説明

結晶化ガラス、それを用いた光触媒部材及びそれを用いた光学部材

【課題】酸化亜鉛の結晶が析出した結晶化ガラスでありながら十分に優れた可視光透過性を有する結晶化ガラスを提供すること。
【解決手段】ZnOを30〜50モル%;Bを9〜35モル%;Alを5〜15モル%;SiOを5〜27%;LiO、NaO、KO、RbO及びCsOからなる群から選択される少なくとも1種のアルカリ金属の酸化物を5〜12モル%;並びに、MgO、CaO、SrO及びBaOからなる群から選択される少なくとも1種のアルカリ土類金属の酸化物を4〜12モル%含有し、前記各金属酸化物の総量に対する前記Bと前記SiOとの合計量が30モル%以上であり、且つ、ZnOの結晶が析出していることを特徴とする結晶化ガラス。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、結晶化ガラス、それを用いた光触媒部材、並びに、それを用いた光学部材に関する。
【背景技術】
【0002】
結晶化ガラスは、析出結晶を選択することにより、高い透明性、広い透過波長域、成型加工の容易性等のガラス本来の特性と結晶材料に固有の特性とをガラスに付与したものであり、非線形光学特性やイオン伝導性を有した全く新しい機能性材料として期待されている。一方、酸化亜鉛は、優れた化学的安定性、高い屈折率を有するとともに人体への影響が少なく、更には、光触媒性能、紫外線遮蔽性能、印加電圧によって抵抗が変化する性能や、希土類元素を少量添加することで蛍光体として種々のカラーを発光させることができるといった性能などの様々な特性を有していることから、太陽電池用の透明電極、発光材料、ITO代替材料、光触媒材料、日焼け止め化粧品材料、バリスターの材料への応用が検討されている。そして、このような状況の下、酸化亜鉛(ZnO)の結晶を含有する結晶化ガラスの開発が進められてきた。このような酸化亜鉛(ZnO)の結晶を含有する結晶化ガラスは、特に、光触媒部材や光学部材(例えばレーザ増幅媒質や光ファイバ、単結晶基板等)等の用途への応用が期待されている。
【0003】
このようなZnOの結晶を含有する結晶化ガラスとしては、例えば、米国特許出願公開第2004/0142809号明細書(特許文献1)においては、25〜50質量%のSiO、15〜45質量%のZnO、0〜26質量%のAl、0〜25質量%のKO、0〜10質量%のNaO、0〜32質量%のGaを含有し、KOとNaOとの総量が10質量%以上であり、AlとGaとの総量が10質量%以上であり、且つ、ZnOの結晶の析出している結晶化ガラスが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許出願公開第2004/0142809号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1に記載のような従来の結晶化ガラスは、透明性(可視光透過性)の観点で必ずしも十分なものではなく、酸化亜鉛の特性である導電性や光触媒特性を十分に付与することができず、各種分野への応用性が低いものであった。
【0006】
本発明は、上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、酸化亜鉛の結晶が析出した結晶化ガラスでありながら十分に優れた可視光透過性を有する結晶化ガラス、それを用いた光触媒部材、及び、それを用いた光学部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、結晶化ガラスの組成を、ZnOを30〜50モル%;Bを9〜35モル%;Alを5〜15モル%;SiOを5〜27%;LiO、NaO、KO、RbO及びCsOからなる群から選択される少なくとも1種のアルカリ金属の酸化物を5〜12モル%;MgO、CaO、SrO及びBaOからなる群から選択される少なくとも1種のアルカリ土類金属の酸化物を4〜12モル%;前記Bと前記SiOとの合計量を前記各金属酸化物の総量に対して30モル%以上;とすることにより、酸化亜鉛の結晶を析出させた結晶化ガラスでありながら、そのガラスが十分に優れた可視光透過性を有するものとなることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明の結晶化ガラスは、ZnOを30〜50モル%;Bを9〜35モル%;Alを5〜15モル%;SiOを5〜27%;LiO、NaO、KO、RbO及びCsOからなる群から選択される少なくとも1種のアルカリ金属の酸化物を5〜12モル%;並びに、MgO、CaO、SrO及びBaOからなる群から選択される少なくとも1種のアルカリ土類金属の酸化物を4〜12モル%含有し、前記各金属酸化物の総量に対する前記Bと前記SiOとの合計量が30モル%以上であり、且つ、ZnOの結晶が析出していることを特徴とするものである。
