説明

緊締金具の取付構造

【課題】 車体の前後方向の中間部に緊締金具を強固に取付けることができる緊締金具の取付構造を提供する。
【解決手段】 車体10の側部において車体前後方向に延びるサイドフレーム11と、サイドフレーム11に取付けられてサイドフレーム11から車外側に突出して配置されるサスペンション用(例えば、トレーリングロッド用)の取付ブラケット3とに、緊締具(例えば、ロープ等)を係合する緊締金具13を取付ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車等の車両の陸上輸送や海上輸送の際に車両を固定するための緊締金具を車体に取付ける取付構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来では、船舶やトレーラ等の大型運搬車両等で自動車を運搬する際には、車体の前後に配設されている牽引フックや専用の緊締フック等にロープを引っ掛けたり、ロープの先端に結びつけたフックを引っ掛けたりして車体を船舶や大型運搬車両に固定するようにしている。なお、専用の緊締フックを設ける場合には、車体の側部を構成する比較的強度の大きなサイドフレームに軸状部材を折り曲げて成る緊締フックを取付けるようにしており、この専用の緊締フックを利用して車両を固定するようにしている。或いは、従来では、上述のサイドフレームに緊締用孔を形成して、この緊締用孔を通して緊締用のロープを巻き付けて車両を固定するようにしている。
【0003】
専用の緊締フックを設けたものが、例えば特開2002−193149号公報(特許文献1)に開示されている。この場合には、前輪側のタイヤハウジングパネルの後部に設けたサブフレームマウントメンバに、緊締フックの取付部を補強する板状のリーンフォースメントを取付け、このリーンフォースメントに軸状部材から成る緊締フックを取付けるようにしている。
【特許文献1】特開2002−193149号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の技術によると、緊締フックを前輪側のタイヤハウジングの後部箇所、すなわち、車体前後方向の中間部よりも前寄りの箇所に配設するようにしているが、緊締フックの配設位置としては、車両の固定をバランス良く安定して行うことができるように、車体の前後方向の中間箇所におけるフロアパネルの下方箇所であるのが望ましい。また、車体の前後方向の中間部にあっては比較的強度の大きな箇所にフロアパネルの下部を横切るクロスメンバがあるが、クロスメンバは、左右一対のサイドフレームの内側に配設されるので、緊締フックなどの緊締金具の取付箇所としてはサイドフレームの外側が好ましい。
【0005】
本発明は、このような事情を勘案してなされたものであって、その目的は、車体の前後方向の中間部に緊締金具を強固に取付けることができる緊締金具の取付構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述の目的を達成するために、本発明では、車体の側部において車体前後方向に延びるサイドフレームと、前記サイドフレームに取付けられて前記サイドフレームから車外側に突出して配置されるサスペンション用の取付ブラケットとに、緊締具を係合する緊締金具を取付けるようにしている。
また、本発明では、車体の側部において車体前後方向に延びるサイドフレームと、前記サイドフレームに取付けられて前記サイドフレームから車外側に突出して配置されるサスペンション用の取付ブラケットと、前記サイドフレームの上部に配設されるフロアパネルと、前記サイドフレームよりも車体の外側に配設されるサイドシルインナパネルとによって閉断面形状部を形成し、前記閉断面形状部の内部空間を仕切る位置に、緊締具を係合する緊締金具を固定配置するようにしている。
また、本発明では、前記サスペンション用の取付ブラケットがトレーリングロッド用の取付金具であって、前記取付ブラケットをリヤタイヤハウスの前端部よりもさらに車体前方側に延長すると共に、前記緊締金具を前記リヤタイヤハウスの位置よりも車体前方側に設けるようにしている。
また、本発明では、前記緊締金具の周囲にフランジを形成し、前記閉断面形状部を形成する前記サイドフレーム,取付ブラケット,フロアパネル,及びサイドシルインナパネルの各部材に前記緊締金具のフランジを結合するようにしている。
また、本発明では、前記緊締具を係合させる長孔を前記緊締金具に形成し、前記長孔の下端部が前記長孔の上端部よりも車体内方の位置になるように前記長孔を配設するようにしている。
