説明

線材の巻取装置および繰出装置

【課題】線材をボビンに巻取り、繰出す際において、巻取りまたは繰出しされる線材の長さや角度の変動に起因する巻きテンションや巻出しテンションの変動を生ずることなく、安定して均一に線材の巻取り、繰出しを行うことができ、かつ、他の問題を生ずることのない線材の巻取装置および繰出装置を提供する。
【解決手段】線材供給部1から供給される線材2を、ボビン3に巻取るために用いられる線材の巻取装置である。線材2の巻付け位置Aを、ボビン3の軸方向に沿って往復移動させる第一トラバース10と、線材供給部1と第一トラバース10との間で線材2を担持して、線材2の担持部Bを、巻付け位置Aと同一方向に、かつ、巻付け位置Aの移動速度の1/2の速度で同期して往復移動させる第二トラバース20と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は線材の巻取装置および繰出装置に関し、詳しくは、トラバースの改良に係る線材の巻取装置および繰出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ワイヤーやコードなどの線材をボビンに巻線するに際しては、トラバースを用いて巻き位置をボビンの中心軸と並行に往復運動させることにより、線材を、ボビンの全域に均等な厚みの層状になるよう巻き付けている。
【0003】
この際、巻き位置の往復移動により線材の長さが変わると、巻きテンションの変動の要因となる。また、巻き取った線材を繰り出す際には、巻線時に行った往復運動により、線材の繰り出される位置が移動することになるため、線材の引き出し位置とボビンからの繰り出し位置とに角度がついてしまい、結果として、ボビンに巻かれている方向から他の線材を斜めに跨ぐようにして線材が巻き出されることになる。これは、巻出しテンションの乱れの要因となる。
【0004】
前者の問題に対しては、ボビンに巻線する際にトラバース動作でワイヤー長さを変化させない方法として、回転するボビンそのものを軸方向へ移動させる方法がある。一方、後者の繰り出し線材のトラバースによる長さ変化を防止する方法については、有効な方策は存在しない。長さ変化を小さくするための方法として、トラバースに出入りする線材の自由長さを長くすることで角度変化を抑える方法はあるが、この場合も変化をゼロにすることはできないので、通常は、長さや角度の変動の結果として生ずるテンション変動を吸収、制御するための方策と組み合わせて使用されている。
【0005】
巻線装置に関する改良技術としては、例えば、特許文献1に、ボビンを装着するスピンドルと線材供給部とをスピンドル軸方向に相対移動させるトラバース機構を、互いに独立して作動する第一のトラバース機構と第二のトラバース機構とから構成する技術が開示されている。
【特許文献1】特開2001−185434号公報(特許請求の範囲等)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のうち、回転するボビンそのものを移動させる方法は、装置が大掛かりになるため、大型のボビンを高速回転させる装置ではコスト高になるという問題がある。また、巻取り、巻出し時に出入りする線材の自由長さを長くすることで長さと角度の変化を抑える方法では、上述したように、変化をゼロにすることはできないことに加え、長さを長くすると装置の大きさが大きくなり、また、線材の動きが制御しにくくなることから、高速運動に支障を来すという問題もあった。
【0007】
そこで本発明の目的は、線材をボビンに巻取り、繰出す際において、巻取りまたは繰出しされる線材の長さや角度の変動に起因する巻きテンションや巻出しテンションの変動を生ずることなく、安定して均一に線材の巻取り、繰出しを行うことができ、かつ、他の問題を生ずることのない線材の巻取装置および繰出装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は鋭意検討した結果、下記構成とすることにより、上記問題を解消できることを見出して、本発明を完成するに至った。
【0009】
即ち、本発明の線材の巻取装置は、線材供給部から供給される線材を、ボビンに巻取るために用いられる線材の巻取装置において、