【0009】
上記本発明の結晶化ガラスにおいては、前記結晶化ガラス中に結晶として前記ZnOの結晶のみが析出していることが好ましい。
【0010】
また、上記本発明の結晶化ガラスにおいては、CoO、Cr、CuO、CuO、SnO、SnO、MnO、Sb、Sb、Fe、FeO、NiO、V、V、Ta、Nb及びTiOからなる群から選択される少なくとも1種の遷移金属元素の酸化物を3モル%以下含有していてもよい。
【0011】
さらに、上記本発明の結晶化ガラスにおいては、希土類元素の酸化物の中から選択される少なくとも1種を1モル%以下含有していてもよい。
【0012】
また、本発明の光触媒部材は上記本発明の結晶化ガラスからなることを特徴とするものである。また、本発明の光学部材は、上記本発明の結晶化ガラスからなることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、酸化亜鉛の結晶が析出した結晶化ガラスでありながら十分に優れた可視光透過性を有する結晶化ガラス、それを用いた光触媒部材、及び、それを用いた光学部材を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】実施例1で得られた結晶化ガラス粉末の発光スペクトルを示すグラフである。
【図2】実施例1で得られた結晶化ガラスのXRDパターンを示すグラフである。
【図3】実施例1で得られた結晶化ガラスの結晶構造の写真(電子線回折像)である。
【図4】実施例1で得られた結晶化ガラスの薄膜の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。
【0016】
先ず、本発明の結晶化ガラスについて説明する。すなわち、本発明の結晶化ガラスは、ZnOを30〜50モル%;Bを9〜35モル%;Alを5〜15モル%;SiOを5〜27%;LiO、NaO、KO、RbO及びCsOからなる群から選択される少なくとも1種のアルカリ金属の酸化物を5〜12モル%;並びに、MgO、CaO、SrO及びBaOからなる群から選択される少なくとも1種のアルカリ土類金属の酸化物を4〜12モル%含有し、前記各金属酸化物の総量に対する前記Bと前記SiOとの合計量が30モル%以上であり、且つ、ZnOの結晶が析出していることを特徴とするものである。
【0017】
本発明の結晶化ガラスは、酸化亜鉛(ZnO)を30〜50モル%含有する。このようなZnOの含有割合が前記下限未満では、ZnOの体積分率が小さくなるため、ガラス中において、析出する酸化亜鉛の結晶の特性を十分に発揮させることができなくなる。他方、ZnOの含有割合が前記上限を超えると、高い溶融温度が必要になり、酸化ホウ素の成分量の変化が大きくなって組成ずれが生じる場合や均一なガラスの作製が困難になる場合が生じる。また、同様の観点から、前記ZnOの含有割合としては33〜46モル%であることが好ましく、35〜40モル%であることがより好ましい。
【0018】
また、本発明の結晶化ガラスは酸化ホウ素(B)を9〜35モル%含有する。このようなBの含有割合が前記下限未満では、均一なガラスの作製が困難となる。他方、Bの含有割合が前記上限を超えると、相対的にZnOの含有量が減少することからガラス中における酸化亜鉛の結晶の析出量が少なくなり、得られる結晶化ガラスに酸化亜鉛の結晶に由来する機能性を十分に発揮させることが困難となる。また、同様の観点から、前記Bの含有割合としては15〜30モル%であることが好ましく、20〜25モル%であることがより好ましい。
【0019】
また、本発明の結晶化ガラスは、酸化アルミニウム(Al)を5〜15モル%含有する。このようなAlの含有割合が前記下限未満では、均一なガラスが得られなくなり、他方、前記上限を超えると、相対的にZnOの含有量が減少することからガラス中における酸化亜鉛の結晶の析出量が少なくなり、得られる結晶化ガラスに酸化亜鉛の結晶に由来する機能性を十分に発揮させることが困難となる。また、同様の観点から、前記Alの含有割合としては8〜12モル%であることが好ましく、9〜10モル%であることがより好ましい。
