説明

結晶欠陥状態予測方法、シリコンウェーハの製造方法

【課題】予め実験的に求めていたパラメーターにより結晶欠陥の密度やサイズを予測する手法を提供する。
【解決手段】シリコン単結晶中における結晶欠陥のサイズおよび密度を予測する結晶欠陥状態予測方法であって、
実験データを解析し関連する物理パラメーターを抽出し、その物理パラメーターについてデータベースを構築する工程と、
前記データベースのデータを用いて、結晶欠陥のサイズおよび密度を算出する工程と、
を有するとともに、
前記データベースが、結晶欠陥の密度およびサイズに大きく影響を与える独立要素と、
該独立要素に従属する従属要素としての結晶欠陥のサイズ分布中における最大サイズと最小サイズとを有してなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、結晶欠陥状態予測方法、シリコンウェーハの製造方法に用いて好適な技術に関する。
【背景技術】
【0002】
シリコンの結晶欠陥の発生メカニズムは、概略な部分は判明しているが詳細に関しては不明な部分が多い。例えば、シリコンの二次結晶欠陥に大きな影響を与える点欠陥(一次結晶欠陥)の拡散係数は不明である。ましてや工業的半導体用シリコン単結晶はその抵抗率を調整するためボロンやリンといった不純物を添加した場合の点欠陥の拡散係数は不明である。その他の物性値に関しても同様である。例えば、代表的な結晶欠陥である酸素析出物の密度やサイズに酸素析出物とシリコン母相間の界面エネルギーが大きく影響を与えるが、その界面エネルギーの確定した値は存在しない。
【0003】
一方、工業的半導体用シリコン単結晶は結晶製造中の冷却過程で、二次欠陥を発生し、デバイス特性に影響を与えるためその制御が必要である。この制御のため結晶製造プロセス条件を最適なものに調整するが、多くの場合、時間と費用がかかる。そのため数値シミュレーションによる結晶欠陥の制御検討を行うことが必要である。
【0004】
【特許文献1】国際公開第2005/071144A1号パンフレット
【特許文献2】特開2001−302394号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、先述したように該結晶欠陥シミュレーションを行うためには拡散係数等の正確な物性値が必要であるが不明であり、数値シミュレーションを行うのは困難な状態である。
【0006】
本発明はこのような状況に鑑み、予め実験的に求めていたパラメーターにより結晶欠陥の密度やサイズを予測する手法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、物理支配方程式により実験データを用いて結晶欠陥のサイズおよび密度を予測する半実験半理論的手法である結晶欠陥状態予測方法、および、これを用いたシリコンウェーハの製造方法である。
【0008】
本発明の本発明の結晶欠陥状態予測方法は、シリコン単結晶中における結晶欠陥のサイズおよび密度を予測する結晶欠陥状態予測方法であって、
実験データを解析し関連する物理パラメーターを抽出し、その物理パラメーターについてデータベースを構築する工程と、
前記データベースのデータを用いて、結晶欠陥のサイズおよび密度を算出する工程と、
を有するとともに、
前記データベースが、結晶欠陥の密度およびサイズに大きく影響を与える独立要素と、
該独立要素に従属する従属要素としての結晶欠陥のサイズ分布中における最大サイズと最小サイズとを有してなることにより上記課題を解決した。
本発明本発明の結晶欠陥状態予測方法において、熱処理後のシリコンウェーハ中における結晶欠陥のサイズおよび密度を予測する結晶欠陥状態予測方法であって、
実験データを解析して算出した変数の一連の組からなるデータ表を算出する工程と、
結晶欠陥の密度およびサイズに大きく影響を与える独立要素として、前記シリコンウェーハの初期条件、および、熱処理の条件を用いるとともに、前記データ表の数値として、前記独立要素に従属する従属要素としての結晶欠陥のサイズ分布中における最大サイズと最小サイズとを用いて、(式1)により結晶欠陥のサイズおよび密度を算出する工程と、
を有することにより上記課題を解決した。
【数3】

本発明本発明の結晶欠陥状態予測方法は、熱処理後のシリコンウェーハ中における結晶欠陥のサイズおよび密度を予測する結晶欠陥状態予測方法であって、
実験データを解析した複数の変数からなるデータ表の数値を用いて、結晶欠陥のサイズおよび密度を算出する際に、
初期条件として与える変数としては、前記ウェーハ中のドーパント濃度と、前記シリコンウェーハ中の酸素濃度(Oi)と、少なくとも処理温度T(℃)と処理時間t(h)とからなる熱処理条件とが選択され、
前記データ表の変数が、熱処理を極めて長時間とした場合の結晶欠陥の最大サイズSmax と、結晶欠陥の最小サイズScrとを含むものとされ、
(式1)により結晶欠陥のサイズおよび密度を算出することにより上記課題を解決した。
【数4】

