説明

経口摂取物

【課題】自然界に存在するアミノ酸の一種であるγ−アミノ酪酸は、降圧剤としての効果が認められており、今後も期待される素材である。これに加え、γ−アミノ酪酸以外の組成物をさらに含有させることにより、血圧降下作用をより効果的に得ることができる、高血圧の治療に有効な組成物が求められている。
【解決手段】清酒醸造副産物を原料に、乳酸菌を作用させ、γ−アミノ酪酸を含有する組成物を得た。原料に米糠、及び/又はグルタミン酸又はその塩を加えてもよい。
この組成物は、γ−アミノ酪酸を単独摂取した場合よりも強い血圧降下作用を示した。さらにこの組成物とACE阻害ペプチドを併用した場合それぞれ少量でも、相乗的な効果が得られ、強い血圧降下作用を示すことを見出した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、清酒醸造副産物を原料とした組成物に関するものであり、特に高血圧を予防・治療・改善する組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
高血圧は生活習慣病の一つに挙げられているが、高血圧はある程度まで進行しないと特別な自覚症状がない。このため、高血圧はサイレントキラーとも呼ばれ、自覚症状がないままに密かに病状が進行し、数々の合併症を引き起こす可能性がある。血管の壁は本来弾力性があるが、高血圧状態が長く続くと動脈硬化を引き起こし脳出血や脳梗塞、大動脈瘤、心筋梗塞、眼底出血などの原因となる。また、細小動脈の硬化が進むと腎硬化症を発症することにより腎臓の機能が低下し、腎不全や尿毒症になる場合もある。また、心臓に負担がかかることにより心臓肥大や心不全を引き起こすこともある。
【0003】
日本高血圧学会の高血圧治療ガイドラインでは、血圧値に基づいて至適血圧、正常血圧、正常高値血圧、高血圧に分類されており、収縮期血圧(最高血圧)140mmHg以上、又は拡張期血圧(最低血圧)90mmHg以上を高血圧と定義している。血圧は年齢と共に上がる傾向にあり、2005年現在、高血圧患者は全国で3000万人から3500万人と言われており、そのうち約700万人が治療を受けている。
【0004】
高血圧患者の数は非常に多いが、現在の医学検査では高血圧の明らかな原因が見つからないものを本態性高血圧と言い、高血圧の90%以上を占めている。残りの10%程度の高血圧は二次性高血圧あるいは症候性高血圧と言い、血圧を上げる原因が見つかっている。二次性高血圧としては、大動脈縮窄症、腎血管性高血圧、腎実質性高血圧、原発性アルドステロン症、クッシング症候群、褐色細胞腫、大動脈炎症候群、甲状腺機能異常などが挙げられ、それぞれの原因疾患の治療を行うことが血圧の低下に有効である。
【0005】
一方、本態性高血圧は遺伝的な因子や生活習慣などの環境因子が関与しており、例えば過剰な塩分摂取・肥満・過度の飲酒・喫煙・精神的ストレス・自律神経の調節異常・過剰の肉体労働・タンパク質や脂質の不適切な摂取などがある。これらの要因は複雑に影響を及ぼしあっているため高血圧の原因となっている因子を特定することは難しい。従って、本態性高血圧を治療する有効な方法は降圧剤で血圧を下げるということ以外にはあまりないのが現状である。
【0006】
高血圧の治療薬としての降圧剤としては、現在主に次のようなものが挙げられる。体内のナトリウムや水分を排泄して血液量を減らすことで血圧を下げる利尿剤、心臓や血管の緊張を和らげ血圧を下げる交感神経抑制剤であるβブロッカーあるいはαブロッカー、血管を拡張させて血圧を下げるカルシウム拮抗剤、血管を収縮させて血圧を上げるホルモン(アンジオテンシンII)が作られるのを抑えて血圧を下げるアンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害剤、アンジオテンシンIIが血管に働きかけるのを抑えて血管の収縮を抑えて血圧を下げるアンジオテンシンII受容体拮抗剤などである。
【0007】
