説明

結合組織体形成基材およびそれを用いた結合組織体の製造方法

【課題】生体内に埋入することにより、人工臓器として利用する結合組織体を形成するための結合組織体形成用基材であって、結合組織体の機械的強度などを高めつつ内面を平滑にできる結合組織体形成用基材の提供。
【解決手段】棒状構造部材1の外周に沿って外郭部材2を螺旋形に形成する。これを生体に埋入して、棒状構造部材1の外縁に結合組織体4を形成する。結合組織体4が外郭部材2と棒状構造部材1の表面との間に侵入する。結合組織体4の内面形状が棒状構造部材1の表面と同様の平滑面に形成される。結合組織体4が、外郭部材2を包埋する厚さに形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、体内に埋入することで欠損組織の代替材としての結合組織体を形成することのできる結合組織体形成基材ならびに該結合組織体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
生体に対して化学的に安定な人工物の構造体を生体の皮下や腹腔などへ埋入移植し、一ヶ月程度放置することで、構造体の表面に組織体をカプセル形成して結合組織体とし、これを欠損組織の代替材として適用する試みが実施されている。しかし、結合組織体形成用基材としての構造体の表面に形成された組織体は、極めて薄いために自立性が無く、結合組織体を欠損組織の代替材として移植するには、生体組織との吻合操作が極めて困難であると同時に、大きな臓器の代替材料、例えば中大口径の血管として使用するには機械的強度が不足する欠点を持っている。
【0003】
この欠点を克服するために構造体の表面を親水性、イオン性などに改質し、組織体の付着を促進することにより組織体の厚みを厚くする技術が開発されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
結合組織体の厚みを厚くする目的で、生体内に埋入させる基材を工夫することで、複数の代替用結合組織体を得、これらを積層させて、体内において一体化させることによって、厚みを増す技術が開発されている(例えば、特許文献2参照)。
【0005】
同様に、生体内に埋入させる基材を工夫することで、結合組織体の一部分の厚みを厚くして、生体組織の機械的な自立性を増す技術が開発されている(例えば、特許文献3参照)。
【0006】
他の方法では、カプセル状に形成された結合組織体の生体組織との吻合部分のみに自立性を持たせるために、例えばシリコン樹脂のリングにより補強を加えて、吻合操作を容易にするようにしている(例えば、特許文献4参照)。
【特許文献1】特開2004−261260号公報
【特許文献2】特開2006−314601号公報
【特許文献3】特開2007−312821号公報
【特許文献4】特開2006−141681号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記特許文献1に代表されるような埋入構造体を表面処理する方法では、構造体を生体の皮下に1ヶ月間埋入すると最大で0.3mm程度の厚みの組織体が構造体表面に形成される。しかし、この組織体からなる結合組織体を人工血管として使用するために、組織体に覆われた構造体を取り除くと、厚さ0.3mmでは、結合組織体だけで自立することは難しく、生体組織との吻合操作が困難である。また、厚さが薄いために大きな人工臓器、例えば、中大口径の人工血管として利用するには、機械的な強度が不足している。
【0008】
特許文献2による別途、組織体を重ねる方法では、結合組織体の厚みを厚くすることができるが、積層させた組織体を一体化する必要がある。そのためには、生体に埋入することによって作製した複数の組織体を、生体外で重ねた後に再度生体内に埋入して、組織体間を結合する必要がある。このため、結合組織体の形成に2倍以上の時間がかかることと、埋入、摘出術を2回行う必要があり、生体への負荷が大きい欠点がある。
【0009】
特許文献3による埋入構造物表面に凹凸を形成する方法では、凹部分に結合組織体が厚く形成されるので機械的強度は人工臓器として満足できるが、結合組織体の内面に構造物の凹凸が転写されるために、内面の平滑性を要求される人工臓器、例えば、人口血管として利用するには平滑性が不足している。
