説明

絶縁性高分子材料組成物

【課題】再生可能資源及び廃棄物を原料とした環境配慮型の絶縁性高分子材料組成物を得る。
【解決手段】植物油由来エポキシ樹脂と植物由来ポリフェノールを混合し、得られた混合物を加熱処理することにより、植物油由来エポキシ樹脂−植物由来ポリフェノールの相溶物である液状エポキシ樹脂組成物を得る。液状エポキシ樹脂組成物に、石炭灰及びシランカップリング剤を添加し、混合する。さらに、硬化促進剤等の添加物を加え、加熱処理することにより絶縁性高分子材料組成物を得る。石炭灰としては、フライアッシュを用いるとよい。また、シランカップリング剤は、エポキシ基を有するとよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、絶縁性高分子材料組成物に関するものであって、特に高電圧かつ高温になる電力系統の絶縁に適応するものに関する。従来の絶縁材料において、不飽和ポリエステル、エポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂の代替となる絶縁性高分子材料組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
高電圧機器の絶縁材料及び構造材料として、石油を出発物質とした石油由来のエポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂をマトリックスとした高分子複合硬化物、いわゆるモールド注型品が広く用いられている。また、近年の社会の高度化、集中化に伴い機器の大容量・小型・高信頼性化が強く求められており、モールド注型品はますます重要となってきている。
【0003】
しかし、これらのモールド注型品に使用されている熱硬化性樹脂は石油由来の原料を使用しており、石油資源の枯渇といった地球規模の問題から、将来的に再生可能資源を使用することが求められている。そこで、エポキシ樹脂及びその硬化剤として植物由来の原料を用いることに関する技術が提案されている(特許文献1〜3)。
【0004】
例えば、特許文献1には、植物由来物質をエポキシ樹脂の硬化剤に使用する技術と植物由来物質をフェノール樹脂化する技術が提案されている。また、特許文献2には、植物由来エポキシ樹脂からなる絶縁組成物に関する技術も提案されている。
【0005】
また、各種の用途に利用されているモールド注型品は、樹脂組成物を加温等により一度流動性を有する状態とした後、所定の成型金型内で、所望の形状に成型することにより製造される。上記樹脂組成物中には、機械的特性の向上や増量等を目的として、従来からシリカや炭酸カルシウム、タルク等に代表される無機質充填剤が添加されている(例えば、特許文献4〜6)。
【0006】
発電機や受変電設備等に使用されるモールド製品用樹脂は、耐熱性や低熱膨張係数、高周波領域における誘電体損失が小さいこと等の性能が求められるため、無機充填剤として従来から溶融シリカが使用されている。また、耐ヒートサイクル性等の観点から、無機質充填剤に対して高密充填性が要求されるようになってきている。高密充填性を実現するために、無機充填剤として球状溶融シリカが利用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002−53699号公報
【特許文献2】特開2007−35337号公報
【特許文献3】特開2002−358829号公報
【特許文献4】特開2007−211252号公報
【特許文献5】特開2009−167261号公報
【特許文献6】特開平9−77851号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、特許文献1に記載の技術では、エポキシ化亜麻仁油の硬化剤に石油由来のフェノール樹脂を使用しているので植物度が低く、既存の熱硬化性樹脂の代替品となる非石油原料を出発物質とした絶縁硬化物とは言い難いものであった。また、室温での機械物性は高いが高温物性に対して配慮がなされていない組成となっているため、モールド製品への適用は困難であった。実施例をみても印刷配線ボードとなっており、高電圧機器絶縁のための構成となっていない。また、植物由来物質をフェノール樹脂化する技術内容が実施例に明確に記載されていない。
【0009】
また、特許文献2の技術では、エポキシ化亜麻仁油の硬化剤に石油由来のフェノール樹脂を使用しており、植物度が低いため今後長期的に既存の熱硬化性樹脂の完全代替品となることができない。
【0010】
また、溶融シリカは、高純度の珪石(シリカ、SiO2)を高温で溶融して製造されているが、溶融する際に燃料として用いるLPGの価格が昨今の原油価格高騰に伴い上昇している。さらに、原料の物流に要する費用にも原油価格の高騰が影響している。そこで、安価で大量に供給可能な溶融シリカに相当する無機充填剤が強く望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
そこで、上記課題を解決する本発明の絶縁性高分子材料組成物は、1種類以上のエポキシ化植物油と、1種類以上の植物由来ポリフェノール誘導体と、石炭灰と、シランカップリング剤からなることを特徴としている。
【0012】
また、上記絶縁性高分子材料組成物において、前記シランカップリング剤がエポキシ基を有する様態が挙げられる。
