説明

結晶製造方法

【課題】反応容器や部材を繰返し使用できて、均一で高品質な結晶を製造できる方法を提供すること。
【解決手段】反応容器内で結晶成長を行った後に、該反応容器の表面及び該反応容器内で使用される部材の表面に付着した付着物を化学的溶解反応により除去する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、結晶の製造方法、特にクリーニング工程を有する半導体結晶の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アモノサーマル法は、超臨界状態および/または亜臨界状態にあるアンモニアなどの窒素を含有する溶媒を用いて、原材料の溶解−析出反応を利用して所望の材料を製造する方法である。結晶成長へ適用するときは、アンモニアなどの溶媒への原料溶解度の温度依存性を利用して温度差により過飽和状態を発生させて結晶を析出させる方法である。アモノサーマル法と類似のハイドロサーマル法は溶媒に超臨界および/または亜臨界状態の水を用いて結晶成長を行うものであるが、主に水晶(SiO2)や酸化亜鉛(ZnO)などの酸化物結晶に適用される方法である。一方アモノサーマル法は窒化物結晶に適用することができ、窒化ガリウムなどの窒化物結晶の成長に利用されている。
アモノサーマル法に用いられる結晶製造装置としては、例えば特許文献1に開示されるようにオートクレーブ内部をライニングして反応容器としたり、内筒を用いて反応容器とするようなものがあり、これらの反応容器内で種結晶上に目的とする単結晶を析出させることが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−193355号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来のアモノサーマル法では、結晶を析出させる際に目的とする種結晶上での析出だけではなく、反応容器の内壁や反応容器内で用いられる部材表面などにも微結晶が析出してしまう。反応容器や部材を繰返し用いるためには、反応容器内の温度・圧力などの成長条件などを一定に保つことができるように、この微結晶からなる付着物を除去することができれば好ましい。しかしながら、従来はこのような付着物除去のための効果的な方法は知られておらず、本発明者らの検討では反応容器や部材を繰返し使用して結晶成長を行うと、得られる結晶中の不純物が増加するなどの問題が生じることがわかった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、結晶成長工程後に該反応容器の表面及び該反応容器内で使用される部材の表面に付着した付着物を除去するクリーニング工程を行うことにより、反応容器や部材を繰返し使用し、良質な結晶を得ることができることを見出した。また、反応容器や部材を複数回用いることができ、生産性向上に大きな効果があることを見出し本発明に到達した。
【0006】
すなわち、上記の課題は、以下の本発明の結晶製造方法により解決される。
[1] 反応容器内で結晶成長を行う結晶成長工程、及び結晶成長工程後に該反応容器の表面及び該反応容器内で使用される部材の表面に付着した付着物を化学的溶解反応により除去するクリーニング工程を含む、結晶製造方法。
[2] 反応容器内で結晶成長を行う結晶成長工程を複数回行う結晶製造方法において、各結晶成長工程の間に[1]に記載のクリーニング工程を行う、結晶製造方法。
[3] 前記クリーニング工程が、pH10以上のアルカリ性溶液により付着物を除去する工程である、[1]または[2]に記載の結晶製造方法。
[4] 前記アルカリ性溶液が水酸化物溶液である、[3]に記載の結晶製造方法。
[5] 前記水酸化物溶液が、アルカリ金属またはアルカリ土類金属の水酸化物溶液である、[4]に記載の結晶製造方法。
[6] 前記アルカリ性溶液が有機アルカリ溶液である、[3]に記載の結晶製造方法。
[7] 前記アルカリ性溶液の濃度が0.1〜20mol/lである、[3]〜[6]のいずれか1項に記載の結晶製造方法。
[8] 前記クリーニング工程における前記アルカリ性溶液の温度が20〜200℃である、[3]〜[7]のいずれか1項に記載の結晶製造方法。
[9] 前記クリーニング工程において、前記反応容器の表面及び前記反応容器内で使用される部材の表面を前記アルカリ性溶液に接触させ、超音波処理を行う、[1]〜[8]のいずれか1項に記載の結晶製造方法。
[10] 前記クリーニング工程の後に、前記反応容器の表面及び前記反応容器内で使用される部材の表面を、酸により中和する中和工程および/または純水により洗浄する純水洗浄工程を行う、[1]〜[9]のいずれか1項に記載の結晶製造方法。
[11] 前記クリーニング工程、前記中和工程および/または前記純水洗浄工程を実施した後、再び反応容器内で結晶成長を行う結晶成長工程を行う、[1]〜[10]のいずれか1項に記載の結晶製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明の製造方法によれば、反応容器や部材を繰返し使用し、良質の結晶を得ることができる。また、反応容器や部材を複数回用いることができ、生産性向上に大きな効果がある。
また、本発明の製造方法により得られる結晶は均一で高品質であるために、発光デバイスや電子デバイス用の半導体結晶等として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の結晶製造方法を実施するための結晶製造装置の一例を示す模式図である。
【図2】本発明の結晶製造方法を実施するための別の結晶製造装置例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下において、本発明の半導体結晶の製造方法、およびそれに用いる結晶製造装置や部材について詳細に説明する。以下に記載する構成要件の説明は、本発明の代表的な実施態様に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施態様に限定されるものではない。なお、本明細書において「〜」を用いて表される数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。
