説明

絶縁フィルムおよびそれを備えたフラットケーブル

【課題】耐熱性、導体との接着強度、耐水性、および耐湿熱性に優れた絶縁フィルムおよびそれを備えたフラットケーブルを提供することを目的とする。
【解決手段】フラットケーブル1は、複数の導体2と、接着剤層4と樹脂フィルム5とからなり、導体2の両面を被覆する絶縁フィルム3とを備えている。接着剤層4は、変性ポリプロピレン樹脂と、スチレン系熱可塑性エラストマーまたはオレフィン系熱可塑性エラストマーからなる樹脂組成物を必須成分としている。そして、変性ポリプロピレン樹脂と、スチレン系熱可塑性エラストマーまたはオレフィン系熱可塑性エラストマーの配合割合が、重量比で10:90〜90:10であるものが使用される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導体の両面を被覆する絶縁フィルム、およびそれを備えたフラットケーブルに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば、車載カーナビゲーションシステムやオーディオ機器等の電子機器の内部配線材として、複数の平板状導体の両面を、ポリエチレンテレフタレート等の樹脂フィルムと、当該樹脂フィルム上に形成された接着剤層とからなる絶縁フィルムにより被覆した構造のフラットケーブルが使用されている。
【0003】
また、一般に、フラットケーブルを製造する際には、導体の両面を絶縁フィルムで挟み込み、既知の熱ラミネータや熱プレス装置を用いて加熱加圧処理を行うことにより、導体を絶縁フィルムの接着剤層により、連続的にラミネート接着して、導体の両面を絶縁フィルムにより被覆する方法が採用される。
【0004】
ここで、難燃性、耐熱性、および接着性の向上の観点から、絶縁フィルムを構成する接着剤層として、種々の接着剤層が提案されている。より具体的には、例えば、スチレンおよびエチレン−ブチレンまたはエチレン−プロピレンからなる二元共重合体(即ち、スチレン系エラストマー)を10〜90重量%と、部分架橋状態または未架橋状態のオレフィン系熱可塑性エラストマーを10〜90重量%とを必須成分とする接着剤層を備えたフラットケーブルが開示されている。このような接着剤層を使用することにより、難燃性に優れ、高温下(105℃)においても、導体と絶縁フィルムの剥離を防止でき、耐熱性に優れたフラットケーブルを提供することができると記載されている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
また、飽和共重合ポリエステル樹脂、ポリオレフィン系樹脂、およびハロゲン系難燃剤を含有し、ハロゲン系難燃剤の配合量が、飽和共重合ポリエステルとポリオレフィン系樹脂の合計100重量部に対して、40〜120重量部である接着剤層を備えたフラットケーブルが開示されている。そして、接着剤層に含有される飽和共重合ポリエステルとして、融点90〜130℃未満の飽和共重合ポリエステルおよび融点130〜180℃の飽和共重合ポリエステルの少なくとも一方が使用される構成となっている。このような接着剤層を使用することにより、接着性および難燃性に優れたフラットケーブルを提供することができると記載されている(例えば、特許文献2参照)。
【特許文献1】特開平5−303918号公報
【特許文献2】特開2002−80813号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上記特許文献1に記載の接着剤層を備えたフラットケーブルにおいては、接着剤層がエラストマーのみにより構成されているため、当該接着剤層の耐熱性、および導体との接着強度を両立させることが困難になるという問題点があった。より具体的には、スチレン系エラストマー、およびオレフィン系熱可塑性エラストマーの場合、ガラス転移温度、及び溶融粘度の高いものを使用すると、耐熱性を向上させることはできるが、上述のラミネート接着後の接着強度が低下するという問題があり、また、ガラス転移温度、及び溶融粘度の低いものを使用すると、ラミネート接着後の接着強度を向上させることはできるが、耐熱性が低下するという問題があり、耐熱性、および導体との接着強度を両立させることが困難であった。また、上記特許文献2に記載の接着剤層を備えたフラットケーブルにおいては、接着剤層が、吸水や加水分解が起こり易い飽和共重合ポリエステル樹脂を含有しているため、接着剤層の耐水性が悪く、耐湿熱性が低下するという問題があった。
【0007】
