説明

結晶半導体粒子の製造方法

【課題】結晶化度が高く、形状、質量のばらつきが小さい結晶半導体粒子を合理的に製造し、安価に供給できる方法を提供することを目的とする。
【解決手段】半導体粒子の表面に、該半導体粒子と同種の半導体からなる微粉末を付着させ、加熱用容器内に配置して、半導体の融点未満の温度で予備的に加熱して、前記微粉
末を酸化もしくは窒化するとともに、半導体粒子表面に酸化物あるいは窒化物を主成分とする被膜を形成する。この半導体粒子を、該半導体の融点以上の温度に加熱して溶融し、球状の溶融体を形成し、これを冷却し、凝固させて結晶半導体粒子を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、球状光電変換素子などの球状の半導体素子もしくはその前駆体となる球状の結晶半導体粒子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、球状の半導体素子を、光電変換素子や、ダイオード、水分解による水素発生用の素子などに使用することが検討されている。特に、球状のp型半導体の表面に沿ってn型半導体層を形成した光電変換素子が、安価で、高出力を期待できる太陽電池素子として注目されている。
【0003】
太陽電池の代表的な例として、多数の凹部を有する支持体の各凹部内に球状の太陽電池素子を取り付け、凹部内面を反射鏡として働かせる方式の低集光型の光電変換装置が提案されている(たとえば、特許文献1)。これによれば、光電変換部を薄型化して、高価なシリコンの使用量を低減でき、太陽電池のコスト削減が可能となる。さらに、通常の反射鏡の設計では、凹面反射鏡の集光作用により直接照射光の4〜6倍の光が素子に対して照射されるので、照射光を光電変換に有効に利用することができる。
【0004】
そのような半導体粒子を製造する方法の一つに、溶融滴下法が提案されている。これは、坩堝に入れた半導体材料の融液を不活性ガスで加圧して、坩堝底部に設けられたノズル孔から連続的に滴下させ、液滴が冷却塔中を落下する間に凝固させることによって、球状の半導体粒子を製造するという方法である(たとえば、特許文献2)。溶融滴下法によれば、直径が約0.3〜2mmの半導体粒子を量産することができる。
【0005】
一方、製造プロセスの自動化が容易で、それに要する費用も安価な球状半導体粒子の製造方法として、粉末溶融法が提案されている(たとえば、特許文献3および4)。この方法では、たとえば、多数の透孔が形成されたテンプレートを使用して、その厚さと透孔の径とで決まる容積の半導体粉末を同時に多数秤取して、山状またはパイル状の多数の小塊を形成し、これらを基板上に配列する。それから、それらの小塊を熱処理炉で加熱し溶融させたのち、冷却して凝固させるという方法である。
【0006】
上記の溶融滴下法あるいは粉末溶融法によって製造される半導体粒子は、一般的に多結晶の粒子であり、球状半導体素子もしくはその母体として使用するに十分な結晶性が備わっていない。そのため、上記の方法で得られた半導体粒子を単結晶化して品質を高めるために、通常は、上記半導体粒子をその溶融温度よりやや高い温度で加熱し、ほぼ球状の原型を保ったままの状態で溶融させた後、これを徐冷して凝固させるという、所謂、再溶融処理が施される。
【0007】
上記の再溶融処理においては、溶融した半導体粒子を球状に維持するとともに、溶融粒子同士が相互に接触して融合することを防止することが重要な課題である。溶融粒子が球状に維持されず、あるいは溶融粒子同士が接触して融合すると、再溶融処理後の半導体粒子は、その形状が崩れたり、単結晶化が不十分であったり、あるいは複数の粒子が結合した状態の不良品となる。
【0008】
上記の問題を解決するためには、溶融前の半導体粒子の表面に適度な酸化被膜あるは窒化被膜を形成することが効果的であり、この保護被膜の作用により、溶融半導体が球状に維持され、かつ、溶融半導体同士の融合が防止されると云われている。上記の保護被膜を形成するために、例えば、窒素を主成分として含む雰囲気中で、シリコン粒子をシリコンの融点未満の温度に加熱して、シリコン粒子の表面に窒化珪素あるいは含酸素窒化珪素からなる被膜を形成させる方法が提案されている(例えば、特許文献5および6)。
【0009】
上記の保護被膜を形成するために、500〜1400℃という高温下で加熱処理を行うことが好ましいことが開示されているが、実際には、より十分な保護被膜を形成するために、例えば、1000〜1200℃で5〜20時間という高温で長時間の加熱処理を必要とする。そのため、生産性が悪く、多量の電力を要する上に、保護被膜の厚さや緻密性を適度にコントロールすることが難しいという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2002−164554号公報
