組換えAAVベクターの高力価ヘルパーなし調製物を生成するための方法
【課題】遺伝子送達のためのベクターとして使用され得る組換えアデノ随伴ウイルス(AAV)の高力価の、実質的に精製された調製物を産生するための方法および組成物を提供する。
【解決手段】ベクター産生の開始において、該AAVプロデューサー細胞は、1つ以上のAAVパッケージング遺伝子、目的の異種(すなわち、非AAV)トランスジーンを含むAAVベクター、およびアデノウイルスのようなヘルパーウイルスを含む。産生されたAAVベクター調製物は、目的のトランスジーン(例えば、治療遺伝子)の任意の広範な組織および細胞への送達を媒介し得る。該AAVベクター調製物はまた、ヘルパーウイルス、ならびにヘルパーウイルスタンパク質および細胞タンパク質および他の夾雑物を実質的に含まない。ウイルス感染性および/もしくは複製に影響を及ぼす薬剤のスクリーニングの評価において有用である定量的な、高処理能アッセイ。
【解決手段】ベクター産生の開始において、該AAVプロデューサー細胞は、1つ以上のAAVパッケージング遺伝子、目的の異種(すなわち、非AAV)トランスジーンを含むAAVベクター、およびアデノウイルスのようなヘルパーウイルスを含む。産生されたAAVベクター調製物は、目的のトランスジーン(例えば、治療遺伝子)の任意の広範な組織および細胞への送達を媒介し得る。該AAVベクター調製物はまた、ヘルパーウイルス、ならびにヘルパーウイルスタンパク質および細胞タンパク質および他の夾雑物を実質的に含まない。ウイルス感染性および/もしくは複製に影響を及ぼす薬剤のスクリーニングの評価において有用である定量的な、高処理能アッセイ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(発明の分野)
本発明は、一般的に、遺伝子移入に使用され得る、組換えアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターおよびその調製物の分野に関する。より詳細には、本発明は、ヘルパーウイルス(例えば、アデノウイルス)および細胞性タンパク質を実質的に含まない、組換えAAVベクターの高力価の調製物の生成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
(発明の背景)
アデノ随伴ウイルス(AAV)は、遺伝子治療のためのベクターとして魅力的な独特の特徴を有する。アデノ随伴ウイルスは、広範囲の細胞型に感染する。しかし、アデノ随伴ウイルスは、形質転換性でなく、そして、いずれのヒト疾患の病因とも関係していない。DNAのレシピエント宿主細胞への導入は、一般的に、その細胞の正常の代謝を妨げることなく、そのDNAの長時間の残留および発現をもたらす。
【0003】
遺伝子移入、特にヒト遺伝子治療における使用のための組換えAAVベクター調製物の、所望される特徴は、少なくとも3つ存在する。第1に、このベクターが、標的組織における細胞の有効な集団に形質導入するために、十分に高い力価で生成されるべきであることが、好ましい。インビトロでの遺伝子治療は、代表的には、大多数のベクター粒子を必要とする。例えば、いくつかの処置は、108を超える粒子を必要とし得、そして気道への直接的送達による嚢胞性線維症の処置には、1010を超える粒子を必要とし得る。第2に、このベクター調製物が、複製コンピテントなAAV(すなわち、ヘルパーウイルスまたはヘルパーウイルス機能の存在下において複製し得る、表現型としての野生型AAV)を、実質的に含まないべきであることが、好ましい。第3に、このrAAVベクター調製物は、全体として、他のウイルス(例えば、AAV生成に使用されるヘルパーウイルス)ならびにヘルパーウイルスタンパク質および細胞性タンパク質、および脂質および糖質のような他の成分を、実質的に含まず、その結果、遺伝子治療の状況において、免疫応答を生じる危険性を、最小化するか、または除去することが、好ましい。この後者の点は、AAVの状況において特に顕著である。なぜならAAVは、AAV生成のプロセスの間に、有効に複製されて、そしてパッケージングされるために、ヘルパーウイルス(代表的にはアデノウイルス)との同時トランスフェクションまたはヘルパーウイルス機能のその他の提供が必要である、「ヘルパー依存性」ウイルスであるからである。さらに、アデノウイルスは、遺伝子治療適用の状況において、宿主免疫応答を生じることが観察されている(例えば、Byrnesら、Neuroscience 66:1015、1995;McCoyら、Human Gene Therapy 6:1553、1995;およびBarrら、Gene Therapy 2:151、1995を参照のこと)。本発明の方法は、以下に詳細に記載および説明されるように、rAAVベクター調製物のこれらおよび他の所望の特徴に取り組む。
【0004】
AAVウイルス学、および遺伝学の一般的な総説は、他で利用可能である。読者は、特にCarte、「Handbook of Parvoviruses」、第I巻、169〜228ページ(1989)、およびBerns、「Virology」、1743〜1764ページ、Raven Press、(1990)を参照し得る。以下は、読者の便宜のための、手短な概要である。AAVは、複製欠損ウイルスであり、このことは、宿主細胞におけるAAVの複製およびパッケージングサイクルを完成するために、AAVがヘルパーウイルスに依存することを意味する。AAVゲノムは、一般的に、パッケージング遺伝子repおよびcap(他の必要な機能は、ヘルパーウイルスおよび宿主細胞からトランスで提供される)を含む。
【0005】
AAV粒子は、3つのキャプシドタンパク質である、VP1、VP2およびVP3を有する、タンパク質様キャプシドを含み、そして、約4.6kbの直鎖状1本鎖DNAゲノムを内包する。個々の粒子は、1つのDNA分子鎖のみをパッケージングするが、このDNA鎖は、プラス鎖またはマイナス鎖のいずれかであり得る。いずれかの鎖を含有する粒子は、感染性であり、そして親の感染している1本鎖から2本鎖形態への変換、およびその後の増幅(この増幅によって、子孫1本鎖が追い出され、そしてキャプシドにパッケージングされる)によって複製が生じる。AAVゲノムの2本鎖または1本鎖コピー(時として、「プロウイルスDNA」または「プロウイルス」という)は、細菌プラスミドまたはファージミドに挿入され得、そしてアデノウイルス感染細胞にトランスフェクトされ得る。
【0006】
説明の目的で、AAV2血清型の直鎖状ゲノムは、逆方向末端反復(ITR)配列によっていずれかの末端で終結する。ITRの間には、repおよびcap遺伝子を発現するために使用される、3つの転写プロモーターp5、p19、およびp40が存在する(Laughlinら、1979、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 76:5567〜5571)。ITR配列は、シスにおいて必要であり、そして、機能的な複製起点、細胞ゲノムへの組み込み、ならびに宿主細胞染色体または組換えプラスミドからの効率的な切り出しおよびレスキューを提供するのに十分である。repおよびcap遺伝子産物は、ウイルスゲノムの複製およびキャプシド化の機能を、それぞれ提供し、そしてこれらの産物は、トランスで存在することで、その機能には十分である。
【0007】
rep遺伝子は、2つのプロモーター、p5およびp19から発現し、そしてRep78、Rep68、Rep52、およびRep40と称される4つのタンパク質を生成する。Rep78およびRep68のみが、AAVの2重鎖DNA複製に必要であるが、Rep52およびRep40は、子孫にとっての、1本鎖DNAの蓄積に必要なようである(Chejanovskyら、Virology 173:120、1989)。Rep68およびRep78は、AAV ITRのヘアピンコンホメーションに特異的に結合し、そして複製物をAAV末端で分解するために必要とされる、いくつかの酵素活性を有する。Rep78およびRep68はまた、AAV遺伝子およびいくつかの異種プロモーターからの発現のポジティブおよびネガティブ調節、ならびに細胞増殖の阻害効果を含む、多面発現性調節活性を示す。cap遺伝子は、キャプシドタンパク質VP1、VP2およびVP3をコードする。これらのタンパク質は、共通の重複配列を共有するが、VP1およびVP2は、代わりの開始コドンの使用により、p40プロモーターから転写される、さらなるアミノ末端配列を含む。3つのタンパク質の全ては、効果的なキャプシド生成にとって必要である。
【0008】
AAVゲノムは、GCテーリング(Samulskiら、1982、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 79:2077〜2081)、制限エンドヌクレアーゼ切断部位を含有する合成リンカーの付加(Laughlinら、1983、Gene 23:65〜73)、または、直接的な平滑末端の連結(SenanpathyおよびCarter、1984、J.Biol.Chem.、259:4661〜4666)のような手順によって、細菌プラスミド中に導入されてきた。そのようなAAV組換えプラスミドの哺乳動物細胞への、適切なヘルパーウイルスを使用する、トランスフェクションは、全くプラスミド配列を含まないAAVゲノムのレスキューおよび切り出し、レスキューされたゲノムの複製、および子孫の感染性AAV粒子の生成をもたらす。
【0009】
治療目的の異種ポリヌクレオチドを含む組換えAAVベクターは、細菌プラスミド中のAAVコード配列の部分を、異種ポリヌクレオチドで置換することによって、構築され得る。rAAVベクター構築の一般的原理はまた、別に概説されている。例えば、Carter、1992、Current Opoinions in Biotechnology、3:533〜539;およびMuzyczka、1992、Curr.Topics in Microbiol.and Immunol.、158:97〜129を参照のこと。AAVのITRは、一般的に保持されている。なぜなら、ベクターのパッケージングは、ITRがシスで存在することを必要とするからである。しかし、AAVゲノムの他のエレメント、特に、1つ以上のパッケージング遺伝子は、省略され得る。ベクタープラスミドは、省略されたパッケージング遺伝子を、代替的な供給源を介してトランスで供給することにより、AAV粒子中にパッケージングされ得る。
【0010】
1つのアプローチにおいて、AAV ITRに隣接する配列(rAAVベクター配列)、およびトランスで提供されるAAVパッケージング遺伝子は、別個の細菌プラスミドにおいて、宿主細胞中に導入される。このアプローチの例は、Ratschinら、Mol.Cell.Biol.4:2072(1984);Hermonatら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、 81:6466(1984);Tratschinら、Mol.Cell.Biol.5:3251(1985);McLaughlinら、J.Virol.62:1963(1988);およびLebkowskiら、1988 Mol.Cell.Biol.7:349(1988)に記載される。Samulskiら(1989、J.Virol.、63:3822〜3828)は、アデノウイルス由来のITRによって内包される、RepおよびCapコード領域からなる、pAAV/Adと呼ばれるパッケージングプラスミドを記載している。嚢胞性線維症患者由来のヒト気道上皮細胞は、pAAV/AdパッケージングプラスミドおよびAAV p5プロモーターを介して発現する選択マーカー遺伝子neoを含むプラスミドを使用して調製されたAAVベクターを使用して、形質導入されている(Flotteら、Am.J.Respir.Cell.Mol.Biol.7:349、1992)。
【0011】
第2のアプローチは、ベクター配列、またはAAVパッケージング遺伝子のいずれかを、AAV複製のために使用される哺乳動物細胞においてエピソーム型のプラスミドの形態において提供することである。例えば、米国特許第5,173,414号は、ベクター配列が、高コピーのエピソーム型プラスミドとして存在する細胞株を記載する。この細胞株は、トランス相補性のAAV機能のrepおよびcapで形質導入され、AAVベクターの調製物を生成し得る。このアプローチは理想的ではない、なぜなら、1細胞あたりのコピー数は、厳密には制御され得ず、そしてエピソーム型DNAは、再編成され、ベクター副産物の生成をもたらす可能性が高いからである。
【0012】
第3のアプローチは、複製のために使用される哺乳動物細胞のゲノム中に安定に組み込まれる、ベクター配列か、またはAAVパッケージング遺伝子、あるいはその両方のいずれかを提供することである。
【0013】
1つの例示的な技術が、国際特許出願WO95/13365(Targeted Genetics CorporationおよびJohns Hopkins University)および対応する米国特許第5,658,776号(Flotteらによる)において概説される。この例は、哺乳動物細胞を、安定に組み込まれたrAAVベクターの少なくとも1つのインタクトなコピーとともに使用し、ここで、このベクターは、AAV ITRおよび標的ポリヌクレオチドに作動可能に連結した転写プロモーターを含むが、ここで、repの発現は制限されている。好ましい実施態様において、細胞中に導入された異種AAVに作動可能に連結したrep遺伝子を含むAAVパッケージングプラスミドは、細胞に導入され、次にその細胞は、AAVベクター配列の複製、および粒子へのパッケージングを可能にする条件下でインキュベートされる。
【0014】
第2の例示的な技術は、特許出願WO95/13392(Trempeら)において概説される。この例は、機能的なRepタンパク質の発現を可能にするように、異種プロモーターと作動可能に連結したAAV rep遺伝子を有する安定な哺乳動物細胞株を使用する。種々の好ましい実施態様において、AAV cap遺伝子は、安定に提供され得るか、または一過性に導入され得る(例えば、プラスミド上で)。組換えAAVベクターはまた、安定にか、または一過的に導入され得る。
【0015】
別の例示的な技術は、特許出願WO96/17947(Targeted Genetics Corporation.J.Allen)において概説される。この例は、安定に組み込まれたAAV cap遺伝子、および異種プロモーターに作動可能に連結し、そしてヘルパーウイルスによって誘導可能な、安定に組み込まれたAAV rep遺伝子を含む哺乳動物細胞を使用する。種々の好ましい実施態様において、ベクター配列を含むプラスミドはまた、細胞に導入(安定的か、または一過性のいずれかで)される。次に、AAVベクター粒子のレスキューは、ヘルパーウイルスの導入によって開始される。
【0016】
これら種々の例は、十分に高力価のAAVを提供し、ベクターとパッケージング成分の間の組換えを最小限にし、そして哺乳動物細胞株におけるAAV rep遺伝子の発現に関連する可能性のある困難さを減少するか、または回避するという、問題に取り組む(なぜなら、Repタンパク質は、それ自体の発現を制限し得るばかりではなく、細胞の代謝にも影響を及ぼし得るからである)。しかし、AAVベクターのウイルス粒子中へのパッケージングは、いまだ、AAVについての適切なヘルパーウイルスの存在か、またはヘルパーウイルス機能の提供に依存する。AAV複製を補助し得るヘルパーウイルスは、アデノウイルスによって例示されるが、ヘルペスウイルスおよびポックスウイルスのような他のウイルスを含む。AAVベクターの調製における感染性ヘルパーウイルスの十分な量の存在は、その調製がヒト投与における使用を意図する場合に、問題となる。非複製性のヘルパーウイルス成分の存在でさえも、処置される患者において、受け入れられない免疫反応を生じ得る。
【0017】
ヘルパーウイルス抗原によって誘発される可能性のある問題は、近年のいくつかの研究において、示されている。Byrnesら(Neuroscience 66:1015、1995)は、E1領域が欠失した、非複製性5型ヒトアデノウイルスを、同系ラットの脳に注入した。細胞へのウイルス感染による新しいウイルスタンパク質の発現に起因するというよりはむしろ、粒子の投与に起因する、炎症応答が観察された。ウイルスの存在は、MHCクラスIの発現の増加およびマクロファージおよびT細胞の大量の浸潤と関連する。McCoyら(Human Gene Therapy 6:1553,1995)は、インタクトなアデノウイルス、不完全なゲノムのアデノウイルス、または紫外線光によって不活化されたアデノウイルスを、マウスの肺に滴下した。全ての誘導された肺の炎症、および肺組織における炎症細胞の数は、その3つの全ての形態のウイルスについて、量的に類似していた。Barrら(Gene Therapy 2:151、1995)によって行われた、正常マウスおよび免疫不全マウスにおける、アデノウイルス構築物を使用した比較実験は、抗アデノウイルス免役応答が主にT細胞媒介性であり、そしてその後の用量に影響する記憶応答を生じることを示す。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
従って、遺伝子治療における使用のためのような組換えAAVベクターの開発において、この方法が、同時に遺伝子治療技術への実際の適用に適切なスケールにおいて有効に使用され得るように、AAVの高力価をなお達成しながら、最終調製物中に存在するヘルパーウイルスならびにヘルパーウイルスタンパク質および細胞性タンパク質の量を最小化する戦略の必要性が存在する。
【0019】
AAVベクター調製物の高力価は、特に有用であるが、高力価のrAAVの生成(特にラージスケール生成において)が、混入するヘルパーウイルス(例えば、アデノウイルスすなわち「Ad」)、ヘルパーウイルスタンパク質(例えば、Adタンパク質)、および/または細胞性タンパク質の有意な量を生じ得るので、混入するウイルスおよび/またはウイルス性もしくは細胞性タンパク質を実質的に含まない高力価調製物の生成のために使用され得る、rAAVの拡大縮小可能な生成方法を設計することが特に重要となった。本開示は、これらの拮抗する目的を達成する方法を提供し、そして組換えAAVベクター調製物のラージスケール生成のために使用され得る技術を示す。
【課題を解決するための手段】
【0020】
(発明の要旨)
本発明は、ヘルパーウイルス、ヘルパーウイルスタンパク質、および細胞性タンパク質および他の成分を実質的に含まない、アデノ随伴ウイルス(AAV)の高力価調製物を生成する、方法および物質を提供する。
【0021】
本発明の実施態様は、以下を含むが、これらに限定されない。
【0022】
組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)粒子の集団を生成する方法であって、この方法は、以下の工程:a)AAVプロデューサー細胞であって、以下、(i)1つ以上のAAVパッケージング遺伝子であって、ここでこのAAVパッケージング遺伝子の各々は、AAV複製タンパク質またはキャプシド化タンパク質をコードする、遺伝子;(ii)少なくとも1つのAAV逆方向末端反復(ITR)に隣接する、異種非AAVポリヌクレオチドを含む組換えAAV(rAAV)プロベクター;ならびに(iii)AAVのためのヘルパーウイルス、を含むAAVプロデューサー細胞を提供する工程;b)工程a)において提供されたプロデューサー細胞を、AAVの複製を許容する条件下でインキュベートする工程;c)工程b)のインキュベーション後にプロデューサー細胞を溶解して、AAVプロデューサー細胞溶解物を生成する工程;ならびにd)少なくとも1つの正に荷電した陰イオン交換樹脂、および少なくとも1つの負に荷電した陽イオン交換樹脂を含む、複数のイオン交換樹脂上で、工程c)のAAVプロデューサー細胞溶解物をクロマトグラフィーして、rAAVベクター粒子の精製された集団を生成するか、または工程c)のAAVプロデューサー細胞溶解物を、陰イオン交換樹脂、その後の接線流濾過(TFF)によってクロマトグラフィーをする工程、を包含する。
【0023】
請求項1に記載のrAAV粒子の集団を生成する方法であって、ここで、このヘルパーウイルスがアデノウイルスであるか、または温度感受性ヘルパーウイルスであり、そしてプロデューサー細胞をインキュベートするこの工程が、AAVの複製を許容するが、温度感受性ヘルパーウイルスの複製の許容しない温度で行われる、方法。
【0024】
rAAV粒子の集団を生成する方法であって、ここで、プロデューサー細胞をインキュベートする工程が、組織培養フラスコ、ローラーボトル、スピナー(spiner)フラスコ、タンクリアクター、ファーメンター、およびバイオリアクター、からなる群から選択される容器において行われ、必要に応じてマイクロキャリアを使用し、そして好ましくは、懸濁に適合した哺乳動物細胞株を使用する、方法。
【0025】
組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)粒子の集団を生成する方法であって、以下の工程:a)AAVプロデューサー細胞であって、以下、(i)1つ以上のAAVパッケージング遺伝子であって、ここで、このAAVパッケージング遺伝子の各々がAAV複製タンパク質またはキャプシド化タンパク質をコードする、遺伝子;(ii)少なくとも1つのAAV逆方向末端反復(ITR)に隣接する、異種非AAVポリヌクレオチドを含む組換えAAV(rAAV)プロベクター;ならびに(iii)AAVのためのヘルパーウイルス、または少なくとも1つのヘルパーウイルス機能をコードするこのヘルパーウイルスのポリヌクレオチド配列、を含むAAVプロデューサー細胞を提供する工程;b)工程a)において提供されたプロデューサー細胞を、致死量未満のストレスに供する工程;ならびにc)工程b)のストレスを受けたプロデューサー細胞を、AAVの複製を許容する条件下でインキュベートする工程、を包含する方法。致死量未満のストレスの可能性のある形態は、栄養ストレス、浸透圧ストレス、pHストレス、温度ストレス、有酸素性ストレス、機械的ストレス、放射線ストレス、および毒性ストレス、からなる群から選択され得るが、これらに限定されない。栄養ストレスを負わせる非限定的な例は、プロデューサー細胞を1つ以上のアミノ酸の欠失する培地において培養することによる。さらなる説明を以下に提供する。
【0026】
rAAV粒子の集団を生成する方法であって、ここで、この精製されたrAAVベクター粒子の集団は、複製コンピテントなAAVおよびヘルパーウイルスおよび細胞性タンパク質を実質的に含まない、方法。
【0027】
組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)粒子の集団を生成する方法であって、以下の工程:a)AAVプロデューサー細胞であって、以下、(i)1つ以上のAAVパッケージング遺伝子であって、ここで、このAAVパッケージング遺伝子の各々が、AAV複製タンパク質またはキャプシド化タンパク質をコードする、遺伝子;(ii)少なくとも1つのAAV逆方向末端反復(ITR)に隣接する、異種非AAVポリヌクレオチドを含む組換えAAV(rAAV)プロベクター;ならびに(iii)AAVのためのヘルパーウイルス、を含むAAVプロデューサー細胞を提供する工程;b)工程a)において提供されたプロデューサー細胞を、AAVの複製を許容し、そしてAAVプロデューサー細胞の致死量未満のストレスの誘導を含む条件下でインキュベートする工程;c)工程b)のインキュベーション後にプロデューサー細胞を溶解して、AAVプロデューサー細胞溶解物を生成する工程;ならびにd)このAAVプロデューサー細胞を精製して、組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)粒子の集団を生成する工程、を包含する、方法。適切な精製方法は、本開示において、他の場所において記載されるものを含む。例示的な精製手順は、工程c)のAAVプロデューサー細胞溶解物を、正に荷電した陰イオン交換樹脂、および負に荷電した陽イオン交換樹脂からなる群から選択される、少なくとも1つのクロマトグラフィー樹脂上でクロマトグラフをして、精製されたrAAVベクター粒子の集団を生成する工程を、包含する(好ましい方法としては、陰イオン交換後の、陽イオン交換または接線流濾過(TFF)が挙げられる)。説明のためのクロマトグラフィー手順(イオン交換クロマトグラフィーおよびヘパラン硫酸(heparin sulfate)でのクロマトグラフィー精製を含む)は、以下に例示の目的で、提供される。
【0028】
組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)粒子を、高効率で生成するための宿主細胞は、以下:a)1つ以上のAAVパッケージング遺伝子であって、ここで、このAAVパッケージング遺伝子の各々は、AAV複製タンパク質またはキャプシド化タンパク質をコードする、遺伝子;b)rAAVプロウイルスを使用してこの宿主細胞に導入された異種ポリヌクレオチドであって、ここでこのrAAVプロベクターは、少なくとも1つのAAV逆方向末端反復(ITR)に隣接する異種ポリヌクレオチドを含み、そしてこのベクターは、このAAVパッケージング遺伝子において欠損している、ポリヌクレオチド;c)AAVについて温度感受性ヘルパーウイルス(tsHV)のようなヘルパーウイルスであって、ここでこのtsHVは、自己複製について温度感受性である、ヘルパーウイルス、を包含する。
【0029】
本発明の生成方法のいずれかに従って生成される、rAAV粒子の集団。好ましくは、粒子の集団は、1,000の感染性rAAV粒子あたり、約1以下の感染性アデノウイルス粒子を含み、好ましくは、106rAAVあたり1未満であり、さらにより好ましくは、109中に約1未満である。
【0030】
例えば、ウイルス調製物の力値測定において、ならびにウイルス複製に影響する因子のスクリーニングにおいて使用され得る高スループットアッセイ技術もまた、提供される。
【0031】
本発明のこれら、および他の実施態様は、下記の記載において概説される。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】図1は、rAAVベクター中に含有される、モデルCF治療的遺伝子についてのプローブを使用した、rAAVベクター生成についてのサザン分析の、ハーフトーンの複写である。1.4kbの顕著なバンドは、調製物中のrAAVの存在を示す。ヘルパー機能を、5型アデノウイルス(Ad5)によってか、またはアデノウイルス温度感受性株ts149によって、供給した。
【図2】図2は、各調製物に存在するrAAVのレベルを定量するための、rAAVベクター生成についてのスロットブロット分析のハーフトーン複写である。ヘルパー機能が、ts149によって供給される場合、標準的な培養条件下で生成されるrAAVの量は、Ad5存在下で生成される場合より数桁低い。
【図3】図3は、rAAVのサザン分析のハーフトーン複写であり、これは、ts149のレベルの上昇がrAAV生成のレベルを改善しないことを示す。
【図4】図4は、培養時間が5日を越える場合、ts149の存在下における生成されたrAAVの量における劇的な増加を示す、棒グラフである(斜線の棒)。このことは、温度感受性でないアデノウイルスをヘルパー機能の供給のために使用した場合の5日目以降に生じる、rAAVの実質的な減少(黒色の棒)と著しく対照的である。
【図5】図5は、37℃(丸)または32℃(四角)における懸濁培養において増殖するHeLa S3細胞の、生存細胞密度(VCD)を示す折れ線グラフである。
【図6】図6は、懸濁培養において増殖するHeLa S3細胞での、2つの異なる速度における接線流濾過の効果を示す線グラフである。
【図7】図7は、ミクロフルイダイゼーション(MF)の7日目に検出されたレベルと比較した、32℃の許容温度での懸濁物中に3〜7日間培養された感染されたHeLa S3細胞において検出されたts149の生成を示す、棒グラフである。
【図8】図8は、PIマトリクス上での陰イオン交換クロマトグラフィー(pH8.0、900〜1300ミリ当量のNaCl勾配での溶出)によるts149の精製を示す組み合わせグラフである。
【図9】図9は、PI陰イオン交換マトリクス上(pH8.0、800〜1300ミリ当量のNaCl勾配での溶出)でのアデノウイルスの精製を示す組み合わせグラフである。棒:感染性アッセイにおいて測定されたウイルス活性;実線:A280(総タンパク質の尺度);破線:緩衝液伝導率(ms)。
【図10】図10は、アデノウイルスおよび組換えAAVの分離を示す組み合わせグラフである。上部のパネルは、PI陰イオン交換マトリクス上(pH8.0、0〜1000ミリ当量のNaCl勾配での溶出)での分離を示す。下部のパネルは、引き続いての、HS陽イオン交換マトリクス上(pH8.0、0〜500ミリグラム当量のNaCl勾配での溶出)での、混入物からのアデノウイルスの分離を示す。
【図11】図11は、培養培地におけるrAAV生成に対する、胎児ウシ血清レベル(FBS)の効果を示す、2つの棒グラフである。培養培地における血清の欠損は、ウイルス粒子の生成を増強するためにプロデューサー細胞が供され得る多数のストレス要素の1つである。
【図12】図12は、精製工程の間のAAVタンパク質についてのSDSポリアクリルアミドゲル分析の、ハーフトーン複写である。AAV調製物を、陰イオン交換カラム(POROS 50 PI)でのクロマトグラフィー後に、接線流濾過に供した。銀染色したゲルは、最終的な大量の物質中の、高度に精製されたAAVキャプシドタンパク質であるVP1、VP2、およびVP3を示す。
【図13】図13は、ヘパラン硫酸(heparin sulfate)カラムでのAAVの濃縮を示すクロマトグラフィーである。0〜1M NaClの直線勾配を用いてヘパラン硫酸から溶出する場合(右側の軸に示されるmsでの伝導率)、約18分の溶出における、280nmでの吸光度(左側の軸)のシャープなピークは、AAV画分(陰イオン交換および接線流濾過の後)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0033】
(発明の詳細な説明)
本発明の目的は、ヘルパーウイルス、ヘルパーウイルスタンパク質、ならびに細胞性タンパク質および他の成分を実質的に含まない、アデノ随伴ウイルス(AAV)の高力価調製物を生成するための方法および物質を提供することである。
【0034】
哺乳動物細胞においてAAV粒子を生成および処理するための種々の方法は、以下に詳細に記載され、そして、そのような技術の使用の例証は、以下の実施例において提供される。
【0035】
導入の目的で、宿主細胞または「プロデューサー」細胞を、rAAVベクターの複製およびパッケージングのために使用することは、代表的である。そのようなプロデューサー細胞(通常は、哺乳動物宿主細胞)は、一般的に、rAAV生成のためのいくつかの異なるタイプの成分を、含むか、または含むように改変される。第1の成分は、複製し得、そして宿主パッケージング細胞によって、ベクター粒子中にパッケージングされ得る、組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)ベクターゲノム(すなわち、「rAAVプロベクター」)である。このrAAVプロベクターは、異種ポリヌクレオチド(または「トランスジーン」)を、通常含有する。この異種ポリヌクレオチドを用いて、遺伝子治療の状況において、他の細胞を遺伝子改変することが所望される(なぜなら、そのようなトランスジーンのrAAVベクター粒子へのパッケージングは、種々の哺乳動物細胞にそのトランスジーンを送達するために、有効に使用され得るからである)。このトランスジーンは、一般的に、AAVベクターの切り出し、複製およびパッケージング、ならびにベクターの宿主細胞ゲノムへの組み込みの間に認識される配列を含む、2つのAAV逆方向末端反復(ITR)に隣接する。第2の成分は、AAV複製にヘルパー機能を提供し得るヘルパーウイルスである。アデノウイルスが、一般的に使用されるが、当該分野において公知である他のヘルパーウイルスもまた、使用され得る。あるいは、必要とされるヘルパーウイルス機能は、ヘルパーウイルスから遺伝子的に単離され得、そしてそのコードする遺伝子は、トランスにおいてヘルパーウイルス機能を提供するために使用され得る。AAVベクターエレメントおよびそのヘルパーウイルス(またはヘルパーウイルス機能)は、同時にか、または任意の順番で連続的にのいずれかで、その宿主細胞に導入され得る。そのプロデューサー細胞において提供されるAAV生成のための最終成分は、複製タンパク質およびキャプシド化タンパク質をそれぞれ提供する、AAVのrepおよびcap遺伝子のような「AAVパッケージング遺伝子」である。AAVパッケージング遺伝子のいくつかの異なるバージョンが、提供され得る(野生型rep−capカセット、ならびにrepおよび/またはcap遺伝子が、ネイティブプロモーターの制御下におかれたままであり得るか、または異種プロモーターに作動可能に連結され得る、改変repおよび/またはcapカセットを含む)。そのようなAAVパッケージング遺伝子は、当該分野において公知であり、そして以下により詳細に記載されるように、一過性にか、または安定的にのいずれかで、宿主パッケージング細胞中に導入され得る。
【0036】
AAV複製およびキャプシド化を許容する条件下で、その宿主細胞を培養した後、その細胞および細胞成分の画分を処理して、ヘルパーウイルス、ヘルパーウイルスタンパク質、および細胞性タンパク質を実質的に含まない、アデノ随伴ウイルス(AAV)の高力価調製物を生成し得る。そのような技術を使用する、処置技術および例示的プロトコールの詳細な記載は、以下に提供される。
【0037】
(定義)
本明細書において使用する場合、「ベクター」とは、ポリヌクレオチドを含むか、またはポリヌクレオチドと会合して、そして細胞へのポリヌクレオチドの送達を媒介するために使用され得る、高分子または高分子の会合物をいう。例示的なベクターとしては、例えば、プラスミド、ウイルスベクター、リポソームおよび他の遺伝子送達ビヒクルが挙げられる。
【0038】
「AAV」は、アデノ随伴ウイルスの略語であり、そして、ウイルス自体か、またはその誘導体を参照するために使用され得る。この用語は、そうでないことが要求される場合を除いて、すべてのサブタイプ、ならびに、天然の形態および組換え形態の両方を包含する。略語「rAAV」とは、組換えアデノ随伴ウイルスをいい、そしてまた、組換えAAVベクター(すなわち、「rAAVベクター」)としても呼ばれる。
【0039】
本明細書において使用する場合、「rAAVベクター」とは、AAV起源ではないポリヌクレオチド(すなわち、AAVに対して異種のポリヌクレオチド)配列(代表的には、細胞の遺伝子形質転換のための、目的の配列)を含むAAVベクターをいう。本発明の好ましいベクター構築物において、異種ポリヌクレオチドは、少なくとも1つ、好ましくは2つのAAV逆方向末端反復配列(ITR)に隣接する。この用語rAAVベクターは、rAAVベクター粒子およびrAAVベクタープラスミドの両方を包含する。
【0040】
「AAVウイルス」または「AAVウイルス粒子」とは、少なくとも1つのAAVキャプシドタンパク質(好ましくは、野生型AAVのキャプシドタンパク質の全て)、およびキャプシド化されたポリヌクレオチドからなる、ウイルス粒子をいう。その粒子が異種ポリヌクレオチド(すなわち、哺乳動物細胞に送達されるトランスジーンのような、野生型AAVゲノム以外のポリヌクレオチド)を含む場合、代表的には、「rAAVベクター粒子」または単に「rAAVベクター」という。
【0041】
「パッケージング」とは、AAV粒子のアセンブリおよびキャプシド化を生じる、一連の細胞内事象をいう。
【0042】
AAVの「rep」および「cap」遺伝子とは、アデノ随伴ウイルスの複製およびキャプシド化タンパク質をコードするポリヌクレオチド配列をいう。これらは、試験された全てのAAV血清型において見出され、そして当該分野において以下に記載される。AAV repおよびcapは、本明細書においてAAV「パッケージング遺伝子」という。
【0043】
AAVのための「ヘルパーウイルス」とは、AAV(例えば、野生型AAV)の哺乳動物細胞内による複製およびパッケージングを可能にするウイルスをいう。AAVのための種々のそのようなヘルパーウイルスは、当該分野において公知であり、これはアデノウイルス、ヘルペスウイルス、およびワクシニアウイルスのようなポックスウイルスを含む。サブグループCの5型アデノウイルスが最も一般的に使用されるが、このアデノウイルスは、多数の異なるサブグループを包含する。ヒト、非ヒト哺乳動物およびトリ起源の多数のアデノウイルスが、公知であり、そしてATCCのような寄託機関から入手可能である。ヘルペスファミリーのウイルスとしては、例えば、単純ヘルペスウイルス(HSV)およびエプスタイン−バーウイルス(EBV)、ならびにサイトメガロウイルス(CMV)および仮性狂犬病ウイルス(PRV)が挙げられる;これらもまた、ATCCのような寄託機関から入手可能である。
【0044】
用語「tsHV」とは、温度感受性ヘルパーウイルスをいう。このウイルスは、AAVの複製およびパッケージングのためにヘルパー機能を提供し得るが、それ自体の複製に関して、温度感受性である(すなわち、このウイルスは、「許容」温度では複製し得るが、「非許容」温度においては、低効率で複製するか、または好ましくは、全く複製しない)。tsHVがAAV複製の補助を提供する能力はまた、温度感受性であり得るが、本発明の使用に好ましいtsHVは、AAVが複製し得るが、tsHVの複製にとっては非許容的な温度で、AAVの複製を効率的に支持する。そのようなtsHVの例を以下に記載する。
【0045】
「感染性」ウイルスまたはウイルス粒子は、ウイルス種が向性(trophic)である細胞に送達され得るポリヌクレオチド成分を含むものである。この用語は、ウイルスの複製能力を意味する必要は、全くない。感染性ウイルス粒子を計数するアッセイは、本開示および当該分野において、他の箇所に記載される。
【0046】
「複製コンピテント」ウイルス(例えば、複製コンピテントAAV、時として「RCA」と省略される)とは、感染性の野生型表現型ウイルスをいい、そしてまた、感染した細胞(すなわち、ヘルパーウイルスまたはヘルパーウイルス機能の存在下)において複製し得る。AAVの場合、複製コンピテンスは、機能的なAAVパッケージング遺伝子の存在を、一般的に必要とする。本明細書に記載される好ましいrAAVベクターは、1つ以上のAAVパッケージング遺伝子の欠損のために、哺乳動物細胞(特にヒト細胞)において複製コンピテントでない。好ましくは、そのようなrAAVベクターは、RCAがAAVパッケージング遺伝子と進入するrAAVベクターとの間の組換えによって生じる可能性を最少化するために、AAVパッケージング遺伝子配列を完全に欠損する。本明細書において記載される好ましいrAAVベクター調製物は、RCAを(存在するとしても)ほとんど含まない調製物である(好ましくは、102rAAV粒子あたり、約1RCA未満、より好ましくは、104rAAV粒子あたり約1RCA未満、さらにより好ましくは、108rAAV粒子あたり約1RCA未満、なおより好ましくは、1012rAAV粒子あたり約1RCA未満、最も好ましくは、RCAを含まない)。
【0047】
用語「ポリヌクレオチド」とは、デオキシリボヌクレオチドまたはリボヌクレオチドあるいはそれらのアナログを含む、任意の長さのヌクレオチドのポリマー形態をいう。ポリヌクレオチドは、改変ヌクレオチド(例えば、メチル化ヌクレオチドおよびヌクレオチドアナログ)を含み得、そして非ヌクレオチド成分によって中断され得る。存在する場合、ヌクレオチド構造の改変は、ポリマーへのアセンブリの、前または後になされ得る。本明細書において使用する場合、用語ポリヌクレオチドとは、互換可能に、2本鎖および1本鎖分子をいう。他に特定されるか、または必要とされない限り、本明細書に記載の任意の実施態様において、ポリヌクレオチドは、2本鎖形態、および2本鎖形態を形成することが公知であるかまたは予想される、2つの相補的な1本鎖形態の各々の両方を含む。
【0048】
「遺伝子」とは、転写そして翻訳された後に、特定のタンパク質をコードし得る、少なくとも1つのオープンリーディングフレームを含むポリヌクレオチドをいう。
【0049】
ポリヌクレオチドに適用される場合、「組換え体」とは、そのポリヌクレオチドが、クローニング、制限または連結工程、ならびに天然に見出されるポリヌクレオチドとは異なる構築物を生じる他の手順の種々の組み合わせの産物であることを意味する。組換えウイルスは、組換えポリヌクレオチドを含むウイルス粒子である。この用語は、それぞれ、起源のポリヌクレオチド構築物の複製物、および起源のウイルス構築物の子孫を含む。
【0050】
「制御エレメント」または「制御配列」は、ポリヌクレオチドの機能的調節(ポリヌクレオチドの複製、重複、転写、スプライシング、翻訳または分解を含む)に寄与する分子の相互作用に関与するヌクレオチド配列である。この調節は、プロセスの頻度、速度または特異性に影響し得、その性質を増強、または阻害し得る。当該分野において公知の制御エレメントとしては、例えば、プロモーターおよびエンハンサーのような転写調節配列が挙げられる。プロモーターは、特定の条件下で、RNAポリメラーゼに結合し、そして通常下流に位置するコード領域の転写をプロモーターから(3’方向に)開始し得るDNA領域である。
【0051】
「作動可能に連結した」とは、遺伝子エレメントの近傍位置をいい、ここで、このエレメントは、予想された様式において、作動することを許容する関係に存在する。例えば、プロモーターがコード配列の転写の開始を補助する場合、そのプロモーターは、コード領域に作動可能に連結する。そのプロモーターとコード領域の間には、この機能的関係が維持される限り、介在残基が存在し得る。
【0052】
「発現ベクター」とは、目的のポリペプチドをコードする領域を含むベクターであり、そして意図された標的細胞においてタンパク質の発現をもたらすために使用される。発現ベクターはまた、コード領域に作動可能に連結された制御エレメントを含み、その標的でのタンパク質の発現を容易にする。制御エレメント、および発現のためにその制御エレメントが作動可能に連結された遺伝子(単数または複数)の組み合わせは、時として、「発現カセット」といい、当該分野において公知でありそして利用可能な大多数の発現カセットが、当該分野において利用可能な成分から容易に構築され得る。
【0053】
「異種」とは、比較されるその他の実体とは遺伝型が異なる実体に由来することを意味する。例えば、遺伝子操作技術によって、異なる種由来のプラスミドまたはベクターに導入されたポリヌクレオチドは、異種ポリヌクレオチドである。そのネイティブなコード配列から取り出され、そして天然には連結されていることが見出されないコード配列に作動可能に連結したプロモーターは、異種プロモーターである。
【0054】
「遺伝子改変」とは、遺伝子エレメントが、有糸分裂または減数分裂以外によって細胞中に導入されるプロセスをいう。このエレメントは、細胞にとって異種であり得るか、またはその細胞に既に存在するエレメントのさらなるコピーか、もしくは改善されたバージョンであり得る。遺伝子改変は、例えば、当該分野において公知の任意のプロセス(例えば、エレクトロポーレーション、リン酸カルシウム沈殿、またはポリヌクレオチド−リポソーム複合体との接触)を介して、細胞を組換えプラスミドまたは他のポリヌクレオチドでトランスフェクトすることによって、行われ得る。遺伝子改変はまた、例えば、DNAまたはRNAのウイルスまたはウイルスベクターを用いる形質導入か、または感染によって行われ得る。好ましくは、遺伝子エレメントは、細胞中の染色体またはミニクロモソーム中に導入される;しかし、細胞およびその子孫の表現型および/または遺伝子型を変更する任意の改変は、この用語に含まれる。
【0055】
遺伝子配列が、インビトロにおける細胞の延長された培養の間に、その機能の実施のために利用可能である場合、その細胞は、この配列で「安定的に」改変、形質導入、または形質転換されると言われる。好ましい例において、そのような細胞は、改変された細胞の子孫によってまた遺伝される遺伝子改変が導入されるという点で、「遺伝的に」改変される。
【0056】
用語「ポリペプチド」、「ペプチド」および「タンパク質」は、本明細書において、互換可能に使用され、任意の長さのアミノ酸のポリマーをいう。この用語はまた、改変された(例えば、ジスルフィド結合形成、グリコシル化、リピド化、または標識成分との結合)アミノ酸のポリマーを含む。
【0057】
「CFTR」、「p53」、「E1A」などのようなポリペプチドは、遺伝子治療およびそのための組成物の状況において、インタクトなタンパク質の所望の生物学的機能を保持する、各々のインタクトなポリペプチド、またはそのフラグメントもしくは遺伝的に操作された誘導体をいう。同様に、CFTR、p53、E1A遺伝子および遺伝子治療における使用のための他のこのような遺伝子は(代表的に、レシピエント細胞に送達される「トランスジーン」という)、インタクトなポリペプチド、または所望の生物学的機能を有する、任意のフラグメントもしくは遺伝子操作された誘導体をコードするポリヌクレオチドを含む。
【0058】
「単離された」プラスミド、ウイルス、または他の物質とは、この物質または類似物質が天然に存在するかまたはもともとそこから調製されるところに存在し得る他の成分の少なくともいくつかを欠く物質の調製物をいう。それゆえ、例えば、単離された物質は、供給源混合物から、この物質を富化する精製技術を使用することにより調製され得る。富化は絶対基準(例えば、溶液中の容量あたりの重量)に対して測定され得るか、または供給源混合物中に存在する第2の潜在的に干渉する物質に関して測定され得る。本発明の実施態様の富化を増加することは、さらにより好ましい。従って、例えば、2倍の富化が好ましく、10倍の富化はより好ましく、100倍の富化はより好ましく、1000倍の富化はさらにより好ましい。
【0059】
AAVの調製物は、感染性AAV粒子に対する感染性ヘルパーウイルス粒子の比が少なくとも約102:1;好ましくは、少なくとも約104:1;より好ましくは、少なくとも約106:1;なおより好ましくは、少なくとも約108:1である場合、ヘルパーウイルスを「実質的に含まない」といわれる。調製物はまた、好ましくは、等量のヘルパーウイルスタンパク質を含まない(すなわち、もし上に記載のヘルパーウイルス粒子不純物が破壊された形態で存在するならば、タンパク質はヘルパーウイルスのそのようなレベルの結果と同程度に存在する)。ウイルスおよび/または細胞タンパク質の夾雑物は、SDSゲル上のクマシー染色のバンドの存在として、一般的に、観察され得る(例えば、AAVキャプシドタンパク質VP1、VP2、およびVP3に対応するバンド以外のバンドの出現)。
【0060】
ウイルスの生成、複製、またはパッケージングの記載において使用される場合、「効率」とは、方法の有用な性質(特に、増殖速度、および1細胞あたり生成さえるウイルス粒子の数)をいう。「高効率」生成は、特定の培養期間の課程にわたり、1細胞あたり少なくとも100のウイルス粒子、好ましくは1細胞あたり、約10,000、そしてより好ましくは、少なくとも約100,000粒子の生成を示す。
【0061】
本発明に従って処置される「個体」または「被検体」とは、脊椎動物、特に哺乳動物種のメンバーをいい、そしてこれには家畜動物、競技用動物およびヒトを含む霊長類を含むが、これらに限定されない。
【0062】
個体または細胞の「処置」は、処置が開始される時点での、その個体またはその細胞の本来の経過を変化させようとする、任意の型の介入である。例えば、個体の処置は、任意の病理学的状態(遺伝性および誘発型遺伝的欠損、ウイルスか、細菌か、寄生生物による感染、新生物または形成不全状態、あるいは自己免疫または免役抑制のような免疫系機能不全を含むがこれらに制限されない)により生じる病理を減少するか、または制限するために行われ得る。処置は、組成物(例えば、薬学的組成物)の投与、および組成物で処置された適合性細胞の投与を含むがこれらに制限されない。処置は、予防的かまたは治療的のいずれか(すなわち、病理学的事象の開始または病因の因子との接触の、前または後のいずれか)に行われ得る。
【0063】
(一般的技術)
本発明の実施は、他に示さない限り、当業者にとって公知である、従来の分子生物学、ウイルス学、動物細胞培養および生化学の技術を使用する。そのような技術は、文献において十分に例示される。例えば、「Molecular Cloning:A Laboratory Manual」、第2版(Sambrook、FritschおよびManiatis、1989);「Animal Cell Culture」(R.I.Freshney、編、1987);「Gene Transfer Vectors for Mammalian Cells」(J.M.MillerおよびM.P.Calos、編、1987);「Current Protocols in Molecular Biology」(F.M.Ausbelら、編、1987);「Current Protocols in Protein Science」(John E Coliganら、編、Wiley and Sons、1995);ならびに「Protein Purification: Principles and Practice」(Robert K.Scopes、Springer−Verlag、1994)を参照のこと。
【0064】
本明細書の上記および下記の両方において言及される全ての特許、特許出願、文献および刊行物は、本明細書において参考として援用される。
【0065】
(AAVベクターおよびAAVパッケージング遺伝子の選択および調製)
本発明の組換えAAVベクターは、通常AAVゲノムの大部分を構成するAAVのrepおよび/またはcap遺伝子の代わりに、目的の異種(すなわち、非AAV)ポリヌクレオチドを含む。しかし、野生型AAVゲノムにおける場合のように、rAAVプロベクターは、好ましくは、上記の2つのAAVの逆方向末端反復(ITR)に隣接する。rAAV構築物が単一の(代表的には改変された)ITRに隣接するバリエーションもまた、当該分野において記載され、そして本発明との関連において使用され得る。
【0066】
任意の血清型のアデノ随伴ウイルスが、適切である。なぜなら、種々の血清型は、遺伝子レベルにおいてさえ、機能的および構造的に関連するからである(例えば、Blacklow、「Parvovirus and Human Disease」、J.R.Pattison、編(1988)の165〜174頁;およびRose、Comprehensive Virology 3:1、1974を参照のこと)。全てのAAV血清型は、相同rep遺伝子によって媒介される、明らかに類似の複製特性を示す;そして、その全ては一般的に3つの関連するキャプシドタンパク質(例えば、AAV2で発現されるタンパク質)を有する。関連性の程度は、ゲノム長の全体にわたる、血清型の間の広範な交差ハイブリダイゼーションを示すヘテロ2重鎖分析;およびITRに対応する末端での、類似の自己アニーリングする部分の存在によって、さらに示唆される。類似の感染性パターンはまた、各血清型における複製機能が、類似の調節性制御下にあることを、示唆する。種々のAAV血清型の中で、AAV2が最も一般に使用される。
【0067】
