説明

経皮的気管穿刺チューブ

【課題】意図しない状況下でチューブを回動させても、チューブの屈曲部により気管が損傷されない経皮的気管穿刺チューブを提供する。
【解決手段】経皮的気管穿刺チューブ1は、内針が挿入されるチューブ2と、チューブ2を皮膚に固定する固定部材4と、チューブ2の先端部に形成された屈曲部21とを備える。チューブ2を保持する保持部材3と、固定部材4を嵌合すると共に、保持部材3及びチューブ2を回動自在とする嵌合部35と、突起部36と、突起部36に当接して保持部材3の回動を制限する抑制部材47とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、経皮的気管穿刺チューブに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、喀痰の吸引、気道の洗浄、或いは上気道閉塞時のような緊急の場合における上気道の確保のために、経皮的に気管を穿刺し、気管内に留置して用いる経皮的気管穿刺チューブが知られている(例えば特許文献1参照)。前記喀痰の吸引は、例えば、手術後の体力低下時における喀痰の詰まりに起因する肺合併症予防のために行われる。
【0003】
前記経皮的気管穿刺チューブは、内針が挿入されるチューブ本体と、該チューブ本体の基端部に備えられ該チューブ本体を皮膚に固定する固定翼部材とを備えている。前記チューブ本体は合成樹脂製であり、先端部に該外針の軸方向に対して15°以下の角度で屈曲している屈曲部を備えている。また、前記固定翼部材は前記チューブ本体の基端部に設けられ、該チューブ本体を回動自在に保持している。
【0004】
前記経皮的気管穿刺チューブを使用するときには、前記チューブ本体に金属製の内針を挿入した状態で、輪状軟骨と甲状軟骨との間の輪状甲状靱帯部に穿刺する。次いで、内針を抜去して、前記チューブ本体のみを気管内に留置する。そして、前記固定翼部材に設けられた紐通し孔に挿通した綿テープ等を頸部に固縛することにより、前記チューブ本体を固定する。
【0005】
前記経皮的気管穿刺チューブは、例えば、前記喀痰の吸引を行うときには、前記チューブ本体を前記固定翼部材に対して周方向に回動させることにより、前記屈曲部により左右いずれかの気管支を容易に選択することができる。また、前記経皮的気管穿刺チューブは、前記チューブ本体と前記固定翼部材との両方に位置合わせ用のマーカーを設けることにより、前記のように前記チューブ本体を回動させる際に、前記屈曲部の向きを容易に認識することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】実公昭57−33878号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、前記従来の経皮的気管穿刺チューブは、前記マーカーを備えるに過ぎないので、意図しない状況下で前記チューブ本体を回動させたときには、前記屈曲部が必要以上に向きを変え、気管を損傷する虞があるという不都合がある。
【0008】
本発明は、かかる不都合を解消して、意図しない状況下で前記チューブ本体を回動させたとしても、前記屈曲部により気管を損傷することのない経皮的気管穿刺チューブを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
かかる目的を達成するために、本発明は、内針が挿入されるチューブ本体と、該チューブ本体の基端部に備えられ該チューブ本体を皮膚に固定する固定部材と、該チューブ本体の先端部に備えられ軸方向に対して屈曲する屈曲部とを備える経皮的気管穿刺チューブにおいて、該チューブ本体の基端部に備えられ該チューブ本体を保持する保持部材と、該保持部材に設けられ該固定部材を嵌合すると共に、該保持部材及びチューブ本体を該固定部材に対して該チューブ本体の周方向に回動自在とする嵌合部と、該保持部材の該屈曲部に対応する位置に設けられた突起部と、該固定部材に設けられ該保持部材が回動するときに該突起部に当接して該保持部材の回動を制限する抑制部材とを備えることを特徴とする。
【0010】
本発明の経皮的気管穿刺チューブにおいて、前記チューブ本体は基端部に備えられた前記保持部材に保持されており、該保持部材の嵌合部には前記固定部材が嵌合されている。また、前記チューブ本体は前記保持部材に保持されて、前記嵌合部により、前記固定部材に対して該チューブ本体の周方向に回動自在とされている。
【0011】
ここで、前記保持部材は、前記チューブ本体の屈曲部に対応する位置に突起部が設けられており、前記固定部材に対して回動したときに、該突起部により該屈曲部の向きを認識することができる。
【0012】
また、前記固定部材には、前記保持部材が回動するときに前記突起部に当接する抑制部材が備えられている。そこで、前記保持部材は前記抑制部材により回動が制限されることとなり、意図しない状況下で前記保持部材を回動させたとしても、該保持部材に保持されている前記チューブ本体の屈曲部により気管を傷つけることを防止することができる。
【0013】
