説明

結晶シリコン粒子の製造方法

【課題】 シリコン粒子を安定的かつ高効率に単結晶化するとともに、単結晶シリコン粒子を低コストに製造することができる結晶シリコン粒子の製造方法を提供すること。
【解決手段】 結晶シリコン粒子の製造方法は、窒素ガスから成る雰囲気ガスまたは窒素ガスを主成分として含む雰囲気ガス中で、シリコン粒子101をシリコンの融点以下の温度に加熱してシリコン粒子101の表面に窒化珪素膜を形成し、次に酸素ガスから成る雰囲気ガスまたは酸素ガス及び不活性ガスから成る雰囲気ガス中で、シリコン粒子101を加熱して窒化珪素膜の内側のシリコンを溶融させて降温して凝固させて単結晶化とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に太陽電池のような光電変換装置に用いるのに好適な結晶シリコン粒子の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
光電変換装置は、光電変換特性等の性能面での効率の良さ、シリコン等の半導体資源の有限性への配慮、製造コストの低さ等といった市場ニーズを捉えて開発が進められている。今後の市場において有望な光電変換装置の一つとして、太陽電池として使用される、結晶シリコン粒子等の結晶半導体粒子を用いた光電変換装置がある。
【0003】
結晶半導体粒子である結晶シリコン粒子を作製するための原料としては、単結晶シリコンを粉砕した結果として発生するシリコンの微小粒子や、流動床法で気相合成された高純度シリコン等が用いられている。これらの原料から結晶シリコン粒子を作製するには、それらの原料をサイズあるいは重量によって分別した後に、赤外線や高周波を用いて容器内で溶融し、その後に自由落下させる方法(例えば、特許文献1,2を参照。)、または高周波プラズマを用いて容器内で溶融し、その後に自由落下させる方法(例えば、特許文献3を参照。)によって粒子化することが行われる。
【特許文献1】国際公開第99/22048号パンフレット
【特許文献2】米国特許第4188177号明細書
【特許文献3】特開平5−78115号公報
【特許文献4】米国特許第4430150号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、これらの方法で製造された結晶シリコン粒子は、そのほとんどが多結晶体(多結晶シリコン粒子)である。多結晶シリコン粒子は、微小な単結晶の集合体であるため、それら微小な単結晶間に粒界が存在する。この粒界は、多結晶シリコン粒子を用いた光電変換装置の電気特性を劣化させる。その理由は、粒界にはキャリアの再結合中心が集まっており、それによってキャリアの再結合が生ずることで少数キャリアのライフタイムが大幅に低減してしまうためである。
【0005】
光電変換装置のように電気特性が少数キャリアの寿命の増大とともに大幅に向上する半導体装置の場合には、それに用いられる結晶シリコン粒子中の粒界の存在は、電気特性を悪化させてしまい、特に大きな問題となる。逆に言えば、結晶シリコン粒子を多結晶体から単結晶体(単結晶シリコン粒子)にして使用することができれば、光電変換装置の電気特性を著しく改善することができる。
【0006】
また、多結晶シリコン粒子中の粒界は多結晶シリコン粒子の機械的強度を低下させることから、光電変換装置を製造する各工程の熱履歴や熱歪み、機械的な圧力等によって多結晶シリコン粒子が破壊されやすいという問題もあった。
【0007】
従って、結晶シリコン粒子を用いて光電変換装置を製造する場合、粒界等が存在しない、結晶性に優れた単結晶シリコン粒子を製造することがきわめて重要となる。
【0008】
そのような結晶性に優れた単結晶シリコン粒子を得る方法として、多結晶シリコン粒子または無定形シリコン粒子の表面にシリコンの酸化膜等の珪素化合物被膜を形成し、その珪素化合物被膜の内側のシリコンを溶融した後に冷却して固化させて、結晶性に優れた多結晶体または単結晶体からなる結晶シリコン粒子を製造する方法が知られている(例えば、特許文献4を参照。)。
【0009】
しかしながら、多結晶シリコン粒子を加熱してその表面に形成された珪素化合物被膜、具体的には酸化珪素膜の内側でシリコンを溶融させ、その後に凝固させた場合、シリコンの溶融の際に隣接した多結晶シリコン粒子同士が合体してしまうという問題点があった。また、この場合、CZ(チョクラルスキー)法やFZ(フローティングゾーン)法のような一般的なバルクのシリコン単結晶を育成する方法において使用される種結晶のような凝固起点がないため、一方向に凝固が起こらず、多数核の発生による多結晶化が起こることが問題となる。この多結晶シリコン粒子を用いた光電変換装置は、特性劣化を引き起こしてしまうという問題点がある。
【0010】
また、結晶シリコン粒子の製造にあたって流動床法により気相合成された高純度の多結晶シリコンを原料に用いた場合、多結晶シリコン中に含まれる出発原料に含まれる鉄やニッケル等の金属不純物、また製造工程中に外部から混入する同様の金属不純物による汚染が問題となる。金属不純物はシリコン中では化学的な結合手を持たない格子間拡散をすることから、シリコン格子の隙間を縫って不純物原子が拡散する。そして、この拡散した金属不純物はシリコン内で深い準位を形成してキャリアの再結合中心として作用し、リーク電流の増加やライフタイムの低下の原因となって光劣化を引き起こす。