本発明のAAVベクターは、代表的には、AAVに対して異種のポリヌクレオチドを含有する。このポリヌクレオチドは、代表的には、遺伝子治療(例えば、特定の表現型の発現のアップレギュレーションまたはダウンレギュレーション)の状況において、標的細胞に機能を提供する能力のために、目的のものである。そのような、異種ポリヌクレオチドまたは「トランスジーン」は、一般的に、所望の機能またはコードされる配列を提供するのに、十分な長さのものである。AAV2粒子内へのキャプシド化のために、トランスジーンは、好ましくは、約5kb未満であるが、より長い配列のAAVウイルス粒子内へのパッケージングを可能とするために、他の血清型および/または改変が使用され得る。
【0068】
異種ポリヌクレオチドの転写が意図される標的細胞において所望される場合、これはそれ自体のプロモーターか、または異種プロモーター(例えば、当該分野において公知のように、標的細胞内の転写の所望のレベルおよび/または特異性に依存する)に、作動可能に連結され得る。種々の型のプロモーターおよびエンハンサーが、この状況での使用に適切である。構成性プロモーターは、遺伝子転写の継続するレベルを提供し、そして治療的ポリヌクレオチドが継続する状態で発現することが所望される場合に好ましい。誘導性プロモーターは、一般的に、インデューサーの非存在下において、低活性を示し、そしてインデューサーの存在下でアップレギュレートされる。発現が特定の時間または特定の状況下においてのみ所望される場合か、または誘導剤を使用して発現レベルを滴定することが所望される場合、これらのプロモーターは、好ましくあり得る。プロモーターおよびエンハンサーはまた、組織特異的であり得る;すなわち、これらは、特定の細胞型においてのみ、(おそらくそれらの細胞においてのみ独特に見出される遺伝子調節エレメントに起因して)その活性を示す。
【0069】
プロモーターの説明のための例示は、シミアンウイルス40由来のSV40後期プロモーター、バキュロウイルス多面体(polyhedron)エンハンサー/プロモーターエレメント、単純ヘルペスウイルスチミジンキナーゼ(HSV tk)、サイトメガロウイルス(CMV)の前初期プロモーターおよびLTRエレメントを含む種々のレトロウイルスプロモーターである。誘導性プロモーターとしては、重金属イオン誘導性プロモーター(例えば、マウス乳腺癌ウイルス(mMTV)プロモーターまたは種々の成長ホルモンプロモーター)、ならびにT7 RNAポリメラーゼの存在下で活性なT7ファージ由来のプロモーターが、挙げられる。例証のために、組織特異的プロモーターの例としては、種々のサーファクチン(surfactin)プロモーター(肺における発現のため)、ミオシンプロモーター(筋肉における発現のため)、およびアルブミンプロモーター(肝臓での発現のため)が挙げられる。非常に多種の他のプロモーターが公知であり、そして一般的に当該分野において入手可能であり、そして、そのようなプロモーターの多くの配列は、GenBankデータベースのような配列データベースにおいて入手可能である。
【0070】
意図された標的細胞において、翻訳もまた所望される場合、異種ポリヌクレオチドはまた、好ましくは、翻訳を容易にする制御エレメントもまた含有する(例えば、リボソーム結合部位、すなわち、「RBS」、およびポリアデニル化シグナル)。従って、異種ポリヌクレオチドは、一般的に、適切なプロモーターを作動可能に連結した、少なくとも1つのコード領域を含み、そして、例えば、作動可能に連結したエンハンサー、リボソーム結合部位、およびポリAシグナルを含有し得る。異種ポリヌクレオチドは、1つのコード領域、または同一かまたは異なるプロモーターの制御下の1つより多いコード領域を含有し得る。制御エレメントおよびコード領域の組み合わせを含む全体のユニットは、しばしば、発現カセットと称される。
【0071】
異種ポリヌクレオチドは、組換え技術によって、AAVゲノムのコード領域中に、または好ましくは、その代わりに(すなわち、AAV repおよびcap遺伝子の代わりに)組み入れられるが、一般的に、いずれかの末端が、AAVの逆方向末端反復(ITR)領域に隣接する。このことは、ITRがコード配列の上流および下流の両方に、いずれか一方は直接の近傍位置において、好ましくは(必要ではないが)複製コンピテントなAAVゲノムを再生し得る組換えの可能性を減少するために、AAV起源の介在配列を全く含まずに出現することを意味する。最近の証拠は、単一のITRが、通常2つのITRを含む配置に関連する機能を行うのに十分であり得(WO94/13788)、従って、単一のITRのみを有するベクター構築物は、本発明のパッケージング方法および生成方法に関連して使用され得ることを、示唆する。
【0072】
repのネイティブのプロモーターは、自己調節性であり、そして生成されるAAV粒子の量を制限し得る。rep遺伝子はまた、異種プロモーターと作動可能に連結され得る(repは、ベクター構築物の一部として提供されるか、または別々に提供される)。rep遺伝子の発現によって、強力にはダウンレギュレートされない異種プロモーターはいずれも適切である;しかし、誘導性プロモーターは、好ましい。なぜなら、rep遺伝子の構成性発現は、宿主細胞に負の影響を与え得るからである。非常に多種の誘導性プロモーターが、当該分野において公知であり、これには、例示の目的で、重金属イオン誘導性プロモーター(メタロチオネインプロモーター);ステロイドホルモン誘導性プロモーター(例えば、MMTVプロモーターまたは成長ホルモンプロモーター);および例えば、T7 RNAポリメラーゼの存在下において活性な、T7ファージ由来のプロモーターが挙げられる。誘導性プロモーターの特に好ましいサブクラスは、rAAVベクターの複製およびパッケージングを相補するために使用されるヘルパーウイルスによって誘導されるサブクラスである。多数のヘルパーウイルス誘導性プロモーターもまた、記載され、これには、アデノウイルスE1Aタンパク質によって誘導可能なアデノウイルス初期遺伝子プロモーター;アデノウイルス主要後期プロモーター;VP16または1CP4のようなヘルペスウイルスタンパク質によって誘導されるヘルペスウイルスプロモーター;ならびにワクシニアまたはポックスウイルス誘導性プロモーターが、挙げられる。
【0073】
ヘルパーウイルス誘導性プロモーターを同定および試験する方法は、Targeted Genetics Corporation(Allenら)による、WO96/17947として公開された共有の同時係属中の出願に記載されている。従って、候補プロモーターがヘルパーウイルス誘導性プロモーターであるか否か、およびそれらが高効率パッケージング細胞の生成に有用であるか否かを決定するための方法は当該分野で公知である。簡単に述べれば、1つのこのような方法は、AAV rep遺伝子のp5プロモーターを、推定のヘルパーウイルス誘導性プロモーター(当該分野で公知であるか、またはプロモーターのない「レポーター」遺伝子への連結のような周知の技術を用いて同定される)で置換することを含む。好ましくは、(p5が置換された)AAV rep−cap遺伝子は、抗生物質耐性遺伝子のようなポジティブ選択可能なマーカーに連結され、次いで適切な宿主細胞(以下に例示されるHeLaまたはA549細胞など)に安定に組み込まれる。選択条件下(例えば、抗生物質の存在下)で比較的良好に増殖し得る細胞は、次いで、ヘルパーウイルスの添加に際しrepおよびcap遺伝子を発現するそれらの能力について試験される。repおよび/またはcap発現に対する初期試験として、細胞を、免疫蛍光を用いて容易にスクリーニングしRepおよび/またはCapタンパク質を検出し得る。次いで、バッケージング能力および効率の確認を、入来するrAAVベクターの複製およびパッケージングについての機能的試験により決定し得る。この方法を用い、マウスメタロチオネイン遺伝子由来のヘルパーウイルス誘導性プロモーターを、p5プロモーターの適切な置換体として同定し、そして高力価のrAAV粒子を産生するために用いられた(WO96/17947、Targeted Genetics Corporationに記載)。
【0074】
種々のAAVゲノムの相対的なキャプシド化サイズ制限を考慮すれば、大きな異種ポリヌクレオチドのゲノム中への挿入は、AAV配列の一部分の除去を余儀なくさせる。1つ以上のAAV遺伝子の除去は、複製コンピテントAAV(「RCA」)を生成する可能性を減少させるためにいずれの場合でも所望され得る。従って、rep、cap、またはその両方のコード配列またはプロモーター配列は、好ましくは除去される。なぜなら、これらの遺伝子により提供される機能はトランスで提供され得るからである。
【0075】
得られるベクターは、これら機能において「欠損」していると称される。ベクターを複製およびバッケージするために、失われた機能は、種々の失われたrepおよび/またはcap遺伝子産物に代わる必要な機能を一緒にコードする単一または複数のパッケージング遺伝子により相補される。このパッケージング遺伝子または遺伝子カセットは、好ましくは、AAV ITRが隣接せず、そして好ましくは、rAAVゲノムとの任意の実質的な相同性を共有しない。従って、複製の間に、ベクター配列と別に提供されるパッケージング遺伝子との間の相同的組換えを最小にするために、2つのポリヌクレオチド配列の重複を避けることが望ましい。相同性のレベルおよび組換えの対応する頻度は、相同配列の長さが増すにつれ、および共有される同一性のそれらのレベルとともに増加する。所定の系における問題をもたらす相同性のレベルは、当該分野で公知のように、理論的に決定され得、そして実験的に確認され得る。しかし、代表的には、その全長にわたって少なくとも80%同一である場合に重複配列が約25ヌクレオチド配列より少ない場合、その全長にわたって少なくとも70%同一である場合に重複配列が約50ヌクレオチド配列より少ない場合、組換えを実質的に減少またはなくし得る。勿論、さらにより低いレベルの相同性が好適である。なぜなら、それらは組換えの可能性をさらに低減するからである。重複する相同性が全くない場合でさえ、RCAを生成するある程度の残存頻度があるようである。(例えば、非相同的組換えによる)RCAを生成する頻度のさらなる減少でさえ、1996年12月18に出願され、1998年6月25日にWO98/27204として国際公開された、Allenら、米国特許出願08/769,728号(Targeted Genetics Corporation)により記載されるように、AAVの複製およびキャプシド化機能を「分割」することにより得られ得る。
【0076】
rAAVベクター構築物、および相補的パッケージング遺伝子構築物は、本発明において、多くの異なる形態で実施され得る。ウイルス粒子、プラスミド、および安定に形質転換された宿主細胞は、すべて、このような構築物を、一時的であれ、安定にであれ、パッケージング細胞中に導入するために用いられ得る。
【0077】
本発明の特定の実施態様では、AAVベクターおよび存在する場合相補的パッケージング遺伝子は、細菌プラスミド、AAV粒子、またはそれらの任意の組み合わせの形態で提供される。他の実施態様では、AAVベクター配列、パッケージング遺伝子のいずれか、またはその両方が、遺伝子的に改変された(好ましくは、遺伝的に改変された)真核生物細胞の形態で提供される。遺伝的に改変されて、AAVベクター配列、AAVパッケージング遺伝子、または両方を発現する宿主細胞の開発は、信頼性あるレベルで発現される物質の確立された供給源を提供する。
【0078】
従って、種々の異なる遺伝子的に改変された細胞を、本発明の状況で用いられ得る。例として、哺乳動物宿主細胞を、安定に組み込まれたrAAVベクターの少なくとも1つのインタクトなコピーとともに用い得る。プロモーターに作動可能に連結された少なくともAAV rep遺伝子を含むAAVパッケージングプラスミドを用いて、複製機能を供給し得る(Flotteらにより共有され、今や米国特許第5,658,776号である出願に記載のように)。あるいは、プロモーターに作動可能に連結されたAAV rep遺伝子を有する安定な哺乳動物細胞株を用いて、複製機能を供給し得る(例えば、Trempeら(USSN 08/362,608、1995年1月9日、WO95/13392、1995年5月18日);Bursteinら(1996年12月18に出願されたUSSN 08/770,122、WO98/23018、1998年6月25日);およびJohnsonら(1994年6月6日に出願され、米国特許第5,656,785号として発行された1997年8月19日、USSN 08/254,358を参照のこと))。上記のように、キャプシド化タンパク質を提供するAAV cap遺伝子は、AAV rep遺伝子とともにかまたは別に提供され得る(例えば、上記で参照した出願および特許、ならびに1996年12月18日に出願されたAllenら、USSN 08/769,728、1998年6月25日のWO98/27204(Targeted Genetics Corporation)を参照のこと)。その他の組み合わせが可能であり、そして本発明の範囲に含まれる。
【0079】
(細胞中への遺伝物質の導入)
当該分野で記載され、そして本明細書および上記で引用された参考文献中に説明されるように、(AAVの産生のための哺乳動物「プロデューサー」細胞のような)細胞を形質転換または形質導入するための任意の種々の手段を用いて、このような細胞に遺伝物質を導入し得る。例として、このような技術は、例えば、細菌プラスミドを用いたトランスフェクション、ウイルスベクターを用いた感染、エレクトロポーレーション、リン酸カルシウム沈殿、および脂質を基礎にした種々の任意の組成物を用いる導入(しばしば「リポフェクション」と呼ばれるプロセス)を含む。これらの技術を実施するための方法および組成物は、当該分野で記載され、そして広く利用可能である。
【0080】
適切に改変された細胞の選択は、当該分野の任意の技術により実施され得る。例えば、細胞を改変するために用いられるポリヌクレオチド配列は、当該分野で公知のような1つ以上の検出可能または選択可能マーカーと同時にまたはそれに作動可能に連結して導入され得る。例として、選択可能マーカーとして薬物耐性遺伝子を利用し得る。次いで、薬物耐性細胞をつり上げそして増殖させ、次いで所望の配列、すなわち、パッケージング遺伝子産物、または適切な場合、異種ポリヌクレオチドの産物の発現について試験し得る。導入されたポリヌクレオチドの獲得、局在化および/または維持についての試験は、DNAハイブリダイゼーションを基礎にした技術(サザンブロッティングおよび当該分野で公知の他の手順など)を用いて実施され得る。発現の試験は、遺伝子的に改変された細胞から抽出されたRNAのノーザン分析によるか、または対応する遺伝子産物に対する間接的免疫蛍光により容易に実施され得る。パッケージング能力および効率の試験および確認は、細胞に、AAVの残りの機能的成分およびヘルパーウイルスを導入し、AAV粒子の産生を試験することにより得られ得る。細胞が、複数のポリヌクレオチド構築物で遺伝的に改変される場合、一般に、それらを、細胞に別々に導入し、各工程を順次確証することが(必須ではないが)より便利である。このような技術を記載する参考文献は、本明細書に引用されたものを含む。
【0081】
(ヘルパーウイルスの選択および調製)
上記のように、AAVは、自己複製欠損であるパルボウイルスであり、そして一般に、特定の複製機能を供給するヘルパーウイルスに依存しなければならない。多くのこのようなヘルパーウイルスが同定され、これらは、アデノウイルス、ヘルペスウイルス(HSV1、サイトメガロウイルスおよびHHV−6を含むがこれらに限定されない)、およびポックスウイルス(特にワクシニア)を含む。これらウイルスの任意を本発明とともに用い得る。
【0082】
頻繁に、ヘルパーウイルスは、意図される宿主細胞に感染し得る、あるタイプおよびサブグループのアデノウイルスである。サブグループCのヒトアデノウイルス、特に血清型1、2、4、6、および7が一般に用いられる。血清型5が一般に好ましい。
【0083】
アデノウイルスの特徴および増殖パターンは当該分野で公知である。読者は、例えば、「Fundamental Virology」、Fieldsら編、中の、Horowitz、「Adenoviridae and their replication」、771〜816頁を参照し得る。パッケージされたアデノウイルスゲノムは、末端タンパク質複合体を通じて左手および右手末端でアデノウイルスITRにより連結され、サークルを形成する線状DNA分子である。初期、中期、および後期成分の制御およびコード領域は、ゲノム内で重複する。初期領域遺伝子は、アデノウイルスゲノムの複製に関与し、そしてそれらの位置に依存して、E1、E2、E3、およびE4領域にグループ分けされる。
【0084】
必須ではないが、原則的に、ヘルパーウイルス株は、最終的に遺伝子治療を受ける被験体中で複製欠損であることが所望される。従って、rAAV調製物中に存在する任意の残存ヘルパーウイルスは、複製不能である。E1A、またはE1AおよびE3領域の両方が除去されたアデノウイルスは、大部分のヒト細胞に対して感染性ではない。それらは、失われた活性を相補し得る許容細胞株(例えば、ヒト293細胞株)中で複製され得る。ヘルパー機能と関連するように見えるアデノウイルスの領域、およびそうでない領域は、同定され、そして当該分野で記載されている(例えば、P.Colosiら、WO97/17458、およびそこに引用される参考文献を参照のこと)。
【0085】
(条件的感受性ヘルパーウイルスの使用)
本明細書で記載される「条件的感受性」ヘルパーウイルスもまた、ヘルパーウイルス活性を提供するために採用され得る。このようなヘルパーウイルス株は、AAVがそれ自身効果的なゲノム複製を行わない少なくとも1セットの条件下で、宿主細胞中でのAAV複製を支持し得る性質を最小限有さなければならない。ヘルパーウイルス活性が、インタクトなウイルス粒子として提供される場合、それはまた、一般に、このウイルスが、第2のセットの条件下で、宿主細胞中で複製し得ることが必要である。第1のセットの条件は、第2のセットの条件と、容易に制御可能な特徴((カチオンのような)必要なコファクターの存在または非存在、阻害薬物の存在または非存在、または温度のような環境条件におけるシフトなど)が異なる。最も簡便には、2つの条件の差異は、温度であり、そしてこのような条件的感受性ウイルスは、それゆえ、温度感受性ヘルパーウイルス(tsHV)と呼ばれる。
【0086】
本開示の目的には、「温度感受性」または「ts」ヘルパーウイルスは、特定の温度範囲(「許容」温度範囲)、代表的には約15〜35℃、そして好ましくは約20〜32℃で、真核細胞中でその遺伝物質を複製し得るものである。しかし、「非許容」温度では、たとえその他の条件が同じに保たれたとしても、遺伝物質の複製の速度は、実質的により低く、少なくとも10倍より低く;通常少なくとも約100倍より低く;および好ましくは少なくとも約1000倍より低い。代表的には、この温度は、約35〜50℃、一般に、約42℃である。このような、tsヘルパーウイルスの代表的な実施例では、このウイルスは、約20〜32℃の温度のような比較的低温度で効率的に複製し得るが、約37〜42℃の温度のような比較的高温で効果的に複製し得ない。ウイルス感染細胞は、それにもかかわらず、非許容温度で、AAV産生のためのヘルパー機能を含むがこれに限定されない、ウイルスに起因し得るいくつかの代謝プロセスを示し得ることが理解される。
【0087】
温度感受性ヘルパーウイルスは、感染細胞を許容温度で培養することにより、大量に産生し得る。次いでAAVベクターは、ベクター要素および温度感受性ヘルパーウイルスを含む細胞を、非許容温度で培養することにより産生され得る。ベクター調製物は、ヘルパーウイルス成分を実質的に含んでいない。
【0088】
多数の温度感受性アデノウイルス改変体が当該分野で記載されている;例えば、とりわけ、Ensingerら(J.Virol.10:328、1972);Williamsら(J.Gen Virol.11:95、1971);Ishibashi(Proc.Natl.Acad.Sci.USA 65:304、1970);Lundholmら(Virology 45:827、1971);およびShirokiら(Virology 61:474、1974)により記載された改変体を参照のこと。相補性分析は、このような改変体が、複数の異なる相補性グループに入ることを示している(Ginsbergら、Cold Spring Harbor Symp.Quant.Biol.34:419、1974)。このことは、アデノウイルス複製サイクル中の多くの工程に温度感受性を与え得ることを示唆する。
【0089】
AAV複製のヘルパー機能は、アデノウイルスサイクルの一部分のみがインタクトであることを必要とするので、非許容温度で、種々の変異体のヘルパー機能を試験することは、ヘルパー機能をマッピングする手段を提供する。例えば、Ishibashiら(Virology 45:317、1971)は、温度感受性トリアデノウイルス改変体がAAV1およびAAV2の複製を支持することを報告した。Itoらは、ヒトアデノウイルス7の温度感受性変異体ts13(Ad7ts13)が、野生株と同じく効率的に非許容温度でAAV複製を補助することを報告した。Drakeら(Virology 60:230、1974)は、3つのグループの、I型単純ヘルペスウイルス(HSV1)の温度感受性変異体によるAAV4抗原合成の相補を報告した。Handaら(J.Gen.Viro. 29:239、1975)は、ヒトアデノウイルス変異体Ad5ts36、Ad5ts125、Ad5ts149、Ad12tsA275、Ad12tsB221、およびAd12tsC295によるAAV1ウイルス産生に対するヘルパー活性を報告した。Ostroveら(Virology 104:502、1980)は、温度感受性変異体、Ad5ts125、Ad5ts135、Ad5ts157、Ad5ts116、およびAd5ts142、ならびに宿主範囲変異体hr6がAAV複製を支持する(hr3は支持しない)ことを報告した。Mayorら(J.Gen Virol.35:545、1977)は、Ad31ts94ではなくAd31ts13が、非許容温度でAAV1産生を支持したことを報告した。
【0090】
Strausら(Proc.Natl.Acad.Sci.USA 73:742、1976)は、Ad5ts125が、アデノウイルスがそれ自身複製しない条件下で、AAV2複製を支持したことを報告した。かれらは、この性質を用いてAAV複製の間に形成されるDNA中間体を研究した。Myersら(J.Virol.35:65、1980)は、ヘルパー機能に関して定量的研究を実施し、そしてAd5ts149が非許容温度で、1細胞あたり20,000の感染性AAV粒子の産生を支持したが、その一方、Ad5ts107は、1細胞あたりほんの約100粒子を生産したに過ぎないことを示した。Ad5ts107は、72kDa DNA結合タンパク質コード領域中に変異を有するので、かれらは、このタンパク質が、AAV RNA発現において役割を演じていると結論付けた。より最近、Carterら(Virology 191:473、1992)は、完全に機能的な72kDaタンパク質が、AAV repおよびcap遺伝子の定量的な転写後の発現に必要であることを提案した。
【0091】
背景技術のセクションで概説したように、温度感受性アデノウイルスの存在は、多少は、時折、知られていた。しかし、遺伝子治療に用いられ得るような、組換えAAVベクターの生成における条件的ヘルパーウイルスの実際の使用に関する有効な教示または示唆はなかった。
【0092】
説明の一部分は、組換えベクターを用いる場合、AAVの作用可能な力価を得ることの困難さであり得る。とりわけ、AAV Repタンパク質は、見かけ上、p5プロモーターを通じてそれら自身の発現をダウンレギュレートする(Tratschinら、Mol.Cell Biol.6:2884、1986)。さらに、組換えAAVベクターの産生に用いられ得るようなパッケージング細胞株中のrep遺伝子の発現が、細胞の増殖および/または代謝を阻害する傾向にあることを観察した(例えば、Allenらによる、Targeted Genetics Coporation、WO96/17947を参照のこと)。
【0093】
野生型AAVベクターと組換えAAVベクターの生成の間の差異は、産生に関して考慮される場合、極めて劇的である傾向にある。特に、組換えAAVベクターの産生が野生型AAV粒子の産生より実質的に低く、しかも小量の混入野生型AAVの存在または生成でさえ、最終的に組換えAAVベクターに数で勝り得る野生型ウイルスの優先的産生を生じる傾向にあることが観察された。
【0094】
これらの現象は、本開示の実施例1および2、ならびに図1に記載される結果によりさらに説明される。アデノウイルス温度感受性変異体ts149がAAV粒子複製を支持することが他で報告されている(Myersら、J.Virol.35:65、1980)。しかし、実施例2は、この変異体を、標準的な条件下で異種プロモーターを有するAAVベクターの産生を支持するために用いる場合、産生のレベルが、野生型アデノウイルスにより支持されるより数オーダーの程度低いことを示す。
【0095】
この開示は、温度感受性ヘルパーウイルスが、作用可能な力価で組換えAAVベクターを調製するために実際用いられ、見かけの産生障害物を克服し得ることを示す。以下の記載は、遺伝子治療の目的に十分なAAVを提供するために温度感受性ヘルパーウイルスをどのように選択し、そしてどのように条件を最適化するかを説明する。
【0096】
特に、tsAdをヘルパーとして用いる場合、AAVの複製期間を延長することが、産生されるAAVベクターの量を、劇的に増加することが示される(実施例3)。これは反直感的である。なぜなら、野生型Adを同様に用いる場合、複製期間を延長することは、少なくとも1オーダーの大きさAAVベクターの量を減少させるからである。AAV産生のための条件を最適化することを求める当業者は、論理的には、より短い培養時間およびより高い濃度のヘルパーウイルスに行くであろう:その両者は、本明細書では有効ではないことが示される。
【0097】
本発明は、定量的な量の温度感受性アデノウイルスを調製するための改良された培養および分離方法をさらに提供する。本発明の特定の実施態様の実施のために厳密には要求されないが、これらの方法により得られる温度感受性アデノウイルスの調製は、遺伝子治療の目的に、AAVそれ自身の産生に特に適合される。
【0098】
ヘルパーウイルスの選択された株の条件感受性改変体は、適切な変異誘発および選択戦略により生成され得る。例えば、ウイルスは、ニトロソグアニジン、亜硝酸、ヒドロキシルアミン、または5−ブロモ−2−デオキシウリジンで変異誘発され得る。所望の許容条件下で、適切な真核細胞において増加し得るが、所望の非許容条件下ではそうではない候補が選択される。例として、例えば、32℃で増加するが、39.5℃では増加しないアデノウイルス温度感受性変異体が得られ得る。39.5℃対32℃でのプラーク形成効率比は、好ましくは、10-4より少なく、そしてより好ましくは10−5より少ない。温度感受性アデノウイルスの適切な選択プロセスのさらなる例は、例えば、Ensingerら、J.Virol.10:328、1972;およびWilliamsら、J.Gen Virol.11:95、1971に見出され得る。温度感受性ではなく、宿主範囲感受性であるアデノウイルス改変体の記載は、Harrisonら、Virology 77:319、1977に見出され得る。本発明における使用に有効な温度感受性変異体は、例えば、代替のヘルパーウイルス様単純ヘルペス1(HSV1)、または単純ヘルペス2(HSV2)から調製され得る。例えば、HSV1についてSchafferら、Virology 52:57、1973;HSV2についてEsparzaら、Virology 57:554、1974を参照のこと。背景のセクションで示したように、多数の条件感受性ヘルパーウイルスが記載され、そしてそれらを開発または記載した科学者から、または公的な寄託機関から得られ得る。
【0099】
前記で列挙したウイルスのすべての条件感受性改変体が本発明で作用するとは限らない。特に、株は、非許容条件下でブロックされる機能が、AAVの高効率複製に必要であるものではないような、その複製サイクルにおけるステージで条件感受性を与えなければならない。使用のためのそのヘルパーウイルス株の選択は、ヘルパーウイルスおよびAAVの複製条件の両方の公知の生物学を参照してなされ得る。
【0100】
本発明で使用のための例示のヘルパーウイルスは、Ad5血清型の温度感受性アデノウイルスts149(Ad5ts149)である。実施例のセクションで示されるように、最適化条件下で、この株を用いて、野生型Ad5により支持されるレベルに一致またはそれを超えるレベルでrAAVを産生し得る。ts149は、位置7563においてC−GからA−Tへの単一のトランジションを有する(Rooversら、Virus Genes 4:53、1990)。これは、DNAポリメラーゼの残基411のアミノ酸ロイシンのフェニルアラニンへの変化を生じる。このDNAポリメラーゼは、アデノウイルスのE2転写ユニット内に含まれる。しかし、この領域にマッピングされるその他のts変異体は、より適切ではない。特に、このE2転写ユニットはまた、72kDa DNA結合タンパク質(DBP)のコード領域を含む。検出可能なDBPを産生しない株(Add/802)は、AAV複製を支持するが、そのレベルは1オーダーの大きさ減少する(Carterら、Virology 191:473、1992)。これもまたDBPコード領域にマッピングされる変異を含むAdts125は、野生型Ad5を用いるよりも一般にかなり低いレベルであるが(Myersら、J.Virol.35:65、1980)、AAV複製を支持する(Strausら、J.Virol.17:140、1976)。従って、本発明における使用のための適切な温度感受性アデノウイルスベクターは、感受性が、ゲノムのE2A領域、好ましくはDNAポリメラーゼコード領域にマップされるベクターを含む。
【0101】
当業者は、候補ヘルパーウイルス株のパネルを、候補細胞中で、そのヘルパーの自己複製に非許容的である条件下で用いるrAAV複製アッセイを実施することにより、ヘルパーウイルスとしての使用にどのウイルス株が適切であることを容易に決定し得る。温度感受性改変体について、スクリーニングは、株の既知の性質に従って非許容温度で行われる。非許容温度は、一般に、許容温度より高く、代表的には約35〜50℃、好ましくは38〜45℃、より好ましくは約39.5℃である。対応する野生型ウイルスにより支持されるレベルの1オーダーの大きさの中にあるレベルでAAV複製を支持する改変体が好ましい。スクリーニングを実施することで、当業者は、本開示の他の教示を取り込むべきである。特に、野生型ウイルスでピークのAAV産生を与える時間培養することによるスクリーニングは、不十分である。候補ヘルパーウイルスをより長い期間用い、次いでピーク収穫時間にある野生型ウイルスと比較する速度論的マトリックスが設定されるべきである。この分析のより詳細な説明は、本開示の実施例3に提供される。
【0102】
一旦、適切なヘルパーウイルス株が選択されたなら、それは、本発明において多くの異なる形態で履行され得る。ウイルス粒子、ウイルスプラスミド、および安定に形質転換された宿主細胞のすべてが用いられ得る。
【0103】
1つの実施態様では、ヘルパーウイルスのゲノム(または最小限、ヘルパー機能をコードするヘルパーウイルスゲノムの領域)が宿主細胞中に導入され、DNAプラスミド、または相補的機能を提供する複数のプラスミドの形態にあるvAAVベクターの複製に用いられる。アデノウイルスの実験操作のための手順は、当該分野で公知である。読者は、Grahamら、「Manipulation of adenovirus vectors」:Murray EJ編、Method in molecular biology: Gene transfer and expression protocols、第7巻、Clifton、NJ:The Human Press、1991:109−128を参照し、これは、アデノウイルスの増殖、滴定、および精製、同時トランスフェクションおよびインビボ組換えの詳細なプロトコールを提供する。アデノウイルスプラスミドは、Microbix Biosystems Inc.,Toronto,Canadaから市販されている。
【0104】
別の実施態様では、宿主細胞は、アデノウイルス遺伝子で安定にトランスフェクトされるか、または遺伝子的に改変されてrAAV複製に必須の機能を提供する。あるいは、宿主細胞は、アデノウイルスゲノムの部分のみが遺伝子的に改変され得、次いでアデノウイルス粒子またはプラスミドで感染またはトランスフェクトされる。特許出願WO95/27071およびWO95/34671は、遺伝的に改変されてアデノウイルス機能を提供する宿主細胞を記載し、これは、種々の欠損アデノウイルス構築物の複製性質を相補する。
【0105】
なお別の実施態様では、AAV複製に用いられる宿主細胞は、自己複製し得る(しかし非許容条件下ではそうではない)ヘルパーウイルスで感染される。十分なMOIを提供する必要な株の任意の調製物が用いられ得る。GMPおよびその他の規制条件を維持することにおいて、および商業的目的のスケールアップを容易にするために、好ましくは、ヘルパーウイルスの調製物は、高密度の感染粒子を含み、そして細胞残渣およびその他の混入物を実質的に含まない。所望の性質は以下を含む:
・TCID50アッセイで測定したとき、少なくとも106、好ましくは少なくとも約108、より好ましくは少なくとも約1010IU/mlの密度。
・総タンパク質またはアデノウイルスヘキソンに対するアデノウイルスDNAの比は、ウイルス粒子の、少なくとも10%、好ましくは少なくとも約50%、より好ましくは、少なくとも約80%が、アデノウイルスDNAを含むことを示す。
・タンパク質について染色されたSDSゲル、またはエチジウムブロマイドで染色された制限ヌクレアーゼ消化物のアガロースゲルにより検出されるとき、タンパク質またはDNAレベルの非アデノウイルス物質による、20%より少ない、好ましくは約10%より少ない、より好ましくは約1%より少ない混入物。
・生産バッチあたり、合計少なくとも109、好ましくは少なくとも約1011、より好ましくは少なくとも約1013IU。
【0106】
ヘルパーウイルスは、ウイルス複製について許容性である任意の細胞において調製され得る。アデノウイルスについて、好ましい細胞は、293細胞およびHeLa細胞を含む。伝統的に、これらの細胞は、アデノウイルスの複製のために用いられる場合、それらは、プレート培養において使用されてきた。しかし、実施例4に示されるように、これらの方法は、一般に、野生型アデノウイルスよりも1または2対数分低いレベルで温度感受性アデノウイルスの複製を支持する。
【0107】
従って、播種密度の増加を許容する培養技術を使用することが好ましい。懸濁培養に適合させた293細胞およびHeLa細胞変異体が利用可能である。HeLaは、細胞増殖、生存度、および懸濁物中の形態の理由のために好ましい。実施例5に示すように、これらの細胞を充分な密度(2x106/ml)で増殖させて、温度感受性アデノウイルス株の複製速度の低下を補い得る。一旦樹立されると、細胞にそのウイルスを感染させ、そして充分な時間(一般的に3〜7日間および代表的に約5日間)許容温度で培養する。
【0108】
接線流濾過は、当該分野において、その灌流、濃縮および採取の目的のために大容量の哺乳動物細胞を処理するために使用される技術である。例えば、Dorinら、Biotechnol.Prog.6:494、1990;Maiorellaら、Biotechnol.Bioeng.37:121、1991を参照のこと。この技術は、本発明における使用のためのヘルパーウイルスの調製のために懸濁培養物を用いて使用することが推奨される。実施例5は、HeLaS3細胞は、750〜1500秒-1の剪断力に耐え、これにより細胞の濃縮および使用した培地のダイアフィルトレーションが可能になる。
【0109】
ウイルスを、使用した培地からまたはその細胞の微量流動化によるかのいずれかで、その培養物から採取する。その培養物において産生されたヘルパーウイルスのレベルは、代表的に少なくとも107IU/mlであり、そして好ましくは少なくとも約3x107IU/mlである。
【0110】
上記の記載に従って調製されたヘルパーウイルスは、rAAV複製のために使用される宿主細胞を感染させるために直接使用され得る。より通常には、このウイルスは、使用前に単離および濃縮される。ヘルパーウイルスを精製および濃縮するための現在の方法は、代表的に、等密度CsCl勾配を含む。この方法は、時間集約的および労働集約的であり、多数の開放処理工程を必要とし、そして規模拡大が困難である。その代わり、クロマトグラフィーによる精製が推奨される。読者は一般に、Priorら、Pharmaceut.Technol.19:30、1995;およびHuygheら、Human Gene Therapy 6:1403、1995を参照する。アデノウイルスの温度感受性株の単離のために特に好ましいのは、アニオン交換クロマトグラフィー、特にpH7.4での連続的なNaCl勾配を用いる特にポリエチレンイミンの樹脂においてである。ポリエチレンイミン分離方法の詳細な説明は実施例6に提供される。
【0111】
(ヘルパーウイルスおよびAAVを含む宿主細胞の提供)
いくつかの基準が、本明細書に記載されるようなrAAV粒子を産生するのに使用するための細胞の選択に影響を与える。最初の事項として、その細胞は、選択されたヘルパーウイルスを用いる場合、rAAVベクターの複製およびパッケージングに許容性でなければならない。しかし、ほとんどの哺乳動物細胞は、AAVによって生産的に感染され得、そして多くの細胞もまたアデノウイルスのようなヘルパーウイルスによって感染され得るので、多くの種々の哺乳動物細胞および細胞株がこれらの基準を有効に満足することは明白である。これらのうち、より好ましい細胞および細胞株は、組換えAAVベクター調製物の大規模生産を容易にするために培養物中で容易に増殖され得るものである。しかし、このような細胞の多くもまた、この基準を有効に満たす。大規模生産が所望される場合、産生方法の選択はまた、宿主細胞の選択にも影響を与える。例えば、以下および当該分野においてより詳細に記載されるように、いくつかの生産技術および培養容器もしくはチャンバーが付着または接着細胞の増殖のために設計されており、他方、他のものが懸濁細胞増殖のために設計されている。後者の場合、従って、宿主細胞は、好ましくは、懸濁増殖に適合されたかまたは適合可能である。しかし、接着またはアンカー依存性とみなされる細胞および細胞株の場合でさえ、(以下に記載されるように)懸濁増殖しうる細胞について連続的に選択することによってアンカー依存性親株の懸濁適合性改変体を誘導させることが可能である。
【0112】
温度感受性のヘルパーウイルスが使用される場合、その細胞は、そのヘルパーウイルスの複製に非許容性である条件下でrAAVベクターを有効に複製し得なければならない。例示のために、アデノウイルスts149をtsへルパーウイルスとして使用する場合(以下に記載されそして例示されるように)、その細胞は、32℃を充分超える、好ましくは、約39.5℃を超える温度でrAAV複製およびパッケージングを支持し得なければならない。ヒト293細胞は、これらの規準を満たす細胞株の一例であるが、他の多くの細胞および細胞株がこの比較的高温でrAAVを複製し得る。
【0113】
最終的に、複製およびパッケージングに必要であるヘルパーウイルス、rAAVベクター配列、およびすべてのAAV配列は、同じ細胞に存在しなければならない。1以上のAAVパッケージング遺伝子がベクターから別個に提供される場合、以下を含む宿主細胞が提供される:(i)1以上のAAVパッケージング遺伝子、ここでこのAAVパッケージング遺伝子は各々が、AAV複製またはキャプシド化タンパク質をコードする;(ii)rAAVベクターまたはプロベクターを使用してこの宿主細胞に導入された異種ポリヌクレオチド、ここで、このrAAVベクターまたはプロベクターは、少なくとも1つのAAV ITRに隣接してその異種ポリヌクレオチドを含み、そしてそのAAVパッケージング遺伝子において欠損している;ならびに(iii)必要なヘルパーウイルス機能をコードするヘルパーウイルスまたは配列。しかし、これらのエレメントの1以上が単一のレプリコンにおいて合わせられ得ることにも注意すべきである。例示のために、ヘルパーウイルスはまた、rAAVプロウイルスまたはAAVパッケージング遺伝子を含み得る。
【0114】
ヘルパーウイルスは好ましくは、培養物中の細胞のほとんどを感染させるのに充分なレベルで細胞培養物中に導入されるが、そうでなければ得られた調製物に存在するヘルパーウイルスの量を制限するために、最低限に維持され得る。1〜100の感染多重度すなわち「MOI」が使用され得るが、5〜10のMOIが代表的に適切である。
【0115】
同様に、AAVベクターおよび/またはパッケージング遺伝子が一過的にパッケージング細胞に導入される場合(安定に導入されるのとは反対に)、それらは、好ましくは、培養物中の細胞のほとんどを遺伝的に改変するのに充分なレベルで導入される。一般的に必要な量は、細菌プラスミドとして供給される場合106細胞あたり10μgのオーダーであり;あるいはAAV粒子として供給される場合は、105細胞あたり108粒子である。最適な量の決定は、当業者の範囲内である慣用的な力価決定の実施である。
【0116】
これらのエレメントは、同時または任意の順に連続的に、その細胞に導入され得る。その細胞がそのエレメントのいずれかによって遺伝的に変化している場合、その細胞は、次のエレメントが導入される前に、選択され得そして増殖させられ得る。
【0117】
1つの好ましい実施態様において、ヘルパーウイルスは、最後に細胞に導入されて、常在性のrAAVベクターのレスキューおよびパッケージングを行う。この細胞は、一般的に、AAVパッケージング遺伝子に必要な程度にまでスクリーニン既に補充されている。好ましくは、rAAVベクターまたはパッケージング遺伝子のいずれか、またはより好ましくはその両方が、その細胞に安定に組み込まれる。他の組合せも可能であることも容易に理解される。このような組合せは、本発明の範囲内に含まれる。
【0118】
一旦宿主細胞に必要なエレメントが提供されると、その細胞は、AAV複製に許容性である条件下で培養されて、rAAVベクターの複製およびパッケージングをさせる。培養時間は好ましくは、産生レベルのピークに対応するように調整され、そして代表的には3〜6日間である。好ましくは、少なくとも100のウイルス粒子が1細胞当たり産生され;より好ましくは1細胞当たり、少なくとも約1000粒子、なおより好ましくは1細胞当たり少なくとも約10,000粒子産生される。好ましくは、2x105細胞当たり,少なくとも0.5x106、より好ましくは少なくとも約1x106細胞、さらにより好ましくは少なくとも約2x106RU/ml AAVベクターが、培養期間の間に産生される。必要に応じて、大規模生産方法(例えば、懸濁培養または接線流濾過が)使用され得る。次いで、AAV粒子が収集され、そしてそれらを調製するために使用された細胞から単離される。
【0119】
本発明のrAAV粒子の調製物は、好ましくは、高密度の感染性AAV粒子を含み、そしてヘルパーウイルス、ヘルパーウイルスタンパク質および細胞砕片、および他の混入物を実質的に含まない。所望の特性は、以下を含む:
○公知の標準を用いて複製アッセイまたは定量ハイブリダイゼーション比較において決定される場合、少なくとも107、好ましくは少なくとも約108、より好ましくは少なくとも約109RU/mlの濃度
○108RUのrAAV粒子あたり、103以下、好ましくは約102以下、より好ましくは101以下のヘルパーウイルスの感染性粒子
○SDSゲルの密度分析によるか、またはヘルパーウイルス特異的タンパク質(例えば、アデノウイルスのヘキソンまたはペントンファイバー)についてのイムノアッセイのいずれかによって検出される、タンパク質ベース(重量/重量)で、5%未満、好ましくは約1%未満、より好ましくは約0.01%未満、さらにより好ましくは約0.001%未満のヘルパーウイルスによる混入物
○SDSゲルの密度分析によるか、またはヘルパーウイルス特異的タンパク質または細胞特異的タンパク質についてのイムノアッセイのいずれかによって検出される、5%未満、好ましくは約1%未満、より好ましくは約0.01%未満、さらにより好ましくは約0.001%未満のヘルパーウイルスまたは細胞タンパク質(重量/重量)による混入物
○好ましくは、その調製物はまた、細胞の脂質、炭水化物、および/または核酸のような他の潜在的な細胞成分を実質的に含まない。
【0120】
本開示に概説される方法は、小さな実験バッチまたは10〜100リットル以上の調製バッチを調製するのに適切である。大規模バッチ調製について、以下の特性もまた所望される:
○この調製物において、合計少なくとも1010、好ましくは1012、そしてより好ましくは1014RUのAAVベクター粒子。
【0121】
必要に応じて、rAAVベクターは、rAAV粒子について富化するため、ヘルパーウイルス粒子を涸渇させるため、または他の方法で被験体への投与に適切にさせるためにさらに処理され得る。精製技術は、等密度勾配遠心分離およびクロマトグラフィー技術を含み得る。感染性ヘルパーウイルス活性の減少は、当該分野で公知なように、熱処理またはpH処理による不活化を含み得る。他の処理としては、濃縮、濾過、ダイアフィルトレーション、または適切な緩衝液もしくは薬学的な賦形剤との混合が挙げられ得る。調製物は、分配のために単位用量および多用量アリコートに分割され得、これは、そのバッチの本質的な特徴(例えば、抗原性内容物および遺伝的内容物の均質性、および混入するヘルパーウイルスの相対比)を保持する。
【0122】
上記に記載のような種々の所望の特性を示すヘルパーウイルスおよびAAVの調製物の生成のための例示的な技術は、以下の節においておよび以下の実施例において提供される。
【0123】
ウイルス調製物の感染性力価の決定のための種々の方法が当該分野で公知である。しかし、力価決定のための好ましい方法は、本明細書に提供されるような高処理能力力価決定アッセイである。例示的な高処理能力力価決定アッセイにおいて、各々が哺乳動物細胞のアリコートおよびウイルス調製物のアリコートを含む培養ウェル(ならびに、例えば、細胞単独、ウイルス単独を含むコントロールウェル、および何も含まないコントロールウェル)のアレイが確立される。培養ウェルのアレイは、例えば、マイクロタイター容器の形態においてであり得る。代表的に、力価測定されるウイルス調製物のアリコート(例えば、連続希釈したアリコート)をその細胞に添加し、次いで、その細胞およびウイルスを、ウイルスの複製を可能にする条件(代表的には、哺乳動物宿主細胞に適した増殖条件)下でインキュベートする。ウイルスの複製後、ウイルス核酸を、哺乳動物細胞の溶解によって総合的に放出させる(必要に応じて溶解を促進する条件または薬剤を用いて)。好ましい実施態様において、複数の溶解物における核酸(ウイルス核酸を含む)を、核酸を結合する条件下で(タンパク質および他の混入物を除去するのに適切な洗浄)メンブレンに移しそして固定する。このメンブレンは好ましくは、もとのアレイの個々のウェルが、次いで、(各培養ウェルの溶解物由来の)核酸(これは、そのメンブレン上の対応する位置に結合している)の「プール」によって表される培養アレイの複製または鏡像である。次いで、そのメンブレンと、標識したウイルス特異的(またはウイルス挿入物特異的)プローブとをハイブリダイズすることを使用して、そのアレイの点の各々、および対応して、もとの培養ウェルの各々における、ウイルス特異的核酸の相対量を同定および定量し得る。核酸の移動、結合、洗浄、およびハイブリダイゼーションのための条件および材料は、慣用的な分子生物学技術から適合され得る(例えば、「ドットブロット」ハイブリダイゼーション(当該分野で記載されるような、例えば、Sambrookら、前出、およびAusubelら、前出に記載される分子生物学的な技術を参照のこと))。これらの技術の例示的な適用を以下に提供する。
【0124】
従って、これらの方法は、ウイルス調製物の感染性力価の決定において使用され得る高処理能力感染性アッセイを提供する。図4に示すように、この迅速かつ定量的な方法によって決定されたウイルス力価は、より古典的な技術によって決定された力価に密接に対応する。しかし、さらに、この高処理能力方法は、多くのウイルス複製反応の同時の処理および分析を可能にし、従って、以下にさらに記載されるように、例えば、ウイルス複製および感染性について許容性であるかもしくは非許容性である細胞株のスクリーニング、ならびにウイルス複製に影響を与える薬剤のスクリーニングを含む他の多くの用途を有する。
【0125】
(本発明における使用のために好ましい、ヘルパーウイルス産生および精製)
本発明の種々の好ましい局面において、本明細書において記載されるようなrAAVベクターの産生における使用に適したヘルパーウイルスの生成のための産生および精製の方法が使用される。AAVの産生のために一般的に使用されるヘルパーウイルスは、アデノウイルス、代表的には、Ad5であるが、他のヘルパーウイルスもまた、本明細書においておよび当該分野で記載されるように使用され得る。
【0126】
例示の目的で、「上流」および「下流」の相へとウイルス産生および精製の議論を分割することが簡便である。「上流」プロセスとは、一般的に、適切な宿主細胞におけるウイルス産生、および溶解物のような「粗」ウイルス調製物を産生するためにその細胞からそのウイルスを放出または取り出すことをいう。「下流」処理は、その粗ウイルス調製物を精製するために使用され得る(例えば、細胞タンパク質および/または他の混入物からそのウイルスを単離するために)。アデノウイルスを含むヘルパーウイルスの産生および処理のための種々の技術が公知である(例えば、CsCl遠心分離、ならびにWO96/27677に記載されるもののような他の技術)。次いで、このような技術を用いて産生されたヘルパーウイルスは、本明細書に記載されるように、rAAVベクターの産生において使用され得る。
【0127】
以下の節は、例示の目的で、アデノウイルスの産生のために使用され得る技術を記載するが、他の技術が当該分野で公知であり、そして本明細書において使用され得る。
【0128】
((i)ヘルパーウイルス上流)
ヘルパーウイルス(例えば、Ad5)は、哺乳動物細胞(例えば、ヒト細胞)に感染することによって容易に産生され得る。以下に記載される例示的な例において、細胞は、培地およびその宿主細胞の増殖に適した培養容器中で増殖され、感染前に濃縮され、次いで穏やかに攪拌しながらヘルパーウイルスに感染される(例えば、1〜5のMOIで)。感染後、細胞を、新鮮な培地に再懸濁し得、そしてヘルパーウイルスの複製およびパッケージングを可能にするために、さらなる期間(代表的には、約2日間)インキュベートし得る。インキュベーション後、細胞を採取し、そしてこれを溶解してヘルパーウイルスを放出させ得る。溶解後、その細胞溶解物は、好ましくは、ウイルス粒子にキャプシド化された核酸を分解させずに、遊離の核酸(例えば、細胞核酸)を分解するためにヌクレアーゼで処置される。この溶解物を、明澄化(例えば、濾過および/または遠心分離による)し得、そしてまた以下に記載されそして例示されるように、その調製物におけるそのヘルパーウイルスを精製および濃縮するために、さらに精製技術に供され得る。
【0129】