そこで、本発明は、上述の問題に鑑みてなされたものであり、耐熱性、および、導体との接着強度、耐水性、および耐湿熱性に優れた絶縁フィルムおよびそれを備えたフラットケーブルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、樹脂フィルムと、樹脂フィルムの表面に設けられた接着剤層を備える絶縁フィルムにおいて、接着剤層は、変性ポリプロピレン樹脂と、スチレン系熱可塑性エラストマーまたはオレフィン系熱可塑性エラストマーからなる樹脂組成物を必須成分とするとともに、変性ポリプロピレン樹脂と、スチレン系熱可塑性エラストマーまたはオレフィン系熱可塑性エラストマーの配合割合が、重量比で10:90〜90:10であることを特徴とする。
【0009】
同構成によれば、例えば、導体の両面を絶縁フィルムにより被覆したフラットケーブルにおいて、導体と接着剤層の接着強度が向上するため、絶縁フィルムの導体接着力を向上させることができる。従って、絶縁フィルムから導体が剥離してしまうという不都合を回避することができる。また、接着剤層が変性ポリプロピレン樹脂を含有しており、耐熱性が向上するため、耐熱性に優れた絶縁フィルムを提供することが可能になる。また、接着剤層がスチレン系熱可塑性エラストマーまたはオレフィン系熱可塑性エラストマーを含有しており、加工性に優れているため、例えば、接着剤層を、Tダイ法、インフレーション法等の溶融押出法によりフィルム状に加工して、樹脂フィルムとラミネートする際に、変性ポリプロピレン樹脂の結晶化による熱収縮を低減させることができ、絶縁フィルムのカールを防ぐことが可能になる。また、接着剤層が、吸水や加水分解が起こり易い樹脂を含有していないため、接着剤層の耐水性、および耐湿熱性に優れた絶縁フィルムを提供することが可能になる。
【0010】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の絶縁フィルムであって、接着剤層は、難燃剤を、樹脂組成物の100重量部に対して、30重量部以上100重量部以下含有するとともに、難燃助剤を、樹脂組成物の100重量部に対して、15重量部以上50重量部以下含有することを特徴とする。
【0011】
同構成によれば、例えば、導体の両面を絶縁フィルムにより被覆したフラットケーブルにおいて、難燃性を向上させることができるため、導体と接着剤層の接着強度を低下させることなく、UL規格の垂直燃焼試験(VW−1試験)に合格することができる、難燃性に優れたフラットケーブルを提供することが可能になる。
【0012】
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の絶縁フィルムであって、難燃剤が、ハロゲン系難燃剤であるとともに、難燃助剤が、三酸化アンチモンであることを特徴とする。同構成によれば、安価かつ汎用性のある難燃剤および難燃助剤により、フラットケーブルの難燃性を向上させることができる。
【0013】
請求項4に記載の発明は、請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の絶縁フィルムと、導体とを備え、導体の両面が、絶縁フィルムにより被覆されていることを特徴とするフラットケーブルである。同構成によれば、請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の絶縁フィルムを備えるため、請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の発明と、同様の効果を得ることができる。
【0014】
請求項5に記載の発明は、請求項4に記載のフラットケーブルであって、ケーブル端部における導体の表面が、金めっき層により被覆されていることを特徴とする。同構成によれば、導体を、プリント基板や電気電子部品等に設けられた接続端子と接続する際に、導体と接続端子間の接続信頼性の低下を効果的に防止することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、例えば、導体の両面を絶縁フィルムにより被覆したフラットケーブルにおいて、耐熱性、および、導体との接着強度、耐水性、および耐湿熱性に優れた絶縁フィルムおよびそれを備えたフラットケーブルを提供することを目的とする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下に、本発明の好適な実施形態について説明する。図1は、本発明の実施形態に係るフラットケーブルの構成を示す概略図であり、図2は、図1のA−A断面図である。また、図3は、図1のB−B断面図である。
【0017】
