説明

網膜投影表示装置

【課題】種々の表示映像を、現実世界の対象映像に重畳させて、この重畳映像を、眼のピント調整をすることなく、眼の網膜に鮮明に投影表示するようにした網膜投影表示装置を提供する。
【解決手段】液晶パネル53、レンズ系70、ピンホール素子80、ハーフミラー90及び凹面鏡100が順次同軸的に配設されている。レンズ系70の焦点fは、凹面鏡100の球心と共に、ホール素子80の中心に位置する。また、レンズ系70の像点が凹面鏡100の焦点に位置するように、液晶パネル53とレンズ系70との距離が調整されている。このため、凹面鏡100の反射光は、平行光となってハーフミラー90に入射する。従って、現実世界の対象像を表す外光及び液晶パネル53の表示光は、凹面鏡100からハーフミラー90への反射平行光のもとに、当該ハーフミラー90から重畳光となって、ドライバーの眼に向けて出射される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、拡張現実(Argument Reality)技術の分野において、現実世界の詳細な情報等の電子映像を現実世界の情景等の対象に重畳させた重畳映像を網膜に投影することで表示するようにした網膜投影表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の網膜投影表示装置としては、例えば、下記特許文献1に開示されている視線方向依存型の網膜ディスプレイ装置が提案されている。この網膜ディスプレイ装置においては、仮想映像光をピンホール及びハーフミラーを通して凹面鏡に入射させ、この凹面鏡により反射される反射仮想映像光をハーフミラーにより反射するとともに、対象光をハーフミラーに入射して、ハーフミラーによる反射仮想映像光を、ハーフミラーを透過する対象光とともに、人の眼の網膜に入射するようになっている。このことは、仮想映像及び対象が、仮想映像光及び対象光によって、重畳映像として網膜に投影されることを意味する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−90688号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記網膜ディスプレイ装置においては、ピンホールから出射する仮想映像光は、発散光として凹面鏡に入射して当該凹面鏡により反射されて、凹面鏡の焦点とは異なる位置に集光するようになっているため、上述した凹面鏡による反射仮想映像光は、発散仮想映像光となる。
【0005】
従って、このような発散仮想映像光が、ハーフミラーにより反射された後、対象光とともに、人の網膜に入射しても、発散仮想映像光が、網膜上に結像することがない。その結果、網膜上には仮想映像、ひいては、重畳映像を鮮明に投影することができないという不具合が生ずる。
【0006】
そこで、本発明は、以上のようなことに対処するため、種々の表示映像を現実世界の対象に重畳させた重畳映像を、眼の網膜に鮮明に投影表示するようにした網膜投影表示装置を提供することを眼的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題の解決にあたり、本発明に係る網膜投影表示装置は、請求項1の記載によれば、
映像を表す映像表示光を出射する映像表示装置(50)と、
当該映像表示装置とその出射側にて同軸的に配置されるピンホール素子であってそのピンホール部(81)により映像表示装置からの上記映像表示光を絞ってピンホール表示光として出射するピンホール素子(80)と、
当該ピンホール素子及び現実世界の対象の双方を臨むようにピンホール素子とその出射側にて同軸的に配置されて当該ピンホール素子からの上記ピンホール表示光の部分を透過表示光として透光させる部分透光板(90)と、
部分透光板とそのピンホール素子とは反対側にて同軸的に配置されて上記部分透光板からの上記透過表示光を反射してピンホール素子と同軸上に集光させる凹面鏡(100)とを備えて、