【0010】
また、特許文献4に代表されるような方法では、吻合部に使用される樹脂などの人工物が移植後に生体内に留置されることから、炎症の可能性など生体組織との適合性が問題となる。また、人工血管として使用した場合には、人工物の劣化に伴って、生体組織の吻合部が瘤化あるいは乖離する原因となる可能性がある。また、樹脂は大きさが変化しないので、移植された生体の成長には追随できないない欠点がある。
【0011】
このように生体に埋入した人工物の構造体の表面に形成される組織体からなる結合組織体を人工臓器として使用するには、結合組織体の厚みが薄く、自立性が無いことが欠点となり、実用化されていなかった。
【0012】
特に、人工血管に上記結合組織体を適用する場合には、人工血管が自由に曲がるためには、結合組織体の厚みが薄い必要があるが、薄いと血流の内圧に耐えることができずに破裂してしまう。また、曲げる時に簡単に潰れてしまい血流が維持できない。逆に結合組織体を厚くすると血流には強くなるが、自由に曲がらなくなってしまう不具合があった。
【0013】
また、人工血管として適用した結合組織体の内面の平滑性が悪いと血流が滞留し、血栓などの形成のおそれがあることから、実用化されていなかった。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するため、本発明は、結合組織体の厚みを部分的に厚くすると同時に結合組織体形成用基材の一部分を結合組織体内部に包埋させることにより、結合組織体の機械的強度を増強し、自立性を向上させ、吻合操作を容易にすると同時に結合組織体の内面を平滑に形成する方法を提供するものである。即ち、結合組織体形成用基材として生体内に埋入する構造部材の外縁表面に開口部を持たせた外郭部材を連続的に形成し、組織体を開口部に形成される凹部分に誘導侵入させることにより、外郭部材周囲の組織体の厚さを厚くすると同時に構造部材と外郭部材の間隙に組織体を誘導して外郭部材を結合組織体で包埋したことを特徴とする。
【0015】
生体内に埋入する結合組織体形成用基材の表面構造を検討した結果、基材の表面に凹部(溝、穴など)があると凹部に生体組織が侵入し、生体組織の表面を平滑にしようとする性質があることが判明した。この性質を利用し、基材表面に組織体を厚くしたい部分に凹部を作れば、その部分の生体組織の厚みを厚くすることができる。
【0016】
一方、基材表面近傍に生体適合材料の小片を留置させて生体内に埋入すると、基材を覆う組織体と小片を被う組織体が結合し、基材と小片を一体化して包埋することが判明した。また、基材表面に生体適合材料の小片を密着させて生体内に埋入すると、生体組織が小片の弾性による密着力に対抗して密着面に侵入し、小片全体を生体組織で包埋することが判明した。
【0017】
これらの性質を利用し、結合組織体の内面形状を決定する構造部材の表面は必要とされる平滑度とし、構造部材の外縁に開口部を有する外郭部材を連続的に形成すれば、外郭部材の開口部が相対的に凹部となり、凹部の組織体の厚みを厚くできる。また、開口部を通じて生体組織が構造部材と外郭部材の間隙に侵入し、外郭部材は組織体に完全に包埋されるので、構造部材から結合組織体を剥離したときに結合組織体内に外郭部材が残置することにより、結合組織体の生体適合性に何ら影響を与えることなく、結合組織体の機械的強度を向上させることができる。
【0018】
構造部材と外郭部材の組合せを生体に埋入することで形成した結合組織体を生体の欠損組織、臓器の代替材とするときに、生体の変化に合わせて、結合組織体の形状が適合する必要がある。この目的で、外郭部材の結合組織体からの剥離を容易にする目的で、外郭部材の形状を螺旋形状に形成したことを特徴とする。
【0019】
さらに、前記の目的で、外郭部材が生体に埋入され結合組織体を形成する期間に生体に分解吸収されて消滅するか、あるいは、摘出した結合組織体を生体の欠損組織、臓器の代替材として、新たに生体に埋入した後に生体に分解吸収されて消滅するように外郭部材の材料を生体吸収材料で構成したことを特徴とする。
