線描画方法及び装置
【課題】線状パターンの描画時に複数個のドット形状になることを回避して均一な線形状を形成する。
【解決手段】機能性成分を含有する液体をインクジェットヘッドから吐出し、インクジェットヘッドから順次吐出された複数の液滴を非浸透性の媒体に付着させ、これら液滴同士が媒体上でつながった線状パターンを形成する。このとき、媒体に対する液体の後退接触角を10°以下とする。非浸透性媒体上に順次着弾した液滴同士は媒体上で合一し、描画後の形状が1つの線形状となる。また、媒体に対する液体の静的接触角は10°以上であることが好ましく、吐出周波数は1kHz以上であることが好ましい。
【解決手段】機能性成分を含有する液体をインクジェットヘッドから吐出し、インクジェットヘッドから順次吐出された複数の液滴を非浸透性の媒体に付着させ、これら液滴同士が媒体上でつながった線状パターンを形成する。このとき、媒体に対する液体の後退接触角を10°以下とする。非浸透性媒体上に順次着弾した液滴同士は媒体上で合一し、描画後の形状が1つの線形状となる。また、媒体に対する液体の静的接触角は10°以上であることが好ましく、吐出周波数は1kHz以上であることが好ましい。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は線描画方法及び装置に係り、特に、インクジェットヘッドを用いて非浸透性媒体の表面上に線状のパターンを形成するのに好適な線描画技術に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、インクジェット印刷によってポリイミドフィルムに金属ナノインクを塗布して所望の導電性パターン(回路パターン)を描画する技術が開示されている。同文献1によれば、ポリイミドフィルムに対する金属ナノインクの接触角を10°以上とすることにより、塗布後の金属ナノインクの滲みを抑制し、パターン寸法精度の向上を達成している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−294308号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1では、ポリイミドワニス層上に、金属ナノインクの液滴を滴下し、その表面での液滴の接触角を測定しており(特許文献1の段落0034)、静的な接触角の条件を規定しています。一方、本願の発明者が行った実験では、インクジェット方式により、直線描画を実施する場合、後退接触角が高い場合には、線形状とならずに複数のドットの集合体となることが確認されている(図9参照)。
【0005】
特許文献1は、静的接触角の条件を規定しているものの、後退接触角については何ら注目していない。したがって、特許文献1の発明によってそのまま描画を実施すると、条件次第では良好な線形状が得られず、複数個のドット形状になることがある。
【0006】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたもので、線状パターンの描画時に複数個のドット形状になることを回避して均一な線形状を形成することができる線描画方法及び装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するために以下の発明態様を提供する。
【0008】
(発明1):発明1に係る線描画方法は、機能性成分を含有する液体をインクジェットヘッドから吐出し、前記インクジェットヘッドから順次吐出された複数の液滴を非浸透性の媒体に付着させ、これら液滴同士が前記媒体上でつながった線状パターンを形成する線描画方法であって、前記媒体に対する前記液体の後退接触角が10°以下であることを特徴とする。
【0009】
本発明によれば、非浸透性媒体上に順次着弾した液滴同士が媒体上で合一し、描画後の形状が1つの線形状となる。したがって、線状パターンとして描画した結果が複数のドット形状になることを防止することができる。
【0010】
(発明2):発明2に係る線描画方法は、発明1において、前記媒体に対する前記液体の静的接触角が10°以上であることを特徴とする。
【0011】
かかる態様によれば、均一線幅の線形状を安定して描画することができる。
【0012】
(発明3):発明3に係る線描画方法は、発明1又は2において、前記媒体に着弾する前の前記液滴の体積を真球換算したときの直径をd[μm]とするとき、前記媒体上において隣接する前記液滴のドットピッチpが次式
【0013】
【数1】
の条件を満たすように打滴を制御することを特徴とする。
【0014】
この条件を満たす打滴を行うことにより、ジャギーの発生を抑止することができる。
【0015】
(発明4):発明4に係る線描画方法は、発明1乃至3のいずれか1項において、前記線状パターンを形成する際の前記インクジェットヘッドの吐出周波数が1kHz以上であることを特徴とする。
【0016】
かかる態様によれば、周期的なバルジの発生を防止することができる。
【0017】
(発明5):発明5に係る線描画方法は、発明1乃至4のいずれか1項において、前記液体として、活性光線の照射によって硬化する液体を用い、前記線状パターンを形成するにあたり、前記媒体上で先に着弾している液滴群の集合体が当該媒体上で平衡状態に達する前に、前記集合体と更に合一させる次滴を着弾させるように前記インクジェットヘッドの打滴制御を行い、前記媒体上に付着させた前記液体に前記活性光線を照射して、当該媒体上の液体を硬化させることを特徴とする。
【0018】
活性光線としては、紫外線、可視光、赤外線、或いはこれらの適宜の組み合わせが可能である。
【0019】
(発明6):発明6に係る線描画方法は、発明5において、前記媒体に対する前記液体の静的接触角をθ[rad]とするとき、前記線状パターンを構成する最終着弾滴の着弾時から当該線状パターンを硬化させるまでの時間T[s]が次式
【0020】
【数2】
を満たすことを特徴とする。
【0021】
この発明によれば、非浸透性の媒体上に順次着弾した液滴群がまとまり、やがて平衡状態に達して線状のパターンが形成される。このとき、先着弾に係る液滴群の集合体が濡れ広がりきる前(平衡状態に達する前)に、次の液滴を着弾させ、その集合体と合一させることにより、ジャギーの発生を抑止できる。また、線状パターンを打滴後、短時間内に硬化処理を行うため、ランダムなバルジの発生を抑止できる。このように、発明6によれば、バルジやジャギーの発生を防止して、均一な線幅の線分を形成することができる。
【0022】
実験的知見によれば、着弾液滴群が媒体上で線状に合一した集合体(かたまり)をそのまま長時間放置すると、線形状の一部分が膨らみ、やがて表面張力による圧力差で次第にその膨らみが成長して大きなバルジとなる。この現象において、描画後に線形状の一部分が膨らみ始める時間は、接触角の3乗に反比例し、接触角30°(π/6[rad])のときに1秒程度である。よって、接触角30°(π/6[rad])の場合で描画後1秒以内に硬化させることが好ましい。
【0023】
(発明7):発明7に係る線描画方法は、発明1乃至4のいずれか1項において、前記液体は揮発性溶媒を含有していることを特徴とする。
【0024】
液体に揮発性を持たせることにより、ランダムなバルジの発生を防止できる。
【0025】
(発明8):発明8に係る線描画装置は、機能性成分を含有する液体を吐出するインクジェットヘッドと、前記インクジェットヘッドから吐出された液滴を付着させる非浸透性の媒体と前記インクジェットヘッドとを相対移動させる移動手段と、前記インクジェットヘッドから前記媒体に向けて順次液滴を吐出させ、これら着弾時間差のある液滴同士が前記媒体上でつながった線状パターンを形成する吐出制御を行う制御手段と、を備え、前記媒体に対する前記液体の後退接触角が10°以下であることを特徴とする。
【0026】
(発明9):発明9に係る線描画装置は、発明8において、前記制御手段は、吐出周波数10kHz以上で前記インクジェットヘッドから液滴を吐出させることを特徴とする。
【0027】
(発明10):発明10に係る線描画装置は、発明8又は9において、前記液体として、活性光線の照射によって硬化する液体が用いられ、前記媒体上に付着させた前記液体に前記活性光線を照射して、当該媒体上の液体を硬化させる活性光照射手段と、を備え、前記制御手段は、前記線状パターンを形成するにあたり、前記媒体上で先に着弾している液滴群の集合体が当該媒体上で平衡状態に達する前に、前記集合体と更に合一させる次滴を着弾させるように打滴の制御を行い、前記活性光照射手段は、前記媒体に対する前記液体の静的接触角をθ[rad]とするとき、前記線状パターンを構成する最終着弾滴の着弾時から当該線状パターンを硬化させるまでの時間T[s]が次式
【0028】
【数3】
を満たすことを特徴とする。
【0029】
(発明11):発明11に係る線描画装置は、発明10において、前記制御手段は、前記媒体上で隣接する液滴の着弾時間間隔t[s]が次式
【0030】
【数4】
を満たすように打滴を制御することを特徴とする。
【0031】
実験的知見によれば、着弾滴が平衡状態に達するまでに要する時間は接触角の3乗に反比例し、静的接触角30°(π/6[rad])のときに隣接間画素の着弾時間差(打滴時間間隔)を1μs以内とすることが好ましい。
【0032】
(発明12):発明12に係る線描画装置は、発明8乃至11のいずれか1項において、前記移動手段として、前記媒体を一定速度で搬送する媒体搬送手段を備え、前記媒体搬送手段による媒体搬送方向について前記インクジェットヘッドの下流側に前記活性光照射手段が配置されていることを特徴とする。
【0033】
かかる態様によれば、インクジェットヘッドにより描画が行われた媒体は、媒体搬送手段によって活性光照射手段の位置へと搬送されて硬化処理が行われる。
【0034】
(発明13):発明13に係る線描画装置は、発明8乃至11のいずれか1項において、前記活性光照射手段は、前記インクジェットヘッドに取り付けられ、これらが一体的に前記媒体に対して相対移動する構成であることを特徴とする。
【0035】
かかる態様によれば、インクジェットヘッドによる描画の直後にレーザー光を照射することができる。また、レーザー光は直進性が高く、インクジェットヘッドのノズルに光が入り込み難いため、インクジェットヘッドの近くに活性光照射手段を配置する形態にあっては、活性光照射手段としてレーザー光を照射するものが好ましい。
【発明の効果】
【0036】
本発明によれば、線状パターンとして描画したものが複数のドット形状になることを防止でき、良好な線形状を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の第1実施形態に係る線描画装置の構成を示す側視図
【図2】図1に示した線描画装置の平面図
【図3】記録ヘッドにおける液滴吐出素子の立体的構成を示す断面図
【図4】本例に係る線描画装置の制御系を示すブロック図
【図5】前進接触角及び後退接触角の測定方法を説明するための模式図
【図6】前進接触角を測定する時の様子を示した説明図
【図7】後退接触角を測定する時の様子を示した説明図
【図8】液の押出/吸引動作と接触角θL及び接触線BLの関係を示したグラフ
【図9】基板に対するインクの後退接触角の違いによる直線パターンの描画結果の違いを比較した図
【図10】基板に対するインクの静的接触角の違いによる直線パターンの描画結果の違いを比較した図
【図11】基板上に直線状のパターンを描画するときの手順を模式的に示す図
【図12】基板上に打滴された液滴の経時変化を模式的に示す図
【図13】印字周波数の違いによる線幅の安定性を示した図
【図14】静的接触角の違いによる液滴の濡れ広がり挙動を示したグラフ
【図15】線状パターンを描画した後に硬化処理を行う時間の違いによるバルジ発生の有無を比較した図
【図16】印字後の時間経過とバルジ部幅の関係を調べたグラフ
【図17】本例の線描画装置における記録ヘッドの移動範囲の制限を説明するための平面図
【図18】多ノズルを有する記録ヘッドと基板とを相対的に走査してパターンLを描画するときの走査制御の手順を模式的に示す図
【図19】本発明の第2実施形態に係る線描画装置の構成を示す側視図
【図20】図19に示した線描画装置の平面図
【図21】記録ヘッドとUVレーザー照射装置の位置関係と打滴時のヘッド移動方向を示す模式図
【図22】記録ヘッドとUVレーザー照射装置の位置関係と打滴時のヘッド移動方向を示す模式図
【発明を実施するための形態】
【0038】
以下、添付図面に従って本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0039】
<第1実施形態>
〔線描画装置の構成〕
図1は本発明の第1実施形態に係る線描画装置の構成を示す側視図、図2はその平面図である。これらの図面に示したとおり、本実施形態に係る線描画装置10は、基板12(「非浸透性の媒体」に相当)を搬送するベルト14(「移動手段」、「媒体搬送手段」に相当)と、基板12に向けて機能性液(ここでは、紫外線によって硬化する作用を持つ液体であり、説明の便宜上、以下「UVインク」という。)16を吐出するインクジェットヘッド(以下、「記録ヘッド」という。)18と、UV光照射装置20(「活性光照射手段」に相当)とを含んでいる。
【0040】
基板12は、記録ヘッド18から吐出したUVインク16を付着させる被描画媒体である。基板12は、樹脂に代表される非浸透性の媒体、或いは、浸透時間が十分に長い低浸透性の媒体が用いられる。本明細書ではこれらを包括して「非浸透性媒体」という。例えば、基板12は、ポリイミド、PET(ポリエチレンテレフタレート)、ガラスエポキシ、シリコン、ガラス、金属など、様々な材質が可能である。
【0041】
ベルト14は、図示せぬローラ間に巻き掛けられた無端状のベルトであり、図示せぬモータによって駆動される。ベルト14上に保持された基板12は、図1、図2の右方向(+y方向;副走査方向)に搬送される。描画時において、基板12の搬送速度は一定に制御される。なお、本例では、基板12の搬送手段としてベルト14を採用しているが、基板12を保持、搬送する手段はベルト14に限定されない。例えば、平板状のプレートに基板12を載せてプレートとともに基板12を移動させる形態や、基板12の柔軟性が許せば、ドラム(胴)の周面に基板12を巻き付けてトラムを回転させることにより、基板12を移動させるなどの形態も可能である。
【0042】
