説明

絶縁積層材、パワーモジュール用ベースおよびパワーモジュール

【課題】冷熱サイクル時の絶縁板のクラックの発生や、絶縁板と第2金属板との接合界面での剥離の発生を抑制しうる絶縁積層材を提供する。
【解決手段】パワーモジュール用ベースの絶縁回路基板4となる絶縁積層材は、絶縁板5と、絶縁板5の片面に接合されかつ絶縁板5とは反対側の面に発熱体が取り付けられるようになされている回路板6と、絶縁板5の他面に接合された応力緩和板7とよりなる。回路板6および応力緩和板7は方形であり、応力緩和板7の輪郭の全体が回路板6の輪郭よりも内側に位置している。回路板6の中心Oと各角部Cとの距離をL1、回路板6の各角部Cとこれに最も近接した応力緩和板7の角部C1との距離をL2とした場合、0<L2/L1≦0.035という関係を満たしていることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、絶縁積層材、パワーモジュール用ベースおよびパワーモジュールに関し、さらに詳しくは、たとえばパワーデバイスなどの電子素子が実装される絶縁回路基板として用いられる絶縁積層材、絶縁回路基板となっている絶縁積層材に実装されたパワーデバイスなどの電子素子を冷却するのに用いられるパワーモジュール用ベース、およびパワーモジュール用ベースの絶縁回路基板にパワーデバイスが実装されたパワーモジュールに関する。
【0002】
この明細書および特許請求の範囲において、「アルミニウム」という用語には、「純アルミニウム」と表現する場合を除いて、純アルミニウムの他にアルミニウム合金を含むものとする。また、この明細書および特許請求の範囲において、「純アルミニウム」という用語は、純度99.00質量%以上の純アルミニウムを意味するものとする。
【背景技術】
【0003】
たとえばIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)などの半導体素子(電子素子)からなるパワーデバイスを備えたパワーモジュールにおいては、半導体素子から発せられる熱を効率良く放熱して、半導体素子の温度を所定温度以下に保つ必要がある。
【0004】
この種のパワーモジュールとして、アルミニウム製冷却器および冷却器にろう付された絶縁回路基板からなるパワーモジュール用ベースと、パワーモジュール用ベースの絶縁回路基板に実装されたパワーデバイスとよりなり、絶縁回路基板が、セラミック製絶縁板、絶縁板の一面にろう付された純アルミニウム製回路板(第1金属板)および絶縁板の他面にろう付された純アルミニウム製伝熱板(第2金属板)からなる絶縁積層材によって形成されており、絶縁回路基板の回路板における絶縁板にろう付された面とは反対側の面が電子素子搭載部を有する配線面となされ、当該配線面の電子素子搭載部にパワーデバイスが実装されているパワーモジュールが知られている(特許文献1参照)。
【0005】
特許文献1記載のパワーモジュールにおいては、パワーデバイスから発せられた熱は、回路板、絶縁板および伝熱板を経てヒートシンクに伝えられ、放熱されるようになっている。
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載されたようなパワーモジュールにおいては、使用時の冷熱サイクル、すなわち絶縁回路基板となっている絶縁積層材が繰り返して加熱、冷却された場合に、絶縁板とヒートシンクにろう付されている伝熱板との線膨張係数の相違に起因して、絶縁板にクラックが発生したり、絶縁板と伝熱板との接合界面に剥離が発生して絶縁性や放熱性が比較的短期間で低下するという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−311527号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
この発明の目的は、上記問題を解決し、冷熱サイクル時の絶縁板のクラックの発生や、絶縁板と第2金属板との接合界面での剥離の発生を抑制しうる絶縁積層材、パワーモジュール用ベースおよびパワーモジュールを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記目的を達成するために以下の態様からなる。
【0010】
