説明

絶縁材用樹脂組成物及びその製造方法

【課題】高い絶縁破壊強度と高い熱伝導性とを両立し、電子・電気部品の用途のみならず、全固体変圧器の絶縁材にも好適な絶縁材用樹脂組成物を提供する。
【解決手段】熱硬化性樹脂組成物中に、無機充填材が分散してなり、前記無機充填材が、粒径が1〜100μmの球状粒子と、粒径が100nm以下の小粒子とからなることを特徴とする絶縁材用樹脂組成物である。該絶縁材用樹脂組成物は、添加される無機充填材が、粒径が1〜100μmの球状粒子を核として、該球状粒子の表面に粒径が100nm以下の小粒子が付着してなる球状複合粒子であり、熱硬化性樹脂組成物中に該球状複合粒子由来の前記球状粒子及び前記小粒子が分散してなることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、絶縁材用樹脂組成物及びその製造方法に関し、特に、高い絶縁破壊強度と高い熱伝導性とを両立し、電子・電気部品の用途のみならず、全固体変圧器にも好適な電気絶縁材用樹脂組成物、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エポキシ樹脂は、その硬化物が優れた特性(接着性、強靱性、耐熱性、電気絶縁性、耐食性等)を有するため、電気・電子用途、塗料用途、土木・建築用途等、幅広い産業分野に使用されている。また、優れた電気絶縁性を持つため、従来より重電用の注型トランスに使用されてきた。
【0003】
前記電気・電子用途としては、特に、積層基板、半導体の封止材、絶縁塗料、コイル含浸用の材料が挙げられるが、近年、電気・電子部品の高性能化に伴い、該部品からの発熱量が増大する傾向にあり、過熱による障害を回避するために、使用するエポキシ樹脂組成物に対し、放熱による冷却効果を得るために熱伝導性の向上が求められている。
【0004】
エポキシ樹脂組成物の熱伝導性を向上させる方法としては、例えば、熱伝導率の高い物質を充填する方法が挙げられ、そのようにして得られるエポキシ樹脂組成物としては、例えば、粒子径が10〜45μmの窒化アルミニウム粉と、最大粒子径が3μm以下の球状の酸化アルミニウム粉を含有させたもの(特許文献1参照)が提案されている。
また、粒子径が10〜50μmの電気絶縁物と金属粉とをエポキシ樹脂に含有させたもの(特許文献2参照)も提案されている。
しかし、前記特許文献1及び2のいずれの場合も、比重が異なる粉を用いているため、その粉を樹脂組成物内に均一に配置することが困難である。また、それぞれの粉は誘電率や熱伝導率などの物性値が異なるため、樹脂組成物内の電界分布や温度分布などが不均一となり、所要の電気絶縁性能や熱伝導性能を確保することが困難と考えられる。特に、前記特許文献2に記載の組成物は、金属粉を最大で20%(体積分率)も使用しているため、高い電気絶縁性能が期待できず、用途が限定されてしまうという問題がある。
【0005】
ところで、絶縁性に優れ、かつ放熱性の高い固体絶縁材は、全固体変圧器としての用途が期待される。該全固体変圧器に用いられる固体絶縁材としては、高い交流絶縁破壊強度と高い熱伝導率とを両立することが求められ、そのような固体絶縁体を用いることにより、全固体変圧器の電力損失を低減させることが可能な全固体変圧器を設計することができる。
【0006】
このように、熱伝導性に優れたフィラーを充填することにより、エポキシ樹脂の熱伝導率が改善されることは知れられているが、高い絶縁性(絶縁破壊強度)と高い熱伝導性とを両立し、電子・電気部品の用途のみならず、電力損失を低減可能な全固体変圧器の絶縁材として好適であり、かつ該全固体変圧器の設計裕度を確保可能な絶縁材は、未だ提供されておらず、更なる改良開発が望まれているのが現状である。
【0007】
【特許文献1】特開2002−322372号公報