UVインク16は、グラフィック印刷の用途に適した着色インクに限らず、プリント配線用のレジストインク(耐熱性被覆材料)、導電性微粒子を分散媒に分散させた分散液、カラーフィルターの製造に用いるインクなど、様々な形態があり得る。
【0043】
記録ヘッド18は、基板12の表面と平行な面内で基板12の搬送方向(+y方向)と直交する方向(x軸方向;主走査方向)及び基板12の搬送方向と平行な方向(y軸方向)に移動可能に支持されている。記録ヘッド18を移動させるための駆動機構(x方向移動手段、y方向移動手段)の詳細な構成は図示しないが、ボールネジ、リニアレールなど、周知の手段を適用できる。記録ヘッド18について、x軸方向への移動とy軸方向への移動を同時に行うことにより、xy面内で任意の方向(斜め方向)の移動も可能である。
【0044】
また、記録ヘッド18をxy平面内で回転させる機構(回転手段)や、基板12の法線方向(z軸方向)に移動させる機構(z方向移動手段)を設けてもよい。
【0045】
描画時には、ベルト14と記録ヘッド18の間のクリアランス(すなわち、ベルト14上の基板12面と記録ヘッド18の間のクリアランス)が所定値になるようにz方向のヘッド位置が調整され、この一定のクリアランスを保って記録ヘッド18がx軸方向)及びy軸方向に走査される。記録ヘッド18を±x方向、±y方向に移動させることによって、基板12上の描画位置を変更することができ、基板12の描画領域の任意の位置に液滴を着弾させることが可能である。
【0046】
本例では、ベルト14によって基板12を一定の速度で搬送しつつ、記録ヘッド18をx軸方向及びy軸方向に移動させながら、記録ヘッド18のノズル(図3の符号32)からUVインク16を吐出することにより、基板12面上で任意の方向の直線を描画することができる。
【0047】
記録ヘッド18の速度は、基板12の搬送方向と同じ方向(図1,図2において+y方向)に移動させる場合には、その最大値を基板12の搬送速度とする。つまり、記録ヘッド18は、基板12の搬送速度を上限として+y方向に移動することができる。
【0048】
UV光照射装置20は、基板12の搬送方向について記録ヘッド18の下流側に配置されている。記録ヘッド18によって打滴(描画)が行われた基板12はベルト搬送によってy方向に搬送され、UV光照射装置20の位置へと送られる。この基板12がUV光照射装置20の下を通過する際に、当該UV光照射装置20によって基板12の描画面に紫外線22が照射される。これにより、基板12上のUVインクが硬化(固化)する。
【0049】
なお、UV光照射装置20から照射されるUV光が基板12やベルト14等で反射し、その反射光が記録ヘッド18の吐出面(ノズル面)18Aに届くと、ノズル内のインクを硬化させ、ノズル詰まり(不吐)の原因となりうる。このような問題に対処するため、UV光照射装置20と記録ヘッド18との間にUV光を遮断するための遮光板24(「遮光部材」に相当)を設置することが好ましい。
【0050】
また、インクジェット方式の記録ヘッド18は、インクを吐出しない状態が長く続くと、ノズル内のインクの溶媒が蒸発して高粘度し、吐出不良や不吐が生じる。かかる問題に対処するため、基板12上への描画開始前、或いは、描画途中に、描画領域外で予備吐出(「パージ」、「空吐出」、「唾吐き」、「ダミー吐出」とも呼ばれる。)を行うことが望ましい。このため、線描画装置10において、描画領域の外側に予備吐出領域(「パージゾーン」ともいう。)26,27を設ける態様が好ましい。
【0051】
予備吐出を行ってから基板12への描画を開始するまでの時間を短縮する観点から、予備吐出領域26,27は基板12の近くに設置することが望ましい。予備吐出後1秒以内に基板12上への印字を開始することが特に好ましいため、図2に示したように、ベルト14の両脇に予備吐出領域26,27を設ける態様が望ましい。かかる構成により、基板12への描画開始前、或いは、必要に応じて、描画中に記録ヘッド18を予備吐出領域26,27に移動させて、ここに予備吐出を行う。
【0052】
図3は、記録ヘッド18における記録素子単位となる1チャンネル分の液滴吐出素子30(1つのノズル32に対応したインク室ユニット)の立体的構成を示す断面図である。
【0053】
ノズル32に対応して設けられている圧力室34は、供給口36を介して共通流路38と連通している。共通流路38は液体の供給源たるタンク(不図示)と連通しており、タンクから供給される液体は共通流路38を介して圧力室34に供給される。
【0054】
圧力室34の一部の面(図3における天面)を構成している加圧板(共通電極と兼用される振動板)40には個別電極42を備えた圧電素子44が接合されている。なお、圧電素子44の材料としては、例えば、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)又はチタン酸バリウムのような圧電体を用いることができる。
【0055】
個別電極42と共通電極間に駆動信号が印加されると、圧電素子44が変形して圧力室34の容積が変化する。この容積変化に伴う圧力変化によりノズル32からインクが吐出される。インク吐出後、圧電素子44の変位が元に戻ると、共通流路38から供給口36を通って新しいインクが圧力室34に再充填される。
【0056】
なお、本実施形態では、インクの吐出力発生手段として圧電素子44を適用したが、このような吐出方式(ピエゾジェット方式)に代えて、圧力室34内にヒータを備え、ヒータの加熱による膜沸騰の圧力を利用してインクを吐出させるサーマル方式を適用することも可能である。
【0057】
また、本発明の実施に際して記録ヘッド18におけるノズル32の個数及びその配列形態は特に限定されず、1ノズルのみの構成でもよいし、複数のノズルを一次元配列又は二次元配列した構成であってもよい。
【0058】
図4は、線描画装置10の制御系を示すブロック図である。
【0059】
線描画装置10は、通信インターフェース50、システムコントローラ52、プログラム格納部54、メモリ56、モータドライバ58、UV光源ドライバ60、打滴制御部62、バッファメモリ64、ヘッドドライバ66を備えている。
【0060】
通信インターフェース50は、ホストコンピュータ70から送られてくる打滴データを受信するインターフェース部である。通信インターフェース50としては、USB(Universal Serial Bus)、IEEE1394、イーサネット(登録商標)、無線ネットワークなどのシリアルインターフェース、又はセントロニクスなどのパラレルインターフェースを適用することができる。なお、この部分には、通信を高速化するためのバッファメモリを搭載してもよい。
【0061】
システムコントローラ52は、中央演算処理装置(CPU)及びその周辺回路を含んでおり、線描画装置10の各部を制御する制御部であるとともに、各種の演算処理を行う演算処理部である。システムコントローラ52は、ホストコンピュータ70との間の通信制御、メモリ56の読み書き制御等をするとともに、搬送駆動系やヘッド走査系のモータ72及びUV光源74の発光を制御する制御信号を生成する。
【0062】
プログラム格納部54には、線描画装置10の制御に必要なプログラムや各種データが格納されている。システムコントローラ52は、プログラム格納部54に格納されている種々の制御プログラムを適宜読み出し、プログラムを実行する。
【0063】
メモリ56は、データの一時記憶領域、及びシステムコントローラ52が各種の演算を行うときの作業領域として使用される記憶手段である。メモリ56としては、半導体素子からなるメモリのほか、ハードディスクなどの磁気媒体を用いることができる。
【0064】
モータ72は、本装置内に設けられた各種モータを示しており、図1、図2で説明したベルト14の駆動機構に動力を与えるモータの他、記録ヘッド18の移動機構に動力を与えるモータが含まれる。モータドライバ58は、システムコントローラ52からの制御信号に従ってモータ72を駆動する。
【0065】
UV光源74は、図1、図2で説明したUV光照射装置20に含まれるものであり、UVランプやレーザダイオードなどで構成される。光源ドライバ60は、システムコントローラ52からの制御信号に従ってUV光源74のオン(発光)/オフ(消灯)や発光量の調整を行う。
【0066】
ホストコンピュータ70から送出された打滴データは、通信インターフェース50を介して線描画装置10に取り込まれ、メモリ56に一時記憶される。打滴制御部62は、システムコントローラ52の制御に従い、メモリ56内の打滴データから吐出制御用の信号を生成するための各種加工、補正などの処理を行う信号処理機能を有し、生成した吐出制御信号(吐出データ)をヘッドドライバ66に供給する制御部である。打滴制御部62において所要の信号処理が施され、該打滴データに基づいてヘッドドライバ66を介して記録ヘッド18の液体の吐出量や吐出タイミングの制御が行われる。
【0067】
打滴制御部62には、バッファメモリ64が備えられており、打滴制御部62における打滴データ処理時に打滴データやパラメータなどのデータがバッファメモリ64に一時的に格納される。なお、バッファメモリ64は、メモリ56と兼用することも可能である。また、打滴制御部62とシステムコントローラ52とを統合して1つのプロセッサで構成する態様も可能である。本例のシステムコントローラ52及び打滴制御部62の組み合わせが「制御手段」に相当している。
【0068】
ヘッドドライバ66は、打滴制御部62から与えられる吐出データに基づいて記録ヘッド18の圧電素子44(図3参照)を駆動する。ヘッドドライバ66は、ヘッドの駆動条件を一定に保つためのフィードバック制御系を備えていてもよい。
【0069】
また、図示は省略するが、線描画装置10は、記録ヘッド18に液体を供給するための供給系や、記録ヘッド18のメンテナンス(ノズル吸引やノズル面のワイピングなど)を行うメンテナンス部を備えている。
【0070】
[後退接触角の測定方法について]
本発明の実施形態では、基板に対するインクの後退接触角が10°以下となる基板とインクの組み合わせが採用される。
【0071】
図5は、前進接触角及び後退接触角の測定方法を説明する模式図である。本実施例で採用した動的接触角の測定方法は、拡張/収縮法とよばれるものである。図5のように、シリンジの中空針500の先から液体を出して基板表面502に液滴504を接触させる。シリンジによる押し出し、吸引を行うことにより、基板表面502に接した液滴504を押し広げたり、吸い込んだりする際の接触角θLと接触線(ベースライン)BLの長さ(接触面直径)の変化から前進接触角、後退接触角を測定する。
【0072】
前進接触角は、液滴504の界面が前進するときの接触角、つまり、濡れ広がる方向へ進む際の接触角である。後退接触角は、液滴504の界面が後退するときの接触角、つまり、濡れている方向へ進む際の接触角である。
【0073】
図6は、前進接触角を測定する時の様子を示した説明図である。図6に示すように、シリンジから液を押出し始めると、しばらくは、接触線(ベースライン)を維持しつつ、液滴の体積が増加し(図6(a)〜(b))、接触角は次第に大きくなる。さらに液を押出し続けると、接触線が動き、接触面積が大きくなる(図6(c))。図6(a)の状態から接触線が動いていない最大の角度(接触角)のときの状態(図6(b))における接触角を「前進接触角」を定義する。
【0074】
図7は、後退接触角を測定する時の様子を示した説明図である。図7に示すように、シリンジによって液を吸引し始めると、しばらくは、接触線(ベースライン)を維持しつつ、液滴の体積が減り(図7(a)〜(b))、接触角は次第に減少する。さらに吸引を続けると、接触線が動き、接触面積が小さくなる(図7(c))。図7(a)の状態から接触線が動いていない最小の角度(接触角)のときの状態(図7(b))における接触角を「後退接触角」を定義する。
【0075】
図8は、シリンジの動き(押出→維持→吸引→維持→押出→…)と接触角θL、ベースラインBLの測定値を示したグラフである。横軸はシリンジの状態に対応した時間(単位:[s])を示す。図8中の◆をつないだ曲線(符号[1])は接触角θLの変化を表す(左側の縦軸、単位:[°])。図8中の■をつないだ曲線(符号[2])は接触線(ベースライン)BLの変化を表す(右側の縦軸、単位:[mm])。
【0076】
図8のグラフによると、吸引によってベースラインBLが減少し始める手前の限界(接触線が動きだす直前)の接触角(図中矢印Aで示す値として約7°)が後退接触角である。
【0077】
<後退接触角の違いによる描画結果の違いについて>
図9は、基板に対するインクの後退接触角の違いによる直線パターンの描画結果(形状)の違いをまとめたものである。実験では、基板に対するインクの後退接触角がそれぞれ異なる4種類のインクを用い、ドットピッチ20μm、印字周波数10kHzにて直線の描画を実施した(比較例1,2、実施例1,2)。
【0078】
比較例1は、静的接触角25°、後退接触角16°のインクを用いた。この場合、線形状にならず、複数のドットがまばら(とびとびに)に分布するドット形状となる。
【0079】
比較例2は、静的接触角15°、後退接触角11°のインクを用いた。この場合も、線形状にならず、複数のドットが分布するドット形状となる。
【0080】
実施例1は、静的接触角29°、後退接触角9°のインクを用いた。この場合、図示のように、均一線幅の綺麗な直線形状が形成できた。
【0081】
実施例2は、静的接触角16°、後退接触角7°のインクを用いた。この場合も、図示のように、均一線幅の綺麗な直線形状が形成できた。
【0082】
図9の結果から、後退接触角が10°を超えると、複数のドット形状となり、後退接触角が10°以下になると1つの線形上となることがわかる。つまり、後退接触角は10°以下であることが好ましい。
【0083】
上述した後退接触角の条件(10°以下)と組み合わせると一層好ましい他の条件について説明する。
【0084】
<静的接触角の違いによる描画結果の違いについて>
図10は、基板に対するインクの静的接触角の違いによる直線パターンの描画結果(形状)の違いをまとめたものである。実験では、基板に対するインクの静的接触角がそれぞれ異なる3種類のインクを用い、ドットピッチ20μm、印字周波数10kHzにて直線の描画を実施した(実施例1,2、比較例3)。
【0085】
実施例1,2に示すように、静的接触角が10°以上では安定した線形状となる。一方、静的接触角が10°未満になると、比較例3のように、液滴同士は合一するものの、線形状としては不安定な部分が散見される(線幅が不均一なものとなる)。つまり、静的接触角は10°以上であることが好ましい。