また、本発明では、前記緊締金具の下縁部に切欠き部を形成することにより、前記切欠き部を介する流水路を形成するようにしている。
【発明の効果】
【0007】
請求項1に記載の本発明は、車体の側部において車体前後方向に延びるサイドフレームと、サイドフレームに取付けられてサイドフレームから車外側に突出して配置されるサスペンション用の取付ブラケットとに、緊締具を係合する緊締金具を取付けるようにしたものであるから、車体の比較的強度の大きいサイドフレーム及びサスペンション用の取付ブラケットに緊締金具が取付けられることとなるので、緊締金具を車体の前後方向の中間部に強固に固定することができ、車両の緊締時に強い力が緊締金具に加わっても緊締金具が十分に耐えることができる。
【0008】
また、請求項2に記載の本発明は、車体の側部において車体前後方向に延びるサイドフレームと、サイドフレームに取付けられてサイドフレームから車外側に突出して配置されるサスペンション用の取付ブラケットと、サイドフレームの上部に配設されるフロアパネルと、サイドフレームよりも車体の外側に配設されるサイドシルインナパネルとによって閉断面形状部を形成し、閉断面形状部の内部空間を仕切る位置に、緊締具を係合する緊締金具を固定配置するようにしたものであるから、車体の比較的強度の大きいサイドフレーム及びサスペンションの取付ブラケットに緊締金具が取付けられることとなるので、緊締金具を車体に強固に固定することができ、車両の緊締時に強い力が緊締金具に加わっても緊締金具が十分に耐えることができる。しかも、緊締金具の配設箇所は閉断面形状部であるため、緊締金具の取付箇所の強度・剛性を向上させることができる。
【0009】
また、請求項3に記載の本発明は、サスペンション用の取付ブラケットがトレーリングロッド用の取付金具であって、取付ブラケットをリヤタイヤハウスの前端部よりもさらに車体前方側に延長すると共に、緊締金具をリヤタイヤハウスの位置よりも車体前方側に設けるようにしたものであるから、車体の前後方向の中間部に緊締金具を強固に取付けることができ、車体の前後箇所に配置された緊締フック(又は、牽引フック)等を一緒に使用することによって車両をバランス良く安定した状態で固定することができる。
【0010】
また、請求項4に記載の本発明は、緊締金具の周囲にフランジを形成し、閉断面形状部を形成するサイドフレーム,取付ブラケット,フロアパネル,及びサイドシルインナパネルの各部材に緊締金具のフランジを結合するようにしたものであるから、緊締金具の取付強度を増大させることができる。
【0011】
また、請求項5に記載の本発明は、緊締具を係合させる長孔を緊締金具に形成し、長孔の下端部が長孔の上端部よりも車体内方の位置になるように長孔を配設したものであるから、車体の両側部に取付けられた一対の緊締金具の長孔と、これら一対の緊締金具の間にある車両載置フロア上の引っ掛け金具とにロープ等を引っ掛けて車両を固定する際に、ロープ等の掛け渡し状態を安定にすることができる。
【0012】
また、請求項6に記載の本発明は、緊締金具の下縁部に切欠き部を形成することにより、切欠き部を介する流水路を設けたものであるから、既述の閉断面形状部に浸入した雨水を流水路を通して排水することができると共に、電着塗装の際に用いた電着液を流水路を通して液抜きすることができる。すなわち、上述の流水路を水抜き孔若しくは液抜き孔として機能させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の一実施形態に係る緊締金具の取付構造について図1〜図8を参照して説明する。
【0014】
図1は、本発明の一実施形態に係る緊締金具の取付構造を備えた自動車1を示すものであって、この自動車1のリヤタイヤハウス(後輪側のタイヤハウス)2の前方箇所にトレーリングロッド用の取付ブラケット3が配設されている(図1〜図4参照)。
【0015】
上述の取付ブラケット3は、図3,図4,図6及び図7に示すように、底部ブラケット4と、この底部ブラケット4の車室側部分の上に取付けられた上部ブラケット5及び下部ブラケット6との3部材から構成された組合部品である。取付ブラケット3についてさらに具体的に述べると、上部ブラケット5及び下部ブラケット6は、板状部材を断面コ字形状に屈曲成形したものであって、下部ブラケット6の上端部6aが上部ブラケット5の下端部5aの内面に接合された状態で組付けられ(図6及び図7参照)、これらのブラケット5,6の組合体が、上部ブラケット5及び下部ブラケット6に溶接結合されたナット7,8を利用して底部ブラケット4の車室側部分の上にボルト締めされている。かくして、断面コ字形状の上部ブラケット5及び下部ブラケット6は、底部ブラケット4上においてその開放口α,β(図6参照)が上方に向いた状態で配置されている。