【0010】
本発明の結晶製造方法は、反応容器内で結晶成長を行う結晶成長工程、及び結晶成長工程後に該反応容器の表面及び該反応容器内で使用される部材の表面に付着した付着物を除去するクリーニング工程を含む。
本発明の結晶製造方法で得られる結晶は単結晶であれば特に限定されない。例えば半導体結晶が挙げられ、II-XI族単結晶、III-V族単結晶などのうち、窒化ガリウム、窒化アルミニウム、窒化インジウムやこれらの混晶などのIII族窒化物結晶が特に好ましい。本明細書においては、窒化ガリウム(GaN)を例として説明するが、本発明の製造方法はこれに限られるものではない。
【0011】
(結晶成長工程)
本発明の結晶成長工程は、少なくとも耐圧性容器内に、超臨界アンモニア雰囲気などの超臨界および/または亜臨界状態の溶媒存在下にて結晶成長を行うための反応容器が設置されてなる結晶製造装置を用いて行われる。
「反応容器」とは、超臨界および/または亜臨界状態の溶媒がその内壁面に直接接触しうる状態で窒化物結晶の製造を行うための容器を意味し、耐圧性容器内部の構造そのものや、耐圧性容器内に設置されるカプセルなどを好ましい例として挙げることができる。
【0012】
本発明の製造方法に用いることのできる反応容器を含む結晶製造装置の具体例を図1および2に示す。図1,2は、本発明で用いることができる結晶製造装置の模式図である。図1に示される結晶製造装置は、耐圧性容器であるオートクレーブ1の内面にライニング3を備える反応容器中で結晶成長を行う。また、図2に示される結晶製造装置においては、オートクレーブ1中に反応容器(内筒)として装填される内筒(カプセル)20中で結晶成長を行う。ライニング3内部およびカプセル20中は、原料を溶解するための原料溶解領域9と結晶を成長させるための結晶成長領域6から構成されている。原料溶解領域9には原料8とともに溶媒や鉱化剤を入れることができ、結晶成長領域6には種結晶7をワイヤーで吊すなどして設置することができる。原料溶解領域9と結晶成長領域6の間には、2つの領域を区画バッフル板5が設置されている。バッフル板5の開孔率は2%以上であるものが好ましく、3%以上であるものがより好ましく、また、60%以下であるものが好ましく、40%以下であるものがより好ましい。バッフル板の表面の材質は、反応容器であるカプセル20の材料と同一であることが好ましい。また、より耐食性を持たせ、成長させる結晶を高純度化するために、バッフル板の表面は、Ni、Ta、Ti、Nb、Pd、Pt、Au、Ir、またはこれらの合金、pBNであることが好ましく、Pd、Pt、Au、Ir、またはこれらの合金、pBNであることがより好ましく、Pt、またはその合金であることが特に好ましい。図2に示される結晶製造装置では、オートクレーブ1の内壁2とカプセル20との間の空隙には、第2溶媒を充填することができるようになっている。ここには、バルブ10を介して窒素ボンベ13から窒素ガスを充填したり、アンモニアボンベ12からマスフローメータ14で流量を確認したりしながら第2溶媒としてアンモニアを充填することができる。また、真空ポンプ11により必要な減圧を行うこともできる。なお、本発明の窒化物結晶の製造方法を実施する際に用いる結晶製造装置には、バルブ、マスフローメータ、導管は必ずしも設置されていなくてもよい。
【0013】
図1のライニング3をする材料および図2の内筒(カプセル)の材料として、Pt、Ir、Ag、Pd、Rh、Cu、Au及びCのうち少なくとも一種類以上の金属又は元素、もしくは、少なくとも一種類以上の金属を含む合金又は化合物であることが好ましく、より好ましくは、ライニングがしやすいという理由でPt,Ag、Cu及びCのうち少なくとも一種類以上の金属又は元素、もしくは、少なくとも一種類以上の金属を含む合金又は化合物である。例えば、Pt単体、Pt−Ir合金、Ag単体、Cu単体やグラファイトなどが挙げられる。
【0014】
本発明における結晶成長工程における結晶成長の条件としては、例えば窒化ガリウム結晶の成長であれば特開2009−263229号公報に開示されているような原料、鉱化剤、種結晶、溶媒、温度、圧力などの条件を好ましく用いることができる。該公開公報の開示全体を本明細書に引用して援用する。
【0015】
具体的に、種結晶、鉱化剤、原料、溶媒、温度、圧力について以下に説明する。
結晶成長工程では結晶成長の核として種結晶を用いることが好ましい。種結晶としては、特に限定されないが、成長させる結晶と同種のものが好ましく用いられる。前記種結晶の具体例としては、例えば窒化ガリウム(GaN)、窒化アルミニウム(AlN)、窒化インジウム(InN)またはこれらの混晶等の窒化物単結晶が挙げられる。
前記種結晶は、成長させる結晶との格子整合性などを考慮して決定することができる。例えば、種結晶としては、サファイア等の異種基板上にエピタキシャル成長させた後に剥離させて得た単結晶、Gaなどの金属からNaやLi、Biをフラックスとして結晶成長させて得た単結晶、液相エピタキシ法(LPE法)を用いて得たホモ/ヘテロエピタキシャル成長させた単結晶、溶液成長法に基づき作製された単結晶及びそれらを切断した結晶などを用いることができる。前記エピタキシャル成長の具体的な方法については特に制限されず、例えば、ハイドライド気相成長法(HVPE)法、有機金属化学気相堆積法(MOCVD法)、液相法、アモノサーマル法などを採用することができる。
【0016】
本発明の結晶成長工程では、鉱化剤を用いることが好ましい。アンモニアなどの窒素を含有する溶媒に対する結晶原料の溶解度が高くないために、溶解度を向上させるために鉱化剤を用いる。