本実施形態におけるフラットケーブル1は、図1、図2に示すように、所定の幅及び厚さを有する、複数の平板状の導体2の両面を、絶縁フィルム3により被覆した構造を有する。また、絶縁フィルム3は、樹脂フィルム5と、当該樹脂フィルム5上に積層された接着剤層4により構成されており、フラットケーブル1は、2枚の絶縁フィルム3の間に、複数の導体2が挟まれた状態で、当該2枚の絶縁フィルム3を貼り合わせた構成となっている。
【0018】
フラットケーブル1の製造方法としては、まず、導体2の両面を絶縁フィルム3で挟み込み、既知の熱ラミネータや熱プレス装置を用いて加熱加圧処理を行うことにより、導体2を接着剤層4により、連続的にラミネート接着して、導体2の両面を絶縁フィルム3により被覆した長尺品を製造する。また、この際、フラットケーブル1の端部1a(以下、「ケーブル端部1a」という。)において、プリント基板や電気電子部品等に設けられた接続端子(不図示)と接続するために、絶縁フィルム3を形成せずに、導体2の一部を外部に露出させた露出部を設けるべく、打ち抜き加工によって、一方の絶縁フィルム3に穴部を形成しながら、当該絶縁フィルム3を導体2とラミネートし、その後、長尺品を一定の長さに切断することにより、フラットケーブル1が製造される。
【0019】
導体2は、銅箔、錫メッキ軟銅箔、ニッケルメッキ軟銅薄 等の導電性金属箔からなり、導体2の厚みは、使用する電流量に対応するが、フラットケーブル1の摺動性等を考慮すると、20μm〜50μmが好ましい。
【0020】
樹脂フィルム5としては、柔軟性に優れた樹脂材料からなるものが使用され、例えば、ポリエステル樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリイミド樹脂等からなる、フラットケーブル用として汎用性のある樹脂フィルムがいずれも使用可能である。ポリエステル樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンナフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリブチレンナフタレート樹脂、ポリトリメチレンテレフタレート樹脂、ポリトリメチレンナフタレート樹脂、ポリシクロヘキサンジメチルテレフタレート樹脂、ポリシクロヘキサンジメチルナフタレートポリアリレート樹脂などが挙げられる。
【0021】
なお、これらの樹脂フィルムのうち、電気的特性、機械的特性、コスト等の観点から、ポリエチレンテレフタレート樹脂からなる樹脂フィルム5が好適に使用される。また、ポリイミド樹脂からなる樹脂フィルム5を使用することにより、UL規格を満たす温度定格105℃以上の耐熱老化性を有するとともに、鉛を含有しないはんだによる電子部品の実装作業にも対応できるフラットケーブルを提供することが可能になる。なお、必要に応じて、樹脂フィルム5の表面に、コロナ処理、プラズマ処理、プライマー処理を施しても良い。また、本実施形態においては、樹脂フィルムの厚みが、12μm〜50μmのものが、好適に使用できる。
【0022】
また、接着剤層4としては、耐熱性、導体との接着強度、耐水性、耐湿熱性、および加工性に優れた樹脂材料を主成分とするものが使用され、本実施形態においては、変性ポリプロピレン樹脂と、スチレン系熱可塑性エラストマーまたはオレフィン系熱可塑性エラストマーからなる樹脂組成物を必須成分とするものが使用される。
【0023】
変性ポリプロピレン樹脂としては、耐熱性、および導体2との接着強度に優れたものが使用され、例えば、無水マレイン酸変性ポリプロピレン樹脂、アクリル酸変性ポリプロピレン樹脂、イタコン酸変性ポリプロピレン樹脂が挙げられる。なお、ポリプロピレン樹脂を、エポキシ基、水酸基、カルボキシル基、アミノ基等の他の官能基で変性したものを使用することもできる。また、耐熱性、および導体との接着強度を向上させるとの観点から、変性ポリプロピレン樹脂の融点は、105℃〜155℃であることが好ましい。
【0024】
また、スチレン系熱可塑性エラストマーとしては、ポリプロピレン樹脂と相溶性が高く、ポリプロピレン樹脂の結晶化による収縮を低減するものが使用される。本実施形態においては、水添スチレン系熱可塑性エラストマーであるSEBS(スチレン−エチレン−ブチレン−スチレン ブロック共重合)、SEPS(スチレン−エチレン−プロピレン−スチレン ブロック共重合)、SBBS(スチレン−ブチレン−ブタジエン−スチレン ブロック共重合体)、水素添加スチレン−ブタジエンゴム(HSBR)が挙げられる。また、メルトフローレートは、特に制限されないが、押出加工性の観点から、1.0〜15.0g/10min(230℃、2.16Kg)であることが好ましい。また、二元共重合体のスチレン単位含有量は、特に制限されないが、耐熱性の観点から、スチレン単位含有量は、10重量%〜40重量%であることが好ましい。