しかしながら、これら降圧剤の投与にはそれぞれ禁忌が存在し、例えばサイアザイド系利尿剤は痛風に対し、抗アルドステロン利尿剤は腎不全や高カリウム血症に対し、βブロッカーは気管支喘息や慢性閉塞性肺疾患に対し、αブロッカーは起立性低血圧症に対し、カルシウム拮抗剤はうっ血性心不全に対し、ACE阻害剤は妊娠や高カリウム血症や両側腎動脈狭窄に対し、アンジオテンシンII受容体拮抗剤は妊娠や高カリウム血症や両側腎動脈狭窄に対してそれぞれ禁忌である。
【0008】
また、これらの降圧剤の服用によって、副作用を生じることもある。利尿剤では低カリウム血症や高尿酸血症や血液濃縮など、βブロッカーでは気管支喘息の誘発や慢性閉塞性肺疾患の悪化や徐脈や抹消循環障害や脂質代謝異常など、αブロッカーではめまいなど、カルシウム拮抗剤では顔面紅潮や頭痛や動悸や上下肢の浮腫や便秘など、ACE阻害剤では空咳や血管浮腫や腎機能低下など、アンジオテンシンII受容体拮抗剤では血管浮腫や腎機能低下などである。
【0009】
ところで、近年、アミノ酸の一種であるγ−アミノ酪酸(GABA:Gamma−Amino Butyric Acid)が天然の降圧素材として注目されている。γ−アミノ酪酸は生体内ではグルタミン酸から生成され、主に海馬、小脳、脊髄などに存在する抑制性の神経伝達物質である。主に中枢神経系に存在するが、抹消組織にも存在することが知られている。薬理作用として、脳代謝促進作用、成長ホルモン分泌促進作用などと共に、血圧降下作用が認められている。γ−アミノ酪酸の降圧作用機作については完全には明らかにされていないが、γ−アミノ酪酸が末梢交感神経の亢進を抑え、血管収縮作用のあるノルアドレナリンの分泌を抑えることにより、降圧作用を示す、と考えられている。
【0010】
γ−アミノ酪酸は玄米など、種子の胚芽などに多く含まれる。また、市販の食品中では、ヨーグルトの一部、清酒・ワイン・ビール等の酒類、酢、漬物、キムチ、野菜ジュース等、多くの食品に含有されている。特にキムチでの含量が多く、これはキムチ中の乳酸菌によりγ−アミノ酪酸が生産されているものと考えられている。γ−アミノ酪酸は非タンパク質アミノ酸であり、微生物に広く分布するグルタミン酸デカルボキシラーゼ(GAD)の作用によりグルタミン酸が脱炭酸されて生成する。このため、高価であるγ−アミノ酪酸を得るために、安価なグルタミン酸又はその塩を原料とする方法は有効である。γ−アミノ酪酸を高生産させる方法として、米糠、又は発芽玄米糠などにグルタミン酸ナトリウムを加え、これを乳酸菌で発酵させたところ、γ−アミノ酪酸が高生産したという報告がある(特許文献1、特許文献2)。
【0011】
このように、自然界に存在するアミノ酸の一種であるγ−アミノ酪酸は、近年降圧剤としての利用が期待されている。しかし、γ−アミノ酪酸は、その投与量をある程度以上増やしても降圧作用にある程度限界があるという問題がある。
【0012】
そこで、γ−アミノ酪酸とACE阻害ペプチドを組み合わせて投与することにより、降圧効果を上げたという報告がある(特許文献3)。特許文献3では、ACE阻害ペプチドとして、イワシ由来ペプチド又は発酵乳のペプチドを用いているが、呈味性の問題があり、ヨーグルト香料を用いて調整をして高血圧の被験者に投与している。また、γ−アミノ酪酸の投与量は、100μg/kgで、投与後8時間後の血圧降下を測定しており、ACE阻害ペプチドとの組み合わせの結果、約20mmHgの血圧降下が見られている。
【0013】
ACE阻害ペプチドを得る方法として、従来牛乳カゼイン、大豆タンパク質、イワシタンパク質、トウモロコシ、小麦、卵白アルブミンなどの加水分解物からの単離が報告されているが、その他には醤油粕からACE阻害ペプチドを単離したという報告もある(特許文献4)。
【0014】
また、他には麦若葉とγ−アミノ酪酸含有物を組み合わせることで降圧効果を上げたという報告もある(特許文献5)。特許文献5によれば、麦若葉にγ−アミノ酪酸富化処理を施し、これにγ−アミノ酪酸を含有する組成物である糸状菌培養物又は胚芽を加えることにより、相乗的な抗高血圧効果が得られたとされている。特許文献5の実験系では9週齢の高血圧自然発症ラットに食餌に大麦若葉及びγ−アミノ酪酸を含有する組成物として糸状菌培養物、米胚芽などを8週間投与しているが、1日の食餌摂取量から計算されるγ−アミノ酪酸投与量は2〜7mg程度と考えられる。
【0015】
【特許文献1】特開平11−56276号公報