用いる鉱化剤は、塩基性鉱化剤であっても、酸性鉱化剤であってもよい。塩基性鉱化剤としては、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類金属と窒素原子を含む化合物で、アルカリ土類金属アミド、希土類アミド、窒化アルカリ金属、窒化アルカリ土類金属、アジド化合物、その他ヒドラジン類の塩が挙げられる。好ましくは、アルカリ金属アミドで、具体例としてはナトリウムアミド(NaNH2)、カリウムアミド(KNH2)、リチウムアミド(LiNH2)が挙げられる。また、酸性鉱化剤としては、ハロゲン元素を含む化合物が好ましい。ハロゲン元素を含む鉱化剤の例としては、ハロゲン化アンモニウム、ハロゲン化水素、アンモニウムヘキサハロシリケート、及びヒドロカルビルアンモニウムフルオリドや、ハロゲン化テトラメチルアンモニウム、ハロゲン化テトラエチルアンモニウム、ハロゲン化ベンジルトリメチルアンモニウム、ハロゲン化ジプロピルアンモニウム、及びハロゲン化イソプロピルアンモニウムなどのアルキルアンモニウム塩、フッ化アルキルナトリウムのようなハロゲン化アルキル金属、ハロゲン化アルカリ土類金属、ハロゲン化金属等が例示される。このうち、好ましくはハロゲン元素を含む添加物(鉱化剤)であるハロゲン化アルカリ、アルカリ土類金属のハロゲン化物、金属のハロゲン化物、ハロゲン化アンモニウム、ハロゲン化水素であり、さらに好ましくはハロゲン化アルカリ、ハロゲン化アンモニウム、周期表13族金属のハロゲン化物、ハロゲン化水素であり、特に好ましくはハロゲン化アンモニウム、ハロゲン化ガリウム、ハロゲン化水素である。ハロゲン化アンモニウムとしては、例えば塩化アンモニウム(NH4Cl)、ヨウ化アンモニウム(NH4I)、臭化アンモニウム(NH4Br)、フッ化アンモニウム(NH4F)である。
【0017】
前記鉱化剤として、フッ素元素と、塩素、臭素、ヨウ素から構成される他のハロゲン元素から選ばれる少なくとも一つとを含む鉱化剤を用いることが好ましい。これらは1種を単独で用いてもよいし、複数種を適宜混合して用いてもよい。
前記鉱化剤に含まれるハロゲン元素の組み合わせは、塩素とフッ素、臭素とフッ素、ヨウ素とフッ素といった2元素の組み合わせであってもよいし、塩素と臭素とフッ素、塩素とヨウ素とフッ素、臭素とヨウ素とフッ素といった3元素の組み合わせであってもよいし、塩素と臭素とヨウ素とフッ素といった4元素の組み合わせであってもよい。本発明で用いる鉱化剤に含まれるハロゲン元素の組み合わせと濃度比(モル濃度比)は、成長させようとしている窒化物結晶の種類や形状やサイズ、種結晶の種類や形状やサイズ、使用する反応装置、採用する温度条件や圧力条件などにより、適宜決定することができる。
【0018】
前記結晶成長工程では、ハロゲン元素を含む鉱化剤とともに、ハロゲン元素を含まない鉱化剤を用いることも可能であり、例えばNaNH2やKNH2やLiNH2などのアルカリ金属アミドと組み合わせて用いることもできる。ハロゲン化アンモニウムなどのハロゲン元素含有鉱化剤とアルカリ金属元素又はアルカリ土類金属元素を含む鉱化剤とを組み合わせて用いる場合は、ハロゲン元素含有鉱化剤の使用量を多くすることが好ましい。具体的には、ハロゲン元素含有鉱化剤100質量部に対して、アルカリ金属元素又はアルカリ土類金属元素を含む鉱化剤を0.01質量部以上とすることが好ましく、0.1質量部以上とすることがより好ましく、0.2質量部以上とすることがさらに好ましく、また、50質量部以下とすることが好ましく、20質量部以下とすることがより好ましく、5質量部以下とすることがさらに好ましい。
【0019】
前記結晶成長工程で成長させる窒化物結晶に不純物が混入するのを防ぐために、必要に応じて鉱化剤は精製、乾燥してから使用することができる。前記鉱化剤の純度は、通常は95%以上、好ましくは99%以上、さらに好ましくは99.99%以上である。
前記鉱化剤に含まれる水や酸素の量はできるだけ少ないことが望ましく、これらの含有量は1000ppm以下であることが好ましく、10ppm以下であることがより好ましく、1.0ppm以下であることがさらに好ましい。
なお、前記結晶成長を行う際には、反応容器にハロゲン化アルミニウム、ハロゲン化リン、ハロゲン化シリコン、ハロゲン化ゲルマニウム、ハロゲン化亜鉛、ハロゲン化ヒ素、ハロゲン化スズ、ハロゲン化アンチモン、ハロゲン化ビスマスなどを存在させておいてもよい。
【0020】
鉱化剤に含まれるハロゲン元素の溶媒に対するモル濃度は0.1mol%以上とすることが好ましく、0.3mol%以上とすることがより好ましく、0.5mol%以上とすることがさらに好ましい。また、鉱化剤に含まれるハロゲン元素の溶媒に対するモル濃度は30mol%以下とすることが好ましく、20mol%以下とすることがより好ましく、10mol%以下とすることがさらに好ましい。濃度が低すぎる場合、溶解度が低下し成長速度が低下する傾向がある。一方濃度が濃すぎる場合、溶解度が高くなりすぎて自発核発生が増加したり、過飽和度が大きくなりすぎるため制御が困難になるなどの傾向がある。
【0021】
本発明の結晶成長工程においては、種結晶上に成長させようとしている半導体結晶を構成する元素を含む原料を用いる。例えば、周期表13族金属の窒化物結晶を成長させようとする場合は、周期表13族金属を含む原料を用いる。好ましくは13族窒化物結晶の多結晶原料及び/又は13族金属であり、より好ましくは窒化ガリウム及び/又は金属ガリウムである。多結晶原料は、完全な窒化物である必要はなく、条件によっては13族元素がメタルの状態(ゼロ価)である金属成分を含有してもよく、例えば、結晶が窒化ガリウムである場合には、窒化ガリウムと金属ガリウムの混合物が挙げられる。
【0022】
前記多結晶原料の製造方法は、特に制限されない。例えば、アンモニアガスを流通させた反応容器内で、金属又はその酸化物もしくは水酸化物をアンモニアと反応させることにより生成した窒化物多結晶を用いることができる。また、より反応性の高い金属化合物原料として、ハロゲン化物、アミド化合物、イミド化合物、ガラザンなどの共有結合性M−N結合を有する化合物などを用いることができる。さらに、Gaなどの金属を高温高圧で窒素と反応させて作製した窒化物多結晶を用いることもできる。