【0013】
また、上記絶縁性高分子材料組成物において、前記シランカップリング剤がメルカプト基を有する様態が挙げられる。
【0014】
また、上記絶縁性高分子材料組成物において、前記シランカップリング剤は、複数種類のシランカップリング剤を組み合わせて用いるとよい。
【0015】
また、上記絶縁性高分子材料組成物において、前記植物由来ポリフェノール誘導体は1分子に2つ以上の水酸基を有するとよい。
【0016】
また、上記絶縁性高分子材料組成物において、前記植物由来ポリフェノール誘導体は没食子酸誘導体であるとよい。
【0017】
上記没食子酸誘導体としては、ピロガロール、没食子酸メチル、没食子酸エチル、没食子酸プロピル、没食子酸イソプロピル、没食子酸ペンチル、没食子酸イソペンチル、没食子酸ヘキサデシル、没食子酸ヘプタデシル、没食子酸オクタデシルのいずれか1種類以上を含有する様態が挙げられる。
【0018】
また、上記絶縁性高分子材料組成物において、前記植物由来ポリフェノール誘導体がリグニンである様態が挙げられる。
【0019】
また、上記絶縁性高分子材料組成物において、前記エポキシ化植物油は、エポキシ化亜麻仁油であればよい。
【発明の効果】
【0020】
以上の発明によれば、環境負荷の低減に貢献する絶縁性高分子材料組成物を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】シランカップリング剤(KBM−403)の添加量と最大曲げ応力との関係を示す特性図。
【図2】(a)シランカップリング剤(KBM−573)の添加量と最大曲げ応力との関係を示す特性図、(b)シランカップリング剤(KBM−603)の添加量と最大曲げ応力との関係を示す特性図。
【図3】シランカップリング剤(KBM−803)の添加量と最大曲げ応力との関係を示す特性図。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明はエポキシ樹脂及び硬化剤ともに植物由来の原料を用いた液状エポキシ樹脂組成物に、廃棄物である石炭灰を充填剤とした環境配慮型絶縁性高分子材料組成物、及びこの環境配慮型絶縁性高分子材料組成物を絶縁材料として備える電力機器に関するものである。
【0023】
工業材料として要求される特性を満たすことができるエポキシ樹脂原料は石油由来である。一方、3次元架橋するものであれば、天然原料であってもエポキシ樹脂原料の代替となり、天然原料からなる絶縁性材料組成物は焼却処分してもカーボンニュートラルである点から新たな二酸化炭素の発生とは見なされない。
【0024】
そこで、天然原料を出発物質とするエポキシ樹脂として植物油由来のエポキシ樹脂に着目した。前記植物油由来のエポキシ樹脂としては、エポキシ化できるものであればよく、エポキシ化亜麻仁油、エポキシ化大豆油等が例示される。
【0025】
例えば、エポキシ化亜麻仁油はエポキシ化大豆油と同じく、ポリ塩化ビニルの安定剤として広く使われている。しかしながら、一般的な工業用エポキシ樹脂と比べ反応性に乏しいため硬化に時間がかかり、Tg(ガラス転移点)が低いうえに機械的強度も小さいことから絶縁・構造材として検討はされなかった。
【0026】
今回、エポキシ化亜麻仁油のTg向上を検討した結果、エポキシ化亜麻仁油の硬化物は絶縁性に優れ、かつ高温での機械特性が工業用エポキシよりも大きいことがわかり、従来の工業用エポキシ樹脂以上の物性が得られることがわかった。そこで本発明ではエポキシ化亜麻仁油を可塑剤等の副原料としてではなく、エポキシ樹脂原料そのものの代替品として位置づけた。
【0027】
そして、上記エポキシ化植物油と反応する硬化剤として、これも天然原料に着目した。エポキシ樹脂と反応する化学物質としてアミン系、酸無水物系、フェノール系、イミダゾール系等があるが、これらはみな石油原料を出発物質とするものである。
【0028】
そこで天然原料を出発物質とするものとして植物由来ポリフェノール類を検討対象とした。植物由来ポリフェノール類とは、分子内に複数のフェノール性水酸基(ベンゼン環、ナフタレン環などの芳香環に結合した水酸基)をもつ植物成分の総称であり、植物が光合成を行う時に合成される物質である。具体的には、没食子酸、タンニン、フラボノール、イソフラボン、カテキン、ケルセチン、アントシアニン等を挙げることができる。また、これらを原料とし、種々の化学製品・グレードが作られている。
【0029】
本発明では、植物由来ポリフェノールの一例として没食子酸誘導体及びリグニンに着目した。没食子酸誘導体としては、没食子酸メチル、没食子酸エチル、没食子酸ブチル、没食子酸ペンチル、没食子酸プロピル、没食子酸イソプロピル、没食子酸イソペンチル、没食子酸オクチル、没食子酸デシル、没食子酸ドデシル、没食子酸トリデシル、没食子酸テトラデシル、没食子酸ペンタデシル、没食子酸ヘキサデシル、没食子酸ヘプタデシル、没食子酸オクタデシル、ピロガロール等が例示される。これら没食子酸誘導体のなかでも、低分子で融点が低い没食子酸プロピル、没食子酸イソプロピルまたはピロガロールが好ましい。
【0030】
また、リグニンとしては特に制限はなく、例えば、紙パルプ工業で木材からセルロース等の炭水化物をとりだした後の、分子構造が変性したクラフトリグニンや、木材等を爆砕処理してアルコール抽出して得られる(爆砕条件に特に制限はない)爆砕リグニン等を用いるとよい。