部分透光板は、凹面鏡からの反射表示光の部分を部分反射表示光として反射するとともに、上記現実世界の対象からの当該対象を表す対象光の部分を、上記部分反射表示光との重畳により重畳光となって人の眼の網膜に投影するように、部分対象光として透光させる。
【0008】
当該網膜投影表示装置において、映像表示装置とピンホール素子との間にて同軸的に配置されて凹面鏡から部分透光板への上記反射表示光を平行光にするように映像表示装置からの上記映像表示光をピンホール素子と同軸上にて上記ピンホール部を通して凹面鏡の焦点を含む所定の軸上範囲内に結像させる凸レンズ系(71、72)を具備することを特徴とする。
【0009】
これによれば、凹面鏡からの反射表示光を平行光にするように映像表示装置からの上記映像表示光をピンホール素子と同軸上にて上記ピンホール部を通して凹面鏡の焦点上に結像させる凸レンズ系を、映像表示装置とピンホール素子との間に上述のごとく配設するのみで、上述の重畳光による映像を、鮮明に網膜に投影し得る。
【0010】
なお、上述した所定の軸上範囲は、ピンホール素子にピンボケ及び回折を生じさせない焦点深度の範囲内において映像を実質的に明瞭に網膜に投影可能となるような凹面鏡の焦点と凸レンズ系の像点との間の凹面鏡の軸上ずれ範囲をいう。
【0011】
また、本発明は、請求項2の記載によれば、請求項1に記載の網膜投影表示装置において、凸レンズ系の焦点(f)は、凹面鏡の球心と共に、ピンホール素子と同軸上にて、上記ピンホール部と同一位置に設定されており、
凸レンズ系の像点が凹面鏡の焦点に位置するように、映像表示装置と凸レンズ系との距離が調整されていることを特徴とする。
【0012】
これにより、請求項1に記載の発明の作用効果がより一層具体的に達成され得る。
【0013】
また、本発明は、請求項3の記載によれば、請求項1または2に記載の網膜投影表示装置において、部分透光板が上記重畳光を投影する軸は、眼の瞳孔の中心を通ることを特徴とする。
【0014】
これにより、重畳光により表される映像は、網膜上に鮮明に投影表示され得る。
【0015】
なお、上記各手段の括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示す。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明に係る網膜投影表示装置の一実施形態をゴーグルに適用した例を示す斜視図である。
【図2】図1の網膜投影表示装置を人の眼及び乗用車と共に示す縦断面である。
【図3】図2の網膜投影表示装置の光学系統を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の一実施形態を図面により説明する。
【0018】
図1は、本発明に係る網膜投影表示装置DをゴーグルGに適用してなる一実施形態を示している。
【0019】
本実施形態では、ゴーグルGは、オートバイのドライバー用に採用されるもので、当該ゴーグルGは、フレーム10、左右両側風防レンズ20及びゴムベルト30を備えている。フレーム10は、左右両側レンズ枠部11の左右両側端部から左右両側アーム部12をL字状に延出して構成されている。左右両側風防レンズ20は、フレーム10の左右両側レンズ枠部11に嵌め込まれている。ゴムベルト30は、左右両側アーム部12の各延出端部の間に連結されている。
【0020】
しかして、当該ゴーグルGは、左右両側風防レンズ20をドライバーの左右両眼に対向させるように、当該ドライバーの頭部にフレーム10及びゴムベルト30を装着することで、使用される。
【0021】
網膜投影表示装置Dは、図1にて示すごとく、ゴーグルGの左右両側レンズ枠部11のうちの左側レンズ枠部11に支持されている。
【0022】
当該網膜投影表示装置Dは、図1或いは図2にて示すごとく、L字状ケーシング40を備えている。このL字状ケーシング40は、扁平状矩形筒体40aと、L字状長手矩形筒体40bとにより構成されており、扁平状矩形筒体40aは、その上壁41にて、両ネジ42a、42b及び支持板43を介し、フレーム10の左側レンズ枠部11の上縁部11aに組み付けられて、左側風防レンズ20の前側に支持されている。
