説明

経皮薬物投与装置及び経皮薬物投与ユニット

【課題】皮膚に針を正確に刺すことが可能な経皮薬物投与装置及び経皮薬物投与ユニットを提供する。
【解決手段】経皮薬物投与装置1は、皮膚30に対向する対向面11cに突起13が設けられ、前記突起13にガイド孔14が形成されたベース部10と、前記ガイド孔14内で前記皮膚に対して接離する第1方向に移動する針部22を有するスライド部20と、を備えたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、経皮薬物投与装置及び経皮薬物投与ユニットに係り、皮膚を介して薬物を投与するものに関する。
【背景技術】
【0002】
皮膚から薬物を投与する経皮薬物投与装置において、一般的に皮膚からの薬剤(薬物)吸収率は低いため、薬剤吸収率を高めるための様々な方策がなされている。例えば、化学的な手段としては、エタノール、ミリスチン酸イソプロピルなどの吸収促進剤を利用する方法が提供され、物理的な手段としては電気エネルギーを利用するイオントフォレーシスおよびエレクトロポレーションが提供されている。さらに、薬物の浸透を促進するために皮膚に機械的に孔をあける複数のマイクロニードルと、薬液を保持するリザーバとが一体となった経皮薬物投与装置が提案されている。このような経皮薬物投与装置において、例えば、薬物を保持するタンクの下方に、多数のマイクロニードルと溶液通路を有する板状の部材が設けられたものがある(例えば、特許文献1参照)。また、段階的に運動するフレキシブルシートを備えてマイクロニードルを皮膚に直交する方向にガイドしようとする経皮薬物投与装置も提供されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】WO2006/016647公報
【特許文献2】特表2008−520369号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら上述の技術では以下の問題がある。すなわち、薬物投与の対象となる皮膚は平面ではないため、針を正確に刺すことが困難であるという問題がある。
【0005】
そこで、本発明は、皮膚に針を正確に刺すことが可能な経皮薬物投与装置及び経皮薬物投与ユニットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一形態に係る経皮薬物投与装置は、皮膚に対向する対向面に突起が設けられるとともに前記突起にガイド孔を有する第1部材と、前記ガイド孔に配され前記皮膚の表面に対して交差する第1方向に移動可能に設けられた針部を有する第2部材と、を備えたことを特徴とする。
【0007】
本発明の他の一形態に係る経皮薬物投与ユニットは、前記経皮薬物投与装置と、前記経皮薬物投与装置に取り付けられ、前記対向面の周囲において前記皮膚に付着可能な付着部を有する付着シートと、を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、皮膚に針を正確に刺すことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の第1実施形態に係る経皮薬物投与装置の内部構造を示す説明図。
【図2】同経皮薬物投与装置の、退避状態(a)及び進出状態(b)における下側から見た外観構成をそれぞれ示す斜視図。
【図3】同経皮薬物投与装置の押圧前(a)及び押圧時(b)における上側から見た外観構成をそれぞれ示す斜視図。
【図4】同経皮薬物投与装置の針部の構成を示す斜視図。
【図5】同経皮薬物投与装置の薬物投与方法を示す説明図。
【図6】本発明の第2実施形態に係る経皮薬物投与ユニットの外観構成の押圧前(a)及び押圧後(b)の状態をそれぞれ示す斜視図。
【図7】本発明の第3実施形態に係る経皮薬物投与装置の内部構造及び薬物投与方法を示す説明図。
【図8】同経皮薬物投与装置の、退避状態(a)及び進出状態(b)における下側から見た外観構成をそれぞれ示す斜視図。
【図9】本発明の第4実施形態に係る経皮薬物投与装置を示す説明図。
【図10】本発明の第5実施形態に係る経皮薬物投与装置を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[第1実施形態]