【0031】
植物油由来のエポキシ樹脂と植物由来ポリフェノール類の配合比は、特に限定されるものではなく、最終的に得られる硬化物の物性を鑑みて添加量を決定するとよい。例えば、植物油由来のエポキシ樹脂と植物由来ポリフェノール類の配合量は、植物油由来のエポキシ樹脂100重量部に対して、植物由来ポリフェノール類を5〜80重量部、好ましくは30〜50重量部とするとよい。
【0032】
硬化促進剤には、イミダゾール系、三級アミン、芳香族アミンなどが使用できる。硬化促進剤の添加量は特に限定するものではなく、最終的に得られる硬化物の物性を鑑みて添加量を決定するとよい。例えば、植物油由来のエポキシ樹脂100重量部に対して、0.01〜5重量部添加するとよい。
【0033】
本発明の実施形態に係る絶縁性高分子材料組成物は、無機充填剤として石炭灰が充填されている。石炭灰は石炭火力発電所等から排出されるものであり、主成分はシリカとアルミナである。石炭灰は一般的に発生箇所により、フライアッシュ、シンダアッシュ、クリンカアッシュの3種に分類される。フライアッシュは微粉炭燃焼ボイラの燃焼ガスから集じん器で採取された石炭灰であり、シンダアッシュは微粉炭燃焼ボイラの燃焼ガスが空気予熱器・節炭器等を通過する際に落下採取された石炭灰である。また、クリンカアッシュは微粉炭燃焼ボイラの炉底に落下して採取された石炭灰である。これらを単体若しくは、混合して使用することが可能である。後述の実施例では、フライアッシュを充填した例を示すが、その他の石炭灰を用いる形態についても本発明の実施形態に含まれる。
【0034】
石炭灰は、火力発電所から大量に排出される球状物質であり、コンクリート混和物として配合すると、コンクリートの流動性が向上する等、成型材料として利用した場合にその流動性が向上することが知られている。そして、石炭灰は分級装置により分級され、分級フライアッシュとして、微粉・超微粉領域の石炭灰が大量に製造されている。このように、石炭灰は、排出成分であるため経済性に優れ、さらに硬度や熱膨張係数等の物性が球状溶融シリカと同等であるため、経済性の向上と環境負荷の低減を実現した無機充填剤の代替物であるといえる。
【0035】
石炭灰の配合割合は、特に限定せず目的とする絶縁性高分子材料組成物に応じて適宜設定すればよいが、多すぎる場合には混合・注型性を損なう虞がある。石炭灰の配合量は、植物由来エポキシ樹脂100重量部に対して550重量部まで配合しても金型注型作業が可能である。より良好な硬化物を得るためには、石炭灰の配合量を、植物由来エポキシ樹脂100重量部に対して150〜350重量部とするとよい。
【0036】
しかし、石炭灰はエポキシ化植物油との親和性に乏しいため、このまま無機充填剤として利用した場合、硬化物強度の低下や粘度の上昇に伴う成型不良等の問題が生じる。そこで、本発明の実施形態に係る絶縁性高分子材料組成物にはシランカップリング剤が添加される。シランカップリング剤は、樹脂と充填剤の複合化において、混合時の分散性を向上させ、複合材料の機械的強度、耐水性、耐熱性、透明性、接着性を向上させる。また、熱硬化性樹脂に対しては、化学結合、ポリマーとの相溶性向上によって顕著な効果が得られる。
【0037】
シランカップリング剤としては、エポキシ基や、アミノ基、メルカプト基、カルボキシル基、ビニル基、イソシアネート基、イソシアヌレート、ハロゲン等の官能基をもったシランカップリング剤が例示できる。シランカップリング剤の具体例としては、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリエトキシシラン等のエポキシ基含有シラン類、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−アミノプロピルトリイソプロポキシシラン、γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ−アミノプロピルメチルジエトキシシラン、γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルメチルジエトキシシラン、γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリイソプロポキシシラン、γ−ウレイドプロピルトリメトキシシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−ベンジル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−ビニルベンジル−γ−アミノプロピルトリエトキシシラン等のアミノ基含有シラン類、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、γ−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルメチルジエトキシシラン等のメルカプト基含有シラン類等が挙げられる。その他、γ−イソシアネートプロピルトリメトキシシラン、γ−イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、γ−イソシアネートプロピルメチルジエトキシシラン等のイソシアネート基含有シラン類、β−カルボキシエチルトリエトキシシラン、β−カルボキシエチルフェニルビス(2−メトキシエトキシ)シラン等のカルボキシシラン類、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン等のビニル型不飽和基含有シラン類、γ−クロロプロピルトリメトキシシラン等のハロゲン含有シラン類、トリス(トリメトキシシリル)イソシアヌレート等のイソシアヌレートシラン類等を用いてもよい。