【0086】
[液滴の吐出条件について]
図11は、記録ヘッド18をx方向に走査して基板12上に直線状のパターンLを描画するときの手順を模式的に示す図である。ここでは、説明の便宜上、記録ヘッド18は1ノズルのみを有するものとして説明する。
【0087】
図11に示すように、記録ヘッド18をx方向に走査しながら、ノズル32よりUVインクを順次吐出して、その着弾液滴80を基板12上で合一させることにより基板12上に直線状のパターンLを描画する。以下、このような線描画においてジャギー及びバルジの発生を防止するための条件を検討する。
【0088】
[液体の吐出条件1(ドットピッチp)]
図12は、基板12の表面に打滴された液滴の経時変化を模式的に示す図(断面図及び平面図)である。図12(a)に示すように、記録ヘッド18から吐出されて基板12の表面に着弾した液滴D1eqmは、着弾当初はそれぞれ略円形であり、隣接する液滴と接触する。そして、図12(b)に示すように、各液滴Dが濡れ広がってパターンLが形成される。
【0089】
液滴同士が合一して最終的な線状のパターンLが形成された際には、パターンLの輪郭は理想的には滑らかな直線となり、その合一体の形状は、全体的には概ね半円柱形状(円柱を軸と平行な面で切断した部分円柱形状)となる。このため、パターンLの線分の両端を除き、線分の中で個々の着弾液滴の部分に注目すると、着弾直後の半球型の形状(図12(a))から、濡れ広がり後には半円柱型の形状(図12(b))に変化したものと見なすことができる。
【0090】
ここで、基板12は、液滴Dが染み込まない(浸透しない)媒体であり、基板12に着弾する前後で液滴の体積は保存されるとする(仮定1)。また、液滴Dの基板12に対する接触角θ[rad]が一定であるとする(仮定2)。
【0091】
このとき、基板12に着弾したときの液滴D1eqmの直径deqm[μm]と着弾前の液滴Dの直径d[μm]との比(拡がり率)βeqmは下記の式(1)により表される。ここで、直径dは、着弾前の液滴Dを真球換算したときの直径である。
【0092】
【数5】
パターンLの幅をw[μm]とすると、図12(b)における液体D2eqmを、液体D2eqmの中心を通りzy平面に平行な面で切ったときの断面積S1[μm2]は下記の式(2)により表される。
【0093】
【数6】
したがって、基板12上において隣接する液滴の中心間の距離(ノズルピッチ)をp[μm]とすると、液体D2eqmの体積Va[μm3]は下記の式(3)により表される。
【0094】
【数7】
一方、着弾前の液滴の直径がdであることから、着弾前の液滴Dの体積Vb[μm3]は下記の式(4)により表される。
【0095】
【数8】
上記仮定1により着弾の前後で液滴Dの体積は不変である。Va=Vbを線幅wについて解くと、下記の式(5)が得られる。
【0096】
【数9】
ここで、ジャギーが発生しないためには、着弾径dより線幅wが広くなることが必要との観点から、w≧deqm=βeqmdであることから、ドットピッチpを変数として式(5)を解くと、ドットピッチpの条件式(6)が得られる。
【0097】
【数10】
上記の式(6)の条件を満たすようにドットピッチpを制御することにより、パターンLの輪郭のギザギザ(ジャギー)が発生するのを防止することができる。
【0098】
一方、ジャギーが必ず発生する条件は、線幅がドットピッチよりも小さくなるときである。これは、この条件では液滴同士が接触する時点で既に1滴が線幅よりも濡れ広がっており、接触線のピニング効果により、既に濡れ広がった液滴の線幅以下の線になることができないためである。
【0099】
このときの条件は、w>pであり、式(7)を得る。
【0100】
【数11】
これをpに関して解くと、式(8)を得る。
【0101】
【数12】
したがって、必ずしもジャギーが発生しない条件は、式(9)である。
【0102】
【数13】
[液体の吐出条件2(打滴の時間間隔)]
次に、打滴の時間間隔について説明する。図13は、上記の式(6)を満たす条件の下で、静的接触角θ=30[°]、着弾径deqm=55[μm]、ドットピッチ20[μm]として、1秒間に液滴Dを打滴する回数(「印字周波数」或いは「吐出周波数」という。)を変えて線を描画したときの線幅wの安定性を示している。図13中の(a)は印字周波数10Hzの場合、(b)は1kHzの場合、(c)は10kHzの場合の描画結果である。
【0103】
この結果から、静的接触角30°程度では印字周波数が1kHz以上の高周波印字を行うことにより、バルジの発生が抑制できる。以下、単に「接触角」というときは、静的接触角を意味する。接触角の条件を更に変えて、同様の実験を行ったところ、接触角が小さい条件では、印字周波数がより低い条件でもバルジの発生が抑制された。逆に、接触角が大きい条件では、印字周波数をより高い条件にすることにより、バルジの発生が抑制された。かかる知見から、バルジの発生は接触角によって決まる濡れ広がりにかかる時間が影響していると考えられる。
【0104】
図14は、接触角の違いによる液滴の濡れ広がりの挙動を比較したグラフである。接触角30°の場合と、接触角75°の場合とでそれぞれ、濡れ広がりによって平衡に達するまでの時間を調べた。図14の横軸は時間(ただし、スケールは対数)、縦軸は着弾直後の着弾径と最終着弾径の比(「着弾径/最終着弾径」)である。つまり、縦軸は、着弾径を最終着弾径で規格化したものである。
【0105】
接触角75°の条件では、最終着弾径の近くまでほぼ広がりきるまでの時間がt1(約0.2[ms])であるのに対し、接触角30°の条件では最終着弾径の近くまでほぼ広がりきるまでの時間がt2(約2[ms])である。つまり、接触角30°の方が接触角75°よりも平衡に達するまでの時間が約10倍長い。
【0106】
このように、接触角の違いで液滴が濡れ広がりきるまでの時間(平衡状態に達するまでに要する時間)が大きく異なる。実験に基づく経験的な知見から、濡れ広がりきるまでに要する時間は接触角の約3乗に反比例すると考えられる。よって、バルジ抑制の観点から、着弾液滴群が濡れ広がりきるまでの間に(平衡に達するまでの時間内に)隣接する液滴を次々に着弾させることが望ましい。このため、接触角が大きい条件の場合ほど、印字周波数を高くする(打滴時間間隔を短くする)ことが望ましい。
【0107】
実験によれば、接触角30°の場合に、着弾時間差(打滴時間間隔)を1μs以内とすることが好ましい。したがって、接触角をパラメータとして一般化すると、下記式(10)の条件となる。
【0108】
【数14】
すなわち、接触角に応じて式(10)の条件を満たす着弾時間間隔を実現する高周波印字(打滴)を行うことにより、着弾液滴群が基板上でまとまった状態で平衡状態を作成する。これにより、低周波印字時のときに着弾液滴群が基板上で小さなまとまりの集合体として発生する周期的な小さいバルジ及びジャギーの発生を抑止することができる。
【0109】
[打滴後に硬化処理を実施するまでの時間間隔について]
図15(a)は記録ヘッド18にて基板12上に線状のパターンを描画した後約2分後にUV光照射装置20からUV光を照射して硬化処理を行った場合に得られた線状パターンの例である。図15(b)は記録ヘッド18にて基板12上に線状のパターンを描画した後約1秒後にUV光照射装置20からUV光を照射して硬化処理を行った場合に得られた線状パターンの例である。
【0110】
なお、いずれの場合も打滴条件は既述した式(6)の条件を満たすものであり、ここでは、接触角30°、ドットピッチ5μm、印字周波数4kHzとした。また、図15(a)、(b)はそれぞれ約1cmの長さの線分を描画した線状パターンを4つに分割して並べた図である。
【0111】
図15(a)、(b)の両者を比較すると明らかなように、印字後約2分後に硬化処理を実施した場合には、線分中に大きな液たまり(バルジ84)が成長しているのに対し(図15(a))、印字後約1秒後に硬化処理を実施した場合にはバルジが発生していない。このように、打滴直後に硬化処理を実施し、基板12上における液の流動性を失わせることにより、バルジの発生を抑制することができる。
【0112】
図16は、印字後の時間経過とバルジ部幅の関係を調べたグラフである。なお、ここで言う「バルジ部幅」とは、図15の「wb」で示したように、線状パターンLの線の太さ方向の幅を指す。
【0113】
図16において横軸は印字後の経過時間(単位[秒])を表し、縦軸はバルジ部幅(単位[μm])を表す。なお、図16は図15と同等の条件で打滴したものである。図16に示すように、印字後1.5秒後からバルジが成長し始め、時間経過とともに次第に大きく膨らんでいく様子が把握できる。
【0114】
バルジは打滴後のインクが基板12上で流動性を有していることによって成長することから、1秒以内にUV光を照射してインクを硬化させることが好ましい。
【0115】
上記の知見から、本実施形態に係る線描画装置10における記録ヘッド18の打滴位置と、UV光照射装置20のUV照射位置との間の距離、並びに、基板12の搬送速度について制約が設けられる。
【0116】
すなわち、図17に示すように、記録ヘッド18のy軸方向の移動可能範囲は、記録ヘッド18が基板搬送方向に対してUV光照射装置20から最も離れる位置(符号86で示した破線の位置)からUV光照射装置20までの距離dH[m]が、基板12の搬送速度v[m/s]×1秒([s])の距離以内とする。
【0117】
【数15】
このような条件を満たすように、記録ヘッド18の可動範囲を規制(制限)するとともに、UV光照射装置20の設置位置と、基板12の搬送速度(ベルト14の線速度)を制御する。
【0118】
なお、ベルト14によって一定速度v[m/s]で搬送される基板12上に、当該基板搬送速度方向に垂直な線(図17におけるx方向と平行な線)を描画する際は、記録ヘッド18も基板搬送速度と同じ速度で移動させる(y方向の相対速度を0とする)。
【0119】
また、基板搬送速度方向に平行な線を描画する場合は、印字周波数とドットピッチの条件から記録ヘッド18の移動速度が決定される。基板搬送速度方向に対して斜めに交差する斜め線を描画する場合は、その斜め線の方向に記録ヘッド18が基板12に対して相対的に移動するように記録ヘッド18の速度を決定する。
【0120】
基板搬送速度方向に対して垂直な線、平行な線、或いは斜めに交差する斜め線のいずれを描画する場合であっても、図17のように最大離間距離dH[m]と基板搬送速度v[m/s]について、式(11)の条件を満たすことにより、バルジ発生前に硬化させることができる。
【0121】
また、実験によれば、描画後に線形状の一部分が膨らみ始める時間は、接触角の約3乗に反比例する。よって、接触角をパラメータとして、硬化までの時間を規定すると、描画後に線形状の一部分が膨らみ始める時間については、接触角の3乗に反比例することから、接触角をパラメータとして一般化すると、下記式(12)の条件となる。
【0122】
【数16】
そして、[数15]と同様の観点について、式(12)の条件を適用して一般化すると下記式(13)の条件となる。
【0123】
【数17】
すなわち、接触角に応じて式(13)の条件を満たす印字後の即時硬化を行うことにより、バルジの発生・成長を抑止することができる。
【0124】
<マルチノズルヘッドを利用する形態>
図5では1ノズルで線描画する場合を例に説明したが、記録ヘッド18の構成として複数のノズルを有する形態も可能である。例えば、図18に示すように、複数のノズル32を一定のノズル間隔Npで1列に並べた記録ヘッド18’(ラインヘッド)を用いることができる。
【0125】
図18は、記録ヘッド18’と基板12とをy方向に相対的に走査してパターンLを描画するときの走査制御の手順を模式的に示す図である。図18において、基板12の搬送方向をy方向(副走査方向)、基板12の面に平行でy方向に垂直な方向(主走査方向)をx方向とする。また、xy平面に垂直な方向をz方向、直線状のパターンLが形成される方向(パターン形成方向、印字方向)をU方向、基板12に平行で、U方向に垂直な方向をV方向とする。
【0126】
図18に示すように、1つの線状のパターンLを形成する時に少なくとも2つ以上のノズル32が用いられている。記録ヘッド18’は、xy面内で回転させる回転機構によって、ノズル32の中心を結ぶ直線(ノズルラインNL)が印字方向(U方向)に対してなす角がφ[°](0°<φ<90°)となるように保持される。ノズルラインNLとU軸のなす角がφ[°]の状態を保ったまま、記録ヘッド18と基板12とが副走査方向(y方向)に相対的に走査され、各ノズル32から順次打滴を行うことにより、U方向に延びる線状の(例えば、直線の)パターンLが描画される。なお、記録ヘッド18’のノズルラインNLをx方向と平行に設置し、基板12側をx方向に対して角度φだけ傾けるようにxy面内で回転させる態様も可能である。
【0127】
図18の形態の場合、基板12上でU方向に並ぶ着弾液滴80の着弾時間差について式(10)の条件を満たすように打滴を制御する。図18の形態によれば、記録ヘッド18’の吐出周波数と基板12の搬送速度との組み合わせによって着弾時間間隔(基板12上への印字周波数)を制御できる。
【0128】
<第2実施形態>
図19は本発明の第2実施形態に係る線描画装置110の構成を示す側視図であり、図20はその平面図である。これらの図面中、図1、図2で説明した構成と同一又は類似する要素には同一の符号を付し、その説明は省略する。
【0129】
図19、図20に示した第2実施形態に係る線描画装置110は、基板12の搬送手段として、支持プレート114が用いられている。この支持プレート114は図示せぬ移動機構(例えば、xyテーブルなど)によって、x方向及びこれに直交するy方向に移動可能である。なお、支持プレート114はxy面内で回転させる機構を備えても良い。
【0130】
また、記録ヘッド18にはUVレーザー照射装置120が取り付けられている。記録ヘッド18とUVレーザー照射装置120は一体的に移動可能であり、図示せぬヘッド移動機構によって、x方向及びy方向に移動可能である。なお、記録ヘッド18及びUVレーザー照射装置120をxy面内で回転させる機構を備えても良い。
【0131】
記録ヘッド18の近くに設置するUV光照射手段としては、ビームの広がり角の小さいレーザーが好適である。
【0132】
