説明

継手部止水構造および継手部止水方法

【課題】 十分な止水効果を得ることのできる継手部止水構造を提供する。
【解決手段】 鋼管矢板1A,2Aに円筒形のジャンクション1B,2Bが設けられ、ジャンクション1B,2Bにはスリット1C,2Cが形成されて、スリット1C,2Cにジャンクション2B,1Bがそれぞれ嵌合することにより、ジャンクション1B,2Bが互いに接合されている。そして、ジャンクション1B,2B間に形成された中央の空間内に、水膨潤グラウトジャケット40が挿入され、この水膨潤グラウトジャケット40内にグラウト5が充填されて、水膨潤グラウトジャケット40が膨潤することによって止水を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、矢板の継手部止水構造および継手部止水方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
海岸や河川に設置された護岸構造物の基礎の周囲や山留壁、井筒基礎、擁壁などには、既存の方法として矢板が打ち込まれる。このような矢板の一例として、図12に示すような鋼管矢板、または図9に示すようなコンクリート矢板が知られている。
【0003】
ここで、隣り合う鋼管矢板を接合する場合、例えば図1に示すように、一方の鋼管矢板1Aにはその外周面に上下方向に沿って円筒状のジャンクション1Bが設けられ、このジャンクション1Bにはその軸方向に沿ってスリット1Cが形成されている。また、他方の鋼管矢板2Aにはその外周面に上下方向に沿って円筒状のジャンクション2Bが設けられ、このジャンクション2Bにはその軸方向に沿ってスリット2Cが形成されている。なお、ジャンクション1B,2B,・・・は鋼管矢板1A,2A,・・・の両側に設けられている(図12参照)。
【0004】
そして、鋼管矢板1A,2Bを連結する場合は、各スリット1C,2Cにそれぞれジャンクション2B,1Bをそれぞれ嵌合させることにより、ジャンクション1Bとジャンクション2Bとを互いに接合させる(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
このとき、図1において、例えば上部または下部のどちらか一方を掘削側とすると、上記のようにスリット1C,2Cにそれぞれジャンクション2B,1Bを嵌合させただけでは、掘削時に各スリット1C,2Cを介して水が漏れてしまい、掘削に支障をきたす。
【0006】
そこで、ジャンクション1B,2Bの接合により生じた、ジャンクション1Bとジャンクション2Bとの間の空間内には、筒状の袋からなるグラウトジャケット4がジャンクション1B,2Bの先端底部まで挿入され、さらにグラウトジャケット4内にグラウト5が注入されて、これによって、スリット1C,2Cを介しての水漏れ防止つまり止水を図っている。この場合、注入したグラウト5が硬化するまではスリット1C,2Cを介して漏水してしまう恐れがあるため、通常、グラウト5に加えられる注入圧によって止水効果を高めている。
【特許文献1】特開2004−211379号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記従来の技術では、グラウト5が硬化するまでの間に、グラウト5のブリージング、地下水による希釈等によって、ジャンクション1B,2Bの内壁とグラウトジャケット4との間に隙間が形成され、またグラウトジャケット4の先端部にはだぶりが生じ、十分な止水効果が得られないという問題がある。
【0008】
また、例えば図7に示すように、鋼管矢板1A,2B間の間隔が設計値よりも開きすぎた場合、ジャンクション1Bと2Bとの間の中央の空間が相対的に狭くなるため、グラウトジャケット4にだぶりやしわが発生しやすい。グラウトジャケット4にだぶりやしわが発生すると、グラウト5の未充填部分が生じ、この場合も、十分な止水効果が得られない。
【0009】
本発明の課題は、十分な止水効果を得ることのできる継手部止水構造および継手部止水方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、複数の矢板に継手部が設けられ、継手部同士を互いに接合したときに継手部と継手部との間に形成される空間内に、水膨潤グラウトジャケットが挿入され、該水膨潤グラウトジャケット内にグラウトが充填されて、前記水膨潤グラウトジャケットが膨潤することによって止水を行うことを特徴としている。
【0011】
上記構成によれば、継手部と継手部との間に形成される空間内に水膨潤グラウトジャケットが挿入されているので、水膨潤グラウトジャケット内にグラウトが充填された後に、水膨潤グラウトジャケットは周囲の水によって膨潤する。これにより、前記空間内を塞ぐことができ、十分な止水を行うことができる。