【特許文献2】特開2000−292265号公報
【特許文献3】アメリカ特許第5431127号明細書
【特許文献4】特許第3754451号公報
【特許文献5】特開2009−292652号公報
【特許文献6】特開2009−292650号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記の半導体粒子の再溶融処理における問題点を解決することにより、結晶化度が高く、形状、質量のばらつきが小さい結晶半導体粒子を合理的に製造し、安価に供給できる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の結晶半導体粒子の製造方法は、
(1)半導体粒子の表面に、前記半導体粒子と同種の半導体からなる微粉末を付着させる 工程、
(2)前記微粉末を付着させた複数個の半導体粒子を加熱用容器内に配置する工程、
(3)前記加熱用容器内に配置された半導体粒子を、前記半導体の融点未満の温度で予備的に加熱して、前記半導体粒子に付着した微粉末を酸化もしくは窒化するとともに、前記半導体粒子の表面に前記半導体の酸化物あるいは窒化物を主成分とする被膜を形成する工程、
(4)前記予備的に加熱された半導体粒子を、前記半導体の融点以上の温度に加熱して、前記半導体粒子を溶融し、球状の溶融体を形成する工程、および、
(5)前記溶融体を冷却し、凝固させる工程、
を有することを特徴とする。
【0013】
上記工程(1)における半導体粒子および微粉末は、ノンドープシリコンあるいはドーパントがドープされたシリコンからなることが好ましい。
【0014】
上記工程(1)は、半導体粒子と前記微粉末を混合して、微粉末を半導体粒子の表面に付着させる工程を有することが好ましい。この場合には、半導体粒子の粒径範囲が0.3〜2mmであり、前記微粉末の平均粒径が1〜50μmであることが好ましい。
【0015】
また、工程(1)は、複数の半導体粒子の表面を相互に接触させることにより、これらの半導体粒子の表面を研磨し、この研磨により研磨屑を生成させるとともに、この研磨屑を前記微粉末として、半導体粒子の表面に付着させる工程を有してもよい。この場合には、半導体粒子の粒径範囲が0.3〜2mmであり、前記微粉末の平均粒径が0.1〜10μmであることが好ましい。
【0016】
上記工程(2)が、加熱用容器の平面状の内底面上に、複数個の半導体粒子を配置する
工程を有することが好ましい。この場合には、複数個の半導体粒子を重層的に配置するのが好ましい。
【0017】
上記工程(3)における加熱時の雰囲気は、酸素含有雰囲気であることが好ましい。この雰囲気は、体積百分率で5〜30%の酸素を含み、さらに、残余の成分が窒素または不活性ガスを主成分とすることが一層好ましい。
【0018】
また、上記工程(3)および上記(4)における加熱時の雰囲気は、いずれも大気であることが合理的である。
【0019】
さらに、工程(3)における加熱時の最高温度は、1200℃以上、1414℃未満の範囲から選ばれ、工程(4)における加熱温度は、1414〜1450℃の範囲から選ばれることが好ましい。
【発明の効果】
【0020】
本発明により、半導体粒子の結晶化度を高めるための再溶融処理に先立ち、半導体粒子の表面に同種の半導体の微粉末を付着させることにより、隣接する溶融状態の半導体粒子同士の融合を効果的に防止するとともに、個々の溶融粒子を球状に保つための保護被膜層を短時間に形成することができる。その結果、予備加熱工程でのエネルギー消費量と処理時間を効果的に削減できるので、生産性が大きく改善される。さらに、結晶性が高く、良好な形状の球状半導体粒子を高い収率で製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1A】本発明の工程(1)の一実施形態により、表面に同種の半導体微粉末を付着させた半導体粒子の縦断面図である。
【図1B】図1Aの半導体粒子の一部分を拡大した断面図である。
【図2】上記工程の他の実施形態により、表面に同種の半導体微粉末を付着させた半導体粒子の一部分を拡大した断面図である。
【図3】本発明の工程(2)の実施形態により、図1の半導体粒子を配置した加熱用容器の縦断面図である。
【図4】図3において配置された半導体粒子群の一部の配列状態を示す縦断面図である。