【特許文献2】特開2004−143368号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、従来における前記問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明は、高い絶縁破壊強度と高い熱伝導性とを両立し、電子・電気部品の用途のみならず、全固体変圧器の絶縁材にも好適な絶縁材用樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するため、本発明者らは鋭意検討を重ねた結果、球状粒子の表面に該球状粒子よりも粒径の小さな小粒子が分散付着してなる窒化アルミニウムの球状複合粒子を、エポキシ樹脂に添加して混合することにより、高い絶縁破壊強度を有するとともに、該球状複合粒子の充填率が高く熱伝導率に優れ、電子・電気部品の用途のみならず、全固体変圧器の固体絶縁材として好適なエポキシ樹脂組成物が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
前記球状複合粒子は例えば、アークプラズマを用いて創製された円形度(球形度)の高い粒子であって、図1に模式図を示すような断面の構造を有し、また高純度の窒化アルミニウム粒子である。
【0010】
本発明は、本発明者による前記知見に基づくものであり、前記課題を解決するための手段としては、以下の通りである。即ち、
<1> 熱硬化性樹脂組成物中に、無機充填材が分散してなり、前記無機充填材が、粒径が1〜100μmの球状粒子と、粒径が100nm以下の小粒子とからなることを特徴とする絶縁材用樹脂組成物である。
<2> 添加される無機充填材が、粒径が1〜100μmの球状粒子を核として、該球状粒子の表面に粒径が100nm以下の小粒子が付着してなる球状複合粒子であり、熱硬化性樹脂組成物中に該球状複合粒子由来の前記球状粒子及び前記小粒子が分散してなる前記<1>に記載の絶縁材用樹脂組成物である。
<3> 球状複合粒子が、プラズマに無機充填材粒子を導入しその表面を溶融・蒸発させることにより球状粒子を形成し、該球状粒子の周囲に、前記無機充填材が気化してなる無機充填材ガスが混在した場を形成し、前記球状粒子と前記無機充填材ガスとの混在場に反応・急冷ガスを吹き込むことにより、前記無機充填材ガスを反応・凝縮させて小粒子を生成させると共に、該小粒子を前記球状粒子の表面に分散付着させることにより得られた前記<1>から<2>のいずれかに記載の絶縁材用樹脂組成物である。
<4> 球状粒子と小粒子との体積比が、(球状粒子):(小粒子)=95:5〜50:50である前記<1>から<3>のいずれかに記載の絶縁材用樹脂組成物である。
<5> 球状粒子の円形度が0.8以上である前記<1>から<4>のいずれかに記載の絶縁材用樹脂組成物である。
<6> 球状複合粒子が、窒化アルミニウムである前記<1>から<5>のいずれかに記載の絶縁材である。
<7> 球状複合粒子の窒化アルミニウム純度が99質量%以上である前記<6>に記載の絶縁材である。
<8> 熱硬化性樹脂組成物が、エポキシ樹脂及び硬化剤からなる前記<1>から<7>のいずれかに記載の絶縁材用樹脂組成物である。
【0011】
<9> エポキシ樹脂と、複合球状粒子の無機充填材とを混合した後、硬化剤を添加して混合することを含み、
前記複合球状粒子が、プラズマに無機充填材粒子を導入しその表面を溶融・蒸発させることにより球状粒子を形成し、該球状粒子の周囲に、前記無機充填材が気化してなる無機充填材ガスが混在した場を形成し、前記球状粒子と前記無機充填材ガスとの混在場に反応・急冷ガスを吹き込むことにより、前記無機充填材ガスを反応・凝縮させて小粒子を生成させると共に、該小粒子を前記球状粒子の表面に分散付着させることにより製造されることを特徴とする絶縁材用樹脂組成物の製造方法である。
【0012】
<10> 前記<1>から<8>のいずれかに記載の絶縁材用樹脂組成物からなることを特徴とする全固体変圧器用絶縁材である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によると、高い絶縁破壊強度と高い熱伝導性とを両立し、電子・電気部品の用途のみならず、全固体変圧器の絶縁材にも好適な絶縁材用樹脂組成物を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
(絶縁材用樹脂組成物)
本発明の絶縁材用樹脂組成物は、熱硬化性樹脂組成物中に、無機充填材が分散してなり、前記無機充填材が、粒径が1〜100μmの球状粒子(以下、「ミクロン粒子」ということがある)と、粒径が100nm以下の小粒子(以下、「ナノ粒子」ということがある)とからなる。