【0012】
請求項2に記載の発明は、請求項1において、前記矢板が鋼管矢板である場合、前記継手部は前記鋼管矢板の外周面に上下方向に沿って設けられた円筒状のジャンクションであり、かつ前記ジャンクションには軸方向に沿ってスリットが形成されて、前記スリットに接合相手側のジャンクションが嵌合され、前記ジャンクション同士が互いに接合されることにより、前記ジャンクション間に前記空間が形成されることを特徴としている。
【0013】
上記構成によれば、2つのジャンクションを接合する場合、各ジャンクションに形成されたスリットに接合相手側の各ジャンクションを互いに嵌合させることにより、2つのジャンクション間には空間が形成され、その空間内に、グラウトが充填される水膨潤グラウトジャケットを挿入することができる。
【0014】
請求項3に記載の発明は、請求項1において、前記矢板がコンクリート矢板である場合、前記継手部は前記コンクリート矢板の両側部に形成され、かつ前記両側部の端面には凹部が形成されて、前記両側部の端面同士が接合されることにより、前記凹部と接合相手側の端面の凹部とによって前記空間が形成されることを特徴としている。
【0015】
上記構成によれば、2つのコンクリート矢板の端面を互いに接合すると、端面に形成された凹部によって空間が形成され、その空間内に、グラウトが充填される水膨潤グラウトジャケットを挿入することができる。
【0016】
請求項4に記載の発明は、継手部止水方法についての発明である。すなわち、請求項4に記載の発明は、複数の矢板に設けられた継手部同士を互いに接合する際に、継手部と継手部との間に形成される空間内に水膨潤グラウトジャケットを挿入し、さらに前記水膨潤グラウトジャケット内にグラウトを充填して、前記水膨潤グラウトジャケットを膨潤させることにより、継手部間の接合部を止水することを特徴としている。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、ジャンクション同士の接合により生じたジャンクション間の空間内、またはコンクリート矢板接合時に端面の凹部により形成される空間内には、水膨潤グラウトジャケットが挿入されているので、この水膨潤グラウトジャケットは周囲の水によって膨潤し、これによって、十分な止水効果を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の実施例を図面に従って説明する。なお、従来技術と同一な箇所には同一符号が記してある。
【実施例1】
【0019】
図1および図2は本発明に係る継手部止水構造を示しており、図1はその水平断面図、図2は図1のA−A線に沿った断面図である。本継手部止水構造においては、隣り合う鋼管矢板1A,2Aのうち、一方の鋼管矢板1Aにはその外周面に上下方向に沿って円筒状のジャンクション1Bが、他方の鋼管矢板2Aにはその外周面に上下方向に沿って円筒状のジャンクション2Bがそれぞれ設けられている。また、ジャンクション1Bにはその軸方向に沿ってスリット1Cが、ジャンクション2Bにはその軸方向に沿ってスリット2Cがそれぞれ形成されている。なお、図には示してないが、ジャンクション1Bは鋼管矢板1Aの両側に、ジャンクション2Bも鋼管矢板2Aの両側に設けられている。
【0020】
そして、ジャンクション1Bのスリット1Cにはジャンクション2Bが、ジャンクション2Bのスリット2Cにはジャンクション1Bがそれぞれ嵌合されて、ジャンクション1Bとジャンクション2Bは互いに接合されている。
【0021】
本実施例では、ジャンクション1B,2Bの接合により生じた空間(中央とその左右に空間が形成されるが、ここでは中央の空間)内に、筒状の袋からなる水膨潤グラウトジャケット40がジャンクション1B,2Bの先端底部まで挿入されている。この水膨潤グラウトジャケット40内にはグラウト5が充填されている。グラウト5は、前記空間内の底部を除いて、水膨潤グラウトジャケット40がジャンクション1B,2Bの内面に接触するよう充分に充填されている。
【0022】
ここで、鋼管矢板1A,2Aを打ち込んでから水膨潤グラウトジャケット40内にグラウト5を注入するまでの手順について説明する。
【0023】
まず、鋼管矢板1A,2Aを打ち込み、このとき、鋼管矢板2A側のスリット2Cに鋼管矢板1A側のジャンクション1Bを、鋼管矢板1A側のスリット1Cに鋼管矢板2A側のジャンクション2Bをそれぞれ嵌合させ、ジャンクション1Bとジャンクション2Bとを接合する。その後、ジャンクション1Bとジャンクション2Bとの接合により生じた中央の前記空間内を、その底部まで高圧水を用いて洗浄する。
【0024】