【図5】本発明の工程(3)の実施形態により、予備的に加熱された半導体粒子の状態を示す縦断面図である。
【図6】本発明の工程(4)の実施形態により、形成された球状の溶融体の状態を示す縦断面図である。
【図7】本発明の工程(5)の実施形態により、前記溶融体が凝固した状態を示す縦断面図である。
【図8】本発明により製造した結晶シリコン粒子を母体とした光電変換装置の発電ユニットの平面図である。
【図9】図8の発電ユニットの要部の縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
前記のように、加熱して溶融状態になった半導体粒子を球状に保ち、かつ、溶融粒子同士が相互に融合しないように、その表面に適度な保護被膜を形成させることが効果的である。従来法によれば、この保護被膜を形成させるために、半導体粒子に長時間の高温加熱処理を施す必要がある。
【0023】
保護被膜としては、酸化物を主成分とする被膜(以下、酸化被膜という)、および窒化物を主成分とする被膜(以下、窒化被膜という)があるが、通常は、前者には窒素が含まれ、後者には酸素が含まれた複合的な被膜である場合が多い。窒化被膜は、酸化被膜に比べて、緻密な膜質を備えていると云われているが、膜の形成速度が遅い。例えば、窒素を主成分とする酸素含有雰囲気中(例えば大気中)でシリコン粒子を熱処理した場合、形成される被膜の主成分は酸化珪素であり、窒化珪素は若干量が含まれているに過ぎない。
【0024】
また、酸化被膜と窒化被膜とでは、若干の膜質の違いはあるが、同程度の厚さの被膜を半導体粒子の表面に形成すれば、両者とも保護被膜としてのほぼ同等の効果が得られる。従って、通常は、膜の形成速度が比較的早く、比較的低温度、あるいは短時間で被膜が形成され易い酸化被膜を保護被膜として形成するのが合理的である。
【0025】
しかし、上記の方法により、適度な厚さの保護被膜を形成させるには、大気中であっても、通常、約1000〜1200℃という高温下で、約5〜10時間の熱処理が必要とされ、多大のエネルギー消費と長時間を要するために、生産性が大きく損なわれる。さらに、多量の半導体粒子を同時に熱処理に供する量産工程においては、個々の半導体粒子間に保護被膜の形成度合いに大きなバラツキが発生し易いために、結晶半導体粒子における形状不良および歩留まり低下という問題が発生し易い。
【0026】
本発明の基本的な特徴は、予め、上記の半導体粒子の表面に、該半導体粒子と同種の半導体からなる微粉末を付着させた後、酸素あるいは窒素を含有する雰囲気中、好ましくは酸素含有雰囲気中で、該半導体の融点未満の温度で予備的に加熱することにある。これにより、比表面積が極めて大きい上記微粉末は半導体粒子よりも優先的に酸化あるいは窒化され、これと同時に、微粉末群の下に位置する半導体粒子の表面に酸化被膜あるいは窒化被膜が形成される。その際、微粉末の表面には比較的短時間で被膜が形成され、ほぼ全体が酸化物あるいは窒化物に変化する場合もある。
【0027】
本発明においては、上記の熱処理によって半導体粒子の表面に形成された被膜、およびその被膜上の酸化もしくは窒化された半導体微粉末からなる層(以下、保護被膜層という)が保護被膜としての有効な働きをする。また、この保護被膜層は短時間で形成することができるので、熱処理時間とエネルギー消費量を大幅に削減できる。
【0028】
上記の保護被膜層のうち、半導体粒子本体に形成された被膜は、主として、次工程において半導体粒子が溶融し、表面張力によって球状化する際にその形状を球状のまま維持させるための支持膜としての機能を果たす。また、酸化もしくは窒化された半導体微粉末の主たる役割は、溶融した半導体粒子同士が接触した場合でも、溶融粒子間に介在することによって、双方の粒子が部分的、もしくは全体的に融合する現象を防止することにある。
【0029】
上記の保護被膜層のうち、支持膜としての機能を果たすための保護膜は、半導体粒子表面の薄い被膜で十分である。一方、溶融粒子同士の融合を阻止するためには、双方を確実に隔離できる層を溶融粒子間に介在させることが必要である。酸化もしくは窒化された微粉末からなる層は、効果的にその機能を果たすことができる。
【0030】
従来の方法においては、特に、後者の機能を果たすための強固な保護被膜を形成するために、長時間の熱処理を必要としたが、本発明により、極めて、短時間で、同等の機能を有する保護被膜層を形成することが可能となる。すなわち、本発明では、半導体粒子本体に形成される被膜は、従来法において適度とされる保護被膜よりも薄くて済み、かつ、半導体微粉末表面での酸化もしくは窒化の反応速度が高いので、保護被膜層形成のための熱処理時間を大幅に短縮することができる。