【0023】
ここで、扁平状矩形筒体40aは、その前側環状開口部44にて、前方に向け開口しており、当該前側環状開口部44には、前側透明板44aが嵌着されている。また、当該扁平状矩形筒体40aは、その後側環状開口部45(図2参照)にて、左側風防レンズ20に対向しており、この後側環状開口部45には、後側透明板45aが嵌着されている(図2参照)。
【0024】
また、L字状長手矩形筒体40bは、基端側矩形筒部47、先端側矩形筒部48及び境界筒部49を有しており、基端側筒部47は、扁平状矩形筒体40aの左壁開口部46(図2参照)から一体的に左方に向け同軸的に延出されている。先端側筒部48は、基端側矩形筒部47の延出端部から境界筒部49を介して後方へL字状に折れ曲がって、フレーム10の左側アーム部12に沿い延出している。
【0025】
境界筒部49は、図1或いは図2にて示すごとく、基端側矩形筒部47と先端側矩形筒部48との間に形成されており、当該境界筒部49は、その基端側矩形筒部47の延出方向側内壁面49a(図2参照)にて、平面状に形成されている。ここで、当該延出方向側内壁面49aは、液晶パネル53の軸に対し45°をなして、基端側矩形筒部47及び先端側矩形筒部48の各内部を傾斜状にかつ同軸的に臨むように形成されている。
【0026】
上述した両ネジ42a、42b及び支持板43は、扁平状矩形筒体40aをフレーム10の左側レンズ枠部11に上下方向及び左右の位置調整可能に支持する位置調整支持機構としての役割を果たす。
【0027】
この位置調整支持機構において、ネジ42aは、その首下雄ネジ部にて、支持板43の前端中央部に形成した雌ネジ孔部43aに上下方向に相対尾移動可能に螺合されており、当該ネジ42aの首下雄ネジ部は、その先端部にて、扁平状矩形筒体40aの上壁41の前側左右方向中央部に突設した支持壁41aの支持孔部内に上下方向に相対移動不能にかつ相対回動可能に支持されている。
【0028】
これにより、扁平状矩形筒体40aが、その上壁41にて、支持板43の下側にて、この支持板43に平行に位置するように、ネジ42aにより支持板43に支持される。また、ネジ43aを支持板43の雌ネジ孔部43aに対し上下方向に移動させることで、扁平状矩形筒体40aの左側風防レンズ20に沿い上下方向へ位置調整可能となる。
【0029】
また、ネジ42bは、その首下雄ネジ部にて、支持板43の後側左右方向中央部に形成した長孔部43bを通して、扁平状矩形筒体40aの上壁41の後側左右方向中央部に、上下方向に移動可能に螺合されており、当該ネジ42bは、その頭部にて、支持板43の長孔部43bを扁平状矩形筒体40aの上壁41の後側左右方向中央部上に挟持するようになっている。これにより、扁平状矩形筒体40aが、その後側開口部45にて、左側風防レンズ20に対向するように、ネジ42b及び支持板43により支持される。
【0030】
ここで、長孔部43bは、支持板43の後側左右方向中央部において左右方向に長孔状に形成されており、この長孔部43bの前後方向幅は、ネジ42bの首下部の外径よりも幾分大きい。これにより、ネジ42bを上方へ移動させることにより緩めれば、支持板43、換言すれば、扁平状矩形筒体40aを、フレーム10の左側レンズ枠部11の上縁部11aに沿い左右方向へ位置調整可能となる。
【0031】
また、当該網膜投影表示装置Dは、図2にて示すごとく、液晶表示器50と、反射ミラー60と、レンズ系70と、ピンホール素子80と、ハーフミラー90と、凹面鏡100とを備えており、これら液晶表示器50、反射ミラー60、レンズ系70、ピンホール素子80、ハーフミラー90及び凹面鏡100は、L字状ケーシング40内にL字状矩形筒体40bから扁平状矩形筒体40aにかけて収容されている。
【0032】