【0011】
即ち、従来の結晶シリコン粒子の製造方法では所望の高品質な単結晶シリコン粒子を作製することが困難であり、それによって得られた結晶シリコン粒子を用いて電気特性に優れた光電変換装置を作製するための製造方法としては不向きなものであるという問題点があった。
【0012】
従って、本発明は上記従来の技術における問題点に鑑みて完成されたものであり、その目的は、多結晶シリコン粒子等のシリコン粒子を安定的かつ高効率に単結晶化するとともに、単結晶シリコン粒子を低コストに製造することができる結晶シリコン粒子の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の結晶シリコン粒子の製造方法は、窒素ガスから成る雰囲気ガスまたは窒素ガスを主成分として含む雰囲気ガス中で、シリコン粒子をシリコンの融点以下の温度に加熱して前記シリコン粒子の表面に窒化珪素膜を形成し、次に酸素ガスから成る雰囲気ガスまたは酸素ガス及び不活性ガスから成る雰囲気ガス中で、前記シリコン粒子を加熱して前記窒化珪素膜の内側のシリコンを溶融させて降温して凝固させて単結晶化することを特徴とするものである。
【0014】
また、本発明の結晶シリコン粒子の製造方法は好ましくは、前記窒化珪素膜は酸素を含んでいることを特徴とするものである。
【0015】
また、本発明の結晶シリコン粒子の製造方法は好ましくは、酸素ガスから成る雰囲気ガスまたは酸素ガス及び不活性ガスから成る雰囲気ガス中で、前記シリコン粒子を加熱して前記窒化珪素膜の内側のシリコンを溶融させて降温して凝固させて単結晶化する際に、多数個の前記シリコン粒子を台板上に重層的に載置した状態で単結晶化することを特徴とするものである。
【0016】
また、本発明の結晶シリコン粒子の製造方法は好ましくは、前記シリコン粒子を単結晶化した後に前記窒化珪素膜を除去することを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明の結晶シリコン粒子の製造方法は、窒素ガスから成る雰囲気ガスまたは窒素ガスを主成分として含む雰囲気ガス中で、シリコン粒子をシリコンの融点以下の温度に加熱してシリコン粒子の表面に窒化珪素膜を形成し、次に酸素ガスから成る雰囲気ガスまたは酸素ガス及び不活性ガスから成る雰囲気ガス中で、シリコン粒子を加熱して窒化珪素膜の内側のシリコンを溶融させて降温して凝固させて単結晶化することから、単結晶化する際にシリコン粒子の表面に窒化珪素膜が前処理として形成されているため、結晶シリコン粒子同士の合体を効果的に抑制して、合体による結晶シリコン粒子同士の接触面における結晶割れやサブグレインの発生がない、高品質の結晶性を有する結晶シリコン粒子を作製することができる。
【0018】
また、窒化珪素膜は、酸化珪素膜に比べて、汚染物や不純物等の結晶シリコン粒子内部のシリコン中への拡散阻止力が大きいため、結晶シリコン粒子の表面に付着した鉄(Fe)等の重金属元素等の拡散による汚染が低減され、高品質な結晶シリコン粒子を作製することができる。
【0019】
更に、窒化珪素膜は、酸化珪素膜に比べて、密度が高いとともに単位厚み当たりの強度が高いため、シリコン粒子を加熱して窒化珪素膜の内側のシリコンを溶融させて降温して凝固させる際に、シリコン粒子の内部のシリコン融液を安定に保持するために必要な窒化珪素膜の膜厚を酸化珪素膜に比べて薄くすることができる。その結果、後工程でエッチング除去すべき歪や欠陥を多く含んだ結晶シリコン粒子の表面層も少なくなり、シリコン資源を有効に活用することができる。
【0020】
また、本発明の結晶シリコン粒子の製造方法は、窒化珪素膜は酸素を含んでいてもよく、上記と同様の作用効果が得られる。
【0021】
また、本発明の結晶シリコン粒子の製造方法は好ましくは、酸素ガスから成る雰囲気ガスまたは酸素ガス及び不活性ガスから成る雰囲気ガス中で、シリコン粒子を加熱して窒化珪素膜の内側のシリコンを溶融させて降温して凝固させて単結晶化する際に、多数個のシリコン粒子を台板上に重層的に載置した状態で単結晶化することにより、前処理でシリコン粒子の表面に形成された窒化珪素膜がシリコン粒子同士の合体を効果的に防ぐため、加熱炉での単結晶化の際に多数個のシリコン粒子を台板上に重層的に載置して、シリコン粒子を高密度に配置することにより、多数個のシリコン粒子を一度に単結晶化することができ、安価に量産性よく結晶シリコン粒子を製造することが可能となる。従って、光電変換装置等に使用する結晶シリコン粒子を効率的に製造できる。
【0022】
また、多数個のシリコン粒子を台板上に重層的に載置して溶融、固化及び単結晶化する際の凝固起点を、シリコン粒子と台板との接触部分及びシリコン粒子同士の接触部分に設定して、その接触部分からシリコン粒子の上方に向けて単結晶化を進めることができる。そのため、CZ法やFZ法等のように種結晶を用いなくとも結晶シリコン粒子を一方向に凝固させて容易に単結晶化することができ、結晶シリコン粒子の結晶性を大幅に向上させることができる。
【0023】
また、本発明の結晶シリコン粒子の製造方法は好ましくは、シリコン粒子を単結晶化した後に窒化珪素膜を除去することから、結晶シリコン粒子の表層部に偏析した、Fe,Cr,Ni,Mo等の金属不純物含有部を除去することができ、本発明の製造方法によって得られた結晶シリコン粒子を光電変換装置に用いた場合、良好な光電変換特性を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明の結晶シリコン粒子の製造方法について添付図面を参照しつつ詳細に説明する。