【0031】
以下に、結晶シリコン粒子を製造する場合の実施形態を主体として、本発明を工程順
に説明する。
【0032】
工程(1)
本工程では、半導体粒子の表面に、その半導体粒子と同種の半導体からなる微粉末を付着させる。
【0033】
その方法として、一般的には、半導体粒子と、同種の半導体からなる微粉末を混合する方法が採られる。より合理的な方法として、複数の半導体粒子の表面を相互に接触させることにより研磨し、研磨屑として半導体微粉末を生成させるとともに、この微粉末を半導体粒子の表面に付着させる方法がある。この研磨工程により、半導体粒子の表面を清浄化するとともに形状を整える効果が同時に得られる。
【0034】
上記のうちの後者の方法の実施形態について具体的に説明する。まず、ノンドープシリコン粉末の所定量の塊を、約1450℃に加熱して溶融させ、球状の溶融体とした後、これを冷却して凝固させることにより製造されたシリコン粒子を用意する。さらに、このシリコン粒子の瘤状の突起部を研磨して除去し、ほぼ球状に整形する。整形したシリコン粒子の粒径は約1.3mm、質量は約2.7mgである。
【0035】
本実施形態により得られる結晶シリコン粒子を用いて球状光電変換素子を作製するためには、本工程で用いるシリコン粒子はp型あるいはn型の半導体粒子であることが好ましい。本実施形態によりp型の結晶シリコン粒子を作製するためには、まず、本工程において、例えば、エッチングなどにより表面を清浄化したノンドープシリコン粒子に、臭化硼素(BBr3)を含む窒素ガス雰囲気中にて、約1200℃の熱処理を施す。これにより、シリコン粒子の表面に厚さ3〜5μm程度の硼素の拡散層を形成する。
【0036】
次いで、硼素の拡散層を形成したシリコン粒子の約30万個(約10kg)を、タンク内容量25リットルの小型バレル式研磨機に投入し、50rpmの回転速度で約1時間研磨する。この研磨操作により、シリコン粒子の表面にシリコン微粉末を付着させる。シリコン微粉末が付着したシリコン粒子3の状態を図1に示す。図1Aはその縦断面図、図1Bはその部分拡大図である。研磨されたシリコン粒子1の表面には多数のシリコン微粉末2が高密度に付着している。これらのシリコン微粉末2は、上記の研磨工程において付着した研磨屑である。
【0037】
顕微鏡によるシリコン粒子3の表面観察の結果、シリコン微粉末2は、その粒径がほぼ0.1〜10μmの範囲内にあり、研磨によりシリコン粒子表面に形成された微細な凹凸に食い込んだような状態で比較的強固に付着していた。これにより、次工程において加熱用容器にシリコン粒子3を配置するまでの取り扱い中において、シリコン粒子3からのシリコン微粉末2の脱落を阻止することができる。研磨前のシリコン粒子の表面層に拡散していた硼素は、その一部分が研磨屑(シリコン微粉末2)の中に、他の部分がシリコン粒子1の表面部に、それぞれ分散して含まれている。
【0038】
本工程の他の代表的な実施形態として、上記の拡散層を形成したシリコン粒子とノンドープシリコンの微粉末を所定比率で混合し、シリコン粒子にシリコン微粉末を付着させる方法がある。この場合、研磨屑が殆んど発生しない程度の緩やかな混合操作により、シリコン粒子とシリコンの微粉末を混合する。例えば、市販の粉体混合機を用いて、シリコン粒子とシリコンの微粉末を質量比で1000:1の比率で混合した後、篩により余分の微粉末を除去する。
【0039】
この方法により微粉末を付着させたシリコン粒子の縦断面の部分的拡大図を図2に示す。シリコン粒子1の表面には多数のシリコン微粉末4がほぼ全面にわたって付着している。これらのシリコン微粉末4は、図1の場合よりもシリコン粒子1への付着力が弱いので、工程(2)までの取り扱い中にはできるだけ振動や衝撃を与えないように静かに取り扱うことが好ましい。シリコン微粉末の粒径は1〜50μmが好ましい。
【0040】
上記の実施形態においては、粒径約1.3mmのシリコン粒子にシリコン微粉末を付着させる例を示したが、シリコン粒子の粒径範囲は0.3〜2.0mmであってもよい。
【0041】
工程(2)
本工程においては、前工程により半導体微粉末を付着させた複数個の半導体粒子を、加熱用容器内に配置する。加熱用容器の内底面は平面状であり、その内底面上に複数個の半導体粒子を配置するのが好ましく、これらの半導体粒子を重層的に配置するのが、さらに、好ましい。
【0042】