【0023】
本発明において原料として用いる多結晶原料に含まれる水や酸素の量は、少ないことが好ましい。多結晶原料中の酸素含有量は、通常10000ppm以下、好ましくは1000ppm以下、特に好ましくは1ppm以下である。多結晶原料への酸素の混入のしやすさは、水分との反応性又は吸収能と関係がある。多結晶原料の結晶性が悪いほど表面にNH基などの活性基が多く存在し、それが水と反応して一部酸化物や水酸化物が生成する可能性がある。このため、多結晶原料としては、通常、できるだけ結晶性が高い物を使用することが好ましい。結晶性は粉末X線回折の半値幅で見積もることができ、(100)の回折線(ヘキサゴナル型窒化ガリウムでは2θ=約32.5°)の半値幅が、通常0.25°以下、好ましくは0.20°以下、さらに好ましくは0.17°以下である。
【0024】
結晶成長工程で用いられる溶媒としては、窒素を含有する溶媒を用いることが好ましい。窒素を含有する溶媒としては、成長させる窒化物単結晶の安定性を損なうことのない溶媒が挙げられる。前記溶媒としては、例えば、アンモニア、ヒドラジン、尿素、アミン類(例えば、メチルアミンのような第1級アミン、ジメチルアミンのような第二級アミン、トリメチルアミンのような第三級アミン、エチレンジアミンのようなジアミン)、メラミン等を挙げることができる。これらの溶媒は単独で用いてもよいし、混合して用いてもよい。
【0025】
前記溶媒に含まれる水や酸素の量はできるだけ少ないことが望ましく、これらの含有量は1000ppm以下であることが好ましく、10ppm以下であることがより好ましく、0.1ppm以下であることがさらに好ましい。アンモニアを溶媒として用いる場合、その純度は通常99.9%以上であり、好ましくは99.99%以上であり、さらに好ましくは99.999%以上であり、特に好ましくは99.9999%以上である。
【0026】
結晶成長工程においては、全体を加熱して反応容器内を超臨界状態および/または亜臨界状態とする。超臨界状態では一般的には、粘度が低く、液体よりも容易に拡散されるが、液体と同様の溶媒和力を有する。亜臨界状態とは、臨界温度近傍で臨界密度とほぼ等しい密度を有する液体の状態を意味する。例えば、原料充填部では、超臨界状態として原料を溶解し、結晶成長部では亜臨界状態となるように温度を変化させて超臨界状態と亜臨界状態の原料の溶解度差を利用した結晶成長も可能である。
超臨界状態にする場合、反応混合物は、一般に溶媒の臨界点よりも高い温度に保持する。アンモニア溶媒を用いた場合、臨界点は臨界温度132℃、臨界圧力11.35MPaであるが、反応容器の容積に対する充填率が高ければ、臨界温度以下の温度でも圧力は臨界圧力を遥かに越える。本発明において「超臨界状態」とは、このような臨界圧力を越えた状態を含む。反応混合物は、一定の容積の反応容器内に封入されているので、温度上昇は流体の圧力を増大させる。一般に、T>Tc(1つの溶媒の臨界温度)及びP>Pc(1つの溶媒の臨界圧力)であれば、流体は超臨界状態にある。
【0027】
超臨界条件では、半導体結晶の十分な成長速度が得られる。反応時間は、特に鉱化剤の反応性及び熱力学的パラメータ、すなわち温度及び圧力の数値に依存する。半導体結晶の合成中あるいは成長中、反応容器内の圧力は結晶性および生産性の観点から、120MPa以上にすることが好ましく、150MPa以上にすることがより好ましく、180MPa以上にすることがさらに好ましい。また、反応容器内の圧力は安全性の観点から、700MPa以下にすることが好ましく、500MPa以下にすることがより好ましく、350MPa以下にすることがさらに好ましく、300MPa以下にすることが特に好ましい。圧力は、温度及び反応容器の容積に対する溶媒体積の充填率によって適宜決定される。本来、反応容器内の圧力は、温度と充填率によって一義的に決まるものではあるが、実際には、原料、鉱化剤などの添加物、反応容器内の温度の不均一性、及び自由容積の存在によって多少異なる。
【0028】
反応容器内の温度範囲は、結晶性および生産性の観点から、下限値が500℃以上であることが好ましく、515℃以上であることがより好ましく、530℃以上であることがさらに好ましい。上限値は、安全性の観点から、700℃以下であることが好ましく、650℃以下であることがより好ましく、630℃以下であることがさらに好ましい。本発明の窒化物結晶の製造方法では、反応容器内における原料溶解領域の温度が、結晶成長領域の温度よりも高いことが好ましい。原料溶解領域と結晶成長領域との温度差(|ΔT|)は、結晶性および生産性の観点から、5℃以上であることが好ましく、10℃以上であることがより好ましく、100℃以下であることが好ましく、90℃以下であることがより好ましく、80℃以下が特に好ましい。反応容器内の最適な温度や圧力は、結晶成長の際に用いる鉱化剤や添加剤の種類や使用量等によって、適宜決定することができる。
【0029】
前記の反応容器内の温度範囲、圧力範囲を達成するための反応容器への溶媒の注入割合、すなわち充填率は、反応容器のフリー容積、すなわち、反応容器に多結晶原料、及び種結晶を用いる場合には、種結晶とそれを設置する構造物の体積を反応容器の容積から差し引いて残存する容積、またバッフル板を設置する場合には、さらにそのバッフル板の体積を反応容器の容積から差し引いて残存する容積の溶媒の沸点における液体密度を基準として、通常20%以上、好ましくは30%以上、さらに好ましくは40%以上とし、また、通常95%以下、好ましくは80%以下、さらに好ましくは70%以下とする。
【0030】
反応容器内での半導体結晶の成長は、熱電対を有する電気炉などを用いて反応容器を加熱昇温することにより、反応容器内をアンモニア等の溶媒の亜臨界状態および/または超臨界状態に保持することにより行われる。加熱の方法、所定の反応温度への昇温速度に付いては特に限定されないが、通常、数時間から数日かけて行われる。必要に応じて、多段の昇温を行ったり、温度域において昇温スピードを変えたりすることもできる。また、部分的に冷却しながら加熱したりすることもできる。