以下、本発明の第1実施形態にかかる経皮薬物投与装置1について、図1乃至図5を参照して説明する。なお、各図において説明のため、適宜、構成を拡大、縮小または省略して概略的に示している。図中矢印X,Y及びZはそれぞれ互いに直交する3方向を示す。ここでは下方の皮膚30に対して処理を行う場合を示し、進出方向が下方(Z方向)、退避方向が上方となる場合を例示する。
【0011】
図1は、本発明の第1実施形態に係る経皮薬物投与装置1の内部構造を示す説明図である。図2は、経皮薬物投与装置1の下方側から外観構成を示す斜視図であり、図2(a)は退避状態を、図2(b)は進出状態を、それぞれ示す。図3は、上方側から外観構成を示す斜視図であり、図3(a)は押圧前の状態を、図3(b)は押圧時の状態を、それぞれ示す。
【0012】
図1乃至図3に示す経皮薬物投与装置1は、皮膚30に薬剤(薬物)12aを供給するための装置であり、皮膚30に対して装着されるベース部10(第1部材)と、ベース部10に嵌合してスライド移動可能に設けられたスライド部20(第2部材)と、を備えている。経皮薬物投与装置1は、ベース部10を皮膚30に押し当てて装着した状態で、スライド部20がベース部10に案内されて移動することにより、スライド部20の針部22が挿入対象部分の皮膚30の表面(XY平面)に対して直交する方向(Z方向)に移動して皮膚30に対して接離するようになっている。
【0013】
ベース部10は、例えばプラスチックからなり、液状の薬剤12aを収容する収容凹部12を形成するケーシング11を備えている。ケーシング11は、中心軸がZ方向に沿う円環状の周壁部11aと、円板状の底部11bとを備え、その内側に円形の空間である収容凹部12を構成している。収容凹部12の上側は開口し、この開口を塞ぐように、スライド部20が嵌合して設けられている。この収容凹部12にて液状の薬剤12aを保持する。
【0014】
ケーシング11の、皮膚30と対向する対向面11cとなる底部11b下面には、皮膚30に向かってZ方向(第1方向)に突出する3つの突起13が形成されている。突起13は例えば半球状または錘台状に隆起し、対向面11cが皮膚30に押し当てられた際に皮膚30に食い込み、皮膚30を押し広げる。
【0015】
ケーシング11の底部11bにはZ方向に延びる複数のガイド孔14がそれぞれ形成されている。ガイド孔14は、複数の突起13の中央の頂部において底部11bをZ方向に貫通して設けられ、上方の収容凹部12内とケーシング11の対向面11c側とを連通している。ガイド孔14内にはスライド部20の複数の針部22が挿入されて収容されている。このガイド孔14の内側壁によって針部22の移動方向がZ方向に案内される。
【0016】
スライド部20の移動部21とベース部10のケーシング11との間には弾性変形可能なOリング15(弾性体)が装着されている。Oリング15は例えばケーシング11の周壁部11aと底部11bとの間のコーナー部分に沿って配置されている。Oリング15は押圧ボタン29の押圧時にベース部10とスライド部20との間において圧縮されて弾性変形するとともに、押圧力が解除された際に弾性復元力によりベース部10をスライド部20の底部11bから離れる方向、すなわち皮膚30から退避する方向に、押し戻す。
【0017】
スライド部20は、その上面側が押圧ボタン(押圧部)29を構成するとともに収容凹部12内に嵌合される移動部21と、移動部21に連結されてZ方向に延びる3本の針部22と、を有している。移動部21は、例えばプラスチックから円板状に構成され、収容凹部12の上方開口を塞ぐとともに収容凹部12の内側壁に案内されてZ軸方向に移動可能になっている。移動部21の移動に応じて収容凹部12内の薬剤12aに圧力が付与される。
【0018】
移動部21の下側には弾性体用穴21aが形成され、この弾性体用穴21aに弾性圧縮体23(圧縮弾性部)が埋め込まれている。弾性圧縮体23は、収容凹部12側に露出して薬剤12aと移動部21との間に介在している。弾性圧縮体23は、ボタン押圧時に移動部21の下方への移動により薬剤12aと移動部21の間で圧縮されて縮小するとともに、押圧ボタン29の押圧解除後に復元力により拡大しながら薬剤12aをZ方向へ押し出す。
