説明

組換えワクチンおよびその使用

本発明は、抗原の融合分子、それをコードする核酸、ならびにそのような融合分子および核酸の使用に関する。特に本発明は、抗原ならびにMHC分子の膜貫通領域および細胞質領域および/またはMHCもしくはSNARE分子の細胞質領域を含む融合分子に関する。


【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
本発明は、抗原の融合分子、それをコードする核酸、ならびにそのような融合分子および核酸の使用に関する。特に本発明は、抗原、ならびにMHC分子の膜貫通領域および細胞質領域、またはMHC分子もしくはSNARE分子の細胞質領域を含む融合分子に関する。
【0002】
本発明の融合分子を、哺乳動物における免疫応答の誘導方法を含む多数の適用のために使用することができる。
【0003】
外来抗原が同定され、それに対する応答が誘導される免疫系のメカニズムの一部として、抗原特異的T細胞反応は、主要組織適合遺伝子複合体(MHC)の糖タンパク質の結合溝に結合した抗原ペプチドによって誘起される。結合した抗原ペプチドは、T細胞受容体と相互作用し、免疫応答を調節する。抗原ペプチドは、MHCタンパク質の結合溝の多形性残基によって形成される特定の「結合ポケット」に非共有結合する。
【0004】
MHCクラスII分子は、αおよびβ鎖からなるヘテロダイマーの糖タンパク質である。この分子のα1およびβ1ドメインは、一緒に折りたたまれペプチド結合溝を形成する。抗原ペプチドは、ペプチド上のアンカーアミノ酸とα1およびβ1ドメインとの間の相互作用を介してMHC分子に結合する。インフルエンザウイルスペプチドとのヒトクラスII HLA DR1複合体の結晶構造により、結合したペプチドのNおよびC末端が結合溝から外へ伸長し、ペプチドのC末端がβ鎖のN末端付近に位置することが示されている(Brown, J.H. et al., 1993, Nature 364:33-39; Stern, L.J. et al., 1994, Nature 368:215-221)。MHCクラスI分子は、MHCクラスII分子とは異なるドメイン構成を有しているが、膜ドメインから離れたペプチド結合部位または溝を有するおおむね類似した構造を有している(例えば、Rudensky, A.Y. et al., 1991, Nature 353:622-627参照)。
【0005】
外来タンパク質抗原の提示における最初の段階は、未変性抗原の抗原提示細胞(APC)への結合である。APCへの結合後、食作用、受容体媒介エンドサイトーシスまたはピノサイトーシスのいずれかによって、抗原は細胞中に侵入する。このインターナライズされた抗原は、エンドソームと称する細胞内膜結合小胞中に位置する。エンドソーム−リソソーム融合の後、抗原は、リソソーム中に存在する細胞性プロテアーゼによって小ペプチドにプロセシングされる。ペプチドは、このリソソーム内のMHCクラスII分子のαおよびβ鎖と会合する。粗面小胞体中で事前に合成されていたこのMHCクラスII分子は、ゴルジ複合体、次いでリソソームコンパートメントに順次輸送される。ペプチド−MHC複合体は、TおよびB細胞の活性化のためにAPCの表面上に提示される。従って、抗原中のタンパク質分解性プロセシング部位の接近可能性、生じたペプチドのリソソームにおける安定性、およびペプチドのMHC分子に対する親和性が、特異的エピトープの免疫原性の決定要因である。
【0006】
組換えワクチンは、感染症およびガンの予防および治療のための薬剤および薬物として、ヒトの医学および獣医学において特に重要である。組換えワクチンを用いたワクチン接種のねらいは、所定の抗原に対する特異的免疫応答を誘導することにあり、この応答は所定の疾患に対する予防または治療活性を有する。
【0007】
組換えワクチンの効力にとって重要な要因は、免疫された生物のTリンパ球の至適な刺激である。いくつかの動物実験研究によって、CD8+およびCD4+リンパ球両方の至適な刺激が、腫瘍の有効な免疫療法に必要であることが実証されている。既知の主なタイプの組換えワクチンは、組換えタンパク質、合成ペプチドフラグメント、組換えウイルス、およびDNAまたはRNAに基づく核酸ワクチンに基づいている。近年、DNAおよびRNA核酸に基づくワクチンがますます重要になっている。しかし、非常に多くの目標、とりわけ腫瘍抗原について、核酸に基づく組換えワクチンを用いると、CD4+リンパ球の刺激は非常にわずかにしか、または全く達成することができない。この理由のために、組換えワクチンの免疫原性の増加を意図して、いくつかの遺伝子改変が開発されている。今日までにこの関連で種々の方法、とりわけ一次配列の変更または外来エピトープ(例えば、細菌もしくはウイルス由来)への融合による免疫原の異物化(Lowenadler, B. et al., 1990, Eur. J. Immunol. 20: 1541-45; Clarke, B.E. et al., 1987, Nature 330: 381-84)および実際の抗原と免疫調節タンパク質(例えば、サイトカイン)とからなるキメラ産物の調製(Ruckert, R. et al., 1998, Eur. J. Immunol. 28: 3312-20; Harvill, E. T., J. M. Fleming, およびS. L. Morrison, 1996, J. Immunol. 157: 3165-70)が試みられている。異物化に基づくワクチンは免疫応答の増強を誘導するが、これには、外来エピトープに対する免疫刺激が優勢となり、いくつかの場合では実際のワクチン標的に対する免疫応答が中程度のみにとどまるという大きな不利益がある。
【0008】
さらに興味深い可能性は、分解される細胞コンパートメント中へのタンパク質の移行を可能にすることを意図したタンパク質配列への融合である。しかし、現在では、この改変によっては、CD4+リンパ球の刺激において中程度の改善しか導かれず、CD8+免疫応答の増強はほとんど導かれないことが知られている(Wu, T.C. et al., 1995, Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 92: 11671-11675; Bonini, C. et al., 2001, J. Immunol. 166: 5250-57, Su, Z. et al., 2002, Cancer Res. 62: 5041-5048)。
【0009】
抗原提示および特定の抗原に関する免疫原性を明確に増加させるワクチンが利用可能となることが所望される。外来エピトープを導入する必要なしにCD4+およびCD8+リンパ球による最大の免疫応答が生じるようにワクチンを体系的に改変できることがさらに所望される。
【0010】
この目的は、本発明に従って請求の範囲の記載事項により達成される。
【0011】
抗原分子および組織適合抗原の部分を含む融合分子が、ワクチンとして使用した場合に、非改変抗原に比較して100倍以上増加した免疫原性を示すこと、および、驚くべきことに、以前には記載されなかった様式でCD4+およびCD8+ Tリンパ球の免疫応答の両方が増加することが本発明により確立できた。
【0012】
本発明は一般に、抗原分子の融合分子およびそのような融合分子の使用に関する。
【0013】
1つの局面において、本発明は、抗原およびMHC分子の鎖の細胞質領域、または抗原、膜貫通領域およびMHC分子の鎖の細胞質領域を含む融合分子に関する。膜貫通領域および細胞質領域の両方がMHC分子に由来することが好ましい。さらに、融合分子は好ましくはMHC結合ドメインを含まない。
【0014】
本発明はさらに、抗原およびMHC分子の鎖またはその部分を含む融合分子であって、部分がMHC分子の鎖の膜貫通領域および細胞質領域を少なくとも含む融合分子に関する。MHC分子の鎖の部分は好ましくはMHC結合ドメインまたはその部分を含まない。特に、抗原およびMHC分子の鎖の部分を含む融合分子であって、部分が本質的にMHC分子の細胞質領域に連結された膜貫通領域の配列に対応する融合分子が提供される。ここで、表現「細胞質領域に連結された膜貫通領域」は、膜貫通領域のN末端で開始し、細胞質領域のC末端、特にMHC分子の完全な鎖のC末端で終結するMHC分子の鎖のセグメントに関する。この実施態様において、膜貫通領域の細胞質領域への連結は、これらの領域間の天然に生じる連結に対応する。
【0015】
本発明はさらに、抗原およびMHC分子の鎖またはその部分を含む融合分子であって、部分が本質的にMHC分子の完全なN末端細胞外ドメインを欠いている融合分子を提供する。
【0016】
特に好ましい実施態様において、本発明の融合分子は、抗原(適切な場合、そのN末端にリーダー配列を有する)の膜貫通領域(好ましくは、MHC分子の鎖の膜貫通領域)への抗原のC末端での、そしてMHC分子の鎖の細胞質領域の膜貫通領域のC末端での融合からなる。
【0017】
特に好ましい実施態様において、本発明の融合分子は、リーダー配列、好ましくは特に膜を通ってのタンパク質またはペプチドの移行を制御可能な分泌シグナルの性質を有するペプチド配列を含む。いずれかのタイプI膜貫通タンパク質の分泌シグナルをリーダー配列として使用することができる。ここで表現「タイプI膜貫通タンパク質」は、そのC末端が細胞質中に位置する膜貫通タンパク質に関する。特定の実施態様において、リーダー配列はMHC分子の鎖に由来する。リーダー配列は好ましくは、本発明の融合分子のN末端に位置する。
【0018】
さらなる局面において、本発明は、本質的にMHC分子の完全なN末端細胞外ドメインが、そのN末端にリーダー配列を有する抗原によって置き換えられた融合分子に関する。
【0019】
本発明の融合分子において、抗原がそのN末端でリーダー配列のC末端に共有結合で連結しており、抗原分子のC末端が膜貫通領域のN末端に連結しており、膜貫通領域がそのC末端でMHC分子の細胞質領域のN末端に連結していることが好ましい。
【0020】
従って、本発明の融合分子は好ましくは以下の配置を有する:N末端 リーダー配列/抗原/膜貫通領域/細胞質領域 C末端。
【0021】
特に好ましい実施態様において、本発明の融合分子は本質的にリーダー配列、抗原、膜貫通領域および細胞質領域からなる。
【0022】
特に好ましい実施態様において、抗原はペプチド、ポリペプチドまたはタンパク質であり、本発明の融合分子はタンパク質またはポリペプチドである。
【0023】
1つの実施態様において、複数の抗原(同一であってもよくまたは異なっていてもよい)、すなわち、少なくとも2個、好ましくは2〜10個、より好ましくは2〜5個、さらにより好ましくは2〜3個、特に2個の抗原が本発明の融合分子中に存在する。この多重結合抗原は互いに分離して、または順次連続して(適切な場合、リンカーによって分離されて)直列構築物として存在してもよい。投与に際して種々の抗原に対する免疫応答がそれによって誘導されることが好ましい。
【0024】
抗原は完全であってもよく短縮型(すなわち、抗原として作用する天然タンパク質またはポリペプチドの一部のみを含む)であってもよい。
【0025】
本発明の融合分子のリーダー配列および/または膜貫通領域は好ましくは、MHC分子(特に、クラスIまたはIIの)に由来する。本発明の融合分子のリーダー配列および/または膜貫通領域および/または細胞質領域がMHC分子(特に、クラスIまたはIIの)に由来することがさらに好ましい。
【0026】
