説明

結晶材料からなる被研磨物を研磨するための研磨盤とその製造方法、及び研磨方法

【課題】微細な砥粒を用いる仕上げ研磨において、結晶材料から成る被研磨物をスクラッチ、加工歪又は段差を生じることなく、効率よく研磨できる金属研磨盤、その製造方法及び研磨方法を提供することを目的とする。
【解決手段】研磨盤面に互いに平行に形成された螺旋状又は同心円状の第1のV字溝及び第2のV字溝と、前記第1のV字溝と前記第2のV字溝との間に画成された研磨面と、を含み、前記第1のV字溝の縦断面の面積が前記第2のV字溝の縦断面の面積より大きく、前記第1のV字溝同士の間のピッチと前記第2のV字溝同士の間のピッチが等しく、前記研磨面の表面粗さRaは0.05μmないし2μmの範囲にあり、前記研磨面の幅は20μmないし120μmの範囲にある金属研磨盤が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体ウェーハ、LED基板、液晶プロジェクター用透明基板、又は磁気ヘッド用基板等に使用される結晶材料、例えば単結晶材料、複合材料又はセラミックス材料から成る被研磨物の研磨に関し、特に結晶材料に形成される電子デバイス素子の性能が高度に発揮されるよう被研磨物を平坦且つ平滑に研磨するために研磨砥粒を含む研磨液とともに使用される研磨盤とその製造方法、および研磨方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、半導体デバイスや機能素子を形成するための様々な結晶基板は、(i)単結晶インゴット・溶融ブロックの素材、又は焼結・ホットプレス等の方法で素材を得て、(ii)得られた素材を薄片に切断し、(iii)切断した薄片を所定の厚さまで研削し、(iv)鏡面となるまで研磨し、(v)基板表面に用途に応じた成膜を行う工程を経て製造される。
【0003】
鏡面となるまで研磨する工程では、大きい砥粒を用いた粗研磨から超微細砥粒を用いた仕上げ研磨へと順次複数の研磨が行われる。各々の研磨において被研磨物がワークホルダーに固定され、樹脂製又は金属製の研磨盤に押圧され、ワークホルダーと研磨盤とを各々回転させながら遊離砥粒を含む又は含まない、水性又は油性のスラリーを供給することによって機械的又は/及び化学的に研磨される。
【0004】
従来、硬脆材料の研磨加工には、研磨傷が入らないようにするために研磨盤として弾性のある樹脂から成る研磨布を貼付した定盤及び研磨砥粒としてコロイダルシリカ等の微細粒子を使用することが提案されている(特許文献1:特開2001−342455公報)。
【0005】
また、シリコンSi、窒化ガリウムGaN又は炭化珪素SiC等の結晶材料から成る半導体ウェーハの仕上げ研磨には、研磨液に酸化性を加え、化学的作用を併用した化学機械研磨(CMP)を行うことが提案されている(特許文献2:特開2008−68390公報、特許文献3:特開2008−166329公報)。これらによって、研磨速度を促進しながら研磨傷のない表面仕上げができるとされている。
【0006】
また、従来、ハードディスク装置に使用される薄膜磁気ヘッドのような複合材料からなる被研磨物の研磨には、螺旋状または同心円状の溝付きの金属定盤を用いることが提案されている。薄膜磁気ヘッドは、金属磁性材料から成る記録再生素子を酸化アルミニウム層で挟みアルミナチタンカーバイドAl−TiCのスライダーと組み合せた組立体であるため、その被研磨面である端面は軟質材料と硬質材料が積層されて成るものである。このような複合材料から成る端面の研磨仕上げには、弾性のある樹脂製研磨盤では研磨盤の撓みのために平坦且つ平滑な研磨ができないことから、撓みの影響を受けない金属製の研磨盤が使用される。
【0007】
この金属研磨盤を、遊離砥粒を含む研磨液とともに使用した場合、端面を構成する材料の硬度の違いにより研磨される速度が異なり平坦な研磨ができないことに鑑みて、錫(Sn)等の軟質金属から成る定盤の被研磨面が押圧される表面に固定砥粒を埋め込んで使用することが提案されている(特許文献4:特開平6−179155号公報、特許文献6:特開2001−56920公報)。また、遊離砥粒を使用する場合には、端面の硬度の違いに応じて所定の方向から遊離砥粒を供給することが提案されている(特許文献5:特開平11−31304号公報)。これらによって、複合材料から成る被研磨物の研磨においても平坦且つ平滑な研磨ができるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2001−342455公報
【特許文献2】特開2008−68390公報
【特許文献3】特開2008−166329公報
【特許文献4】特開平6−179155号公報
【特許文献5】特開平11−31304号公報
【特許文献6】特開2001−56920公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
弾性のある樹脂材料から成る研磨盤を使用して研磨した場合、その弾性のためにウェーハの端面付近にうねりを生じ、又は異相結晶材料や複合材料から成る被研磨物のように硬度の異なる部分があると硬度の低い部分に凹みを生じ、平坦且つ平滑な研磨ができないという問題があった。
【0010】
また、シリコンウェーハのように面積の広い被研磨物を研磨する場合、研磨液がウェーハ面と研磨盤との接触面全体に供給され難いため均一な研磨ができない。研磨液が接触面全体に均一に行き渡るようにするために樹脂材料からなる研磨盤の表面に螺旋、同心円又は格子状の溝を形成しても、研磨速度を向上させるため接触面の幅を狭めて単位面積当たりの研磨荷重を増加させると材料強度の弱さのために接触面に撓みが生じることから、大きな荷重を加えることができず、樹脂材料からなる研磨盤では十分な研磨速度が得られないという問題があった。