【特許文献2】特開2005−65691号公報
【特許文献3】特開2002−241305号公報
【特許文献4】特開平5−279263号公報
【特許文献5】特開2002−227号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
このように自然界に存在するアミノ酸の一種であるγ−アミノ酪酸は降圧剤としての効果が注目を集めている素材であり、γ−アミノ酪酸含量が少なくてもγ−アミノ酪酸の降圧効果をより高め、高血圧の治療に有効で副作用がない自然原料の組成物の提供が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0017】
そこで、本発明者らは鋭意検討の結果、清酒醸造過程で生じる副産物に乳酸菌を加えて作用させることにより、γ−アミノ酪酸を含有する発酵組成物が得られること、更に清酒醸造副産物に米糠、及び/又はグルタミン酸又はその塩を加えたものに乳酸菌を作用させることにより、より効率よくγ−アミノ酪酸を含有する発酵組成物が得られること、更にこのようにして得られた組成物は同量のγ−アミノ酪酸を単独で摂取した場合よりも強い血圧降下作用を示すことを見出し、高血圧の予防・治療・改善により効果的な天然原料の組成物を得るに至った。
【0018】
さらに、これらの発酵組成物にさらにACE阻害ペプチドを添加したものは、相乗的な血圧降下効果が得られ、発酵組成物単独またはACE阻害ペプチド単独を摂取した場合よりも強い血圧降下作用を示すことを見出した。
【0019】
本発明は、上記知見に基づき完成されたもので、以下、降圧効果のある組成物、その組成物を有効成分とする高血圧の予防・治療・改善剤、その組成物を含有し、高血圧を予防または改善するために用いられる旨の表示を付した飲食品などを提供すること、及びそれらの製造方法に関する。
【0020】
項1. 清酒醸造過程で生じる副産物に乳酸菌を作用させたγ-アミノ酪酸を含有することを特徴とする組成物。
項2. 清酒醸造過程で生じる副産物が液化仕込清酒の醸造により得られる酒粕であることを特徴とする項1に記載の組成物。
項3. 更に、米糠を配合してなることを特徴とする、項1又は2に記載の組成物。
項4. 更に、グルタミン酸及び/又はその塩を添加してなることを特徴とする、項1〜3のいずれか1項に記載の組成物。
項5. 乳酸菌がラクトバチルス ブレビス(Lactobacillus brevis)に属する乳酸菌である項1〜4のいずれか1項に記載の組成物。
項6. 項1〜5のいずれか1項に記載の組成物を有効成分とする高血圧予防・治療・改善剤。
項7. 項1〜5のいずれか1項に記載の組成物を含有し、高血圧を予防または改善するために用いられる旨の表示を付した飲食品。
項8. 項1〜5のいずれか1項に記載の組成物及びACE阻害ペプチドを含有することを特徴とする組成物。
項9. 項8に記載の組成物を有効成分とする高血圧予防・治療・改善剤。
項10. 項8に記載の組成物を含有し、高血圧を予防または改善するために用いられる旨の表示を付した飲食品。
項11. 項1〜5のいずれか1項に記載の組成物、及び/又は項8に記載の組成物の製造法。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明を詳細に記述する。
【0022】
(1)清酒醸造副産物を原料とする組成物
【0023】
本発明に使用する清酒醸造副産物とは、清酒醸造過程で得られる清酒以外のものであれば特に限定はなく、液状の物、固形状の物であってもよい。例えば、液状の物として、清酒醪を挙げることができる。また、固形状の物として、清酒醪から清酒を分離した残りの不溶性残渣である酒粕を挙げることができる。清酒からの分離方法はどのようなものであっても構わない。酒粕の種類はいかなるものであっても構わないが、原料米の液化液を掛米として使用することを特徴とする清酒の醸造法である、いわゆる液化仕込みによって得られる酒粕(以下、液化粕と称する)は、通常の酒粕と比べてタンパク質・ペプチドを多く含むなどの特徴があり、特に好ましい。また、醸造副産物に含まれるアルコール除去は常法に従って行えばよい。
【0024】