このようなプロセスの例示的な例として、細胞を、約1×106細胞/mlの密度で、スピナーフラスコのような容器中の培地中で増殖し得る。次いで、インキュベーション後、細胞を約107細胞/mlにまで濃縮し得、そして穏やかに攪拌しながら1〜2感染単位/細胞で、その細胞をAd5に感染させ得る。次いで、細胞を培地に、約106細胞/mlで再懸濁し得、そして約2日間のインキュベーション期間の間ウイルスを産生させる。次いで、細胞を採取し、培地または緩衝液中に再懸濁(例えば、約5x106細胞/ml)し、次いで、例えば、機械的溶解(例えば、8000psiでの微量流動機を通過させることまたは等価の技術(例えば、凍結融解または超音波処理)によって破壊し得る。この溶解物を、ヌクレアーゼ(例えば、Benzonase)で、37℃で1時間処理し得る。この溶解物を、フィルター(例えば、1.0μフィルター)を通すかまたは遠心分離によって明澄化し得る。類似の技術およびその改変は、さらに以下に記載される。
【0130】
((ii)ヘルパーウイルス下流)
ヘルパーウイルス(例えば、アデノウイルス)の下流処理のために好ましい技術は、そのヘルパーウイルスの精製のためにイオン交換クロマトグラフィー手順を使用する。
【0131】
例示のために、上記に記載されるようなアデノウイルス濾過物を、緩衝液(例えば、TMEG、これは本明細書においてクロマトグラフィー緩衝液Aとも称する:50mM Tris(pH8.0)、5mM MgCl2、1mM EDTA、5%グリセロール)で平衡化したクロマトグラフィーカラム中のアニオン交換樹脂(例えば、N荷電アミノまたはイミノ樹脂(例えば、POROS50PI、または任意のDEAE、TMAE、三級もしくは四級アミン、またはPEIベースの樹脂))にロードし得る。
【0132】
次いで、このカラムを、複数のカラム容量のTMEG(例えば、5〜6容量)で洗浄し、次いで、複数の容量の生理食塩水(例えば、5〜6容量の800mM NaClを有するTMEG(クロマトグラフィー緩衝液「B」:60% TEMGおよび2M NaClを有する40%TMEG))で洗浄する。このアデノウイルスは、1300mM NaClを有するTMEGを用いて溶出され得る(35% クロマトグラフィー緩衝液A、65% クロマトグラフィー緩衝液B)。
【0133】
アデノウイルスのピークは、当該分野で記載されているように、感染性アッセイまたは核酸ハイブリダイゼーションもしくはイムノアッセイによって画分中に同定され得る。このピークは、0.2μ滅菌フィルターを通して滅菌濾過され得る。必要に応じて、このピークは、接線流濾過、例えば、Filtron UltrasetteまたはMillipore Pelliconユニットによって濃縮され得る。そのピークまたは濃縮物は、この系において適切な緩衝液(例えば、PBSおよび5%スクロース)へとダイアフィルトレートされ得る。あるいは、このアデノウイルスは、溶出緩衝液に残存し得る。この最終のアデノウイルス産物は、0.2μフィルターを通して滅菌濾過され得、そして使用のために保存され得る。本明細書において記載されそして例示されるように、温度感受性のヘルパーウイルス(例えば、温度感受性アデノウイルス)もまた使用され得る。
【0134】
このようなヘルパーウイルスの調製および使用を記載する実施例は、さらに例示の目的のために以下に提供される。
【0135】
(本発明における使用に好ましいAAV産生および精製技術)
ヘルパーウイルスについて、「上流」および「下流」のプロセスの相へとAAV産生および精製の議論を分割することが例示の目的のために簡便である。「上流」プロセスとは、一般的に、適切な宿主細胞におけるAAV産生、および「粗」AAV調製物を産生するためにその細胞からそのウイルスを放出または取り出すことをいう。「下流」処理は、その粗AAV調製物を精製するために使用され得る(例えば、細胞タンパク質および/または他の混入物からそのAAVを単離するために)。
【0136】
本発明の好ましい局面において、AAVの上流および下流のプロセスは、混入する細胞タンパク質、ならびに混入する任意のヘルパーウイルス(例えば、Ad)またはヘルパーウイルスタンパク質を実質的に減少および/または除去するように設計された様式で実施される。これらの物質のいずれも、遺伝子移入のために使用される最終のrAAVベクター調製物において実質的なレベルで存在する場合、免疫応答の誘発に寄与し得る。
【0137】
以下の節は、例示の目的で、rAAVの産生のために使用され得る技術を記載する。
【0138】
((i)rAAV上流処理)
AAVベクターは、必要なAAVパッケージング遺伝子(例えば、AAV repおよびcap遺伝子);少なくとも1つのAAV逆方向末端反復(ITR)に隣接する異種非AAVポリヌクレオチドを含む組換えAAV(rAAV)プロベクター;およびAAVのためのヘルパーウイルス(例えば、アデノウイルス)を含む、哺乳動物細胞株から産生され得る。これらの成分は、上記に記載および以下に例示されるように、種々の構成で細胞中に導入され得る。AAVは、任意の種々の哺乳動物細胞において複製され得そしてパッケージングされ得るので、AAVの産生のために改変され得そして使用され得る多数の細胞株が存在する。
【0139】
例示のために、AAVベクターは、細胞株(例えば、「C12」(K.R.Clarkら、Gene Therapy、3:1124−1132、1996によって記載される)または「C137.5」株(Targeted Genetics Corporation、J.Allenら、WO96/17974による、共有に係る同時係属中の出願に記載される)から産生され得る。この細胞株は、repおよび/またはcap構築物ならびにベクター構築物を含むように操作されている。必要に応じて、repおよび/またはcap構築物を含む、C12またはcl37のような細胞株は、ベクター構築物を含むプラスミド(例えば、ptgAAV−CF)でトランスフェクトされ得る。または、repおよびcapを含むプラスミド(例えば、pRS5)、ならびにベクター構築物を含むプラスミドで細胞がトランスフェクトされ得る。この細胞は、アデノウイルスに感染させられ得るか、またはアデノウイルス遺伝子を含むDNAでトランスフェクトされ得る。
【0140】
種々のこのようなAAV「プロデューサー」細胞が、本明細書において引用された参考文献および当該分野で記載されるように、産生され得る。
【0141】
AAVプロデューサー細胞は、哺乳動物細胞の増殖に一般的に適切であり、AAV複製にもまた一般的に許容性である条件(培地、温度などを含む)下で増殖され得る。例えば、DMEM/F12懸濁培地は、その細胞の増殖について好ましく、そしてDMEM培地単独は、AAVベクター産生について好ましい。当該分野で公知であるように、いくつかの細胞型および細胞株は、接着依存性である傾向にあるが、他の細胞は、懸濁物中で増殖し得;そして多くの接着依存性細胞もまた、懸濁増殖し得る改変体について富化しそして最終的に選択する手段として懸濁条件下で細胞のサイクルを行うことにより、懸濁物中での増殖に「適合」され得る。したがって、AAV産生のための細胞増殖は、その選択されたプロデューサー細胞株が、比較的接着依存性であるか、または懸濁適合されているか否かに一部依存して、任意の種類の容器において、実施され得る。接着依存性細胞の増殖のためのこのような容器は、例えば、組織培養フラスコ、ローラーボトル、マイクロキャリアおよびバイオリアクター(例えば、中空繊維、充填ベッドまたは流動化ベッドのバイオリアクター)を含む。懸濁適合した哺乳動物細胞株のための容器は、例えば、スピナーフラスコ、タンクリアクター、およびエアリフト醗酵槽を含む。
【0142】
AAV複製は、一定時間、およびウイルス産生が最適になる、増殖周期における点まで進行し(好ましくは、中期から後期の対数増殖期(代表的には1〜3日間))、その時点の後、その細胞を採取し得、そして溶解させて子孫のウイルスを放出させ得る。例えば、細胞は、約1〜10x106細胞/mlに、増殖培地中に再懸濁され得、そして48時間産生させ得る。次いで、細胞を採取し(例えば、遠心分離により)、そして緩衝液(例えば、TMEG、(または、「クロマトグラフィー緩衝液A」):50mM Tris(pH8.0)、5mM MgCl2、1mM EDTA、5%グリセロール)中に、約1〜10x106細胞/mlで再懸濁され得る。
【0143】
AAVは、必要なAAV Repタンパク質およびヘルパーウイルス機能が比較的同時に提供される場合、形質導入した細胞において高コピー数(例えば、105〜106ゲノム/細胞)にまで複製され得る。Capタンパク質もまた提供される場合、AAV粒子は、感染した細胞の核にアセンブルし、そこで、それらは、結晶配列でアセンブルする傾向がある。したがって、生産物回収における第一の工程は、細胞破壊である。凍結融解および/または超音波処理が使用されて、細胞を破壊(アデノウイルスに関して)し得るが、このような技術は、大規模調製にはそれほど適していない。従って、機械的溶解(微量流動化のような技術を使用する)がこれらの点で好ましい。変性剤および他の化学薬剤もまた、溶解を媒介または容易にするために使用され得る。ヌクレアーゼ(例えば、Benzonase)を用いた溶解物の処理が粘度を減少させ、そして濾過可能性を改善するために役立つことが見出された。明澄化(例えば、細胞砕片の少なくともいくらかの部分からベクターを分離するための微量濾過による)もまた、回収および精製を促進するために役立つ。
【0144】
例示のために、細胞は、(代表的に、約8000psiで、2つの通過を用いて)微量流動化機を連続的に通過させることによってインキュベーション時間後に機械的に溶解され得る。他の一般的に使用される技術は、当該分野で公知のように、凍結融解サイクルおよび超音波処理を含む。この溶解物はまた、ヌクレアーゼで処理されて、ウイルス粒子にパッケージングされることによっては有効に「保護」されていない核酸(例えば、細胞核酸またはウイルス核酸)を分解し得る。本発明者らは、代表的に、37℃で約1時間のBenzonase消化を使用する。この溶解物はまた、明澄化され得る。明澄化のための方法は、フィルター(例えば、1μフィルター)を通過させること、および遠心分離を含む。
【0145】
接線流濾過(TFF)は、大容量の細胞を処理しそして採取するために都合よく使用され得る。TFFは、動物細胞を灌流し、濃縮し、そして採取するために使用され得る。例えば、TFFを使用して、1秒あたり3000までの平均壁剪断速度での層流条件下で細胞を処理し得る(たとえば、Maiorella、B.ら、Biotechnology and Bioengineering,37:121−126、1991)。TFF限外濾過を用いるウイルスの大規模濃縮は、R.Paulら、Human Gene Therapy、4:609−615、1993により記載されている。
【0146】
このような技術を用いた例示的な産生の実施は、以下に記載される。
【0147】
((ii)AAV下流処理)
上記に記載されるように、ヘルパーウイルス粒子(例えば、Ad粒子)を実質的に含まないAAVの調製物を得ることは特に有利である。さらに、AAVベクター調製物はまた、好ましくは、ヘルパーウイルスおよび細胞タンパク質(これはまた、免疫原性であり得る)を実質的に含まない。しかし、AAV産生のための技術の適性に影響を与えるさらなるセットの限定が存在する。すなわち、遺伝子治療のためのAAVの産生に特に有用であるために、その技術は、「大規模化可能」である(すなわち、大規模製造用デバイスおよび手順に関して適用可能である)ことが最も所望される。この後者のセットの限定は、塩化セシウム分離(これは、大規模調製手順にはあまり適していない)のような利用可能な標準的な技術の有用性を有効に減少または除去する。
【0148】
本発明者らは、ヘルパーウイルス粒子、ならびにヘルパーウイルスおよび細胞タンパク質およびそのような他の混入物を実質的に含まないAAV調製物の生成について、大規模化可能であるとともにかつ顕著に有効である手順の組合せを見出した。本発明者らの好ましい手順の組合せは、例えば、AAVまたはAdの可能な精製について当該分野において言及されている種々の手順とは対照的である、イオン交換クロマトグラフィー手順を使用する。特に、当該分野で記載されているこのような手順は、代表的に、単一の型のイオン性分離、時に他の種類のクロマトグラフィー手順との組合せを使用する(例えば、K.Tamayoseら、Human Gene Therapy 7:507−513(1996)、およびWO96/27677、1996年9月12日)。しかし、AAV産生の場合、本発明者らは、連続的な反対のイオン交換クロマトグラフィーの組合せが、ヘルパーウイルス粒子およびタンパク質、ならびに細胞タンパク質を実質的に含まないAAV調製物の生成に特に有効であることを見出した。
【0149】
これらの発見に鑑みて、AAVは、アニオン交換およびカチオン交換クロマトグラフィーの両方に「適合」されているのみならず、このような両方の反対のイオン性交換の組合せが、その生成およびAAVベクター調製物において代表的に生じる種々の粒子およびタンパク質混入物の全て除去するのに特に有効でもあるようである。任意の種々のカチオン交換樹脂およびアニオン交換樹脂がこれらの手順に関して使用され得、その基礎的な特性は、それぞれ、負荷電基および正荷電基の利用可能性であり、それらの基に対して、AAVは、少なくともある程度(最も好ましくは、上記に記載のような1つ以上の混入物、すなわち、Ad粒子およびタンパク質、ならびに哺乳動物細胞タンパク質の相対的結合親和性とは実質的に異なる程度に)結合し得る。理論に拘束されることは望まないが、アニオン交換工程は、アデノウイルスからAAVを分離するのに特に有効であると考えられる;一方、両方の工程(しかし、特にカチオン交換工程)が、細胞タンパク質からAAVを分離するのに特に有効であると考えられる。本発明者らはまた、以下に記載および例示されるように、アニオン交換次いで接線流濾過を使用した。以下にさらに記載されるように、本発明者らは、AAV調製物がヘパリン硫酸上のクロマトグラフィーによって高度に濃縮され得ることを見出した。
【0150】
例示のために、上記のように明澄化したAAV溶解物は、正荷電したアニオン交換カラム(例えば、N荷電アミノ樹脂またはイミノ樹脂(例えば、POROS 50_PI、または任意のDEAE、TMAE、三級アミンもしくは四級アミン、またはPEIベースの樹脂))または負荷電したカチオン交換カラム(例えば、HS、SP、CMまたは任意のスルホ、ホスホ、もしくはカルボキシベースのカチオン樹脂)にロードされ得る。そのカラムは、緩衝液(例えば、クロマトグラフィー緩衝液A/TMEG)で洗浄され得る。そのカラムは、NaCl濃度の増加勾配で溶出され得、そして画分が集められ得、そしてAAVおよび/または混入物の存在についてアッセイされ得る。
【0151】
他の手順が、当該分野で公知なように、荷電以外の特徴によって媒介される分子間会合に基づいて、上記のアニオンおよびカチオン交換手順に代わり、好ましくはそれに加えて、使用され得る。このような他の手順は、リガンド−レセプター対(例えば、抗体−抗原、またはレクチン−炭水化物相互作用)に基づく分子間会合、ならびにその分子の他の属性に基づく分離(例えば、サイズおよび/または形状に基づく分子篩クロマトグラフィー)を含む。ほんの一つの例をみると、濾過物および部分精製したAAV調製物が、AAV特異的抗体を含むカラムにロードされ得る。このカラムは、AAVを結合し得る。このカラムは、緩衝液でリンスして、混入するタンパク質を除去し得、次いで漸増濃度のNaClの勾配または段階を用いて溶出し、そして画分が集められ得る。あるいは、このようなカラムは、ロード緩衝液のpHとは異なるpHの緩衝液で溶出され得る。
【0152】
AAVおよびアデノウイルスのピークは、感染性アッセイあるいは核酸ハイブリダイゼーションまたは免疫アッセイによって画分において同定され得る。このピークをプールし得、そしてそのプールを緩衝液(例えば、TMEGまたは等価物)を用いて希釈または透析またはダイアフィルトレートして塩濃度を減少させ得る。
【0153】
このプールは、正荷電したアニオン交換カラムおよび/または負荷電したカチオン交換カラム(例えば、上記に言及されるもの)に注入され得る。このカラムは緩衝液(例えば、クロマトグラフィー緩衝液A/TMEG)で洗浄され得る。このカラムは、漸増濃度のNaClの勾配で溶出され得、そして画分が集められ得る。AAVおよびアデノウイルスのピークは、感染性アッセイによってあるいは核酸ハイブリダイゼーションまたは免疫アッセイによって画分中で同定され得る。そのピークは、これらのアッセイのいずれかの結果に基づいてプールされ得る。
【0154】
上記のアニオン交換カラムから溶出されたAAV含有画分のプールは、接線流濾過(TFF)(例えば、Filtron UltrasetteまたはMillipore Pelliconユニット)によって濃縮され得そして精製され得る。適切な分子量カットオフ(例えば、100.00または300,000カットオフ)のメンブレンは、代表的に再生セルロースまたはポリエーテルスルホンのようなポリマーから構成される。この調製物は、そのメンブレンを通して濾過され、そしてその産物が保持される。保持された物質は、リンゲル平衡塩溶液および5%グリセロールのような適切な緩衝液の連続的な洗浄を使用して、そのメンブレンを用いてダイアフィルトレートされ得る。最終のサンプルは、その産物について非常に富化されており、そして0.2μフィルターを通して滅菌濾過され得、そして使用のために保存され得る。
【0155】
接線流濾過を用いたアニオン交換カラム後の物質からのAAVの精製および濃縮において、300,000分子量カットオフメンブレンは、100,000分子量カットオフメンブレンよりも、高収量の複製単位をもたらした。
【0156】
アデノウイルスの除去のために用いられ得る、さらなる工程は、所望である場合、熱不活化工程(本明細書において記載されるような)を用いた溶離液プールを処置する工程、次いで濾過(例えば、その調製物をTTFに供する前に)を包含する。しかし、本発明者らは、上記の「アニオン交換からTFF」手順が検出可能なアデノウイルスを含まないAAV調製物を生じ、そしてより良い収率の精製されたAAVをもたらしたこと見い出した。
【0157】
例示的な産生は、以下に記載されるような技術を使用して行う。
【0158】
(産生を増強するためのAAVプロデューサー細胞の増殖条件の変更)
種々の培地および培養容器における本発明者らのAAVを用いる産生試験の経過の間に、本発明者らは、代表的に、種々の増殖および/または代謝パラメーター(例えば、細胞密度、グルコースおよびアミノ酸の利用可能性、およびアンモニアおよび乳酸のような代謝副産物の産生)に関して培養物をモニターした。このような成分は、標準的な技術(例えば、当該分野で記載されるような、HPLCおよび酵素アッセイ)を用いて容易にモニターされ得る。
【0159】
以下の実施例に記載されるように、本発明者らは、特定のアミノ酸、特にアスパラギン酸およびグルタミン酸が、バッチおよび灌流培養の両方において迅速に涸渇することを見出した。実際、種々のバッチおよび灌流実験において、本発明者らは、利用可能なaspおよびgluの90〜99%が24〜48時間後に実質的にこのような培養物から除去されることを見出した。aspおよびgluのレベルがこのような培地では最適未満であるようなので、従って本発明者らは、さらなる量の一方または両方のアミノ酸を提供した。これらのような培養維持および最適化技術は、大規模生物学的産生の状況において慣用的に適用されている(例えば、Glacken、M.W.ら、Biotechnology and Bioengineering、28:1376〜1389、1986;Glacken、M.W.、Bio/Technology 6:1041−1050、1988;Bibila、T.A.ら、Biotechnol.Prog.10:87−96、1994;ならびにBorys、M.C.ら、Biotechnology and Bioengineering、43:505−514、1994を参照のこと)。
【0160】
本発明者らが驚いたことに、これらの涸渇したアミノ酸の置換が、AAV産生の急激な低下をもたらした、例えば、以下に記載される実験において、標準的な培地(DMEM)に、さらなるaspおよびgluを補充すると、一桁を超える程度に産生効率が(1細胞あたり約1800DNase耐性粒子(DRP)から1細胞当たり約140DRPへと)低下したが、生存度は若干増強された。
【0161】
哺乳動物プロデューサー細胞の増殖のための、別の一般的な培地成分は、血清成分(例えば、ウシ胎仔血清(FBS))であり、これは、代表的には、約10%のレベルで培地に含まれる。以下に記載されるように、AAV産生のための血清レベルが増加される場合(20%に)、AAVベクター産生は、2倍を超えて低下した。対照的に、その細胞が漸減的に低下する血清レベルに供された場合、AAVベクター産生は劇的に増加した。例えば、血清レベルが通常の出発レベルの1/10に(すなわち、1%に)減少した場合、ベクター産生は、4倍を超えて増加した。
【0162】
理論に拘束されることは望まないが、今や、プロデューサー細胞を、代謝的または以下に記載される他の手段のいずれかによってストレスを与えることで、AAVベクターの産生が劇的に増加し得るようである。
【0163】
ストレスは、細胞増殖および/または代謝に対する、ストレス条件またはストレス因子の負の効果に基づいて、有効に特徴付けられそして試験され得る。実際、ストレスは、細胞増殖および/または代謝を阻害する任意の条件または因子の導入によってか、あるいは細胞増殖および/または代謝に関して最適ではなくさせるように、予め存在する条件または因子のレベルを変更することによって達成され得る。多くの種々のこのような条件が公知および/または明白であり、これには、栄養ストレス(1以上の栄養が増殖および/または代謝にとって最適レベル未満で存在する)、温度ストレス(最適未満の温度、これは、細胞をより低いかまたは高い温度で増殖させること、またはその細胞を冷ショックまたは熱ショックのような一過性の温度ショックに供することを含み得る)、浸透圧ストレス(最適未満の浸透圧レベル、これは、低浸透圧または高浸透圧であり得る)、pHストレス(最適未満のpH,これは、酸性またはアルカリ性であり得る)、通気ストレス(例えば、酸素または気体交換の最適未満のレベル)、機械的ストレス(例えば、培養物混合において生じるような剪断ストレス)、照射ストレス、および毒性ストレス(増殖および/または代謝を阻害する、1以上の化学物質または他の因子の存在)が含まれる。このような因子および条件の(すべてではないにせよ)ほとんどについて、その細胞をそのストレスに連続的または一過的に供することが可能である。例示のために、温度ストレスの場合、その細胞は、最適温度より高いかまたは低い温度で増殖され得るか(代表的に、その最適温度は、その細胞が由来する動物のほぼ通常の体温である)、またはその細胞は、一過的な温度ショック(例えば、冷ショックまたは熱ショック)に供され得る。このようなストレス条件の現在好ましい例は:栄養ストレス(例えば、アミノ酸または血清限定)、通気レベルおよび攪拌の変更、浸透圧レベルの変更(例えば、非代謝性炭水化物(例えばソルビトール)を用いる)、および化学的因子(例えば、飽和脂肪性カルボン酸(例えば、プロピオン酸、酪酸、イソ酪酸、吉草酸およびカプロイン酸ならびにそれらの有機もしくは無機塩基との塩)、N,N’ジアシル化ジアミン(例えば、ペンタメチレンビスアセトアミド、ヘキサメチレンビスアセアセトアミド、およびヘプタメチレンビスアセトアミド)、有機イオウ化合物(例えば、ジメチルスルホキシド)、ならびにグルココルチコイド(例えば、ヒドロコルチゾン、デキサメタゾン、プレドニゾロン、アルドステロン、トリアムシノロンおよびコルテキソロン)の含有を包含する。他のこのような因子にはまた、遺伝子毒性薬剤(例えば、化学的発ガン物質、UV、熱ショック、DNA合成の代謝インヒビター(例えば、ヒドロキシ尿素、メトトレキサート、アフィジコリン、トポイソメラーゼに影響する薬物(例えば、アムサクリン、カンプトセシン(campthecin)、エトポシドおよびノボビオシン)が含まれる。
【0164】
上記のように、プロデューサー細胞はまた、pHを変更することによって致死量未満のストレスに供され得る。以下に例示するように、本発明者らは、培地pHを増加することによって誘導されるpHストレスが、AAVを増加させるだけでなく、それはまた、培養培地中に放出されたAAVの相対比の劇的なシフトを生じたことを見出した。従って、以下にさらに記載するように、この技術は、AAV精製を容易にするためおよび産生を強化するために使用され得る。
【0165】
種々のストレス条件を使用することによってAAVの産生を最適化するための例示的な手順は、以下に提供される。その結果は、異なる種々のストレス条件の適用がAAV産生レベルを有効に増強するために使用され得ることを示す。
【0166】
(遺伝子治療のためのrAAVの使用)
本発明において具現化されるのは、治療的に関連する遺伝子配列を用いたポリヌクレオチドを含むベクター組成物である。本発明のAAVウイルスベクターは、遺伝子治療の目的のために、個体に投与するために使用され得る。遺伝子治療に適した疾患は、ウイルス感染、細菌感染または寄生生物感染によって誘導される疾患、種々の悪性状態および過剰増殖性状態、自己免疫状態および感染性欠損を含むがこれらに限定されない。
【0167】
遺伝子治療は、その細胞内のまたはそれによって分泌されるかのいずれかの特定のタンパク質の発現レベルを増強するように実施され得る。本発明のベクターを使用して、遺伝子標識、欠失または欠損した遺伝子の置換、または治療遺伝子の挿入のいずれかのために細胞を遺伝子的に変更し得る。あるいは、発現レベルを減少させるポリヌクレオチドが細胞に提供され得る。これは、悪性の経過の間に増幅または過剰発現された遺伝子、あるいは微生物感染経過の間に増幅または過剰発現された遺伝子の産物のような所望されない表現型の抑制のために使用され得る。発現レベルは、例えば、標的遺伝子またはRNA転写物(アンチセンス治療)のいずれかとの安定なハイブリッドを形成し得る配列、関連するmRNAを切断するリボザイムとして作用し得る配列、あるいは標的遺伝子の産物についてのデコイとして作用し得る配列を含む治療ポリヌクレオチドを供給することによって減少され得る。
【0168】
特に興味深いのは、気道上皮に対して適切に機能する嚢胞性線維症膜貫通コンダクタンス調節因子(CFTR)を提供することによって、嚢胞性線維症の遺伝子欠損を矯正することである。Afioneら、(J.Virol.70:3235、1996)およびConradら(Gene Therapy:印刷中、1996)は、単回用量のAAVベクターを用いた霊長類肺への安定なインビボCFTR遺伝子移入を示した。嚢胞性線維症患者に由来する細胞においてCFTR機能不全を再構築し得る種々のCFTRポリペプチドが存在する。Richら、Science、253:205(1991)は、CFTR由来の欠失アミノ酸残基708〜835を記載した。これは、塩化物イオンを輸送し得、そして天然に存在するCFTR欠損を矯正し得た。Eganら、Nature 358:581(1992)は、別のCFTR誘導体(無関連のタンパク質由来の約25アミノ酸、次いで残基119に始まるネイティブCFTRの配列を含む)を記載した。これはまた、正常なCFTRの電気生理学的特徴を回復させ得た。Arispeら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 89:1539(1992)は、残基433〜586を含むCFTRフラグメントが、脂質二重層中で正しい塩化イオンチャネルを再構成するに充分であったことを示した。Sheppardら、Cell 76:1091(1994)は、残基836でそのほぼ半分の長さに短縮したCFTRポリペプチドはなお、調節された塩化イオンチャネルを形成し得ることを示した。従って、ネイティブCFTRタンパク質のコードタンパク質を伴うAAVベクターならびにその変異体およびフラグメントは、すべて、本発明の好ましい実施態様である。
【0169】
特に興味深いのはまた、特定の腫瘍型に局所的に欠損する、p53腫瘍サプレッサー遺伝子を、腫瘍部位に適切に機能するp53遺伝子を供給することによる矯正である(Huygheら、Human Gene Therapy 6:1403,1995)。
【0170】
本発明の組成物は、インビボおよびエキソビボで使用され得る。インビボ遺伝子治療は、本発明のベクターを被験体に直接投与する工程を包含する。薬学的組成物は、液体溶液または懸濁物として、乳濁液として、または使用前の液体中への溶解または懸濁に適した固体形態として、供給され得る。呼吸管への投与について、好ましい投与形態は、適切なエアロゾル化デバイスとともに用いられる場合は固体または液体エアロゾルのいずれかを提供する組成物を用いて、エアロゾルによる。呼吸管への別の好ましい投与形態は、ベクターを滴下するために可撓性の光ファイバー気管支鏡を用いることである。代表的に、ウイルスベクターは、リンゲル平衡化塩溶液(pH7,4)のような発熱物質を含まない、薬学的に適切な緩衝液中に存在する。必要ではないが、薬学的組成物は、必要に応じて、正確な量の投与に適切な単位投薬形態で供給され得る。
【0171】
ウイルスの有効量は、処置の目的に依存して投与される。有効量は、単回または分割された用量で与えられうる。少量の割合の形質導入が遺伝子欠損を治癒し得る場合、処置の目的は、一般的に、形質導入のこのレベルに合致するかまたは超過している。いくつかの場合、形質導入のこのレベルは、標的細胞のほんの約1〜5%であるが、しかし、より代表的には、所望の組織型の細胞の20%、通常は少なくとも約50%、好ましくは少なくとも約80%、より好ましくは少なくとも約95%、そしてさらにより好ましくは所望の組織型の細胞の少なくとも約99%の形質導入によって達成され得る。ガイドとして、気管支鏡によって与えられる単回用量中に存在するベクター粒子の数は、一般に、少なくとも約1x108であり、そしてより代表的には、5x108、1x1010、そしていくつかの場合、1x1011の粒子であり、これは、DNase耐性およびDNase感受性粒子の両方を含む。DNase耐性粒子に関して、その用量は、一般に1x106〜1014粒子の間であり、より一般的には、約108〜1012粒子の間である。この処置は、必要に応じて2または3週間おきほどの頻度で反復され得るが、180日に1回の処置で充分であり得る。
【0172】
遺伝子変化の有効性は、いくつかの規準によってモニターされ得る。生検または手術切除によって除去されたサンプルは、インサイチュハイブリダイゼーション、ベクター特異的なプローブを用いるPCR増幅、RNase保護、免疫組織学、または免疫傾向細胞計数によって分析され得る。そのベクターが気管支鏡によって投与される場合、肺機能試験が実施され得、そして気管支洗浄液が炎症性サイトカインの存在について評価され得る。処置された被験体はまた、臨床的特徴について、および治療的ポリヌクレオチドによって運ばれることが意図される機能をその細胞が発現するかどうかを決定するためにモニターされ得る。
【0173】
インビボまたはエキソビボ治療で使用するか否かの決定および特定の組成物、用量、および投与経路の選択は、処置される状態の特徴および被験体を含むがそれらに限定されない多数の種々の因子に依存する。このような特徴の評価および適適な治療レジメンの設計は、最終的には、処置する内科医の責任である。
【0174】
上記の記載は、とりわけ、ヘルパーウイルス(例えば、アデノウイルス)および細胞タンパク質を実質的に含まない組換えAAVベクターの高力価の調製物を生成するための方法を提供する。本発明の精神から逸脱することなく、これらの方法に改変が当業者によって適用されることが理解される。
【0175】
以下に提示される実施例は、当業者にとってさらなるガイドとして提供され、そしていかなる形でも限定することは意図されない。
【実施例】
【0176】
(実施例)
(実施例1 野生型ヘルパーウイルス(AD5)および温度感受性ヘルパーウイルス(AD Ts149)を用いた組換えAAVベクターの例示的産生)
本実施例は、モデル治療遺伝子を含む組換えAAVベクター粒子の複製のためのヘルパー機能を提供する、野生型ヘルパーウイルス(Ad5)および温度感受性ヘルパーウイルス(Ad ts149)の使用を例示する。
【0177】
ptgAAVCFプラスミドは、左側のAAV2ITR;全長嚢胞性線維症膜貫通調節因子cDNA;マウスβグロビンポリアデニル化配列に基づく合成ポリアデニル化配列;capコード配列の下流のAAV2配列;およびpBR322プラスミド骨格中の右側のAAV2 ITRからなる(Afioneら、1996)。pGEM−RS5パッケージングプラスミドは、pHIVrepプラスミドに由来し(Antoniら、1991)、そしてHIV−1 LTR由来のU3およびR領域;p19およびp40プロモーターを含むAAV2由来のrepおよびcap領域;細菌複製および選択のためのpBR322およびpGEMプラスミド配列;ならびにHIVLTRの上流のヒトAlu反復細胞DNAの小領域からなる。
【0178】
アデノウイルス5型は、アメリカンタイプカルチャーコレクション(Rockville、Md)から入手したストックから増殖させた。Ad5ts149(Ensingerら、J.Virol.10:328,1972)は、Harold S.Ginsbergから入手した。
【0179】
Ad5およびAd5ts149(ts149)の作業用ストックを、それぞれ37℃および32℃で、それぞれ感染多重度(MOI)5および1で293−1細胞を感染させることによって生成した。4時間後、培養物に、新鮮な培地を与え、そして湿潤10%CO2インキュベーター中で37℃でインキュベートした。72時間後、細胞を取り出し、1000xgで15℃でペレット化し、そして0.1g/LのMgCl2および0.1g/LのCaCl2を含むPBS中に再懸濁した。次いで、細胞懸濁物を、3回凍結および融解し、18ゲージ針を通して3回剪断し、そして1000g、15℃で遠心分離することにより明澄化した。次いで、明澄化した溶解物を、2mg/mlの最終濃度のDNaseIで30分間37℃で処置した。処置した溶解物を、2.0mlの水中のCsCl(1.40mg/cm3)に対して重層化した4.0mlのCsCl(1.25g/cm3)を含む水中のCsClの不連続な段階勾配上に重層化し、そして35,000RPMで1〜2時間、Beckman SW41ローター中で遠心分離した。各チューブからのアデノウイルスバンドを除去し、プールし、そして水中に1.35g/cm3のCsClへと希釈し、そしてBeckman SW55ローター中で一晩35,000RPMで一晩遠心分離した。アデノウイルスバンドをプールし、10%グリセロールに調整し、そして1.0mM MgCl2および10%グリセロールを補充した10mM Tris pH7.5緩衝液に対して徹底的に透析した。
【0180】
293−1細胞(ATCC CRL1573)を、湿潤10%CO2インキュベーター中で、Tフラスコ中の10%ウシ胎仔血清(FBS,Hyclone)補充したDMEM 高グルコース培地(JRH)中で維持した。この実施例について、10%FBSおよび2.0mM L−グルタミンを補充したDMEMを有する組織培養フラスコ中の293−1細胞に4.4x104細胞/cm2で播種した。そして、これを、湿潤10%CO2インキュベーター中で37℃で24時間インキュベートした。
【0181】
次いで、この細胞(1フラスコ当たり約107細胞)に、Ad5またはts149のいずれかの作業用ストックを、1時間でMOI5で感染させ、次いでベクターの一過性トランスフェクションおよびプラスミドのパッケージングを行った。一過性のptgAAVCFベクタープラスミドおよびpGEM−RS5ヘルパープラスミドの同時トランスフェクションを、LIPOFECTAMINETM(Gibco)を用いて実施した。そのプロセスにおいて、37.5μgの各プラスミドを、150μl LIPOFECTAMINETMとともに混合して、そして4.75mlの無血清MEM中に希釈した。このアデノウイルス種菌を取り出し、そしてプラスミド−LIPOFECTAMINETM混合物を、その細胞に添加し、そして4時間5%CO2インキュベーター中で適切な温度でインキュベートした。プラスミド−LIPOIFECTAMINETM混合物を、その培養物から4時間後に取り出し、そして新鮮な培地に置換した。
【0182】
野生型ウイルスに感染した細胞を、37℃で培養し、そしてAdts149に感染した細胞を39.5℃でインキュベートした。72時間後、それらの細胞を採取し、ペレット化し、そして10mM Tris pH7.5中に再懸濁した。次いで、懸濁物を、氷水浴中でBransonカップホーン超音波処理機を使用して、4回の15秒間パルスを利用して超音波処理することによって溶解し、そしてrAAVCFおよびアデノウイルス産生についてアッセイした。
【0183】
(実施例2) ベクター調製物中のrAAVおよびアデノウイルス力価の定量
先の実施例からの細胞溶解物を、C37複製アッセイによりrAAVCFベクターの産生についてアッセイし、そしてスロット−ブロットハイブリダイゼーションによりアデノウイルス産生について分析した。
【0184】
rAAVベクター複製のためのAAVRepタンパク質の誘導可能な発現を可能にするように、HeLaC37を構築した。簡単に述べれば、マウスメタロチオネインIブロモーター、AAV2 repおよびcap遺伝子ならびにAAV転写停止部位からなるAAVRep/Cap発現カセットを構築した。このプラスミドにはまた、SV40初期プロモーターの制御下にあるネオマイシン耐性遺伝子、SV40小TイントロンおよびSV40ポリアデニル化シグナルも含まれる。HeLa細胞を、このプラスミドでトランスフェクトし、そしてクローンをG418中で選択した。クローンのパネルをrAAVベクター増幅アッセイによりスクリーニングした。1つのクローンC37が、形質導入およびアデノウイルス感染後に、一致し、かつ容量依存性のrAAVベクターの増幅を示した。
【0185】
複製するベクターの検出は、DNA単離、その後のCFTRプローブへのハイブリダイゼーションにより達成される。詳細には、HeLa C37細胞を、10%FBSおよび2.0mM L−グルタミンを補填したDMEMを用い、組織培養フラスコに4.4x104細胞/cm2で接種し、そして5%CO2の湿潤インキュベーター中37℃で24時間シンキュベートした。次いで細胞に、アデノウイルス(MOI=5)を接種し、そしてrAAVCFの希釈物を72時間サンプルリングした。細胞を掻き取ることにより収穫し、そしてサザンブロット分析のために調製した。総細胞DNAを調製し、EcoRIで消化し、1%アガロースゲル上で電気泳動し、ナイロン66メンブレンにトランスファーし、次いで32P標識ヒトCFTRcDNA制限フラグメントとハイブリダイズした。このプローブは、AAVCFベクターからの約1.5kbフラグメント(推定される1.488kb EcoRIフラグメントに対応する)を検出する。ベクター複製を、内因性ゲノムCFTRバンドと比較して定量化し、そして複製単位として表現した。1複製単位(RU)は、約1.8kbである内因性ゲノムCFTRバンドのシグナル強度に相当するシグナル強度として規定される。いくつかの実験では、連続的に希釈された既知のベクター標準物の直線回帰を用いて、サンプル中のベクター濃度を外挿および計算した。
【0186】
アデノウイルスDNAスロットブロットアッセイは以下のように行った。サンプルのアリコートを、1.0μg/mlサケ精子DNAとともに0.4M NaOH、10mM EDTA中65℃で変性した。サンプルおよびアデノウイルス標準物を希釈し、そしてスロットブロットマニホールドを用いてナイロンメンブレン上に濾過し、そして0.4M NaOHで洗浄した。このフィルターを、アデノウイルスE1A遺伝子配列に対応する32P標識プローブとハイブリダイズした。完全Ad5ゲノムは、Genbankで受託番号X02996で入手可能である。本発明者らは、1kbのSspI−XbaIフラグメント(ヌクレオチド339−1339に対応する)を用い、そしてホスホルイメージャー(Molecular Dynamics)上のブロットを分析した。1ゲノム等量は、1アデノウイルス粒子に対応すると考えられた。
【0187】
図1は、許容温度(37℃)および非許容温度(39.5℃)における、Ad5またはts149を用いて調製された溶解物中のrAAVCFベクターに対する複製アッセイの結果を示す。組換えベクターの産生は、39.5℃でts149により支持されたが、生産性は、Ad5より約2〜3倍少なかった。
【0188】
図2http://www6.ipdl.inpit.go.jp/Tokujitu/tjitemdrw.ipdl?N0000=231&N0500=1E_N/;%3e%3c:%3e;7;:///&N0001=46&N0552=9&N0553=000011は、アデノウイルスの量を測定するためのスロットブロットアッセイの結果を示す。アデノウイルスゲノムの産生は、温度感受性変異体の使用により、野生型に比較して3〜4対数減少した。
【0189】
(実施例3) rAAV産生を改善するためのヘルパー機能の最適化
この実施例は、温度感受性ヘルパーウイルスを用いる場合、得られるrAAVのレベルを改善するための種々の試みを例示する。ヘルパーウイルスの感染レベルを増加することは役にたたなかったが、動力学を調節することは驚くほど有効であった。
【0190】
ベクター産生に対する感染の多重度を増加する影響をまず評価した。293−1細胞を、5のMOIでAd5または種々のMOIでts149のいずれかを用いて感染し、次いでベクターで一時的同時トランスフェクトし、そしてプラスミドをパッケージングした。72時間後、細胞を溶解し、そしてC37ベクター複製アッセイによりrAAVCFベクターの産生についてアッセイし、そしてスロット−ブロットハイブリダイゼーションによりアデノウイルス産生について分析した。5のMOIでts149を用いて感染させた細胞については、さらに96時間の時点で収集した。
【0191】
図3は、種々のMOIでts149を用いて調製された細胞溶解物について実施されたrAAVCF複製アッセイの結果を示す。ts149のMOIを増加することは、(1.4kbハイブリダイゼーションバンドの強度により示されるように)Ad5で観察されたレベルまでベクター生産性を回復しなかった。しかし、より高いレベルのベクター産生が96時間の時点で観察された。スロットブロット分析により検出される溶解物中のts149の濃度は、増加するMOIとともに増加したが、Ad5と比較してなお3〜4対数低かった。
【0192】
先の実験で、96時間におけるts149を用いた増加したベクター生産性の観察に従って、経時的および産生動力学研究を実施した。293−1細胞を5のMOIのAd5またはts149のいずれかで感染し、その後ベクターで一時的同時トランスフェクションを行い、そしてプラスミドをパッケージングした。Ad5およびts149で感染した細胞を、それぞれ、37℃および39.5℃で6日間培養した。3、4、5および6日からの溶解物を、ベクター複製アッセイによりベクター産生についてアッセイし、そしてスロット−ブロットハイブリダイゼーションによりアデノウイルスについて分析した。
【0193】
図4はベクター産生の動力学を図示する。斜線の密度が大きい棒は、ヘルパーとして野生型Ad5を用いて産生された溶解物を示し、斜線の密度が小さい棒は、ヘルパーとしてts149を用いて産生された溶解物を示す。Ad5を用いた場合、最大のベクター産生は、4日でピークになる約2.0x106RU/mlであった。この時点で、ts149を用いて得られたベクター産生は約0.3x106RU/mlより少なかった。しかし、5日に、2つのヘルパーウイルスの相対的効力に劇的な変化があった。Ad5により支持されたベクター産生は、0.3x106RU/ml未満に低下した。対照的に、ts149により支持されるベクター産生は、2x106RU/mlより上に急上昇した。ts149を用いた場合観察されたアデノウイルスゲノムレベルは、Ad5を用いた場合より有意に低かった。
【0194】
(実施例4) ウイルス力価をアッセイすることをおよび高スループットアッセイ技術
先行する実施例において用いた温度感受性および野生型アデノウイルスストックを、組織培養フラスコ中の293−1細胞で産生した。この実施例では、293−1細胞により産生されるアデノウイルスのレベルを、TCID50終点アッセイまたは感染度アッセイにより定量した。
【0195】
TCID50アッセイは以下のように行った:1.0x103の293−1細胞を、96ウェルのマイクロタイタープレート中に置き、そしてアデノウイルスストックの系列希釈物で感染し、そして湿潤5%CO2インキュベーター中37℃でインキュベートした。各希釈物の100μlの8つの複製物を細胞上に接種した。感染3日後、細胞をメタノール固定し、PBSで洗浄し、そしてFITC結合抗ヘキソン抗体(Biodesign)で染色し、その後ヨウ化プロピジウム染色して細胞核を可視化した。PBSですすいだ後、プレートを、蛍光顕微鏡下で検査し、そしてヘキソン含有細胞の存在を計数した。終点における力価は、ホワソン(Poisson)分布を用いて計算した。50%のヘキソン陽性複製サンプルを生じるウイルス希釈物は、0.5IU/100μl接種物を有する。感染力価は、この希釈の逆数の結果であり、0.5IU/100μlおよび10(mlへの変換係数)は、mlあたりの最終感染力価を与える。
【0196】
感染性ウイルスを測定するための高スループットマイクロタイター感染度アッセイは以下のように行った。系列希釈された細胞を含まない上清液のアリコート(10μl)を、96ウェルのマイクロタイタープレート中で増殖させたHeLa細胞に接種した。3日後、感染細胞を、変性溶液(1/10容量の4.0M NaOH、10μg/mlサケ精子DNAおよび100mM EDTAの添加)で処理および溶解させた。溶解物を、Silent Monitor BiodyneBプレート(Pall)に移し、そしてナイロンメンブレン上に真空濾過した。メンブレンを洗浄し、変性し、32P標識アデノウイルスE1A cDNA制限フラグメントとハイブリダイズし、そしてホルホルイメージャー(Molecular Dynamics)上で分析した。TCID50アッセイにより力価測定したアデノウイルス標準物を用い、サンプル中の感染性アデノウイルス力価を計算するために、系列希釈アデノウイルス標準物の直線回帰分析を用いた。
【0197】
比ウイルス生産性を、溶解物中の感染性ウイルス力価を、感染時の細胞数に標準化することにより計算した。結果を表1に示す:
【0198】
【表1】
【0199】
これらの結果は、293−1細胞におけるAdts149の比産生が、Ad5よりも1〜2対数低かったことを示す。
【0200】
力価が既知のAd5ウイルス調製物は、マイクロタイター感染度アッセイにおける直線回帰を基に、12.5〜500IU/ウェルに広がる直線範囲を示した。
【0201】
上記のように、ウイルス感染度アッセイを、マイクロタイターアレイフォーマットと組み合わせることにより、迅速および定量的の両方であり、そして自動化に高度に適した技術が得られた。
【0202】
上記のような高スループット感染度アッセイはまた、他のウイルス(例えば、rAAVおよびwtAAV)をアッセイすることに適用し得る。このアッセイは、適切な哺乳動物細胞(例えば、rAAVについてHeLaC37細胞またはwtAAVについて293細胞)を用いて本質的に上記のように、そしてアッセイされるウイルスの複製を許容する条件下(例えば、rAAVおよびwtAAVについてはヘルパーウイルスの存在下)で実施され得る;次いで溶解物が調製され得、そして上記溶解物中の核酸は、上記のようにメンブレンに移され得る。結合した核酸プールのアレイを含むメンブレンのハイブリダイゼーション(各プールは、対応する培養フェルの細胞から放出される)は、代表的には、適切なウイルス特異的プローブを用いて実施される(例えば、AAV repおよび/またはcapに特異的なプローブを用いてwtAAVを検出し得、または組換えAAVベクターの場合、挿入されたトランスジーンに特異的なプローブを用い得る)。
【0203】
上記の高スループット感染度アッセイは、比較的広範な範囲の濃度に亘ってrAAV力価の測定において直線的応答を示した。例えば、(改変感染中心アッセイにより測定されたような)既知の力価のウイルス調製物を、2400感染単位または「IU/ウェル」から出発して、系列的に1:2希釈し、そして連続的に1:5希釈された各力価が未知の2つの精製tgAAVCF調製物の力価測定の標準として用いた場合、マイクロタイターアッセイは、直線回帰を基に、75〜600IU/ウェルに広がる直線範囲を示した。wtAAVの力価の測定は、好ましくは、制限希釈フォーマットを利用した(例えば、力価が既知の8つの系列制限希釈のwtAAV調製物をアッセイした場合、マイクロタイターアッセイにより測定された力価は、標準のTCID50アッセイにより測定された力価、3×109IU/mlと本質的に同じであった)。
【0204】
制限希釈を用いるか、または既知の標準に対する比較のいずれかにより、感染性ウイルス力価が測定され得、それは、より古典的な技術(例えば、感染中心アッセイまたはTCID5050%終点分析)により測定される力価に対応する。ウイルス力価の測定におけるその使用の他に、この高スループット感染度アッセイは、多くの他の使用を有し、ウイルス複製および感染度を許容または許容しない細胞株のスクリーニング(例えば、マイクロタイターアレイの異なるウェルにおける種々の哺乳動物細胞またはその改変体を含めることによる);およびウイルス複製に影響する薬剤のスクリーニング(例えば、上記のようにマイクロタイターアレイの異なるウェルに種々の薬剤を含め、そして薬剤の、得られるウイルスの感染性力価に対する影響を測定することによる)などを含むがこれらに限定されない。とりわけ、ウイルス感染度および/または複製を増強する薬剤または条件について迅速にスクリーニングする能力は、特に、ウイルスベクターの産生を進展または最適化する意味で有用である。逆に、ウイルス感染度/複製を抑制する薬剤または条件を迅速にスクリーニングする能力は、抗ウイルス治療剤を同定する意味で極めて有用である。
【0205】
(実施例5)
ヘルパーウイルスを産生するための懸濁培養の開発
先の実施例は、従来の培養技術により産生された温度感受性アデノウイルスのレベルが低いことを示す。これは、AAVベクターの産生にヘルパーとして温度感受性アデノウイルスを用いる能力を制限する。本実施例は、感度感受性アデノウイルスをより多くの量で産生することを可能にする改良された方法を提供する。この改良の中心は、懸濁培養で増殖する宿主細胞の使用にある。
【0206】
293 N3SおよびHeLa S3は、それぞれ、293−1ヒト胎児腎臓およびHeLaヒト頸部癌腫細胞株の懸濁改変体である。懸濁培養を、500mlのスピナーフラスコ(Bellco)中、実容量250〜300mmで実施した。HeLa S3(ATCC 2.2−CCL)を、7.5%FBSおよび2.0mM L−グルタミンを補填した15mM HEPESを含むDMEM/F−12中で維持した。293−1 N3S(Microbix Biosystems Inc.)は、7.5%FBSおよび2.0mM L−グルタミンを補填したJoklik MEM中で継代した。スピナーフラスコは50〜65RPMで撹拌した。
【0207】
増殖挙動は以下の実験で評価した。293 N3SおよびHeLa S3を、二連の500mlスピナーフラスコで懸濁して連続的に継代し、そして細胞増殖および生存率をモニターした。フラスコに、2〜5x105細胞/mlの細胞密度で接種し、次いで2〜3日間培養した。接種密度の差異を制御するため、集団倍化レベル(PDL)を二連の培養について比較した。平均PDLは、HeLa S3および293 N3Sについて、それぞれ2.0±0.49(平均±SD.)および1.1±0.62(n=14)であった。より高い細胞倍化が、HeLa S3細胞で一致して観察された。懸濁中の細胞形態は、2つの株で劇的に異なった。HeLa細胞は単一細胞または小凝集物として増殖した。対照的に、293 N3S細胞は、それぞれが50〜100細胞の大きな凝集物を形成した。大きなクランプの中心には顕著な数の非生存細胞が観察された。ストックを、遠心分離後ピペットで穏やかに破壊し、凝集物から非生存細胞を放出することにより前培養した。293 N3Sの初期培養生存率は、HeLa S3に比べ一致してより低かった。
