説明

緊急通報システム

【課題】緊急センターにおいて衝突事故の内容を詳しく把握することが可能であり、衝突事故へのきめ細やかな対応を行うことができる緊急通報システムを提供する。
【解決手段】緊急通報システム10は、車両12に対する歩行者の衝突時の状況を特定する歩行者事故情報を検出する歩行者事故情報センサ80、82、102と、車両12の衝突時の乗員の危険発生時の状況を特定する乗員事故情報を検出する乗員事故情報センサ70、72、82、100と、歩行者との衝突を判定したとき、前記歩行者事故情報を緊急通報センターの通信装置30に送信し、乗員の危険発生を判定したとき、前記乗員の事故情報を前記通信装置に送信する事故情報送信部20とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、車両の衝突事故を緊急通報センターに通報する緊急通報システムに関する。
【背景技術】
【0002】
車両の衝突事故が起こった際、当該車両から緊急通報センターへと通報を行うシステムが知られている(特許文献1〜3)。特許文献1では、エアバッグシステム(2)の作動状態に応じて衝突事故の発生を判定し、当該車両の現在位置(事故発生位置)を所定の連絡先に通報する(特許文献1の第3欄13行目〜第4欄10行目参照)。また、上記現在位置に加え、Gセンサ又は衝撃検知センサの検出値に応じて事故の大きさの推測データを通報することもできる(特許文献1の第5欄13行目〜第6欄4行目参照)。
【0003】
特許文献2では、進路撮影カメラ(21)の画像に基づいて歩行者を検出した状態で、バンパセンサ(22)及び加速度センサ(23、24)の出力により車両の衝突を判定する。そして、ポップアップフードシステムのフードアクチュエータ(14、15)を作動させ、フード(11)を跳ね上げると共に、通信装置(42)を介して歩行者との衝突を外部に通報する。この通報には、車両位置及び車両を特定する情報が含まれる(特許文献2の要約、図4、段落[0016]〜[0019]参照)。
【0004】
特許文献3では、衝突センサ(1a)により車両の衝突が判定されると、操作スイッチ(3)の使用が許可される。そして、操作スイッチ(3)の緊急スイッチ(3a)をオンにすることで、緊急通報信号をレスキューセンターに送信する。この緊急通報信号により、歩行者との衝突が発生したことが通知される(特許文献3の要約、段落[0015]参照)。また、特許文献3では、エアバッグコントロールユニット(2)によるエアバッグ展開操作と、跳ね上げフードシステム(1)によるフードの跳ね上げ操作とを区別し、跳ね上げフードシステム(1)の作動である場合には、レスキューセンターと乗員とが通話できることも記載されている(特許文献3の段落[0021])。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平04−057198号公報
【特許文献2】特開2005−041334号公報
【特許文献3】特開2005−112043号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述の通り、特許文献1には、事故の大きさの推測データを通報することが記載されているが、ここでいう事故の大きさの詳細については何ら触れられていない。このため、上記事故の大きさをどのように使用するのかは明らかでなく、通報先では当該衝突事故への対応をきめ細やかに行うことができない。
【0007】
また、特許文献2では、当該車両の現在位置と衝突の発生のみが通知され、特許文献3では、衝突の発生のみが通知される(特許文献3では、現在位置の通知さえも明示されてはいない。)。従って、特許文献2、3においても、通報先では事故の情報が不足し、衝突事故への対応が不十分なものと成りかねない。
【0008】