また、また、本発明の結晶欠陥状態予測方法において、前記データ表が下記のものである手段を採用することができる。

Co(cm−3) Cb(cm−3) T℃ t(h) Smax(atom) Scr(atom) t(h)
7.75E+17 1.00E+12 700 1800 1.00E+07 1.00E-02 2.600
7.75E+17 1.00E+14 700 1800 1.00E+07 1.00E-02 2.600
7.75E+17 1.00E+16 700 1800 1.00E+07 1.00E-02 2.600
7.75E+17 1.00E+18 700 1500 5.00E+06 5.00E-03 2.400
7.75E+17 5.00E+18 700 150 4.00E+06 1.00E-03 0.600
7.75E+17 1.00E+19 700 50 4.00E+05 1.00E-04 0.100
7.75E+17 1.00E+12 1000 300 5.00E+12 2.00E+04 0.010
7.75E+17 1.00E+14 1000 300 5.00E+12 2.00E+04 0.010
7.75E+17 1.00E+16 1000 300 5.00E+12 2.00E+04 0.010
7.75E+17 1.00E+18 1000 250 5.00E+12 1.00E+04 0.010
7.75E+17 5.00E+18 1000 130 2.00E+13 2.00E+03 0.010
7.75E+17 1.00E+19 1000 50 2.00E+13 1.00E+02 0.010
7.65E+17 1.00E+14 500 5000 5.00E+05 1.00E-03 3.000
7.65E+17 1.00E+14 600 4000 1.00E+06 1.00E-03 2.500
7.65E+17 1.00E+12 700 2000 2.00E+07 1.00E-02 2.700
7.65E+17 1.00E+14 700 2000 2.00E+07 1.00E-02 2.700
7.65E+17 1.00E+16 700 2000 2.00E+07 1.00E-02 2.700
7.65E+17 1.00E+18 700 1700 1.00E+07 5.00E-03 2.500
7.65E+17 4.00E+18 700 200 5.00E+06 2.00E-03 0.800
7.65E+17 9.00E+18 700 50 7.00E+05 1.00E-04 0.500
7.65E+17 2.00E+19 700 27 2.00E+04 1.00E-05 0.010
7.65E+17 1.00E+12 800 1000 5.00E+12 3.00E-01 5.000
7.65E+17 1.00E+14 800 1000 5.00E+12 3.00E-01 5.000
7.65E+17 1.00E+16 800 1000 5.00E+12 3.00E-01 5.000
7.65E+17 1.00E+18 800 500 2.00E+12 2.00E-01 5.000
7.65E+17 4.00E+18 800 120 5.00E+11 1.00E-01 5.000
7.65E+17 9.00E+18 800 100 3.00E+10 5.00E-02 3.000
7.65E+17 2.00E+19 800 80 5.00E+08 2.00E-02 2.000
7.65E+17 1.00E+12 900 500 1.00E+13 2.00E+04 0.010
7.65E+17 1.00E+14 900 500 1.00E+13 2.00E+04 0.010
7.65E+17 1.00E+16 900 500 1.00E+13 2.00E+04 0.010
7.65E+17 1.00E+18 900 500 1.00E+13 1.00E+04 0.010
7.65E+17 4.00E+18 900 200 1.00E+13 5.00E+02 0.010
7.65E+17 9.00E+18 900 100 1.00E+13 1.00E+02 0.010
7.65E+17 2.00E+19 900 50 2.00E+10 1.00E-01 1.000
7.65E+17 1.00E+12 1000 400 4.00E+12 5.00E+04 0.010
7.65E+17 1.00E+14 1000 400 4.00E+12 5.00E+04 0.010
7.65E+17 1.00E+16 1000 400 4.00E+12 5.00E+04 0.010
7.65E+17 1.00E+18 1000 350 4.00E+12 3.00E+04 0.010
7.65E+17 4.00E+18 1000 150 2.00E+13 1.00E+04 0.010
7.65E+17 9.00E+18 1000 60 2.00E+13 5.00E+03 0.010
7.65E+17 2.00E+19 1000 50 2.00E+13 1.00E+03 0.010