【0208】
懸濁中の細胞増殖、生存率および形態をもとに、HeLa S3細胞株を、さらなるプロセス開発のために選択した。許容温度における増殖および生存率を評価した。HeLa S3細胞を500mlスピナーフラスコ中に5x105細胞/mlで接種し、そして7日間毎日モニターした。
【0209】
図5は、32℃(四角)および37℃(丸)で増殖したHeLa S3細胞の生存細胞密度(VCD)を示す。32℃の時点の回りの棒は、二連の500mlスピナーフラスコで観察された値の範囲を示す。37℃で増殖した細胞は、5日に2.5x106細胞/mlでピークとなり、その一方32℃で増殖した細胞は、6日に2x106細胞/mlでピークとなった。(トリパンブルー排除により測定した)生存率は、初めから終わりまで少なくとも約90%であった。
【0210】
接線流または交差流濾過は、細胞の濃縮または除去、高分子の濃縮、および培地/緩衝液交換を含む広範な種類の大スケール生体薬学的適用に多能な技術である。接線流プロセッシングは、感染のための細胞の濃縮のため、および大スケールで感染細胞を回収するために必要である。
【0211】
接線流濾過において細胞生存率に対する薄層せん断の影響は、HeLa S3細胞を濃縮およびダイアフィルトレーションすることにより評価した。HeLa S3細胞を、3リットルのApplikonバイオリアクター中4x105細胞/mlの密度で接種し、そして7.5%FBS、2.0mMグルタミン、1xMEMアミノ酸、1xMEM非必須アミノ酸、0.1% PluronicポリオールF−68および2g/Lグルコースを補填した、15mM HEPES(JRH)を含むDMEM/F−12中で2x106細胞/mlまで培養した。バイオリアクターの実容量は2リットルであった。溶存酸素、pH、温度および撹拌を、FERMCONTM(Scius Corporation)コントローラーシステムを用いて、それぞれ、60%(空気飽和に対して)、7.2、37℃および100rpmで制御した。
【0212】
接線流濾過実験は、混合セルロースエステル中空繊維膜(Microgon)を用いて実施した。ポアサイズおよび表面積は、それぞれ0.2μおよび725cm2であった。0.2μのフィルターを選択して細胞を保持し、その一方消費した培地の通過を可能にした。細胞は、中空繊維の内径を通じてポンプ(Cole Palmer)輸送した。再循環速度を調節して750および1500/秒の平均壁せん断速度を提供した。交差流が一旦確立されたなら、それぞれ30および90ml/分の透過液フロー制御が、透過液ライン上に配置されたポンプ(Cole Palmer)により達成された。細胞濃縮の間、透過液の引き抜きを、所望の倍数の濃縮が達成されるまで継続した。ダイアフィルトレーションの間、バイオリアクターに入る培地供給を、所望の倍数の培地交換が達成されるまで活性化した。生存細胞を各処理の前後で計数した。
【0213】
図6は、例示の実験における接線流プロセッシング前後のHeLaS3細胞の成長曲線を示す。2リットルの細胞を3リットルバイオリアクターで培養した。3日(矢印)に、細胞を、2リットルの実容量から7倍濃縮し、6倍容量の増殖培地に対してダイアフィルトレートし、そしてもとの実容量にした。結果は、細胞が、750/秒(四角)および1500/秒(丸)の壁せん断により損傷されず、そして高細胞密度まで増殖を継続したことを示す。
【0214】
次いで、HeLa S3細胞の懸濁培養を、ts149産生のための宿主細胞として試験し、または300ml懸濁培養におけるそれらの能力を調査した。300ml懸濁培養(1x106細胞/ml)からのHeLa S3細胞を遠心分離し、濃縮し、そしてts149で感染した(MOI=3)。1時間後、培養物をスピナーフラスコに移し、培地中に再懸濁し、そして32℃で7日間培養した。HeLa S3細胞を、感染時の約1x106細胞/mlから5日までに約2x106細胞/mlまで増殖を継続した。7日に生存率は約60%まで減少した。
【0215】
図7は、HeLa S3細胞培養によるts149の産生を示す。培養物を毎日サンプリングし、そして溶解物を、アデノウイルス感染度アッセイによるウイルス産生の分析のために凍結−融解により調製した。ウイルス産生は、約3〜5日までに、約4.5x107IU/ml培地に到達した。7日に、細胞を遠心分離により集め、TMEG緩衝液中に再懸濁し、そして微小流動(MF)により溶解した。微小流動した溶解物の感染性力価は、凍結融解溶解物サンプルの感染性力価に匹敵し、微小流動による回収は、凍結−融解法に匹敵したことを示す。
【0216】
(実施例6)
温度感受性ヘルパーウイルス(AD ts149)の産生のための改良された精製方法
CsCl勾配を用いる生成は大スケール産生にはわずらわしい。この実施例は、イオン交換クロマトグラフィーによるts149の精製を説明する。
【0217】
クロマトグラフィーは、Perseptive Biosystem BIOCADTMクロマトグラフィーワークステーション上で実施した。用いた樹脂は、ポリエチレンイミン(PI)弱アニオン交換体(POROSTM50PI)であった。カラムは、TMEG(50mM Tris、pH8.0、5mM MgCl2、1mM EDTA、5%グリセロール)で平衡化した。クロマトグラフィーは、オンラインでpH、伝導度および280nmにおける光学密度をモニターした。
【0218】
MOIが2のts149で感染した懸濁HeLa S3を回収し、そして遠心分離した。ペレットをTMEG中に再懸濁し、そして微小流動機(Microfluidics)を用いて3000PSIにおけるキャビテーションにより溶解した。溶解物を、5μシリンジフィルター(Millex SV)次いで0.45μシリンジフィルター(Acrodisc)により清澄化した。清澄化した溶解物を、1.6mlPOROSTM50PIアニオン交換カラムに1ml/分のランでロードした。カラムを、10カラム容量の、900mM NaClを含むTMEGで洗浄し、そしてts149は、900〜1300mM NaClの直線勾配で溶出した。0.5mlのフラクションを集め、そしてアデノウイルスの存在について感染度アッセイおよびスロットブロットによりアッセイした。
【0219】
図8は、連続するカラム画分について行われた感染度アッセイの結果を示す。感染性アデノウイルスの大部分は、約25分に約100msで溶出する吸光度のピークと一致して、フラクション26〜28に見出された。ts149は、より高い塩濃度のこの大ピークの直前で溶出された。並行して行われた感染度およびスロットブロットアッセイは、粒子および感染性ウイルスが同じピーク画分に存在したことを確認した。
【0220】
溶解物およびPIピーク画分をまた、Bradford法により総タンパク質についてアッセイした。タンパク質濃度は、溶解物中1.8mg/mlであり、そしてPIプールでは30.0μg/mlより少なかった。ビリオンを、単一の工程で細胞タンパク質の大部分から分離し、そして単一ピークとして溶出した。このビリオンは、カラムからそれらを溶出するために必要な比較的高塩濃度により証明されるように、PIマトリックスに非常に高い親和性を示した。
【0221】
温度感受性ヘルパーウイルスの大スケール産生方法は、これらの実施例に記載されたすべての改良を取り込み得る。1つの例示では、ウイルス産生は以下の工程を包含し得る;
・懸濁バイオリアクター中の細胞培養
・濃縮/培地交換・ヘルパーウイルスでの感染
・ウイルス産生
・回収:濃縮/ダイアフィルトレーション
・微小流動による溶解
・PIイオン交換クロマトグラフィー
・濃縮/ダイアフィルトレーション
・滅菌濾過
このタイプのアプローチは、本質的に、スケールアップ可能であり、かつ現在の商品製造慣行に従順である。
【0222】
このような技術のさらなる例示の説明を以下に提供する。
【0223】
(実施例7 ヘルパーウイルス産生についての第1および第2世代プロセスの比較)
(A.例示の第1世代ヘルパーウイルス産生およびプロセシング)
ヘルパーウイルス産生についての例示的な「第1世代」プロセスにおいて、哺乳動物細胞を40のT225フラスコ中で増殖させ、次いでこの細胞に約1のMOIでAd5を感染させた。インキュベーション後、この細胞を遠心分離で収集し、凍結融解およびニードルの通過により溶解した。この溶解物をDNaseIでの処理に供し、次に段階CsCl勾配および等密度勾配にかけた。精製された物質を透析し、そして滅菌濾過した。
【0224】
この第1世代プロセスを使用して、本発明者らは4x108細胞から約1x1012粒子(または約1x1011感染単位)を得た。
【0225】
(B.例示の第2世代ヘルパーウイルス産生およびプロセシング)
ヘルパーウイルス産生についての例示的な「第2世代」プロセスにおいて、哺乳動物細胞(HeLaS3)を10Lバイオリアクター中で増殖させ、次いでこの細胞に約1のMOIでAd5(ATCCから、続いて293細胞でプラーク精製し、HeLaS3細胞について連続的に広げ、そしてCsCl勾配遠心分離により二重精製した)を感染させた。インキュベーション後、この細胞をダイアフィルトレーションにより濃縮および収集し、そしてミクロフルイダイゼーションにより溶解した。この溶解物をベンゾナーゼ(Benzonase)(ヌクレア−ゼ)での処理に供し、次いで濾過した。次いでこの濾過物を濃縮およびダイアフィルトレートされた陰イオン交換カラム(PI)に流し、最終的に滅菌濾過した。
【0226】
この第2世代プロセスを使用して、本発明者らは1×1010細胞から約1×1014粒子(または約5x1012感染単位)を得た。
【0227】
図9は、上記のとおり陰イオン交換クロマトグラフィーを使用するヘルパーウイルスの下流プロセシングの結果を示す。バー:感染力アッセイで測定されたウイルス活性;実線:A280;点線:緩衝液伝導率(ms)。
【0228】
ウイルス活性の分画とA280吸光度との比較から明らかなように、これらのプロセシング手順は、このヘルパーウイルスの、細胞性タンパク質および核酸を含むと予想される汚染物質のバルクからの実質的な分離を生じた。
【0229】
(実施例8 組換えAAVベクター産生についての第1および第2世代プロセスの比較)
(A.例示の第1世代rAAV産生およびプロセシング)
rAAVベクター産生についての例示的な「第1世代」プロセスにおいて、哺乳動物細胞を40のT225フラスコ内で増殖させ、次いでこの細胞に約5のMOIでAd5を感染させた。インキュベーション後、この細胞を遠心分離により収集し、そして超音波処理により溶解した。この溶解物を、DNaseIでの処理に供し、次いで一連の2つのCsCl勾配にかけた。精製された物質を透析し、そして滅菌濾過した。この第1世代プロセスを使用して、本発明者らは4x103細胞から約5×106複製単位RUを得た。
【0230】
(B.例示の第2世代rAAV産生およびプロセシング)
rAAVベクター産生についての例示的な「第2世代」プロセスにおいて、哺乳動物細胞を10Lバイオリアクター中で増殖させ、次いでこの細胞に約5のMOIでAd5を感染させた。インキュベーション後、この細胞をダイアフィルトレーションにより濃縮および収集し、そしてミクロフルイダイゼーションにより溶解した。この溶解物をベンゾナーゼ(ヌクレアーゼ)での処理に供し、次いで濾過した。次いでこの濾過物を陰イオン交換カラムに流した後、陽イオン交換カラムに流した。AAVを含む溶出物画分をプール、濃縮、およびダイアフィルトレートし、最終的に滅菌濾過した。この第2世代プロセスは1x1010細胞から1x1011複製単位より多いRUを得ると期待される。
【0231】
図10は、イオン交換カラム上;まず陰イオン交換マトリックス(上側のパネル)上、次いで陽イオン交換マトリックス(下側のパネル)上の、連続的な分画の結果を示す。バー:アデノウイルスまたはAAVのいずれかについての感染力アッセイにおいて測定したウイルス活性;実線:A280(総タンパク質の測定);点線:緩衝液伝導率(ms)。分析した画分から明らかなように、本発明の技術を用いて、AAVおよびA280吸収物質(大部分のタンパク質)間と同様に、AAVおよびアデノウイルス間の極めて高レベルの分離を得ることが可能である。特に、この結果は、AAVベクターが陰イオン交換カラムおよび陽イオン交換カラムの両方に保持され得ること、および陰イオンおよび陽イオン交換の両方を使用するAAVの差次的な溶出は、目的の主な汚染物質(アデノウイルスならびに細胞性タンパク質を含む)の全てからAAVを分離する能力の劇的な増強をもたらした。
【0232】
rAAVベクター産生についての別の例示的な第2世代プロセスにおいて、この濾過物を上述のように調製し、次いで陰イオン交換カラムに流した後、AAVを含む溶出物画分をプールし、次いでこのプールした陰イオン交換溶出物を接線流濾過(tangential flow filtration)(TFF)に供した。以下に記述のとおり、この陰イオン交換からTFFまでの手順は、高度に濃縮および精製されたAAV調製物をもたらすことが見出された。
【0233】
このような第2世代技術を使用して、上述および当該分野における技術(感染力アッセイ、スロットブロット分析、およびSDSゲル電気泳動法を含む)を使用して得たAAVの詳細な分析は、この物質が高品質なものであり、汚染アデノウイルス粒子(およびアデノウイルスタンパク質およびDNA)を実質的に含まず、かつまた汚染細胞性タンパク質およびDNAをも実質的に含まないというさらなる確証を提供した。SDSゲルは、VP1、VP2、およびVP3(すなわちAAVカプシドタンパク質)に対応するバンドの存在を示した。他のいかなるバンドもクマシー染色後に現れなかった。これらのデータは、図10〜11に示すとおり、カラム分画分析の結果と一致する。
【0234】
例示の陰イオン交換からTFFまでの手順として、以下は、1Lの陰イオン交換クロマトグラフィーからプールした画分で開始する例示的な精製および濃縮プロセスである。所望ならば(上記のとおり)、このプールを熱失活後、濾過工程(例えば、0.22μmフィルターを使用する)に供し得る。接線流濾過(TFF)について、本発明者らは、入圧および出圧について40/0で操作した300,000分子量カットオフメンブランを備えた消毒Pellicon XLシステムを使用した。1Lのプールされた物質を、500ml容量でこのシステムにロードし、次いで250mlに濃縮した。ダイアフィルトレーションを、5ダイアボリューム(diavolume)(1250ml)の改変リンガー溶液+5%グリセロールで行った。ダイアフィルトレーション後、保持物(retentate)を最終容量14mlまで濃縮した。総プロセス時間は約3.25時間である(消毒時間を含まず)。銀染色SDSゲル、スロットブロット、および感染力アッセイは、このAAV調製(約1010複製単位を含む)が、汚染アデノウイルスならびにアデノウイルスタンパク質および細胞性タンパク質を実質的に含まないことを確認した。
【0235】
以下は、感染性ウイルス力価および総ウイルス力価をそれぞれRU(複製単位)およびDRP(DNAse耐性粒子)として示す、このような手順からの結果である:
【0236】
【化1】
【0237】
図12に示されるデータは、陰イオン交換カラム後の接線流濾過を使用するAAV産生作業の結果を説明する。POROS 50PIカラムで精製された物質を、300,000分子量カットオフメンブラン(Millipore Pellicon XL)を使用して濃縮した。この濃縮された物質を、5連続容量(successive volume)のリンガー平衡塩溶液+5%グリセロールでダイアフィルトレートした。次にこの物質をこのメンブランで10倍に濃縮した。図12は銀染色で染色したSDSポリアクリルアミドゲルの網版複写であり、これは、最終精製バルク物質中の、高度に精製されたAAVカプシドタンパク質、VP1(85kD)、VP2(72kD)、およびVP3(62kD)を示す。
【0238】
本明細書中に示されるデータから明らかであるように、AAVの調製および精製についてのこれらの第2世代技術は、以前に記述した方法と比較して、実質的に改良した方法をもたらす。
【0239】
アデノウイルスヘルパーを増殖するための、およびrAAVを調製するための例示的な培地を以下の表に詳述する:
【0240】
【表2】
【0241】
【0242】
(C.ヘパリン硫酸クロマトグラフィーを使用するAAVベクターの精製)
上述のように、クロマトグラフィー技術を、本発明に従ってAAV調製物をさらに精製および濃縮するために使用し得る。例として、粗製形態(例えば、溶解物)である、または陰イオン交換または陽イオン交換カラムから溶出され、および/または接線流濾過により濃縮されたAAVの調製物は、ヘパリン硫酸を含むカラムに結合させることにより精製され得る。次にAAVを、塩を含有する緩衝液(例えば、NaClの直線勾配)を使用して、このようなカラムから溶出し得る。
【0243】
ヘパリン硫酸クロマトグラフィー使用の例示として、「PI」プールから得られたAAV(以下実施例9中に記載されるとおり)をまず4倍に濃縮し、そして300K接線流濾過メンブランを使用してTMEG+100mM NaCl中にダイアフィルトレートした。次にこの濃縮物を、1mlヘパリン硫酸カラム(Pharmacia“Hi−Trap Hepain”カラム)に注入し、そしてNaClの直線勾配を使用して溶出した。
【0244】
図13は、ヘパリン硫酸カラム上に得られたAAVの濃度を示すクロマトグラムである。約18分溶出時間での280nmでの吸光度(左座標軸)における鋭いピークは、0〜1M NaClの直線勾配(右座標軸に示されるmsでの伝導率)を用いてヘパリン硫酸から溶出したAAV画分を示す。
【0245】
(実施例9 組換えAAVベクター産生および試験)
産生作業の別のセットにおいて、本発明者らはDMEM+10%FBSを増殖培地として使用して、セルファクトリー(Cell Factory)において増殖した3〜4x109細胞を使用した。細胞に約20のMOIでAdを感染させ、そしてこれを感染後72時間で収集した。収集した細胞を約5x106細胞/mlの濃度でTMEG+NaCl中に懸濁した。機械的な溶解(ミクロフルイダイゼーション、8000psiで2回通過)後、溶解物をベンゾナーゼで処理し(25ユニット/ml、37℃、1時間)、次いで5ミクロンフィルター(Pall Profile II)を通して濾過した。
【0246】
例示的な陰イオン交換カラムとして、本発明者らはPOROS 50 PIカラム(Perseptive Biosystemsから入手)を使用した。簡単には、この濾過物を約100mlでカラムにロードし、そして500mMまでのNaClの勾配で溶出した。(感染力アッセイによって)大部分のこのAAVを含むことが決定された画分を、収集およびプールした(「PIプール」と称する)。
【0247】
次いでこのPIプールをTMEGで約1:7に希釈し、そして50ml Toso Haas SP650Cカラムにロードし、ならびに500mM NaClまでの勾配で溶出した。(感染力アッセイによって)大部分のこのAAVを含むことを決定された画分を収集およびプールした(「SPプール」と称する)。このSPプールをCentriprep 10Kフィルターを使用して濃縮し、次いで0.2ミクロンフィルターを通して滅菌した。
【0248】
この結果は、この組換えAAVが検出可能な感染性アデノウイルスを本質的に含まないことを示した(293細胞での連続増幅およびTCID50アッセイを用いた検出限界分析により決定したとおり)。この調製物はまた、アデノウイルスDNAを本質的に含まず(スロットブロット分析により決定されたとおり)、細胞性タンパク質も(SDS−PAGEゲル分析により決定されたとおり)、細胞性DNA(PCR分析により測定されるとおり)も本質的に含まず、そしてまた表現型野生型AAVも本質的に含まない(連続増幅およびサザン分析により測定したとおり)。
【0249】
(実施例10 栄養ストレスによるAAV産生の増強)
上述のとおり、AAV産生は、AAVプロデューサー細胞の増殖または代謝に効果的なストレスを与える(または脱至適化する(de−optimize))任意の多様な薬剤および/または条件を使用して増強され得ると考えられる。この実施例において、培養中に生じるような特定のアミノ酸の枯渇は、AAV産生における相対的な増強と関連すること、および逆に、栄養ストレスを除去するための培地補充物は実際にベクター収量に劇的な減少をもたらすことが示される。
【0250】
(a バッチ培養および灌流培養中の栄養ストレス)
JL14細胞を、2Lバイオリアクター中に約4x105細胞/mlで接種し、バッチ様式または灌流(接線流濾過を使用して、1日目は0.4容量/日で、2〜3日は1.2容量/日で、4日目は2容量/日で、および5日目は4容量/日で)のいずれかにより、表2中に示されるrAAV培地中で増殖させた。培養物を、標準の技術を使用して、細胞密度、グルコース、乳酸、およびアミノ酸についてモニターした。
【0251】
この分析は、この細胞密度が、バッチ培養において2日目に1x106細胞/mlで、および灌流培養において6日目に8x106細胞/mlでピークに達することを示した。グルコースはそれぞれの場合で限定的ではなく(>1g/l)、乳酸は阻害性ではなかった。
【0252】
しかしアミノ酸分析は、グルタミン酸およびアスパラギン酸が共に、以下の表に示されるように、バッチおよび灌流培養の両方において急速に枯渇することを示した:
【0253】
【表3】
【0254】
【表4】
【0255】
(b 増強したAAV産生に関連した栄養ストレス)
追跡研究を、培養培地中のグルタミン酸およびアスパラギン酸の相対的な欠乏の重要性を確認するために行った。JL14細胞をスピナーフラスコから得、および2つのセットに分割した。各セットに3x109感染単位の170−37Ad5を接種した。細胞の一方のセットを10%FBSおよび1%L−グルタミン(300ml)を含むrAAV培地(表2)中に106細胞/mLで再懸濁した。他方を、10%FBS、1%L−グルタミン、10mg/Lアスパラギン酸、および110mg/Lグルタミン酸を含むrAAV培地中に再懸濁した。
【0256】
各セットはスピナーフラスコ中に37℃で72時間インキュベートした。この細胞を、収集し、8000pisで2回ミクロフルイダイゼートし、ベンゾナーゼ処理し、感染力アッセイ中にプレートし、収集およびプローブした。
【0257】
結果は、対照スピナーフラスコが細胞あたり6.2RUを産生することを示した。アスパラギン酸およびグルタミン酸を補充したスピナーフラスコは、細胞あたり0.94RUを産生した。
【0258】
これは、アスパラギン酸およびグルタミン酸の枯渇が、過剰のこれらのアミノ酸を提供することにより妨害される場合、rAAV産生は、この細胞を栄養ストレスに供することができなかったことにより損なわれることを示す。
【0259】
さらなる試験をHeLa由来細胞株D6を使用して行った。この細胞株は、組込まれたrAAVベクター(ITR−(CMVプロモーター)−(β−galレポーター遺伝子)−ITR)、ならびに野生型AAVrepおよびcap遺伝子のコピーを有する。
【0260】
この細胞を30ml完全DMEM(10%FBS、2mM L−グルタミン)中T−225フラスコあたり5×106細胞で播種し、そして37℃で10%CO2中に2日間インキュベートするとすぐに、この細胞はフラスコあたり2×107細胞の密度に到達した。2つの同一フラスコ中の細胞に、10のMOIでAd5を感染させた。1つのフラスコは完全なDMEMを含み、もう1つは5xアスパラギン酸およびグルタミン酸を補充した完全なDMEMを含んだ。細胞を培養72時間後、収集および計数した。
【0261】
この完全なDMEMは88%生存度で2.6x107細胞を生じた。アスパラギン酸/グルタミン酸補充培地は、91%生存度で3.8x107細胞を生じた。細胞を再懸濁し、超音波処理し、ベンゾナーゼで処理(25U/ML)し、浄化し、およびスロットブロット分析によりアッセイした。
【0262】
結果は以下のとおりであった:D6ウイルスは、完全な(補充していない)DMEM中に、1.8x1010DRP/mL(細胞あたり1800DRP)で産生された。D6ウイルスは、アスパラギン酸/グルタミン酸補充したDMEM中に、1.4x109DRP/ml(140DRP/細胞)で産生された。
【0263】
(実施例11 血清ストレス下での組換えAAVベクター産生)
ストレス条件下でのrAAV産生の例として、本発明者らは、上述のとおりの技術と共に、減少血清ストレスを使用した。簡単には、JL14細胞を、継続的な連続培養様式で改変DMEM+10%FBSのスピナーフラスコで増殖させ、そして3〜4日毎に分割した。懸濁培養物からの細胞を、16のNuncセルファクトリー、10スタック(stack)に、3x108細胞/ファクトリーで、3〜4日のローテーションで配置した。増殖に使用した培地は、血清の10倍減少(すなわち、DMEM+1%FBS)を有し、これによりこの細胞を血清ストレス下に置いた。
【0264】
播種後24時間で、ファクトリー中の培地を除去し、3x109Ad単位/mlを含む新鮮培地を添加した。37℃での培養72時間後、この細胞を軽くたたきながらファクトリーから取り外し、細胞を含む培地を収集し、そしてこの細胞をペレット化し、そしてTMEG+100mM NaCl中に再懸濁し、次いで8000psiでのミクロフルイダイゼーションを介した通過により溶解した。この溶解物を、5ミクロンフィルターを通して浄化し、この浄化した溶解物を500ml PI陰イオン交換カラム上にロードした。このカラムをTMEG緩衝液中の増加するNaCl(500mMまで)の勾配で溶出した。画分を収集し、そしてAllenら(WO96/17947、前出)により記述のとおりClone37アッセイを使用してアッセイした。次にAAVベクターのほとんどを含む画分をプールし、そしてCentriprep遠心濃縮器を1000xgで30分間使用して10倍に濃縮した。この濃縮された物質を5%グリセロールを有するリンガー平衡塩溶液に対して透析し、そして−70℃で貯蔵した。このAAVをClone37アッセイ、ならびにスロットブロットおよびSDS−PAGEによりアッセイした。この物質をまた、アデノウイルス、アデノウイルスタンパク質、および細胞性DNA、ならびに他の可能性のある汚染の存在についてもアッセイした。
【0265】
図11は、フラスコあたり107細胞でT−225フラスコ中にセットアップしたGAK−0003プロデューサー細胞を使用して得た、および2日目に10のMOIでDAB−003アデノウイルスを接種した結果を示す。異なるフラスコを、この図に示されるように、異なるパーセントのFBSを含む新鮮DMEM中に37℃で72時間培養した。5日目に各フラスコを収集し、既に述べたとおり、この細胞を計数し、再懸濁し、超音波処理し、ベンゾナーゼ処理し、そしてベクターの産生を測定するためにプレートした。
【0266】
至適ベクター産生は、1%のFBSパーセンテージで観察された。従って、FBSを欠乏する培地(2.5%より低い、好ましくは、2%より低いが0%よりも多い)は、プロデューサー細胞を血清ストレスに供するための条件として好ましい。
【0267】
(実施例12 pHストレス下の組換えAAVベクター産生)
ストレス条件下でのrAAV産生のさらなる例として、本発明者らは、上述のとおりの技術と共にpHストレスを使用した。簡単には、AAVプロデューサー細胞を上述のとおりバイオリアクター中で増殖させた。次いで細胞にMOI=10でAd5を感染させ、そしてこれを1.5Lバイオリアクター中の懸濁液中の低血清培地(実施例11に記載のとおり)に接種した。培養物を多様な高いpHレベル(7.2から8.0)で維持した。次いで培養物を、細胞数、生存度、グルコース消費、乳酸産生、pH、浸透圧、およびAAV産生について毎日モニターした。以下に示されるように、pHが7.4まで上昇した場合、AAV産生に増加が見られた;上清中に放出されたAAV粒子の数のさらにより劇的な増加を伴った(これはpHが上昇するにつれ増加した):
【0268】
【化2】
【0269】
要するに、pHが上昇すると、本発明者らは、上清中に放出されたAAV粒子の数の急激な増加、および上清:細胞結合粒子のパーセンテージの変化(pH7.2ではほとんど全てが細胞結合であり、pH8.0ではほとんどが上清である(92%))を観察した。プロデューサー細胞を溶解する必要なしに上清から直接AAV粒子を回収する能力は、AAV産生および精製の点で強力な利点を示す。pHストレスを使用して上清から単離されたAAVは、本明細書に記載の技術(例えば、イオン交換クロマトグラフィーおよび/または接線流濾過)を使用して、容易に濃縮され得、そして精製され得る。
【技術分野】
【0001】
(発明の分野)
本発明は、一般的に、遺伝子移入に使用され得る、組換えアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターおよびその調製物の分野に関する。より詳細には、本発明は、ヘルパーウイルス(例えば、アデノウイルス)および細胞性タンパク質を実質的に含まない、組換えAAVベクターの高力価の調製物の生成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
(発明の背景)
アデノ随伴ウイルス(AAV)は、遺伝子治療のためのベクターとして魅力的な独特の特徴を有する。アデノ随伴ウイルスは、広範囲の細胞型に感染する。しかし、アデノ随伴ウイルスは、形質転換性でなく、そして、いずれのヒト疾患の病因とも関係していない。DNAのレシピエント宿主細胞への導入は、一般的に、その細胞の正常の代謝を妨げることなく、そのDNAの長時間の残留および発現をもたらす。
【0003】
遺伝子移入、特にヒト遺伝子治療における使用のための組換えAAVベクター調製物の、所望される特徴は、少なくとも3つ存在する。第1に、このベクターが、標的組織における細胞の有効な集団に形質導入するために、十分に高い力価で生成されるべきであることが、好ましい。インビトロでの遺伝子治療は、代表的には、大多数のベクター粒子を必要とする。例えば、いくつかの処置は、108を超える粒子を必要とし得、そして気道への直接的送達による嚢胞性線維症の処置には、1010を超える粒子を必要とし得る。第2に、このベクター調製物が、複製コンピテントなAAV(すなわち、ヘルパーウイルスまたはヘルパーウイルス機能の存在下において複製し得る、表現型としての野生型AAV)を、実質的に含まないべきであることが、好ましい。第3に、このrAAVベクター調製物は、全体として、他のウイルス(例えば、AAV生成に使用されるヘルパーウイルス)ならびにヘルパーウイルスタンパク質および細胞性タンパク質、および脂質および糖質のような他の成分を、実質的に含まず、その結果、遺伝子治療の状況において、免疫応答を生じる危険性を、最小化するか、または除去することが、好ましい。この後者の点は、AAVの状況において特に顕著である。なぜならAAVは、AAV生成のプロセスの間に、有効に複製されて、そしてパッケージングされるために、ヘルパーウイルス(代表的にはアデノウイルス)との同時トランスフェクションまたはヘルパーウイルス機能のその他の提供が必要である、「ヘルパー依存性」ウイルスであるからである。さらに、アデノウイルスは、遺伝子治療適用の状況において、宿主免疫応答を生じることが観察されている(例えば、Byrnesら、Neuroscience 66:1015、1995;McCoyら、Human Gene Therapy 6:1553、1995;およびBarrら、Gene Therapy 2:151、1995を参照のこと)。本発明の方法は、以下に詳細に記載および説明されるように、rAAVベクター調製物のこれらおよび他の所望の特徴に取り組む。
【0004】
AAVウイルス学、および遺伝学の一般的な総説は、他で利用可能である。読者は、特にCarte、「Handbook of Parvoviruses」、第I巻、169〜228ページ(1989)、およびBerns、「Virology」、1743〜1764ページ、Raven Press、(1990)を参照し得る。以下は、読者の便宜のための、手短な概要である。AAVは、複製欠損ウイルスであり、このことは、宿主細胞におけるAAVの複製およびパッケージングサイクルを完成するために、AAVがヘルパーウイルスに依存することを意味する。AAVゲノムは、一般的に、パッケージング遺伝子repおよびcap(他の必要な機能は、ヘルパーウイルスおよび宿主細胞からトランスで提供される)を含む。
【0005】
AAV粒子は、3つのキャプシドタンパク質である、VP1、VP2およびVP3を有する、タンパク質様キャプシドを含み、そして、約4.6kbの直鎖状1本鎖DNAゲノムを内包する。個々の粒子は、1つのDNA分子鎖のみをパッケージングするが、このDNA鎖は、プラス鎖またはマイナス鎖のいずれかであり得る。いずれかの鎖を含有する粒子は、感染性であり、そして親の感染している1本鎖から2本鎖形態への変換、およびその後の増幅(この増幅によって、子孫1本鎖が追い出され、そしてキャプシドにパッケージングされる)によって複製が生じる。AAVゲノムの2本鎖または1本鎖コピー(時として、「プロウイルスDNA」または「プロウイルス」という)は、細菌プラスミドまたはファージミドに挿入され得、そしてアデノウイルス感染細胞にトランスフェクトされ得る。
【0006】
説明の目的で、AAV2血清型の直鎖状ゲノムは、逆方向末端反復(ITR)配列によっていずれかの末端で終結する。ITRの間には、repおよびcap遺伝子を発現するために使用される、3つの転写プロモーターp5、p19、およびp40が存在する(Laughlinら、1979、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 76:5567〜5571)。ITR配列は、シスにおいて必要であり、そして、機能的な複製起点、細胞ゲノムへの組み込み、ならびに宿主細胞染色体または組換えプラスミドからの効率的な切り出しおよびレスキューを提供するのに十分である。repおよびcap遺伝子産物は、ウイルスゲノムの複製およびキャプシド化の機能を、それぞれ提供し、そしてこれらの産物は、トランスで存在することで、その機能には十分である。
【0007】
rep遺伝子は、2つのプロモーター、p5およびp19から発現し、そしてRep78、Rep68、Rep52、およびRep40と称される4つのタンパク質を生成する。Rep78およびRep68のみが、AAVの2重鎖DNA複製に必要であるが、Rep52およびRep40は、子孫にとっての、1本鎖DNAの蓄積に必要なようである(Chejanovskyら、Virology 173:120、1989)。Rep68およびRep78は、AAV ITRのヘアピンコンホメーションに特異的に結合し、そして複製物をAAV末端で分解するために必要とされる、いくつかの酵素活性を有する。Rep78およびRep68はまた、AAV遺伝子およびいくつかの異種プロモーターからの発現のポジティブおよびネガティブ調節、ならびに細胞増殖の阻害効果を含む、多面発現性調節活性を示す。cap遺伝子は、キャプシドタンパク質VP1、VP2およびVP3をコードする。これらのタンパク質は、共通の重複配列を共有するが、VP1およびVP2は、代わりの開始コドンの使用により、p40プロモーターから転写される、さらなるアミノ末端配列を含む。3つのタンパク質の全ては、効果的なキャプシド生成にとって必要である。
【0008】
AAVゲノムは、GCテーリング(Samulskiら、1982、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 79:2077〜2081)、制限エンドヌクレアーゼ切断部位を含有する合成リンカーの付加(Laughlinら、1983、Gene 23:65〜73)、または、直接的な平滑末端の連結(SenanpathyおよびCarter、1984、J.Biol.Chem.、259:4661〜4666)のような手順によって、細菌プラスミド中に導入されてきた。そのようなAAV組換えプラスミドの哺乳動物細胞への、適切なヘルパーウイルスを使用する、トランスフェクションは、全くプラスミド配列を含まないAAVゲノムのレスキューおよび切り出し、レスキューされたゲノムの複製、および子孫の感染性AAV粒子の生成をもたらす。
【0009】
治療目的の異種ポリヌクレオチドを含む組換えAAVベクターは、細菌プラスミド中のAAVコード配列の部分を、異種ポリヌクレオチドで置換することによって、構築され得る。rAAVベクター構築の一般的原理はまた、別に概説されている。例えば、Carter、1992、Current Opoinions in Biotechnology、3:533〜539;およびMuzyczka、1992、Curr.Topics in Microbiol.and Immunol.、158:97〜129を参照のこと。AAVのITRは、一般的に保持されている。なぜなら、ベクターのパッケージングは、ITRがシスで存在することを必要とするからである。しかし、AAVゲノムの他のエレメント、特に、1つ以上のパッケージング遺伝子は、省略され得る。ベクタープラスミドは、省略されたパッケージング遺伝子を、代替的な供給源を介してトランスで供給することにより、AAV粒子中にパッケージングされ得る。
【0010】
1つのアプローチにおいて、AAV ITRに隣接する配列(rAAVベクター配列)、およびトランスで提供されるAAVパッケージング遺伝子は、別個の細菌プラスミドにおいて、宿主細胞中に導入される。このアプローチの例は、Ratschinら、Mol.Cell.Biol.4:2072(1984);Hermonatら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、 81:6466(1984);Tratschinら、Mol.Cell.Biol.5:3251(1985);McLaughlinら、J.Virol.62:1963(1988);およびLebkowskiら、1988 Mol.Cell.Biol.7:349(1988)に記載される。Samulskiら(1989、J.Virol.、63:3822〜3828)は、アデノウイルス由来のITRによって内包される、RepおよびCapコード領域からなる、pAAV/Adと呼ばれるパッケージングプラスミドを記載している。嚢胞性線維症患者由来のヒト気道上皮細胞は、pAAV/AdパッケージングプラスミドおよびAAV p5プロモーターを介して発現する選択マーカー遺伝子neoを含むプラスミドを使用して調製されたAAVベクターを使用して、形質導入されている(Flotteら、Am.J.Respir.Cell.Mol.Biol.7:349、1992)。
【0011】
第2のアプローチは、ベクター配列、またはAAVパッケージング遺伝子のいずれかを、AAV複製のために使用される哺乳動物細胞においてエピソーム型のプラスミドの形態において提供することである。例えば、米国特許第5,173,414号は、ベクター配列が、高コピーのエピソーム型プラスミドとして存在する細胞株を記載する。この細胞株は、トランス相補性のAAV機能のrepおよびcapで形質導入され、AAVベクターの調製物を生成し得る。このアプローチは理想的ではない、なぜなら、1細胞あたりのコピー数は、厳密には制御され得ず、そしてエピソーム型DNAは、再編成され、ベクター副産物の生成をもたらす可能性が高いからである。
【0012】
第3のアプローチは、複製のために使用される哺乳動物細胞のゲノム中に安定に組み込まれる、ベクター配列か、またはAAVパッケージング遺伝子、あるいはその両方のいずれかを提供することである。
【0013】
1つの例示的な技術が、国際特許出願WO95/13365(Targeted Genetics CorporationおよびJohns Hopkins University)および対応する米国特許第5,658,776号(Flotteらによる)において概説される。この例は、哺乳動物細胞を、安定に組み込まれたrAAVベクターの少なくとも1つのインタクトなコピーとともに使用し、ここで、このベクターは、AAV ITRおよび標的ポリヌクレオチドに作動可能に連結した転写プロモーターを含むが、ここで、repの発現は制限されている。好ましい実施態様において、細胞中に導入された異種AAVに作動可能に連結したrep遺伝子を含むAAVパッケージングプラスミドは、細胞に導入され、次にその細胞は、AAVベクター配列の複製、および粒子へのパッケージングを可能にする条件下でインキュベートされる。
【0014】
第2の例示的な技術は、特許出願WO95/13392(Trempeら)において概説される。この例は、機能的なRepタンパク質の発現を可能にするように、異種プロモーターと作動可能に連結したAAV rep遺伝子を有する安定な哺乳動物細胞株を使用する。種々の好ましい実施態様において、AAV cap遺伝子は、安定に提供され得るか、または一過性に導入され得る(例えば、プラスミド上で)。組換えAAVベクターはまた、安定にか、または一過的に導入され得る。
【0015】
別の例示的な技術は、特許出願WO96/17947(Targeted Genetics Corporation.J.Allen)において概説される。この例は、安定に組み込まれたAAV cap遺伝子、および異種プロモーターに作動可能に連結し、そしてヘルパーウイルスによって誘導可能な、安定に組み込まれたAAV rep遺伝子を含む哺乳動物細胞を使用する。種々の好ましい実施態様において、ベクター配列を含むプラスミドはまた、細胞に導入(安定的か、または一過性のいずれかで)される。次に、AAVベクター粒子のレスキューは、ヘルパーウイルスの導入によって開始される。
【0016】
これら種々の例は、十分に高力価のAAVを提供し、ベクターとパッケージング成分の間の組換えを最小限にし、そして哺乳動物細胞株におけるAAV rep遺伝子の発現に関連する可能性のある困難さを減少するか、または回避するという、問題に取り組む(なぜなら、Repタンパク質は、それ自体の発現を制限し得るばかりではなく、細胞の代謝にも影響を及ぼし得るからである)。しかし、AAVベクターのウイルス粒子中へのパッケージングは、いまだ、AAVについての適切なヘルパーウイルスの存在か、またはヘルパーウイルス機能の提供に依存する。AAV複製を補助し得るヘルパーウイルスは、アデノウイルスによって例示されるが、ヘルペスウイルスおよびポックスウイルスのような他のウイルスを含む。AAVベクターの調製における感染性ヘルパーウイルスの十分な量の存在は、その調製がヒト投与における使用を意図する場合に、問題となる。非複製性のヘルパーウイルス成分の存在でさえも、処置される患者において、受け入れられない免疫反応を生じ得る。
【0017】
ヘルパーウイルス抗原によって誘発される可能性のある問題は、近年のいくつかの研究において、示されている。Byrnesら(Neuroscience 66:1015、1995)は、E1領域が欠失した、非複製性5型ヒトアデノウイルスを、同系ラットの脳に注入した。細胞へのウイルス感染による新しいウイルスタンパク質の発現に起因するというよりはむしろ、粒子の投与に起因する、炎症応答が観察された。ウイルスの存在は、MHCクラスIの発現の増加およびマクロファージおよびT細胞の大量の浸潤と関連する。McCoyら(Human Gene Therapy 6:1553,1995)は、インタクトなアデノウイルス、不完全なゲノムのアデノウイルス、または紫外線光によって不活化されたアデノウイルスを、マウスの肺に滴下した。全ての誘導された肺の炎症、および肺組織における炎症細胞の数は、その3つの全ての形態のウイルスについて、量的に類似していた。Barrら(Gene Therapy 2:151、1995)によって行われた、正常マウスおよび免疫不全マウスにおける、アデノウイルス構築物を使用した比較実験は、抗アデノウイルス免役応答が主にT細胞媒介性であり、そしてその後の用量に影響する記憶応答を生じることを示す。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
従って、遺伝子治療における使用のためのような組換えAAVベクターの開発において、この方法が、同時に遺伝子治療技術への実際の適用に適切なスケールにおいて有効に使用され得るように、AAVの高力価をなお達成しながら、最終調製物中に存在するヘルパーウイルスならびにヘルパーウイルスタンパク質および細胞性タンパク質の量を最小化する戦略の必要性が存在する。
【0019】
AAVベクター調製物の高力価は、特に有用であるが、高力価のrAAVの生成(特にラージスケール生成において)が、混入するヘルパーウイルス(例えば、アデノウイルスすなわち「Ad」)、ヘルパーウイルスタンパク質(例えば、Adタンパク質)、および/または細胞性タンパク質の有意な量を生じ得るので、混入するウイルスおよび/またはウイルス性もしくは細胞性タンパク質を実質的に含まない高力価調製物の生成のために使用され得る、rAAVの拡大縮小可能な生成方法を設計することが特に重要となった。本開示は、これらの拮抗する目的を達成する方法を提供し、そして組換えAAVベクター調製物のラージスケール生成のために使用され得る技術を示す。
【課題を解決するための手段】
【0020】
(発明の要旨)
本発明は、ヘルパーウイルス、ヘルパーウイルスタンパク質、および細胞性タンパク質および他の成分を実質的に含まない、アデノ随伴ウイルス(AAV)の高力価調製物を生成する、方法および物質を提供する。
【0021】
本発明の実施態様は、以下を含むが、これらに限定されない。
【0022】
組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)粒子の集団を生成する方法であって、この方法は、以下の工程:a)AAVプロデューサー細胞であって、以下、(i)1つ以上のAAVパッケージング遺伝子であって、ここでこのAAVパッケージング遺伝子の各々は、AAV複製タンパク質またはキャプシド化タンパク質をコードする、遺伝子;(ii)少なくとも1つのAAV逆方向末端反復(ITR)に隣接する、異種非AAVポリヌクレオチドを含む組換えAAV(rAAV)プロベクター;ならびに(iii)AAVのためのヘルパーウイルス、を含むAAVプロデューサー細胞を提供する工程;b)工程a)において提供されたプロデューサー細胞を、AAVの複製を許容する条件下でインキュベートする工程;c)工程b)のインキュベーション後にプロデューサー細胞を溶解して、AAVプロデューサー細胞溶解物を生成する工程;ならびにd)少なくとも1つの正に荷電した陰イオン交換樹脂、および少なくとも1つの負に荷電した陽イオン交換樹脂を含む、複数のイオン交換樹脂上で、工程c)のAAVプロデューサー細胞溶解物をクロマトグラフィーして、rAAVベクター粒子の精製された集団を生成するか、または工程c)のAAVプロデューサー細胞溶解物を、陰イオン交換樹脂、その後の接線流濾過(TFF)によってクロマトグラフィーをする工程、を包含する。
【0023】
請求項1に記載のrAAV粒子の集団を生成する方法であって、ここで、このヘルパーウイルスがアデノウイルスであるか、または温度感受性ヘルパーウイルスであり、そしてプロデューサー細胞をインキュベートするこの工程が、AAVの複製を許容するが、温度感受性ヘルパーウイルスの複製の許容しない温度で行われる、方法。
【0024】
rAAV粒子の集団を生成する方法であって、ここで、プロデューサー細胞をインキュベートする工程が、組織培養フラスコ、ローラーボトル、スピナー(spiner)フラスコ、タンクリアクター、ファーメンター、およびバイオリアクター、からなる群から選択される容器において行われ、必要に応じてマイクロキャリアを使用し、そして好ましくは、懸濁に適合した哺乳動物細胞株を使用する、方法。
【0025】
組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)粒子の集団を生成する方法であって、以下の工程:a)AAVプロデューサー細胞であって、以下、(i)1つ以上のAAVパッケージング遺伝子であって、ここで、このAAVパッケージング遺伝子の各々がAAV複製タンパク質またはキャプシド化タンパク質をコードする、遺伝子;(ii)少なくとも1つのAAV逆方向末端反復(ITR)に隣接する、異種非AAVポリヌクレオチドを含む組換えAAV(rAAV)プロベクター;ならびに(iii)AAVのためのヘルパーウイルス、または少なくとも1つのヘルパーウイルス機能をコードするこのヘルパーウイルスのポリヌクレオチド配列、を含むAAVプロデューサー細胞を提供する工程;b)工程a)において提供されたプロデューサー細胞を、致死量未満のストレスに供する工程;ならびにc)工程b)のストレスを受けたプロデューサー細胞を、AAVの複製を許容する条件下でインキュベートする工程、を包含する方法。致死量未満のストレスの可能性のある形態は、栄養ストレス、浸透圧ストレス、pHストレス、温度ストレス、有酸素性ストレス、機械的ストレス、放射線ストレス、および毒性ストレス、からなる群から選択され得るが、これらに限定されない。栄養ストレスを負わせる非限定的な例は、プロデューサー細胞を1つ以上のアミノ酸の欠失する培地において培養することによる。さらなる説明を以下に提供する。
【0026】
rAAV粒子の集団を生成する方法であって、ここで、この精製されたrAAVベクター粒子の集団は、複製コンピテントなAAVおよびヘルパーウイルスおよび細胞性タンパク質を実質的に含まない、方法。
【0027】
組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)粒子の集団を生成する方法であって、以下の工程:a)AAVプロデューサー細胞であって、以下、(i)1つ以上のAAVパッケージング遺伝子であって、ここで、このAAVパッケージング遺伝子の各々が、AAV複製タンパク質またはキャプシド化タンパク質をコードする、遺伝子;(ii)少なくとも1つのAAV逆方向末端反復(ITR)に隣接する、異種非AAVポリヌクレオチドを含む組換えAAV(rAAV)プロベクター;ならびに(iii)AAVのためのヘルパーウイルス、を含むAAVプロデューサー細胞を提供する工程;b)工程a)において提供されたプロデューサー細胞を、AAVの複製を許容し、そしてAAVプロデューサー細胞の致死量未満のストレスの誘導を含む条件下でインキュベートする工程;c)工程b)のインキュベーション後にプロデューサー細胞を溶解して、AAVプロデューサー細胞溶解物を生成する工程;ならびにd)このAAVプロデューサー細胞を精製して、組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)粒子の集団を生成する工程、を包含する、方法。適切な精製方法は、本開示において、他の場所において記載されるものを含む。例示的な精製手順は、工程c)のAAVプロデューサー細胞溶解物を、正に荷電した陰イオン交換樹脂、および負に荷電した陽イオン交換樹脂からなる群から選択される、少なくとも1つのクロマトグラフィー樹脂上でクロマトグラフをして、精製されたrAAVベクター粒子の集団を生成する工程を、包含する(好ましい方法としては、陰イオン交換後の、陽イオン交換または接線流濾過(TFF)が挙げられる)。説明のためのクロマトグラフィー手順(イオン交換クロマトグラフィーおよびヘパラン硫酸(heparin sulfate)でのクロマトグラフィー精製を含む)は、以下に例示の目的で、提供される。
【0028】
