶解物中の細菌を実施例2に記載のフローサイトメトリーによってGFP発現を観察した。非特異的なバックグラウンドの蛍光を差し引いて、分析結果を図7に示す。
【0106】
媒地中のL-アラビノースの濃度を増大すると共にGFPの蛍光強度が増大することが認められ、サッカリド誘導性プロモーターの緩やかな誘導が、プラスミドの複製の誘導及び遺伝子のコピー数の上昇によるGFPの合成における増大を生じさせることが示された。
【0107】
細菌ベクターの哺乳動物細胞への導入が本発明に係る細菌ベクター使用して得られ、特異的な誘導因子物質として作用するサッカリドの細胞外の添加によってサッカリド誘導性プロモーターの調節下のレプリカーゼTrfAの合成の誘導が、動物細胞に含有される構造遺伝子の構造性発現カセットを含有するプラスミドの増幅を生じさせることが、これらの測定によって示される。
【0108】
(実施例6)
哺乳動物内における細菌ベクターの溶解のin vitroにおける誘導
サッカリド誘導性プロモーターのための誘導因子であるサッカリドの添加による調節可能な本発明に係る細菌ベクターの溶解を示すために、図8に記載のプラスミドを構築した。このプラスミドは、サッカリド誘導性プロモーターPBADの調節下にバクテリオファージφX174の溶解遺伝子Eを有し、非誘導状態おけるPBADの厳格な調節を示す。図8に示されるプラスミドpHL241を、gfp遺伝子を遺伝子Eに変えて図1に示すpHL238から得た。
【0109】
感染のために、J774A1細胞を培養して、実施例2の手法に従って図8のプラスミドを有するSL7207で感染させた。図9に示す細胞培養媒地中の終濃度までL-アラビノースを添加することによって3時間誘導した。誘導に続いて、細胞を回収し、1 g/Lの濃度までTriton X-100を添加することによって溶解した。再び単離するために、コロニー形成単位(CFU)として生細菌を定量するために、細胞内の細菌ベクターをアンピシリン含有LBアガー上に平板培養した。
【0110】
図9に示す結果は、誘導因子であるサッカリドL-アラビノースの存在が、感染されたJ774A1細胞内の生細菌ベクターの数を強力に低減させることを示す。感染させたJ774A1細胞から再単離できる生細菌の数は、遺伝子E産物の合成によって生じる細菌ベクターの溶解の結果としてL-アラビノースの存在によって低減される。
【0111】
この実施例は、調節された溶解によって侵襲性弱毒化細菌を使用する哺乳動物細胞の感染を終わらせるためのシステムとして自殺遺伝子と組み合わせてサッカリド誘導性プロモーターを含有する、弱毒化侵襲性細菌に基づく本発明に係る細菌ベクターの効果を示す。この感染の調節された終了は、感染細胞のファゴソーム又は細胞質の各々への細菌ベクターの含有物の放出を生じさせる。
【0112】
(実施例7)
感染させた哺乳動物内における細菌ベクターのin vivoにおける誘導可能な溶解
この実施例は、哺乳動物、つまりマウス内における細胞の感染を終わらせる自殺遺伝子を調節するサッカリド誘導性プロモーターを含有する弱毒化侵襲性細菌の利用可能性を示す。バクテリオファージφX174の溶解遺伝子Eを図8のプラスミド上に含有させ、Salmonella株SL7207内に入れた。この細菌ベクターを実施例3に記載のBalb/cマウスに静脈注射した。マウスに感染させた2日後、L-アラビノースを動物ごとに60 mg、8 mg、及び1.6 mgの量で静脈注射した。生理食塩水溶液をバックグラウンドコントロールとして使用した(0)。誘導の4時間後、動物を屠殺し、生細菌ベクターの数を測定するために脾臓を均質化した。実施例6に従って平板培養した後に生細菌ベクターを計数した。
【0113】
図10に示す結果は、本発明に係る弱毒化侵襲性細菌に含有されるサッカリド誘導性プロモーターの活性が、誘導因子物質の全身的な適用によってin vivoで誘導され得ることを示す。誘導因子であるサッカリドの注射は、サッカリド誘導性プロモーターPBADの活性化を生じさせ、遺伝子Eの発現、続いて細菌ベクターの効率的な溶解を生じさせる。更に結果は、サッカリド誘導性プロモーターの活性が誘導因子として作用するサッカリドの各種の濃度によって漸進的な様式で調節され得ることを良く示す。
【0114】