【0025】
図1(a)〜(c)はそれぞれ本発明の結晶シリコン粒子の製造方法について実施の形態の一例を示すものであり、台板上に重層的に載置された多数個のシリコン粒子を示す工程毎の断面図である。図1において、101はシリコン粒子、102は台板である。
【0026】
まず、結晶シリコン粒子の材料として半導体グレードの結晶シリコンを用い、これを赤外線や高周波コイルを用いて容器内で溶融し、しかる後に溶融したシリコンを粒状の融液として自由落下させる溶融落下法(ジェット法)等によって多結晶のシリコン粒子101を得る。
【0027】
溶融落下法で作製された多結晶のシリコン粒子101には、所望の導電型及び抵抗値にするために、通常はドーパントがドーピングされる。シリコンに対するドーパントとしては、ホウ素,アルミニウム,ガリウム,インジウム,リン,ヒ素,アンチモンがあるが、シリコンに対する偏析係数が大きい点やシリコン溶融時の蒸発係数が小さい点からは、ホウ素あるいはリンを用いることが望ましい。また、ドーパント濃度としては、シリコンの結晶材料に1×1014〜1×1018atoms/cm程度添加される。
【0028】
この溶融落下法によってシリコン粒子101を得た時点では、シリコン粒子101の形状は、ほぼ球形状のものの他にも涙滴型や流線形型、あるいは複数個の粒子が連結した連結型等である。このままの多結晶のシリコン粒子101を用いて光電変換装置を作製した場合は、良好な光電変換特性を得られないものとなる。その原因は、この多結晶のシリコン粒子101中に通常含有されているFe,Cr,Ni,Mo等の金属不純物による、及び多結晶の結晶粒界におけるキャリアの再結合効果によるものである。
【0029】
これを改善するために、本発明の結晶シリコン粒子の製造方法によって、まず前工程として、窒素ガスから成る雰囲気ガスまたは窒素ガスを主成分として含む雰囲気ガス中で、温度制御した加熱炉の中で多結晶のシリコン粒子101をシリコンの融点(1414℃)以下の温度(500〜1400℃)に加熱してシリコン粒子101の表面に窒化珪素膜を形成し、その後、後工程として、酸素ガスから成る雰囲気ガスまたは酸素ガス及び不活性ガスから成る雰囲気ガス中でシリコン粒子101を再溶融させ降温して固化させることにより単結晶化されて作製される。
【0030】
本発明の製造方法によるシリコン粒子101の単結晶化は、例えば1000個のシリコン粒子101のうち999個程度が完全に単結晶化される程度の割合(個数割合で99.9%程度)で行うことができる。
【0031】
また、後工程の後において、窒化珪素膜を除去すると良く、結晶シリコン粒子の表層部に偏析した、Fe,Cr,Ni,Mo等の金属不純物含有部を除去することができる。その結果、本発明の製造方法によって得られた結晶シリコン粒子を光電変換装置に用いた場合、良好な光電変換特性を得ることができる。
【0032】
前工程における窒素ガスから成る雰囲気ガスまたは窒素ガスを主成分として含む雰囲気ガスの圧力は、0.01M〜0.2MPa程度がよい。0.01MPa未満では、窒化珪素膜からの窒素や酸素の蒸発により窒化珪素膜の膜厚低減や膜質劣化が生じ易くなり、0.2MPaを超えると、窒化珪素膜の膜厚バラツキが生じ易くなる。
【0033】
シリコン粒子101の表面に形成される窒化珪素膜の厚みは100nm〜10μm程度であればよく、100nm未満では、シリコン粒子内部のシリコンの溶融時に窒化珪素膜が破れ易くなる。10μmを超えると、シリコン粒子内部のシリコンの溶融時に表面張力で球形化しようとするのに対し、窒化珪素膜が厚すぎて変形しにくくなる。
【0034】
後工程(再溶融(リメルト)工程)における酸素ガスから成る雰囲気ガスまたは酸素ガス及び不活性ガスから成る雰囲気ガスの圧力は、0.01〜0.2MPa程度がよい。0.01MPa未満では、窒化珪素膜からの窒素や酸素の蒸発により窒化珪素膜の膜厚低減や膜質劣化が生じ易くなる。0.2MPaを超えると、シリコン粒子内部のシリコンの溶融時に形状を安定に保てず形状制御が難しくなる。
【0035】
後工程における雰囲気ガスに酸素ガスが必須ガス成分として含まれるのは、窒化珪素膜中に酸素が拡散することで窒化珪素膜の柔軟性が増し、シリコン粒子101が溶融する際に形状をより安定に維持することが可能であるからである。また、雰囲気ガス中の酸素分圧が高くなることにより、窒化珪素膜からの酸素蒸発を低減化させることができ、また酸素が雰囲気ガス中に含まれていない場合には、シリコン粒子101が溶融時に石英ガラス等から成る台板102の石英と反応して固着してしまうことを防止するためである。
【0036】
後工程において酸素ガス及び不活性ガスを使用する場合、酸素ガスを20体積%以上含むものであればよく、アルゴンガス等の不活性ガスを80体積%以下含むものであればよい。酸素ガスの含有率が20体積%未満では、窒化珪素膜からの酸素蒸発が促進されやすくなり、またシリコン粒子101内部のシリコンの溶融時に形状を安定に保てず形状制御が難しくなる。
【0037】