【0020】
結合組織体に外郭部材を残して機械的強度などを増強する場合、その外郭部材が結合組織体の拡張性を阻害するおそれがあるが、外郭部材を伸縮性を有する糸から形成することにより、結合組織体の拡張性を阻害することなく、機械的強度や自立性、吻合操作性を高めることができる。これにより、機械的強度などを高めつつ、血管などの自由な拡径を許容すると共に、その形状を生体の変化に適合させることができる。
【0021】
また、結合組織体の拡張性を阻害することなく、機械的強度や自立性、吻合操作性を高めるための別の手段として、生体吸収材料からなる掛け留め部材と、この掛け留め部材に掛け留めして配置する生体非吸収材料からなる糸とを組み合わせて外郭部材を形成し、そのうちの生体吸収材料からなる掛け留め部材を消滅させることにより、結合組織体を拡張自在とすることもできる。
【0022】
つまり、生体非吸収材料からなる糸を拡張自在な状態に配置して残すことによって、結合組織体をその機械的強度などを高めつつ拡張自在にすることができるが、糸の拡張自在な状態は、ばらばらになりやすい状態でもあり、その配置を難しくする。そこで、一旦、生体吸収材料からなる掛け留め部材と生体非吸収材料からなる糸とを組み合わせて、ばらばらにすることなく配置した後、生体吸収材料からなる掛け留め部材を生体に吸収させて消滅させることにより、残りの生体非吸収材料からなる糸を拡張自在な状態に配置することができる。
【0023】
具体的には、構造部材を棒状とし、外郭部材のうち、生体吸収材料からなる掛け留め部材を、構造部材の表面かつ長さ方向に沿って配置した縦糸とすると共に、生体非吸収材料からなる糸を、縦糸に掛けて周方向に蛇行させつつ構造部材の表面に沿って配置した横糸とした構造を例示することができる。
【0024】
この構造では、縦糸が残っている間は横糸をばらばらにならないよう留めることができ、縦糸が生体に吸収されて消滅することにより、横糸を自由に拡張させることができる。なお、横糸を周方向に蛇行させるには、構造部材の周方向に1周させるごとに縦糸に掛けて折り返してもよいが、縦糸が消滅した後の横糸の拡張を阻害しない程度に、2周あるいは3周するごとに縦糸に掛けて折り返すこともできる。
【0025】
また、構造部材を棒状とし、外郭部材のうち、生体吸収材料からなる掛け留め部材を、構造部材の表面に沿って巻き付けた横糸とすると共に、生体非吸収材料からなる糸を、横糸に編み込みつつ構造部材の表面かつ長さ方向周方向に沿って配置した縦糸とした構造も採用可能である。さらに、掛け留め部材は、縦糸や横糸だけでなく、網目状のものや、糸を構造部材の表面に編み込んだものであってもよい。
【0026】
外郭部材を構造部材の長さ方向に連続して形成すれば、結合組織体の全長に渡って、その機械的強度や自立性、吻合操作性を高めることができるので、結合組織体を所望の長さに切断することができる。また、外郭部材を構造部材の長さ方向に間隔をあけて断続的に形成すれば、外郭部材を形成する範囲を少なくしつつ、その外郭部材を形成した部位で切断することにより、結合組織体の長さを選択することができる。
【発明の効果】
【0027】
以上に述べたように本発明に係わる構造部材と外郭部材より構成した基材を生体内に埋入して、表面に組織体を形成させることにより、生体組織は、外郭部材の開口部分に誘導侵入し、外郭部材を組織体に包埋すると同時に構造部材と外郭部材を一体化して包埋するので、開口部分の組織体の厚さが厚くなる。従って、組織体からなる結合組織体の自立性が向上し、生体との吻合操作性が向上する。また、結合組織体の厚みが厚く外郭部材を結合組織体の内部に残置することがきることから強度も向上し、大口径の組織にも適用することが可能となる。
【0028】
形成される結合組織体の内面形状は、構造部材の表面形状と同等になる。従って、結合組織体の内面を平滑にすることができ、人工血管のように結合組織体の内面が平滑であることが望ましい組織にも適用することが可能となる。
【0029】
外郭部材の開口部に侵入する組織には、毛細血管も形成されることから、生体内に移植された後の生体組織との適合性、生着性が良い。
【0030】