図20に示すように、UVレーザー照射装置120は、記録ヘッド18から見てx方向に配置される第1のUVレーザー照射装置120Aと、記録ヘッド18から見てy方向に配置される第2のUVレーザー照射装置120Bとを組み合わせたユニットとして構成されている。
【0133】
なお、図20において、記録ヘッド18の周囲4面を全て取り囲むようにUVレーザー照射装置を取り付ける態様も可能であるが、必ずしも4面全周にUVレーザー照射装置を取り付けることは必要なく、少なくとも1つの方向にUVレーザー照射装置を設置すればよい。
【0134】
図20では、x方向とy方向にそれぞれ1つずつUVレーザー照射装置(120A、120)を設けており、記録ヘッド18を挟んで第1のUVレーザー照射装置120Aと反対側にはUVレーザー照射装置は取り付けられておらず、記録ヘッド18を挟んで第2のUVレーザー照射装置120Bと反対側にはUVレーザー照射装置は取り付けられていない。
【0135】
このような記録ヘッド18とUVレーザー照射装置(120A,120B)との配置関係から、基板12に対して記録ヘッド18が、図中の白抜き矢印123、124の方向へと相対的に移動する際に印字(打滴)を行うものとする。或いはまた、記録ヘッド18に対して基板12が図中の白抜き矢印133、134の方向へと相対的に移動する際に、記録ヘッド18から打滴を行うものとする。
【0136】
図21は、記録ヘッド18とUVレーザー照射装置(120A、120B)の配置関係と、打滴時の記録ヘッド18の移動方向を示した模式図である。図示のように、矢印123又は124の方向に記録ヘッド18を移動させるときに打滴を行う。これにより、記録ヘッド18が打滴した直後に第1のUVレーザー照射装置120A又は第2のUVレーザー照射装置120Bを照射して基板12上の液滴を硬化させることが可能である。
【0137】
UVレーザー照射装置を1つのみ取り付ける場合について図22に示す。この場合も図21と同様に、記録ヘッド18とUVレーザー照射装置120A(又は120B)との配置関係において、記録ヘッド18が移動方向に向かって先頭側、UVレーザー照射装置120A(又は120B)が移動方向に向かって後方側となる移動方向(白抜き矢印123,124)に当該ユニットが移動するときのみ印字(打滴)を行うものとする。
【0138】
また、記録ヘッド18による打滴制御に連動してUVレーザー照射装置(120A,120B)のレーザー照射タイミング、照射時間等が制御される。この場合、基板12上に着弾したUVインクに対して重合(硬化)に必要なエネルギー量の紫外線を照射する観点から、照射継続時間が決定される。例えば、吐出信号が記録ヘッド18のある吐出ノズルのどれか1つに入ってから少なくとも3秒間はUVレーザーが照射されるような構成とすることが好ましい。
【0139】
<UVインクの例について>
配線描画に用いる機能性液体として、導電性微粒子を分散媒に分散させた分散液を用いることができる。導電性微粒子としては、例えば、銀ナノ粒子が用いられ、分散媒としては、例えば水又はテトラデカンが用いられる。なお、導電性微粒子は、銀に限らず、金、銅、パラジウム、ニッケルなどでもよい。
【0140】
また、液体中にUV硬化性モノマーを含有させ、着弾液に対して紫外線を照射することにより、液中のUV硬化性モノマーを硬化重合させることができる。
【0141】
UV硬化性モノマーは、重合開始剤などから発生するラジカルなどの開始種により重合または架橋反応を生起し、これらを含有する組成物を硬化させる機能を有するものである。
【0142】
UV硬化性モノマーは、ラジカル重合反応、二量化反応など公知の重合又は架橋反応を生起する重合性又は架橋性材料を適用することができる。例えば、少なくとも1個のエチレン性不飽和二重結合を有する付加重合性化合物、マレイミド基を側鎖に有する高分子化合物、芳香核に隣接した光二量化可能な不飽和二重結合を有するシンナミル基、シンナミリデン基やカルコン基等を側鎖に有する高分子化合物などが挙げられる。中でも、少なくとも一個のエチレン性不飽和二重結合を有する付加重合性化合物がより好ましく、末端エチレン性不飽和結合を少なくとも1個、より好ましくは2個以上有する化合物(単官能又は多官能化合物)から選択されるものであることが特に好ましい。具体的には、本発明に係る産業分野において広く知られるものの中から適宜選択することができ、例えば、モノマー、プレポリマー(すなわち2量体、3量体及びオリゴマー)及びそれらの混合物、並びにそれらの共重合体などの化学的形態を持つものが含まれる。
【0143】
UV硬化性モノマーは、1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0144】
本発明の実施に用いることができるUV硬化性モノマーとしては、特に、ラジカル開始剤から発生する開始種により重合反応を起こさせる各種公知のラジカル重合性のモノマーを用いることが好ましい。
【0145】
ラジカル重合性モノマーとしては、(メタ)アクリレート類、(メタ)アクリルアミド類、芳香族ビニル類、ビニルエーテル類及び内部二重結合を有する化合物(マレイン酸など)等が挙げられる。ここで、「(メタ)アクリレート」は、「アクリレート」、「メタクリレート」の双方又はいずれかをさし、「(メタ)アクリル」は、「アクリル」、「メタクリル」の双方又はいずれかをさす。
【0146】
<第3実施形態:揮発性溶媒を用いたインクの利用>
以下に説明する第3実施形態では、機能性成分(例えば、金属ナノ粒子)を揮発性溶媒(例えば、水又はテトラデカン)に混合することにより生成された液体を用い、記録ヘッドと基板とを相対的に走査して、基板上に線状のパターンを描画する。装置構成としては、図1等で説明した第1実施形態や図19等で説明した第2実施形態と同等の構成を採用することができる。また、図1等で説明した第1実施形態からUV光照射装置20を省略した形態、或いは、図19等で説明した第2実施形態からUVレーザー照射装置120を省略した形態も可能である。
【0147】
この第3実施形態においても、第1実施形態及び第2実施形態で説明した後退接触角の条件(10°以下)等は同様に適用される。また、後退接触角の条件(10°以下)と組み合わせると、一層好ましい他の条件を以下に説明する。
【0148】
[液体中の溶媒(揮発性成分)の割合の条件)]
第3実施形態のような揮発性溶媒を含んだ液体を用いて線状パターンを描画する場合、液体に含まれる揮発性溶媒の割合が大きいと、バルジが発生しやすくなる。以下、液体中の溶媒の好ましい割合の条件について検討する。
【0149】
ここで、基板12上に吐出する液体は、例えば、水又はテトラデカン(いずれも揮発性が有る。)を溶媒中に銀ナノ粒子が分散した液体(インク)とする。
【0150】
上記のように、基板12上に液体を吐出してパターンLを描画する場合、パターンL上の溶媒(液体成分)の量が線幅wに対して多すぎるとバルジが発生しやすくなる。バルジの発生を防止するためには、液滴Dが基板12に着弾した後に溶媒を揮発(蒸発)させたときに、基板12上に残る溶媒量を、バルジが発生しない程度に減少させればよい。具体的には、基板12上において濡れ広がって溶媒が揮発した後の液滴Dの直径deqm[μm]が線幅w[μm]と等しくなるようにする。w=deqmとすると、濡れ広がって溶媒が揮発した後の液体D2eqmの体積V1[μm3]は下記の式(14)により表される。
【0151】
【数18】
一方、着弾前の液滴の直径がdであることから、着弾前の液滴Dの体積V2[μm3]は下記の式(15)により表される。
【0152】
【数19】
したがって、液体中に含まれる揮発性の溶媒の割合(体積の割合){(V2−V1)/V2×100[%]}は下記の式(16)により表される。
【0153】
【数20】
液体中の揮発性溶媒の体積の割合を上記の式(16)で表される値以上とすることにより、バルジの発生を防止することができる。
【0154】
[液体の吐出条件3(打滴の時間間隔)]
次に、打滴の時間間隔について説明する。表1は、液滴の直径d=26.0[μm]、deqm=55.5[μm]、接触角θ=30[°]として(すなわち、上記の式(6)及び式(16)の条件式を満たす条件下で)、1秒間に液滴Dを打滴する回数(印字周波数)とドットピッチとを変えて線を描画したときの線幅wの安定性を示している。
【0155】
【表1】
表1では、描画された線の線幅wが安定している場合(例えば、線幅wの変動量(例えば、単位長さ当たりの線幅の最大値と最小値の差)が所定値未満の場合)が「〇」、線幅wの変動量が所定値以上であるものの「×」の場合よりも変動量が大きくない場合が「△」、「△」の場合の変動量の最大値よりも線幅wの変動量が大きい場合が「×」で表されている。表1の実験結果によれば、印字周波数を1000Hz以上にした場合に、線幅wが安定し、バルジ及びジャギーが発生しないという結果が得られた。
【0156】
したがって、n滴目が印字されてから(n+1)滴目が印字されるまでの間隔を1ミリ秒以下とする。このようにすることで、印字中に基板12上において、平衡状態(液滴Dがぬれ広がって液滴Dの形状が安定した状態)の部分と、非平衡状態(液滴Dがぬれ広がっている最中の液滴Dの形状が安定する前の状態)の部分とが混在することが防止できる。この結果、非平衡状態の液滴Dの大きな固まりができて、パターンLの一部が太くなったりすることなく平衡状態となり、均一幅の線描画が可能となる。
【0157】
第3実施形態において、後退接触角の条件(10°以下)に加えて、液体中の揮発性成分の割合条件(式(16)で表される値以上)や、印字周波数の条件(1kHz以上)を満たすことがより一層好ましい。
【0158】
<装置応用例>
上述した実施形態の線描画装置は、電子回路基板の配線描画装置、各種デバイスの製造装置、吐出用の機能性液体として樹脂液を用いるレジスト印刷装置、微細構造物形成装置など、線状の画像パターンを形成し得る様々な装置に適用可能である。
【符号の説明】
【0159】
10…線描画装置、12…基板、14…ベルト、16…UVインク、18…記録ヘッド(インクジェットヘッド)、20…UV光照射装置、24…遮光板、32…ノズル、52…システムコントローラ、62…打滴制御部、72…モータ、80…着弾液滴、84…バルジ、110…線描画装置、120…UVレーザー照射装置
【技術分野】
【0001】
本発明は線描画方法及び装置に係り、特に、インクジェットヘッドを用いて非浸透性媒体の表面上に線状のパターンを形成するのに好適な線描画技術に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、インクジェット印刷によってポリイミドフィルムに金属ナノインクを塗布して所望の導電性パターン(回路パターン)を描画する技術が開示されている。同文献1によれば、ポリイミドフィルムに対する金属ナノインクの接触角を10°以上とすることにより、塗布後の金属ナノインクの滲みを抑制し、パターン寸法精度の向上を達成している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−294308号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1では、ポリイミドワニス層上に、金属ナノインクの液滴を滴下し、その表面での液滴の接触角を測定しており(特許文献1の段落0034)、静的な接触角の条件を規定しています。一方、本願の発明者が行った実験では、インクジェット方式により、直線描画を実施する場合、後退接触角が高い場合には、線形状とならずに複数のドットの集合体となることが確認されている(図9参照)。
【0005】
特許文献1は、静的接触角の条件を規定しているものの、後退接触角については何ら注目していない。したがって、特許文献1の発明によってそのまま描画を実施すると、条件次第では良好な線形状が得られず、複数個のドット形状になることがある。
【0006】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたもので、線状パターンの描画時に複数個のドット形状になることを回避して均一な線形状を形成することができる線描画方法及び装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するために以下の発明態様を提供する。
【0008】
(発明1):発明1に係る線描画方法は、機能性成分を含有する液体をインクジェットヘッドから吐出し、前記インクジェットヘッドから順次吐出された複数の液滴を非浸透性の媒体に付着させ、これら液滴同士が前記媒体上でつながった線状パターンを形成する線描画方法であって、前記媒体に対する前記液体の後退接触角が10°以下であることを特徴とする。
【0009】
本発明によれば、非浸透性媒体上に順次着弾した液滴同士が媒体上で合一し、描画後の形状が1つの線形状となる。したがって、線状パターンとして描画した結果が複数のドット形状になることを防止することができる。
【0010】
(発明2):発明2に係る線描画方法は、発明1において、前記媒体に対する前記液体の静的接触角が10°以上であることを特徴とする。
【0011】
かかる態様によれば、均一線幅の線形状を安定して描画することができる。
【0012】
(発明3):発明3に係る線描画方法は、発明1又は2において、前記媒体に着弾する前の前記液滴の体積を真球換算したときの直径をd[μm]とするとき、前記媒体上において隣接する前記液滴のドットピッチpが次式
【0013】
【数1】
の条件を満たすように打滴を制御することを特徴とする。
【0014】
この条件を満たす打滴を行うことにより、ジャギーの発生を抑止することができる。
【0015】
(発明4):発明4に係る線描画方法は、発明1乃至3のいずれか1項において、前記線状パターンを形成する際の前記インクジェットヘッドの吐出周波数が1kHz以上であることを特徴とする。
【0016】
かかる態様によれば、周期的なバルジの発生を防止することができる。
【0017】
(発明5):発明5に係る線描画方法は、発明1乃至4のいずれか1項において、前記液体として、活性光線の照射によって硬化する液体を用い、前記線状パターンを形成するにあたり、前記媒体上で先に着弾している液滴群の集合体が当該媒体上で平衡状態に達する前に、前記集合体と更に合一させる次滴を着弾させるように前記インクジェットヘッドの打滴制御を行い、前記媒体上に付着させた前記液体に前記活性光線を照射して、当該媒体上の液体を硬化させることを特徴とする。
【0018】
活性光線としては、紫外線、可視光、赤外線、或いはこれらの適宜の組み合わせが可能である。
【0019】