【0011】
金属研磨盤を使用して研磨する場合、その金属研磨盤に研磨条件に応じた幅やピッチ(溝同士の間隔)を有する螺旋又は同心円の溝や固定砥粒を埋め込んだ表面(被研磨面と接触する面)が形成されたが、固定砥粒を埋め込んだ定盤では研磨するうちに砥粒が脱粒して研磨速度が低下し、スクラッチ及び不均一な研磨の原因になり、研磨盤の寿命が短いという問題があった。高精度な仕上げ研磨のために平均粒径0.1μm以下の微細な砥粒を使用しようとすると、このような微細な砥粒を定盤の表面に十分に埋め込むことが困難であるため、上記問題は顕著であった。
【0012】
従来の溝を有する金属研磨盤を平均粒径0.1μm以下の研磨砥粒を含む研磨液とともに使用すると、その研磨盤面の溝や研磨面の構成が最適化されていないために、研磨盤と被研磨物の接触面でハイドロプレーニング現象(研磨液の膜ができてスリップすること)が起こり、十分な研磨速度が得られなかった。被研磨物がハイドロプレーニング現象により浮上しないよう研磨液の供給量を少なくすると、金属研磨盤の弾性は樹脂製の研磨盤と比較して極めて低いため、幅の広い接触面に対し砥粒の供給が十分に行われず、研磨盤と被研磨物との対向面で吸着が生じて研磨できず、研磨盤や被研磨物が破損するという問題があった。
【0013】
吸着の問題は、研磨液に潤滑性の油性分散媒を使用することによって多少は改善されたが、従来の溝を有する金属研磨盤を使用した研磨において、単位面積当たりに加えることができる荷重は概して500g/cm〜2000g/cm程度が限度であった。十分な荷重を加えることができない結果ハイドロプレーニング現象の発生を防止することができず、研磨効率が急激に低下した。
【0014】
被研磨物の浮上を低減するために研磨盤の回転数を低くすれば接触面への研磨液の供給が悪くなり、結晶基板が研磨盤の接触面に吸着して双方に傷を付ける結果となった。溝付き研磨盤の被研磨物との接触面を狭くして接触抵抗を低くしても、従来のような溝では研磨効率を促進しながら結晶基板を平坦且つ平滑に研磨することができなかった。
【0015】
本発明は、上記の問題に鑑み、次世代半導体やLED、液晶プロジェクター等に使用される硬質の単結晶基板(GaN、SiC、サファイヤ等)やスピネル型結晶、ガーネット型結晶(例えばマグネシア―アルミナMgO−Alスピネル、希土類酸化物ガーネット)等の複合セラミックス材料又は磁気ハードディスク装置に使用される薄膜磁気ヘッドのように硬度の異なる複合材料から成る被研磨物の仕上げ研磨において、被研磨物にスクラッチ、表面欠陥(加工歪)、凹凸(段差)を生じることなく、効率よく研磨ができる金属研磨盤、金属研磨盤の製造方法及び研磨方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
課題を解決するための本発明の結晶材料から成る被研磨物を研磨するための金属研磨盤は、研磨盤面に互いに平行に形成された螺旋状又は同心円状の第1のV字溝及び第2のV字溝と、第1のV字溝と第2のV字溝との間に画成された研磨面と、を含み、第1のV字溝の縦断面の面積が第2のV字溝の縦断面の面積より大きく、第1のV字溝同士の間のピッチと第2のV字溝同士の間のピッチが等しく、研磨面の表面粗さRaが0.05μmないし2μmの範囲にあり、研磨面の幅が20μmないし120μmの範囲にある、ことを特徴とする。
【0017】
さらに本発明に係る金属研磨盤は、研磨面が螺旋状又は同心円状の複数の微細溝を含むことを特徴とする。微細溝はさらに微細条痕を含み、すなわち研磨面がこれら微細溝と微細条痕からなる微細な凹凸を有し所定の表面粗さを有することにより、平均粒径0.1μm以下の微細な研磨砥粒であっても効率よく研磨面に保持することができる。
【0018】
本発明に係る金属研磨盤に形成された第1のV字溝の深さは0.5mmないし2mmの範囲にあり、第2のV字溝の深さは0.01mmないし0.05mmの範囲にあることが好ましい。また、第1のV字溝の開き角度が30度ないし90度の範囲にあり、前記第2のV字溝の開き角度が20度ないし90度の範囲にあることが好ましい。さらに第1のV字溝同士の間のピッチと第2のV字溝同士の間のピッチが等しく、そのピッチは1.0mmないし5.0mmの範囲にあることが好ましい。
【0019】
本発明の金属研磨盤が上記のような大小の第1、第2のV字溝と該大小のV字溝の間に画成された所定の幅を有する研磨面とを有することにより、研磨盤面に研磨砥粒を含む研磨液を十分に供給しながら研磨面に必要十分な研磨砥粒を効率良く供給し、被研磨面の浮上(ハイドロプレーニング現象)や被研磨面と研磨面との吸着を生じさせることなく、高い研磨荷重下で高精度の仕上げ研磨を行うことができる。第1のV字溝の開口角度の大小や溝の深さは研磨面への砥粒の供給効率や研磨液や研磨屑の排出効率に影響を与えると考えられる。また、第2のV字溝の開口角度や溝の深さはハイドロプレーニング現象の発生、両側の研磨面への研磨粒子の供給に影響を与えると考えられる。
【0020】
また、本発明の金属研磨盤は軟質金属、たとえば錫(Sn)、鉛(Pb)、銅(Cu)、純鉄(Fe)又はこれらを主成分とした合金から成ることが好ましい。
【0021】