【0025】
また、オレフィン系熱可塑性エラストマーとしては、上述のスチレン系熱可塑性エラストマーと同様に、ポリプロピレン樹脂と相溶性が高く、ポリプロピレン樹脂の結晶化による収縮を低減するものが使用される。本実施形態においては、架橋剤により一部架橋した部分架橋状態または未架橋状態のオレフィン系熱可塑性エラストマーが使用される。この部分架橋状態または未架橋状態のオレフィン系熱可塑性エラストマーとしては、例えば、プロピレン−αオレフィン共重合体、エチレン・1−ブテン共重合体が挙げられる。このうち、部分架橋状態のオレフィン系熱可塑性エラストマーは、耐熱性、および機械的強度に優れているため、特に好ましい。
【0026】
なお、オレフィン系熱可塑性エラストマーの架橋方法としては、例えば、電子線やガンマ線等の電離放射線の照射による架橋や、オレフィン系熱可塑性エラストマーからなる樹脂組成物中に、予め、ジクルミルパーオキサイドやビニル系シラン等の架橋剤を添加し、次いで、加圧水蒸気等により処理を行う熱架橋や、シラン架橋を行う方法が採用できる。
【0027】
また、本実施形態においては、接着剤層4を、変性ポリプロピレン樹脂と、スチレン系熱可塑性エラストマーまたはオレフィン系熱可塑性エラストマーからなる樹脂組成物を必須成分として形成するとともに、変性ポリプロピレン樹脂とスチレン系熱可塑性エラストマーまたはオレフィン系熱可塑性エラストマーの配合割合を、重量比で10:90〜90:10とする構成としている。
【0028】
より具体的には、スチレン系熱可塑性エラストマーを使用する場合は、接着剤層4を変性ポリプロピレン樹脂とスチレン系熱可塑性エラストマーにより形成するとともに、変性ポリプロピレン樹脂とスチレン系熱可塑性エラストマーの配合割合を、重量比で10:90〜90:10とする構成としている。また、同様に、オレフィン系熱可塑性エラストマーを使用する場合は、接着剤層4を変性ポリプロピレン樹脂とオレフィン系熱可塑性エラストマーにより形成するとともに、変性ポリプロピレン樹脂とオレフィン系熱可塑性エラストマーの配合割合を、重量比で10:90〜90:10とする構成としている。
【0029】
本実施形態においては、このような接着剤層4を使用することにより、絶縁フィルム
3の導体接着力、および加工性を向上させることが可能になるとともに、耐熱性、耐水性、および耐湿熱性に優れたフラットケーブル1を提供することが可能になる。
【0030】
なお、本実施形態においては、接着剤層4の厚みが、20μm〜50μmのものが、好適に使用できる。また、接着剤層4は、上述の樹脂材料を、溶剤に溶解して樹脂フィルム5上に塗布し、乾燥させて形成する方法のほか、接着剤層4を構成する変性ポリプロピレン樹脂と、スチレン系熱可塑性エラストマーまたはオレフィン系熱可塑性エラストマーからなる樹脂組成物を、ボールミル、サンドミル、3本ロール等の混練機により混練後、Tダイ法、インフレーション法等の溶融押出法によりフィルム状に形成し、接着剤層4を樹脂フィルム5とラミネートする方法が採用できる。この際、本実施形態における接着剤層4は、上述のごとく、変性ポリプロピレン樹脂と、スチレン系熱可塑性エラストマーまたはオレフィン系熱可塑性エラストマーからなる樹脂組成物を必須成分としているため、変性ポリプロピレン樹脂の結晶化による熱収縮を低減させることができる。従って、絶縁フィルム3のカールを防ぐことが可能になるため、絶縁フィルム3の加工性が向上する。また、樹脂フィルム5との濡れ性を向上させる観点から、樹脂フィルム5に対してコロナ処理を行い、また、既知のアンカーコート剤(例えば、2液硬化型のウレタン樹脂)を塗布した後に塗工することも可能である。
【0031】
また、上述の変性ポリプロピレン樹脂と、スチレン系熱可塑性エラストマーまたはオレフィン系熱可塑性エラストマーからなる樹脂組成物を必須成分として接着剤層4を形成した場合、当該樹脂組成物の難燃性が乏しいため、フラットケーブル1全体の難燃性が低下するという問題がある。従って、接着剤層4に、難燃剤を含有させて、UL規格の垂直燃焼試験(VW−1試験)に合格する難燃性を付与することが好ましい。
【0032】