【0038】
本発明に用いるシランカップリング剤は、通常、石炭灰100重量部に対し、0.01〜5部の範囲で使用される。特に、石炭灰100重量部に対し、0.2〜2重量部の範囲で使用するのが好ましい。
【0039】
本発明の実施形態に係る絶縁性高分子材料組成物は、植物油由来エポキシ樹脂と植物由来ポリフェノールを混合した後(混合工程)、所定の温度で予熱して前記植物油由来エポキシ樹脂と前記植物由来ポリフェノールとの一部が架橋構造を形成した液状の相溶物(液状エポキシ樹脂組成物)を得る工程(相溶工程)と、前記液状の相溶物に石炭灰及びシランカップリング剤を添加した後、加熱処理することにより前記植物油由来エポキシ樹脂と前記植物由来ポリフェノールとを架橋させる工程(硬化工程)より製造することができる。
【0040】
具体的には、主剤である植物油由来エポキシ樹脂(液体)と硬化剤である植物由来ポリフェノール(固体)を常温下で混合させる(混合工程)。なお、混合工程において、植物由来エポキシ樹脂と植物由来ポリフェノールの混合温度は、特に限定するものではないが、常温であればよい。
【0041】
次に、得られた混合物を予熱し、相溶させる(相溶工程)。本発明でいう相溶とは、主剤と硬化剤の混合物がクリアな外観を有するものを意味する。相溶させると、植物油由来エポキシ樹脂と植物由来ポリフェノールとの一部が架橋構造を形成した液状の相溶物(すなわち、液状エポキシ樹脂組成物)が得られる。この液状エポキシ樹脂組成物の架橋の範囲は、1〜80%、好ましくは1〜50%、より好ましくは1〜20%である。液状エポキシ樹脂組成物の架橋の範囲は、該液状エポキシ樹脂組成物の加熱温度、及び加熱時間により制御することができる。この液状エポキシ樹脂組成物の粘度は、80℃で10000mPa・s以下であることが好ましい。さらに、80℃で1000mPa・s以下であるとよい。
【0042】
そして、この液状エポキシ樹脂組成物に固体の硬化剤がなくなったら、液状エポキシ樹脂組成物を予熱温度以下に冷却させ、反応速度を低下させる。
【0043】
この反応速度が低い状態で、前記液状エポキシ樹脂組成物に、石炭灰、シランカップリング剤、及び各種添加剤(物性改良剤等)を添加する。そして、硬化促進剤等を添加し加熱処理することで植物油由来エポキシ樹脂と植物由来ポリフェノールとが完全に架橋され絶縁硬化物(絶縁性高分子材料組成物)が得られる。
【0044】
相溶工程では、植物由来のポリフェノールの融点以上で予熱することが好ましく、温度条件によって相溶時間を調整する必要がある。また、攪拌することによって相溶時間を短縮することができる。しかし、相溶時間が長すぎると前記液状エポキシ樹脂が硬化してしまうので、前記液状エポキシ樹脂に添加する硬化剤等の種類ごとに最適相溶条件(予熱時間、予熱温度)を決定することが好ましい。
【0045】
以下、具体的に実施例1〜3を挙げて本発明に係る絶縁性高分子材料組成物、及びその製造方法について説明する。なお、本発明に係る絶縁性高分子材料組成物は、下記実施例1〜3に限定されるものではなく、発明の効果を損なわない範囲で反応条件及び配合比等の変更を適宜行うとよい。例えば、絶縁性高分子材料組成物を製造する際に、エポキシ化植物油と植物由来ポリフェノールを相溶させず、エポキシ化植物油、植物由来ポリフェノール、フライアッシュ、シランカップリング剤、硬化促進剤等を、同時にまとめて混合してもよい。
【0046】
(実施例1)
本発明の実施例1に係る絶縁性高分子材料組成物は、エポキシ化亜麻仁油とピロガロールからなる植物由来の樹脂組成物に、フライアッシュ及びシランカップリング剤を添加したものである。実施例1では、エポキシ基を有するシランカップリング剤を添加した。
【0047】
植物油由来のエポキシ樹脂として、エポキシ化植物油であるエポキシ化亜麻仁油(ダイセル化学(株)、エポキシ化アマニ油(品名 ダイマック L−500))を用いた。そして、このエポキシ化亜麻仁油の硬化剤として、没食子酸誘導体の1種であるピロガロール(富士化学工業株式会社製)を用いた。
【0048】
フライアッシュは、碧南火力発電所から排出されたフライアッシュから製造されたII種フライアッシュ(株式会社中部テクノ製)を用いた。フライアッシュの種類及び粒径の違いによって、目的とする絶縁性高分子組成物の物性に多少の差異はあるが、それぞれ環境性、経済性に優れた硬化物を得ることができた。
【0049】
シランカップリング剤には、エポキシ基を有するシランカップリング剤を用いた。具体的には、信越シリコーン製のKBM−403を用いた。
【0050】
硬化促進剤としては、2−エチル−4−メチルーイミダゾール(四国化成工業(株)、品名キュアゾール 2E4MZ)を用いた。なお上記硬化剤として、三級アミン(明電ケミカル(株)L−86)、芳香族アミン(明電ケミカル(株)K−61B)を用いた場合においても、同様の効果を得ることができた。