(発明6):発明6に係る線描画方法は、発明5において、前記媒体に対する前記液体の静的接触角をθ[rad]とするとき、前記線状パターンを構成する最終着弾滴の着弾時から当該線状パターンを硬化させるまでの時間T[s]が次式
【0020】
【数2】
を満たすことを特徴とする。
【0021】
この発明によれば、非浸透性の媒体上に順次着弾した液滴群がまとまり、やがて平衡状態に達して線状のパターンが形成される。このとき、先着弾に係る液滴群の集合体が濡れ広がりきる前(平衡状態に達する前)に、次の液滴を着弾させ、その集合体と合一させることにより、ジャギーの発生を抑止できる。また、線状パターンを打滴後、短時間内に硬化処理を行うため、ランダムなバルジの発生を抑止できる。このように、発明6によれば、バルジやジャギーの発生を防止して、均一な線幅の線分を形成することができる。
【0022】
実験的知見によれば、着弾液滴群が媒体上で線状に合一した集合体(かたまり)をそのまま長時間放置すると、線形状の一部分が膨らみ、やがて表面張力による圧力差で次第にその膨らみが成長して大きなバルジとなる。この現象において、描画後に線形状の一部分が膨らみ始める時間は、接触角の3乗に反比例し、接触角30°(π/6[rad])のときに1秒程度である。よって、接触角30°(π/6[rad])の場合で描画後1秒以内に硬化させることが好ましい。
【0023】
(発明7):発明7に係る線描画方法は、発明1乃至4のいずれか1項において、前記液体は揮発性溶媒を含有していることを特徴とする。
【0024】
液体に揮発性を持たせることにより、ランダムなバルジの発生を防止できる。
【0025】
(発明8):発明8に係る線描画装置は、機能性成分を含有する液体を吐出するインクジェットヘッドと、前記インクジェットヘッドから吐出された液滴を付着させる非浸透性の媒体と前記インクジェットヘッドとを相対移動させる移動手段と、前記インクジェットヘッドから前記媒体に向けて順次液滴を吐出させ、これら着弾時間差のある液滴同士が前記媒体上でつながった線状パターンを形成する吐出制御を行う制御手段と、を備え、前記媒体に対する前記液体の後退接触角が10°以下であることを特徴とする。
【0026】
(発明9):発明9に係る線描画装置は、発明8において、前記制御手段は、吐出周波数10kHz以上で前記インクジェットヘッドから液滴を吐出させることを特徴とする。
【0027】
(発明10):発明10に係る線描画装置は、発明8又は9において、前記液体として、活性光線の照射によって硬化する液体が用いられ、前記媒体上に付着させた前記液体に前記活性光線を照射して、当該媒体上の液体を硬化させる活性光照射手段と、を備え、前記制御手段は、前記線状パターンを形成するにあたり、前記媒体上で先に着弾している液滴群の集合体が当該媒体上で平衡状態に達する前に、前記集合体と更に合一させる次滴を着弾させるように打滴の制御を行い、前記活性光照射手段は、前記媒体に対する前記液体の静的接触角をθ[rad]とするとき、前記線状パターンを構成する最終着弾滴の着弾時から当該線状パターンを硬化させるまでの時間T[s]が次式
【0028】
【数3】
を満たすことを特徴とする。
【0029】
(発明11):発明11に係る線描画装置は、発明10において、前記制御手段は、前記媒体上で隣接する液滴の着弾時間間隔t[s]が次式
【0030】
【数4】
を満たすように打滴を制御することを特徴とする。
【0031】
実験的知見によれば、着弾滴が平衡状態に達するまでに要する時間は接触角の3乗に反比例し、静的接触角30°(π/6[rad])のときに隣接間画素の着弾時間差(打滴時間間隔)を1μs以内とすることが好ましい。
【0032】
(発明12):発明12に係る線描画装置は、発明8乃至11のいずれか1項において、前記移動手段として、前記媒体を一定速度で搬送する媒体搬送手段を備え、前記媒体搬送手段による媒体搬送方向について前記インクジェットヘッドの下流側に前記活性光照射手段が配置されていることを特徴とする。
【0033】
かかる態様によれば、インクジェットヘッドにより描画が行われた媒体は、媒体搬送手段によって活性光照射手段の位置へと搬送されて硬化処理が行われる。
【0034】
(発明13):発明13に係る線描画装置は、発明8乃至11のいずれか1項において、前記活性光照射手段は、前記インクジェットヘッドに取り付けられ、これらが一体的に前記媒体に対して相対移動する構成であることを特徴とする。
【0035】
かかる態様によれば、インクジェットヘッドによる描画の直後にレーザー光を照射することができる。また、レーザー光は直進性が高く、インクジェットヘッドのノズルに光が入り込み難いため、インクジェットヘッドの近くに活性光照射手段を配置する形態にあっては、活性光照射手段としてレーザー光を照射するものが好ましい。
【発明の効果】
【0036】
本発明によれば、線状パターンとして描画したものが複数のドット形状になることを防止でき、良好な線形状を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の第1実施形態に係る線描画装置の構成を示す側視図
【図2】図1に示した線描画装置の平面図
【図3】記録ヘッドにおける液滴吐出素子の立体的構成を示す断面図
【図4】本例に係る線描画装置の制御系を示すブロック図
【図5】前進接触角及び後退接触角の測定方法を説明するための模式図
【図6】前進接触角を測定する時の様子を示した説明図
【図7】後退接触角を測定する時の様子を示した説明図
【図8】液の押出/吸引動作と接触角θL及び接触線BLの関係を示したグラフ
【図9】基板に対するインクの後退接触角の違いによる直線パターンの描画結果の違いを比較した図
【図10】基板に対するインクの静的接触角の違いによる直線パターンの描画結果の違いを比較した図
【図11】基板上に直線状のパターンを描画するときの手順を模式的に示す図
【図12】基板上に打滴された液滴の経時変化を模式的に示す図
【図13】印字周波数の違いによる線幅の安定性を示した図
【図14】静的接触角の違いによる液滴の濡れ広がり挙動を示したグラフ
【図15】線状パターンを描画した後に硬化処理を行う時間の違いによるバルジ発生の有無を比較した図
【図16】印字後の時間経過とバルジ部幅の関係を調べたグラフ
【図17】本例の線描画装置における記録ヘッドの移動範囲の制限を説明するための平面図
【図18】多ノズルを有する記録ヘッドと基板とを相対的に走査してパターンLを描画するときの走査制御の手順を模式的に示す図
【図19】本発明の第2実施形態に係る線描画装置の構成を示す側視図
【図20】図19に示した線描画装置の平面図
【図21】記録ヘッドとUVレーザー照射装置の位置関係と打滴時のヘッド移動方向を示す模式図
【図22】記録ヘッドとUVレーザー照射装置の位置関係と打滴時のヘッド移動方向を示す模式図
【発明を実施するための形態】
【0038】
以下、添付図面に従って本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0039】
<第1実施形態>
〔線描画装置の構成〕
図1は本発明の第1実施形態に係る線描画装置の構成を示す側視図、図2はその平面図である。これらの図面に示したとおり、本実施形態に係る線描画装置10は、基板12(「非浸透性の媒体」に相当)を搬送するベルト14(「移動手段」、「媒体搬送手段」に相当)と、基板12に向けて機能性液(ここでは、紫外線によって硬化する作用を持つ液体であり、説明の便宜上、以下「UVインク」という。)16を吐出するインクジェットヘッド(以下、「記録ヘッド」という。)18と、UV光照射装置20(「活性光照射手段」に相当)とを含んでいる。
【0040】
基板12は、記録ヘッド18から吐出したUVインク16を付着させる被描画媒体である。基板12は、樹脂に代表される非浸透性の媒体、或いは、浸透時間が十分に長い低浸透性の媒体が用いられる。本明細書ではこれらを包括して「非浸透性媒体」という。例えば、基板12は、ポリイミド、PET(ポリエチレンテレフタレート)、ガラスエポキシ、シリコン、ガラス、金属など、様々な材質が可能である。
【0041】
ベルト14は、図示せぬローラ間に巻き掛けられた無端状のベルトであり、図示せぬモータによって駆動される。ベルト14上に保持された基板12は、図1、図2の右方向(+y方向;副走査方向)に搬送される。描画時において、基板12の搬送速度は一定に制御される。なお、本例では、基板12の搬送手段としてベルト14を採用しているが、基板12を保持、搬送する手段はベルト14に限定されない。例えば、平板状のプレートに基板12を載せてプレートとともに基板12を移動させる形態や、基板12の柔軟性が許せば、ドラム(胴)の周面に基板12を巻き付けてトラムを回転させることにより、基板12を移動させるなどの形態も可能である。
【0042】
UVインク16は、グラフィック印刷の用途に適した着色インクに限らず、プリント配線用のレジストインク(耐熱性被覆材料)、導電性微粒子を分散媒に分散させた分散液、カラーフィルターの製造に用いるインクなど、様々な形態があり得る。
【0043】
記録ヘッド18は、基板12の表面と平行な面内で基板12の搬送方向(+y方向)と直交する方向(x軸方向;主走査方向)及び基板12の搬送方向と平行な方向(y軸方向)に移動可能に支持されている。記録ヘッド18を移動させるための駆動機構(x方向移動手段、y方向移動手段)の詳細な構成は図示しないが、ボールネジ、リニアレールなど、周知の手段を適用できる。記録ヘッド18について、x軸方向への移動とy軸方向への移動を同時に行うことにより、xy面内で任意の方向(斜め方向)の移動も可能である。
【0044】
また、記録ヘッド18をxy平面内で回転させる機構(回転手段)や、基板12の法線方向(z軸方向)に移動させる機構(z方向移動手段)を設けてもよい。
【0045】
描画時には、ベルト14と記録ヘッド18の間のクリアランス(すなわち、ベルト14上の基板12面と記録ヘッド18の間のクリアランス)が所定値になるようにz方向のヘッド位置が調整され、この一定のクリアランスを保って記録ヘッド18がx軸方向)及びy軸方向に走査される。記録ヘッド18を±x方向、±y方向に移動させることによって、基板12上の描画位置を変更することができ、基板12の描画領域の任意の位置に液滴を着弾させることが可能である。
【0046】
本例では、ベルト14によって基板12を一定の速度で搬送しつつ、記録ヘッド18をx軸方向及びy軸方向に移動させながら、記録ヘッド18のノズル(図3の符号32)からUVインク16を吐出することにより、基板12面上で任意の方向の直線を描画することができる。
【0047】
記録ヘッド18の速度は、基板12の搬送方向と同じ方向(図1,図2において+y方向)に移動させる場合には、その最大値を基板12の搬送速度とする。つまり、記録ヘッド18は、基板12の搬送速度を上限として+y方向に移動することができる。
【0048】
UV光照射装置20は、基板12の搬送方向について記録ヘッド18の下流側に配置されている。記録ヘッド18によって打滴(描画)が行われた基板12はベルト搬送によってy方向に搬送され、UV光照射装置20の位置へと送られる。この基板12がUV光照射装置20の下を通過する際に、当該UV光照射装置20によって基板12の描画面に紫外線22が照射される。これにより、基板12上のUVインクが硬化(固化)する。
【0049】
なお、UV光照射装置20から照射されるUV光が基板12やベルト14等で反射し、その反射光が記録ヘッド18の吐出面(ノズル面)18Aに届くと、ノズル内のインクを硬化させ、ノズル詰まり(不吐)の原因となりうる。このような問題に対処するため、UV光照射装置20と記録ヘッド18との間にUV光を遮断するための遮光板24(「遮光部材」に相当)を設置することが好ましい。
【0050】
また、インクジェット方式の記録ヘッド18は、インクを吐出しない状態が長く続くと、ノズル内のインクの溶媒が蒸発して高粘度し、吐出不良や不吐が生じる。かかる問題に対処するため、基板12上への描画開始前、或いは、描画途中に、描画領域外で予備吐出(「パージ」、「空吐出」、「唾吐き」、「ダミー吐出」とも呼ばれる。)を行うことが望ましい。このため、線描画装置10において、描画領域の外側に予備吐出領域(「パージゾーン」ともいう。)26,27を設ける態様が好ましい。
【0051】
予備吐出を行ってから基板12への描画を開始するまでの時間を短縮する観点から、予備吐出領域26,27は基板12の近くに設置することが望ましい。予備吐出後1秒以内に基板12上への印字を開始することが特に好ましいため、図2に示したように、ベルト14の両脇に予備吐出領域26,27を設ける態様が望ましい。かかる構成により、基板12への描画開始前、或いは、必要に応じて、描画中に記録ヘッド18を予備吐出領域26,27に移動させて、ここに予備吐出を行う。
【0052】
図3は、記録ヘッド18における記録素子単位となる1チャンネル分の液滴吐出素子30(1つのノズル32に対応したインク室ユニット)の立体的構成を示す断面図である。
【0053】
ノズル32に対応して設けられている圧力室34は、供給口36を介して共通流路38と連通している。共通流路38は液体の供給源たるタンク(不図示)と連通しており、タンクから供給される液体は共通流路38を介して圧力室34に供給される。
【0054】
圧力室34の一部の面(図3における天面)を構成している加圧板(共通電極と兼用される振動板)40には個別電極42を備えた圧電素子44が接合されている。なお、圧電素子44の材料としては、例えば、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)又はチタン酸バリウムのような圧電体を用いることができる。
【0055】
個別電極42と共通電極間に駆動信号が印加されると、圧電素子44が変形して圧力室34の容積が変化する。この容積変化に伴う圧力変化によりノズル32からインクが吐出される。インク吐出後、圧電素子44の変位が元に戻ると、共通流路38から供給口36を通って新しいインクが圧力室34に再充填される。
【0056】
なお、本実施形態では、インクの吐出力発生手段として圧電素子44を適用したが、このような吐出方式(ピエゾジェット方式)に代えて、圧力室34内にヒータを備え、ヒータの加熱による膜沸騰の圧力を利用してインクを吐出させるサーマル方式を適用することも可能である。
【0057】
また、本発明の実施に際して記録ヘッド18におけるノズル32の個数及びその配列形態は特に限定されず、1ノズルのみの構成でもよいし、複数のノズルを一次元配列又は二次元配列した構成であってもよい。