結晶材料から成る被研磨物を研磨するための金属研磨盤の製造方法は、金属定盤に第1の加工手段を押圧し該金属定盤を回転させ定盤面に回転軸を中心とする螺旋状又は同心円状の微細溝を形成し該定盤面の表面粗さRaを0.05μmないし2μmの範囲に加工する工程と、金属定盤に第2の加工手段を押圧し該金属定盤を回転させ定盤面に回転軸を中心とする螺旋状又は同心円状の第1のV字溝を形成し定盤面の第1のV字溝同士の間に所定の幅の研磨面を含むようにランド部を画成する工程と、金属定盤に第3の加工手段を押圧し該金属定盤を回転させランド部に第1のV字溝と平行な螺旋状又は同心円状の第2のV字溝であって、該第2のV字溝同士の間のピッチが第1のV字溝同士の間のピッチに等しい第2のV字溝を形成する工程と、を含み、第1のV字溝の縦断面の面積は第2のV字溝の縦断面の面積と異なり、第1のV字溝と第2のV字溝との間に研磨面が画成され、研磨面の所定の幅は20μmないし120μmの範囲にある。
【0022】
本発明の金属研磨盤の製造方法において使用される第1〜第3の加工手段は各々所定の先端(刃先)形状を有する研削バイトであってよい。また、金属研磨盤の製造は研磨装置上で行うことが望ましい。研磨盤の平行度や偏心の問題がなく、研磨装置に適合した金属研磨盤を得ることができるためである。
【0023】
さらに本発明の結晶材料から成る被研磨物を研磨する方法は、研磨盤面に互いに平行に形成された螺旋状又は同心円状の第1のV字溝及び第2のV字溝と、前記第1のV字溝と前記第2の溝との間に画成された研磨面を含む金属研磨盤及び研磨液を使用する。本研磨方法は、金属研磨盤及び保持部材に保持された被研磨物を各々回転させる工程と、回転する金属研磨盤に、平均粒径が0.1μm以下の研磨砥粒及び分散媒から成る研磨液を供給しながら、保持部材の上から研磨荷重を加え被研磨物の被研磨面を研磨盤面に押し当てる工程とを含む。第1のV字溝の縦断面積が第2のV字溝の縦断面積より大きく、第1のV字溝同士の間のピッチと第2のV字溝同士の間のピッチは等しく、研磨面の表面粗さRaは0.05μmないし2μmの範囲にある。
【0024】
本発明の研磨方法においては微細な凹凸から成り所定の表面粗さを有する研磨面に被研磨面が押圧されると、微細な砥粒が効率良く研磨面に捕捉され高い研磨速度で研磨を行うことができる。また研磨面を画成する第1及び第2のV字溝により、研磨液の流入、排出とともに一定量の研磨液を保持して砥粒を均一に研磨面に供給することができるため、加工量が一定な研磨を長時間行うことができる。このような本発明の研磨方法は、特に、次世代半導体素子、LED用の硬質の単結晶材料又は複合セラミックス材料、磁気ハードディスクに使用される薄膜磁気ヘッドのような硬度の異なる複合材料から成る被研磨物の仕上げ研磨に有効である。
【0025】
本発明に係る研磨方法では、潤滑性の油性分散媒から成る研磨液が使用されることが好ましい。油性分散媒は、合成イソパラフィン系炭化水素等から成るオイル及び水溶性のグリセリン、グリコール類、又は高級脂肪酸を含むものであってもよい。油性の分散媒は、砥粒の表面に潤滑膜(油膜)を形成するため、スクラッチや欠陥(加工歪)の発生を防止することができる。また、研磨液を被研磨面と研磨面の接触面に容易に流入させ、排出することができるため液切れを起こすことなく、研磨効率を向上させることができる。
【0026】
さらに本発明の研磨方法において、研磨面の幅は20μmないし120μmの範囲にあり、研磨荷重は100kg/cm以上、2000kg/cm以下の範囲にあることが好ましい。第1及び第2のV字溝によって画成され、所定の幅をもつ研磨面に対し研磨砥粒が継続的に均一に供給され、また高い研磨荷重をかけることができる。研磨荷重を高くすることにより、被研磨面の浮上を生じることなく、微細な砥粒が研磨面の微細な凹凸(微細溝等)に捕捉され又は軟質金属から成る研磨面に砥粒の一部が刺さって保持される量が増加し、これらが被研磨面に有効に作用して研磨効率を高める。
【0027】
また、研磨面の幅が所定に定められると、高い研磨荷重による被研磨面の浮上量の減少により、被研磨面と研磨面との間の隙間が減少して、微細な砥粒が研磨に寄与せずに通過してしまう割合が少なくなり、したがって研磨時間が短くなり、被研磨面へのスクラッチ発生も少ないものとなる。
【0028】
本発明の研磨方法に使用される研磨粒子は、平均粒径が0.1μm以下であることが好ましく、平均粒径が50nm以下であることがより好ましい。砥粒には単結晶又は多結晶ダイヤモンド、アルミナ、シリカ、炭化ケイ素等の硬質材料が使用されてよいが、特に、ダイヤモンドが好ましい。
【発明の効果】
【0029】
上記のとおり、本発明にかかる金属から成る研磨盤の特徴的な溝の構成により、微細な研磨砥粒を有効に保持し研磨面に供給し又は排出することができる。また、本発明にかかる研磨盤の特徴的な研磨面の構成により、研磨荷重を従来よりも大幅に高めることができ、研磨面に供給され捕捉・保持された微細な砥粒を被研磨面に有効に作用させることができる。従って本発明の金属研磨盤及び研磨方法の実施により、研磨速度を促進し且つ研磨盤の寿命を長く保ち、効率の高い研磨を継続的に行うことができるという効果がある。また、硬質の単結晶基板や複合セラミックス材料等から成る被研磨物の表面にスクラッチや表面欠陥(加工歪)、段差を生ずることなく、平坦且つ平滑な高精度の仕上げ研磨を行うことができるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】図1は本発明の金属研磨盤を含む研磨装置を模式的に示す図である。
【図2】図2(a)、(b)は本発明の研磨盤面を模式的に示す図である。
【図3】図3は本発明の研磨盤面に形成された第1及び第2のV字溝と研磨面を模式的に示す図である。
【図4】図4は図3のA部の拡大図であり、第2のV字溝と研磨面を模式的に示す図である。
【図5】図5は図4のB部の拡大図であり、研磨面に含まれる微細溝及び微細条痕を模式的に示す図である。