単結晶の結晶シリコン粒子101を作製するには、まず、図1(a)に示すように、多数個(例えば、数100〜数1000個程度)の多結晶のシリコン粒子101を台板102の上面に二層以上に重層的に載置する。本発明でいう重層的な載置とは、図1(a)の縦断面図でみた場合、略球状のシリコン粒子101が厚み方向に複数の層を成すように載置された状態であり、最密に充填されて積層され載置された状態を示す。
【0038】
台板102上への多数個のシリコン粒子101の載置は、一層で載置してもかまわないが、重層的に載置した方がよい。重層的に載置することにより、シリコン粒子101を高密度に配置することができ、多数個のシリコン粒子101を一度に単結晶化することができ、安価に量産性よく結晶シリコン粒子を製造することが可能となる。従って、光電変換装置等に使用する結晶シリコン粒子を効率的に製造できる。
【0039】
多数個のシリコン粒子101を台板上に重層的に載置する場合、その層数は特に限定するものではないが、例えば2〜150層程度とすればよい。
【0040】
台板102上に載置された多数個のシリコン粒子101は、それら同士が接触していても構わない。台板102は、上蓋がない箱状か板状のものが望ましく、板状の場合には複数段に積み上げて使用してもよい。台板102の材質は、シリコン粒子101との反応を抑えるために、石英ガラス,ムライト,酸化アルミニウム,炭化珪素,単結晶サファイヤ等が適するが、耐熱性,耐久性,耐薬品性に優れコストも安く、かつ扱い易いという点からは、石英ガラスが好適である。
【0041】
次に、シリコン粒子101を載置した台板102を加熱炉(図示せず)内に導入し、シリコン粒子101を加熱していく。加熱炉としては、半導体材料の種類に応じて種々のものが使用できるが、半導体材料としてシリコンを用いるので、セラミックスの焼成等に用いられる抵抗加熱型や誘導加熱型の雰囲気焼成炉、あるいは半導体素子の製造工程で一般的に用いられる横型酸化炉等が適している。セラミックスの焼成等に用いられる抵抗加熱型の雰囲気焼成炉は、1500℃以上の昇温も比較的容易であり、結晶シリコン粒子の量産が可能な大型のものも比較的安価に入手できるので望ましい。
【0042】
雰囲気焼成炉による加熱を行う前に、シリコン粒子101の表面に付着した金属や異物等を除去するためにRCA法(RCA社による洗浄方法)で予め溶液洗浄をしておくことが望ましい。RCA法とは、シリコンウェハの標準的洗浄工程として半導体素子の製造工程で一般的に用いられている洗浄方法であり、3段の工程のうち1段目の工程において水酸化アンモニウムと過酸化水素との水溶液により、シリコンウェハ表面の酸化膜とシリコン表層部とを除去し、2段目の工程においてフッ化水素水溶液により前段の工程で付いた酸化膜を除去し、3段目の工程において塩化水素と過酸化水素との水溶液により重金属等を除去して自然酸化膜を形成させるというものである。
【0043】
また、加熱炉内における炉材や発熱体等からの汚染を防止するためには台板102上に載置したシリコン粒子101を覆うようなベルジャーを加熱炉内に設置することが望ましい。ベルジャーの材質は、石英ガラス,ムライト,酸化アルミニウム,炭化珪素,単結晶サファイヤ等が適するが、耐熱性,耐久性,耐薬品性に優れコストも安く扱い易いという点からは、石英ガラスが好適である。
【0044】
加熱炉内でシリコン粒子101を窒素ガスから成る雰囲気ガスまたは窒素ガスを主成分として含む雰囲気ガス中で加熱して、シリコンの融点(1414℃)より低い温度へ昇温していく過程で、シリコン粒子101の表面には窒化珪素膜が形成される。窒化珪素膜の形成温度は500℃以上1400℃以下が好ましい。500℃より温度が低い場合、窒化珪素膜の成長速度が遅く充分な厚みとするのに時間がかかり、1400℃より温度が高い場合、窒化珪素膜の厚みが不均一になったりシリコン粒子101に一部溶融が生じたり粒子形状が崩れてしまい好ましくない。
【0045】
シリコン粒子101の表面に形成される窒化珪素膜は、酸化珪素膜等と比べて、被膜の密度が高くて単位膜厚当りの強度が高いため、汚染物や不純物等のシリコン粒子101の内部への拡散阻止力が大きいという作用効果を有する。
【0046】
また、窒化珪素膜は酸素を含んでいてもかまわない。酸素含有量は、10モル%程度以下がよい。10モル%を超えると、窒化珪素膜中の結晶構造の変化や結晶欠陥の増加によって膜質が劣化し易くなる。
【0047】
また、シリコン粒子101の表面に窒化珪素膜を形成する際の加熱炉内の雰囲気ガスは、窒素ガス分圧が70%以上であることが好ましい。雰囲気ガス中の窒素ガス分圧が70%未満の場合、後の単結晶化工程において、シリコン粒子101同士の合体が発生し易くなり、また窒化珪素膜の強度も劣化し、シリコン粒子101を重層的に載置した状態で上部のシリコン粒子101の重さにより下部のシリコン粒子101が溶融時につぶれやすくなる。
【0048】
なお、加熱炉内の雰囲気ガス中の各ガス分圧は、全ガス流量に対する各ガス流量で調整できる。雰囲気ガスは、例えばガス流量計やマスフロー計等のガス供給手段からガスフィルタを通してベルジャー内に供給されるが、このガス供給手段にガスを供給する装置がガス圧力とガス濃度とを調整可能な機構を持つものであればよい。
【0049】
次に、図1(b)に示すように、酸素ガスから成る雰囲気ガスまたは酸素ガス及び不活性ガスから成る雰囲気ガス中で、シリコン粒子101をシリコンの融点(1414℃)より高い温度へ昇温していく。図1(a),(b)の工程は、それぞれ別に行っても連続して行ってもかまわない。