【0016】
取付ブラケット4の上部ブラケット5及び下部ブラケット6は、図4及び図5に示すように、その上方側の開放口α,β内に、車体10の左右両側部を構成する断面コ字形状のサイドフレーム(車体10の側部において車体前後方向に延びるサイドフレーム)11の下側部分が通るように配置されると共に、この状態の下で互いに対向する上部ブラケット5及び下部ブラケット6の対向片部の上縁部S(図4参照)がサイドフレーム11の車外側面及び車内側面にそれぞれ溶接結合されている。かくして、取付ブラケット3が配設される部位においては、車体10の側部箇所にサイドフレーム11が配設され、サイドフレーム11の上側にフロアパネル12が配設され、サイドフレーム11の下側に取付ブラケット3が配設され、サイドフレーム11よりも車体外側にサイドシルインナパネルP(図1参照)が配設され、これらの部材により閉断面形状部γが形成されている(図2及び図3参照)。すなわち、車体10の側部において車体前後方向に延びるサイドフレーム11と、サイドフレーム11に取付けられてサイドフレーム11から車外側に突出して配置されるサスペンション用の取付ブラケット3と、サイドフレーム11の上部に配設されるフロアパネル12と、サイドフレーム11よりも車体の外側に配設される図外のサイドシルインナパネルとによって閉断面形状部γが形成されている。
【0017】
また、上述の閉断面形状部γには、緊締具(例えば、ロープ等)を係合する緊締金具13が閉断面形状部γ内の空間を横切るように配設され、サイドフレーム11から車外側に突出して配置されている。この緊締金具13は、板状部材から成るものであって、図8に明示するように、長手状に延びるバーリング孔から成る緊締用の長孔(緊締用孔)14を有する基板部16と、基板部16の周囲に屈曲成形された4つのフランジ17a,17b,17c,17dとを有している。そして、緊締金具13の上方のフランジ17aがフロアパネル12に、下方のフランジ17bが取付ブラケット3の底部を構成する底部ブラケット4に、内方のフランジ17cがサイドフレーム11の車外側の面部に、外方のフランジ17dがサイドシルインナパネルPに溶接結合され(図3及び図8参照)、緊締金具13の基板部16の板面が車体前後方向に対してほぼ直交するように配置されている。
【0018】
また、取付ブラケット3は、図4に示すように、リヤタイヤハウス2の前端部よりもさらに車体前方側に延長されており、緊締金具13がリヤタイヤハウス2の位置よりも車体前方側に配置されている。すなわち、この緊締金具13は、フロアパネル12に段差19をもって設けられているリヤシート取付部20の前端位置21よりも前方位置に配置されている(図2参照)。
【0019】
また、緊締金具13が既述の閉断面形状部γに取付けられた状態の下では、ロープ等の緊締具を係合させるために形成される緊締用の長孔14は、車体上下方向に対して傾斜して長手状に延びるように配置されると共に、図3に示す如く長孔14の下端部14aが長孔14の上端部14bよりも車体内方の位置になるように配置されている。
【0020】
さらに、図3に示すように、緊締金具13のサイドフレーム11側の下側隅部には、角部を切り欠いた形状の切欠き部22が形成されており、この切欠き部22と底部ブラケット4とにより流水路23が設けられている。この流水路21は、電着液や雨水等を水抜きするのに役立つものである。
【0021】
このような構成の緊締金具の取付構造によれば、緊締金具13を車体10のリヤシート取付部20の前端位置21、すなわち車体10の前後方向の中間位置(ほぼ中央位置)に配設するようにしているので、車体10の前後方向の中間部を船舶等の車両固定部に、バランス良く固定することができる。従って、車体10の前後方向の中間部に緊締金具13を強固に取付けることができる。また、強度が高いサイドフレーム11及びトレーリングロッド用の取付ブラケット3に緊締金具13を取付けるようにしているので、緊締金具13の取付強度を十分に大きく確保することができる。さらに、緊締金具13の周囲にフランジ17a〜17dを形成し、各フランジ17a〜17dをフロアパネル12,底部ブラケット4,サイドフレーム11,及びサイドシルインナパネルPにそれぞれ溶接結合するようにしているので、長孔14に通された緊締ロープ等から何れの方向への負荷(引張り力)を受けても、各々の溶接結合箇所において溶接の剥離方向への力のみを受けることがないので、運搬時の揺れに対して緊締金具13が大きな引張り力に耐えることができる。