【図6】図6(a)〜(c)は本発明の研磨盤の製造工程で順次形成される(a)微細な凹凸を有する表面((a')は(a)のC部の拡大図)、(b)第1のV字溝、及び(c)第2のV字溝の各々の断面を模式的に示す図である。
【図7】図7は本発明の金属研磨盤の(a)実施例1及び(b)実施例2の各々の断面を模式的に示す図である。
【図8】図8は(a)比較例1、(b)比較例2及び(c)比較例3の研磨盤の断面を模式的に示す図である。
【図9】図9(a)〜(c)は本発明の研磨盤の製造に係る各研削バイトの先端の拡大写真である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。本発明の様々な特徴は、本発明の限定を意図しない好適な実施例とともに説明される。図面は説明の目的で単純化され、尺度も必ずしも一致しない。
【0032】
図1には本発明の金属研磨盤11を含む研磨装置10の主な構成が記載されている。研磨装置10に回転自在に設置された円形の研磨盤面20を有する研磨盤11が、回転軸16を中心に図示しないモータにより回転される。結晶材料からなる被研磨物12が、ホルダー13の研磨盤面20と対向する面に着脱自在に接着されている。ホルダー13は被研磨物12の被研磨面が研磨盤11の表面に向き合うように研磨盤11上に配置されるもので、ホルダー13の中心部に加圧シャフト14が設けられている。ホルダー13には加圧シャフト14を介して図示されていない上部加圧機構により所定の荷重15をかけることができる。この加圧シャフト14は、図示されないモータによってホルダー13を被研磨物12とともに加圧しながら回転させることができる。加圧シャフト14を研磨盤14の半径方向に揺動可能にすると、被研磨物13を回転させながら、揺動させることもできる。研磨盤11及びホルダー13は互いに同一方向又は反対方向に回転でき、各々の回転速度は異なるようにも設定できる。被研磨物品の中心部と外周部を均一に研磨するためには、研磨盤と被研磨物とを同一方向に同一回転速度で回転することが好ましい。
【0033】
研磨液を供給するための供給ノズル17が、図示されていない研磨液の供給装置に接続され、一定量の研磨液18が供給ノズル17の先端から、研磨盤面20に噴霧又は滴下される。噴霧又は滴下された研磨液18は研磨盤11の回転力と以下で説明する二種類の溝により研磨盤面20に広がり、研磨盤面20全体に供給されることになる。
【0034】
研磨盤面20には図2に示すような(a)螺旋状、又は(b)同心円状の大小の第1、第2のV字溝(21、22)及び研磨面(23)が相互に平行な形成されている。図2では第2のV字溝22と研磨面23の境界は省略されている。
【0035】
図3〜図5に本発明の研磨盤面に形成された大小のV字溝及び研磨面が示されている。なお、ここでいうV字形の底部は必ずしも鋭角ではなく、円弧形状部rを含んでよいものである。
【0036】
図3に示す本発明に係る研磨盤11は、第1のV字溝21(V字の稜線が交わる部分に形状部r2を有する)の間にランド部(V字溝21に対する凸部)を有し、該ランド部は特徴的な第2のV字溝22の両側に所定の幅を有する研磨面23、23を含む。第1、第2の溝の縦断面の面積を比較すると第1のV字溝は第2のV字溝の約1600倍〜2500倍程度の大きさがある。また、第2のV字溝は好適にランド部の中央に形成され、第1のV字溝同士の間隔(ピッチ)と第2のV字溝同士の間隔(ピッチ)は等しい。
【0037】
図4は、図3のA部の拡大図であり、研磨面23にはさらに微細な溝が形成されていることを示している。
【0038】
図5は、図4のB部の拡大図であり、研磨面23の微視的な形状を模式的に示している。図5に示されているとおり、研磨面23は断面が円弧状の複数の微細溝24から成り、微細溝24はさらに微細条痕25(凹凸は図5では省略されている)を有する。水平な研磨盤面に対する微細溝24の深さは0.5μm〜2μmの範囲にあり、微細溝24に沿った面の平均表面粗さRaは0.05μm〜0.1μmの範囲にある。このような微細溝24及び微細条痕25により、研磨面23の平均表面粗さRaは0.05μm〜2μmの範囲にある。これら微細溝24及び条痕25もまた好適に第1のV字溝及び第2のV字溝に平行に形成されているものである。
【0039】
研磨盤11は軟質金属から成り、軟質金属としては錫(Sn)、鉛(Pb)、銅(Cu)、純鉄(Fe)及びこれらの合金を例示できるが、特にこれらの内で錫又はその合金が、微細砥粒が上記のような微細な凹凸を有する研磨面に捕捉されやすいため好ましい。
【0040】
図6の(a)〜(c)には、本発明に係る研磨盤11の製造工程で順次形成される表面S、第1のV字溝21、第2のV字溝22及び研磨面23各々の断面が模式的に示されている。
【0041】
本発明の研磨盤の製造工程においては、まず定盤(研磨盤11)の上面が平坦に加工されるとともに所定の微細な凹凸が形成される。図6(a)及び(a')に加工された表面Sが示されている。表面Sを形成するため加工手段として、刃先が超鋼材又は刃先にダイヤモンドを含む研削バイトを使用することができる。平坦化加工は、研磨装置10上で回転する定盤(研磨盤11)に研削バイトを一定の圧力で押圧し、内周から外周に向かって一定速度で移動させ、定盤(研磨盤11)の表面全体に対して一定の深さでもって削り取るように行われる。研削バイトの先端形状部r1(図6(a')及び図9(a))により螺旋状の微細溝24、及び研削バイト先端の表面粗さに対応して微細条痕25が形成され、微細な凹凸を有する表面Sが得られる。
【0042】