当該難燃剤としては、例えば、塩素化パラフィン、塩素化ポリエチレン、塩素化ポリフェニル、パークロルペンタシクロデカン等の塩素系難燃剤や、エチレンビスペンタブロモジフェニル、テトラブロモエタン、テトラブロモビスフェノールA、ヘキサブロモベンゼン、デカブロモビフェニルエーテル、テトラブロモ無水フタール酸、ポリジブロモフェニレンオキサイド、ヘキサブロモシクロデカン、臭化アンモニウム等の臭素系難燃剤等のハロゲン系難燃剤が挙げられる。また、例えば、トリアリルホスフェート、アルキルアリルホスフェート、アルキルホスフェート、ジメチルホスフォネート、ホスフォリネート、ハロゲン化ホスフォリネートエステル、トリメチルホスフェート、トリブチルホスフェート、トリオクチルホスフェート、トリブトキシエチルホスフェート、オクチルジフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、クレジルフェニルホスフェート、トリフェニルホスフェート、トリス(クロロエチル)ホスフェート、トリス(2−クロロプロピル)ホスフェート、トリス(2,3−ジクロロプロピル)ホスフェート、トリス(2,3−ジブロモプロピル)ホスフェート、トリス(ブロモクロロプロピル)ホスフェート、ビス(2,3ジブロモプロピル)2,3ジクロロプロピルホスフェート、ビス(クロロプロピル)モノオクチルホスフェート、ポリホスホネート、ポリホスフェート、芳香族ポリホスフェート、ジブロモネオペンチルグリコール等のリン酸エステルまたはリン化合物や、ホスホネート型ポリオール、ホスフェート型ポリオール、およびハロゲン元素を含むポリオール等が挙げられる。また、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム、三酸化アンチモン、三塩化アンチモン、ホウ酸亜鉛、ホウ酸アンチモン、ホウ酸、モリブテン酸アンチモン、酸化モリブテン、リン・窒素化合物、カルシウム・アルミニウムシリケート、ジルコニウム化合物、錫化合物、ドーソナイト、アルミン酸カルシウム水和物、酸化銅、金属銅粉、炭酸カルシウム、メタホウ酸バリウム等の金属粉や無機化合物、シリコーン系ポリマー。フェロセン、フマール酸、マレイン酸、及びメラミンシアヌレート、トリアジン、イソシアヌレート、尿素、グアニジン等の窒素化合物等が挙げられる。
【0033】
そして、本実施形態においては、接着剤層4が、難燃剤を、上述の変性ポリプロピレン樹脂と、スチレン系熱可塑性エラストマーまたはオレフィン系熱可塑性エラストマーからなる樹脂組成物の100重量部に対して、30重量部以上100重量部以下含有する構成としている。なお、接着剤層4に含有する難燃剤としては、上述の臭素系難燃剤、または塩素系難燃剤等のハロゲン系難燃剤を使用することが好ましく、また、臭素系難燃剤、または塩素系難燃剤を単独で使用しても良く、臭素系難燃剤と塩素系難燃剤を混合して使用する構成としても良い。
【0034】
また、フラットケーブル1の難燃性を一層向上させるとの観点から、難燃助剤を配合する構成としており、本実施形態においては、接着剤層4が、当該難燃助剤を、上述の変性ポリプロピレン樹脂と、スチレン系熱可塑性エラストマーまたはオレフィン系熱可塑性エラストマーからなる樹脂組成物の100重量部に対して、15重量部以上50重量部以下含有する構成としている。なお、難燃助剤としては、三酸化アンチモンを使用することが好ましい。
【0035】
これは、難燃剤の含有量が30重量部未満であり、かつ、難燃助剤の含有量が15重量部未満の場合は、フラットケーブル1全体の難燃性を十分に向上することができない場合があり、また、難燃剤の含有量が100重量部より多く、かつ、難燃助剤の含有量が50重量部より多い場合は、導体2と接着剤層4の接着強度が低下し、絶縁フィルム3の導体接着力の低下する場合があるからである。
【0036】
以上に説明した本実施形態によれば、以下の効果を得ることができる。
(1)本実施形態においては、接着剤層4が、変性ポリプロピレン樹脂と、スチレン系熱可塑性エラストマーまたはオレフィン系熱可塑性エラストマーからなる樹脂組成物を必須成分とする構成としている。そして、変性ポリプロピレン樹脂と、スチレン系熱可塑性エラストマーまたはオレフィン系熱可塑性エラストマーの配合割合が、重量比で10:90〜90:10である構成としている。従って、導体2と接着剤層4の接着強度が向上するため、絶縁フィルム3の導体接着力を向上させることができる。その結果、絶縁フィルム3から導体2が剥離してしまうという不都合を回避することができる。また、接着剤層4が変性ポリプロピレン樹脂を含有しており、耐熱性が向上するため、耐熱性に優れた絶縁フィルム3を提供することが可能になる。また、接着剤層4がスチレン系熱可塑性エラストマーまたはオレフィン系熱可塑性エラストマーを含有しており、加工性に優れているため、例えば、接着剤層4を、Tダイ法、インフレーション法等の溶融押出法によりフィルム状に加工して、樹脂フィルム5とラミネートする際に、変性ポリプロピレン樹脂の結晶化による熱収縮を低減させることができ、絶縁フィルム3のカールを防ぐことが可能になる。また、接着剤層4が、吸水や加水分解が起こり易い樹脂を含有していないため、接着剤層4の耐水性、および耐湿熱性に優れた絶縁フィルム3を提供することが可能になる。