【0050】
台板102は、シリコン粒子101を溶融後に冷却し固化させて結晶化させるときの固化起点を生じさせるものとしても機能する。このように台板102の上面に多数個のシリコン粒子101を載置することにより、それぞれのシリコン粒子101と台板102との接触部分に固化起点を設定することができるため、固化起点を一方の極としてこの一方の極から上方の対向する極に向けて固化(単結晶化)方向を設定することができる。その結果、種結晶を用いることなく一方向に凝固させることが可能となり、サブグレイン等の発生を抑制して結晶シリコン粒子101の結晶性を大幅に向上させることができる。
【0051】
また、多数個のシリコン粒子101を重層的に載置させた状態であるので、先に結晶化した台板102上の結晶シリコン粒子との接触部分を固化起点にして、その上に隣接するシリコン粒子101が固化することが可能となり、重層的に載置されたより上部の方へ固化が連鎖反応的に広がるので、多数個のシリコン粒子101の結晶性を大幅に向上させることができる。
【0052】
シリコン粒子101の大きさは、通常は形状がほぼ球状であることから、その平均粒径が直径1500μm以下が良く、その形状が球により近いことが好ましい。ただし、シリコン粒子101の形状は球状に限られるものではなく、立方体状、直方体状、その他の不定形の形状であってもよい。
【0053】
シリコン粒子101の大きさが1500μmを超えて大きい場合、シリコン粒子101の表面に形成される窒化珪素膜の厚みがシリコン粒子101本体に対して相対的に薄くなることによって、シリコン粒子101の内側のシリコンの溶融時におけるシリコン粒子101の形状を安定に保つことが難しくなる。また、シリコン粒子101の内側のシリコンを完全に溶融させることも困難となって、溶融が不完全な場合にはサブグレインが生じ易くなる。他方、シリコン粒子101の直径が30μm未満と小さい場合、シリコン粒子101の内側のシリコンの溶融時にシリコン粒子101の形状を安定に維持することが困難となる。
【0054】
従って、シリコン粒子101の直径は30μm〜1500μmであることが好ましく、これによってシリコン粒子101の形状を安定に維持して、サブグレインの発生がない球形状で良質な結晶性を有する結晶シリコン粒子を安定して作製することができる。
【0055】
シリコン粒子101をシリコンの融点(1414℃)より高い温度へ昇温していく工程(後工程)での加熱炉内の雰囲気ガスは、酸素ガスから成る雰囲気ガスか酸素ガス及び不活性ガスから成る雰囲気ガスとする。不活性ガスとしては、アルゴンガス,窒素ガス,ヘリウムガス,水素ガスが適するが、コストが低いという点や扱い易いという点からは、アルゴンガスあるいは窒素ガスが好適である。なお、加熱炉内の雰囲気ガス中の各ガス分圧は、全ガス流量に対する各ガス流量で調整できる。雰囲気ガスは例えばガス供給手段からガスフィルタを通してベルジャー内に供給されるが、このガス供給手段にガスを供給する装置がガス圧力とガス濃度とを調整可能な機構を持つものであればよい。
【0056】
後工程での加熱炉内の雰囲気ガスが酸素ガス及び不活性ガスから成る場合、酸素ガス分圧が20%以上であることが好ましい。雰囲気ガス中の酸素ガス分圧が20%未満の場合、窒化珪素膜からの酸素蒸発が促進されやすくなり、またシリコン粒子101内部のシリコンの溶融時に形状を安定に保てず形状制御が難しくなる。
【0057】
シリコン粒子101はシリコンの融点(1414℃)以上で、好ましくは1480℃以下の温度まで加熱される。この間にシリコン粒子101において表面の窒化珪素膜の内側のシリコンが溶融する。このとき、シリコン粒子101の表面に形成された窒化珪素膜によって、内側のシリコンを溶融させながらもシリコン粒子101の形状を維持することが可能である。ただし、シリコン粒子101の形状を安定に維持するのが困難となるような温度、例えばシリコン粒子101の場合であれば1480℃を超える温度まで昇温させた場合、シリコン粒子101の内部のシリコンの溶融時にシリコン粒子101の形状を安定に保つことが難しくなり、隣接するシリコン粒子101同士の合体が生じやすくなり、またシリコン粒子101が台板102と融着し易くなる。
【0058】
なお、シリコン粒子101の表面に形成される窒化珪素膜の厚みは、シリコン粒子101の上記平均粒径の範囲において、100nm以上であることが好ましい。厚みが100nm未満と薄い場合、シリコン粒子101内部のシリコンの溶融時に、シリコン粒子101表面の窒化珪素膜が破れやすくなる。また、厚みが100nm以上で必要な強度を有する窒化珪素膜であれば、シリコン粒子101内部のシリコンがその溶融時には表面張力で球形化しようとするのに対し、上記の温度領域であれば窒化珪素膜は充分に変形可能であるため、内部を単結晶化して得られる結晶シリコン粒子を真球に近い形状とすることができる。
【0059】
一方、窒化珪素膜の厚みが10μmを超えて厚くなる場合、窒化珪素膜が上記の温度領域で変形しにくくなり、得られる結晶シリコン粒子101の形状が真球に近い形状になりにくいので望ましくない。
【0060】
従って、シリコン粒子101の表面の窒化珪素膜の厚みは、上記の平均粒径の範囲(30μm〜1500μm)に対して、100nm〜10μmであることが好ましく、これによって、真球に近い良好な形状の結晶シリコン粒子を安定して得ることができる。また、この結晶シリコン粒子を光電変換装置に用いることによって変換効率に優れた光電変換装置を得ることができる。