【0019】
押圧ボタン29の上面には、マイクロカプセルを用いた感圧インクが印刷された表示部29aが構成されている。図3(a)及び図3(b)に示すように、押圧ボタン29を押し込む際の圧力により表示部29aのインクが発色してマイクロニードル(針)28a,28b,28cが皮膚30に穿刺されたことを表示する。この表示によって使用者が押圧の有無を目視によって確認できる。
【0020】
図4は針部22を示す斜視図である。図1及び図4に示すように、3本の針部22は、Z方向に延びガイド孔14内で進退移動するシャフト24と、シャフト24の先端側に設けられたマイクロニードルユニット28と、を有している。シャフト24は、例えばガイド孔14よりも小さい径を有する細径部24aと、細径部24aより大きい径を有しガイド孔14に案内される大径部24bと、を有している。シャフト24は、ガイド孔14内おいて、ガイド孔14の内壁に案内されてZ方向に沿って移動し、皮膚30に対して接離するように進退運動する。
【0021】
大径部24bの外周面には、軸方向の一端から他端に至って形成されるガイド溝26が設けられている。収容凹部12に保持された薬剤12aは、移動部21の移動に伴って、収容凹部12から、ガイド孔14内の細径部24aの周りの空間と、大径部24bのガイド溝26とを通って、対向面11cからケーシング11外の皮膚30へ供給されるようになっている。すなわち、ガイド孔14は、針部22を案内するガイドとして機能するとともに、薬剤12aを案内する連通路の1部としても機能している。
【0022】
マイクロニードルユニット28は、例えばシリコンからなり、シート状の基板28dに1つ以上の尖鋭な微細針であるマイクロニードル28a,28b,28cを有して構成される。マイクロニードル28a,28b,28cは例えば微細加工技術を応用して微細針アレイを作るマイクロアレイ技術により形成される。マイクロニードル28a,28b,28cが進出してケーシング11の対向面11cから突出した際に皮膚30に刺さることにより皮膚30のバリヤを物理的に突破し、穿孔する。
【0023】
以下、本実施形態の経皮薬物投与装置1を用いた薬物投与方法について図5を参照して説明する。図5は、薬物投与工程を示す説明図である。
【0024】
経皮薬物投与装置1は、例えば、ベース部10が数センチの径を有する程度の大きさに構成され、使用者が片手で保持及び操作できるようになっている。
【0025】
操作者は、経皮薬物投与装置1を保持し、図5(a)に示すように、対向面11cを対象領域31の皮膚30に対向させて皮膚30に押し当てる。対向面11cが皮膚30に押し当てられると突起13が皮膚30に食い込み、突起13が皮膚30を押し広げ、対向面11cが皮膚30に密着する。このとき突起13中央のガイド孔14と接する皮膚30にはテンションがかかり皮膚30が広げられた状態になっている。
【0026】
次に、図5(b)に示すように、操作者は指等で押圧ボタン29をZ方向に押し、スライド部20を皮膚30側に押し込む。すると、ケーシング11の周壁部11aにガイドされて移動部21がZ方向に移動するとともに、ガイド孔14の内側壁に案内されて針部22がZ方向に移動する。この移動により、針部22の先端に設けられたマイクロニードル28a,28b,28cが皮膚30に近づくと同時に、薬剤12aがガイド孔14とガイド溝26で構成される連通路を通って突起13の先端の対向面11cに供給される。このとき、弾性圧縮体23が圧縮され、薬剤12aは弾性圧縮体23が配置されていた弾性体用穴21aにも保持される。
【0027】
図5(c)に示すように、さらに押圧ボタン29を押し込むと、マイクロニードル28a,28b,28cが皮膚30を突き破り、皮下に挿入され、皮膚30が穿孔される。皮下への侵入量は100ミクロン程度にコントロールされ、皮膚30のバリヤ層に孔が開けられる。このとき、Oリング15が、移動部21とベース部10の間に挟まれて弾性変形する。
【0028】
押圧ボタン29から手を離して押圧力が解除されると、Oリング15の弾性復元力によりスライド部20が皮膚30から退避する方向に移動するとともに、針部22が対向面11cの皮膚30から退避し、再び図5(b)に示す解除位置に戻る。そして、図示しないロック機構により、この解除位置が維持される。