本発明によれば、1つ以上の、好ましくは可撓性のリンカー配列(連結配列)が、融合分子中に、リーダー配列と抗原との間、抗原と膜貫通領域との間および/または膜貫通領域と細胞質領域との間に位置して存在することも可能である。本発明によれば、リンカー配列が、約7〜20個のアミノ酸、より好ましくは約8〜16個のアミノ酸、そして特に約8〜12個のアミノ酸を含むことが好ましい。
【0027】
本発明の融合分子におけるリンカー配列は好ましくは可撓性であり、従ってそれに連結されたペプチドを単一の所望されないコンホメーションにとどめない。可撓性を可能にするために、リンカーは好ましくは、特に、小さな側鎖を有するアミノ酸(例えば、グリシン、アラニンおよびセリン)を含む。リンカー配列は好ましくは、可撓性を阻害し得るプロリン残基を含まない。
【0028】
さらなる実施態様において、リーダー配列、抗原、膜貫通領域および/または細胞質領域は、リンカーなしで直接一緒に連結される。
【0029】
リーダー配列は好ましくは、配列番号2に示す配列もしくはそれに由来する配列を有するか、または配列番号1に示す配列もしくはそれに由来する配列によってコードされる。膜貫通−細胞質領域は好ましくは、配列番号4もしくは6に示す配列またはそれに由来する配列を有するか、あるいは配列番号3もしくは5に示す配列またはそれに由来する配列によってコードされる。
【0030】
さらに好ましい実施態様において、膜貫通−細胞質領域または細胞質領域のみは、配列関連MHC分子(とりわけ、HLA−A、HLA−B、HLA−C、HLA−E、HLA−F、HLA−DRa、HLA−DRb、HLA−DQa、HLA−DQb、HLA−DPa、HLA−DPb、CD1a、CD1b、CD1c)に由来する。好ましい膜貫通−細胞質領域は、配列番号15、17、19、21、23、25、27、29、31、33、35、37、39、41に示す配列およびそれに由来する配列からなる群より選択される配列を有する。さらなる実施態様において、細胞質領域のみは、配列番号16、18、20、22、24、26、28、30、32、34、36、38、40、42に示す配列およびそれに由来する配列からなる群より選択される配列を有する。さらなる実施態様によって、変形された配列、例えば、異なる生物由来の改変された配列またはオルソロガスな配列の使用も提供される。これに関連して特に好ましい配列は、配列番号16、18、20、22、24、26、28、30、32、34、36、38、40、42に示す配列と60%より高い相同性をC末端に有するものである。
【0031】
特に好ましい実施態様において、本発明の融合分子は、配列番号12もしくは14に示すアミノ酸配列、またはそれに由来する配列を含む。
【0032】
本発明はさらに、抗原およびSNAREタンパク質(特に、シス−ゴルジ SNARE p28、VTI1b、メンブリン(Membrin)、パリジン(Pallidin)、シンタキシン−5、シンタキシン−6、シンタキシン−7、シンタキシン8、シンタキシン−10、シンタキシン−10a、シンタキシン−11、シンタキシン−12、シンタキシン−17、VAMP−2、VAMP−3、VAMP−4、VAMP7、VAMP8、VTI1−a−β、XP350893、LIP5(配列番号43〜63))または1つ以上のSNAREモチーフを含む配列を含む融合分子に関する。所定のコンパートメント(例えば、リソソームおよびエンドソーム)への抗原の標的化輸送が、SNAREタンパク質またはSNARモチーフに、好ましくはSNAREタンパク質またはモチーフのC末端で、抗原を融合することによって可能である。さらに、抗原の免疫原性エピトープをコンパートメントにおいて生じさせ提示させることがそのような標的化輸送を用いて可能であり、これは実験的に確立することができる。
【0033】
SNAREタンパク質は、その共通の特徴が、60〜70個のアミノ酸を含むSNAREモチーフである膜結合タンパク質である。SNAREタンパク質は、細胞における小胞体の輸送および融合に機能的に関与している。真核生物は、多数の異なるSNAREタンパク質を有しており、それらは細胞中の異なる小胞体膜(とりわけ、エンドソーム膜、リソソーム膜、ゴルジ膜、原形質膜)と結合している。SNAREタンパク質の細胞質領域は二重の機能を有している。第1に、それはタンパク質および結合した膜の行き先を特定する輸送シグナル(アドレスラベル)として作用する。第2に、そのドメインは、ヘテロおよびホモ結合(つなぎ合わせ)を介して、異なる小胞体の融合に寄与し得る(例えば、エンドソームとリソソーム)。
【0034】
本発明によれば、SNARE−抗原融合分子に、SNARE部分と抗原部分との間でリンカー配列を含めることも可能である。SNARE−抗原融合分子の抗原およびリンカー配列に関して、上記実施態様の全てがまた含まれる。SNARE抗原融合分子に関して、リンカーは好ましくは80〜120個のアミノ酸を含む。特定の実施態様において、リンカーは膜貫通領域を含む。従って、本発明は、抗原、または膜貫通領域および抗原に融合されたSNAREタンパク質またはSNAREモチーフを含む融合分子に関する。そのような融合分子は、例えば図7に示される。
【0035】
さらなる局面において、本発明は、上記の融合分子をコードし、好ましくはこの融合分子を発現可能な核酸およびその誘導体に関する。以下、本明細書において、用語「核酸」はその誘導体も含む。
【0036】
特に好ましい実施態様において、本発明の融合分子をコードする核酸は、配列番号11もしくは13に示す核酸配列、またはそれに由来する配列を含む。
【0037】
本発明はまた、本発明の核酸を含む宿主細胞に関する。
【0038】
さらに宿主細胞はHLA分子をコードする核酸を含んでもよい。1つの実施態様において、宿主細胞はHLA分子を内在性に発現する。さらなる実施態様において、宿主細胞はHLA分子を組換え発現する。宿主細胞は好ましくは非増殖性である。好ましい実施態様において、宿主細胞は、抗原提示細胞、特に樹状細胞、単球またはマクロファージである。
【0039】
さらなる局面において、本発明は、本発明の融合分子の1つ以上および/またはそれをコードする核酸の1つ以上および/または本発明の宿主細胞の1つ以上を含む医薬組成物、特にワクチンに関する。
【0040】
さらなる局面において、本発明は、本発明の融合分子またはそれをコードする核酸を細胞に与える工程を包含する、細胞におけるMHC/ペプチド複合体の量を増加させる方法を提供する。細胞は好ましくは生体中に存在し、方法は本発明の融合分子またはそれをコードする核酸を生体に投与する工程を包含する。好ましい実施態様において、細胞は、抗原提示細胞、特に樹状細胞、単球またはマクロファージである。
【0041】
さらなる局面において、本発明は、抗原を提示する能力を有する細胞(例えば、B細胞およびマクロファージ、一般に「APC」と称する)上の細胞表面分子の提示を増加させる方法を提供する。そのような細胞の抗原提示活性は、本発明の融合分子またはそれをコードする核酸を細胞に与えることによって増強される。この抗原提示活性の増強は好ましくは、抗原に応答するT細胞、特にCD4+およびCD8+リンパ球の一次活性化を増強する。細胞は好ましくは生体中に存在し、方法は本発明の融合分子またはそれをコードする核酸を生体に投与する工程を包含する。
【0042】
さらなる局面において、本発明は、本発明の融合分子および/またはそれをコードする核酸および/または本発明の宿主細胞を生体に投与する工程を包含する、生体における免疫応答を誘導する方法を提供する。
【0043】
さらなる局面において、本発明は、本発明の融合分子および/またはそれをコードする核酸および/または本発明の宿主細胞をT細胞に与えるかまたは生体に投与する工程を包含する、インビトロにおけるかまたは生体における、特に患者における、T細胞、特にCD4+およびCD8+リンパ球を刺激または活性化する方法を提供する。この刺激または活性化は好ましくは、拡大、細胞傷害反応性および/またはT細胞によるサイトカイン放出で発現される。
【0044】
さらなる局面は、本発明の融合分子および/またはそれをコードする核酸および/または本発明の宿主細胞を生体に投与する工程を包含する、生体の処置、ワクチン接種または免疫化の方法を提供する。この関連で、本発明の融合分子またはそれをコードする核酸において用いる抗原は、特に、意図される処置、ワクチン接種または免疫化のために本発明による変更なしで有効であることが知られているものである。
【0045】
上記の方法は、例えば細菌またはウイルスによって引き起こされる感染症の処置または予防に特に適切である。特定の実施態様において、本発明に従って使用される抗原は、感染性因子(例えば、A、B、C型肝炎、HIV、ミコバクテリア、マラリア病原体、SARS病原体、ヘルペスウイルス、インフルエンザウイルス、ポリオウイルス)または細菌性病原体(例えば、クラミジアおよびミコバクテリア)に由来する。本発明の特に有益な適用はガン免疫療法またはワクチン接種にある。ここで、特に腫瘍抗原反応性T細胞の活性化が増強され、腫瘍細胞に対するT細胞免疫療法またはワクチン接種の予後が改善される。
【0046】
特定の実施態様において、本発明に従って使用される抗原は、以下の抗原からなる群より選択される:p53(好ましくは配列番号66に示す配列によってコードされる)、ART−4、BAGE、ss−カテニン/m、Bcr−abL CAMEL、CAP−1、CASP−8、CDC27/m、CDK4/m、CEA、クローディン−12、c−MYC、CT、Cyp−B、DAM、ELF2M、ETV6−AML1、G250、GAGE、GnT−V、Gap100、HAGE、HER−2/neu、HPV−E7、HPV−E6、HAST−2、hTERT(またはhTRT)、LAGE、LDLR/FUT、MAGE−A、好ましくはMAGE−A1、MAGE−A2、MAGE−A3、MAGE−A4、MAGE−A5、MAGE−A6、MAGE−A7、MAGE−A8、MAGE−A9、MAGE−A10、MAGE−A11またはMAGE−A12、MAGE−B、MAGE−C、MART−1/メラン(Melan)−A、MC1R、ミオシン/m、MUC1、MUM−1、−2、−3、NA88−A、NF1、NY−ESO−1、NY−BR−1、p190マイナーbcr−abL Pml/RARa、PRAME、プロテイナーゼ−3、PSA、PSM、RAGE、RU1またはRU2、SAGE、SART−1またはSART−3、SCGB3A2、SCP1、SCP2、SCP3、SSX、サバイビン、TEL/AML1、TPI/m、TRP−1、TRP−2、TRP−2/INT2、TPTEおよびWT、好ましくはWT−1(特に配列番号65に示す配列によってコードされる)。
【0047】
発明の詳細な説明
用語「ドメイン」または「領域」は、好ましくは特定の機能または構造に関係付けられ得る、アミノ酸配列の特定の部分に関する。例えば、MHCクラスII分子のαおよびβポリペプチドは、それぞれ2つのドメインα1、α2およびβ1、β2、膜貫通領域ならびに細胞質領域を有する。同様に、MHCクラスI分子のα鎖は、3つのドメインα1、α2およびα3、膜貫通領域ならびに細胞質領域を有する。
【0048】
1つの実施態様において、完全なドメインまたは領域が、本発明の融合分子中への欠失または組み込みのための特定のドメインまたは領域の配列の選択に含まれる。これを確実にするために、関連ドメインまたは領域の配列を延長して、リンカーの部分または隣接するドメインもしくは領域の部分さえも含めることができる。ドメインまたは領域に関して用語「本質的」はこの意味で理解される。
【0049】