図9及び10は、サッカリド誘導性プロモーターの調節下の毒性遺伝子の調節が、細菌ベクター内において、毒性遺伝子産物をコードする個々のプラスミドの維持を有意に厳密に可能にさせる。
【0115】
(実施例8)
動物の腫瘍内における細菌ベクターからのトランスジーン活性のin vivoにおける誘導
この実施例は、腫瘍組織に関連する、動物内においてトランスジーン活性を誘導する誘導因子であるサッカリドと細菌ベクターとの製薬学的な組み合わせの使用を示す。
【0116】
トランスジーンための代表的な例として、ホタルPhotinus pyralisに由来するルシフェラーゼ遺伝子をレポーター遺伝子として使用した。天然の自己のプロモーター(Pc)の調節下のレギュレータータンパク質araCの構造遺伝子とともに、サッカリド誘導性プロモーター要素としてE. coliのL-アラビノースオペロンに由来するPBADをルシフェラーゼ遺伝子に機能的に結合した。前記細菌ベクターは、Salmonella enterica 血液型亜型Typhimurium, ワクチン株SL7207を、エレクトロポレーションによってサッカリド誘導性プロモーターの調節下にトランスジーンを含有するプラスミドを使用して形質転換することによって産生した。pHL259と称されるこのプラスミドを図11に図示する。
【0117】
腫瘍を有する動物の例として、Balb/cマウスを106細胞の結腸腺癌細胞株CT26を使用して腹腔に皮下接種させた。この腫瘍産生処理の後に、約400-600 mm3の腫瘍を有するマウスに、前記製薬学的な組み合わせの第1の成分である5×106細菌の上記の細菌ベクター(SL7207[pHL259])をリン酸緩衝生理食塩水(PBS)に懸濁させて注射した。感染の3日後、前記製薬学的な組み合わせの第2の成分である適当な誘導因子であるサッカリドとしてL-アラビノースをPBSに溶解して腹腔内に投与した。続いて、マウスを屠殺して、解剖した腫瘍、脾臓及び肝臓を、3 mLの0.1%(v/v) Triton X-100を含有する滅菌氷冷PBSに移した。
【0118】
動物内におけるベクター成分の分布並びに第2の成分の投与によるトランスジーン活性の誘導を測定するために、腫瘍組織、脾臓、及び肝臓を分析した。
【0119】
Polytron PG3000ホモジナイザー(Kinematica, Littau, Switzerland)で組織を破砕した。均質化物をPBSで希釈して、選択用抗生物質(アンピシリン)を含む培地のプレートにストリークした。プレートをインキュベートした後にコロニーを計数した。結果として、各々の組織内の細菌の数が、各器官に関して結果として得られるコロニー形成単位(cfu)をカウントすることによって計数できた。結果を図12Aに示す。
【0120】
トランスジーンの誘導は、2×ルシフェラーゼアッセイリシスバッファー(50 mM Tris-HCl、4mM DTT、20% (v/v)グリセロール、2% (v/v) Triton X-100、2 mg/mL リソザイム, pH 8.3)中に希釈(1:1)、25℃で10分間インキュベート、3000×gで3分間の遠心分離して、10μlの上清を製造業者(Promega, Mannheim, Germany)の指示に従ってルシフェラーゼアッセイシステムの100mL LARII試薬に添加した後に組織の均質化物からのレポーター遺伝子(ルシフェラーゼ)活性の測定によって測定される。発光強度をルミノメーター(Lumat LB9507, Berthold, Pforzheim, Germany)で分光学的に測定した。器官あたりのRLUを計算する際に希釈を考慮に入れた。
【0121】
ルシフェラーゼ活性(RLU)に表わされるトランスジーン活性を図12Bに示し、相対的なトランスジーン活性(すなわち、コロニー形成単位あたりの相対的な発光(RLU/cfu))を図12Cに示す。
【0122】