定盤(研磨盤11)の表面Sを得る加工のために、例えば図9(a)のような先端(刃先)形状を有するダイヤモンドバイトが使用される。このダイヤモンドバイトの先端(刃先)の円弧形状部r1を含む円の半径は0.3mmであり、刃先の表面粗さRaは0.05μm〜0.1μmである。このダイヤモンドバイトを使用して、深さが0.5μm〜2μmの範囲且つ30μm〜80μmの範囲から選択されたピッチにおいて螺旋状の微細な溝を形成することにより、微細溝24及び微細条痕25を含み所定の表面粗さを有する表面Sが得られる。微細溝24及び微細条痕25は、微細な研磨砥粒を効率よく研磨面に捕捉できるという効果を奏するものである。
【0043】
具体的には、先端形状部r1を含む円の半径が0.3ミリであり刃先の稜線の開き角度が90度であるダイヤモンドバイトを研磨装置に取り付け、削り込み深さが0.45μmとなるように、研磨盤の回転数を300rpm、研削バイトの送り速度を10mm/minとして研磨盤11の内周から外周に向かって移動させて加工を行った場合、平均深さ約0.4μm、ピッチ約30μmの微細溝24が形成されるとともに、微細溝24に沿った面に表面粗さRaが約0.1μmの微細条痕25が形成された。
【0044】
表面Sの表面粗さRaは、0.05μm〜2μmの範囲にあることが好ましい。表面Sの表面粗さRaが0.05μm未満であると、研磨盤の表面に砥粒の捕捉作用がなくなり研磨効率が急激に低下してしまう。さらに、研磨時間が経過すると研磨盤と被研磨物品の表面が吸着し、被研磨物(及びホルダー)の回転が停止し、研磨ができなくなる。場合によっては、研磨盤の溝が削り取られ、被研磨物が破損してしまうことがある。一方表面粗さRaが2μmを越えると、砥粒の接触作用が低下し研磨効率が低下する。
【0045】
図6(b)には、表面Sが得られた研磨盤面に第1のV字溝21が形成されている定盤(研磨盤11)の一部断面が示されている。第1のV字溝21は開口角度と、溝ピッチと、溝の深さにより特定することができる。開口角度(符号θ1)は30°〜90°の範囲が望ましい。θ1が、30°未満であると、研磨面(ランド部)への砥粒の供給効率が低下し、90°を超えると研磨盤全体の研磨面積が少なくなり、研磨効率が低下する。溝ピッチPは1mm〜5mmの範囲が望ましい。Pが、1mm未満であると、被研磨物の浮上量が増加し、研磨効率が低下し、5mmを超えると、研磨盤全体の研磨面積が少なくなり、研磨効率が低下する。深さDは0.5mm〜2.0mmの範囲が望ましい。Dが、0.5mm未満であると、不要な砥粒や研磨屑の排出が悪くなり、スクラッチが発生しやすくなり、2mmを超えると砥粒の流入効率が悪くなり、研磨に寄与しない砥粒が増加して砥粒の損失が多くなり、経済的でない。第1のV字溝21は研磨液が流入し排出される流路になるとともに第1のV字溝に対し凸部であるランド部を画成する。第1のV字溝21の研磨盤面(水平面)における開口幅はそのピッチに比較してランド部の幅S1分だけ小さい。S1の幅は次の工程で研磨面が所定の幅となるように、調整されるものである。S1の幅は80μm〜280μmであることが好ましい。
【0046】
具体的には第1のV字溝の先端形状部r2を含む円の半径は0.6mmで、刃先の稜線の開き角度(V字溝の開口角度θ1)が60度である図9(b)のような先端形状を有するダイヤモンドバイトを使用することにより形成される。この研削バイトを研磨装置に取り付け、表面Sの加工時と同じ回転数、送り速度で、削り込み深さDを1.63mm、溝ピッチPを2.00mmとして第1のV字溝が形成され、約0.12mmの幅S1を有するランド部が得られた。
【0047】
図6(c)には、第2のV字溝22及び研磨面23が形成された本発明の研磨盤11の一部断面が模式的に示されている。第2のV字溝22は、第1のV字溝21によって画成されたランド部の中央に前記第1のV字溝と平行に同じピッチにおいて形成されている。その結果、所定の開口角度θ2と所定の深さdを有する第2のV字溝により、ランド部に所定の幅S2を有する研磨面23が第2の溝22の両側に画成された。θ2は20°〜90°の範囲が望ましい。θ2が、20°未満であると、研削バイトの製作が困難となり、また研削バイトの寿命が短くなり、90°を超えるとV字溝が浅くなり、被研磨物の浮上が発生し、研磨効率が低下する。深さdは0.01mm〜0.05mmの範囲が望ましい。dが、0.01mm未満であると、研磨中のハイドロプレーン効果が大きくなり、研磨効率が低下し、0.05mmを超えると砥粒の供給効率が悪くなり、吸着が生じて連続的な研磨が困難となる。
【0048】
研磨面23の幅S2は各々20μm〜120μmの範囲にあることが好ましい。S2が20μm未満であると、砥粒の捕捉面積が狭くなるため、研磨力が低下してしまう。また、120μmを超えると研磨液の流入量が減少するため研磨力が低下し、研磨盤と被研磨物の接触面で断続的な吸着が発生し、均一な研磨ができない。画成された研磨面は、所定の幅を有し、さらに表面Sの好適な表面粗さRaにより、微細な研磨砥粒を効率よく捕捉するよう作用する。
【0049】
具体的には第2のV字溝は、先端が尖った(先端にRのほとんどない)、刃先の稜線の開き角度(第2のV字溝の開口角度θ2)が90度である図9(c)のような先端形状部を有するダイヤモンドバイトを使用することにより形成される。研削バイトを前工程と同様に研磨装置に設定し、削り込み深さを0.02mmとし、ランド部の中央に研削バイトの先端が位置するよう位置決めして第2のV字溝が形成された。このとき画成された研磨面23の幅は各々40μmであった。なお、第1のV字溝21と第2のV字溝22の加工の順序は逆でもよい。
【0050】