用語「膜貫通領域」は、本質的に細胞膜中に存在する部分を占め、好ましくはタンパク質を膜中にアンカーするように作用するタンパク質の部分に関する。本発明によれば、膜貫通領域は好ましくは膜を一回スパンするアミノ酸配列である。しかし、特定の実施態様において、膜を1回より多くスパンする膜貫通領域を使用することもできる。一般に、膜貫通領域は、15〜25個の好ましくは疎水性の非荷電アミノ酸を有し、これは例えばαへリックスコンホメーションをとる。膜貫通領域は好ましくは、MHC分子、免疫グロブリン、CD4、CD8、CD3ζ鎖、CD3γ鎖、CD3δ鎖およびCD3ε鎖からなる群より選択されるタンパク質に由来する。
【0050】
膜貫通領域は代表的には、MHCクラスII分子のαおよびβ鎖の場合、約20個の疎水性アミノ酸からなり、これは抗原のカルボキシ末端に連結される。これらの残基は、タンパク質が膜をスパンすることを可能にする。膜貫通領域は、これらの鎖の各々のカルボキシ末端における細胞質テールを含む約6〜32個の残基で終結する。これらの膜貫通および細胞質領域を、GPI結合をシグナリングする配列で置き換えることができること、およびキメラGPIアンカークラスII分子が膜結合することが示されている(Wettstein, D.A., J.J. Boniface, P.A. Reay, H. Schild and M.M. Davis, 1991, J. Exp. Med. 174: 219-228)。本発明によれば、このような実施態様は用語「膜貫通領域」に包含される。GPI結合膜アンカードメインが、崩壊促進因子(DAF)、CD59およびヒト胎盤アルカリホスファターゼ(HPAP)を含むいくつかのタンパク質において規定されている(Wettstein, D.A., J.J. et al., 1991, J. Exp. Med. 174:219-228)。例えば、HPAPの38個のカルボキシ末端アミノ酸が、GPI結合のためのシグナル配列として機能するために十分である。このドメインをコードするDNA配列を分泌分子(例えば、MHCクラスIIαまたはβ鎖の可溶性部分)に連結すると、膜結合キメラ分子が形成され(Wettstein, D.A. et al., 1991, J. Exp. Med. 174: 219-228)、そしてこのタイプの方法を用いて本発明の融合分子を細胞膜にアンカーすることができる。
【0051】
用語「主要組織適合遺伝子複合体」および略語「MHC」は、全ての脊椎動物において生じる遺伝子の複合体に関する。正常な免疫応答におけるリンパ球と抗原提示細胞との間のシグナリングにおけるMHCタンパク質または分子の機能は、それによるペプチドの結合、およびT細胞受容体(TCR)による認識の可能性のためのその提示を含む。MHC分子は、細胞内プロセシングコンパートメントにおいてペプチドを結合し、そしてこのペプチドを抗原提示細胞の表面上でT細胞に対して提示する。ヒトMHC領域(HLAともいう)は第6染色体に位置し、クラスI領域およびクラスII領域を含む。
【0052】
用語「MHCクラスI」または「クラスI」は、主要組織適合遺伝子複合体クラスIタンパク質または遺伝子に関する。ヒトMHCクラスI領域内には、HLA−A、HLA−B、HLA−C、HLA−E、HLA−F、CD1a、CD1bおよびCD1c小領域が存在する。
【0053】
クラスIα鎖は、約44kDaの分子量を有する糖タンパク質である。ポリペプチド鎖は、350アミノ酸残基より幾分長い長さを有している。これを以下の3つの機能領域に分けることができる:外部、膜貫通および細胞質領域。外部領域は283アミノ酸残基の長さを有しており、3つのドメインα1、α2およびα3に分けられる。ドメインおよび領域は通常、クラスI遺伝子の別個のエキソンによってコードされている。膜貫通領域は、原形質膜の脂質二重層をスパンする。これは23個の、通常疎水性の、αへリックスに配置されたアミノ酸残基からなる。細胞質領域(すなわち、細胞質に面し、膜貫通領域に連結された部分)は代表的には、32アミノ酸残基の長さを有しており、細胞骨格のエレメントと相互作用し得る。α鎖はβ2ミクログロブリンと相互作用し、細胞表面上でα−β2ダイマーを形成する。
【0054】
用語「MHCクラスII」または「クラスII」は、主要組織適合遺伝子複合体クラスIIタンパク質または遺伝子に関する。ヒトMHCクラスII領域内には、クラスIIα鎖遺伝子およびβ鎖遺伝子についてDP、DQおよびDR小領域が存在する(すなわち、DPα、DPβ、DQα、DQβ、DRαおよびDRβ)。
【0055】
クラスII分子は、各々がα鎖およびβ鎖からなるヘテロダイマーである。両方の鎖は、31〜34kDa(α)または26〜29kDa(β)の分子量を有する糖タンパク質である。α鎖の全長は229〜233アミノ酸残基で変動し、β鎖の全長は225〜238残基で変動する。αおよびβ鎖の両方は、外部領域、連結ペプチド、膜貫通領域および細胞質テールからなる。外部領域は、2つのドメインα1およびα2またはβ1およびβ2からなる。連結ペプチドは、αおよびβ鎖においてそれぞれ13および9残基の長さである。これは2つのドメインを膜貫通領域(α鎖およびβ鎖の両方において23アミノ酸残基からなる)に連結する。細胞質領域(すなわち、細胞質に面し、膜貫通領域に連結される部分)の長さは、α鎖においては3〜16残基で変動し、β鎖においては8〜20残基で変動する。
【0056】
本発明によれば、用語「MHC分子の鎖」は、MHCクラスI分子のα鎖またはMHCクラスII分子のαおよびβ鎖に関する。本発明の融合分子が由来し得る、MHCクラスI分子のα鎖は、HLA−A、−Bおよび−C α鎖を含む。本発明の融合分子が由来し得る、MHCクラスII分子のα鎖は、HLA−DR、−DPおよび−DQ α鎖、特にHLA−DR1、HLA−DR2、HLA−DR4、HLA−DQ1、HLA−DQ2およびHLA−DQ8 α鎖、そして特に、DRA*0101、DRA*0102、DQA1*0301またはDQA1*0501対立遺伝子によってコードされるα鎖を含む。本発明の融合分子が由来し得る、MHCクラスII分子のβ鎖は、HLA−DR、−DPおよびDQ β鎖、特にHLA−DR1、HLA−DR2、HLA−DR4、HLA−DQ1、HLA−DQ2およびHLA−DQ8 β鎖、そして特にDRB1*01、DRB1*15、DRB1*16、DRB5*01、DQB1*03およびDQB1*02対立遺伝子によってコードされるβ鎖を含む。
【0057】
用語「MHC結合ドメイン」は、「MHCクラスI結合ドメイン」および「MHCクラスII結合ドメイン」に関する。
【0058】
用語「MHCクラスI結合ドメイン」は、抗原ペプチドへの結合に必要なMHCクラスI分子またはMHCクラスI鎖の領域に関する。MHCクラスI結合ドメインは、主にMHCクラスIα鎖のα1およびα2ドメインによって形成される。α鎖のα3ドメインおよびβ2ミクログロブリンは結合ドメインの重要な部分を担っていないが、これらはおそらくMHCクラスI分子の全体構造の安定化に重要であり、それゆえ、用語「MHCクラスI結合ドメイン」は好ましくはこれらの領域を含む。MHCクラスI結合ドメインはまた本質的にMHCクラスI分子の細胞外ドメインとして定義され得、膜貫通および細胞質領域から区別され得る。
【0059】
用語「MHCクラスII結合ドメイン」は、抗原ペプチドへの結合に必要なMHCクラスII分子またはMHCクラスII鎖の領域に関する。MHCクラスII結合ドメインは、主にMHCクラスIIαおよびβ鎖のα1およびβ1ドメインによって形成される。しかし、このタンパク質のα2およびβ2ドメインもまた、おそらくMHC結合溝の全体構造の安定化に重要であり、それゆえ本発明によれば、用語「MHCクラスII結合ドメイン」は好ましくはこれらの領域を含む。MHCクラスII結合ドメインはまた本質的にMHCクラスII分子の細胞外ドメインとして定義され得、膜貫通および細胞質ドメインから区別され得る。
【0060】
種々のMHC分子ドメインまたは領域中のアミノ酸の正確な数は、哺乳動物種によって、そして種内の遺伝子クラスの間で変動する。特定のドメインまたは領域のアミノ酸配列を選択する場合、ドメインまたは領域の機能の維持は、正確な構造的規定(これはアミノ酸の数に基づく)よりずっと重要である。選択したドメインまたは領域の完全アミノ酸配列よりむしろ小さいものを使用した場合にも機能が維持され得ることを当業者はまた承知している。
【0061】
用語「抗原」は、それに対して免疫応答を生じさせようとする因子に関する。用語「抗原」は特に、タンパク質、ペプチド、多糖、核酸(特にRNAおよびDNA)、ならびにヌクレオチドを含む。用語「抗原」はまた、変質を介して(例えば、分子中で中間的に、体内タンパク質での完成により)のみ抗原性 − および感作性 − になる二次的物質として誘導体化された抗原、ならびに原子団(例えば、イソシアナート、ジアゾニウム塩)の人為的組み込みを介して新たな恒常的特異性を示す接合抗原を含む。好ましい実施態様において、抗原は、腫瘍抗原、すなわち細胞質、細胞表面および細胞核に由来し得るガン細胞の構成物、特に、好ましくは多量に、細胞内でまたは腫瘍細胞上の表面抗原として産生される抗原である。例としては、ガン胎児性抗原、α1フェトプロテイン、イソフェリチン、胎児性スルホグリコプロテイン、α2−H−フェロプロテインおよびγフェトプロテインならびに種々のウイルス性腫瘍抗原が挙げられる。さらなる実施態様において、抗原は、ウイルス性リボ核タンパク質またはエンベロープタンパク質のようなウイルス抗原である。特に、抗原またはそのペプチドは、MHC分子によって提示されるべきであり、免疫系の細胞(好ましくは、CD4+およびCD8+リンパ球)を、特に、T細胞受容体の活性を調節することによって調節し、特に、活性化し、好ましくは、T細胞増殖を誘導することができる。
【0062】
用語「MHC/ペプチド複合体」は、MHCクラスIまたはMHCクラスII分子の結合ドメインと、MHCクラスIまたはMHCクラスII結合ペプチドとの非共有結合複合体に関する。
【0063】
用語「MHC結合ペプチド」または「結合ペプチド」は、MHCクラスIおよび/またはMHCクラスII分子に結合するペプチドに関する。クラスI MHC/ペプチド複合体の場合、結合ペプチドは代表的には8〜10アミノ酸の長さを有するが、より長いまたはより短いペプチドが活性であり得る。クラスII MHC/ペプチド複合体の場合、結合ペプチドは代表的には10〜25アミノ酸、特に13〜18アミノ酸の長さを有するが、より長いおよびより短いペプチドが活性であり得る。
【0064】
本発明の融合分子およびそれをコードする核酸は、一般に、以下のような組換えDNA技術によって調製することができる:プラスミドDNAの調製、DNAの制限酵素での切断、DNAのライゲーション、宿主の形質転換またはトランスフェクション、宿主の培養、ならびに発現された融合分子の単離および精製。そのような方法は公知であり、例えば、Sambrook et al., Molecular Cloning (第2版, 1989)に記載されている。
【0065】
抗原をコードするDNAを、天然供給源からのDNAの単離によって、またはホスフェートトリエステル法のような公知の合成方法によって得ることができる(例えばOligonucleotide Synthesis, IRL Press (M.J. Gait, 編, 1984)参照)。合成オリゴヌクレオチドはまた、市販の自動オリゴヌクレオチド合成機によって調製することができる。
【0066】
本発明の融合分子中のMHC分子の割合は、アミノ酸配列に関して、ヒト、マウスもしくはその他の齧歯類またはその他の哺乳動物由来の天然に生じるMHC分子あるいはその誘導体に適切に対応する。
【0067】