6.75E+17 1.00E+14 500 6000 1.00E+06 1.00E-03 3.500
6.75E+17 1.00E+14 600 5000 2.00E+06 1.00E-03 2.700
6.75E+17 4.00E+18 500 2500 1.00E+06 1.00E-03 2.200
6.75E+17 4.00E+18 600 1000 1.00E+06 1.00E-02 0.250
6.75E+17 1.00E+12 700 2200 3.00E+07 1.00E-01 3.000
6.75E+17 1.00E+14 700 2200 3.00E+07 1.00E-01 3.000
6.75E+17 1.00E+16 700 2200 3.00E+07 1.00E-01 3.000
6.75E+17 1.00E+18 700 2000 1.00E+07 1.00E-01 2.700
6.75E+17 4.00E+18 700 250 7.00E+06 5.00E-02 1.000
6.75E+17 9.00E+18 700 100 1.00E+06 2.00E-02 0.700
6.75E+17 2.00E+19 700 100 1.00E+05 3.00E-03 0.010
6.75E+17 1.00E+12 800 1500 5.00E+12 3.00E+00 0.010
6.75E+17 1.00E+14 800 1500 5.00E+12 3.00E+00 0.010
6.75E+17 1.00E+16 800 1500 5.00E+12 3.00E+00 0.010
6.75E+17 1.00E+18 800 1200 3.00E+12 2.00E+00 0.010
6.75E+17 4.00E+18 800 150 2.00E+10 3.00E-01 5.000
6.75E+17 9.00E+18 800 100 5.00E+09 1.00E-01 2.000
6.75E+17 2.00E+19 800 70 5.00E+08 1.00E-02 0.100
6.75E+17 1.00E+12 900 600 1.00E+13 5.00E+04 0.010
6.75E+17 1.00E+14 900 600 1.00E+13 5.00E+04 0.010
6.75E+17 1.00E+16 900 600 1.00E+13 5.00E+04 0.010
6.75E+17 1.00E+18 900 600 1.00E+13 5.00E+04 0.010
6.75E+17 4.00E+18 900 250 1.00E+13 1.00E+04 0.010
6.75E+17 9.00E+18 900 120 1.00E+13 3.00E+03 0.010
6.75E+17 2.00E+19 900 70 1.00E+13 1.00E+02 0.010
6.75E+17 1.00E+12 1000 500 3.00E+12 2.00E+05 0.010
6.75E+17 1.00E+14 1000 500 3.00E+12 2.00E+05 0.010
6.75E+17 1.00E+16 1000 500 3.00E+12 2.00E+05 0.010
6.75E+17 1.00E+18 1000 400 2.00E+12 2.00E+05 0.010
6.75E+17 4.00E+18 1000 170 2.00E+13 1.00E+05 0.010
6.75E+17 9.00E+18 1000 100 2.00E+13 3.00E+04 0.010
6.75E+17 2.00E+19 1000 70 2.00E+13 1.00E+04 0.010
6.10E+17 1.00E+14 500 7000 1.50E+06 1.00E-03 4.000
6.10E+17 1.00E+14 600 5000 3.00E+06 1.00E-03 3.000
6.10E+17 1.00E+12 700 2500 5.00E+07 1.00E-01 3.500
6.10E+17 1.00E+14 700 2500 5.00E+07 1.00E-01 3.500
6.10E+17 1.00E+16 700 2500 5.00E+07 1.00E-01 3.500
6.10E+17 1.00E+18 700 2000 2.00E+07 1.00E-01 3.000
6.10E+17 4.00E+18 700 1000 1.00E+07 1.00E-01 1.500
6.10E+17 9.00E+18 700 500 6.00E+06 5.00E-02 1.000
6.10E+17 2.00E+19 700 100 1.00E+06 1.00E-02 0.100
6.10E+17 1.00E+12 800 2000 2.00E+11 1.00E+03 0.010
6.10E+17 1.00E+14 800 2000 2.00E+11 1.00E+03 0.010