液晶表示器50は、発光素子51と、照明レンズ52と、透過型液晶パネル53とにより構成されており、これら発光素子51、照明レンズ52及び透過型液晶パネル53は、図2にて示すごとく、L字状矩形筒体40b内にその延出端部から軸方向中間部位47に向けて順次収容支持されている。
【0033】
ここで、発光素子51は、発光ダイオードからなるもので、当該発光素子51は、その発光部にて、照明レンズ52に対向するように、当該照明レンズ52と同軸的にL字状矩形筒体40b内にその延出端部側にて支持されている。これにより、当該発光素子51は、その駆動により発光して、照明レンズ52に向けて白色光を出射する。
【0034】
照明レンズ52は、発光素子51と液晶パネル53との間において、発光素子51及び液晶パネル53と同軸的にL字状矩形筒体40b内に組み付けられており、当該照明レンズ52は、発光素子51からの白色光を平行光として、液晶パネル53に向けて出射する。
【0035】
また、液晶パネル53は、照明レンズ52の発光素子51とは反対側にて、照明レンズ52と同軸的にL字状矩形筒体40b内に組み付けられており、この液晶パネル53は、照明レンズ52からの平行光を受光することで、表示情報を表示する。このことは、当該液晶パネル53は、照明レンズ52からの平行光に基づき、上記表示情報を含む表示光を出射することを意味する。なお、発光素子51、照明レンズ52及び液晶パネル53がともに同軸的に位置することは、これら発光素子51、照明レンズ52及び液晶パネル53の各軸が同一の光軸であることを意味する。
【0036】
反射ミラー60は、L字状長手矩形筒体40bの境界筒部49内にて、延出方向側内壁面49aに沿い固着されており、当該反射ミラー60は、その反射面にて、液晶パネル53及びレンズ系70を同軸的に臨むようになっている。
【0037】
しかして、当該反射ミラー60は、その反射面にて、液晶パネル53からの表示光を入射されて反射し、反射表示光としてレンズ系70に向けて出射する。
【0038】
レンズ系70は、L字状長手矩形筒体40bの基端側矩形筒部47内にその延出端部側にて同軸的に組み付けられており、このレンズ系70は、厚い凸レンズ71及び色消し用凹レンズ72でもって構成されている。
【0039】
凸レンズ71は、反射ミラー60に対向しており、この凸レンズ71は、反射ミラー60の反射面からの反射表示光を同軸的に入射されて集光して凹レンズ72に向けて出射する。
【0040】
凹レンズ72は、複数波長の光に生ずる色収差を除去する役割を果たすもので、この凹レンズ72は、凸レンズ71に沿うようにその出射側にて同軸的に配設されている。しかして、当該凹レンズ72は、凸レンズ71から出射される反射ミラー60の反射表示光の色収差を除去してピンホール素子80に向けて出射する。
【0041】
本実施形態においては、レンズ系70の焦点fは、図3にて示すごとく、ピンホール素子80のピンホール部81(後述する)の中心と同一位置に設定されている。このことは、レンズ系70は、反射ミラー60からの反射表示光を、ピンホール素子80のピンホール部81の中心上に集光することを意味する。但し、本実施形態では、ピンホール部81の中心上に集光した反射ミラー60からの反射表示光は、後述のごとく、凹面鏡100の焦点に結像するように、液晶パネル53とレンズ系70との間の光軸上の距離が調整されている。
【0042】
ピンホール素子80は、薄い平板状のもので、当該ピンホール素子80は、ピンホールレンズとしての役割を果たす。当該ピンホール素子80は、基端側矩形筒部47内の凹レンズ72の出射側部位にレンズ系70と同軸的に組み付けられており、当該ピンホール素子80には、ピンホール部81が、レンズ系70と同軸的に形成されている。
【0043】
しかして、当該ピンホール素子80は、凹レンズ72からの出射光を入射されてピンホール部81の中心にて受光し、上記表示情報の倒立像を表すピンホール光としてハーフミラー90(後述する)に向けて出射する。
【0044】
