説明

経皮吸収貼付剤

【課題】 患者が一刻も早く患部の痛みを取り去ることを最優先の目的とする場合においても使用することのできる初期放出速度が優れた経皮吸収貼付剤を提供すること。
【解決手段】 医薬有効成分を含有する水性膏体を、支持体上に100g〜360g/mで塗膏したことを特徴とする経皮吸収貼付剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、経皮吸収貼付剤に関し、更に詳細には、従来の経皮吸収貼付剤より単位面積当たりの水性膏体の塗膏量を減らすことにより、薬物の放出速度を上げ、また、皮膚刺激を低下させることのできる経皮吸収貼付剤に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、非ステロイド系消炎鎖痛剤等の多くの消炎鎮痛剤が経皮吸収製剤化され、慢性関節リウマチ、変形性関節症、変形性脊椎症、腰痛症等の各種炎症疾患などに広く使用されており、その具体的な成分としては、サリチル酸メチル、インドメタシン、ケトプロフェン、フルルビプロフェン、スプロフェン、ジクロフェナク、フェルビナク、ピロキシカム、ロキソプロフェンなどが代表例として挙げられる。
【0003】
このように各種の消炎鎮痛剤が経皮吸収製剤化される理由は、経皮吸収的に局所に薬物を投与した場合には、経口投与と比較して、薬物の持続性を維持しやすいことや、副作用が発現しにくいこと等の利点を有するためである。
【0004】
ところで、消炎鎮痛剤を含有する経皮吸収製剤における薬物の放出速度は、一般に錠剤やカプセルなどの内服薬のそれと比較して遅いという特性がある。そして、この放出速度が遅い結果、治療効果が長時間持続するという特長を活かして、徐放型製剤として用いられることが多い。
【0005】
この徐放性を実現するために、安定かつ持続的に薬物を経皮吸収させる手法が提案されており、具体的には、例えば、ペンタゾシン、臭化水素酸エプタゾシン、塩酸ブプレノルフィン等の鎮痛作用を有する化合物を、安定して供給する、徐放性に優れた経皮吸収貼付剤(特許文献1)や、マイクロカプセルに薬剤を封入することにより徐放化を実現した経皮投与用消炎鎮痛剤(特許文献2)などが提案されている。
【0006】
しかしながら、患者が要求する製剤の特性は、その患者の病状や製剤の使用状況によって様々であり、一概に徐放性のみが求められている訳ではない。例えば、徐放性を実現した貼付剤、特に鎮痛効果を目的とした経皮吸収製剤においては、この放出速度の遅さによって、逆に、患者が薬効を感じるまでに長時間を要するという問題が発生していた。
【0007】
すなわち、患者が鎮痛効果を目的に鎮痛消炎剤を使用するときには、一刻も早く患部の痛みを取り去ることを最優先の目的とする場合も多いが、このような場合には、従来提案されてきた経時的な放出性が改善された貼付剤では十分に対応できず、初期放出速度に優れた経皮吸収製剤が求められていた。
【0008】
【特許文献1】特開平07−10754
【特許文献2】特開平05−112447
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従って、経皮吸収貼付剤でありながら、初期放出速度が優れたものが求められており、これを提供することが本発明の課題である。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上述の課題を解決するために、種々検討を行った結果、水性膏体を使用する貼付剤において、支持体に対するその塗膏量を減らすことにより、水性膏体中に含まれている医薬有効成分の放出速度が高まること、更にこれにより皮膚刺激性も低下することを見出し、本発明を完成した。
【0011】
すなわち本発明は、医薬有効成分を含有する水性膏体を、支持体上に100g〜360g/mで塗膏したことを特徴とする経皮吸収貼付剤である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、医薬有効成分の初期放出速度を向上させた経皮吸収貼付剤を提供することが可能となり、投与が簡単であるとともに痛みを早く鎮め、患者の商品満足度向上につながる製品とすることが可能である。また、従来の経皮吸収貼付剤に比べ使用膏体量が少なく、また、医薬有効成分の放出が速やかに行われるので、経済性も高いものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下に本発明の実施の形態を説明するが、本発明は、下記に記載した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【0014】
本発明の経皮吸収貼付剤(以下、「貼付剤」という)は、形状は問わないが、支持体の上に医薬有効成分を含有する水性膏体を100g〜360g/mの範囲で展延、塗膏したものである。
【0015】