この発明はこのような課題を考慮してなされたものであり、緊急センターにおいて衝突事故の内容を詳しく把握することが可能であり、衝突事故へのきめ細やかな対応を行うことができる緊急通報システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明に係る緊急通報システムは、車両の衝突時に車体が受ける衝撃を検出する車体衝撃センサと、前記衝突時に乗員が受ける衝撃を検出する乗員衝撃センサと、前記車体衝撃センサの出力に基づいて前記車体に対する歩行者の衝突を判定する歩行者衝突判定部と、前記乗員衝撃センサの出力に基づいて前記乗員の危険発生を判定する乗員危険判定部と、前記歩行者の衝突時の状況を特定する歩行者事故情報を検出する歩行者事故情報センサと、前記乗員の危険発生時の状況を特定する乗員事故情報を検出する乗員事故情報センサと、前記歩行者衝突判定部が前記歩行者の衝突を判定したとき、前記歩行者事故情報を緊急通報センターの通信装置に送信し、前記乗員危険判定部が前記乗員の危険発生を判定したとき、前記乗員の事故情報を前記通信装置に送信する事故情報送信部とを備える。
【0010】
この発明によれば、車両が歩行者と衝突した際には、歩行者の衝突時の状況を特定する歩行者事故情報を緊急通報センターに通報し、車両の衝突により乗員に危険が発生した際には、乗員の危険発生時の状況を特定する乗員事故情報を緊急通報センターに通報する。従って、緊急通報センターでは、衝突事故が歩行者事故なのか若しくは乗員事故なのか又はその両方なのかを知ることができると共に、歩行者事故及び乗員事故それぞれの状況をより詳しく把握することが可能となる。よって、緊急通報センターでは、衝突事故へのよりきめ細やかな対応ができるようになる。
【0011】
前記歩行者事故情報は、衝突直前の車速、バンパの加速度、前記加速度から算出された衝突エネルギ及び前記車両の前方の画像の少なくとも1つであり、前記乗員事故情報は、乗員数、シートベルトの着用の有無、衝突方向、横転の有無、多重衝突の有無及び衝突前後の車速変化の少なくとも1つであってもよい。
【0012】
前記歩行者衝突判定部は、ポップアップフードが作動したとき、前記歩行者が衝突したと判定し、前記乗員危険判定部は、エアバッグが作動したとき、前記乗員が危険であると判定してもよい。
【0013】
前記事故情報送信部は、前記歩行者衝突判定部が前記歩行者の衝突を判定したとき、衝突直前の車速と、バンパの加速度又は前記加速度から算出された衝突エネルギとを、前記歩行者事故情報として送信し、前記緊急通報センターの制御部は、前記衝突直前の車速と、前記バンパの加速度又は前記衝突エネルギとに基づいて、前記車体に衝突した歩行者が大人及び子供のいずれであるかを判定し、その判定結果を表示してもよい。これにより、緊急通報センターでは、衝突事故の内容をより詳しく把握することが可能となり、衝突事故へのよりきめ細やかな対応ができる。
【0014】
前記緊急通報システムは、さらに、前記車両の前方画像を取得する画像センサを備え、前記事故情報送信部は、前記歩行者衝突判定部が前記歩行者の衝突を判定したとき、前記前方画像を前記緊急通報センターに送信し、前記緊急通報センターの制御部は、前記前方画像に基づいて人的事故と物的事故とを判定し、その判定結果を表示してもよい。これにより、緊急通報センターでは、衝突事故の内容をより詳しく把握することが可能となり、衝突事故へのよりきめ細やかな対応ができる。
【発明の効果】
【0015】
この発明によれば、車両が歩行者と衝突した際には、歩行者の衝突時の状況を特定する歩行者事故情報を緊急通報センターに通報し、車両の衝突により乗員に危険が発生した際には、乗員の危険発生時の状況を特定する乗員事故情報を緊急通報センターに通報する。従って、緊急通報センターでは、衝突事故が歩行者事故なのか若しくは乗員事故なのか又はその両方なのかを知ることができると共に、歩行者事故及び乗員事故それぞれの状況をより詳しく把握することが可能となる。よって、緊急通報センターでは、衝突事故へのよりきめ細やかな対応ができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】この発明の一実施形態に係る緊急通報システムのブロック図である。