【0037】
(2)本実施形態においては、接着剤層4が、難燃剤を、樹脂組成物の100重量部に対して、30重量部以上100重量部以下含有し、難燃助剤を、樹脂組成物の100重量部に対して、15重量部以上50重量部以下含有する構成としている。従って、導体2と接着剤層4の接着強度を低下させることなく、UL規格の垂直燃焼試験(VW−1試験)に合格することができる、難燃性に優れたフラットケーブル1を提供することが可能になる。
【0038】
(3)本実施形態においては、接着剤層4が、難燃剤としてハロゲン系難燃剤を含有するとともに、難燃助剤として三酸化アンチモンを含有する構成としている。従って、安価かつ汎用性のある難燃剤および難燃助剤により、フラットケーブル1の難燃性を向上させることができる。
【0039】
なお、上記実施形態には以下のように変形しても良い。
・図3(図1のB−B断面図)に示すように、ケーブル端部1aにおいて、導体2と接続端子の接続信頼性を高めるために、ケーブル端部1aにおける導体2の露出部の表面をめっき層6により被覆する構成としても良い。
【0040】
この際、環境への配慮から、鉛を含有しないめっき層6を使用する構成とすることが好ましく、導体2と接続端子間の接続信頼性の低下を防止するとの観点から、鉛を含有しないめっき層6として金めっき層を使用することが好ましい。導体2の表面へのめっき処理は、無電解めっき法、または電解めっき法により行われ、金めっき層を設ける際には、露出した導体の表面に対して、まず、拡散防止層としてのニッケルめっき層を形成した後、当該ニッケルめっき層の表面上に金めっき層を形成する方法が採用される。このような構成により、導体2を、プリント基板や電気電子部品等に設けられた接続端子と接続する際に、導体2と接続端子間の接続信頼性の低下を効果的に防止することができる。
【0041】
・また、接着剤層4に、酸化防止剤、着色剤(例えば、酸化チタン)、隠蔽剤、加水分解抑制剤、滑剤、加工安定剤、可塑剤、発泡剤等の既知の配合剤を添加する構成としても良い。また、これらの配合剤の混合は、溶融成形法でフィルムとする場合は、単軸混合機、二軸混合機等を使いて溶融混合する方法で行うことができる。
【実施例】
【0042】
以下に、本発明を実施例、比較例に基づいて説明する。なお、本発明は、これらの実施例に限定されるものではなく、これらの実施例を本発明の趣旨に基づいて変形、変更することが可能であり、それらを本発明の範囲から除外するものではない。
【0043】
(接着性樹脂組成物の作成)
まず、表1に示す種類、および量(単位は、重量%)の変性ポリプロピレン樹脂(三菱化学(株)製、商品名モディックAP P604V、融点:138℃)と、スチレン系熱可塑性エラストマー(JSR(株)製、商品名ダイナロン1321P)またはオレフィン系熱可塑性エラストマー(JSR(株)製、商品名EXCELINK1700B)に、表1に示す量(単位は、重量%)の難燃剤(アルマベール(株)製、商品名SAITEX8010)、および難燃助剤である三酸化アンチモンを加え、2軸混合機を用いて、均一に混合して、実施例1〜12、比較例1〜8に示す接着性樹脂組成物を作製した。
【0044】
(絶縁フィルムの作製)
次に、作製した実施例1の接着性樹脂組成物を、Tダイでフィルム状(厚さ0.040mm)に押し出して、ポリエチレンテレフタレートからなる樹脂フィルム(厚さ0.025mm)上に積層し、熱ラミネータを用いて加熱加圧処理を行うことにより、当該樹脂フィルム上に、実施例1の接着性樹脂組成物からなる接着剤層がラミネートにより形成された、全体の厚さが0.065mmのフィルム状の絶縁フィルムを作製した。また、同様にして、作製した実施例2〜12、および比較例1〜8の各接着性樹脂組成物からなる接着剤層が形成された、全体の厚さが0.065mmの絶縁フィルムを作製した。なお、樹脂フィルムは、アンカーコート剤である2液硬化型ウレタン樹脂(東洋インキ(株)製)が塗布されたものを使用した。
【0045】
(フラットケーブルの作製)