MHCタンパク質をコードするDNA供給源は公知である(例えば、ヒトリンパ芽球腫細胞)。単離後、MHC分子をコードする遺伝子、またはその目的の部分を、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)またはその他の公知の方法によって増幅することができる。MHCペプチドの遺伝子を増幅するために適切なPCRプライマーは、PCR産物に制限部位を付与することができる。
【0068】
本発明によれば、リーダー配列、膜貫通領域および細胞質領域をコードする核酸配列を含み、目的の抗原をコードする本質的にいずれものヌクレオチド配列を構築物中に組み込むことができるように、リーダー配列と膜貫通領域との間に制限切断部位を含むDNA構築物を調製することが好ましい。
【0069】
本発明の融合分子の好ましい調製方法において、DNA配列は、リーダー配列のC末端が抗原のN末端に連結され、抗原のC末端が膜貫通領域のN末端に連結され、膜貫通領域のC末端が細胞質領域のN末端に連結されるように配置される。上記のように、目的の抗原をコードする本質的にいずれもの核酸を膜貫通領域の核酸配列に連結することができるように、好ましくは、制限切断部位をリーダー配列の終点と膜貫通領域の始点との間に組み込む。
【0070】
発現された本発明の融合分子は、それ自体公知の方法で単離および精製し得る。代表的には、培養培地を遠心分離し、次いで、発現された融合分子に結合するモノクローナル抗体の使用を含む親和性または免疫親和性法によって上清を精製する。また、精製を補助する配列(例えば6×Hisタグ)を融合分子に含めてもよい。
【0071】
本発明の融合分子がT細胞受容体の活性を調節する能力(T細胞応答の不活化を含む)を、インビトロアッセイによって容易に決定することができる。代表的には、T細胞は、トランスフォームしたT細胞株(例えば、T細胞ハイブリドーマ)、または哺乳動物(例えば、ヒトまたは齧歯類(例えば、マウス))から単離されたT細胞によってアッセイのために提供される。適切なT細胞ハイブリドーマは自由に入手可能であるか、またはそれ自体公知の方法で調製することができる。T細胞は哺乳動物からそれ自体公知の方法で単離することができる(例えば、Shimonkevitz, R. et al., 1983, J. Exp. Med. 158: 303参照)。
【0072】
本発明の融合分子がT細胞の活性を調節する能力を有するかどうかを決定するために適切なアッセイは、下記工程1〜4によって行われる。T細胞は適切には、アッセイ可能でありそしてT細胞の活性化または活性化後のT細胞活性の調節を示すマーカーを発現する。従って、活性化に際してインターロイキン2(IL−2)を発現するマウスT細胞ハイブリドーマDO11.10を使用することができる。特定の提示ペプチドがこのT細胞ハイブリドーマの活性を調節する能力を有するかどうかを決定するために、IL−2濃度を測定することができる。このタイプの適切なアッセイは以下の工程によって実施される:
1.T細胞を例えば目的のT細胞ハイブリドーマからまたは哺乳動物からの単離によって得る。
2.T細胞を増殖を可能にする条件下で培養する。
3.増殖中のT細胞を、本発明の融合分子またはそれをコードする核酸と接触させておいた抗原提示細胞と接触させる。
4.T細胞をマーカーについてアッセイする(例えば、IL−2産生を測定する)。
【0073】
アッセイにおいて使用するT細胞を、増殖に適切な条件下でインキュベートする。例えば、DO11.11 T細胞ハイブリドーマを、完全培地(10%FBS、ペニシリン/ストレプトマイシン、L−グルタミンおよび5×10−5M 2−メルカプトエタノールを補充したRPMI1640)中、約37℃、5%COで適切にインキュベートする。本発明の融合分子の段階希釈物をアッセイすることができる。T細胞活性化シグナルが、適切な抗原ペプチドを負荷しておいた抗原提示細胞によって提供される。
【0074】
IL−2のような発現タンパク質の測定の代わりに、抗原依存性T細胞の増殖の変化(公知の放射能標識法により測定される)によって適切にT細胞活性化の調節を測定することができる。例えば、標識した(例えば、トリチウム標識した)ヌクレオチドをアッセイ培養培地中に導入することができる。そのような標識ヌクレオチドのDNA中への導入は、T細胞増殖の測定変量となる。このアッセイはT細胞ハイブリドーマのような、増殖に抗原提示を必要としないT細胞には不適切である。このアッセイは、哺乳動物から単離された非トランスフォームT細胞の場合に、融合分子によるT細胞活性化の調節を測定するために適切である。
【0075】
本発明の融合分子が免疫応答を誘導する能力(標的疾患に対するワクチン接種を可能にすることを含む)を、インビボアッセイによって簡単に決定することができる。例えば、本発明の融合分子またはそれをコードする核酸をマウスのような哺乳動物に投与し、最初の投与時およびその後数回、定期的間隔で(例えば、融合分子またはそれをコードする核酸の投与後1、2、5および8週間)哺乳動物から血液試料を取ることができる。血液試料から血清を得、免疫化から生じた抗体の出現についてアッセイする。抗体濃度を決定することができる。さらに、Tリンパ球を血液またはリンパ器官から単離し、抗原に対する反応性または抗原に由来するエピトープについて機能的にアッセイすることができる。当業者に公知の全ての読み出し(Readout)システム、とりわけ増殖アッセイ、サイトカイン分泌、細胞傷害活性、四量体分析をこの関連で使用することができる。
【0076】
本発明の免疫応答の誘発方法(生体の標的疾患に対するワクチン接種を含む)を、公知の免疫応答の誘導方法と組み合わせて使用することができる。例えば、本発明の融合分子またはそれをコードする核酸を、ワクチン組成物の投与と順次または組み合わせて生体に投与して、ワクチン組成物の所望される効果を増強または延長することができる。
【0077】
本発明によれば、用語「由来」は、特定の物体、特に特定の配列が、それが由来する対象(特に、生物または分子)中に存在することを意味する。核酸およびアミノ酸配列、特に特定の配列領域の場合、「由来」はさらに、関連核酸またはアミノ酸配列が、対象中に存在する核酸またはアミノ酸配列に由来(下記の定義に一致)することを意味する。従って、表現「MHC分子に由来する配列または領域」は、配列または領域が、MHC分子中に存在するか、あるいはMHC分子中に存在する配列または領域に由来する(下記の定義に一致)ことを意味する。
【0078】
本発明によれば、核酸は好ましくはデオキシリボ核酸(DNA)またはリボ核酸(RNA)である。本発明によれば、核酸はゲノムDNA、cDNA、mRNA、組換え調製および化学合成分子を含む。本発明によれば、核酸は一本鎖または二本鎖および直鎖または閉環状の分子の形態であってもよい。
【0079】
本発明によれば、核酸配列に由来する配列または表現「核酸配列に由来する配列」は、先の配列の相同配列および誘導体に関する。
【0080】
本発明によれば、相同な核酸配列は、少なくとも40%、特に、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、そして好ましくは少なくとも95%、少なくとも98または少なくとも99%のヌクレオチドの同一性を示す。
【0081】
特に、相補鎖の2つの配列が互いにハイブリダイズし安定な二重鎖に入ることができる場合に、核酸は別の核酸に相同であり、ここでハイブリダイゼーションは好ましくはポリヌクレオチド間での特異的ハイブリダイゼーションを可能にする条件(ストリンジェントな条件)下で行う。ストリンジェントな条件は例えば、Molecular Cloning: A Laboratory Manual, J. Sambrook et al., 編, 第2版, Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, New York, 1989またはCurrent Protocols in Molecular Biology, F.M. Ausubel et al., 編, John Wiley & Sons, Inc., New Yorkに記載されており、例えば、65℃でハイブリダイゼーション緩衝液(3.5×SSC、0.02%Ficoll、0.02%ポリビニルピロリドン、0.02%ウシ血清アルブミン、2.5mM NaHPO(pH7)、0.5%SDS、2mM EDTA)中でのハイブリダイゼーションに関する。SSCは0.15M塩化ナトリウム/0.15Mクエン酸ナトリウム、pH7である。ハイブリダイゼーション後、DNAをトランスファーしたメンブレンを、例えば室温で2×SSC中、次いで68℃までの温度で0.1〜0.5×SSC/0.1×SDS中で洗浄する。
【0082】
本発明によれば、核酸の「誘導体」は、単一または複数のヌクレオチドの置換、欠失および/または付加が核酸中に存在することを意味する。用語「誘導体」はまた、ヌクレオチドの塩基、糖またはリン酸上での核酸の化学的誘導体化をさらに含む。用語「誘導体」はまた、非天然ヌクレオチドおよびヌクレオチドアナログを含む核酸を含む。
【0083】
本発明に記載される核酸は、好ましくは単離されている。本発明によれば、用語「単離された核酸」は、核酸が(i)インビトロにおける増幅(例えば、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)による)、(ii)クローニングによる組換え生産、(iii)精製(例えば、切断およびゲル電気泳動による分画による)、または(iv)合成(例えば、化学合成による)をされていることを意味する。単離された核酸は、組換えDNA技術による操作のために利用可能な核酸である。
【0084】
本発明によれば、融合分子をコードする核酸は、単独であるかまたは他の核酸(特に、異種核酸)との組み合わせであり得る。好ましい実施態様において、核酸は、その核酸との関連で同種であってもよくまたは異種であってもよい発現制御配列または調節配列に機能的に連結されている。コード配列と調節配列とは、コード配列の発現または転写が調節配列の制御下または影響下にあるようにそれらが一緒に共有結合で連結されていれば、「機能的に」一緒に連結されている。コード配列が機能的タンパク質に翻訳され、調節配列のコード配列への機能的連結が存在する場合、調節配列の誘導によって、コード配列中のリーディングフレームの移動や、コード配列の所望のタンパク質またはペプチドへの翻訳不能が生じることなしに、コード配列の転写が導かれる。
【0085】
本発明によれば、用語「発現制御配列」または「調節配列」は、プロモーター、エンハンサー、および遺伝子の発現を制御するその他の制御エレメントを含む。本発明の特定の実施態様において、発現制御配列は調節され得る。調節配列の正確な構造は種依存的または細胞型依存的に変動し得るが、一般に、それぞれ転写および翻訳の開始に関与する5’非転写および5’非翻訳配列(例えば、TATAボックス、キャッピング配列、CAAT配列など)を含む。特に、5’非転写調節配列はプロモーター領域を含み、これは機能的に連結された遺伝子の転写制御のためのプロモーター配列を含む。調節配列はまた、上流に位置するエンハンサー配列またはアクチベーター配列を含んでもよい。
【0086】
好ましい実施態様において、本発明による核酸はベクターであり、これは、適切な場合、核酸(例えば、本発明の融合分子をコードする核酸)の発現を制御するプロモーターを有する。好ましい実施態様において、プロモーターはT7、T3またはSP6プロモーターである。
【0087】