【図2】前記緊急通報システムを構成する車両のブロック図である。
【図3】前記車両において緊急通報を行うフローチャートである。
【図4】有効マス毎に衝突直前の車速と衝突エネルギとの関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
[全体構成]
以下、この発明の一実施形態に係る緊急通報システムについて図面を参照して説明する。
【0018】
図1は、この実施形態に係る緊急通報システム10のブロック図である。緊急通報システム10は、車両12と、緊急通報サーバ14(以下「サーバ14」ともいう。)とを備える。本実施形態の緊急通報システム10では、いずれかの車両12が衝突事故に遭うと、当該車両12から緊急通報サーバ14に対して自動的に通報がなされる。
【0019】
図1に示すように、車両12は、通信システム20と、エアバッグシステム22と、ポップアップフードシステム24(以下「PUHシステム24」という。)と、ナビゲーション装置26と、各種センサ28とを有する。
【0020】
通信システム20は、車両12の衝突事故により被害を受けたのが歩行者なのか、それとも当該車両12に乗車している乗員なのかを判定し、緊急通報サーバ14に通知する。エアバッグシステム22は、車両12が衝突事故に遭い、乗員に危険が生じたときにエアバッグ76(図2)を膨らませて乗員の安全を確保する。PUHシステム24は、車両12が歩行者(図示せず)との衝突事故に遭ったとき、車両12のポップアップフード86(図2)を跳ね上げ、当該歩行者の頭部が車体に当たったときの衝撃を和らげる。ナビゲーション装置26は、目的地までの経路を乗員に案内するものであり、車両12が衝突事故に遭った際、車両12の現在位置(事故位置)やそれまでの経路を通知する。各種センサ28は、車両12が衝突事故に遭った際の状況を特定するセンサ値を出力する。
【0021】
サーバ14は、各車両12からの通報を受け付け、当該サーバ14が設置された施設(緊急通報センター)にいる担当者に当該衝突事故の情報を通知するものであり、当該通報を受けた担当者は、当該衝突事故の内容に応じて、消防署30、警察署32、病院34等に通報することができる。サーバ14は、通信装置40と、入出力装置42と、演算装置44と、地図情報データベース46(以下「地図情報DB46」ともいう。)と、道路情報データベース48(以下「道路情報DB48」ともいう。)と、事故特定情報データベース50(以下「事故特定情報DB50」ともいう。)と、連絡先データベース52(以下「連絡先DB52」ともいう。)とを有する。
【0022】
通信装置40は、車両12の通信システム20との無線通信が可能であり、通信システム20からの通報を受信する。入出力装置42は、サーバ14側の担当者(ユーザ)によるサーバ14の操作等、サーバ14における入出力をするためのものであり、キーボード、モニタ等を含む。演算装置44は、サーバ14の各部の動作制御等のため、種々の演算を行う。
【0023】
地図情報DB46は、地図情報を蓄積したものであり、演算装置44が、車両12からの通報に基づいて当該車両12の現在位置を特定すること等に用いられる。道路情報DB48は、道路渋滞や道路工事の情報を蓄積したものであり、演算装置44が、消防署30、警察署32及び病院34の少なくとも1つに対して事故現場への経路を提示する際等に用いられる。事故特定情報DB50は、衝突事故の具体的な状況を特定するための情報(例えば、車速V[km/h]と衝突エネルギE[J]との関係)を蓄積したものであり、車両12から通知された各種センサ28のセンサ値等に基づいて衝突事故の具体的な内容の特定に用いられる。連絡先情報DB52は、衝突事故に関連する施設(例えば、消防署30、警察署32及び病院34)の連絡先の情報を蓄積したものであり、緊急通報センターの担当者が当該施設に対して連絡を取る際等に用いられる。
【0024】