次に、導体である銅線(厚さ0.035mm、幅0.8mm)10本を平行に並べた状態で、当該銅線を、作製した実施例1の接着性樹脂組成物からなる接着剤層が形成された2枚の絶縁フィルムで挟み込み、熱ラミネータを用いて加熱加圧処理を行うことにより、銅線の両面を絶縁フィルムによりラミネートして被覆し、実施例1の接着性樹脂組成物からなる接着剤層を備えるフラットケーブル(以下、「実施例1のフラットケーブル」という。)を作製した。また、同様にして、作製した実施例2〜12、および比較例1〜8の各接着性樹脂組成物からなる接着剤層が形成された2枚の絶縁フィルムにより、銅線の両面をラミネートして被覆し、実施例2〜12、および比較例1〜8の接着性樹脂組成物からなる接着剤層を備えるフラットケーブル(以下、これらの各フラットケーブルを、「実施例2〜12のフラットケーブル」、「比較例1〜8のフラットケーブル」という。)を作製した。なお、実施例1〜12、および比較例2〜8の各フラットケーブルのケーブル端部において、絶縁フィルムを形成せずに、導体の一部を外部に露出させる構成とした。
【0046】
(導体接着力評価)
次いで、作製した実施例1〜12、および比較例1〜8の各フラットケーブルに対して、導体接着力評価を行った。より具体的には、実施例1〜12、および比較例1〜8の各フラットケーブルのケーブル端部における露出した導体を、100mm/分の速度で90°剥離し、導体接着力〔g/mm〕を測定した。なお、導体接着力の測定は、引張り試験機(INSTRON製、商品名INSTRON MODEL4301)を使用して行った。また、導体接着力が100g/mmより大きいものを合格とした。以上の結果を表1、表2に示す。
【0047】
(難燃性評価)
次いで、作製した実施例1〜12、および比較例1〜8の各フラットケーブルに対して、UL規格1581のVW−1に規定される垂直燃焼試験を行った。より具体的には、実施例1〜12、および比較例1〜8のフラットケーブルを各々10本用意し、着火後、10本中1本以上燃焼したもの、燃焼落下物により、試料であるフラットケーブルの下方に配置した脱脂綿が燃焼したもの、または、試料であるフラットケーブルの上部に取り付けたクラフト紙が燃焼したものを不合格とし、その他を合格とした。以上の結果を表1、表2に示す。
【0048】
(耐熱性評価)
次いで、作製した実施例1〜12、および比較例1〜8の各フラットケーブルに対して、耐熱性評価を行った。より具体的には、作製した実施例1のフラットケーブル1を、図4に示すZ字形状に折り曲げた後、136℃で7日間、自然状態にして放置し、樹脂溶解による剥離(即ち、絶縁フィルム3からの導体2の剥離)が生じていないものを合格とした。また、同様にして、実施例2〜12、および比較例1〜8の各フラットケーブルを、Z字形状に折り曲げた後、136℃で7日間、自然状態にして放置し、樹脂溶解による剥離が生じていないものを合格とした。以上の結果を表1、表2に示す。
【0049】
(加工性評価)
また、上述の実施例1〜12、および比較例1〜8の各接着性樹脂組成物からなる接着剤層が形成された絶縁フィルムに対して、加工性評価を行った。より具体的には、作製した実施例1〜12、および比較例1〜8の各接着性樹脂組成物を、Tダイで押し出して、フィルム状の接着剤層を形成した場合に、フィルム状の接着剤層にカール状の変形が生じているか否かを目視で判断し、カール状の変形が生じていないものを合格とした。また、上述した樹脂フィルム上に、実施例1〜12、および比較例1〜8の接着性樹脂組成物からなる接着剤層が形成された絶縁フィルムにより、銅線の両面をラミネートして被覆し、実施例1〜12、および比較例1〜8の各フラットケーブルを作製する際に、絶縁フィルムにより銅線の両面を良好にラミネートできたものを合格とした。換言すると、フィルム状の接着剤層にカール状の変形が生じてしまうと、当該接着剤層が形成された絶縁フィルムにもカール状の変形が生じ、絶縁フィルムにより銅線の両面をラミネートする際に、良好にラミネートできないため、良好にラミネートできたものを、加工性に優れているものとして評価した。以上の結果を表1、表2に示す。
【0050】
【表1】

【0051】
【表2】

【0052】
表1に示すように、実施例1〜12のフラットケーブルは、いずれの場合においても、導体接着力、難燃性、および耐熱性に優れていることが判る。また、実施例1〜12のフラットケーブルが備える絶縁フィルムは、いずれの場合においても、加工性に優れていることが判る。
【0053】