なお、前記の「反応温度」は、反応容器の外面に接するように設けられた熱電対、及び/又は外表面から一定の深さの穴に差し込まれた熱電対によって測定され、反応容器の内部温度へ換算して推定することができる。これら熱電対で測定された温度の平均値をもって平均温度とする。通常は、原料溶解領域の温度と結晶成長領域の温度の平均値を平均温度とする。
本発明の半導体結晶の製造方法においては、種結晶に前処理を加えておくことができる。前記前処理としては、例えば、種結晶にメルトバック処理を施したり、種結晶の成長面を研磨したり、種結晶を洗浄するなどが挙げられる。
【0031】
所定の温度に達した後の反応時間については、半導体結晶の種類、用いる原料、鉱化剤の種類、製造する結晶の大きさや量によっても異なるが、通常、数時間から数百日とすることができる。反応中、反応温度は一定にしてもよいし、徐々に昇温又は降温させることもできる。所望の結晶を生成させるための反応時間を経た後、降温させる。降温方法は特に限定されないが、ヒーターの加熱を停止してそのまま炉内に反応容器を設置したまま放冷してもかまわないし、反応容器を電気炉から取り外して空冷してもかまわない。必要であれば、冷媒を用いて急冷することも好適に用いられる。
【0032】
反応容器外面の温度、あるいは推定される反応容器内部の温度が所定温度以下になった後、反応容器を開栓する。このときの所定温度は特に限定はなく、通常−80℃以上、好ましくは−33℃以上であり、また、通常200℃以下、好ましくは100℃以下である。ここで、反応容器に接続したバルブの配管接続口に配管を接続し、水などを満たした容器に通じておき、バルブを開けてもよい。さらに必要に応じて、真空状態にするなどして反応容器内のアンモニア溶媒を十分に除去した後、乾燥し、反応容器の蓋等を開けて生成した窒化物結晶及び未反応の原料や鉱化剤等の添加物を取り出すことができる。
【0033】
(クリーニング工程)
ここでクリーニング工程とは、結晶成長工程後に該反応容器の表面及び該反応容器内で使用される部材の表面に付着した付着物の少なくとも一部を除去する工程をいう。付着物の除去具合はクリーニング終了後、十分に乾燥させてから目視により確認する。反応容器内部は開口部から光源を当てながら目視観察を行うことができる。付着物は微粒子の凝集体であるため、残存していると反射光により容易に判別が可能である。微粒子の反射が10個/cm2以下であれば十分に付着物が除去できたと判断され、好ましい。微粒子の反射はまったくないことが最も好ましい。クリーニング工程を行った後は、付着物の除去を行った反応容器の表面及び部材の表面にダメージがないことが好ましく、前記結晶成長工程を行う前の状態に近いほどより好ましい。
【0034】
クリーニング工程では、化学的溶解反応により付着物を除去する。ここでいう化学的溶解反応とは、付着物を化学的に溶解することができる物質を付着物に対して適用することにより、付着物を当該物質に溶解させることをいう。本発明では、化学的溶解反応を行うために付着物に適用する物質として、付着物を溶解することができて、反応容器や反応容器内で使用される部材にダメージを与えないものを使用する。
【0035】
例えばpH10以上のアルカリ性溶液により付着物を除去する方法が挙げられる。具体的には、結晶成長工程後の反応容器の表面及び前記反応容器内で使用される部材の表面をpH10以上のアルカリ性溶液に接触させることにより付着物を除去する。pH10以上のアルカリ性溶液を用いた場合に、効果的に付着物を除去できる理由は明らかではないが、次のような可能性が考えられる。結晶成長工程後に発生する反応容器の表面及び反応容器内で使用される部材の表面に付着した付着物は、結晶成長の際に目的とする種結晶上以外の箇所において発生する微結晶に由来するものであると考えられる。例えばアモノサーマル法において窒化ガリウム結晶を成長させる場合には反応容器の表面及び部材の表面に窒化ガリウムの微結晶が発生するものと考えられるが、この窒化ガリウム微結晶のみが付着物を形成しているのではない可能性がある。一般に、アモノサーマル法においてはNH4Cl、KNH2、NaNH2等の鉱化剤を使用することから、結晶成長工程において発生した窒化ガリウム微結晶とこれらの鉱化剤などの原料以外の添加物が混合し、この混合物が反応容器の表面及び部材の表面に付着物として付着している可能性が考えられる。本発明者らの検討結果では、鉱化剤としてハロゲン化アンモニウムを用いた窒化ガリウム結晶成長工程後に、pH13以上のアルカリ性溶液を用いて付着物を除去した際にアンモニア臭がすることを確認していることから、付着物は窒化ガリウム微結晶に加えてハロゲン化アンモニウムなどのアンモニウム塩を含んでいる蓋然性が高いと考える。このため、反応容器の表面及び部材の表面に存在する付着物のうち、本発明の製造方法で目的とする結晶の原料以外に添加される添加物と反応し得る材料を用いてクリーニング工程を行うことも好ましい形態の一つである。
【0036】
本発明の化学的溶解反応に用いることができるアルカリ性溶液のpHは通常は10以上であるが、pHが13以上のものを用いることがより好ましい。pHが13以上のアルカリ性溶液としては、例えば有機アルカリ溶液、アルカリ水酸化物溶液等が挙げられるが、中でも付着物の除去が効率的に行えることから、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラブチルアンモニウムヒドロキシドなどの有機アルカリ溶液や、アルカリ金属またはアルカリ土類金属の水酸化物溶液が好ましく、水酸化カリウム溶液や水酸化ナトリウム溶液がより好ましい。これらの溶液の溶媒は、反応容器や反応容器内で使用される部材にダメージを与えないものであれば特に制限されないが、例えば水、エタノール等のアルコール、ジメチルエーテル等のエーテルなどを用いることができ、好ましくは水である。