本実施形態において、ピンホール素子80のピンホール部81の内径は、次のように設定されている。即ち、ピンホール部81の内径が小さい程、ピンホール素子80による焦点深度が深くなるため、現実世界の情報、例えば、乗用車A(図2参照)と網膜投影表示装置Dの扁平状矩形筒体40aの前側透明板44aとの間の距離が変化しても、当該現実世界の情報は、鮮明な像として、後述するドライバーの左眼Iの網膜Icに投影される。
【0045】
しかしながら、ピンホール部81の内径が小さすぎると、光の回折現象が発生し網膜Icへの投影像の鮮明度が低下する。一方、ピンホール部81の内径が大きいほど、焦点深度が浅くなる。このことは、ピンホール部81の内径が大きすぎると、焦点深度が浅くなりすぎることを意味する。従って、このような浅い焦点深度のもとで、乗用車Aと左眼Iとの間の距離が変化すると、ピンぼけが網膜Icへの投影像に生じるおそれがある。このことは、網膜Icへの投影像が、ピンぼけにより、不鮮明になることを意味する。
【0046】
このため、ピンホール部81の内径は、光の回折現象を招かない範囲内であってピンホール素子80による焦点深度をできる限り深くし、かつ、上記ピンぼけの発生を招かない範囲内の値に設定されている。このことは、ピンホール素子80による焦点深度が、光の回折現象及び上記ピンぼけの各発生を招かない範囲内において、深く設定されていることを意味する。
【0047】
ハーフミラー90は、その中心にて、ピンホール素子80と同軸上に位置するとともに、ピンホール素子80及び前側透明板44aの双方を臨むように、ピンホール素子80の軸に対し45°の傾斜角にて、扁平状矩形筒体40a内において傾斜状に組み付けられている。
【0048】
しかして、当該ハーフミラー90は、ピンホール素子80からピンホール光を入射されてその部分を透過し部分透過光として凹面鏡100に向けて出射する。また、当該ハーフミラー90は、凹面鏡100から後述のように出射される反射光の部分を部分反射光として反射するとともに、上述した現実世界の情報である乗用車Aを表す外光の部分を部分外光として透過して、これら部分反射光及び部分外光を重ね合わせた重畳光として後側透明板45aを通してドライバーの左眼Iに向けて出射する。このことは、ハーフミラー90が上記重畳光を左眼Iの角膜Ia、瞳孔Ib及び水晶体Icを通して網膜Idに投影表示することを意味する。
【0049】
本実施形態では、ハーフミラー90が上記重畳光を出射する軸は、左眼Iの瞳孔Ibの中心を通るように、網膜投影表示装置DがゴーグルGによりドライバーの左眼に対向して支持される。これにより、ハーフミラー90が上記重畳光をドライバーの左眼Iの瞳孔Ibの中心を通り網膜Idに投影することで、上記重畳光により表される映像が、後述する凹面鏡100の半径R(図3参照)及び上述したピンホール素子80のピンホール部81の内径のもと、網膜Id上に鮮明な映像として表示される。
【0050】
凹面鏡100は、扁平状矩形筒体40a内において、ハーフミラー90の出射側にて、当該ハーフミラー90と同軸的に組み付けられており、当該凹面鏡100の凹状反射面101は、ハーフミラー90に対向している。但し、凹面鏡100の球心は、ピンホール部81の中心、換言すれば、レンズ系70の焦点fに位置する(図3参照)。また、当該凹面鏡100の焦点は、この凹面鏡100の光軸上にて半径1/2の位置にあるとともに、ハーフミラー90の中心に位置する。また、本実施形態では、レンズ系70の像点(液晶パネル53の表示映像の結像点に対応)は、レンズ系70の物点(液晶パネル53の表示映像に対応)に対し、凹面鏡100の光軸上において当該凹面鏡100の焦点に位置する。なお、凹面鏡100の半径は、当該凹面鏡100の中心である球心と当該凹面鏡100の凹状反射面101との間における凹面鏡100の光軸上の長さに相当する。
【0051】
従って、当該凹面鏡100は、その凹状反射面101にて、ハーフミラー90からの透過光を入射されて、反射光としてハーフミラー90に向けて反射すると、この反射光は、平行光としてハーフミラー90に入射する。