次に、中央の前記空間内に、筒状の袋からなる水膨潤グラウトジャケット40をジャンクション1B,2Bの先端底部まで挿入する。この水膨潤グラウトジャケット40を挿入する場合、本実施例では、図5に示すように、水膨潤グラウトジャケット40の下部を吊り下げ部材42を介してウエイト41に連結し、残りをウエイト41に螺旋状に巻き付け、ウエイト41の重さを利用して水膨潤グラウトジャケット40を前記空間内に挿入するようにしている。
【0025】
そして、グラウト注入用のロッド(図示省略)を水膨潤グラウトジャケット40の内部にセットして、水膨潤グラウトジャケット40内にグラウト5を注入する。注入したグラウト5が硬化するまではスリット1C,2Cを介して漏水してしまう恐れがあるため、従来技術と同様、グラウト5の注入圧によって、この漏水を防ぐ。
【0026】
また、ジャンクション1B,2B間の空間内に水膨潤グラウトジャケット40を挿入する他の例として、図6に示すように、予め水膨潤グラウトジャケット40内にグラウト注入用のロッド43を差し込んでおき、この状態で、水膨潤グラウトジャケット40をロッド43と共に前記空間内にジャンクション1B,2Bの先端底部まで挿入する方法もある。この場合は、ロッド43を介して水膨潤グラウトジャケット40内にグラウト5を注入しながら、ロッド43を上方へ引き上げていく。
【0027】
上記構成によれば、ジャンクション1B,2Bの接合により生じたジャンクション間の空間内には水膨潤グラウトジャケット40が挿入されているので、水膨潤グラウトジャケット40内にグラウト5が注入されたとき、図3および図4に示すように、水膨潤グラウトジャケット40は周囲の水によって膨潤する(図の太い斜線で示した部分)。この場合、膨潤した水膨潤グラウトジャケット40はその体積が増加し、ジャンクション1B,2Bに形成されたスリット1C,2C内に流れ込み、スリット1C,2Cを塞ぐ。また、ジャンクション1B,2Bの底部にあった空間は、図4(a)および(b)に示すように、水膨潤グラウトジャケット40が徐々に膨潤して完全に塞がれる。これによって、スリット1C,2Cを完全に止水することができる。
【0028】
なお、本実施例では、水膨潤グラウトジャケット40としては、グラウト5の硬化後に膨潤が開始される膨潤開始時間の遅いものを用いている。また、水膨潤グラウトジャケット40は周囲の水の状況に合わせて膨潤するものであるから、水膨潤グラウトジャケット40の膨潤倍率や速度は、その現場の土質、水位や被圧状況等の条件によって決定される。
【0029】
また、グラウト剤のブリージング、および水膨潤グラウトジャケット40のだぶりやしわによって、ジャンクション1B,2Bの内面と水膨潤グラウトジャケット40との間に隙間が生じても、グラウト5の硬化後に水膨潤グラウトジャケット40が膨潤するため、その膨潤による体積の増加で前記隙間をカバーできる。その結果、スリット1C,2Cの止水をより効果的に行うことができる。
【0030】
図7および図8は本実施例の変形例を示している。鋼管矢板1A,2B間の間隔が、図7に示すように、設計値よりも開きすぎた場合、ジャンクション1Bと2Bとの間の中央の空間が相対的に狭くなるため、水膨潤グラウトジャケット40にだぶりやしわが発生しやくなる。
【0031】
この変形例では、図8に示すように、水膨潤グラウトジャケット40が周囲の水によって膨潤するため、ジャンクション1B,2Bの接合により生じた前記空間内を塞ぎ、さらに膨潤した水膨潤グラウトジャケット40がスリット1C,2Cを塞ぐ。これによって、十分な止水効果を得ることができる。
【実施例2】
【0032】
次に、本発明の実施例2について説明する。本実施例では、図9に示すように、複数の波型のコンクリート矢板50が、その両端部を互いに接合する場合の一例である。
【0033】
コンクリート矢板50は、図に示すように、中央部に凸状に折り曲げられた凸部51を有し、また両側部52の端面53には半円筒面状の凹部54が形成されている。
【0034】
また、両側部52のうち、一側側部(図では左側)には継手金物55がボルト56によって固定され、他側側部(図では右側)には係合溝57が形成されている。継手金物55は端部に突起55Aを有し、2つのコンクリート矢板50を接合させたときに、突起55Aは係合溝57に係合する。
【0035】
2つのコンクリート矢板50を接合させたとき、つまり2つのコンクリート矢板50の側部52にある各端面53同士を接合させたときに、半円筒面状の凹部54によって円形状の縦穴58が形成される。
【0036】
本実施例では、上記縦穴58の内部に、図10に示すように、水膨潤グラウトジャケット40が挿入され、さらに水膨潤グラウトジャケット40内にグラウト5が充填されている。
【0037】