外郭部材を残置できない用途においては、外郭部材を生体吸収材料で作成することにより、容易に外郭部材を分解することができる。
【0031】
さらには、人工血管の用途においては、棒状構造部材の表面に外郭部材を螺旋形に形成することにより、曲げにより開口部が潰れることが無くなり、曲げに強い構造を実現することができると同時に、棒状構造部材から組織体を剥離する際に棒状構造部材を回転させながら螺旋状外郭部材を抜き取ることにより、表面の組織体をねじのように容易に取り出すことが可能となる。
【0032】
また、外郭部材を伸縮性を有する糸から形成することにより、あるいは、生体に吸収されて消滅する生体吸収材料からなる糸と生体非吸収材料からなる糸とを組み合わせて外郭部材を構成することにより、結合組織体を拡張自在とすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
以下、本発明に係る結合組織体形成基材およびそれを用いた結合組織体の製造方法を実施するための最良の形態について、小口径の人工血管に適用した例について図を参照して説明する。
【0034】
図1は、本発明の結合組織形成用基材の側面図である。図2は、結合組織形成用基材の縦断面図である。図3は、図1に示す結合組織形成用基材の実際の基材の外観を示す図面(写真)である。
【0035】
棒状構造部材1は、結合組織体形成用基材として生体内に埋入し、その表面に膜状の組織体を形成し、この組織体を剥離して結合組織体3を形成するためのものであり、その外径は2mmで全長は約20mmである。外径により、人工血管として適用される血管の太さが決定される。棒状構造部材1の表面には、螺旋状に外郭部材2を巻き付けている。外郭部材2の径は、0.2mmで、巻付間隔は、0.4mmとした。外郭部材2は、棒状構造部材1に弾性による張力をもって巻き付けられているだけで接着はしていない。外郭部材2が棒状構造部材1に巻き付けられていない部分(開口部3)が螺旋状に形成される。
【0036】
棒状構造部材1の材料は、生体に埋入した際に大きく変形することが無い強度(硬度)を有しており、化学的安定性があり、滅菌などの負荷に耐性があり、生体を刺激する溶出物が無いまたは少ない必要がある。本実施形態においては、上記条件を満たす、シリコンゴムを使用している。
【0037】
外郭部材2の材料は、生体に埋入した際に大きく変形することが無い強度と形状を維持する弾性を有しており、化学的安定性があり、滅菌などの負荷に耐性があり、生体を刺激する溶出物が無いまたは少ない必要がある。本実施形態においては、上記条件を満たす、手術用縫合糸(ナイロン)を使用している。
【0038】
結合組織形成用基材を埋入する生体は、ヒト、ヤギ、イヌ、ウサギなど動物界に分類される生物である。結合組織形成用基材の埋入部位としては例えば、結合組織形成用基材を受け入れる容積を有する腹腔内、あるいは四肢部、賢部又は背部、腹部などの皮下が好ましい。また、埋入には低侵襲な方法で行うことと動物愛護の精神を尊重し、十分な麻酔下で最小限の切開術で行うことが好ましい。
【0039】
図4は、棒状構造部材1および外郭部材2の表面に形成された結合組織体の外観写真である。本実施形態では、ウサギの背部に結合組織形成用基材を2週間埋入した。結合組織形成用基材の表面全体にコラーゲンと繊維芽細胞からなる組織体が形成されており、一部は、組織体を透過して外郭部材2が見えている。しかし、表面は平滑になっており、外郭部材2が持つ螺旋状の突起構造は観察されない。
【0040】
図5は、結合組織体が表面に形成された結合組織形成用基材の断面図である。結合組織体4は、棒状構造部材1と外郭部材2の接触面に侵入し、外郭部材2の弾性力に打ち勝って外郭部材2を棒状構造部材1から隔離し、外郭部材2を完全に包埋している。
【0041】
図6は、結合組織体の断面図である。棒状構造部材1から結合組織体を剥離する際に棒状構造部材1を回転させながら外郭部材2を抜糸することにより、結合組織体4のみをネジのように容易に分離することが可能となる。また、剥離された結合組織体4の内面は、棒状構造部材1の表面に接しているので平滑になる。
【0042】