1)絶縁板と、絶縁板の片面に接合されかつ絶縁板とは反対側の面に発熱体が取り付けられるようになされている第1金属板と、絶縁板の他面に接合された第2金属板とよりなり、第1金属板に取り付けられる発熱体から発せられる熱が、第1金属板および絶縁板を経て第2金属板に伝わるようになされている絶縁積層材であって、
第2金属板の輪郭に、第1金属板の輪郭よりも外側に位置する部分がなく、かつ第2金属板の輪郭の少なくとも一部分が第1金属板の輪郭よりも内側に位置している絶縁積層材。
【0011】
2)第1金属板および第2金属板が方形である上記1)記載の絶縁積層材。
【0012】
3)第1金属板および第2金属板が方形であり、第2金属板の輪郭の全体が第1金属板の輪郭よりも内側に位置し、第1金属板の中心と各角部との距離をL1、第1金属板の各角部とこれに最も近接した第2金属板の角部との距離をL2とした場合、0<L2/L1≦0.035という関係を満たす上記1)記載の絶縁積層材。
【0013】
4)第1金属板と第2金属板とが相似形であり、第1金属板の中心と各角部とを結ぶ直線と、第2金属板の中心と各角部とを結ぶ直線とが平面から見て重なっている上記2)または3)記載の絶縁積層材。
【0014】
5)絶縁板と両金属板とがろう付されている上記1)〜4)のうちのいずれかに記載の絶縁積層材。
【0015】
6)第2金属板に、第2金属板の厚み方向にのびる複数の貫通穴が形成されている上記1)〜5)のうちのいずれかに記載の絶縁積層材。
【0016】
7)第2金属板における絶縁板に接合された面とは反対側の面に、緩衝板が接合されている上記1)〜6)のうちのいずれかに記載の絶縁積層材。
【0017】
8)第2金属板と緩衝板とが同一の形状および大きさであり、第2金属板および緩衝板の輪郭が合致している上記7)記載の絶縁積層材。
【0018】
9)第2金属板に、第2金属板の厚み方向にのびる複数の貫通穴が形成され、第2金属板における絶縁板に接合された面とは反対側の面に、厚み方向にのびる複数の貫通穴が形成された緩衝板が接合されている上記1)〜5)のうちのいずれかに記載の絶縁積層材。
【0019】
10)第2金属板と緩衝板とが同一の形状および大きさであり、第2金属板および緩衝板の輪郭が合致し、第2金属板および緩衝板の貫通穴が平面から見て同一位置に形成されている上記9)記載の絶縁積層材。
【0020】
11)上記1)〜6)のうちのいずれかに記載された絶縁積層材の第2金属板における絶縁板に接合された面とは反対側の面が、冷却器にろう付されているパワーモジュール用ベース。
【0021】
12)上記7)〜10)のうちのいずれかに記載された絶縁積層材の緩衝板における第2金属板に接合された面とは反対側の面が、冷却器にろう付されているパワーモジュール用ベース。
【0022】
13)上記11)または12)記載のパワーモジュール用ベースの第1金属板における絶縁板に接合された面とは反対側の面が、発熱体となる電子素子を搭載する電子素子搭載部を有する配線面となされ、第1金属板の電子素子搭載部に、パワーデバイスがはんだ付されているパワーモジュール。
【発明の効果】
【0023】
上記1)〜10)の絶縁積層材は、通常、第2金属板における絶縁板とは反対側の面が第2金属板よりも大きな冷却器にろう付され、第1金属板における絶縁板とは反対側の面に発熱体が取り付けられて用いられ、第1金属板に取り付けられる発熱体から発せられる熱が、第1金属板および絶縁板を経て第2金属板に伝わり、冷却器を介して放熱される。その結果、絶縁積層材が加熱、冷却される冷熱サイクル時に、第2金属板側の膨張量および収縮量が第1金属板側の膨張量および収縮量よりも大きくなる傾向にあるが、この場合であっても、第2金属板の輪郭に、第1金属板の輪郭よりも外側に位置する部分がなく、かつ第2金属板の輪郭の少なくとも一部分が第1金属板の輪郭よりも内側に位置していると、上述した冷熱サイクル時における第2金属板側の膨張量および収縮量と、第1金属板側の膨張量および収縮量との差を小さくすることが可能になる。したがって、上述した冷熱サイクル時における絶縁板に発生する引張/圧縮応力が低減され、特に、絶縁板における第1金属板側の表面に生じる最大主応力が低減され、絶縁板へのクラックの発生が抑制されるとともに、絶縁板と第2金属板との接合界面に作用する力が低減されて当該接合界面での剥離の発生が抑制される。
【0024】