図2は、緊急通報システム10を構成する車両12のブロック図である。図2に示すように、通信システム20は、制御部60、通信部62及び記憶部64を有する。制御部60は、エアバッグシステム22、PUHシステム24、ナビゲーション装置26及び各種センサ28からの信号に基づき、車両12の衝突事故により緊急の対応を要するのが、車両12外の歩行者なのかそれとも車両12内の乗員なのかを特定する。そして、制御部60は、特定した内容に関連する情報を通信部62を介して緊急通報サーバ14に送信する。
【0025】
エアバッグシステム22は、シートベルトセンサ70と、加速度センサ72と、インフレータ74と、エアバッグ76と、制御部78とを有する。シートベルトセンサ70は、図示しないシートベルトの着脱を検出する。加速度センサ72は、乗員に掛かる加速度ΔVp[m/s2]を検出する。インフレータ74は、制御部78からの指令に応じてガスを発生させエアバッグ76を膨張させるものである。エアバッグ76は、インフレータ74によりガスが供給されると膨張して乗員を衝突の衝撃から保護する。制御部78は、シートベルトセンサ70、加速度センサ72、インフレータ74及びエアバッグ76を制御するものであり、これらの部位からの出力に応じて、シートベルト信号Ssb、衝突信号Sim、作動信号Sa、加速度信号SΔVp及びロールオーバー信号Sroを出力する。
【0026】
シートベルト信号Ssbは、シートベルトセンサ70からの出力に基づくものであり、シートベルト(図示せず)の着脱状況を示す。衝突信号Simは、加速度センサ72が検出した3軸方向の加速度ΔVpに基づいて車両12に衝突があったかどうかを示す。作動信号Saは、インフレータ74の作動状態に応じてエアバッグ76が作動(膨張)したかどうかを示す。加速度信号SΔVpは、加速度センサ72からの出力に基づくものであり、加速度ΔVpの値を示す。ロールオーバー信号Sroは、加速度センサ72からの加速度ΔVpに基づいて車両12がロールオーバー(横転)したかどうかを示す。
【0027】
PUHシステム24は、バンパセンサ80と、車輪速度センサ82と、アクチュエータ84と、ポップアップフード86(以下、「PUH86」という。)と、制御部88とを有する。バンパセンサ80は、図示しないバンパ内に設けられた加速度センサであって、衝突事故による当該バンパに掛かる加速度ΔVb[m/s2]を検出する。車輪速度センサ82は、車両12の前輪(図示せず)の回転速度Vw[rpm]を検出する。アクチュエータ84は、制御部88からの指令に応じてPUH86を跳ね上げる。制御部88は、バンパセンサ80、車輪速度センサ82、アクチュエータ84及びPUH86を制御するものであり、これらの部位からの出力に応じて、加速度信号SΔVb、車速信号Sv及び作動信号Sbを出力する。
【0028】
加速度信号SΔVbは、バンパセンサ80からの出力に基づくものであり、加速度ΔVbの値を示す。車速信号Svは、車輪速度センサ82からの出力に基づくものであり、車両12の車速V[km/h]を示す。作動信号Sbは、アクチュエータ84の作動状態に応じてPUH86が作動したかどうか(跳ね上げられたかどうか)を示す。
【0029】
通信システム20の制御部60では、加速度ΔVbに基づいて車両12の衝突エネルギE[J]が算出される。
【0030】
ナビゲーション装置26は、測位部90と、入出力部92と、制御部94と、記憶部96とを有する。測位部90は、GPS(Global Positioning System)による現在位置の特定のための通信を行う。入出力部92は、ナビゲーション装置26のユーザ(車両12の乗員)によるナビゲーション装置26の操作等、ナビゲーション装置26における入出力をするためのものであり、タッチパネル、スピーカ等を含む。制御部94は、測位部90及び入出力部92を制御すると共に、測位部90を介して得たGPS情報により現在位置を特定し、記憶部96に蓄積する。これにより、車両12の走行履歴Hdを記録することができる。また、制御部94は、通信システム20の制御部60からの要求に応じて、現在位置Pp及び走行履歴Hdを制御部60に出力する。