【0051】
本発明の実施例1に係る絶縁性高分子材料組成物の作成方法について説明する。表1に示す配合比で絶縁性高分子材料組成物を作成した。
【0052】
【表1】

【0053】
表1の単位phrは、エポキシ化亜麻仁油の重さを100とした時の各配合材料の重さを示し、単位phfは、フライアッシュの重さを100とした時の配合材料の重さを示す。なお、各原料の配合量は、エポキシ化亜麻仁油100phrに対して、ピロガロールを5〜80phr、フライアッシュを0.1〜550phr、シランカップリング剤を0.01〜5phr、2E4MZを0.01〜5phrの配合量で混合することで良好な硬化物を得ることができた。さらに、ピロガロールの配合量を30〜50phr、フライアッシュの配合量を150〜350phrとすると、注型作業の作業性が良好で、絶縁性能に優れた絶縁性高分子材料組成物を得ることができた。
【0054】
まず、エポキシ化亜麻仁油とピロガロールを混合し、80℃〜180℃に加熱して攪拌混合して液状エポキシ樹脂組成物を得た。この液状エポキシ樹脂組成物にフライアッシュを添加し、攪拌混合した後、シランカップリング剤及びイミダゾールを添加して十分に攪拌混合した。得られた樹脂組成物を金型に注ぎ、脱泡工程を経て、150℃で16時間の加熱処理することでこの樹脂組成物を硬化させ、本発明の実施例1に係る絶縁性高分子材料組成物を得た。
【0055】
樹脂組成物を硬化させる条件は、特に限定するものではなく、100℃〜180℃の温度域であれば良好な硬化物を得ることができ、100℃〜170℃で硬化させることが好ましい。すなわち、硬化温度と硬化時間は、硬化促進剤の種類や量によっても最適な値が異なるものであるので、適宜、絶縁性高分子材料組成物の構成材料に応じて最適な値を選択するとよい。
【0056】
次に、本発明の実施例1に係る絶縁性高分子材料組成物の物性評価を行った。絶縁性高分子材料組成物の評価は、曲げ試験による最大曲げ応力、耐熱性の指標となるTg、体積抵抗率で行った。
【0057】
曲げ試験は、5×10×80mmの棒状の試験片を作成し、試験片を2本の支持棒で支え、中央に荷重をかける3点曲げ試験により、最大曲げ応力を算出した。この時、スパン間距離は50mmであった。また、試験片を水中で煮沸処理(100℃で2時間煮沸)し、煮沸処理前後の最大曲げ応力を比較することにより、耐水性を評価した。
【0058】
Tgは加熱処理によって得られた硬化物を4mmφ×15mmの円柱状に切り出し、TMA法によって線膨張率の変曲点から求めた。
【0059】
体積抵抗率は、JIS K6911に準拠し、1000Vの直流印加電圧で求めた。
【0060】
図1にシランカップリング剤の添加量が絶縁性高分子材料組成物の最大曲げ応力に及ぼす影響を示す。
【0061】
図1に示すように、シランカップリング剤を添加することで耐水性が向上した。これは、硬化物中に残留する未反応のフェノール性水酸基濃度が低下したことにも起因するものと考えられる。特に、シランカップリング剤の添加量は、0.2〜2phfの範囲であれば良好な耐水性を示す。
【0062】
また、表2にシランカップリング剤の添加量が絶縁性高分子材料物の物性に及ぼす影響を示す。
【0063】
【表2】

【0064】
表2より、シランカップリング剤を添加することで、Tg及び体積抵抗率が向上した。これは、ピロガロールのフェノール性水酸基のうち、硬化反応に使用されずに残存したものとシランカップリング剤が反応することで、ガラス転移温度(Tg)が向上したものと考えられる。つまり、エポキシ基を有するシランカップリング剤によって硬化剤とフライアッシュを結合することができるので、得られる絶縁性高分子材料組成物がより密になり、Tg向上の効果を得ることができる。しかしながら、シランカップリング剤の添加量によって、Tg及び体積抵抗率に顕著な差を確認することができなかった。
【0065】
本発明の実施例1に係る絶縁性高分子材料組成物によれば、シランカップリング剤を添加することにより、エポキシ樹脂とフライアッシュとの界面物性が改善され、得られる絶縁性高分子材料組成物の物性が向上する。更に、本発明に係る植物由来ポリフェノール類の誘導体は、1分子中に2つ以上のフェノール性水酸基を有する化合物であり、このフェノール性水酸基のうち植物油由来エポキシ樹脂のエポキシ基と反応しなかったフェノール性水酸基とフライアッシュとがエポキシ基を有するシランカップリング剤により架橋されることで、耐熱性(Tg)が向上し、機械的強度(最大曲げ応力)が向上する。また、樹脂内で残留している未反応の水酸基とシランカップリング剤が反応することで、耐水性や絶縁特性が改善される。
【0066】
以上のように、シランカップリング剤を用いることで、エポキシ樹脂とフライアッシュの界面物性が改善されるため絶縁性高分子材料組成物に充填されるフライアッシュ量を増やしても、樹脂組成物の粘度上昇が抑制される。よって、金型注型工程における作業性が向上するとともに樹脂組成物への無機充填剤の高密充填が可能となる。また、絶縁性高分子材料組成物の耐水性が向上する。そして、エポキシ基を有するシランカップリング剤を用いると、硬化剤とフライアッシュがシランカップリング剤を介して化学的に結合することにより、Tgが向上する。よって、製品の品質向上に寄与する。