いかなる動物に関しても、腫瘍において認められた細菌の数は、時間の経過に亘って、脾臓又は肝臓において検出された細菌の数を圧倒的に超えるものであった。ここで、腫瘍組織における集積に関する細菌ベクター成分の選択性が認められた。図12B及び12Cから理解されるように、第2の成分、つまりL-アラビノースの投与が、試験されるいかなる組織に関してもトランスジーン発現を誘導する。ここで試験された組織に関しては、絶対的なトランスジーン活性が、腫瘍組織において最も大きく、誘導因子であるサッカリドの投与後約6時間で主に活性を有した。脾臓及び肝臓におけるトランスジーン活性はほとんどバックグラウンドのレベルまでの非常に低いものであり、誘導因子であるサッカリドの存在があっても有意な活性のレベルを生じなかった。
【0123】
さらに、図12Cに示すような、相対的なトランスジーン活性、つまり試験された組織における細菌数に関して相対的なトランスジーン活性は、腫瘍組織において最も効果的に誘導され、脾臓及び肝臓が、誘導因子であるサッカリドの投与後の試験した期間に非常に低いレベルの相対的なトランスジーン発現を示すことを示す。
【0124】
さらに、この実施例は、トランスジーンの誘導が一過的なものであり、従って誘導因子であるサッカリドの投与によって繰り返され得るものであり、さらにトランスジーンの誘導が誘導因子であるサッカリドの量によって変化されうること、つまりトランスジーン活性化が誘導因子であるサッカリドの濃度依存性であることを示す。
【0125】
(実施例9)
ワクチンとして製薬学的な組み合わせを使用する、哺乳動物内における細菌ベクターからのトランスジーン活性のin vivoにおける誘導
実施例8に記載のように得られる5×108cfuの組換え株SL7207[pHL259]をBalb/cマウスに蛍光接種させた。細菌ベクターを投与した6日後に、マウスを以下の群に分けた:第1群は誘導因子であるサッカリドとして24時間250 mg/mL L-アラビノースを含有する飲料水を摂取させた;第2群は6時間同様にL-アラビノースを含む飲料水を摂取させた; 第3群は腹腔内にPBSに溶解した全体で120 mg L-アラビノースを摂取させた。誘導因子であるサッカリドを投与した6時間後に、マウスを屠殺して、パイエル斑を単離して均質化した。
【0126】
パイエル斑の均質化物から、細菌の数及びトランスジーン活性(ルシフェラーゼ)を実施例8に記載のように測定した。結果を図13A、13B、及び13Cに示した。この結果は、細菌ベクター成分の経口投与、それに続く誘導因子であるサッカリドの経口投与が、免疫誘導部位であるパイエル斑におけるトランスジーン発現を有意に誘導することを示す。
【0127】
(実施例10)
動物内における腫瘍組織への核酸及び/又はタンパク質の送達のための製薬組成物の使用
動物内において活性化されて細菌ベクターの溶解を開始し得るトランスジーンを含有する細菌ベクターの例として、Bao et al.(Gene 109, 167-168 (1991))に本質的に従って細菌染色体へのTn7 ミニトランスポゾン媒介部位特異的組込みにより、PBADプロモーターの調節下にバクテリオファージphiX174の遺伝子Eを含有するプラスミドHL260aの一部を組み込むことによって株SL7207を遺伝子操作した。
【0128】
動物に関する例として、実施例8に記載のようにCT26腫瘍を皮下に移植されたマウスを使用した。本発明に係る製薬学的な組み合わせの第1の成分として、Tn7を介して染色体に組み込まれたトランスジーン(遺伝子E)のコピーを含む組換え株SL7207::HL260aを、静脈注射によって投与した(PBS中に5×106細菌)。細菌ベクターを投与した3日後に、第2の成分であるPBSに溶解した120 mgのL-アラビノースを腹腔注射によって投与し、続いて12時間後に同一のもので2回目の注射をした。誘導因子であるサッカリドを2回目に投与した6時間後に、マウスを屠殺し、それらの腫瘍組織、脾臓、及び肝臓を実施例8に記載のように単離し、均質化して、均質化したものからの細菌の数を測定した。結果を図15に示す。この結果は、腫瘍組織、脾臓、及び肝臓の各々に関する見せ掛けの誘導因子、つまりPBSを受けた動物(黒柱)、及び誘導因子であるサッカリドの投与を受けた動物(白柱)の細菌数を示す。これらの結果は、誘導因子であるサッカリドの投与が、少なくとも脾臓及び肝臓との関係では、特に細菌ベクターが主に局在し、及び/又は数において増大している腫瘍組織において、細菌ベクターの溶解を引き起こすことを示す。
【0129】