本発明貼付剤の支持体としては任意の素材を使用可能であるが、薬物を吸着するなどの理由により薬物放出に悪影響を及ぼさないものが望ましく、伸縮性及び非伸縮性のいずれのものも用いることができる。具体的な支持体としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブタジエン、エチレン酢酸ビニル共重合体、ポリ塩化ビニル、ポリエチレンテレフタレート、ナイロン、ポリウレタン等の合成樹脂フィルム又はシートあるいはこれらの積層体、多孔質体、発泡体、紙、織布及び不織布等を挙げることができ、これらより選択、使用すれば良い。その中でも特に、伸縮性を有し、かつ通気性を有する支持体が望ましく、具体的には織布や不織布が望ましい。
【0016】
なお、本発明において伸縮性は、50%モジュラスで規定され、上記支持体における好ましい伸縮性とは、上記方法で0.05から20kg/5cmの範囲、更には、0.1から10kg/5cm、特に0.1から1kg/5cmである。また本発明において、通気性は、JIS L−1096A フラジール法にて測定した通気度で規定され、前記支持体における好ましい通気性は、0.1から1000cm/cm・sの範囲、より好ましくは、10から500cm/cm・s、特に好ましくは、30から300cm/cm・sの範囲である。
【0017】
一方、本発明貼付剤の水性膏体は、水を含有するものであればその組成は問わないが、高含水率のものであることが好ましい。通常、含水率が高い膏体を、支持体上に厚く展延した貼付剤を特にパップ剤と呼称するが、本発明の貼付剤の水分量は、一般的なパップ剤が含有する水分量の範囲であれば良い。具体的には、通常その下限は、10質量%であり、好ましくは20質量%、特に好ましくは30質量%である。また、その上限については通常80質量%、好ましくは70質量%、特に好ましくは60質量%である。
【0018】
上記水性膏体中には、経皮吸収性を有する医薬有効成分が配合される。この医薬有効成分としては、消炎鎮痛剤、虚血性心疾患治療剤、気管支拡張剤、局所皮膚疾患ステロイド剤、局所麻酔剤等種々のものを使用することができるが、特に、サリチル酸メチル、インドメタシン、ケトプロフェン、フルルビプロフェン、スプロフェン、ジクロフェナク、フェルビナク、ピロキシカム、ロキソプロフェン等の非ステロイド系経皮鎮痛消炎剤が特に好ましく使用できる。
【0019】
さらに、上記水性膏体中には、通常、貼付剤の膏体中に配合される、安定化剤、界面活性剤、可塑剤、可溶化剤、緩衝剤、吸着剤、香料、pH調節剤、粘着剤、溶剤、溶解剤、溶解補助剤等などの任意成分を配合することが可能である。
【0020】
本発明の貼付剤における、支持体に対する水性膏体の塗膏量は、通常100g〜360g/mの範囲である。これは、パップ剤の分野における膏体の塗膏厚が通例、500g〜2000g/m程度であることと比較して極めて薄いものであり、ここに本発明の特徴がある。本発明貼付剤の塗膏量の下限は、好ましくは100g/m、より好ましくは200g/mであり、その上限は、好ましくは300g/m、より好ましくは250g/mである。
【0021】
本発明貼付剤の製造は、支持体に対する水性膏体の塗膏量を上記量とする以外は、通常の貼付剤の製造方法に従って行うことができる。例えば、医薬有効成分および水性膏体基剤を混合し、これをナイフコーター、リバースロールコーター等により、支持体に膏体を展延塗付する方法によって製造することができる。
【0022】
また、製造した貼付剤の水性膏体側は、必要に応じて、剥離フィルムないし剥離紙等の剥離層を用いて被覆しても良い。剥離層の素材としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレン、紙の上にシリコーンオイル等を塗布したもの等が使用可能である。
【0023】
かくして得られる本発明貼付剤は、例えば、薬物の初期放出率が、5%以上のものである。ここで初期放出率とは、貼付剤を貼付後、6時間目までの薬物の累積皮膚透過量に対する1時間目の薬物の累積皮膚透過量を意味し、下式に従って算出される。
【0024】
初期放出率(%)=A1h/A6h
1h:1時間後の薬物の累積皮膚透過量
6h:6時間後の薬物の累積皮膚透過量
【実施例】
【0025】
次に実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に何ら制約されるものではない。
【0026】
実 施 例 1
ラット皮膚を用いた皮膚透過性試験(1):
下記に示す組成等によりインドメタシン含有貼付剤を調製し、ヘアレスラット(HWY系,♂)を用いて皮膚透過性試験を行った。インドメタシンの累積皮膚透過量を表3に示した。
【0027】
(1)被験製剤
表1に示すインドメタシン配合水性膏体を調製し、これを表2に示す量でポリエチレンテレフタレート製支持体(伸縮性:320g/5cm、通気性:115cm/cm・s)に塗布し、インドメタシン含有貼付剤を作成した。
【0028】
【表1】