本発明の絶縁材用樹脂組成物は、粒径が異なる大小の無機充填材が分散してなることにより、一定範囲の略均一な粒径の無機充填材が分散してなる樹脂組成物に比べ、電気トリーが進展しにくく、かつ前記無機充填材の充填率が高く、熱伝導率が高くなるため、電気絶縁材として有利である。
【0015】
前記絶縁材用樹脂組成物は、製造時に添加される前記無機充填材の形態が、粒径が1〜100μmの前記球状粒子を核として、該球状粒子の表面に粒径が100nm以下の前記小粒子が付着してなる球状複合粒子であり、前記熱硬化性樹脂組成物中に、前記球状複合粒子由来の前記球状粒子及び前記小粒子が分散してなることが好ましい。
前記球状複合粒子として添加されない場合、特に、前記小粒子と同じ粒径のナノサイズの粒子を単独で添加した場合、該ナノサイズの粒子同士で凝集が生じ、前記樹脂組成物中における均一な分散が得られないことがある。
【0016】
<無機充填材>
<<球状複合粒子>>
前記球状複合粒子であるとしては、プラズマに無機充填材粒子を導入しその表面を溶融・蒸発させることにより球状粒子を形成し、該球状粒子の周囲に、前記無機充填材が気化してなる無機充填材ガスが混在した場を形成し、前記球状粒子と前記無機充填材ガスとの混在場に反応・急冷ガスを吹き込むことにより、前記無機充填材ガスを反応・凝縮させて小粒子を生成させると共に、該小粒子を前記球状粒子の表面に分散付着させることにより得られたものが好ましく、具体的には、特開2005−342615号公報に記載された製造方法により得られる粒子が挙げられる。
【0017】
前記絶縁材用樹脂組成物中の前記球状粒子と前記小粒子との体積比、すなわち添加される前記球状複合粒子における前記球状粒子と前記小粒子との体積比としては、例えば、(球状粒子):(小粒子)=95:5〜50:50であることが好ましく、90:10〜70:30であることがより好ましい。
前記球状粒子と前記小粒子との体積比が、前記の範囲を外れ、前記球状粒子の体積が過多となると、充填率を高くすることができないことがあり、前記小粒子の体積が過多となると、前記樹脂組成物の粘性が高くなることがある。
【0018】
さらに、前記球状複合粒子の核となる前記球状粒子の円形度としては、0.8以上であることが好ましく、0.85以上であることがより好ましい。
円形度が0.8未満であると、前記無機充填材の粒子先鋭部に電界が集中したり、前記樹脂組成物と前記無機充填材との間に存在する微小な空隙に電界が集中したりするなどして、交流絶縁破壊強度が低下することがある。
なお、前記円形度は、走査型電子顕微鏡を用いて撮影した写真の画像解析により、前記球状粒子の面積及び周囲長を測定し、下記式を用いて求めることができる。
(円形度)=4π×(面積)/(周囲長)
【0019】
前記球状複合粒子の円形度が高く、より球形に近い形状であることにより、硬化前の樹脂組成物の粘度を低下させることができる。さらに、前記小粒子が存在することにより混練や成形に用いる装置や金型の磨耗を低減することができる。
【0020】
前記無機充填材の充填率(配合割合)としては、硬化物である前記絶縁材用樹脂組成物中30〜70体積%であることが好ましい。
70体積%を超えると、樹脂組成物の粘性が高くなることや、電気絶縁性能が低下することがあり、30体積%未満であると、熱伝導性能が低下することがある。
【0021】
前記無機充填材としては、絶縁性を有する無機材料である限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、窒化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化ケイ素等が挙げられ、これらの中でも、窒化アルミニウム、窒化ホウ素が好ましい。
【0022】
また、前記無機充填材は、その純度が高いことが好ましく、例えば、99質量%以上であることが好ましい。
【0023】
前記無機充填材は、得られる前記絶縁材用樹脂組成物の特性を損なわない限り、その表面が公知のカップリング剤等で処理されたものであってもよい。
【0024】
<熱硬化性樹脂組成物>
前記熱硬化性樹脂組成物は、エポキシ樹脂及び硬化剤からなり、必要に応じて適宜選択されたその他の添加剤等を含んでいてもよい。
【0025】
<<エポキシ樹脂>>