図6より明らかなように、紐状の外郭部材2の間に対応する組織体4の厚みの厚い部分5と外郭材料2に対応する厚みの薄い部分6とが周期的に形成されている。
【0043】
従って、厚みの厚い部分5が棒状構造部材1の螺旋状開口部3に沿って形成されることにより、棒状構造部材1の表面に形成される管状の結合組織体4においては、管の外壁に螺旋状に組織体の厚い部分5が形成される。耐圧試験によれば、生体の血管で圧力2000mmHgに対し、従来の平滑な棒状構造体では、1000mmHgと約1/2の強度であったが、本発明の棒状構造部材1を使用すると1600〜2000mmHgとほぼ生体の血管に近い値が得られた。
【0044】
また、結合組織体4が自立して管形状を維持することができることから、管状の結合組織体4を人工血管として生体と縫合する時に吻合部位が開孔した状態で、吻合操作が実施できる。
【0045】
上記実施形態では、小口径の人工血管を例としたが、大口径の血管や大型の臓器に本発明を適用する場合には、外郭部材2の形状を網目状や格子状とし、結合組織体4の形成後に外郭部材2を剥離せずに使用すれば、結合組織体4の自立性と機械的強度を維持できる。
【0046】
あるいは、外郭部材2の材料として生体吸収材料(PDS、モノクリル、ポリ乳酸、ポリグリコール酸など)を使用すれば、結合組織体4の形成後に外郭部材2を抜糸する必要が無くなる。さらに外郭部材2の生体吸収時間を結合組織体4の形成時間より長く選択すれば、結合組織形成用基材を生体から摘出後、棒状構造部材1から結合組織体4を剥離した時点では、外郭部材2により結合組織体4の形状が保たれる。従って、大口径の人工血管に適用する場合に自立性を維持しながら吻合操作が容易に行える。
【0047】
また、外郭部材2の材料に内皮細胞増殖促進剤(例えば血管新生因子HFG、VEGF、bFGFなど)を埋入前に含浸させることにより、外郭部材2を薬剤の徐放材料として使用することができる。これにより、各種薬剤を徐々に生体組織に内部から浸透させることができる。
【0048】
同様に、結合組織体4を形成後に外郭部材2を抜糸することにより形成された螺旋状の管腔部に薬剤を注入することができる。薬剤として、例えば、抗血液凝固剤を使用すれば、結合組織体4の内壁を透過して、血管内面において作用し、血栓の発生を防止することができる。
【0049】
また、図7に示すように、棒状構造部材1の外周側に形成する外郭部材7は、生体吸収材料からなる縦糸8と、生体非吸収材料からなる横糸9とから構成することもできる。このうち、縦糸8は、棒状構造部材1の表面かつ長さ方向に沿って配置されている。また、横糸9は、棒状構造部材1の周りに2周するごとに縦糸8に掛けて折り返すことにより、周方向に蛇行しつつ棒状構造部材1の表面に沿って配置されている。
【0050】
図8に示すように、結合組織形成用基材は、上記の実施形態と同様、例えばウサギの背部に2週間埋入することにより、表面に結合組織体10が形成される。さらに、図9に示すように、結合組織体10が形成されたときには、外郭部材7のうちの縦糸8が生体に吸収されて消滅し、蛇行状の横糸9のみが結合組織体10に包埋されている。これにより、結合組織体10は、横糸9によって機械的強度、自立性及び吻合操作性が高められつつ、拡張自在とされている。
【0051】
この結合組織体10は、外郭部材7が棒状構造部材1の長さ方向に連続して形成されていることから、全長に渡って、機械的強度などが高められており、結合組織体10を任意の部位で所望の長さに切断することができる。なお、外郭部材7を棒状構造部材1の長さ方向に間隔をあけて断続的に形成することにより、外郭部材7を形成する範囲を狭くすることもでき、この場合、外郭部材7を形成した部位で結合組織体10を切断することにより、その長さを選択することができる。
【0052】
外郭部材7は、生体吸収材料からなる糸と生体非吸収材料からなる糸とを組み合わせて形成し、そのうちの生体吸収材料からなる糸を消滅させることにより、結合組織体10を拡張自在とするものであればよく、生体非吸収材料からなる縦糸8を長さ方向に配置する代わりに螺旋状に配置することもできる。
【0053】