【0022】
以上、本発明の一実施形態について述べたが、本発明はこの実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想に基づいて各種の変形及び変更が可能である。例えば、既述の実施形態では、緊締具を係合する緊締金具13として緊締用の長孔14を設けたものを用いるようにしているが、軸状部材を折り曲げて形成した緊締用のフックを前記長孔14に代えて設けるようにしてもよい。また、既述の実施形態では、緊締金具13をフロアパネル12,サスペンション用(例えば、トレーリングロッド用)の取付ブラケット3,サイドフレーム11,及びサイドシルインナパネルに結合するようにしたが、このうち、強度の大きなサスペンション用の取付ブラケット3及びサイドフレーム11にのみ緊締金具13を結合し、他のフロアパネル12及びサイドシルインナパネルへの結合は省略するようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の一実施形態に係る緊締金具の取付構造を備えた自動車の側面図である。
【図2】図1において矢印Aで示す方向から見た車体の斜視図である。
【図3】緊締金具の取付箇所の斜視図である。
【図4】緊締金具の取付箇所の側面図である。
【図5】緊締金具の取付箇所の底面図である。
【図6】トレーリングロッド用の取付ブラケットの分解斜視図である。
【図7】上部ブラケットと下部ブラケットとを互いに組付けた状態での取付ブラケットの斜視図である。
【図8】緊締金具の斜視図である。
【符号の説明】
【0024】
1 自動車
2 リヤタイヤハウス
3 取付ブラケット
4 底部ブラケット
5 上部ブラケット
6 下部ブラケット
10 車体
11 サイドフレーム
12 フロアパネル
13 緊締金具
14 長孔
16 基板部
17a〜17d フランジ
19 段差
20 リヤシート取付部
21 前端部
22 切欠き部
23 流水路
α,β 開放口
γ 閉断面形状部
P サイドシルインナパネル
S 上縁部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体の側部において車体前後方向に延びるサイドフレームと、前記サイドフレームに取付けられて前記サイドフレームから車外側に突出して配置されるサスペンション用の取付ブラケットとに、緊締具を係合する緊締金具を取付けたことを特徴とする緊締金具の取付構造。
【請求項2】
車体の側部において車体前後方向に延びるサイドフレームと、前記サイドフレームに取付けられて前記サイドフレームから車外側に突出して配置されるサスペンション用の取付ブラケットと、前記サイドフレームの上部に配設されるフロアパネルと、前記サイドフレームよりも車体の外側に配設されるサイドシルインナパネルとによって閉断面形状部を形成し、前記閉断面形状部の内部空間を仕切る位置に、緊締具を係合する緊締金具を固定配置したことを特徴とする緊締金具の取付構造。
【請求項3】
前記サスペンション用の取付ブラケットがトレーリングロッド用の取付金具であって、前記取付ブラケットをリヤタイヤハウスの前端部よりもさらに車体前方側に延長すると共に、前記緊締金具を前記リヤタイヤハウスの位置よりも車体前方側に設けたことを特徴とする請求項1又は2に記載の緊締金具の取付構造。
【請求項4】
前記緊締金具の周囲にフランジを形成し、前記閉断面形状部を形成する前記サイドフレーム,取付ブラケット,フロアパネル,及びサイドシルインナパネルの各部材に前記緊締金具のフランジを結合したことを特徴とする請求項2に記載の緊締金具の取付構造。
【請求項5】
前記緊締具を係合させる長孔を前記緊締金具に形成し、前記長孔の下端部が前記長孔の上端部よりも車体内方の位置になるように前記長孔を配設したことを特徴とする請求項1乃至4の何れか1項に記載の緊締金具の取付構造。
【請求項6】
前記緊締金具の下縁隅部に切欠き部を形成することにより、前記切欠き部を介する流水路を設けたことを特徴とする請求項2乃至5の何れか1項に記載の緊締金具の取付構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−312370(P2006−312370A)
【公開日】平成18年11月16日(2006.11.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−135642(P2005−135642)
【出願日】平成17年5月9日(2005.5.9)
【出願人】(000002082)スズキ株式会社 (3,196)
【Fターム(参考)】