上記3)の絶縁積層材によれば、上述した冷熱サイクル時における絶縁板に発生する引張/圧縮応力が確実に低減され、絶縁板へのクラックの発生および絶縁板と第2金属板との接合界面での剥離の発生が効果的に抑制される。L2/L1>0.035の場合、すなわち第2金属板が第1金属板よりも小さくなり過ぎると、絶縁板の第1金属板側に発生する引張/圧縮応力が、逆に増加するおそれがある。
【0025】
上記6)の絶縁積層材によれば、絶縁積層材が加熱、冷却される冷熱サイクル時に、第2金属板が比較的大きく変形することにより応力を効果的に緩和し、絶縁板のクラックや、絶縁板と第2金属板との接合界面での剥離が効果的に抑制される。
【0026】
上記7)〜10)の絶縁積層材によれば、絶縁積層材が加熱、冷却される冷熱サイクル時に、第2金属板および緩衝板が比較的大きく変形することにより応力を効果的に緩和し、絶縁板のクラックや、絶縁板と第2金属板との接合界面での剥離が効果的に抑制される。
【0027】
上記11)および12)のパワーモジュール用ベースによれば、第1金属板の配線面の電子素子搭載部に発熱体となる電子素子が搭載されて使用され、電子素子から発せられる熱が第2金属板に伝わって第2金属板から冷却器に放熱される。そして、絶縁回路基板となっている絶縁積層材が加熱、冷却される冷熱サイクル時に、上記1)〜10)の絶縁積層材で述べたのと同様な効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】この発明による絶縁積層材からなる絶縁回路基板を有するパワーモジュール用ベースにパワーデバイスが実装されたパワーモジュールを示す垂直断面図である。
【図2】この発明による絶縁積層材からなる絶縁回路基板を示す平面図である。
【図3】図2のA−A線拡大断面図である。
【図4】図1のパワーモジュールについて、応力緩和板の縦、横の寸法を変化させてコンピュータシミュレーションを行うことにより求めた絶縁板の上側に発生する最大主応力を示すグラフである。
【図5】パワーモジュールの変形例を示す図1相当の図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、この発明の実施形態を、図面を参照して説明する。
【0030】
なお、以下の説明において、図1の上下、左右を上下、左右というものとする。
【0031】
また、全図面を通じて同一部分および同一物には同一符号を付して重複する説明を省略する。
【0032】
図1はこの発明による絶縁積層材が絶縁回路基板として用いられているパワーモジュール用ベースにパワーデバイスが実装されたパワーモジュールを示し、図2および図3はこの発明による絶縁積層材からなる絶縁回路基板の要部を示す。図4は、図1に示すパワーモジュールについて行ったコンピュータシミュレーションの結果を示す。
【0033】
図1において、パワーモジュール(1)は、パワーモジュール用ベース(2)と、パワーモジュール用ベース(2)に実装されたパワーデバイス(3)(電子素子)とよりなる。
【0034】
パワーモジュール用ベース(2)は、方形のセラミックス製絶縁板(5)、絶縁板(5)の上面にろう付された方形のアルミニウム製回路板(6)(第1金属板)、および絶縁板(5)の下面にろう付された方形のアルミニウム製応力緩和板(7)(第2金属板)からなる絶縁回路基板(4)(絶縁積層材)と、絶縁回路基板(4)の応力緩和板(7)の下面がろう付されたアルミニウム製冷却器(8)とからなる。なお、図1においては1つの絶縁回路基板(4)だけが図示されているが、パワーモジュール用ベース(2)は、複数の絶縁回路基板(4)を備えているのが一般的である。
【0035】
絶縁回路基板(4)の絶縁板(5)は、必要とされる絶縁特性、熱伝導率および機械的強度を満たしていれば、どのようなセラミックから形成されていてもよいが、たとえばAlN、Al、Siなどにより形成される。絶縁板(5)の外周縁部は回路板(6)および応力緩和板(7)の外周縁部よりも外側に位置している。
【0036】
回路板(6)は、電気伝導率および熱伝導率が高く、変形能が高く、しかも半導体素子とのはんだ付け性に優れた純度の高い純アルミニウム、たとえば純度99.99質量%以上の純アルミニウムにより形成されていることが好ましい。そして、回路板(6)の上面、すなわち回路板(6)における絶縁板(5)にろう付された面とは反対側の面が、電子素子搭載部(11)を有する配線面(9)となされている。
【0037】