組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)粒子を、高効率で生成するための宿主細胞は、以下:a)1つ以上のAAVパッケージング遺伝子であって、ここで、このAAVパッケージング遺伝子の各々は、AAV複製タンパク質またはキャプシド化タンパク質をコードする、遺伝子;b)rAAVプロウイルスを使用してこの宿主細胞に導入された異種ポリヌクレオチドであって、ここでこのrAAVプロベクターは、少なくとも1つのAAV逆方向末端反復(ITR)に隣接する異種ポリヌクレオチドを含み、そしてこのベクターは、このAAVパッケージング遺伝子において欠損している、ポリヌクレオチド;c)AAVについて温度感受性ヘルパーウイルス(tsHV)のようなヘルパーウイルスであって、ここでこのtsHVは、自己複製について温度感受性である、ヘルパーウイルス、を包含する。
【0029】
本発明の生成方法のいずれかに従って生成される、rAAV粒子の集団。好ましくは、粒子の集団は、1,000の感染性rAAV粒子あたり、約1以下の感染性アデノウイルス粒子を含み、好ましくは、106rAAVあたり1未満であり、さらにより好ましくは、109中に約1未満である。
【0030】
例えば、ウイルス調製物の力値測定において、ならびにウイルス複製に影響する因子のスクリーニングにおいて使用され得る高スループットアッセイ技術もまた、提供される。
【0031】
本発明のこれら、および他の実施態様は、下記の記載において概説される。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】図1は、rAAVベクター中に含有される、モデルCF治療的遺伝子についてのプローブを使用した、rAAVベクター生成についてのサザン分析の、ハーフトーンの複写である。1.4kbの顕著なバンドは、調製物中のrAAVの存在を示す。ヘルパー機能を、5型アデノウイルス(Ad5)によってか、またはアデノウイルス温度感受性株ts149によって、供給した。
【図2】図2は、各調製物に存在するrAAVのレベルを定量するための、rAAVベクター生成についてのスロットブロット分析のハーフトーン複写である。ヘルパー機能が、ts149によって供給される場合、標準的な培養条件下で生成されるrAAVの量は、Ad5存在下で生成される場合より数桁低い。
【図3】図3は、rAAVのサザン分析のハーフトーン複写であり、これは、ts149のレベルの上昇がrAAV生成のレベルを改善しないことを示す。
【図4】図4は、培養時間が5日を越える場合、ts149の存在下における生成されたrAAVの量における劇的な増加を示す、棒グラフである(斜線の棒)。このことは、温度感受性でないアデノウイルスをヘルパー機能の供給のために使用した場合の5日目以降に生じる、rAAVの実質的な減少(黒色の棒)と著しく対照的である。
【図5】図5は、37℃(丸)または32℃(四角)における懸濁培養において増殖するHeLa S3細胞の、生存細胞密度(VCD)を示す折れ線グラフである。
【図6】図6は、懸濁培養において増殖するHeLa S3細胞での、2つの異なる速度における接線流濾過の効果を示す線グラフである。
【図7】図7は、ミクロフルイダイゼーション(MF)の7日目に検出されたレベルと比較した、32℃の許容温度での懸濁物中に3〜7日間培養された感染されたHeLa S3細胞において検出されたts149の生成を示す、棒グラフである。
【図8】図8は、PIマトリクス上での陰イオン交換クロマトグラフィー(pH8.0、900〜1300ミリ当量のNaCl勾配での溶出)によるts149の精製を示す組み合わせグラフである。
【図9】図9は、PI陰イオン交換マトリクス上(pH8.0、800〜1300ミリ当量のNaCl勾配での溶出)でのアデノウイルスの精製を示す組み合わせグラフである。棒:感染性アッセイにおいて測定されたウイルス活性;実線:A280(総タンパク質の尺度);破線:緩衝液伝導率(ms)。
【図10】図10は、アデノウイルスおよび組換えAAVの分離を示す組み合わせグラフである。上部のパネルは、PI陰イオン交換マトリクス上(pH8.0、0〜1000ミリ当量のNaCl勾配での溶出)での分離を示す。下部のパネルは、引き続いての、HS陽イオン交換マトリクス上(pH8.0、0〜500ミリグラム当量のNaCl勾配での溶出)での、混入物からのアデノウイルスの分離を示す。
【図11】図11は、培養培地におけるrAAV生成に対する、胎児ウシ血清レベル(FBS)の効果を示す、2つの棒グラフである。培養培地における血清の欠損は、ウイルス粒子の生成を増強するためにプロデューサー細胞が供され得る多数のストレス要素の1つである。
【図12】図12は、精製工程の間のAAVタンパク質についてのSDSポリアクリルアミドゲル分析の、ハーフトーン複写である。AAV調製物を、陰イオン交換カラム(POROS 50 PI)でのクロマトグラフィー後に、接線流濾過に供した。銀染色したゲルは、最終的な大量の物質中の、高度に精製されたAAVキャプシドタンパク質であるVP1、VP2、およびVP3を示す。
【図13】図13は、ヘパラン硫酸(heparin sulfate)カラムでのAAVの濃縮を示すクロマトグラフィーである。0〜1M NaClの直線勾配を用いてヘパラン硫酸から溶出する場合(右側の軸に示されるmsでの伝導率)、約18分の溶出における、280nmでの吸光度(左側の軸)のシャープなピークは、AAV画分(陰イオン交換および接線流濾過の後)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0033】
(発明の詳細な説明)
本発明の目的は、ヘルパーウイルス、ヘルパーウイルスタンパク質、ならびに細胞性タンパク質および他の成分を実質的に含まない、アデノ随伴ウイルス(AAV)の高力価調製物を生成するための方法および物質を提供することである。
【0034】
哺乳動物細胞においてAAV粒子を生成および処理するための種々の方法は、以下に詳細に記載され、そして、そのような技術の使用の例証は、以下の実施例において提供される。
【0035】
導入の目的で、宿主細胞または「プロデューサー」細胞を、rAAVベクターの複製およびパッケージングのために使用することは、代表的である。そのようなプロデューサー細胞(通常は、哺乳動物宿主細胞)は、一般的に、rAAV生成のためのいくつかの異なるタイプの成分を、含むか、または含むように改変される。第1の成分は、複製し得、そして宿主パッケージング細胞によって、ベクター粒子中にパッケージングされ得る、組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)ベクターゲノム(すなわち、「rAAVプロベクター」)である。このrAAVプロベクターは、異種ポリヌクレオチド(または「トランスジーン」)を、通常含有する。この異種ポリヌクレオチドを用いて、遺伝子治療の状況において、他の細胞を遺伝子改変することが所望される(なぜなら、そのようなトランスジーンのrAAVベクター粒子へのパッケージングは、種々の哺乳動物細胞にそのトランスジーンを送達するために、有効に使用され得るからである)。このトランスジーンは、一般的に、AAVベクターの切り出し、複製およびパッケージング、ならびにベクターの宿主細胞ゲノムへの組み込みの間に認識される配列を含む、2つのAAV逆方向末端反復(ITR)に隣接する。第2の成分は、AAV複製にヘルパー機能を提供し得るヘルパーウイルスである。アデノウイルスが、一般的に使用されるが、当該分野において公知である他のヘルパーウイルスもまた、使用され得る。あるいは、必要とされるヘルパーウイルス機能は、ヘルパーウイルスから遺伝子的に単離され得、そしてそのコードする遺伝子は、トランスにおいてヘルパーウイルス機能を提供するために使用され得る。AAVベクターエレメントおよびそのヘルパーウイルス(またはヘルパーウイルス機能)は、同時にか、または任意の順番で連続的にのいずれかで、その宿主細胞に導入され得る。そのプロデューサー細胞において提供されるAAV生成のための最終成分は、複製タンパク質およびキャプシド化タンパク質をそれぞれ提供する、AAVのrepおよびcap遺伝子のような「AAVパッケージング遺伝子」である。AAVパッケージング遺伝子のいくつかの異なるバージョンが、提供され得る(野生型rep−capカセット、ならびにrepおよび/またはcap遺伝子が、ネイティブプロモーターの制御下におかれたままであり得るか、または異種プロモーターに作動可能に連結され得る、改変repおよび/またはcapカセットを含む)。そのようなAAVパッケージング遺伝子は、当該分野において公知であり、そして以下により詳細に記載されるように、一過性にか、または安定的にのいずれかで、宿主パッケージング細胞中に導入され得る。
【0036】
AAV複製およびキャプシド化を許容する条件下で、その宿主細胞を培養した後、その細胞および細胞成分の画分を処理して、ヘルパーウイルス、ヘルパーウイルスタンパク質、および細胞性タンパク質を実質的に含まない、アデノ随伴ウイルス(AAV)の高力価調製物を生成し得る。そのような技術を使用する、処置技術および例示的プロトコールの詳細な記載は、以下に提供される。
【0037】
(定義)
本明細書において使用する場合、「ベクター」とは、ポリヌクレオチドを含むか、またはポリヌクレオチドと会合して、そして細胞へのポリヌクレオチドの送達を媒介するために使用され得る、高分子または高分子の会合物をいう。例示的なベクターとしては、例えば、プラスミド、ウイルスベクター、リポソームおよび他の遺伝子送達ビヒクルが挙げられる。
【0038】
「AAV」は、アデノ随伴ウイルスの略語であり、そして、ウイルス自体か、またはその誘導体を参照するために使用され得る。この用語は、そうでないことが要求される場合を除いて、すべてのサブタイプ、ならびに、天然の形態および組換え形態の両方を包含する。略語「rAAV」とは、組換えアデノ随伴ウイルスをいい、そしてまた、組換えAAVベクター(すなわち、「rAAVベクター」)としても呼ばれる。
【0039】
本明細書において使用する場合、「rAAVベクター」とは、AAV起源ではないポリヌクレオチド(すなわち、AAVに対して異種のポリヌクレオチド)配列(代表的には、細胞の遺伝子形質転換のための、目的の配列)を含むAAVベクターをいう。本発明の好ましいベクター構築物において、異種ポリヌクレオチドは、少なくとも1つ、好ましくは2つのAAV逆方向末端反復配列(ITR)に隣接する。この用語rAAVベクターは、rAAVベクター粒子およびrAAVベクタープラスミドの両方を包含する。
【0040】
「AAVウイルス」または「AAVウイルス粒子」とは、少なくとも1つのAAVキャプシドタンパク質(好ましくは、野生型AAVのキャプシドタンパク質の全て)、およびキャプシド化されたポリヌクレオチドからなる、ウイルス粒子をいう。その粒子が異種ポリヌクレオチド(すなわち、哺乳動物細胞に送達されるトランスジーンのような、野生型AAVゲノム以外のポリヌクレオチド)を含む場合、代表的には、「rAAVベクター粒子」または単に「rAAVベクター」という。
【0041】
「パッケージング」とは、AAV粒子のアセンブリおよびキャプシド化を生じる、一連の細胞内事象をいう。
【0042】
AAVの「rep」および「cap」遺伝子とは、アデノ随伴ウイルスの複製およびキャプシド化タンパク質をコードするポリヌクレオチド配列をいう。これらは、試験された全てのAAV血清型において見出され、そして当該分野において以下に記載される。AAV repおよびcapは、本明細書においてAAV「パッケージング遺伝子」という。
【0043】
AAVのための「ヘルパーウイルス」とは、AAV(例えば、野生型AAV)の哺乳動物細胞内による複製およびパッケージングを可能にするウイルスをいう。AAVのための種々のそのようなヘルパーウイルスは、当該分野において公知であり、これはアデノウイルス、ヘルペスウイルス、およびワクシニアウイルスのようなポックスウイルスを含む。サブグループCの5型アデノウイルスが最も一般的に使用されるが、このアデノウイルスは、多数の異なるサブグループを包含する。ヒト、非ヒト哺乳動物およびトリ起源の多数のアデノウイルスが、公知であり、そしてATCCのような寄託機関から入手可能である。ヘルペスファミリーのウイルスとしては、例えば、単純ヘルペスウイルス(HSV)およびエプスタイン−バーウイルス(EBV)、ならびにサイトメガロウイルス(CMV)および仮性狂犬病ウイルス(PRV)が挙げられる;これらもまた、ATCCのような寄託機関から入手可能である。
【0044】
用語「tsHV」とは、温度感受性ヘルパーウイルスをいう。このウイルスは、AAVの複製およびパッケージングのためにヘルパー機能を提供し得るが、それ自体の複製に関して、温度感受性である(すなわち、このウイルスは、「許容」温度では複製し得るが、「非許容」温度においては、低効率で複製するか、または好ましくは、全く複製しない)。tsHVがAAV複製の補助を提供する能力はまた、温度感受性であり得るが、本発明の使用に好ましいtsHVは、AAVが複製し得るが、tsHVの複製にとっては非許容的な温度で、AAVの複製を効率的に支持する。そのようなtsHVの例を以下に記載する。
【0045】
「感染性」ウイルスまたはウイルス粒子は、ウイルス種が向性(trophic)である細胞に送達され得るポリヌクレオチド成分を含むものである。この用語は、ウイルスの複製能力を意味する必要は、全くない。感染性ウイルス粒子を計数するアッセイは、本開示および当該分野において、他の箇所に記載される。
【0046】
「複製コンピテント」ウイルス(例えば、複製コンピテントAAV、時として「RCA」と省略される)とは、感染性の野生型表現型ウイルスをいい、そしてまた、感染した細胞(すなわち、ヘルパーウイルスまたはヘルパーウイルス機能の存在下)において複製し得る。AAVの場合、複製コンピテンスは、機能的なAAVパッケージング遺伝子の存在を、一般的に必要とする。本明細書に記載される好ましいrAAVベクターは、1つ以上のAAVパッケージング遺伝子の欠損のために、哺乳動物細胞(特にヒト細胞)において複製コンピテントでない。好ましくは、そのようなrAAVベクターは、RCAがAAVパッケージング遺伝子と進入するrAAVベクターとの間の組換えによって生じる可能性を最少化するために、AAVパッケージング遺伝子配列を完全に欠損する。本明細書において記載される好ましいrAAVベクター調製物は、RCAを(存在するとしても)ほとんど含まない調製物である(好ましくは、102rAAV粒子あたり、約1RCA未満、より好ましくは、104rAAV粒子あたり約1RCA未満、さらにより好ましくは、108rAAV粒子あたり約1RCA未満、なおより好ましくは、1012rAAV粒子あたり約1RCA未満、最も好ましくは、RCAを含まない)。
【0047】
用語「ポリヌクレオチド」とは、デオキシリボヌクレオチドまたはリボヌクレオチドあるいはそれらのアナログを含む、任意の長さのヌクレオチドのポリマー形態をいう。ポリヌクレオチドは、改変ヌクレオチド(例えば、メチル化ヌクレオチドおよびヌクレオチドアナログ)を含み得、そして非ヌクレオチド成分によって中断され得る。存在する場合、ヌクレオチド構造の改変は、ポリマーへのアセンブリの、前または後になされ得る。本明細書において使用する場合、用語ポリヌクレオチドとは、互換可能に、2本鎖および1本鎖分子をいう。他に特定されるか、または必要とされない限り、本明細書に記載の任意の実施態様において、ポリヌクレオチドは、2本鎖形態、および2本鎖形態を形成することが公知であるかまたは予想される、2つの相補的な1本鎖形態の各々の両方を含む。
【0048】
「遺伝子」とは、転写そして翻訳された後に、特定のタンパク質をコードし得る、少なくとも1つのオープンリーディングフレームを含むポリヌクレオチドをいう。
【0049】
ポリヌクレオチドに適用される場合、「組換え体」とは、そのポリヌクレオチドが、クローニング、制限または連結工程、ならびに天然に見出されるポリヌクレオチドとは異なる構築物を生じる他の手順の種々の組み合わせの産物であることを意味する。組換えウイルスは、組換えポリヌクレオチドを含むウイルス粒子である。この用語は、それぞれ、起源のポリヌクレオチド構築物の複製物、および起源のウイルス構築物の子孫を含む。
【0050】
「制御エレメント」または「制御配列」は、ポリヌクレオチドの機能的調節(ポリヌクレオチドの複製、重複、転写、スプライシング、翻訳または分解を含む)に寄与する分子の相互作用に関与するヌクレオチド配列である。この調節は、プロセスの頻度、速度または特異性に影響し得、その性質を増強、または阻害し得る。当該分野において公知の制御エレメントとしては、例えば、プロモーターおよびエンハンサーのような転写調節配列が挙げられる。プロモーターは、特定の条件下で、RNAポリメラーゼに結合し、そして通常下流に位置するコード領域の転写をプロモーターから(3’方向に)開始し得るDNA領域である。
【0051】
「作動可能に連結した」とは、遺伝子エレメントの近傍位置をいい、ここで、このエレメントは、予想された様式において、作動することを許容する関係に存在する。例えば、プロモーターがコード配列の転写の開始を補助する場合、そのプロモーターは、コード領域に作動可能に連結する。そのプロモーターとコード領域の間には、この機能的関係が維持される限り、介在残基が存在し得る。
【0052】
「発現ベクター」とは、目的のポリペプチドをコードする領域を含むベクターであり、そして意図された標的細胞においてタンパク質の発現をもたらすために使用される。発現ベクターはまた、コード領域に作動可能に連結された制御エレメントを含み、その標的でのタンパク質の発現を容易にする。制御エレメント、および発現のためにその制御エレメントが作動可能に連結された遺伝子(単数または複数)の組み合わせは、時として、「発現カセット」といい、当該分野において公知でありそして利用可能な大多数の発現カセットが、当該分野において利用可能な成分から容易に構築され得る。
【0053】
「異種」とは、比較されるその他の実体とは遺伝型が異なる実体に由来することを意味する。例えば、遺伝子操作技術によって、異なる種由来のプラスミドまたはベクターに導入されたポリヌクレオチドは、異種ポリヌクレオチドである。そのネイティブなコード配列から取り出され、そして天然には連結されていることが見出されないコード配列に作動可能に連結したプロモーターは、異種プロモーターである。
【0054】
「遺伝子改変」とは、遺伝子エレメントが、有糸分裂または減数分裂以外によって細胞中に導入されるプロセスをいう。このエレメントは、細胞にとって異種であり得るか、またはその細胞に既に存在するエレメントのさらなるコピーか、もしくは改善されたバージョンであり得る。遺伝子改変は、例えば、当該分野において公知の任意のプロセス(例えば、エレクトロポーレーション、リン酸カルシウム沈殿、またはポリヌクレオチド−リポソーム複合体との接触)を介して、細胞を組換えプラスミドまたは他のポリヌクレオチドでトランスフェクトすることによって、行われ得る。遺伝子改変はまた、例えば、DNAまたはRNAのウイルスまたはウイルスベクターを用いる形質導入か、または感染によって行われ得る。好ましくは、遺伝子エレメントは、細胞中の染色体またはミニクロモソーム中に導入される;しかし、細胞およびその子孫の表現型および/または遺伝子型を変更する任意の改変は、この用語に含まれる。
【0055】
遺伝子配列が、インビトロにおける細胞の延長された培養の間に、その機能の実施のために利用可能である場合、その細胞は、この配列で「安定的に」改変、形質導入、または形質転換されると言われる。好ましい例において、そのような細胞は、改変された細胞の子孫によってまた遺伝される遺伝子改変が導入されるという点で、「遺伝的に」改変される。
【0056】
用語「ポリペプチド」、「ペプチド」および「タンパク質」は、本明細書において、互換可能に使用され、任意の長さのアミノ酸のポリマーをいう。この用語はまた、改変された(例えば、ジスルフィド結合形成、グリコシル化、リピド化、または標識成分との結合)アミノ酸のポリマーを含む。
【0057】
「CFTR」、「p53」、「E1A」などのようなポリペプチドは、遺伝子治療およびそのための組成物の状況において、インタクトなタンパク質の所望の生物学的機能を保持する、各々のインタクトなポリペプチド、またはそのフラグメントもしくは遺伝的に操作された誘導体をいう。同様に、CFTR、p53、E1A遺伝子および遺伝子治療における使用のための他のこのような遺伝子は(代表的に、レシピエント細胞に送達される「トランスジーン」という)、インタクトなポリペプチド、または所望の生物学的機能を有する、任意のフラグメントもしくは遺伝子操作された誘導体をコードするポリヌクレオチドを含む。
【0058】
「単離された」プラスミド、ウイルス、または他の物質とは、この物質または類似物質が天然に存在するかまたはもともとそこから調製されるところに存在し得る他の成分の少なくともいくつかを欠く物質の調製物をいう。それゆえ、例えば、単離された物質は、供給源混合物から、この物質を富化する精製技術を使用することにより調製され得る。富化は絶対基準(例えば、溶液中の容量あたりの重量)に対して測定され得るか、または供給源混合物中に存在する第2の潜在的に干渉する物質に関して測定され得る。本発明の実施態様の富化を増加することは、さらにより好ましい。従って、例えば、2倍の富化が好ましく、10倍の富化はより好ましく、100倍の富化はより好ましく、1000倍の富化はさらにより好ましい。
【0059】
AAVの調製物は、感染性AAV粒子に対する感染性ヘルパーウイルス粒子の比が少なくとも約102:1;好ましくは、少なくとも約104:1;より好ましくは、少なくとも約106:1;なおより好ましくは、少なくとも約108:1である場合、ヘルパーウイルスを「実質的に含まない」といわれる。調製物はまた、好ましくは、等量のヘルパーウイルスタンパク質を含まない(すなわち、もし上に記載のヘルパーウイルス粒子不純物が破壊された形態で存在するならば、タンパク質はヘルパーウイルスのそのようなレベルの結果と同程度に存在する)。ウイルスおよび/または細胞タンパク質の夾雑物は、SDSゲル上のクマシー染色のバンドの存在として、一般的に、観察され得る(例えば、AAVキャプシドタンパク質VP1、VP2、およびVP3に対応するバンド以外のバンドの出現)。
【0060】
ウイルスの生成、複製、またはパッケージングの記載において使用される場合、「効率」とは、方法の有用な性質(特に、増殖速度、および1細胞あたり生成さえるウイルス粒子の数)をいう。「高効率」生成は、特定の培養期間の課程にわたり、1細胞あたり少なくとも100のウイルス粒子、好ましくは1細胞あたり、約10,000、そしてより好ましくは、少なくとも約100,000粒子の生成を示す。
【0061】
本発明に従って処置される「個体」または「被検体」とは、脊椎動物、特に哺乳動物種のメンバーをいい、そしてこれには家畜動物、競技用動物およびヒトを含む霊長類を含むが、これらに限定されない。
【0062】
個体または細胞の「処置」は、処置が開始される時点での、その個体またはその細胞の本来の経過を変化させようとする、任意の型の介入である。例えば、個体の処置は、任意の病理学的状態(遺伝性および誘発型遺伝的欠損、ウイルスか、細菌か、寄生生物による感染、新生物または形成不全状態、あるいは自己免疫または免役抑制のような免疫系機能不全を含むがこれらに制限されない)により生じる病理を減少するか、または制限するために行われ得る。処置は、組成物(例えば、薬学的組成物)の投与、および組成物で処置された適合性細胞の投与を含むがこれらに制限されない。処置は、予防的かまたは治療的のいずれか(すなわち、病理学的事象の開始または病因の因子との接触の、前または後のいずれか)に行われ得る。
【0063】
(一般的技術)
本発明の実施は、他に示さない限り、当業者にとって公知である、従来の分子生物学、ウイルス学、動物細胞培養および生化学の技術を使用する。そのような技術は、文献において十分に例示される。例えば、「Molecular Cloning:A Laboratory Manual」、第2版(Sambrook、FritschおよびManiatis、1989);「Animal Cell Culture」(R.I.Freshney、編、1987);「Gene Transfer Vectors for Mammalian Cells」(J.M.MillerおよびM.P.Calos、編、1987);「Current Protocols in Molecular Biology」(F.M.Ausbelら、編、1987);「Current Protocols in Protein Science」(John E Coliganら、編、Wiley and Sons、1995);ならびに「Protein Purification: Principles and Practice」(Robert K.Scopes、Springer−Verlag、1994)を参照のこと。
【0064】
本明細書の上記および下記の両方において言及される全ての特許、特許出願、文献および刊行物は、本明細書において参考として援用される。
【0065】
(AAVベクターおよびAAVパッケージング遺伝子の選択および調製)
本発明の組換えAAVベクターは、通常AAVゲノムの大部分を構成するAAVのrepおよび/またはcap遺伝子の代わりに、目的の異種(すなわち、非AAV)ポリヌクレオチドを含む。しかし、野生型AAVゲノムにおける場合のように、rAAVプロベクターは、好ましくは、上記の2つのAAVの逆方向末端反復(ITR)に隣接する。rAAV構築物が単一の(代表的には改変された)ITRに隣接するバリエーションもまた、当該分野において記載され、そして本発明との関連において使用され得る。
【0066】
任意の血清型のアデノ随伴ウイルスが、適切である。なぜなら、種々の血清型は、遺伝子レベルにおいてさえ、機能的および構造的に関連するからである(例えば、Blacklow、「Parvovirus and Human Disease」、J.R.Pattison、編(1988)の165〜174頁;およびRose、Comprehensive Virology 3:1、1974を参照のこと)。全てのAAV血清型は、相同rep遺伝子によって媒介される、明らかに類似の複製特性を示す;そして、その全ては一般的に3つの関連するキャプシドタンパク質(例えば、AAV2で発現されるタンパク質)を有する。関連性の程度は、ゲノム長の全体にわたる、血清型の間の広範な交差ハイブリダイゼーションを示すヘテロ2重鎖分析;およびITRに対応する末端での、類似の自己アニーリングする部分の存在によって、さらに示唆される。類似の感染性パターンはまた、各血清型における複製機能が、類似の調節性制御下にあることを、示唆する。種々のAAV血清型の中で、AAV2が最も一般に使用される。
【0067】
本発明のAAVベクターは、代表的には、AAVに対して異種のポリヌクレオチドを含有する。このポリヌクレオチドは、代表的には、遺伝子治療(例えば、特定の表現型の発現のアップレギュレーションまたはダウンレギュレーション)の状況において、標的細胞に機能を提供する能力のために、目的のものである。そのような、異種ポリヌクレオチドまたは「トランスジーン」は、一般的に、所望の機能またはコードされる配列を提供するのに、十分な長さのものである。AAV2粒子内へのキャプシド化のために、トランスジーンは、好ましくは、約5kb未満であるが、より長い配列のAAVウイルス粒子内へのパッケージングを可能とするために、他の血清型および/または改変が使用され得る。
【0068】
異種ポリヌクレオチドの転写が意図される標的細胞において所望される場合、これはそれ自体のプロモーターか、または異種プロモーター(例えば、当該分野において公知のように、標的細胞内の転写の所望のレベルおよび/または特異性に依存する)に、作動可能に連結され得る。種々の型のプロモーターおよびエンハンサーが、この状況での使用に適切である。構成性プロモーターは、遺伝子転写の継続するレベルを提供し、そして治療的ポリヌクレオチドが継続する状態で発現することが所望される場合に好ましい。誘導性プロモーターは、一般的に、インデューサーの非存在下において、低活性を示し、そしてインデューサーの存在下でアップレギュレートされる。発現が特定の時間または特定の状況下においてのみ所望される場合か、または誘導剤を使用して発現レベルを滴定することが所望される場合、これらのプロモーターは、好ましくあり得る。プロモーターおよびエンハンサーはまた、組織特異的であり得る;すなわち、これらは、特定の細胞型においてのみ、(おそらくそれらの細胞においてのみ独特に見出される遺伝子調節エレメントに起因して)その活性を示す。
【0069】
プロモーターの説明のための例示は、シミアンウイルス40由来のSV40後期プロモーター、バキュロウイルス多面体(polyhedron)エンハンサー/プロモーターエレメント、単純ヘルペスウイルスチミジンキナーゼ(HSV tk)、サイトメガロウイルス(CMV)の前初期プロモーターおよびLTRエレメントを含む種々のレトロウイルスプロモーターである。誘導性プロモーターとしては、重金属イオン誘導性プロモーター(例えば、マウス乳腺癌ウイルス(mMTV)プロモーターまたは種々の成長ホルモンプロモーター)、ならびにT7 RNAポリメラーゼの存在下で活性なT7ファージ由来のプロモーターが、挙げられる。例証のために、組織特異的プロモーターの例としては、種々のサーファクチン(surfactin)プロモーター(肺における発現のため)、ミオシンプロモーター(筋肉における発現のため)、およびアルブミンプロモーター(肝臓での発現のため)が挙げられる。非常に多種の他のプロモーターが公知であり、そして一般的に当該分野において入手可能であり、そして、そのようなプロモーターの多くの配列は、GenBankデータベースのような配列データベースにおいて入手可能である。
【0070】
意図された標的細胞において、翻訳もまた所望される場合、異種ポリヌクレオチドはまた、好ましくは、翻訳を容易にする制御エレメントもまた含有する(例えば、リボソーム結合部位、すなわち、「RBS」、およびポリアデニル化シグナル)。従って、異種ポリヌクレオチドは、一般的に、適切なプロモーターを作動可能に連結した、少なくとも1つのコード領域を含み、そして、例えば、作動可能に連結したエンハンサー、リボソーム結合部位、およびポリAシグナルを含有し得る。異種ポリヌクレオチドは、1つのコード領域、または同一かまたは異なるプロモーターの制御下の1つより多いコード領域を含有し得る。制御エレメントおよびコード領域の組み合わせを含む全体のユニットは、しばしば、発現カセットと称される。
【0071】
異種ポリヌクレオチドは、組換え技術によって、AAVゲノムのコード領域中に、または好ましくは、その代わりに(すなわち、AAV repおよびcap遺伝子の代わりに)組み入れられるが、一般的に、いずれかの末端が、AAVの逆方向末端反復(ITR)領域に隣接する。このことは、ITRがコード配列の上流および下流の両方に、いずれか一方は直接の近傍位置において、好ましくは(必要ではないが)複製コンピテントなAAVゲノムを再生し得る組換えの可能性を減少するために、AAV起源の介在配列を全く含まずに出現することを意味する。最近の証拠は、単一のITRが、通常2つのITRを含む配置に関連する機能を行うのに十分であり得(WO94/13788)、従って、単一のITRのみを有するベクター構築物は、本発明のパッケージング方法および生成方法に関連して使用され得ることを、示唆する。
【0072】
repのネイティブのプロモーターは、自己調節性であり、そして生成されるAAV粒子の量を制限し得る。rep遺伝子はまた、異種プロモーターと作動可能に連結され得る(repは、ベクター構築物の一部として提供されるか、または別々に提供される)。rep遺伝子の発現によって、強力にはダウンレギュレートされない異種プロモーターはいずれも適切である;しかし、誘導性プロモーターは、好ましい。なぜなら、rep遺伝子の構成性発現は、宿主細胞に負の影響を与え得るからである。非常に多種の誘導性プロモーターが、当該分野において公知であり、これには、例示の目的で、重金属イオン誘導性プロモーター(メタロチオネインプロモーター);ステロイドホルモン誘導性プロモーター(例えば、MMTVプロモーターまたは成長ホルモンプロモーター);および例えば、T7 RNAポリメラーゼの存在下において活性な、T7ファージ由来のプロモーターが挙げられる。誘導性プロモーターの特に好ましいサブクラスは、rAAVベクターの複製およびパッケージングを相補するために使用されるヘルパーウイルスによって誘導されるサブクラスである。多数のヘルパーウイルス誘導性プロモーターもまた、記載され、これには、アデノウイルスE1Aタンパク質によって誘導可能なアデノウイルス初期遺伝子プロモーター;アデノウイルス主要後期プロモーター;VP16または1CP4のようなヘルペスウイルスタンパク質によって誘導されるヘルペスウイルスプロモーター;ならびにワクシニアまたはポックスウイルス誘導性プロモーターが、挙げられる。
【0073】
ヘルパーウイルス誘導性プロモーターを同定および試験する方法は、Targeted Genetics Corporation(Allenら)による、WO96/17947として公開された共有の同時係属中の出願に記載されている。従って、候補プロモーターがヘルパーウイルス誘導性プロモーターであるか否か、およびそれらが高効率パッケージング細胞の生成に有用であるか否かを決定するための方法は当該分野で公知である。簡単に述べれば、1つのこのような方法は、AAV rep遺伝子のp5プロモーターを、推定のヘルパーウイルス誘導性プロモーター(当該分野で公知であるか、またはプロモーターのない「レポーター」遺伝子への連結のような周知の技術を用いて同定される)で置換することを含む。好ましくは、(p5が置換された)AAV rep−cap遺伝子は、抗生物質耐性遺伝子のようなポジティブ選択可能なマーカーに連結され、次いで適切な宿主細胞(以下に例示されるHeLaまたはA549細胞など)に安定に組み込まれる。選択条件下(例えば、抗生物質の存在下)で比較的良好に増殖し得る細胞は、次いで、ヘルパーウイルスの添加に際しrepおよびcap遺伝子を発現するそれらの能力について試験される。repおよび/またはcap発現に対する初期試験として、細胞を、免疫蛍光を用いて容易にスクリーニングしRepおよび/またはCapタンパク質を検出し得る。次いで、バッケージング能力および効率の確認を、入来するrAAVベクターの複製およびパッケージングについての機能的試験により決定し得る。この方法を用い、マウスメタロチオネイン遺伝子由来のヘルパーウイルス誘導性プロモーターを、p5プロモーターの適切な置換体として同定し、そして高力価のrAAV粒子を産生するために用いられた(WO96/17947、Targeted Genetics Corporationに記載)。
【0074】
種々のAAVゲノムの相対的なキャプシド化サイズ制限を考慮すれば、大きな異種ポリヌクレオチドのゲノム中への挿入は、AAV配列の一部分の除去を余儀なくさせる。1つ以上のAAV遺伝子の除去は、複製コンピテントAAV(「RCA」)を生成する可能性を減少させるためにいずれの場合でも所望され得る。従って、rep、cap、またはその両方のコード配列またはプロモーター配列は、好ましくは除去される。なぜなら、これらの遺伝子により提供される機能はトランスで提供され得るからである。
【0075】
得られるベクターは、これら機能において「欠損」していると称される。ベクターを複製およびバッケージするために、失われた機能は、種々の失われたrepおよび/またはcap遺伝子産物に代わる必要な機能を一緒にコードする単一または複数のパッケージング遺伝子により相補される。このパッケージング遺伝子または遺伝子カセットは、好ましくは、AAV ITRが隣接せず、そして好ましくは、rAAVゲノムとの任意の実質的な相同性を共有しない。従って、複製の間に、ベクター配列と別に提供されるパッケージング遺伝子との間の相同的組換えを最小にするために、2つのポリヌクレオチド配列の重複を避けることが望ましい。相同性のレベルおよび組換えの対応する頻度は、相同配列の長さが増すにつれ、および共有される同一性のそれらのレベルとともに増加する。所定の系における問題をもたらす相同性のレベルは、当該分野で公知のように、理論的に決定され得、そして実験的に確認され得る。しかし、代表的には、その全長にわたって少なくとも80%同一である場合に重複配列が約25ヌクレオチド配列より少ない場合、その全長にわたって少なくとも70%同一である場合に重複配列が約50ヌクレオチド配列より少ない場合、組換えを実質的に減少またはなくし得る。勿論、さらにより低いレベルの相同性が好適である。なぜなら、それらは組換えの可能性をさらに低減するからである。重複する相同性が全くない場合でさえ、RCAを生成するある程度の残存頻度があるようである。(例えば、非相同的組換えによる)RCAを生成する頻度のさらなる減少でさえ、1996年12月18に出願され、1998年6月25日にWO98/27204として国際公開された、Allenら、米国特許出願08/769,728号(Targeted Genetics Corporation)により記載されるように、AAVの複製およびキャプシド化機能を「分割」することにより得られ得る。
【0076】
rAAVベクター構築物、および相補的パッケージング遺伝子構築物は、本発明において、多くの異なる形態で実施され得る。ウイルス粒子、プラスミド、および安定に形質転換された宿主細胞は、すべて、このような構築物を、一時的であれ、安定にであれ、パッケージング細胞中に導入するために用いられ得る。
【0077】
本発明の特定の実施態様では、AAVベクターおよび存在する場合相補的パッケージング遺伝子は、細菌プラスミド、AAV粒子、またはそれらの任意の組み合わせの形態で提供される。他の実施態様では、AAVベクター配列、パッケージング遺伝子のいずれか、またはその両方が、遺伝子的に改変された(好ましくは、遺伝的に改変された)真核生物細胞の形態で提供される。遺伝的に改変されて、AAVベクター配列、AAVパッケージング遺伝子、または両方を発現する宿主細胞の開発は、信頼性あるレベルで発現される物質の確立された供給源を提供する。
【0078】
従って、種々の異なる遺伝子的に改変された細胞を、本発明の状況で用いられ得る。例として、哺乳動物宿主細胞を、安定に組み込まれたrAAVベクターの少なくとも1つのインタクトなコピーとともに用い得る。プロモーターに作動可能に連結された少なくともAAV rep遺伝子を含むAAVパッケージングプラスミドを用いて、複製機能を供給し得る(Flotteらにより共有され、今や米国特許第5,658,776号である出願に記載のように)。あるいは、プロモーターに作動可能に連結されたAAV rep遺伝子を有する安定な哺乳動物細胞株を用いて、複製機能を供給し得る(例えば、Trempeら(USSN 08/362,608、1995年1月9日、WO95/13392、1995年5月18日);Bursteinら(1996年12月18に出願されたUSSN 08/770,122、WO98/23018、1998年6月25日);およびJohnsonら(1994年6月6日に出願され、米国特許第5,656,785号として発行された1997年8月19日、USSN 08/254,358を参照のこと))。上記のように、キャプシド化タンパク質を提供するAAV cap遺伝子は、AAV rep遺伝子とともにかまたは別に提供され得る(例えば、上記で参照した出願および特許、ならびに1996年12月18日に出願されたAllenら、USSN 08/769,728、1998年6月25日のWO98/27204(Targeted Genetics Corporation)を参照のこと)。その他の組み合わせが可能であり、そして本発明の範囲に含まれる。
【0079】
(細胞中への遺伝物質の導入)
当該分野で記載され、そして本明細書および上記で引用された参考文献中に説明されるように、(AAVの産生のための哺乳動物「プロデューサー」細胞のような)細胞を形質転換または形質導入するための任意の種々の手段を用いて、このような細胞に遺伝物質を導入し得る。例として、このような技術は、例えば、細菌プラスミドを用いたトランスフェクション、ウイルスベクターを用いた感染、エレクトロポーレーション、リン酸カルシウム沈殿、および脂質を基礎にした種々の任意の組成物を用いる導入(しばしば「リポフェクション」と呼ばれるプロセス)を含む。これらの技術を実施するための方法および組成物は、当該分野で記載され、そして広く利用可能である。
【0080】
適切に改変された細胞の選択は、当該分野の任意の技術により実施され得る。例えば、細胞を改変するために用いられるポリヌクレオチド配列は、当該分野で公知のような1つ以上の検出可能または選択可能マーカーと同時にまたはそれに作動可能に連結して導入され得る。例として、選択可能マーカーとして薬物耐性遺伝子を利用し得る。次いで、薬物耐性細胞をつり上げそして増殖させ、次いで所望の配列、すなわち、パッケージング遺伝子産物、または適切な場合、異種ポリヌクレオチドの産物の発現について試験し得る。導入されたポリヌクレオチドの獲得、局在化および/または維持についての試験は、DNAハイブリダイゼーションを基礎にした技術(サザンブロッティングおよび当該分野で公知の他の手順など)を用いて実施され得る。発現の試験は、遺伝子的に改変された細胞から抽出されたRNAのノーザン分析によるか、または対応する遺伝子産物に対する間接的免疫蛍光により容易に実施され得る。パッケージング能力および効率の試験および確認は、細胞に、AAVの残りの機能的成分およびヘルパーウイルスを導入し、AAV粒子の産生を試験することにより得られ得る。細胞が、複数のポリヌクレオチド構築物で遺伝的に改変される場合、一般に、それらを、細胞に別々に導入し、各工程を順次確証することが(必須ではないが)より便利である。このような技術を記載する参考文献は、本明細書に引用されたものを含む。
【0081】
(ヘルパーウイルスの選択および調製)
上記のように、AAVは、自己複製欠損であるパルボウイルスであり、そして一般に、特定の複製機能を供給するヘルパーウイルスに依存しなければならない。多くのこのようなヘルパーウイルスが同定され、これらは、アデノウイルス、ヘルペスウイルス(HSV1、サイトメガロウイルスおよびHHV−6を含むがこれらに限定されない)、およびポックスウイルス(特にワクシニア)を含む。これらウイルスの任意を本発明とともに用い得る。
【0082】
頻繁に、ヘルパーウイルスは、意図される宿主細胞に感染し得る、あるタイプおよびサブグループのアデノウイルスである。サブグループCのヒトアデノウイルス、特に血清型1、2、4、6、および7が一般に用いられる。血清型5が一般に好ましい。
【0083】
アデノウイルスの特徴および増殖パターンは当該分野で公知である。読者は、例えば、「Fundamental Virology」、Fieldsら編、中の、Horowitz、「Adenoviridae and their replication」、771〜816頁を参照し得る。パッケージされたアデノウイルスゲノムは、末端タンパク質複合体を通じて左手および右手末端でアデノウイルスITRにより連結され、サークルを形成する線状DNA分子である。初期、中期、および後期成分の制御およびコード領域は、ゲノム内で重複する。初期領域遺伝子は、アデノウイルスゲノムの複製に関与し、そしてそれらの位置に依存して、E1、E2、E3、およびE4領域にグループ分けされる。
【0084】
必須ではないが、原則的に、ヘルパーウイルス株は、最終的に遺伝子治療を受ける被験体中で複製欠損であることが所望される。従って、rAAV調製物中に存在する任意の残存ヘルパーウイルスは、複製不能である。E1A、またはE1AおよびE3領域の両方が除去されたアデノウイルスは、大部分のヒト細胞に対して感染性ではない。それらは、失われた活性を相補し得る許容細胞株(例えば、ヒト293細胞株)中で複製され得る。ヘルパー機能と関連するように見えるアデノウイルスの領域、およびそうでない領域は、同定され、そして当該分野で記載されている(例えば、P.Colosiら、WO97/17458、およびそこに引用される参考文献を参照のこと)。
【0085】
(条件的感受性ヘルパーウイルスの使用)
本明細書で記載される「条件的感受性」ヘルパーウイルスもまた、ヘルパーウイルス活性を提供するために採用され得る。このようなヘルパーウイルス株は、AAVがそれ自身効果的なゲノム複製を行わない少なくとも1セットの条件下で、宿主細胞中でのAAV複製を支持し得る性質を最小限有さなければならない。ヘルパーウイルス活性が、インタクトなウイルス粒子として提供される場合、それはまた、一般に、このウイルスが、第2のセットの条件下で、宿主細胞中で複製し得ることが必要である。第1のセットの条件は、第2のセットの条件と、容易に制御可能な特徴((カチオンのような)必要なコファクターの存在または非存在、阻害薬物の存在または非存在、または温度のような環境条件におけるシフトなど)が異なる。最も簡便には、2つの条件の差異は、温度であり、そしてこのような条件的感受性ウイルスは、それゆえ、温度感受性ヘルパーウイルス(tsHV)と呼ばれる。
【0086】
本開示の目的には、「温度感受性」または「ts」ヘルパーウイルスは、特定の温度範囲(「許容」温度範囲)、代表的には約15〜35℃、そして好ましくは約20〜32℃で、真核細胞中でその遺伝物質を複製し得るものである。しかし、「非許容」温度では、たとえその他の条件が同じに保たれたとしても、遺伝物質の複製の速度は、実質的により低く、少なくとも10倍より低く;通常少なくとも約100倍より低く;および好ましくは少なくとも約1000倍より低い。代表的には、この温度は、約35〜50℃、一般に、約42℃である。このような、tsヘルパーウイルスの代表的な実施例では、このウイルスは、約20〜32℃の温度のような比較的低温度で効率的に複製し得るが、約37〜42℃の温度のような比較的高温で効果的に複製し得ない。ウイルス感染細胞は、それにもかかわらず、非許容温度で、AAV産生のためのヘルパー機能を含むがこれに限定されない、ウイルスに起因し得るいくつかの代謝プロセスを示し得ることが理解される。
【0087】
温度感受性ヘルパーウイルスは、感染細胞を許容温度で培養することにより、大量に産生し得る。次いでAAVベクターは、ベクター要素および温度感受性ヘルパーウイルスを含む細胞を、非許容温度で培養することにより産生され得る。ベクター調製物は、ヘルパーウイルス成分を実質的に含んでいない。
【0088】
多数の温度感受性アデノウイルス改変体が当該分野で記載されている;例えば、とりわけ、Ensingerら(J.Virol.10:328、1972);Williamsら(J.Gen Virol.11:95、1971);Ishibashi(Proc.Natl.Acad.Sci.USA 65:304、1970);Lundholmら(Virology 45:827、1971);およびShirokiら(Virology 61:474、1974)により記載された改変体を参照のこと。相補性分析は、このような改変体が、複数の異なる相補性グループに入ることを示している(Ginsbergら、Cold Spring Harbor Symp.Quant.Biol.34:419、1974)。このことは、アデノウイルス複製サイクル中の多くの工程に温度感受性を与え得ることを示唆する。
【0089】
AAV複製のヘルパー機能は、アデノウイルスサイクルの一部分のみがインタクトであることを必要とするので、非許容温度で、種々の変異体のヘルパー機能を試験することは、ヘルパー機能をマッピングする手段を提供する。例えば、Ishibashiら(Virology 45:317、1971)は、温度感受性トリアデノウイルス改変体がAAV1およびAAV2の複製を支持することを報告した。Itoらは、ヒトアデノウイルス7の温度感受性変異体ts13(Ad7ts13)が、野生株と同じく効率的に非許容温度でAAV複製を補助することを報告した。Drakeら(Virology 60:230、1974)は、3つのグループの、I型単純ヘルペスウイルス(HSV1)の温度感受性変異体によるAAV4抗原合成の相補を報告した。Handaら(J.Gen.Viro. 29:239、1975)は、ヒトアデノウイルス変異体Ad5ts36、Ad5ts125、Ad5ts149、Ad12tsA275、Ad12tsB221、およびAd12tsC295によるAAV1ウイルス産生に対するヘルパー活性を報告した。Ostroveら(Virology 104:502、1980)は、温度感受性変異体、Ad5ts125、Ad5ts135、Ad5ts157、Ad5ts116、およびAd5ts142、ならびに宿主範囲変異体hr6がAAV複製を支持する(hr3は支持しない)ことを報告した。Mayorら(J.Gen Virol.35:545、1977)は、Ad31ts94ではなくAd31ts13が、非許容温度でAAV1産生を支持したことを報告した。
【0090】
Strausら(Proc.Natl.Acad.Sci.USA 73:742、1976)は、Ad5ts125が、アデノウイルスがそれ自身複製しない条件下で、AAV2複製を支持したことを報告した。かれらは、この性質を用いてAAV複製の間に形成されるDNA中間体を研究した。Myersら(J.Virol.35:65、1980)は、ヘルパー機能に関して定量的研究を実施し、そしてAd5ts149が非許容温度で、1細胞あたり20,000の感染性AAV粒子の産生を支持したが、その一方、Ad5ts107は、1細胞あたりほんの約100粒子を生産したに過ぎないことを示した。Ad5ts107は、72kDa DNA結合タンパク質コード領域中に変異を有するので、かれらは、このタンパク質が、AAV RNA発現において役割を演じていると結論付けた。より最近、Carterら(Virology 191:473、1992)は、完全に機能的な72kDaタンパク質が、AAV repおよびcap遺伝子の定量的な転写後の発現に必要であることを提案した。
【0091】
背景技術のセクションで概説したように、温度感受性アデノウイルスの存在は、多少は、時折、知られていた。しかし、遺伝子治療に用いられ得るような、組換えAAVベクターの生成における条件的ヘルパーウイルスの実際の使用に関する有効な教示または示唆はなかった。
【0092】
説明の一部分は、組換えベクターを用いる場合、AAVの作用可能な力価を得ることの困難さであり得る。とりわけ、AAV Repタンパク質は、見かけ上、p5プロモーターを通じてそれら自身の発現をダウンレギュレートする(Tratschinら、Mol.Cell Biol.6:2884、1986)。さらに、組換えAAVベクターの産生に用いられ得るようなパッケージング細胞株中のrep遺伝子の発現が、細胞の増殖および/または代謝を阻害する傾向にあることを観察した(例えば、Allenらによる、Targeted Genetics Coporation、WO96/17947を参照のこと)。
【0093】
野生型AAVベクターと組換えAAVベクターの生成の間の差異は、産生に関して考慮される場合、極めて劇的である傾向にある。特に、組換えAAVベクターの産生が野生型AAV粒子の産生より実質的に低く、しかも小量の混入野生型AAVの存在または生成でさえ、最終的に組換えAAVベクターに数で勝り得る野生型ウイルスの優先的産生を生じる傾向にあることが観察された。
【0094】
これらの現象は、本開示の実施例1および2、ならびに図1に記載される結果によりさらに説明される。アデノウイルス温度感受性変異体ts149がAAV粒子複製を支持することが他で報告されている(Myersら、J.Virol.35:65、1980)。しかし、実施例2は、この変異体を、標準的な条件下で異種プロモーターを有するAAVベクターの産生を支持するために用いる場合、産生のレベルが、野生型アデノウイルスにより支持されるより数オーダーの程度低いことを示す。