6.10E+17 1.00E+16 800 2000 2.00E+11 1.00E+03 0.010
6.10E+17 1.00E+18 800 1800 2.00E+11 5.00E+03 0.010
6.10E+17 4.00E+18 800 500 2.00E+11 2.00E+02 0.010
6.10E+17 9.00E+18 800 300 1.00E+10 1.00E+02 0.010
6.10E+17 2.00E+19 800 150 5.00E+08 5.00E-02 0.500
6.10E+17 1.00E+12 900 800 1.00E+13 1.00E+05 0.010
6.10E+17 1.00E+14 900 800 1.00E+13 1.00E+05 0.010
6.10E+17 1.00E+16 900 800 1.00E+13 1.00E+05 0.010
6.10E+17 1.00E+18 900 700 1.00E+13 1.00E+05 0.010
6.10E+17 4.00E+18 900 300 1.00E+13 5.00E+04 0.010
6.10E+17 9.00E+18 900 150 1.00E+13 2.00E+04 0.010
6.10E+17 2.00E+19 900 100 1.00E+13 1.00E+04 0.010
6.10E+17 1.00E+12 1000 700 2.00E+12 5.00E+05 0.010
6.10E+17 1.00E+14 1000 700 2.00E+12 5.00E+05 0.010
6.10E+17 1.00E+16 1000 700 2.00E+12 5.00E+05 0.010
6.10E+17 1.00E+18 1000 600 2.00E+12 5.00E+05 0.010
6.10E+17 4.00E+18 1000 200 2.00E+13 1.00E+05 0.010
6.10E+17 9.00E+18 1000 150 2.00E+13 5.00E+04 0.010
6.10E+17 2.00E+19 1000 100 2.00E+13 3.00E+04 0.010
また、また、本発明のシリコンウェーハの製造方法においては、シリコンウェーハの製造方法であって、
ドーパント濃度および酸素濃度(Oi)を設定してCZ法によりシリコン単結晶を引き上げる工程と、
引き上げた単結晶からスライスしてシリコンウェーハとする工程と、
上記の結晶欠陥状態予測方法により熱処理後の欠陥状態を予測する工程と、
予測された欠陥状態が規定の状態と一致するかの合否を判定する工程と、
判定結果が合とされた場合には欠陥状態予測で与えた熱処理条件によってウェーハに熱処理をおこなう工程と、
判定結果が否とされた場合には欠陥状態予測で与えた熱処理条件を変化させて予測をおこなう工程に戻る工程と、
を有することが可能である。
【0009】
本発明の本発明の結晶欠陥状態予測方法は、シリコン単結晶中における結晶欠陥のサイズおよび密度を予測する結晶欠陥状態予測方法であって、
実験データを解析し関連する物理パラメーターを抽出し、その物理パラメーターについてデータベースを構築する工程と、
前記データベースのデータを用いて、結晶欠陥のサイズおよび密度を算出する工程と、
を有するとともに、
前記データベースが、結晶欠陥の密度およびサイズに大きく影響を与える独立要素と、
該独立要素に従属する従属要素としての結晶欠陥のサイズ分布中における最大サイズと最小サイズとを有してなることにより、予め実験的に求めていたパラメーターにより結晶欠陥の密度やサイズを予測することが可能となる。
【0010】
本発明本発明の結晶欠陥状態予測方法において、熱処理後のシリコンウェーハ中における結晶欠陥のサイズおよび密度を予測する結晶欠陥状態予測方法であって、
実験データを解析して算出した変数の一連の組からなるデータ表を算出する工程と、
結晶欠陥の密度およびサイズに大きく影響を与える独立要素として、前記シリコンウェーハの初期条件、および、熱処理の条件を用いるとともに、前記データ表の数値として、前記独立要素に従属する従属要素としての結晶欠陥のサイズ分布中における最大サイズと最小サイズとを用いて、上記(式1)により結晶欠陥のサイズおよび密度を算出する工程と、
を有することにより、熱処理を実際におこなうことなく、熱処理前に解析したデータ表を用いて熱処理後のシリコンウェーハ中における結晶欠陥のサイズおよび密度を従来の方法ではできなかった程度に正確に予測することが可能となる。この際、酸素濃度、ドーパント濃度が異なるウェーハを用意し、そのウェーハに対して、熱処理時間、熱処理温度を変化させ熱処理を行い、析出物のサイズ分布を把握して、その実測分布に合うようにデータベースを構築しておく。