【0037】
また、前記アルカリ性溶液の濃度は、付着物の除去能力の高さから0.1mol/l以上であることが好ましく、より好ましくは5.0mol/l以上であって、20.0mol/l以下であることが好ましく、より好ましくは15.0mol/l以下である。
クリーニング工程で用いる前記アルカリ性溶液は、付着物の除去能力が高いことから温度が20℃以上であることが好ましく、より好ましくは40℃以上であって、200℃以下であることが好ましく、より好ましくは120℃以下である。
【0038】
大気圧では沸点を超えるため十分に温度を上げることができない場合、加圧環境下にてクリーニング工程を行なっても良い。例えば内面がテフロン(登録商標)などアルカリに対して安定な材料にて内張りされたオートクレーブなどの加圧容器内で行なうことができる。加圧する場合は、0.11MPa以上にすることが好ましく、0.15MPa以上にすることより好ましい。また、10MPa以下にすることが好ましく、1MPa以下にすることより好ましい。
【0039】
クリーニング工程の実施中には、超音波処理を同時に行うと付着物の除去がより容易で効率的になるため好ましい。超音波処理の種類は特に制限されないが、通常の超音波洗浄に用いられている条件を適宜選択して採用することができる。超音波処理には、通常20〜100kHzの波長領域を採用することができ、20〜80kHzの波長領域を採用することが好ましく、20〜75kHzの波長領域を採用することがより好ましい。
【0040】
本発明の結晶製造方法においては、反応容器内で結晶成長を行う結晶成長工程を複数回行うことが可能であり、各結晶成長工程の間に少なくとも1回クリーニング工程を行うことが好ましく、各結晶成長工程の間に毎回クリーニング工程を行うことがより好ましい。
【0041】
また、クリーニング工程の後に、前記反応容器の表面及び前記反応容器内で使用される部材の表面を、酸により中和する中和工程および/または純水により洗浄する純水洗浄工程を行うことが好ましい。
中和工程は、クリーニング工程で使用したアルカリ性溶液を中和する工程である。中和工程は、クリーニング工程で使用したアルカリ性溶液の一部または全部が入っている反応容器内に酸を添加して洗浄後に排出することにより行うことができる。また、反応容器内で使用される部材を反応容器外において酸で洗ったり浸漬したりすることにより行うことができる。酸としては、例えば、塩酸、硝酸等を用いることが好ましい。また、中和工程で用いる酸の濃度は0.5mol/l以上であることが好ましく、より好ましくは3.0mol/l以上であって、12.0mol/l以下であることが好ましく、より好ましくは10.0mol/l以下である。
【0042】
純水洗浄工程は、純水で洗浄することにより、クリーニング工程や中和工程で用いたアルカリ性溶液または酸を除去する工程である。純水洗浄工程は、クリーニング工程や中和工程で使用したアルカリ性溶液や酸の一部または全部が入っている反応容器内に純水を添加して洗浄後に排出することにより行うことができる。また、反応容器内で使用される部材を反応容器外において純水で洗ったり浸漬したりすることにより行うことができる。純水洗浄工程では、超音波処理を同時に行うこともできる。超音波処理の詳細については、上記のクリーニング工程における超音波処理の欄を参照することができる。
【0043】
本発明の結晶製造方法においては、上述のクリーニング工程、中和工程および/または純水洗浄工程を実施した後、再び反応容器内で結晶成長を行う結晶成長工程を行うことができる。これらの各工程を経ることによって、同一の反応容器や部材を繰返し用いて結晶成長工程を行っても、継続して結晶品質が良好な結晶を製造することが可能である。これによって、時間とコストの両面において大幅な改善が期待できる。
【0044】
本発明の結晶製造方法によれば、不純物の混入が抑えられた良質な結晶を得ることができる。例えば、本発明の結晶製造方法によって窒化ガリウム結晶を成長させる場合は、酸素や遷移金属元素の混入が低減され、結晶品質が良好な窒化ガリウム結晶を製造することができる。具体的には、本発明の結晶製造方法によれば、酸素濃度が5×1018atoms/cm3以下の窒化ガリウム結晶を製造することができる。反応容器の壁面の付着物は、前述のように窒化ガリウム結晶のみではなくハロゲン化アンモニウムなどの吸湿性の高い物質も含まれているため、これらの除去を十分に行うことで、水分および吸着ガスを十分に抑制することが可能となり、酸素濃度の低い結晶が製造可能である。
【0045】
また、遷移金属濃度(Ni,Fe,Cr等)についても、1×1016atoms/cm3以下に低減できる。本発明のクリーニング工程を適用する以前は、ステンレスや鋼製ツールを用いて付着物を機械的に除去するなどの工程が必要であったが、本発明により機械的除去が不要となり、遷移金属による汚染がなくなった。また、仮に工程中に金属による汚染が生じても、アルカリによる付着物の除去工程と酸による中和工程により金属不純物は十分に除去できるようになった。
【0046】
アルカリ金属を含有する水溶液をクリーニング工程に用いることは、その後に結晶成長工程を実施して得られる結晶中にアルカリ金属が入り込む可能性があると考えられるため、半導体業界では、通常であればアルカリ金属を含有する水溶液の使用は考えられなかった。しかし、本発明者らは本発明の方法により付着物を効果的に除去できることを見出し、またその後の酸、純水による洗浄により十分にアルカリを除去できる純水洗浄工程を構築した。その結果、クリーニング工程の後に育成された結晶中のアルカリ金属濃度を十分に低減することができるようになった。例えば、結晶中のLi濃度は1.0×1015atoms/cm3以下、好ましくは5.0×1014atoms/cm3以下、さらに好ましくは1×1014atoms/cm3以下に制御することができ、結晶中のNa濃度は1×1016atoms/cm3以下、好ましくは5.0×1015atoms/cm3以下、さらに好ましくは1.0×1015atoms/cm3以下に制御することができ、結晶中のK濃度は1.0×1016atoms/cm3以下、好ましくは5.0×1015atoms/cm3以下、さらに好ましくは1×1015atoms/cm3以下に制御することができる。