この実施例は、製薬学的な組み合わせの第2の成分の投与によって調節して、トランスジーンとしての溶解遺伝子が細菌ベクターの含有物を解放するために、例えば核酸、タンパク質を動物内の組織に送達するために使用し得ることを示す。さらに、トランスジーンとしての溶解遺伝子は、最も数の多い組織、例えば腫瘍組織であっても細菌ベクターの濃度を強力に低減するために使用され得る。これに関連して、誘導因子であるサッカリドの繰り返しの投与による細菌ベクターの繰り返しの溶解は、細菌ベクターの全てを溶解することを避ける(すなわち、組織、主に腫瘍組織に再増殖するためのある程度の細菌ベクターを残す)ように誘導因子であるサッカリドの濃度を調節され得るものとして実現可能である。
【0130】
(実施例11)
トランスジーン活性を促進するための細菌ベクター成分の遺伝子操作
実施例10で得られた細菌ベクターを、第1の代替物において、lacY遺伝子の変異体を含むミニトランスポゾンのT7媒介染色体組込みをによって改変し、第2の代替物において、部位特異的組込み突然変異生成によってaraオペロンを不活性化することによって改変した。
【0131】
実施例10に従って、マウスにおいて腫瘍を治療するために代替的に操作したベクターを使用した際は、双方のベクター代替物は、誘導因子であるサッカリドの投与後に残存するベクター数の低減を促進(すなわち、トランスジーン活性誘導における効率の増大)すると共に腫瘍組織の同様の集落形成を示す。
【0132】
(実施例12)
動物の腫瘍に集落形成する効率に関連する細菌ベクター成分を産生するための各種の細菌の比較
本発明に係る製薬組成物における使用のための細菌ベクター成分を産生するための細菌の適性を評価するために、E. coli S1実験室株Top10 (Invitrogen, Karlsruhe, Germany), Salmonella enterica血液型亜型Typhimurium SL7207 (SL7207, Hoiseth et al., Nature 291 238-239 (1981))、並びにSalmonella enterica Salmoporc株及びSuisaloral株 (IDT, RoBlau, Germany)を、エレクトロポレーションによって、レポーター遺伝子としてルシフェラーゼをコードするプラスミドpHL259を使用して形質転換した。
【0133】
実施例8に記載のCT26腫瘍を有するマウスにPBS中の細菌ベクター(5×106細菌)を皮下注射によって投与した。3日後、誘導因子であるサッカリド(PBS中の120 mg L-アラビノース)を腹腔注射によって投与した。6時間後、実施例8に従って、マウスを屠殺して、腫瘍組織、脾臓、及び肝臓を回収し、均質化後の細菌ベクターの含有物及びトランスジーンの活性に関して分析した。
【0134】
組織に集落形成(cfu)すること及びトランスジーン活性(RLU)の各々における効率に関する、同一の条件であるが、異なる細菌ベクター関して得られた結果を図16A及びBに示す。前記結果は、異なる細菌株が、本発明に係る製薬学的な組み合わせの細菌ベクター成分を産生するために使用することが可能であり、脾臓及び肝臓に対して腫瘍組織の集落形成(cfu)の効率における変化、並びに脾臓及び肝臓に対して腫瘍組織におけるトランスジーン活性(RLU)の異なる効率を生じさせる。
【0135】
全ての細菌ベクターが主に腫瘍組織で集落形成するが、効率は異なることが認められた。誘導因子であるサッカリドの投与は、主に腫瘍組織に限ってトランスジーン活性を引き起こした。しかしながら、腫瘍組織での集落形成の効率は、全てのベクターに関するトランスジーン活性とは相関しなかった。
【0136】
試験される動物の一般的な健康状態を観察する際に、E. coli Top10に基づく細菌ベクターが最小の目立った機能障害を引き起こした。
【0137】
したがって、本発明は、腫瘍組織に主に集まる細菌ベクターを選択する製薬学的な組み合わせの成分における使用のためのベクターの選択を提供し、トランスジーン活性が、とりわけベクターの細菌に依存して、誘導因子であるサッカリドの投与によって調節されることが可能である。
【0138】