本工程においては、特に、量産的な観点から、できるだけ多数の半導体粒子を加熱用容器内に配置するのが有利である。この場合、均質な多数の結晶半導体粒子を製造するためには、加熱用容器中の各半導体粒子が、できるだけ同一の条件で加熱されるように配置することが肝要である。
【0043】
例えば、加熱用容器の内底面を平面状とすることにより、多数の半導体粒子を同一平面上に配置することができる。これにより、全ての半導体粒子がほぼ同じ条件で再溶融処理され易くなる。即ち、次工程以降における保護被膜層形成、溶融、凝固、の各過程において、各半導体粒子が、同一の温度および雰囲気のもとで処理され易くなり、均質な結晶半導体粒子を得ることが容易になる。
【0044】
さらに、より多量の半導体粒子を一挙に処理して結晶半導体粒子の生産性を高めるためには、半導体粒子を単層の状態で配置するに止まらず、複層の状態で重ねて配置することが効果的である。これらの場合には、加熱用容器内の多数の半導体粒子が、少なくともそれらの一部が相互に接触するように密に配置されるのが常態である。特に、半導体粒子が積み重なって配置される場合には、後の溶融工程において、溶融半導体粒子同士が一層連結し易くなる。本発明により、酸化もしくは窒化された半導体微粉末を半導体粒子間に介在させることにより、上記の問題は解決されるので、半導体粒子を重層的に配置することが可能となる。
【0045】
半導体微粉末の上記の効果は、従来の方法により形成された通常程度の保護被膜では十分に得ることはできない。同様の効果を得るためには、さらに長時間の高温の熱処理を施して、より厚く保護被膜を形成することが必要である。その場合には、熱処理に要する時間とエネルギーに多くの損失が生じるに止まらず、半導体粒子中の半導体成分が多量に消耗するという問題もある。
【0046】
本発明により、半導体粒子を加熱用容器の内底面に重層的に配置する場合には、半導体粒子を2〜5層に積み重ねて配置することが好ましい。これにより、次工程以降において、加熱容器内の全ての半導体粒子の表面部の保護被膜層の形成度合い、並びに、溶融および凝固の際の温度条件などが所定条件内に維持され、より均質な結晶半導体粒子を得ることができる。6層以上の多層状に半導体粒子を配置すると、最上段部と最下段部の雰囲気や温度条件などに大きな差異が生じ易く、均一に保護被膜層を形成し難くなる。
【0047】
図3に、加熱用容器5の平面状の内底面上に、図1に示した微粉末付着済みシリコン粒子3を3層に敷き詰めた状態の縦断面図を示し、図4には、図3の一部分を拡大した図を示す。加熱用容器5の内底面の形状は約300×300mmの方形であり、四隅には若干の丸みが設けられている。その内底面には、一層あたり、約5万個の微粉末付着済みシリコン粒子3が配置されている。
【0048】
工程(3)
本工程においては、加熱用容器内に配置された微粉末付着済み半導体粒子を、好ましくは酸素含有雰囲気中で、該半導体の融点未満の温度で予備的に加熱する。これにより、半導体粒子の表面に付着させた微粉末を酸化あるいは窒化するとともに、半導体粒子の表面に酸化物あるいは窒化物を主成分とする被膜を形成する。
【0049】
半導体粒子がシリコン粒子である場合には、本工程における予備加熱の温度は、その最高温度が、1250℃以上、1413℃未満の範囲から選ばれることが好ましい。これにより、より短時間に微粉末付着済みシリコン粒子の表面部に所望の保護被膜層を形成することができる。また、この加熱時の雰囲気は、酸素含有雰囲気であり、さらに窒素あるいは不活性ガスを含む雰囲気であることが好ましく、酸素の含有量が、体積百分率で、5〜30%であることがさらに好ましい。上記の条件を満たし、最も手軽で安価な雰囲気として、大気を選択することが合理的である。
【0050】
上記雰囲気中の酸素含有量が5%未満では、シリコンの低級酸化物(SiO)が生成し易く、これが雰囲気中に昇華するとSiO2に変化してシリコン粒子上に堆積する。これは、白化現象と呼ばれており、この現象が生じると保護被膜が形成されない。酸素含有量が30%を超える場合には、生成速度が速すぎるためか、半導体微粉末の酸化物が微細化して飛散し易い。
【0051】
本工程は、一般的な加熱炉を用いて、所定の酸化雰囲気中でバッチ処理により実施することができる。生産性を高めるためには、連続処理用加熱炉を用いて、本工程および次工程以降の工程を連続して実施するのが合理的である。連続熱処理炉として、例えば、炉内の壁が耐熱性、耐蝕性に優れているセラミックス焼成用の炉を転用することができる。
【0052】