【0029】
【表2】

【0030】
(2)試験方法
1群6匹のヘアレスラット(HWY系,♂)に、ソムノペンチル(ペントバルビタールナトリウム、64.8mg/mL)を腹腔内に投与し、麻酔下でラット腹部皮膚を摘出し、脂肪分を除去した。この皮膚を真皮側がレセプター側になるように拡散セルに装着し、表皮側には被験製剤(直径2.5cmの円形)を貼付してレセプター液を3mL加え、この時間を0時間とした。以後、1、2、4および6時間毎にレセプター液1mLを回収し、37℃に保温したレセプター液1mLを新たにセル内に加えた。なお、セル内の温度は常に37℃になるようにした。回収したレセプター液のインドメタシン量およびピロキシカム量はHPLCを用いて測定し、各時間における累積皮膚透過量を算出した。
【0031】
(3)結果
【表3】

【0032】
表3の結果から明らかなように、本発明貼付剤(製剤例2および3)は、従来の貼付剤(製剤例1)に比べ貼付1時間目からの皮膚透過率が高く、この傾向は貼付6時間目ごろまで続くことが示された。
【0033】
実 施 例 2
ラット皮膚を用いた皮膚透過性試験(2):
下記表4に示す組成により表5の塗布量で、実施例1と同様にしてピロキシカム含有貼付剤を調製した、以下、実施例1と同様の方法でピロキシカムの皮膚透過性試験を行った。この結果を表6に示した。
【0034】
【表4】

【0035】
【表5】

【0036】
結 果:
【表6】

【0037】
表6の結果から明らかなように、本発明貼付剤(製剤例5および6)は、従来の貼付剤(製剤例4)に比べ貼付1時間目からの皮膚透過率が高く、この傾向は貼付6時間目ごろまで続くことが示された。
【0038】
実 施 例 3
ウサギにおける皮膚一次刺激性試験
実施例1および2で調製した各製剤について、その皮膚刺激性を下記方法で調べた。この結果を表7に示す。
【0039】
(1)試験方法
ウサギ(日本白色種,雄性)の背部皮膚の被毛を電気バリカンにて除毛し、アイランドスキンが少なく、且つ傷跡のない6匹の動物を選択して試験に供した。被験製剤(直径2.5cmの円形)は24時間貼付した。判定は被験製剤除去後1時間、24時間および48時間に全ての貼付部位について、紅斑と痂皮、浮腫の有無及びその程度を肉眼的に観察し、Draizeの判定基準に従ってスコアを記録した。
【0040】
(2)結果
【表7】

【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明の経皮吸収貼付剤は、貼付剤でありながら医薬有効成分の初期放出速度にも優れたものである。従って、従来の経皮吸収製剤のような徐放性のみならず、速放性を目的とする用途にも使用可能であり、貼付剤の使用用途を広げるものである。
【0042】
また、皮膚刺激性も極めて低く、安全性の面からも従来の経皮吸収貼付剤に比べ優れたものであり、医薬、外用剤として広く使用しうるものである。

以 上

【特許請求の範囲】
【請求項1】
医薬有効成分を含有する水性膏体を、支持体上に100g〜360g/mで塗膏したことを特徴とする経皮吸収貼付剤。
【請求項2】
水性膏体の水分含有量が10〜80質量%である請求項1記載の経皮吸収貼付剤。
【請求項3】
支持体が伸縮性および通気性を有する材料で構成されるものである請求項1または2記載の経皮吸収貼付剤。
【請求項4】
医薬有効成分が非ステロイド系経皮鎮痛消炎剤から選ばれる一種または二種以上である請求項1ないし3の何れかの項記載の経皮吸収貼付剤。
【請求項5】
非ステロイド系経皮鎮痛消炎剤がサリチル酸メチル、インドメタシン、ケトプロフェン、フルルビプロフェン、スプロフェン、ジクロフェナク、フェルビナク、ピロキシカム、ロキソプロフェンまたは製剤学的に許容されるそれらの塩から選ばれる一種または二種以上である請求項4記載の経皮吸収貼付剤。
【請求項6】
薬物の初期放出率が、5%以上である請求項1ないし5の何れかの項に記載の経皮吸収貼付剤。
【請求項7】
皮膚刺激性を低減したものである請求項1ないし6の何れかの項に記載の経皮吸収貼付剤。

【公開番号】特開2006−45099(P2006−45099A)
【公開日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−226987(P2004−226987)
【出願日】平成16年8月3日(2004.8.3)
【出願人】(390031093)テイカ製薬株式会社 (38)
【Fターム(参考)】