【0095】
この開示は、温度感受性ヘルパーウイルスが、作用可能な力価で組換えAAVベクターを調製するために実際用いられ、見かけの産生障害物を克服し得ることを示す。以下の記載は、遺伝子治療の目的に十分なAAVを提供するために温度感受性ヘルパーウイルスをどのように選択し、そしてどのように条件を最適化するかを説明する。
【0096】
特に、tsAdをヘルパーとして用いる場合、AAVの複製期間を延長することが、産生されるAAVベクターの量を、劇的に増加することが示される(実施例3)。これは反直感的である。なぜなら、野生型Adを同様に用いる場合、複製期間を延長することは、少なくとも1オーダーの大きさAAVベクターの量を減少させるからである。AAV産生のための条件を最適化することを求める当業者は、論理的には、より短い培養時間およびより高い濃度のヘルパーウイルスに行くであろう:その両者は、本明細書では有効ではないことが示される。
【0097】
本発明は、定量的な量の温度感受性アデノウイルスを調製するための改良された培養および分離方法をさらに提供する。本発明の特定の実施態様の実施のために厳密には要求されないが、これらの方法により得られる温度感受性アデノウイルスの調製は、遺伝子治療の目的に、AAVそれ自身の産生に特に適合される。
【0098】
ヘルパーウイルスの選択された株の条件感受性改変体は、適切な変異誘発および選択戦略により生成され得る。例えば、ウイルスは、ニトロソグアニジン、亜硝酸、ヒドロキシルアミン、または5−ブロモ−2−デオキシウリジンで変異誘発され得る。所望の許容条件下で、適切な真核細胞において増加し得るが、所望の非許容条件下ではそうではない候補が選択される。例として、例えば、32℃で増加するが、39.5℃では増加しないアデノウイルス温度感受性変異体が得られ得る。39.5℃対32℃でのプラーク形成効率比は、好ましくは、10-4より少なく、そしてより好ましくは10−5より少ない。温度感受性アデノウイルスの適切な選択プロセスのさらなる例は、例えば、Ensingerら、J.Virol.10:328、1972;およびWilliamsら、J.Gen Virol.11:95、1971に見出され得る。温度感受性ではなく、宿主範囲感受性であるアデノウイルス改変体の記載は、Harrisonら、Virology 77:319、1977に見出され得る。本発明における使用に有効な温度感受性変異体は、例えば、代替のヘルパーウイルス様単純ヘルペス1(HSV1)、または単純ヘルペス2(HSV2)から調製され得る。例えば、HSV1についてSchafferら、Virology 52:57、1973;HSV2についてEsparzaら、Virology 57:554、1974を参照のこと。背景のセクションで示したように、多数の条件感受性ヘルパーウイルスが記載され、そしてそれらを開発または記載した科学者から、または公的な寄託機関から得られ得る。
【0099】
前記で列挙したウイルスのすべての条件感受性改変体が本発明で作用するとは限らない。特に、株は、非許容条件下でブロックされる機能が、AAVの高効率複製に必要であるものではないような、その複製サイクルにおけるステージで条件感受性を与えなければならない。使用のためのそのヘルパーウイルス株の選択は、ヘルパーウイルスおよびAAVの複製条件の両方の公知の生物学を参照してなされ得る。
【0100】
本発明で使用のための例示のヘルパーウイルスは、Ad5血清型の温度感受性アデノウイルスts149(Ad5ts149)である。実施例のセクションで示されるように、最適化条件下で、この株を用いて、野生型Ad5により支持されるレベルに一致またはそれを超えるレベルでrAAVを産生し得る。ts149は、位置7563においてC−GからA−Tへの単一のトランジションを有する(Rooversら、Virus Genes 4:53、1990)。これは、DNAポリメラーゼの残基411のアミノ酸ロイシンのフェニルアラニンへの変化を生じる。このDNAポリメラーゼは、アデノウイルスのE2転写ユニット内に含まれる。しかし、この領域にマッピングされるその他のts変異体は、より適切ではない。特に、このE2転写ユニットはまた、72kDa DNA結合タンパク質(DBP)のコード領域を含む。検出可能なDBPを産生しない株(Add/802)は、AAV複製を支持するが、そのレベルは1オーダーの大きさ減少する(Carterら、Virology 191:473、1992)。これもまたDBPコード領域にマッピングされる変異を含むAdts125は、野生型Ad5を用いるよりも一般にかなり低いレベルであるが(Myersら、J.Virol.35:65、1980)、AAV複製を支持する(Strausら、J.Virol.17:140、1976)。従って、本発明における使用のための適切な温度感受性アデノウイルスベクターは、感受性が、ゲノムのE2A領域、好ましくはDNAポリメラーゼコード領域にマップされるベクターを含む。
【0101】
当業者は、候補ヘルパーウイルス株のパネルを、候補細胞中で、そのヘルパーの自己複製に非許容的である条件下で用いるrAAV複製アッセイを実施することにより、ヘルパーウイルスとしての使用にどのウイルス株が適切であることを容易に決定し得る。温度感受性改変体について、スクリーニングは、株の既知の性質に従って非許容温度で行われる。非許容温度は、一般に、許容温度より高く、代表的には約35〜50℃、好ましくは38〜45℃、より好ましくは約39.5℃である。対応する野生型ウイルスにより支持されるレベルの1オーダーの大きさの中にあるレベルでAAV複製を支持する改変体が好ましい。スクリーニングを実施することで、当業者は、本開示の他の教示を取り込むべきである。特に、野生型ウイルスでピークのAAV産生を与える時間培養することによるスクリーニングは、不十分である。候補ヘルパーウイルスをより長い期間用い、次いでピーク収穫時間にある野生型ウイルスと比較する速度論的マトリックスが設定されるべきである。この分析のより詳細な説明は、本開示の実施例3に提供される。
【0102】
一旦、適切なヘルパーウイルス株が選択されたなら、それは、本発明において多くの異なる形態で履行され得る。ウイルス粒子、ウイルスプラスミド、および安定に形質転換された宿主細胞のすべてが用いられ得る。
【0103】
1つの実施態様では、ヘルパーウイルスのゲノム(または最小限、ヘルパー機能をコードするヘルパーウイルスゲノムの領域)が宿主細胞中に導入され、DNAプラスミド、または相補的機能を提供する複数のプラスミドの形態にあるvAAVベクターの複製に用いられる。アデノウイルスの実験操作のための手順は、当該分野で公知である。読者は、Grahamら、「Manipulation of adenovirus vectors」:Murray EJ編、Method in molecular biology: Gene transfer and expression protocols、第7巻、Clifton、NJ:The Human Press、1991:109−128を参照し、これは、アデノウイルスの増殖、滴定、および精製、同時トランスフェクションおよびインビボ組換えの詳細なプロトコールを提供する。アデノウイルスプラスミドは、Microbix Biosystems Inc.,Toronto,Canadaから市販されている。
【0104】
別の実施態様では、宿主細胞は、アデノウイルス遺伝子で安定にトランスフェクトされるか、または遺伝子的に改変されてrAAV複製に必須の機能を提供する。あるいは、宿主細胞は、アデノウイルスゲノムの部分のみが遺伝子的に改変され得、次いでアデノウイルス粒子またはプラスミドで感染またはトランスフェクトされる。特許出願WO95/27071およびWO95/34671は、遺伝的に改変されてアデノウイルス機能を提供する宿主細胞を記載し、これは、種々の欠損アデノウイルス構築物の複製性質を相補する。
【0105】
なお別の実施態様では、AAV複製に用いられる宿主細胞は、自己複製し得る(しかし非許容条件下ではそうではない)ヘルパーウイルスで感染される。十分なMOIを提供する必要な株の任意の調製物が用いられ得る。GMPおよびその他の規制条件を維持することにおいて、および商業的目的のスケールアップを容易にするために、好ましくは、ヘルパーウイルスの調製物は、高密度の感染粒子を含み、そして細胞残渣およびその他の混入物を実質的に含まない。所望の性質は以下を含む:
・TCID50アッセイで測定したとき、少なくとも106、好ましくは少なくとも約108、より好ましくは少なくとも約1010IU/mlの密度。
・総タンパク質またはアデノウイルスヘキソンに対するアデノウイルスDNAの比は、ウイルス粒子の、少なくとも10%、好ましくは少なくとも約50%、より好ましくは、少なくとも約80%が、アデノウイルスDNAを含むことを示す。
・タンパク質について染色されたSDSゲル、またはエチジウムブロマイドで染色された制限ヌクレアーゼ消化物のアガロースゲルにより検出されるとき、タンパク質またはDNAレベルの非アデノウイルス物質による、20%より少ない、好ましくは約10%より少ない、より好ましくは約1%より少ない混入物。
・生産バッチあたり、合計少なくとも109、好ましくは少なくとも約1011、より好ましくは少なくとも約1013IU。
【0106】
ヘルパーウイルスは、ウイルス複製について許容性である任意の細胞において調製され得る。アデノウイルスについて、好ましい細胞は、293細胞およびHeLa細胞を含む。伝統的に、これらの細胞は、アデノウイルスの複製のために用いられる場合、それらは、プレート培養において使用されてきた。しかし、実施例4に示されるように、これらの方法は、一般に、野生型アデノウイルスよりも1または2対数分低いレベルで温度感受性アデノウイルスの複製を支持する。
【0107】
従って、播種密度の増加を許容する培養技術を使用することが好ましい。懸濁培養に適合させた293細胞およびHeLa細胞変異体が利用可能である。HeLaは、細胞増殖、生存度、および懸濁物中の形態の理由のために好ましい。実施例5に示すように、これらの細胞を充分な密度(2x106/ml)で増殖させて、温度感受性アデノウイルス株の複製速度の低下を補い得る。一旦樹立されると、細胞にそのウイルスを感染させ、そして充分な時間(一般的に3〜7日間および代表的に約5日間)許容温度で培養する。
【0108】
接線流濾過は、当該分野において、その灌流、濃縮および採取の目的のために大容量の哺乳動物細胞を処理するために使用される技術である。例えば、Dorinら、Biotechnol.Prog.6:494、1990;Maiorellaら、Biotechnol.Bioeng.37:121、1991を参照のこと。この技術は、本発明における使用のためのヘルパーウイルスの調製のために懸濁培養物を用いて使用することが推奨される。実施例5は、HeLaS3細胞は、750〜1500秒-1の剪断力に耐え、これにより細胞の濃縮および使用した培地のダイアフィルトレーションが可能になる。
【0109】
ウイルスを、使用した培地からまたはその細胞の微量流動化によるかのいずれかで、その培養物から採取する。その培養物において産生されたヘルパーウイルスのレベルは、代表的に少なくとも107IU/mlであり、そして好ましくは少なくとも約3x107IU/mlである。
【0110】
上記の記載に従って調製されたヘルパーウイルスは、rAAV複製のために使用される宿主細胞を感染させるために直接使用され得る。より通常には、このウイルスは、使用前に単離および濃縮される。ヘルパーウイルスを精製および濃縮するための現在の方法は、代表的に、等密度CsCl勾配を含む。この方法は、時間集約的および労働集約的であり、多数の開放処理工程を必要とし、そして規模拡大が困難である。その代わり、クロマトグラフィーによる精製が推奨される。読者は一般に、Priorら、Pharmaceut.Technol.19:30、1995;およびHuygheら、Human Gene Therapy 6:1403、1995を参照する。アデノウイルスの温度感受性株の単離のために特に好ましいのは、アニオン交換クロマトグラフィー、特にpH7.4での連続的なNaCl勾配を用いる特にポリエチレンイミンの樹脂においてである。ポリエチレンイミン分離方法の詳細な説明は実施例6に提供される。
【0111】
(ヘルパーウイルスおよびAAVを含む宿主細胞の提供)
いくつかの基準が、本明細書に記載されるようなrAAV粒子を産生するのに使用するための細胞の選択に影響を与える。最初の事項として、その細胞は、選択されたヘルパーウイルスを用いる場合、rAAVベクターの複製およびパッケージングに許容性でなければならない。しかし、ほとんどの哺乳動物細胞は、AAVによって生産的に感染され得、そして多くの細胞もまたアデノウイルスのようなヘルパーウイルスによって感染され得るので、多くの種々の哺乳動物細胞および細胞株がこれらの基準を有効に満足することは明白である。これらのうち、より好ましい細胞および細胞株は、組換えAAVベクター調製物の大規模生産を容易にするために培養物中で容易に増殖され得るものである。しかし、このような細胞の多くもまた、この基準を有効に満たす。大規模生産が所望される場合、産生方法の選択はまた、宿主細胞の選択にも影響を与える。例えば、以下および当該分野においてより詳細に記載されるように、いくつかの生産技術および培養容器もしくはチャンバーが付着または接着細胞の増殖のために設計されており、他方、他のものが懸濁細胞増殖のために設計されている。後者の場合、従って、宿主細胞は、好ましくは、懸濁増殖に適合されたかまたは適合可能である。しかし、接着またはアンカー依存性とみなされる細胞および細胞株の場合でさえ、(以下に記載されるように)懸濁増殖しうる細胞について連続的に選択することによってアンカー依存性親株の懸濁適合性改変体を誘導させることが可能である。
【0112】
温度感受性のヘルパーウイルスが使用される場合、その細胞は、そのヘルパーウイルスの複製に非許容性である条件下でrAAVベクターを有効に複製し得なければならない。例示のために、アデノウイルスts149をtsへルパーウイルスとして使用する場合(以下に記載されそして例示されるように)、その細胞は、32℃を充分超える、好ましくは、約39.5℃を超える温度でrAAV複製およびパッケージングを支持し得なければならない。ヒト293細胞は、これらの規準を満たす細胞株の一例であるが、他の多くの細胞および細胞株がこの比較的高温でrAAVを複製し得る。
【0113】
最終的に、複製およびパッケージングに必要であるヘルパーウイルス、rAAVベクター配列、およびすべてのAAV配列は、同じ細胞に存在しなければならない。1以上のAAVパッケージング遺伝子がベクターから別個に提供される場合、以下を含む宿主細胞が提供される:(i)1以上のAAVパッケージング遺伝子、ここでこのAAVパッケージング遺伝子は各々が、AAV複製またはキャプシド化タンパク質をコードする;(ii)rAAVベクターまたはプロベクターを使用してこの宿主細胞に導入された異種ポリヌクレオチド、ここで、このrAAVベクターまたはプロベクターは、少なくとも1つのAAV ITRに隣接してその異種ポリヌクレオチドを含み、そしてそのAAVパッケージング遺伝子において欠損している;ならびに(iii)必要なヘルパーウイルス機能をコードするヘルパーウイルスまたは配列。しかし、これらのエレメントの1以上が単一のレプリコンにおいて合わせられ得ることにも注意すべきである。例示のために、ヘルパーウイルスはまた、rAAVプロウイルスまたはAAVパッケージング遺伝子を含み得る。
【0114】
ヘルパーウイルスは好ましくは、培養物中の細胞のほとんどを感染させるのに充分なレベルで細胞培養物中に導入されるが、そうでなければ得られた調製物に存在するヘルパーウイルスの量を制限するために、最低限に維持され得る。1〜100の感染多重度すなわち「MOI」が使用され得るが、5〜10のMOIが代表的に適切である。
【0115】
同様に、AAVベクターおよび/またはパッケージング遺伝子が一過的にパッケージング細胞に導入される場合(安定に導入されるのとは反対に)、それらは、好ましくは、培養物中の細胞のほとんどを遺伝的に改変するのに充分なレベルで導入される。一般的に必要な量は、細菌プラスミドとして供給される場合106細胞あたり10μgのオーダーであり;あるいはAAV粒子として供給される場合は、105細胞あたり108粒子である。最適な量の決定は、当業者の範囲内である慣用的な力価決定の実施である。
【0116】
これらのエレメントは、同時または任意の順に連続的に、その細胞に導入され得る。その細胞がそのエレメントのいずれかによって遺伝的に変化している場合、その細胞は、次のエレメントが導入される前に、選択され得そして増殖させられ得る。
【0117】
1つの好ましい実施態様において、ヘルパーウイルスは、最後に細胞に導入されて、常在性のrAAVベクターのレスキューおよびパッケージングを行う。この細胞は、一般的に、AAVパッケージング遺伝子に必要な程度にまでスクリーニン既に補充されている。好ましくは、rAAVベクターまたはパッケージング遺伝子のいずれか、またはより好ましくはその両方が、その細胞に安定に組み込まれる。他の組合せも可能であることも容易に理解される。このような組合せは、本発明の範囲内に含まれる。
【0118】
一旦宿主細胞に必要なエレメントが提供されると、その細胞は、AAV複製に許容性である条件下で培養されて、rAAVベクターの複製およびパッケージングをさせる。培養時間は好ましくは、産生レベルのピークに対応するように調整され、そして代表的には3〜6日間である。好ましくは、少なくとも100のウイルス粒子が1細胞当たり産生され;より好ましくは1細胞当たり、少なくとも約1000粒子、なおより好ましくは1細胞当たり少なくとも約10,000粒子産生される。好ましくは、2x105細胞当たり,少なくとも0.5x106、より好ましくは少なくとも約1x106細胞、さらにより好ましくは少なくとも約2x106RU/ml AAVベクターが、培養期間の間に産生される。必要に応じて、大規模生産方法(例えば、懸濁培養または接線流濾過が)使用され得る。次いで、AAV粒子が収集され、そしてそれらを調製するために使用された細胞から単離される。
【0119】
本発明のrAAV粒子の調製物は、好ましくは、高密度の感染性AAV粒子を含み、そしてヘルパーウイルス、ヘルパーウイルスタンパク質および細胞砕片、および他の混入物を実質的に含まない。所望の特性は、以下を含む:
○公知の標準を用いて複製アッセイまたは定量ハイブリダイゼーション比較において決定される場合、少なくとも107、好ましくは少なくとも約108、より好ましくは少なくとも約109RU/mlの濃度
○108RUのrAAV粒子あたり、103以下、好ましくは約102以下、より好ましくは101以下のヘルパーウイルスの感染性粒子
○SDSゲルの密度分析によるか、またはヘルパーウイルス特異的タンパク質(例えば、アデノウイルスのヘキソンまたはペントンファイバー)についてのイムノアッセイのいずれかによって検出される、タンパク質ベース(重量/重量)で、5%未満、好ましくは約1%未満、より好ましくは約0.01%未満、さらにより好ましくは約0.001%未満のヘルパーウイルスによる混入物
○SDSゲルの密度分析によるか、またはヘルパーウイルス特異的タンパク質または細胞特異的タンパク質についてのイムノアッセイのいずれかによって検出される、5%未満、好ましくは約1%未満、より好ましくは約0.01%未満、さらにより好ましくは約0.001%未満のヘルパーウイルスまたは細胞タンパク質(重量/重量)による混入物
○好ましくは、その調製物はまた、細胞の脂質、炭水化物、および/または核酸のような他の潜在的な細胞成分を実質的に含まない。
【0120】
本開示に概説される方法は、小さな実験バッチまたは10〜100リットル以上の調製バッチを調製するのに適切である。大規模バッチ調製について、以下の特性もまた所望される:
○この調製物において、合計少なくとも1010、好ましくは1012、そしてより好ましくは1014RUのAAVベクター粒子。
【0121】
必要に応じて、rAAVベクターは、rAAV粒子について富化するため、ヘルパーウイルス粒子を涸渇させるため、または他の方法で被験体への投与に適切にさせるためにさらに処理され得る。精製技術は、等密度勾配遠心分離およびクロマトグラフィー技術を含み得る。感染性ヘルパーウイルス活性の減少は、当該分野で公知なように、熱処理またはpH処理による不活化を含み得る。他の処理としては、濃縮、濾過、ダイアフィルトレーション、または適切な緩衝液もしくは薬学的な賦形剤との混合が挙げられ得る。調製物は、分配のために単位用量および多用量アリコートに分割され得、これは、そのバッチの本質的な特徴(例えば、抗原性内容物および遺伝的内容物の均質性、および混入するヘルパーウイルスの相対比)を保持する。
【0122】
上記に記載のような種々の所望の特性を示すヘルパーウイルスおよびAAVの調製物の生成のための例示的な技術は、以下の節においておよび以下の実施例において提供される。
【0123】
ウイルス調製物の感染性力価の決定のための種々の方法が当該分野で公知である。しかし、力価決定のための好ましい方法は、本明細書に提供されるような高処理能力力価決定アッセイである。例示的な高処理能力力価決定アッセイにおいて、各々が哺乳動物細胞のアリコートおよびウイルス調製物のアリコートを含む培養ウェル(ならびに、例えば、細胞単独、ウイルス単独を含むコントロールウェル、および何も含まないコントロールウェル)のアレイが確立される。培養ウェルのアレイは、例えば、マイクロタイター容器の形態においてであり得る。代表的に、力価測定されるウイルス調製物のアリコート(例えば、連続希釈したアリコート)をその細胞に添加し、次いで、その細胞およびウイルスを、ウイルスの複製を可能にする条件(代表的には、哺乳動物宿主細胞に適した増殖条件)下でインキュベートする。ウイルスの複製後、ウイルス核酸を、哺乳動物細胞の溶解によって総合的に放出させる(必要に応じて溶解を促進する条件または薬剤を用いて)。好ましい実施態様において、複数の溶解物における核酸(ウイルス核酸を含む)を、核酸を結合する条件下で(タンパク質および他の混入物を除去するのに適切な洗浄)メンブレンに移しそして固定する。このメンブレンは好ましくは、もとのアレイの個々のウェルが、次いで、(各培養ウェルの溶解物由来の)核酸(これは、そのメンブレン上の対応する位置に結合している)の「プール」によって表される培養アレイの複製または鏡像である。次いで、そのメンブレンと、標識したウイルス特異的(またはウイルス挿入物特異的)プローブとをハイブリダイズすることを使用して、そのアレイの点の各々、および対応して、もとの培養ウェルの各々における、ウイルス特異的核酸の相対量を同定および定量し得る。核酸の移動、結合、洗浄、およびハイブリダイゼーションのための条件および材料は、慣用的な分子生物学技術から適合され得る(例えば、「ドットブロット」ハイブリダイゼーション(当該分野で記載されるような、例えば、Sambrookら、前出、およびAusubelら、前出に記載される分子生物学的な技術を参照のこと))。これらの技術の例示的な適用を以下に提供する。
【0124】
従って、これらの方法は、ウイルス調製物の感染性力価の決定において使用され得る高処理能力感染性アッセイを提供する。図4に示すように、この迅速かつ定量的な方法によって決定されたウイルス力価は、より古典的な技術によって決定された力価に密接に対応する。しかし、さらに、この高処理能力方法は、多くのウイルス複製反応の同時の処理および分析を可能にし、従って、以下にさらに記載されるように、例えば、ウイルス複製および感染性について許容性であるかもしくは非許容性である細胞株のスクリーニング、ならびにウイルス複製に影響を与える薬剤のスクリーニングを含む他の多くの用途を有する。
【0125】
(本発明における使用のために好ましい、ヘルパーウイルス産生および精製)
本発明の種々の好ましい局面において、本明細書において記載されるようなrAAVベクターの産生における使用に適したヘルパーウイルスの生成のための産生および精製の方法が使用される。AAVの産生のために一般的に使用されるヘルパーウイルスは、アデノウイルス、代表的には、Ad5であるが、他のヘルパーウイルスもまた、本明細書においておよび当該分野で記載されるように使用され得る。
【0126】
例示の目的で、「上流」および「下流」の相へとウイルス産生および精製の議論を分割することが簡便である。「上流」プロセスとは、一般的に、適切な宿主細胞におけるウイルス産生、および溶解物のような「粗」ウイルス調製物を産生するためにその細胞からそのウイルスを放出または取り出すことをいう。「下流」処理は、その粗ウイルス調製物を精製するために使用され得る(例えば、細胞タンパク質および/または他の混入物からそのウイルスを単離するために)。アデノウイルスを含むヘルパーウイルスの産生および処理のための種々の技術が公知である(例えば、CsCl遠心分離、ならびにWO96/27677に記載されるもののような他の技術)。次いで、このような技術を用いて産生されたヘルパーウイルスは、本明細書に記載されるように、rAAVベクターの産生において使用され得る。
【0127】
以下の節は、例示の目的で、アデノウイルスの産生のために使用され得る技術を記載するが、他の技術が当該分野で公知であり、そして本明細書において使用され得る。
【0128】
((i)ヘルパーウイルス上流)
ヘルパーウイルス(例えば、Ad5)は、哺乳動物細胞(例えば、ヒト細胞)に感染することによって容易に産生され得る。以下に記載される例示的な例において、細胞は、培地およびその宿主細胞の増殖に適した培養容器中で増殖され、感染前に濃縮され、次いで穏やかに攪拌しながらヘルパーウイルスに感染される(例えば、1〜5のMOIで)。感染後、細胞を、新鮮な培地に再懸濁し得、そしてヘルパーウイルスの複製およびパッケージングを可能にするために、さらなる期間(代表的には、約2日間)インキュベートし得る。インキュベーション後、細胞を採取し、そしてこれを溶解してヘルパーウイルスを放出させ得る。溶解後、その細胞溶解物は、好ましくは、ウイルス粒子にキャプシド化された核酸を分解させずに、遊離の核酸(例えば、細胞核酸)を分解するためにヌクレアーゼで処置される。この溶解物を、明澄化(例えば、濾過および/または遠心分離による)し得、そしてまた以下に記載されそして例示されるように、その調製物におけるそのヘルパーウイルスを精製および濃縮するために、さらに精製技術に供され得る。
【0129】
このようなプロセスの例示的な例として、細胞を、約1×106細胞/mlの密度で、スピナーフラスコのような容器中の培地中で増殖し得る。次いで、インキュベーション後、細胞を約107細胞/mlにまで濃縮し得、そして穏やかに攪拌しながら1〜2感染単位/細胞で、その細胞をAd5に感染させ得る。次いで、細胞を培地に、約106細胞/mlで再懸濁し得、そして約2日間のインキュベーション期間の間ウイルスを産生させる。次いで、細胞を採取し、培地または緩衝液中に再懸濁(例えば、約5x106細胞/ml)し、次いで、例えば、機械的溶解(例えば、8000psiでの微量流動機を通過させることまたは等価の技術(例えば、凍結融解または超音波処理)によって破壊し得る。この溶解物を、ヌクレアーゼ(例えば、Benzonase)で、37℃で1時間処理し得る。この溶解物を、フィルター(例えば、1.0μフィルター)を通すかまたは遠心分離によって明澄化し得る。類似の技術およびその改変は、さらに以下に記載される。
【0130】
((ii)ヘルパーウイルス下流)
ヘルパーウイルス(例えば、アデノウイルス)の下流処理のために好ましい技術は、そのヘルパーウイルスの精製のためにイオン交換クロマトグラフィー手順を使用する。
【0131】
例示のために、上記に記載されるようなアデノウイルス濾過物を、緩衝液(例えば、TMEG、これは本明細書においてクロマトグラフィー緩衝液Aとも称する:50mM Tris(pH8.0)、5mM MgCl2、1mM EDTA、5%グリセロール)で平衡化したクロマトグラフィーカラム中のアニオン交換樹脂(例えば、N荷電アミノまたはイミノ樹脂(例えば、POROS50PI、または任意のDEAE、TMAE、三級もしくは四級アミン、またはPEIベースの樹脂))にロードし得る。
【0132】
次いで、このカラムを、複数のカラム容量のTMEG(例えば、5〜6容量)で洗浄し、次いで、複数の容量の生理食塩水(例えば、5〜6容量の800mM NaClを有するTMEG(クロマトグラフィー緩衝液「B」:60% TEMGおよび2M NaClを有する40%TMEG))で洗浄する。このアデノウイルスは、1300mM NaClを有するTMEGを用いて溶出され得る(35% クロマトグラフィー緩衝液A、65% クロマトグラフィー緩衝液B)。
【0133】
アデノウイルスのピークは、当該分野で記載されているように、感染性アッセイまたは核酸ハイブリダイゼーションもしくはイムノアッセイによって画分中に同定され得る。このピークは、0.2μ滅菌フィルターを通して滅菌濾過され得る。必要に応じて、このピークは、接線流濾過、例えば、Filtron UltrasetteまたはMillipore Pelliconユニットによって濃縮され得る。そのピークまたは濃縮物は、この系において適切な緩衝液(例えば、PBSおよび5%スクロース)へとダイアフィルトレートされ得る。あるいは、このアデノウイルスは、溶出緩衝液に残存し得る。この最終のアデノウイルス産物は、0.2μフィルターを通して滅菌濾過され得、そして使用のために保存され得る。本明細書において記載されそして例示されるように、温度感受性のヘルパーウイルス(例えば、温度感受性アデノウイルス)もまた使用され得る。
【0134】
このようなヘルパーウイルスの調製および使用を記載する実施例は、さらに例示の目的のために以下に提供される。
【0135】
(本発明における使用に好ましいAAV産生および精製技術)
ヘルパーウイルスについて、「上流」および「下流」のプロセスの相へとAAV産生および精製の議論を分割することが例示の目的のために簡便である。「上流」プロセスとは、一般的に、適切な宿主細胞におけるAAV産生、および「粗」AAV調製物を産生するためにその細胞からそのウイルスを放出または取り出すことをいう。「下流」処理は、その粗AAV調製物を精製するために使用され得る(例えば、細胞タンパク質および/または他の混入物からそのAAVを単離するために)。
【0136】
本発明の好ましい局面において、AAVの上流および下流のプロセスは、混入する細胞タンパク質、ならびに混入する任意のヘルパーウイルス(例えば、Ad)またはヘルパーウイルスタンパク質を実質的に減少および/または除去するように設計された様式で実施される。これらの物質のいずれも、遺伝子移入のために使用される最終のrAAVベクター調製物において実質的なレベルで存在する場合、免疫応答の誘発に寄与し得る。
【0137】
以下の節は、例示の目的で、rAAVの産生のために使用され得る技術を記載する。
【0138】
((i)rAAV上流処理)
AAVベクターは、必要なAAVパッケージング遺伝子(例えば、AAV repおよびcap遺伝子);少なくとも1つのAAV逆方向末端反復(ITR)に隣接する異種非AAVポリヌクレオチドを含む組換えAAV(rAAV)プロベクター;およびAAVのためのヘルパーウイルス(例えば、アデノウイルス)を含む、哺乳動物細胞株から産生され得る。これらの成分は、上記に記載および以下に例示されるように、種々の構成で細胞中に導入され得る。AAVは、任意の種々の哺乳動物細胞において複製され得そしてパッケージングされ得るので、AAVの産生のために改変され得そして使用され得る多数の細胞株が存在する。
【0139】
例示のために、AAVベクターは、細胞株(例えば、「C12」(K.R.Clarkら、Gene Therapy、3:1124−1132、1996によって記載される)または「C137.5」株(Targeted Genetics Corporation、J.Allenら、WO96/17974による、共有に係る同時係属中の出願に記載される)から産生され得る。この細胞株は、repおよび/またはcap構築物ならびにベクター構築物を含むように操作されている。必要に応じて、repおよび/またはcap構築物を含む、C12またはcl37のような細胞株は、ベクター構築物を含むプラスミド(例えば、ptgAAV−CF)でトランスフェクトされ得る。または、repおよびcapを含むプラスミド(例えば、pRS5)、ならびにベクター構築物を含むプラスミドで細胞がトランスフェクトされ得る。この細胞は、アデノウイルスに感染させられ得るか、またはアデノウイルス遺伝子を含むDNAでトランスフェクトされ得る。
【0140】
種々のこのようなAAV「プロデューサー」細胞が、本明細書において引用された参考文献および当該分野で記載されるように、産生され得る。
【0141】
AAVプロデューサー細胞は、哺乳動物細胞の増殖に一般的に適切であり、AAV複製にもまた一般的に許容性である条件(培地、温度などを含む)下で増殖され得る。例えば、DMEM/F12懸濁培地は、その細胞の増殖について好ましく、そしてDMEM培地単独は、AAVベクター産生について好ましい。当該分野で公知であるように、いくつかの細胞型および細胞株は、接着依存性である傾向にあるが、他の細胞は、懸濁物中で増殖し得;そして多くの接着依存性細胞もまた、懸濁増殖し得る改変体について富化しそして最終的に選択する手段として懸濁条件下で細胞のサイクルを行うことにより、懸濁物中での増殖に「適合」され得る。したがって、AAV産生のための細胞増殖は、その選択されたプロデューサー細胞株が、比較的接着依存性であるか、または懸濁適合されているか否かに一部依存して、任意の種類の容器において、実施され得る。接着依存性細胞の増殖のためのこのような容器は、例えば、組織培養フラスコ、ローラーボトル、マイクロキャリアおよびバイオリアクター(例えば、中空繊維、充填ベッドまたは流動化ベッドのバイオリアクター)を含む。懸濁適合した哺乳動物細胞株のための容器は、例えば、スピナーフラスコ、タンクリアクター、およびエアリフト醗酵槽を含む。
【0142】
AAV複製は、一定時間、およびウイルス産生が最適になる、増殖周期における点まで進行し(好ましくは、中期から後期の対数増殖期(代表的には1〜3日間))、その時点の後、その細胞を採取し得、そして溶解させて子孫のウイルスを放出させ得る。例えば、細胞は、約1〜10x106細胞/mlに、増殖培地中に再懸濁され得、そして48時間産生させ得る。次いで、細胞を採取し(例えば、遠心分離により)、そして緩衝液(例えば、TMEG、(または、「クロマトグラフィー緩衝液A」):50mM Tris(pH8.0)、5mM MgCl2、1mM EDTA、5%グリセロール)中に、約1〜10x106細胞/mlで再懸濁され得る。
【0143】
AAVは、必要なAAV Repタンパク質およびヘルパーウイルス機能が比較的同時に提供される場合、形質導入した細胞において高コピー数(例えば、105〜106ゲノム/細胞)にまで複製され得る。Capタンパク質もまた提供される場合、AAV粒子は、感染した細胞の核にアセンブルし、そこで、それらは、結晶配列でアセンブルする傾向がある。したがって、生産物回収における第一の工程は、細胞破壊である。凍結融解および/または超音波処理が使用されて、細胞を破壊(アデノウイルスに関して)し得るが、このような技術は、大規模調製にはそれほど適していない。従って、機械的溶解(微量流動化のような技術を使用する)がこれらの点で好ましい。変性剤および他の化学薬剤もまた、溶解を媒介または容易にするために使用され得る。ヌクレアーゼ(例えば、Benzonase)を用いた溶解物の処理が粘度を減少させ、そして濾過可能性を改善するために役立つことが見出された。明澄化(例えば、細胞砕片の少なくともいくらかの部分からベクターを分離するための微量濾過による)もまた、回収および精製を促進するために役立つ。
【0144】
例示のために、細胞は、(代表的に、約8000psiで、2つの通過を用いて)微量流動化機を連続的に通過させることによってインキュベーション時間後に機械的に溶解され得る。他の一般的に使用される技術は、当該分野で公知のように、凍結融解サイクルおよび超音波処理を含む。この溶解物はまた、ヌクレアーゼで処理されて、ウイルス粒子にパッケージングされることによっては有効に「保護」されていない核酸(例えば、細胞核酸またはウイルス核酸)を分解し得る。本発明者らは、代表的に、37℃で約1時間のBenzonase消化を使用する。この溶解物はまた、明澄化され得る。明澄化のための方法は、フィルター(例えば、1μフィルター)を通過させること、および遠心分離を含む。
【0145】
接線流濾過(TFF)は、大容量の細胞を処理しそして採取するために都合よく使用され得る。TFFは、動物細胞を灌流し、濃縮し、そして採取するために使用され得る。例えば、TFFを使用して、1秒あたり3000までの平均壁剪断速度での層流条件下で細胞を処理し得る(たとえば、Maiorella、B.ら、Biotechnology and Bioengineering,37:121−126、1991)。TFF限外濾過を用いるウイルスの大規模濃縮は、R.Paulら、Human Gene Therapy、4:609−615、1993により記載されている。
【0146】
このような技術を用いた例示的な産生の実施は、以下に記載される。
【0147】
((ii)AAV下流処理)
上記に記載されるように、ヘルパーウイルス粒子(例えば、Ad粒子)を実質的に含まないAAVの調製物を得ることは特に有利である。さらに、AAVベクター調製物はまた、好ましくは、ヘルパーウイルスおよび細胞タンパク質(これはまた、免疫原性であり得る)を実質的に含まない。しかし、AAV産生のための技術の適性に影響を与えるさらなるセットの限定が存在する。すなわち、遺伝子治療のためのAAVの産生に特に有用であるために、その技術は、「大規模化可能」である(すなわち、大規模製造用デバイスおよび手順に関して適用可能である)ことが最も所望される。この後者のセットの限定は、塩化セシウム分離(これは、大規模調製手順にはあまり適していない)のような利用可能な標準的な技術の有用性を有効に減少または除去する。
【0148】
本発明者らは、ヘルパーウイルス粒子、ならびにヘルパーウイルスおよび細胞タンパク質およびそのような他の混入物を実質的に含まないAAV調製物の生成について、大規模化可能であるとともにかつ顕著に有効である手順の組合せを見出した。本発明者らの好ましい手順の組合せは、例えば、AAVまたはAdの可能な精製について当該分野において言及されている種々の手順とは対照的である、イオン交換クロマトグラフィー手順を使用する。特に、当該分野で記載されているこのような手順は、代表的に、単一の型のイオン性分離、時に他の種類のクロマトグラフィー手順との組合せを使用する(例えば、K.Tamayoseら、Human Gene Therapy 7:507−513(1996)、およびWO96/27677、1996年9月12日)。しかし、AAV産生の場合、本発明者らは、連続的な反対のイオン交換クロマトグラフィーの組合せが、ヘルパーウイルス粒子およびタンパク質、ならびに細胞タンパク質を実質的に含まないAAV調製物の生成に特に有効であることを見出した。
【0149】
これらの発見に鑑みて、AAVは、アニオン交換およびカチオン交換クロマトグラフィーの両方に「適合」されているのみならず、このような両方の反対のイオン性交換の組合せが、その生成およびAAVベクター調製物において代表的に生じる種々の粒子およびタンパク質混入物の全て除去するのに特に有効でもあるようである。任意の種々のカチオン交換樹脂およびアニオン交換樹脂がこれらの手順に関して使用され得、その基礎的な特性は、それぞれ、負荷電基および正荷電基の利用可能性であり、それらの基に対して、AAVは、少なくともある程度(最も好ましくは、上記に記載のような1つ以上の混入物、すなわち、Ad粒子およびタンパク質、ならびに哺乳動物細胞タンパク質の相対的結合親和性とは実質的に異なる程度に)結合し得る。理論に拘束されることは望まないが、アニオン交換工程は、アデノウイルスからAAVを分離するのに特に有効であると考えられる;一方、両方の工程(しかし、特にカチオン交換工程)が、細胞タンパク質からAAVを分離するのに特に有効であると考えられる。本発明者らはまた、以下に記載および例示されるように、アニオン交換次いで接線流濾過を使用した。以下にさらに記載されるように、本発明者らは、AAV調製物がヘパリン硫酸上のクロマトグラフィーによって高度に濃縮され得ることを見出した。
【0150】
例示のために、上記のように明澄化したAAV溶解物は、正荷電したアニオン交換カラム(例えば、N荷電アミノ樹脂またはイミノ樹脂(例えば、POROS 50_PI、または任意のDEAE、TMAE、三級アミンもしくは四級アミン、またはPEIベースの樹脂))または負荷電したカチオン交換カラム(例えば、HS、SP、CMまたは任意のスルホ、ホスホ、もしくはカルボキシベースのカチオン樹脂)にロードされ得る。そのカラムは、緩衝液(例えば、クロマトグラフィー緩衝液A/TMEG)で洗浄され得る。そのカラムは、NaCl濃度の増加勾配で溶出され得、そして画分が集められ得、そしてAAVおよび/または混入物の存在についてアッセイされ得る。
【0151】
他の手順が、当該分野で公知なように、荷電以外の特徴によって媒介される分子間会合に基づいて、上記のアニオンおよびカチオン交換手順に代わり、好ましくはそれに加えて、使用され得る。このような他の手順は、リガンド−レセプター対(例えば、抗体−抗原、またはレクチン−炭水化物相互作用)に基づく分子間会合、ならびにその分子の他の属性に基づく分離(例えば、サイズおよび/または形状に基づく分子篩クロマトグラフィー)を含む。ほんの一つの例をみると、濾過物および部分精製したAAV調製物が、AAV特異的抗体を含むカラムにロードされ得る。このカラムは、AAVを結合し得る。このカラムは、緩衝液でリンスして、混入するタンパク質を除去し得、次いで漸増濃度のNaClの勾配または段階を用いて溶出し、そして画分が集められ得る。あるいは、このようなカラムは、ロード緩衝液のpHとは異なるpHの緩衝液で溶出され得る。
【0152】
AAVおよびアデノウイルスのピークは、感染性アッセイあるいは核酸ハイブリダイゼーションまたは免疫アッセイによって画分において同定され得る。このピークをプールし得、そしてそのプールを緩衝液(例えば、TMEGまたは等価物)を用いて希釈または透析またはダイアフィルトレートして塩濃度を減少させ得る。
【0153】
このプールは、正荷電したアニオン交換カラムおよび/または負荷電したカチオン交換カラム(例えば、上記に言及されるもの)に注入され得る。このカラムは緩衝液(例えば、クロマトグラフィー緩衝液A/TMEG)で洗浄され得る。このカラムは、漸増濃度のNaClの勾配で溶出され得、そして画分が集められ得る。AAVおよびアデノウイルスのピークは、感染性アッセイによってあるいは核酸ハイブリダイゼーションまたは免疫アッセイによって画分中で同定され得る。そのピークは、これらのアッセイのいずれかの結果に基づいてプールされ得る。
【0154】
上記のアニオン交換カラムから溶出されたAAV含有画分のプールは、接線流濾過(TFF)(例えば、Filtron UltrasetteまたはMillipore Pelliconユニット)によって濃縮され得そして精製され得る。適切な分子量カットオフ(例えば、100.00または300,000カットオフ)のメンブレンは、代表的に再生セルロースまたはポリエーテルスルホンのようなポリマーから構成される。この調製物は、そのメンブレンを通して濾過され、そしてその産物が保持される。保持された物質は、リンゲル平衡塩溶液および5%グリセロールのような適切な緩衝液の連続的な洗浄を使用して、そのメンブレンを用いてダイアフィルトレートされ得る。最終のサンプルは、その産物について非常に富化されており、そして0.2μフィルターを通して滅菌濾過され得、そして使用のために保存され得る。
【0155】
接線流濾過を用いたアニオン交換カラム後の物質からのAAVの精製および濃縮において、300,000分子量カットオフメンブレンは、100,000分子量カットオフメンブレンよりも、高収量の複製単位をもたらした。
【0156】
アデノウイルスの除去のために用いられ得る、さらなる工程は、所望である場合、熱不活化工程(本明細書において記載されるような)を用いた溶離液プールを処置する工程、次いで濾過(例えば、その調製物をTTFに供する前に)を包含する。しかし、本発明者らは、上記の「アニオン交換からTFF」手順が検出可能なアデノウイルスを含まないAAV調製物を生じ、そしてより良い収率の精製されたAAVをもたらしたこと見い出した。
【0157】
例示的な産生は、以下に記載されるような技術を使用して行う。
【0158】
(産生を増強するためのAAVプロデューサー細胞の増殖条件の変更)
種々の培地および培養容器における本発明者らのAAVを用いる産生試験の経過の間に、本発明者らは、代表的に、種々の増殖および/または代謝パラメーター(例えば、細胞密度、グルコースおよびアミノ酸の利用可能性、およびアンモニアおよび乳酸のような代謝副産物の産生)に関して培養物をモニターした。このような成分は、標準的な技術(例えば、当該分野で記載されるような、HPLCおよび酵素アッセイ)を用いて容易にモニターされ得る。
【0159】
以下の実施例に記載されるように、本発明者らは、特定のアミノ酸、特にアスパラギン酸およびグルタミン酸が、バッチおよび灌流培養の両方において迅速に涸渇することを見出した。実際、種々のバッチおよび灌流実験において、本発明者らは、利用可能なaspおよびgluの90〜99%が24〜48時間後に実質的にこのような培養物から除去されることを見出した。aspおよびgluのレベルがこのような培地では最適未満であるようなので、従って本発明者らは、さらなる量の一方または両方のアミノ酸を提供した。これらのような培養維持および最適化技術は、大規模生物学的産生の状況において慣用的に適用されている(例えば、Glacken、M.W.ら、Biotechnology and Bioengineering、28:1376〜1389、1986;Glacken、M.W.、Bio/Technology 6:1041−1050、1988;Bibila、T.A.ら、Biotechnol.Prog.10:87−96、1994;ならびにBorys、M.C.ら、Biotechnology and Bioengineering、43:505−514、1994を参照のこと)。
【0160】
本発明者らが驚いたことに、これらの涸渇したアミノ酸の置換が、AAV産生の急激な低下をもたらした、例えば、以下に記載される実験において、標準的な培地(DMEM)に、さらなるaspおよびgluを補充すると、一桁を超える程度に産生効率が(1細胞あたり約1800DNase耐性粒子(DRP)から1細胞当たり約140DRPへと)低下したが、生存度は若干増強された。
【0161】
哺乳動物プロデューサー細胞の増殖のための、別の一般的な培地成分は、血清成分(例えば、ウシ胎仔血清(FBS))であり、これは、代表的には、約10%のレベルで培地に含まれる。以下に記載されるように、AAV産生のための血清レベルが増加される場合(20%に)、AAVベクター産生は、2倍を超えて低下した。対照的に、その細胞が漸減的に低下する血清レベルに供された場合、AAVベクター産生は劇的に増加した。例えば、血清レベルが通常の出発レベルの1/10に(すなわち、1%に)減少した場合、ベクター産生は、4倍を超えて増加した。
【0162】
理論に拘束されることは望まないが、今や、プロデューサー細胞を、代謝的または以下に記載される他の手段のいずれかによってストレスを与えることで、AAVベクターの産生が劇的に増加し得るようである。
【0163】
ストレスは、細胞増殖および/または代謝に対する、ストレス条件またはストレス因子の負の効果に基づいて、有効に特徴付けられそして試験され得る。実際、ストレスは、細胞増殖および/または代謝を阻害する任意の条件または因子の導入によってか、あるいは細胞増殖および/または代謝に関して最適ではなくさせるように、予め存在する条件または因子のレベルを変更することによって達成され得る。多くの種々のこのような条件が公知および/または明白であり、これには、栄養ストレス(1以上の栄養が増殖および/または代謝にとって最適レベル未満で存在する)、温度ストレス(最適未満の温度、これは、細胞をより低いかまたは高い温度で増殖させること、またはその細胞を冷ショックまたは熱ショックのような一過性の温度ショックに供することを含み得る)、浸透圧ストレス(最適未満の浸透圧レベル、これは、低浸透圧または高浸透圧であり得る)、pHストレス(最適未満のpH,これは、酸性またはアルカリ性であり得る)、通気ストレス(例えば、酸素または気体交換の最適未満のレベル)、機械的ストレス(例えば、培養物混合において生じるような剪断ストレス)、照射ストレス、および毒性ストレス(増殖および/または代謝を阻害する、1以上の化学物質または他の因子の存在)が含まれる。このような因子および条件の(すべてではないにせよ)ほとんどについて、その細胞をそのストレスに連続的または一過的に供することが可能である。例示のために、温度ストレスの場合、その細胞は、最適温度より高いかまたは低い温度で増殖され得るか(代表的に、その最適温度は、その細胞が由来する動物のほぼ通常の体温である)、またはその細胞は、一過的な温度ショック(例えば、冷ショックまたは熱ショック)に供され得る。このようなストレス条件の現在好ましい例は:栄養ストレス(例えば、アミノ酸または血清限定)、通気レベルおよび攪拌の変更、浸透圧レベルの変更(例えば、非代謝性炭水化物(例えばソルビトール)を用いる)、および化学的因子(例えば、飽和脂肪性カルボン酸(例えば、プロピオン酸、酪酸、イソ酪酸、吉草酸およびカプロイン酸ならびにそれらの有機もしくは無機塩基との塩)、N,N’ジアシル化ジアミン(例えば、ペンタメチレンビスアセトアミド、ヘキサメチレンビスアセアセトアミド、およびヘプタメチレンビスアセトアミド)、有機イオウ化合物(例えば、ジメチルスルホキシド)、ならびにグルココルチコイド(例えば、ヒドロコルチゾン、デキサメタゾン、プレドニゾロン、アルドステロン、トリアムシノロンおよびコルテキソロン)の含有を包含する。他のこのような因子にはまた、遺伝子毒性薬剤(例えば、化学的発ガン物質、UV、熱ショック、DNA合成の代謝インヒビター(例えば、ヒドロキシ尿素、メトトレキサート、アフィジコリン、トポイソメラーゼに影響する薬物(例えば、アムサクリン、カンプトセシン(campthecin)、エトポシドおよびノボビオシン)が含まれる。
【0164】
上記のように、プロデューサー細胞はまた、pHを変更することによって致死量未満のストレスに供され得る。以下に例示するように、本発明者らは、培地pHを増加することによって誘導されるpHストレスが、AAVを増加させるだけでなく、それはまた、培養培地中に放出されたAAVの相対比の劇的なシフトを生じたことを見出した。従って、以下にさらに記載するように、この技術は、AAV精製を容易にするためおよび産生を強化するために使用され得る。
【0165】
種々のストレス条件を使用することによってAAVの産生を最適化するための例示的な手順は、以下に提供される。その結果は、異なる種々のストレス条件の適用がAAV産生レベルを有効に増強するために使用され得ることを示す。
【0166】
(遺伝子治療のためのrAAVの使用)