前記線材の巻付け位置を、前記ボビンの軸方向に沿って往復移動させる第一トラバースと、前記線材供給部と該第一トラバースとの間で前記線材を担持して、該線材の担持部を、前記巻付け位置と同一方向に、かつ、該巻付け位置の移動速度の1/2の速度で同期して往復移動させる第二トラバースと、を備えることを特徴とするものである。
【0010】
また、本発明の繰出装置は、ボビンに巻取られた線材を繰出すために用いられる線材の繰出装置において、
前記線材の繰出し位置を、前記ボビンの軸方向に沿って往復移動させる第一トラバースと、繰出された該線材を担持して、該線材の担持部を、前記繰出し位置と同一方向に、かつ、該繰出し位置の移動速度の1/2の速度で同期して往復移動させる第二トラバースと、を備えることを特徴とするものである。
【0011】
本発明の繰出装置においては、前記ボビンから前記繰出し位置に向かう線材が該ボビンの軸方向に直交する方向に対しなす角度を検出するセンサーを備え、検出された該角度が90°±4°となるよう、前記繰出し位置および担持部の移動速度を調整することが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、上記構成としたことにより、巻取りまたは繰出しされる線材の長さや角度の変動に起因する巻きテンションや繰出しテンションの変動を生ずることなく、安定して均一に線材の巻取り、繰出しを行うことができ、かつ、他の問題を生ずることのない線材の巻取装置および繰出装置を実現することが可能となった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。
本発明の線材の巻取装置は、線材供給部から供給される線材をボビンに巻取るために用いられるものであり、線材をボビンに均一に巻取るために通常配置される第一トラバースとともに、これと同期して移動する第二トラバースを設けた点に特徴を有する。
【0014】
図1に、本発明の巻取装置の概略構造図を示す。図示するように、本発明の巻取装置は、線材供給部1から供給される線材2の巻付け位置A(滑車21)を、ボビン3の軸方向に沿って往復移動させる第一トラバース10(トラバース長さ:L)と、線材供給部1と第一トラバース10との間で線材2を担持して、線材2の担持部B(滑車22)を、巻付け位置Aと同一方向に、かつ、巻付け位置Aの移動速度の1/2の速度で同期して往復移動させる第二トラバース20(トラバース長さ:1/2L)と、を備えている。
【0015】
かかる第二トラバースを設けたことで、線材2は、第二トラバース上の担持部Bを経由する経路を通ることになるため、図2(a),(b)に示すように、巻付け位置Aの移動により生ずる長さ変化ΔLを、同期移動する担持部Bを経由する際の往復によりそれぞれ−1/2×ΔLずつ相殺して、結果としてゼロとすることができる。これにより、線材2の自由長をゼロにしても長さ変化は発生しなくなるため、高速巻取装置を小型かつ廉価にすることが可能となる。即ち、本発明の巻取装置は、第一トラバースから繰出される線材2の長さ変化をゼロにする調整手段として、第二トラバースを設けたものである。なお、図中の23は固定滑車を、符号5は補助滑車をそれぞれ示す。
【0016】
図3(a)に、第一トラバース10および第二トラバース20の主要部をボビン3の配置方向から見た概略図を示す。図1および図3に示すように、本発明の巻取装置において、第一トラバース10および第二トラバース20は、プログラムで設定したトラバース範囲(ボビンの巻き付け幅)および速度に従い、同一のサーボモータ31に減速機32を介して接続された歯付きプーリ33とタイミングベルト34とからなる伝動装置により駆動され(同図(b)参照)、第二トラバース20については、上記したように第一トラバース10の1/2の速度に調節される。また、図中の符号35はアイドラーを示し、タイミングベルト34の張りを調整して掛け換え作業を容易にするために設けられる。
【0017】
また、本発明は、ボビン3に巻取られた線材2を繰出すために用いられる線材の繰出装置に適用することもでき、この場合、図4に示すように、ボビン3の繰出し側に、ボビン3の軸方向に沿って線材2の繰出し位置C(滑車21)を往復移動させる第一トラバース10と、繰出された線材2を担持して、線材2の担持部D(滑車22)を、繰出し位置Cと同一方向に、かつ、繰出し位置Cの移動速度の1/2の速度で同期して往復移動させる第二トラバース20と、を配置する。
【0018】