本発明においては、醸造副産物を原料として単用するほか、醸造副産物に更に米糠、及び/またはグルタミン酸又はその塩を添加することでγ−アミノ酪酸を効率よく含有することができ、血圧降下効果が高まる。これらの原料を単独、または混合した組成物に乳酸菌を作用させて発酵組成物を得る。組成物の混合比率に特に規定はないが、醸造副産物に対する米糠の添加量は0〜50重量%が好ましく、より好ましくは2〜20重量%であることが望ましい。グルタミン酸又はその塩の添加量は0〜30重量%が好ましく、より好ましくは1〜15重量%であることが望ましい。水分は乳酸菌が生育できる環境であれば特に制限されないが、醸造副産物が酒粕である場合は酒粕の0.5〜10倍が好ましく、より好ましくは1〜5倍であることが望ましい。更に、乳酸菌の生育のためにグルコースを添加してもよい。グルコースの添加量は0〜10重量%が好ましく、より好ましくは0.5〜5重量%であることが望ましい。これらを添加した後、ミキサー又はグラインダーを用いて粉砕懸濁する。この混合組成物に前培養をしておいた乳酸菌を添加するが、乳酸菌の添加量は混合組成物中、10〜10cells/mlであることが好ましく、より好ましく10〜10cells/mlであることが望ましい。発酵温度は15〜45℃が好ましく、より好ましくは30〜40℃が望ましい。また、発酵時間は16〜72時間が好ましく、より好ましくは20〜50時間が望ましい。
【0025】
乳酸菌発酵を行うにあたっては、混合組成物より得られる発酵組成物の香気・味覚を良好にするために発酵条件を好気条件にすることが望ましい。例えば発酵容器の蓋に複数の小さな通気孔を設けることにより、乳酸菌発酵を好気条件で行うことができ、その結果、良好な香気を有しており味覚にも優れた発酵組成物が得られる。
【0026】
このようにして得られた発酵組成物を遠心分離、フィルター濾過などの方法により固液分離を行い、液体部分を凍結乾燥、スプレードライなどの方法を用いて発酵組成物上清粉末を得る。又は、得られた発酵組成物を固液分離せずにそのまま凍結乾燥、スプレードライなどの方法を用いて発酵組成物粉末を得ることもできる。
【0027】
このようにして得られた発酵組成物上清粉末又は発酵組成物粉末を以後、発酵組成物と呼ぶこともある。
【0028】
(2)乳酸発酵に用いる乳酸菌
【0029】
本発明で用いる乳酸菌はγ−アミノ酪酸生成能を有するものであれば特に限定はないが、例としてLactobacillus属、Leuconostoc属、Streptococcus属、Pediococcus属、及びBifidobacterium属等に属するものを挙げることができる。これらの中でもLactobacillus属に属するものが好ましく、この例として、Lactobacillus brevis、Lactobacillus bulgaricus、Lactobacillus delbrueckii、Lactobacillus leichmannii、Lactobacillus plantarum、Lactobacillus lactis、Lactobacillus helveticus、Lactobacillus acidophilus、Lactobacillus casei、及びLactobacillus fermentum等を挙げることができる。これらの中でもLactobacillus brevisに属するものがより好ましい。
【0030】
また、発明者らは、γ-アミノ酪酸生成能の高い数十種類の乳酸菌を食品から単離した。これらの乳酸菌をそれぞれ用いて液化粕の発酵試験、及び発酵した液化粕の味覚官能試験を行った。その中から発酵力に優れ、かつ発酵後の液化粕が味覚に優れていた1株の乳酸菌を選択した。選択した菌株の同定試験を行ったところ、本菌株はLactobacillus brevisと同定された。
【0031】
(3)血圧降下試験
【0032】
高血圧自然発症ラット(Spontaneously Hypertensive Rat:SHR)は京都大学医学部病理学教室において、正常血圧ウィスター京都ラット(Wistar Kyoto Rat:WKY)から選択交配によって確立された近交系で、加齢に伴って遺伝的に高血圧を発症する。遺伝性高血圧を発症するラットは世界中で確立されているが、確実に高血圧を発症するのはSHRのみで、このモデル動物は高血圧の研究や新薬の開発に世界中で一番多く使用されている。