【0029】
この解除位置において、弾性圧縮体23には圧力がかかっている。そして弾性圧縮体23が復元力で元の形に戻るにつれて薬液が少しずつ押し出されて皮膚30側に進む。このとき、マイクロニードル28a,28b,28cが抜かれた後の皮膚30は穿孔されているので、この皮膚30の孔を介して薬液が浸透し、皮下に吸収される。
【0030】
本実施形態に係る経皮薬物投与装置1によれば、以下のような効果が得られる。すなわち、対向面11cに突起13を有し突起13にガイド孔14が形成されたベース部10と、ガイド孔14内で移動する針部22を有するスライド部20と、を備えた構成により、突起13を押し当てて皮膚30の皺などを押し広げた後に、針部22をガイド孔14に沿って皮膚30に押し付けることができる。このため、経皮薬物投与装置1を皮膚30に押し当ててスライドさせるだけの単純な操作によってマイクロニードル28a,28b,28cを皮下に正確に押し込むことが可能となる。
【0031】
すなわち、突起13を皮膚30に対して押し当てるだけでマイクロニードル28a,28b,28cを刺し込む部分にテンションがかかり、対象となる皮膚30を押し広げて平らにすることができ、この部分の皮膚30と直交する方向にスライド部20及び針部22がガイドされるため、マイクロニードル28a,28b,28cの挿入方向を皮膚30に直交するように正確に定めることが出来る。また、突起13が皮膚30に密着するので、横方向(X、Y方向)におけるずれが防止できる。
【0032】
上述の経皮薬物投与装置1は、簡易な構成であるため、小型軽量とすることができるので患者の負担が小さく、製造コストも低く抑えることができる。
【0033】
経皮薬物投与装置1においては、ガイド孔14及びガイド溝26を通ってマイクロニードル28a,28b,28cの周りから薬剤12aが供給されるようにしたため、圧力損失の影響を最小限にできる。すなわち、例えばマイクロニードルの尖鋭部分の先端に薬剤供給用の連通路を形成した場合には形成できる孔が小さいことから圧力損失が大きく、多数のマイクロニードルを有する場合には大型のポンプでなければ薬液を皮膚面に供給することができないが、本実施形態では、ガイド孔14とガイド溝26を通って薬剤12aを案内するので、圧力損失を最小限に抑えることができ、必要な押圧力を小さく抑えることができる。また、ニードル面に薬剤を保持させる構成と比べ、保持できる薬液量や薬剤の種類に関する制約がない。
【0034】
また、上記実施形態においては、対向面11cに連通する収容凹部12をスライド部20に設けられた移動部21で押圧して薬剤12aを皮膚30側に押し出す構成としたため、1回の押圧操作で穿孔操作と薬剤供給操作との両方を行うことができる。
【0035】
突起13及び針部22を3箇所に設けたため、対象となる皮膚30がどのような曲率をであっても安定的にセットすることができ、圧力を均一化できる。
【0036】
マイクロニードルユニット28にマイクロアレイを利用することで、大量生産に対応できる。さらに、シャフト24の先端にマイクロニードルユニット28が設けられる構成としたため、例えばマイクロニードルユニット28をシリコンで構成する場合であっても、必要なシリコンの量が少ないので、製造コストを抑えられる。
【0037】
針部22の周りが突起13に囲まれているため、マイクロニードル28a,28b,28cに直接横方向(XY方向)の負荷がかかりにくく、マイクロニードル28a,28b,28cの破損を防ぐことができる。また、マイクロニードル28a,28b,28cによる穿刺が最初だけであるので、マイクロニードルを皮膚30に刺し込んだ状態で薬剤を供給する方法に比べて皮膚30に刺さっている時間が少なく、マイクロニードル28a,28b,28cにかかる負荷を少なくすることができ、破損を防ぐことができる。
【0038】
ボタンに表示部29aを備えて押圧を表示することとしたため、穿刺されたことを目視で確認できる。
【0039】
[第2実施形態]