【0020】
また、本発明の結晶化ガラスは、酸化ケイ素(SiO)を5〜27モル%含有する。このようなSiOの含有割合が前記下限未満では、Zn(BO等の結晶が析出し、目的とするZnOの結晶以外の結晶が析出してしまう。他方、SiOの含有割合が前記上限を超えると、高い溶融温度が必要になり、酸化ホウ素等の組成ずれがおこる。また、同様の観点から、前記SiOの含有割合としては、5〜20モル%であることが好ましく、5〜15%であることがより好ましい。
【0021】
また、本発明の結晶化ガラスは、LiO、NaO、KO、RbO及びCsOからなる群から選択される少なくとも1種のアルカリ金属の酸化物を5〜12モル%含有する。このようなアルカリ金属の酸化物の含有割合が前記下限未満では、Zn(BO等の結晶が析出し、目的とするZnOの結晶以外の結晶が析出してしまう。他方、アルカリ金属の酸化物の含有割合が前記上限を超えると、相対的にZnOの含有量が減少することからガラス中における酸化亜鉛の結晶の析出量が少なくなり、得られる結晶化ガラスに酸化亜鉛の結晶に由来する機能性を十分に発揮させることが困難となる。また、同様の観点から、前記アルカリ金属の酸化物の含有割合としては6〜11モル%であることが好ましく、8〜10モル%であることがより好ましい。
【0022】
また、このようなアルカリ金属の酸化物としては、安定的な原料供給の観点から、LiO、NaO、KOがより好ましく、NaO、KOが特に好ましい。なお、このようなアルカリ金属の酸化物としては、1種を単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0023】
さらに、本発明の結晶化ガラスは、MgO、CaO、SrO及びBaOからなる群から選択される少なくとも1種のアルカリ土類金属の酸化物を4〜12モル%含有する。このようなアルカリ土類金属の酸化物の含有割合が前記下限未満ではZn(BO等の結晶が析出し、目的とするZnOの結晶以外の結晶が析出してしまう。あるいは均一な透明性を有するガラスが作製できなくなる。他方、前記アルカリ土類金属の酸化物の含有割合が前記上限を超えると、相対的にZnOの含有量が減少して酸化亜鉛結晶の析出量が少なくなることから、酸化亜鉛の結晶に由来する機能性を十分に付与することが困難となるとともに、Zn(BO等の結晶が析出し、目的とするZnOの結晶以外の結晶が析出してしまう。また、同様の観点から、前記アルカリ金属の酸化物の含有割合としては6〜11モル%であることが好ましく、8〜10モル%であることがより好ましい。
【0024】
また、このようなアルカリ土類金属の酸化物としては、地殻埋蔵量の観点から、CaO、MgO、BaOがより好ましく、CaOが特に好ましい。なお、このようなアルカリ土類金属の酸化物としては、1種を単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0025】
また、本発明の結晶化ガラスにおいては、前記Bと前記SiOとの合計量が前記各金属酸化物の総量(ZnO、B、Al、SiO、アルカリ金属の酸化物及びアルカリ土類金属の酸化物の総量)に対して30モル%以上である。このようなBとSiOとの合計量が前記下限未満では、結晶化ガラス用材料として透明性及び均一性が不十分なものとなる。また、このような前記Bと前記SiOとの合計量としては、前記各金属酸化物の総量に対して30〜40モル%であることが好ましい。このようなBとSiOとの合計量が40モル%を超えると相対的にZnOの含有量が減少して酸化亜鉛結晶の析出量が少なくなることから、酸化亜鉛の結晶に由来する機能性を十分に付与することが困難となるとともに、Zn(BO等の結晶が析出し、目的とするZnOの結晶以外の結晶が析出する傾向にある。
【0026】
また、本発明の結晶化ガラスは、前記成分以外に、本発明の効果を損なわない範囲で、結晶化ガラスに用いることが可能な公知の他の成分を更に含有してもよい。このような他の成分としては、例えば、遷移金属元素の酸化物、希土類元素の酸化物等が挙げられる。
【0027】