【0033】
本発明においては、血圧降下の評価において、上記のSHRを用いた。SHRは生後3ヶ月頃より次第に高血圧を発症し、ヒトの本態性高血圧と同じ症状と病変を生じる。このため、試験に用いるSHRは、高血圧が発症した後の20週齢から30週齢のものを用いるのが好ましい。このSHRに、各サンプルを投与後、SHRの血圧を尾部カフ圧で測定し、血圧降下の評価を行った。
【0034】
(4)ACE阻害ペプチド
【0035】
本発明で用いたACE阻害ペプチドは次のようにして調製した。清酒の酒粕に適量の水を加えて、これにプロテアーゼを添加して酒粕中のタンパク質の分解処理をし、遠心分離後の上清を濃縮乾燥させた。分解に用いるプロテアーゼは、酸性プロテアーゼ、中性プロテアーゼ、アルカリ性プロテアーゼのいずれでもよく、例えば、コクラーゼ、サモアーゼ、レンネット、プロテアーゼA「アマノ」G、プロテアーゼM「アマノ」G、プロテアーゼN「アマノ」G、ニューラーゼF3G、パパインW−40、ウマミザイムG、プロメラインF、サモアーゼPC10F、ペプチダーゼR、サーモリシン、モルシンF、スミチームAP、ニュートラーゼ、アクチナーゼASなどの、市販の食品工業用酵素を広く使用できる。
【0036】
こうして得られた組成物のACE阻害活性を測定したところ、ACE阻害活性が見られたため、この酒粕プロテアーゼ分解物をACE阻害ペプチドとして用いた。本発明において、この組成物を以後ACE阻害ペプチドと表記するが、本発明においては、この組成物に関してこれ以上の精製などは行っていない。
【0037】
(5)発酵組成物を有効成分とする高血圧予防・治療剤
【0038】
本発明の発酵組成物を用いた高血圧予防・治療剤は、そのまま又は薬学的に許容される各種担体(賦形剤、増量剤、結合剤、崩壊剤、潤沢剤、付湿剤、着色剤、矯味矯臭剤らが含まれる)と配合して、適当な製剤とされる。また、この製剤には慣用の添加剤などを混合して医薬組成物として調製できる。
【0039】
製剤形態は、特に限定されず、例えばこの医薬組成物は、調製する形態(錠剤、丸剤、カプセル剤、散剤、顆粒剤、シロップ剤等の経口投与剤;注射剤、点滴剤、外用剤、座剤等の非経口投与剤などの各種製剤形態)を挙げることができる。経口投与剤の方が、非経口投与剤に比べて患者への負担が小さいために、使用し易い。
【0040】
賦形剤としては、公知のものを広く使用でき、例えば、乳糖、ショ糖、ブドウ糖等の各種の糖類、バレイショデンプン、コムギデンプン、トウモロコシデンプン等の各種デンプン類、結晶セルロース等の各種セルロース類、無水リン酸水素カルシウム、炭酸カルシウム等の各種無機塩類等が挙げられる。
【0041】
結合剤としては、公知のものを広く使用でき、例えば、結晶セルロース、プルラン、アラビアゴム、アルギン酸ナトリウム、ポリビニルピロリドン、マクロゴール等が挙げられる。
【0042】
崩壊剤としては、公知のものを広く使用でき、例えば、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースカルシウム、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルスターチ、デンプン、アルギン酸ナトリウム等が挙げられる。
【0043】
潤沢剤としては、ステアリン酸マグネシウム、タルク、硬化油などが挙げられる。
【0044】
付湿剤としては、公知のものを広く使用でき、例えば、ココナッツ油、オリーブ油、ゴマ油、落花生油、大豆リン脂質、グリセリン、ソルビトールなどが挙げられる。
【0045】
矯味矯臭剤としては、通常使用される甘味料、酸味料、香料など公知のものを広く使用でき、例えば、白糖、グルコース、フルクトース、キシリトール、ソルビトール、マンニトール、ケイヒ油、ハッカ油、メントールなどが挙げられる。
【0046】
(6)高血圧予防・治療剤を含む飲食品組成物
【0047】