連続熱処理炉は、例えば、搬入部、予備加熱部、溶融部、凝固部、および搬出部からなり、これらを貫通するよう搬送用のローラーコンベアが配置されている。熱処理炉内の各部はエアーカーテンなどで仕切られており、所定の雰囲気および所定の温度プロファイルになるよう設定される。
【0053】
本実施形態では、微粉末付着済みシリコン粒子3の約150000個を図3のように3層に重ねて配置した加熱用容器5を、連続的に熱処理炉の搬入部から予備加熱部に搬入する。予備加熱部の入口付近は約1200℃に保たれ、出口に近づくにつれて高温になり、出口付近では約1400℃に保たれている。予備加熱部内の雰囲気ガスは大気である。周知のように大気中には、体積比で酸素と窒素が約1:4の割合で含まれている。加熱用容器5は予備加熱部内を一定速度で、約5分間かけて通過させる。
【0054】
図5に、上記の方法で保護被膜層7を形成したシリコン粒子6のうち、第1層目から第3層目に配列されたシリコン粒子群の部分的な縦断面図を示す。保護被膜層7は、シリコン粒子1の表面に形成された酸化被膜8、および、表面層が酸化されたシリコン微粉末9からなっている。
【0055】
工程(4)
本工程では、前工程で保護被膜層が形成された半導体粒子を、当該半導体の融点以上の温度に加熱して、半導体粒子を溶融し、球状の溶融体を形成する。
【0056】
半導体がシリコンである場合には、シリコン粒子を溶融するための溶融部での加熱温度は、融点(1414℃)以上であれば良いが、シリコンの溶融体を球状に保ち、かつ、加熱用基板の軟化や消耗あるいは炉材や加熱源の消耗を抑制するために、1450℃以下であることが好ましい。特に、結晶性を高める観点からは、1414〜1435℃であることが好ましい。溶融部における保護被膜層形成済みシリコン粒子の加熱時間は、例えば、約3〜7分間程度である。
【0057】
例えば、前記の工程(3)の実施形態において連続熱処理炉の予備加熱部を通過した加熱用容器を、引き続き、約1400℃に加熱された溶融部の入り口付近から、約1435℃に加熱された出口付近まで約5分間かけて移動させる。これにより、シリコン粒子が溶融して、小球状の溶融体が形成される。図6に示すように、加熱用容器5の内底面には、保護被膜層12で包まれた小球状のシリコン溶融体10が、図5における保護被膜層形成済みシリコン粒子6とほぼ同じパターンで3層に配列されている。この際、図5における保護被膜層7の一方の構成要素である酸化されたシリコン微粉末9は、その内部のシリコン成分が溶融して変形し、微粉末同士が密接した層11を形成している。これにより、図6における保護被膜層12は、図5における保護被膜層7よりも緻密な層に変化している。
【0058】
本実施形態においては、シリコン粒子を3層に配列しているが、5層以下に配列すれば、下層のシリコン溶融体が上層のシリコン溶融体に押し潰されることなく、球状を維持でき、さらに、隣接する溶融体同士が全体的もしくは部分的に融合することを防止できる。
【0059】
工程(5)
本工程では、前工程で形成された半導体の球状溶融体を冷却し、凝固させることにより、結晶化度の高い球状の半導体粒子を得る。
【0060】
上記の連続熱処理炉を用いて実施した本工程の実施形態においては、保護被膜層で包まれたシリコンの球状溶融体が所定パターンで配列された加熱用容器を、溶融部から凝固部に搬送し、冷却、凝固させて結晶化度の高い球状のシリコン粒子を得る。これら結晶シリコン粒子は搬出部から搬出される
【0061】
溶融部から凝固部に移送されたシリコン溶融体を急冷すると、固化した外殻部内に溶融状態のシリコンが閉じ込められる。冷却が進むにつれて内部のシリコンが凝固すると、内部のシリコンの体積が増大するので、形成されたシリコン粒子にストレスが内蔵される。このストレスにより、粒子の外殻が破れて異常な突起部が形成されたり、クラックが生じたりする場合がある。
【0062】
これらの現象を抑制するために、生産性を損なわない範囲で、冷却速度が適切なものとなるよう、凝固部内の温度プロファイルとローラーコンベアによる搬送速度との関係を設定するのが好ましい。例えば、凝固部の温度を、2〜5分間かけて1435℃から1400℃まで降温させて、加熱用容器内でほぼそのままの配列パターンを保った状態でシリコン溶融体を凝固させる。その後、凝固部から回収容器までの経路において、凝固したシリコン溶融体を自然冷却させて結晶シリコン粒子として回収する。
【0063】
