説明

緊急遮断弁

【課題】電動アクチュエータを大型化することなく、ウェイトの下降を阻止する係止レバーを速やかに揺動させる。
【解決手段】電動アクチュエータ30のロッドを前進又は後退させることにより係止レバー10を揺動させ、ウェイト6の下降により弁軸5を弁体2の閉弁状態へと回転させる緊急遮断弁1において、前記係止レバー10の他端に主軸21をピン接続し、固定のフレームFに主動節をピン接続し、主軸21と主動節とを従動節でピン接続により連結する。電動アクチュエータ30のロッドは横向きに配置されて、そのロッドが主動節と従動節との節点に接続される。ロッドが前進又は後退して節点が横方向に移動し、主軸21が下方へ移動し係止レバー10を揺動させる。係止レバー10のストロークに対し、ロッドのストロークは相対的に長いものとなるので、電動アクチュエータ30の容量を大型化することなく係止レバー10を速やかに揺動させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、上水道、水力発電所等の配管に設置され、大地震等の緊急時に自動的に又は手動でその管路を遮断する緊急遮断弁に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の緊急遮断弁は、例えば、図5に示すように、弁箱3の内部に挿通して設けた弁軸5に弁体2が取り付けられている。その回転弁の弁箱3が管路pに介在して設けられ、その弁軸5の一端に、その弁軸5とともにその軸周りに回動するアーム7を取り付け、アーム7の先端にはそのアーム7と一体に回動するようにウェイト6を設けている。
【0003】
また、前記弁箱3に固定されたフレームFに、長尺の係止レバー10が設けられ、その係止レバー10は上下方向に揺動可能にその長さ方向中程を揺動軸9で支持されている。その係止レバー10の一端下面に、前記アーム7に設けた係止ピン7aが嵌まる凹状の係止部11を形成している。
さらに、係止レバー10の他端には、上下方向に配置された電動アクチュエータ30のロッド31の上端がピン接続されている。
【0004】
図6に実線で示すように、係止レバー10の係止部11がアーム7の係止ピン7aに係止されているとき、前記ウェイト6の下降は阻止されて弁体2は開弁状態(全開状態)に維持されている。
【0005】
地震発生等の所定の信号を受信すると、前記電動アクチュエータ30が自動的に動作して、図6に矢印Aで示すように、ロッド31が下方に向かって後退する。このロッド31の後退により、前記係止レバー10が揺動し、その他端が下方に向かって移動する(図中矢印B参照)。係止レバー10の揺動により、その一端が上方に向かって移動し(図中矢印C参照)、前記係止部11と係止ピン7aとが離脱し、前記ウェイト6の下降阻止が解除される。前記ウェイト6はその自重により下降して前記アーム7を回動させ(図中矢印D参照)、そのアーム7の回動により前記弁軸5を弁体2の開弁状態から閉弁状態へと回転させ、管路pを遮断する。図6の鎖線は、閉弁状態(全閉状態)を示している。
【0006】
また、その閉弁状態から、電動アクチュエータ30を逆方向へ動作させて、そのロッド31を上方へ向かって前進させるとともに、クラッチを備えた復帰装置40(図5参照)を操作することにより弁軸5及びアーム7を、図7に矢印Eで示す方向へ回転させ、その弁軸5の回転とともに弁体2を前記開弁状態に向かって回転させる。
【0007】
アーム7のピン7aが、図7に示す矢印Fの方向へ動けば、係止レバー10は図中矢印Gの方向へ押し上げられ、アーム7のピン7aが係止レバー10の係止部11に係止される。この係止により、アーム7及びウェイト6は当初の下降阻止状態に復帰し、弁体2は前記開弁状態に復帰する。
【0008】
なお、前記係止レバー10は、バネ等の弾性部材によって、その係止部11がアーム7のピン7aに係止する側へ付勢されている。このため、前記下降阻止状態において、係止レバー10には、係止方向へ向かってある程度の力が掛けられている状態であるといえる。
【特許文献1】特開2002−71039号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記の緊急遮断弁によると、弁体2を開弁状態(全開状態)から閉弁状態(全閉状態)へと緊急遮断する際に、係止レバー10の係止部11がアーム7の係止ピン7aに噛み込んで、スムースに下降阻止状態を解除できないことがある。