【実施例】
【0047】
以下に実施例と比較例を挙げて本発明の特徴をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0048】
<実施例1>
図2に示す結晶製造装置を用いて、窒化ガリウムの結晶成長を行った。鉱化剤であるNH4Clおよび窒化ガリウムの多結晶粒子を原料8として内筒20の原料溶解領域(原料域)9に投入し、原料域9と結晶成長領域(育成域)6の間に開孔を有する白金製のバッフル板5を設置し、六方晶系窒化ガリウム単結晶を種結晶7として育成域6内に白金ワイヤーで吊るした。窒素ボンベ13から窒素を導入することにより内筒内を窒素パージした後、アンモニアボンベ12からアンモニアを導入することにより内筒内をアンモニアで充填して、内筒20とオートクレーブ1を密閉して電気炉内に収納した。育成域6の温度を595℃、原料域9の温度を625℃とし、圧力230MPa以下の育成条件にて4日間の運転を行い窒化ガリウム結晶成長を行った。種結晶7上に4.5gの窒化ガリウム結晶が析出し、種結晶上の他にも反応容器内壁面(内筒内面21)および内部材(反応容器内で使用した部材)表面に針状の窒化ガリウム微結晶が析出し付着した。種結晶を取り出した後、以下の要領で反応容器内壁面および内部材表面の付着物を除去するクリーニング工程、洗浄工程、中和工程を順に行った。
【0049】
析出物が付着した反応容器および内部材を、20℃で濃度40%(重量基準)の水酸化カリウム水溶液に浸漬し、周波数40kHz、出力1200Wの超音波を付加し3時間処理した。超音波を付加したことにより溶液温度は60℃に上昇していた。溶液から反応容器及び内部材を取り出し流水にて洗浄後、表面を目視で観察したところ付着していた析出物は完全に除去されていた。流水洗浄後、濃度35%(重量基準)の塩酸にて中和処理を行い、続いて純水による超音波洗浄を行った。
【0050】
以上の処理を行った後、付着物を除去した反応容器および内部材を用いて、再度上記と同様の条件にて窒化ガリウム結晶成長を行った。その結果、着色の極めて少ない透明な結晶を得ることができた。育成した結晶の元素分析をSIMSにより分析した。遷移金属濃度は、Feが1.88×1015atoms/cm3、Niが2.56×1015atoms/cm3、Crが2.33×1014atoms/cm3であり、ステンレスや鋼製ツールで付着物を擦り取る機械的除去と比べて、遷移金属が低濃度の結晶であった。酸素濃度は2.22×1018atoms/cm3であり、酸素濃度も低い結晶が得られた。これによって、壁面の付着物の除去を十分に行うことで、酸素濃度の低い結晶が製造可能であることが確認された。育成された結晶中のアルカリ金属濃度は、Liが6.01×1013atoms/cm3であり、Naが1.54×1014atoms/cm3であり、Kが1.14×1014atoms/cm3であり、アルカリ金属濃度の十分に低い窒化ガリウム結晶を得ることができた。クリーニング工程に使用したアルカリ水溶液がその後の洗浄工程と中和工程で十分に除去できていることが確認できた。
【0051】
<実施例2>
実施例1と同条件にて窒化ガリウム結晶成長を行った後、種結晶を取り出し、以下の要領で反応容器内壁面および内部材表面の付着物を除去することを試みた。
実施例1に示したクリーニング工程において、析出物が付着した反応容器および内部材を、濃度1%(重量基準)の水酸化カリウム水溶液に浸漬し、周波数40kHz、出力1200Wの超音波を付加し6時間処理したこと以外は、実施例1と同様に行った。
溶液から反応容器及び内部材を取り出し、流水にて洗浄後、表面を目視で観察したところ付着物が若干残っていたが、1重量%の水酸化カリウムアルカリ溶液でもクリーニング効果を確認できた。
【0052】
<実施例3>
実施例1と同条件にて窒化ガリウム結晶成長を行った後、種結晶を取り出し、以下の要領で反応容器内壁面および内部材表面の付着物を除去することを試みた。
実施例1に示したクリーニング工程において、析出物が付着した反応容器および内部材を、濃度40%(重量基準)の水酸化カリウム水溶液に浸漬し、超音波を付加せずに6時間処理したこと以外は、実施例1と同様に行った。
溶液から反応容器及び内部材を取り出し、流水にて洗浄後、表面を目視で観察したところ付着物が若干残っていたが、超音波を付加しない場合でもクリーニング効果を確認できた。付着物除去の効果は、実施例2と同程度であった。
【0053】
<実施例4>
実施例1と同条件にて窒化ガリウム結晶成長を行った後、種結晶を取り出し、以下の要領で反応容器内壁面および内部材表面の付着物を除去することを試みた。
実施例1に示したクリーニング工程において、析出物が付着した反応容器および内部材を、濃度40%(重量基準)の水酸化カリウム水溶液に浸漬し、超音波を付加せずに24時間処理したこと以外は、実施例1と同様に行った。
溶液から反応容器及び内部材を取り出し、流水にて洗浄後、表面を目視で観察したところ付着物が若干残っていたが、実施例3と比較して、水酸化カリウム水溶液での処理時間を長くしたことにより、付着物除去の効果は、実施例3よりも効果が高いことを確認した。
【0054】
<比較例1>
実施例1と同条件にて窒化ガリウム結晶成長を行った後、種結晶を取り出し、以下の要領で反応容器内壁面および内部材表面の付着物を除去することを試みた。
反応容器内壁面および内部材表面の付着物をダイヤモンドやすり、サンドペーパーを用いて機械的に除去した。付着物は表面に強固に付着していたので、機械的に除去するためには反応容器および内部材の表面に達するまで擦り取る必要があった。その結果、反応容器および内部材の表面に傷を多数発生させたうえ、付着物は完全に除去できず、反応容器および内部材の表面に付着物が多少残存した状態となった。