応力緩和板(7)は、熱伝導率が高く、しかも変形能が高い純アルミニウム、たとえば純度99.99質量%以上の純アルミニウムにより形成されていることが好ましい。応力緩和板(7)に、応力緩和板(7)の厚み方向(上下方向)にのびる複数の貫通穴(12)が形成されている。なお、応力緩和板(7)には、必ずしも貫通穴が形成されている必要はない。
【0038】
冷却器(8)は、複数の冷却流体通路(13)が並列状に設けられた扁平中空状であり、熱伝導性に優れるとともに、軽量であるアルミニウムにより形成されていることが好ましい。冷却流体としては、液体および気体のいずれを用いてもよい。なお、冷却器(8)としては、ケース内にインナーフィンが配置されたものが用いられてもよい。
【0039】
パワーデバイス(3)は、絶縁回路基板(4)の回路板(6)の配線面(9)における電子素子搭載部(11)上にはんだ付けされており、これによりパワーモジュール用ベース(2)に実装されている。パワーデバイス(3)から発せられる熱は、回路板(6)、絶縁板(5)および応力緩和板(7)を経て冷却器(8)に伝えられ、冷却流体通路(13)内を流れる冷却流体に放熱されるようになっている。
【0040】
図2および図3に示すように、絶縁回路基板(4)の回路板(6)および応力緩和板(7)は方形状であるとともに相似形である。応力緩和板(7)の輪郭の全体は、平面から見て回路板(6)の輪郭よりも内側に位置している。すなわち、応力緩和板(7)の輪郭に、回路板(6)の輪郭よりも外側に位置する部分がなく、かつ応力緩和板(7)の輪郭の少なくとも一部分が回路板(6)の輪郭よりも内側に位置している。また、回路板(6)および応力緩和板(7)の中心(O)は平面から見て合致しており、回路板(6)の中心(O)と各角部(C)とを結ぶ直線(S)と、応力緩和板(7)の中心と各角部(C1)とを結ぶ直線とが平面から見て重なっている。ここで、回路板(6)における中心(O)と各角部(C)との距離をL1、回路板(6)の各角部(C)とこれに最も近接した応力緩和板(7)の角部(C1)との距離をL2とした場合、0<L2/L1≦0.035という関係を満たしていることが好ましい。
【0041】
なお、回路板(6)および応力緩和板(7)の角部には丸みが形成されていてもよい。
【0042】
パワーモジュール用ベース(2)の製造方法は次の通りである。
【0043】
まず、冷却器(8)上に、応力緩和板(7)、絶縁板(5)および回路板(6)をこの順序で配置する。冷却器(8)と応力緩和板(7)との間、応力緩和板(7)と絶縁板(5)との間および絶縁板(5)と回路板(6)との間にはそれぞれアルミニウムろう材層を設けておく。ろう材層は、たとえばSi10質量%、Mg1質量%を含み、残部Alおよび不可避不純物からなるアルミニウムろう材からなる。冷却器(8)と応力緩和板(7)との間に配置されるろう材層は、アルミニウムろう材からなる箔や、心材の両面にろう材層が形成されたアルミニウムブレージングシートなどからなる。また、冷却器(8)と応力緩和板(7)との間に配置されるろう材層は、応力緩和板(7)の下面に予めクラッドされていてもよい。絶縁板(5)と回路板(6)および応力緩和板(7)との間に配置されるろう材層は、アルミニウムろう材からなる箔や、心材の両面にろう材層が形成されたアルミニウムブレージングシートからなる。また、絶縁板(5)と回路板(6)との間に配置されるろう材層は、回路板(6)の下面に予めクラッドされていてもよく、絶縁板(5)と応力緩和板(7)との間に配置されるろう材層は、応力緩和板(7)の上面に予めクラッドされていてもよい。
【0044】
その後、適当な治具により回路板(6)、絶縁板(5)、応力緩和板(7)および冷却器(8)を加圧した状態にして仮止めしたものを真空雰囲気とされた加熱炉中に入れ、適当な温度に適当な時間加熱し、絶縁板(5)と回路板(6)および応力緩和板(7)とをろう付することにより絶縁回路基板(4)を製造すると同時に、絶縁回路基板(4)の応力緩和板(7)と冷却器(8)とをろう付する。こうして、パワーモジュール用ベース(2)が製造される。
【0045】
上述したパワーモジュール(1)において、パワーデバイス(3)から発せられる熱は、回路板(6)、絶縁板(5)および応力緩和板(7)を経て冷却器(8)に伝えられ、冷却流体通路(13)内を流れる冷却流体に放熱される。したがって、絶縁回路基板(4)が繰り返して加熱、冷却されることになるが、この冷熱サイクル時においても、次のメカニズムにより、絶縁板(5)のクラックや、絶縁板(5)と回路板(6)との接合界面での剥離の発生が抑制されると考えられる。