以上のとおり本発明の研磨盤は大小の第1のV字溝及び第2のV字溝を有し、螺旋状又は同心円状の第1のV字溝によりランド部が画成され、このランド部に第1のV字溝に平行に第2のV字溝が形成され、第1のV字溝及び第2のV字溝の間に所定の表面粗さと幅を持つ研磨面が画成されるものである。ランド部に形成される第2のV字溝は、ランド部の中央に第1のV字溝と同じピッチにおいて形成されることが好ましいが、研磨液の流入量を妨げない範囲であれば、ランド部に複数本形成され、その本数によりピッチが調節されてもよい。
【0051】
本発明の研磨盤11とともに仕上げ研磨のために使用される研磨液は、微細な砥粒および砥粒を分散させる分散媒からなる。
【0052】
砥粒としては、本発明の研磨盤とともに仕上げ研磨に使用するために、単結晶又は多結晶ダイヤモンド、アルミナ、シリカ、炭化ケイ素等の硬質材料から成る砥粒が好ましく、特に硬度が高く化学的に安定なダイヤモンド粒子が好ましい。砥粒の平均粒径は0.1μm以下が好ましく、50nm以下のものがより好適である。
【0053】
分散媒としては、特に限定するものではないが、潤滑性のある油性分散媒が好ましい。例えば分散媒として、主成分が合成イソパラフィン系炭化水素からなり、これに非イオン界面活性剤を加えたもの、又は適度の粘性がある水溶性のグリセリン、グリコール類、高級脂肪酸を使用することができる。
【0054】
油性の分散媒は、砥粒の表面に潤滑膜(油膜)を形成するため、スクラッチや欠陥の発生を防止することができる。また、研磨液を被研磨物と研磨盤の接触面に容易に流入、排出できるため、液切れを起こすことなく研磨効率を向上させる。
【0055】
油性分散媒としては、砥粒との親和性がよく、分散が容易である分散媒が好ましい。さらに、化学的な作用の小さいものが好ましい。これは、分散媒の化学的な作用が強いことによって結晶基板の表面に不要なエッチピットが形成されることを防ぎ、また金属研磨盤の上面に形成された溝が腐食されることを防止するためである。
【0056】
上記のような研磨砥粒及び分散媒から成る研磨液とともに本発明の研磨盤11を使用して研磨を行う。まず、金属研磨盤及び保持部材に保持された被研磨物を各々回転させる。次に、回転する金属研磨盤面に研磨液を供給しながら、保持部材の上から研磨荷重を加え被研磨物の被研磨面を押し当てる。研磨中、第1のV字溝は、研磨液の流路となり、微細なダイヤモンド粒子等の研磨砥粒が潤滑液(オイル)に分散されてなる研磨液が容易に研磨面へ流入し、そこから排出される。さらに、第2のV字溝は研磨液の液溜りとして作用する(研磨液を滞留させる)。第1及び第2のV字溝の働きにより、一定量の研磨液が均一に研磨面に供給され、滞留し、そして排出されることになる。そして、研磨液が微細溝及び微細な条痕から成る研磨面を横切る時に研磨が行われ、微細粒子からなる砥粒でも切り刃として効率良く被研磨物に接触する。こうして加工効率の高い仕上げ研磨ができる。
【0057】
本発明の軟質金属から成る研磨盤を使用することから、研磨液の砥粒が研磨面を横切る際に仮に必要以上の力が加わった場合でも、砥粒の一部が軟質金属に刺さることによってスクラッチが発生しにくい。
【0058】
本発明の錫(Sn)等の軟質金属からなる金属研磨盤は、上記のような特徴的な第1及び第2のV字溝と研磨面とを有する構成により、研磨面に微細な砥粒を供給、蓄積しながら研磨液が効率よく研磨面を横切るため、高精度な研磨を高い研磨速度で行うことができる。すなわち、本発明の軟質金属の研磨盤の研磨面は、高い荷重下でも被研磨物との吸着が生じることなく、且つその表面の微細な凹凸に砥粒を効率的に捕捉して結晶材料から成る被研磨物に対する有効な刃物面となる。
【0059】
さらに本発明に係る金属研磨盤は、研磨面に研磨砥粒を積極的に埋め込み固定する必要がないため、長時間高い研磨速度を保つことができる。本発明の研磨盤11と研磨砥粒を含む油性研磨液を用いた研磨において、研磨盤11は100時間以上の使用後でも研磨力の低下が見られなかった。また、正常の研磨においては、軟質金属で形成された研磨盤に磨耗がほとんど発生していないことが確認された。
【0060】
本発明に係る研磨盤及び比較例の研磨盤を各々使用した仕上げ研磨試験が以下のように行われた。
【0061】
研磨試験の被研磨物としては、スピネル型結晶MgO−Alの結晶基板が使用された。基板は2インチ、基板の厚みは1.2mmであった。
【0062】
仕上げ研磨を行う前に、エッジ面取り加工、粗研磨、及び中仕上げ研磨が行われた。この加工及び研磨は、結晶基板のエッジ部の突起やチッピングを予め除去し、以後の工程に悪影響を与えないためのものである。
【0063】
エッジ面取り加工は、研磨テープ方式で行われた。初めに#600(砥粒の平均粒径:30μm)、次に#2000(砥粒平均粒径:9μm)のダイヤモンド研磨テープを使用して加工が行われた。
【0064】
粗研磨工程には、SPL−15F研磨装置((株)岡本工作機械製作所製)が使用された。表面に溝を有する錫定盤が研磨盤として使用され、溝は研磨盤の回転軸を中心とする螺旋状の溝であり、その断面形状はV字形であった。V字の開口角度は60度、溝のピッチは2.0mm、溝の深さは0.8mmであった。
【0065】
粗研磨工程の使用された研磨液は、平均粒径3μmの多結晶ダイヤモンド粒子を油性分散媒に分散させた油性の研磨スラリーであった。研磨液の組成を表1に示す。
【0066】
【表1】

【0067】
中仕上げ研磨工程には、粗研磨工程と同じ研磨装置及び研磨盤が使用された。研磨液として、平均粒径が1/4μmの多結晶ダイヤモンド粒子が使用された他は表1のものと同じものが使用された。上記粗研磨、中仕上げ研磨の工程では、少なくとも前工程の研磨痕が消えるまで研磨が行われ、中仕上げ研磨後の結晶基板の平均表面粗さRaは、約0.01μmであった。この結晶基板が仕上げ研磨試験の被研磨物とされた。