本発明の高血圧予防・治療剤は食品添加剤として用いることができる。食品添加剤には、本発明の高血圧予防・治療剤の他に、糖類、デンプン類、セルロース、ステアリン酸マグネシウム、植物油などの担体や、添加剤が含まれていてもよい。食品添加剤の剤形は、特に限定されないが、例えば、粉状、顆粒状、液体状のような剤形とすることができる。
【0048】
本発明の組成物は、食品の風味を損ねるような味や匂いを有さない。従って、食品の種類は特に限定されない。例えば、飴、ガム、ケーキ、パイ、クッキー、クラッカー、ゼリー、チョコレート、プディング、アイスクリーム、ポテトチップス、羊羹、煎餅、饅頭、中華饅頭のような菓子;酒類、茶類、コーヒー類、スポーツドリンク類、清涼飲料水、スープ、乳飲料のような飲料;ヨーグルト、バター、チーズのような乳製品;ハム、ソーセージ、蒲鉾、竹輪のような練り物;ソース、ドレッシング、マヨネーズ、醤油、味噌、酢、味醂、トマト加工品(ケチャップ、トマトペースト、トマトピューレ)、カレールウ、酒粕、顆粒だしのような調味料;ふりかけ、漬物、佃煮、塩昆布のような常備惣菜類;惣菜;麺、米飯、粥のような主食類などが挙げられる。
【0049】
また、本発明の液体部分のみの粉末組成物は、高い水溶性を有しているため、飲料や、ソース、ドレッシング、醤油、酢、味醂のような液状調味料のような液状食品が好ましく、酒類、茶類、コーヒー類、スポーツドリンク類、及び清涼飲料水がより好ましい。また低pH条件下でも高い水溶性を示すため、マヨネーズやドレッシングのような液状酸性食品の添加剤としても好適に使用できるという利点がある。また、固液分離せずに粉末化した組成物は、上記液体食品のうち、透明性を必要としないタイプのソース、ドレッシングやマヨネーズなどの調味料に利用できる。さらに高温高圧処理に耐えるため、本発明の組成物を添加した食品の加熱加圧滅菌を行えるとともに、レトルト処理のような特殊な製造工程を経ることもできるという利点もある。加えて本組成物は、清酒製造原料を用いたものに含まれていることから、その安全性が歴史的に確認されている点でも、食品添加物として好適である。
【0050】
本発明の食品組成物には、その他に、加工食品に通常添加される各種の添加剤が含まれていてもよい。食品組成物の調製に当たり慣用されている各種添加剤を添加配合することができる。添加剤としては、例えば、安定化剤、pH調整剤、糖類、甘味料、香料、各種ビタミン類、ミネラル類、抗酸化剤、賦形剤、可溶化剤、結合剤、滑沢剤、懸濁剤、湿潤剤、皮膜形成物質、矯味剤、矯臭剤、着色料、保存剤等を例示することができる。
【0051】
また、本発明の食品組成物は、高血圧の予防若しくは改善のための栄養補助食品、即ちサプリメントとしても好適に使用できる。この場合の食品組成物中には、本発明の組成物の他に、サプリメントの担体として公知の成分が含まれていればよい。このような担体として、例えば糖類、デンプン類、セルロース、ステアリン酸マグネシウム、植物油が挙げられる。
【0052】
サプリメントの形状は特に限定されないが、例えば、錠剤状、粉状、顆粒状などの形状が挙げられる。
【0053】
以下、実施例を示して本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0054】
γ−アミノ酪酸高含有発酵組成物の製造(1)
【0055】
液化粕50gに対し米糠を0、5、10、20%添加した組成物に水150mlを加え、100℃で10分間加熱し、室温まで冷ました。これに前培養しておいた食品単離乳酸菌Lactobacillus brevisを10cells/mlを1ml接種して、36℃で70時間乳酸発酵させた。遠心分離した上清をアミノ酸分析(日立ハイテクノロジーズ製L−8800形高速アミノ酸分析計)に供し、グルタミン酸(Glu)とγ−アミノ酪酸(GABA)の濃度を計測した。
【0056】
その結果を表1に示す。米糠を添加しなかった場合と比較して米糠を添加した発酵組成物のγ−アミノ酪酸濃度は、極めて高く、グルタミン酸からγ−アミノ酪酸への転換率は、米糠を0、5、10、20%添加した場合、それぞれ21、88、94、94%であった。以上の結果より米糠を添加することでγ−アミノ酪酸の生産効率が飛躍的に向上することが分かった。
【0057】
【表1】