用語「ベクター」はこの関連でその最も一般的な意味で使用され、例えば、核酸の原核生物および/または真核生物細胞への導入および、適切な場合、ゲノムへの組み込みを可能にする、核酸のための任意の媒介ビークルを含む。そのようなベクターは好ましくは細胞中で複製および/または発現される。媒介ビークルを、例えば、エレクトロポレーション、微粒子銃、リポソーム投与、アグロバクテリウムによる移入またはDNAもしくはRNAウイルスを介した挿入での使用のために適合させ得る。ベクターとしては、プラスミド、ファージミド、バクテリオファージまたはウイルスゲノムが挙げられる。
【0088】
本発明の融合分子をコードする核酸を、宿主細胞のトランスフェクションのために用いることができる。この関連で、核酸は組換えDNAおよびRNAの両方を意味する。組換えRNAを、DNA鋳型からのインビトロ転写によって調製することができる。それをさらに、配列の安定化、キャッピングおよびポリアデニル化によって適用前に修飾することができる。
【0089】
本発明によれば、用語「宿主細胞」は、外来核酸を用いて形質転換またはトランスフェクトされ得る任意の細胞に関する。本発明によれば、用語「宿主細胞」は、原核生物(例えば、E.coli)または真核生物(例えば、樹状細胞、B細胞、CHO細胞、COS細胞、K562細胞、酵母細胞および昆虫細胞)を含む。ヒト、マウス、ハムスター、ブタ、ヤギおよび霊長類由来の細胞のような哺乳動物細胞が特に好ましい。細胞は多数の組織型に由来し得、初代細胞および細胞株を含む。具体例としては、ケラチノサイト、末梢血白血球、骨髄幹細胞および胚性幹細胞が挙げられる。さらなる実施態様において、宿主細胞は抗原提示細胞、特に樹状細胞、単球またはマクロファージである。核酸は宿主細胞において単コピーまたは多コピーで存在し得、1つの実施態様において、宿主細胞中で発現される。
【0090】
本発明によれば、用語「発現」はその最も一般的な意味で使用され、RNA、またはRNAおよびタンパク質の産生を含む。核酸の部分的発現も含まれる。さらに、発現は一過性であってもよくまたは安定であってもよい。哺乳動物細胞における好ましい発現系としてはpcDNA3.1およびpRc/CMV(Invitrogen, Carlsbad, CA)が挙げられ、これらはG418に対する耐性を付与する(従って安定にトランスフェクトされた細胞株の選択を可能にする)遺伝子のような選択マーカー、およびサイトメガロウイルス(CMV)のエンハンサー−プロモーター配列を含む。
【0091】
本発明の融合分子をコードする核酸はまた、MHC分子、好ましくはHLA分子をコードする核酸配列を含んでもよい。MHC分子をコードする核酸配列は、融合分子をコードする核酸と同じ発現ベクター上に存在してもよく、または2つの核酸は異なる発現ベクター上に存在してもよい。後者の場合、2つの発現ベクターを細胞中に同時トランスフェクトすることができる。
【0092】
本発明によれば、アミノ酸配列に由来する配列または表現「アミノ酸配列に由来する配列」は、先の配列の相同配列または誘導体に関する。
【0093】
本発明によれば、相同なアミノ酸配列は、少なくとも40%、特に、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、そして好ましくは少なくとも95%、少なくとも98または少なくとも99%のアミノ酸残基の同一性を示す。
【0094】
本発明の意味での、タンパク質もしくはポリペプチドまたはアミノ酸配列の「誘導体」は、アミノ酸挿入バリアント、アミノ酸欠失バリアントおよび/またはアミノ酸置換バリアントを含む。
【0095】
アミノ酸挿入バリアントは、アミノおよび/またはカルボキシ末端融合、ならびに特定のアミノ酸配列中の単一または複数のアミノ酸の挿入を含む。挿入を有するアミノ酸配列バリアントにおいて、1つ以上のアミノ酸残基がアミノ酸配列中の予め決定された部位に導入されるが、生じた産物の適切なスクリーニングをともなうランダムな挿入も可能である。アミノ酸欠失バリアントは、配列からの1つ以上のアミノ酸の欠失によって特徴付けられる。アミノ酸置換バリアントは、配列中の少なくとも1つの残基の欠失およびそれに代わる別の残基の挿入によって識別される。改変は好ましくは、相同タンパク質またはポリペプチド間で保存されていないアミノ酸配列中の位置に存在する。アミノ酸は好ましくは、類似の性質(例えば、疎水性、親水性、電気陰性度、側鎖の体積など)を有する他のものによって置き換えられる(保存的置換)。保存的置換は、例えば、1つのアミノ酸の他による置換であって、両方のアミノ酸が下記の同じ群中に列挙されるものに関する:
1.小脂肪族非極性または微極性残基:Ala、Ser、Thr(Pro、Gly)
2.負荷電残基およびそのアミド:Asn、Asp、Glu、Gln
3.正荷電残基:His、Arg、Lys
4.大脂肪族非極性残基:Met、Leu、Ile、Val(Cys)
5.大芳香族残基:Phe、Tyr、Trp。
【0096】
3つの残基を、タンパク質構造におけるそれらの特定の役割のゆえに、括弧内に入れている。Glyは側鎖を有しない唯一の残基であり、従って鎖に可撓性を付与する。Proは特異な形状を有しており、これは鎖を大いに制限する。Cysはジスルフィド架橋を形成し得る。
【0097】
上記のアミノ酸バリアントを、公知のペプチド合成技術により、例えば、固相合成(Merrifield, 1964)および類似の方法または組換えDNA操作により容易に調製することができる。既知のまたは部分的に既知の配列を有するDNA中の予め決定された部位に置換変位を導入するための技術は周知であり、例えばM13変異誘発を含む。置換、挿入または欠失を有するタンパク質を調製するためのDNA配列の操作、ならびに、例えば、哺乳動物、昆虫、植物およびウイルス系のような生物系におけるタンパク質の発現のための一般的な組換え方法は、例えばSambrook et al. (1989)中に詳細に記載されている。
【0098】
本発明によれば、タンパク質またはポリペプチドの「誘導体」はまた、タンパク質またはポリペプチドに会合しているいずれかの分子(例えば、糖質、脂質および/またはタンパク質もしくはポリペプチド)の単一または複数の置換、欠失および/または付加を含む。
【0099】
1つの実施態様において、タンパク質またはポリペプチドの「誘導体」は、グリコシル化、アセチル化、リン酸化、アミド化、パルミトイル化、ミリストイル化、イソプレニル化、脂質化、アルキル化、誘導体化、保護/ブロッキング基の導入、タンパク質分解性切断、または抗体もしくは他の細胞性リガンドへの結合から生じる修飾アナログを含む。タンパク質またはポリペプチドの誘導体はまた、例えば、臭化シアンでの化学的切断、トリプシン、キモトリプシン、パパイン、V8プロテアーゼ、NaBH、アセチル化、ホルミル化、酸化、還元、またはツニカマイシンの存在下での代謝合成のような他の方法によって調製してもよい。
【0100】
用語「誘導体」はまた、タンパク質またはポリペプチドの全ての機能的化学的等価物に拡張される。
【0101】
本発明によれば、上記のタンパク質およびポリペプチドの誘導体は、たとえ明示の言及がなくても、用語「融合分子」によって包含される。
【0102】
本発明により記載される医薬組成物を、既存の疾患の処置のために治療的に、または免疫化のためのワクチンとして予防的に用いることができる。
【0103】
本発明によれば、用語「ワクチン」は抗原性調製物に関し、これは例えば、タンパク質、ペプチド、核酸または多糖を含み、ワクチン調製物中に存在する1つ以上の抗原に対するその体液性および/または細胞性免疫系を刺激するためにレシピエントに投与される。用語「ワクチン接種」または「免疫化」は、ワクチンの投与および抗原に対する免疫応答の刺激のプロセスに関する。用語「免疫応答」は免疫系の活性に関し、抗原との接触後の特異的細胞傷害性T細胞の活性化および増殖を含む。
【0104】
免疫化の効果(例えば、抗原として腫瘍関連抗原を使用した際のガンに対する)を試験するために動物モデルを用いることができる。さらに、例えば、ヒトガン細胞をマウスに導入して腫瘍を作製し、腫瘍関連抗原を含む本発明の融合分子をコードする本発明の核酸を投与することができる。ガン細胞に対する効果(例えば、腫瘍サイズの減少)を、核酸による免疫化の効力の基準として測定することができる。
【0105】
免疫化用組成物の一部として、1つ以上の融合分子を1つ以上のアジュバントとともに投与して、免疫応答を誘導するかまたは免疫応答を増加させる。アジュバントは、抗原に組み込まれるかまたはそれと一緒に投与され、免疫応答を増強する物質である。アジュバントは、抗原貯蔵所を提供し(細胞外またはマクロファージ中)、マクロファージを活性化し、そして特定のリンパ球を刺激することによって免疫応答を増強することができる。アジュバントは公知であり、限定するものではないが、以下を含む:モノホスホリル−リピドA(MPL、SmithKline Beecham)、サポニン(例えば、QS21(SmithKline Beecham)、DQS21(SmithKline Beecham;WO 96/33739)、QS7、QS17、QS18およびQS−L1(So et al., Mol. Cells 7:178-186, 1997))、フロイント不完全アジュバント、フロイント完全アジュバント、ビタミンE、モンタニド(Montanid)、ミョウバン、CpGオリゴヌクレオチド(Krieg et al., Nature 374:546-9, 1995参照)、ならびにスクアレンおよび/またはトコフェロールのような生分解性油から調製された種々の油中水型エマルジョン。融合分子は好ましくはDQS21/MPLとの混合物中で投与される。MPLに対するDQS21の割合は、代表的には約1:10〜10:1、好ましくは約1:5〜5:1、特に約1:1である。ヒトへの投与のためのワクチン処方物において、DQS21およびMPLは代表的には約1μg〜約100μgの範囲で存在する。
【0106】
患者において免疫応答を刺激する他の物質を投与してもよい。例えば、リンパ球に対するその調節的性質のゆえに、サイトカインをワクチン接種のために使用することができる。そのようなサイトカインとしては、例えば、ワクチンの防御効果を増強することが示されているインターロイキン12(IL−12)(Science 268:1432-1434, 1995参照)、GM−CSFおよびIL−18が挙げられる。
【0107】
本発明の哺乳動物における免疫応答を誘導する方法は一般に、本発明の融合分子および/またはそれをコードする核酸(特に、ベクターの形態の)の有効量を投与することを含む。本発明の融合分子をコードするDNA又はRNAは、好ましくは、T細胞補助刺激因子をコードするDNA配列(例えば、B7−1またはB7−2をコードする遺伝子)と一緒に哺乳動物に投与される。
【0108】
本明細書において、表現「T細胞補助刺激因子」は、本発明の融合分子の1つ以上の存在下で、補助刺激シグナルを提供しそして免疫応答を増強する、特にT細胞の増殖を活性化する分子、特にペプチドに関する。そのようなT細胞増殖の活性化は一般に知られているアッセイによって決定することができる。
【0109】
これらの因子は、タンパク質または核酸の形態で提供される補助刺激分子を含む。そのような補助刺激分子の例としては、B7−1およびB7−2(それぞれ、CD80およびCD86)が挙げられる。これらは樹状細胞(DC)上で発現され、T細胞上に発現されるCD28分子と相互作用する。この相互作用は抗原/MHC/TCR刺激(シグナル1)T細胞に補助刺激(シグナル2)を提供し、T細胞の増殖およびエフェクター機能を増強する。B7はまたT細胞上のCTLA4(CD152)と相互作用し、CTLA4リガンドおよびB7リガンドを含む研究によって、B7−CTLA4相互作用が抗腫瘍免疫およびCTL増殖を増強し得ることが示されている(Zheng, P. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 95(11):6284-6289 (1998))。