一方、表2に示すように、比較例2,6のフラットケーブルは、いずれの場合においても、耐熱性、および導体接着力に劣ることが判る。これは、比較例2,6のフラットケーブルにおいては、接着剤層を構成する樹脂組成物に、耐熱性、および導体との接着強度に優れた変性ポリプロピレン樹脂が含有されていないためであると考えられる。また、比較例4,8のフラットケーブルは、いずれの場合においても、導体接着力に劣ることが判る。これは、比較例4,8のフラットケーブルにおいては、接着剤層が、難燃剤を、変性ポリプロピレン樹脂と、スチレン系熱可塑性エラストマーまたはオレフィン系熱可塑性エラストマーからなる樹脂組成物の100重量部に対して、100重量部より多く(即ち、110重量部)含有しているとともに、難燃助剤を、当該樹脂組成物100重量部に対して、50重量部より多く(即ち、55重量部)含有しているためであると考えられる。また、比較例3,7のフラットケーブルは、いずれの場合においても、難燃性に劣ることが判る。これは、比較例3,7のフラットケーブルにおいては、接着剤層が、難燃剤を、変性ポリプロピレン樹脂と、スチレン系熱可塑性エラストマーまたはオレフィン系熱可塑性エラストマーからなる樹脂組成物の100重量部に対して、30重量部未満(即ち、20重量部)しか含有していないとともに、難燃助剤を、当該樹脂組成物100重量部に対して、15重量部未満(即ち、10重量部)しか含有していないためであると考えられる。
【0054】
また、表2に示すように、比較例1,5のフラットケーブルが備える絶縁フィルムは、いずれの場合においても、フィルム状の接着剤層にカール状の変形が生じており、加工性に劣ることが判る。これは、比較例1,5のフラットケーブルが備える絶縁フィルムにおいては、接着剤層を構成する樹脂組成物に、加工性に優れたスチレン系熱可塑性エラストマーまたはオレフィン系熱可塑性エラストマーが含有されていないためであると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明の活用例としては、導体の両面を被覆する絶縁フィルム、およびそれを備えたフラットケーブルが挙げられる。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】本発明の実施形態に係るフラットケーブルの構成を示す概略図である。
【図2】図1のA−A断面図である。
【図3】図1のB−B断面図であって、本発明の実施形態に係るフラットケーブルの変形例の構成を示す概略図である。
【図4】実施例における耐熱性評価を行う際の、フラットケーブルの形状を説明するための図である。
【符号の説明】
【0057】
1…フラットケーブル、1a…ケーブル端部、2…導体、3…絶縁フィルム、4…接着剤層、5…樹脂フィルム、6…めっき層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂フィルムと、前記樹脂フィルムの表面に設けられた接着剤層を備える絶縁フィルムにおいて、
前記接着剤層は、変性ポリプロピレン樹脂と、スチレン系熱可塑性エラストマーまたはオレフィン系熱可塑性エラストマーからなる樹脂組成物を必須成分とするとともに、前記変性ポリプロピレン樹脂と、前記スチレン系熱可塑性エラストマーまたは前記オレフィン系熱可塑性エラストマーの配合割合が、重量比で10:90〜90:10であることを特徴とする絶縁フィルム。
【請求項2】
前記接着剤層は、難燃剤を、前記樹脂組成物の100重量部に対して、30重量部以上100重量部以下含有するとともに、難燃助剤を、前記樹脂組成物の100重量部に対して、15重量部以上50重量部以下含有することを特徴とする請求項1に記載の絶縁フィルム。
【請求項3】
前記難燃剤が、ハロゲン系難燃剤であるとともに、前記難燃助剤が、三酸化アンチモンであることを特徴とする請求項2に記載の絶縁フィルム。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の絶縁フィルムと、導体とを備え、前記導体の両面が、前記絶縁フィルムにより被覆されていることを特徴とするフラットケーブル。
【請求項5】
ケーブル端部における前記導体の表面が、金めっき層により被覆されていることを特徴とする請求項4に記載のフラットケーブル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−43601(P2009−43601A)
【公開日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−207936(P2007−207936)
【出願日】平成19年8月9日(2007.8.9)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】