【0067】
(実施例2)
本発明の実施例2に係る絶縁性高分子材料組成物は、エポキシ化亜麻仁油とピロガロールからなる植物由来の樹脂組成物に、フライアッシュ及びシランカップリング剤を添加したものである。実施例2では、アミノ基を有するシランカップリング剤を添加した。
【0068】
植物油由来のエポキシ樹脂として、エポキシ化植物油であるエポキシ化亜麻仁油(ダイセル化学(株)、エポキシ化アマニ油(品名 ダイマック L−500))を用いた。そして、このエポキシ化亜麻仁油の硬化剤として、没食子酸誘導体の1種であるピロガロール(富士化学工業株式会社製)を用いた。
【0069】
フライアッシュは、碧南火力発電所から排出されたフライアッシュから製造されたII種フライアッシュ(株式会社中部テクノ製)を用いた。フライアッシュの種類及び粒径の違いによって、目的とする絶縁性高分子組成物の物性に多少の差異はあるが、それぞれ環境性、経済性に優れた硬化物を得ることができた。
【0070】
シランカップリング剤には、アミノ基を有するシランカップリング剤を用いた。具体的には、信越シリコーン製のKBM−573、KBM−603を用いた。
【0071】
硬化促進剤としては、2−エチル−4−メチルーイミダゾール(四国化成工業(株)、品名キュアゾール 2E4MZ)を用いた。なお上記硬化剤として、三級アミン(明電ケミカル(株)L−86)、芳香族アミン(明電ケミカル(株)K−61B)を用いた場合においても、同様の効果を得ることができた。
【0072】
本発明の実施例2に係る絶縁性高分子材料組成物の作成方法について説明する。本発明の実施例2に係る絶縁性高分子材料組成物の配合比は、実施例1の表1に示した配合比とした。なお、各原料の配合量は、エポキシ化亜麻仁油100phrに対して、ピロガロールを5〜80phr、フライアッシュを0.1〜550phr、シランカップリング剤を0.01〜5phr、2E4MZを0.01〜5phrの配合量で混合することで良好な硬化物を得ることができた。さらに、ピロガロールの配合量を30〜50phr、フライアッシュの配合量を150〜350phrとすると、注型作業の作業性が良好で、絶縁性能に優れた絶縁性高分子材料組成物を得ることができた。
【0073】
まず、エポキシ化亜麻仁油とピロガロールを混合し、80℃〜180℃に加熱して攪拌混合して液状エポキシ樹脂組成物を得た。このエポキシ樹脂組成物にフライアッシュを添加し、攪拌混合した後、シランカップリング剤及びイミダゾールを添加して十分に攪拌混合した。得られた樹脂組成物を金型に注ぎ、脱泡工程を経て、150℃で16時間の加熱処理することでこの樹脂組成物を硬化させ、本発明の実施例2に係る絶縁性高分子材料組成物を得た。
【0074】
樹脂組成物を硬化させる条件は、特に限定するものではなく、100℃〜180℃の温度域であれば良好な硬化物を得ることができ、100℃〜170℃で硬化させることが好ましい。すなわち、硬化温度と硬化時間は、硬化促進剤の種類や量によっても最適な値が異なるものであるので、適宜、絶縁性高分子材料組成物の構成材料に応じて最適な値を選択するとよい。
【0075】
次に、本発明の実施例2に係る絶縁性高分子材料組成物の物性評価を行った。絶縁性高分子材料組成物の評価は、曲げ試験による最大曲げ応力、耐熱性の指標となるTg、体積抵抗率で行った。
【0076】
曲げ試験は、5×10×80mmの棒状の試験片を作成し、試験片を2本の支持棒で支え、中央に荷重をかける3点曲げ試験により、最大曲げ応力を算出した。この時、スパン間距離は50mmであった。また、試験片を水中で煮沸処理(100℃で2時間)し、煮沸処理前後の最大曲げ応力を比較することにより、耐水性を評価した。
【0077】
Tgは加熱処理によって得られた硬化物を4mmφ×15mmの円柱状に切り出し、TMA法によって線膨張率の変曲点から求めた。
【0078】
体積抵抗率は、JIS K6911に準拠し、1000Vの直流印加電圧で求めた。
【0079】
図2(a)、図2(b)にシランカップリング剤の添加量が絶縁性高分子材料組成物の最大曲げ応力に及ぼす影響を示す。
【0080】
図2(a)、図2(b)に示すように、シランカップリング剤を添加することで耐水性が向上する。これは、シランカップリング剤がエポキシ樹脂及びフライアッシュと結合することに起因するものと考えられる。特に、シランカップリング剤の添加量は、0.2〜2phfの範囲であれば良好な耐水性を示す。
【0081】
なお、図2(b)の結果よりKBM−603を添加した場合、最大曲げ応力が低下している。よって、最終的に得られる物性を考慮してシランカップリング剤を添加するとよい。
【0082】
また、表3、表4にシランカップリング剤の添加量が絶縁性高分子材料物の物性に及ぼす影響を示す。
【0083】
【表3】

【0084】
【表4】

【0085】
表3、表4に示すように、シランカップリング剤を添加することで、Tgが向上し、体積抵抗率が向上した。つまり、シランカップリング剤を用いることで、エポキシ樹脂とフライアッシュの界面物性が改善されるため絶縁性高分子材料組成物に充填されるフライアッシュ量を増やしても、樹脂組成物の粘度上昇が抑制される。よって、金型注型工程における作業性が向上するとともに樹脂組成物への無機充填剤の高密充填が可能となる。また、絶縁性高分子材料組成物の耐水性が向上する。しかしながら、シランカップリング剤の添加量によって、Tg及び体積抵抗率に顕著な差を確認することができなかった。