【0046】
すなわち、応力緩和板(7)における絶縁板(5)とは反対側の面(下面)が、応力緩和板(7)よりも大きな冷却器(8)にろう付され、回路板(6)における絶縁板(5)とは反対側の面(上面)にパワーデバイス(3)が取り付けられて用いられており、パワーデバイス(3)から発せられる熱が、回路板(6)および絶縁板(5)を経て応力緩和板(7)に伝わり、冷却器(8)の冷却流体通路(13)内を流れる冷却流体に放熱される。その結果、絶縁回路基板(4)が加熱、冷却される冷熱サイクル時に、応力緩和板(7)側の膨張量および収縮量が回路板(6)側の膨張量および収縮量よりも大きくなる傾向にある。しかしながら、この場合であっても、応力緩和板(7)の輪郭の全体が、平面から見て回路板(6)の輪郭よりも内側に位置していると、上述した冷熱サイクル時における応力緩和板(7)側の膨張量および収縮量と、回路板(6)側の膨張量および収縮量との差を小さくすることが可能になる。したがって、上述した冷熱サイクル時における絶縁板(5)に発生する引張/圧縮応力が低減され、特に、絶縁板(5)における回路板(6)側の上面に生じる最大主応力が低減され、絶縁板(5)へのクラックの発生が抑制されるとともに、絶縁板(5)と応力緩和板(7)との接合界面に作用する力が低減されて当該接合界面での剥離の発生が抑制される。
【0047】
以下、図1〜図3に示すパワーモジュール(1)について、コンピュータシミュレーションを行った結果を図4に示す。シミュレーション条件は、回路板(6)の厚み:0.6mm、縦:26.5mm、横:31.5mm、材質:純度99.99質量%の純アルミニウム、絶縁板(5)の厚み:0.6mm、縦:29mm、横:34mm、材質AlN、応力緩和板(7)の厚み:1.6mm、材質:純度99.99質量%の純アルミニウム、冷却器(8)の代わりに厚み:5mm、縦:100mm、横100mm、材質:A3003を共通の条件とし、応力緩和板(7)の縦、横の寸法については、縦:26.5mm、横:31.5mm(板(I))、縦:27.5mm、横:32.5mm(板(II))、縦:26.1mm、横:31.1mm(板(III))、縦:25.8mm、横:30.8mm(板(IV))の4つの異なる条件とした。ここで、回路板(6)における中心(O)と各角部(C)との距離をL1、回路板(6)の各角部(C)とこれに最も近接した応力緩和板(7)の角部との距離をL2とした場合、上記板(I)ではL2/L1=0、上記板(II)ではL2/L1=−0.034、上記板(III)ではL2/L1=0.014、上記板(IV)ではL2/L1=0.044である。
【0048】
そして、ろう付後の冷却工程の条件を580℃→20℃とし、その後125℃に加熱→−40℃に冷却を1サイクル行ったとして、絶縁板(5)の上側の中央部および角部に発生する最大主応力を求めた。その結果を図4に示す。図4に示す最大主応力は、上記(I)の場合の最大主応力を1とし、これに対する比として求めた。
【0049】
図4に示す結果から、0<L2/L1という関係を満たしている場合に、絶縁板(5)の上側に発生する最大主応力の増大を抑制しうることが分かる。なお、図4示す結果から、L2/L1>0.035になると、応力緩和板(7)が回路板(6)よりも小さくなり過ぎ、絶縁板(5)の上側に発生する最大主応力が、逆に増加するおそれがある。
【0050】
また、上記板(II)の応力緩和板(7)の場合には、実際に回路板(6)、絶縁板(5)および応力緩和板(7)を、ろう付後の冷却工程の条件を580℃→20℃として実際にろう付を行い、その後125℃に加熱→−40℃に冷却を1サイクル行ったところ、絶縁板(5)にクラックが発生していた。
【0051】
図5は、パワーモジュールの変形例を示す。
【0052】
図5に示すパワーモジュール(20)の場合、絶縁回路基板(4)の応力緩和板(7)の下面に、厚み方向にのびる複数の貫通穴(22)が形成された緩衝板(21)がろう付されている。緩衝板(21)は、応力緩和板(7)と同一の材質であるとともに、応力緩和板(7)と同一の形状および大きさであり、応力緩和板(7)および緩衝板(21)の輪郭が合致している。また、応力緩和板(7)および緩衝板(21)の貫通穴(12)(22)は平面から見て同一位置に形成されている。そして、緩衝板(21)の下面に冷却器(8)がろう付されている。