【0031】
各種センサ28には、着座センサ100と、画像センサ102とが含まれる。着座センサ100は、車両12の各座席の下部内に設けられた圧力センサであり、乗員がいるときにはその重量を検知して当該座席に乗員が座っているかどうかを判断することができる。各着座センサ100は、各座席に乗員が座っているかどうかを示す着座信号Ssを通信システム20の制御部60に出力する。
【0032】
画像センサ102は、車両12のバックミラー(図示せず)の近傍に設けられ、車両12の前方の画像を取得する。画像センサ102は、取得した画像を含む画像信号Sviを通信システム20に出力する。通信システム20の制御部60は、受信した画像信号Sviに含まれる画像情報を記憶部64に蓄積する。そして、車両12の衝突事故が発生したと判断した際は、制御部60は、当該画像情報をサーバ14に送信する。サーバ14の演算装置44は、当該画像情報を解析して、車両12が衝突したのが、人(歩行者)であったのか、それとも、物であったのかを判定する。
【0033】
[緊急通報]
図3は、車両12において緊急通報を行うフローチャートである。ステップS1において、通信システム20の制御部60は、エアバッグシステム22のエアバッグ76が作動したかどうかを判定する。エアバッグ76が作動したかどうかは、エアバッグシステム22からの作動信号Saにより判定することができる。エアバッグ76が作動していない場合(S1:NO)、制御部60は、PUHシステム24のPUH86が作動したかどうかを判定する。PUH86が作動したかどうかは、PUHシステム24からの作動信号Sbにより判定することができる。PUH86が作動していない場合(S2:NO)、車両12は衝突事故を起こしていないと考えられる。そこで、制御部60は、今回の処理を終了する。
【0034】
ステップS1に戻り、エアバッグ76が作動していた場合(S1:YES)、ステップS3において、制御部60は、ステップS2と同様、PUH86が作動したかどうかを判定する。PUH86が作動していない場合(S3:NO)、エアバッグ76は作動しているが、PUH86は作動していないということになる。そこで、ステップS4において、制御部60は、乗員事故情報をエアバッグシステム22、PUHシステム24、ナビゲーション装置26及び各種センサ28から抽出する。
【0035】
乗員事故情報の具体的な内容には、車両12の乗員数、シートベルトの着用の有無、衝突方向、多重衝突の有無、横転の有無及び衝突前後の車速Vの変化が含まれる。上記各情報のうち、乗員数は、着座センサ100からの着座信号Ssに基づいて特定することができる。シートベルトの着用の有無は、エアバッグシステム22からのシートベルト信号Ssbに基づいて特定することができる。衝突方向及び多重衝突の有無は、エアバッグシステム22からの加速度信号SΔvに基づいて特定することができる。横転の有無は、エアバッグシステム22からの横転信号Sroに基づいて特定することができる。衝突前後の車速Vの変化は、PUHシステム24の車速信号Svに基づいて特定することができる。
【0036】
そして、ステップS7において、制御部60は、車両12の乗員の負傷度合を特定する情報を乗員事故情報としてサーバ14に送信する。これにより、サーバ14は、乗員事故の発生及びその詳細を知ることができる。
【0037】
ステップS3において、PUH86が作動している場合(S3:YES)、ステップS5において、制御部60は、乗員事故情報及び歩行者事故情報をエアバッグシステム22、PUHシステム24、ナビゲーション装置26及び各種センサ28から抽出する。すなわち、ステップS5では、エアバッグ76が作動している。このため、ステップS4と同様、乗員事故情報を緊急通報サーバ14に送信する。さらに、ステップS5では、PUH86が作動している。そこで、ステップS7において、制御部60は、車両12のバンパに衝突した人(歩行者)の負傷度合(又は物の損傷度合)を特定する情報を歩行者事故情報として、サーバ14に送信する。これらにより、サーバ14は、乗員事故及び歩行者事故の発生及びそれらの詳細を知ることができる。