【0058】
さらに、原料にグルタミン酸又はその塩を添加する場合でも、米糠を配合することで、γ−アミノ酪酸の生成効率が向上する現象が認められ、γ−アミノ酪酸高含有発酵組成物を得た。
【実施例2】
【0059】
γ−アミノ酪酸高含有発酵組成物の製造(2)
【0060】
液化粕300gと、米糠15gと、グルタミン酸ナトリウム15g、グルコース6gを加え、さらに水750mlを加えてこれをミキサーで粉砕懸濁した。これに前培養しておいた食品単離乳酸菌Lactobacillus brevisを10cells/mlを10ml接種して、36℃で48時間乳酸発酵させた。この時、発酵が嫌気条件にならないように、発酵容器の蓋に通気孔を設けた。発酵を好気条件にすることにより、香気が良好で、味覚も優れた発酵物を得ることができた。これを3000gで15分間遠心分離し、その上清を凍結乾燥して、粉末約50gを得た。この粉末のγ−アミノ酪酸含量を測定したところ、全重量の20%がγ−アミノ酪酸であった。このようにしてγ−アミノ酪酸高含有の発酵組成物の粉末を得た。
【実施例3】
【0061】
SHR血圧降下試験
【0062】
サンプル溶液をラットに経口投与し、数時間後の血圧を測定した。この時の短期的な血圧の降下をもって、サンプルの即効的な作用とみなした。ラットはSHR/Izm(清水実験材料)のオス、22週齢から24週齢のものを用い、サンプルの投与は、これに胃ゾンデを用いてサンプルを体重1kg当たり10mlを単回、強制経口投与した。サンプルが固体状のものは、サンプルを水に溶解し、水溶液10mlとなるように調製した。血圧の測定はサンプル投与直前と投与6時間後の2回、ラットの尾部カフ圧を測定した。血圧測定にはUR−5000(ウエダ製作所製)を用い、収縮期血圧(SBP)、中間値血圧(MBP)、弛緩期血圧(DBP)の3点を記録した。一つの群あたりの個体数は6で試験を行った。また、統計処理はt検定を行い、p<0.05で有意差ありとした。
【0063】
以下の実施例ではこの方法を用いて血圧を測定して、血圧降下の効果を評価した。
【実施例4】
【0064】
発酵液化粕組成物の降圧作用
【0065】
実施例1で得た発酵液化粕組成物の降圧作用を調べた。22週齢のオスのSHRに発酵液化粕組成物20μg/kgを投与した。この発酵液化粕には20%のγ−アミノ酪酸が含まれているため、γ−アミノ酪酸投与量としては、4μg/kgに当たる。また、ブランクとして水10mlを投与し、対照として、市販のγ−アミノ酪酸(純度98%;和光純薬工業製)20μg/kgを投与した。それぞれ投与の前後で、実施例3の方法に準じて血圧を測定した。
【0066】
その結果を表2に示す。ブランクの水の投与の前後では血圧にはほとんど変化はなかった。また、市販γ−アミノ酪酸20μg/kgの投与で投与の前後で血圧には変化が見られなかった。しかしながら、本発明である発酵液化粕組成物の投与により、投与後にはSBP、MBPにおいて有意差(p<0.05)のある血圧の降下が見られた。この試験で投与した本発明の発酵液化粕組成物のγ−アミノ酪酸含量は4μg/kgと、対照の市販γ−アミノ酪酸投与区の1/5量であるにも関わらず、本発明の発酵液化粕組成物投与区のみに血圧降下作用が見られた。このことから、本発明の発酵液化粕組成物は、γ−アミノ酪酸の効果以外に血圧を降下させる作用があり、同量のγ−アミノ酪酸を投与した時よりも強い血圧降下作用を持つことが分かった。
【0067】
【表2】

【実施例5】
【0068】
発酵液化粕組成物とACE阻害ペプチドの相乗作用
【0069】
発酵液化粕組成物とACE阻害ペプチドの血圧降下作用を、ラットへのそれぞれの単独投与、又はその組み合わせの投与で調べた。ACE阻害ペプチドは、前述した酒粕由来の未精製のACE阻害ペプチド含有物を用いた。ラットは24週齢のSHRのオスで、投与方法は実施例3の方法に従った。投与群は次の3群とした。投与群1:本発明の発酵液化粕組成物10μg/kg、投与群2:ACE阻害ペプチド10mg/kg、投与群3:本発明の発酵液化粕組成物5μg/kg+ACE阻害ペプチド5mg/kg。実施例3の方法に従って投与前後の血圧の測定を行い、それぞれの投与群の投与前後の血圧の変化、及び投与後の投与群間の血圧の差異を調べた。