前記エポキシ樹脂としては、その一分子内に2個以上のエポキシ基を有しているものであれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、臭素化ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、脂環型エポキシ樹脂、芳香族アミン型エポキシ樹脂等が挙げられる。
【0026】
<<硬化剤>>
前記硬化剤としては、特に制限はなく、公知のエポキシ樹脂硬化剤から適宜選択することができ、例えば、アミン系硬化剤、酸無水物系硬化剤、フェノール系硬化剤等が挙げられる。
【0027】
<<添加剤>>
前記添加剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、硬化促進剤、レべリング剤、消泡剤、湿潤分散剤、安定剤等が挙げられる。
【0028】
(絶縁材用樹脂組成物の製造方法)
本発明の絶縁材用樹脂組成物の製造方法は、エポキシ樹脂と、複合球状粒子の無機充填材とを混合した後、硬化剤を添加して混合することを含み、
前記複合球状粒子が、プラズマに無機充填材粒子を導入しその表面を溶融・蒸発させることにより球状粒子を形成し、該球状粒子の周囲に、前記無機充填材が気化してなる無機充填材ガスが混在した場を形成し、前記球状粒子と前記無機充填材ガスとの混在場に反応・急冷ガスを吹き込むことにより、前記無機充填材ガスを反応・凝縮させて小粒子を生成させると共に、該小粒子を前記球状粒子の表面に分散付着させることにより製造される。
【0029】
前記複合球状粒子の製造方法としては、特開2005−342615号公報に記載された製造方法が挙げられ、該製造に用いられる装置としては、特開2005−342615号公報に記載された製造装置が好適に挙げられる。
【0030】
(全固体変圧器用絶縁材)
本発明の全固体変圧器用絶縁材は、本発明の絶縁材用樹脂組成物からなり、必要に応じて適宜選択したその他の成分を含んでなる。
【0031】
前記全固体変圧器用絶縁材としては、高い熱伝導率と高い電気絶縁破壊強度とを両立しうる材料である必要がある。
例えば、135℃における熱伝導率が1.5W/m・K以上であり、かつ交流絶縁破壊強度が23kV/mm以上であることが好ましい。
【0032】
前記全固体変圧器用絶縁材は、変圧器内部で発生した熱を外部に放熱し、変圧器における熱量を抑制することができる材料であるため、前記全固体変圧器の電力損失を低減することができる。
ここで、電力損失とは、変圧器内における巻線のジュール発熱と鉄心のヒステリシス損などの合計の値を意味し、定格容量運転時の条件下における値を示す。
【0033】
また、前記全固体変圧器用絶縁材は、高い熱伝導率と高い電気絶縁破壊強度とを両立しうるため、前記全固体変圧器の設計裕度を確保することができる。
ここで、設計裕度とは、前記全固体変圧器に必要とされる熱伝導率及び交流絶縁破壊強度の値と、前記全固体変圧器用絶縁材の熱伝導率及び交流絶縁破壊強度の値との差異を意味する。なお、前記全固体変圧器用絶縁材の熱伝導率及び交流絶縁破壊強度の値は、標準偏差σを考慮する必要がある。
【実施例】
【0034】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明はこの実施例に何ら限定されるものではない。
【0035】
(実施例1、比較例1〜3)
エピビス系エポキシ(ビスフェノールAエポキシ樹脂)と酸無水和物系硬化剤とからなる熱硬化性樹脂組成物に、無機充填材として窒化アルミニウムを充填し、加熱しつつ真空脱泡させて厚さ0.5mmの平板に成型した。前記エポキシ樹脂は,注型変圧器のコイル絶縁材料として一般的に用いられている樹脂組成物である。
【0036】
前記無機充填材の窒化アルミニウムとしては、特開2005−342615号公報に記載の方法により製造された本発明の複合球状粒子(実施例1)、市販の破砕粒子(比較例1)、市販の球状化粒子(比較例2)をそれぞれ用いた。また、比較対照として、無機充填材を含まない熱硬化性樹脂組成物をあわせて評価した(比較例3)。図3〜5に示すグラフとの対応を下記表1に示す。
実施例1で用いた複合球状粒子の走査型電子顕微鏡写真を図2に示す。
【0037】
【表1】

*1:東洋アルミニウム(株)製、R15S
*2:東洋アルミニウム(株)製、FLE
【0038】
(1)熱伝導率の測定
