説明

経皮吸収製剤およびその製造方法

【課題】
皮膚表層及び/又は皮膚角質層に折れることなく容易且つ均一に刺入でき、かつ皮膚表層及び/又は皮膚角質層において容易に溶解するマイクロニードルを提供する。
【解決手段】本発明のマイクロニードルアレイは、ヒアルロン酸51〜80重量%、デキストラン10〜40重量%及びポリビニルピロリドン5〜20重量%により構成されているマイクロニードルを備えることを特徴とする。ここに前記ヒアルロン酸の分子量は60万〜400万であることが望ましい。マイクロニードルには高分子の薬効成分を含有させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は皮膚表層及び/又は皮膚角質層に刺入するための医療用マイクロニードルアレイの材質に関する。
【背景技術】
【0002】
皮膚表層及び/又は皮膚角質層に修飾効果及び/又は機能効果を与えるためには、従来、薬効成分を含む液状物質、軟膏剤、クリーム製剤、テープ製剤、バッチ製剤、パップ製剤等を局部に塗布又は貼付し、薬物を皮膚や粘膜を透過させて投与していた。しかし、これらの製剤は使用中に発汗、洗浄、外的圧力等により薬物が消失したり脱落したりする欠点があった。また、皮膚表層及び/又は皮膚角質層は体内へ異物の侵入を抑止するバリアー機能を有しているので、塗布または貼付により充分な量の薬物を皮膚下に吸収させるのは困難であった。皮膚表層及び/又は皮膚角質層の特定の場所に薬物を確実に供給することはさらに困難であった。
【0003】
これらの問題を解決し、皮膚表層及び/又は皮膚角質層の特定の場所に薬効成分を確実に供給する方法として、マイクロニードルが提案された(特許文献1)。マイクロニードルは非常に細いので皮膚表層及び/又は皮膚角質層に刺入した際痛みも出血もなく且つ穿刺創は速やかに閉鎖されるので、皮膚下に薬物を確実に供給する方法として好適である。なお、基板上に複数のマイクロニードルを備えたものをマイクロニードルアレイという。
【0004】
マイクロニードルの材質として、生体内で溶解消失する物質が提案されている(特許文献2)。このようなマイクロニードルに薬物を含有させて皮膚に刺入すると、マイクロニードルは皮膚表層及び/又は皮膚角質層において溶解消失するので、皮膚表層及び/又は皮膚角質層の特定の場所に薬物を確実に供給することができる。
【0005】
しかしながらマイクロニードルの機械的強度が小さい場合は皮膚に刺入する際に折れて刺入できず、機械的強度が大きい場合はマイクロニードルが皮膚内で容易に折れず残留させることが困難な欠点があった。例えばポリ乳酸やマルトースを素材とするマイクロニードルは、機械的強度や硬度が適切ではない。
【0006】
マイクロニードルの生体内で溶解消失する材質として、これまでマルトース(特許文献2)、ヒアルロン酸(特許文献4、5、6)、デキストラン(特許文献4)、ポリビニルピロリドン(特許文献7)、ゼラチン(特許文献3、5、6)、コラーゲン(特許文献5、6)、キトサン(特許文献5)、蛋白質(特許文献3、4)、生分解性樹脂(特許文献1)を用いたものが公表されている。しかし、コラーゲン、ゼラチン、キトサンなどの物質は免疫原性があり、これらをマイクロニードル材質として用いると、体内にこれらの物質に対する抗体が産生する恐れがある。そのためこれらの物質を含むマイクロニードルを長期にわたり投与することは望ましくない。
【先行技術文献】
【0007】
【特許文献】
【特許文献1】特表2002−517300号公報
【特許文献2】特開2003−238347号公報
【特許文献3】特開2006−346126号公報
【特許文献4】WO2006/080508号公報
【特許文献5】特開2008−284318号公報
【特許文献6】特開2010−029634号公報
【特許文献7】特開2010−082401号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の解決しようとする課題は、従来法の欠点に鑑み、皮膚表層及び/又は皮膚角質層に折れることなく容易且つ均一に刺入でき、皮膚表層及び/又は皮膚角質層において速やかに溶解し、その素材が長期にわたり多数回投与しても安全な物質からなる医療用マイクロニードルとマイクロニードルアレイを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のマイクロニードルは、ヒアルロン酸50〜80重量%、デキストラン10〜40重量%及びポリビニルピロリドン5〜20重量%により構成されていることを特徴とする。
【0010】