さらに、この実施例は、各種の組織の集落形成の効率を評価するための細菌ベクター成分、及び誘導因子であるサッカリド成分の後に続く投与によるトランスジーン活性の誘導を評価するためのレポーター遺伝子を摂取した動物の組織サンプルからの細菌の再単離を使用して、本発明の細菌ベクター成分を産生するために適する細菌を同定するためのアッセイを提供する。
【0139】
(実施例13)
各種のサッカリド誘導性プロモーターの調節下の各々におけるトランスジーンの組み合わせを含む細菌ベクター
本発明に係る製薬学的な組み合わせにおいて使用するための多機能細菌ベクターの例として、ワクチン株SL7207は、プラスミドpJOE2702(Stumpp et al., Biospektrum 6, 33-36(2000))に由来するL-ラムノース誘導性プロモーター(Prha)によってPBADプロモーターを置き換えたpHL260aより改変された、プラスミドpHL260bのミニトランスポゾンのTn7媒介染色体組込みによって遺伝子操作された。この株は、ラムノース誘導性プロモーター(Prha)の調節下に少なくとも1コピーのバクテリオファージ phiX174の遺伝子Eを染色体に含有する。結果として得られた株を、次いでβ-ラクタマーゼからの構造プロモーター(Pbla)の調節下のマウスTNFα遺伝子とともに、PBADプロモーターの調節下にPhotorhabdus luminescenceの生物発光オペロンを含有するプラスミドpTNFa-luxで形質転換した。結果として得られた細菌ベクターを図17に図示する。
【0140】
実施例8に記載のように、CT26腫瘍を有するBalb/cマウスに、PBSに懸濁した5×106の細菌ベクターを静脈投与によって投与した。この投与の3日後に、PBSに溶解した誘導因子であるサッカリド、つまり120 mg L-ラムノースを腹腔に投与した。結果として、細菌ベクターの溶解及びTNFαの放出が観察された。PBSに溶解した120 mgのL-アラビノースを1日後、並びに連日同じマウスに腹腔内投与して、細菌ベクターによる腫瘍組織の集落形成を分光学的に、より具体的にはCCDカメラを使用する麻酔したマウスの発光分析によって観察した。
【0141】
誘導因子であるサッカリドL-ラムノース及びそれに続くL-アラビノースの繰り返しの投与が、生物発光(RLU)とともに細菌の溶解及びTNFαの放出を生じさせることが示されるであろう。さらに、腫瘍の部位及びサイズの観察が、ここではPhotorhabdus luminescenceの生物発光オペロンによって例示されるトランスジーン産物を観察する発光分析によって示され、ここではTNFαで例示されている治療に役立つトランスジーンを誘導する誘導因子であるサッカリドの投与の効果の観察を可能にするであろう。
【0142】
この実施例は、各種のトランスジーン活性が、ここでは腫瘍組織が例示されている細菌ベクターの局在部位で独立に繰り返して誘導され得ることを示す。
【図面の簡単な説明】
【0143】
【図1】図1は、GFPがPBADに作動可能に結合した発現プラスミドpHL238を図示する。
【図2】図2は、誘導及び非誘導条件で図1に記載のプラスミドを有するSalmonella enterica 血液型亜型typhiimurium SL7207のフローサイトメトリー分析の結果を示す。
【図3】図3は、L-アラビノースの濃度を変化させて誘導した後の、感染させたマクロファージ細胞J774A1から再単離された、図1に記載のプラスミドを有するSalmonella enterica 血液型亜型typhiimurium SL7207のフローサイトメトリー分析の結果を示す。
【図4】図4は、L-アラビノースの量を変化させて誘導した後の、感染させたマウスの脾臓から再単離された、図1に記載のプラスミドを有するSalmonella enterica 血液型亜型Typhiimurium SL7207株のフローサイトメトリー分析の結果を示す。
【図5】図5は、GFPの構造発現カセットを有し、RK2の誘導可能なレプリコンを含有するシングルコピープラスミドpAEN17を示す。
【図6】図6は、誘導及び非誘導条件で図5に記載のプラスミドを有するSalmonella enterica 血液型亜型Typhiimurium SL7207株細胞のフローサイトメトリー分析の結果を示す。