【0061】
次に、図1(c)に示すように、溶融したシリコン粒子101を、窒化珪素膜の内側の溶融したシリコンを固化させるために、融点以下の約1400℃以下の温度まで降温させて固化させる。この際、融点以下の比較的高温の温度(1360℃程度)に維持して固化させる場合、シリコン粒子101と台板102との接触部分を固化起点(一方の極)として上方の対向する極へ向けて一方向に固化が進行するので、すでに固化したシリコン粒子101との接触点を固化の起点として一方向性の固化が発生し、そのままシリコン粒子101の全体に継承されて結晶が成長し、得られる結晶シリコン粒子が単結晶となり、結晶性を大幅に向上させることができる。
【0062】
また、多数個のシリコン粒子101が重層的に載置された状態であれば、先に結晶化した台板102上の結晶シリコン粒子との接触部分を固化起点にして、上に隣接するシリコン粒子101が固化することが可能となり、重層的に載置されたより上部の方へ固化が連鎖的に広がるので、多数個の結晶シリコン粒子101の結晶性を大幅に向上させることができる。
【0063】
また、溶融したシリコン粒子101を固化させる途中でシリコン粒子101に対して熱アニール処理、例えば1000℃以上の一定温度で30分間以上の熱アニール処理を、行うことが好ましい。この熱アニール処理を行うことによって、固化時に発生した結晶シリコン粒子の結晶中の歪み、結晶シリコン粒子の表面の窒化珪素膜と内側の結晶シリコンとの界面に発生した界面歪み等を緩和除去して、良好な結晶性の結晶シリコン粒子とすることができる。
【0064】
本発明の結晶シリコン粒子の製造方法によれば、以上のようにして、良好な結晶性を有し、かつ不要な不純物量が低減された結晶シリコン粒子を安定して製造することができる。
【0065】
次に、図2の断面図に、本発明の光電変換装置の実施の形態の一例を示す。図2において、406は第1導電型(例えばp型)の結晶シリコン粒子、407は導電性基板、408は結晶シリコン粒子406と導電性基板407との接合層、409は絶縁物質、410は第2導電型(例えばn型)の半導体層(半導体部)、411は透光性導体層、412は電極である。
【0066】
本発明の結晶シリコン粒子406を用いた光電変換装置においては、導電性基板407の一主面、この例では上面に、第1の導電型例えばp型の結晶シリコン粒子406が多数個、その下部を例えば接合層408によって導電性基板407に接合され、結晶シリコン粒子406の隣接するもの同士の間に絶縁物質409を介在させるとともにそれら結晶シリコン粒子406の上部を絶縁物質409から露出させて配置されて、これら結晶シリコン粒子406に第2の導電型の半導体層410及び透光性導体層411が順次設けられた構成となっている。
【0067】
なお、電極412は、この光電変換装置を太陽電池として使用する際に、透光性導体層411の上に所定のパターン形状に被着形成されるものであり、例えばフィンガー電極及びバスバー電極である。
【0068】
そして、上記構成の本発明の光電変換装置における結晶シリコン粒子406は、上記の本発明の結晶シリコン粒子の製造方法によって製造されたものである。結晶シリコン粒子406が本発明の結晶シリコン粒子の製造方法によって製造されたものであることから、不純物濃度が極めて低い高品質の結晶シリコン粒子406を得ることができるので、高い光電変換効率を得るために重要な因子となる少数キャリアの寿命を向上させることができる。従って、光電変換装置の構成部品として好ましい結晶シリコン粒子406を得ることができる。
【0069】
本発明の光電変換装置における結晶シリコン粒子406の製造方法は、上述した結晶シリコン粒子の製造方法と同様である。結晶シリコン粒子406の出発材料であるシリコン粒子101は、所望の抵抗値になるように第1の導電型のドーパントとしてp型の半導体不純物がドーピングされていることが好ましい。p型ドーパントとしては、ホウ素,アルミニウム,ガリウム等が好ましく、その添加量は1×1014〜1×1018atoms/cmが好ましい。以上の本発明の結晶シリコン粒子の製造方法によって製造された結晶シリコン粒子406は、本発明の光電変換装置を作製するために使用される。そして、この光電変換装置を発電手段として用い、この発電手段からの発電電力を負荷に供給するように成した光発電装置とすることができる。
【0070】
図2に示した例は、以上のようにして得られた結晶シリコン粒子406を用いて作製された光電変換装置である。この光電変換装置を得るには、まず、結晶シリコン粒子406の表面に形成された窒化珪素膜をフッ酸でエッチング除去する。さらに、窒化珪素膜と結晶シリコン粒子406との界面歪み、及び結晶シリコン粒子406の表面に偏析されたp型ドーパントや酸素,炭素や金属等の不純物を除去するために、結晶シリコン粒子406の表面をフッ硝酸等でエッチング除去しても構わない。その際に除去される結晶シリコン粒子406の表面層の厚みは、径方向で100μm以下であることが好ましい。
【0071】
次に、アルミニウム等から成る導電性基板407の上に結晶シリコン粒子406を多数個配置する。そして、これを還元雰囲気中にて全体的に加熱して生じた接合層408を介して、結晶シリコン粒子406を導電性基板407に接合させる。なお、接合層408は、例えばアルミニウムとシリコンとの合金である。