上記のようにして得た実施例1及び比較例1〜3の平板から、直径10mmの円板形状を切り出して試料とし、レーザーフラッシュ装置(ULVAC社,TC−7000)を用いて常温(25℃)の熱伝導率を測定した。
結果を図3に示す。
【0039】
(2)交流絶縁破壊強度の測定
上記のようにして得た実施例1及び比較例1〜3の平板から、約50mm角の四角片を切り出して試料とし、常温(25℃)における交流絶縁破壊強度を測定した。直径10mmφ球電極(高圧側)と、直径30mm円板電極(接地側)との間に測定対象の試料を配置した。当該試料を絶縁油(鉱油)に入れ、常温にて商用周波数50Hzの交流1kV/分ステップで絶縁破壊するまで電圧を上昇させた。その絶縁破壊した電圧を試料厚さで除して交流絶縁破壊強度とした。結果を図4に示す。
【0040】
(3)全固体変圧器用絶縁材としての評価
現用275kV/66kV 300MVAの大容量変圧器(ガス絶縁変圧器,油入変圧器)の負荷率60%における損失が800kW、占有体積が72.8m、変圧器重量が117tである。
そこで、前記現用の変圧器と同等の電圧及び容量で設計する全固体変圧器の目標値として、占有体積を72.8m以下、変圧器重量を117t以下としつつ、COP3(京都議定書)目標値の達成に向けて、損失を800kWから32.6%低減した540kW以下とした。なお、ここでの損失は、前記現用の変圧器の場合は75℃における値であるのに対して、全固体変圧器の場合は定格運転温度135℃(耐熱クラスFの巻線平均温度)における値とした。
前記(2)で測定した交流絶縁破壊強度(厚さが0.5mm)から、交流絶縁破壊強度の試料厚さ依存性を考慮して、275kV級の耐電圧試験値(330kV)、66kV級の耐電圧試験値(140kV)の概念設計が可能となる絶縁厚さ領域を試算した。次に、この絶縁厚さから、前記全固体変圧器の前記設計目標値を実現可能とする熱伝導率を計算した。交流絶縁破壊強度が低いほど高い熱伝導率が必要となる。
結果を図5に示す。
【0041】
図3〜5の結果から、本発明の絶縁材用樹脂組成物は、熱伝導率と交流絶縁破壊強度とを両立するため、全固体変圧器の損失を、目標値の540kWからさらに15%程度低減することができ、かつ3σ(標準偏差)を考慮しても十分に設計裕度を確保することができることがわかり、全固体変圧器用絶縁材として好適であることが明らかになった。
【0042】
得られた実施例1の絶縁用樹脂組成物を透過型電子顕微鏡にて観察した。透過型電子顕微鏡写真を図6に示し、説明図を図7A及び図7Bに示す。
図6、図7A、及び図7Bから明らかなように、本発明の絶縁用樹脂組成物は、エポキシ樹脂20中において、前記球状粒子11(ミクロン粒子)どうしの間に、前記小粒子12(ナノ粒子)が分散していることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明の絶縁材用樹脂組成物は、高い絶縁破壊強度と高い熱伝導性とを両立するため、電子・電気部品の用途のみならず、全固体変圧器の絶縁材などに好適に使用することができる。
本発明の絶縁材用樹脂組成物の製造方法は、高い絶縁破壊強度と高い熱伝導性とを両立する絶縁材用樹脂組成物を効率よく、大量に調製することができるため、電子・電気部品の用途のみならず、全固体変圧器の絶縁材などの絶縁材の製造方法として好適である。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】図1は、本発明の絶縁材用樹脂組成物に添加される複合球状粒子の断面図の一例を示す模式図である。
【図2】図2は、実施例1で添加した窒化アルミニウムの複合球状粒子の一例を示す走査型電子顕微鏡写真(5,000倍)である。
【図3】図3は、実施例1及び比較例1〜3の各樹脂組成物における熱伝導率を測定した結果を示すグラフである。
【図4】図4は、実施例1及び比較例1〜3の各樹脂組成物における交流絶縁破壊強度を測定した結果を示すグラフである。
【図5】図5は、実施例1及び比較例1〜3の各樹脂組成物における全固体変圧器用絶縁材としての評価結果を示すグラフである。図5中、*aは、耐熱クラスFの巻線平均温度を表し、*bは、COP3目標値の達成に向けて、現用変圧器の損失800kWを32.6%低減させて540kWとした場合の計算結果を表し、*cは、破砕粒子を充填したエポキシ樹脂の交流絶縁破壊強度の温度依存性データ傾向からの推定値を表す。