【0038】
歩行者事故情報の具体的な内容には、衝突直前の車速V、バンパの加速度ΔVb、加速度ΔVbから算出された衝突エネルギE及び車両12の前方画像が含まれる。上記各情報のうち、衝突直前の車速Vは、PUHシステム24の車速信号Svに基づいて特定することができる。バンパの加速度ΔVb及び衝突エネルギEは、PUHシステム24の加速度信号SΔVbに基づいて特定することができる。車両12の前方画像は、画像センサ102からの画像信号Svi又はこの画像信号Sviを用いて記憶部64に蓄積された画像情報を用いることができる。
【0039】
ステップS2に戻り、PUH86が作動している場合(S2:YES)、ステップS6において、制御部60は、歩行者事故情報をエアバッグシステム22、PUHシステム24、ナビゲーション装置26及び各種センサ28から抽出する。すなわち、ステップS6では、エアバッグ76は作動していない。その一方、ステップS6では、PUH86が作動している。そこで、ステップS7において、制御部60は、上述した歩行者事故情報をサーバ14に送信する。これにより、サーバ14は、歩行者事故の発生及びその詳細を知ることができる。
【0040】
[車速Vと衝突エネルギEの利用方法]
上記のように、本実施形態では、歩行者事故情報として衝突直前の車速Vと衝突エネルギEを緊急通報サーバ14に送信する。サーバ14では、この車速Vと衝突エネルギEとを用いて車両12に衝突した人又は物の有効マスを判定する。なお、以下に述べる利用方法は、上述した図3のフローチャートと組み合わせて又は単独で用いることができる。
【0041】
図4は、有効マス[kg]毎に衝突直前の車両12の車速Vと衝突エネルギEとの関係の一例を示す図である。図4において、特性C0.3は、有効マスが0.3kgであるときの車速Vと衝突エネルギEの関係である。有効マスが0.3kgであるときとは、カラスが衝突したときに相当する。特性C0.4は、有効マスが0.4kgであるとき(段ボール相当)の車速Vと衝突エネルギEの関係である。特性C0.6は、有効マスが0.6kgであるときの車速Vと衝突エネルギEの関係である。特性C1は、有効マスが1kgであるとき(うさぎ相当)の車速Vと衝突エネルギEの関係である。特性C6は、有効マスが6kgであるとき(6歳児ダミー相当)の車速Vと衝突エネルギEの関係である。特性C9は、有効マスが9kgであるとき{成人男性の50パーセンタイル・ダミー(AM50ダミー)相当}の車速Vと衝突エネルギEの関係である。特性C20は、有効マスが20kgであるとき(シカ相当)の車速Vと衝突エネルギEの関係である。
【0042】
本実施形態において、図4の領域Rcは、車両12に衝突したものが、人(歩行者)であると判定可能な領域であり、領域Rc外である場合、人(歩行者)ではなく、物が車両12に衝突したものと判定可能である。すなわち、緊急通報サーバ14の演算装置44は、今回通知された車速V及び衝突エネルギGの組合せが、領域Rc内にあるとき、入出力装置42において、衝突したものは人(歩行者)である可能性が高い旨を入出力装置42(モニタ)に表示する。その一方、当該組合せが、領域Rc内にないとき、入出力装置42において、衝突したものは物又は小動物である可能性が高い旨を入出力装置42(モニタ)に表示する。
【0043】
さらに、図4の閾値TH_acは、車両12に衝突した歩行者が大人又は子供のいずれであるかを判定する閾値である。すなわち、閾値TH_acよりも特性C9側に測定値がある場合、車両12に衝突したのは大人であると判定する。閾値TH_acよりも特性C6側に測定値がある場合、車両12に衝突したのは子供であると判定する。サーバ14の演算装置44は、当該判定結果を入出力装置42(モニタ)に出力可能である。