このような遷移金属元素の酸化物としては、赤外線を吸収する元素であるという観点から、CoO、Cr、CuO、CuO、SnO、SnO、MnO、Sb、Sb、Fe、FeO、NiO、V、V、Ta、Nb、TiO、ZrOが好ましく、MnO、Fe、CuOがより好ましい。なお、このような赤外線を吸収する元素を用いた場合には、赤外線加熱により効率よく結晶化ガラスを製造すること等が可能となる。また、このような遷移金属元素の酸化物としては、結晶化を促進する結晶核生成剤としても機能させることが可能であるという観点からは、上記各遷移金属元素の酸化物の中でもTiO、ZrOがより好ましい。なお、このような遷移金属元素の酸化物は1種を単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0028】
また、前記遷移金属元素の酸化物の含有割合としては、0〜3モル%とすることが好ましく、0.1〜1モル%とすることがより好ましい。このような遷移金属元素の酸化物の含有割合が、前記上限を超えると、かかる金属酸化物による着色が顕著になったり、或いは、ガラス形成及びZnOの結晶化挙動に影響を与える傾向にある。
【0029】
前記希土類元素としては、現在機能性光材料として応用されているという観点からイットリウム、セリウム、ユウロピオム、テルビウム、ホルミウム、イッテルビウム、エルビウム、ツリウム(Tm)、ネオジムが好ましい。また、このような希土類元素の酸化物の含有割合としては、0〜1モル%とすることが好ましく、0.1〜0.5モル%とすることがより好ましい。このような希土類元素の酸化物の含有割合が、前記上限を超えると、希土類を含む材料として価格、供給量の両観点からデメリットとなる傾向にある。
【0030】
また、本発明の結晶化ガラスにおいては、前記酸化亜鉛の結晶(ZnOの結晶)が析出している。このような結晶化ガラスとしては、より高い性能が得られるという観点から、ガラス中に酸化亜鉛の結晶のみが析出している結晶化ガラスがより好ましい。また、このような酸化亜鉛の結晶は、X線回折(XRD)により確認できる。また、このような酸化亜鉛の結晶としては特に制限されず、例えば、(100)、(002)又は(101)方向に配向した結晶であってもよい。また、このような結晶化ガラスにおいて酸化亜鉛の結晶が析出している部位は特に制限されず、結晶化ガラスの全体(内部及び表面)に析出していてもよく、表面のみに析出していてもよく、あるいは、一部の表面にのみ析出していてもよい。このような酸化亜鉛の結晶が析出する部位は、製造時の熱処理条件等を適宜変更することにより、容易に変更できる。そのため、目的とする用途に応じて結晶を析出させる部位を適宜変更すればよい。例えば、表面に酸化亜鉛の結晶が配列された構造を有する結晶化ガラスは、比表面積が増大し、表面反応が必要な触媒などの用途に利用する場合に、より高い性能を発揮させることができる。更に、c軸に配向した表面結晶層を有する結晶化ガラスは、種々の単結晶膜の基板となる可能性を有している。
【0031】
このような酸化亜鉛の結晶としては、その平均粒子径が3〜1000nmであることが好ましく、10〜600nmであることがより好ましく、20〜30nmであることが特に好ましい。このような酸化亜鉛の結晶の平均粒径が3nm未満では、結晶粒径を制御しながら結晶化ガラスを製造することが困難となり、製造効率が低下する傾向にある。一方、酸化亜鉛結晶の平均粒径が1000nmを超えると、表面積が小さくなるため触媒能等を十分に発揮させることや結晶化ガラスの可視光透過性を保持することが困難となる傾向にある。なお、このような結晶の平均粒子径の測定方法としては、XRDの回折パターンの半値幅とシェラー式を用いて計算することにより求める方法や、TEM測定を行うことにより直接観察することにより求める方法を採用することができるが、本発明においては、XRDの回折パターンの半値幅とシェラー式を用いて計算することにより求める方法を採用する。
【0032】
また、本発明の結晶化ガラスとしては、波長400〜800nmの光の透過率が60%以上であることが好ましく、70%以上であることがより好ましい。このような光の透過率が前記下限未満では、可視光透過性が不十分で実用性が低下する傾向にある。なお、このような透過率の値としては、紫外・可視・近赤外光スペクトル分析装置(例えば、島津製作所製の「SHIMADZU UV3600」)を用いて測定できる値を採用する。
【0033】