以下、本発明の第2実施形態における経皮薬物投与ユニット2について図6を参照して説明する。図6は、第1実施形態の経皮薬物投与装置1を用いた経皮薬物投与ユニット2の外観斜視図を示し、図6(a)は押圧前、図6(b)は押圧時の状態をそれぞれ示す。
【0040】
経皮薬物投与ユニット2は、経皮薬物投与装置1と、経皮薬物投与装置1の対向面11cの周囲に設けられた付着シート40と、を備えている。付着シート40は、中央に円形の孔部41を有し、その下面側に粘着層42(付着部)を備えている。この孔部41に薬物投与装置の移動部21が挿通され、上面側に押圧ボタン29が露出するとともに、ケーシング11の外周部分に付着シート40が配置されている。
【0041】
この経皮薬物投与ユニット2において、経皮薬物投与装置1を皮膚30に押し当てた状態で、周囲に配される付着シート40の粘着層42を皮膚30の対象領域31の周りに貼りつけることにより、経皮薬物投与装置1が皮膚30に対して貼付固定される。この貼付状態において上述の第1実施形態と同様に、経皮薬物投与装置1の押圧ボタン29の押圧及び押圧解除の操作を行うことにより穿孔及び薬液供給が行われ、皮膚30に穿たれた孔により薬液が浸透する。
【0042】
この実施形態においても、上記第1実施形態と同様の効果が得られる。さらに、付着シート40によって皮膚30への固定を確実にすることができ、操作の利便性向上に加え、位置ずれや破損を防止できるという効果も得られる。
【0043】
[第3実施形態]
以下、本発明の第3実施形態における経皮薬物投与装置3について、図7及び図8を参照して説明する。図7は、本実施形態に係る経皮薬物投与装置3の内部構造及び薬物投与方法を示す説明図である。図8は経皮薬物投与装置3の外観構成を示す斜視図である。図8(a)は針部22が退避した退避状態、図8(b)は針部22が突出した進出状態を示す。本実施形態の経皮薬物投与装置3においては薬剤12aがケーシング11外にゲル状で保持されている点と針部22の形状について上記第1実施形態の経皮薬物投与装置1と異なるが、その他の点は上述の実施形態と同様であるため、共通する説明を省略する。
【0044】
図7(a)及び図8に示すように、経皮薬物投与装置3は、ベース部10と、ベース部10に対して移動可能なスライド部20とを備えて構成され、ベース部10の下面である対向面11cには突起13が形成されている。この対向面11cには、薬剤12aを包含するゲル層が設けられている。すなわち、ベース部10の内側には薬剤12aは保持されておらず、ベース部10の外面に薬剤ゲル層50が保持されている。ベース部10の底部11bを貫通するガイド孔14には、針部22が挿通されている。
【0045】
スライド部20の移動部21から下方に延びる3本の針部22は、それぞれガイド孔14より僅かに小さい径を有し、先端が尖鋭に構成されたマイクロニードル(針)52を備えている。それぞれの針部22が突起13の中央を貫通して形成されたガイド孔14に収容されている。
【0046】
このように構成された経皮薬物投与装置3を皮膚30に押し当てると、図7(b)に示すように、薬剤ゲル層50が皮膚30に接触した後、突起13が皮膚30に押し込まれ皮膚30を部分的に押し広げる。このとき、皮膚30に押し当てる圧力により薬剤ゲル層50がつぶれ、薬剤が染み出す。
【0047】
さらに、図7(c)及び図8(b)に示すように、押圧ボタン29を押圧して微細針を有するスライド部20をZ方向に押し込むと、針部22がガイドに沿って移動し、先端のマイクロニードル28a〜28cが突起13から突出して皮下に挿入される。マイクロニードル28a〜28cが退避した後の皮膚30には孔が開いており、薬剤ゲル層50に包含された薬剤12aはこの孔を介して皮下に拡散する。
【0048】
本実施形態においても、上記第1実施形態と同様の効果を得ることができる。すなわち、突起13を皮膚30に対して押し当てるだけでマイクロニードル52を刺し込む部分にテンションがかかり、対象となる皮膚30を平面状にすることができ、この部分の皮膚30と直交する方向にスライド部20及び針部22がガイドされるため、マイクロニードル52の挿入方向を皮膚30に直交するように正確に定めることが出来る。また、突起13が皮膚30に密着するので、横方向のずれが防止できる。さらに、薬剤12aをベース部10の外側でゲル状にして保持することとしたため、薬剤供給のための構成が単純であるとともに、保持できる薬剤の量の制約も少ない。