【0053】
図5に示すパワーモジュール(20)において、応力緩和板(7)および緩衝板(21)の貫通穴(12)(22)のうち少なくともいずれか一方は、必ずしも必要としない。
【産業上の利用可能性】
【0054】
この発明による絶縁積層材は、パワーデバイスなどの電子素子を冷却するのに用いられるパワーモジュール用ベースに、電子素子が実装される絶縁回路基板として好適に使用される。
【符号の説明】
【0055】
(1)(20):パワーモジュール
(2):パワーモジュール用ベース
(3):パワーデバイス(発熱体)
(4):絶縁回路基板(絶縁積層材)
(5):絶縁板
(6):回路板(第1金属板)
(7):応力緩和板(第2金属板)
(8):冷却器
(9):配線面
(11):電子素子搭載部
(12):貫通穴
(21):緩衝板
(22):貫通穴

【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁板と、絶縁板の片面に接合されかつ絶縁板とは反対側の面に発熱体が取り付けられるようになされている第1金属板と、絶縁板の他面に接合された第2金属板とよりなり、第1金属板に取り付けられる発熱体から発せられる熱が、第1金属板および絶縁板を経て第2金属板に伝わるようになされている絶縁積層材であって、
第2金属板の輪郭に、第1金属板の輪郭よりも外側に位置する部分がなく、かつ第2金属板の輪郭の少なくとも一部分が第1金属板の輪郭よりも内側に位置している絶縁積層材。
【請求項2】
第1金属板および第2金属板が方形である請求項1記載の絶縁積層材。
【請求項3】
第1金属板および第2金属板が方形であり、第2金属板の輪郭の全体が第1金属板の輪郭よりも内側に位置し、第1金属板の中心と各角部との距離をL1、第1金属板の各角部とこれに最も近接した第2金属板の角部との距離をL2とした場合、0<L2/L1≦0.035という関係を満たす請求項1記載の絶縁積層材。
【請求項4】
第1金属板と第2金属板とが相似形であり、第1金属板の中心と各角部とを結ぶ直線と、第2金属板の中心と各角部とを結ぶ直線とが平面から見て重なっている請求項2または3記載の絶縁積層材。
【請求項5】
絶縁板と両金属板とがろう付されている請求項1〜4のうちのいずれかに記載の絶縁積層材。
【請求項6】
第2金属板に、第2金属板の厚み方向にのびる複数の貫通穴が形成されている請求項1〜5のうちのいずれかに記載の絶縁積層材。
【請求項7】
第2金属板における絶縁板に接合された面とは反対側の面に、緩衝板が接合されている請求項1〜6のうちのいずれかに記載の絶縁積層材。
【請求項8】
第2金属板と緩衝板とが同一の形状および大きさであり、第2金属板および緩衝板の輪郭が合致している請求項7記載の絶縁積層材。
【請求項9】
第2金属板に、第2金属板の厚み方向にのびる複数の貫通穴が形成され、第2金属板における絶縁板に接合された面とは反対側の面に、厚み方向にのびる複数の貫通穴が形成された緩衝板が接合されている請求項1〜5のうちのいずれかに記載の絶縁積層材。
【請求項10】
第2金属板と緩衝板とが同一の形状および大きさであり、第2金属板および緩衝板の輪郭が合致し、第2金属板および緩衝板の貫通穴が平面から見て同一位置に形成されている請求項9記載の絶縁積層材。
【請求項11】
請求項1〜6のうちのいずれかに記載された絶縁積層材の第2金属板における絶縁板に接合された面とは反対側の面が、冷却器にろう付されているパワーモジュール用ベース。
【請求項12】
請求項7〜10のうちのいずれかに記載された絶縁積層材の緩衝板における第2金属板に接合された面とは反対側の面が、冷却器にろう付されているパワーモジュール用ベース。
【請求項13】
請求項11または12記載のパワーモジュール用ベースの第1金属板における絶縁板に接合された面とは反対側の面が、発熱体となる電子素子を搭載する電子素子搭載部を有する配線面となされ、第1金属板の電子素子搭載部に、パワーデバイスがはんだ付されているパワーモジュール。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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