また、本発明の経皮的気管穿刺チューブにおいて、前記嵌合部は、前記固定部材の皮膚に接触する面が前記チューブ本体の軸に対して15〜30°の範囲の角度で交差するように、該固定部材を嵌合する。
【0014】
本発明の経皮的気管穿刺チューブによれば、前記嵌合部が前記範囲の角度で前記固定部材を嵌合することにより、該固定部材の皮膚に接触する面が、穿刺部の形状に沿う状態で該穿刺部の皮膚に接触する。この結果、前記固定部材は、前記皮膚に接触する面以外の部分が穿刺部の皮膚に接触することを抑制することができ、該部分の接触による皮膚の炎症を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】(a)は本発明の経皮的気管穿刺チューブの一構成例を示す平面図、(b)は(a)の側面図。
【図2】図1に示す経皮的気管穿刺チューブのチューブ本体及び保持部材の正面図。
【図3】図2のIII−III線断面図。
【図4】図1に示す経皮的気管穿刺針の固定部材の平面図。
【図5】図4のV−V線断面図。
【図6】図1のVI−VI線断面図。
【図7】図1に示す経皮的気管穿刺チューブのチューブ本体及び保持部材の回動状態を示す斜視図。
【図8】図1に示す経皮的気管穿刺チューブの使用方法を示す説明的断面図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
次に、添付の図面を参照しながら本発明の実施の形態についてさらに詳しく説明する。
【0017】
図1(a)に示すように、本実施形態の経皮的気管穿刺チューブ1は、チューブ本体2と、保持部材3と、固定部材4とを備える。チューブ本体2は、合成樹脂製のチューブからなり、内周側に図示しない内針が挿入される。また、チューブ本体2は、図1(b)に示すように、先端部に軸方向に対して屈曲する屈曲部21を備えている。
【0018】
保持部材3は、図2及び図3に示すように、円筒状体であり、その内周面にチューブ本体2を保持する大径部31と、図示しない吸引管が挿入される小径部32と、小径部32側から外方に向けて次第に拡径するテーパ部33を備えている。大径部31は小径部32に連通し、小径部32はテーパ部33に連通している。
【0019】
また、保持部材3は、大径部31の外周側端部に、軸方向に対して斜めに交差するフランジ部34を備えると共に、フランジ部34の上部にフランジ部34に沿って凹溝部35を備えている。保持部材3の軸方向とフランジ部34との交差角は、15〜30°の範囲とされている。
【0020】
保持部材3は前記形状を備えることにより、円筒状体の側壁がフランジ部34の上端に対応する位置で最も短く、フランジ部34の下端に対応する位置で最も長くなっている。そして、円筒状体の側壁が最も長くなっている部分の外周面に突起部36が形成されている。ここで、突起部36の位置は、大径部31に保持されるチューブ本体2の屈曲部21に対応している。
【0021】
固定部材4は、図4に示すように、1対の固定翼41,41と、固定翼41,41の間に形成された挿通孔部42と、固定翼41,41と直交する方向に延在する可撓性橋絡部材43と、可撓性橋絡部材43の先端に設けられた蓋部材44とを備えている。挿通孔部42は、図5に示すように、固定部材4の裏面4aに対して垂直に形成され、裏面4a側に設けられた大径部45と、表面4b側に設けられた小径部46とからなる。そして、小径部46の開口端面に1対の抑制部材47,47を備えている。
【0022】
蓋部材44は、可撓性橋絡部材43の先端に、固定部材4の表面4b側に突出して設けられている。蓋部材44は、可撓性橋絡部材43を湾曲させて保持部材3のテーパ部33に嵌合されることにより、保持部材3のテーパ部33を閉蓋することができる。
【0023】
さらに、固定部材4は、各固定翼41に紐通し孔部48と、1対の糸通し孔49,49とを備えている。紐通し孔部48は、固定部材4を頸部に固縛するための綿テープ等を挿通するために用いられる。また、糸通し孔49,49は、固定部材4を頸部に縫合する糸を挿通するために用いられる。
【0024】
固定部材4は、図6に示すように、小径部46の周壁により保持部材3の凹溝部35に嵌合されると共に、大径部45に保持部材3のフランジ部34を収容する。このとき、凹溝部35は保持部材3の軸方向に対して斜めに交差するフランジ部34に沿って設けられている。そこで、固定翼部材4はチューブ本体2の軸方向とフランジ部34との交差角に従って、皮膚に接触する面である裏面4aがチューブ本体2の軸に対して15〜30°の範囲の角度で交差するように、凹溝部35に嵌合される。
【0025】
このとき、保持部材3と保持部材3に保持されているチューブ本体2とは、小径部46の周壁に沿って、チューブ本体2の周方向に回動自在とされているが、図7に示すように、突起部36が抑制部材47,47に係止されることにより、回動が制限される。突起部36は通常は可撓性橋絡部材43方向に向けられており、抑制部材47,47は、可撓性橋絡部材43の中心線を基準として左右80〜90°の範囲の位置に設けられている。この結果、保持部材3と保持部材3に保持されているチューブ本体2とは、回動可能な範囲が、可撓性橋絡部材43の中心線を基準として左右80〜90°に限定される。