本発明を繰出装置に適用する場合には、図4中に示すように、ボビン3から繰出し位置Cに向かう線材2がボビン3の軸方向に直交する方向に対しなす角度を検出するセンサー4を設けて、検出された角度が90°程度となるよう、繰出し位置Cおよび担持部Dの移動速度を調整する調整機構を備えることが好適である。即ち、角度検出センサー4により、ボビン3と第一トラバース1との間における線材角度の僅かな変動を検知して、トラバース位置を修正するように制御することで、繰出し時における線材2の角度のぶれに起因するテンション変動を抑制することができ、ボビン3から同じ長さでかつ垂直方向に確実に線材を繰出すことが可能となる。この検出角度は、実際上は、ボビン3と繰出し位置Cとの間の距離にもよるが、90°±4°程度に調整すればよい。また、角度検出センサー4としては、角度のぶれを検出できるものであれば特に制限はないが、例えば、線材2として金属のワイヤーまたはコードを想定すれば、電磁式近接センサーを用いることができ、透過式光電スイッチを用いて光を遮ったか否かにより検出を行うことも可能である。このうち前者の電磁式近接センサーの方が誤動作が少なく好適である。近接センサーとは、非接触で検出物体が近づいたことを検出できるセンサーであり、内蔵された検出コイルにより高周波磁界を発生させて、この磁界に検出物体(金属)が近づくことで検出物体に誘導電流(渦電流)が流れ、検出コイルのインピーダンスが変化して発振が変化・停止するため、これにより検出を行うものである。これらセンサーは市場で一般に入手可能である。
【0019】
なお、本発明においては、巻取りまたは繰出しのいずれの場合においても、線材2のテンションが第一・第二トラバースに及ぼす負荷は逆向きとなって相殺されるため、トラバース駆動力は最小限で済むことになる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の線材の巻取装置を示す概略構造図である。
【図2】(a),(b)は、第一・第二トラバースの移動に伴う長さ変化の相殺作用を示す説明図である。
【図3】(a)は、第一・第二トラバースの主要部をボビンの配置方向から見た概略図であり、(b)は、伝動機構の一部を取り出して示す側面図である。
【図4】本発明の線材の繰出装置を示す概略構造図である。
【符号の説明】
【0021】
1 線材供給部
2 線材
3 ボビン
4 角度検出センサー
5 補助滑車
10 第一トラバース
20 第二トラバース
31 サーボモータ
32 減速機
33 歯付きプーリ
34 タイミングベルト
35 アイドラー
A 巻付け位置
B,D 担持部
C 繰出し位置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
線材供給部から供給される線材を、ボビンに巻取るために用いられる線材の巻取装置において、
前記線材の巻付け位置を、前記ボビンの軸方向に沿って往復移動させる第一トラバースと、前記線材供給部と該第一トラバースとの間で前記線材を担持して、該線材の担持部を、前記巻付け位置と同一方向に、かつ、該巻付け位置の移動速度の1/2の速度で同期して往復移動させる第二トラバースと、を備えることを特徴とする線材の巻取装置。
【請求項2】
ボビンに巻取られた線材を繰出すために用いられる線材の繰出装置において、
前記線材の繰出し位置を、前記ボビンの軸方向に沿って往復移動させる第一トラバースと、繰出された該線材を担持して、該線材の担持部を、前記繰出し位置と同一方向に、かつ、該繰出し位置の移動速度の1/2の速度で同期して往復移動させる第二トラバースと、を備えることを特徴とする線材の繰出装置。
【請求項3】
前記ボビンから前記繰出し位置に向かう線材が該ボビンの軸方向に直交する方向に対しなす角度を検出するセンサーを備え、検出された該角度が90°±4°となるよう、前記繰出し位置および担持部の移動速度を調整する請求項2記載の線材の繰出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−326658(P2007−326658A)
【公開日】平成19年12月20日(2007.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−157677(P2006−157677)
【出願日】平成18年6月6日(2006.6.6)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】