【0010】
これは、係止レバー10の係止部11には、図8に示す矢印H方向にウェイト6の自重による回動力(係止ピン7aを移動させようとする力)が作用しており、電動アクチュエータ30が係止レバー10を矢印I方向へ揺動させる際に、その矢印H方向の力の分力H’,H”のうち、水平方向の分力H”により、係止部11と係止ピン7aとの間に摩擦力が生じる。その摩擦力により、係止レバー10が動きにくい状態になるからであると考えられる。
【0011】
また、特に、直径数メートルにも及ぶ大径の管路pに介在して設けられる緊急遮断弁は、著大な流体圧に抗して弁体2を閉弁できるよう、ウェイト6の重量も相当大きなものとなっている。このため、前記摩擦力に抗して係止レバー10を揺動させる電動アクチュエータ30に求められる容量も大きくなる。電動アクチュエータを大型化することは、設備のコスト高騰やメンテナンスの煩雑化を招くので好ましくない。
【0012】
そこで、この発明は、電動アクチュエータを大型化することなく、ウェイトの下降を阻止する係止レバーを速やかに揺動させることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記の課題を解決するために、この発明は、回転弁の弁体と一体に回転する弁軸と、上下方向へ回動可能でその回動により前記弁軸を回転させるアームと、そのアームと一体に回動するように設けられたウェイトと、上下方向に揺動自在の係止レバーと、その係止レバーの一端に形成された係止部と、進退自在のロッドを有する電動アクチュエータとを備え、前記係止部が前記ウェイトの下降を阻止することにより前記弁体を開弁状態に維持するとともに、前記電動アクチュエータのロッドが前進又は後退することにより前記係止レバーを揺動させて前記係止部による前記ウェイトの下降阻止が解除され前記ウェイトはその自重により下降して前記アームを回動させ、そのアームの回動により前記弁軸を弁体の開弁状態から閉弁状態へと回転させる緊急遮断弁において、前記電動アクチュエータは前記ロッドが横向きになるように配置されて、そのロッドがリンク機構を介して前記係止レバーの他端に接続されており、前記リンク機構は、前記係止レバーの他端にその係止レバーの揺動軸の軸方向と同方向のピンを介して回転自在に接続される主軸と、固定のフレームに前記揺動軸の軸方向と同方向のピンを介して回転自在に接続される主動節と、前記主軸と前記主動節との間にそれぞれ前記揺動軸と同方向のピンを介して回転自在に連結される従動節とを備え、前記電動アクチュエータのロッドは前記主動節又は従動節に接続されており、前記ロッドが前進又は後退することにより、前記主動節と従動節との節点が横方向に移動して、その節点の移動により前記主軸が下方へ移動して前記係止レバーを揺動させる構成を採用した。
【0014】
この構成によれば、係止レバーの他端における揺動方向のストロークに対し、それに対応する電動アクチュエータのロッドの進退方向へのストロークは相対的に長いものとなる。このため、電動アクチュエータによる小さな入力に対し、係止レバーを揺動させるための大きな出力を得ることができる。
すなわち、係止レバーによるウェイトの下降阻止状態を解除させるために必要な電動アクチュエータのトルクを低減することができ、電動アクチュエータの容量を大型化することなく、ウェイトの下降を阻止する係止レバーを速やかに揺動させることができる。
【発明の効果】
【0015】
この発明は、電動アクチュエータの容量を大型化することなく、ウェイトの下降を阻止する係止レバーを速やかに揺動させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
一実施形態の緊急遮断弁1を図1乃至図3に基づいて説明する。この緊急遮断弁1の主たる構成は従来例と同様であるので、以下、その従来例との差異点を中心に説明する。
【0017】
図1乃至図3に示すように、ウェイト6を備えたアーム7は、弁体2と一体に回転する弁軸5に固定されている。その弁軸5と並行に設けられた揺動軸9によって、係止レバー10がフレームFに対して上下方向に揺動自在に設けられ、その係止レバー10の一端下面に凹状の係止部11が設けられている。
【0018】
その係止部11が、アーム7に設けられた係止ピン7aに係止して、前記ウェイト6及びアーム7の下降を阻止し、弁体2が開弁状態に維持される(図1に示す実線及び破線で示す状態を参照)。