【0026】
次に、本実施形態の経皮的気管穿刺チューブ1の使用方法について説明する。
【0027】
本実施形態の経皮的気管穿刺チューブ1を使用するときには、まず、輪状軟骨と甲状軟骨との間の輪状甲状靱帯部を触診により確認し、切開用メスで表皮を正中線に沿って縦切開する。このとき、状況に応じて切開部を消毒し、あるいは局所麻酔を施す。
【0028】
次に、シリンジに取り付けたツーイ針を、前記切開部から輪状甲状靱帯部に穿刺する。このとき、シリンジには滅菌水等を満たしておき、気管内の空気を吸引することにより前記ツーイ針が確実に気管内に穿刺されていることを確認する。
【0029】
次に、シリンジを取り外し、ガイドワイヤを柔軟な側から前記ツーイ針に挿入する。そして、前記ツーイ針のみを抜去することにより、前記ガイドワイヤを気管内に留置する。
【0030】
次に、本実施形態の経皮的気管穿刺チューブ1のチューブ本体2の内周側に内針(イントロデューサ)を配設し、該内針に前記ガイドワイヤを挿通する。そして、前記ガイドワイヤに案内させて、前記内針及びチューブ本体2を輪状甲状靱帯部に穿刺する。その後、前記ガイドワイヤと前記内針とを抜去し、図8に示すように、チューブ本体2を気管内に留置する。
【0031】
前記のようにして気管内に留置されたチューブ本体2は、固定部材4により前記のように穿刺された部位(以下、穿刺部と略記する)に固定される。前記固定は、固定部材4の紐通し孔部48に挿通した綿テープ等により頸部に固縛することにより行ってもよく、固定部材4の糸通し孔49,49に挿通した糸により前記穿刺部の表皮に縫合することにより行ってもよい。
【0032】
このとき、固定部材4は、裏面4aがチューブ本体2の軸に対して15〜30°の範囲の角度で交差するように、凹溝部35に嵌合されている。そこで、裏面4aが、前記穿刺部の形状に沿う状態で該穿刺部の表皮に接触し、表皮の負担が均一になる。この結果、固定部材4は、裏面4a以外の部分が前記穿刺部の表皮に接触することがなく、裏面4a以外の部分の接触による表皮の炎症を防止することができる。
【0033】
本実施形態の経皮的気管穿刺チューブ1では、前記のようにして固定されたチューブ本体2に対して、保持部材3を介して吸引管等を接続することにより、喀痰の吸引や気道の洗浄を行う。前記喀痰の吸引を行う場合には、固定部材4に対して保持部材3を左右に回動させることにより、チューブ本体2の屈曲部21を左右いずれかの気管支に挿入する。
【0034】
このとき、経皮的気管穿刺チューブ1では、固定部材4に設けられた係止部材47が、保持部材3に設けられた突起部36に当接することにより、保持部材3の回動が正中線の左右80〜90°の範囲に制限される。従って、術者の経験、勘等に頼ることなく、チューブ本体2の屈曲部21を左右いずれかの気管支に確実に挿入することができる。
【0035】
また、経皮的気管穿刺チューブ1では、保持部材3の回動が前記範囲に制限されるので、意図しない状況下で保持部材3が回動されても、チューブ本体2の屈曲部2が必要以上に回動することを防止して、屈曲部2による気管の損傷を確実に防止することができる。
【符号の説明】
【0036】
1…経皮的気管穿刺チューブ、 2…チューブ本体、 3…保持部材、 4…固定部材、 21…屈曲部、 35…凹溝部(嵌合部)、 36…突起部、 47…抑制部材。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内針が挿入されるチューブと、該チューブの基端部に備えられ該チューブを皮膚に固定する固定部材と、該チューブの先端部に備えられ軸方向に対して屈曲する屈曲部とを備える経皮的気管穿刺チューブにおいて、
該チューブの基端部に備えられ該チューブを保持する保持部材と、該保持部材に設けられ該固定部材を嵌合すると共に、該保持部材及びチューブを該固定部材に対して該チューブの周方向に回動自在とする嵌合部と、該保持部材の該屈曲部に対応する位置に設けられた突起部と、該固定部材に設けられ該保持部材が回動するときに該突起部に当接して該保持部材の回動を制限する抑制部材とを備えることを特徴とする経皮的気管穿刺チューブ。
【請求項2】
請求項1記載の経皮的気管穿刺チューブにおいて、前記嵌合部は、前記固定部材の皮膚に接触する面が前記チューブの軸に対して15〜30°の範囲の角度で交差するように、該固定部材を嵌合することを特徴とする経皮的気管穿刺チューブ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−104013(P2011−104013A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−260333(P2009−260333)
【出願日】平成21年11月13日(2009.11.13)
【出願人】(390029676)株式会社トップ (106)
【出願人】(509306085)
【Fターム(参考)】