【0068】
研磨盤面の平坦化加工は、以下に詳述する本発明の実施例1、2、及び比較例1〜3において各々同じ条件で行われた。研磨装置には粗研磨及び中仕上げ研磨工程と同様にSPL−15F((株)岡本工作機械製作所製)が使用された。研磨盤として直径15インチの錫の定盤が使用され、平坦化加工には開き角度90度、先端部の円弧形状部r1を含む円の半径が0.3mmのダイヤモンド研削バイト(図9(a))が使用された。この研削バイトを研磨盤面に押圧し、研磨装置上で研磨盤を回転させながら内周から外周に向かって一定速度で送った。この平坦化加工において、微細(螺旋)溝24が形成された。この溝は断面が円弧状で、微細溝24の深さは0.45μm、ピッチは33μm、平坦化加工された研磨盤面の平均表面粗さRaは約1μmであった。以上のような表面を有する研磨盤をさらに加工して、以下の実施例及び比較例の仕上げ研磨試験を行い、被研磨面の表面粗さ(Ra、Rmax)とスクラッチの有無、研磨速度について比較を行った。
【0069】
実施例1
実施例1の研磨盤の断面が図7(a)に模式的に示されている。第1のV字溝の開口角度θ1は60度、溝の深さDは1.63mmであった。また、第2のV字溝の開口角度θ2は90度、溝の深さdは20μmであった。第1のV字溝及び第2のV字溝のピッチP1はいずれも2.0mmであった。ランド部の幅S1は120μm、研磨面23の幅S2は40μmであった。
【0070】
実施例1の研磨盤の製造工程においては、平坦化加工された研磨盤にまず第1のV字溝21が形成された。第1のV字溝21の形成に使用されたダイヤモンド研削バイトは図9(b)に先端の拡大写真が示されているものであり、先端の円弧形状部r2を含む円の半径は0.5mmであった。この研削バイトを研磨装置の研磨盤に押圧するように取り付け、研磨盤の回転速度を60rpm、研削バイトの送り速度を120mm/minとして第1のV字溝が形成された。
【0071】
続いて第2のV字溝22が形成された。第2のV字溝22の形成に使用されたダイヤモンド研削バイトの先端形状は図9(c)に示されているものである。研磨盤の回転速度及び研削バイトの送り速度は、第1のV字溝と同じであった。なお、実施例、比較例のいずれの図においても、研磨面の微細な凹凸の記載は省略されている。
【0072】
実施例2
図7(b)に本発明にかかる実施例2の研磨盤の断面が模式的に示されている。実施例2の研磨盤では、研磨面23の幅S3を120μmとし、第1のV字溝のピッチP2を2.16mmとしたほか、第1及び第2のV字溝の開口角度(θ1、θ2)、溝の深さ(D、d)は同じであった。
【0073】
比較例1
図8(a)比較例1の研磨盤が示されている。比較例1の研磨盤は第2のV字溝を有さないものである。第1のV字溝21の開口角度θ1、深さDは実施例1及び2と同じである。研磨面23の幅S2は40μmであった。第1のV字溝のピッチP3は、1.92mmであった。
【0074】
比較例2
図8(b)に比較例2の研磨盤が示されている。比較例2の研磨盤もまた第2のV字溝を有さず、実施例1のランド部がそのまま研磨面とされたものである。研磨面の幅S1は120μm、ピッチP1は2.0mmであった。
【0075】
比較例3
図8(c)に比較例3の研磨盤が示されている。比較例3の研磨盤は、第1のV字溝がなく、実施例1及び2と同じ開き角度θ2、深さdを有する第2のV字溝のみが形成されたものである。第2のV字溝のピッチP4は80μmであった。
【0076】
以上の実施例及び比較例の研磨盤を使用して仕上げ研磨試験が行われた。仕上げ研磨試験に使用された研磨装置はこれまでと同様にSPL−15F((株)岡本工作機械製作所製)であった。
【0077】
研磨液としては平均粒径30nmのナノダイヤモンドと油性分散媒から成るものを使用した。研磨液の組成は以下の表2のとおりである。
【0078】
【表2】

【0079】
仕上げ研磨試験の研磨条件は以下の表3の通りであった。
【0080】
【表3】

【0081】
仕上げ研磨試験において、研磨盤の回転方向とワークホルダーの回転方向は、同一とされた。結晶基板は研磨後、パラフィン系炭化水素によって付着している研磨屑や残留砥粒を洗い流され、さらにアルコール類で超音波洗浄された。
【0082】
実施例1、2及び比較例1ないし3の仕上げ研磨試験の結果は以下の表4のとおりである。
【0083】
【表4】

【0084】
表4において、ウェーハ表面(被研磨面)の表面粗さ(平均表面粗さRa、最大表面粗さRmax)は、表面粗さ測定装置(NewView5000:Zygo社製)により測定された。スクラッチの評価は、光学顕微鏡(DIGITAL MICRO SCOPE, VHX-500:KEYENCE社製)を使用し倍率1000倍で観察することにより行われ、スクラッチが観測されないものはスクラッチ無し、スクラッチが観測されたものはスクラッチ有りとされた。研磨時間は、仕上げ研磨前の研磨傷が消えるまでの時間を示す。
【0085】
表4に示されているとおり、実施例1及び2は、比較例1ないし3と比較して平均表面粗さ(Ra)が0.5nm以下で、最大表面粗さ(Rmax)が小さく、スクラッチも観察されない良好な研磨面が得られた。また、実施例1及び2では、研磨盤の寿命は100時間以上の研磨にも耐え得るものであった。
【0086】
これに対して、比較例1は、研磨中に研磨盤とウェーハが吸着し、ウェーハの回転が断続的に停止し、長時間に渡って継続的に安定研磨ができずスクラッチが増加した。比較例2は、ウェーハが浮上し、ハイドロプレーニング現象が起こり、長時間(6時間以上)の研磨を要した。また、比較例3は6時間以上の研磨時間でも、初期の研磨傷が除去されず、研磨屑の排出が悪いため、微細なスクラッチが増加した。