【0110】
B7は代表的には腫瘍細胞上で発現されず、それゆえそれはT細胞にとって有効な抗原提示細胞(APC)ではない。B7発現の誘導は、腫瘍細胞が細胞傷害性Tリンパ球の増殖およびエフェクター機能をより効果的に刺激することを可能にする。B7/IL−6/IL−12の組み合わせによる補助刺激は、T細胞集団におけるIFN−γの誘導およびTh1サイトカインプロフィールを示し、T細胞活性のさらなる増強を導いた(Gajewski et al., J. Immunol. 154:5637-5648 (1995))。
【0111】
細胞傷害性Tリンパ球の完全な活性化および完全なエフェクター機能は、Tヘルパー細胞上のCD40リガンドと樹状細胞によって発現されるCD40分子との間の相互作用を介したTヘルパー細胞の協同を必要とする(Ridge et al., Nature 393:474 (1998), Bennett et al., Nature 393:478 (1998), Schoenberger et al., Nature 393:480 (1998))。この補助刺激シグナルのメカニズムは、樹状細胞(抗原提示細胞)によるB7および不随するIL−6/IL−12産生の増加におそらく関連する。このようにCD40−CD40L相互作用はシグナル1(抗原/MHC−TCR)およびシグナル2(B7−CD28)の相互作用を補完する。
【0112】
本発明は、核酸、ポリペプチドもしくはタンパク質および/または細胞の投与を提供する。DNAおよびRNAの投与が好ましい。
【0113】
本発明によれば、非改変抗原に比較して100倍低い用量のワクチンが等価なまたはより強い免疫応答を誘導するために十分であることを実験において示すことができた。核酸ワクチンの直接注入についての1つの問題は、免疫応答を誘導するために必要な用量が非常に高いことである。DNAワクチンの場合、理由は主におそらく、細胞の一部分のみが注入されたDNAを核中に取り込むという事実に基づく。RNAワクチンの場合、問題はおそらく、特に、注入されたRNAが非常に迅速にRNaseによって分解されることである。
【0114】
核酸、特にRNAの直接注入の際に、非改変核酸に比較して大いに増加した免疫応答が得られることが、本発明に従って改変されたワクチンの使用について期待される。
【0115】
好ましい実施態様において、本発明の融合分子をコードする核酸を投与するためのウイルスベクターは、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、ポックスウイルス(ワクシニアウイルスおよび弱毒ポックスウイルスを含む)、セムリキ森林熱ウイルス、レトロウイルス、シンドビスウイルスおよびTyウイルス様粒子からなる群より選択される。アデノウイルスおよびレトロウイルスは特に好ましい。レトロウイルスは通常複製欠損性である(すなわち、それらは感染性粒子を産生できない)。
【0116】
本発明によれば、インビトロまたはインビボにおいて核酸を細胞中に導入するために種々の方法を用いることができる。そのような方法としては、核酸−リン酸カルシウム沈殿のトランスフェクション、DEAEと会合した核酸のトランスフェクション、目的の核酸を保持する上記ウイルスでのトランスフェクションまたは感染、リポソーム媒介トランスフェクションなどが挙げられる。特定の実施態様において、核酸を特定の細胞に導くことが好ましい。そのような実施態様において、核酸の細胞への投与に用いられるキャリア(例えば、レトロウイルスまたはリポソーム)は、結合した標的化分子を有してもよい。例えば、標的細胞上の表面膜タンパク質に特異的な抗体、標的細胞上の受容体に対するリガンドのような分子を、核酸キャリア中に取り込ませるかまたはそれに結合させることができる。リポソームによる核酸の投与が所望される場合、エンドサイトーシスに関連する表面膜タンパク質に結合するタンパク質をリポソーム処方物中に組み込んで、標的化および/または取り込みを可能にすることができる。そのようなタンパク質としては、特定の細胞型に特異的であるキャプシドタンパク質またはそのフラグメント、インターナライズされるタンパク質に対する抗体、細胞内部位を標的にするタンパク質などが挙げられる。
【0117】
核酸は好ましくは、安定化物質(例えば、RNA安定化物質)と一緒に投与される。
【0118】
1つの実施態様において、核酸は、エクスビボ法によって、すなわち、患者から細胞を取り出し、細胞を遺伝子改変し、改変された細胞を患者中に再導入することによって投与される。これは一般に、インビトロにおいて患者の細胞中へ遺伝子の機能性コピーを導入すること、および遺伝子改変した細胞を患者に戻すことを含む。遺伝子の機能性コピーは、遺伝子改変細胞中での遺伝子の発現を可能にする調節エレメントの機能的な制御下にある。トランスフェクションおよび形質導入の方法は当業者に公知である。本発明はまた、ウイルスおよび標的化リポソームのようなベクターの使用を介するインビボにおける核酸の投与を提供する。
【0119】
ポリペプチドおよびペプチドの投与は、それ自体公知の方法で行うことができる。
【0120】
本発明によれば、用語「患者」、「個体」または「生体」は、ヒト、非ヒト霊長類または他の動物、特にウシ、ウマ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、イヌ、ネコのような哺乳動物、ニワトリのような鳥類、またはマウスおよびラットのような齧歯類を意味する。特に好ましい実施態様において、患者、個体または生体はヒトである。
【0121】
本発明の治療組成物を、医薬上許容される調製物中で投与することができる。そのような調製物には通常、医薬上許容される濃度の塩、緩衝物質、保存剤、担体、アジュバント(例えば、CpGオリゴヌクレオチド)およびサイトカインのような補充免疫増強物質、ならびに、適切な場合、その他の治療剤を含めることができる。
【0122】
本発明の治療剤を、注射または注入を含むいずれかの従来の方法で投与することができる。例えば、経口、静脈内、腹腔内、筋肉内、皮下、皮内、経皮、リンパ内、好ましくはリンパ節、特に鼠径部リンパ節、リンパ管および/または脾臓中への注射で投与を行うことができる。
【0123】
本発明の組成物を有効量で投与する。「有効量」は、所望の応答または所望の効果を、単独でまたはさらなる用量と一緒に達成する量に関する。特定の疾患または特定の症状の処置の場合、所望の応答は疾患の進行の阻害に関する。これは、疾患の進行の減速および、特に疾患の進行の停止を含む。疾患または症状の処置に対する所望の応答は、疾患または症状の発症の遅延または発症の予防であってもよい。
【0124】
本発明の組成物の有効量は、処置しようとする症状、疾患の重篤度、個々の患者のパラメーター(年齢、生理的状態、身長および体重を含む)、処置の持続期間、併用療法の性質(ある場合)、特定の投与経路、および類似の要因に依存する。
【0125】
本発明の医薬組成物は好ましくは無菌であり、そして所望の応答または所望の効果を生じさせるために有効な量の治療的に活性な物質を含む。
【0126】
投与される本発明の組成物の用量は、投与様式、患者の状態、所望の投与期間などのような種々のパラメーターに依存し得る。患者の応答が開始用量では不十分な場合、より高い用量(または異なるより局所的な投与経路によって達成される効果がより高い用量)を用いることができる。
【0127】
一般に、1ng〜1mg、好ましくは10ng〜100μgの用量の腫瘍関連抗原が、処置または免疫応答の発生もしくは増強のために処方および投与される。核酸(DNAおよびRNA)の投与が所望される場合、1ng〜0.1mgの用量が処方および投与される。
【0128】
本発明の医薬組成物は一般に、医薬上許容される量で、医薬上許容される組成で投与される。用語「医薬上許容される」は、医薬組成物の有効成分の効果と相互作用しない非毒性材料に関する。そのような調製物には通常、塩、緩衝物質、保存剤、担体および、適切な場合、その他の治療剤を含めてもよい。医薬で使用する場合、塩は医薬上許容されるべきである。しかし、医薬上許容されない塩を使用してその医薬上許容される塩を調製することができ、これは本発明に包含される。そのような薬理学上および医薬上許容される塩としては、限定するものではないが、以下の酸から調製されるものが挙げられる:塩酸、臭化水素酸、硫酸、硝酸、リン酸、マレイン酸、酢酸、サリチル酸、クエン酸、ギ酸、マロン酸、コハク酸など。医薬上許容される塩はまた、ナトリウム、カリウムまたはカルシウム塩のようなアルカリ金属またはアルカリ土類金属塩として調製することができる。
【0129】
本発明の医薬組成物は、医薬上許容される担体を含んでもよい。本発明によれば、用語「医薬上許容される担体」は、ヒトへの投与に適切な1つ以上の適合性の固体または液体の充填剤、希釈剤またはカプセル物質に関する。用語「担体」は、使用を容易にするためにその中で有効成分が合せられる天然または合成の有機または無機成分に関する。本発明の医薬組成物の成分は通常、所望の医薬上の活性を実質的にそこなう相互作用が起こらないものである。
【0130】
担体は好ましくは、無菌の液体、例えば水または油(石油、動物もしくは植物に由来するかまたは合成起源のものを含む、例えば、落花生油、ダイズ油、鉱油、ゴマ油、ヒマワリ油など)である。生理食塩水溶液ならびに水性デキストロースおよびグリセロール溶液もまた水性担体として使用することができる。
【0131】
賦形剤および担体の例としては以下が挙げられる:アクリル酸およびメタクリル酸誘導体、アルギン酸、ソルビン酸誘導体(例えば、α−オクタデシル−ω−ヒドロキシポリ(オキシ−エチレン)−5−ソルビン酸)、アミノ酸およびその誘導体、特にアミン化合物(例えば、コリン、レシチンおよびホスファチジルコリン)、アラビアゴム、芳香剤、アスコルビン酸、炭酸塩(例えば、炭酸および炭酸水素ナトリウム、カリウム、マグネシウムおよびカルシウム)、リン酸水素ならびにナトリウム、カリウム、カルシウムおよびマグネシウムのリン酸塩、カルメロースナトリウム、ジメチコーン、着色料、香料、緩衝物質、保存剤、増粘剤、可塑剤、ゼラチン、グルコース、シロップ、麦芽、コロイド状二酸化ケイ素、ヒドロメロース(Hydromellose)、安息香酸塩、特に安息香酸ナトリウムおよびカリウム、マクロゴール、脱脂粉乳、酸化マグネシウム、脂肪酸ならびにその誘導体および塩(例えば、ステアリン酸およびステアリン酸塩、特にステアリン酸マグネシウムおよびカルシウム)、脂肪酸エステルならびに食用脂肪酸のモノおよびジグリセリド、天然および合成ろう(例えば、蜜ろう、黄ろうおよびモンタングリコールろう)、塩化物、特に塩化ナトリウム、ポリビドン、ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン、ポビドン、油(例えば、ヒマシ油、ダイズ油、ヤシ油、パーム核油)、糖質および糖質誘導体、特に単および二糖類(例えば、グルコース、フルクトース、マンノース、ガラクトース、ラクトース、マルトース、キシロース、スクロース、デキストロースおよびセルロースならびにその誘導体)、シェラック、デンプンおよびデンプン誘導体、特にコーンスターチ、獣脂、タルク、二酸化チタン、酒石酸、糖アルコール(例えば、グリセロール、マンニトール、ソルビトールおよびキシリトールならびにその誘導体)、グリコール、エタノールおよびその混合物。
【0132】
また、医薬組成物は好ましくは、湿潤剤、乳化剤および/またはpH緩衝剤をさらに含んでもよい。