上記(式1)において、熱処理ステップiとJ番目の熱処理ステップとの関係は、iがJ番目の熱処理ステップの前に行われた熱処理の番号であり、熱処理は多段熱処理を想定しており、一番最初の熱処理を1とし、順に2、3、・・・と熱処理ステップを番号付けしている。また、(式1)等において、CbはCに対してドーパント種類によって異なる何らかの関係を及ぼすと考えられ、このCbのCへの影響は未だ明確でない部分もあるが、Cはドーパント種類に依らないとしてデータベースを構築する。つまりデータベースの中に、その影響を含めておき考慮することになる。また、(式1)等において、Smaxはデータベースのデータによる析出物の最大サイズで、熱処理温度に依存せずCbとCoの値で決まる。(式1)において、Sfiはその温度を長時間維持した時に得られる析出物の最大サイズである。さらに、(式1)において、t:核生成の時間遅れとは、ある温度で熱処理した場合、即座に析出核が発生することはなく一定時間後に析出が始まるが、この一定時間のことを意味する。(式1)において、ti,newは核成長時間に関係する時間を意味する。
【0011】
本発明本発明の結晶欠陥状態予測方法は、熱処理後のシリコンウェーハ中における結晶欠陥のサイズおよび密度を予測する結晶欠陥状態予測方法であって、
実験データを解析した複数の変数からなるデータ表の数値を用いて、結晶欠陥のサイズおよび密度を算出する際に、
初期条件として与える変数としては、前記ウェーハ中のドーパント濃度と、前記シリコンウェーハ中の酸素濃度(Oi)と、少なくとも処理温度T(℃)と処理時間t(h)とからなる熱処理条件とが選択され、
前記データ表の変数が、熱処理を極めて長時間(無限時間)とした場合の結晶欠陥の最大サイズSmax と、結晶欠陥の臨界サイズ(最小サイズ)Scrとを含むものとされ、
上記(式1)により結晶欠陥のサイズおよび密度を算出することにより、ドーパント濃度、酸素濃度等を設定するだけで、熱処理を実際におこなうことなく、熱処理前に解析したデータ表を用いて、所定の条件による熱処理後のシリコンウェーハ中における結晶欠陥のサイズおよび密度を従来の方法ではできなかった程度に正確に予測することが可能となる。ここで、独立要素であるTは実施した熱処理温度であって任意に与えることができる。
【0012】
また、また、本発明のシリコンウェーハの製造方法においては、シリコンウェーハの製造方法であって、
ドーパント濃度および酸素濃度(Oi)を設定してCZ法によりシリコン単結晶を引き上げる工程と、
引き上げた単結晶からスライスしてシリコンウェーハとする工程と、
上記の結晶欠陥状態予測方法により熱処理後の欠陥状態を予測する工程と、
予測された欠陥状態が規定の状態と一致するかの合否を判定する工程と、
判定結果が合とされた場合には欠陥状態予測で与えた熱処理条件によってウェーハに熱処理をおこなう工程と、
判定結果が否とされた場合には欠陥状態予測で与えた熱処理条件を変化させて予測をおこなう工程に戻る工程と、
を有することにより、熱処理を実際におこなうことなく、熱処理前に解析したデータ表を用いて、所定の条件による熱処理後のシリコンウェーハ中における結晶欠陥のサイズおよび密度を従来の方法ではできなかった程度に正確に予測することが可能なため、テストのためにおこなう熱処理をする必要がなく、シリコンウェーハ製造における処理時間を短縮し、製造コストを削減することが可能となる。
【0013】
さらに、本発明の結晶欠陥状態予測方法によりスライスする前の引き上げたシリコン単結晶の引き上げ軸方向における欠陥状態分布を精度よく求めることが可能となるので、これを引き上げ条件にフィードバックすること、あるいいは、熱処理等のウェーハ処理条件にフィードバックして、所望のウェーハを製造することが可能となる。引き上げ条件へのフィードバックとしては、結晶の酸素濃度およびドーパント濃度の調整を行い、熱処理後のウェーハが所望の欠陥状態分布になるようにすることが挙げられる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、熱処理を実際におこなうことなく、熱処理前に解析したデータ表を用いて、所定の条件による熱処理後のシリコンウェーハ中における結晶欠陥のサイズおよび密度を従来の方法ではできなかった程度に正確に予測することが可能なため、テストのためにおこなう熱処理をする必要がなく、シリコンウェーハ製造における処理時間を短縮し、製造コストを削減することが可能となるという効果を奏することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明に係る結晶欠陥状態予測方法、シリコンウェーハの製造方法の一実施形態を、図面に基づいて説明する。
図1は、本実施形態における結晶欠陥状態予測方法、シリコンウェーハの製造方法を示すフローチャートである。
【0016】
本実施形態における結晶欠陥状態予測方法、シリコンウェーハの製造方法は、図1に示すように、ウェーハ条件設定工程S1と、シリコン単結晶引き上げ工程S2と、ウェーハ加工工程S3と、データ表算出工程S4と、熱処理条件設定工程S5と、欠陥分布状態算出工程S6と、合否判定工程S7と、熱処理工程S8と、を有するものとされる。
【0017】