また、前記係止レバー10の他端が下方に向かって移動すると(図中矢印B参照)、係止部11と係止ピン7aとが離脱し(図中矢印C参照)、前記ウェイト6の下降阻止が解除される。ウェイト6はその自重により下降して前記アーム7を回動させ(図中矢印D参照)、そのアーム7の回動により前記弁軸5を弁体2の開弁状態から閉弁状態へと回転させ、管路pを遮断するようになっている(図中に示す鎖線状態を参照)。
【0019】
その係止レバー10を揺動させる機構として、係止レバー10の他端には、前記リンク機構20を介して電動アクチュエータ30のロッド31が接続されている。
【0020】
リンク機構20の構成を説明すると、図2に示すように、前記係止レバー10の他端にその係止レバー10の揺動軸9の軸方向と同方向のピン21aを介して主軸21の上端が前記ピン21a周りに回転自在に接続されている。
また、弁箱3に一体に固定されたフレームFには、前記揺動軸9の軸方向と同方向のピン23aを介して主動節23の下端が前記ピン23a周りに回転自在に接続されている。
その主軸21と主動節23との間に、それぞれ前記揺動軸9と同方向のピン21b,23bを介して従動節22が前記両ピン21b,23b周りに回転自在に連結されている。
【0021】
前記電動アクチュエータ30は、そのロッド31が係止レバー10の一端側に向くように水平方向に配置されており、そのロッド31の先端が前記主動節23と従動節22とを繋ぐピン23b(節点p)に接続されている。
【0022】
また、電動アクチュエータ30の本体30aは、前記揺動軸9と同方向のピン10bを介してフレームFに回転自在に支持されている。
【0023】
さらに、主軸21は筒状のガイド部材25とともに昇降するようになっており、そのガイド部材25内にフレームFに固定されたガイド軸24が進退可能に収納されている。このため、主軸21の昇降は、そのガイド部材25及びガイド軸24によって上下方向に案内されている。
【0024】
図3に矢印Jで示すように、ロッド31が図中左側に向かって後退することにより、前記主動節23と従動節22との節点pが同方向に移動する。
その節点pの移動により、前記主軸21が矢印Kに示すように下方へ移動して(図1に示す矢印A参照)、前記係止レバー10の他端を下方に向かって揺動させる(図1に示す矢印B参照)。
【0025】
図3に示すW1は係止レバー10の揺動ストロークを、W2はその揺動ストロークW1を生じさせるのに必要なロッド31の後退量を示す。ウェイト6及びアーム7の下降阻止状態からそれを解除させるに至るまでの、初期における係止レバー10の揺動ストロークW1は、それに対応するロッド31の後退量W2との間に、
W2>W1
の関係が成立する。
【0026】
このため、リンク機構20によれば、電動アクチュエータ30による小さな入力に対し、係止レバー10を揺動させるための大きな出力を得ることができる。すなわち、電動アクチュエータ30の容量を大型化することなく、係止レバー10を速やかに揺動させることができる。
【0027】
なお、前記電動アクチュエータ30のロッド31が後退することにより、係止レバー10が揺動して前記係止部11による前記ウェイト6の下降阻止が解除された後、ウェイト6の下降、アーム7の回動、弁軸5及び弁体2の閉弁状態への回転は、従来例と同様である。
また、前記係止レバー10がアーム7の係止ピン7aに係止された状態(前記下降阻止状態)に復帰させる操作も従来例と同様である。
【0028】
また、前記下降阻止状態において、係止レバー10には係止部11を通じて、ウェイト6の自重による図8に示す矢印H方向の力が作用する。この矢印H方向の力は、図中矢印H’で示す鉛直下向きの分力によって、係止レバー10を係止解除方向Iと逆方向に揺動させる力を生じさせている。
このため、電動アクチュエータ30には、それらの力がロッド31を前進させる方向への引張り力として常に作用している状態である。この引張り力は、電動アクチュエータ30が備えるギヤ機構、モーターM等に伝わるので、それらのギヤ機構、モーターM等の耐久性に少なからず影響を及ぼしていると考えられる。
【0029】
この点、上記リンク機構20を備えた本願の構成によれば、そのギヤ機構、モーターM等に伝わる力がリンク機構20によってフレームF等へ分散されるので、電動アクチュエータ30の耐久性向上にもその効果が期待できる。