図7は、凝固部から出た加熱用容器5内の凝固した結晶シリコン粒子群の状態を部分的に示す縦断面図である。結晶シリコン粒子13のなかには、ほぼ球状のもの13A、上記の理由により発生した突起部14を多少なりとも有するもの13Bが混在している。結晶シリコン粒子13Aおよび13Bは、突起部14を除いて、いずれも保護被膜層12で覆われている。本実施形態において得られる結晶シリコン粒子の質量は約2.4mgであり、粒径が約1.25mmである。
【0064】
上記の実施形態においては、シリコン粒子の表面層に予め拡散させている硼素は、工程(1)における研磨工程により、研磨屑(シリコン微粉末)とシリコン粒子表面層の中に分散し、工程(4)により、これらの硼素がシリコン溶融体の内部にドープされる。従って、工程(5)において得られる上記の結晶シリコン粒子は硼素がドープされたp型半導体である。
【0065】
本発明により、p型あるいはn型の結晶シリコン粒子を得るためには、上記の実施形態以外に様々な方法を採ることができる。例えば、上記実施形態と異なり、工程(3)および工程(4)をそれぞれバッチ方式により非連続的に実施する場合には、工程(1)においてシリコン粒子の表面にドーパントの拡散層を形成することなく、工程(3)あるいは工程(4)を密閉された加熱炉内で、臭化硼素などのドーピング剤を含む雰囲気中で実施することが好ましい。また、予め所定の濃度のドーパントがドープされたシリコン粉末を原料として用いてもよい。
【0066】
本発明により得られる半導体粒子は、ダイオード、センサー、および太陽電池などに用いる球状半導体素子の母体となるものである。その代表例として、前記の実施形態により得られた直径約1.25mmの結晶シリコン粒子を加工して製造される代表的な球状光電変換素子、およびこれを用いた光電変換装置(低集光型球状太陽電池)について以下に説明する。
【0067】
まず、上記の実施形態により得られたp型の結晶シリコン粒子の突起部を研磨などにより除去するとともに真球度を高めて、約1.1mmの球径に揃える。この球状のp型結晶シリコン粒子(p型半導体)の表面に燐の拡散層(n型半導体層)を形成することにより、p−n接合を備えた球状光電変換素子が得られる。上記の拡散層は、例えば、POCl3の溶液のミストを表面に吹き付けたp型結晶シリコン粒子を900℃程度の温度で熱処理することにより形成される。次に、必要に応じて、上記の光電変換素子の表面に、例えば、フッ素あるいはアンチモンをドープすることにより導電性を付与した厚さ50〜100nmのSnO2膜を反射防止膜として形成する。
【0068】
次に、上記の光電変換素子を用いた光電変換装置について説明する。図8は、光電変換装置を構成する発電ユニット101の平面図であり、図9はその発電部102の要部の縦断面図である。直径約1.1mmの光電変換素子(以下、「素子」と略称)103はアルミニウム製の支持板104に設けられた約1800個の凹部105のそれぞれに一個ずつ固定されて発電部102が形成される。凹部105の内面に照射された光を素子103に向けて反射させることにより、素子の光電変換効率が高められる。凹部105の底部に設けられた開口部から素子103の一部が支持板104の裏面側に突出している。その突出部分上のn型拡散層106および導電性反射防止膜(図示せず)はエッチングなどで除去され、素子103のp型半導体107の表面が露出している。その露出部には電極層108が形成されている。支持板104の凹部105内には、EVA(エチレン酢酸ビニルコポリマー)からなる透光性の保護樹脂116が埋め込まれ、凹部105内に固定された素子103がより強固に固定されている。
【0069】
支持板104の裏面には電気絶縁層110が接着され、電極層108に対向する部位の電気絶縁層110には透孔が開けられている。電気絶縁層110の裏側にはアルミニウム製の導電板109が接着され、電気絶縁層110の透孔に対向する部位の導電板109には透孔が開けられており、これらの透孔によって連通孔が形成されている。支持体104における凹部105の底部開口部の周縁端部と素子103のn型拡散層106は導電性反射防止膜(図示せず)を介して、導電性接着剤からなる接続部111によって電気的に接続されている。素子のp型半導体107の電極層108と導電板109とは、前記の連通孔を満たすよりやや多量に充填された導電性ペースト113により、電気的に接続されている。
【0070】
支持板104の一端は発電ユニット101の一方の端子115を構成し、これに対向する端部の裏側から突出させた導電板109の一端が他方の端子114を構成している。