また、本発明の結晶化ガラスは、大面積に酸化亜鉛を選択的に析出させたものとすることが可能である。そのため、本発明によれば、酸化亜鉛の特性を利用する材料を安価に提供することが可能となる。また、本発明の結晶化ガラスは、ガラス材料の優れた賦形性と、高い化学的耐久性とを兼ね備えるものであるため、触媒材料や発光材料などへの応用性が高い。例えば、本発明の結晶化ガラスにおいては、酸化亜鉛結晶がガラス全体に析出しているため、触媒(特に好ましくは光触媒)の材料として好適に用いることができ、触媒部材として利用した場合に、優れた活性及び耐久性を発揮できる。また、ガラス表面付近に制御された結晶相を形成することにより、大面積の発光材料としても応用が可能である。また、希土類元素等の多様な添加物を含むことができるという特性やガラス組成を変えることにより結晶相の組成を制御できるという特性を有するという点からも、発光材料として特に有用であるといえる。更に、本発明の結晶化ガラスは、酸化亜鉛の結晶粒子を耐久性の高い無機材料中(ガラス中)に選択的に析出させたものとすることができるため、酸化亜鉛の微粒子を分散させたレーザ発振媒質(ランダムレーザ)に応用することも可能である。また、本発明の結晶化ガラスは、従来採用していたガラスを作製した後に酸化亜鉛の成膜をおこなうプロセスに比べて、長期スパンにおいて作製に要するエネルギーが少ないだけでなく、成形加工が容易であるという利点やリサイクルが簡便であるという利点を有しており、工業製品等への応用の幅が大きなものである。
【0034】
次に、本発明の結晶化ガラスを製造するための方法について説明する。上記本発明の結晶化ガラスを製造するための方法としては特に制限されるものではないが、結晶化ガラス用の材料ガラス(結晶化ガラス用材料)に結晶化処理を施すことにより結晶化ガラスを得る方法を採用することが好ましい。
【0035】
このような結晶化ガラス用材料(結晶性ガラス)は、ZnOを30〜50モル%;Bを9〜35モル%;Alを5〜15モル%;SiOを5〜27%;LiO、NaO、KO、RbO及びCsOからなる群から選択される少なくとも1種のアルカリ金属の酸化物を5〜12モル%;並びに、MgO、CaO、SrO及びBaOからなる群から選択される少なくとも1種のアルカリ土類金属の酸化物を4〜12モル%含有し、且つ、BとSiOとの合計量が30モル%以上であるものが好ましい。なお、このような結晶化ガラス用材料中の成分及びその含有量等は、上記本発明の結晶化ガラスにおいて説明したものと同様である。このような結晶化ガラス用材料は、これを原料として用いて熱処理(結晶化処理)を施すことで、ガラス中に酸化亜鉛の結晶を選択的に析出させることができるとともに、十分な可視光透過性を有する結晶化ガラスを効率よく製造することが可能なものである。
【0036】
このような結晶化ガラス用材料の製造方法は特に制限されず、結晶化ガラス用材料の組成が上述の範囲となるように用いる出発原料の量を適宜調整して混合した後、その混合物を溶融、冷却して製造する方法を採用してもよい。このような出発原料としては、ZnOと、Bと、Alと、SiOと、前記アルカリ金属の酸化物と、前記アルカリ土類金属の酸化物が挙げられ、必要に応じて、遷移金属元素の酸化物や希土類元素の酸化物等の結晶化ガラス中に含有させることが可能な各種材料を適宜用いればよい。
【0037】
また、このような出発原料を混合した混合物を溶融させる方法としては特に制限されず、ガラスを製造することが可能な公知の方法を適宜採用することができ、例えば、坩堝を用いて1250〜1400℃の温度条件で10分〜3時間程度加熱して前記混合物を溶融する方法を採用してもよい。
【0038】
さらに、前記出発原料の混合物を溶融させるために用いる坩堝としては特に制限されず、公知のルツボを適宜用いることができる。すなわち、このような坩堝としては、例えば、白金坩堝であってもアルミナ坩堝であっても用いることができる。なお、アルミナ坩堝を用いる場合には、前記出発原料中のAl量を低減することができ、場合によっては、出発原料中にAlを加えなくとも所望のガラスを作製することも可能となる。
【0039】
また、このようにして出発原料の溶融物(溶融ガラス)を得た後、これを冷却することで、前記結晶化ガラス用材料を得ることができる。このような冷却の際の条件は特に制限されず、酸化物ガラスを製造することが可能な公知の冷却条件を適宜採用すればよい。また、このような結晶化ガラス用材料を得る際には、前記溶融物を成形し、冷却した後にアニール処理を行ってもよい。このようなアニール処理の方法も特に制限されず、公知の方法を適宜採用できる。
【0040】