【0072】
このとき、導電性基板407を、アルミニウム基板とするか、または表面にアルミニウムを少なくとも含む金属基板にすることにより、低温で結晶シリコン粒子406を接合することができ、軽量かつ低価格の光電変換装置を提供することができる。また、導電性基板407の表面を粗面にすることにより、導電性基板407の表面の非受光領域に到達する入射光の反射をランダムにすることができ、非受光領域で入射光を斜めに反射させて、光電変換装置表面側へ再反射させることができ、これを結晶シリコン粒子406の光電変換部でさらに光電変換することにより、入射光を有効に利用することができる。
【0073】
次に、接合された結晶シリコン粒子406の隣接するもの同士の間に介在するように、導電性基板407上に絶縁物質409を、これら結晶シリコン粒子406の上部、少なくとも天頂部を絶縁物質409から露出させて配置する。
【0074】
ここで、隣接する結晶シリコン粒子406同士の間の絶縁物質409の表面形状を、結晶シリコン粒子406側が高くなっている凹形状をしているものとすることにより、絶縁物質409とこの上を被って形成される透明封止樹脂との屈折率の差により、結晶シリコン粒子406の無い非受光領域における、結晶シリコン粒子406への入射光の乱反射を促進することができる。
【0075】
次に、これら結晶シリコン粒子406の露出した上部に第2の導電型の半導体層410及び透光性導体層411を設ける。半導体層410は、アモルファスまたは多結晶の半導体層410を成膜することにより、あるいは熱拡散法等により半導体層410を形成することにより設けられる。このとき、結晶シリコン粒子406はp型であるので、半導体層410であるシリコン層はn型の半導体層410とする。さらに、その半導体層410上に透光性導体層411を形成する。そして、太陽電池として所望の電力を取り出すために所定のパターン形状に銀ペースト等を塗布して、グリッド電極あるいはフィンガー電極及びバスバー電極等の電極412を形成する。このようにして、導電性基板407を一方の電極にし、電極412をもう他方の電極とすることにより、太陽電池としての光電変換装置が得られる。
【0076】
なお、第2の導電型の半導体層410を形成するには、結晶シリコン粒子406の導電性基板407への接合に先立って、結晶シリコン粒子406の表面に工程コストの低い熱拡散法により形成してもよい。この場合、例えば、第2の導電型のドーパントとして、V族のP,As,SbやIII族のB,Al,Ga等を用い、石英からなる拡散炉に結晶シリコン粒子406を収容し、ドーパントを導入しながら加熱して結晶シリコン粒子406の表面に第2の導電型の半導体層410を形成する。
【実施例】
【0077】
次に、本発明の結晶シリコン粒子の製造方法について実施例を作製工程に沿って説明する。
【0078】
図1(a)に示すように、まずホウ素濃度が0.6×1016atoms/cmであり、平均粒径が500μmのシリコン粒子101の1000個を、石英ガラス製の箱状の台板102上に重層的に載置し、加熱炉である雰囲気焼成炉の内部に設置した石英ガラス製のベルジャー内に収容した。そして、窒素ガスをガス供給装置から導入しながら加熱し、窒素ガス圧力0.1MPaでシリコンの融点以下の1300℃まで加熱し60分間保持して、シリコン粒子101の表面に厚さ200nmの窒化珪素膜を形成した。1300℃で60分間の加熱を行った後、室温まで降温させた。
【0079】
次に、図1(b),(c)に示すように、酸素ガスまたは混合ガス(酸素ガスとアルゴンガス)(表1,表2参照)をガス供給装置から導入しながら加熱し、酸素ガス圧力0.02MPaでシリコンの融点以上の1440℃まで加熱し5分間保持して、シリコン粒子101表面の窒化珪素膜の内側のシリコンを溶融させた後、降温速度を毎分2℃として冷却させながら固化させた。その後、さらに1250℃まで降温させてから、不活性ガスとしてのアルゴンガスを導入しながら120分間の熱アニール処理を行った。この熱アニール処理後に室温付近まで降温させた。
【0080】
回収した結晶シリコン粒子の表面に形成されたシリコンの窒化珪素膜をフッ酸にて除去し、所定の厚さまでフッ硝酸で結晶シリコン粒子の表面を深さ方向にエッチング除去した。
【0081】
この結晶シリコン粒子を石英製ボートに乗せて、900℃に制御された石英管の中に導入し、POClガスを窒素でバブリングさせて石英管に送り込み、熱拡散法によって30分で結晶シリコン粒子の表面に約1μmの厚さのn型の半導体層410を形成し、その後、フッ酸にて表面の酸窒化膜を除去した。
【0082】
次に、導電性基板407として50mm×50mm×厚さ0.3mmのアルミニウム基板を用い、この上面に1000個の結晶シリコン粒子406を最密充填して配置した。その後、アルミニウムとシリコンとの共晶温度である577℃を超える600℃で、5体積%の水素ガスを含む窒素ガスの還元雰囲気炉中で加熱して、結晶シリコン粒子406の下部を導電性基板407に接合させた。このとき、結晶シリコン粒子406が導電性基板407と接触している部分には、アルミニウムとシリコンとの共晶から成る接合層408が形成されており、強い接着強度を呈していた。
【0083】