【図7】図7は、L-アラビノースの濃度を変化させて誘導した後の、感染させたマクロファージ細胞J774A1から再単離された、図5に記載のプラスミドを有するSalmonella enterica 血液型亜型Typhiimurium SL7207株のフローサイトメトリー分析の結果を示す。
【図8】図8は、PBADの調節下にバクテリオファージφX174の遺伝子Eを有するプラスミドを示す。
【図9】図9は、各種の量のL-アラビノースで誘導した後の、図8に記載のプラスミドを有するSalmonella enterica 血液型亜型Typhiimurium SL7207株を感染させた培養したマクロファージ細胞J774A1から再単離された細菌ベクター細胞の数を示す。
【図10】図10は、各種の量のL-アラビノースで投与した後の、図8に記載のプラスミドを有するSalmonella enterica 血液型亜型Typhiimurium SL7207株を感染させたマウスの脾臓から再単離した生細菌ベクターの数を示す。
【図11】図11は、トランスジーンとしてルシフェラーゼ遺伝子(luc)を有するプラスミドを示す。
【図12】図12Aは、図11に記載のプラスミドを含む細菌ベクターを含有する動物に対する誘導因子であるサッカリドの投与後の、時間(h)で示される組織から再単離されたコロニー形成単位(cfu)を示す。図12Bは、図12Aのように細菌ベクターで処理してから、それに続いて誘導因子であるサッカリドで処理した動物から得られた各種の組織の均質化したものにおけるレポーター遺伝子のトランスジーン活性(相対的発光単位、RLU)を示す。図12Cは、図12Aのように細菌ベクターで処理してから、それに続いて誘導因子であるサッカリドで処理した動物から得られた各種の組織の均質化したものにおけるレポーター遺伝子の細菌ベクターあたりのトランスジーン活性(RLU/cfu)を示す。
【図13】図13A、B、及びCは、経口投与による図12Aの細菌ベクターで処理してから、それに続いて飲料水として溶液において投与される誘導因子であるサッカリドで処理した動物から得られたパイエル斑のcfu、RLU、及び相対的RLU(RLU/cfu)の各々を示す。
【図14】図14は、細菌ベクターのゲノムにTn-7媒介染色体組込みするためのトランスジーンとして溶解遺伝子を含むプラスミドを示す。
【図15】図15は、図14に記載の溶解遺伝子を有するベクターを投与してから、それに続いて誘導因子であるサッカリドを投与した動物から得られた図に表示されている組織の均質化したものに関して測定されたcfuを示す。
【図16】図16A及びBは、図11に記載のプラスミドを各々有する各種の細菌に基づく細菌ベクターを投与した後に、誘導因子であるサッカリドを投与した動物の図に表示されている組織において測定されたcfu及びトランスジーン活性(RLU)の各々を示す。
【図17】図17は、本発明に係る製薬学的な組み合わせの第1の成分を形成する、細菌ベクターを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の成分として、遺伝子操作されてサッカリド誘導性プロモーターの調節下にトランスジーンを含有する細菌ベクター、及び
第2の成分として、サッカリド誘導性プロモーターの誘導のための誘導因子であるサッカリドを含む、医学的な用途のために体外組織若しくは器官、又は動物に、同時又は連続投与するための製剤の組み合わせを生産するための成分の使用。
【請求項2】
前記ベクターが、動物細胞に対して侵襲性である弱毒化侵襲性細菌及び動物細胞又は動物の共生細菌を含む群より選択される細菌に基づくことを特徴とする、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
前記サッカリド誘導性プロモーター及び誘導因子であるサッカリドが、アラビノースプロモーター及びL-アラビノース、ラムノースプロモーター及びラムノース、並びにキシルロースプロモーター及びキシルロースの組み合わせから選択されることを特徴とする、請求項1又は2に記載の使用。
【請求項4】
前記サッカリド誘導性プロモーターが、細菌のL-アラビノースオペロンの調節モジュールであることを特徴とする、請求項1から3のいずれか一項に記載の使用。