また、前記結晶化処理の方法としては、酸化亜鉛の結晶を析出させることが可能な公知の方法を適宜採用でき、例えば、熱源を用いて加熱する方法、レーザ光を照射して加熱する方法等種々の方法等を適宜採用できる。なお、このような熱源を用いて加熱する方法を採用した場合には、大面積を容易に且つ効率的に加熱することが可能となる。また、前記レーザ光を照射して加熱する方法を採用した場合には、レーザ光の照射領域のみを加熱でき、所望の領域にのみ酸化亜鉛の結晶を析出させることが可能となる。また、結晶化ガラスを製造する際に、前記結晶化ガラス用材料を用いることで、酸化亜鉛の結晶を選択的に析出させることが可能である。
【0041】
また、前記熱源としては、加熱の際に所定温度に結晶化ガラス用材料を化学的に安定に保てるものであればよく、特に制限されず、電気炉、ホットプレート、白熱灯等が挙げられる。
【0042】
さらに、前記レーザ光の照射に用いるレーザ装置としては、レーザ光の照射領域においてガラスが均一に加熱され且つその温度を制御することが可能なものであればよく、特に制限されず、例えば、紫外レーザ装置、YAGレーザ装置、炭酸ガスレーザ装置等の加工用のレーザ装置を適宜用いることができる。なお、結晶化によりガラス中の特定の位置に限定して光波制御の機能性を付加して光導波路等の用途に結晶化ガラスを用いる場合等には、レーザ光を用いた加熱方法は、照射領域が限定でき、これにより結晶が析出する部位を容易に制御できるため、特に効率的な加熱方法である。
【0043】
また、このような熱源を用いて加熱する方法やレーザ光を照射して加熱する方法において、加熱温度や加熱時間等の加熱条件は、結晶が析出し、所望の結晶相を得ることが可能な条件であればよく、特に制限されるものではない。また、このような加熱条件は、用いる原料ガラスの組成、結晶を析出させる位置やその量等によっても異なるものであり、一概には言えないが、例えば、580〜640℃程度で1〜5時間保持する条件を採用すること等が挙げられる。なお、結晶相の存在及び結晶化の程度は、X線回折により確認できるため、結晶化の程度が用途等に応じて任意に制御されるように、XRDにより確認した情報に基づいて加熱条件を定めてもよい。また、前記結晶化ガラス用材料は、上述の結晶化処理の際の条件を適宜調整することにより、容易に結晶化の程度や析出部位等を変更することが可能なものである。そのため、本発明の結晶化ガラスの製造時に、前記結晶化ガラス用材料を用いることで、光触媒部材や光学部材等の用途に応じて所望の領域に所望の量の結晶を析出させることが可能となる。
【0044】
次に、本発明の光触媒部材及び光学部材について説明する。本発明の光触媒部材は、上記本発明の結晶化ガラスからなることを特徴とするものである。このような光学部材は、可視光透過性が十分に高く且つ酸化亜鉛の結晶が析出している上記本発明の結晶化ガラスからなるため、微細で且つ高度に分散された酸化亜鉛の結晶に基づく触媒能を得ることが可能である。また、このような光触媒部材においては、上記本発明の結晶化ガラスの中でも、少なくとも表面に酸化亜鉛の結晶が析出している結晶化ガラスを用いることが好ましい。表面に酸化亜鉛の結晶が析出している結晶化ガラスを用いることで、酸化亜鉛に由来した触媒性能をより十分に発揮させることが可能となる。このような光触媒部材は、例えば、紫外線を防ぎ、且つ、光触媒作用を有する住宅・建築物用の窓ガラスなどに好適に用いることができる。
【0045】
また、本発明の光学部材は、上記本発明の結晶化ガラスからなることを特徴とするものである。このような光学部材は、可視光透過性が高く且つ酸化亜鉛の結晶が析出している上記本発明の結晶化ガラスからなるため、例えば、光ファイバ、レーザ媒質、光増幅材料、可飽和吸収材料、発光材料等に好適に用いることができる。
【実施例】
【0046】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0047】
(実施例1〜5)
〈結晶化ガラス用材料の調製〉
最終的に得られる結晶化ガラス用材料の組成がそれぞれ表1に示す組成となるように、原料となる各金属酸化物(ZnO、B、KO、CaO、Al、SiO)の粉末を秤量し、それらを混合して混合粉末をそれぞれ得た。次いで、各混合粉末をそれぞれアルミナ坩堝に投入し、1350℃の温度条件で溶融させた後、160℃の金属板上に流し出して急冷却することによって、表1に示す組成の結晶化ガラス用材料をそれぞれ得た。このようにして得られた結晶化ガラス用材料のガラス転移温度(Tg)をTG−DTA測定により測定した。各結晶化ガラス用材料のTgを表1に示す。