【0058】
図4は、線描画装置10の制御系を示すブロック図である。
【0059】
線描画装置10は、通信インターフェース50、システムコントローラ52、プログラム格納部54、メモリ56、モータドライバ58、UV光源ドライバ60、打滴制御部62、バッファメモリ64、ヘッドドライバ66を備えている。
【0060】
通信インターフェース50は、ホストコンピュータ70から送られてくる打滴データを受信するインターフェース部である。通信インターフェース50としては、USB(Universal Serial Bus)、IEEE1394、イーサネット(登録商標)、無線ネットワークなどのシリアルインターフェース、又はセントロニクスなどのパラレルインターフェースを適用することができる。なお、この部分には、通信を高速化するためのバッファメモリを搭載してもよい。
【0061】
システムコントローラ52は、中央演算処理装置(CPU)及びその周辺回路を含んでおり、線描画装置10の各部を制御する制御部であるとともに、各種の演算処理を行う演算処理部である。システムコントローラ52は、ホストコンピュータ70との間の通信制御、メモリ56の読み書き制御等をするとともに、搬送駆動系やヘッド走査系のモータ72及びUV光源74の発光を制御する制御信号を生成する。
【0062】
プログラム格納部54には、線描画装置10の制御に必要なプログラムや各種データが格納されている。システムコントローラ52は、プログラム格納部54に格納されている種々の制御プログラムを適宜読み出し、プログラムを実行する。
【0063】
メモリ56は、データの一時記憶領域、及びシステムコントローラ52が各種の演算を行うときの作業領域として使用される記憶手段である。メモリ56としては、半導体素子からなるメモリのほか、ハードディスクなどの磁気媒体を用いることができる。
【0064】
モータ72は、本装置内に設けられた各種モータを示しており、図1、図2で説明したベルト14の駆動機構に動力を与えるモータの他、記録ヘッド18の移動機構に動力を与えるモータが含まれる。モータドライバ58は、システムコントローラ52からの制御信号に従ってモータ72を駆動する。
【0065】
UV光源74は、図1、図2で説明したUV光照射装置20に含まれるものであり、UVランプやレーザダイオードなどで構成される。光源ドライバ60は、システムコントローラ52からの制御信号に従ってUV光源74のオン(発光)/オフ(消灯)や発光量の調整を行う。
【0066】
ホストコンピュータ70から送出された打滴データは、通信インターフェース50を介して線描画装置10に取り込まれ、メモリ56に一時記憶される。打滴制御部62は、システムコントローラ52の制御に従い、メモリ56内の打滴データから吐出制御用の信号を生成するための各種加工、補正などの処理を行う信号処理機能を有し、生成した吐出制御信号(吐出データ)をヘッドドライバ66に供給する制御部である。打滴制御部62において所要の信号処理が施され、該打滴データに基づいてヘッドドライバ66を介して記録ヘッド18の液体の吐出量や吐出タイミングの制御が行われる。
【0067】
打滴制御部62には、バッファメモリ64が備えられており、打滴制御部62における打滴データ処理時に打滴データやパラメータなどのデータがバッファメモリ64に一時的に格納される。なお、バッファメモリ64は、メモリ56と兼用することも可能である。また、打滴制御部62とシステムコントローラ52とを統合して1つのプロセッサで構成する態様も可能である。本例のシステムコントローラ52及び打滴制御部62の組み合わせが「制御手段」に相当している。
【0068】
ヘッドドライバ66は、打滴制御部62から与えられる吐出データに基づいて記録ヘッド18の圧電素子44(図3参照)を駆動する。ヘッドドライバ66は、ヘッドの駆動条件を一定に保つためのフィードバック制御系を備えていてもよい。
【0069】
また、図示は省略するが、線描画装置10は、記録ヘッド18に液体を供給するための供給系や、記録ヘッド18のメンテナンス(ノズル吸引やノズル面のワイピングなど)を行うメンテナンス部を備えている。
【0070】
[後退接触角の測定方法について]
本発明の実施形態では、基板に対するインクの後退接触角が10°以下となる基板とインクの組み合わせが採用される。
【0071】
図5は、前進接触角及び後退接触角の測定方法を説明する模式図である。本実施例で採用した動的接触角の測定方法は、拡張/収縮法とよばれるものである。図5のように、シリンジの中空針500の先から液体を出して基板表面502に液滴504を接触させる。シリンジによる押し出し、吸引を行うことにより、基板表面502に接した液滴504を押し広げたり、吸い込んだりする際の接触角θLと接触線(ベースライン)BLの長さ(接触面直径)の変化から前進接触角、後退接触角を測定する。
【0072】
前進接触角は、液滴504の界面が前進するときの接触角、つまり、濡れ広がる方向へ進む際の接触角である。後退接触角は、液滴504の界面が後退するときの接触角、つまり、濡れている方向へ進む際の接触角である。
【0073】
図6は、前進接触角を測定する時の様子を示した説明図である。図6に示すように、シリンジから液を押出し始めると、しばらくは、接触線(ベースライン)を維持しつつ、液滴の体積が増加し(図6(a)〜(b))、接触角は次第に大きくなる。さらに液を押出し続けると、接触線が動き、接触面積が大きくなる(図6(c))。図6(a)の状態から接触線が動いていない最大の角度(接触角)のときの状態(図6(b))における接触角を「前進接触角」を定義する。
【0074】
図7は、後退接触角を測定する時の様子を示した説明図である。図7に示すように、シリンジによって液を吸引し始めると、しばらくは、接触線(ベースライン)を維持しつつ、液滴の体積が減り(図7(a)〜(b))、接触角は次第に減少する。さらに吸引を続けると、接触線が動き、接触面積が小さくなる(図7(c))。図7(a)の状態から接触線が動いていない最小の角度(接触角)のときの状態(図7(b))における接触角を「後退接触角」を定義する。
【0075】
図8は、シリンジの動き(押出→維持→吸引→維持→押出→…)と接触角θL、ベースラインBLの測定値を示したグラフである。横軸はシリンジの状態に対応した時間(単位:[s])を示す。図8中の◆をつないだ曲線(符号[1])は接触角θLの変化を表す(左側の縦軸、単位:[°])。図8中の■をつないだ曲線(符号[2])は接触線(ベースライン)BLの変化を表す(右側の縦軸、単位:[mm])。
【0076】
図8のグラフによると、吸引によってベースラインBLが減少し始める手前の限界(接触線が動きだす直前)の接触角(図中矢印Aで示す値として約7°)が後退接触角である。
【0077】
<後退接触角の違いによる描画結果の違いについて>
図9は、基板に対するインクの後退接触角の違いによる直線パターンの描画結果(形状)の違いをまとめたものである。実験では、基板に対するインクの後退接触角がそれぞれ異なる4種類のインクを用い、ドットピッチ20μm、印字周波数10kHzにて直線の描画を実施した(比較例1,2、実施例1,2)。
【0078】
比較例1は、静的接触角25°、後退接触角16°のインクを用いた。この場合、線形状にならず、複数のドットがまばら(とびとびに)に分布するドット形状となる。
【0079】
比較例2は、静的接触角15°、後退接触角11°のインクを用いた。この場合も、線形状にならず、複数のドットが分布するドット形状となる。
【0080】
実施例1は、静的接触角29°、後退接触角9°のインクを用いた。この場合、図示のように、均一線幅の綺麗な直線形状が形成できた。
【0081】
実施例2は、静的接触角16°、後退接触角7°のインクを用いた。この場合も、図示のように、均一線幅の綺麗な直線形状が形成できた。
【0082】
図9の結果から、後退接触角が10°を超えると、複数のドット形状となり、後退接触角が10°以下になると1つの線形上となることがわかる。つまり、後退接触角は10°以下であることが好ましい。
【0083】
上述した後退接触角の条件(10°以下)と組み合わせると一層好ましい他の条件について説明する。
【0084】
<静的接触角の違いによる描画結果の違いについて>
図10は、基板に対するインクの静的接触角の違いによる直線パターンの描画結果(形状)の違いをまとめたものである。実験では、基板に対するインクの静的接触角がそれぞれ異なる3種類のインクを用い、ドットピッチ20μm、印字周波数10kHzにて直線の描画を実施した(実施例1,2、比較例3)。
【0085】
実施例1,2に示すように、静的接触角が10°以上では安定した線形状となる。一方、静的接触角が10°未満になると、比較例3のように、液滴同士は合一するものの、線形状としては不安定な部分が散見される(線幅が不均一なものとなる)。つまり、静的接触角は10°以上であることが好ましい。
【0086】
[液滴の吐出条件について]
図11は、記録ヘッド18をx方向に走査して基板12上に直線状のパターンLを描画するときの手順を模式的に示す図である。ここでは、説明の便宜上、記録ヘッド18は1ノズルのみを有するものとして説明する。
【0087】
図11に示すように、記録ヘッド18をx方向に走査しながら、ノズル32よりUVインクを順次吐出して、その着弾液滴80を基板12上で合一させることにより基板12上に直線状のパターンLを描画する。以下、このような線描画においてジャギー及びバルジの発生を防止するための条件を検討する。
【0088】
[液体の吐出条件1(ドットピッチp)]
図12は、基板12の表面に打滴された液滴の経時変化を模式的に示す図(断面図及び平面図)である。図12(a)に示すように、記録ヘッド18から吐出されて基板12の表面に着弾した液滴D1eqmは、着弾当初はそれぞれ略円形であり、隣接する液滴と接触する。そして、図12(b)に示すように、各液滴Dが濡れ広がってパターンLが形成される。
【0089】
液滴同士が合一して最終的な線状のパターンLが形成された際には、パターンLの輪郭は理想的には滑らかな直線となり、その合一体の形状は、全体的には概ね半円柱形状(円柱を軸と平行な面で切断した部分円柱形状)となる。このため、パターンLの線分の両端を除き、線分の中で個々の着弾液滴の部分に注目すると、着弾直後の半球型の形状(図12(a))から、濡れ広がり後には半円柱型の形状(図12(b))に変化したものと見なすことができる。
【0090】
ここで、基板12は、液滴Dが染み込まない(浸透しない)媒体であり、基板12に着弾する前後で液滴の体積は保存されるとする(仮定1)。また、液滴Dの基板12に対する接触角θ[rad]が一定であるとする(仮定2)。
【0091】
このとき、基板12に着弾したときの液滴D1eqmの直径deqm[μm]と着弾前の液滴Dの直径d[μm]との比(拡がり率)βeqmは下記の式(1)により表される。ここで、直径dは、着弾前の液滴Dを真球換算したときの直径である。
【0092】
【数5】
パターンLの幅をw[μm]とすると、図12(b)における液体D2eqmを、液体D2eqmの中心を通りzy平面に平行な面で切ったときの断面積S1[μm2]は下記の式(2)により表される。
【0093】
【数6】
したがって、基板12上において隣接する液滴の中心間の距離(ノズルピッチ)をp[μm]とすると、液体D2eqmの体積Va[μm3]は下記の式(3)により表される。
【0094】
【数7】
一方、着弾前の液滴の直径がdであることから、着弾前の液滴Dの体積Vb[μm3]は下記の式(4)により表される。
【0095】
【数8】
上記仮定1により着弾の前後で液滴Dの体積は不変である。Va=Vbを線幅wについて解くと、下記の式(5)が得られる。
【0096】
【数9】
ここで、ジャギーが発生しないためには、着弾径dより線幅wが広くなることが必要との観点から、w≧deqm=βeqmdであることから、ドットピッチpを変数として式(5)を解くと、ドットピッチpの条件式(6)が得られる。
【0097】
【数10】
上記の式(6)の条件を満たすようにドットピッチpを制御することにより、パターンLの輪郭のギザギザ(ジャギー)が発生するのを防止することができる。
【0098】
一方、ジャギーが必ず発生する条件は、線幅がドットピッチよりも小さくなるときである。これは、この条件では液滴同士が接触する時点で既に1滴が線幅よりも濡れ広がっており、接触線のピニング効果により、既に濡れ広がった液滴の線幅以下の線になることができないためである。
【0099】
このときの条件は、w>pであり、式(7)を得る。
【0100】
【数11】
これをpに関して解くと、式(8)を得る。
【0101】
【数12】
したがって、必ずしもジャギーが発生しない条件は、式(9)である。
【0102】
【数13】
[液体の吐出条件2(打滴の時間間隔)]
次に、打滴の時間間隔について説明する。図13は、上記の式(6)を満たす条件の下で、静的接触角θ=30[°]、着弾径deqm=55[μm]、ドットピッチ20[μm]として、1秒間に液滴Dを打滴する回数(「印字周波数」或いは「吐出周波数」という。)を変えて線を描画したときの線幅wの安定性を示している。図13中の(a)は印字周波数10Hzの場合、(b)は1kHzの場合、(c)は10kHzの場合の描画結果である。
【0103】
この結果から、静的接触角30°程度では印字周波数が1kHz以上の高周波印字を行うことにより、バルジの発生が抑制できる。以下、単に「接触角」というときは、静的接触角を意味する。接触角の条件を更に変えて、同様の実験を行ったところ、接触角が小さい条件では、印字周波数がより低い条件でもバルジの発生が抑制された。逆に、接触角が大きい条件では、印字周波数をより高い条件にすることにより、バルジの発生が抑制された。かかる知見から、バルジの発生は接触角によって決まる濡れ広がりにかかる時間が影響していると考えられる。
【0104】
図14は、接触角の違いによる液滴の濡れ広がりの挙動を比較したグラフである。接触角30°の場合と、接触角75°の場合とでそれぞれ、濡れ広がりによって平衡に達するまでの時間を調べた。図14の横軸は時間(ただし、スケールは対数)、縦軸は着弾直後の着弾径と最終着弾径の比(「着弾径/最終着弾径」)である。つまり、縦軸は、着弾径を最終着弾径で規格化したものである。
【0105】