【0049】
[第4実施形態]
以下、本発明の第4実施形態における経皮薬物投与装置4について、図9を参照して説明する。図9は、本実施形態に係る経皮薬物投与装置4の内部構造を示す説明図である。本実施形態は、第3実施形態に係る経皮薬物投与装置3にイオンフォレーシスを用いた例であり、その他の点は上述の第3実施形態と同様であるため、共通する説明を省略する。
【0050】
この経皮薬物投与装置4においては、ベース部10に電極62が設けられ、この電極62は薬剤ゲル層50に接触している。電極62は電源61に接続され、対極63と接続されている。
【0051】
経皮薬物投与装置1では、皮膚30に電極を接触させ電界を印加することにより、電界の力で薬剤が皮下に拡散される。
【0052】
本実施形態に係る経皮薬物投与装置4においても、上記各実施形態と同様の効果が得られる。さらに、イオンフォレーシスを併用することで、皮膚30から薬剤を吸収させる効率を改善することができる。
【0053】
[第5実施形態]
以下、本発明の第5実施形態における経皮薬物投与装置5について、図10を参照して説明する。図10は、本実施形態に係る経皮薬物投与装置5の内部構造を示す説明図である。本実施形態にかかる経皮薬物投与装置5は、針部22をTiワイヤからなるマイクロニードル(針)71とチューブ72で構成した点と、薬剤ゲル層50の形状において上記第3実施形態と異なるが、その他の点は上述の第3実施形態と同様であるため、共通する説明を省略する。
【0054】
本実施形態にかかる経皮薬物投与装置5において、針部22は、PEEK材のチューブ72と、このチューブ72に挿通される直径100μm以下のTiワイヤからなるマイクロニードル71と、を備えて構成されている。
【0055】
薬剤ゲル層50は、突起13上を避けるように、突起13に対向する部分に孔51が設けられ、マイクロニードル71とは干渉しないようになっている。
【0056】
本実施形態においても、上記各実施形態と同様の効果が得られる。また、直径100ミクロン程度の金属ワイヤは先端を鋭利に加工しなくても皮下に挿入することができるため製造が容易である。チタンワイヤは生体に対する毒性が低いためマイクロニードルとして適している。例えばPEEK材のチューブ72において内径100ミクロン以下の製品が市販されており、直径100ミクロン程度のチタンワイヤも市販されているので、これらをスライド部20に対して圧入などの手段で固定することにより、簡単に針部22を製造することができる。
【0057】
なお、本発明は上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。例えば、突起やマイクロニードルの数や具体的な形状、各部材の材質等は、上記実施形態に限定されるものではない。
【0058】
上記第2実施形態においては、第1実施形態の経皮薬物投与装置1に付着シート40を設けてユニット化したものを例示したが、これに限られるものではなく、他の経皮薬物投与装置3〜5のいずれについても同様に付着シート40を取り付けて経皮薬物投与ユニットとすることが可能である。また、第3実施形態の薬剤ゲル層50に、第4実施形態と同様に、マイクロニードルと干渉しないように、孔51を設けてもよい。さらに、上述の各実施形態において、突起13の側面にガイド用の溝をさらに形成し、しみ出た薬剤を皮膚30の孔に導くようにしてもよい。
【0059】
また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0060】
1〜5…経皮薬物投与装置、2…経皮薬物投与ユニット、10…ベース部、
11…ケーシング、11a…周壁部、11b…底部、11c…対向面、12…収容凹部、
13…突起、14…ガイド孔、15…Oリング、20…スライド部、
21…移動部、21a…弾性体用穴、22…針部、23…弾性圧縮体、
24…シャフト、24a…細径部、24b…大径部、26…ガイド溝、
28…マイクロニードルユニット、28a.28b,28c…マイクロニードル、