【0048】
〈結晶化ガラスの調製〉
上述のようにして得られた結晶化ガラス用材料に対して結晶化処理を施し、結晶化ガラスをそれぞれ製造した。すなわち、前記結晶化ガラス用材料を電気炉中に配置し、10℃/分の加熱速度で580℃まで加熱した後、1℃/分の加熱速度で表1に記載の保持温度までそれぞれ加熱し、前記保持温度で3時間保持し、結晶化ガラス用材料中に結晶を析出せしめ、室温になるまで4℃/分の冷却速度で冷却して結晶化ガラスを得た。
【0049】
【表1】

【0050】
(比較例1〜9)
〈結晶化ガラス用材料の調製〉
最終的に得られる結晶化ガラス用材料の組成が表2、表3及び表4に示す組成となるように、原料となる各金属酸化物(ZnO、B、KO、CaO、Al、SiO、Bi)の粉末を秤量し、それらを混合して混合粉末をそれぞれ得た。次いで、各混合粉末をそれぞれアルミナ坩堝に投入し、1350℃の温度条件で溶融させた後、160℃の金属板上に流し出し、急冷却することによって、表2に示す組成の結晶化ガラス用材料をそれぞれ得た。このようにして得られた結晶化ガラス用材料のTgをTG−DTA測定により測定した。各結晶化ガラス用材料のTgを表2〜3に示す。
【0051】
〈結晶化ガラスの調製〉
上述のようにして得られた結晶化ガラス用材料をそれぞれ用い、前記保持温度をそれぞれ表2〜3に記載の保持温度(580〜790℃)とした以外は、実施例1で採用した結晶化ガラスの調製方法と同様の方法を採用して、比較のための結晶化ガラスをそれぞれ製造した。
【0052】
【表2】

【0053】
【表3】

【0054】
(比較例10〜15)
〈結晶化ガラス用材料の調製〉
最終的に得られる結晶化ガラス用材料の組成が表4に示す組成となるようにした以外は、比較例1で採用した結晶化ガラス用材料の調製方法と同様の方法を採用して結晶化ガラス用材料をそれぞれ製造した。なお、このようにして得られた結晶化ガラス用材料は透明性及び均一性が不十分なものであった。そのため、ガラス転移温度を測定することが困難であった。なお、このような組成においては、表面に一部ZnOの結晶が析出したガラスは得られたものの、熱処理および結晶化に適する均一で透明なガラスは得られなかった。
【0055】
【表4】

【0056】
[結晶化ガラスの特性の評価]
〈発光スペクトルの測定〉
実施例1で得られた結晶化ガラスの表面を光学研摩し、縦10mm、横10mm、厚み1mmの大きさのガラス試料を調製し、前記ガラス試料の発光スペクトルを、He−Cdレーザー(金門光波社製 IK5351R−D)を光源として相馬光学社製の「マルチチャンネル分光器 S−2600」を検出器として用いて測定した。得られた発光スペクトルのグラフを図1に示す。なお、図1には、ZnO単結晶からなる基板の発光スペクトルも併せて示す。
【0057】
図1に示す結果からも明らかなように、本発明の結晶化ガラスにおいては、結晶の欠陥に由来すると考えられる酸化亜鉛の可視域の発光を示すことが分かった。
【0058】
〈XRDパターンの測定〉
実施例1で得られた結晶化ガラスに対して、X線回折測定を行い、XRDパターンを得た。得られた結果を図2に示す。なお、このようなX線回折測定には、測定装置としてマックサイエンス社製のM03X−HF22を利用した。また、図2には、酸化亜鉛の単結晶のXRDパターンを併せて示す。
【0059】
図2に示す結果からも明らかなように、本発明の結晶化ガラス(実施例1)中にはZnOの結晶が析出されていることが確認された。また、酸化亜鉛の単結晶の回折パターンと比較すると、(100)、(002)、そして、(101)の特定の配向を有する結晶が優先的に析出していることが確認された。このような結果から、本発明の結晶化ガラス(実施例1)においては、ZnOの結晶が選択的に析出した結晶化ガラスを容易に製造できることが確認された。また、実施例2〜5で得られた結晶化ガラスに対しても同様にXRDパターンを測定したところ、実施例2〜5で得られた各結晶化ガラス中においてもZnOの結晶が選択的に析出していることが確認された。
【0060】