接触角75°の条件では、最終着弾径の近くまでほぼ広がりきるまでの時間がt1(約0.2[ms])であるのに対し、接触角30°の条件では最終着弾径の近くまでほぼ広がりきるまでの時間がt2(約2[ms])である。つまり、接触角30°の方が接触角75°よりも平衡に達するまでの時間が約10倍長い。
【0106】
このように、接触角の違いで液滴が濡れ広がりきるまでの時間(平衡状態に達するまでに要する時間)が大きく異なる。実験に基づく経験的な知見から、濡れ広がりきるまでに要する時間は接触角の約3乗に反比例すると考えられる。よって、バルジ抑制の観点から、着弾液滴群が濡れ広がりきるまでの間に(平衡に達するまでの時間内に)隣接する液滴を次々に着弾させることが望ましい。このため、接触角が大きい条件の場合ほど、印字周波数を高くする(打滴時間間隔を短くする)ことが望ましい。
【0107】
実験によれば、接触角30°の場合に、着弾時間差(打滴時間間隔)を1μs以内とすることが好ましい。したがって、接触角をパラメータとして一般化すると、下記式(10)の条件となる。
【0108】
【数14】
すなわち、接触角に応じて式(10)の条件を満たす着弾時間間隔を実現する高周波印字(打滴)を行うことにより、着弾液滴群が基板上でまとまった状態で平衡状態を作成する。これにより、低周波印字時のときに着弾液滴群が基板上で小さなまとまりの集合体として発生する周期的な小さいバルジ及びジャギーの発生を抑止することができる。
【0109】
[打滴後に硬化処理を実施するまでの時間間隔について]
図15(a)は記録ヘッド18にて基板12上に線状のパターンを描画した後約2分後にUV光照射装置20からUV光を照射して硬化処理を行った場合に得られた線状パターンの例である。図15(b)は記録ヘッド18にて基板12上に線状のパターンを描画した後約1秒後にUV光照射装置20からUV光を照射して硬化処理を行った場合に得られた線状パターンの例である。
【0110】
なお、いずれの場合も打滴条件は既述した式(6)の条件を満たすものであり、ここでは、接触角30°、ドットピッチ5μm、印字周波数4kHzとした。また、図15(a)、(b)はそれぞれ約1cmの長さの線分を描画した線状パターンを4つに分割して並べた図である。
【0111】
図15(a)、(b)の両者を比較すると明らかなように、印字後約2分後に硬化処理を実施した場合には、線分中に大きな液たまり(バルジ84)が成長しているのに対し(図15(a))、印字後約1秒後に硬化処理を実施した場合にはバルジが発生していない。このように、打滴直後に硬化処理を実施し、基板12上における液の流動性を失わせることにより、バルジの発生を抑制することができる。
【0112】
図16は、印字後の時間経過とバルジ部幅の関係を調べたグラフである。なお、ここで言う「バルジ部幅」とは、図15の「wb」で示したように、線状パターンLの線の太さ方向の幅を指す。
【0113】
図16において横軸は印字後の経過時間(単位[秒])を表し、縦軸はバルジ部幅(単位[μm])を表す。なお、図16は図15と同等の条件で打滴したものである。図16に示すように、印字後1.5秒後からバルジが成長し始め、時間経過とともに次第に大きく膨らんでいく様子が把握できる。
【0114】
バルジは打滴後のインクが基板12上で流動性を有していることによって成長することから、1秒以内にUV光を照射してインクを硬化させることが好ましい。
【0115】
上記の知見から、本実施形態に係る線描画装置10における記録ヘッド18の打滴位置と、UV光照射装置20のUV照射位置との間の距離、並びに、基板12の搬送速度について制約が設けられる。
【0116】
すなわち、図17に示すように、記録ヘッド18のy軸方向の移動可能範囲は、記録ヘッド18が基板搬送方向に対してUV光照射装置20から最も離れる位置(符号86で示した破線の位置)からUV光照射装置20までの距離dH[m]が、基板12の搬送速度v[m/s]×1秒([s])の距離以内とする。
【0117】
【数15】
このような条件を満たすように、記録ヘッド18の可動範囲を規制(制限)するとともに、UV光照射装置20の設置位置と、基板12の搬送速度(ベルト14の線速度)を制御する。
【0118】
なお、ベルト14によって一定速度v[m/s]で搬送される基板12上に、当該基板搬送速度方向に垂直な線(図17におけるx方向と平行な線)を描画する際は、記録ヘッド18も基板搬送速度と同じ速度で移動させる(y方向の相対速度を0とする)。
【0119】
また、基板搬送速度方向に平行な線を描画する場合は、印字周波数とドットピッチの条件から記録ヘッド18の移動速度が決定される。基板搬送速度方向に対して斜めに交差する斜め線を描画する場合は、その斜め線の方向に記録ヘッド18が基板12に対して相対的に移動するように記録ヘッド18の速度を決定する。
【0120】
基板搬送速度方向に対して垂直な線、平行な線、或いは斜めに交差する斜め線のいずれを描画する場合であっても、図17のように最大離間距離dH[m]と基板搬送速度v[m/s]について、式(11)の条件を満たすことにより、バルジ発生前に硬化させることができる。
【0121】
また、実験によれば、描画後に線形状の一部分が膨らみ始める時間は、接触角の約3乗に反比例する。よって、接触角をパラメータとして、硬化までの時間を規定すると、描画後に線形状の一部分が膨らみ始める時間については、接触角の3乗に反比例することから、接触角をパラメータとして一般化すると、下記式(12)の条件となる。
【0122】
【数16】
そして、[数15]と同様の観点について、式(12)の条件を適用して一般化すると下記式(13)の条件となる。
【0123】
【数17】
すなわち、接触角に応じて式(13)の条件を満たす印字後の即時硬化を行うことにより、バルジの発生・成長を抑止することができる。
【0124】
<マルチノズルヘッドを利用する形態>
図5では1ノズルで線描画する場合を例に説明したが、記録ヘッド18の構成として複数のノズルを有する形態も可能である。例えば、図18に示すように、複数のノズル32を一定のノズル間隔Npで1列に並べた記録ヘッド18’(ラインヘッド)を用いることができる。
【0125】
図18は、記録ヘッド18’と基板12とをy方向に相対的に走査してパターンLを描画するときの走査制御の手順を模式的に示す図である。図18において、基板12の搬送方向をy方向(副走査方向)、基板12の面に平行でy方向に垂直な方向(主走査方向)をx方向とする。また、xy平面に垂直な方向をz方向、直線状のパターンLが形成される方向(パターン形成方向、印字方向)をU方向、基板12に平行で、U方向に垂直な方向をV方向とする。
【0126】
図18に示すように、1つの線状のパターンLを形成する時に少なくとも2つ以上のノズル32が用いられている。記録ヘッド18’は、xy面内で回転させる回転機構によって、ノズル32の中心を結ぶ直線(ノズルラインNL)が印字方向(U方向)に対してなす角がφ[°](0°<φ<90°)となるように保持される。ノズルラインNLとU軸のなす角がφ[°]の状態を保ったまま、記録ヘッド18と基板12とが副走査方向(y方向)に相対的に走査され、各ノズル32から順次打滴を行うことにより、U方向に延びる線状の(例えば、直線の)パターンLが描画される。なお、記録ヘッド18’のノズルラインNLをx方向と平行に設置し、基板12側をx方向に対して角度φだけ傾けるようにxy面内で回転させる態様も可能である。
【0127】
図18の形態の場合、基板12上でU方向に並ぶ着弾液滴80の着弾時間差について式(10)の条件を満たすように打滴を制御する。図18の形態によれば、記録ヘッド18’の吐出周波数と基板12の搬送速度との組み合わせによって着弾時間間隔(基板12上への印字周波数)を制御できる。
【0128】
<第2実施形態>
図19は本発明の第2実施形態に係る線描画装置110の構成を示す側視図であり、図20はその平面図である。これらの図面中、図1、図2で説明した構成と同一又は類似する要素には同一の符号を付し、その説明は省略する。
【0129】
図19、図20に示した第2実施形態に係る線描画装置110は、基板12の搬送手段として、支持プレート114が用いられている。この支持プレート114は図示せぬ移動機構(例えば、xyテーブルなど)によって、x方向及びこれに直交するy方向に移動可能である。なお、支持プレート114はxy面内で回転させる機構を備えても良い。
【0130】
また、記録ヘッド18にはUVレーザー照射装置120が取り付けられている。記録ヘッド18とUVレーザー照射装置120は一体的に移動可能であり、図示せぬヘッド移動機構によって、x方向及びy方向に移動可能である。なお、記録ヘッド18及びUVレーザー照射装置120をxy面内で回転させる機構を備えても良い。
【0131】
記録ヘッド18の近くに設置するUV光照射手段としては、ビームの広がり角の小さいレーザーが好適である。
【0132】
図20に示すように、UVレーザー照射装置120は、記録ヘッド18から見てx方向に配置される第1のUVレーザー照射装置120Aと、記録ヘッド18から見てy方向に配置される第2のUVレーザー照射装置120Bとを組み合わせたユニットとして構成されている。
【0133】
なお、図20において、記録ヘッド18の周囲4面を全て取り囲むようにUVレーザー照射装置を取り付ける態様も可能であるが、必ずしも4面全周にUVレーザー照射装置を取り付けることは必要なく、少なくとも1つの方向にUVレーザー照射装置を設置すればよい。
【0134】
図20では、x方向とy方向にそれぞれ1つずつUVレーザー照射装置(120A、120)を設けており、記録ヘッド18を挟んで第1のUVレーザー照射装置120Aと反対側にはUVレーザー照射装置は取り付けられておらず、記録ヘッド18を挟んで第2のUVレーザー照射装置120Bと反対側にはUVレーザー照射装置は取り付けられていない。
【0135】
このような記録ヘッド18とUVレーザー照射装置(120A,120B)との配置関係から、基板12に対して記録ヘッド18が、図中の白抜き矢印123、124の方向へと相対的に移動する際に印字(打滴)を行うものとする。或いはまた、記録ヘッド18に対して基板12が図中の白抜き矢印133、134の方向へと相対的に移動する際に、記録ヘッド18から打滴を行うものとする。
【0136】
図21は、記録ヘッド18とUVレーザー照射装置(120A、120B)の配置関係と、打滴時の記録ヘッド18の移動方向を示した模式図である。図示のように、矢印123又は124の方向に記録ヘッド18を移動させるときに打滴を行う。これにより、記録ヘッド18が打滴した直後に第1のUVレーザー照射装置120A又は第2のUVレーザー照射装置120Bを照射して基板12上の液滴を硬化させることが可能である。
【0137】
UVレーザー照射装置を1つのみ取り付ける場合について図22に示す。この場合も図21と同様に、記録ヘッド18とUVレーザー照射装置120A(又は120B)との配置関係において、記録ヘッド18が移動方向に向かって先頭側、UVレーザー照射装置120A(又は120B)が移動方向に向かって後方側となる移動方向(白抜き矢印123,124)に当該ユニットが移動するときのみ印字(打滴)を行うものとする。
【0138】
また、記録ヘッド18による打滴制御に連動してUVレーザー照射装置(120A,120B)のレーザー照射タイミング、照射時間等が制御される。この場合、基板12上に着弾したUVインクに対して重合(硬化)に必要なエネルギー量の紫外線を照射する観点から、照射継続時間が決定される。例えば、吐出信号が記録ヘッド18のある吐出ノズルのどれか1つに入ってから少なくとも3秒間はUVレーザーが照射されるような構成とすることが好ましい。
【0139】
<UVインクの例について>
配線描画に用いる機能性液体として、導電性微粒子を分散媒に分散させた分散液を用いることができる。導電性微粒子としては、例えば、銀ナノ粒子が用いられ、分散媒としては、例えば水又はテトラデカンが用いられる。なお、導電性微粒子は、銀に限らず、金、銅、パラジウム、ニッケルなどでもよい。
【0140】
また、液体中にUV硬化性モノマーを含有させ、着弾液に対して紫外線を照射することにより、液中のUV硬化性モノマーを硬化重合させることができる。
【0141】
UV硬化性モノマーは、重合開始剤などから発生するラジカルなどの開始種により重合または架橋反応を生起し、これらを含有する組成物を硬化させる機能を有するものである。
【0142】
UV硬化性モノマーは、ラジカル重合反応、二量化反応など公知の重合又は架橋反応を生起する重合性又は架橋性材料を適用することができる。例えば、少なくとも1個のエチレン性不飽和二重結合を有する付加重合性化合物、マレイミド基を側鎖に有する高分子化合物、芳香核に隣接した光二量化可能な不飽和二重結合を有するシンナミル基、シンナミリデン基やカルコン基等を側鎖に有する高分子化合物などが挙げられる。中でも、少なくとも一個のエチレン性不飽和二重結合を有する付加重合性化合物がより好ましく、末端エチレン性不飽和結合を少なくとも1個、より好ましくは2個以上有する化合物(単官能又は多官能化合物)から選択されるものであることが特に好ましい。具体的には、本発明に係る産業分野において広く知られるものの中から適宜選択することができ、例えば、モノマー、プレポリマー(すなわち2量体、3量体及びオリゴマー)及びそれらの混合物、並びにそれらの共重合体などの化学的形態を持つものが含まれる。
【0143】
UV硬化性モノマーは、1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0144】
本発明の実施に用いることができるUV硬化性モノマーとしては、特に、ラジカル開始剤から発生する開始種により重合反応を起こさせる各種公知のラジカル重合性のモノマーを用いることが好ましい。
【0145】
ラジカル重合性モノマーとしては、(メタ)アクリレート類、(メタ)アクリルアミド類、芳香族ビニル類、ビニルエーテル類及び内部二重結合を有する化合物(マレイン酸など)等が挙げられる。ここで、「(メタ)アクリレート」は、「アクリレート」、「メタクリレート」の双方又はいずれかをさし、「(メタ)アクリル」は、「アクリル」、「メタクリル」の双方又はいずれかをさす。
【0146】
<第3実施形態:揮発性溶媒を用いたインクの利用>
以下に説明する第3実施形態では、機能性成分(例えば、金属ナノ粒子)を揮発性溶媒(例えば、水又はテトラデカン)に混合することにより生成された液体を用い、記録ヘッドと基板とを相対的に走査して、基板上に線状のパターンを描画する。装置構成としては、図1等で説明した第1実施形態や図19等で説明した第2実施形態と同等の構成を採用することができる。また、図1等で説明した第1実施形態からUV光照射装置20を省略した形態、或いは、図19等で説明した第2実施形態からUVレーザー照射装置120を省略した形態も可能である。