【0044】
上記のように、有効マスによって衝突直前の車速Vと衝突エネルギEとの関係が異なることから、衝突直前の車速Vと衝突エネルギEを特定できれば、有効マスを判定することができる。例えば、車速Vと衝突エネルギEとが、図4の点P1の関係にあるとき、車速Vと衝突エネルギEとの関係から、車速Vが約50km/hであるときの子供の歩行者事故と推定できる。
【0045】
なお、図4の衝突エネルギE1は、6歳児ダミー且つ車速Vが25km/hのときに緊急通報サーバ14に通報するための閾値である。図4の衝突エネルギE2は、車両12のバンパービームがバンパーフェースに当たるいわゆる底付き現象が発生したことにより衝突エネルギEが飽和する値である。また、図4の車速V1は、本実施形態において、PUHシステム24におけるPUH86の作動が、ボンネットに対する歩行者の頭部衝突に間に合わず、PUHシステム24の効果が発揮できない車速である。
【0046】
[本実施形態の効果]
以上のように、本実施形態では、車両12が歩行者と衝突した際には、歩行者の衝突時の状況を特定する歩行者事故情報を緊急通報センター(緊急通報サーバ14)に通報し、車両12の衝突により乗員に危険が発生した際には、乗員の危険発生時の状況を特定する乗員事故情報を緊急通報センターに通報する。従って、緊急通報センターでは、衝突事故が歩行者事故なのか若しくは乗員事故なのか又はその両方なのかを知ることができると共に、歩行者事故及び乗員事故それぞれの状況をより詳しく把握することが可能となる。よって、緊急通報センターでは、衝突事故へのよりきめ細やかな対応ができるようになる。
【0047】
車両12の通信システム20は、歩行者の衝突を判定したとき、衝突直前の車速Vと衝突エネルギEとを歩行者事故情報として送信し、緊急通報センターの演算装置44は、衝突直前の車速Vと衝突エネルギEとに基づいて、車両12の車体に衝突した歩行者が大人及び子供のいずれであるかを判定し、その判定結果を表示する。これにより、緊急通報センターでは、衝突事故の内容をさらに詳しく把握することが可能となり、衝突事故へのよりきめ細やかな対応ができる。
【0048】
緊急通報システム10は、さらに、車両12の前方画像を取得する画像センサ102を備え、通信システム20は、歩行者の衝突を判定したとき、車両12の前方画像を緊急通報センターに送信し、緊急通報センターの演算装置44は、前記前方画像に基づいて人的事故と物的事故とを判定し、その判定結果を表示する。これにより、緊急通報センターでは、衝突事故の内容をより詳しく把握することが可能となり、衝突事故へのよりきめ細やかな対応ができる。
【0049】
[変形例]
なお、この発明は、上記実施形態に限らず、この明細書の記載内容に基づき、種々の構成を採り得ることはもちろんである。例えば、以下の構成を採用することができる。
【0050】
上記実施形態では、車両12の衝突時に車体が受ける衝撃を検出するセンサとして、バンパセンサ80を用いたが、その他のセンサを用いることもできる。例えば、車両12の側面に設けた加速度センサを用いて車体が受ける衝撃を検出してもよい。
【0051】
上記実施形態では、衝突エネルギEを車両12の通信システム20で算出したが、バンパの加速度ΔVbをサーバ14に送信し、サーバ14にて衝突エネルギEを算出してもよい。
【0052】
上記実施形態では、歩行者事故情報として、衝突直前の車速V、バンパの加速度ΔVb、衝突エネルギE及び車両12の前方画像を用いたが、いずれか1つでもよい。また、その他のセンサ値を歩行者事故情報に用いてもよい。
【0053】
同様に、上記実施形態では、乗員事故情報として、乗員数、シートベルトの着用の有無、衝突方向、横転の有無、多重衝突の有無及び衝突前後の車速変化を用いたが、いずれか1つでもよい。また、その他のセンサ値を乗員事故情報に用いてもよい。
【符号の説明】
【0054】
10…緊急通報システム 12…車両
14…緊急通報サーバ 20…通信システム(事故情報送信部)