【0087】
本発明の思想及び態様から離れることなく多くのさまざまな修正が可能であることは当業者の知るところである。したがって、言うまでもなく、本発明の態様は例示に過ぎず、本発明の範囲を限定するものではない。
【符号の説明】
【0088】
10 研磨装置
11 金属研磨盤
12 被研磨物
13 ホルダー
14 シャフト
15 荷重
16 回転軸
17 ノズル
18 研磨液
20 研磨盤面
21 第1のV字溝
22 第2のV字溝
23 研磨面
24 微細溝
25 微細条痕

【特許請求の範囲】
【請求項1】
結晶材料から成る被研磨物を研磨するための金属研磨盤であって、
研磨盤面に互いに平行に形成された螺旋状又は同心円状の第1のV字溝及び第2のV字溝と、
前記第1のV字溝と前記第2のV字溝との間に画成された研磨面と、
を含み、
前記第1のV字溝の縦断面の面積が前記第2のV字溝の縦断面の面積より大きく、
前記第1のV字溝同士の間のピッチと前記第2のV字溝同士の間のピッチが等しく、
前記研磨面の表面粗さRaは0.05μmないし2μmの範囲にあり、
前記研磨面の幅は20μmないし120μmの範囲にある、
ことを特徴とする金属研磨盤。
【請求項2】
請求項1に記載の金属研磨盤であって、さらに前記研磨面が螺旋状又は同心円状の複数の微細溝及び微細条痕から成る、ことを特徴とする金属研磨盤。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の金属研磨盤であって、さらに前記第1のV字溝の深さが0.5mmないし2mmの範囲にあり、前記第2のV字溝の深さが0.01mmないし0.05mmの範囲にある、ことを特徴とする金属研磨盤。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれかに記載の金属研磨盤であって、さらに前記第1のV字溝の開口角度が30度ないし90度の範囲にあり、前記第2のV字溝の開口角度が20度ないし90度の範囲にある、ことを特徴とする金属研磨盤。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれかに記載の金属研磨盤であって、さらに前記第1のV字溝同士の間のピッチ及び前記第2のV字溝同士の間のピッチが1mmないし5mmの範囲にある、ことを特徴とする金属研磨盤。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれかに記載の金属研磨盤であって、さらに該研磨盤が錫、鉛、銅、純鉄又はこれらを主成分とした合金から成る、ことを特徴とする金属研磨盤。
【請求項7】
結晶材料から成る被研磨物を研磨するための金属研磨盤の製造方法であって、
金属定盤に第1の加工手段を押圧し該金属定盤を回転させ定盤面に回転軸を中心とする螺旋状又は同心円状の微細溝を形成し該定盤面の表面粗さRaを0.05μmないし2μmの範囲に加工する工程と、
前記金属定盤に第2の加工手段を押圧し該金属定盤を回転させ前記定盤面に前記回転軸を中心とする螺旋状又は同心円状の第1のV字溝を形成し前記定盤面の前記第1のV字溝同士の間にランド部を画成する工程と、
前記金属定盤の前記ランド部に第3の加工手段を押圧し該金属定盤を回転させ前記第1のV字溝と平行な螺旋状又は同心円状の第2のV字溝であって、該第2のV字溝同士の間のピッチが前記第1のV字溝同士の間のピッチに等しく縦断面の面積が前記第1のV字溝と異なる、ところの第2のV字溝を形成する工程と、
を含み、
前記第1のV字溝と前記第2のV字溝との間に研磨面が画成され、
前記研磨面の所定の幅は20μm〜120μmの範囲にある、
ことを特徴とする金属研磨盤の製造方法。
【請求項8】
研磨盤面に互いに平行に形成された螺旋状又は同心円状の第1のV字溝及び第2のV字溝と、前記第1のV字溝と前記第2の溝との間に画成された研磨面を含む金属研磨盤及び研磨液を使用して結晶材料から成る被研磨物を研磨する方法であって、
前記金属研磨盤及び保持部材に保持された前記被研磨物を各々回転させる工程と、
回転する前記金属研磨盤に、平均粒径が0.1μm以下の研磨砥粒及び分散媒から成る研磨液を供給しながら、前記保持部材の上から研磨荷重を加え前記被研磨物の被研磨面を押し当てる工程と、
を含み、
前記第1のV字溝の縦断面積が前記第2のV字溝の縦断面積より大きく、
前記第1のV字溝同士の間のピッチと前記第2のV字溝同士の間のピッチが等しく、前記研磨面の表面粗さRaが0.05μmないし2μmの範囲にある、
研磨方法。
【請求項9】
請求項8に記載の研磨方法であって、前記分散媒が油性分散媒である、研磨方法。
【請求項10】
請求項8又は9に記載の研磨方法であって、前記研磨面の幅が20μmないし120μmの範囲にある、研磨方法。
【請求項11】
請求項8ないし10のいずれかに記載の研磨方法であって、前記研磨面に対する前記研磨荷重が100kg/cm以上、2000kg/cm以下である、研磨方法。
【請求項12】
請求項8ないし11のいずれかに記載の研磨方法であって、前記研磨砥粒が平均粒径50nm以下のダイヤモンド砥粒である、研磨方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−166326(P2012−166326A)
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−31306(P2011−31306)
【出願日】平成23年2月16日(2011.2.16)
【出願人】(390037165)日本ミクロコーティング株式会社 (79)
【Fターム(参考)】