【0133】
さらなる実施態様において、医薬組成物は吸収増強剤を含んでもよい。所望される場合、組成物において等モル量の担体をこの吸収増強剤で置き換えてもよい。そのような吸収増強剤の例としては、限定するものではないが、オイカリプトール、N,N−ジエチル−m−トルアミド、ポリオキシアルキレンアルコール(例えば、プロピレングリコールおよびポリエチレングリコール)、N−メチル−2−ピロリドン、ミリスチン酸イソプロピル、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルアセトアミド(DMA)、尿素、ジエタノールアミン、トリエタノールアミンなどが挙げられる(例えば、Percutaneous Penetration Enhancers, Smith et al.編 (CRC Press, 1995)参照)。組成物中の吸収増強剤の量は、達成しようとする所望の効果に依存し得る。
【0134】
ペプチドまたはタンパク質薬剤の分解を防止し、生物学的利用能を増加させるために、プロテアーゼインヒビターを本発明の組成物に組み込むことができる。プロテアーゼインヒビターの例としては、限定するものではないが、アプロチニン、ロイペプシン(Leupepsin)、ペプスタチン、α2マクログロブリンおよびトリプシンインヒビターが挙げられる。これらのインヒビターを単独でまたは組み合わせて使用することができる。
【0135】
本発明の医薬組成物に1つ以上のコーティングを施すことができる。固形経口投与形態には好ましくは胃液に耐性のコーティングを施すか、またはこれは胃液に耐性の硬化軟カプセルの形態である。
【0136】
本発明の医薬組成物は、酢酸塩、クエン酸塩、ホウ酸塩およびリン酸塩のような適切な緩衝物質を含んでもよい。
【0137】
医薬組成物はまた、適切な場合、塩化ベンザルコニウム、クロロブタノール、パラベンおよびチメロサールのような適切な保存剤を含んでもよい。
【0138】
医薬組成物は通常、単位用量形態で提供され、それ自体公知の方法で製造することができる。本発明の医薬組成物は、例えば、カプセル、錠剤、ロゼンジ、溶液、懸濁液、シロップ、エリキシル剤または乳濁液の形態であってもよい。
【0139】
通常、非経口投与に適切な組成物は、好ましくはレシピエントの血液と等張である、活性薬剤の水性または非水性の無菌調製物を含む。適切な担体および溶剤の例としては、リンガー溶液および等張塩化ナトリウム溶液が挙げられる。さらに、無菌不揮発性油を溶解または懸濁媒体として通常用いる。
【0140】
以下の実施例および図面により本発明を詳細に説明する。これらはもっぱら例示となるものであり、限定として理解すべきでない。説明および実施例に基づいて当業者は本発明の範囲および添付の請求の範囲を超えないさらなる実施態様に至ることができる。
【0141】
実施例:
実施例1:改変ワクチンの調製
改変ワクチンを調製するために、まず融合遺伝子の発現を可能にするカセットを、RNAの転写を可能にする発現ベクター中に調製した。この目的のために、最初に、HLA分子のシグナルペプチドをコードする核酸をヒトリンパ球から増幅し、フラグメントをcDNAとしてベクター中にクローン化した(配列番号1および2)。種々の制限酵素切断部位がシグナルペプチドのcDNAの後ろに位置し、さらなるフラグメントを発現カセット中にインフレームでクローン化できるように、クローニングを実施した。選択したベクターは5’に位置するRNAポリメラーゼプロモーターT3、T7またはSP6を介してRNAのインビトロ発現を可能にするプラスミドであった。このベクターにクローン化した次のフラグメントは、HLAクラスI(配列番号3および4)またはクラスII(配列番号5および6)分子の膜貫通ドメインおよび細胞質ドメインをコードするcDNA(終止コドンを含む)であった。得られたプラスミドが2つのフラグメント間に抗原をクローン化するための制限酵素切断部位をなお有するようにクローニングを実施した(配列番号7および8ならびに図1)。HLAシグナル配列、pp65ならびにHLA膜貫通および細胞質ドメインから構成される連続的なORF(配列番号11および12)が生じるように、ヒトサイトメガロウイルス リンタンパク質65(pp65)をコードする配列(配列番号9および10)をモデル抗原としてこれらの発現カセット中にクローン化した。上記フラグメントを含まない同じ出発ベクター中に、終止コドンを有するpp65配列を含むベクターを、コントロール実験のために調製した。以下の核酸をさらなる実験のために使用した:
【0142】
CMVpp65standard:非改変CMVpp65配列、標準免疫原。
【0143】
CMVpp65−TM1:以下のフラグメントから構成される融合核酸:HLAクラスI分泌シグナル、pp65 ORFならびにHLAクラスI膜貫通および細胞質ドメイン(改変免疫原)。
【0144】
CMVpp65−TM2:以下のフラグメントから構成される融合核酸:HLAクラスI分泌シグナル、pp65 ORFならびにHLAクラスII膜貫通および細胞質ドメイン(改変免疫原)。
【0145】
実施例2:改変ワクチンの試験
3つの核酸(CMVpp65standard、CMVpp65−TM1、CMVpp65−TM2)を、抗原陽性ドナー由来の自己DCを用いる刺激試験における免疫原として用いた。CD4およびCD8免疫応答を別々に試験するために、精製CD4+およびCD8+リンパ球を使用した。使用した読み出しは、INF−λ分泌T細胞を定量するための標準的アッセイであると認められている酵素結合免疫スポットアッセイ(Enzyme-linked-Immuno-Spot-Assay、ELISPOT)であった。標準的なクロムリリースアッセイを、CD8+ Tリンパ球のエフェクター機能をアッセイするために使用した。自己単球またはDCを、pp65 RNA、CMVpp65―TM1およびCMVpp65−TM2免疫原を用いてトランスフェクトした。pp65のための重複ペプチドおよび最大刺激コントロールとしてのコントロールペプチドをDCに負荷した。このようにして処理したDCを、CD4+またはCD8+リンパ球とともに一晩または7日間共インキュベートした。読み出しは、pp65重複ペプチドまたはCMV線維芽細胞溶解物でパルスしておいた自己単球またはDCに対して行った。CD4+免疫応答の研究により、驚くべき事に、両方の改変免疫原(CMVpp65−TM1およびCMVpp65−TM2)が、CMVpp65standard免疫原に対して増強された免疫応答を誘導するだけでなく、CD4+リンパ球において最大レベルの抗原特異的IFN−γ分泌も誘導することが明らかとなった(図3)。改変pp65構築物による刺激後の抗原特異的CD4+細胞の比率は、pp65重複ペプチドでの刺激後と同等であるかまたはより高くさえあった。予想どおり、CMVpp65standard免疫原はCD4+リンパ球の関連する刺激を示さなかった。
【0146】
免疫原での刺激後のCD8免疫応答の研究について、さらに驚くべき結果が得られた。CD8+リンパ球の刺激のための改変発現カセットの使用により、pp65重複ペプチドでの刺激後のものに匹敵する特異的IFN−λ分泌細胞の比率が同様に導かれることを示すことができた。驚くべき事に、この場合でも、改変RNA構築物は、非改変CMVpp65standard免疫原よりずっと優れていた(図4および5)。両方の改変によってCMVpp65standard RNAに比較して以前には記載されなかった強烈な細胞傷害性の増加が導かれることが、細胞傷害性アッセイにおける結果により示された(図6)。この場合においても、驚くべき事に、重複pp65ペプチドを上回る改変免疫原の優位性が見られた。
【0147】
実施例3:HLA融合抗原によるナイーブCD8+ Tリンパ球の刺激
本発明の融合構築物によるナイーブCD8+リンパ球の初回免疫および続く拡大の可能性を証明するために、CMV陰性ドナーの樹状細胞を、非改変CMVpp65のRNA、CMVpp65−TM1 RNAまたはコントロールRNA(NY−Eso−1)を用いてトランスフェクトした。トランスフェクトした樹状細胞を用いて、自己CD8+リンパ球を刺激した。2回の再刺激を、凍結した、トランスフェクトした樹状細胞を用いて1週間おきに実施した。読み出しのために、最初の刺激後+21日目に、全ての細胞集団を、pp65重複ペプチドまたはコントロールとしての無関係な重複ペプチドのいずれかを負荷した自己樹状細胞に対するIFNγ ELISpotアッセイにおいてアッセイした。2つの場合に、CMVpp65−TM1 RNAでの刺激によってpp65反応性CD8+ Tリンパ球集団が生じることが、この場合に見出された(図11)。これに反して、非改変CMVpp65 RNAまたはコントロールRNAを用いてトランスフェクトした樹状細胞での刺激は、有意なpp65反応性を示さなかった。
【0148】
実施例4:腫瘍細胞反応性Tリンパ球の刺激のためのHLA融合抗原の使用
所定の腫瘍抗原に対してCD8+およびCD4+ Tリンパ球を拡大することが可能となるように、以下の抗原配列を、本発明の融合構築物中にインサートとしてクローン化した:腫瘍抗原TPTE(Koslowski et al., 2004, PMID 15342378)、腫瘍抗原PRAME(Ikeda et al., 1997, PMID 9047241)バリアント1(配列番号64)、腫瘍抗原WT1バリアントC(配列番号65)および腫瘍抗原p53(配列番号66)。機能的確証のために、HLA*A 0201陽性ドナーのヒト樹状細胞を、WT1−HLA−TM1−RNA、非改変WT1−RNAまたは無関係なコントロールRNAのいずれかを用いてトランスフェクトし、標的細胞として使用した。WT1反応性CD8+ T細胞クローンと共に8または16時間共インキュベートした後、上清中のIFNγを定量した。非改変WT1を用いてトランスフェクトした後の共インキュベーションと比較して、WT1―HLA−TM1をトランスフェクトした樹状細胞との共インキュベーション後に、分泌が6〜9倍高いことが見られた。
【0149】
要約すると、一連の実験において以下の結果が達成され、数回確認された:
・改変免疫原は、抗原特異的CD4+リンパ球の明確に増強された刺激および拡大を導く(CD4+リンパ球増殖の増加)。
・改変免疫原は、抗原特異的CD8+リンパ球の明確に増強された刺激および拡大を導く(CD8+リンパ球増殖の増加)。
・改変免疫原は、抗原特異的CD4+リンパ球およびCD8+リンパ球からの明確に増強されたサイトカイン放出を導く(サイトカイン放出の増加=活性化の増加)。
・改変免疫原は、抗原特異的CD8+リンパ球の明確に増強された細胞傷害反応性を導く(細胞傷害効果の増加)。
・改変免疫原は、抗原特異的CD8+リンパ球の拡大に関して100倍強力である。
・改変免疫原は、100倍低い用量でさえ、抗原特異的CD4+リンパ球の拡大に対して標準的な免疫原より強い効果を有する。
【0150】
それゆえ、要約すると、本発明による抗原の改変は、100倍以上増加した効力(用量−効果曲線の左方向の移動)および強烈に増加した生物活性を生じるということができる。今日まで慣習的であった非改変抗原配列に比較して、量的および質的に高いワクチンとしての効力を有する免疫原を生じさせることが可能である。
【0151】
本発明の重要な結果は、抗原特異的CD4+およびCD8+リンパ球が至適に刺激され、同時に拡大されるということである。CD8+およびCD4+リンパ球の刺激は、特に治療ワクチンの効力にきわめて重要である。
【図面の簡単な説明】
【0152】