【請求項5】
前記細菌のL-アラビノースオペロンが、E. coliに由来することを特徴とする、請求項4に記載の使用。
【請求項6】
前記トランスジーンが、構造タンパク質又は反応性RNA種をコードすることを特徴とする、請求項1から5のいずれか一項に記載の使用。
【請求項7】
前記トランスジーンが、生物学的又は製薬学的に活性なエフェクター分子の合成のための合成経路の酵素をコードすることを特徴とする、請求項1から6のいずれか一項に記載の使用。
【請求項8】
前記トランスジーンが、プロドラッグの薬剤への変換を触媒するペプチドをコードすることを特徴とする、請求項1から7のいずれか一項に記載の使用。
【請求項9】
前記トランスジーンが、自殺遺伝子の産物をコードすることを特徴とする、請求項1から6のいずれか一項に記載の使用。
【請求項10】
前記自殺遺伝子が、細菌毒性遺伝子及び溶菌性遺伝子の群から選択されることを特徴とする、請求項9に記載の使用。
【請求項11】
前記細菌ベクターが、遺伝子操作されて誘導因子であるサッカリドのトランスポーターシステムの異種起源のもの又は誘導因子であるサッカリドのトランスポーターシステムの変異体を発現することを特徴とする、請求項1から10のいずれか一項に記載の使用。
【請求項12】
前記細菌ベクターが、遺伝子操作されて固有の誘導因子であるサッカリドのトランスポーターシステムを高レベルで発現することを特徴とする、請求項1から11のいずれかに記載の使用。
【請求項13】
前記細菌ベクターが、誘導因子であるサッカリドの代謝経路の不活性化によって遺伝子操作されていることを特徴とする、請求項1から12のいずれか一項に記載の使用。
【請求項14】
前記細菌ベクターが、遺伝子操作されて異種起源の分泌システムを含有することを特徴とする、請求項1から13のいずれか一項に記載の使用。
【請求項15】
前記トランスジーンが、分泌システムのシグナル配列をコードすることを特徴とする、請求項1から14のいずれか一項に記載の使用。
【請求項16】
ワクチンを生産するための、請求項1から15のいずれか一項に記載の使用。
【請求項17】
前記医学的な用途が腫瘍の治療である、請求項1から16のいずれか一項に記載の使用。
【請求項18】
前記医学的な用途が機能性食品又はプロバイオティクスである、請求項1から16のいずれか一項に記載の使用。
【請求項19】
前記トランスジーンが、免疫調節化合物若しくは毒性化合物の生産のための合成経路の酵素をコードする配列、又は抗体、異種起源のペプチド、若しくは自己抗原をコードする配列から選択されるコード配列を含む、請求項1から18のいずれか一項に記載の使用。
【請求項20】
前記トランスジーンが観察するためのトランスジーンであり、前記医学的な用途が分光分析又は発光分析によって腫瘍組織を観察することである、請求項1から19のいずれか一項に記載の使用。
【請求項21】
第1の成分として、遺伝子操作されてサッカリド誘導性プロモーターの調節下にトランスジーンを含有する細菌ベクター、及び
第2の成分として、サッカリド誘導性プロモーターの誘導のための誘導因子であるサッカリドを含む、殺虫剤又は駆虫剤としての製剤の組み合わせの使用。
【請求項22】
前記誘導因子であるサッカリドがサッカリドのアナログ又はサッカリドの誘導体である、請求項1から21のいずれか一項に記載の使用。
【請求項23】
請求項1から22のいずれか一項に記載の使用における、誘導因子であるサッカリドとしてのサッカリドの使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公表番号】特表2008−519002(P2008−519002A)
【公表日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−539556(P2007−539556)
【出願日】平成17年9月2日(2005.9.2)
【国際出願番号】PCT/EP2005/054343
【国際公開番号】WO2006/048344
【国際公開日】平成18年5月11日(2006.5.11)
【出願人】(507146049)ヘルモツ−ツェントラム・フューア・インフェクティオンスフォーシュング・ゲーエムベーハー (1)
【Fターム(参考)】