【0052】
本実施形態において、ピンホール素子80、ハーフミラー90及び凹面鏡100が同軸的に位置することは、これらピンホール素子80、ハーフミラー90及び凹面鏡100がその各軸にて同一の光軸上に位置することを意味する。
【0053】
以上のように構成した本実施形態において、オートバイのドライバーが、ゴーグルGを装着すれば、網膜投影表示装置Dは、その扁平状矩形筒体40aにて、ゴーグルGの左側風防レンズ20を介してドライバーの左眼Iに対向する。なお、当該ドライバーの左右両眼は正常であるものとする。また、本実施形態において、風防レンズ20は、レンズ機能を有さない。
【0054】
しかして、当該網膜投影表示装置Dにおいて、液晶表示器50が、液晶パネル53から表示光を出射すると、レンズ系70は、当該表示光を入射されてピンホール素子80に向けて出射する。すると、ピンホール素子80は、レンズ系70からの表示光を、ピンホール部81により絞り、ピンホール光として出射する(図3参照)。
【0055】
ここで、レンズ系70の焦点fが、上述したごとく、ピンホール素子80のピンホール部81の中心に位置することから、レンズ系70から出射される表示光は、ピンホール部81の中心に集光した後、ピンホール素子80から上述のピンホール光としてハーフミラー90に向けて出射される。
【0056】
このようにハーフミラー90に向けて出射されたピンホール光が、当該ハーフミラー90に入射すると、当該ピンホール光は、その光量の半分の光量にて、部分透過光として当該ハーフミラー90を透過して凹面鏡100に入射する。このように入射した部分透過光は、凹面鏡100によりその反射面101により反射されてハーフミラー90に再び入射して部分反射光として反射される。
【0057】
ここで、上述のごとく、レンズ系70の焦点f及び凹面鏡100の球心が、ピンホール素子80のピンホール部81の中心に位置し、レンズ系70の像点が凹面鏡100の焦点に位置することから、凹面鏡100からハーフミラー90に向けて反射される部分反射光は平行光となる。
【0058】
一方、乗用車A(図2参照)を表す外光がハーフミラー90入射すると、この外光は、その光量の半分の光量にて、ハーフミラー90を通り、部分外光として当該ハーフミラー90から出射する。
【0059】
すると、上述した部分反射平行光及び部分外光がハーフミラー90から重畳光となって理想レンズIeを通り網膜Idに向けて出射される。このため、液晶パネル53の出射表示光により表される映像が、凹面鏡100からの部分反射平行光のもと、乗用車Aの像と共に、左目Iの網膜Idに投影表示される。なお、上述した理想レンズIeは、左目Iの角膜Ia、瞳孔Ib及び水晶体Icでもって、等価的に構成される。
【0060】
ここで、レンズ系70の焦点f及び凹面鏡100の球心が、上述のごとく、ピンホール素子80のピンホール部81の中心に位置する。しかも、ピンホール素子80による焦点深度が、上述したごとく、光の回折現象及び上記ピンぼけの各発生を招かない範囲にて、深く設定されている。
【0061】
このため、眼Iの瞳孔Ibに向けて出射される重畳光は、乗用車Aと網膜投影表示装置Dの扁平状矩形筒体40aの前側透明板44aとの間の距離がどのように異なっていても、何らピント調整を必要とすることなく、鮮明に網膜Idに投影され得る。
【0062】
また、上述のごとく、ハーフミラー90による重畳光の投影軸が、瞳孔Ibの中心を通るため、液晶パネル53の出射表示光により表される映像が、鮮明に網膜Idに投影表示され得る。このことは、液晶パネル53の出射表示光により表される映像が、乗用車Aの像と共に、鮮明に網膜Idに投影表示され得ることを意味する。
【0063】
なお、本発明の実施にあたり、上記実施形態に限ることなく、次のような種々の変形例が挙げられる。
(1)本発明の実施にあたり、上記実施形態にて述べたハーフミラー90は、凹面鏡100の焦点とはずれて位置していてもよい。