【0147】
この第3実施形態においても、第1実施形態及び第2実施形態で説明した後退接触角の条件(10°以下)等は同様に適用される。また、後退接触角の条件(10°以下)と組み合わせると、一層好ましい他の条件を以下に説明する。
【0148】
[液体中の溶媒(揮発性成分)の割合の条件)]
第3実施形態のような揮発性溶媒を含んだ液体を用いて線状パターンを描画する場合、液体に含まれる揮発性溶媒の割合が大きいと、バルジが発生しやすくなる。以下、液体中の溶媒の好ましい割合の条件について検討する。
【0149】
ここで、基板12上に吐出する液体は、例えば、水又はテトラデカン(いずれも揮発性が有る。)を溶媒中に銀ナノ粒子が分散した液体(インク)とする。
【0150】
上記のように、基板12上に液体を吐出してパターンLを描画する場合、パターンL上の溶媒(液体成分)の量が線幅wに対して多すぎるとバルジが発生しやすくなる。バルジの発生を防止するためには、液滴Dが基板12に着弾した後に溶媒を揮発(蒸発)させたときに、基板12上に残る溶媒量を、バルジが発生しない程度に減少させればよい。具体的には、基板12上において濡れ広がって溶媒が揮発した後の液滴Dの直径deqm[μm]が線幅w[μm]と等しくなるようにする。w=deqmとすると、濡れ広がって溶媒が揮発した後の液体D2eqmの体積V1[μm3]は下記の式(14)により表される。
【0151】
【数18】
一方、着弾前の液滴の直径がdであることから、着弾前の液滴Dの体積V2[μm3]は下記の式(15)により表される。
【0152】
【数19】
したがって、液体中に含まれる揮発性の溶媒の割合(体積の割合){(V2−V1)/V2×100[%]}は下記の式(16)により表される。
【0153】
【数20】
液体中の揮発性溶媒の体積の割合を上記の式(16)で表される値以上とすることにより、バルジの発生を防止することができる。
【0154】
[液体の吐出条件3(打滴の時間間隔)]
次に、打滴の時間間隔について説明する。表1は、液滴の直径d=26.0[μm]、deqm=55.5[μm]、接触角θ=30[°]として(すなわち、上記の式(6)及び式(16)の条件式を満たす条件下で)、1秒間に液滴Dを打滴する回数(印字周波数)とドットピッチとを変えて線を描画したときの線幅wの安定性を示している。
【0155】
【表1】
表1では、描画された線の線幅wが安定している場合(例えば、線幅wの変動量(例えば、単位長さ当たりの線幅の最大値と最小値の差)が所定値未満の場合)が「〇」、線幅wの変動量が所定値以上であるものの「×」の場合よりも変動量が大きくない場合が「△」、「△」の場合の変動量の最大値よりも線幅wの変動量が大きい場合が「×」で表されている。表1の実験結果によれば、印字周波数を1000Hz以上にした場合に、線幅wが安定し、バルジ及びジャギーが発生しないという結果が得られた。
【0156】
したがって、n滴目が印字されてから(n+1)滴目が印字されるまでの間隔を1ミリ秒以下とする。このようにすることで、印字中に基板12上において、平衡状態(液滴Dがぬれ広がって液滴Dの形状が安定した状態)の部分と、非平衡状態(液滴Dがぬれ広がっている最中の液滴Dの形状が安定する前の状態)の部分とが混在することが防止できる。この結果、非平衡状態の液滴Dの大きな固まりができて、パターンLの一部が太くなったりすることなく平衡状態となり、均一幅の線描画が可能となる。
【0157】
第3実施形態において、後退接触角の条件(10°以下)に加えて、液体中の揮発性成分の割合条件(式(16)で表される値以上)や、印字周波数の条件(1kHz以上)を満たすことがより一層好ましい。
【0158】
<装置応用例>
上述した実施形態の線描画装置は、電子回路基板の配線描画装置、各種デバイスの製造装置、吐出用の機能性液体として樹脂液を用いるレジスト印刷装置、微細構造物形成装置など、線状の画像パターンを形成し得る様々な装置に適用可能である。
【符号の説明】
【0159】
10…線描画装置、12…基板、14…ベルト、16…UVインク、18…記録ヘッド(インクジェットヘッド)、20…UV光照射装置、24…遮光板、32…ノズル、52…システムコントローラ、62…打滴制御部、72…モータ、80…着弾液滴、84…バルジ、110…線描画装置、120…UVレーザー照射装置
【特許請求の範囲】
【請求項1】
機能性成分を含有する液体をインクジェットヘッドから吐出し、前記インクジェットヘッドから順次吐出された複数の液滴を非浸透性の媒体に付着させ、これら液滴同士が前記媒体上でつながった線状パターンを形成する線描画方法であって、
前記媒体に対する前記液体の後退接触角が10°以下であることを特徴とする線描画方法。
【請求項2】
請求項1において、
前記媒体に対する前記液体の静的接触角が10°以上であることを特徴とする線描画方法。
【請求項3】
請求項1又は2において、
前記媒体に着弾する前の前記液滴の体積を真球換算したときの直径をd[μm]とするとき、前記媒体上において隣接する前記液滴のドットピッチpが次式
【数1】
の条件を満たすように打滴を制御することを特徴とする線描画方法。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項において、
前記線状パターンを形成する際の前記インクジェットヘッドの吐出周波数が1kHz以上であることを特徴とする線描画方法。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項において、
前記液体として、活性光線の照射によって硬化する液体を用い、
前記線状パターンを形成するにあたり、前記媒体上で先に着弾している液滴群の集合体が当該媒体上で平衡状態に達する前に、前記集合体と更に合一させる次滴を着弾させるように前記インクジェットヘッドの打滴制御を行い、
前記媒体上に付着させた前記液体に前記活性光線を照射して、当該媒体上の液体を硬化させることを特徴とする線描画方法。
【請求項6】
請求項5において、
前記媒体に対する前記液体の静的接触角をθ[rad]とするとき、前記線状パターンを構成する最終着弾滴の着弾時から当該線状パターンを硬化させるまでの時間T[s]が次式
【数2】
を満たすことを特徴とする線描画方法。
【請求項7】
請求項1乃至4のいずれか1項において、
前記液体は揮発性溶媒を含有していることを特徴とする線描画方法。
【請求項8】
機能性成分を含有する液体を吐出するインクジェットヘッドと、
前記インクジェットヘッドから吐出された液滴を付着させる非浸透性の媒体と前記インクジェットヘッドとを相対移動させる移動手段と、
前記インクジェットヘッドから前記媒体に向けて順次液滴を吐出させ、これら着弾時間差のある液滴同士が前記媒体上でつながった線状パターンを形成する吐出制御を行う制御手段と、を備え、
前記媒体に対する前記液体の後退接触角が10°以下であることを特徴とする線描画装置。
【請求項9】
請求項8において、
前記制御手段は、吐出周波数1kHz以上で前記インクジェットヘッドから液滴を吐出させることを特徴とする線描画装置。
【請求項10】
請求項8又は9において、
前記液体として、活性光線の照射によって硬化する液体が用いられ、
前記媒体上に付着させた前記液体に前記活性光線を照射して、当該媒体上の液体を硬化させる活性光照射手段と、を備え、
前記制御手段は、前記線状パターンを形成するにあたり、前記媒体上で先に着弾している液滴群の集合体が当該媒体上で平衡状態に達する前に、前記集合体と更に合一させる次滴を着弾させるように打滴の制御を行い、
前記活性光照射手段は、前記媒体に対する前記液体の静的接触角をθ[rad]とするとき、前記線状パターンを構成する最終着弾滴の着弾時から当該線状パターンを硬化させるまでの時間T[s]が次式
【数3】
を満たすことを特徴とする線描画装置。
【請求項11】
請求項10において、
前記制御手段は、前記媒体上で隣接する液滴の着弾時間間隔t[s]が次式
【数4】
を満たすように打滴を制御することを特徴とする線描画装置。
【請求項12】
請求項8乃至11のいずれか1項において、
前記移動手段として、前記媒体を一定速度で搬送する媒体搬送手段を備え、
前記媒体搬送手段による媒体搬送方向について前記インクジェットヘッドの下流側に前記活性光照射手段が配置されていることを特徴とする線描画装置。
【請求項13】
請求項8乃至11のいずれか1項において、
前記活性光照射手段は、前記インクジェットヘッドに取り付けられ、これらが一体的に前記媒体に対して相対移動する構成であることを特徴とする線描画装置。
【請求項1】
機能性成分を含有する液体をインクジェットヘッドから吐出し、前記インクジェットヘッドから順次吐出された複数の液滴を非浸透性の媒体に付着させ、これら液滴同士が前記媒体上でつながった線状パターンを形成する線描画方法であって、
前記媒体に対する前記液体の後退接触角が10°以下であることを特徴とする線描画方法。
【請求項2】
請求項1において、
前記媒体に対する前記液体の静的接触角が10°以上であることを特徴とする線描画方法。
【請求項3】
請求項1又は2において、
前記媒体に着弾する前の前記液滴の体積を真球換算したときの直径をd[μm]とするとき、前記媒体上において隣接する前記液滴のドットピッチpが次式
【数1】
の条件を満たすように打滴を制御することを特徴とする線描画方法。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項において、
前記線状パターンを形成する際の前記インクジェットヘッドの吐出周波数が1kHz以上であることを特徴とする線描画方法。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項において、
前記液体として、活性光線の照射によって硬化する液体を用い、
前記線状パターンを形成するにあたり、前記媒体上で先に着弾している液滴群の集合体が当該媒体上で平衡状態に達する前に、前記集合体と更に合一させる次滴を着弾させるように前記インクジェットヘッドの打滴制御を行い、
前記媒体上に付着させた前記液体に前記活性光線を照射して、当該媒体上の液体を硬化させることを特徴とする線描画方法。
【請求項6】
請求項5において、
前記媒体に対する前記液体の静的接触角をθ[rad]とするとき、前記線状パターンを構成する最終着弾滴の着弾時から当該線状パターンを硬化させるまでの時間T[s]が次式
【数2】
を満たすことを特徴とする線描画方法。
【請求項7】
請求項1乃至4のいずれか1項において、
前記液体は揮発性溶媒を含有していることを特徴とする線描画方法。
【請求項8】
機能性成分を含有する液体を吐出するインクジェットヘッドと、
前記インクジェットヘッドから吐出された液滴を付着させる非浸透性の媒体と前記インクジェットヘッドとを相対移動させる移動手段と、
前記インクジェットヘッドから前記媒体に向けて順次液滴を吐出させ、これら着弾時間差のある液滴同士が前記媒体上でつながった線状パターンを形成する吐出制御を行う制御手段と、を備え、
前記媒体に対する前記液体の後退接触角が10°以下であることを特徴とする線描画装置。
【請求項9】
請求項8において、
前記制御手段は、吐出周波数1kHz以上で前記インクジェットヘッドから液滴を吐出させることを特徴とする線描画装置。
【請求項10】
請求項8又は9において、
前記液体として、活性光線の照射によって硬化する液体が用いられ、
前記媒体上に付着させた前記液体に前記活性光線を照射して、当該媒体上の液体を硬化させる活性光照射手段と、を備え、
前記制御手段は、前記線状パターンを形成するにあたり、前記媒体上で先に着弾している液滴群の集合体が当該媒体上で平衡状態に達する前に、前記集合体と更に合一させる次滴を着弾させるように打滴の制御を行い、
前記活性光照射手段は、前記媒体に対する前記液体の静的接触角をθ[rad]とするとき、前記線状パターンを構成する最終着弾滴の着弾時から当該線状パターンを硬化させるまでの時間T[s]が次式
【数3】
を満たすことを特徴とする線描画装置。
【請求項11】
請求項10において、
前記制御手段は、前記媒体上で隣接する液滴の着弾時間間隔t[s]が次式
【数4】
を満たすように打滴を制御することを特徴とする線描画装置。
【請求項12】
請求項8乃至11のいずれか1項において、
前記移動手段として、前記媒体を一定速度で搬送する媒体搬送手段を備え、
前記媒体搬送手段による媒体搬送方向について前記インクジェットヘッドの下流側に前記活性光照射手段が配置されていることを特徴とする線描画装置。
【請求項13】
請求項8乃至11のいずれか1項において、
前記活性光照射手段は、前記インクジェットヘッドに取り付けられ、これらが一体的に前記媒体に対して相対移動する構成であることを特徴とする線描画装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図11】
【図12】
【図14】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図9】
【図10】
【図13】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図11】
【図12】
【図14】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図9】
【図10】
【図13】
【図15】
【公開番号】特開2012−20247(P2012−20247A)
【公開日】平成24年2月2日(2012.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−160848(P2010−160848)
【出願日】平成22年7月15日(2010.7.15)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年2月2日(2012.2.2)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年7月15日(2010.7.15)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】
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