図1に示すウェーハ条件設定工程S1においては、製造しようとするウェーハにおけるドーパント濃度および酸素濃度(Oi)を設定するとともに、同時に、最終製品としてのウェーハにおける欠陥のサイズおよび密度の上下限を欠陥分布状態の基準として設定しておく。
図1に示すシリコン単結晶引き上げ工程S2においては、ウェーハ条件設定工程S1において設定された状態となるように引き上げ条件を設定し、この引き上げ条件に従って、CZ法によりシリコン単結晶を引き上げる。
図1に示すウェーハ加工工程S3においては、シリコン単結晶引き上げ工程S2において引き上げられた単結晶から、スライス、べべリング、グラインディング、エッチング、ポリッシングなどの工程を適宜組み合わせて、所望のウェーハに加工する。
【0018】
図1に示すデータ表算出工程S4においては、予め、このようなウェーハに対する熱処理条件と内部欠陥の状態とを実験データとして採取し、この実際のデータを解析してデータ表を算出する。
このデータ表は、実験データを解析して算出した変数の一連の組からなるものとされ、その変数としては、少なくとも、熱処理を極めて長時間(無限時間)とした場合の結晶欠陥の最大サイズSmax と、結晶欠陥の臨界サイズ(最小サイズ)Scrとを含むものとされる。
【0019】
図1に示す熱処理条件設定工程S5においては、ウェーハ条件設定工程S1で設定されたウェーハの初期条件に対して、所望の欠陥分布を得られそうな熱処理条件を設定する。この場合の熱処理条件は、過去の実績から求める結果が得られそうなものを選択すればよい。
【0020】
図1に示す欠陥分布状態算出工程S6においては、結晶欠陥の密度およびサイズに大きく影響を与える独立要素として、ウェーハ条件設定工程S1で設定されたシリコンウェーハの初期条件としてのウェーハ中のドーパント濃度と、前記シリコンウェーハ中の酸素濃度(Oi)と、少なくとも処理温度T(℃)と処理時間t(h)とからなる熱処理条件とを演算初期条件として与えるとともに、この独立要素に従属する従属要素としての結晶欠陥のサイズ分布中における最大サイズSmax と最小サイズcrとを用いて、上述した(式1)により結晶欠陥のサイズおよび密度とその分布を算出(予測)する。
【0021】
図1に示す合否判定工程S7においては、欠陥分布状態算出工程S6において予測された欠陥分布状態が、ウェーハ条件設定工程S1において設定された欠陥分布状態基準の上下限の間の範囲にあるかどうかで、欠陥分布状態が規定の状態と一致するかの合否を判定する。
ここで、判定結果が合とされた場合には、図1に示す熱処理工程S8として、熱処理条件設定工程S5で設定した熱処理条件によってウェーハに熱処理をおこなう。
また、判定結果が否とされた場合には熱処理条件設定工程S5で設定した熱処理条件を変化させて再び予測をおこなうように熱処理条件設定工程S5に戻るとともに、欠陥分布状態算出工程S6と合否判定工程S7とを判定結果が合となるまで繰り返す。
【0022】
本実施形態によれば、熱処理工程S8として熱処理を実際におこなうことなく、熱処理前に解析したデータ表を用いて、欠陥分布状態算出工程S6として結晶欠陥のサイズおよび密度とその分布を算出(予測)することにより、熱処理条件設定工程S5において設定した条件による熱処理後のシリコンウェーハ中における結晶欠陥のサイズおよび密度を従来の方法ではできなかった程度に正確に予測することが可能となる。このため、テストのためにおこなう熱処理をする必要がなく、シリコンウェーハ製造における処理時間を短縮し、テストウェーハを使わないため排棄する必要がなく、製造コストを削減することが可能となる。
【0023】
具体例として、本発明の結晶欠陥状態予測方法によって、熱処理後の酸素析出物の密度とサイズを予測する場合について記述する。
この場合の適用範囲としては、半導体用単結晶の製造にあって電気抵抗の調整のために添加するボロン(ドーパント)濃度が高く電気抵抗値が100mΩcm以下のウェーハとすることができる。
【0024】
このように、ボロン濃度が高い場合、酸素析出物の密度とサイズに影響を与える独立要素は、
1.ウェーハに含まれるボロン濃度
2.酸素濃度(Oi)
3.熱処理温度
である。
この場合、単結晶引き上げ時における結晶熱履歴の影響は小さく無視できる。
【0025】
条件を変えたいくつかの熱処理条件から、サイズの密度分布を規定するSmax、Scrを算出し、上述したデータ表を構築する。ここで、Smaxは、熱処理を極めて長時間(無限時間)した場合の結晶欠陥の最大サイズを意味し、Scrは、結晶欠陥の臨界サイズ(最小サイズ)を意味する。
【0026】
次に、対象の熱処理後の酸素析出物のサイズと密度(サイズの密度分布)を具体的に算出する方法について説明する。ここでは、複数ステップの熱処理後におけるサイズの密度分布について説明する。
【0027】
(1)酸素析出物の密度とサイズの関係は、対数表示した場合(縦軸横軸ともに対数表示)直線関係になる。すなわち、
LOG(N)=K・(LOG(S)−LOG(Smax))+LOG(Ns) 式2