【図1】本発明の融合タンパク質の模式図。融合タンパク質は、N末端に配置された分泌シグナル、C末端に位置する組織適合抗原の膜貫通および細胞質ドメイン、ならびに組み込まれた完全または部分抗原配列からなる。
【図2】融合タンパク質発現用カセットの模式図。SP:シグナルペプチド;MCS:マルチクローニングサイト;TM:膜貫通ドメイン;MHCテール:MHC分子の細胞質テール;抗原:それに対して免疫応答を誘導しようとする抗原をコードする配列。
【図3】抗原特異的CD4+ Tリンパ球の頻度に対する種々のRNA用量の効果の試験。1×10個の精製CD4+リンパ球を、エレクトロポレーションによって所定量(0.1〜10μg RNA)のRNAを用いてトランスフェクトしておいた2×10個のDCと共に1週間共培養した。刺激の7日後に、標準的な条件下でELISPOTを実施して、インターフェロン−γ分泌Tリンパ球を検出した。使用した抗原提示細胞は、重複pp65ペプチド(1.75μg/ml)または無関係なコントロールペプチドを負荷しておいた同じドナー由来のDCであった。試験のために、3×10個のエフェクターを2×10個のDCと共に16時間共インキュベートした。標準的な生育の後、IFN−γ分泌Tリンパ球の数をソフトウェアに基づくビデオ解析によって決定した。CMVpp65standard RNAに比較して、CMVpp65−TM1構築物およびCMVpp65−TM2構築物の両方によるCD4+リンパ球の大量拡大が見られる。
【図4】インターフェロン−γ分泌CD8+ Tリンパ球の頻度に対する種々のRNA用量の効果の試験。1×10個の精製CD8+リンパ球を、エレクトロポレーションによって所定量(0.1〜10μg RNA)のRNAを用いてトランスフェクトしておいた2×10個のDCと共に1週間共培養した。7日目に、重複pp65ペプチド(1.75μg/ml)または無関係なコントロールペプチドを負荷しておいた同じドナーのDCに対して、標準的なELISPOTを実施して、IFN−γ分泌Tリンパ球を検出した。3×10個のエフェクターを2×10個のDCと共に16時間共インキュベートした。標準的な生育の後、IFN−γ分泌Tリンパ球の数をソフトウェアに基づくビデオ解析によって決定した。CMVpp65−TM1構築物およびCMVpp65−TM2構築物によるCD8+リンパ球の大量拡大が見られた。100倍低い用量(0.1μg RNA)の使用に際してさえ、pp65特異的CD8+リンパ球の頻度は、NYESO−RNAを用いてトランスフェクトしたDCによる刺激後のバックグラウンドよりなお高かった(データは示さず)。CMVpp65standard構築物による刺激は、2.5μg以上のみでバックグラウンドレベルより高いpp65特異的リンパ球の拡大を示した。
【図5】抗原特異的リンパ球に対する種々の免疫原の拡大能力についての用量/効果プロフィール。本発明に従って改変した免疫原は明確に増加した作用強度(>100×)およびより高い最大効果を示す。
【図6】細胞傷害性免疫応答の発生に対する本発明に従って改変した免疫原および標準的免疫原の効果の比較試験。1×10個の精製CD8+リンパ球を、エレクトロポレーションによって10μgのRNAを用いてトランスフェクトしておいた2×10個のDCと共に1週間共培養した。7日目に、種々の濃度の重複pp65ペプチドまたは無関係なコントロールペプチドを負荷しておいた同じドナーのDCに対して、標準的なシトクロム細胞傷害性アッセイを実施した。15×10個のエフェクターを0.5×10個のDCと共に4時間共インキュベートした。カウンターにおける上清の測定の後、特異的溶解を式に従って算出した。CMVpp65−TM1構築物およびCMVpp65−TM2構築物で刺激しておいたCD8+リンパ球による高い溶解が見られ、これはpp65ペプチド混合物の濃度10nMまでコントロールペプチドについての値より高かった(データは示さず)。CD8+リンパ球はpp65ペプチド混合物によって同様に拡大され、顕著な特異的溶解を示したが、CMVpp65−TM1および−TM2のレベルには達しなかった。CMVpp65standard構築物によっては、pp65特異的細胞傷害性T細胞の弱い刺激のみが達成可能であった。
【図7】融合タンパク質発現用カセットの模式図。CS:クローニングサイト;TM:膜貫通ドメイン;SNARE:SNAREタンパク質またはモチーフ;抗原:それに対して免疫応答を誘導しようとする抗原をコードする配列。
【図8−1】実施例において使用した配列。HLAクラスI TM−CM:HLAクラスI分子の膜貫通−細胞質領域;HLAクラスII TM−CM:HLAクラスII分子の膜貫通−細胞質領域。
【図8−2】実施例において使用した配列。
【図8−3】実施例において使用した配列。
【図8−4】実施例において使用した配列。
【図8−5】実施例において使用した配列。
【図9】MHC分子の膜貫通−細胞質領域および細胞質領域の配列。配列は、種々のHLA分子の膜貫通−細胞質領域または細胞質領域のみを示す。膜貫通領域に下線を付し太文字で示す。
【図10−1】SNAREタンパク質の配列。これらの配列は、本発明のSNARE−抗原融合分子(N−SNARE−抗原)の構築に適切である。
【図10−2】SNAREタンパク質の配列。
【図10−3】SNAREタンパク質の配列。
【図11】本発明の融合構築物によるナイーブCD8+ Tリンパ球の刺激。マイクロタイタープレートにおいて、1ウェル当たり1×10個のCD8+リンパ球を、20μgのCMVpp65−TM1またはコントロールRNAを用いてトランスフェクトした2×10個のDCに対して刺激した。培地にIL−6(1000U/ml)およびIL−12(10ng/ml)を補充した。+7日目および+14日目に、融解した、トランスフェクトしたDC(2×10/ウェル)を再刺激に使用し、培地はIL−2(10U/ml)およびIL−7(5ng/ml)を含んだ。+21日目に、コントロールペプチド(1.75μg/ml)に対してそしてpp65重複ペプチド(1.75μg/ml)に対して、全ての集団をELISPOTにおいてアッセイした。CMVpp65−TM1に対して刺激した集団の2つ(Pop.1、Pop.2)が顕著なpp65反応性を示した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗原、膜貫通領域およびMHC分子の鎖の細胞質領域を含む融合分子。
【請求項2】
融合分子がMHC分子の鎖の結合ドメインを含まない、請求項1記載の融合分子。
【請求項3】
膜貫通領域がMHC分子に由来する、請求項1または2記載の融合分子。
【請求項4】
膜貫通領域および細胞質領域がMHC分子の細胞質領域に連結された膜貫通領域に対応する配列を含む、請求項1〜3のいずれか1項記載の融合分子。
【請求項5】
融合分子がリーダー配列をさらに含む、請求項1〜4のいずれか1項記載の融合分子。
【請求項6】
リーダー配列がMHC分子に由来する、請求項5記載の融合分子。
【請求項7】
融合分子が以下の配置を有し:N末端−リーダー配列/抗原/膜貫通領域/細胞質領域−C末端、ここで個々の領域はリンカー配列によって互いに分離されてもよい、請求項5または6記載の融合分子。
【請求項8】
抗原が複数の抗原を含む、請求項1〜7のいずれか1項記載の融合分子。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項記載の融合分子をコードする核酸。
【請求項10】
請求項9記載の核酸を含む宿主細胞。
【請求項11】
請求項1〜8のいずれか1項記載の融合分子の1つ以上および/または請求項9記載の核酸の1つ以上および/または請求項10記載の宿主細胞の1つ以上を含む医薬組成物。
【請求項12】
ワクチンの形態の、請求項11記載の医薬組成物。
【請求項13】
請求項1〜8のいずれか1項記載の融合分子の1つ以上および/または請求項9記載の核酸の1つ以上を細胞に与える工程を包含する、細胞におけるMHC/ペプチド複合体の量を増加させる方法。
【請求項14】
請求項1〜8のいずれか1項記載の融合分子の1つ以上および/または請求項9記載の核酸の1つ以上を細胞に与える工程を包含する、抗原を提示する能力を有する細胞、特にB細胞およびマクロファージ上の細胞表面分子の提示を増加させる方法。
【請求項15】
MHC/ペプチド複合体の量の増加または細胞表面分子の提示の増加により、抗原に応答するT細胞、特にCD4+およびCD8+リンパ球の一次活性化が増強される、請求項13または14記載の方法。
【請求項16】
請求項1〜8のいずれか1項記載の融合分子の1つ以上および/または請求項9記載の核酸の1つ以上および/または請求項10記載の宿主細胞の1つ以上を生体に投与する工程を包含する、生体における免疫応答を誘導する方法。
【請求項17】
請求項1〜8のいずれか1項記載の融合分子の1つ以上および/または請求項9記載の核酸の1つ以上および/または請求項10記載の宿主細胞の1つ以上をT細胞に与えるかまたは生体に投与する工程を包含する、好ましくは生体における、T細胞、特にCD4+およびCD8+リンパ球を刺激または活性化する方法。
【請求項18】
請求項1〜8のいずれか1項記載の融合分子の1つ以上および/または請求項9記載の核酸の1つ以上および/または請求項10記載の宿主細胞の1つ以上を生体に投与する工程を包含する、生体の処置、ワクチン接種または免疫化の方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8−1】
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【図8−2】
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【図8−3】
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【図8−4】
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【図8−5】
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【図9】
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【図10−1】
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【図10−2】
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【図10−3】
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【図11】
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【公表番号】特表2008−500014(P2008−500014A)
【公表日】平成20年1月10日(2008.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−534677(P2006−534677)
【出願日】平成16年10月13日(2004.10.13)
【国際出願番号】PCT/EP2004/011512
【国際公開番号】WO2005/038030
【国際公開日】平成17年4月28日(2005.4.28)
【出願人】(506129429)ヨハネス・グーテンベルク−ウニヴェルジテート・マインツ・フェルトレーテン・デュルヒ・デン・プレジデンテン (5)
【氏名又は名称原語表記】JOHANNES GUTENBERG−UNIVERSITAET MAINZ, VERTRETEN DURCH DEN PRAESIDENTEN
【Fターム(参考)】