【0086】
(実施例3)
本発明の実施例3に係る絶縁性高分子材料組成物は、エポキシ化亜麻仁油とピロガロールからなる植物由来の樹脂組成物に、フライアッシュ及びシランカップリング剤を添加したものである。実施例3では、メルカプト基を有するシランカップリング剤を添加した。
【0087】
植物油由来のエポキシ樹脂として、エポキシ化植物油であるエポキシ化亜麻仁油(ダイセル化学(株)、エポキシ化アマニ油(品名 ダイマック L−500))を用いた。そして、このエポキシ化亜麻仁油の硬化剤として、没食子酸誘導体の1種であるピロガロール(富士化学工業株式会社製)を用いた。
【0088】
フライアッシュは、碧南火力発電所から排出されたフライアッシュから製造されたII種フライアッシュ(株式会社中部テクノ製)を用いた。フライアッシュの種類及び粒径の違いによって、目的とする絶縁性高分子材料組成物の物性に多少の差異はあるが、それぞれ環境性、経済性に優れた硬化物を得ることができた。
【0089】
シランカップリング剤には、メルカプト基を有するシランカップリング剤を用いた。具体的には、信越シリコーン製のKBM−803を用いた。
【0090】
硬化促進剤としては、2−エチル−4−メチルーイミダゾール(四国化成工業(株)、品名キュアゾール 2E4MZ)を用いた。なお上記硬化剤として、三級アミン(明電ケミカル(株)L−86)、芳香族アミン(明電ケミカル(株)K−61B)を用いた場合においても、同様の効果を得ることができた。
【0091】
本発明の実施例3に係る絶縁性高分子材料組成物の作成方法について説明する。本発明の実施例3に係る絶縁性高分子材料組成物の配合比は、実施例1の表1に示した配合比とした。なお、各原料の配合量は、エポキシ化亜麻仁油100phrに対して、ピロガロールを5〜80phr、フライアッシュを0.1〜550phr、シランカップリング剤を0.01〜5phr、2E4MZを0.01〜5phrの配合量で混合することで良好な硬化物を得ることができた。さらに、ピロガロールの配合量を30〜50phr、フライアッシュの配合量を150〜350phrとすると、注型作業の作業性が良好で、絶縁性能に優れた絶縁性高分子材料組成物を得ることができた。
【0092】
まず、エポキシ化亜麻仁油とピロガロールを混合し、80℃〜180℃に加熱して攪拌混合して液状エポキシ樹脂組成物を得た。この液状エポキシ樹脂組成物にフライアッシュを添加し、攪拌混合した後、シランカップリング剤及びイミダゾールを添加して十分に攪拌混合した。得られた樹脂組成物を金型に注ぎ、脱泡工程を経て、150℃で16時間の加熱処理することでこの樹脂組成物を硬化させ、本発明の実施例3に係る絶縁性高分子材料組成物を得た。
【0093】
樹脂組成物を硬化させる条件は、特に限定するものではなく、100℃〜180℃の温度域であれば良好な硬化物を得ることができ、100℃〜170℃で硬化させることが好ましい。すなわち、硬化温度と硬化時間は、硬化促進剤の種類や量によっても最適な値が異なるものであるので、適宜、絶縁性高分子材料組成物の構成材料に応じて最適な値を選択するとよい。
【0094】
次に、本発明の実施例3に係る絶縁性高分子材料組成物の物性評価を行った。絶縁性高分子材料組成物の評価は、曲げ試験による最大曲げ応力、耐熱性の指標となるTg、体積抵抗率で行った。
【0095】
曲げ試験は、5×10×80mmの棒状の試験片を作成し、試験片を2本の支持棒で支え、中央に荷重をかける3点曲げ試験により、最大曲げ応力を算出した。この時、スパン間距離は50mmであった。また、試験片を水中で煮沸処理(100℃で2時間)し、煮沸処理前後の最大曲げ応力を比較することにより、耐水性を評価した。
【0096】
Tgは加熱処理によって得られた硬化物を4mmφ×15mmの円柱状に切り出し、TMA法によって線膨張率の変曲点から求めた。
【0097】
体積抵抗率は、JIS K6911に準拠し、1000Vの直流印加電圧で求めた。
【0098】
図3にシランカップリング剤の添加量が絶縁性高分子材料組成物の最大曲げ応力に及ぼす影響を示す。
【0099】
図3に示すように、シランカップリング剤を添加することで耐水性が向上する。これは、シランカップリング剤がエポキシ樹脂及びフライアッシュと結合することに起因するものと考えられる。特に、シランカップリング剤の添加量は、0.2〜2phfの範囲であれば良好な耐水性を示す。
【0100】
また、表5にシランカップリング剤の添加量が絶縁性高分子材料物の物性に及ぼす影響を示す。
【0101】
【表5】

【0102】
表5に示すように、シランカップリング剤を添加することで、Tgが向上し、体積抵抗率が向上した。つまり、シランカップリング剤を用いることで、エポキシ樹脂とフライアッシュの界面物性が改善されるため絶縁性高分子材料組成物に充填されるフライアッシュ量を増やしても、樹脂組成物の粘度上昇が抑制される。よって、金型注型工程における作業性が向上するとともに樹脂組成物への無機充填剤の高密充填が可能となる。また、絶縁性高分子材料組成物の耐水性が向上する。しかしながら、シランカップリング剤の添加量によって、Tg及び体積抵抗率に顕著な差を確認することができなかった。