と表すことができる。
ここで、Nは析出物密度、Kは直線の傾き、Sは析出物のサイズ(直径)、Smaxは、熱処理を充分長い時間おこなった場合の結晶欠陥の最大サイズであり、(式1)を用いて求められた析出物サイズの密度を(式2)で求める。
【0028】
(2)第1ステップの熱処理後の最大サイズS を(式1)により算出する。ここで、iは熱処理ステップ番号であり、この場合、i=1、J=1とする。
【0029】
(3)算出したS 、および該熱処理に対応するScrをデータ表から算出し、これらから、酸素析出物サイズの密度分布を算出する
【0030】
(4)第1ステップの酸素析出物のサイズ分布が第2熱処理ステップにおいて成長したサイズ分布を(式1)を用いて算出。また平行して、(式1)に基づき、第2熱処理ステップにて、新たに発生する酸素析出物のサイズ分布を算出する。このとき、残存格子間酸素濃度は、

残存熱処理酸素濃度=初期格子間酸素濃度―析出により消費された酸素濃度

で求めることが可能なので、熱処理ステップが上がるにつれた残存格子間酸素濃度の変化を考慮した演算をおこなう。
【0031】
(5)第2ステップの酸素析出物のサイズ分布が第3熱処理ステップにおいて成長したサイズ分布を(式1)を用いて算出する。また平行して、(式1)に基づき、第3熱処理ステップにて、新たに発生する酸素析出物のサイズ分布を算出する。同様に、残存格子間酸素濃度の変化を考慮する。
【0032】
(6)以降、所定の熱処理ステップに達するまで、(5)の熱処理ステップ数を読み替えて繰り返す。
【0033】
なお、ウェーハ面内における欠陥状態分布、あるいは、引き上げたシリコン単結晶の引き上げ軸方向における欠陥状態分布を求めるには、赤外線による評価方法や選択エッチングによる方法によって行なわれる。
【0034】
以下に、上述した方法で、酸素析出物のサイズ分布を算出したものと、実際の析出物のサイズ分布との比較をおこなった例を挙げる。
【0035】
いくつかの熱処理を行い、その実験結果から上述したデータ表を構築し、このデータ表を用いて、別の条件のウェーハに施した熱処理後の酸素析出物の密度等を計算し実験値と比較した。
【0036】
図2に示すように、各種熱処理後の酸素析出物の密度における実験値と本発明計算値の比較をおこなった。
星シンボルは、本発明による計算値であり、900℃、800℃、700℃、400hの熱処理にそれぞれ対応する。なお、p/p+とは、p+タイプの基板にpタイプのエピタキシャル層を積層したシリコンウェーハであり、p/p−とは、p−タイプの基板にpタイプのエピタキシャル層を積層したシリコンウェーハであり、p+タイプとは、ボロン濃度1×1018atoms/cm以上、p−タイプとは、ボロン濃度 1×1016atoms/cm以下、pタイプとは、その間のボロン濃度のものを意味する。
【0037】
図3に示すように、700℃×t+1000℃×16時間の2ステップ熱処理後の酸素析出物の密度における実験値と本発明計算値の比較をおこなった。
星シンボルは、本発明による計算値であり、p/p++とは、p++タイプの基板にpタイプのエピタキシャル層を積層したシリコンウェーハであり、p++タイプとは、ボロン濃度1×1019atoms/cm以上、を意味する。
【0038】
同様にして、700℃と800℃熱処理における格子間酸素濃度の時間依存性に関する実験値と本発明計算値の比較をおこなった。
図4〜図7に示すように、量産品のゲッタリング能力のモニターツールとして本発明の手法を適用した。すなわち、ゲッタリング能を呈するBMDの密度分布に関し、量産品であるP++タイプのφ200mmウェーハにおける実験値と本発明計算値の比較をおこなった。
【0039】
図4および表1は、600℃、4hr+1000℃、16hrの2ステップ熱処理後におけるウェーハ面内位置と、スライスしたウェーハの引き上げた単結晶における結晶長方向位置を変化させた値の比較である。
面内位置とは、ウェーハの縁部からの直径方向位置(mm)を示し、また、実測とは実験値、シミュレーションとは本発明計算値を示している。また、400L、800L、1200Lとは、それぞれ単結晶直胴部の引き上げ長が400mm、800mm、1200mmであることを意味している。
【0040】
【表1】

【0041】
図5および表2は、700℃、4hr+1000℃、16hrの2ステップ熱処理後におけるウェーハ面内と結晶長を変化させた部位における値の比較である。
【0042】
【表2】

【0043】
図6および表3は、800℃、4hr+1000℃、16hrの2ステップ熱処理後におけるウェーハ面内と結晶長を変化させた部位における値の比較である。
【0044】
【表3】

【0045】
図7および表4は、1000℃、16hrの1ステップ熱処理後におけるウェーハ面内と結晶長を変化させた部位における値の比較である。
【0046】
【表4】

【0047】
これらの結果から、以下のことがわかる。
