説明

絹繭炭素材とその製造方法

【課題】 家蚕あるいは野蚕の繭、これらの繭から得られる織物、編物、粉体、綿、糸等の絹繭素材、あるいは、従来は廃棄物として扱われていた絹や繭の未利用物をも原料として、市販の活性炭に代替し得るだけの比表面積を有し、その調製が容易であって、しかも高性能の絹繭炭素材とその製造方法を具現化する。
【解決手段】 絹繭素材または絹繭原料を600℃〜1000℃の温度範囲において不活性雰囲気下で炭化し、得られた炭化物をアルカリ賦活することで絹繭炭素材を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、家蚕あるいは野蚕の繭、これらの繭から得られる織物、編物、粉体、綿、糸等の絹繭素材、あるいは廃棄物として扱われていた絹または繭等の絹繭原料を用いて、キャパシタ、吸着材、触媒担体、土壌改良材等として有用な、新しい炭素材と、その製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、ナノ技術の進展とともに新しい展開をむかえて炭素材については、燃料電池キャパシタへの応用や、電子材料、医療用あるいは環境技術への利用等への検討も精力的に進められている。
【0003】
このような炭素材の代表として、従来より、比表面積の大きな活性炭がよく知られている。この活性炭は、水処理や重金属除去、脱臭、土壌改良材など環境浄化処理に必要不可欠なものとされているばかりでなく、触媒担体、医療への応用においても実用化され、さらにはキャパシタや新しい電子材料等への利用を図られるようとしている。また、従来、活性炭は様々な原料より調製されており、たとえば代表的には、ヤシ殻等の天然素材由来のものや、フェノール樹脂等の樹脂の炭化物、あるいは石油コークス由来のもの等が知られている。
【0004】
一方、炭素材の新しい原料とその活性炭素材の調製についての探索も試みられており、その一つとして、従来は廃棄物として扱われていた繭殻や絹糸廃棄物等の絹繭原料を高温焼成して炭化物とすることや、これらを電磁波シールド材、吸着材、顔料等として利用することが提案されている(たとえば特許文献1−4)。
【0005】
しかしながら、これらの提案では、実際の利用を可能とするまでの比表面積を有する炭素材の製造が困難であることから、市販の活性炭等に代替することは難しいのが実情であった。
【特許文献1】特開2002−76686号公報
【特許文献2】特開2002−220745号公報
【特許文献3】特開2002−363572号公報
【特許文献4】特開2005−273077号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記のとおりの背景から、従来の問題点を解消し、家蚕あるいは野蚕の繭、これらの繭から得られる織物、編物、粉体、綿、糸等の絹繭素材、あるいは、これまで廃棄物として扱われていた絹や繭をも原料として用いることで、活性炭に代替し得るだけの高比表面積を有し、調製が容易であるいは、ある新しい絹繭炭素材とその製造方法を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記のとおりの課題を解決するものとして以下のことを特徴としている。
【0008】
第1:絹繭素材または絹繭原料の炭化物をアルカリ賦活する絹繭炭素材
第2:絹繭素材は、家蚕あるいは野蚕の繭、これらの繭から得られる織物、編物、粉体、綿、または糸等であること、および、絹繭原料は、繭殻、選除繭、屑繭、絹糸廃棄物または絹パウダー廃棄物である上記記載の絹繭炭素材。
【0009】
第3:絹繭炭化物は、炭素85%重量%以上、窒素10重量%以下を含有している上記の絹繭炭素材。
【0010】
第4:絹繭炭素材は、アルカリ金属水酸化物によりアルカリ賦活されており、アルカリ金属水酸化物/炭素の重量比は、1.0〜5.0である上記の絹繭炭素材。
【0011】
第5:比表面積が500m2/g以上である上記いずれかの絹繭炭素材。
【0012】
第6:絹繭素材または絹繭原料を600℃〜1000℃の温度範囲において不活性雰囲気下で炭化し、得られた炭化物をアルカリ賦活する絹繭炭素材の製造方法。
【0013】
第7:アルカリ金属水酸化物によりアルカリ賦活する絹繭炭素材の製造方法。
【発明の効果】
【0014】