【0103】
メルカプト基は、フライアッシュ中の金属成分との反応性に優れるものであるので、メルカプト基を有するシランカップリング剤を添加することで、硬化物から金属成分の流出を抑制することができる。
【0104】
実施例3で使用したフライアッシュの主成分は、酸化ケイ素55%、酸化アルミニウム25%、酸化第2鉄5.5%、酸化カルシウム3%、酸化マグネシウム1.5%であった。したがって、フライアッシュの各成分に適したシランカップリング剤を添加することで、硬化物の諸物性を向上させることができる。
【0105】
以上実施例1〜3を挙げて説明したように、本発明の絶縁性高分子材料組成物によれば、非石油原料である植物油由来エポキシ樹脂と植物由来ポリフェノール誘導体を原料としてTgが常温以上であり、絶縁性能に優れた硬化物(絶縁性高分子材料組成物)を得ることができる。そして、植物油由来エポキシ樹脂と植物由来ポリフェノール誘導体の相溶物に石炭灰及びシランカップリング剤を添加して硬化させることで、従来の非石油由来原料からなる硬化物と比較して、耐熱性、機械的強度、耐水性が向上した絶縁性高分子材料組成物を得ることができる。
【0106】
また、実施例1〜3に示したように、添加するシランカップリング剤の種類によって得られる絶縁性高分子材料組成物の物性が異なるため、目的に応じて適宜必要なシランカップリング剤を組み合わせて用いるとよい。
【0107】
本発明の絶縁性高分子材料組成物は、原料が非石油原料であるため、カーボンニュートラルな絶縁性高分子材料組成物である。さらに、石炭灰は廃棄物であり、経済性に優れ、原料コストを低減することができる。すなわち、本発明の絶縁性高分子材料組成物は、植物由来物質及び廃棄物が主原料である環境配慮型の絶縁材料が実現できる。
【0108】
そして、本発明に係る絶縁性高分子材料組成物は、電力機器用絶縁材料等に適用することができる。例えば、絶縁スペーサーや支持碍子、絶縁フレーム、絶縁シート、固体絶縁開閉装置(ミニクラッド)やガス絶縁機器に使われるモールド機器、変圧器などのモールド樹脂等のエポキシモールド製品全般に使用可能である。なお、本発明に係る絶縁性高分子材料組成物の用途は、上記電力機器用絶縁材料等に限定されるものではなく絶縁部材として種々の用途に適用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1種類以上のエポキシ化植物油と、
1種類以上の植物由来ポリフェノール誘導体と、
石炭灰と、
シランカップリング剤からなる
ことを特徴とする絶縁性高分子材料組成物。
【請求項2】
前記シランカップリング剤はエポキシ基を有する
ことを特徴とする請求項1に記載の絶縁性高分子材料組成物。
【請求項3】
前記シランカップリング剤はメルカプト基を有する
ことを特徴とする請求項1に記載の絶縁性高分子材料組成物。
【請求項4】
前記シランカップリング剤は、複数種類のシランカップリング剤を組み合わせたものである
ことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の絶縁性高分子材料組成物。
【請求項5】
前記植物由来ポリフェノール誘導体は1分子に2つ以上の水酸基を有する
ことを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の絶縁性高分子材料組成物。
【請求項6】
前記植物由来ポリフェノール誘導体は没食子酸誘導体である
ことを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の絶縁性高分子材料組成物。
【請求項7】
前記没食子酸誘導体は、ピロガロール、没食子酸メチル、没食子酸エチル、没食子酸プロピル、没食子酸イソプロピル、没食子酸ペンチル、没食子酸イソペンチル、没食子酸ヘキサデシル、没食子酸ヘプタデシル、没食子酸オクタデシルのいずれか1種類以上を含有する
ことを特徴とする請求項6に記載の絶縁性高分子材料組成物。
【請求項8】
前記植物由来ポリフェノール誘導体はリグニンである
ことを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の絶縁性高分子材料組成物。
【請求項9】
前記エポキシ化植物油はエポキシ化亜麻仁油である
ことを特徴とする請求項1から請求項8のいずれか1項に記載の絶縁性高分子材料組成物。
【請求項10】
請求項1から請求項9のいずれかに記載した絶縁性高分子材料組成物を、少なくとも一部に含んで構成される電力機器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−184645(P2011−184645A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−53968(P2010−53968)
【出願日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【出願人】(000213297)中部電力株式会社 (811)
【出願人】(000006105)株式会社明電舎 (1,739)
【Fターム(参考)】