さらに、この上から結晶シリコン粒子406同士の間に、それらの上部を露出させてポリイミド樹脂から成る絶縁物質409を塗布し乾燥させて、下部電極となる導電性基板407と、上部電極となる透光性導体層411とを電気的に絶縁分離するようにした。この上に上部電極膜としての透光性導体層411を、スパッタリング法によって全面に約100nmの厚みで形成した。
【0084】
最後に、銀ペーストをディスペンサーでグリッド状にパターン形成して、フィンガー電極及びバスバー電極からなる電極412を形成した。なお、この銀ペーストのパターンは、大気中500℃で焼成を行った。
【0085】
そして、上記のように本発明の光電変換装置を製造するに際して、窒化珪素膜の形成工程の有無、酸素ガスまたは混合ガス中での溶融工程の区別をし、さらに、シリコン粒子を石英ガラス製の箱状の台板上に1層で載置した状態または細密充填で重層的に載置した状態として単結晶化した際のシリコン粒子の合体率を調べた。その結果を、実施例1〜4及び比較例1,2として、表1に示す。
【0086】
また、上記の製造方法によって得られた本発明の光電変換装置の実施例1〜4及び比較例1,2について、AM1.5のソーラーシミュレーターで光電変換装置の電気特性を示す光電変換効率(単位:%)(表2においては「変換効率」と示す)を測定した。その結果を表2に示す。
【表1】

【0087】
【表2】

【0088】
表1に示す通り、窒化珪素膜を形成せずに酸素ガスから成る雰囲気ガス中でシリコン粒子の表面に酸化珪素膜を形成して溶融、凝固させて作製した結晶シリコン粒子(比較例1,2)と比較して、シリコン粒子の表面に窒化珪素膜を形成し、酸素ガスから成る雰囲気ガスまたは酸素ガス及び不活性ガスから成る雰囲気ガス中で溶融、凝固させて作製した結晶シリコン粒子(実施例1〜4)では、いずれも比較例1,2に比べて合体率が低く、良好な結果であった。
【0089】
なお、実施例3,4の合体率が、実施例1,2の合体率よりも大きいのは、アルゴンガスを雰囲気ガス中に用いたため窒化珪素膜の表面結合状態が変わり、シリコン粒子の表面張力も変化してより合体しやすくなったためと考えられる。
【0090】
また、表2に示す通り、比較例1,2に対して本発明の実施例1〜4では変換効率が高く良好な結果であった。
【0091】
なお、実施例1,2の変換効率が、実施例3,4の変換効率よりも大きいのは、結晶シリコン粒子の粒子同士の接触部でのサブグレイン発生等による結晶劣化が低減されたためと考えられる。
【0092】
なお、本発明は以上の実施の形態の例及び実施例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更を加えることは何ら差し支えない。例えば、シリコン粒子を加熱して溶融させるのに、加熱炉ではなく、台板の上面に載置したシリコン粒子の上方から光エネルギーを照射することで溶融させる方式を用いてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0093】
【図1】本発明の結晶シリコン粒子の製造方法について実施の形態の一例を示し、(a)〜(c)は、シリコン粒子が台板上に重層的に載置された様子を示す工程毎の断面図である。
【図2】本発明の製造方法によって得られる光電変換装置について実施の形態の一例を示す断面図である。
【符号の説明】
【0094】
101・・・シリコン粒子
102・・・台板
406・・・結晶シリコン粒子
407・・・導電性基板
408・・・接合層
409・・・絶縁物質
410・・・半導体層
411・・・透光性導体層
412・・・電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒素ガスから成る雰囲気ガスまたは窒素ガスを主成分として含む雰囲気ガス中で、シリコン粒子をシリコンの融点以下の温度に加熱して前記シリコン粒子の表面に窒化珪素膜を形成し、次に酸素ガスから成る雰囲気ガスまたは酸素ガス及び不活性ガスから成る雰囲気ガス中で、前記シリコン粒子を加熱して前記窒化珪素膜の内側のシリコンを溶融させて降温して凝固させて単結晶化することを特徴とする結晶シリコン粒子の製造方法。
【請求項2】
前記窒化珪素膜は酸素を含んでいることを特徴とする請求項1記載の結晶シリコン粒子の製造方法。
【請求項3】
酸素ガスから成る雰囲気ガスまたは酸素ガス及び不活性ガスから成る雰囲気ガス中で、前記シリコン粒子を加熱して前記窒化珪素膜の内側のシリコンを溶融させて降温して凝固させて単結晶化する際に、多数個の前記シリコン粒子を台板上に重層的に載置した状態で単結晶化することを特徴とする請求項1または2記載の結晶シリコン粒子の製造方法。
【請求項4】
前記シリコン粒子を単結晶化した後に前記窒化珪素膜を除去することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか記載の結晶シリコン粒子の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2009−292650(P2009−292650A)
【公開日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−258054(P2006−258054)
【出願日】平成18年9月22日(2006.9.22)
【出願人】(000006633)京セラ株式会社 (13,660)
【Fターム(参考)】