ヒアルロン酸の組成がこれより少ないとマイクロニードルは脆くなり、刺入の際折れやすくなり、これより多いとマイクロニードルは硬さ不足のため刺入し難くなる。ヒアルロン酸の分子量60万以上400万であることが望ましい。ヒアルロン酸の分子量が60万以下であると機械的機械的強度の観点から不都合である。また400万以上であると水溶液とした際の溶液粘度が高すぎて取扱に不便である。デキストランはヒアルロン酸と逆の傾向を示し、少なすぎるとマイクロニードルは硬さ不足となり、多すぎると脆くなる。それゆえ適度の強度と剛性を有するマイクロニードルを作製する材料としてヒアルロン酸とデキストランの混合物が極めて有効である。ポリビニルピロリドンはマイクロニードルの皮膚内溶解性を高めるもので、少なすぎると溶解速度が遅く、多すぎると硬さ不足となる。
【0011】
本発明のマイクロニードルアレイは、複数の微細なマイクロニードルが基板の表面に形成されてなるマイクロニードルアレイであって、該マイクロニードルの形状は皮膚に刺入しやすく且つ刺入に際し苦痛を伴わないように円錐型、円錐台型又はコニーデ型とした。なお、コニーデ型とは、いわゆる火山型と呼ばれる形状であり、円錐台型の側面が内側方向に湾曲した形状である。
【0012】
マイクロニードルの根元直径は細くなると皮膚内に刺入する素材の量が減少すると共に皮膚に刺入する際に折れやすくなり、太くなると皮膚に刺入する際に苦痛を伴うので0.15〜1.0mmが適当である。先端直径は、細くなると(尖っていると)皮膚に刺入する際に折れやすくなり、太くなると皮膚に刺入しにくくなり苦痛を伴うので0.01〜0.08mmが適当である。
【0013】
マイクロニードルの高さは、低くなると皮膚表層及び/又は皮膚角質層の所定位置に薬剤を供給しにくくなり、高くなると皮膚に刺入する際に折れやすくなるので0.2〜1.2mmが適当である。又、マイクロニードルとマイクロニードルの間のピッチは、短くなると皮膚に刺入しにくくなり、長くなると面積あたりのマイクロニードルの数が少なくなり、所定の狭い部位に多量の薬剤を供給できなくなるので、0.4〜1.0mmが適当である。
【0014】
上記マイクロニードルに薬効成分を添加すると医療用マイクロニードルとなる。薬効成分としては、従来から経皮吸収製剤として使用されている水溶性の薬物であれば特に限定されないが、本マイクロニードルは特に高分子の薬効成分の経皮投与に有利である。好ましい高分子薬効成分としては、例えば、生理活性ペプチド類とその誘導体、核酸、オリゴヌクレオチドが挙げられる。
【0015】
生理活性ペプチド類とその誘導体としては、例えば、カルシトニン、副腎皮質刺激ホルモン、副甲状腺ホルモン(PTH)、hPTH(1→34)、EGF、インスリン、セクレチン、オキシトシン、アンギオテンシン、β−エンドルフィン、グルカゴン、バソプレッシン、ソマトスタチン、ガストリン、黄体形成ホルモン放出ホルモン、エンケファリン、ニューロテンシン、心房性ナトリウム利尿ペプチド、成長ホルモン、成長ホルモン放出ホルモン、ブラジキニン、サブスタンスP、ダイノルフィン、甲状腺刺激ホルモン、プロラクチン、インターフェロン、インターロイキン、G−CSF、グルタチオンパーオキシダーゼ、スーパーオキシドディスムターゼ、デスモプレシン、ソマトメジン、エンドセリン、プラセンタエキス、及びこれらの塩等が挙げられる。
【0016】
本発明のマイクロニードルアレイの製造方法は、特に限定されず、従来公知の任意の方法で製造されればよく、例えば、下記の製造方法が挙げられる。
(1)マイクロニードルの形状が穿設された型に、マイクロニードル素材に医薬成分を添加した水溶液を流延し、室温下又は加熱して水分を蒸発して乾燥する。その上にマイクロニードル素材のみの水溶液を流延して基板を積層した後剥離し、基板上にマイクロニードルを転写する方法。マイクロニードルにのみ医薬成分が含有されたマイクロニードルアレイが得られる。
(2)上記型表面上に上記水溶液を流延し、室温下又は加熱して水分を蒸発して乾燥した後剥離する方法。この方法では、マイクロニードルのほか基板にも医薬成分が添加されたマイクロニードルアレイが得られる。
【発明の効果】
【0017】
本発明のマイクロニードルアレイの構成によれば、マイクロニードルは適度の硬さと折れにくさを有し、しかも皮膚表層及び/又は皮膚角質層において容易に溶解する。このため刺入に際し失敗が少なく、初心者にも使用しやすい。
この結果、皮膚表層及び/又は皮膚角質層の特定の場所にマイクロニードル素材やそれに含有される薬剤を確実に供給することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】円錐台状マイクロニードルを有するマイクロニードルアレイの断面図