(1)種々の抵抗値のウェーハにおける熱処理後の酸素析出物の密度に関して、実験値と計算値が一致しており、本発明の手法で精度よく予測することが可能であること。
(2)種々の抵抗値のウエハーにおける2段熱処理後の酸素析出物の密度に関して、実験値と計算値が一致しており、複数段熱処理においても精度よく予測することが可能であること。
(3)700℃と800℃熱処理における格子間酸素濃度の時間依存性に関して、この格子間酸素濃度の時間変化は、時間進行に伴う酸素析出物の成長、発生による格子間酸素原子の消費によるものであるが、実験値と計算値とが高い精度で一致するよう予測することが可能であること。
(4)単一のウェーハにおける熱処理条件の変化だけでなく、ウェーハ面内位置、およびウェーハをスライスするシリコン単結晶の結晶長方向位置における酸素析出物に対しても、実験値と計算値とが高い精度で一致するよう予測することが可能であること。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明に係る結晶欠陥状態予測方法、シリコンウェーハの製造方法の一実施形態を示すフローチャートである。
【図2】本発明に係る結晶欠陥状態予測方法による計算値と実験値とを示すグラフである。
【図3】本発明に係る結晶欠陥状態予測方法による計算値と実験値とを示すグラフである。
【図4】本発明に係る結晶欠陥状態予測方法による計算値と実験値とを示すグラフである。
【図5】本発明に係る結晶欠陥状態予測方法による計算値と実験値とを示すグラフである。
【図6】本発明に係る結晶欠陥状態予測方法による計算値と実験値とを示すグラフである。
【図7】本発明に係る結晶欠陥状態予測方法による計算値と実験値とを示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコン単結晶中における結晶欠陥のサイズおよび密度を予測する結晶欠陥状態予測方法であって、
実験データを解析し関連する物理パラメーターを抽出し、その物理パラメーターについてデータベースを構築する工程と、
前記データベースのデータを用いて、結晶欠陥のサイズおよび密度を算出する工程と、
を有するとともに、
前記データベースが、結晶欠陥の密度およびサイズに大きく影響を与える独立要素と、
該独立要素に従属する従属要素としての結晶欠陥のサイズ分布中における最大サイズと最小サイズとを有してなることを特徴とする結晶欠陥状態予測方法。
【請求項2】
熱処理後のシリコンウェーハ中における結晶欠陥のサイズおよび密度を予測する結晶欠陥状態予測方法であって、
実験データを解析して算出した変数の一連の組からなるデータ表を算出する工程と、
結晶欠陥の密度およびサイズに大きく影響を与える独立要素として、前記シリコンウェーハの初期条件、および、熱処理の条件を用いるとともに、前記データ表の数値として、前記独立要素に従属する従属要素としての結晶欠陥のサイズ分布中における最大サイズと最小サイズとを用いて、(式1)により結晶欠陥のサイズおよび密度を算出する工程と、
を有することを特徴とする結晶欠陥状態予測方法。
【数1】

【請求項3】
熱処理後のシリコンウェーハ中における結晶欠陥のサイズおよび密度を予測する結晶欠陥状態予測方法であって、
実験データを解析した複数の変数からなるデータ表の数値を用いて、結晶欠陥のサイズおよび密度を算出する際に、
初期条件として与える変数としては、前記ウェーハ中のドーパント濃度と、前記シリコンウェーハ中の酸素濃度(Oi)と、少なくとも処理温度T(℃)と処理時間t(h)とからなる熱処理条件とが選択され、
前記データ表の変数が、熱処理を極めて長時間とした場合の結晶欠陥の最大サイズSmax と、結晶欠陥の最小サイズScrとを含むものとされ、
(式1)により結晶欠陥のサイズおよび密度を算出することを特徴とする結晶欠陥状態予測方法。
【数2】

【請求項4】
シリコンウェーハの製造方法であって、
ドーパント濃度および酸素濃度(Oi)を設定してCZ法によりシリコン単結晶を引き上げる工程と、
引き上げた単結晶からスライスしてシリコンウェーハとする工程と、
請求項3記載の結晶欠陥状態予測方法により熱処理後の欠陥状態を予測する工程と、
予測された欠陥状態が製品仕様と一致するかの合否を判定する工程と、
判定結果が合とされた場合には欠陥状態予測で与えた熱処理条件によってウェーハに熱処理をおこなう工程と、
判定結果が否とされた場合には、製品仕様に合致するように熱処理条件を変化させて予測をおこなう工程に戻る工程と、
を有することを特徴とするシリコンウェーハの製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2010−83712(P2010−83712A)
【公開日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−254817(P2008−254817)
【出願日】平成20年9月30日(2008.9.30)
【出願人】(302006854)株式会社SUMCO (1,197)
【Fターム(参考)】