また、図10に示すように、外郭部材11は、生体吸収材料からなる横糸12と生体非吸収材料からなる縦糸13とから構成することもできる。このうち、横糸12は、棒状構造部材1の表面に沿って螺旋状に巻き付けられている。また、縦糸13は、螺旋状の横糸12のうちの隣り合う部位に掛け渡されるようにして、棒状構造部材1の長さ方向に蛇行しながら横糸12に編み込まれつつ棒状構造部材1の表面かつ長さ方向周方向に沿って配置されている。
【0054】
この外郭部材11を備えた結合組織形成用基材を、上記の実施形態と同様、例えばウサギの背部に2週間埋入することにより、表面に結合組織体が形成される。さらに、結合組織体が形成されたときには、外郭部材11のうちの横糸12が生体に吸収されて消滅し、蛇行状の縦糸13のみが結合組織体に包埋される。これにより、結合組織体が、縦糸13によって機械的強度、自立性及び吻合操作性を高められつつ、拡張自在とされる。
【0055】
また、外郭部材は、生体吸収材料からなる網目状の掛け留め部材に、生体非吸収材料からなる糸を例えば蛇行させながら掛け留めして構成することもできる。これにより、結合組織体を形成するとき、掛け留め部材を生体に吸収させて、生体非吸収材料からなる例えば蛇行状の糸のみを結合組織体に包埋させることができ、結合組織体をその機械的強度、自立性及び吻合操作性を高めつつ拡張自在とすることができる。
【0056】
さらに、外郭部材を伸縮性を有する糸から形成して結合組織体10に残すことにより、結合組織体10の機械的強度、自立性及び吻合操作性を高めつつ、結合組織体10を拡張自在とすることもできる。
【0057】
以上に述べたように本発明に係わる結合組織形成用基材を使用すれば、従来でできる結合組織体と比較して、機械的強度を増加させることができる。従って、結合組織体を人工臓器として、生体に再移植する際に生体との吻合操作が容易になり、人工臓器を生体に移植する際の施術時間が短縮できることから、生体への負荷が軽減される。
【0058】
以上の利点から人工臓器の形成と移植の発展に寄与すると考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本発明の結合組織形成用基材の側面図
【図2】結合組織形成用基材の断面図
【図3】結合組織形成用基材の外観写真
【図4】結合組織形成用基材の表面に形成された結合組織体の外観写真
【図5】表面に結合組織体の形成された結合組織形成用基材の断面図
【図6】結合組織体の断面図
【図7】別の形態の結合組織形成用基材の外観写真
【図8】図7の結合組織形成用基材の表面に形成された結合組織体の外観写真
【図9】結合組織体の内面を示す切り取り片の写真
【図10】さらに別の形態の結合組織形成用基材の外観写真
【符号の説明】
【0060】
1 棒状構造部材
2、7、11 外郭部材
3 開口部
4、10 結合組織体
5 厚い部分
6 薄い部分
8、13 縦糸
9、12 横糸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体内に埋入することにより、その表面に膜状の組織体を形成し、該組織体を剥離して結合組織体を形成するための人工物であって、該人工物が結合組織体の内面形状を決定する構造部材と該構造部材の外縁に形成される結合組織体に包埋される外郭部材により構成されていることを特徴とする結合組織体形成用基材。
【請求項2】
前記人工物の外郭部材に開口部があり、構造部材と組み合わされたときに、該構造部材の表面が開口部を介して外部に露出していることを特徴とする請求項1に記載の結合組織体形成用基材。
【請求項3】
前記人工物の外郭部材の少なくとも一部分が構造部材の表面に接触していることを特徴とする請求項1又は2に記載の結合組織体形成用基材。
【請求項4】
前記構造部材が棒状であり、外郭部材が該構造部材の外周に沿って螺旋形に形成されていることを特徴とする請求項1、2又は3に記載の結合組織体形成用基材。
【請求項5】
前記構造部材が棒状であり、外郭部材が該構造部材の表面に網目状に形成されていることを特徴とする請求項1、2又は3に記載の結合組織体形成用基材。
【請求項6】