その後、濃度35%(重量基準)の塩酸にて洗浄し、ダイヤモンドやすりやサンドペーパーで処理したことによって付着した金属を除去した。更に純水中で周波数40kHz、出力1200Wによる超音波洗浄を行なった。
以上の処理により機械的に付着物を除去した反応容器および内部材を用いて、再度上記と同様の条件にて窒化ガリウム結晶成長を行った。その結果、着色が極めて濃く不透明な結晶を得た。付着物の除去が不十分であり、さらに機械的な除去作業により部材を汚染した結果、結晶中に多量の不純物が取り込まれる結果となったものと考えられる。
【0055】
<比較例2>
実施例1と同条件にて窒化ガリウム結晶成長を行った後、種結晶を取り出し、以下の要領で反応容器内壁面および内部材表面の付着物を除去することを試みた。
実施例1のクリーニング工程で40重量%水酸化カリウム水溶液を使用する代わりに水を使用し、超音波の付加時間は6時間とした。
その後、反応容器及び内部材を取り出し、流水にて洗浄後、表面を目視で観察したところ付着物はほとんど除去されていなかった。
【0056】
<比較例3>
実施例1と同条件にて窒化ガリウム結晶成長を行った後、種結晶を取り出し、以下の要領で反応容器内壁面および内部材表面の付着物を除去することを試みた。
実施例1のクリーニング工程で40重量%水酸化カリウム水溶液を使用する代わりに35重量%の塩酸水溶液を使用し、超音波の付加時間は6時間とした。
その後、反応容器及び内部材を取り出し、流水にて洗浄後、表面を目視で観察したところ付着物はほとんど除去されていなかった。
比較例2、3から、アルカリ水溶液ではなく、水、酸性水溶液では、超音波を付加した場合でも付着物はほとんど除去されないことがわかった。
【0057】
<付着物除去効果の評価基準>
各実施例と各比較例における付着物除去後に目視観察を行うことによって、以下の4段階で付着物除去効果を評価した。
◎ 付着物は完全に除去された。
○ 付着物はごくわずかに残っていたが、ほとんどが除去された。
△ 付着物はわずかに残っていたが、大半は除去された。
× 付着物はほとんど除去されなかった。
【0058】
【表1】

【0059】
表1の実施例の結果から、水酸化カリウム水溶液は、1重量%よりも40重量%の方が付着物除去効果が高く、また、超音波を付加することで、短時間処理が可能となり、かつ、完全に付着物を除去することができることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明は、周期表第13族元素の窒化物の塊状単結晶、とりわけ窒化ガリウムの塊状単結晶の育成に有用である。本発明の製造方法によれば得られる結晶中の反応容器や部材に由来する不純物を低減することが可能となり、さらに反応容器や部材を複数回用いることが可能であり、時間とコストの両面において大幅な改善が期待できる。よって、本発明は産業上の利用可能性が極めて高い。
【符号の説明】
【0061】
1 オートクレーブ
2 オートクレーブ内面
3 ライニング
4 ライニング内面
5 バッフル板
6 結晶成長領域(育成域)
7 種結晶
8 原料
9 原料溶解領域(原料域)
10 バルブ
11 真空ポンプ
12 アンモニアボンベ
13 窒素ボンベ
14 マスフローメータ
20 内筒(カプセル)
21 内筒内面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
反応容器内で結晶成長を行う結晶成長工程、及び結晶成長工程後に該反応容器の表面及び該反応容器内で使用される部材の表面に付着した付着物を化学的溶解反応により除去するクリーニング工程を含む、結晶製造方法。
【請求項2】
反応容器内で結晶成長を行う結晶成長工程を複数回行う結晶製造方法において、各結晶成長工程の間に請求項1に記載のクリーニング工程を行う、結晶製造方法。
【請求項3】
前記クリーニング工程が、pH10以上のアルカリ性溶液により付着物を除去する工程である、請求項1または2に記載の結晶製造方法。
【請求項4】
前記アルカリ性溶液が水酸化物溶液である、請求項3に記載の結晶製造方法。
【請求項5】
前記水酸化物溶液が、アルカリ金属またはアルカリ土類金属の水酸化物溶液である、請求項4に記載の結晶製造方法。
【請求項6】
前記アルカリ性溶液が有機アルカリ溶液である、請求項3に記載の結晶製造方法。
【請求項7】
前記アルカリ性溶液の濃度が0.1〜20mol/lである、請求項3〜6のいずれか1項に記載の結晶製造方法。
【請求項8】
前記クリーニング工程における前記アルカリ性溶液の温度が20〜200℃である、請求項3〜7のいずれか1項に記載の結晶製造方法。
【請求項9】
前記クリーニング工程において、前記反応容器の表面及び前記反応容器内で使用される部材の表面を前記アルカリ性溶液に接触させ、超音波処理を行う、請求項1〜8のいずれか1項に記載の結晶製造方法。
【請求項10】
前記クリーニング工程の後に、前記反応容器の表面及び前記反応容器内で使用される部材の表面を、酸により中和する中和工程および/または純水により洗浄する純水洗浄工程を行う、請求項1〜9のいずれか1項に記載の結晶製造方法。
【請求項11】
前記クリーニング工程、前記中和工程および/または前記純水洗浄工程を実施した後、再び反応容器内で結晶成長を行う結晶成長工程を行う、請求項1〜10のいずれか1項に記載の結晶製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−136422(P2012−136422A)
【公開日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−283115(P2011−283115)
【出願日】平成23年12月26日(2011.12.26)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】