以上のとおりの本発明によれば、家蚕あるいは野蚕の繭、これら繭から得られる織物、編物、粉体、綿、糸等の絹繭素材あるいは、従来は廃棄物として扱われていた絹や繭の未利用物をも原料として、市販の活性炭に代替し得るだけの比表面積を有し、その調製が容易であって、しかも有用な絹繭炭素材とその製造方法を具現化することができる。
【0015】
本発明の絹繭炭素材は、たとえば電気二重層キャパシタや、吸着材、触媒担体、土壌改良材、医療用材等としての応用が実際的に可能とされる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明は上記のとおりの特徴を有するものであって、以下にその実施の形態について説明する。
【0017】
まず、本発明において使用される絹繭素材については、家蚕あるいは野蚕の繭、これらの繭から得られる織物、編物、粉体、綿、糸等の素材、あるいは、絹繭原料については、たとえば従来廃棄処分されていた野蚕、家蚕から生じた副蚕糸としての選除繭、製糸工程からの屑絹、切り繭等としての繭殻、あるいは絹糸、シルクノイル、ラップ、スライパー、絹織物や絹編み物、絹不織布、それらの裁断屑、使用済み絹製品、絹パウダー等の各種のものであってよい。従って、これまで廃棄物として扱われていたもの、そして、そうでないもののいずれであってもよい。
【0018】
絹、そして繭殻等の本発明の原料は、フィブロイン、あるいはこれにセリシンも含まれた蛋白質からなるものであって、その炭化物には、炭素を主体としつつ、窒素、さらには水素が含まれることがある。この炭化物そのものは、たとえば1000m2/g以上の高比表面積を安定して保持することが必ずしも容易ではない。その大きな理由には、特有の蛋白質を原料としていることにおいて炭素構造は単純ではないことと、また含有されている窒素の存在がある。
【0019】
本発明においては、少くとも500m2/g以上、特に1000m2/g以上の高比表面積を有する炭素材を実現可能とするために、その製造では次のことを必須としている。
【0020】
1)600℃〜1000℃の温度範囲での不活性雰囲気下での炭化による炭化物の形成。
【0021】
2)形成された炭化物のアルカリ賦活。
【0022】
上記の炭化においては、あらかじめ絹繭素材または絹繭原料を水洗や乾燥処理を必要に応じて行い、たとえば10mm以下の適宜な大きさに裁断、粉砕しておいてよい。炭化は、アルゴン等の希ガスや窒素ガス、あるいは真空減圧という不活性雰囲気下で行うことになる。
【0023】
アルカリ賦活に用いるアルカリは、金属水酸化物、重炭酸塩を用いて行うことができるが、好ましくは用いる金属水酸化物としては、水酸化カリウム(KOH)が特に好適であり、さらに水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、水酸化セシウムなどを用いることもできる。
【0024】
上記の炭化物とアルカリ金属酸化物との混合割合は、重量比で、1:0.5〜1:10(好ましくは1:1〜1:5)とすることが好適に考慮される。アルカリ金属水酸化物の過少は賦活不足を招き、その過多は得られる炭素材の脆化を招く。
【0025】
賦活処理に際しては、アルカリ金属水酸化物の固体またはその水溶液を用いる。固体を用いるときは、アルカリ金属水酸化物が吸湿性であることから、保管に際して空気中の湿分を遮断する必要があり、また賦活前の炭化物と均等に混ぜる操作が必要である。アルカリ金属水酸化物の水溶液を用いるときは、市販されている水溶液を用いて、その水溶液に賦活前の炭化物を混入するだけでもよい。
【0026】
賦活処理時の温度は400〜900℃、好ましくは600〜900℃、さらに好ましくは700〜900℃が適当であり、温度が余りに低いときは比表面積の大きな炭素材が得られがたく、一方温度が余りに高いときは装置の材質に大きな制約が加わるので実際的でなくなる。
【0027】
賦活処理後は、アルカリ除去のための賦活炭の精製工程や粉砕、造粒などの二次加工工程に供することができる。
【0028】
本発明の提供する絹繭炭素材は、より好適には、以下の要件を備えたものとして特定される。
【0029】
a)絹繭炭化物には、その組成において、炭素85重量%以上、窒素10重量%以下が含有されている。
【0030】
b)アルカリ金属水酸化物、より好ましくは水酸化カリウム(KOH)により賦活されており、炭素との重量比は、アルカリ金属水酸化物/炭素として1.0〜5.0である。