本発明において具現化されるのは、治療的に関連する遺伝子配列を用いたポリヌクレオチドを含むベクター組成物である。本発明のAAVウイルスベクターは、遺伝子治療の目的のために、個体に投与するために使用され得る。遺伝子治療に適した疾患は、ウイルス感染、細菌感染または寄生生物感染によって誘導される疾患、種々の悪性状態および過剰増殖性状態、自己免疫状態および感染性欠損を含むがこれらに限定されない。
【0167】
遺伝子治療は、その細胞内のまたはそれによって分泌されるかのいずれかの特定のタンパク質の発現レベルを増強するように実施され得る。本発明のベクターを使用して、遺伝子標識、欠失または欠損した遺伝子の置換、または治療遺伝子の挿入のいずれかのために細胞を遺伝子的に変更し得る。あるいは、発現レベルを減少させるポリヌクレオチドが細胞に提供され得る。これは、悪性の経過の間に増幅または過剰発現された遺伝子、あるいは微生物感染経過の間に増幅または過剰発現された遺伝子の産物のような所望されない表現型の抑制のために使用され得る。発現レベルは、例えば、標的遺伝子またはRNA転写物(アンチセンス治療)のいずれかとの安定なハイブリッドを形成し得る配列、関連するmRNAを切断するリボザイムとして作用し得る配列、あるいは標的遺伝子の産物についてのデコイとして作用し得る配列を含む治療ポリヌクレオチドを供給することによって減少され得る。
【0168】
特に興味深いのは、気道上皮に対して適切に機能する嚢胞性線維症膜貫通コンダクタンス調節因子(CFTR)を提供することによって、嚢胞性線維症の遺伝子欠損を矯正することである。Afioneら、(J.Virol.70:3235、1996)およびConradら(Gene Therapy:印刷中、1996)は、単回用量のAAVベクターを用いた霊長類肺への安定なインビボCFTR遺伝子移入を示した。嚢胞性線維症患者に由来する細胞においてCFTR機能不全を再構築し得る種々のCFTRポリペプチドが存在する。Richら、Science、253:205(1991)は、CFTR由来の欠失アミノ酸残基708〜835を記載した。これは、塩化物イオンを輸送し得、そして天然に存在するCFTR欠損を矯正し得た。Eganら、Nature 358:581(1992)は、別のCFTR誘導体(無関連のタンパク質由来の約25アミノ酸、次いで残基119に始まるネイティブCFTRの配列を含む)を記載した。これはまた、正常なCFTRの電気生理学的特徴を回復させ得た。Arispeら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 89:1539(1992)は、残基433〜586を含むCFTRフラグメントが、脂質二重層中で正しい塩化イオンチャネルを再構成するに充分であったことを示した。Sheppardら、Cell 76:1091(1994)は、残基836でそのほぼ半分の長さに短縮したCFTRポリペプチドはなお、調節された塩化イオンチャネルを形成し得ることを示した。従って、ネイティブCFTRタンパク質のコードタンパク質を伴うAAVベクターならびにその変異体およびフラグメントは、すべて、本発明の好ましい実施態様である。
【0169】
特に興味深いのはまた、特定の腫瘍型に局所的に欠損する、p53腫瘍サプレッサー遺伝子を、腫瘍部位に適切に機能するp53遺伝子を供給することによる矯正である(Huygheら、Human Gene Therapy 6:1403,1995)。
【0170】
本発明の組成物は、インビボおよびエキソビボで使用され得る。インビボ遺伝子治療は、本発明のベクターを被験体に直接投与する工程を包含する。薬学的組成物は、液体溶液または懸濁物として、乳濁液として、または使用前の液体中への溶解または懸濁に適した固体形態として、供給され得る。呼吸管への投与について、好ましい投与形態は、適切なエアロゾル化デバイスとともに用いられる場合は固体または液体エアロゾルのいずれかを提供する組成物を用いて、エアロゾルによる。呼吸管への別の好ましい投与形態は、ベクターを滴下するために可撓性の光ファイバー気管支鏡を用いることである。代表的に、ウイルスベクターは、リンゲル平衡化塩溶液(pH7,4)のような発熱物質を含まない、薬学的に適切な緩衝液中に存在する。必要ではないが、薬学的組成物は、必要に応じて、正確な量の投与に適切な単位投薬形態で供給され得る。
【0171】
ウイルスの有効量は、処置の目的に依存して投与される。有効量は、単回または分割された用量で与えられうる。少量の割合の形質導入が遺伝子欠損を治癒し得る場合、処置の目的は、一般的に、形質導入のこのレベルに合致するかまたは超過している。いくつかの場合、形質導入のこのレベルは、標的細胞のほんの約1〜5%であるが、しかし、より代表的には、所望の組織型の細胞の20%、通常は少なくとも約50%、好ましくは少なくとも約80%、より好ましくは少なくとも約95%、そしてさらにより好ましくは所望の組織型の細胞の少なくとも約99%の形質導入によって達成され得る。ガイドとして、気管支鏡によって与えられる単回用量中に存在するベクター粒子の数は、一般に、少なくとも約1x108であり、そしてより代表的には、5x108、1x1010、そしていくつかの場合、1x1011の粒子であり、これは、DNase耐性およびDNase感受性粒子の両方を含む。DNase耐性粒子に関して、その用量は、一般に1x106〜1014粒子の間であり、より一般的には、約108〜1012粒子の間である。この処置は、必要に応じて2または3週間おきほどの頻度で反復され得るが、180日に1回の処置で充分であり得る。
【0172】
遺伝子変化の有効性は、いくつかの規準によってモニターされ得る。生検または手術切除によって除去されたサンプルは、インサイチュハイブリダイゼーション、ベクター特異的なプローブを用いるPCR増幅、RNase保護、免疫組織学、または免疫傾向細胞計数によって分析され得る。そのベクターが気管支鏡によって投与される場合、肺機能試験が実施され得、そして気管支洗浄液が炎症性サイトカインの存在について評価され得る。処置された被験体はまた、臨床的特徴について、および治療的ポリヌクレオチドによって運ばれることが意図される機能をその細胞が発現するかどうかを決定するためにモニターされ得る。
【0173】
インビボまたはエキソビボ治療で使用するか否かの決定および特定の組成物、用量、および投与経路の選択は、処置される状態の特徴および被験体を含むがそれらに限定されない多数の種々の因子に依存する。このような特徴の評価および適適な治療レジメンの設計は、最終的には、処置する内科医の責任である。
【0174】
上記の記載は、とりわけ、ヘルパーウイルス(例えば、アデノウイルス)および細胞タンパク質を実質的に含まない組換えAAVベクターの高力価の調製物を生成するための方法を提供する。本発明の精神から逸脱することなく、これらの方法に改変が当業者によって適用されることが理解される。
【0175】
以下に提示される実施例は、当業者にとってさらなるガイドとして提供され、そしていかなる形でも限定することは意図されない。
【実施例】
【0176】
(実施例)
(実施例1 野生型ヘルパーウイルス(AD5)および温度感受性ヘルパーウイルス(AD Ts149)を用いた組換えAAVベクターの例示的産生)
本実施例は、モデル治療遺伝子を含む組換えAAVベクター粒子の複製のためのヘルパー機能を提供する、野生型ヘルパーウイルス(Ad5)および温度感受性ヘルパーウイルス(Ad ts149)の使用を例示する。
【0177】
ptgAAVCFプラスミドは、左側のAAV2ITR;全長嚢胞性線維症膜貫通調節因子cDNA;マウスβグロビンポリアデニル化配列に基づく合成ポリアデニル化配列;capコード配列の下流のAAV2配列;およびpBR322プラスミド骨格中の右側のAAV2 ITRからなる(Afioneら、1996)。pGEM−RS5パッケージングプラスミドは、pHIVrepプラスミドに由来し(Antoniら、1991)、そしてHIV−1 LTR由来のU3およびR領域;p19およびp40プロモーターを含むAAV2由来のrepおよびcap領域;細菌複製および選択のためのpBR322およびpGEMプラスミド配列;ならびにHIVLTRの上流のヒトAlu反復細胞DNAの小領域からなる。
【0178】
アデノウイルス5型は、アメリカンタイプカルチャーコレクション(Rockville、Md)から入手したストックから増殖させた。Ad5ts149(Ensingerら、J.Virol.10:328,1972)は、Harold S.Ginsbergから入手した。
【0179】
Ad5およびAd5ts149(ts149)の作業用ストックを、それぞれ37℃および32℃で、それぞれ感染多重度(MOI)5および1で293−1細胞を感染させることによって生成した。4時間後、培養物に、新鮮な培地を与え、そして湿潤10%CO2インキュベーター中で37℃でインキュベートした。72時間後、細胞を取り出し、1000xgで15℃でペレット化し、そして0.1g/LのMgCl2および0.1g/LのCaCl2を含むPBS中に再懸濁した。次いで、細胞懸濁物を、3回凍結および融解し、18ゲージ針を通して3回剪断し、そして1000g、15℃で遠心分離することにより明澄化した。次いで、明澄化した溶解物を、2mg/mlの最終濃度のDNaseIで30分間37℃で処置した。処置した溶解物を、2.0mlの水中のCsCl(1.40mg/cm3)に対して重層化した4.0mlのCsCl(1.25g/cm3)を含む水中のCsClの不連続な段階勾配上に重層化し、そして35,000RPMで1〜2時間、Beckman SW41ローター中で遠心分離した。各チューブからのアデノウイルスバンドを除去し、プールし、そして水中に1.35g/cm3のCsClへと希釈し、そしてBeckman SW55ローター中で一晩35,000RPMで一晩遠心分離した。アデノウイルスバンドをプールし、10%グリセロールに調整し、そして1.0mM MgCl2および10%グリセロールを補充した10mM Tris pH7.5緩衝液に対して徹底的に透析した。
【0180】
293−1細胞(ATCC CRL1573)を、湿潤10%CO2インキュベーター中で、Tフラスコ中の10%ウシ胎仔血清(FBS,Hyclone)補充したDMEM 高グルコース培地(JRH)中で維持した。この実施例について、10%FBSおよび2.0mM L−グルタミンを補充したDMEMを有する組織培養フラスコ中の293−1細胞に4.4x104細胞/cm2で播種した。そして、これを、湿潤10%CO2インキュベーター中で37℃で24時間インキュベートした。
【0181】
次いで、この細胞(1フラスコ当たり約107細胞)に、Ad5またはts149のいずれかの作業用ストックを、1時間でMOI5で感染させ、次いでベクターの一過性トランスフェクションおよびプラスミドのパッケージングを行った。一過性のptgAAVCFベクタープラスミドおよびpGEM−RS5ヘルパープラスミドの同時トランスフェクションを、LIPOFECTAMINETM(Gibco)を用いて実施した。そのプロセスにおいて、37.5μgの各プラスミドを、150μl LIPOFECTAMINETMとともに混合して、そして4.75mlの無血清MEM中に希釈した。このアデノウイルス種菌を取り出し、そしてプラスミド−LIPOFECTAMINETM混合物を、その細胞に添加し、そして4時間5%CO2インキュベーター中で適切な温度でインキュベートした。プラスミド−LIPOIFECTAMINETM混合物を、その培養物から4時間後に取り出し、そして新鮮な培地に置換した。
【0182】
野生型ウイルスに感染した細胞を、37℃で培養し、そしてAdts149に感染した細胞を39.5℃でインキュベートした。72時間後、それらの細胞を採取し、ペレット化し、そして10mM Tris pH7.5中に再懸濁した。次いで、懸濁物を、氷水浴中でBransonカップホーン超音波処理機を使用して、4回の15秒間パルスを利用して超音波処理することによって溶解し、そしてrAAVCFおよびアデノウイルス産生についてアッセイした。
【0183】
(実施例2) ベクター調製物中のrAAVおよびアデノウイルス力価の定量
先の実施例からの細胞溶解物を、C37複製アッセイによりrAAVCFベクターの産生についてアッセイし、そしてスロット−ブロットハイブリダイゼーションによりアデノウイルス産生について分析した。
【0184】
rAAVベクター複製のためのAAVRepタンパク質の誘導可能な発現を可能にするように、HeLaC37を構築した。簡単に述べれば、マウスメタロチオネインIブロモーター、AAV2 repおよびcap遺伝子ならびにAAV転写停止部位からなるAAVRep/Cap発現カセットを構築した。このプラスミドにはまた、SV40初期プロモーターの制御下にあるネオマイシン耐性遺伝子、SV40小TイントロンおよびSV40ポリアデニル化シグナルも含まれる。HeLa細胞を、このプラスミドでトランスフェクトし、そしてクローンをG418中で選択した。クローンのパネルをrAAVベクター増幅アッセイによりスクリーニングした。1つのクローンC37が、形質導入およびアデノウイルス感染後に、一致し、かつ容量依存性のrAAVベクターの増幅を示した。
【0185】
複製するベクターの検出は、DNA単離、その後のCFTRプローブへのハイブリダイゼーションにより達成される。詳細には、HeLa C37細胞を、10%FBSおよび2.0mM L−グルタミンを補填したDMEMを用い、組織培養フラスコに4.4x104細胞/cm2で接種し、そして5%CO2の湿潤インキュベーター中37℃で24時間シンキュベートした。次いで細胞に、アデノウイルス(MOI=5)を接種し、そしてrAAVCFの希釈物を72時間サンプルリングした。細胞を掻き取ることにより収穫し、そしてサザンブロット分析のために調製した。総細胞DNAを調製し、EcoRIで消化し、1%アガロースゲル上で電気泳動し、ナイロン66メンブレンにトランスファーし、次いで32P標識ヒトCFTRcDNA制限フラグメントとハイブリダイズした。このプローブは、AAVCFベクターからの約1.5kbフラグメント(推定される1.488kb EcoRIフラグメントに対応する)を検出する。ベクター複製を、内因性ゲノムCFTRバンドと比較して定量化し、そして複製単位として表現した。1複製単位(RU)は、約1.8kbである内因性ゲノムCFTRバンドのシグナル強度に相当するシグナル強度として規定される。いくつかの実験では、連続的に希釈された既知のベクター標準物の直線回帰を用いて、サンプル中のベクター濃度を外挿および計算した。
【0186】
アデノウイルスDNAスロットブロットアッセイは以下のように行った。サンプルのアリコートを、1.0μg/mlサケ精子DNAとともに0.4M NaOH、10mM EDTA中65℃で変性した。サンプルおよびアデノウイルス標準物を希釈し、そしてスロットブロットマニホールドを用いてナイロンメンブレン上に濾過し、そして0.4M NaOHで洗浄した。このフィルターを、アデノウイルスE1A遺伝子配列に対応する32P標識プローブとハイブリダイズした。完全Ad5ゲノムは、Genbankで受託番号X02996で入手可能である。本発明者らは、1kbのSspI−XbaIフラグメント(ヌクレオチド339−1339に対応する)を用い、そしてホスホルイメージャー(Molecular Dynamics)上のブロットを分析した。1ゲノム等量は、1アデノウイルス粒子に対応すると考えられた。
【0187】
図1は、許容温度(37℃)および非許容温度(39.5℃)における、Ad5またはts149を用いて調製された溶解物中のrAAVCFベクターに対する複製アッセイの結果を示す。組換えベクターの産生は、39.5℃でts149により支持されたが、生産性は、Ad5より約2〜3倍少なかった。
【0188】
図2http://www6.ipdl.inpit.go.jp/Tokujitu/tjitemdrw.ipdl?N0000=231&N0500=1E_N/;%3e%3c:%3e;7;:///&N0001=46&N0552=9&N0553=000011は、アデノウイルスの量を測定するためのスロットブロットアッセイの結果を示す。アデノウイルスゲノムの産生は、温度感受性変異体の使用により、野生型に比較して3〜4対数減少した。
【0189】
(実施例3) rAAV産生を改善するためのヘルパー機能の最適化
この実施例は、温度感受性ヘルパーウイルスを用いる場合、得られるrAAVのレベルを改善するための種々の試みを例示する。ヘルパーウイルスの感染レベルを増加することは役にたたなかったが、動力学を調節することは驚くほど有効であった。
【0190】
ベクター産生に対する感染の多重度を増加する影響をまず評価した。293−1細胞を、5のMOIでAd5または種々のMOIでts149のいずれかを用いて感染し、次いでベクターで一時的同時トランスフェクトし、そしてプラスミドをパッケージングした。72時間後、細胞を溶解し、そしてC37ベクター複製アッセイによりrAAVCFベクターの産生についてアッセイし、そしてスロット−ブロットハイブリダイゼーションによりアデノウイルス産生について分析した。5のMOIでts149を用いて感染させた細胞については、さらに96時間の時点で収集した。
【0191】
図3は、種々のMOIでts149を用いて調製された細胞溶解物について実施されたrAAVCF複製アッセイの結果を示す。ts149のMOIを増加することは、(1.4kbハイブリダイゼーションバンドの強度により示されるように)Ad5で観察されたレベルまでベクター生産性を回復しなかった。しかし、より高いレベルのベクター産生が96時間の時点で観察された。スロットブロット分析により検出される溶解物中のts149の濃度は、増加するMOIとともに増加したが、Ad5と比較してなお3〜4対数低かった。
【0192】
先の実験で、96時間におけるts149を用いた増加したベクター生産性の観察に従って、経時的および産生動力学研究を実施した。293−1細胞を5のMOIのAd5またはts149のいずれかで感染し、その後ベクターで一時的同時トランスフェクションを行い、そしてプラスミドをパッケージングした。Ad5およびts149で感染した細胞を、それぞれ、37℃および39.5℃で6日間培養した。3、4、5および6日からの溶解物を、ベクター複製アッセイによりベクター産生についてアッセイし、そしてスロット−ブロットハイブリダイゼーションによりアデノウイルスについて分析した。
【0193】
図4はベクター産生の動力学を図示する。斜線の密度が大きい棒は、ヘルパーとして野生型Ad5を用いて産生された溶解物を示し、斜線の密度が小さい棒は、ヘルパーとしてts149を用いて産生された溶解物を示す。Ad5を用いた場合、最大のベクター産生は、4日でピークになる約2.0x106RU/mlであった。この時点で、ts149を用いて得られたベクター産生は約0.3x106RU/mlより少なかった。しかし、5日に、2つのヘルパーウイルスの相対的効力に劇的な変化があった。Ad5により支持されたベクター産生は、0.3x106RU/ml未満に低下した。対照的に、ts149により支持されるベクター産生は、2x106RU/mlより上に急上昇した。ts149を用いた場合観察されたアデノウイルスゲノムレベルは、Ad5を用いた場合より有意に低かった。
【0194】
(実施例4) ウイルス力価をアッセイすることをおよび高スループットアッセイ技術
先行する実施例において用いた温度感受性および野生型アデノウイルスストックを、組織培養フラスコ中の293−1細胞で産生した。この実施例では、293−1細胞により産生されるアデノウイルスのレベルを、TCID50終点アッセイまたは感染度アッセイにより定量した。
【0195】
TCID50アッセイは以下のように行った:1.0x103の293−1細胞を、96ウェルのマイクロタイタープレート中に置き、そしてアデノウイルスストックの系列希釈物で感染し、そして湿潤5%CO2インキュベーター中37℃でインキュベートした。各希釈物の100μlの8つの複製物を細胞上に接種した。感染3日後、細胞をメタノール固定し、PBSで洗浄し、そしてFITC結合抗ヘキソン抗体(Biodesign)で染色し、その後ヨウ化プロピジウム染色して細胞核を可視化した。PBSですすいだ後、プレートを、蛍光顕微鏡下で検査し、そしてヘキソン含有細胞の存在を計数した。終点における力価は、ホワソン(Poisson)分布を用いて計算した。50%のヘキソン陽性複製サンプルを生じるウイルス希釈物は、0.5IU/100μl接種物を有する。感染力価は、この希釈の逆数の結果であり、0.5IU/100μlおよび10(mlへの変換係数)は、mlあたりの最終感染力価を与える。
【0196】
感染性ウイルスを測定するための高スループットマイクロタイター感染度アッセイは以下のように行った。系列希釈された細胞を含まない上清液のアリコート(10μl)を、96ウェルのマイクロタイタープレート中で増殖させたHeLa細胞に接種した。3日後、感染細胞を、変性溶液(1/10容量の4.0M NaOH、10μg/mlサケ精子DNAおよび100mM EDTAの添加)で処理および溶解させた。溶解物を、Silent Monitor BiodyneBプレート(Pall)に移し、そしてナイロンメンブレン上に真空濾過した。メンブレンを洗浄し、変性し、32P標識アデノウイルスE1A cDNA制限フラグメントとハイブリダイズし、そしてホルホルイメージャー(Molecular Dynamics)上で分析した。TCID50アッセイにより力価測定したアデノウイルス標準物を用い、サンプル中の感染性アデノウイルス力価を計算するために、系列希釈アデノウイルス標準物の直線回帰分析を用いた。
【0197】
比ウイルス生産性を、溶解物中の感染性ウイルス力価を、感染時の細胞数に標準化することにより計算した。結果を表1に示す:
【0198】
【表1】
【0199】
これらの結果は、293−1細胞におけるAdts149の比産生が、Ad5よりも1〜2対数低かったことを示す。
【0200】
力価が既知のAd5ウイルス調製物は、マイクロタイター感染度アッセイにおける直線回帰を基に、12.5〜500IU/ウェルに広がる直線範囲を示した。
【0201】
上記のように、ウイルス感染度アッセイを、マイクロタイターアレイフォーマットと組み合わせることにより、迅速および定量的の両方であり、そして自動化に高度に適した技術が得られた。
【0202】
上記のような高スループット感染度アッセイはまた、他のウイルス(例えば、rAAVおよびwtAAV)をアッセイすることに適用し得る。このアッセイは、適切な哺乳動物細胞(例えば、rAAVについてHeLaC37細胞またはwtAAVについて293細胞)を用いて本質的に上記のように、そしてアッセイされるウイルスの複製を許容する条件下(例えば、rAAVおよびwtAAVについてはヘルパーウイルスの存在下)で実施され得る;次いで溶解物が調製され得、そして上記溶解物中の核酸は、上記のようにメンブレンに移され得る。結合した核酸プールのアレイを含むメンブレンのハイブリダイゼーション(各プールは、対応する培養フェルの細胞から放出される)は、代表的には、適切なウイルス特異的プローブを用いて実施される(例えば、AAV repおよび/またはcapに特異的なプローブを用いてwtAAVを検出し得、または組換えAAVベクターの場合、挿入されたトランスジーンに特異的なプローブを用い得る)。
【0203】
上記の高スループット感染度アッセイは、比較的広範な範囲の濃度に亘ってrAAV力価の測定において直線的応答を示した。例えば、(改変感染中心アッセイにより測定されたような)既知の力価のウイルス調製物を、2400感染単位または「IU/ウェル」から出発して、系列的に1:2希釈し、そして連続的に1:5希釈された各力価が未知の2つの精製tgAAVCF調製物の力価測定の標準として用いた場合、マイクロタイターアッセイは、直線回帰を基に、75〜600IU/ウェルに広がる直線範囲を示した。wtAAVの力価の測定は、好ましくは、制限希釈フォーマットを利用した(例えば、力価が既知の8つの系列制限希釈のwtAAV調製物をアッセイした場合、マイクロタイターアッセイにより測定された力価は、標準のTCID50アッセイにより測定された力価、3×109IU/mlと本質的に同じであった)。
【0204】
制限希釈を用いるか、または既知の標準に対する比較のいずれかにより、感染性ウイルス力価が測定され得、それは、より古典的な技術(例えば、感染中心アッセイまたはTCID5050%終点分析)により測定される力価に対応する。ウイルス力価の測定におけるその使用の他に、この高スループット感染度アッセイは、多くの他の使用を有し、ウイルス複製および感染度を許容または許容しない細胞株のスクリーニング(例えば、マイクロタイターアレイの異なるウェルにおける種々の哺乳動物細胞またはその改変体を含めることによる);およびウイルス複製に影響する薬剤のスクリーニング(例えば、上記のようにマイクロタイターアレイの異なるウェルに種々の薬剤を含め、そして薬剤の、得られるウイルスの感染性力価に対する影響を測定することによる)などを含むがこれらに限定されない。とりわけ、ウイルス感染度および/または複製を増強する薬剤または条件について迅速にスクリーニングする能力は、特に、ウイルスベクターの産生を進展または最適化する意味で有用である。逆に、ウイルス感染度/複製を抑制する薬剤または条件を迅速にスクリーニングする能力は、抗ウイルス治療剤を同定する意味で極めて有用である。
【0205】
(実施例5)
ヘルパーウイルスを産生するための懸濁培養の開発
先の実施例は、従来の培養技術により産生された温度感受性アデノウイルスのレベルが低いことを示す。これは、AAVベクターの産生にヘルパーとして温度感受性アデノウイルスを用いる能力を制限する。本実施例は、感度感受性アデノウイルスをより多くの量で産生することを可能にする改良された方法を提供する。この改良の中心は、懸濁培養で増殖する宿主細胞の使用にある。
【0206】
293 N3SおよびHeLa S3は、それぞれ、293−1ヒト胎児腎臓およびHeLaヒト頸部癌腫細胞株の懸濁改変体である。懸濁培養を、500mlのスピナーフラスコ(Bellco)中、実容量250〜300mmで実施した。HeLa S3(ATCC 2.2−CCL)を、7.5%FBSおよび2.0mM L−グルタミンを補填した15mM HEPESを含むDMEM/F−12中で維持した。293−1 N3S(Microbix Biosystems Inc.)は、7.5%FBSおよび2.0mM L−グルタミンを補填したJoklik MEM中で継代した。スピナーフラスコは50〜65RPMで撹拌した。
【0207】
増殖挙動は以下の実験で評価した。293 N3SおよびHeLa S3を、二連の500mlスピナーフラスコで懸濁して連続的に継代し、そして細胞増殖および生存率をモニターした。フラスコに、2〜5x105細胞/mlの細胞密度で接種し、次いで2〜3日間培養した。接種密度の差異を制御するため、集団倍化レベル(PDL)を二連の培養について比較した。平均PDLは、HeLa S3および293 N3Sについて、それぞれ2.0±0.49(平均±SD.)および1.1±0.62(n=14)であった。より高い細胞倍化が、HeLa S3細胞で一致して観察された。懸濁中の細胞形態は、2つの株で劇的に異なった。HeLa細胞は単一細胞または小凝集物として増殖した。対照的に、293 N3S細胞は、それぞれが50〜100細胞の大きな凝集物を形成した。大きなクランプの中心には顕著な数の非生存細胞が観察された。ストックを、遠心分離後ピペットで穏やかに破壊し、凝集物から非生存細胞を放出することにより前培養した。293 N3Sの初期培養生存率は、HeLa S3に比べ一致してより低かった。
【0208】
懸濁中の細胞増殖、生存率および形態をもとに、HeLa S3細胞株を、さらなるプロセス開発のために選択した。許容温度における増殖および生存率を評価した。HeLa S3細胞を500mlスピナーフラスコ中に5x105細胞/mlで接種し、そして7日間毎日モニターした。
【0209】
図5は、32℃(四角)および37℃(丸)で増殖したHeLa S3細胞の生存細胞密度(VCD)を示す。32℃の時点の回りの棒は、二連の500mlスピナーフラスコで観察された値の範囲を示す。37℃で増殖した細胞は、5日に2.5x106細胞/mlでピークとなり、その一方32℃で増殖した細胞は、6日に2x106細胞/mlでピークとなった。(トリパンブルー排除により測定した)生存率は、初めから終わりまで少なくとも約90%であった。
【0210】
接線流または交差流濾過は、細胞の濃縮または除去、高分子の濃縮、および培地/緩衝液交換を含む広範な種類の大スケール生体薬学的適用に多能な技術である。接線流プロセッシングは、感染のための細胞の濃縮のため、および大スケールで感染細胞を回収するために必要である。
【0211】
接線流濾過において細胞生存率に対する薄層せん断の影響は、HeLa S3細胞を濃縮およびダイアフィルトレーションすることにより評価した。HeLa S3細胞を、3リットルのApplikonバイオリアクター中4x105細胞/mlの密度で接種し、そして7.5%FBS、2.0mMグルタミン、1xMEMアミノ酸、1xMEM非必須アミノ酸、0.1% PluronicポリオールF−68および2g/Lグルコースを補填した、15mM HEPES(JRH)を含むDMEM/F−12中で2x106細胞/mlまで培養した。バイオリアクターの実容量は2リットルであった。溶存酸素、pH、温度および撹拌を、FERMCONTM(Scius Corporation)コントローラーシステムを用いて、それぞれ、60%(空気飽和に対して)、7.2、37℃および100rpmで制御した。
【0212】
接線流濾過実験は、混合セルロースエステル中空繊維膜(Microgon)を用いて実施した。ポアサイズおよび表面積は、それぞれ0.2μおよび725cm2であった。0.2μのフィルターを選択して細胞を保持し、その一方消費した培地の通過を可能にした。細胞は、中空繊維の内径を通じてポンプ(Cole Palmer)輸送した。再循環速度を調節して750および1500/秒の平均壁せん断速度を提供した。交差流が一旦確立されたなら、それぞれ30および90ml/分の透過液フロー制御が、透過液ライン上に配置されたポンプ(Cole Palmer)により達成された。細胞濃縮の間、透過液の引き抜きを、所望の倍数の濃縮が達成されるまで継続した。ダイアフィルトレーションの間、バイオリアクターに入る培地供給を、所望の倍数の培地交換が達成されるまで活性化した。生存細胞を各処理の前後で計数した。
【0213】
図6は、例示の実験における接線流プロセッシング前後のHeLaS3細胞の成長曲線を示す。2リットルの細胞を3リットルバイオリアクターで培養した。3日(矢印)に、細胞を、2リットルの実容量から7倍濃縮し、6倍容量の増殖培地に対してダイアフィルトレートし、そしてもとの実容量にした。結果は、細胞が、750/秒(四角)および1500/秒(丸)の壁せん断により損傷されず、そして高細胞密度まで増殖を継続したことを示す。
【0214】
次いで、HeLa S3細胞の懸濁培養を、ts149産生のための宿主細胞として試験し、または300ml懸濁培養におけるそれらの能力を調査した。300ml懸濁培養(1x106細胞/ml)からのHeLa S3細胞を遠心分離し、濃縮し、そしてts149で感染した(MOI=3)。1時間後、培養物をスピナーフラスコに移し、培地中に再懸濁し、そして32℃で7日間培養した。HeLa S3細胞を、感染時の約1x106細胞/mlから5日までに約2x106細胞/mlまで増殖を継続した。7日に生存率は約60%まで減少した。
【0215】
図7は、HeLa S3細胞培養によるts149の産生を示す。培養物を毎日サンプリングし、そして溶解物を、アデノウイルス感染度アッセイによるウイルス産生の分析のために凍結−融解により調製した。ウイルス産生は、約3〜5日までに、約4.5x107IU/ml培地に到達した。7日に、細胞を遠心分離により集め、TMEG緩衝液中に再懸濁し、そして微小流動(MF)により溶解した。微小流動した溶解物の感染性力価は、凍結融解溶解物サンプルの感染性力価に匹敵し、微小流動による回収は、凍結−融解法に匹敵したことを示す。
【0216】
(実施例6)
温度感受性ヘルパーウイルス(AD ts149)の産生のための改良された精製方法
CsCl勾配を用いる生成は大スケール産生にはわずらわしい。この実施例は、イオン交換クロマトグラフィーによるts149の精製を説明する。
【0217】
クロマトグラフィーは、Perseptive Biosystem BIOCADTMクロマトグラフィーワークステーション上で実施した。用いた樹脂は、ポリエチレンイミン(PI)弱アニオン交換体(POROSTM50PI)であった。カラムは、TMEG(50mM Tris、pH8.0、5mM MgCl2、1mM EDTA、5%グリセロール)で平衡化した。クロマトグラフィーは、オンラインでpH、伝導度および280nmにおける光学密度をモニターした。
【0218】
MOIが2のts149で感染した懸濁HeLa S3を回収し、そして遠心分離した。ペレットをTMEG中に再懸濁し、そして微小流動機(Microfluidics)を用いて3000PSIにおけるキャビテーションにより溶解した。溶解物を、5μシリンジフィルター(Millex SV)次いで0.45μシリンジフィルター(Acrodisc)により清澄化した。清澄化した溶解物を、1.6mlPOROSTM50PIアニオン交換カラムに1ml/分のランでロードした。カラムを、10カラム容量の、900mM NaClを含むTMEGで洗浄し、そしてts149は、900〜1300mM NaClの直線勾配で溶出した。0.5mlのフラクションを集め、そしてアデノウイルスの存在について感染度アッセイおよびスロットブロットによりアッセイした。
【0219】
図8は、連続するカラム画分について行われた感染度アッセイの結果を示す。感染性アデノウイルスの大部分は、約25分に約100msで溶出する吸光度のピークと一致して、フラクション26〜28に見出された。ts149は、より高い塩濃度のこの大ピークの直前で溶出された。並行して行われた感染度およびスロットブロットアッセイは、粒子および感染性ウイルスが同じピーク画分に存在したことを確認した。
【0220】
溶解物およびPIピーク画分をまた、Bradford法により総タンパク質についてアッセイした。タンパク質濃度は、溶解物中1.8mg/mlであり、そしてPIプールでは30.0μg/mlより少なかった。ビリオンを、単一の工程で細胞タンパク質の大部分から分離し、そして単一ピークとして溶出した。このビリオンは、カラムからそれらを溶出するために必要な比較的高塩濃度により証明されるように、PIマトリックスに非常に高い親和性を示した。
【0221】
温度感受性ヘルパーウイルスの大スケール産生方法は、これらの実施例に記載されたすべての改良を取り込み得る。1つの例示では、ウイルス産生は以下の工程を包含し得る;
・懸濁バイオリアクター中の細胞培養
・濃縮/培地交換・ヘルパーウイルスでの感染
・ウイルス産生
・回収:濃縮/ダイアフィルトレーション
・微小流動による溶解
・PIイオン交換クロマトグラフィー
・濃縮/ダイアフィルトレーション
・滅菌濾過
このタイプのアプローチは、本質的に、スケールアップ可能であり、かつ現在の商品製造慣行に従順である。
【0222】
このような技術のさらなる例示の説明を以下に提供する。
【0223】
(実施例7 ヘルパーウイルス産生についての第1および第2世代プロセスの比較)
(A.例示の第1世代ヘルパーウイルス産生およびプロセシング)
ヘルパーウイルス産生についての例示的な「第1世代」プロセスにおいて、哺乳動物細胞を40のT225フラスコ中で増殖させ、次いでこの細胞に約1のMOIでAd5を感染させた。インキュベーション後、この細胞を遠心分離で収集し、凍結融解およびニードルの通過により溶解した。この溶解物をDNaseIでの処理に供し、次に段階CsCl勾配および等密度勾配にかけた。精製された物質を透析し、そして滅菌濾過した。
【0224】
この第1世代プロセスを使用して、本発明者らは4x108細胞から約1x1012粒子(または約1x1011感染単位)を得た。
【0225】
(B.例示の第2世代ヘルパーウイルス産生およびプロセシング)
ヘルパーウイルス産生についての例示的な「第2世代」プロセスにおいて、哺乳動物細胞(HeLaS3)を10Lバイオリアクター中で増殖させ、次いでこの細胞に約1のMOIでAd5(ATCCから、続いて293細胞でプラーク精製し、HeLaS3細胞について連続的に広げ、そしてCsCl勾配遠心分離により二重精製した)を感染させた。インキュベーション後、この細胞をダイアフィルトレーションにより濃縮および収集し、そしてミクロフルイダイゼーションにより溶解した。この溶解物をベンゾナーゼ(Benzonase)(ヌクレア−ゼ)での処理に供し、次いで濾過した。次いでこの濾過物を濃縮およびダイアフィルトレートされた陰イオン交換カラム(PI)に流し、最終的に滅菌濾過した。
【0226】
この第2世代プロセスを使用して、本発明者らは1×1010細胞から約1×1014粒子(または約5x1012感染単位)を得た。
【0227】
図9は、上記のとおり陰イオン交換クロマトグラフィーを使用するヘルパーウイルスの下流プロセシングの結果を示す。バー:感染力アッセイで測定されたウイルス活性;実線:A280;点線:緩衝液伝導率(ms)。
【0228】
ウイルス活性の分画とA280吸光度との比較から明らかなように、これらのプロセシング手順は、このヘルパーウイルスの、細胞性タンパク質および核酸を含むと予想される汚染物質のバルクからの実質的な分離を生じた。
【0229】
(実施例8 組換えAAVベクター産生についての第1および第2世代プロセスの比較)
(A.例示の第1世代rAAV産生およびプロセシング)
rAAVベクター産生についての例示的な「第1世代」プロセスにおいて、哺乳動物細胞を40のT225フラスコ内で増殖させ、次いでこの細胞に約5のMOIでAd5を感染させた。インキュベーション後、この細胞を遠心分離により収集し、そして超音波処理により溶解した。この溶解物を、DNaseIでの処理に供し、次いで一連の2つのCsCl勾配にかけた。精製された物質を透析し、そして滅菌濾過した。この第1世代プロセスを使用して、本発明者らは4x103細胞から約5×106複製単位RUを得た。
【0230】
(B.例示の第2世代rAAV産生およびプロセシング)
rAAVベクター産生についての例示的な「第2世代」プロセスにおいて、哺乳動物細胞を10Lバイオリアクター中で増殖させ、次いでこの細胞に約5のMOIでAd5を感染させた。インキュベーション後、この細胞をダイアフィルトレーションにより濃縮および収集し、そしてミクロフルイダイゼーションにより溶解した。この溶解物をベンゾナーゼ(ヌクレアーゼ)での処理に供し、次いで濾過した。次いでこの濾過物を陰イオン交換カラムに流した後、陽イオン交換カラムに流した。AAVを含む溶出物画分をプール、濃縮、およびダイアフィルトレートし、最終的に滅菌濾過した。この第2世代プロセスは1x1010細胞から1x1011複製単位より多いRUを得ると期待される。
【0231】
図10は、イオン交換カラム上;まず陰イオン交換マトリックス(上側のパネル)上、次いで陽イオン交換マトリックス(下側のパネル)上の、連続的な分画の結果を示す。バー:アデノウイルスまたはAAVのいずれかについての感染力アッセイにおいて測定したウイルス活性;実線:A280(総タンパク質の測定);点線:緩衝液伝導率(ms)。分析した画分から明らかなように、本発明の技術を用いて、AAVおよびA280吸収物質(大部分のタンパク質)間と同様に、AAVおよびアデノウイルス間の極めて高レベルの分離を得ることが可能である。特に、この結果は、AAVベクターが陰イオン交換カラムおよび陽イオン交換カラムの両方に保持され得ること、および陰イオンおよび陽イオン交換の両方を使用するAAVの差次的な溶出は、目的の主な汚染物質(アデノウイルスならびに細胞性タンパク質を含む)の全てからAAVを分離する能力の劇的な増強をもたらした。
【0232】
rAAVベクター産生についての別の例示的な第2世代プロセスにおいて、この濾過物を上述のように調製し、次いで陰イオン交換カラムに流した後、AAVを含む溶出物画分をプールし、次いでこのプールした陰イオン交換溶出物を接線流濾過(tangential flow filtration)(TFF)に供した。以下に記述のとおり、この陰イオン交換からTFFまでの手順は、高度に濃縮および精製されたAAV調製物をもたらすことが見出された。
【0233】
このような第2世代技術を使用して、上述および当該分野における技術(感染力アッセイ、スロットブロット分析、およびSDSゲル電気泳動法を含む)を使用して得たAAVの詳細な分析は、この物質が高品質なものであり、汚染アデノウイルス粒子(およびアデノウイルスタンパク質およびDNA)を実質的に含まず、かつまた汚染細胞性タンパク質およびDNAをも実質的に含まないというさらなる確証を提供した。SDSゲルは、VP1、VP2、およびVP3(すなわちAAVカプシドタンパク質)に対応するバンドの存在を示した。他のいかなるバンドもクマシー染色後に現れなかった。これらのデータは、図10〜11に示すとおり、カラム分画分析の結果と一致する。
【0234】
例示の陰イオン交換からTFFまでの手順として、以下は、1Lの陰イオン交換クロマトグラフィーからプールした画分で開始する例示的な精製および濃縮プロセスである。所望ならば(上記のとおり)、このプールを熱失活後、濾過工程(例えば、0.22μmフィルターを使用する)に供し得る。接線流濾過(TFF)について、本発明者らは、入圧および出圧について40/0で操作した300,000分子量カットオフメンブランを備えた消毒Pellicon XLシステムを使用した。1Lのプールされた物質を、500ml容量でこのシステムにロードし、次いで250mlに濃縮した。ダイアフィルトレーションを、5ダイアボリューム(diavolume)(1250ml)の改変リンガー溶液+5%グリセロールで行った。ダイアフィルトレーション後、保持物(retentate)を最終容量14mlまで濃縮した。総プロセス時間は約3.25時間である(消毒時間を含まず)。銀染色SDSゲル、スロットブロット、および感染力アッセイは、このAAV調製(約1010複製単位を含む)が、汚染アデノウイルスならびにアデノウイルスタンパク質および細胞性タンパク質を実質的に含まないことを確認した。
【0235】
以下は、感染性ウイルス力価および総ウイルス力価をそれぞれRU(複製単位)およびDRP(DNAse耐性粒子)として示す、このような手順からの結果である:
【0236】
【化1】
【0237】
図12に示されるデータは、陰イオン交換カラム後の接線流濾過を使用するAAV産生作業の結果を説明する。POROS 50PIカラムで精製された物質を、300,000分子量カットオフメンブラン(Millipore Pellicon XL)を使用して濃縮した。この濃縮された物質を、5連続容量(successive volume)のリンガー平衡塩溶液+5%グリセロールでダイアフィルトレートした。次にこの物質をこのメンブランで10倍に濃縮した。図12は銀染色で染色したSDSポリアクリルアミドゲルの網版複写であり、これは、最終精製バルク物質中の、高度に精製されたAAVカプシドタンパク質、VP1(85kD)、VP2(72kD)、およびVP3(62kD)を示す。
【0238】
本明細書中に示されるデータから明らかであるように、AAVの調製および精製についてのこれらの第2世代技術は、以前に記述した方法と比較して、実質的に改良した方法をもたらす。
【0239】
アデノウイルスヘルパーを増殖するための、およびrAAVを調製するための例示的な培地を以下の表に詳述する:
【0240】
【表2】
【0241】
【0242】
(C.ヘパリン硫酸クロマトグラフィーを使用するAAVベクターの精製)
上述のように、クロマトグラフィー技術を、本発明に従ってAAV調製物をさらに精製および濃縮するために使用し得る。例として、粗製形態(例えば、溶解物)である、または陰イオン交換または陽イオン交換カラムから溶出され、および/または接線流濾過により濃縮されたAAVの調製物は、ヘパリン硫酸を含むカラムに結合させることにより精製され得る。次にAAVを、塩を含有する緩衝液(例えば、NaClの直線勾配)を使用して、このようなカラムから溶出し得る。
【0243】
ヘパリン硫酸クロマトグラフィー使用の例示として、「PI」プールから得られたAAV(以下実施例9中に記載されるとおり)をまず4倍に濃縮し、そして300K接線流濾過メンブランを使用してTMEG+100mM NaCl中にダイアフィルトレートした。次にこの濃縮物を、1mlヘパリン硫酸カラム(Pharmacia“Hi−Trap Hepain”カラム)に注入し、そしてNaClの直線勾配を使用して溶出した。
【0244】
図13は、ヘパリン硫酸カラム上に得られたAAVの濃度を示すクロマトグラムである。約18分溶出時間での280nmでの吸光度(左座標軸)における鋭いピークは、0〜1M NaClの直線勾配(右座標軸に示されるmsでの伝導率)を用いてヘパリン硫酸から溶出したAAV画分を示す。
【0245】
(実施例9 組換えAAVベクター産生および試験)
産生作業の別のセットにおいて、本発明者らはDMEM+10%FBSを増殖培地として使用して、セルファクトリー(Cell Factory)において増殖した3〜4x109細胞を使用した。細胞に約20のMOIでAdを感染させ、そしてこれを感染後72時間で収集した。収集した細胞を約5x106細胞/mlの濃度でTMEG+NaCl中に懸濁した。機械的な溶解(ミクロフルイダイゼーション、8000psiで2回通過)後、溶解物をベンゾナーゼで処理し(25ユニット/ml、37℃、1時間)、次いで5ミクロンフィルター(Pall Profile II)を通して濾過した。
【0246】
例示的な陰イオン交換カラムとして、本発明者らはPOROS 50 PIカラム(Perseptive Biosystemsから入手)を使用した。簡単には、この濾過物を約100mlでカラムにロードし、そして500mMまでのNaClの勾配で溶出した。(感染力アッセイによって)大部分のこのAAVを含むことが決定された画分を、収集およびプールした(「PIプール」と称する)。
【0247】
次いでこのPIプールをTMEGで約1:7に希釈し、そして50ml Toso Haas SP650Cカラムにロードし、ならびに500mM NaClまでの勾配で溶出した。(感染力アッセイによって)大部分のこのAAVを含むことを決定された画分を収集およびプールした(「SPプール」と称する)。このSPプールをCentriprep 10Kフィルターを使用して濃縮し、次いで0.2ミクロンフィルターを通して滅菌した。
【0248】
この結果は、この組換えAAVが検出可能な感染性アデノウイルスを本質的に含まないことを示した(293細胞での連続増幅およびTCID50アッセイを用いた検出限界分析により決定したとおり)。この調製物はまた、アデノウイルスDNAを本質的に含まず(スロットブロット分析により決定されたとおり)、細胞性タンパク質も(SDS−PAGEゲル分析により決定されたとおり)、細胞性DNA(PCR分析により測定されるとおり)も本質的に含まず、そしてまた表現型野生型AAVも本質的に含まない(連続増幅およびサザン分析により測定したとおり)。
【0249】
(実施例10 栄養ストレスによるAAV産生の増強)
上述のとおり、AAV産生は、AAVプロデューサー細胞の増殖または代謝に効果的なストレスを与える(または脱至適化する(de−optimize))任意の多様な薬剤および/または条件を使用して増強され得ると考えられる。この実施例において、培養中に生じるような特定のアミノ酸の枯渇は、AAV産生における相対的な増強と関連すること、および逆に、栄養ストレスを除去するための培地補充物は実際にベクター収量に劇的な減少をもたらすことが示される。
【0250】
(a バッチ培養および灌流培養中の栄養ストレス)
JL14細胞を、2Lバイオリアクター中に約4x105細胞/mlで接種し、バッチ様式または灌流(接線流濾過を使用して、1日目は0.4容量/日で、2〜3日は1.2容量/日で、4日目は2容量/日で、および5日目は4容量/日で)のいずれかにより、表2中に示されるrAAV培地中で増殖させた。培養物を、標準の技術を使用して、細胞密度、グルコース、乳酸、およびアミノ酸についてモニターした。
【0251】
この分析は、この細胞密度が、バッチ培養において2日目に1x106細胞/mlで、および灌流培養において6日目に8x106細胞/mlでピークに達することを示した。グルコースはそれぞれの場合で限定的ではなく(>1g/l)、乳酸は阻害性ではなかった。
【0252】
しかしアミノ酸分析は、グルタミン酸およびアスパラギン酸が共に、以下の表に示されるように、バッチおよび灌流培養の両方において急速に枯渇することを示した:
【0253】
【表3】
【0254】
【表4】
【0255】
(b 増強したAAV産生に関連した栄養ストレス)
追跡研究を、培養培地中のグルタミン酸およびアスパラギン酸の相対的な欠乏の重要性を確認するために行った。JL14細胞をスピナーフラスコから得、および2つのセットに分割した。各セットに3x109感染単位の170−37Ad5を接種した。細胞の一方のセットを10%FBSおよび1%L−グルタミン(300ml)を含むrAAV培地(表2)中に106細胞/mLで再懸濁した。他方を、10%FBS、1%L−グルタミン、10mg/Lアスパラギン酸、および110mg/Lグルタミン酸を含むrAAV培地中に再懸濁した。
【0256】
各セットはスピナーフラスコ中に37℃で72時間インキュベートした。この細胞を、収集し、8000pisで2回ミクロフルイダイゼートし、ベンゾナーゼ処理し、感染力アッセイ中にプレートし、収集およびプローブした。
【0257】
結果は、対照スピナーフラスコが細胞あたり6.2RUを産生することを示した。アスパラギン酸およびグルタミン酸を補充したスピナーフラスコは、細胞あたり0.94RUを産生した。
【0258】
これは、アスパラギン酸およびグルタミン酸の枯渇が、過剰のこれらのアミノ酸を提供することにより妨害される場合、rAAV産生は、この細胞を栄養ストレスに供することができなかったことにより損なわれることを示す。
【0259】
さらなる試験をHeLa由来細胞株D6を使用して行った。この細胞株は、組込まれたrAAVベクター(ITR−(CMVプロモーター)−(β−galレポーター遺伝子)−ITR)、ならびに野生型AAVrepおよびcap遺伝子のコピーを有する。
【0260】
この細胞を30ml完全DMEM(10%FBS、2mM L−グルタミン)中T−225フラスコあたり5×106細胞で播種し、そして37℃で10%CO2中に2日間インキュベートするとすぐに、この細胞はフラスコあたり2×107細胞の密度に到達した。2つの同一フラスコ中の細胞に、10のMOIでAd5を感染させた。1つのフラスコは完全なDMEMを含み、もう1つは5xアスパラギン酸およびグルタミン酸を補充した完全なDMEMを含んだ。細胞を培養72時間後、収集および計数した。
【0261】
この完全なDMEMは88%生存度で2.6x107細胞を生じた。アスパラギン酸/グルタミン酸補充培地は、91%生存度で3.8x107細胞を生じた。細胞を再懸濁し、超音波処理し、ベンゾナーゼで処理(25U/ML)し、浄化し、およびスロットブロット分析によりアッセイした。
【0262】
結果は以下のとおりであった:D6ウイルスは、完全な(補充していない)DMEM中に、1.8x1010DRP/mL(細胞あたり1800DRP)で産生された。D6ウイルスは、アスパラギン酸/グルタミン酸補充したDMEM中に、1.4x109DRP/ml(140DRP/細胞)で産生された。
【0263】
(実施例11 血清ストレス下での組換えAAVベクター産生)