【図2】マイクロニードル製造法の説明図
【発明を実施するための形態】
【0019】
次に、本発明を図面を参照して詳細に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
図1に実施例のマイクロニードルの断面図を示す。本発明の実施例と比較例で用いたマイクロニードルの材質とマイクロニードルに含めた薬物をまとめて表1に示す。マイクロニードルの材質は、マイクロニードルを構成する3成分の重量比で示す。薬物の濃度は、マイクロニードル重量に対する重量%で示す。
【0020】
【表1】

【0021】
各実施例・比較例で用いられているヒアルロン酸は(株)紀文フードケミファ製でその分子量は80万(商品名:FCH−80)、デキストランは日本バルク薬品(株)製(商品名:デキストラン70)、ポリビニルピロリドンはBASFジャパン製(商品名:コリドン12PF)である。また、本発明において分子量とは重量平均分子量であり、ゲルパーミェーションクロマトグラフィー(GPC)により測定された量をいう。
【0022】
(マイクロニードルアレイの作製)
図2は本発明のマイクロニードルアレイの製造方法の一例を示す断面図である。図中1は、感光性樹脂に光照射するリソグラフィ法により所定形状のマイクロニードルパターンを形成した後、電鋳加工することにより所定形状のマイクロニードルパターンを転写したマイクロニードル形成用凹部11が形成された鋳型である。
マイクロニードル形成用凹部11は根元の直径が0.2mm、先端直径が0.04mm、深さ0.8mの円錐台状であり、0.8mm間隔に格子状に配列されており、1cmあたり144個形成されている。又、マイクロニードル形成用凹部11は1辺が1.0cmの正方形内に形成されている。
【0023】
実施例1,2、比較例1,2の組成の混合物を水に溶解させて10%固形分水溶液とした。本水溶液にインスリン(本水溶液を上記型表面上に層を形成するように流延し、室温下又は加熱して水分を蒸発して乾燥した後剥離してマイクロニードルアレイを作製した。
【0024】
(マイクロニードルの性質)
作製したマイクロニードルアレイのベース部の硬度をJIS鉛筆硬度測定法により測定した。各マイクロニードルの鉛筆硬度を表2にまとめた。
【0025】
マイクロニードル投与後の状況を調べた。雄性ラット(12週齢)をネンブタール(30mb/kg)で麻酔後腹部皮膚を剃毛し、上記の各実施例・比較例のマイクロニードルを1枚の保護絆創膏で裏打ちして投与した。投与時間は2時間であった。取出したマイクロニードルを顕微鏡観察し、先端部の溶解状況を観察した。結果を表2に示す。
【0026】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
マイクロニードルがヒアルロン酸50〜80重量%、デキストラン10〜40重量%及びポリビニルピロリドン5〜20重量%により構成されていることを特徴とするマイクロニードルアレイ。
【請求項2】
前記ヒアルロン酸の分子量が60万以上、400万以下であることを特徴とする請求項1に記載のマイクロニードルアレイ。
【請求項3】
該マイクロニードルの形状が円錐型、円錐台型又はコニーデ型であり、その根元直径は0.15〜1.0mm、先端直径は0.01〜0.08mm、高さは0.2〜1.2mmであり、マイクロニードルとマイクロニードルのピッチが0.4〜1.0mmであることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のマイクロニードルアレイ。
【請求項4】
マイクロニードルに高分子の薬効成分である生理活性ペプチド類とその誘導体、核酸、オリゴヌクレオチドのいずれかが添加されていることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載のマイクロニードルアレイ。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−25723(P2012−25723A)
【公開日】平成24年2月9日(2012.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−179030(P2010−179030)
【出願日】平成22年7月22日(2010.7.22)
【出願人】(501296380)コスメディ製薬株式会社 (42)
【Fターム(参考)】