【図6】図6は、実施例1の絶縁材用樹脂組成物の透過型電子顕微鏡写真(50,000倍)である。
【図7A】図7Aは、実施例1の絶縁材用樹脂組成物中の無機充填材の分散状態を説明する模式図の一例である。
【図7B】図7Bは、図7Aの破線で囲まれた領域Aを示す透過型電子顕微鏡写真であり、図6の一部を示したものである。倍率は、上段が10,000倍、下段が50,000倍である。
【符号の説明】
【0045】
10 複合球状粒子
11 球状粒子(ミクロン粒子)
12 小粒子(ナノ粒子)
20 エポキシ樹脂

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱硬化性樹脂組成物中に、無機充填材が分散してなり、前記無機充填材が、粒径が1〜100μmの球状粒子と、粒径が100nm以下の小粒子とからなることを特徴とする絶縁材用樹脂組成物。
【請求項2】
添加される無機充填材が、粒径が1〜100μmの球状粒子を核として、該球状粒子の表面に粒径が100nm以下の小粒子が付着してなる球状複合粒子であり、熱硬化性樹脂組成物中に該球状複合粒子由来の前記球状粒子及び前記小粒子が分散してなる請求項1に記載の絶縁材用樹脂組成物。
【請求項3】
球状複合粒子が、プラズマに無機充填材粒子を導入しその表面を溶融・蒸発させることにより球状粒子を形成し、該球状粒子の周囲に、前記無機充填材が気化してなる無機充填材ガスが混在した場を形成し、前記球状粒子と前記無機充填材ガスとの混在場に反応・急冷ガスを吹き込むことにより、前記無機充填材ガスを反応・凝縮させて小粒子を生成させると共に、該小粒子を前記球状粒子の表面に分散付着させることにより得られた請求項1から2のいずれかに記載の絶縁材用樹脂組成物。
【請求項4】
球状粒子と小粒子との体積比が、(球状粒子):(小粒子)=95:5〜50:50である請求項1から3のいずれかに記載の絶縁材用樹脂組成物。
【請求項5】
球状粒子の円形度が0.8以上である請求項1から4のいずれかに記載の絶縁材用樹脂組成物。
【請求項6】
球状複合粒子が、窒化アルミニウムである請求項1から5のいずれかに記載の絶縁材。
【請求項7】
球状複合粒子の窒化アルミニウム純度が99質量%以上である請求項6に記載の絶縁材。
【請求項8】
熱硬化性樹脂組成物が、エポキシ樹脂及び硬化剤からなる請求項1から7のいずれかに記載の絶縁材用樹脂組成物。
【請求項9】
エポキシ樹脂と、複合球状粒子の無機充填材とを混合した後、硬化剤を添加して混合することを含み、
前記複合球状粒子が、プラズマに無機充填材粒子を導入しその表面を溶融・蒸発させることにより球状粒子を形成し、該球状粒子の周囲に、前記無機充填材が気化してなる無機充填材ガスが混在した場を形成し、前記球状粒子と前記無機充填材ガスとの混在場に反応・急冷ガスを吹き込むことにより、前記無機充填材ガスを反応・凝縮させて小粒子を生成させると共に、該小粒子を前記球状粒子の表面に分散付着させることにより製造されることを特徴とする絶縁材用樹脂組成物の製造方法。
【請求項10】
請求項1から8のいずれかに記載の絶縁材用樹脂組成物からなることを特徴とする全固体変圧器用絶縁材。

【図1】
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【図5】
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【図7A】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図6】
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【図7B】
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【公開番号】特開2007−258015(P2007−258015A)
【公開日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−81378(P2006−81378)
【出願日】平成18年3月23日(2006.3.23)
【出願人】(000173809)財団法人電力中央研究所 (1,040)
【Fターム(参考)】