28d…基板、29…押圧ボタン、29a…表示部、30…皮膚、31…対象領域、
40…付着シート、41…孔部、42…粘着層、50…薬剤ゲル層、51…孔、
52…マイクロニードル、61…電源、62…電極、63…対極、
71…マイクロニードル、72…チューブ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
皮膚に対向する対向面に突起が設けられるとともに前記突起にガイド孔を有する第1部材と、
前記ガイド孔に配され前記皮膚の表面に対して交差する第1方向に移動可能に設けられた針部を有する第2部材と、を備えたことを特徴とする経皮薬物投与装置。
【請求項2】
前記第1部材は、薬物を収容可能な収容部を有し、
前記ガイド孔は前記収容部内と前記対向面とを連通し、
前記第2部材は、前記収容部に嵌合する移動部と、前記移動部から前記皮膚側に延びる前記針部と、を有し、前記収容部内において前記第1部材に対して前記第1方向に移動可能に設けられ、
前記対向面が前記皮膚に押し当てられた状態で前記第2部材が前記第1方向に沿って前記皮膚に向かって移動すると、前記針部が前記対向面から突出して皮膚に穿孔するとともに、前記移動部によって前記薬物がガイド孔を通って押し出されて前記対向面側に供給される、ことを特徴とする請求項1記載の経皮薬物投与装置。
【請求項3】
前記移動部の前記収容凹部側に拡大縮小可能な弾性圧縮体が設けられ、
前記弾性圧縮体は、前記第2部材の移動により前記移動部と前記薬物の間で圧縮されて収縮するとともに、前記第2部材を移動させるための圧力が解除された後、その弾性復元力によって拡大し、前記収容部内の薬物を前記対向面側に押し出すことを特徴とする請求項2記載の経皮薬物投与装置。
【請求項4】
前記ガイド孔は前記収容部内と前記対向面とを連通し、
前記針部は、前記ガイド孔内で移動するシャフトと、前記シャフトの先端側に形成された1つ以上の針と、前記シャフトの側部に形成されるガイド溝と、を有し、
前記薬物は前記ガイド溝と前記ガイド孔とを通って前記対向面に供給されることを特徴とする請求項3記載の経皮薬物投与装置。
【請求項5】
前記対向面に、薬物を包含する薬剤ゲル層が設けられたことを特徴とする請求項1記載の経皮薬物投与装置。
【請求項6】
前記第2部材に押圧部が設けられ、
前記押圧部が押圧されると前記第2部材が対向面側に移動するとともに、前記針部が前記対向面から突出して前記皮膚に穿孔し、
前記押圧が解除されると前記第2部材が前記押圧部側に戻る方向に移動するとともに、前記針部が前記対向面から退避することを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれか記載の経皮薬物投与装置。
【請求項7】
前記第1部材と前記第2部材の間に配され、前記第2部材が前記対向面の方向に移動する圧力により弾性変形するとともに、前記第2部材を移動させる圧力が解除された際にその弾性復元力により前記第2部材を前記皮膚から退避する方向に押し戻す弾性体を、備えたことを特徴とする請求項6記載の経皮薬物投与装置。
【請求項8】
前記対向面側に設けられた電極と、
前記電極に接続される電源と、を備えたことを特徴とする請求項1乃至7のいずれか記載の経皮薬物投与装置。
【請求項9】
前記押圧部に、押圧される圧力によって表示がなされる表示部が形成されたことを特徴とする請求項6記載の経皮薬物投与装置。
【請求項10】
請求項1乃至請求項9記載の経皮薬物投与装置と、
前記経皮薬物投与装置に取り付けられ、前記対向面の周囲において前記皮膚に付着可能な付着部を有する付着シートと、を備えたことを特徴とする経皮薬物投与ユニット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−83484(P2011−83484A)
【公開日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−239509(P2009−239509)
【出願日】平成21年10月16日(2009.10.16)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】