【0030】
また、小さな電動アクチュエータ30で大口径の緊急遮断弁に対応できることから、その電動アクチュエータ30を取り付ける位置、レイアウトの自由度が増し、設計上の利点が多いといえる。
【0031】
他の実施形態を図4に示す。この実施形態は、前記電動アクチュエータ30の向きを逆に配置したものである。すなわち、電動アクチュエータ30のロッド31は、係止レバー10の一端から他端側に向くように水平方向に配置されている。このため、ロッド31が図中左側に前進すれば、係止レバー10が揺動して前記下降阻止状態が解除できるようになっている。他の構成は、前述の実施形態と同様であるので、説明を省略する。
【0032】
なお、上記各実施形態において、電動アクチュエータ30のロッド31の先端は、前記主動節23と従動節22とを繋ぐピン23b(節点p)に接続したが、ロッド31の先端を主動節23又は従動節22に直接接続することは差し支えない。その接続する位置も、主動節23又は従動節22の前記節点pに近い位置であってもよいし、主動節23又は従動節22の長さ方向中ほど等であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】一実施形態を示す正面図
【図2】同実施形態の要部拡大図
【図3】図2の作用図
【図4】他の実施形態を示す正面図
【図5】従来例の斜視図
【図6】従来例の正面図
【図7】従来例の正面図
【図8】係止レバーと係止ピンとの作用を示す説明図
【符号の説明】
【0034】
1 緊急遮断弁
2 弁体
3 弁箱
5 弁軸
6 ウェイト
7 アーム
7a ピン
10 係止レバー
11 係止部
20 リンク機構
21 主軸
22 従動節
23 主動節
24 ガイド軸
25 ガイド部材
30 電動アクチュエータ
31 ロッド
40 復帰装置
F フレーム
M モーター
p 節点

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転弁の弁体2と一体に回転する弁軸5と、上下方向へ回動可能でその回動により前記弁軸5を回転させるアーム7と、そのアーム7と一体に回動するように設けられたウェイト6と、上下方向に揺動自在の係止レバー10と、その係止レバー10の一端に形成された係止部11と、進退自在のロッド31を有する電動アクチュエータ30とを備え、前記係止部11が前記ウェイト6の下降を阻止することにより前記弁体2を開弁状態に維持するとともに、前記電動アクチュエータ30のロッド31が前進又は後退することにより前記係止レバー10を揺動させて前記係止部11による前記ウェイト6の下降阻止が解除され前記ウェイト6はその自重により下降して前記アーム7を回動させ、そのアーム7の回動により前記弁軸5を弁体2の開弁状態から閉弁状態へと回転させる緊急遮断弁1において、
前記電動アクチュエータ30は前記ロッド31が横向きになるように配置されて、そのロッド31がリンク機構20を介して前記係止レバー10の他端に接続されており、前記リンク機構20は、前記係止レバー10の他端にその係止レバー10の揺動軸9の軸方向と同方向のピン21aを介して回転自在に接続される主軸21と、固定のフレームFに前記揺動軸9の軸方向と同方向のピン23aを介して回転自在に接続される主動節23と、前記主軸21と前記主動節23との間にそれぞれ前記揺動軸9と同方向のピン21b,23bを介して回転自在に連結される従動節22とを備え、前記電動アクチュエータ30のロッド31は前記主動節23又は従動節22に接続されており、前記ロッド31が前進又は後退することにより、前記主動節23と従動節22との節点pが横方向に移動して、その節点pの移動により前記主軸21が下方へ移動して前記係止レバー10を揺動させることを特徴とする緊急遮断弁。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−36352(P2009−36352A)
【公開日】平成21年2月19日(2009.2.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−203139(P2007−203139)
【出願日】平成19年8月3日(2007.8.3)
【出願人】(000142595)株式会社栗本鐵工所 (566)
【Fターム(参考)】