ストレス条件下でのrAAV産生の例として、本発明者らは、上述のとおりの技術と共に、減少血清ストレスを使用した。簡単には、JL14細胞を、継続的な連続培養様式で改変DMEM+10%FBSのスピナーフラスコで増殖させ、そして3〜4日毎に分割した。懸濁培養物からの細胞を、16のNuncセルファクトリー、10スタック(stack)に、3x108細胞/ファクトリーで、3〜4日のローテーションで配置した。増殖に使用した培地は、血清の10倍減少(すなわち、DMEM+1%FBS)を有し、これによりこの細胞を血清ストレス下に置いた。
【0264】
播種後24時間で、ファクトリー中の培地を除去し、3x109Ad単位/mlを含む新鮮培地を添加した。37℃での培養72時間後、この細胞を軽くたたきながらファクトリーから取り外し、細胞を含む培地を収集し、そしてこの細胞をペレット化し、そしてTMEG+100mM NaCl中に再懸濁し、次いで8000psiでのミクロフルイダイゼーションを介した通過により溶解した。この溶解物を、5ミクロンフィルターを通して浄化し、この浄化した溶解物を500ml PI陰イオン交換カラム上にロードした。このカラムをTMEG緩衝液中の増加するNaCl(500mMまで)の勾配で溶出した。画分を収集し、そしてAllenら(WO96/17947、前出)により記述のとおりClone37アッセイを使用してアッセイした。次にAAVベクターのほとんどを含む画分をプールし、そしてCentriprep遠心濃縮器を1000xgで30分間使用して10倍に濃縮した。この濃縮された物質を5%グリセロールを有するリンガー平衡塩溶液に対して透析し、そして−70℃で貯蔵した。このAAVをClone37アッセイ、ならびにスロットブロットおよびSDS−PAGEによりアッセイした。この物質をまた、アデノウイルス、アデノウイルスタンパク質、および細胞性DNA、ならびに他の可能性のある汚染の存在についてもアッセイした。
【0265】
図11は、フラスコあたり107細胞でT−225フラスコ中にセットアップしたGAK−0003プロデューサー細胞を使用して得た、および2日目に10のMOIでDAB−003アデノウイルスを接種した結果を示す。異なるフラスコを、この図に示されるように、異なるパーセントのFBSを含む新鮮DMEM中に37℃で72時間培養した。5日目に各フラスコを収集し、既に述べたとおり、この細胞を計数し、再懸濁し、超音波処理し、ベンゾナーゼ処理し、そしてベクターの産生を測定するためにプレートした。
【0266】
至適ベクター産生は、1%のFBSパーセンテージで観察された。従って、FBSを欠乏する培地(2.5%より低い、好ましくは、2%より低いが0%よりも多い)は、プロデューサー細胞を血清ストレスに供するための条件として好ましい。
【0267】
(実施例12 pHストレス下の組換えAAVベクター産生)
ストレス条件下でのrAAV産生のさらなる例として、本発明者らは、上述のとおりの技術と共にpHストレスを使用した。簡単には、AAVプロデューサー細胞を上述のとおりバイオリアクター中で増殖させた。次いで細胞にMOI=10でAd5を感染させ、そしてこれを1.5Lバイオリアクター中の懸濁液中の低血清培地(実施例11に記載のとおり)に接種した。培養物を多様な高いpHレベル(7.2から8.0)で維持した。次いで培養物を、細胞数、生存度、グルコース消費、乳酸産生、pH、浸透圧、およびAAV産生について毎日モニターした。以下に示されるように、pHが7.4まで上昇した場合、AAV産生に増加が見られた;上清中に放出されたAAV粒子の数のさらにより劇的な増加を伴った(これはpHが上昇するにつれ増加した):
【0268】
【化2】
【0269】
要するに、pHが上昇すると、本発明者らは、上清中に放出されたAAV粒子の数の急激な増加、および上清:細胞結合粒子のパーセンテージの変化(pH7.2ではほとんど全てが細胞結合であり、pH8.0ではほとんどが上清である(92%))を観察した。プロデューサー細胞を溶解する必要なしに上清から直接AAV粒子を回収する能力は、AAV産生および精製の点で強力な利点を示す。pHストレスを使用して上清から単離されたAAVは、本明細書に記載の技術(例えば、イオン交換クロマトグラフィーおよび/または接線流濾過)を使用して、容易に濃縮され得、そして精製され得る。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)粒子の集団を生成する方法であって、以下の工程:
a)以下を含むAAVプロデューサー細胞を提供する工程:
(i)1つ以上のAAVパッケージング遺伝子であって、ここで該AAVパッケージング遺伝子の各々が、AAV複製またはキャプシド化タンパク質をコードする、遺伝子;
(ii)少なくとも1つのAAV逆方向末端反復配列(ITR)に隣接する異種非AAVポリヌクレオチドを含む組換えAAV(rAAV)プロベクター;および
(iii)AAVのヘルパーウイルス;
b)工程a)で提供されるプロデューサー細胞を、AAVの複製を可能にする条件下でインキュベートする工程;
c)工程b)のインキュベーションの後に該プロデューサー細胞を溶解して、AAVプロデューサー細胞溶解物を生成する工程;
d)工程c)のAAVプロデューサー細胞溶解物を少なくとも1つの正に荷電した陰イオン交換樹脂上でクロマトグラフィーにかける工程;ならびに e)工程d)のrAAV粒子を含むクロマトグラフィー画分を、陽イオン交換クロマトグラフィーまたは接線流濾過によって精製して、rAAVベクター粒子の精製された集団を生成する工程、
を包含する、方法。
【請求項2】
請求項1に記載のrAAV粒子の集団を生成する方法であって、前記精製する工程e)が、前記画分を陽イオン交換クロマトグラフィーにかける工程を包含する、方法。
【請求項3】
前記請求項1に記載のrAAV粒子の集団を生成する方法であって、前記精製する工程e)が、前記画分を接線流濾過にかける工程を包含する、方法。
【請求項4】
請求項1に記載のrAAV粒子の集団を生成する方法であって、前記rAAVプロベクターが、2つのAVV逆方向末端反復配列(ITR)に隣接する異種非AAVポリヌクレオチドを含む、方法。
【請求項5】
請求項1に記載のrAAV粒子の集団を生成する方法であって、前記AAVプロデューサー細胞が、該AAVプロデューサー細胞のゲノムに安定に組み込まれた少なくとも1つのAAVパッケージング遺伝子を含む、方法。
【請求項6】
請求項1に記載のrAAV粒子の集団を生成する方法であって、工程a)において前記プロデューサー細胞を提供する工程が、前記ヘルパーウイルスを、前記AAVパッケージング遺伝子および前記rAAVプロベクターをすでに導入されたプロデューサー細胞中に導入する工程を包含する、方法。
【請求項7】
請求項1に記載のrAAV粒子の集団を生成する方法であって、工程a)におけるプロデューサー細胞を提供する工程が、前記rAAVプロベクターおよび前記ヘルパーウイルスを、前記AAVパッケージング遺伝子をすでに導入した該プロデューサー細胞中に同時に、または連続して導入する工程を包含する、方法。
【請求項8】
請求項1に記載のrAAV粒子の集団を生成する方法であって、工程a)における前記プロデューサー細胞を提供する工程が、前記AAVパッケージング遺伝子および前記rAAVプロベクターを、前記ヘルパーウイルスをすでに導入した宿主細胞中へ、同時に、または連続して導入する工程を包含する、方法。
【請求項9】
請求項1に記載のrAAV粒子の集団を生成する方法であって、前記AAVプロデューサー細胞が、AAVrep遺伝子およびAAVcap遺伝子を含む、方法。
【請求項10】
請求項1に記載のrAAV粒子の集団を生成する方法であって、前記AAVrep遺伝子およびAAVcap遺伝子が、前記AAVプロデューサー細胞のゲノム中に安定に組み込まれている、方法。
【請求項11】
請求項1に記載のrAAV粒子の集団を生成する方法であって、工程a)における前記プロデューサー細胞を提供する工程が、該プロデューサー細胞中に少なくとも1つのAAVスプリットパッケージング遺伝子を導入する工程を包含する、方法。
【請求項12】
請求項1に記載のrAAV粒子の集団を生成する方法であって、前記ヘルパーウイルスがアデノウイルスである、方法。
【請求項13】
請求項1に記載のrAAV粒子の集団を生成する方法であって、前記ヘルパーウイルスが、温度感受性ヘルパーウイルスであり、そして前記プロデューサー細胞をインキュベートする工程が、AAVの複製を可能にするが、該温度感受性ヘルパーウイルスの複製を可能にしない温度で行われる、方法。
【請求項14】
請求項1に記載のrAAV粒子の集団を生成する方法であって、前記ヘルパーウイルスが温度感受性アデノウイルスである、方法。
【請求項15】
請求項1に記載のrAAV粒子の集団を生成する方法であって、前記ヘルパーウイルスがアデノウイルスAd−ts149である、方法。
【請求項16】
請求項1に記載のrAAV粒子の集団を生成する方法であって、前記AAVプロデューサー細胞溶解物がまた、AAV上に存在する1つ以上の表面分子について特異的なリガンドを有する樹脂上でアフィニティー精製される、方法。
【請求項17】
請求項16に記載のrAAV粒子の集団を生成する方法であって、前記アフィニティー精製が、イオン交換クロマトグラフィー後に行われる、方法。
【請求項18】
請求項16に記載のrAAV粒子の集団を生成する方法であって、前記リガンドがAAV上に存在する表面分子について特異的な抗体である、方法。
【請求項19】
請求項1に記載のrAAV粒子の集団を生成する方法であって、工程b)のAAVプロデューサー細胞が、溶解される前に濃縮される、方法。
【請求項20】
請求項19に記載のrAAV粒子の集団を生成する方法であって、工程b)のAAVプロデューサー細胞が、溶解される前に、遠心分離または接線流濾過によって濃縮される、方法。
【請求項21】
請求項1に記載のrAAV粒子の集団を生成する方法であって、前記AAVプロデューサー細胞を溶解する工程が、該細胞を、ミクロフルイダイゼーション、超音波処理、および凍結融解からなる群から選択される溶解技術に供することによって行われる、方法。
【請求項22】
請求項21に記載のrAAV粒子の集団を生成する方法であって、前記AAVプロデューサー細胞を溶解する工程が、該細胞を、ミクロフルイダイゼーションに供することによって行われる、方法。
【請求項23】
請求項1に記載のrAAV粒子の集団を生成する方法であって、工程c)のAAVプロデューサー細胞の溶解物が、クロマトグラフィーの前にヌクレアーゼで処理される、方法。
【請求項24】
請求項23に記載のrAAV粒子の集団を生成する方法であって、前記ヌクレアーゼがBensonaseである、方法。
【請求項25】
請求項1に記載のrAAV粒子の集団を生成する方法であって、工程c)の前記AAVプロデューサー細胞の溶解物が、クロマトグラフィーの前に明澄化される、方法。
【請求項26】
請求項25に記載のrAAV粒子の集団を生成する方法であって、工程c)のAAVプロデューサー細胞の溶解物が、クロマトグラフィーの前に濾過または遠心分離によって明澄化される、方法。
【請求項27】
請求項1に記載のrAAV粒子の集団を生成する方法であって、前記AAVプロデューサー細胞が、溶解の前に濃縮され、少なくとも50mM NaCl溶液のイオン強度と同じイオン強度の生理食塩水を含む緩衝液中に再懸濁され、溶解され、次いでクロマトグラフィーの前に濾過によって明澄化される、方法。
【請求項28】
請求項2に記載のrAAV粒子の集団を生成する方法であって、前記rAAV粒子を含むクロマトグラフィー画分が、前記クロマトグラフィー樹脂から溶出された後に濾過または遠心分離によって濃縮される、方法。
【請求項29】
請求項2に記載のrAAV粒子の集団を生成する方法であって、前記rAAV粒子を含むクロマトグラフィー画分が、接線流濾過によって濃縮される、方法。
【請求項30】
請求項1に記載のrAAV粒子の集団を生成する方法であって、前記陰イオン交換樹脂が、N−荷電アミノ樹脂またはイミノ樹脂である、方法。
【請求項31】
請求項1に記載のrAAV粒子の集団を生成する方法であって、前記陰イオン交換樹脂が、POROS 50 PI樹脂、ジエチルアミノエチル(DEAE)樹脂、トリメチルアミノエチル(TMAE)樹脂、4級アミン樹脂、およびポリエチレンイミン(PEI)樹脂からなる群から選択される、方法。
【請求項32】
請求項2に記載のrAAV粒子の集団を生成する方法であって、前記陽イオン樹脂が、スルホ基ベース、ホスホ基ベース、またはカルボキシル基ベースの陽イオン樹脂である、方法。
【請求項33】
請求項2に記載のrAAV粒子の集団を生成する方法であって、前記陽イオン交換樹脂が、HS樹脂、SP樹脂、およびカルボキシルメチル(CM)樹脂からなる群から選択される、方法。
【請求項34】
請求項1に記載のrAAV粒子の集団を生成する方法であって、工程a)のプロデューサー細胞が、結合依存性の哺乳動物細胞株である、方法。
【請求項35】
請求項1に記載のrAAV粒子の集団を生成する方法であって、工程a)で提供された前記プロデューサー細胞をインキュベートする前記工程b)が、組織培養フラスコ、ローラーボトル、スピナーフラスコ、タンクリアクター、発酵槽、およびバイオリアクターからなる群から選択される容器中で行われる、方法。
【請求項36】
請求項1に記載のrAAV粒子の集団を生成する方法であって、工程a)で提供されるプロデューサー細胞をインキュベートする前記工程b)が、マイクロキャリアを使用して行われる、方法。
【請求項37】
請求項1に記載のrAAV粒子の集団を生成する方法であって、前記容器が、中空繊維バイオリアクター、充填床バイオリアクター、または流動床バイオリアクターである、方法。
【請求項38】
請求項1に記載のrAAV粒子の集団を生成する方法であって、工程a)のプロデューサー細胞が、懸濁液適合化哺乳動物細胞株である、方法。
【請求項39】
請求項1に記載のrAAV粒子の集団を生成する方法であって、工程a)で提供されるプロデューサー細胞をインキュベートする前記工程b)が、スピナーフラスコ、タンクリアクター、およびエアリフト発酵槽からなる群から選択される容器中で行われる、方法。
【請求項40】
請求項1に記載のrAAV粒子の集団を生成する方法であって、工程a)で提供されるプロデューサー細胞をインキュベートする前記工程b)が、表2に本質的に示されるrAAV培地中で行われる、方法。
【請求項41】
請求項1に記載のrAAV粒子の集団を生成する方法であって、前記プロデューサー細胞が、293 N3細胞またはHeLa S3細胞である、方法。
【請求項42】
請求項1に記載のrAAV粒子の集団を生成する方法であって、工程b)が少なくとも5日間行われる、方法。
【請求項43】
請求項1に記載のrAAV粒子の集団を生成する方法であって、前記プロデューサー細胞をインキュベートする工程b)が、多リットルバイオリアクターにおいて行われ、そしてバイオリアクター容量1リットルあたりrAAVの少なくとも約109個の複製可能なユニットが工程e)の後に単離される、方法。
【請求項44】
組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)粒子の集団を生成する方法であって、以下の工程:
a)以下を含むAAVプロデューサー細胞を提供する工程:
(i)1つ以上のAAVパッケージング遺伝子であって、ここで該AAVパッケージング遺伝子の各々は、AAV複製またはキャプシド化タンパク質をコードする、遺伝子;
(ii)少なくとも1つのAAV逆方向末端反復配列(ITR)に隣接する異種非AAVポリヌクレオチドを含む組換えAAV(rAAV)プロベクター;および
(iii)AAVのヘルパーウイルスまたは少なくとも1つのヘルパーウイルス機能をコードする該ヘルパーウイルスのポリヌクレオチド配列;
b)工程a)で提供されるプロデューサー細胞を致死量未満のストレスに供する工程;ならびに
c)工程b)の該ストレスを受けたプロデューサー細胞を、AAVの複製を可能にする条件下でインキュベートする工程、
を包含する、方法。
【請求項45】
請求項44に記載のrAAV粒子の集団を生成する方法であって、前記致死量未満のストレスが、栄養性ストレス、浸透圧性ストレス、pHストレス、温度ストレス、有酸素性ストレス、機械的ストレス、放射能性ストレス、および毒性ストレスからなる群から選択される、方法。
【請求項46】
請求項44に記載のrAAV粒子の集団を生成する方法であって、前記致死量未満のストレスが、栄養性のストレスである、方法。
【請求項47】
請求項44に記載のrAAV粒子の集団を生成する方法であって、前記致死量未満のストレスが、浸透圧性ストレスである、方法。
【請求項48】
請求項44に記載のrAAV粒子の集団を生成する方法であって、前記致死量未満のストレスが、pHストレスである、方法。
【請求項49】
請求項48に記載のrAAV粒子の集団を生成する方法であって、前記pHストレスが、pH7.2より上までpHを上げることを包含する、方法。
【請求項50】
請求項48に記載のrAAV粒子の集団を生成する方法であって、前記pHストレスが、pHを少なくとも7.4まで上昇させることを包含し、そしてここで前記生成された大部分のAAV粒子が、前記上清中へ放出される、方法。
【請求項51】
請求項48に記載のrAAV粒子の集団を生成する方法であって、前記pHストレスが、pHを約8.0まで上げることを包含する、方法。
【請求項52】
請求項44に記載のrAAV粒子の集団を生成する方法であって、前記致死量未満のストレスが、温度ストレスである、方法。
【請求項53】
請求項44に記載のrAAV粒子の集団を生成する方法であって、前記致死量未満のストレスが有酸素性ストレスである、方法。
【請求項54】
請求項44に記載のrAAV粒子の集団を生成する方法であって、前記致死量未満のストレスが機械的ストレスである、方法。
【請求項55】
請求項44に記載のrAAV粒子の集団を生成する方法であって、前記致死量未満のストレスが放射能性ストレスである、方法。
【請求項56】
請求項44に記載のrAAV粒子の集団を生成する方法であって、前記致死量未満のストレスが毒性ストレスである、方法。
【請求項57】
請求項46に記載のrAAV粒子の集団を生成する方法であって、前記栄養性ストレスが、前記プロデューサー細胞を1つ以上のアミノ酸が欠乏している培地中で培養することを包含する、方法。
【請求項58】
請求項46に記載のrAAV粒子の集団を生成する方法であって、前記栄養性ストレスが、前記プロデューサー細胞をアスパラギン酸が欠乏している培地中で培養することを包含する、方法。
【請求項59】
請求項46に記載のrAAV粒子の集団を生成する方法であって、前記栄養性ストレスが、前記プロデューサー細胞をグルタミン酸が欠乏している培地中で培養することを包含する、方法。
【請求項60】
請求項58に記載のrAAV粒子の集団を生成する方法であって、前記欠乏培地が、10μmol/L未満のアスパラギン酸を含有する、方法。
【請求項61】
請求項59に記載のrAAV粒子の集団を生成する方法であって、前記欠乏培地が、2μmol/L未満のグルタミン酸を含有する、方法。
【請求項62】
請求項46に記載のrAAV粒子の集団を生成する方法であって、前記栄養性ストレスが、前記プロデューサー細胞を血清が欠乏している培地中で培養することを包含する、方法。
【請求項63】
請求項46に記載のrAAV粒子の集団を生成する方法であって、前記細胞が、該細胞を栄養的に欠乏している培地中に導入することによって前記栄養性ストレスに供される、方法。
【請求項64】
請求項46に記載のrAAV粒子の集団を生成する方法であって、前記細胞が、該細胞を培地が栄養的に欠乏するまで該培地中で培養することによって前記栄養性ストレスに供される、方法。
【請求項65】
請求項1に記載のrAAV粒子の集団を生成する方法であって、rAAVベクター粒子の前記精製された集団が、複製コンピテントなAAVおよびヘルパーウイルスおよび細胞タンパク質を実質的に含まない、方法。
【請求項66】
請求項1に記載のrAAV粒子の集団を生成する方法であって、ここで前記クロマトグラフィー樹脂からの溶出が、塩濃度を増大させることによって行われ、そしてrAAV粒子を含むクロマトグラフィー溶出物が、希釈、透析、ダイアフィルトレーション、または濃縮によって有効塩濃度を低減させるために引き続いて処理される、方法。
【請求項67】
請求項1〜66のいずれか1項に記載のrAAV粒子の集団を生成する方法であって、AAV粒子を含む画分をヘパリン硫酸クロマトグラフィーに供する工程を包含する、方法。
【請求項68】
組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)粒子の集団を生成する方法であって、以下の工程:
a)以下を含むAAVプロデューサー細胞を提供する工程:
(i)1つ以上のAAVパッケージング遺伝子であって、ここで該AAVパッケージング遺伝子の各々が、AAV複製またはキャプシド化タンパク質をコードする、遺伝子;
(ii)少なくとも1つのAAV逆方向末端反復(ITR)に隣接する異種非AAVポリヌクレオチドを含む組換えAAV(rAAV)プロベクター;および
(iii)AAVのヘルパーウイルス;
b)工程a)で提供されるプロデューサー細胞を、AAVの複製が可能な条件下でインキュベートする工程であって、該AAVプロデューサー細胞において致死量未満のストレスを誘導することを含む、工程;
c)工程b)のインキュベーションの後に該プロデューサー細胞を溶解して、AAVプロデューサー細胞溶解物を生成する工程;ならびに
d)該AAVプロデューサー細胞溶解物を精製して、組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)粒子の集団を生成する工程、
を包含する、方法。
【請求項69】
請求項68に記載のrAAV粒子の集団を生成する方法であって、前記精製工程d)が、工程c)のAAVプロデューサー細胞溶解物を、少なくとも1つの正に荷電した陰イオン交換樹脂上でクロマトグラフィーにかけ、続いて陽イオン交換樹脂かまたは接線流濾過によってのいずれかで精製して、rAAVベクター粒子の精製された集団を生成する工程を含む、方法。
【請求項70】
請求項68に記載のrAAV粒子の集団を生成する方法であって、前記精製する工程d)が、工程c)のAAVプロデューサー細胞溶解物を、正に荷電した陰イオン交換樹脂上でクロマトグラフィーにかけ、続いて接線流濾過によりrAAVベクター粒子の精製された集団を生成する工程を含む、方法。
【請求項71】
請求項68に記載のrAAV粒子の集団を生成する方法であって、前記rAAVプロベクターが、2つのAAV逆方向末端反復配列(ITR)に隣接している異種非AAVポリヌクレオチドを含む、方法。
【請求項72】
請求項68に記載のrAAV粒子の集団を生成する方法であって、前記AAVプロデューサー細胞が、該AAVプロデューサー細胞のゲノムに安定に組み込まれている少なくとも1つのAVVパッケージング遺伝子を含む、方法。
【請求項73】
請求項68に記載のrAAV粒子の集団を生成する方法であって、前記AAVプロデューサー細胞が、AAVrep遺伝子およびAAVcap遺伝子を含む、方法。
【請求項74】
請求項68に記載のrAAV粒子の集団を生成する方法であって、前記ヘルパーウイルスがアデノウイルスである、方法。
【請求項75】
組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)粒子を高効率で生成するための宿主細胞であって、以下:
a)1つ以上のAAVパッケージング遺伝子であって、ここで該AAVパッケージング遺伝子の各々は、AAV複製またはキャプシド化タンパク質をコードする、遺伝子;
b)rAAVプロベクターを使用して該宿主細胞中に導入された異種ポリヌクレオチドであって、ここで該rAAVプロベクターは、少なくとも1つのAAV逆方向末端反復配列(ITR)に隣接し、そして該AAVパッケージング遺伝子が欠乏している該異種ポリヌクレオチドを含む、異種ポリヌクレオチド;
c)AAVの温度感受性ヘルパーウイルス(tsHV)であって、該tsHVが自己複製について温度感受性である、ウイルス、
を含む、宿主細胞。
【請求項76】
請求項1〜74に記載の方法のいずれか1つによって生成される、rAAV粒子の集団。
【請求項77】
100万個の感染性rAAV粒子あたり1個以下の感染性アデノウイルス粒子を含有する、請求項76に記載のrAAV粒子の集団。
【請求項78】
108個の感染性rAAV粒子あたり1個以下の感染性アデノウイルスを含有する、請求項76に記載のrAAV粒子の集団。
【請求項79】
哺乳動物細胞において複製し得るウイルスを含有する調製物の感染性力価を決定するための高処理能力アッセイであって、以下の工程:
a)それぞれ哺乳動物細胞のアリコートおよび力価測定されるべきウイルス調製物のアリコートを含む培養ウェルのアレイを提供する工程;
b)工程a)の細胞およびウイルスをインキュベートして該ウイルスの複製を可能にする工程;
c)該細胞を溶解して、ウイルスポリヌクレオチドを含有する多数の溶解物を生成する工程;
d)工程c)からの該多数の溶解物を、核酸の結合する膜に移して、核酸の膜結合アレイを生成する工程;
e)工程d)の核酸の膜結合アレイをウイルス特異的プローブとハイブリダイズさせ、次いで該培養ウェルの各々において複製されたウイルス核酸の相対量を決定する工程、
を包含する、アッセイ。
【請求項80】
前記ウイルスがアデノウイルスまたはAAVである、請求項79に記載のウイルス調製物の感染性力価を決定するための高処理能力アッセイ。
【請求項81】
前記ウイルスがAAVである、請求項79に記載のウイルス調製物の感染性力価を決定するための高処理能力アッセイ。
【請求項82】
前記培養ウェルのアレイが、マイクロタイター容器の形態である、請求項79に記載のウイルス調製物の感染性力価を決定するための高処理能力アッセイ。
【請求項83】
前記ウイルス調製物のアリコートが連続希釈されたアリコートである、請求項79に記載のウイルス調製物の感染性力価を決定するための高処理能力アッセイ。
【請求項84】
哺乳動物細胞におけるウイルスの複製に影響を及ぼす薬剤をスクリーニングする高処理方法であって、以下の工程:
a)それぞれ哺乳動物細胞のアリコート、該ウイルスのアリコート、および必要に応じて該薬剤のアリコートを含む培養ウェルのアレイを提供する工程;
b)該細胞、ウイルス、および必要に応じて工程a)の薬剤をインキュベートして、該ウイルスの複製を可能にする工程;
c)該細胞を溶解して、ウイルスポリヌクレオチドを含有する多数の溶解物を産生する工程;
d)工程c)からの該多数の溶解物を、核酸の結合する膜に移して、核酸の膜結合アレイを生成する工程;
e)工程d)の核酸の該膜結合アレイをウイルス特異的プローブとハイブリダイズさせ、次いで該培養ウェルの各々において複製したウイルス核酸の相対量を決定する工程、
を包含する、方法。
【請求項85】
前記ウイルスがアデノウイルスまたはAAVである、請求項84に記載のウイルスの複製に影響を及ぼす薬剤についてスクリーニングする高処理能力方法。
【請求項86】
前記ウイルスがAAVである、請求項84に記載のウイルスの複製に影響を及ぼす薬剤についてスクリーニングする高処理能力方法。
【請求項87】
前記培養ウェルのアレイがマイクロタイター容器の形態である、請求項84に記載のウイルスの複製に影響を及ぼす薬剤をスクリーニングする高処理能力方法。
【請求項1】
組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)粒子の集団を生成する方法であって、以下の工程:
a)以下を含むAAVプロデューサー細胞を提供する工程:
(i)1つ以上のAAVパッケージング遺伝子であって、ここで該AAVパッケージング遺伝子の各々が、AAV複製またはキャプシド化タンパク質をコードする、遺伝子;
(ii)少なくとも1つのAAV逆方向末端反復配列(ITR)に隣接する異種非AAVポリヌクレオチドを含む組換えAAV(rAAV)プロベクター;および
(iii)AAVのヘルパーウイルス;
b)工程a)で提供されるプロデューサー細胞を、AAVの複製を可能にする条件下でインキュベートする工程;
c)工程b)のインキュベーションの後に該プロデューサー細胞を溶解して、AAVプロデューサー細胞溶解物を生成する工程;
d)工程c)のAAVプロデューサー細胞溶解物を少なくとも1つの正に荷電した陰イオン交換樹脂上でクロマトグラフィーにかける工程;ならびに e)工程d)のrAAV粒子を含むクロマトグラフィー画分を、陽イオン交換クロマトグラフィーまたは接線流濾過によって精製して、rAAVベクター粒子の精製された集団を生成する工程、
を包含する、方法。
【請求項2】
請求項1に記載のrAAV粒子の集団を生成する方法であって、前記精製する工程e)が、前記画分を陽イオン交換クロマトグラフィーにかける工程を包含する、方法。
【請求項3】
前記請求項1に記載のrAAV粒子の集団を生成する方法であって、前記精製する工程e)が、前記画分を接線流濾過にかける工程を包含する、方法。
【請求項4】
請求項1に記載のrAAV粒子の集団を生成する方法であって、前記rAAVプロベクターが、2つのAVV逆方向末端反復配列(ITR)に隣接する異種非AAVポリヌクレオチドを含む、方法。
【請求項5】
請求項1に記載のrAAV粒子の集団を生成する方法であって、前記AAVプロデューサー細胞が、該AAVプロデューサー細胞のゲノムに安定に組み込まれた少なくとも1つのAAVパッケージング遺伝子を含む、方法。
【請求項6】
請求項1に記載のrAAV粒子の集団を生成する方法であって、工程a)において前記プロデューサー細胞を提供する工程が、前記ヘルパーウイルスを、前記AAVパッケージング遺伝子および前記rAAVプロベクターをすでに導入されたプロデューサー細胞中に導入する工程を包含する、方法。
【請求項7】
請求項1に記載のrAAV粒子の集団を生成する方法であって、工程a)におけるプロデューサー細胞を提供する工程が、前記rAAVプロベクターおよび前記ヘルパーウイルスを、前記AAVパッケージング遺伝子をすでに導入した該プロデューサー細胞中に同時に、または連続して導入する工程を包含する、方法。
【請求項8】
請求項1に記載のrAAV粒子の集団を生成する方法であって、工程a)における前記プロデューサー細胞を提供する工程が、前記AAVパッケージング遺伝子および前記rAAVプロベクターを、前記ヘルパーウイルスをすでに導入した宿主細胞中へ、同時に、または連続して導入する工程を包含する、方法。
【請求項9】
請求項1に記載のrAAV粒子の集団を生成する方法であって、前記AAVプロデューサー細胞が、AAVrep遺伝子およびAAVcap遺伝子を含む、方法。
【請求項10】
請求項1に記載のrAAV粒子の集団を生成する方法であって、前記AAVrep遺伝子およびAAVcap遺伝子が、前記AAVプロデューサー細胞のゲノム中に安定に組み込まれている、方法。
【請求項11】
請求項1に記載のrAAV粒子の集団を生成する方法であって、工程a)における前記プロデューサー細胞を提供する工程が、該プロデューサー細胞中に少なくとも1つのAAVスプリットパッケージング遺伝子を導入する工程を包含する、方法。
【請求項12】
請求項1に記載のrAAV粒子の集団を生成する方法であって、前記ヘルパーウイルスがアデノウイルスである、方法。
【請求項13】
請求項1に記載のrAAV粒子の集団を生成する方法であって、前記ヘルパーウイルスが、温度感受性ヘルパーウイルスであり、そして前記プロデューサー細胞をインキュベートする工程が、AAVの複製を可能にするが、該温度感受性ヘルパーウイルスの複製を可能にしない温度で行われる、方法。
【請求項14】
請求項1に記載のrAAV粒子の集団を生成する方法であって、前記ヘルパーウイルスが温度感受性アデノウイルスである、方法。
【請求項15】
請求項1に記載のrAAV粒子の集団を生成する方法であって、前記ヘルパーウイルスがアデノウイルスAd−ts149である、方法。
【請求項16】
請求項1に記載のrAAV粒子の集団を生成する方法であって、前記AAVプロデューサー細胞溶解物がまた、AAV上に存在する1つ以上の表面分子について特異的なリガンドを有する樹脂上でアフィニティー精製される、方法。
【請求項17】
請求項16に記載のrAAV粒子の集団を生成する方法であって、前記アフィニティー精製が、イオン交換クロマトグラフィー後に行われる、方法。
【請求項18】
請求項16に記載のrAAV粒子の集団を生成する方法であって、前記リガンドがAAV上に存在する表面分子について特異的な抗体である、方法。
【請求項19】
請求項1に記載のrAAV粒子の集団を生成する方法であって、工程b)のAAVプロデューサー細胞が、溶解される前に濃縮される、方法。
【請求項20】
請求項19に記載のrAAV粒子の集団を生成する方法であって、工程b)のAAVプロデューサー細胞が、溶解される前に、遠心分離または接線流濾過によって濃縮される、方法。
【請求項21】
請求項1に記載のrAAV粒子の集団を生成する方法であって、前記AAVプロデューサー細胞を溶解する工程が、該細胞を、ミクロフルイダイゼーション、超音波処理、および凍結融解からなる群から選択される溶解技術に供することによって行われる、方法。
【請求項22】
請求項21に記載のrAAV粒子の集団を生成する方法であって、前記AAVプロデューサー細胞を溶解する工程が、該細胞を、ミクロフルイダイゼーションに供することによって行われる、方法。
【請求項23】
請求項1に記載のrAAV粒子の集団を生成する方法であって、工程c)のAAVプロデューサー細胞の溶解物が、クロマトグラフィーの前にヌクレアーゼで処理される、方法。
【請求項24】
請求項23に記載のrAAV粒子の集団を生成する方法であって、前記ヌクレアーゼがBensonaseである、方法。
【請求項25】
請求項1に記載のrAAV粒子の集団を生成する方法であって、工程c)の前記AAVプロデューサー細胞の溶解物が、クロマトグラフィーの前に明澄化される、方法。
【請求項26】
請求項25に記載のrAAV粒子の集団を生成する方法であって、工程c)のAAVプロデューサー細胞の溶解物が、クロマトグラフィーの前に濾過または遠心分離によって明澄化される、方法。
【請求項27】
請求項1に記載のrAAV粒子の集団を生成する方法であって、前記AAVプロデューサー細胞が、溶解の前に濃縮され、少なくとも50mM NaCl溶液のイオン強度と同じイオン強度の生理食塩水を含む緩衝液中に再懸濁され、溶解され、次いでクロマトグラフィーの前に濾過によって明澄化される、方法。
【請求項28】
請求項2に記載のrAAV粒子の集団を生成する方法であって、前記rAAV粒子を含むクロマトグラフィー画分が、前記クロマトグラフィー樹脂から溶出された後に濾過または遠心分離によって濃縮される、方法。
【請求項29】
請求項2に記載のrAAV粒子の集団を生成する方法であって、前記rAAV粒子を含むクロマトグラフィー画分が、接線流濾過によって濃縮される、方法。
【請求項30】
請求項1に記載のrAAV粒子の集団を生成する方法であって、前記陰イオン交換樹脂が、N−荷電アミノ樹脂またはイミノ樹脂である、方法。
【請求項31】
請求項1に記載のrAAV粒子の集団を生成する方法であって、前記陰イオン交換樹脂が、POROS 50 PI樹脂、ジエチルアミノエチル(DEAE)樹脂、トリメチルアミノエチル(TMAE)樹脂、4級アミン樹脂、およびポリエチレンイミン(PEI)樹脂からなる群から選択される、方法。
【請求項32】
請求項2に記載のrAAV粒子の集団を生成する方法であって、前記陽イオン樹脂が、スルホ基ベース、ホスホ基ベース、またはカルボキシル基ベースの陽イオン樹脂である、方法。
【請求項33】
請求項2に記載のrAAV粒子の集団を生成する方法であって、前記陽イオン交換樹脂が、HS樹脂、SP樹脂、およびカルボキシルメチル(CM)樹脂からなる群から選択される、方法。
【請求項34】
請求項1に記載のrAAV粒子の集団を生成する方法であって、工程a)のプロデューサー細胞が、結合依存性の哺乳動物細胞株である、方法。
【請求項35】
請求項1に記載のrAAV粒子の集団を生成する方法であって、工程a)で提供された前記プロデューサー細胞をインキュベートする前記工程b)が、組織培養フラスコ、ローラーボトル、スピナーフラスコ、タンクリアクター、発酵槽、およびバイオリアクターからなる群から選択される容器中で行われる、方法。
【請求項36】
請求項1に記載のrAAV粒子の集団を生成する方法であって、工程a)で提供されるプロデューサー細胞をインキュベートする前記工程b)が、マイクロキャリアを使用して行われる、方法。
【請求項37】
請求項1に記載のrAAV粒子の集団を生成する方法であって、前記容器が、中空繊維バイオリアクター、充填床バイオリアクター、または流動床バイオリアクターである、方法。
【請求項38】
請求項1に記載のrAAV粒子の集団を生成する方法であって、工程a)のプロデューサー細胞が、懸濁液適合化哺乳動物細胞株である、方法。
【請求項39】
請求項1に記載のrAAV粒子の集団を生成する方法であって、工程a)で提供されるプロデューサー細胞をインキュベートする前記工程b)が、スピナーフラスコ、タンクリアクター、およびエアリフト発酵槽からなる群から選択される容器中で行われる、方法。
【請求項40】
請求項1に記載のrAAV粒子の集団を生成する方法であって、工程a)で提供されるプロデューサー細胞をインキュベートする前記工程b)が、表2に本質的に示されるrAAV培地中で行われる、方法。
【請求項41】
請求項1に記載のrAAV粒子の集団を生成する方法であって、前記プロデューサー細胞が、293 N3細胞またはHeLa S3細胞である、方法。
【請求項42】
請求項1に記載のrAAV粒子の集団を生成する方法であって、工程b)が少なくとも5日間行われる、方法。
【請求項43】
請求項1に記載のrAAV粒子の集団を生成する方法であって、前記プロデューサー細胞をインキュベートする工程b)が、多リットルバイオリアクターにおいて行われ、そしてバイオリアクター容量1リットルあたりrAAVの少なくとも約109個の複製可能なユニットが工程e)の後に単離される、方法。
【請求項44】
組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)粒子の集団を生成する方法であって、以下の工程:
a)以下を含むAAVプロデューサー細胞を提供する工程:
(i)1つ以上のAAVパッケージング遺伝子であって、ここで該AAVパッケージング遺伝子の各々は、AAV複製またはキャプシド化タンパク質をコードする、遺伝子;
(ii)少なくとも1つのAAV逆方向末端反復配列(ITR)に隣接する異種非AAVポリヌクレオチドを含む組換えAAV(rAAV)プロベクター;および
(iii)AAVのヘルパーウイルスまたは少なくとも1つのヘルパーウイルス機能をコードする該ヘルパーウイルスのポリヌクレオチド配列;
b)工程a)で提供されるプロデューサー細胞を致死量未満のストレスに供する工程;ならびに
c)工程b)の該ストレスを受けたプロデューサー細胞を、AAVの複製を可能にする条件下でインキュベートする工程、
を包含する、方法。
【請求項45】
請求項44に記載のrAAV粒子の集団を生成する方法であって、前記致死量未満のストレスが、栄養性ストレス、浸透圧性ストレス、pHストレス、温度ストレス、有酸素性ストレス、機械的ストレス、放射能性ストレス、および毒性ストレスからなる群から選択される、方法。
【請求項46】
請求項44に記載のrAAV粒子の集団を生成する方法であって、前記致死量未満のストレスが、栄養性のストレスである、方法。
【請求項47】
請求項44に記載のrAAV粒子の集団を生成する方法であって、前記致死量未満のストレスが、浸透圧性ストレスである、方法。
【請求項48】
請求項44に記載のrAAV粒子の集団を生成する方法であって、前記致死量未満のストレスが、pHストレスである、方法。
【請求項49】
請求項48に記載のrAAV粒子の集団を生成する方法であって、前記pHストレスが、pH7.2より上までpHを上げることを包含する、方法。
【請求項50】
請求項48に記載のrAAV粒子の集団を生成する方法であって、前記pHストレスが、pHを少なくとも7.4まで上昇させることを包含し、そしてここで前記生成された大部分のAAV粒子が、前記上清中へ放出される、方法。
【請求項51】
請求項48に記載のrAAV粒子の集団を生成する方法であって、前記pHストレスが、pHを約8.0まで上げることを包含する、方法。
【請求項52】
請求項44に記載のrAAV粒子の集団を生成する方法であって、前記致死量未満のストレスが、温度ストレスである、方法。
【請求項53】
請求項44に記載のrAAV粒子の集団を生成する方法であって、前記致死量未満のストレスが有酸素性ストレスである、方法。
【請求項54】
請求項44に記載のrAAV粒子の集団を生成する方法であって、前記致死量未満のストレスが機械的ストレスである、方法。
【請求項55】
請求項44に記載のrAAV粒子の集団を生成する方法であって、前記致死量未満のストレスが放射能性ストレスである、方法。
【請求項56】
請求項44に記載のrAAV粒子の集団を生成する方法であって、前記致死量未満のストレスが毒性ストレスである、方法。
【請求項57】
請求項46に記載のrAAV粒子の集団を生成する方法であって、前記栄養性ストレスが、前記プロデューサー細胞を1つ以上のアミノ酸が欠乏している培地中で培養することを包含する、方法。
【請求項58】
請求項46に記載のrAAV粒子の集団を生成する方法であって、前記栄養性ストレスが、前記プロデューサー細胞をアスパラギン酸が欠乏している培地中で培養することを包含する、方法。
【請求項59】
請求項46に記載のrAAV粒子の集団を生成する方法であって、前記栄養性ストレスが、前記プロデューサー細胞をグルタミン酸が欠乏している培地中で培養することを包含する、方法。
【請求項60】
請求項58に記載のrAAV粒子の集団を生成する方法であって、前記欠乏培地が、10μmol/L未満のアスパラギン酸を含有する、方法。
【請求項61】
請求項59に記載のrAAV粒子の集団を生成する方法であって、前記欠乏培地が、2μmol/L未満のグルタミン酸を含有する、方法。
【請求項62】
請求項46に記載のrAAV粒子の集団を生成する方法であって、前記栄養性ストレスが、前記プロデューサー細胞を血清が欠乏している培地中で培養することを包含する、方法。
【請求項63】
請求項46に記載のrAAV粒子の集団を生成する方法であって、前記細胞が、該細胞を栄養的に欠乏している培地中に導入することによって前記栄養性ストレスに供される、方法。
【請求項64】
請求項46に記載のrAAV粒子の集団を生成する方法であって、前記細胞が、該細胞を培地が栄養的に欠乏するまで該培地中で培養することによって前記栄養性ストレスに供される、方法。
【請求項65】
請求項1に記載のrAAV粒子の集団を生成する方法であって、rAAVベクター粒子の前記精製された集団が、複製コンピテントなAAVおよびヘルパーウイルスおよび細胞タンパク質を実質的に含まない、方法。
【請求項66】
請求項1に記載のrAAV粒子の集団を生成する方法であって、ここで前記クロマトグラフィー樹脂からの溶出が、塩濃度を増大させることによって行われ、そしてrAAV粒子を含むクロマトグラフィー溶出物が、希釈、透析、ダイアフィルトレーション、または濃縮によって有効塩濃度を低減させるために引き続いて処理される、方法。
【請求項67】
請求項1〜66のいずれか1項に記載のrAAV粒子の集団を生成する方法であって、AAV粒子を含む画分をヘパリン硫酸クロマトグラフィーに供する工程を包含する、方法。
【請求項68】
組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)粒子の集団を生成する方法であって、以下の工程:
a)以下を含むAAVプロデューサー細胞を提供する工程:
(i)1つ以上のAAVパッケージング遺伝子であって、ここで該AAVパッケージング遺伝子の各々が、AAV複製またはキャプシド化タンパク質をコードする、遺伝子;
(ii)少なくとも1つのAAV逆方向末端反復(ITR)に隣接する異種非AAVポリヌクレオチドを含む組換えAAV(rAAV)プロベクター;および
(iii)AAVのヘルパーウイルス;
b)工程a)で提供されるプロデューサー細胞を、AAVの複製が可能な条件下でインキュベートする工程であって、該AAVプロデューサー細胞において致死量未満のストレスを誘導することを含む、工程;
c)工程b)のインキュベーションの後に該プロデューサー細胞を溶解して、AAVプロデューサー細胞溶解物を生成する工程;ならびに
d)該AAVプロデューサー細胞溶解物を精製して、組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)粒子の集団を生成する工程、
を包含する、方法。
【請求項69】
請求項68に記載のrAAV粒子の集団を生成する方法であって、前記精製工程d)が、工程c)のAAVプロデューサー細胞溶解物を、少なくとも1つの正に荷電した陰イオン交換樹脂上でクロマトグラフィーにかけ、続いて陽イオン交換樹脂かまたは接線流濾過によってのいずれかで精製して、rAAVベクター粒子の精製された集団を生成する工程を含む、方法。
【請求項70】
請求項68に記載のrAAV粒子の集団を生成する方法であって、前記精製する工程d)が、工程c)のAAVプロデューサー細胞溶解物を、正に荷電した陰イオン交換樹脂上でクロマトグラフィーにかけ、続いて接線流濾過によりrAAVベクター粒子の精製された集団を生成する工程を含む、方法。
【請求項71】
請求項68に記載のrAAV粒子の集団を生成する方法であって、前記rAAVプロベクターが、2つのAAV逆方向末端反復配列(ITR)に隣接している異種非AAVポリヌクレオチドを含む、方法。
【請求項72】
請求項68に記載のrAAV粒子の集団を生成する方法であって、前記AAVプロデューサー細胞が、該AAVプロデューサー細胞のゲノムに安定に組み込まれている少なくとも1つのAVVパッケージング遺伝子を含む、方法。
【請求項73】
請求項68に記載のrAAV粒子の集団を生成する方法であって、前記AAVプロデューサー細胞が、AAVrep遺伝子およびAAVcap遺伝子を含む、方法。
【請求項74】
請求項68に記載のrAAV粒子の集団を生成する方法であって、前記ヘルパーウイルスがアデノウイルスである、方法。
【請求項75】
組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)粒子を高効率で生成するための宿主細胞であって、以下:
a)1つ以上のAAVパッケージング遺伝子であって、ここで該AAVパッケージング遺伝子の各々は、AAV複製またはキャプシド化タンパク質をコードする、遺伝子;
b)rAAVプロベクターを使用して該宿主細胞中に導入された異種ポリヌクレオチドであって、ここで該rAAVプロベクターは、少なくとも1つのAAV逆方向末端反復配列(ITR)に隣接し、そして該AAVパッケージング遺伝子が欠乏している該異種ポリヌクレオチドを含む、異種ポリヌクレオチド;
c)AAVの温度感受性ヘルパーウイルス(tsHV)であって、該tsHVが自己複製について温度感受性である、ウイルス、
を含む、宿主細胞。
【請求項76】
請求項1〜74に記載の方法のいずれか1つによって生成される、rAAV粒子の集団。
【請求項77】
100万個の感染性rAAV粒子あたり1個以下の感染性アデノウイルス粒子を含有する、請求項76に記載のrAAV粒子の集団。
【請求項78】
108個の感染性rAAV粒子あたり1個以下の感染性アデノウイルスを含有する、請求項76に記載のrAAV粒子の集団。
【請求項79】
哺乳動物細胞において複製し得るウイルスを含有する調製物の感染性力価を決定するための高処理能力アッセイであって、以下の工程:
a)それぞれ哺乳動物細胞のアリコートおよび力価測定されるべきウイルス調製物のアリコートを含む培養ウェルのアレイを提供する工程;
b)工程a)の細胞およびウイルスをインキュベートして該ウイルスの複製を可能にする工程;
c)該細胞を溶解して、ウイルスポリヌクレオチドを含有する多数の溶解物を生成する工程;
d)工程c)からの該多数の溶解物を、核酸の結合する膜に移して、核酸の膜結合アレイを生成する工程;
e)工程d)の核酸の膜結合アレイをウイルス特異的プローブとハイブリダイズさせ、次いで該培養ウェルの各々において複製されたウイルス核酸の相対量を決定する工程、
を包含する、アッセイ。
【請求項80】
前記ウイルスがアデノウイルスまたはAAVである、請求項79に記載のウイルス調製物の感染性力価を決定するための高処理能力アッセイ。
【請求項81】
前記ウイルスがAAVである、請求項79に記載のウイルス調製物の感染性力価を決定するための高処理能力アッセイ。
【請求項82】
前記培養ウェルのアレイが、マイクロタイター容器の形態である、請求項79に記載のウイルス調製物の感染性力価を決定するための高処理能力アッセイ。
【請求項83】
前記ウイルス調製物のアリコートが連続希釈されたアリコートである、請求項79に記載のウイルス調製物の感染性力価を決定するための高処理能力アッセイ。
【請求項84】
哺乳動物細胞におけるウイルスの複製に影響を及ぼす薬剤をスクリーニングする高処理方法であって、以下の工程:
a)それぞれ哺乳動物細胞のアリコート、該ウイルスのアリコート、および必要に応じて該薬剤のアリコートを含む培養ウェルのアレイを提供する工程;
b)該細胞、ウイルス、および必要に応じて工程a)の薬剤をインキュベートして、該ウイルスの複製を可能にする工程;
c)該細胞を溶解して、ウイルスポリヌクレオチドを含有する多数の溶解物を産生する工程;
d)工程c)からの該多数の溶解物を、核酸の結合する膜に移して、核酸の膜結合アレイを生成する工程;
e)工程d)の核酸の該膜結合アレイをウイルス特異的プローブとハイブリダイズさせ、次いで該培養ウェルの各々において複製したウイルス核酸の相対量を決定する工程、
を包含する、方法。
【請求項85】
前記ウイルスがアデノウイルスまたはAAVである、請求項84に記載のウイルスの複製に影響を及ぼす薬剤についてスクリーニングする高処理能力方法。
【請求項86】
前記ウイルスがAAVである、請求項84に記載のウイルスの複製に影響を及ぼす薬剤についてスクリーニングする高処理能力方法。
【請求項87】
前記培養ウェルのアレイがマイクロタイター容器の形態である、請求項84に記載のウイルスの複製に影響を及ぼす薬剤をスクリーニングする高処理能力方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2010−213696(P2010−213696A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−53589(P2010−53589)
【出願日】平成22年3月10日(2010.3.10)
【分割の表示】特願2000−508776(P2000−508776)の分割
【原出願日】平成10年9月4日(1998.9.4)
【出願人】(500107315)ターゲティッド ジェネティクス コーポレイション (3)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年3月10日(2010.3.10)
【分割の表示】特願2000−508776(P2000−508776)の分割
【原出願日】平成10年9月4日(1998.9.4)
【出願人】(500107315)ターゲティッド ジェネティクス コーポレイション (3)
【Fターム(参考)】
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