前記構造部材が棒状であり、該構造部材の表面に複数の交差する細長い外郭部材からなることを特徴とする請求項1、2又は3に記載の結合組織体形成用基材。
【請求項7】
前記構造部材が棒状であり、外郭部材が糸状で、該構造部材の表面に編み込まれていることを特徴とする請求項1、2又は3に記載の結合組織体形成用基材。
【請求項8】
前記外郭部材が、生体吸収材料で形成されていることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の結合組織体形成用基材。
【請求項9】
前記外郭部材が、薬剤の徐放担体材料で形成されていることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の結合組織体形成用基材。
【請求項10】
前記外郭部材が、伸縮性を有する糸から形成されたことを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載の結合組織体形成用基材。
【請求項11】
前記外郭部材は、生体吸収材料からなる掛け留め部材と、該掛け留め部材に掛け留めして配置される生体非吸収材料からなる糸とを組み合わせて形成され、生体吸収材料からなる前記掛け留め部材が消滅することにより、前記結合組織体を拡張自在とすることを特徴とする請求項1、2又は3に記載の結合組織体形成用基材。
【請求項12】
前記構造部材が棒状であり、前記外郭部材のうち、生体吸収材料からなる掛け留め部材が、構造部材の表面かつ長さ方向に沿って配置された縦糸とされると共に、生体非吸収材料からなる糸が、前記縦糸に掛けられて周方向に蛇行しつつ構造部材の表面に沿って配置された横糸とされたことを特徴とする請求項11に記載の結合組織体形成用基材。
【請求項13】
前記構造部材が棒状であり、前記外郭部材のうち、生体吸収材料からなる掛け留め部材が、構造部材の表面に沿って巻き付けられた横糸とされると共に、生体非吸収材料からなる糸が、前記横糸に編み込まれつつ構造部材の表面かつ長さ方向周方向に沿って配置された縦糸とされたことを特徴とする請求項11に記載の結合組織体形成用基材。
【請求項14】
前記外郭部材が、構造部材の長さ方向に連続して形成されたことを特徴とする請求項1〜13のいずれかに記載の結合組織体形成用基材。
【請求項15】
前記外郭部材が、構造部材の長さ方向に間隔をあけて断続的に形成されたことを特徴とする請求項1〜13のいずれかに記載の結合組織体形成用基材。
【請求項16】
請求項1〜15のいずれかに記載の結合組織体形成用基材を生体内に埋入して表面に膜状の組織体を形成した後、該組織体を結合組織体形成用基材の前記構造部材から剥離することにより、結合組織体を形成することを特徴とする結合組織体の製造方法。
【請求項17】
請求項1〜9のいずれかに記載の結合組織体形成用基材を生体内に埋入して表面に膜状の組織体を形成した後、該組織体を結合組織体形成用基材の前記構造部材から剥離すると共に、前記組織体から外郭部材を分離除去することにより、結合組織体を形成することを特徴とする結合組織体の製造方法。
【請求項18】
請求項1〜9のいずれかに記載の結合組織体形成用基材を生体内に埋入して表面に膜状の組織体を形成した後、前記結合組織体から外郭部材を分離除去することで形成される空洞部分に薬剤を注入充填することを特徴とする結合組織体の製造方法。
【請求項19】
前記結合組織体を所望の長さに切断することを特徴とする請求項16、17又は18に記載の結合組織体の製造方法。
【請求項20】
前記結合組織体に外郭部材が断続的に包埋され、外郭部材が包埋された部分を切断することを特徴とする請求項19に記載の結合組織体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2008−237896(P2008−237896A)
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−42865(P2008−42865)
【出願日】平成20年2月25日(2008.2.25)
【出願人】(591108880)国立循環器病センター総長 (159)
【出願人】(390010744)新幹工業株式会社 (15)
【Fターム(参考)】