また、比較例1〜9で得られた比較のための結晶化ガラスについて、同様にXRDパターンを測定したところ、全ての結晶化ガラスにおいて、Zn(BOの結晶が主として析出していることが確認された。このような結果から、比較例1〜9で得られた結晶化ガラスは、結晶が混合結晶となり、ZnOの結晶を選択的に析出させることが困難であることが分かった。また、比較例1〜9で得られた結晶化ガラスでは、Zn(BOとZnOの混合した結晶が析出することから、ZnOの結晶に由来する機能性を十分に発揮させることが困難であることが分かった。
【0061】
また、実施例1〜5及び比較例1〜9で得られた結晶化ガラス中に析出している結晶の平均粒子径を、XRDの回折パターンの半値幅とシェラー式を用いて求めた。結果を表1〜4に示す。
【0062】
〈電子線回折〉
実施例1で得られた結晶化ガラスに対して、電子線回折を行った。なお、このような電子線回折には、測定装置として株式会社日立ハイテクノロジーズ社製の「FE−TEM(HF−2000)」を用いた。得られた結晶化ガラスの電電子線回折像(結晶構造の写真)を図3に示す。図3に示す結果からも明らかなように、実施例1で得られた結晶化ガラスにおいては、ウルツ型構造のZnO結晶が選択的に析出していることが確認された。
【0063】
〈可視光透過性の評価〉
実施例1〜5で得られた結晶化ガラスの可視光透過性を評価した。このような結晶化ガラスの可視光透過性は、島津製作所製の紫外・可視・近赤外光スペクトル分析装置「SHIMADZU UV3600」を用いて測定した。また、実施例1で得られた結晶化ガラスの写真を図4に示す。
【0064】
このような可視光透過性の評価の結果、実施例1〜5で得られた結晶化ガラスは、いずれも波長800〜400nmの光の透過率が70%以上のものであり、十分に透明性が高いことが確認された。また、図4に示す結果からも、本発明の結晶化ガラスは、非常に透明性の高いものであることが分かる。
【0065】
以上のような結果から、本発明の結晶化ガラス(実施例1〜5)は、ZnOの結晶が析出している結晶化ガラスでありながら、十分に可視光透過性が高く、光触媒の材料や光学部材に適用できることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0066】
以上説明したように、本発明によれば、酸化亜鉛の結晶が析出した結晶化ガラスでありながら十分に優れた可視光透過性を有する結晶化ガラス、及び、それを用いた光触媒部材を提供することが可能となる。このように、本発明の結晶化ガラスは可視光透過性の点で特に優れるため、特に触媒材料や発光材料として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ZnOを30〜50モル%;Bを9〜35モル%;Alを5〜15モル%;SiOを5〜27%;LiO、NaO、KO、RbO及びCsOからなる群から選択される少なくとも1種のアルカリ金属の酸化物を5〜12モル%;並びに、MgO、CaO、SrO及びBaOからなる群から選択される少なくとも1種のアルカリ土類金属の酸化物を4〜12モル%含有し、前記各金属酸化物の総量に対する前記Bと前記SiOとの合計量が30モル%以上であり、且つ、ZnOの結晶が析出していることを特徴とする結晶化ガラス。
【請求項2】
前記結晶化ガラス中に結晶として前記ZnOの結晶のみが析出していることを特徴とする請求項1に記載の結晶化ガラス。
【請求項3】
CoO、Cr、CuO、CuO、SnO、SnO、MnO、Sb、Sb、Fe、FeO、NiO、V、V、Ta、Nb及びTiOからなる群から選択される少なくとも1種の遷移金属元素の酸化物を3モル%以下含有することを特徴とする請求項1又は2に記載の結晶化ガラス。
【請求項4】
希土類元素の酸化物の中から選択される少なくとも1種を1モル%以下含有することを特徴とする請求項1〜3のうちのいずれか一項に記載の結晶化ガラス。
【請求項5】
請求項1〜4のうちのいずれか一項に記載の結晶化ガラスからなることを特徴とする光触媒部材。
【請求項6】
請求項1〜4のうちのいずれか一項に記載の結晶化ガラスからなることを特徴とする光学部材。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−163318(P2010−163318A)
【公開日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−6919(P2009−6919)
【出願日】平成21年1月15日(2009.1.15)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【Fターム(参考)】