上記の発電ユニットの出力は約1Wであるが、上記の端子114、115と他の発電ユニットの端子とを電気溶接などで接続することにより、任意の数の発電ユニットが直列または並列に電気的に接続することができる。これにより、希望する電圧の電力を出力する光電変換装置を構成することができる。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明により製造された半導体粒子は、特に、住宅などの建築物の自家発電用などの光電変換装置に用いる球状光電変換素子の母体として有用である。
【符号の説明】
【0072】
1 シリコン粒子
2、4 シリコン微粉末
3 シリコン微粉末を付着させたシリコン粒子
5 加熱用容器
6 保護被膜層が形成されたシリコン粒子
7、12 保護被膜層
8 シリコン粒子表面の被膜
9 酸化もしくは窒化されたシリコン微粉末
10 球状のシリコン溶融体
13、13A、13B 結晶シリコン粒子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)半導体粒子の表面に、前記半導体粒子と同種の半導体からなる微粉末を付着させる工程、
(2)前記微粉末を付着させた複数個の半導体粒子を加熱用容器内に配置する工程、
(3)前記加熱用容器内に配置された半導体粒子を、前記半導体の融点未満の温度に予備的に加熱して、前記半導体粒子に付着した微粉末を酸化もしくは窒化するとともに、前記半導体粒子の表面に前記半導体の酸化物あるいは窒化物を主成分とする被膜を形成する工程、
(4)前記予備的に加熱された半導体粒子を、前記半導体の融点以上の温度に加熱して、前記半導体粒子を溶融し、球状の溶融体を形成する工程、および、
(5)前記溶融体を冷却し、凝固させる工程、
を有する結晶半導体粒子の製造方法。
【請求項2】
前記工程(1)における半導体粒子および微粉末が、ノンドープシリコンあるいはドー
パントがドープされたシリコンからなる請求項1に記載の結晶半導体粒子の製造方法。
【請求項3】
前記工程(1)が、前記半導体粒子と前記微粉末を混合して、前記微粉末を前記半導体粒子の表面に付着させる工程、を含む請求項1または2に記載の結晶半導体粒子の製造方法。
【請求項4】
前記工程(1)における半導体粒子の粒径範囲が、0.3〜2mmであり、前記微粉末
の平均粒径が、1〜50μmである請求項3に記載の結晶半導体粒子の製造方法。
【請求項5】
前記工程(1)が、複数の前記半導体粒子の表面を相互に接触させることにより、前記半導体粒子の表面を研磨するとともに、前記研磨により生成した研磨屑を前記微粉末として、前記半導体粒子の表面に付着させる工程、を有する請求項1または2に記載の結晶半導体粒子の製造方法。
【請求項6】
前記工程(1)において、半導体粒子の粒径範囲が、0.3〜2mmであり、前記微粉
末の平均粒径が、0.1〜10μmである請求項5に記載の結晶半導体粒子の製造方法。
【請求項7】
前記工程(2)が、前記加熱用容器の内底面が平面状であり、前記複数個の半導体粒子を前記内底面上に配置する工程を含む請求項1〜6のいずれかに記載の結晶半導体粒子の製造方法。
【請求項8】
前記工程(2)が、前記複数個の半導体粒子を重層的に配置する工程を含む請求項7に記載の結晶半導体粒子の製造方法。
【請求項9】
前記工程(3)における加熱時の雰囲気が酸素含有雰囲気である請求項1〜8のいずれ
かに記載の結晶半導体粒子の製造方法。
【請求項10】
前記工程(3)における加熱時の雰囲気が、体積百分率で5〜30%の酸素を含み、さらに、残余の成分が窒素または不活性ガスを主成分とする請求項1〜9のいずれかに記載
の結晶半導体粒子の製造方法。
【請求項11】
前記工程(3)および(4)における加熱時の雰囲気が大気である請求項1〜10のいずれかに記載の結晶半導体粒子の製造方法。
【請求項12】
前記工程(3)における加熱時の最高温度が、1200℃以上、1414℃未満の範囲から選ばれ、前記工程(4)における加熱温度が、1414〜1450℃の範囲から選ばれる請求項2〜11のいずれかに記載の結晶半導体粒子の製造方法。

【図1A】
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【図1B】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−126592(P2012−126592A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−278364(P2010−278364)
【出願日】平成22年12月14日(2010.12.14)
【出願人】(502139910)株式会社クリーンベンチャー21 (33)
【Fターム(参考)】