【0031】
c)比表面積は、500m2/g以上、特に1000m2/g以上である。
このようにして得た炭素材は、たとえば、静電容量の大きな電気二重層コンデンサ用炭素材として好適に用いることができる。
【0032】
電気二重層キャパシタは、たとえば、(a)上記で得た炭素材の粉末品、導電材料、バインダーおよび溶媒を混合してペースト状の混合物を調製してからシート状に成形して電極材料となし、該シート2枚をセパレータを介して重ねて外装容器に収容し、この中に電解液を注入する方法や、(b)上記で得た炭素材の粉末品と電解液との混合物を調製してペースト状となし、これをセパレータを介在させた状態で外装容器に収容する方法、(c)上記で得た炭素材の粉末品に樹脂系粉末品(たとえばフェノール樹脂)を混合した後、高温(600〜1000℃)で熱処理して炭素成形体を作り、電解液を含浸させて、これをセパレータを介在させた状態で外装容器に収容する方法をはじめ、従来採用されている各種の方法により作製される。電解液としては、水溶液系電解液や非水溶媒系電解液が用いられる。
【0033】
以下に実施例を示し、さらに説明する。もちろん以下の例によって発明が限定されることはない。
【実施例】
【0034】
家蚕の繭殻を平均約3mmに粉砕し、900℃において、アルゴン雰囲気下において炭化して、繭殻からの炭化物を得た。このものには、CHN元素分析装置(パーキンエルマー)によれば、炭素94.34重量%、窒素2.31重量%、水素0.53重量%が含有されていた。
【0035】
このものに対して、800℃の温度で85%濃度の水酸化カリウム(KOH)を用いてアルカリ賦活を行った。
【0036】
得られたアルカリ賦活処理炭素材を用いて前記の方法(a)に従って電気二重層キャパシタを構成した。
【0037】
このものについての特性を従来品等と比較評価し、その結果を表1に示した。
【0038】
比較例の石油コークス、フェノール樹脂炭化物はいずれも水酸化カリウム(KOH)を用いて、アルカリ賦活したものである。
【0039】
表1に示した、本発明の方法により製造された炭素材の場合には、石油コークスを原料した炭素材と比較して、小さいKOH/C比で比表面積が3000m2/gを超えていること、フェノール樹脂を原料とする炭素材と比較して、低抵抗であること、および、ヤシ殻水蒸気賦活炭と比較して、高い静電容量を実現していることがわかる。
【0040】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
絹繭素材または絹繭原料の炭化物がアルカリ賦活されていることを特徴とする絹繭炭素材。
【請求項2】
絹繭素材は、家蚕あるいは野蚕の繭、これらの繭から得られる織物、編物、粉体、綿、または糸であること、および、絹繭原料は、繭殻、選除繭、屑繭、絹糸廃棄物または絹パウダー廃棄物であることを特徴とする請求項1記載の絹繭炭素材。
【請求項3】
絹繭炭化物は、炭素85%重量%以上、窒素10重量%以下を含有していることを特徴とする請求項1または2記載の絹繭炭素材。
【請求項4】
絹繭炭素材は、アルカリ金属水酸化物によりアルカリ賦活されており、アルカリ金属水酸化物/炭素の重量比は1.0〜5.0であることを特徴とする請求項1から3のいずれか記載の絹繭炭素材。
【請求項5】
比表面積が500m2/g以上であることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の絹繭炭素材。
【請求項6】
絹繭素材または絹繭原料を600℃〜1000℃の温度範囲において不活性雰囲気下で炭化し、得られた炭化物をアルカリ賦活することを特徴とする絹繭炭素材の製造方法。
【請求項7】
アルカリ金属水酸化物によりアルカリ賦活することを特徴とする請求項6記載の絹繭炭素材の製造方法。

【公開番号】特開2007−224434(P2007−224434A)
【公開日】平成19年9月6日(2007.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−43757(P2006−43757)
【出願日】平成18年2月21日(2006.2.21)
【出願人】(504145364)国立大学法人群馬大学 (352)
【出願人】(000156961)関西熱化学株式会社 (117)
【Fターム(参考)】