(2)本発明の実施にあたり、上記実施形態にて述べたハーフミラー90は、これに限ることなく、その入射光の一部(50%に限らない。)を透光させる部分透光板であってもよい。
(3)本発明は、上記実施形態にて述べたゴーグルGに限ることなく、携帯電話や自動車のヘッドアップディスプレイに適用してもよい。
(4)また、本発明の適用にあたり、ピンホール素子80のピンホール部81は、上記実施形態とは異なり、ピンホール素子80にその中心とする円周に沿い複数のピンホール部81を間隔をおいて形成するようにしてもよい。これによれば、眼Iの移動等があっても、ハーフミラー90から眼Iへの重畳光の入射が、瞳孔から外れることがないので、網膜Icへの投影映像を容易に見ることができる。
(5)また、本発明の実施にあたり、ゴーグルGの左右両レンズは、風防レンズ20に代えて、近視或いは遠視等に対応するレンズであってもよい。
(6)本発明の実施にあたっては、ピンホール素子80に上述したピンボケ及び回折現象を生じさせない焦点深度の深い範囲内において映像表示装置50の映像を、乗用車Aの像と共に、鮮明に網膜に投影可能となるような所定の軸上ずれ範囲(凹面鏡の所定の軸上範囲)内に凹面鏡の焦点とレンズ系70の像点との間のずれが収まっておれば、映像を明瞭に視認することができる。
【符号の説明】
【0064】
50…液晶表示器、70…レンズ系、71…凸レンズ、72…凹レンズ、
80…ピンホール素子、81…ピンホール部、90…ハーフミラー、
100…凹面鏡、f…焦点。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
映像を表す映像表示光を出射する映像表示装置と、
当該映像表示装置とその出射側にて同軸的に配置されるピンホール素子であってそのピンホール部により前記映像表示装置からの前記映像表示光を絞ってピンホール表示光として出射するピンホール素子と、
当該ピンホール素子及び現実世界の対象の双方を臨むように前記ピンホール素子とその出射側にて同軸的に配置されて当該ピンホール素子からの前記ピンホール表示光の部分を透過表示光として透光させる部分透光板と、
当該部分透光板とその前記ピンホール素子とは反対側にて同軸的に配置されて前記部分透光板からの前記透過表示光を反射して前記ピンホール素子と同軸上に集光させる凹面鏡とを備えて、
前記部分透光板は、前記凹面鏡からの反射表示光の部分を部分反射表示光として反射するとともに、前記現実世界の対象からの当該対象を表す対象光の部分を、前記部分反射表示光との重畳により重畳光となって人の眼の網膜に投影するように、部分対象光として透光させる網膜投影表示装置において、
前記映像表示装置と前記ピンホール素子との間にて同軸的に配置されて前記凹面鏡から前記部分透光板への前記反射表示光を平行光にするように前記映像表示装置からの前記映像表示光を前記ピンホール素子と同軸上にて前記ピンホール部を通して前記凹面鏡の焦点を含む所定の軸上範囲内に結像させる凸レンズ系を具備することを特徴とする網膜投影表示装置。
【請求項2】
前記凸レンズ系の焦点は、前記凹面鏡の球心と共に、前記ピンホール素子と同軸上にて、前記ピンホール部と同一位置に設定されており、
前記凸レンズ系の像点が前記凹面鏡の焦点に位置するように、前記映像表示装置と前記凸レンズ系との距離が調整されていることを特徴とする請求項1に記載の網膜投影表示装置。
【請求項3】
前記部分透光板が前記重畳光を投影する軸は、前記眼の瞳孔の中心を通ることを特徴とする請求項1または2に記載の網膜投影表示装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−19978(P2013−19978A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−151523(P2011−151523)
【出願日】平成23年7月8日(2011.7.8)
【出願人】(504331680)
【Fターム(参考)】