上記構成によれば、縦穴58の内部に水膨潤グラウトジャケット40が挿入されているので、水膨潤グラウトジャケット40内にグラウト5が注入されたとき、図11に示すように、水膨潤グラウトジャケット40は周囲の水によって膨潤する(図の太い斜線で示した部分)。この場合、膨潤した水膨潤グラウトジャケット40はその体積が増加し、コンクリート矢板50の側部端面53,53間の隙間にも流れ込む。これによって、縦穴58内およびコンクリート矢板50の側部端面53,53間を塞ぐことができ、十分な止水を行うことが可能となる。
【0038】
なお、上記の実施例1および実施例2において、水膨潤グラウトジャケット40の材質は、使用条件によってウレタン系、スポンジ系、不織布系などが選定される。ウレタン系、スポンジ系、不織布系は、いずれのものも膨潤して十分な止水効果を得る上で優れた特性を有している。
【0039】
また、実施例1および実施例2において、グラウト5の地下水による希釈については、水膨潤グラウトジャケット40の素材をウレタン系等の被透水のものにすることによって対応できる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】実施例1による鋼管矢板継手部の水平断面図である。
【図2】図1のA−A線に沿った断面図である。
【図3】図1において、水膨潤グラウトジャケットが膨潤したときの様子を示す鋼管矢板継手部の水平断面図である。
【図4】図3のB−B線に沿った断面を示しており、(a)は水膨潤グラウトジャケットが膨潤しつつある様子を、(b)は水膨潤グラウトジャケットが完全に膨潤した様子を示す図である。
【図5】ジャンクション間の空間に水膨潤グラウトジャケットを挿入するための一例を示す図である。
【図6】ジャンクション間の空間に水膨潤グラウトジャケットを挿入するための他の例を示す図である。
【図7】実施例1の変形例による鋼管矢板継手部の水平断面図である。
【図8】図7において、水膨潤グラウトジャケットが膨潤したときの様子を示す鋼管矢板継手部の水平断面図である。
【図9】実施例2による複数のコンクリート矢板を連結したときの平面図である。
【図10】コンクリート矢板の継手部の拡大図である。
【図11】図10において、水膨潤グラウトジャケットが膨潤したときの様子を示す図である。
【図12】複数の鋼管矢板が打ち込まれたときの様子を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0041】
1A,2A 鋼管矢板
1B,2B ジャンクション
1C,2C スリット
5 グラウト
40 水膨潤グラウトジャケット
41 ウエイト
50 コンクリート矢板
54 凹部
58 縦穴

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の矢板に継手部が設けられ、継手部同士を互いに接合したときに継手部と継手部との間に形成される空間内に、水膨潤グラウトジャケットが挿入され、該水膨潤グラウトジャケット内にグラウトが充填されて、前記水膨潤グラウトジャケットが膨潤することによって止水を行うことを特徴とする継手部止水構造。
【請求項2】
前記矢板が鋼管矢板である場合、前記継手部は前記鋼管矢板の外周面に上下方向に沿って設けられた円筒状のジャンクションであり、かつ前記ジャンクションには軸方向に沿ってスリットが形成されて、
前記スリットに接合相手側のジャンクションが嵌合され、前記ジャンクション同士が互いに接合されることにより、前記ジャンクション間に前記空間が形成されることを特徴とする請求項1に記載の継手部止水構造。
【請求項3】
前記矢板がコンクリート矢板である場合、前記継手部は前記コンクリート矢板の両側部に形成され、かつ前記両側部の端面には凹部が形成されて、
前記両側部の端面同士が接合されることにより、前記凹部と接合相手側の端面の凹部とによって前記空間が形成されることを特徴とする請求項1に記載の継手部止水構造。
【請求項4】
複数の矢板に設けられた継手部同士を互いに接合する際に、継手部と継手部との間に形成される空間内に水膨潤グラウトジャケットを挿入し、さらに前記水膨潤グラウトジャケット内にグラウトを充填し、前記水膨潤グラウトジャケットを膨潤させることにより、継手部間の接合部を止水することを特徴とする継手部止水方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2006−169878(P2006−169878A)
【公開日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−366068(P2004−366068)
【出願日】平成16年12月17日(2004.12.17)
【出願人】(000206211)大成建設株式会社 (1,602)
【Fターム(参考)】