【0070】
まず、それぞれの投与群の投与前後の血圧の変化の結果を表3に示す。その結果、投与群1の本発明の発酵液化粕組成物単独投与(10μg/kg)では、血圧はSBP、MBP、DBP共に降下が見られたが、実施例4で20μg/kgの投与時に見られたような有意差を認めるには至らなかった。投与群2のACE阻害ペプチド単独投与(10mg/kg)でもSBPではいくらかの血圧降下が見られたが、MBP、DBPでは血圧の降下はほとんど見られなかった。これに対し、投与群3の本発明の発酵液化粕組成物とACE阻害ペプチドの併用投与(発酵液化粕5μg/kg、ACE阻害ペプチド5mg/kg)では、SBP、MBP、DBPの全てで血圧の降下が見られ、特にSBP、MBPではp<0.01の有意差のある血圧降下が見られた。また、投与群3のSBPの血圧降下値は27mmHgと、3群の中で最も大きかった。
【0071】
【表3】

【0072】
続いて、それぞれの投与群の投与後の血圧を表4に示す。投与群1と投与群3、投与群2と投与群3を比較した。その結果、投与後の血圧は、投与群1よりも投与群3の方が、投与群2よりも投与群3の方がSBPとMBPでいずれも低くなっていた。特にSBPにおいては、投与群1と3の比較ではp<0.05の有意差が見られ、投与群2と投与群3の比較ではp<0.01の有意差が見られた。このことから、本発明の発酵液化粕組成物とACE阻害ペプチドを併用した群では、発酵液化粕組成物単独、及びACE阻害ペプチド単独のいずれよりも優れた血圧降下の効果が見られ、本発明の発酵液化粕組成物に、さらにACE阻害ペプチドを併用した場合、相乗的な血圧降下作用が得られることが分かった。
【0073】
【表4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
清酒醸造過程で生じる副産物に乳酸菌を作用させたγ-アミノ酪酸を含有することを特徴とする組成物。
【請求項2】
清酒醸造過程で生じる副産物が液化仕込清酒の醸造により得られる酒粕であることを特徴とする請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
更に、米糠を配合してなることを特徴とする、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
更に、グルタミン酸及び/又はその塩を添加してなることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項5】
乳酸菌がラクトバチルス ブレビス(Lactobacillus brevis)に属する乳酸菌である請求項1〜4のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の組成物を有効成分とする高血圧予防・治療・改善剤。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の組成物を含有し、高血圧を予防または改善するために用いられる旨の表示を付した飲食品。
【請求項8】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の組成物及びACE阻害ペプチドを含有することを特徴とする組成物。
【請求項9】
請求項8に記載の組成物を有効成分とする高血圧予防・治療・改善剤。
【請求項10】
請求項8に記載の組成物を含有し、高血圧を予防または改善するために用いられる旨の表示を付した飲食品。
【請求項11】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の組成物、及び/又は請求項8に記載の組成物の製造法。

【公開番号】特開2008−50269(P2008−50269A)
【公開日】平成20年3月6日(2008.3.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−224999(P2006−224999)
【出願日】平成18年8月22日(2006.8.22)
【出願人】(000165251)月桂冠株式会社 (88)
【Fターム(参考)】