22…エアバッグシステム(乗員危険判定部)
24…ポップアップフードシステム(歩行者衝突判定部)
28…各種センサ 40…通信装置
42…入出力装置 44…演算装置
70…シートベルトセンサ(乗員事故情報センサ)
72…加速度センサ(乗員衝撃センサ、乗員事故情報センサ)
76…エアバッグ
80…バンパセンサ(車体衝撃センサ、歩行者事故情報センサ)
82…車輪速度センサ(歩行者事故情報センサ、乗員事故情報センサ)
84…アクチュエータ
100…着座センサ(乗員事故情報センサ)
102…画像センサ(歩行者事故情報センサ)
E…衝突エネルギ V…車速
ΔVb…バンパの加速度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の衝突時に車体が受ける衝撃を検出する車体衝撃センサと、
前記衝突時に乗員が受ける衝撃を検出する乗員衝撃センサと、
前記車体衝撃センサの出力に基づいて前記車体に対する歩行者の衝突を判定する歩行者衝突判定部と、
前記乗員衝撃センサの出力に基づいて前記乗員の危険発生を判定する乗員危険判定部と、
前記歩行者の衝突時の状況を特定する歩行者事故情報を検出する歩行者事故情報センサと、
前記乗員の危険発生時の状況を特定する乗員事故情報を検出する乗員事故情報センサと、
前記歩行者衝突判定部が前記歩行者の衝突を判定したとき、前記歩行者事故情報を緊急通報センターの通信装置に送信し、前記乗員危険判定部が前記乗員の危険発生を判定したとき、前記乗員の事故情報を前記通信装置に送信する事故情報送信部と
を備える緊急通報システム。
【請求項2】
請求項1記載の緊急通報システムにおいて、
前記歩行者事故情報は、衝突直前の車速、バンパの加速度、前記加速度から算出された衝突エネルギ及び前記車両の前方の画像の少なくとも1つであり、
前記乗員事故情報は、乗員数、シートベルトの着用の有無、衝突方向、横転の有無、多重衝突の有無及び衝突前後の車速変化の少なくとも1つである
ことを特徴とする緊急通報システム。
【請求項3】
請求項1又は2記載の緊急通報システムにおいて、
前記歩行者衝突判定部は、ポップアップフードが作動したとき、前記歩行者が衝突したと判定し、
前記乗員危険判定部は、エアバッグが作動したとき、前記乗員が危険であると判定する
ことを特徴とする緊急通報システム。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の緊急通報システムにおいて、
前記事故情報送信部は、前記歩行者衝突判定部が前記歩行者の衝突を判定したとき、衝突直前の車速と、バンパの加速度又は前記加速度から算出した衝突エネルギとを、前記歩行者事故情報として送信し、
前記緊急通報センターの制御部は、前記衝突直前の車速と、前記バンパの加速度又は前記衝突エネルギとに基づいて、前記車体に衝突した歩行者が大人及び子供のいずれであるかを判定し、その判定結果を表示する
ことを特徴とする緊急通報システム。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の緊急通報システムにおいて、
前記緊急通報システムは、さらに、前記車両の前方画像を取得する画像センサを備え、
前記事故情報送信部は、前記歩行者衝突判定部が前記歩行者の衝突を判定したとき、前記前方画像を前記緊急通報センターに送信し、
前記緊急通報センターの制御部は、前記前方画像に基づいて人的事故と物的事故とを判定し、その判定結果を表示する
ことを特徴とする緊急通報システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−244167(P2010−244167A)
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−89947(P2009−89947)
【出願日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】